Re: 新世界への神話Drei ( No.1 ) |
- 日時: 2011/11/27 00:58
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です
まず、新スレおめでとうございます!!
それでは感想の方に
どうやら以前から書かれていた五年前の戦いのようですね 八闘士とエイジがスセリヒメと共に強大な闇と戦っていましたが苦戦 このままでは世界が滅びてしまうということで スセリヒメが特攻を仕掛け世界を救ったとのこと
霊神宮酷いですね いくら自分の組織が大事だからといって スセリヒメを捨て駒にするとは だいたい失敗したら自分達もやられてしまうだろうが!と言いたくなりましたよ
スセリヒメは特攻の直前、弟の存在を口にしていましたが その弟とは一体誰なのでしょうか?
それでは次回の更新お待ちしております
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Re: 新世界への神話Drei ( No.2 ) |
- 日時: 2011/11/27 11:37
- 名前: 銀
- 参照: http://hinayume.het/hayate/subnovei/re.cgi?no=6335
- ども!銀です!!
RIDEさん、新スレおめでとうございます!!
では感想へ。
これは五年前の戦いの事ですね
霊神宮、肝心な時に手を差し伸べてくれないなんて酷いですね・・・
人の命よりも組織の方が大事なのか!!
ふっざけんな!と叫んでしまいました。
スセリヒメの弟とは誰なのでしょうか!?
次回を楽しみにしています!
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Re: 新世界への神話Drei ( No.3 ) |
- 日時: 2011/11/27 14:24
- 名前: 風羅
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=6886
- どうも!風羅です♪
新スレおめでとうございます。
久しぶりの感想となってすいません……。でもしっかりと見続けてはいましたので!
とりあえず感想へ。
まずは五年前の戦いの事でしたね。
世界が滅びてしまう危険があってスセリヒメが決断して世界を救ったわけですか。
霊神界も初めからスセリヒメを捨て駒にする気だったとは……。
組織が大切なのは分かりますがそれは酷いと思いました。
命の犠牲より組織が大切とは……。
つい叫びたくなってしまいましたよ……。
そして最後にスセリヒメが呟いた弟の存在も気になります。
次回も楽しみにしています。
ではまた♪
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Re: 新世界への神話Drei ( No.4 ) |
- 日時: 2011/12/15 19:31
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
十二月という実感が湧きませんが、31巻がもうすぐ発売ということは認識しています。 必ず手に入れなければ。
さて、まずはレス返しから。
絶影さんへ
>どうも絶影です >まず、新スレおめでとうございます!!
ありがとうございます! このスレでも頑張っていきますよ!
>それでは感想の方に
>どうやら以前から書かれていた五年前の戦いのようですね >八闘士とエイジがスセリヒメと共に強大な闇と戦っていましたが苦戦 >このままでは世界が滅びてしまうということで >スセリヒメが特攻を仕掛け世界を救ったとのこと
大分省略すると、そういう話になります。 詳しい話を書くと、長くなるどころか、ハッピーエンドではないので。 外伝のようなものになりますから。
>霊神宮酷いですね >いくら自分の組織が大事だからといって >スセリヒメを捨て駒にするとは >だいたい失敗したら自分達もやられてしまうだろうが!と言いたくなりましたよ
当時の、そして今も霊神宮の大半はスセリヒメ等の大きな力に頼りっきりです。 スセリヒメと龍鳳は、力が強いだけでなく救いの存在としての伝説が大きすぎるので、失敗だなんてことは考えてはいない故に、ああいう態度となってしまったのです。
>スセリヒメは特攻の直前、弟の存在を口にしていましたが >その弟とは一体誰なのでしょうか?
この人物も、特にエイジにとっては重要な人物です。 彼らの過去の傷跡そのものといった状態で登場しますから。
>それでは次回の更新お待ちしております
お待たせしました。 楽しんでくれると嬉しいです。
銀さんへ
>ども!銀です!! >RIDEさん、新スレおめでとうございます!!
ありがとうございます! 銀さんは二回目の感想ですね。嬉しいです!
>では感想へ。 >これは五年前の戦いの事ですね
五年前については、今のところはこういう回想の仕方でしかふれることはないでしょう。 さっきも言いましたが、長くなりますので。
>霊神宮、肝心な時に手を差し伸べてくれないなんて酷いですね・・・ >人の命よりも組織の方が大事なのか!! >ふっざけんな!と叫んでしまいました。
霊神宮のトップは犠牲者を数字でしか知りませんから。 本当に腐りきっています、この組織は。
>スセリヒメの弟とは誰なのでしょうか!?
出番はほんの少ししかありませんが、とりあえず、生きているということは確かです。
>次回を楽しみにしています!
ご期待に添うものかどうかはわかりませんが、頑張りましたので、どうぞ!
風羅さんへ
>どうも!風羅です♪ >新スレおめでとうございます。 >久しぶりの感想となってすいません……。でもしっかりと見続けてはいましたので!
久しぶりの感想と祝いの言葉ありがとうございます! 感想はできるときで構いませんよ。でも、しっかりと見続けてくださって嬉しいです。
>とりあえず感想へ。 >まずは五年前の戦いの事でしたね。 >世界が滅びてしまう危険があってスセリヒメが決断して世界を救ったわけですか。
実は五年前の戦いというのはもうひとつあって、それが皆さん話題になっている弟が関わっているんです。 佳幸たちが傷ついたのは、この戦いがきっかけではありますが、それだけではないということです。
>霊神界も初めからスセリヒメを捨て駒にする気だったとは……。 >組織が大切なのは分かりますがそれは酷いと思いました。
この頃の組織は自分たちのことしか考えていなかったのです。 自分たちの組織を無傷で守りたいという思いがおおきかったんです。 後、先に述べましたがスセリヒメが神みたいな存在として崇められていること、当代が死んでも次代が選ばれるということが捨て駒という扱いをしてしまったんでしょう。
>命の犠牲より組織が大切とは……。 >つい叫びたくなってしまいましたよ……。
霊神宮の腐敗は皆様の怒りに触れていらっしゃったようですね。 このように逆鱗に触る組織を目指していましたので、書いた甲裴がありました。 叫ぶほどというのは少し驚きましたけど。
>そして最後にスセリヒメが呟いた弟の存在も気になります。
実は、第一スレの14話で既に登場している人物です。 その話では明記していませんが、今回でわかると思います。
>次回も楽しみにしています。 >ではまた♪
今回の話、楽しんで下さい♪
絶影さん、銀さん、風羅さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です!
第31話 拓く道
1 謎の少女、ノヴァとデボネアが現れてから日が経った。
二人のことは、花南から経由して佳幸たちにも伝わった。彼らは皆そのような存在がいることに驚愕していたが、ナギに関することは一言も口にしなかった。
だが彼らはそれぞれ決意をしていた。花南には、そのように見えたようだ。
そして、ある日のこと。
「よお、また来たぞ」
エイジは一人で、とある屋敷を訪れていた。スピリアルウォーズの前日に訪れてたあの屋敷に。
当然、彼の前には車椅子に乗った同年代の少年がいた。今も変わらず、植物状態の少年が。
「俺は元気・・・・とも言えないな」
前回は努めて明るく振るっていたが、今のエイジにはとてもそんな余裕はなかった。
「なにせ、色々なことが起こったからな・・・・」
ため息をついてしまうエイジ。それには、複雑な心情がたくさん含まれていた。
「なあ、俺がまたスセリヒメのために戦うって聞いたら、おまえはどう思う?夜光」
エイジは返答がないことがわかりつつも問い掛けられずにはいられなかった。
少年の名は、黒沢夜光。エイジたちと同じ時期に精霊の使者となり、先代のスセリヒメ、黒沢陽子の弟である。
五年前、黒沢陽子はスセリヒメに選ばれた。そして、同時期に精霊の使者となった佳幸たちと共に戦ったのだ。当時、こちらの世界には精霊やそれに関することで悪事を企む組織があったのだ。放っておけば、脅威となるほどの。
陽子や佳幸たちはこれと戦った。ちなみにエイジのウェンドランは、この戦いの最終局面 で誕生した。その果てに、何とか勝利を収めることができた。
しかしその代償は、陽子の命であった。しかも霊神宮は、スセリヒメを初めから捨て駒のように扱うことを考えていたのだ。これには佳幸たち、とくに陽子の弟である夜光は腹を立てた。陽子が誰からも愛されるような性格なだけにその感情はとても大きかった。
そして夜光は、霊神宮への復讐を企てた。当時花南、達郎、優馬、拓実が彼の傍につき、エイジも味方しようかと考えていたのだが、佳幸によって諭され、彼を止める側に回ったのだ。
エイジはそのことに今でも心を痛めていた。間違っていることだとわかっていても彼を裏切ったこと、そこまでしても彼を止められず、このような心が壊れた状態になってしまったことになってしまったのだから。
エイジが霊神宮から離れていったのは、夜光に対する負い目でもあったのだ。
しかし、彼は本当はどうすればよいのかわからなかった。いや、選べなかったのだ。
「あのお嬢さんは、自分が進む道を選んだ。けど俺は・・・・」
スセリヒメに選ばれたという、自分よりも背は小さいくせに態度はでかいあの少女、三千院ナギ。彼女は既に自分の運命に立ち向かっているというのに、自分はここで立ち止まっているだけでよいのだろうか。
ナギと比較していると、そんな自分に腹が立ってきた。
同時に、自分が選ぶ道というものも見えた。
「・・・・ごめんな」
エイジは最後に、夜光に向けて謝った。その言葉にはどんな意味がこめられていたかは、彼しか知らなかった。
帰り際、エイジは夜光の御世話係と出会う。
「これは私個人の意見ですが・・・・」
御世話係はエイジに話し掛ける。
「夜光様はあなたのことを今でも恨んではいませんよ」
エイジに対する思いやりというには思えない、淡々とした口調で彼女は続ける。
「あなたと敵対した時でさえ、夜光様はあなたを友達と思っていましたから。だから、あなたは何も悩む必要はありません」
それは、叱咤しているようにも聞こえた。
あなたは今自ら考え、身体を動かせる。だから何も迷うことはなく行動しろと。それが夜光の望みでもあるのだから。
「・・・・わかりました」
それに対して、エイジが何を思ったのかはわからないが、彼はただそう答えただけであった。
それから黒沢邸を出て、帰り道の中エイジはずっと考えていた。
何を考えているのか、彼自身にしかわからない。だが、彼の顔は何かに迷っているようにも見えた。
答えが出ないまま、堂々と回りつづけている滑車のように。
そんな彼は、前に人がいるのに気付いて立ち止まる。
その人物は、エイジのよく知る人物だったからだ。
「立ち止まってしまったら、すぐそこへ行ってしまう」
佳幸が、皮肉気にエイジを見下していた。
「本当馬鹿みたいだね、おまえは」
彼がこのような挑発を口にするのは珍しかった。佳幸は普段どんな人に対しても、決してこういう態度をとることはしない。
それだけに違和感は募るが、今のエイジはそんなことなど構わなかった。
今の発言だけは許せなかった。例え尊敬する兄であっても、夜光を侮辱するような言葉だけは許せなかった。
しかしエイジもそれでカッとなって殴りかかるような男ではない。
「兄貴こそ、花南姐さんと一緒に行く気なんだろ?女に引っ張られていくなんて情けないと思わねえの?」
皮肉には皮肉を。エイジもまた悪意をこめて佳幸に言い返す。
しかし、佳幸はそれに動じることなく、あくまで平然としていた。
「男の戦う目的が女だってのは、十分すぎる理由だと思うけど?」
それがまた、エイジを更に苛立たせた。
「まあ、僕にはあの人が全てっていうわけじゃないけど、今のおまえには僕にそんなこと言える立場ではないと思うよ?」
エイジの心情を確認し、それを堪能しているような佳幸は、突然後ろ手に抱えていたものをエイジに向けて投げつけた。
咄嗟に手で受け止めたエイジは、それがなんなのか確認する。
「勝負しよう」
佳幸が投げつけたのは、バスケットボールであった。
これと、勝負という言葉から二人の間で結びつくのはひとつしかない。
「1on1だ。近くにゴールがある」
佳幸は有無を言わせぬ眼で、口調でエイジに語りかける。
彼のこんな態度を見るのは弟としても滅多に見たことがない。ただ、何か自分のことを考えているということはわかる。
とはいえ、今のエイジには兄に乗る気はなく、エイジは黙って通り過ぎようとする。
しかしその際、佳幸はエイジに向けてこう言った。
「戦わないまま負ける気?」
その言葉は今のエイジの癇に障った。夜光のこともあってかエイジの胸中はモヤモヤしており、例え安い挑発でも乗ってしまうほど苛立っていた。
兄弟としていつも接している佳幸にはそれが見え透いていた。いや、兄弟ではなくても見抜けるだろう。エイジは外に出やすいタイプであるから。
「そんなわけないだろ!やってやるさ!」
兄は何かを企んでいるにちがいない。それでも、ここで折れたら何か負けた気がするので、つい勝負に出てしまう。
そんな弟を見て、佳幸は口の端を微かに上げた。
同時に思う。こう、売ったケンカをすぐに買うところはナギにそっくりだ。案外あの二人は似たもの同士なのだろうと感じる佳幸であった。
今回はここまでです。
次回はバスケをする話です。
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Re: 新世界への神話Drei 12月15日更新 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/12/18 00:36
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です!
…では早速感想に!
前回の話で少し出てきていたスセリヒメの弟、 黒沢夜光という人が出てきました。 エイジはそのスセリヒメを犠牲にした霊神宮を恨み 復讐しようとする夜光を止めたようですね。
私のような者が言うのも難ですが…復讐は何も生みませんからね。 でも後ろめたいという気持ちがエイジにはある様子。 そんなエイジの元に現れたのは兄である佳幸。 彼はエイジを挑発していましたね。 そしてバスケの勝負を仕掛けた。 バスケで何かを伝えようとしているのか、それとも他の思惑があるのか。 気になりますね!
それでは次回の更新待ってます♪
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Re: 新世界への神話Drei 12月15日更新 ( No.6 ) |
- 日時: 2011/12/24 14:18
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 世がクリスマスイブだというのに、
ここで寂しく更新している自分・・・・
泣かないぞ。
さて、レス返しです。
絶影さんへ
>どうも絶影です! >…では早速感想に!
いつもありがとうございます!
>前回の話で少し出てきていたスセリヒメの弟、 >黒沢夜光という人が出てきました。
夜光は出番が少ない(まあ、今はあの状態なので仕方ありませんが)ですけど、 エイジにとっては重要なキャラクターです。 これから先の出番は未定ですが果たして復活するのでしょうか。
>エイジはそのスセリヒメを犠牲にした霊神宮を恨み >復讐しようとする夜光を止めたようですね。
エイジは最初夜光についていこうとしましたが それを佳幸に止められて、思い直して止める側に回ったということです。 その結果、夜行が植物状態となりました。戦いの結果は、ここでは伏せておきましょう。
>私のような者が言うのも難ですが…復讐は何も生みませんからね。 >でも後ろめたいという気持ちがエイジにはある様子。
夜行を止められず、植物状態になってしまった。 そのことに自分にも一因があると思っているからこそ、エイジは負い目を感じているのです。
>そんなエイジの元に現れたのは兄である佳幸。 >彼はエイジを挑発していましたね。
佳幸の意図がなんなのか。 まあ、エイジに対する思いが込められていることは確かです。
>そしてバスケの勝負を仕掛けた。 >バスケで何かを伝えようとしているのか、それとも他の思惑があるのか。 >気になりますね!
今回は青春ものっぽくなった気がします。 暑苦しいようですが見てくれると嬉しいです。
>それでは次回の更新待ってます♪
絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です!
今回は少し長めとなっています。
2 男たちは、談笑しながら歩いていた。
「おまえたちがわざわざ埼玉からやって来たとはな」
塁は驚いたという風にそう言いながら後ろに続く達郎と氷狩を見やる。
「達郎はともかく、氷狩の奴はいかにも特訓しましたって感じだったな」 「そういう塁さんだって。努力をしていたって伝助さんから聞きましたよ」
氷狩のその言葉を聞いて、塁は顔を真っ赤にする。
「伝さん・・・・内緒って言ったのに・・・・」
それは置いておくとして、塁は改めて達郎と氷狩のほうを向く。
「でも信じられないな。達郎も氷狩も、まだ割り切れていないものかと思っていたぜ」
当時は二人はまだ小学生だ。自分たちに比べて幼い心を持っていたので、深い傷を刻まれたあの出来事に関して逃避したくなっても無理はないだろう。
しかし、予想に反して二人は行動を起こしていた。これは杞憂だなと塁は思った。
それでも、やはり二人はまだ高校生であった。
「・・・・正直言うと、まだ迷っているんだ」
達郎が少し落ち込んだ顔で話し始めた。氷狩も同様に少し俯かせている。
「ただ、じっとしていられないって感じなんだ。なんかやばそうな状況になっていくかもしれないってことは、花南から聞いているんだけど」
決心が中々つけられない。そんな感じで語っていく。
「きっぱりと答えを出した二人からすれば、みっともないでしょうけど」
氷狩が、やっぱり塁と伝助は大人なんだなと感心するが、当の二人はとんでもないと言わんばかりに手を振った。
「どうだか。戦わなきゃいけないってのはわかっているけど、明るい兆しは見えないんだよな」
いっそのこと、戦って敗れて散ろうか?
そんな自暴自棄的な考えまで抱いてしまう。
だが無理もないだろう。ナギに従って霊神宮に行くということは、精霊の使者でも最強クラスの黄金の使者たちと戦わなければならないということだ。そのうちの幾人かの実力に触れたことのある彼らはその大きな実力差を痛感していた。
逆立ちしたって、それは覆せない。戦いになっても相手にはされないだろう、と。
暗いイメージしか出てこない四人は、そのままとある広い公園の近くまで歩いていた。
「あれ?」
そこで塁は、前方にある人影を発見する。
「拓実さんと優馬さんかな?」
達郎と氷狩も二人に気付いたようだ。
「拓実!優馬さん!」
塁が呼びかけると、あちらも気付いたようだ。
「どうしたんだ?」
四人は優馬たちのもとに駆け寄る。
「いや、ここで面白いことが起こっているんだ」 「面白いこと?」
三人は首を傾げてしまう。少し広いだけで特にその辺にあるものと変わらない公園で、二人が注目するものがあるのだろうか。
「あれだよ」
拓実が指差した方向に、塁たちは目を向ける。
そこでは、佳幸とエイジが、バスケの1on1を繰り広げていた。
佳幸とエイジ。二人は互いに息を切らしていた。
先攻が佳幸で、後攻はエイジ。このやり取りを、もう何回やったかわからないほど、二人 は白熱していた。
そしてまた、佳幸の攻撃からはじまった。
今度こそ止める!
そう意気込んでディフェンスするのだが、佳幸はエイジの動きを手玉に取るかのように抜いていき、レイアップを決める。
「チクショウ!」
いいようにやられてしまい、エイジは悪態をつく。
さっきからずっとこの調子であった。こちらがいくら守ろうとしても、佳幸に抜かれ、またはその場でシュートを打たされてしまう。1on1がはじまってからずっと、佳幸はエイジを相手にシュートを入れつづけていた。
「また僕が決めたね」
対して、佳幸はシュートを決めたことに対する喜びなどは特に表さず、平静な様子でエイジにボールを渡す。
「次はエイジだよ。いい加減無得点は飽きたから、早く僕のように点を入れてみなよ」
余裕の証なのか、そんな挑発までかけている。
「おう!みせてやるよ!」
エイジは苛立ちを露にして言い返した。
得点を入れつづけている佳幸に対し、エイジは無得点であった。彼のドリブルも、シュートも、全て見透かされているかのようにカットされていた。またシュートを打てたとしてもリングに嫌われ、零れたボールは全て佳幸に拾われてしまうことで、エイジの攻めは終わってしまう。
今回も、佳幸のうまいスチールによって、エイジはボールを奪われてしまった。
佳幸はボールを片手に得意そうな表情を浮かべた。
エイジは、手も足も出せなかった。
元々、自分が不利だということは承知していた。自分はまだ中二で、兄は高一なのだ。プレイの精度、体格の差など、全体的な面から見てエイジよりも佳幸の方が上であることは明らかだ。
だがエイジにも勝機がないということはなかった。
それは体力面である。佳幸は去年中学3年生であったため、夏から受験勉強に追われていてしばらくバスケから離れていた。対して、中学一年生だったエイジはずっとバスケをやっており、そのブランクが体力の差となっている。
現に佳幸は、エイジよりも激しく疲労している。それは、とてもバスケなんてできる状態ではないのは見て明らかだ。
「そんなフラフラで、まだやられるのかよ・・・・」
思わずエイジはそう零してしまう。それは悪態からではなく、それでも続けようとする相手への敬意と、そこまでやるかという呆れをこめていた。
「やれるさ・・・・」
すると佳幸は、エイジにこう返した。
「戦う前から負けているような人の前で、疲れたなんて言えないからね」
それを聞いて、エイジが微かに眦を上げる。
「戦う前から、負けているって・・・・」 「そうだよ」
佳幸はエイジのことなど気にしてはいないような態度で続ける。
「いつものおまえなら、何があっても決して諦めない、どんな逆境でも挑んでいくじゃないか。それが、今は戦ってもいないのに負けたように落ち込んでさ」 「・・・・・落ち込んじゃ悪いってのかよ」
近づいて、佳幸を睨みつけるエイジ。そのまま、溜まっていた鬱憤を晴らすかのように喚き始めた。
「勝てる見込みがない戦い!どうあがいても変えることが不可能に近い現実!勝てるとか変えてやるとかっていう気持ちだけじゃどうにもならないってことぐらい、わかってんだろ!」
エイジの脳裏に五年前の光景が浮かんでいく。自分たちの力では陽子だけでなく夜光も助けられなかった。それが現在の霊神宮と被って見えた。
一人の力でどうにかできるほど、世界は甘くない。巨大な存在の前に、自分たちはちっぽけな人間でしかないのだ。大切な友達一人救えなかった自分が、なにをしろというのだろうか。
「それがわかっているなら、なんで逃げるんだ!」
佳幸はそこでエイジの肩を強く掴む。
「おまえが戦うかどうかはどうでもいい。でも、今のおまえは何もしていない!夜光や陽子さんの事を利用して現実から目を背けているだけじゃないか!」
その言葉は、エイジの心に大きく響いた。
霊神宮には共感できない。それは変わることはないだろう。あの二人に後ろめたさを抱くことも、悪くはないだろう。ナギの事だって、ただ嫌いなだけならそれだけでいい。
だが、それを隠れ蓑にしていいのだろうか。
「デボネアとか言うものの存在を聞かされなければ、僕もおまえのようにしていただろう。だからわかる。おまえは‘今’、‘自分’で選んでいない」
佳幸は更に畳み掛ける。
「過去に負い目に今を見ないで、自分の気持ちをよそに二人に選択を強要しているだけだ。」
陽子や夜光のことは、もう過ぎてしまったことだ。なのにいつまでもそれにすがっていいのだろうか。
それを理由に、今から目を背けていいのだろうか。
佳幸の強い眼差しに、飛ばす激にエイジは魅せられてしまう。
比較的おとなしいイメージを持つ佳幸が、こんなに熱くなる光景は珍しいとも感じるだろ う。だがエイジは知っている。
自分が真剣に迷っている時、家族として本気で諭す際に兄はいつもこのような表情そしている。
五年前、自分を見失いそうになった時も、激しいケンカになったもののその時も佳幸はエ イジにぶつかっていった。
あの時と同じ表情で、佳幸はなおもエイジに語りつづける。
「いつものおまえなら、何かが変わるかもしれないから戦うんだと言っているじゃないか。それがなんだ、あのお嬢さんを前にしてからそのザマは。結局おまえは口だけの臆病者じゃないか」
その侮蔑に、エイジは腹を立てた。
「うるさい!誰が臆病者だ!」
死人や植物状態の人間に助けられる程、自分は落ちぶれていないはずだ。
目の前の兄や、あんな堕落した小さいお嬢様に対抗心を燃やすエイジ。と、脳裏にナギの顔が浮かんできたところでエイジは気付いた。何故ナギに固執していたのか。
落ちぶれていて尊大でも、今自分の気持ちにまっすぐでいる。スセリヒメのことでも、そんな彼女が心のどこかでは羨ましかったのかもしれない。
「なら、僕のシュートを一度でも止めてみろ!僕からシュートを決めてみろ!」 「ああ!やってやるよ!」
最も、エイジも負けず嫌いなので素直にナギを認める気はなかった。そして、目の前の兄 にもこのまま負けっぱなしでは気がすまない。
エイジは距離をとって佳幸と対面し、ディフェンスの構えを取る。
「俺はディフェンスでしょ、早くやろうぜ」
やる気になったエイジを見て、佳幸は笑顔を浮かべた。
すぐにシュートの構えを取った佳幸を見て、エイジはプレッシャーを掛けに行く。
だがこれはフェイントだった。すぐにドリブルでエイジの右側から通り抜けようとする佳 幸。
だが今度のエイジは一味違う。何とかくらいついて佳幸を止めようとする。
再び止めに入ろうとするエイジを見て、佳幸は左側へと身体を向ける。
そこから抜くのかと思いエイジも左側を抑えようとするが、それもフェイクだった。方向転換せずに右側からドライブしていく。
「負けない!」
しかしエイジは話されずについていき、佳幸のシュートをブロックした。
「どうだ、止めたぜ」
ブロックしたボールを拾い、エイジは得意げに笑う。
「まだ僕から点取ってないでしょ」 「そのセリフ、すぐに負け惜しみにしてやるよ」
そして、エイジのオフェンスが始まった。
ステップからフェイクをいれてドライブしていくが、佳幸は簡単には騙されずに喰らいつく。
そんな彼を、身体を後ろから回り込ませて抜いたエイジ。
その迷いがないような鮮やかさは、佳幸が抜かれても疑問には思えないほどであった。
見事、シュートを決めたエイジ。得点を入れはしたが、特に喜びを露にはしない。
佳幸も無言のままだった。互いの息遣いだけが妙に耳に入っていく。
「聞いていいか?」
しばらくしてから、エイジが口を開いた。
「兄貴はさあ、今、誰かのために戦うって選んだわけ?」
これに対し、佳幸は苦笑しながら答える。
「それも少し含まれている。まあ、ほんの少しだけどあのお嬢さんのためもあるし、何よりもあの人がいるからね」
あの人というのが誰だかわかるエイジ。
「けど一番は、自分がやりたいことだからかな。本心から目を背けたら、それこそ負け犬 だ」
素直な心を述べる佳幸。そこには陽子や夜光のことで左右されない、明確な今の自分の意 志が込められていた。
「だから、可愛い弟を見過ごせないという思いで、ケンカを吹っかけたのさ」 「・・・・こっちはいい迷惑だぜ」
さりげなく兄弟愛というものを口にした佳幸に、エイジは照れてしまう。
「それで、まだ続けるのか?」
ボールを投げつけ、1on1をやるのかエイジが尋ねると、佳幸は苦笑しながら首を横に振っ た。
「こっちはもう続ける体力ないからね。帰ろうか」 「まったく、勝手だぜ」
そう言って、エイジは踵を返す。
「どこに行くんだ?」 「一人で帰れる!」
足早に去っていくエイジ。
冗談ではない。これ以上勝手に付き合って入られなかった。
向こうはただ自分のために行動したのだ。決してこちらのためではない。
わかりきっている。わかりきっているのだが、あの場にずっといたら、佳幸に礼のひとつでも送りそうな照れくささがエイジに胸の中に存在していたのだった。
「・・・・相変わらずだね、あの二人」
佳幸も反対側から出て行ったところで、拓実が呟いた。
佳幸とエイジの1on1を、彼らは最後まで見届けていた。当人たちに気付かれてはいない が、あの場に入っていくような野暮なことをするつもりはなかったので、幸いではあった。
「けど佳幸のやつ、好き勝手言ってくれるじゃねえか」
佳幸の言葉はこちらにも響いていた。彼が発した激に対して、達郎は含み笑いをしてい る。
「まったくだぜ、まるでこっちまでも勝つ気がないような物言いだぜ」
塁も達郎に同調していた。すると氷狩が、意地が悪そうな調子で彼に突き刺す。
「あれ、明るい兆しが見えないとか言っていたのは塁さんではありませんでしたっけ?」
これに対して、塁は苦笑しながらも言い返す。
「おまえだって、随分と迷っていたくせに」 「まあ、要するにだ」
そこで優馬が、おそらくは全員が考えているであろうことを締める。
「このままウジウジしているのは俺たちらしくないし、このまま舐められっぱなしは我慢ならないってことだろ」
その言葉に、全員が同時に頷く。
過去は過去でしかない。これから起こるであろう戦いにはまったく無関係だ。
だから、今の自分の気持ちで選ばなければならないのだ。
そして彼らは、吹っ切れたようであった。
一応補足を付け加えると 佳幸はエイジに対して戦いを強要しているわけではありません。 ただ、過去の負い目ではなく今の自分の気持ちで選べと言っているわけです。 エイジが戦いを選ぼうが選ばないだろうが、誰も責めるつもりはまったくない。 自分がどうしたいか、それで判断しろということです。
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Re: 新世界への神話Drei 12月24日更新 ( No.7 ) |
- 日時: 2011/12/25 00:45
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です
それでは早速感想に!
前回、エイジに喧嘩を吹っ掛けた佳幸。 そのバスケ勝負ではやはり兄の方が一枚上手で、 得点を入れられ続けてしまうエイジ。 しかし、疲れを見せ始めたのは受験勉強に追われていた佳幸だった。 やばい…人事には思えませんね…(笑)
そんな兄を気遣うエイジでしたが、佳幸が伝えたかったのは 「自分で選べ」という感じだったようですね。 いや〜こんな兄がいたらなぁ〜とか思ったのはおそらく私だけではない!…はず。 佳幸の言葉を受け、偶然見ていた八闘士も奮起したようですね。
彼らはそれぞれの想いを抱いて戦いに挑む、という感じでしょうか。 次回が楽しみになってきましたね!
それではまた♪
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Re: 新世界への神話Drei 12月24日更新 ( No.8 ) |
- 日時: 2011/12/25 01:20
- 名前: 残菊
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=6497
- どうも!
残菊です。
ひさしぶりですねぇ
ここにくるのもひさしぶりで(;´Д`)
長い間感想書けなくてすいませんでした(m´・ω・`)m
でも、今までの分は影ながら読ませていただいていたので
内容の方は理解・・・・・・してると思いますw
とりあえず、今回のお話の感想を
今回だけになりますが・・・。
兄弟でバスケ勝負ですかぁ
いいですね、兄弟って・・・(´・ω・`)
自分は一人っ子なので、そういうのよく分かりませんが
でも、やはり兄の方が強いのって定石なんですかね
それでも、頑張り。
点を取りましたね!
受験勉強に追われていた佳幸は、運動をしていなかったせいで
体力的に不利(?)なんですねぇ
自分は運動も嫌いなので分かりませんが(笑´∀`)
>絶影さん
いや〜こんな兄がいたらなぁ〜 には、一人っ子ながら同意しましたw
彼らがそれぞれの想いを選択し、今後の戦いに挑む・・・。
いいじゃないですか!
燃えますね!
でわ、次回の更新待ってますね!
ガンバってください!!
それでわ〜
お休みなさいです
バイバイ(´・ω・`)ノシ
そういえば、RIDEさんって新潟のご出身(?)なんですよね・・・?
実は、自分も新潟なんですよーw
日本って狭いなぁ、と思いました(笑´∀`)
でわわ。
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Re: 新世界への神話Drei 12月24日更新 ( No.9 ) |
- 日時: 2012/01/04 19:08
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- あけましておめでとうございます!
2012年も更新頑張っていきたいと思います! 皆様もよい年になるよう頑張ってください!
まずは、レス返しから!
絶影さんへ
>どうも絶影です >それでは早速感想に!
去年はありがとうございます! 受験のご健闘祈っています。
>前回、エイジに喧嘩を吹っ掛けた佳幸。 >そのバスケ勝負ではやはり兄の方が一枚上手で、 >得点を入れられ続けてしまうエイジ。
エイジはまだ中学二年で、佳幸は高校一年。 中学と高校ではレベルが違いますからその差が出たということです。
>しかし、疲れを見せ始めたのは受験勉強に追われていた佳幸だった。 >やばい…人事には思えませんね…(笑)
受験、本当に頑張ってくださいね。 それしか言えません。
>そんな兄を気遣うエイジでしたが、佳幸が伝えたかったのは >「自分で選べ」という感じだったようですね。 >いや〜こんな兄がいたらなぁ〜とか思ったのはおそらく私だけではない!…はず。 >佳幸の言葉を受け、偶然見ていた八闘士も奮起したようですね。
確かに、出過ぎた兄ですよね、佳幸は。 それ故にエイジもいろいろ複雑な思いを抱いていますが、尊敬はしています。 八闘士の間でも、塁と戦った時のようにエイジとは違った意味で皆を励ましますからね。
>彼らはそれぞれの想いを抱いて戦いに挑む、という感じでしょうか。 >次回が楽しみになってきましたね! >それではまた♪
楽しみにしてくださり嬉しく思います。 本当に暇な時に見てくださってくださいね。
残菊さんへ
>どうも! >残菊です。 >ひさしぶりですねぇ >ここにくるのもひさしぶりで(;´Д`)
お久しぶりです。 残菊さんのことを待っていましたよ。
>長い間感想書けなくてすいませんでした(m´・ω・`)m >でも、今までの分は影ながら読ませていただいていたので >内容の方は理解・・・・・・してると思いますw
読み続けてくださってありがとうございます。 頭が上がりません。 感想は書けるときでいいですからね。内容もまあ・・・・大体理解してくださればいいので。
>とりあえず、今回のお話の感想を >今回だけになりますが・・・。
今回だけでも嬉しいです。
>兄弟でバスケ勝負ですかぁ >いいですね、兄弟って・・・(´・ω・`) >自分は一人っ子なので、そういうのよく分かりませんが
私は下の方(しかも女)にいるので、結構付き合い方とか大変です。 でも、あまり兄とか意識することはありませんよ。 威厳もありませんし。
>でも、やはり兄の方が強いのって定石なんですかね
まあ、上は先に行きますからね。 それに加えて佳幸も、エイジに追い越されたくないと努力していますので。
>それでも、頑張り。 >点を取りましたね!
エイジの素質は、佳幸を超えると言われています。 ですから、まだまだ未熟な面はありますがときに佳幸をも上回ることもあります。
>受験勉強に追われていた佳幸は、運動をしていなかったせいで >体力的に不利(?)なんですねぇ >自分は運動も嫌いなので分かりませんが(笑´∀`)
私はバスケットをやっていましたので、長い間プレイしていないと体力はもちろんのこと、試合勘が萎えたりシュートを腕力だけで打ってしまうことがあります。 佳幸はちゃんと足の力を使ってシュートしますが、試合勘はエイジより劣っています。
>>絶影さん > いや〜こんな兄がいたらなぁ〜 には、一人っ子ながら同意しましたw
佳幸は理想の兄といったイメージを持たせています。 当初は主役格として考えていたので、思い入れは大きいです。 私も、こんな兄貴がいたらなぁ・・・・。
>彼らがそれぞれの想いを選択し、今後の戦いに挑む・・・。 >いいじゃないですか! >燃えますね!
私はこういう展開が好きです。 男たちが葛藤を経て、立ち上がろうとする瞬間というのはカッコいいじゃないですか。 まあ、真っ直ぐに生きることができるのも難しいですけど。
>でわ、次回の更新待ってますね! >ガンバってください!! >それでわ〜 >お休みなさいです >バイバイ(´・ω・`)ノシ
はい、頑張らせていただきます! 待たせた分楽しんでくれると嬉しいです!
>そういえば、RIDEさんって新潟のご出身(?)なんですよね・・・? >実は、自分も新潟なんですよーw >日本って狭いなぁ、と思いました(笑´∀`)
本当、広いようで狭いですね(笑) 同じ新潟出身者がいてうれしいです!
>でわわ。
そちらも頑張ってください!
絶影さん、残菊さん、感想ありがとうございました!
それでは、新年初めの更新行きます! 今回も長めです。
3 それから翌日、ナギが出発する日を迎えた。
「私と一緒に行くと言っていた奴らは、全員いるな」
ムラサキノヤカタにはナギをはじめとしてハヤテ、ヒナギク、翼、大地、シュウ、花南、伝助が集っていた。マリアと千桜は、彼らの見送ろうとしている。
「・・・・おまえは絶対に連れて行かないぞ」
どこかじれったそうにしている千桜にナギは釘を刺した。先日、連れて行けなんて要求し、それを断られた千桜だが、いざその日になるとやっぱりいてもたってもいられなくなってしまう。
「スキだらけのおまえなど、危なっかしいだけだからな」 「なっ!おまえが言えたことか!」
ムキになって言い返す千桜だが。
「スキだらけでもなんでもいいですけど、僕たちについて行くなんてやめておいた方がいいですよ」
そう言って、この場に現れた人物がいた。
「今回ばかりは、僕たちに他人を守るなんて余裕はないですから」
そう口にしているのは、佳幸であった。
「やはり来ましたか、佳幸君」
伝助が彼に目をやると、佳幸も応じた。
「精霊界を歩くにあたって、詳しい人は多い方がいいですよ」
そう小気味よい笑顔を浮かべる佳幸。それだけで、彼から頼もしさというものが感じられた。
そんな彼に、花南が近づいてきた。
「あんたは来ると思っていたわよ、佳幸」 「僕も、見過ごしたくないと思ったからね」
佳幸は穏やかではあったが、その眼には強い意思が宿っていた。そんな彼に、花南はわざとらしくため息をつく。
「あんたがいなくても、私がいるから十分なのに」
いつものような、他人を突き放すような態度をとる。しかしそんな彼女の前で、今度は逆に佳幸がため息をついた。
「見過ごせないのは花南さんに対しても、さ。花南さんが危なくなったら僕が盾になって守るから、安心して戦って」 「それであんたが倒れたら、私が起こしてあげるわ」
花南は憮然とした、しかしどこか照れくさそうに言い返した。
「私はあんたの背中を押す。だからあんたも心置きなく頑張りなさい」
そんな会話を交わしながら、顔を見合わせる二人。敵意といった刺々しいものはなく、それでいて友情を超えた思いが両者とも込められていた。
それを感じ、尚且つ意味を悟ったものたちはそれぞれ照れたり、感心したりする。
「おいおい、二人だけの世界に入るなよ」
とそこへ、また新たにこの場へとやってきた者がからかいの声をかけた。花南たちはそちらを見る。
「達郎、氷狩、塁じゃない」
三人の中で、達郎は続けた。
「これだけ仲間がいるっていうのに、蚊帳の外にされちゃあなぁ」 「ゴメンゴメン。でも味方が増えて嬉しいよ、達」
幼なじみである佳幸と達郎は、長い付き合いによって築かれた固い絆で結ばれているのだということをお互い改めて理解していた。
「氷狩君、塁君も来てくれましたか」
一方の伝助も、達郎と一緒に訪れた二人が共にいることに喜びを露にする。
「伝助さんたちだけにいい格好はさせませんよ」 「このままじゃ、なんか負けた気がするっスからね」
氷狩と塁は、揃って不敵な顔を見せた。
そんな中、どこからかエンジン音が聞こえてきた。こちらに近づいているらしく、それは段々と大きくなっていく。
一体なんなのだろうかと思っていると、ムラサキノヤカタの敷地内に、二人乗りのバイクが勢いよく入ってきた。
突然のことなので不審者だと思い、ハヤテはナギを庇うようにバイクのほうへと身を前に出す。
「心配ないですよ」
そんなハヤテに、伝助があれは悪者ではないというように肩を叩く。
バイクは、ハヤテたちの目の前で止まった。そこで運転手が降り、歌ぶっていたヘルメットを脱いだ。
「悪かったな、驚かせて」
優馬は、ハヤテとナギに向けて謝罪しながら、自分のバイクを指差す。
「こいつを停めるのはどの場所でいいんだ?」
ハヤテやナギナギは呆然としてしまう。その間に優馬の後ろについていた人物も降り、彼に倣ってヘルメットを取った。
「どうしたんだい?」
拓実がそう尋ねたことにより、ハヤテは我に帰った。
「あ、バイクはそちらに停めてください」 「わかった」
ハヤテが指した方向へ、優馬はバイクを押して進んだ。
「あの人って、確か医者だったわよね?」
ヒナギクが小さな声で花南に尋ねた。
「ええ、そうよ」 「医者にバイクって、似合わないと思うけど・・・・」
白衣の男が、バイクを高速で乗り回す姿を想像してみる。
どう考えてもミスマッチだ。
医者が真面目な性格を連想される職業なのに対し、バイクは型破りなものの乗り物だというイメージを湧かせる。この二つはミスマッチのような気がするだけでなく、バイクは事故が多く当然怪我もしやすいので、医者が自らそんな乗り物を使っていいのか注意したくなってしまう。
「色々な奴がいるっていうことよ」
花南は深く考え込ませないことを言った。
バイクを停車させた優馬が戻ってきた。彼をはじめ、拓実、達郎、塁、氷狩。いずれも昨日の佳幸とエイジの1on1を見物していた者たちだ。
佳幸の言葉で、彼らは立ち上がった。各々の心に影響を及ぼすほど、大きかったのである。
だが・・・・。
「エイジはどうした?」
優馬は辺りを見渡し、エイジの姿が見かけないので優馬が尋ねてみる。
兄である佳幸の言葉を直で受けたエイジ。あれに対して、彼が何の思いも抱かないとは思えないのだが・・・・。
優馬の問いに対し、佳幸は首を横に振った。
「僕よりかなり早く家を出たみたいですけど、どこに行くかも告げなかったから・・・・」 「そうか・・・・」
エイジは来なかった。
そのことについては別に責めるつもりはなかった。エイジは自分たちよりも深く迷っていたのだ。悩みに悩みぬいた結果、彼が出した答えがこれであるのならば咎めることではない。エイジはただ逃げたいというだけで身を引くような人間ではないということは、ここにいる全員が十分にわかりきっている。
それでも、エイジがいないということにやはり気落ちしてしまう。こんな空気を払拭しようと、達郎が明るい口調で盛り上げようとする。
「ま、まあ俺たちだけで十分だろ!あんなチビの力を借りなくっても・・・・」 「誰がチビだって?」
その時、聞こえてきた声に一同は顔を上げる。
「遅れてきたっていうのに、十分偉そうじゃないっスか」
タイミングを見計らっていたかのように、物陰からエイジが縁側に姿を表した。
一同の反応を見て、満足そうにしながら。
「・・・・まったく、趣味が悪いぞ」
毒づきながらも、佳幸は笑顔だった。ムラサキノヤカタの住人であるハヤテやナギを除く皆が、同様の表情をしていた。
エイジは縁側から降りて、皆の方へと近づいていく。
「大丈夫っスよ、俺は」
自分自身を指しながら、彼は笑って見せた。
「もう逃げない、立ち向かうって決めたから。このまま立ち止まったりしないっスよ」
静かな決意。それにはエイジの意志が強く来られているのを全員はっきりと感じた。
躊躇いや恐怖などない。あるのはただやってやるという思いを。
「生意気言いやがって、この!」
そんなエイジを、塁は満悦したといわんばかりにエイジの身体を叩く。これをきっかけに、全員手荒い歓迎をし始める。
「ちょ・・・・ストップストップ!」
口ではそう言いながらも、祝福されているエイジは嬉しそうであった。
そんな中で、彼らから少しはなれていたナギが恐る恐るといった様子でエイジに歩み寄ってきた。
「どうした?」
エイジは彼女に気付き、何気なく尋ねる。佳幸たちもエイジを解放して、また何か揉め事 にならないようにと心配しながら二人を見守る。
「その・・・・」
ナギはどこかもどかしそうにしながらも、言葉をつむいだ。
「あ、ありがとう・・・・」
普段からこういうことには慣れていないのだろう。彼女の気恥ずかしさと、それでも礼を言わなければという様子はどこか微笑ましい。
「・・・・別に、あんたのためっていう訳じゃない」
正面から礼を言われたエイジも、照れ隠しをしてしまう。
「俺は力ずくでも霊神宮へ行く。それだけだ」 「まったく、見栄を張って・・・・」
佳幸をはじめとして、皆が苦笑を浮かべた。強がってはいるが、これでお互いまずは一歩近づいたのだ。
とても小さい一歩だが、お互いが認め合う第一歩を。
「皆さん、そろそろ出発しましょう」
全員がそろったところで、シュウが声をかける。
彼も達郎たち、とくにエイジは来ないだろうと踏んでいたために、彼らが集まってくれたことには感謝をしている。
霊神宮へ行く目的には、彼の家族とも言える主の救出が含まれているからだ。
「ちょっと待ってくれ」
そんな彼に優馬が一声掛けた後、門の方へと呼びかけた。
「おまえたち、隠れてないで出てきたらどうだ」
言葉の端には若干の脅迫が込められていた。出て来なきゃ、どうなるかと。
すると、門から申し訳なさそうに咲夜、伊澄、歩、生徒会三人娘がこちらに入ってきたの だ。
「おまえたち!」
彼女たちの姿を見てナギは声を上げる。まさか今この場所を訪れるなんて思いもしなかったのだろう。
「いやあ、ナギがなんか企んでいるのを知ってな。ウチらは手ぇだせへんかもしれへんけど、せめて見送りにと思うてな」
咲夜の言葉に、伊澄と歩も同じ考えだと言うように頷く。
友だちの自分に対する思いにナギは胸が温かくなるのを感じた。事情もよくは知らないの に、こうして自分を心配してくれている。
それだけで、ナギは強力な武器を得たような気がした。
「・・・・で、あんたたちは?」
一方で、ヒナギクは横目で三人娘たちを睨む。彼女たちの場合、その行動においては単なる善意だけではない。面倒なことを考えているに違いない。
「いや、我らも見送りにと・・・・」 「じゃあ、その持っているビデオカメラは何?」
後ろ手に隠してはいたが、やはりヒナギクはお見通しだ。
大方、この三人は面白い映像が取れるということでついていく気だったのだろう。
「悪いけど、連れて行かないわよ」 「そんな!」
文句を言おうとする三人を無視して、ヒナギクはしゅうに向き直った。
「行きましょう」 「そうですね」
見送りは嬉しいが、長々とそれに構っているわけにはいかない。
水を差された空気を引き締めるために、シュウは咳払いをしてから再び話し始めた。
「念のために説明しますが、私たちはまず精霊界へ行き、そこから更に霊神宮へと向かいます」
シュウの話に、皆耳を傾けている。
「本来ならここから直接霊神宮の中へと入り込めますが、あちらはそれを遮断する備えをしているでしょうし、いきなり敵陣の真ん中に入り込むのも、あまり良いとはいえませんしね」
わかりやすく言えば、移動手段を制限されたということだ。ワープを近道に例えると、進入禁止として通行止めされているということである。だから、遠回り指定校ということを言いたいのだ。
これに対して、達郎が口を挟んできた。
「けど、外からも入り込めないようにしているかもしれないだろ?霊神宮は精霊界の上空にあって、しかもただ空を飛んでも発見されないようにしてあるんだぜ」
霊神宮は常人には察知されないような仕組みになっており、精霊の使者でも裏切り者であるならば入るどころか、捉えることすらできない。それ以上の力の持ち主か、特別な術を施せば可能だが、ここにいる全員はそれに該当しない。
どうあっても霊神宮に入るのは難しいのではないか。
しかし、何も手がないわけではなかった。
「その点は心配なく。三千院さんに何か考えがあるようです」
それを聞いて、全員がナギに注目する。
一体どうするつもりなんだ。全員が視線でそう訴えかけていた。
そんな彼らを前にして、ナギは気分が良くなっていた。
「まあ、着いたら教えてやる」
わざとらしくもったいぶる。どこか不満そうな顔をしている周囲に、彼女は楽しみにしていた。
まるで、ドッキリを遂行しているかのように。
「では皆さん、行きましょう」
シュウの言葉と共にハヤテたちは地面に浮かんだひとつの円に囲まれた。この円によって、精霊界へと導かれようとしているのだ。
「ハヤテ君、ナギ、気をつけてくださいね」 「どうあっても、必ずここに帰ってきなさい」
いよいよ始まろうとする戦いにハヤテが気をを引き締めていると、留守を任されるマリアと新入居者のアリスが声をかけてくる。
ハヤテがそちらに応えようとした時であった。
「きゃ!」 「な、なんや!?」
円の外にいた咲夜と伊澄が、まるで突き飛ばされたかのように円の中へと入ってきたのだ。
「な、おまえたち!?」
ナギは驚愕する。この二人はふざけ半分で円の中に入ることはしない。
入り方からして誰かが後ろから押してきたのだろう。一体誰かと考えるナギだが、その暇 はなかった。
「西沢さん?」 「あんたたちまで!」
歩、美希、泉、理沙、そして千桜までもが二人と同じように円の中へ足を踏み入れてしまい、そのまま中に倒れ込んでしまう。
「み、皆さん早く離れて・・・・」
ハヤテがそう言いかけるが、間に合わなかった。
ハヤテたちの姿は、消えた。精霊界へと移ったのだ。
今この場にいるのは。
「あなたは・・・・」
マリアと。
「一体・・・・?」
アリスと。
無言のまま彼女の視線を受けている、仮面をつけた男がいた。
いつ、どのようにしてこの男が現れたのか二人にはわからなかった。咲夜たちが突き飛ばされた時に、はじめてこの男が存在することを知ったのだ。
おそらく突き飛ばした犯人はこの男だろう。そうだとしても、何の気配も感じさせずにこんな近くまでいるという神出鬼没さに、二人は薄気味悪いものを感じてしまう。男がつけている、一つ目のような仮面のデザインも、不審を抱かせる材料ともなっている。
その男は、二人の問いには答えず、アリスの方を向いてこう告げた。
「いずれまた、彼らが帰って来た後会うことになるだろう。その時君は、天王州アテネとして戻っているだろうが」 「!!どういうことですの!?」
何故、天王州アテネのことを知っているのか。それにハヤテたちが帰ってきたとき、戻っているというのはどういうことなのか。
さっぱりわからない。しかしこちらの混乱をよそに男はやはり説明をしない。
「今の君にできるのは、彼らの帰りを祈っていることだ」
それを最後に、男の姿は消えていった。
マリアやアリスは、何がなんだかわからずその場で立ち尽くすしかなかった。
「どうだったかい?再会は」
ムラサキノヤカタに突然現れ、謎を残してきた仮面の男は背後からかけられてきた声の主の方を見る。
「あれは再会というわけではないさ。なんせ向こうは天王州アテネとしての記憶がないのだからな」 「そういえばそうだったな」
そう言って、仮面の男の元へと歩み寄る。仮面の男も長身な方だが、この男も負けていない。その美貌は、頼もしさと力強さ、そして好感が持てる爽やかさがあった。
女性が通りすがれば、間違いなく振り向かせるであろうその男は、仮面の男に謝罪を入れた。
「しかしすまないな。彼女たちを巻き込ませるなんて、君の気にはそぐわなかっただろうに」 「確かに気に入りはしない。だがあいつがいる。あいつなら、三千院ナギだけでなく、あの少女たちを守れるだろう」 「そうだろうね。なにしろ彼は君の・・・・・」
その時風が一層激しく鳴って、男の言葉は最後まで聞き取れなかった。
「・・・・ところで、おまえも行かなくていいのか?」 「もちろん行くさ。君に助けられてから、このときをずっと待っていたんだ」
男はそこで、目を鋭くさせる。
「この世界に落ちて、死を覚悟したところで君に助けられたんだ。君には本当、感謝をしても尽くせないな」 「礼はいらない。私はただ、目の前の人を助けたかっただけだからな」
仮面には隠し切れないほどの正義感を感じさせ、男は発破を掛ける。
「だからおまえも、自分の信じて行くがいい、ジュナス」
初めて会ったときはその仮面に驚きはしたが、その見た目とは裏腹な、しっかりとした強さと優しさを後に知った。
正直、その人間性には素晴らしいと感じた。この男に会ったことは助かったこと以上に嬉しかった。
それを忘れないようにと誓うかのごとく、男は大きな声で応えた。
「ああ!行ってくる!」
仮面の男にジュナスと呼ばれた男。
彼こそは、黄金の精霊翼のフェザリオンの使者であった。一年前霊神宮を抜けだし、龍鳳を救い出したものの行方不明となっていた男は、隣にいる仮面の男に救出され、現在まで行動を共にしていたのだ。
そして今、ジュナスは仮面の男に別れを告げ、霊神宮へ戻ろうとしていた。
その胸に、信念を灯して・・・・。
新年最初はどうだったでしょうか?
仮面の男については、当分は登場はまだないでしょう。
それでは、何か指摘があったらよろしくお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 1月4日更新 ( No.10 ) |
- 日時: 2012/01/16 00:36
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です。
……!!ふぉぉぉおおお!! ジュナスさん出たぁぁあああ!! あの汚名を着せられながら龍鳳を救い出し、 そのまま行方知らずになっていたあの人ではないですか!
…えっとそれでは感想に!
霊神宮に乗り込むメンバーも決まり、出発当日。 ムラサキノヤカタに八闘士とエイジそして見送りに色々な人たちが。
そこに現れた仮面の男。 発言とかその他諸々から言ってあの人しか思い当たらない…のですが… しかし彼は何故伊澄はまだわかるとしても、咲夜や生徒会面々、さらに歩までも連れて行かせたのでしょうか? 気になりますね!
それでは次回の更新お待ちしてます♪
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Re: 新世界への神話Drei 1月4日更新 ( No.11 ) |
- 日時: 2012/01/25 20:04
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 前回から間があいてしまいましたね。
まあ、それほど急がなければいけないと言うわけではありませんが・・・・
新潟は雪で大変です・・・・
まずはレス返しから。
絶影さんへ
>どうも絶影です。
どうも。 センターが終わってご苦労様です。
>……!!ふぉぉぉおおお!! >ジュナスさん出たぁぁあああ!! >あの汚名を着せられながら龍鳳を救い出し、 >そのまま行方知らずになっていたあの人ではないですか!
そうです、ジュナスです! 彼の登場はまだずっと先になってしまいますが、そのときには活躍させるつもりです。 どんな活躍かは、楽しみにしていてください。
>…えっとそれでは感想に! >霊神宮に乗り込むメンバーも決まり、出発当日。 >ムラサキノヤカタに八闘士とエイジそして見送りに色々な人たちが。
個人的にはエイジのくだりに力を入れました。 あと、優馬が乗っていたバイクは大型のものです。
>そこに現れた仮面の男。 >発言とかその他諸々から言ってあの人しか思い当たらない…のですが…
とりあえず、霊神宮では登場しません。 本当に、再登場はずっと先になりますから。
>しかし彼は何故伊澄はまだわかるとしても、咲夜や生徒会面々、さらに歩までも連れて行かせたのでしょうか? >気になりますね!
その理由は、まあ今回判ると思います。
>それでは次回の更新お待ちしてます♪
お待ちした分楽しんでくれると嬉しいです。
絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは本編。 第31話ラストです。
4 「どうするの・・・・?」
ヒナギクが困った顔でハヤテとナギに問う。問題はやはり、一緒に精霊界へと来てしまった咲夜たちのことだ。
はっきり言って、こうなることは想定外であった。彼女たちが誰かに突き飛ばされてこうなったということはわかっているので、怒りをぶつけるというのは理不尽だ。とはいえ、流石に連れて行くことの危険性を考えれば、扱いに困るのは仕方なかった。
「まあ厄介なのは変わらないが、かえってちょうどよくなったとは言えるな」 「え?それって・・・」
意味深な発言をしたナギ。
まさかとは思うが、自分の親友たちに危険なことをさせるのだろうか。ナギにとっても親友のはずの彼女たちに。
何を考えているのか尋ねようとしたヒナギクだが、それよりも先にナギはエイジたちを呼び集めた。
「皆いいか、これから霊神宮へ行くぞ」 「それはいいけど、どうやって行くつもりなんだ?」
精霊界へ行く前から、エイジはずっとそれが気になっていた。そんな彼らに、ナギは落ち着き払って話し始めた。
「まず、私が霊神宮への道を開く」 「道?」 「そう、道だ」
首を傾げるエイジたちに、ナギは説明する。
「龍鳳が教えてくれたのだ。使者でも中々見つけられない霊神宮へ行くためには、私の精神力で霊神宮へと繋がる道を開けばいいと」
そう言って、ナギは瞑想を始めた。
「今、道を拓こう」
すると、ナギを中心にして光が広い範囲に行き渡る。それだけではなく、光は天に向かって昇りはじめた。
「この光は・・・・?」 「これが道だ」
空を見上げるハヤテたちに、ナギは言った。
「この光が向かう先は、霊神宮に繋がっている」
そこでナギは、よろよろと倒れそうになってしまう。
「お嬢様!」
それを見たハヤテはすぐさま光の中へと入り、ナギの体を支える。
「大丈夫だ」
だいぶ疲労はしているようではあるが、それでも笑顔を見せるナギ。
「道を拓くには、強い心の力が必要なんだ。だから、少し疲れただけだ」 「けど、この中に入れば霊神宮へ行けるんだな?」
それを知ったエイジは勢いよく光の道へと飛び込んだ。佳幸たちも続いて道の中へと入っていく。
「ようし、出発だ!」
エイジは意気揚揚として手を挙げる。
しかし、彼らは道の中に入ったまま進むことはなく、その場で立ったままだった。
「・・・・どうなってんだ?この光の道で、霊神宮へ行けるんだろ?」
さっぱり訳がわからず顔をしかめるエイジ。そんな彼に、ナギは呆れてため息をついた。
「まったく、バカだな」 「なっ、バカだと!?」 「まあまあエイジ、抑えて抑えて」
食って掛かろうとするエイジを、兄である佳幸が諌める。
それを尻目に、ナギは更に説明した。
「私は道を繋げただけだ。道自体が私たちを進ませるわけがないだろう」 「なるほど、移動手段は別ってことか」 「普段でも道が僕たちを進めるのではなく、僕たちが道を進んでいきますからね。考えてみれば確かに当たり前でしたね」
塁と伝助は納得して頷いた。
そしてここでもうひとつ、当然の事態に直面する。
「けどさあ、道は空に向かっているんだぜ?どうやって進むんだ?」
達郎の言うとおりであった。自分たちは翼を持ってはおらず、空を跳ぶ術はない。この上空へと続く道を通れというのは、誰が見ても不可能であった。
「ジェットさんとジムさんが、それぞれ戦闘機とヘリコプターになって俺たちを霊神宮まで運ぶというのは?」
ジェットとジムがマシンロボという形態のほかにもうひとつ、ビークルモードという乗り物としての真の姿があることを思い出した氷狩がそう提案した。
「できないことはないが・・・・」
そのジェットは、何か気がかりなことがあるようだ。
「俺とジムでも、一度に二十人は流石に乗せられないぜ。何回か往復しなければいけない」 「そうなると、時間がかかります」
ジムも同じ調子で空を見上げて言う。
「これだけの道です。維持するのにも、相当な心の力を必要としているはずです」 「つまり、お嬢さんの心にかなりの負担がかかるってことね」
そこまで聞いて、花南は二人の心中にある不安を察した。
霊神宮に着いたとしても、その先に戦いが待ち受けていることを必須だ。増してや、あちらはナギを狙っている。標的にされた彼女はただでさえ体力が少ないのに、この上で疲れている状態だというと、とてもじゃないが心許ない。方法はあっても、ついてからのことを考えるとあまり乗り気ではない。
「だから、おまえたちがいるんだ」
そんな時、ナギが全員に告げた。
「龍鳳に心の力を注げば、奴が私たちを霊神宮にまで連れて行ってくれた」
ナギの近くに、龍鳳が姿を現す。
「しかし、私は道を維持するのに集中しなくてはならない。そのかわりにおまえたちが龍鳳へ心の力を注いでくれれば、問題はない」
それを聞き、ヒナギクはナギが口にした都合がよいという意味を理解した。人数が多いほうが、龍鳳に注がれる心の力は大きくなる。
「おまえたち、龍鳳を見て強く思うんだ。上へ行ける、霊神宮へ必ず着けるんだと」
道理を得た優馬に従い、ハヤテたちは龍鳳に念を込めだした。すると、彼らの足が地面から離れ、その身が浮き出した。
「おおっ!」 「すごい、すごい!」 「まるでピーターパンの気分やな」
色々な歓声があがる中、ハヤテたちの上昇速度は段々上がっていく。
「これから、すぐ着けそうだな!」
ドリルは光の道の先にある霊神宮に思いを馳せ、拳を強く握る。
しかし、地上にあるものが手に取れるように小さく見える高度に差し掛かったとき、突然上昇するスピードが一気に落ちだした。
「あ、あれ?」
そこから上昇は止まってしまい。それだけでなく、下降しだしたのだ。
「な、なんだ?なんなんだ?」
混乱するエイジたちだが、原因はすぐに気付けた。
目をやると、ヒナギクが顔色を悪くしており、そんな彼女を歩が気づかっている。
「た、高い・・・・」 「ヒナさん、大丈夫?」
これだ。ヒナギクは重度の高所恐怖症だ。空高く上がったことによる恐怖のため、龍鳳に集中できなくなったに違いない。
「ま、まずい」
ナギは下へと落ちていくにつれ、危機感を強めていく。
「道の中にいる全員が集中できないと、霊神宮へと進めないぞ」
それを聞いて、ジェットはジムへと向く。
「ジム、ヘリコプター形態となって、桂を乗せてやれないか?」
高いところにいるのは変わらないが、乗り物に乗っていれば少しは安心できるだろうと考えてのことだった。
「わかりました。では・・・・」 「待ってください」
ヘリコプター形態になろうとしたジムを、氷狩が制した。
「俺たちはなんとしても霊神宮へ行かなければならない。けど、この程度の恐怖に打ち勝てないようじゃ、霊神宮の戦いではやられてしまうでしょう」
そして彼は、ヒナギクに声援を送った。
「ヒナギクさん、恐怖に負けてはいけない」
それを耳にしたヒナギクは、震えながらも氷狩のほうへ顔を向ける。
「あなたは俺と同じ勇気の魂の資質に目覚めたんだ。勇気は、何物にも動じない心。皆の心の力が注がれている龍鳳が本物なら、そしてこの道を拓いたお嬢さんを親友だというのなら 恐れることはないでしょう?」 「そうだよ、ヒナギク」
そこに拓実も加わった。
「君はお嬢さんを信じてここに来たんだろ。だったらお嬢さんを、その傍にいる龍鳳や周りにいる人たちを信じるんだ」
そしてハヤテがヒナギクに優しく声をかけた。
「ヒナギクさん、何かあったら僕が守ります。だから安心してください」
意中の人にまで元気付けられて、ヒナギクが奮い立たないわけがなかった。
「下は見ちゃダメ、下は見ちゃダメ・・・・」
そう自分に言い聞かせて暗示をかけ、ヒナギクは毅然として上空を見上げる。
再び、ハヤテたちは上昇しだした。
「どうなるかと思ったけど、よかった」
加速していく中、千桜は胸を撫で下ろした。
「後は霊神宮へ着くのを待つだけ、か」 「そうでもないみたいだよ」
拓実が睨みながら上空を指差した。
その先に、背に翼を生やしたヒトのカタチをしたものが、こちらに向かって下降してくる。
「と、鳥人間!?」 「魔物か?」 「いや・・・・」
ジェット、ドリル、ジムの三人は、一見してあれらの正体に気付いた。
「あれはおそらく、艶麗と同じ傀儡兵というものに違いない」 「それじゃあ、霊神宮が差し向けてきた敵ということですね」
ハヤテは迎え撃とうと、シルフィードと一体化しようとした。
「待って待って」
その寸前に、拓実がハヤテを遮るように前に出た。
「ここは僕に任せてくれ。僕を信じろと言った以上、それに値するところを見せないとね」
拓実の腕に着けてある、アローリングが光りだす。
「金の属性を持つ精霊が使者に求める魂の資質は信頼。その力を見せてあげるよ」
拓実は自分の心にある信頼の魂を開放し、身体をLCL化する。同時に彼の精霊である金の アイアールがアローリングに挿入されていく。
そして拓実は、アイアールと一体化した姿へと変わった。
「敵の数はこちらと同じ、二十くらいか・・・・」
言いながら、拓実はその手に金色の弓と矢を出現させる。
「素早く仕留めよう」
傀儡兵がこちらを射程距離に捉え、攻撃を仕掛けてきたと同時にその矢を弓に番える。
「ゴールデンアロー乱れ撃ち!」
傀儡兵に狙いをつけ、拓実は矢を放った。
矢は、飛来していく中で十本に増えていく。傀儡兵の半数は身体に深く突き刺されたり翼を撃ち抜かれたりなど黄金の矢を受けたダメージによって墜落していった。
「スゲェ・・・・」
拓実の必殺技を目にしたエイジたちは感心する。
「人型形態のアイアールでは一度に五本、多くても一桁の範囲は超えられなかったのに、一体化すると十本の矢を軽く同時に放てるのか」
その間にも拓実は再び黄金の矢を番い、残りの傀儡兵に照準を定めて放った。矢は先程同様に数を増やしていき、全ての傀儡兵に一本ずつ命中していき、倒していった。
たった二発の必殺技で敵を一掃した拓実は、敵が続けて襲来してこないかと警戒していたが、その気配がないことがわかると、一体化を解いて力を抜いた。
「艶麗に比べると手応えがなかったな。彼女は峡谷を崩壊させるほどの力があったのに」 「しかも意思といったものが感じられない。野生の獣みたいな動きだった」
優馬も艶麗とは異様であったものに対して、考え込んでしまう。
「今のあれらは量産するために戦闘能力を落とした奴だとすれば、手応えがないというのは頷けるぞ」
ジェットは推測を立てていく。
「またあれらには艶麗のように魂は入っていない。戦闘に関する単純な本能といったものの類しか組み込まれているのだろう」
それならば、心や魂を力とする精霊での戦いはできない。艶麗はヴィルクスの使者となっていたから、その点に置いても戦力に大きな差が出た要因ともいえよう。
「ところで、少しいいですか?」
ジェットの口述に一同が納得する中、ハヤテは別の質問をした。
「拓実さんのアイアールって、青銅の精霊でしたよね?でも金って、黄金の精霊と同じではないのですか?」
この矛盾にも思えることに対して、拓実はこう説明した。
「金っていっても、属性であってランクとは違うよ。それに、金の属性をもつ黄金の精霊に比べると、アイアールはそれほどよい金ではないさ」 「どういうことですか?」
わかりにくい返答に、伝助が補足を加えた。
「簡単に言うと、黄金の精霊は純金なのに対して、他のランクの金属性は青銅や白銀の中に金が少々混ざっているということです」
これを聞き、青銅や白銀の精霊における金の属性がどういうものかハヤテは理解を得ることができた。
「見えてきたぞ」
塁が皆に声をかけ、上を指差す。
その先には、巨大な神殿のような建物が浮かんでいた。
「いよいよですね」
霊神宮を前にして、一同は気を引き締める。
激闘が、始まろうとしていた。
31話終了です。 32話はあの作品からあのキャラが!そしてついにあの男も・・・・・
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Re: 新世界への神話Drei 1月25日更新 ( No.12 ) |
- 日時: 2012/01/29 00:33
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です。
それでは早速感想の方に!
前回、謎の男が歩たちを連れて行かせた理由が分かりましたね。 心の力を注ぎ込むのを協力させるためですか。 てかヒナギクが高い所で怯えていた時に落ちかけていましたが… ヒナギクと歩の二人の集中が解けたぐらいで下降するなら 歩たちがいなかったらどういう事態になっていたのか…。
まぁそれはともかく、高い所に怯えたヒナギクでしたが、信頼できる仲間と共に その恐怖を乗り越えることが出来たみたいで、良かったです。
霊神宮に向かうハヤテ達の前に鳥人間もとい傀儡兵がやってきました。 戦おうとしたハヤテを押し止め、一体化する拓実。 彼、凄いですね! 乱れ撃ちなのに矢を全て違う敵に当てるとは!(なんか違うところで感心している気が…) 敵を一掃し、霊神宮も目前。 どんな敵が現れるのでしょうか?
暫く感想を書きに来れないかもしれませんが、 読みには来ると思うので、更新待ってます!!
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Re: 新世界への神話Drei 1月25日更新 ( No.14 ) |
- 日時: 2012/02/12 18:28
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- また更新に時間がかかってしまいましたね。
ここのところリアルの方が忙しくて・・・・ まあ、暇よりは充実していていいんですが。
それではまずはレス返しから
絶影さんへ
>どうも絶影です。 >それでは早速感想の方に!
いつも感想ありがとうございます。 絶影さんもリアルの方がんばってください。
>前回、謎の男が歩たちを連れて行かせた理由が分かりましたね。 >心の力を注ぎ込むのを協力させるためですか。 >てかヒナギクが高い所で怯えていた時に落ちかけていましたが… >ヒナギクと歩の二人の集中が解けたぐらいで下降するなら >歩たちがいなかったらどういう事態になっていたのか…。
いなかったら、霊神宮へは行けなかったですね(汗) ヒナギクの高所恐怖症は、こういうところで活かさないと。 歩たちは、他にも何か見せ場があればと思っていますが、今のところは検討中ですね。
>まぁそれはともかく、高い所に怯えたヒナギクでしたが、信頼できる仲間と共に >その恐怖を乗り越えることが出来たみたいで、良かったです。
ここの辺りは、友情と言うことを強調したかったところです。 あと、自分に言い聞かせているヒナギクを想像したら、可愛く思えてしまいました。 何を想像しているんだろう。
>霊神宮に向かうハヤテ達の前に鳥人間もとい傀儡兵がやってきました。 >戦おうとしたハヤテを押し止め、一体化する拓実。 >彼、凄いですね! >乱れ撃ちなのに矢を全て違う敵に当てるとは!(なんか違うところで感心している気が…)
確かに、考えるとすごいですね。 ばらまいた矢がそれぞれ敵に当たるなんて、普通の確率では低いですから。 拓実の活躍シーンは、彼は只者じゃないということの証です。 拓実はまだ、活躍したシーンが少ないですからね。
>敵を一掃し、霊神宮も目前。 >どんな敵が現れるのでしょうか?
今まではとははるかに強い、とだけ言っておきます。 バトルもそれなり凝っていきたい、と思っています。
>暫く感想を書きに来れないかもしれませんが、 >読みには来ると思うので、更新待ってます!!
ありがとうございます! こちらも更新が停滞気味になるかもしれませんが、頑張ります!
絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。 今回から、あの作品が本格的にクロスします!
第32話 甦る闘志
1 ハヤテやナギたちが霊神宮へと向かった同時刻。
東京タワーでは、彼らと同じように異世界へと向かう者たちがいた。
展望室には一人の少女がいた。淡色の長い髪をヘアバンドでまとめた少女は手にバスケットがあり、もう一人、金髪の巻き毛で眼鏡をかけた子は穏やかな微笑みを浮かべていた。
普段会うことも少ない二人は何気ない会話でも花を咲かせていた。そこへ、一人の少女が駆け足で寄って来た。
「海ちゃん、風ちゃん・・・・」
赤髪をおさげにした小柄の少女は、身を屈めて息を切らす。
「さすが光、時間ピッタリね」
龍咲海は、バスケットを持っていない、空いている手の人差し指を立て、ニッコリと笑う。
「よ、よかった。間に合って・・・・」 「さ、参りましょう」
鳳凰寺風が、最後に来た獅堂光と海に、笑顔のまま声を掛けた。
三人は揃って手を取り合い、揃って目を閉じる。
空間が裂け、三人はそれによって拓かれた異世界への道へと吸い込まれていく。
道が閉じ、展望室には誰もいなくなってしまった。
眩しい日の光が地上を照らし、そよ風に乗って鳥の群が空を飛ぶ。
気候は常春で、花々は満開。豊かな自然が溢れていた。
ここは精霊界に存在する国、セフィーロ。意志によって全てが決まる国である。
この国の住人たちの心が明るければ安定し、逆に暗くなれば凶暴な異形の生物、魔物が出 現し、国を荒らしていく。また、武器以外の魔物への対抗術をはじめとして日常に至るま で、魔法というものを使うことができる。もっとも、全ての人が使えるというわけでなく、 その強弱も心によって左右される。
心が全てを決める世界。それは精霊の使者と似ていた。
そのセフィーロにある、巨大な城。三本の水晶が突き刺さり、花が開いたような形となっ ている。宙に浮いており、水が下へと流れ落ちて清らかな泉を作っていた。
そして、城内では二人の男が話し合っていた。
「おまえが運んできたあの男、素性はわかったか?」
高貴な衣装とは裏腹に、花や左頬に傷が残っているように活発な少年の面影を残した者が問い掛けた。
彼の名はフェリオ。この国の王子である。
王子といっても、セフィーロは現在王政ではない。かつてセフィーロは柱という存在の祈りによって安定を保っていた国であって、彼はその柱であった弟である。もっともフェリオ自身は剣の修行などに現を抜かし、王子としての自覚はなかった。
一年前、ある事情によって姫と彼を補佐する神官が亡くなったことをきっかけに、柱という仕組みはなくなり、住人たちが築く国となった。とはいえ無秩序というわけにもいかず、フェリオは重鎮たちと共にセフィーロを治めているのだ。
「ううん。もう一週間も経つけど、まだ起きないよ」
答えたのは、彼よりも背が高く、頭よりも大きな帽子をかぶった、前髪で目が隠れている少年だった。
彼はアスコット。この国の召喚士(パル)であった。
召喚士は、魔獣を呼び出せる能力を持った者のことを指す。魔獣は魔物に似た外見であるため、それを操るアスコット共々人々から恐怖の目で見られていた。だが、ある少女と出会ったことで、アスコットは胸を張っていき、魔獣も皆と親しくなっていった。
ちなみに、それまでは少年の体格ではあったのだが、改心してからは見た目は大人となっていた。これも心が力になるセフィーロの所以で、他にも数百年生きているが外見は若いというものもこの国では珍しくはない。
二人が話し合っているのは、ある男についてだった。
先日、セフィーロの領地外にあるとある峡谷で、おそらくは自然のものだと思いたい大規模な岩崩が起こり、アスコットはそこを調査しに行ったのだ。戻ってきた彼は、現地で倒れていたという大怪我を追った男を運んできたのだ。男は目を覚ますことなく、フェリオたちは彼が起きて話ができるのを待っているのだ。
忙しいのはそれだけではない。二人だけでなく、城内にいる人間が別の要件で手が離せない状態だ。
そんな時、フェリオとアスコットがいる広間の空間が裂け出す。
それがなんなのかわかっている二人は、表情が明るくなった。
「こんにちは!」 「よっ!」
異世界への道を通ってこの場に現れた光、海、風の三人に挨拶する。
「うふふ、じゃーん!」
床に足を着けた三人。海は笑顔を浮かべながら、胸を張ってフェリオとアスコットにバスケットを突き出して見せた。
「ケーキを焼いてきましたー!」 「この前話した地球のお菓子だね」
セフィーロにはケーキをはじめ、地球の文化はない。隣国にはそれを思わせるものも存在するが、この魔法の国を含む異世界の交流は今のところ光を通してのみであった。
「ちょうどいい。今日はオートザム、チゼータ、ファーレンの人たちも揃っている」
オートザム、チゼータ、ファーレン。いずれもセフィーロの友好国である。
「グッドタイミングね!お茶会にしましょ!」
海は親指を立てて喜びを表す。
「アスコット、手伝ってくれる?」
アスコットは、黙って海に頷いた。
「では、私も」
風も協力を申し出るが、海はそれを断った。
「二人で大丈夫よ。ね?」
そう言ってアスコットに微笑む海。アスコットはその笑顔に照れて紅潮する。
「私、先にイーグルのところに行ってくる!」
光は足早に一人その場を離れていく。
「・・・・平和ですわね」
光や海の元気な様子を見て、風は柔らかな笑顔を浮かべる。
フェリオも同意する。
「ああ。おまえたちのおかげだ」
今のセフィーロがあるのは風たち三人のおかげなのだ。それを、彼女たちと共に戦ったフェリオやアスコットたちはよく実感していた。
そのフェリオに向けて、風は言った。
「幸せは、誰か一人で作れるものではありませんから」
光と海と、三人一緒だったから自分は頑張れた。フェリオたちもいたから、戦えたのだ。自分たちだけの成果ではない。
姫であったフェリオの姉も、幸せを求めて神官に恋をした。悲しい運命がその先にあっても。
手を取り合い、昨日とは違う明日を目指す国。今のセフィーロにこそ幸せを創れると信じており、風自身も幸せを感じていた。
「・・・・そうだな」
それを聞いたフェリオは、左耳に着けたイアリングを弾いた後、風の左手を取って笑みを見せる。
「俺の幸せは、おまえが運んでくれたしな」
風の左手の薬指には、フェリオのイアリングと同じ物がはめられていた。フェリオが以前風に贈ったものである。
フェリオの笑顔に、風はときめくのであった。
一方で、海と一緒にいるアスコットは勇気を出して口を開いた。
「あ、あ、あ、あの!」
恥じらいでどもりながらも、海に質問する。
「ウミはその・・・・お付き合いしている人とか・・・・」 「いないわよ」 「じゃ!そ、そのお付き合いしたい人はいる?」
首を横に振って否定を表した海。それを見たアスコットは、大きくガッツポーズをとった。
「ど、ど、ど、どうしたの?」
挙動不審に見える態度と、質問の意図がわからず海は首を傾げてしまう。
アスコットは悟られないというように必死に首を横に振った。
「さ、お茶淹れよう!ね!」
奥手なアスコットと鈍感な海。例え仲が進展しなくても、仲良しな二人であることに変わりはないだろう。
今回はここまでです。 そして、タイトルからわかったとおり、「魔法騎士レイアース」とクロスさせています。 レイアースは、十数年前CLAMP先生がなかよしで連載されていた少女漫画で、アニメ化にもなった大人気な作品です。 私も結構好きです。 原作とアニメではストーリーが微妙に違いますが、私は原作よりなので、アニメの部分も混ざってはありますが設定は原作ベースで行きたいです。 しばらくは原作と同じ話になると思いますが、付き合ってくれると嬉しいです。 それでは。
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Re: 新世界への神話Drei 2月12日更新 レイアースクロス中 ( No.15 ) |
- 日時: 2012/02/24 18:56
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- また更新に一週間以上かかってしまった・・・・。
最近スランプで、モチベーションも上がらない・・・・。 現実も意思消沈中・・・・。
ため息ばかりついています。
でもまあ、ここに来るとそんな気はしません。 テンションあげていきたいと思います。
それでは本編どうぞ。
2 緑に溢れ、心地よい香りが漂っている。
そんな広い部屋の中央に寝具が設置され、その上に男がまるで死んでいるかのように、安らかに眠っていた。
眠っているとはいえ、男は外の様子がわかっていた。一人の少女がこの部屋に近づいてくることも。
「イーグル、具合どう?」
光が部屋に入り、ゆっくりと寝具のもとへと近づいていく。
[大丈夫ですよ。あなたの強い願いで、少しずつですが回復に向かっているようです]
眠っている男は、光の心に直接語りかける。
男の名はイーグル・ビジョン。セフィーロの友好国のひとつ、オートザムの軍司令官だ。
友好国といっても、昔からそうというわけではなかった。一年前、柱であったこの国の姫が亡くなり、その座を狙ってチゼータ、ファーレンという国と同時に、オートザムはイーグルを司令官としてセフィーロに侵攻してきたのだ。光たちも参入したこの戦いを通じて、セフィーロだけでなくこの世界の真実を知ったオートザムらは侵略を止め、友好を結んだのだ。
またその当時、イーグルは病に冒されていた。オートザムは機械文明が発達しており、その動力を人の精神エネルギー、つまり心で動かしてきた。そしてイーグルは心を使いすぎてしまい、永久に醒めない眠りにつこうとしていた。彼はそんな自分を犠牲にして祖国やセフィーロを救おうとしたが、光に生きることの大切さを諭され、現在はセフィーロにおいて光等イーグルを想う者たちの祈りを受けて療養している。
[信じる心が力になる。本当に不思議な国ですね]
そのイーグルの言葉に、光は微笑んだ。
彼女も、それに共感できたからだ。
そこにまた一人、部屋に入ってきた。マントがついた白い服装の、背の高い男だ。
男に気付いた光は、彼に向けて会釈した。
「こんにちは」
男は一見無口無愛想な感じであったが、少し表情を和らげて光に並んだ。
彼はセフィーロ唯一の魔法剣士(カイル)、ランティス。イーグルの親友だ。
ランティスはかつて各国を旅していた。その中でも一番長く滞在していたのがオートザムであり、それだけイーグルと親交が深かったことがよくわかる。
一年前、姫が亡くなったと同時にランティスは戻ってきた。姫の悲劇には神官であった彼 の兄も深く関わっており、その末に死んだので、ランティスはこのようなことは自らの命を賭しても繰り返させないつもりであった。その死ぬ危険が、イーグルの命を投げ出そうとした理由でもある。ランティスに死んでほしくないという思いが。
そのイーグルは、光に尋ねた。
[皆さんにはもう会われましたか?] 「ううん」
先にイーグルの顔が見たかったからだと付け加える光。
[今日はうちのジェオや、チゼータやファーレンのお姫様たちも来ていますよ]
イーグルが述べた人物たちは、いずれもあの戦いで絆を結んだ大切な者たちだ。 [ランティス、ヒカルを皆さんのところへ連れて行ってください] 「・・・・ああ」
それを聞いた光は、大丈夫と言わんばかりに笑いかける。
「一人で行けるよ!」
ランティス自身は光を送っていきたいのだが、光にそう言われてはどうにも手が出せない。中々手を出せない彼に、イーグルが後押しした。
[ランティスは連れて行きたいみたいですよ]
クスクスと笑うイーグルに、自分の心を見透かされたような感じがしたランティスは少々不快を覚えた。
「あとでランティスと一緒に来るね」
そんなことは全く存じない光はランティスに連れられて、笑顔で部屋を出て行く。二人が去り、部屋はイーグル一人のみとなった。
[ヒカル・・・・ありがとう]
今こうして自分は大切な人たちと一緒に生きようとしている。それがどんなに素晴らしいことであるか、教えてくれた光に大きな感謝を抱いていた。イーグルにとって、光は大切な人の一人なのだ。
[それにしても・・・・]
イーグルは、それとは別に疑念も抱いていた。
[ヒカルに、何か暗いものを感じたが・・・・]
相手の心に直接語りかけて会話しているイーグルだからこそ気づけた。光の心の中に、何か暗くなる感情みたいなものを。
あれはいったい何なのだろうかと不安に思うのであった。
ランティスと光は、海たちのもとへ向かうため広い廊下を歩いている。
「イーグルって、本当に素敵な人だよね」
光はイーグルに対しての感想をランティスに述べていく。
「私もあんな風になれたらいいな」 「・・・・おまえたちはよく似ているがな・・・・」
光を見ながらランティスは言った。その意味がわからなくて可愛らしく首を傾げる光。
そんな彼女を微笑ましい気持ちになったランティスは、彼女の視線に合わせて膝を屈めてそっと光の頬に手を添える.
「その強い心が、そっくりだ」
そして、優しく微笑んだ。
「おまえのその強い心が、セフィーロを本当に美しい国へと変えたんだな」 「皆の心で、だよ」
光は訂正した。セフィーロはこの国を愛する人々のもの。当然自分や海、風もその一員だ。
柱であった姫の悲劇を通じて、この国を変えたいと思った。皆がそう思ったからこそ、変わることができたのだ。光はそう考えている。
「私、ランティスとイーグル大好きだよ!海ちゃんも風ちゃんも、みんなみんな大好き!」
光は、その思いを吐露していく。
「ずっとずっと、一緒にいたい!」
そう言った時だった。
突然、光は白昼夢に引き込まれてしまった。
「ヒカルは皆と一緒にいたいの・・・・?」
気が付くと、目の前には自分と同じ体格の少女がいた。逆光がかかっているため、顔はよ く見えない。
「なら、その願いをかなえてあげる」
少女の残忍な笑い声が光の耳に響いてくる。
「皆、ヒカルと一緒に殺してあげる」
その言葉に戦慄を覚え、光は大きく息を呑んだ。
「ヒカル、どうした?」 「あ・・・・」
ランティスに声をかけられ、光は現実に戻った。
「大丈夫か?」
ランティスが心配そうに光の顔を覗き込む。
「ううん、なんでも・・・・」
ないと続けようとして、光は口を噤んだ。
そう答えても、ランティスはそれ以上追求しないだろう。しかし、彼はそれでも自分のことを気に掛けるだろう。そんな彼に、何も言わないままというのは失礼である。
それに、以前海に言われたことがある。自分は一人でなんでも背負い込もうとするから、自分が口にする大丈夫ほどそうではないと。
風も言った。悩みを一緒に分かち合い、解決に協力できる人がいれば大丈夫だと。
「・・・・最近、夢を見るんだ」
本当は海や風、セフィーロの人たちと一緒に話し合いたかったのだが、光はここで言っても構わなかった。むしろ、先にランティスに聞いてもらいたいと、何故かそう思ったのだ。
「夢?」 「うん。とても大きな闇で、そこから聞こえるんだ。セフィーロはもうすぐ私のものって・・・・」 とてつもなく不気味な女の声。思い出すと鳥肌が立ってくる。
「それとは別に女の子が現れて・・・・。顔はよくわからないけど、ノヴァって名乗っていた。そして、私が大好きなみんなを殺すって・・・・」
物騒な内容の夢に、ランティスは眉を潜める。
「東京にいたときも見たけど、あの夢は一体・・・・?」
不安になる光。まるでこれから先のことを啓示しているようで、もしあの夢を言うとおりになってしまったら・・・・。
「みんなには話したのか?」 「ううん、これから・・・・」
不吉な夢に不安を隠せない光に、ランティスは励ます。
「大丈夫だ。俺も皆も死なない」
短調な言葉だが、そこには頼もしさが大いに感じられた。
ランティスは立ち上がり、光の肩に自分のマントを掛ける。ランティスが長身のため、小柄な光は彼に抱きかかえられるような形となった。
それにより、光は彼に身を預けてもよいような安心感を得た。
そのままランティスに連れられて歩き出す光。その光景は、さながら騎士に守られている姫のようであった。
今回はここまで。 あと、レイアースの時間軸ですが、原作ラストの場面から。 原作では戦いが終わってから3年後になっていますが、ここでは一年後ということになっています。 あと、原作中心ですが、アニメのオリジナルキャラも出ているので、原作の舞台にアニメのキャラが登場した、ということになっています。 詳しい説明は、また後ほどに。 それでは。
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Re: 新世界への神話Drei 2月24日更新 レイアースクロス中 ( No.16 ) |
- 日時: 2012/02/26 00:29
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7426
- どうも絶影です。
あわわ…すみません…レイアースというのが分からなくてどう書いていいものか(汗) それでもときたま知っている単語が出てくると『おお!』ってなりますね。
光がランティスに告げたノヴァという名前。 確か前にヒナギクを襲ったのが…。 彼らはハヤテ達の戦いのどう関わっていくのか!
そしてやはり、大怪我を負っていた男というのが気になります! 彼は再び(?)物語に絡んでくるのか!
短くてすみませんorz
それでは更新待ってます♪
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Re: 新世界への神話Drei 2月24日更新 レイアースクロス中 ( No.17 ) |
- 日時: 2012/03/01 17:44
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- ハヤテが連載再開されましたね。
久しぶりの話は面白かったです。
DVDも手に入れた人いるかな?
では、まずはレス返しから
絶影さんへ
>どうも絶影です。
どうも! お久しぶりで嬉しいです!
>あわわ…すみません…レイアースというのが分からなくてどう書いていいものか(汗) >それでもときたま知っている単語が出てくると『おお!』ってなりますね。
まあ、二十年近く前に連載されていた作品ですから、ご存知ないのも無理はないと思います・・・・。 それでもかすかに知っているというのは、それだけ有名だと言うことですかね? CLAMP作品では結構メジャーな方だと思っています。 あまり詳しいことは書けませんが、これから説明とか入れていきたいと思います。
>光がランティスに告げたノヴァという名前。 >確か前にヒナギクを襲ったのが…。 >彼らはハヤテ達の戦いのどう関わっていくのか!
前回のことがありますからね。ノヴァとは戦わずにはいられないでしょう。 ハヤテたちがどう関わっていくか。それはあの人物が鍵となります。
>そしてやはり、大怪我を負っていた男というのが気になります! >彼は再び(?)物語に絡んでくるのか!
しばらく話を進めていけば、彼の話も出てきます。 楽しみにしていてください。
>短くてすみませんorz >それでは更新待ってます♪
短くても書いてくれて感謝しています。
絶影さん、ありがとうございました!
それでは本編です!
3 城の中庭では、セフィーロ、オートザム、チゼータ、ファーレンといった国々の首脳たちが会談を行っていた。会談といってもそんなに重苦しいものではなく、日常会話のような穏やかな雰囲気で話が交わされていた。
「すみません。うちの司令官がずっと厄介になりっ放しで」
軍服を着た豪傑な印象を持つ男が、敬しく礼をする。
彼の名はジェオ・メトロと言い、オートザムの副司令官。本来ならば司令官であるイーグルが出るべきなのだが、彼が口にしたとおりイーグルはセフィーロで療養中なので、ジェオが代理を務めているのだ。
「いえ、構わない」
セフィーロ側として答えたのは、宝石が多く埋め込まれた冠を着けた者だった。
低い頭身に若い顔立ち。一見すると十歳前後の子供のようだが、それに反して実は745歳と信じられないほどの高齢で、セフィーロで最高位の魔導師ある導師(グル)クレフ。柱制度がなくなってからのセフィーロを治めるため、尽力している人物の一人だ。
「こちらとしても、新しい制度を作るのために各国の良いところを参考にさせてもらっている」 「そのかわり、うちは環境汚染を止める術を研究させてもらってますし」
柱の祈りによって支えられてきたセフィーロにとって、それに代わる秩序の構築は必須であった。オートザムも、機械化が進んだ代わりに装置なしでは生きていけないほど、大気が汚れてしまっていた。だから、自然環境がよいセフィーロに協力してもらっているのだ。
「完璧なものなんてありえませんわ」
そう言って微笑むのは、チゼータ国の姫君タトラ。同じ褐色の肌とインド風の衣装を着た妹タータも頷いている。
「それぞれ足りないものを補い合っていけば、素敵ですわね」 「そういうことなのじゃ」
この中では一番幼い、ファーレン国の第一王位継承者アスカが同意する。
チゼータは領土が狭いため、国民の一部をセフィーロに移住させている。フェ?レンの指導者となるアスカはまだ幼いので、他国から多くのことを学ばせてもらっている。タトラの言うとおり、これら四国は足りないものをそれぞれ補う関係を形成していた。
そんな関係を、クレフもやはり素晴らしいと思った後、こんなことを口にした。
「私は、この世界は変革を望んでいたのではないかと思うのだ」 「え?」
クレフの傍にいる、彼の秘書的な役割を担っているプレセアと言う女性が首を傾げる。
「そうでなければ、異なった摂理形態が存在する理由が無い。自分以外のものと触れ合い、知ることで光ある世界へとなってもらいたかったのだと、そう思うのだ」
全員、自然と天を仰ぐ。
照らすから差し込んでくる日光が、眩しくも心地よかった。
「そしてそれは、世界の垣根すら越えることも踏まえていたのかもしれない・・・」 「私たちも、そう思うわ」
こちら側にとっては異世界の地球出身者である海、風がアスコット、フェリオと共に現れ、さらに彼女たちに遅れて光とランティスもみんなの輪の中へと入っていった。
会談は海お手製のケーキによって、そのままお茶会へと移行した。ケーキに舌鼓をうつその光景は、まさしく平和であった。
しかし、それはあるものによって破られることとなる。
ケーキを食する一同の中で、いち早く何かを察したクレフが目を細めた。
「導師、どうかしましたか?」
彼の近くにいたプレセアがそれを見て尋ねてみる。
「邪悪なものが・・・・この場に現れようとしている!」 「なんだって!?」
それを聞いた光は驚きをもって立ち上がる。ランティスだけは寛恕たちよりも早くそうしており、手には柄のみの剣を握っている。
「ランティス、おまえも気づいたんだな」
ランティスは頷いて肯定する。
「・・・・今まで感じたものよりも、かなり強力だ」
二人の緊張感を受け、光たちも険しい顔で辺りを見渡す。
「見てください!」
風が自分たちから少し離れたところを指差す。
そこに突然、放電しながら黒い球体が現れた。
「なんだ、あれは?」
まるで夜の暗さを持つそれに不気味さを覚え、一歩引きそうになる光たち。
何故こんなものがいきなり出現したのか?
だが疑問はそれだけでは収まらなかった。
その球体の内側から不意に何かが突き出してきて、ゆっくりと異形の生物が外へと出てきたのだ。
「魔物?」
一体だけではなく、続けて別の魔物も姿を見せていく。その流れで、魔物の数が次々と増えていく。
アスコットはそれらの魔物を見て怪訝を抱く。
「あんな魔物、見たことがない・・・・」
魔獣を呼び出す招喚士であるアスコットは、魔物にも精通している。セフィーロ現れた魔物は全て知っている彼が存じないものが、目の前にいる。
セフィーロで新たに生まれた魔物ということも考えられた。しかしアスコットはそうとも言えなかった。
「セフィーロのものとも、違うみたいだ・・・・。なんとなくだけど、気配が・・・・」
彼の呟きを耳にしたクレフは、魔物に再び目をやってから断言した。
「セフィーロのものでは、ないな・・・・」
光たちはその言葉に、まさかと言わんばかりな表情となる。
クレフは目でジェオに問いかける。ジェオは答えとして首を横に振る。タータやアスカも同様であった。
セフィーロのものではなければ、オートザムのものでもなく、チゼータやファーレンでもない。
となると、考えられるのは一つしかなかった。 「あれは我らの知らない、別のところから来たのかもしれない・・・・」
クレフは魔物たちと、それらが出てきた暗黒の球体を睨む。
「別のところって、どこからだ・・・・?」 「当然、地球のものではないしね・・・・」 「それに。どなたがあの魔物を?魔物は負の心が具現化したものですし・・・・」
光、海、風が謎と戸惑いに揺れる中、黒い球体からまた何かが突き出してきた。
しかし、今度は人の手であった。そしてゆっくりとその全身が外にさらされ、地に足をつけた。
「あれは・・・・!」
全身黒いタイツの上、胸部に軽装の鎧を纏っている。淡紅色の長髪に耳は尖っており、人間のものではない。
しかし、自分と似た体格と風貌を持つ少女を前に、光は息を呑む。
「こんにちは、ヒカル」
夢の中で出会った少女が、まさか現実でも顔を合わすとは思わなかった。
「私は、ノヴァ」
今回はここまで。 それと、先ほど述べたように、説明を入れたいと思います。 ますは、国から。
セフィーロ 地球とは異なる世界にある国。 魔法、精獣など地球に比べると神秘的な雰囲気があり、自然に溢れている。 「信じる心が力になる」世界という特色が最も濃い国であり、魔法の強弱、自らの肉体、そして未来でさえも意思によって定められる。 かつては柱と呼ばれる存在の祈りによって安定を保っていた、「一人の祈りによって全てが左右される」制度があり、これは創造主が地球に失望したため、それと反する秩序を必要としたからである。 現在は柱制度が無くなり、他国と意見を交わしながら新しい国の秩序を構築中である。 この作品では、精霊界に存在している国とされていて、霊神宮と同一なシステムでありながら、変革が起こった国となっている。 ちなみに、セフィーロのことは第1スレでほんの少し触れている。気付いた人はすごい。
オートザム セフィーロとは別の国。 機械文明が発達していて、人が持つ精神エネルギーを動力源として動かしている。 しかし、大気汚染が酷く、装置なしでは地表に出ることはできず、空高く建てられた建物の中で人々は暮らしている。 そのため柱が崩壊したセフィーロに攻め込んで、新しい柱となってそのシステムをオートザムに取り入れようとした。 現在ではセフィーロと友好を結び、大気汚染をとめる術の研究に協力してもらっている。 軍力が強く、巨大ロボットや戦艦などの装備がある。 第2スレで登場したFTOも、このオートザムで開発されたものだ。
チゼータ セフィーロとは別の国。 インド風な国であり、原作でのチゼータ出身者は全て褐色の女性であったことから、女性が多い国と思われる。関西弁と同様の方言が存在している。 領土がほんっっっとうに狭く、柱が失われた後のセフィーロに攻め込んだのも、柱になって領土をもっと広くしようとしたため。 現在はセフィーロらと友好を結んでおり、互いに協力し合っている。
ファーレン セフィーロとは別の国。 中国色が目立つ国であり、豊かな国でもある。しかし、帝政を取り仕切るはずの皇帝が存在せず、唯一の王位継承者もまだ子供。摂政が政治を行っているが、不安が残っている。 その王位継承者、アスカのわがままで、柱が失った後のセフィーロをお菓子一杯の国にしようと攻め込んだのだ。 現在ではセフィーロや他の国と友好的であり、アスカは各国からいろいろ学ぼうとしている。
それでは
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Re: 新世界への神話Drei 3月1日更新 レイアースクロス中 ( No.18 ) |
- 日時: 2012/03/08 23:18
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- ハヤテのDVD手に入れましたか?
追加の映像10分は面白いと思います。
さて、特に語ることもないので本編を。
4 ノヴァは、嬉しそうな表情を浮かべながら光に目を向けた。
光は、夢で自分や大好きな皆を殺すと宣言したノヴァに対して、恐怖と警戒心を抱く。彼女のすぐそばにいたランティスはそれを感じ取った。
「夢の中で会ったというのは、あの少女か?」 「う、うん」 「・・・・ノヴァと言ったな」
光に確認を取った後、ランティスはノヴァを睨んだ。
「何が目的だ?」
そう尋ねると同時に、ランティスが手にしている剣から光の刃が出現した。
その切っ先を、ノヴァに向けることで威嚇する。
しかし、脅迫されてもノヴァは平然としていた。
「そんなに恐い顔しないで。私はヒカルに会いに来ただけなんだから」
にこやかに微笑むノヴァ。
「ヒカルと、ヒカルが好きな人たちはみんな殺す」 そして、目を細めて睨みを利かせることで全員を恐怖に震え上がらせる。 「でも今日は挨拶だけだよ。次に会う時が楽しみだね」
それを最後に、ノヴァは黒い球体の中へと戻って行った。
クレフたちに向かって雄叫びを上げる、魔物たちを残して。
魔物たちは、彼らに襲いかかろうとした。
「穀円防御(クレスタ)!」
そう唱え、杖の先を魔物たちに向けたクレフ。すると、彼を中心にして皆バリヤーのようなものの中に覆われ、魔物たちの攻撃を受けずに済んだ。
セフィーロ最高の魔導士に恥じぬ、強大な防御魔法を見せつけることでクレフは魔物たちを跳ね除けた。
そこへ、一気に攻勢を仕掛けてきた。
「雷衝撃射(クロノス)!」
ランティスが魔法を唱え、剣を魔物たちの方へと向けた。すると、魔法でできた刀身から電気を帯びた光線が発射され、何匹かの魔物を消し飛ばした。
「魔獣招喚(マキシマ)!」
アスコットは魔法陣を出現させ、自分の友達である魔獣を呼ぶ。魔獣によって、別の魔物たちは押さえつけられてしまう。
その好機を、フェリオは見逃さなかった。
身の丈ほどある巨大な剣を手にし、軽々と振るって押さえつけられている魔物たちを次々と切り裂いていった。
彼ら四人によって、魔物たちを退けることができた。
「この場は何とかなりましたね」
フェリオは魔物たちがいないことを確認してから息をついた。
「ああ。だが・・・・」
クレフの表情はどこか晴れない。あることに気がかりがあるからだ。
「あのノヴァとか言う嬢ちゃん、ですね」
ジェオが彼の心を読み当てる。クレフはそれに頷いて肯定した。
あの少女からとてつもない邪悪な気を感じた。並大抵ではないものが。
それに、ノヴァはなぜか光に似ていた。外見だけではなく、気配というべきか、目に見えいものまでだ。
そして、あの少女の背後には、もっと強大な闇があるように思えてならんのだ。
クレフはランティスと目を交わす。ランティスも、同じことを考えていたのだというように頷いた。
「あの子、これが挨拶って言っていたわね」
タトラが呟く。普段ののほほんとした雰囲気はなりを潜め、真剣さが表に出ている。
「次は間違いなく、本気で来るわね」 「ふん!だとしても返り討ちにしてやる!」 「そうなのじゃ!我らの恐ろしさを思い知らせてやるのじゃ!」
タータとアスカ意気を込めている。
そんな彼女たちを少し離れたところで見ていた光、海、風。三人は顔を見合わせて同意見であることを確認しあうと、プレセアのもとへと向かった。
「プレセア、話がある」
その言葉に、プレセアは不安を抱く。
「私たちに、武器を貸して欲しい」
それを聞き、クレフたちも彼女たちへと顔を向ける。彼らに対しても、光たちは決意を語っていく。
「私たちも戦う。今度は後悔のためじゃなくて、セフィーロの新しい物語のために」 「大切な皆を、あんな子に殺されたくないもの」 「セフィーロも皆様も、私たちは守りたいのです」
三人の瞳は一切の揺らぎが無かった。
光たちの覚悟を汲み取ったプレセアは手を横にかざした。すると、その先から三本の剣が出現し、三人のもとへと向かっていく。
海の手には鍔が青い龍の形である、水の力を持つ細身の剣が。
風の手には身の丈よりも大きい、風の力を持つ長剣が。
そして光の手には、鍔が炎、もしくは獅子の鬣を模した、火の力を持つ剣が渡っていった。
「これは・・・・」
セフィーロでは伝説とされている鉱物、エスクードから作られた成長する武器。魔法騎士である自分たちにしか扱えない剣だ。
「あの戦いが終わった後、私のもとに戻っていたの」
セフィーロの変革が起こり、創造主が旅立った。その時この剣も持っていったのだと誰もが思っていた。
どんな意図かはわからないが、創造主はプレセアに残しておいたのだろう。
なじみの武器に感慨深くなる光。そんな彼女たちに向けて、今度はクレフが魔法を唱えた。
「魔法伝承(アクセプト)!」
クレフの杖から光が発し、三人を包み込む。そしてそれぞれ炎、水、羽根を散らした後彼女たちは防具を装備していた。
各々使用の異なるブーツ。右腕にはアームウォーマーのようなもの、左手には各自の剣を同じ色の宝石が埋め込まれたグローブを。それと同様の宝石が埋め込まれた胸当てと左肩には肩当てが。
これらの軽装な甲冑。それと共に、彼女たちは魔法を授けられたのだ。
「おまえたちはもう、セフィーロの一員だからな」
クレフとプレセアは、三人に笑顔を見せる。
「ありがとう」
光たちは。そんな二人に礼を言った。
「けど、服まで変えてもらわなくてもねぇ・・・・」
感謝の意図は別として、海が口を尖らせる。彼女たちの防具の下は今まできていた洋服ではなく、それぞれ通っていた学校の制服であった。
「あの服では、戦いにくいと思ってな」
どこか気まずそうに咳払いするクレフ。
「折角おしゃれしてきたのに・・・・」 「で、でもその服も似合っているよ!ウミ!」
しょげている海を、アスコットが必死な様子でフォローした。
「そう?ありがとうアスコット」
それによって、海は笑顔に戻り、それを見たアスコットは顔を真っ赤にして照れた。
「けどその格好を見ていると、初めて会ったときのことを思い出すな」
フェリオの言葉で、全員昔を振り返る。
魔法騎士として、右も左もわからぬままセフィーロを旅し、悲劇を経験した。その時光たちは東京へと帰されたが、三人のもう一度セフィーロに行きたいという願いから、再び来訪ができ、もう二度と後悔しないように戦った。
そして今、彼女たちは過去のためでなく、未来のために戦おうとしている。
クレフやアスコット、フェリオたちと談笑する海、風。
その様子を眺めている光。そこへランティスが近づいてきた。
「ランティス」 「・・・・あの少女には気をつけろ」
あの少女が、先程現れたノヴァのことを指しているのは明らかであった。
ランティスの顔を覗き込む光。変化が乏しいためよくわからないが、彼が本当に心配していることが表情から見て取れた。
その彼の肩から、今度は妖精がその姿を現した。
妖精の名はプリメーラ。ランティスに助けられたことがあり、それ以降彼にくっついている。日頃からランティスは自分のものだと公言し、彼と親しい光に対して何かと突っかかっていた。
そんなプリメーラは、いつもとは違う様子で光に声をかけた。
「ま、まあ私としては恋敵がいないほうが楽だけど、それだとつまらないからね。何かあったら許さないわよ」
恋愛については疎い光は恋敵うんぬんはよくわからなかったが、自分を心配しているのだということはわかったので、笑顔を見せた。
「ありがとう」
礼を言われると、照れたのかプリメーラはそっぽを向いた。
この場の雰囲気は明るくなろうとしていたが、それも続かなかった。
「導師!」
短い金髪と巨体の男と、褐色の肌に露出の多い衣服を着た女がやってきた。
男はラファーガ。剣のみで敵を倒す剣闘士(ダル)で、セフィーロの親衛隊長を務めるほどの腕前だ。女はカルディア。タータ、タトラと同じくチゼータ出身の踊り子で、現在はセフィーロの幻惑士(ラル)である。
「大変です、導師!」
二人はクレフたちに慌しく報告をはじめる。
「上空から、城に向かって魔物の群が飛来してきます!」
それを聞き、一同に緊張が走る。
ノヴァと関係あるかどうかはわからないが、無視するわけにはいかない。
「海ちゃん、風ちゃん、行こう!」
光を先頭にして、三人が真っ先に駆け出した。
「我々も行くぞ!」
クレフたちもその後に続くのであった。
今回はレイアースの主役キャラの説明を。
獅堂 光(しどう ひかる) レイアースの主人公で、魔法騎士の一人。 赤い髪のおさげが特徴。 純真無垢な性格で、小柄な身長のため中学生なのに小学生に見られがちである。 それでも運動神経は抜群で、ジャンプ力は高い。この辺はナギと全く違う。 実家は剣道道場で、そのため剣を使った闘いが得意。 飼っている犬をはじめ、動物の気持がわかる。 炎の魔法を使う。
龍咲 海(りゅうざき うみ) レイアースの主人公で、魔法騎士の一人。 外見は蒼い髪のロングで、カチューシャをしている。 勝気な言動や態度が目立つが、根はやさしい子。 若干天然の光、おっとりしている風に囲まれているため、ツッコミ役としても働いている。 ケーキ作りが趣味だが、自身は甘いものは嫌いである。 部活はフェンシング。 水の魔法を使う。
鳳凰寺 風(ほうおうじ ふう) レイアースの主人公で、魔法騎士の一人。 金の巻き毛に、眼鏡をかけている。 おっとりとしているが、頭は冴えているため、三人の中では切れ者である。 家は相当のお金持ちで、お嬢様学校に通っている。好物がてっさ(ふぐの刺身)であることがそれを物語っている。 セフィーロの王子、フェリオといい関係。 弓道を習っている。 風の魔法を使う。
原作終盤の闘いから一年後ということですので、彼女たちは中学3年生です。 原作ではこの時点で三年後、高校生の年代ですが、その年で中学の制服着るのはなんかキツイなと思いましたので。
それでは。
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Re: 新世界への神話Drei 3月8日更新 レイアースクロス中 ( No.19 ) |
- 日時: 2012/03/11 19:58
- 名前: 疾球
初めましてです。疾球と申します。 最初から読んでおもしろかったので感想を〜
ノヴァ怖いっすね・・・ ヒカルとその好きな人を殺すとは怖い、怖すぎる・・・。
技名がかっこいい・・・ 何でこんなに差が出来るんですかね・・・(遠い目)
そして魔物の群れが飛来・・・ みんなどうなってしまうのか・・・ 次回も楽しみにしています。
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Re: 新世界への神話Drei 3月8日更新 レイアースクロス中 ( No.20 ) |
- 日時: 2012/03/16 17:35
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- こんにちは。
今日も更新しますよ。
まずはレス返しから
疾球さんへ
>初めましてです。疾球と申します。 >最初から読んでおもしろかったので感想を〜
こちらこそはじめまして。 読んで頂いてありがとうございます!
>ノヴァ怖いっすね・・・ >ヒカルとその好きな人を殺すとは怖い、怖すぎる・・・。
ノヴァは今で言うヤンデレではないかと思っています 実際にアニメを見ると怖かったですし・・・。
>技名がかっこいい・・・ >何でこんなに差が出来るんですかね・・・(遠い目)
かっこいい、ですかね・・・? オリジナルのは英語とか色々調べて当てているだけですよ。後は響きがよいのを。 技名にこだわりすぎているような・・・。
>そして魔物の群れが飛来・・・ >みんなどうなってしまうのか・・・ >次回も楽しみにしています。
今回はちょっと場面を変えての話となります。 楽しんでいただけると嬉しいです。
疾球さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。
5 城内が魔物の出現で騒がれていた頃。
アスコットによって城へと運ばれ、そのまま一週間もの間寝ていた男がようやく目を開けた。
「ここは・・・・?」
ゆっくりと身を起こし、自分の周囲を確認する。
光が差し込んでくる明るい部屋に、自分は柔らかいベッドの上にいた。もう一度見渡して、自分の知らない部屋だと再認識した。
男は目を覚ます前の記憶を探ってみた。
そう。自分は弟たちと戦って、あの女の慈愛に感動して、岩崩から女を助け、巻き込まれて・・・・。
そこまで思い出したところで、男にある考えがよぎった。
まさか、ここは黄泉か・・・・?
しかし、すぐにそれを一蹴した。自分が逝くとしたら地獄しかありえない。こんな心地よい場所が死後の世界だとしたら天国以外ないだろう。
「生き延びたわけか・・・・」
少し体を動かしてみたが、特に傷むところは無い。
男はベッドから離れ、部屋を出て行った。勝手に退室して悪いかもと思ったが、中に誰もいないことと、なにかに誘われている感じがして自然と足が動いていたのだ。
男はしばらく廊下を歩いていた。中世の西洋風みたいな造りだが、自分の世界では見たことはない。男が自分が精霊界にいることを認識した。
「なぜ、俺は生きている・・・・?」
自分がここにいる理由よりも、そちらの方が疑問であった。
あの時、自分は死ぬはずだったのに・・・・。
そんな感情が頭から離れない中、男はある部屋に目をとめた。するとまた、引き込まれるように中へと入っていった。
この部屋も日光によって照らされていて、尚且つ備え付けられた寝具に男が眠っていた。
男はそちらに近づいて顔を覗き込んだ銀髪に端正な顔たち。男性ではあるが美しいと感じさせる。
しかし、この寝顔はまるで死んだように安らかである。そんなことを思った時である。
[おや、目覚めたのですか?]
突然、そんな声が聞こえてきた。
男は一瞬驚くが、部屋には自分とこの寝ている男しかいないため、考えられることは一つしかなかった。
「この男、眠っていても会話ができるのか」 [ええ、そのとおりです]
肯定の返事があったことで、それは確信に変わった。
そもそも彼の声は耳で聞くというよりも、頭の中に響いてくるものであった。これから察するに男は心で話をしているのだろう。
「テレパシーみたいなことをするんだな・・・・」 [普通ではできないことが可能になるんですよ。信じる心が力になるこのセフィーロでは] 「セフィーロ?」
その名が知らないわけではない。精霊界には人の心がそのまま反映される国が存在することを耳にしたことはある。
「何故俺はセフィーロに?」
銀髪の男は、それについても教えてくれた。
[この国の召喚士が、崩れ落ちた峡谷からあなたを助け出したのです]
男はそれで納得ができた。戦いで負った傷も、ここで治してくれたのだろう。
だがそのことを、感謝できる気分ではなかった。それ程男の気分は沈んでいたのだ。
[どうかしたのですか?]
そんな男に対して、銀髪の男が話し掛けてきた。
[何か深く悩んでいるようですが]
おまえには関係ないと言いたかったが、この安らかな顔を見て、自分がありのままの自然体で接していたことに気付いた。
強がりなど意味がないとし、男は自分の心情を全て吐露しだした。
「俺はあそこで死ぬはずだった。親をこの手に掛け、守らなければならない弟まで殺そうとしていた・・・・」
自分がしてきたことを思い返し、恐怖と悲しみに体を震わせる。
「死ねばこの罪を清算できたものを・・・・何故俺は・・・・」
罪悪感と疑問を強く噛み締め、打ち沈む男。
頭垂れる彼からは、意気というものを感じられなかった。
そんな男痛みを感じた銀髪の男は、刺激させないように間を置いてから話し始めた。
[僕は今永遠に眠ったまま目が覚めないと言う病気に冒されています]
それは死ぬこととは違う。常に眠ったまま、心身活動を休止して無意識の状態であり続けるということ。心を使いすぎてしまったため、それがなくなり自律行動がとれなくなるという、植物人間のようになってしまうことだ。
[今ではこの国の人たちのおかげで快方に向かい、こうして会話もできますが、一年前までは治る見込みはありませんでした]
ここでのことが奇跡のように思えるが、このような重症の身でセフィーロに着くまで何とか精神エネルギーを保てたのもそれに近い。
今にして思えば、自分の“ゆずれない願い”が自分を生かしてくれたのだろう。
この世界は、信じる心が力になるのだから。
[僕はこの身を犠牲にして、セフィーロの柱になろうとしました。友人を救いたいというだけの、個人のわがままで・・・・]
それ自体は、決して責められる行為ではないだろう。
[ですが、ある女の子に言われたのです]
自分の身を犠牲にしてそれで友人が助かっても、残されたその友人たちは悲しむだろうと。
[そして僕に生きるべきだと諭したのです。例え長くは生きられなくても、大切な人たちや、自分自身のために、と・・・・]
それは、聞いていた男にも大きな衝撃を与えた。
[あなたも、あなたの大切な人たちのため、そしてあなた自身のために生きようとしてみてはどうですか?]
そうだ。死んで償うなんて所詮はただの逃げでしかない。
なにより、自分のために涙を流した女、自分を止めようとしてくれた弟たちがいた。彼らのことを思うと、死にたいだなんて思えなくなってしまう。
このまま彼らからも、逃げてしまったらただの馬鹿だ。
そんな自分には、なりたくない!
俯かせていた顔を毅然と上げる雷矢。
その目には、覇気が込められていた。
「・・・・こんなこと、あまり口にしたことはないのだが・・・・」
どこか照れくさそうにしながらも、男は銀髪の男に向かって告げる。
「・・・・ありがとう」 [・・・・どういたしまして]
短いやり取りを交わし、男は部屋から去ろうとする。
が、出口の一歩手前で止まり、振り返った。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
銀髪の男は、これにも答えた。
[僕はオートザムのイーグル・ビジョン] 「イーグルか」
男は、ここで初めて笑顔を見せた。
「俺の名は・・・・」
今回はここまで。 男が誰だか、わかりますよね。
そして今回はイーグルについての説明を。
イーグル・ビジョン オートザムの戦士(ファイター)で、優秀な軍最高司令官。 父は大統領。 甘いものと昼寝が大好き。 いつもニコニコしているため穏やかそうに見えるが、かなりの切れ者。 心を使い果たし、永遠に眠ったままになるという病気を抱えているが、戦いが終わった後、セフィーロでその病気も少しずつ回復に向かっている。 というのが原作の話で、アニメだとまた設定が違ってくる人物。
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Re: 新世界への神話Drei 3月16日更新 レイアースクロス中 ( No.21 ) |
- 日時: 2012/03/17 21:58
- 名前: 疾球
どうもです。疾球です〜まあ感想を。
「ここは黄泉か」って何か良いですね 何かしっくり来るセリフですね。
眠ったまま話せるか・・・ いい能力だね〜凄く欲しい。
イーグル・・・かっこいい 眠ったままなのに凄く良いこと言ってる。 でもなぜか銀髪だとFF?のあいつしか出てこない・・・。
眠ったまま覚めないだって!! よし希望を持ち続けるのだ!! いつか夢は覚めるぞ←(何様やねん)
そうだよね!!女の子が涙を自分のために涙を流したんだもの!! 逃げちゃったら男じゃないよね!!さすがだぜ!!
次回も楽しみにしています。 更新がんばってください。 ではまた〜
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Re: 新世界への神話Drei 3月16日更新 レイアースクロス中 ( No.22 ) |
- 日時: 2012/04/06 18:51
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- お久しぶりです。
何かいろいろと忙しくて、だいぶ時間が空いてしまいました。
まずはレス返しから
疾球さんへ
>どうもです。疾球です〜まあ感想を。
今回も感想ありがとうございます。
>「ここは黄泉か」って何か良いですね >何かしっくり来るセリフですね。
落ち着いた感じがしているためでしょうか。 この時は、何もかも取り払われた意味もありますからね。
>眠ったまま話せるか・・・ >いい能力だね〜凄く欲しい。
テレパシーですよね。 文も開眼できるでしょうか…(15巻参照)
>イーグル・・・かっこいい >眠ったままなのに凄く良いこと言ってる。 >でもなぜか銀髪だとFF?のあいつしか出てこない・・・。
ここってFF厨が多いですね。 悪いわけではありませんけど、もっと他のネタも見るべきだと思います。 ハヤテは他の作品のネタもやっているのですから。
>眠ったまま覚めないだって!! >よし希望を持ち続けるのだ!! >いつか夢は覚めるぞ←(何様やねん)
そんな簡単に覚めたら苦労はしませんよ。 まあ、希望を持てというのはいいですけどね。
>そうだよね!!女の子が涙を自分のために涙を流したんだもの!! >逃げちゃったら男じゃないよね!!さすがだぜ!!
ここでの彼の奮起は、大きいものとなっています。 第一スレから見てくれている人は、遂にと思っていますでしょう。 ここに来るまで約一年ぐらいかかりました。
>次回も楽しみにしています。 >更新がんばってください。 >ではまた〜
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
疾風さん、感想ありがとうございました。
それでは、本編です。
6 城の入り口に集った光たち。
「あれを見てください!」
風が上空を指す。
ラファーガとカルディナの報告どおり、多くの魔物たちがこちらに向かって下降してきている。
しかもほとんど、あのノヴァという少女が連れてきたものと同類である。
光たちは魔物の襲来に備えて身構える。
「あれ?」
そんな中、海は魔物たちを見てあることに気がついた。
「あの魔物の上に、人が乗っていない?」
彼女が指したのは、群の先導を切っている魔物。
確かにその上に人がいた。長い黒髪と、均整の取れた死体を強調する露出の高い衣服を着た女性。
光たちは目を見張った。
その女は、光たちの知っている人物だった。
「アルシオーネ!?」
驚愕の声を上げる光。
アルシオーネは、セフィーロの魔導師(イル)であった。彼女はこの国の神官(ソル)が柱に反旗を翻した際、彼に従ったこともある。全ては、彼を愛するが故であった。
だが光たち魔法騎士たちに敗れ、神官からは役立たずと言われ、消されてしまった。
誰もが死んだと思われていたのだが・・・・
「生きていたのか・・・・」
クレフが複雑な表情で呟く。彼にとってアルシオーネは可愛い教え子なので生きていたこと自体は嬉しいが、魔物たちを引き連れてきたことに困惑もしている。
そのアルシオーネは、光、海、風の三人に対して妖艶に微笑んだ。
「久しぶりね、魔法騎士のお嬢さんたち」
そしてすぐ、鋭く睨みつける。
「この身に味わった屈辱、今こそ晴らしてあげるわ!」
アルシオーネは手にしている杖を下にいる光たちに向け、魔法を唱えた。
「氷尖投射(アライル)!」
無数の大きな氷の棘が、光たちを貫こうと降り注いでいく。
全員に逃げ場はなく、避けきれない。しかし、風も上に手をかざす。
「防りの風!」
彼女が唱えると同時に、まるで全員を包み込むように風が吹き、それがバリアーとなって氷を弾いた。
その間に魔物たちが着地し、光たちと対峙し合う。
唸り声を上げながら、萬野たちが襲い掛かってきた。
光たちは各々の剣を手にして振るった。魔物たちは次々と迫っていくが、彼女らによって切り裂かれてしまう。
更に三人は、魔法で攻撃する。
「炎の矢!」
まず光が、炎を矢のように飛ばして魔物を撃ち抜く。
「水の龍!」
次に海が龍をかたどっている水で押し流す。
「碧の疾風!」
そして風が、風力によって魔物を切り裂いていった。
「中々やるわね」
魔物たちを寄せ付けない実力を見せる光たちに、アルシオーネは苦々しげに呟く。
「けど、いつまでもつかしら」
その言葉と共に、再び魔物たちの群が降下していく。
「これだけの数を相手にするのは、流石に辛いはずよ?」
アルシオーネの言うとおり、魔物の数は結構多い。しかも、かつて自分たちが相手にしてきたものよりも強い。先程戦ってみてそれが実感できた。
光たちの不利は明らかであった。それを示すかのように、空が暗雲に包まれだした。
「・・・・アルシオーネ」
そんな状況の中、光が痛ましげな表情でアルシオーネを見つめる。
「な、なによ」
同情でもされているのか。そう思うアルシオーネは不愉快を露にする。
「セフィーロは変わったんだ。皆が創っていく世界に」
海、風、そしてクレフたちも、アルシオーネに気遣わしげな視線を送っていた。
「前に敵として戦った私たちのことをよく思っていないのはわかる。でも、皆と一緒にセフィーロを・・・・」 「・・・・それがどうしたのよ」 「え?」
搾り出すように声を上げたアルシオーネに、光は思わず口を止めてしまう。
「それがどうしたっていうのよ!私はセフィーロよりもあの方にお仕えした!けど、あの方は・・・・ザガート様は私を捨てた!」
溜めていた感情が氾濫したかのようなアルシオーネの叫びに、光たちは呆気に取られてしまう。
「だから憎い!ザガート様も、ザガート様の心を奪ったエメロードも、そしてあの女が愛したこのセフィーロも!」
激情のまま彼女は杖を振るう。
「みんな、消えちゃえばいいのよー!」
その憎悪を込めて、魔法を放った。
「氷尖激射(アライア)!」
氷が混ざった光線が光たちに迫っていく。風が再び魔法で防御しようとするが、間に合わない。
三人は、アルシオーネの魔法を喰らってしまった。直撃というわけではなかったが、受けた衝撃で吹っ飛ばされてしまう。
「海ちゃん、風ちゃん、大丈夫?」
ダメージを受けても尚立ち上がった光が、二人に声をかける。
「平気ですわ」 「あのおばさんの魔法なんて、たいしたことないわ」
海、風も笑顔で光に続いて起き上がる。
無事を確認しあった三人は、目前の魔物たちを見据える。
「セフィーロは、信じる心が力になる」 「だから、私たちは諦めない」 「魔物を倒せば、後はアルシオーネさんだけですわ。頑張りましょう」
三人の手が、剣を強く握る。
そのまま、戦闘が再開されようとした時であった。
突然稲妻が起こり、暗い空を一瞬照らした。
魔物たちは脅えたのか、怯んでしまう。
それと同時に、光たちは背後から人の気配が近づいてくるのを感じた。
振り返ると、一人の男がこちらに向かって歩いてきている。
「・・・・誰だ?」
光の問いに、男はこう答えた。
「憎しみという花が枯れ、闘志という種が芽生えたものだ」
そして光たちを通り過ぎ、男は魔物たちと対面し、アルシオーネを見上げる。
「・・・・誰なの?」
謎の乱入者に、顔をしかめるアルシオーネ。
「怪我したくなければ、下がりなさい」
男のことを自分よりも格下だと思ったため、アルシオーネは忠告する。
対して、男は彼女を一笑した。
「女としての思いが通じなかったために雌に成り下がった貴様に、立ち上がることのできたこの俺が遅れをとると思うか」 「め、雌!?」
品のない言葉に、アルシオーネは不快を示す。
男は彼女に構わず、魔物たちに向き直る。
「まずはこいつらから片付けるか」
睨み付けられただけで、魔物たちは圧倒されてしまう。
「ライオーガ!」
男が叫んだ途端、何も存在していなかった彼の傍らに突如人が現れる。
「電光石火!」
再び落雷が起こる。その空が光った瞬間に、ライオーガと呼ばれた人物は魔物たちの後ろを取っていた。
そして、魔物たちは次々と倒れていった。ライオーガが、あの一瞬に全て倒したのだ。
「あなた・・・・何者なの?」
これを見て、警戒せずにはいられない。アルシオーネもそうであった。
「俺か?」
男は、そんな彼女を前にして笑みを浮かべる。
「俺は、精霊雷のライオーガが使者・・・・」
三度目の稲妻が、男の顔を照らし出した。
「綾崎雷矢だ」
ついに雷矢が再登場しました。 次回は彼の戦いです。
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Re: 新世界への神話Drei 4月6日更新 レイアースクロス中 ( No.23 ) |
- 日時: 2012/04/22 17:29
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- またまた更新に間が空いてしまった…。
まあ、誰も待ってはいないでしょうけど。
それでは、更新です。
7 突如現れ、魔物たちを瞬殺した男たちに目を大きく見開く光たち。
「な、なんなの一体・・・・?」
海なんかは、口をあんぐりと開けている。
「わかんないけど・・・・」
光は考え込むような仕草を見せる。
「綾崎雷矢ってあの人言ったよね。名前の響きから、私たちと同じ世界からきたんじゃないかな?」
海、風もそれに気付いた。男や自分たちのような名前など、セフィーロをはじめとしてこの世界では聞いたことがない。
「それに、ライオーガと仰る方は精霊だと言っていましたわ」
風は、タータ、タトラを見やる。
「あれも、チゼータの精霊なのですか?」
タータにはラクーン、タトラにはラジーンという守護精霊ジンが憑いている。チゼータの代々王位継承者を守るもので、同じ精霊ということでなにか関連があるのか問い掛けたのだ。もっとも、あちらは細身であるのに対し、この姉妹のジンは外見が筋肉質のランプの精と酷似したものなので見ただけでは同様のものとは思えないのだが。
「いや・・・・私にもわからん」
尋ねられたタータも、本当に存じないようだ。
「ただ・・・・」
と、そこでいつもの穏やかさは潜め、真剣な表情のタトラが語った。
「私たちのジンはもちろん、チゼータのものとはまったく別の種類ともいえる精霊が存在して、それの主となる使者が人知れず戦っていたという言い伝えを聞いたことがあるわ」 「そういえば、私もエメロード姫から似たようなことを聞かされたことがあるな」
もう随分昔のことだがな、と745歳ということを証明するように老人臭い調子で呟くクレフ。
では、綾崎雷矢はその精霊の使者だというのだろうか?
光たちは未だにアルシオーネと対峙している男に目を外せなかった。
アルシオーネは雷矢に気圧されている。
突然現れ、魔物たちを瞬時に全て片付けたのだ。それだけでも脅威ではあるが、それ以上に、男から発している威圧感に脅えているのだ。
それに自覚した彼女は、頭を振って自らを奮い立たせる。
「まだやるというわけか」
杖を向けられても雷矢はなおも余裕であった。
「いいだろう、相手になってやる」
すると、雷矢はライオーガと一体化し、姿を変えた。それを見た光、海、風は驚く。
「あの姿・・・・魔神に似ている」
一方、アルシオーネは圧倒されてばかり入られまいと魔法を唱えた。
「氷流切刃(アストラ)!」
切れ味の鋭い氷が水と共に放出されていく。その身に受ければ全身がズタズタに切りつかれるだろう。
だが、雷矢の必殺技の方が威力が強かった。
「雷凰翔破!」
拳圧と共に放たれた電撃が氷流切刃を突き破って、アルシオーネに直撃した。
それは彼女が乗っている魔物も同様で、大ダメージを受けたことで墜落してしまう。そのショックでアルシオーネも悲鳴をあげて転げ落ちてしまう。
そんな彼女を見逃す雷矢ではなかった。右手に電気を帯せながら、アルシオーネの下に近づいた。
そして、右手を彼女の前に突き出して、帯電させていた電気をスパークさせた。それによって生じた光をアルシオーネに見せた。
光を目にしたアルシオーネは、瞳が虚ろになってしまった。
「今放ったのは、幻摩雷光だ」
幻摩雷光。相手の心を攻撃対象とした雷矢の必殺技のひとつであった。
「幻覚を見せる技だが、それを応用しておまえに催眠をかけた」
つまり今のアルシオーネは、雷矢の命令に必ず従うしかないのだ。
「聞きたいことがある」
横目で光たちの事を見てから、雷矢は問い掛けた。
「死んだと思われていたおまえが、どこでどうやって生きていた」
それは光たちも聞きたかったことである。彼女たちも耳を傾ける。
アルシオーネはゆっくりと話し掛けた。
「・・・・ザガート様に捨てられ・・・・あそこに辿り着いた私をあの方が救ってくださった。そして、私に力を与えてくれた・・・・」 「あそこ?あの方?」
抽象的な言葉に疑問が深まり、雷矢は更に尋ねた。
「あそことはどこだ?あの方とは誰のことを指す?」
それに対してアルシオーネが口を開こうとしたときだった。
突然アルシオーネの体から、電気が外へと放出されたのだ。
このことが表す意味に、雷矢は驚愕した。
「幻摩雷光を弾いた!?」
信じられなかった。相まみえたのは短時間であったが、アルシオーネにこれほど強い力が備わっているとは感じられなかった。実際、彼女は雷矢に手も足も出なかったのだ。
だというのに、何故・・・・?
そのアルシオーネの周囲に、黒い霧のような闇が漂い始めた。その闇が、アルシオーネの体を宙へと持ち上げる。
そして、アルシオーネの背後に、巨大な女性のオーラのようなものが浮かんできた。
雷矢は一瞬で悟った。この女がアルシオーネにかけていた幻摩雷光を解いたのだということを。
同時に、その夜のような暗さに全ての負の心が激しく煮詰まったものを感じ、雷矢は思わず慄いてしまう。
相手を前にして自分が怯むなど、ダイ・タカスギを除けば初めてであった。
「愚かなる者たちよ・・・・」
オーラ状の女性は、怪しく笑い出す。その声に光は聞き覚えがあった。
「この声・・・・夢で聞いた・・・・」 [そう、おまえは夢を通して私に会った。]
テレパシーのようなもので自分にだけ返答してきたことに、光は驚く。
この女性は、人の思いを見透かすことができるのだろうか。
そんな中、アルシオーネがゆっくりと振り返り、女性を目にする。
「デボネア様・・・・」
デボネアと呼ばれた女性は、尚も怪しく笑っている。
「破滅の運命を知らずに平和を謳歌するものたちよ。やがておまえたちは自らの心によって滅び行くだろう・・・・」
次にデボネアは、雷矢へと顔を向ける。
「おまえたち精霊の使者たちが何をしようとしても無駄だ。霊神宮は現在、同士討ちをはじめようとしている」 「なんだと?」
思いがけないことを言われ、雷矢は疑惑を増してデボネアを見やる。
「滅び行く時を、待っているがいい・・・・」
そのままアルシオーネと一緒にデボネアは消えていった。
今回はここまでです。 そして今回は、セフィーロ側の人物についてです。
導師(グル)クレフ セフィーロ最高の魔導士。 背が小さく、下手するとナギよりも幼く見えるが、実際は745歳の若作りのじいさん。 好きなものも老人そのものである。 セフィーロの人間は、見た目と一緒とは限らないのである。
創師(ファル)プレセア セフィーロの武器職人。 普段は有能な秘書といった印象だが、怒らせたりすると高笑いしながらその相手を折檻して楽しもうとする。
魔法剣士(カイル)ランティス セフィーロ唯一の魔法剣士。 その実力は、かつて親衛隊長を務めたほどである。 セフィーロの外の国にも旅をしていて、その過程でイーグルと友達になった。 趣味は昼寝。
フェリオ セフィーロの王子。 活発な性格だが、時折キザな面も見せる。 風とは、大切なイアリングを渡すほどの仲。 剣の腕前も確かで、身の丈ほどある長剣を巧みに扱う。
召喚士(パル)アスコット セフィーロの召喚士。 魔獣を召喚できる技を持ち、魔法もクレフに習っている。 帽子をかぶっているうえ前髪も長いため、目はなかなか見れない。 海に好意を抱いているが、引っ込み思案な性格のため中々告白できない。長身なのだが、海の前だと弟のようにも見えてしまう。
剣闘士(ダル)ラファーガ セフィーロの剣闘士。 魔法は使えないが、剣のみで相手を倒す。現在の親衛隊長。 セフィーロの平和を強く願っているため、厳格な性格だが人にやさしいところもある。
幻惑師(ラル)カルディナ セフィーロの幻惑師。 元はチゼータ出身のため、大阪弁を使う。 踊り子として旅をしていたが、セフィーロでラファーガと出会い、彼に惚れ幻惑師となる。 踊りによって相手を操ることができる。 アスコットにはお姉さん的存在として接する。
魔導士(イル)アルシオーネ セフィーロの魔導士(アニメでは魔操士)。 クレフの弟子であったのだが、セフィーロの神官が叛意を起こした際彼についていった。 全ては彼を愛するため。だったのだが、光たちに敗北し、最後はその神官から役立たずとされ、彼自らの手で消滅された。 尚アニメ版では生きている設定で。このお話でもそれに準拠している。
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Re: 新世界への神話Drei 4月22日更新 レイアースクロス中 ( No.24 ) |
- 日時: 2012/04/22 20:36
- 名前: 疾球
どうも疾球です〜 前回はこれなくてすみません・・・ まあ感想に〜
雷矢君が今回ついに再登場!! しかもいきなりバトル!! 楽しみですね〜
雷矢と対峙するアルシオーネ アストラを放っても雷凰翔破に破られるか・・・ 強いですね雷矢・・・
そして幻摩雷光によって虚ろの人形に されてしまったアルシオーネ。 そして尋問を始める雷矢一体何を聞き出すのでしょうか・・・
一番大事な所を聞こうとしたら 幻摩雷光を破られてしまった雷矢 一体アルシオーネに何が・・・
急に現れたデボネアと共に去ったアルシオーネ 一体デボネアは何者なんでしょうか・・・
次回も楽しみにしています!! ただ次回からかなり感想が書けなくなります・・・ そもそもひなゆめにinすら出来なくなるかもしれません・・・ それでも書けるときは書きます ではまた〜
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Re: 新世界への神話Drei 4月22日更新 レイアースクロス中 ( No.25 ) |
- 日時: 2012/05/02 22:19
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
明日からは連休。 思い切り休めます。
まずはレス返しから。
疾球さんへ
>どうも疾球です〜 >前回はこれなくてすみません・・・ >まあ感想に〜
感想書いていくれてありがとうございます。 来れる時でいいですよ。
>雷矢君が今回ついに再登場!! >しかもいきなりバトル!! >楽しみですね〜
雷矢の話は、力を入れますからね。 楽しめるように、がんばりました。
>雷矢と対峙するアルシオーネ >アストラを放っても雷凰翔破に破られるか・・・ >強いですね雷矢・・・
イーグルと話して、吹っ切れましたからね。 その分強いでしょう。 アルシオーネは、レイアースの序盤でやられていたので、あんまり強くはないという印象が私の中にはあります…。
>そして幻摩雷光によって虚ろの人形にされてしまったアルシオーネ。 >そして尋問を始める雷矢一体何を聞き出すのでしょうか・・・
尋問と聞いて、やらしい感じを考えた人はいるでしょうね。 アルシオーネは、外見があれですからね…
>一番大事な所を聞こうとしたら >幻摩雷光を破られてしまった雷矢 >一体アルシオーネに何が・・・
なにか手をつけられていることは確かです。
>急に現れたデボネアと共に去ったアルシオーネ >一体デボネアは何者なんでしょうか・・・
現段階ではまだ語ることはできません。 今はただ、謎の存在と言うことです。
>次回も楽しみにしています!! >ただ次回からかなり感想が書けなくなります・・・ >そもそもひなゆめにinすら出来なくなるかもしれません・・・ >それでも書けるときは書きます >ではまた〜
楽しんでくれてうれしいです。 感想は来れる時でいいですよ。
疾球さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。 32話ラストです。
8
デボネアが消えたと同時に、空も晴れていく。
だが、クレフの表情は強張ったままであった。冷や汗も額から流れている。
「なんだ・・・・あのセフィーロを、いやこの世界を全て覆うような邪悪な気は・・・・?」
デボネアの気に触れて、クレフは身が凍えた気分となっていた。彼は隣にいるランティスへと向き、相手も気付いて見返してきた。
「・・・・何かわかったか?」 「いえ。せめて居場所だけでもと思ったが、追えなかった・・・・」
二人は他の皆に聞かれないように、小声で会話している。
「・・・・自体は想像以上に大きいものかもしれん」 「邪悪ではあったが、あの力は創造主に迫るほどの大きさだった」
二人は不安を抱き始めた。果たしてあのデボネアからこのセフィーロを守れるのかと。
一方、雷矢は周りなど目もくれずに歩き出そうとする。
「どこへ行くんだ?」
そんな彼に光るが問い掛けた。
「霊神宮だ」
雷矢は淡々と答えていく。
「あのデボネアとか言う奴の言うことによると、霊神宮に何か手を出したかもしれん。それを確かめるため、道を拓く」
言いながら見晴らしのよい地点まで行き、瞑想をはじめた。すると、彼の体から光が発し、それが帯となって天に向かって高く昇りだした。
「あれは・・・・!」
オートザム、チゼータ、ファーレンの面々は驚愕した。雷矢が拓いた道というのが、かつて自分たちがセフィーロ進行のために精神力でもって自国とセフィーロを繋いだ道と似ていたのだ。
だがそのために消費する精神力というのは、とても大きいものであった。今霊神宮への道拓いた雷矢も同様だったようで、ライオーガとの一体化が解けてしまうなど疲労面を隠せなかった。もっとも、それでも膝を地に着けなかったのは、彼の闘志が自身を奮い立たせているからだろう。
ともかくこれで道は拓かれた。霊神宮に行くにはこれを辿っていけばいい。しかし、ひとつだけ問題があった。
「どうやって空を飛ぼうか・・・・」
そう。人間は空を飛べない。これは根本的、そして重大な問題であった。
そんな彼を見て、光、海、風の三人は集ってひそひそと会話をはじめる。
「ねえ、どうする?」 「どうするって?」
海の質問に、光は首を傾げてしまう。
「あの人について行くか、ってことよ」
海は雷矢を胡散臭そうに一瞥してから、再び口を開く。
「こっちには空を飛べる精獣という移動手段があるわ。けど、あの人は信用できるのかしら?」
精獣とはセフィーロに住む大型で神々しい生物である。魔物と違って気性がおとなしいため、人間たちと共に生活しているものも存在する。
当然城にも精獣がいて、その中には人を乗せて飛ぶものもいる。そいつに乗せてもらえばいいのだが・・・・。
「一緒に行動して、本当にいいのかしら?」
突然のことが多すぎて、海は雷矢に不信感しか抱けなかった。
「なんか物騒みたいだし、気に障ることをしたら何されるかわからないわよ」 「大丈夫だよ、海ちゃん」
そんな彼女に対し、光は無垢な笑顔で言った。
「あの人はそんなに悪い人じゃない。だから、信じてもいいと思うよ」
心が純粋な光は、雷矢の心の奥にある思いに何か気付けたのだろう。一見すると人を疑うことを知らない無邪気さとも捉えられるが、そこが光の長所でもあった。
「私も光さんに賛成ですわ」
風も、持ち前の知性的な面から光に賛同する意見を述べる。
「私たちは精霊の使者についても、その方たちの組織についても存じません。ですから、ついていけば色々わかるかと思いますわ」 「確かに・・・・」
海も考え直す。自分たちは精霊については何の情報ももっていない。これからの戦いは精霊というものも関わってくる以上、雷矢についていって少しでも何かを知ることは重要なことに思えた。
「それじゃあ、あの人のもとへ行こう!」
光たちが雷矢のもとへ向かおうとした時だった。
「異世界の少女たちよ・・・・」
この場に重々しい声が響いてきたと同時に、光たちが手にしている剣に埋め込まれた宝石が光りだした。
「かつて伝説の魔法騎士として戦い・・・・」 「このセフィーロに変化をもたらし・・・・」 「今また、戦いを決意した少女たちよ・・・・」
海の前には巨大な青い海龍が。
風の前には四枚の翼を生やした緑の鳳が。
そして、光の前には炎の鬣をまとった一角の獅子が現れた。
この三匹は魔神と呼ばれ、セフィーロでは伝説とされている。魔法騎士が纏うものであり、光たちもセフィーロを救うために力を貸してもらっていた。
その魔神が現れたことに、光たちは疑問を持つ。
「なんで、ここに・・・・」
魔神たちはセフィーロの制度が変わった時、別の次元に旅立ったはず。なのに何故今、姿を現したのだろうか?
それに対し、魔神は答えた。
「創造主がセフィーロの危機を感じ、我らを汝らのもとへと遣わせたのだ」 「モコナが?」
魔神たちは創造主に伴う形で旅立った。その創造主に言われてのことらしい。
それを聞いた三人は納得ができた。
「モコナも、仲間だもの、ね」 「ええ」
そして、魔神たちは三人に問い掛けた。
「このセフィーロに再び危機が訪れようとしている・・・・」 「この事態に、戦うことを決めた汝らに問う」 「再び我らを纏う気はあるか?」
三人の返答は、はじめから決まっていた。
「問われるまでもないわ」 「この戦いは、魔神さんたちの強力が必要だと思っています」 「だから、力を貸して欲しい」
光たちの思いを受け、魔神たちはそれに応じた。
「我らは、セフィーロを守るため力」 「柱無き世界に変わったとしても、我らを望むならば、姿を現す」 「セフィーロを守るために我らを纏うと決めた少女たちよ、我らの名を呼べ」
三人の瞳は、毅然としたものである。
「セレス!」
まず海が剣を天にかざし、海龍の名を呼ぶ。
「ウインダム!」
続いて風が海に倣うように、鳳の名を呼ぶ。
「レイアース!」
そして光が、獅子の名を呼んだ。
すると、三人の防具が形を変えた。それまでの軽装から一転、各々の剣と同じ色を主体とした、胴体を覆う豪華な仕様へと。
そして魔神たちも、数十メートルはある巨大なロボットのような姿へと変わっていた。その外観は、先程ライオーガと一体化していた雷矢に似ていた。いや、魔神が創造主に創られたことを考えると、先に創られたのはこっちだろう。
光たちは魔神の胸飾りである宝石の中へと吸い込まれる。魔神を纏ったのだ。
「・・・・また、一緒に戦うんだね・・・・」
纏った実感を持った光は、感慨深げにレイアースに語りかけた。
「一緒に頑張ろう!」
返答は無い。しかし、心得たといったレイアースの心を感じた光は、表情を綻ばせた。
そしてレイアースは、雷矢を見下ろした。
雷矢は何をする気なのかと身構えるが、レイアースは身を屈めて、そんな彼の前に手を差し出した。
[この手に乗って]
光が雷矢に話し掛けた。
[私たちも霊神宮っていう所に行ってみたいんだ。だから、あなたが繋げた道から連れて行ってくれないか?] [私たちの魔神は空を飛べるしね] [あなたは道を維持するために集中なさってくれればいいですね]
海、風も明るい調子で促してくる。
そんな彼女たちに、雷矢は呆気に取られていた。
「何故、俺にそこまでする?」
自分たちはまだ会って間もないはずだ。それなのに、ここまでしてくれる理由は一体何故なのか?
それについて、光たちはこう返した。
「私たち、あなたのことも知りたいんだ」 「何も知らないまま相手を決め付けるのは、間違っていると思うから」 「それに、仲間になれるかもしれませんしね」
明るい調子ではあるが、その裏には切実な思いがあった。
かつて彼女たちは、先代の柱であったエメロード姫の願い、セフィーロを救って欲しいと言われたまま神官であったザガートと戦い、そして降した。
だが戦いの後に待ち受けていたのは、残酷な真実だった。
セフィーロの柱は、セフィーロ以外を想うことは許されなかった。しかしエメロードはザガートを愛してしまった。そのために彼女は光たちに自分を殺させるために召喚したのだ。ザガートはただ、その願いを阻止しようとしただけ。彼もまた、姫のことを愛していたからだ。
慟哭をあげながら、光たちはエメロードの願いを叶えた。しかし、三人の心は姫を殺したという罪で深く傷ついてしまうのだった。
だから彼女たちは相手を知ろうとする。何も知らないまま後悔するのは二度としたくないからだ。
そんな彼女たちによってセフィーロの柱制度が撤廃され、現在のような美しい世界になったのは説明するまでもないだろう。
一方で、雷矢は先程以上に拍子抜けしていた。
自分のことを知りたい。仲間になれるかもしれない。
そのようなことを言われたのはこれで二度目である。しかも、彼女たちからは悪意を感じない。
何より、光たちの強い心に雷矢は惹きつけられそうであった。
「・・・・わかった」
雷矢は、レイアースの手の上に乗った。
「仲間になる気はないが、おまえたちと情報のやり取りをしながら運ばれるのも悪くないな」
霊神宮に着いてとしても、自分の前科を考えれば戦いは必須だ。ならば、道を維持するため以外の力は温存しておくべきだ。
それに、光たちを敵に回したくない。その力が脅威ということもあるが、なによりも彼女たちと戦いたくないという気持ちの方が強かった。
戦いたくないというのは、あの人物たちに対しても言えた。自分の憎しみに、間違っていると言い、まっすぐに立ち向かっていった弟とその仲間たちを。
彼らとも、戦うことになるのだろうか・・・・?
しかしそこで考えるのをやめる。霊神宮の状況がわからないのだ。ならば、彼らの立ち位置も不明である。悩んでも仕方ない。
とにかく、霊神宮に着かなければならない。それで全てがわかる。
「行こう。海ちゃん、風ちゃん」
光の呼びかけに、海と風は頷く。
そしてセレス、ウインダムと共に雷矢を手に乗せたレイアースは雷矢が繋げた光の道の中へと入り、上空へと飛び立った。
こうして、彼らもまた霊神宮へと向かうのであった。
これで雷矢編は終了です。 次回からはまたハヤテたちの話となります。
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Re: 新世界への神話Drei 5月2日更新 レイアースクロス中 ( No.26 ) |
- 日時: 2012/05/14 19:39
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 黄金週間も終わり、だらだらとやる気がない。
みなさんも五月病には気をつけてくださいね。
それでは、今回から33話です。 今回の更新分は、ストーリーは進まず、ほんの遊びです。
どうぞ。
第33話 激戦のはじまり
霊神宮を目指すナギたち。
激戦が近づくにつれ、身を強張らせて・・・
「やっぱり、俺的にはジェロニモが一番カッコいいと思う」
・・・とはいかなかった。
達郎の発言によって、好きな超人は何だという白熱した議論が開始されたのだ。
「何言っているんだよ」
塁が少々納得がいかない様子で達郎に詰めかかる。
「何でジェロニモなんだよ?必殺技がただ叫ぶだけっていうのはおかしいだろ?プロレス技じゃないの使う奴なんておかしいだろ?」 「何言ってるんスか塁さん!ジェロニモは人間でもサンシャインを倒したすごい奴ですよ!人間でもやればできることを証明してくれたんスよ!」 「けどその後超人になったはいいけど、あんまり目ぼしい活躍はないだろ!精々ハワイチャンピオンになったことしか触れていないって」
二人の会話についていけないヒナギクらは、しらけた目で見ている。
「断然俺は、ジェロニモよりもアシュラマンがいいと思うけどな。冷血な魔界のプリンスが友情や師弟愛に涙するシーンは感動するじゃないか」 「ちょっと待ってよ、塁」
以外にも、拓実が口を挟んできた。
「アシュラマンは、三つの顔に六本の腕と、ある意味じゃあ反則しているじゃないか」 「何言ってんだ。なんでもありなのが超人だろ」
優馬が拓実に吹っかけたことで、二人が睨み合いをはじめた。
「優馬さん、僕は悪魔超人よりも正義超人が好きなんですよね。特にテリ?マンが」 「俺は悪魔超人派だ。悪魔将軍の強さは半端ないぞ」
そして、佳幸たちまでもが話に加わってきた。
「僕はロビンマスクがいいと思うな。氷狩君は?」 「俺はウォーズマンだな」 「俺、キン肉万太郎かな」
エイジのこの発言に、談義していた他の仲間たちは落胆の色を浮かべた。
「おいおい、一人だけ2世キャラ出してきちゃったよ」
なんか一人だけ除け者にされている気がして、エイジは口を尖らせる。
「なんだよ、続編なんだから別にいいだろう」 「そうよ」
花南も、佳幸たちに反論しだした。
「2世は青年誌での連載と、主人公のアホさが初代よりも目立っているから悪く見えるだけで、ケビンマスクのようないいキャラはたくさんいるわ」 「・・・花南姐さん、フォローしているの?」
好きなキャラをけなされ、同じ賛成派のエイジは複雑な気分となる。
少なくとも、花南はエイジのフォローをしたわけではないだろう。
「あのー、皆さん・・・」
このままでは険悪な空気になりかねないと見たハヤテは、この場を収めようと仲裁に入ろうとした。
したのだが…。
「なんですか、主人公なのに中途半端な人気順位のハヤテさん?」 「主人公なのに中途半端な順位だから、ハヤテさんはキン肉スグルですね」
あくまでこの話題を続けようとする佳幸たちは、止めに入ろうとしたハヤテでさえそのキャラクターに当てはめている。
そんな彼らの目が冷ややかであるので、ハヤテは少し傷ついてしまう。
「皆さん、そんな風に言うことはないでしょう!」
普段はそれほど気にはしてないが、こうやって馬鹿にされたように言われると、やはり言い返さずにはいられなかった。
しかしそんなハヤテは無視して、尚も話し続けようとする佳幸たち。
「もう、いい加減に…」
思わず声を荒げるハヤテは、こうなれば実力行使しかないと踏んで力づくで止めさせようとした。
だが、その寸前で彼らを黙らせたものがいた。
「甘いぞおまえたち!」
突如として響いてきた声に、一同はその主と向き合う。
彼らを前にして、ナギが尊大に胸を張っていた。
「真の超人好きなら、キン肉マンソルジャーに男の生き方を見るというのが、通というものではないのか!」
これが何かの撮影だったら、彼女の背後に爆発といったようなエフェクトが追加されていただろう。
それほど、ナギの勢いは凄かった。
「真・友情パワー、無言の友情のその素晴らしさ。何より、多くを語るより行動で示すという信念を前にして、こんなどのキャラが好きかでもめていることなど醜いものではないか!」 「た、確かに…」
熱弁するナギのオーラに、佳幸たちは圧倒されていく。
「正義か悪魔か、人気があるかないかで物語は成り立てているのではない!面白いと感じるものが、人気を結び付けているのだ!」
そう断言したナギを前にして、佳幸は彼女に後光のようなものを感じていた。
「なんだかよくわからないけど、すごい……」
そこまで熱弁できるほど好きなわけではない彼らは、ただただ圧倒されるだけであった。
「なに、これ…?」
一方で、話についていけないヒナギクたちはただただ呆れるばかり。
「私は、ブロッケンjrとジェイドの師弟コンビがいい…」
そして、誰にも聞かれない小声で、腐女子的な意見を呟くのは千桜だった。
なんともまあ、決戦前の会話とは思えない内容である。
そんな話をしている間に、霊神宮に着くのであった。
話分かる人いるかな…? 次回は、いよいよ霊神宮編スタートです。
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Re: 新世界への神話Drei 5月14日更新 ( No.27 ) |
- 日時: 2012/05/23 22:20
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
一週間以上間をおいて始めます。
最近気分が乗らないな…
2 天空高く浮かぶ霊神宮、
そこにナギたちが降り立った。
「ほう、ここが霊神宮か・・・」
はじめてきたナギは、感慨深げに辺りを見渡す。
「ここには誰もいないみたいだな・・・」
氷狩も周囲を確認する。自分たち以外、人っ子一人いない。
「静かすぎるな・・・」
塁がこの様子に不穏を抱く。自分たちは侵入者なのだ。なのに、何故それを撃退しようとする動きが無いのだろうか。
既に自分たちの子とは知れ渡っているはず。警戒していてもおかしくないというのに・・・。
「まあ、敵がいないならそれでいいじゃないっスか」
達郎は呑気ともとれるような調子であった。
「このまますんなりといってくれないかなぁ・・・」 「本当、達郎ってお気楽な脳ミソ筋肉ダルマね」
ため息をつく花南。そんな彼女に苦笑をしながらも胸中の不安も佳幸は察していた。
「本当に何もなければいいんだけど・・・」
とりあえずその場に留まっている訳にもいかないので、明智天師がいると思われる大聖殿を目指して移動し始めた。
先導を切るのは八闘士やジェットたちなど、霊神宮に何度か訪れたことがあるものたちだ。ハヤテは伊澄が迷子にならない様に最後尾に着いている。
そして、初めて霊神宮を目の当たりにする者たちは興味深げにあちこちをきょろきょろ見ていた。
「それにしても、すごいところだね」
歩が建物の造りなどに感心を抱いていた。
「結構歴史が多くあるんじゃないかな?」
実は彼女、ゴールデンウィークでアテネなどを旅行し、歴史ある文化財を見ていく内に歴史や神話などに面白味を感じていたのだ。今も霊神宮の神々しい建築物に目を輝かせている。
また、美希、泉、理沙の三人はビデオカメラで周囲の光景を撮影していた。
「こんなものは滅多にお目にかかれないからな・・・」 「カメラに収めておかねばな」
ビデオカメラ片手に、興奮する三人。
「やれやれ、これじゃあ女の子のピクニックだな」
彼女たちのはしゃぎように、優馬は苦笑する。
だが、彼はすぐに表情が険しくなった。彼の精霊であるユニアースの角が敵を察知したのだ。
「皆、止まれ!」
いち早く敵がいることを知った優馬は、全員に制止を呼びかけた。
「囲まれていますね」 「それも、大勢にね」
ハヤテとヒナギクも気付いていた。最も二人の場合、培われた鋭い感覚によるものではあるが。
「隠れてないで出てこい!」
優馬の怒鳴り声が、辺りに響き渡っていく。
「ちょ、ちょっと優馬さん!それは・・・」
佳幸が咎めようとするが遅かった。
優馬の叫びに反応したのか、青銅のリングを腕に着けた者たちが次々と姿を現していく。
しかも、その数はざっと見ただけでも百近くはいた。
「こ、こんなに仰山おるんか!?」
咲夜はあまりの多さに仰天してしまう。
「優馬さんのアホ!」 「こんな状況になっちゃったじゃないっスか!」
達郎と塁は優馬に苦情をつけてくる。
「俺のせいじゃないだろ!」
自分が仕掛けた罠じゃない。お門違いもいいところだという気持ちで言い返す。
だが二人の気持ちもわかる。
例えこの場での襲撃が必須だったとしても、優馬が叫ばなければこのような事態にはならなかったはず。タイミングを早めただけでも怒るのは当然だ。
それに、こう数で圧倒されては、一人一人が楽勝な相手でも厄介である。
「霊神宮に仇なす者たちめ!」 「明智天師の元には行かせん!」 「ここで成敗してやる!」
そして、青銅の使者たちの精霊が一斉に襲い掛かった!
「うわああああ!」
青銅の精霊の一部は、咲夜に狙いをつけて迫ってきた。
「愛沢さん、危ない!」
そこへエイジが彼女の身を手で押し下げる。と同時に、ウェンドランが青銅の精霊を撃退した。
「大丈夫か?」
咲夜に無事を確認するエイジ。
怪我は無かったが、何故か彼女の顔は赤かった。エイジが疑問を抱いていると、咲夜が恥らいながら口を開く。
「そ、その・・・」 「どうした?」 「手・・・手をどけてくれへんか?」
言われて、自分の手を見るエイジ。彼の手は、咲夜の胸の上にあった。
「わ、わわわ!ごめん!」
慌てて手をどけるエイジ。恥じらいからか、お互い気まずくなってしまう。
「痛ぁ!」
そこへ、ナギが横からエイジに強烈な一撃を入れてきた。
「なにすんだよ!」 「それはこっちのセリフだ!」
ナギは何故かエイジに対して怒っている。
「こんな状況でそんな破廉恥なことをするなんて、何を考えている!」 「いや、あれは・・・」 「言い訳なんて見苦しいぞ!」
エイジは何故ナギが起こっているか理解できない。咲夜本人ならば納得できるのだが、その理由が思い当たらない。
しかし、こう理不尽に責められていて、尚且つ危険な状況下の中黙っていられるほどエイジもおとなしくはなかった。
「てか、何でそんなに怒ってんだよ!」 「え・・・?」
すると、ナギは言葉に窮してしまう。しかし、口を噤んだら負けるような気がするので、言い立てるの止めようとしない。
「と、とにかくおまえが悪い!」 「俺の質問に答えろよ!」 「うるさい!バーカバーカ!」
そのまま、ナギとエイジは睨み合いを続ける。
「ちょっと、痴話喧嘩は後にしてくれる?」
そんな二人の間に拓実が仲裁に入る。彼の精霊アイアールは、敵である青銅の精霊を矢で射抜いていた。
「痴話喧嘩じゃない(っスよ)!」
二人は声を揃えて言い返す。
「だったらハモらないでほしいんだけどな」
これに拓実は苦笑してしまう。
「だから!」 「まあまあそれだけ仲がいいなら、戦いでもチームワークが期待できるよね?」
それを言われ、ナギとエイジは青銅の精霊たちを見据える。
「中段から飛び掛ろうとする奴がいるぞ!そいつを狙うんだ!」 「わかった!」
ナギの指示に、エイジはウェンドランに銃を持たせる。
「ファイブラスター!」
そして、的確に狙い撃つ。二人が協力し合えたのを見て、拓実は笑みを浮かべた。
他の仲間たちも精霊たちを撃退していく。しかし、相手の数は一向に減ったようには見えない。
更に白銀の使者までもが現れ、一体化して青銅の精霊と共にこちらへ畳みかけてきた。
「これじゃあキリがない…」
このままでは数で押されてしまう。
この状況に、ジェットたちは決意して佳幸たちに告げた。
「おまえたち!この場は俺とドリルとジムに任せろ!」 「ええっ!?」
戦いながらジェットは続けて言う。
「巻き込まれた連中も俺たちが守る!おまえたちは三千院と一緒に先に行くんだ!」 「で、でも…」
ヒナギクは躊躇してしまう。この大多数に対して、彼ら三人だけで抑えきれるかどうか不安を抱くのは仕方のないことだ。
だがジェットは快い笑みを見せた。
「何十人いようと、この俺が遅れをとるものか」
それを証明するかのように、一瞬で相手を抜き去る。その直後、精霊や一体化した使者十数がその場で倒れだした。
目にも留まらぬスピードでの剣技で、ジェットが攻撃したのだ。それによって、敵軍の中に突破口が生じた。
「さあ行け!」
ジェットがそこへ進むように促していく。
「行こう、皆!」
佳幸が呼びかけ、氷狩も先導しようと真っ先に動き出した。
「ここで止まってどうする!動かなきゃいけないはずだ!」
これが響いたのか、他の皆もつられるように走り出す。ヒナギクはそれでもまだ気がかりであったが、拓実と優馬に諭される。
「ここは彼らを信じよう」 「高杉を助けるために、あいつらはここに残ることをべストとしたんだ。あいつらのことを思うなら、前に進むべきだ」
更に、ナギまでもが彼女を説いた。
「あいつらは私たちが勝利のための鍵と見込んだ。だからこうやって私たちを行かせようとしているのだ。だから、私たちはこの先の戦いで勝つ!そして高杉を救出するのだ!」
神妙な面持ちで語るナギに、ヒナギクは目を丸くした。
まだ子供である彼女の口から、こんなしっかりとした言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
だがすぐに理解を得たヒナギクは迷いを吹っ切った。
「そうね。私も行かなきゃ!」
彼女たちは走り出した。最後尾につくのは運動音痴のナギ。
「ダイを頼んだぞ!」
別れる間際にジェットがかけた声が、ハヤテたちの背を押しているようであった。
「しまった!奴らが大聖殿へ向かってしまう!」 「止めねば!」
使者たちは後を追おうとするが、その行く手をジェットが塞いだ。
「ここから先は行かせないぞ」
そんな彼を見て使者はたちは笑う。
「ふっ、たった一人で食い止められると思っているのか?」
数で圧倒している彼らの中で先頭に立つ者たちが、ゆとりをもってジェットに襲いかかろうとする。
だがそんな彼らを、ジェットは高速の剣技で一蹴する。
「悪いが、こちらは悠長なことを言ってられないのでな」
ジェットの愛刀、飛燕の鞘が光り出し、彼の身に鎧が纏われた。
「本気で行くぞ」
一方、ドリルとジムも咲夜たちを巻き添えにしないように戦っていた。しかしたった二人で大多数による攻撃全てを引き受けるのは難しく、いくらかが咲夜たちの方へと流れていってしまう。
「ぬおおおお、来たぁー!」
迫りくる危機に対し咲夜たちは悲鳴を上げる。が、突如として彼女たちは光のドーム状のものに包まれ、それが攻撃を防いでいく。
伊澄が霊力によって、結界を張り、自身や友たちを守ったのだ。
振り返ったドリルとジムは伊澄と目が合った。彼女は視線で訴えていた。咲夜たちは自分が守るから、戦闘に集中してよいと。
頷いて了承を示すドリルとジム。彼らは再び使者たちと戦う。
全ては、ダイ救出を託したナギたちのため。そのために三人は使者たちをここに引き留めるのであった。
今日はここまで。 ちょっと長かったかな…
次回も更新少し遅くなるかも。
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Re: 新世界への神話Drei 5月23日更新 ( No.28 ) |
- 日時: 2012/06/09 21:45
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
また結構時間がかかってしまいましたね。 まあ、一話完結などを手掛けていたから、しょうがないといえばそうなりますけど…
それでは、更新です
3 大聖殿へと続く階段を、佳幸たちは駆け上がっていた。
この頂上に、明智天師が待ち構えている。それを思うだけで足を速めていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…」
そんな中、待ったをかける声で止まってしまう。
最後尾についているナギの足取りが、おぼつかなくなっている。息切れも激しく、肩で息をしている状態であった。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
急いでハヤテがナギのもとへと駆け寄る。
「み、水……」
か細い声で求めながら、ナギはハヤテの方へともたれかかる。
「なんだよ、もうバテたのか?」
達郎が呆れて声を出す。自分たちが走り出してからまだ短時間しか経っていないというのに、こんなに早く疲れてしまうことが情けないように感じた。
「私はおまえたちと違って、繊細にできているのだ。一緒にされては困る」
ナギは弱々しくも反論する。
「繊細と言うよりは、軟弱なんじゃないか?」
達郎は何気なく言っただけだが、ナギは言葉に詰まってしまう。
「あんたが繊細だというなら、他の繊細な人たちに失礼だわ。謝りなさい」
この花南の一言によって、ナギは傷ついてしまう。更に酷いのは、達郎はついうっかり口にしてしまったことなのだが、花南は悪意をもって言い放ったのだ。
「ハ、ハヤテェ…」
ショックを受けたナギはハヤテへすり寄ってくる。ハヤテは苦笑しながらも彼女の頭をなでて慰める。
「ていうか、花南こそ失礼語れないんじゃ…」 「なんですって」
またも口を滑らせた達郎を、睨みつける花南。その圧力に、達郎は脅えて軽く悲鳴を上げてしまう。
「達…一言多いんだから」 「しかも本音を意識せずに出してしまうからね」
佳幸と氷狩はため息をつく。
「花南って本当締まりのない口よね……」
困ったものを見るようにヒナギクは花南に目を向ける。
「あら、口より先に手が出てしまうよりはマシだけど」 「口も手も心がこもってなきゃ意味がないのよ」
火花を散らしあう二人。最も以前のように憎しみのぶつけ合いではなく、ただの意地の張り合いでしかない。周囲からも、良いケンカ友達というように見えていた。
そんな時であった。
「また敵が来るぞ!」
ユニアースが気配を察したことに気づいた優馬は、みんなに知らせる。
一同は瞬時に周囲に目をはぐらせ、気を張り詰める。
「おいおい、そんなに警戒するなよ」
そんなに彼らに声をかけ、それまで姿を消していた三人の男たちが目の前に現れる。
「今ここで戦おうっていう気はないんだからな」
その三人に、ハヤテたちは見覚えがあった。
「おまえたちは!」
そう。艶麗との戦闘後、ダイを石像に変え捕らえていった黄金の使者たちだ。
「そういえば、あの時はまだ名乗っていなかったな」
黄金に光るリングを腕に着けた男たちは、不敵な表情で名乗りをはじめた。
「まず俺が、霊のファムザックが使者、サイガだ」
三頭犬の精霊を従えた荒々しい風貌をもつ男が、堂々とした態度で明かす。
「俺は圧のプテラクスの使者、ラナロウだ」
サイガの横に控えている、鋭い目つきでハヤテたちを見据えている男が翼竜の精霊を見せつけた。
「私は月のルーゼスターの使者、リツだ」
そして、三日月型の武器を持つ精霊の主である、女にも見える顔立ちの男が優雅な振る舞いで紹介した。
「ご丁寧にありがとうございます」
伝助は相手に対して礼儀よく頭を下げた。
「ですが、戦う気がないならなぜ僕たちの前に現れたのですか?」
油断がならぬ相手なだけに、慎重に問いかける。何を仕掛けてくるかわからないからだ。
「おまえたちがこれから行く道のりについて、説明してやろうと思ってな」 「それはどうも御親切に」
塁は軽い調子であるが、目は笑っていない。
サイガはそんな彼らの進行方向に向けて、指を指した。
「おまえたちの目指す大聖殿は、ここから真っ直ぐに行けばいい」 「ただし、その前には十二の間が待ち受けているがな」
続けて放ったラナロウの言葉に、一同は眉をひそめた。
「十二の間だって?」 「そうだ」
リツは笑いながら話す。
「そして十二の間にはそれぞれ黄金の使者が一人ずつ待ち構えており、大聖殿へ向かおうとする者たちに対して鉄壁の守りを敷いているのだ」
そこまで聞いて、佳幸たちは納得する。
「つまりは黄金の使者たちに勝たない限りは、大聖殿には進めないと…」
ラナロウが、そうだと言って頷いた。
「褒めてやるぜ。十二の間に黄金の使者が集まるなんて、霊神宮が本気になったってことなんだからな。おまえら青銅クラスのくせにやるじゃねぇか」
言葉だけをとるなら、称えているように聞こえるが、サイガの口調はそれとは裏腹に見下している感があった。やれるものならやってみろと。
それは、自分たちは決してやられないという、頂点に立つ者たちの絶大な自信の表れであった。
「よくわかったぜ」
彼らの話を聞き、塁は好戦的な笑みを見せる。
「なら手っ取り早く、ここでおっぱじめようぜ。どうせ戦うことには変わりないんだろ?」
拳を鳴らし、雷獣のような威圧を黄金の使者たちにかける。傍らにいるコーロボンブも、その身から電気を外に放っている。
「不作法だな」
リツはそんな塁を汚らわしいもののように見ている。
「獲物を前に尻尾を振るなど、未熟な青銅らしいな」
サイガはその通りだと言いながら笑い声をあげる。
「急かすなよ。俺たちの間に着いたら思う存分戦ってやるよ。まあ、俺たちのところにまで着けたらの話だけどな」 「着いてみせるさ」
と、ここでナギが口を挟んできた。
「着くだけではない。おまえたち黄金の使者を全員打ち破り、十二の間全てを突破してやる!」 「そして必ず、高杉さんを解放してみせる!」
エイジも揃って宣言した。
サイガたちは堂々とそんなことを口にした二人に目を丸くするが、すぐにできるものならやってみろと言わんばかりの、高みにいる者の余裕を見せつけた。
「なら、楽しみにしているぜ」
こちらに笑いかけながら、サイガたちはその場から姿を消していった。
彼らがいなくなってから、氷狩は塁を諌めた。
「塁さん、今ここで戦うのは得策じゃなかったですよ」
黄金の使者三人に戦いを挑むのは無謀である。先日あの三人に対して善戦できたのはダイだけであって、自分たちは手も足も出なかった苦い思い出も、まだ久しい。
ならばサイガたちが言っていた十二の間で一人ずつ戦っていった方が、それでも見込みは少ないが勝機は存在している。
「わかっている」
それは塁も理解していた。
「俺はただ挑発してみただけだ」 「けど、気をつけた方がいいですね」
伝助は思案顔となっていた。
「その十二の間には、黄金の使者たちが戦いで有利になるものが仕掛けられている可能性があるわけですし…」
全員同様のことを思っていた。苦戦は必須だと。
「構うものか」
そんな彼らに、ナギは鼓舞するように言った。
「最初から強敵と戦うことはわかりきっている。それでも私たちは戦うことを決めたんだ。」 「だから、俺たちは持てる力をぶつければいい」
エイジも自身に気合を入れる。そんな二人は顔を見合わせると、お互いの気持ちが同じであることを確認しあうかのように頷きあった。
「すっかり意気投合しているね」
拓実がからかう調子で声をかける。
「ついこの間まではケンカしていたのにね」
すると二人は、照れたように顔を背けてしまう。
「わ、私は別に、こいつと仲良くするつもりなんかは…」 「俺だって、この女のことを認めたわけじゃ…」
お互いが意地を張るその姿に、皆苦笑してしまう。
「でも、二人の言うとおりだね」
佳幸のこの一言で、全員の目が毅然としたものとなる。
「どんなものがこの先にあるかわかりませんけど、絶対大聖殿まで行きましょう!」
ハヤテのこの言葉を号令に、一同は再び走り出したのであった。
今回はここまで。 次回はちょっと長くなるかも。
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Re: 新世界への神話Drei 6月9日更新 ( No.29 ) |
- 日時: 2012/06/20 19:11
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
今回で33話ラストです。 結構長めになっていますが、読んでくれるとうれしいです。
4 しばらくして、ハヤテたちの行く手に大きな建物が見えてきた。
「あれがサイガって人が言っていた、十二の間の一つなのかしら?」
ヒナギクが花南に問いかけてみる。
「そうみたいね」
一同は建物の前で止まり、顔を見上げる。
石造りで建てられたそれは、どこか立ち寄りがたい神秘的な雰囲気を漂わせている。
侵入者を拒むかのように、だ。
入り口であり門の上には、念の間と刻まれている。
「念ってことは…」 「この中にいるのは、エーリッヒさんってことか」
エイジたちは安堵していた。エーリッヒは真実を知っている。自分たちと戦うことはしないはずだ。
落ち着いて、しかし不安を抱くことなく門の扉を押し開ける。
中には予想通り、エーリッヒが立っていた。
「やあ、エーリッヒさん」
達郎がにこやかに挨拶した。
「一応聞くけど、俺たちをこのまま通してくれるッスか」
エーリッヒは答えない。彼はただ目を伏せてこちらと対峙したまま動こうとする気配すら見せない。
「黙ったままでいるってことは、応えるまでもないってことッスね」
達郎は自分なりの解釈をしてしまう。
だが佳幸たちはエーリッヒに不信感を抱いていた。彼の佇まいから、なんとなく穏便なものが見られないのだ。
「それじゃ、遠慮なく通らせてもらうぜ」
そんな彼らをよそに、達郎エーリッヒの脇を通り過ぎようとしていた。
「達、駄目だ!」
佳幸は慌てて制止を呼び掛ける。
「ん、どうした?」
達郎はその声に足を止めて振り返った。
その達郎は、何か見えない力によって突き飛ばされたかのように勢いよく押し戻されてしまった。
壁に激突すれば、強い打撲を受けると思われるほどのスピードで。
「危ない!」
とっさにハヤテが前に出て、達郎の身を受け止める。
「大丈夫ですか、達郎君?」
流石は頑丈が取り柄の執事。自身より20センチ以上も身長の大きい達郎の身を受けても倒れることはなかった。
「ああ。サンキュー、ハヤテさん」
助けてもらった礼を言って、ハヤテと共に立ち上がる達郎。
彼はそこで、エーリッヒを睨んだ。
「ちょっと、どういうことっスか」
達郎は誰がどのようにして自分を飛ばしたのか、ちゃんと分かっていた。
これはエーリッヒの仕業だ。彼の念力によって、自分は押し返されたのだと。
「あんたは明智天師の真実を、お嬢さんの傍にいる龍鳳が本物だって知っているんだろう!?」 「確かに、その通りです」
達郎たちを見返すエーリッヒの目はどこか冷たい。
「ですが、ここを通すとは限りません」
エーリッヒは自身の精霊、ウィルワーと一体化して、戦う構えをとる。
「どうしてもと言うのなら、私を倒していきなさい」
静かで、とてつもない威圧を感じる。
これは青銅や白銀の比にもならない。今佳幸たちは、黄金の使者たちの強さというものの真の意味を実感した気がした。
精霊の使者の強さは心で決まる。このように今まで戦ってきた相手、一部を除くが、それが霞んでしまうほどの意志の強さが、黄金の使者たちが最高位の実力者たる所以であるのだ。
正直、逃げ出したい気分になりだしている。
しかし、ハヤテたちは引くつもりはなかった。
「上等だ」
塁、優馬、氷狩の三人は勇みよく前に出る。
「俺たちは前に進まないといけない」 「だから、あなたとも戦います」
そして三人は、自分たちの精霊と一体化した。
これにより、十一人全員が一体化が可能となったことが判明されたのだ。
「僕たちもいこう!」
佳幸たちも一体化して塁たちと並び、エーリッヒへ挑む。
しかし、メルキューレの塔で戦った時よりも倍以上の人数を相手にしているというのに、それでもエーリッヒは強かった。
まず塁と伝助、ハヤテが殴りかかろうとするのだが、途中でエーリッヒに金縛りにかけられてしまう。
その三人の背後からヒナギク、佳幸が飛びかかり、剣で斬りかかろうとする。
対して、エーリッヒはテレポーテーションでかわし、二人の背後をとった。そこから二人を掴んで投げ返した。その先には、こちらへと迫っていたハヤテたちが。
エーリッヒがテレポーテーションした際に何故か金縛りから解放されたハヤテたち三人は、再び攻撃しようとした矢先にヒナギク、佳幸と激突し、倒されてしまう。
そこへ、達郎と氷狩が水と凍気をエーリッヒに狙って放つが、これも念力ではじき返されてしまい、逆に自分たちが攻撃を喰らってしまう。
残ったエイジ、花南、優馬、拓実の四人も、念力によって体を宙に持ち上げられ、床へと勢いよく叩きつけた。
エーリッヒは、相手を全く寄せ付けずに圧倒していた。
「だ、大丈夫か?」
ナギが心配した様子で皆に尋ねた。
「平気ですよ、お嬢様」
ハヤテがゆっくりとエイジたちと共に立ち上がる。
「あの人が使ったのは小技に過ぎません。それで倒れるわけにはいきませんから」
しかしそれは、裏を返せばエーリッヒはまだ本気を出していないということだ。だというのに、自分たちを全く寄せ付けていない。
やはり黄金の使者は強い。いや、簡単に強いと言い表せる実力ではない。
その力を前にして、ハヤテたちは手も足も出なかった。
そんな状況を見て、ナギが彼らに声をかけた。
「所詮青銅の使者では黄金の使者相手に戦いが成り立つわけではないということだな」
言葉だけを受け取ったなら、弱気になってしまったかと思ってしまうだろう。
「おまえたちは確かに霊神宮の在り方に反発しているのだろう。だが…」 「あんたに言われなくてもわかっているよ」
エイジは、ナギが言わんとしていることを理解していた。
「エーリッヒさんや黄金の使者たちも、俺たちと同じように葛藤していたに違いない」 「けどそれを必死に耐え、力をつけていった。間違っているとしても、強くなって戦わなければ人を守ることも、救うこともできないから」
それは佳幸たちにも伝わっていて、彼らも続けて語り出す。
「彼らは目を背いて、耳を塞いで、戦ってきたんだ。僕たち以上に」
自分たちは霊神宮に関する戦いの時、戸惑いを感じながらも力を振るった。
今まではその気持ちでいっぱいで、仲間以外の同じ使者のことなど考えなかった。だが、黄金の使者も同じようなことを考えていたのだろうと、最近思うようになったのだ。
「俺たちがただ戦うという行為だけをやっても、あの人たちには勝てないだろうな」
何故かあっさりと敵わないと認めている。しかも、妙にすがすがしい様子で。
普通なら、こんな彼らに首を傾げるだろう。戦いの中で、相手に勝てないと堂々と口にし、だというのに逃げ出したりあきらめたりする気配がない。自棄になっているわけでもない。
全員、どこか吹っ切れているのだ。
「でも俺たちは、ちゃんと目で見て、耳を傾け、受け入れようとしている」
と、ここでエイジが再び語り出す。
「黄金の使者たちがしてきたことで争っても勝てはしない。けど、俺たちは黄金の使者たちがしなかったことをやろうとしているんだから…」
続きの言葉を皆が揃って口にした。
「きっとなんとかなるさ!」
霊神宮の腐敗に怒りを感じたりしたのは自分たちだけではないはず。増してや、黄金の使者という最高位に立ち、使者たちの先頭に立つ以上、より心を痛めているのかもしれない。
だが同時に責任もあった。使命もそうだが、白銀や青銅の使者たちをまとめるためにも、己の感情だけで霊神宮を乱してはいけないと。
だから迷いを押し殺し、鍛え、強くなっていった。自分の心と葛藤した分は佳幸たちより長いかもしれない。それが、黄金の使者たちの強さの根源でもある。佳幸たちは五年、ハヤテたちに至ってはわずか一ヶ月しか経っておらず、しかも霊神宮から遠のいていたのである。エーリッヒたち程に磨き上げることは無理であり、そんな彼らに戦いを挑んでも勝てるわけがない。
しかし、その替わりに黄金の使者たちは霊神宮の有り様を黙認してきた。変化による混乱を恐れたのだ。対して、ナギやエイジたちは真っ直ぐに向き合い、間違っていると声高に出張しようとしている。戦いはそのための手段に過ぎない。
そう。ナギたちは勝つことが目的ではない。戦いを行う以上、勝たなければならないのは変わらないが、本質はそこではない。
明智天師を含め、今の霊神宮に対して間違っていると告げたいのだ。自分たちだけで変化できるとは思っていないが、口を閉ざしてしまったらそれで終わってしまう。
だからこそ、彼女たちは強大な黄金の使者たちを前にしても、怯むことはなかった。
そんなナギたちを見た、エーリッヒは。
「なんとかなる、ですか」
何を思ったか、エーリッヒは自ら一体化を解いてしまった。
「へっ?」 「な、なんで?」
警戒しながらも、予想だにしないことに達郎やエイジは呆気にとられてしまう。
「行きなさい」
そんな彼らに、エーリッヒは先に通そうとする。
ナギたちは訝しんだ。自分たちに立ち塞がったかと思ったら、急に道を譲ったのだ。無理もないだろう。
だがエーリッヒの表情には裏がなかった。自分たちに真実を話した時のように。
そんな彼を、ナギたちは信じることにした。
「じゃ。じゃあ通るぜ…」
達郎が再び、今度は恐る恐るといった様子でエーリッヒの脇を通っていく。
先ほどのように、念力によって飛ばされることなく無事に過ぎることができた。
これを機に皆一斉に駆け出し、念の間を抜け出して行った。
エーリッヒが自分たちに牙をむいた思惑はわからないが、黄金の使者たちがどれ程のものなのか十分に理解ができた。
残りの十一の間も、覚悟しなければいけない。
そう肝に銘じ、ナギたちは先へ進むのであった。
「試す必要などなかったですね」
ナギたちの背を見送りながら、エーリッヒは一人呟いた。
実力の差は短期間では埋まらない。それに絶望してはこの先へは進めないことは確実だ。
だからこそエーリッヒは彼らにレベルの差というものを見せ、その上で一言二言を送ろうとしたのだが…。
「あの様子なら大丈夫でしょう」
精霊の使者は、心の強さで決まる。物怖じしなかった彼らの心は、黄金の使者たちにも引けを取ってなかった。
「そして彼らなら、自ずとマインドに目覚めることができるでしょう」
何故使者の力が心によって左右されるのか。それは心が精神エネルギーの引き金となっているからだ。
人間は普段、肉体が持っている力をセーブして使っている。常に100%の力を使っていけば、自身も壊れてしまうからだ。
それは、心にも同じことが言えるのではないか。心を解放したままだと、外から来るストレスから守ることができずにたまってしまい、いずれは精神崩壊してしまうだろう。
だが精霊の使者には、心を消滅せずに、精神エネルギーを100%精霊に伝導できる境地、テンションが存在する。それこそが、エーリッヒが口にしたマインドなのだ。
マインドは使者の誰もができるわけではない。ただでさえ扱いが難しい精神エネルギーだというのに、精神崩壊寸前まで振り絞ることは熟練した白銀の使者でも不可能に近く、黄金の使者でさえ至難の業である。
そのためマインドの発動は黄金の使者でしか許されていない。最も、黄金のリングにはその補助をする機能が特別に設けられているためでもあるが。
「ですがエイジはメルキューレの塔で、マインドに目覚めかけていた…」
あの時自分に一撃を与えたことを思い出す。必殺技を放つ瞬間、エイジの背後に龍のオーラが浮かび出ていた。
あれこそ、マインドが働いた証であった。無意識で、まだ完全にはコントロールできていないのかもしれないが。
「……あなたたちなら、きっと…」
そう期待を抱くエーリッヒであった。
33話、終了です。 感想とかあればお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 6月20日更新 ( No.30 ) |
- 日時: 2012/06/30 18:44
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
昨日、親知らずを抜きました。 痛みはなかったんですか、それまであった歯がないとそれなりに不安になるわけで…。 血もなかなか止まらなかったし。
今はもう平気ですけどね。
さて、今回からは第34話。 まず先手を担うのは誰か?
それでは更新します。
第34話 山に咲く花
1 先へと進むハヤテたちは、二人目の黄金の使者が待つ間に着いた。
「ここが第二の間か」
門の上には、山の間と刻まれている。
「山、か…」 「まだ二番目なのに、すごいものが出てくるよな」
山という単語の響きから、スケールの大きさを想像する氷狩と達郎。
「これから私たちは、黄金の使者たちと戦っていくのね」
本格的に黄金の使者たちとの戦闘が始まろうとする前に、ヒナギクは緊張する。
佳幸たちも、表情が強張っていく。
「入るぞ」
そんな中、ナギが皆を促していく。
「何があろうと、私たちは前に進むだけだ」
彼女の言葉に全員が頷き合う。その気持ちだけは、どんなことがあっても変わらないつもりだった。
「よし、行こうぜ!」
塁が力を込めて門を開く。
中へ入ると、一人の女性が彼らを待ち受けていた。
「貴様らが大聖殿へ向かおうとしている奴らか」
女性なためそれほど筋肉はついていないが、体格は大きい。顔立ちも凛々しいというよりは勇ましいと言った感じであり、それが魅力を醸し出している。
「悪いが通すなと言われているのでな。ここから先へは行かせん」 「つまり、通りたければ…ってことかい?」
拓実が笑顔を繕いながら尋ねた。
「そういうことだ。この私を倒せばこの山の間は通してやる」
女の傍らに、黒熊の姿をとった精霊が現れた。
「だがおまえたちにそれができるか?この山のサンベアートが使者、ロクウェルを相手に」
そう言い、ロクウェルはサンベアートと一体化をした。
「さあ、かかって来い!」
その黄金に光る姿からは、威圧感もあってか巨大な存在感をもたらしている。
「真っ向から立ちはだかってくるのか」
相手の正々堂々とした態度に、優馬は敵ながら感心してしまう。
「わかりやすくていいじゃないですか」 「そうですね」
伝助とハヤテは受けて立とうと臨んでおり、既に一体化している。
ただ、勢いに乗るほど迂闊でもなかった。彼女にとっては自分たちは侵入者で、それから霊神宮を守ろうとしているのだ。なにか仕掛けを張っているかもしれないし、そうでなくても自分たちよりはるかに強い使者なのだ。慎重になる必要がある。
とはいえ臆して縮ごまってはいけない。自分たちはただ力をぶつけていくしかないのだから。
二人は後ろを振り返る。佳幸たちもいつでも戦えるように一体化をしていた。
言わなくてもいつの間に備える準備の良さは流石であった。いくつもの戦いを経験しているだけである。
確認をとった後、伝助は先手を打った。
「ウイングトルネード!」
背中の翼を起こして、そこから竜巻を発生させてロクウェル目掛けて放つ。
「フォレストブロック!」
対してロクウェルは、自身の前に何本もの樹木を生えさせて堤防を作り、伝助の必殺技をガードする。
更に彼女は周囲にも樹を次々と出現させ、この場は森のような環境となってしまう。
「木で俺たちを囲んだのか…」
氷狩が毒づく。これでは木に視界が遮られて相手の姿を捉えることができない。
その中で、ヒナギクはロクウェルの姿を見つけた。
「そこね!」
飛びかかるヒナギク。しかし攻撃は虚しく空を切ってしまう。それどころか、死角から躍り出たロクウェルの右手に装備している鉤爪を受けてしまう。ヒナギクはよろめいてしまうが、幸い深いダメージではない。
「皆、慌てるな!」
困惑する状況で、優馬が冷静になることを呼び掛ける。
「ユニアースの角で、奴を探し出せばいいことだ」
そう言って、手にした槍を見せる。実はこれは、ユニアースの角が武器に変わったもので、当然角であった時の力も使用可能なのだ。
その能力でもって、ロクウェルを探知しようとするのだが…。
「…バカな」 「どうしたんスか?」
愕然とした優馬に、エイジは何事か尋ねる。
「角の索敵が…働いていない!?」
今までどんな敵でも探り当てることのできたユニアースの角が、ここでは居場所も反応も特定できない。
予想外の事態に戸惑う優馬。ロクウェルは、そんな優馬を狙う。
「優馬さん、危ない!」
エイジの声によって、ロクウェルに気づいた優馬は咄嗟にかわした。それでも鉤爪によって傷をつけられてしまうが、これもまた浅く済んだ。
「ありがとな、エイジ」
礼を言う優馬の内心は、大きく動揺していた。
何故、角がロクウェルを察知できなかったのか。戦う前はちゃんとと機能していたというのに。
「そんなもので私の姿を捉えられるはずがない」
ロクウェルの声がこの場に響いていく。
「私が仕掛けたこのツリシーズメイズの中では、特殊な波動が漂っている。ユニアースの角など、使えなくなるのだ」
それを聞き、優馬は思い当たることがあった。
「なるほど…富士の樹海と同じか」
日本の霊峰として知られている、富士山。その北西に位置する青木ヶ原の樹海。そこは昔、富士山の火山活動によって流れ出た溶岩の上に、1200年程の時を経て現在の深い森が形成されたのだ。その地中には磁鉄鉱を含んでいるため、方位磁石に一、二度のズレが生じてしまうのだ。
このツリシーズメイズもその磁気と似たような、ユニアースの角を狂わせる特殊な力を発しているのだろう。それも、全く使えなくなるほどの強いものが。
「先ほどの娘といい、私のハンタークローを避けたことは褒めてやるが、この森の中にいる以上、おまえたちは攻撃できん。それに、ここから脱出も不可能だ」
ロクウェルの言うとおりであった。彼女の姿を見つけることが出来ないのなら攻撃のしようがないし、出口も見当たらない。それらを探し当てるためのユニアースの角も使えない。
「なら、この森を焼き払うしかない!」
こういった状況を打開するため、佳幸は青龍刀を構えた。その刀身に、炎を纏わせている。
「炎龍斬り!」
佳幸は剣を振るった。すると刀身から炎が離れて、龍の形となって周囲の木々をすべて燃やしていく。
「バカめ!」
これを見たロクウェルのせせら笑いが聞こえてくる。
「それでは自分たちも炎に囲まれてしまうぞ!」
そう。佳幸たちの周囲は森を燃やす火によって逃げ場がなくなってしまう。これでは状況を悪化させてしまったことになる。
だが佳幸は考えなしで行動したわけじゃない。
「俺を忘れてもらっちゃ困るな」
達郎が全方位に放水を行い、消火をしていく。全ての樹は佳幸の炎によって燃えつくされており、視界は晴れている。
そのため、ロクウェルの姿は何にも隠れることはなく、目にすることができた。
「今度こそこっちの攻撃を受けてもらうぜ!」
達郎は彼女に向けて掌を突き出した。
「ハイドロスプラッシュ!」
水流が勢いよく放たれ、襲いかかろうとしている。だというのに、ロクウェルはかわそうとする気配すら見せない。
このまま受け止めるつもりなのかと思いきや、ロクウェルは達郎と似たような構えをとってきた。
「キラーフラッディング!」
すると相手も、同じように水流を押し寄せてきた。しかしそれはハイドロスプラッシュよりも巨大で、まるで大洪水を想像させてしまう。
「な…なんだよあれ」
ハイドロスプラッシュを飲み込み、自分たちの方へと向かう大きな水流に、必殺技を押し返された達郎や佳幸は呆気にとられてしまう。
そのまま、二人は押し流されてしまった。
「山にあるのが森だけと思ったら大間違いだぞ」
ロクウェルは厳かな声で語る。
「このキラーフラッディングは大河川が氾濫が起こしたように、溢れるばかりの河の水が全てを流し出す。ハイドロスプラッシュなど、これの比にもならん」
幸い、達郎が寸前でキラーフラッディングの威力を受け流すように水を操ったため二人はまだ無事であった。それでも全てを防ぎきることは無理だったようで、負傷が大きく倒れてしまう。
そんな二人の分まで攻めようということか、塁、ハヤテ、氷狩の三人がロクウェルに向かって駆け出す。
それに対しても、ロクウェルは平然としたまま今度は掌を地面に向けた。
「ランスディングジョーズ!」
そこから三人に向かってまるで線を引くように、地面が軟質な土へと変わる。しかも、その土は滑らかであり、塁たちは気を抜くと転げ落ちてしまうような険しい坂を上っているように思ってしまう。
更に正面からは、土がまるで顎門のように三人を飲み込もうとして大きく唸りだしている。
「次は土砂崩れか!」
巨大な岩石も、塁たちを潰そうと転がってくる。
当然、このままおとなしくやられようとする三人ではなかった。まず三人はその場で軽くジャンプした。
「フリージングスノウズ!」
そこから氷狩が、地面に向けて必殺技を放つ。その凍気によって土は凍り、地滑りは止まった。
着地する三人。その内の塁とハヤテは、こちらへ勢いよく転がってくる岩石を迎撃する。
「サンダーボルトナックル!」 「疾風怒濤!」
それぞれの必殺技によって、岩石は粉々に砕け散った。
この勢いでロクウェルを、と意気込む三人だったが、すぐに絶句してしまう。
目の前に大量の雪が、先ほどの土砂のように大きく波を打っていた。
「スノスディングウェーブ!」
その雪崩にハヤテたちは飲み込まれ、地面へと強く叩きつけられた。
このように大規模な必殺技を素早く連発できるロクウェルに驚愕しながら拓実は矢を番えるが、放てなかった。磁気を含んだ鉱物によって、反らされることを悟ったからだ。
「八闘士と言われていても、この程度の力しか持っていなかったとはな」
ロクウェルは落胆の声を漏らした。
「貴様らが何を考えているのか、私は知らん。私はただサンベアートと共に、この力で以て戦えばいいのだからな」
だから、と言わんばかりに彼女は佳幸たちを指差す。
「半端な力しかないのなら去れ。私の力にやられてしまうだけだぞ」
その言葉に、癇に障ったのか佳幸たちは唸った。当然、逃げ出す気もない。
「冗談じゃないわ」
そんな彼らの中で、真っ先に動き出したのは花南だった。
「こっちは大聖殿に行くって決めたんだから、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのよ」
彼女はある程度の距離まで歩き、ロクウェルと睨み合う。
「忠告を無視するとは、青銅のくせに身の程知らずだな」 「生憎、私や力や戦闘だけしか考えることのできないような脳ミソ筋肉ダルマな人間の言うことなんか聞き入れないのよ。頭が鈍そうだもの」
いつものように、相手への侮蔑を口にする花南。
「ましてや、大きな力を見せつけて私たちに尻尾を振れと言わんばかりの態度が、最高に気に入らないわ!」
それを聞いて、エイジはつい肩を落としてしまう。
「あーあ、姐さんのあの性格は変わってねぇなぁ…」 「どういうことだ?」
傍らにいるナギが質問した。
「いやな、五年前俺たちがであったばかりの頃…小学生の時も、自分の力を誇示してケンカを売って来た奴に対して姐さんは買ったんだよ。噛みつけるならやってみろとか言われて、本当にやっちまったように。しかも、その相手を精神的にも参るまで、叩きのめしちまったんだ」 「そ、そうなのか…」
ナギもさすがに呆れてしまう。小学生の時ならばまだよいが、現在では大人げないとしか言いようがない。
その花南は、ロクウェルに向けてはっきりと言い放った。
「今からあんたに痛い目見せてやるわ、覚悟しなさい」
今回はここまで。 しょっぱなから長くなったような気がしますが、どうですか?
感想、指摘があればよろしくお願いします。 それでは。
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Re: 新世界への神話Drei 6月30日更新 ( No.31 ) |
- 日時: 2012/06/30 20:13
- 名前: キー
- どうも、キーです。こちらでは初めましてですね。宜しくお願いします。
さて、では早速感想を。
ユニアースの角で見つけられないのですか、なかなか厄介…と思ったのですが、焼き払え ば確かに楽ですね。 サンベアートは強いですね。山に起こりうる事象を扱う。さすがは黄金の使者。2人目で この強さ、ナギ達は無事にたどり着けるでしょうか。花南に何か策はあるのか。
目が離せません。次回も楽しみにしています。
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Re: 新世界への神話Drei 6月30日更新 ( No.32 ) |
- 日時: 2012/07/12 22:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
七月に入り暑くなってきましたね。 この時期はいろいろと大変です…。
さて、まずはレス返しから
キーさんへ
ここでの感想ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!
山火事になれば結構樹は燃えますから、燃やしてしまえば楽です。 富士の樹海は、行ってみる気ありますか?
サンベアートとロクウェルはは結構強いです。最低でもこのレベルが黄金の使者に必要だということです。 花南の策は、今回を見てくれればわかります。
重ねて言いますが、感想ありがとうございました!
それでは、本編です! 今回も結構長い気もしますが、楽しんでくれるとうれしいです。
2 「意気込みは十分なようだな」
そんな彼女を前にしても、ロクウェルは余裕であった。
「だが思い通りにいくとは限らないぞ。第一、構えも取らないとは本当にその気があるのか?」
ロクウェルを睨む花南。彼女はただそこに立っているだけで、今にでも動き出そうとする気配すらない。誰が見ても、戦う気があるのかと疑ってしまうほどだ。
しかし、花南は取り済まして言った。
「その必要はないわ。山を力でもおって動かすことは、不可能に近いもの」
それを聞いたロクウェルは、核心を突かれたかのように驚きの息を漏らす。
「この女は達郎と同じように、相手に先手を打たせたてその動きによってカウンター等を仕掛けるタイプ。自分が動かない、いわば静の攻撃に秀でているのよ」
花南は先ほどまでの戦いで分かったことを指摘していく。
「ハンタークローなどの、動の攻撃も一応あるけど、それはあんたの本領じゃないわね。そうでなければ、いくら実力があるとはいえ青銅でしかないヒナギクや優馬にかわされるはずがないもの」
ツリシーズメイズがあまりにも強大であったため、目を離しがちなところを花南はちゃんと注目していたのだ。
「敵の攻撃を防ぎながら、ダメージを与えていく。しかも土砂崩れの後に間を置かずに雪崩を起こした。必殺技だから連続攻撃のようにも見えるけど、実際は固定砲台が迎撃したようなものよ」
そう。思い返してみればランスディングジョーズやスノスディングウェーブを放った時、ロクウェルは一歩もそこから動いてはいない。
まさに、不動のまま登山者に険しく待ち構える巨山であった。
「まあ、力のためを必要とせずにあれほどの必殺技を連続で繰り出せるのは黄金の使者によるとことが大きいんでしょうけど、ああして立っているだけであの女は戦闘態勢がとれているのよ」 「大口を叩くだけのことはあるということだな」
ロクウェルは青銅の使者ながら、あの短い戦闘でここまで読めた相手に感心していた。
花南は普段から思慮が浅いものに対して、脳ミソ筋肉ダルマとか単純とか罵ってはいるが、それを口にするだけのことはあった。
これほどの頭の冴えは、切れ者と言われてもおかしくはなかった。
「だが、それがどうしたというのだ?」
ロクウェルは静だが迫力を込めて尋ねた。
「私の戦い方がわかったからといって勝てるものではない。このままだと、決着は永遠に着かないままだぞ」
花南が口にしたのはロクウェルに対する攻略法ではない。それに迂闊に攻撃できないとしても、なにもしないのでは彼女の言うとおり、いつまでも戦いに終わりは来ない。
「そうでもないわ」
花南は花を、ブロッサムボムを取り出す。
「私の完成した必殺技で、山を作る。そして、あんたという山が自ら動かなければならない状態に追い込んでやるわよ」
そして、こうロクウェルに宣言したのだ。
「私を追い込む、とはな」
ロクウェルは馬鹿にしたように笑った。
「黄金の使者を相手に、よくそんなことが言えるな」 「そのプライドも、粉々に砕いてやるわ」
花南は、ブロッサムボムをロクウェルに投げつけた。ひらひらと空中を舞うそれは、またたく間に無数に増えていき、ロクウェルの周囲を覆っていった。
「これが、花南さんの完成した必殺技…?」
佳幸たちは首を傾げた。どう見ても、今までのブロッサムボムと何ら変わっていない。
ロクウェルも、それほど脅威とは捉えていないようだ。
「この花、おそらくは爆弾でありそれを周囲に散らすことで身動きを封じるのだろうけど、動く必要のない私には意味がないぞ」
簡単に見抜かれてしまうようでは、やはり通用しない。それにブロッサムボム一輪における威力は高いわけじゃないので、黄金の使者に与えるダメージは期待できるものではない。
だが花南は、意味のない技を仕掛けるような間抜けではなかった。
「動かないとは、わざわざありがたいわね」 「なんだと?」
ロクウェルは花南が何を企んでいるのか疑問に思ってその時だった。
地面に落ちた花々に、変化が起こったのだ。
「完成した私の必殺技は、相手が動きを止めた時に真価を発揮するのよ」
花が萎んで種となり、それが芽をつけていき、急スピードに成長し出した。
そのまま棘の蔦がロクウェルに向かって勢いよく伸びていき、彼女の全身は無数の蔦によって縛りあげられた。
「くっ、これは…」
蔦に付いてある棘がその身に食いこんでくる。それ自体は大した痛みではないが、蔦がどんどんと締め上げるように揺さぶってくるので、刺された傷口が広がってダメージが大きくなろうとしている。
更にその蔦から、多くの花が咲き始める。今も宙に舞っているものと同じものが。
「ま、まさか…」
ロクウェルが察したとおり、蔦が揺れて彼女の体に触れたため、その花が一斉に爆発を起こした。
「花に触れなくても、地に落ちたそれらから棘の蔦が伸び、傷つけながら拘束したところを蔦から咲いた無数のブロッサムボムによる爆発を浴びせる」
花南は自ら新必殺技について解説をはじめた。
「花は宙を舞い続けているから、爆発で蔦を吹き飛ばしてもまた新しいものを伸ばして、相手を再び絡め取る」
彼女が語ったとおりに、花は次々と地に落ちていくので爆発によって破れても代わりとなる蔦が生え、ロクウェルに巻きつく。だが全身に隙間がなかった先ほどとは違い、腕や脚、胴などを縛っただけだ。
何故拘束する場所を限定させたのか、それもすぐにわかった。爆発によって散った無数の花びらがロクウェルにまとわりついて、彼女の身に切り傷をつけていく。全身隈なく拘束していれば、切り刻む箇所がなく、蔦を裂くだけに過ぎない。
「そして、花びらによって体をずたずたに切られていく。これが私の完成した必殺技、花舞封殺陣よ」
相手を棘付きの蔦で縛り上げ、爆発によってダメージを与え、また縛ると同時に花びらによって切りつけられる。
威力の低さを手数と知恵で補う、花南の性格がよくあらわれている技である。加えて、かかってしまえば脱出は困難となる、蟻地獄のような恐ろしい一面も持っている。
「塵も積もれば山となる、って言葉があるけど」
花南は、尚も花舞封殺陣に驚愕しているロクウェルに話す。
「このまま痛めつけ続ければ、大きな傷になるかもしれないわね」
小さい負傷でも、それが重なっていけば致命傷となってしまう。確かに花南の言うとおりであった。
山を作る、という彼女の言葉の意味をここでよく理解ができた。
無限ということはさすがにないが、ループしていくような技を青銅でしかない使者が編み出したことにロクウェルは信じられなかった。とはいえ、このまま大人しくなるほど黄金の使者も甘くはなかった。
「舐めるな!」
そう叫ぶと同時に、ロクウェルに巻きついていた蔦が破れ散り、花も吹き飛んでしまう。
「気合を入れて、それによって外に放出したエネルギーだけで打ち消したのね」
白銀の使者でもできない力技だ。黄金の使者というのは本当にかけ離れた存在であることがよくわかる。
「いい気になるなよ」
ロクウェルはツリシーズメイズで花南を取り囲み、自身は木々によって姿を隠す。
「態勢を整えるための時間稼ぎかしら…」
ツリシーズメイズに身を潜めた以上、彼女を探し出すことは困難であることは既に承知している。つまり、ロクウェルは崩れにくい防御をとったということだ。
だが余程狼狽してしまったのか、ロクウェルは気づいていなかった。自ら守りをとったことで、山を自ら動かせたという花南の宣言通りになってしまったことを。
北風と太陽という話では、両者がどちらが旅人のコートを脱がせるか競い合っていた。北風は強風でコートを吹き飛ばそうとするが、旅人はその度にコートをしっかりと掴んでしまう。しかし太陽が気温を上げていくと、その暑さに旅人はコートを着ていられなくなり、自ら脱いでしまうのだ。
そして花南はその太陽と同じことをしたのだ。力技ではなく、知恵を絞って相手を誘導させるということを。
そんな彼女の前に、ツリシーズメイズも破られようとしていた。
周囲を木々に囲まれた花南は、ある方向へ顔を向ける。
「アイビーウィップ!」
その先に向けて、蔦の鞭を振るった。それを用いて、隠れていたロクウェルを引きずり出したのだ。
「な、何故…?」
ユニアースの角でさえ、居場所を突き止めることは不可能だった。だというのに、どうやって自分を見つけることが出来たのだろうか。
そこでロクウェルはふと自分の身体を見て、あることに気づいて花南に尋ねた。
「貴様、あの花舞封殺陣という必殺技を仕掛けた際、何か目印をつけたのだな!」
花南は、それを肯定した
「花が爆発した時、あんたの身体に大量の花粉が付着したのよ。その香りで、あんたを見つけることができる、いわば発信機の役割を務めていたのね」
そこまで言って、花南は呆れたように言った。
「まあ、ツリシーズメイズという木の属性の技を持つフラリーファにとっては力を増すような良い環境だったからあんたを見つけることが出来たのでしょうけど、あんた相当焦っているわね」
そうでなければ、相手に有利な状況を作ったりしないであろう。図星を突かれたロクウェルは一瞬押し黙ってしまう。
「しかし、私には他にも技があるのだぞ」
ロクウェルは花南に向けて手をかざす。
「ランスディングジョーズ!」
すると大量の土砂が波となって、花南を押し潰そうと迫っていく。威力が高いことは明らかであるというのに、花南はよけようという風には見えず、微動だにしない。
「そのまま受ける気か?」
ロクウェルの予想どおり、花南はそこで立ち尽くしたまま、土砂崩れに呑まれていった。
普通なら、ランスディングジョーズに巻き込まれればその強い勢いに押し流されてしまう。だがロクウェルは、簡単にいくはずがないと花南に少々脅威を抱きはじめている。
彼女の予感どおり、土砂が過ぎていった後も、花南はそこに立っていた。ロクウェルの必殺技をこらえ切ったのである。
「地中深くまで根付いた樹は、土砂崩れであっても流されることはないわ」
それでも、黄金の使者の技を真正面から受けて大ダメージを負わないわけがない。しかし、あの土砂崩れに流されてしまったら花南は確実に倒されていただろう。
「なら、これはどうだ?スノスディングウェーブ!」
今度は雪が花南を掻き攫おうとしていく。それでも、花南は真っ直ぐに向き合っていた。
全身に多くの雪を被ったが、尚も花南はその場に立っていた。立ったままでいたのだが…。
「氷漬けを防ぐことは、無理だったような」
雪と共に襲来してきた冷気によって、その身が凍りついてしまった花南。
「まあ仕方のないことだ。標高高い雪山の、零度以下の冷気なのだからな」
そう言いながらロクウェルは、花南に向けて右手の鉤爪を掲げる。
「このハンタークローで、仕留める!」
その鉤爪を、勢い良く振るったロクウェル。花南の身はそれによってえぐられてしまうかと思われた。
だが、花南の身体はハンタークローを弾いてしまった。
「な!?私の爪を?」
驚愕するロクウェル。そんな彼女が立っている地点から、根のようなものが伸びて彼女の身体に絡みついてきた。
「木が冷気にやられてしまったと思いこむなんて、本当に脳ミソ筋肉ダルマね」
聞こえてきたその声は、花南のものであった。凍りついた彼女が何故口を開くことができるのだろうかと思い見てみると、花南にかけた凍結が解かれようとしていた。
「植物は寒い環境にあっても花を閉ざして身を守ろうとしたり、地中にから根で養分を吸い上げたりと、その生命力はしぶといものよ。簡単にやられるものだと思っては困るわ」
それを聞き、ロクウェルは納得できた。鉤爪を受け付けなかったのは閉じた花のように防御のみに集中したため。力では黄金に圧倒的な差があるとしても、意識をすれば通常よりも防御力が上がるように、全てを守りに集中したのだ。
そして氷を溶かしたのはロクウェルに絡みついた根が精神エネルギーを吸い取り、それを熱に変換したためであろう。そういえば、とロクウェルは今になって気だるさを感じてきた。
それは花南にとって、好機であった。
「チェックメイトね」
花南は茎のような杖を手に構える。
「これで終わりよ!」
そして、スタークロッドを叩きこもうとする。誰もがここで花南の勝利を確信していた。
しかし、やはり黄金の使者というのは並大抵ではなかった。
「マグマエルプト!」
スタークロッドを受けようとする寸前、ロクウェルは花南に向けて掌を突き出す。そこから、まるで噴火のような勢いでマグマが放出され、花南を飛ばしたのだ。
この一発で形勢は一瞬で逆転してしまった。倒れた花南は致命傷を負ったため、体が思うように動かない。
「私が持つ動の技に関しては、読みが甘かったな。このマグマエルプトは、私の奥の手なのだ」
そう言いながらロクウェルは花南に近づいていく。対して、花南はよろよろとした動作で起き上がろうとする。
「もうよせ」
ロクウェルはそんな花南を不憫に思い、穏やかに声をかけた。
「おまえはよく戦った。私に切り札を使わせた相手はそうはいない。青銅の使者ながら見事であった」
感心を込めて、語りかけるロクウェルだが。
「ふざけないで…」
対する花南はぎくしゃくとしながらも立ち、毅然とした態度でロクウェルと向き合う。
「あんたなんかに哀れみをかけられるほど、私はまだ落ちぶれてはいないわ…」 「その根性も大したものだな」
ロクウェルは素直に称賛する。花南が敵であることを、本当に惜しく感じているのだ。
「おまえを称え、最後は私の秘奥義で終わらせる」
そんな彼女の右拳に、鉤爪が引っ込む代わりに溶岩が集っていく。
「受けろ、火山の一撃!ボルケーノバースト!」
一瞬、背後に黒熊のオーラが浮かんだロクウェルは、溶岩を込めた拳を繰り出す。その気迫から、秘奥義というのは嘘でないとわかる。
弱っているところに、黄金の使者による必殺技。しかもフラリーファは焼かれる攻撃を苦手としているのだ。あれを受けてしまえば確実に倒される。
しかし、体をうまく動かせない状態では、かわすことなどできない。
もう駄目だ、と花南は自分の敗北を実感し諦めかけてしまう。
だが、ボルケーノバーストは花南に当たらなかった。
「い、いつの間に…」
両者の間に何者かが割って入り、ボルケーノバーストをその背を受けて花南を庇ったのだ。
その人物の名を、花南は叫ばずにはいられなかった。
「佳幸!」
今回ははここまで。 何か指摘とかがあったらよろしくお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 7月12日更新 ( No.33 ) |
- 日時: 2012/07/26 21:14
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
約二週間ぶりの更新となります。待たせてしまった方はすみません。
そして、唐突ですが今回で34話は終わりです。 長めですが、楽しんでください。
それでは、どうぞ。
3 よろよろと倒れこみそうになる佳幸だが、青龍刀を杖代わりにしてその身を支える。
「大丈夫?花南さん」
佳幸の問いに、花南は黙って頷く。
「危なくなったら盾になるって、言ったからね…」
そう。ムラサキノヤカタで交わした約束。佳幸は自ら告げたことを、本当に行っただけだ。
黄金の使者の必殺技が持つ威力は桁違いだ。無防備で受けることは自殺行為に等しいことである。
それでも、佳幸は花南の代わりに必殺技を受けた。自ら傷つくことを承知して。
「何度でも盾になるよ。だから花南さんは安心して戦って」
佳幸にとって彼女にどんなに大きい危険が迫ろうとも、前に出て守ろうとする。恐れ以上に守りたいと思うほど、花南は大切な存在であった。
そして花南も、彼と同様の思いを抱いていた。
「わかったわ」
自分の油断で一番に思っている人が傷ついてしまったことに、花南は強く自責していたが、それ以上に守ってくれたことに対する嬉しさが大きかった。
それは花南を立ち上がらせ、彼女の気を奮い立たせる以上に有り余っていた。お互いの想いが、力になるという証と言えよう。
「なるほど。それが絆の力というわけか」
ロクウェルは花南と佳幸を見て納得していた。
「傷ついて立ち上がることができたわけだが、その状態で戦えるのか?」 「私が駄目だったとしても、皆がいるわよ」
花南は佳幸やヒナギクたちを指しながら言う。
「私たちは明智天帥のところへ行くために戦っているわ。手を取り合って。個人の実力では黄金の使者に敵わなくても、一人じゃないから力を合わせることができる」
花南を良くは知らないナギは意外に思った。人に対しては突っぱねる態度をとる彼女から協力というものを説き出したからだ。
だがヒナギクや花南の仲間たちはわかっていた。彼女が個人は絆のために、絆は個人のために力を尽くすものだと考えていることを理解しているということを。
「種はそれだけでは芽を伸ばさない。土や水などの恩恵を受けて花を咲かせるように、例え弱くても一致し合えば実を結ぶことができるのよ」
そんな思いを抱いている花南の腕に着けてある、フラワーリングが呼応するように光り出す。
「木の属性が必要とする魂の資質は友情だったな」
花南のリングを見せながらロクウェルは呟く。
「その思いが、奴としての友情というわけか…」
ここに来て、ロクウェルは迷いだした。花南をはじめとした八闘士たちはスセリヒメの名を騙る三千院ナギと共に霊神宮に仇なそうとしていると、明智天帥から聞かされていた。それを討つのは、精霊の使者として当然のこと。自分が最高位の黄金ランクならば尚更従わなければ、下の者たちに示しもつかない。
だが実際に花南と戦って、彼女の強さ、特に心を見て、本当に討つべき相手なのかどうか躊躇してしまう。このような人物たちが、悪事を働くとはとても思えない。それでも、賢明大聖と並ぶほど名高いあの明智天帥が嘘をつくとも思えない。
「おまえのような奴を、放っておくわけにはいかないな」
結局のところ、ロクウェルには戦うという選択肢しかなかった。
どちらにせよ、これだけの力を持つものを無視することはできないからだ。
「あら、黄金の使者ともあろうものが、青銅相手にムキになるとはね」
花南は皮肉気にロクウェルを挑発していく。
「これ以上みっともないところを見せないためにも、今度こそあの必殺技でとどめを刺すべきじゃないかしら?」
傍から見ればそれは命知らずな行為であった。明らかに花南は深いダメージを負っているため、まともに戦える状態ではない。必殺技でなくても、小技で突かれただけで倒されるのは目に見えている。
「花南!ここからは私も一緒に…」 「余計なお世話よ」
加勢しようとするヒナギクを手で制する花南。
「あんたが入っていったら、かえってややこしくなるだけよ」
相も変わらずの憎まれ口を叩くが、その内にはヒナギクたちへの配慮が含まれていた。
今はまだ協力して戦うところではない。なんとかして突破口を開くが、せめて勢いをこちらに向かわせなければならない。それを果たさない限り仲間たちに申し訳がない気がするために、花南に引くつもりなどなかった。
「な、なんですって!」
しかし、言葉の表面だけをとってしまったヒナギクは、カっとなってつい花南に掴みかかろうとしてしまう。
そんな彼女を、エイジと拓実が抑える。
「まあまあヒナギクさん、落ち着いてッス」 「ここは花南に任せよう」
宥める二人だが、ヒナギクと同様の不安を抱いていた。あれで本当に戦えるのかと。
だが八闘士たち全員は花南を疑っていなかった。彼女は勝算もなしに闇雲に突っ込むような馬鹿ではない。
そんな彼らが思ったとおり、花南には一つだけ手が残されていた。ロクウェルを挑発したのも、そのための賭けであった。
「…よかろう」
そして、黄金の使者としてのプライドを抱くロクウェルは、あえて乗って来た。
「今度こそ受けよ!我が最大の拳を!」
ロクウェルが距離をとり、溶岩の拳を再び構えた。
それを見た花南は、何を思ったのか全身の力を抜きはじめた。体勢もどこか変である。
「ボルケーノバースト!」
そんな彼女の身に、ロクウェルの拳が見事に入った。
花南の身が宙に舞う。誰もがやられてしまったとそれを見て思ってしまうだろう。
だが、ロクウェルには違和感があった。
「手応えがない…?」
仕留めた実感がわかないのだ。こう、威力を受け流されたというか、吸収されたような。
「まさか!」
そこでロクウェルは、花南が何を企んでいたのか察した。
彼女は、自分の必殺技を利用するつもりだったのだ。そんなロクウェルの心中での推理を正解だと示すように花南が言った。
「小細工が効かない以上真っ向から勝負するしかない。けど、青銅と黄金で単純に力をぶつけ合っても結果は見えているわ。だから、私の力にあんたの力をくわえさせてもらったのよ」
花南が力を抜いた姿勢をとったのは、ボルケーノバーストの威力をその身に纏うため。自らの力自体はロクウェルに圧倒的に劣っていても、吸収した威力を上乗せすれば大きなものへと変わる。
花南の狙いに愕然とするロクウェル。必殺技を放ち、尚且つそれでとどめに至らなかったことも動揺する要因となったのだろう。
地中から伸びてきた蔦に、彼女はすぐに気付かなかった。
「これは!」
縛られ、身動きができない中ロクウェルは悟った。
これは大技を放つための仕掛けだ。照準をつけられないために、こうして相手が逃げられないようにしている、と。
その隙に花南は空中で植物のような杖を、二本取り出した。
「スタークロッド二本なら、十分通用するはず」
ただ今までのスタークロッドとは違い、先端には鋭く尖った蕾のようなものがついてあった。
更にそこから杖の先をロクウェルに向けて、体勢をまっすぐに伸ばす。
「そして自分の体を回転させることで、パワーが上乗せされる!」
そのまま、錐揉み回転する花南。その速度は、風を切る音が聞こえたほどだ。
花南は今から繰り出そうとする一撃に気迫を込めている。今までのどの技のものよりもはるかに大きいと、見ただけで佳幸たちにはそれが伝わってくる。
その凄まじさを物語ったのか、花南のバックにほんの一瞬だけ満開となった花のオーラが浮かび上がったのだ。
「あれは!」
黄金の使者であるロクウェルは驚きに声をあげる。
まさか、追い込まれたこの状況で、花南がマインドを発動させたなんて思いもしなかったことだ。
そして花南は、激しく回転しながらロクウェル目掛けて突撃し出した。
「喰らいなさい!スパイラルバッド!」
杖の先をロクウェルに向けたまま自身を弾丸として飛んでいくその姿には、とてつもない迫力というものが感じられた。
ロクウェルは拘束を破ろうともがくが、蔦は緩まず絡みついたまま彼女を逃さない。
彼女は焦っていた。花南のあの技には自分の技の威力が、しかも倍増されて込められているのだ。しかも花南はマインドを発動させているため、精神エネルギーは全開だ。
あれを受けてしまえば自分はやられてしまう。そう確信したからこそロクウェルは蔦と格闘しているのだ。
そうしている間にも花南は猛スピードでロクウェルとの距離を詰めていく。周囲で見ている佳幸たちは、花南の勝利を疑わなかった。
だが。
「黄金の使者は、そう簡単にやられるものではない!」
ロクウェルはマインドを発動させて、力任せに蔦を引きちぎった。
「そんな!?さっきよりも強く押さえつけているはずよ!」
相手の底力に驚いてしまうが、今さら技を止めることはできない。それにもう相手の目前まで迫っているのだ。ロクウェルが今から避けようとしても間に合いはしまい。
ならば、真っ向から立ち向かうしかない。
そう判断したロクウェルは、右手から鉤爪を出現させ、前へと突き立てる。
鉤爪と回転する蕾の先同士が、そのまま激突し合った。
右手に力を込めるロクウェル。そこから鉤爪で花南を弾き返そうとした。
しかしそれよりも先に、鉤爪にひびが入って来た。
「くっ、もたない?」
瞬時にそう判断したロクウェルは、鉤爪を軸にして右側へ回るように後方へと下がり出す。
刹那、鉤爪は砕け散ったが、花南はロクウェルの鼻先をかすめて通り過ぎてしまった。
そのままでは地面に衝突してしまうところで、花南は咄嗟に滑りながら着地をする。しかし、彼女はほぼ放心状態であった。
自身の最大で、起死回生となる必殺技が寸前のところで避けられたのだ。それも、逃げられないように縛っておいたにもかかわらず、だ。愕然としてしまうのも当たり前である。
とにかくこれで花南には打つ手がなくなった。もうロクウェルには抵抗することもできない。
ロクウェルを見てみると、彼女は俯いて震えていた。鉤爪を砕いたことに怒りを抱いているのだろうか。
今からロクウェルの猛攻が始まるに違いない。花南は自分の身がぼろぼろに痛めつけられてしまうことを覚悟していた。
だが、ロクウェルは。
「ハハハハハ!こいつは驚いた!」
突然、豪快に笑いだしたロクウェルに、一同は呆気にとられてしまう。
「ハハハ、失礼。まさか鉤爪が折れるなんて思わなかったからな」
そう言って、折れてしまった鉤爪をつけている右手を上げる。
「このハンタークローは今までどんな相手でも仕留めてきた自慢の得物で、私のプライドでもあるのだ」
今まで経験してきた戦いの中で鉤爪を使っていた場面でも思い出しているのか、ロクウェルの声には懐かしみが含まれているような気がした。
「その鉤爪を折ったのはおまえが初めてだ。本当に、おまえたちには底が見えない力を持っているのだな」
そこまで言うと、ロクウェルは一体化を解いた。それと同時に、彼女の背後に見える出口の扉がゆっくりと開かれていく。
「行け」
ロクウェルは、その背後の扉を指した。
「私のプライドを折ったのだ。それは、おまえたちの勝利にも等しいからな」 「え…?」
素直に負けを認めたことが意外に思えたため、一同はロクウェルに注目しながら間抜けな声を漏らしてしまう。
「ほ、本当に?」
達郎は恐る恐る尋ねてみた。
「ああ、本当だ」
ロクウェルはあっさりと頷いた。
それを見た途端、全員は顔を明るくした。
「やったあ!」
苦戦はしたが、なんとか最初の関門を突破できたことに喜びを露にする。
これから先も戦いが続く中で、鷹が初戦に大げさな、とも思ってしまうだろうが、この勝利の意味は大きかった。
勢いという面でもそうだが、なのよりも青銅に対して雲の上の存在であるような黄金の使者に自分たちの技は、思いは通じるのだと。不可能ではないのだということを証明したのだから。
「大丈夫、花南さん?」
佳幸は立ち上がろうとするこの戦いの功労者に手を差し出す。
「平気よ」
口では強がりを言うものの、花南はその手をしっかりと取る。やはりその身に蓄積されたダメージは相当大きいのだろう。
そんな状態で、しかもたった一人で勝利を収めた彼女に仲間たちは称賛を送った。
「すごいぜ花南。たった一人で勝っちまうなんて」 「マグマエルプトを受けてしまった時はもうダメかと思ったが、大したものだ」
褒め言葉を口にする中で、仲間たちは内心こうも思っていた。
この先の戦いは自分の番だ。彼女以上に頑張らなければならないと。
それがわかっているから、花南はあえていつものクールな調子で言い捨てた。
「そんなに興奮することはないでしょ。私が戦うからには勝つのが当たり前なんだから」
まあ、幾度か本当に挫けそうになったがそんな胸中は口にしなかった。余計なこと言うほど、彼女は愚かではないからだ。
「それよりも、早く先に進みましょう」 「ああ、そうだな!」
しかし、気分がよいのか仲間たちは憎まれ口を叩かれてもいちいち怒りはせず、言われた通りに出口へと向かい出した。
「花南」
そして、彼らの後に続こうとした彼女を、ロクウェルが呼び止めた。
「これから先も私の時のようにうまくいくとは限らん。明智天帥のところまで辿り着くことは楽ではないと思え」
対して花南は、小気味良い笑顔を見せながら言い返した。
「忠告ありがとう。けど、相手がどんなに強くても、私たちはただ突き進むことしかできないのだから、怯える暇はないわ」 「いい心意気だ」
ロクウェルは満足そうに頷いた。
自分が認めただけのことはある、と言うふうに。
「その気持ちを忘れてはいけないぞ。それと…」
ロクウェルは次いで、佳幸の方を顎でしゃくった。
「あんないい男、手放してはいけないぞ」 「それは、余計なお世話というものよ」
そう言い捨てて、花南も去っていく。
そんな彼女の背を、ロクウェルはどこか期待を込めて見送っていた。
次の間へと移動中、ナギは花南を見ながら歩いていた。
「…どうしたの?」
ナギの視線に気づいて、花南は振り向いた。
「あ、その大したことじゃない」
何を言おうか戸惑ってしまったことと、花南の目つきが鋭かったため、ナギは気圧され一瞬どもってしまう。
「ただすごいと思っただけだ。仲間がいるのに、あそこまで強がろうとするなんてな」
それは幾ばくかの呆れも込めていた。戦いの中で花南は自分が倒れても皆がやってくれると言った。ならば、最初から協力し合っていた方が楽に戦えたはずだ。それを、プライドのために自ら傷ついたなんて、考えれば馬鹿らしいではないか。
しかし花南がナギに返したのは、同様の皮肉であった。
「あら、いつも見栄張るような態度をとるあんたがそれを言うかしら?」 「わ、私は見栄を張ってなどない!」
ナギは声を張って否定する。ムキになった彼女を愉快そうに見ながらも、花南は真剣な口調で言った。
「仲間がいるから、こそよ」
淡々としているため、意味がわからず首を傾げるナギ。そんな彼女に構わず花南は続けた。
「仲間の前で強がることでもできるのなら、みっともなく倒れているわけにはいかないのよ」
それだけ言って、花南は先へと行ってしまった。
益々理解が難しくなってしまう。仲間と協力するより、自尊心を優先させるのか。仲間がいるからそんなことをする必要があるのだろうか。なんのために仲間がいるというのだろうか。普通はそう考えてしまう。
「…そうか」
だがナギは、そしてハヤテやヒナギクは察した。花南の心中を。
花南があのように一人で戦おうとしているが、それは仲間のためにやろうとしている。先ほどの発言も、仲間のために強がることしかできないなら、望んで強がろうとする意志の表れでもあった。
あるいは、本当にただみっともないところを見せたくないだけかもしれない。いずれにせよ、花南の行動には、仲間を意識したものがほとんどであることだ。
だから、花南の魂の資質が友情なのも、なんとなくだが納得できた。
そして、花南が仲間でよかったと思っていた。
「さあ、次はあんたたちがしっかりと働いてもらわないとね。この私が活躍したのに、無様な戦いをしたら許さないわよ」
この態度がある限りは、本当に良かったのかと不安になるのではあったのだが。
34話はこれで終了です。
次回からは、あの男のお話です。
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Re: 新世界への神話Drei 7月26日更新 ( No.34 ) |
- 日時: 2012/07/27 18:36
- 名前: キー
- キーでし。
相変わらず凄い面子です。なんか、リン以外の我がオリキャラ総出で行ってもかなわない 気がします。なんか、黄金の使者であってもナギって、ハヤテに負ける気が…気のせいです かね?
マインド……ねぇ。……なんか『ファイブ●イン』のオルペウスリ●グの戦闘版的な効果 が有ったりするんですかね。まだ謎が残ってるので、今後も目が離せませんね。
花南は…なんというか、まさに本物の友情的な感じですね。…ヒナギクには一生わからな い気がしないこともないですが。まず、ヒナギクは言葉の真意をくみ取る感覚を養う必要が ありますね。……ハヤテと一緒に。
まぁ、こちらも感想をいただき、感謝しています。これからも感想を書くので、更新頑張 ってください。(まぁ、僕の書き込みは感想といえるのか謎ですが。)
ではまた。
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Re: 新世界への神話Drei 7月26日更新 ( No.35 ) |
- 日時: 2012/07/30 20:26
- 名前: 疾球
どうもです。 さいきん来れなくてすみません。 まあ感想に。
佳幸は花南の盾ですか・・・ 自分から凄い役を請け負いましたね。 しかも自分ではなくパートナーを心配するなんて・・・ 漢ですね。格好いいです。
花南はやはり嬉しいですよね。 佳幸に守られる。佳幸は傷ついてしまうけど 大切な人に守られる。すてきですね。
黄金の使者の必殺技はちなみにどれくらい凄いんですかね? 何かに例えていただけませんか?かなり気になります。
花南がマインドを発動させましたね。 黄金の使者も流石に驚きを隠せてませんね。
ロクウェルを一人で倒しましたか。 やりますね。そして第一関門突破。 次はどのような展開が来るのでしょうか。楽しみです。
ではまた。
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Re: 新世界への神話Drei 7月26日更新 ( No.36 ) |
- 日時: 2012/08/07 22:57
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 先週、また親知らずを抜きました。
歯茎の中に埋まっていた歯を抜いた後は、口内が腫れて腫れてロクにしゃべれず食べれずでした。 しかも痛い…。二度とはなりたくないです。
さて、まずはレス返しから。
キーさんへ
>キーでし。
どうも、感想ありがとうございます。
>相変わらず凄い面子です。なんか、リン以外の我がオリキャラ総出で行ってもかなわない気がします。なんか、黄金の使者であってもナギって、ハヤテに負ける気が…気のせいですかね?
そちらのキャラとは、戦ってみなければわからないと思います。ただ、技の威力はこちらの方が高いかもしれません
>マインド……ねぇ。……なんか『ファイブ●イン』のオルペウスリ●グの戦闘版的な効果が有ったりするんですかね。まだ謎が残ってるので、今後も目が離せませんね。
ファイブ●インあまり見たことないのでよくわかりませんけど、力を引き出すという効果があるので似ています。 後日、用語説明を載せます。
>花南は…なんというか、まさに本物の友情的な感じですね。…ヒナギクには一生わからない気がしないこともないですが。まず、ヒナギクは言葉の真意をくみ取る感覚を養う必要がありますね。……ハヤテと一緒に。
ヒナギクもハヤテも、真っ直ぐですけどどこか単純なところがありますからね。 対して、花南は少々ひねくれているけど思慮がある。その違いなだけです。 まあ、これは社会経験みたいなものによりますから、簡単にはどうにもならないと思います。
>まぁ、こちらも感想をいただき、感謝しています。これからも感想を書くので、更新頑張ってください。(まぁ、僕の書き込みは感想といえるのか謎ですが。)
内容はともかく、書いて下さるだけでもう入れしいです。 お互い頑張っていきましょう。
>ではまた。
キーさん、また会いましょう。
疾球さんへ
>どうもです。 >さいきん来れなくてすみません。 >まあ感想に。
お久しぶりです。 感想は書ける時でいいですよ。
>佳幸は花南の盾ですか・・・ >自分から凄い役を請け負いましたね。 >しかも自分ではなくパートナーを心配するなんて・・・ >漢ですね。格好いいです。
佳幸は見かけは穏やかそうな印象ですけど、こういう時になると熱いです。 最もそれを前面に出すのではなく、一歩引いて静かに燃え上がる。 そんなかっこよさを持たせています。
>花南はやはり嬉しいですよね。 >佳幸に守られる。佳幸は傷ついてしまうけど >大切な人に守られる。すてきですね。
そりゃ花南もまだ、女の子ですからね。 惚れている男の子が約束守ってくれるとなると嬉しいものです。 このシーンは、二人が強く結び付いていることを表しました。
>黄金の使者の必殺技はちなみにどれくらい凄いんですかね? >何かに例えていただけませんか?かなり気になります。
例えるっていうのは結構難しいですね。 戦闘の状況によって、威力も範囲も違ってきますし、そもそも心というものを鍵としているので絶対的な数値は出しにくいものです。 ただ、相手が使者限定での戦いとするならば、白銀の使者でも一撃で決着が着く、まともに当たらなくても大ダメージは必須と言ったところでしょうか。
>花南がマインドを発動させましたね。 >黄金の使者も流石に驚きを隠せてませんね。
ここで述べますが、黄金以外がマインドを発動したというのは前例がないとされています。 付け加えて、マインドは誰もが発動できる可能性を持ちますが、それが難しいという設定です。
>ロクウェルを一人で倒しましたか。 >やりますね。そして第一関門突破。 >次はどのような展開が来るのでしょうか。楽しみです。
次回はちょっと戻ってみます。 何故なら、次は彼の番ですから。
>ではまた。
また会える日を楽しみにしています。
キーさん、疾球さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。
今回から第35話、楽しんでください。
第35話 雷凰突入
1 ハヤテたちが山の間を突破した頃。
ジェットたちは今も霊神宮の雑兵である使者たちと戦っていた。百以上はあると思われる敵の数と、咲夜たちを守りながらの戦闘なので苦しい展開を強いられていると思われていたのだが…。
「う、うぬぬ…」
敵の使者たちは、ジェット、ドリル、ジムたちに対して悔しげに唸っていた。
彼ら三人は何十倍もの戦力差にも関わらず果敢に戦い、今では使者たちの半分以上は打ち倒されていた。特に凄まじいのはジェットであり、愛刀を振るってはいるが鎧等の力は使っておらず、しかも息切れ一つ起こしていない。
修羅の様な威圧を放つジェットたち。彼らを突き動かしているのは、主であるダイへの忠誠心だ。ダイをなんとしても救出するのだという想いが、三人の原動力となっているのだ。
使者たちは、そんな彼らの気迫に圧倒されて、引き気味であった。
「ひ、怯むな!」
そんな状況の中、指揮官と思わしき使者が弱腰となっている部下たちに激を飛ばした。
「これ以上、たった三人にいいようにはー」
しかし彼は、最後まで言い切ることはできなかった。
突然、辺りに巨大な影が落とされたのだ。視界が暗くなったことに、敵も味方も戸惑ってしまう。
一体何なのかと上空を見上げ、そこにあるものに目を見張った。
巨大なロボットが三体、それぞれ赤、青、緑の色が映える機体がこちらを見下ろしていた。
「ロ、ロボットだぁ!」 「わぁ、カッコイイ!」
美希たち三人娘は危うく腰を抜かしてしまうほど仰天してしまい、歩は顔を輝かせて歓声を上げる。咲夜と千桜も黙ってはいたものの、顔を紅潮させて興奮していた。
「またこの世界のロボットですか?」 「なんなんだ、あれは?」
ジムとドリルが訝しむ中、一番冷静であったジェットの耳は使者たちの呟きを聞き取っていた。
「セフィーロの、伝説の魔神…!」 「何故魔神がここに…!?」
その魔神はこちらに向かって降下し、着地した。更に赤い魔神は右手に何かを抱えており、それをそっと地面に下ろした。
その赤い魔神の手から、ある一人の人物が降りてきた。その者も、予想外であった。
「おまえは!」
その男を見たジェット、ドリル、ジムの三人は息を呑む。
男は、そんな彼らの驚愕をよそにゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
「なんだ貴様は?」
精霊と一体化している白銀の使者の一人が、突然の来訪者へと近づいていく。
「どけ」
男はそんな使者を突っぱね、更には他の使者たちに向けても言い放った。
「おまえたちも邪魔をするな。道を開けろ」 「なんだと…」
使者たちは男の言葉に憤慨し出す。そんな中で、使者の一人があることに気づいた。
「おいこいつ、陰鬱の使者の一部を引き入れたものの、ダスク峡谷で潰れたっていう奴じゃないか?」
その一言で、使者たちは男に対して侮蔑的な態度を取り始めた。
「死に損ないが、この霊神宮をうろつくとは身の程知らずが」 「目障りだな。全員で片付けてやる!」
使者たちは、一斉に男へと飛びかかった。
これに対して男は、避けようとする気配すら見せなかった。
「どかぬなら、力づくでどかせてもらうぞ」
男がそう呟いた次の瞬間、眩い閃光が起こった。
そして、男に襲いかかろうとしていた使者たちは皆吹っ飛ばされてしまった。
「痛い目にあいたくなければ…と、もう遅いか」
使者たちを一瞬で倒したのは、人型形態の精霊だった。その精霊を、ジェットたちは知っていた。
「雷のライオーガ…」
それだけで、男の正体がわかる。
「やはり、生きていたのだな」
ジェットは、複雑な心境を込めてその名を口にした。
「ハヤテの兄、綾崎雷矢よ」
ちょっと短いですが、今回はここまでです。
感想、指摘等があれば報告ください。
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Re: 新世界への神話Drei 8月7日更新 ( No.37 ) |
- 日時: 2012/08/08 17:30
- 名前: キー
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=9051
- キーです。
調「どうも。ついに……雷矢が現れました。次回から雷矢が大活躍……することを期待し ます。」
ナオ「ジェット・ドリル・ジムも強いですね。…それとも敵が弱いか。……指揮官が一番 怯んで見えますね。この3人も今後活躍するんでしょうね。」
調「まぁ、とはいっても次回以降の一番の楽しみは雷矢ですけど。……敵は雷矢についてまるでわかっていない。…雷矢に勝てるわけが……です。」
ナオ「霊神宮とジェットたちでは、すべてが違い過ぎですね。」
調「次回、雷矢とジェットたちはどうするのか。……次回も楽しみにしています。」
ではまた。
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Re: 新世界への神話Drei 8月7日更新 ( No.38 ) |
- 日時: 2012/08/12 22:09
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
夏も本番ですね。暑くてかないません…。 みなさんも夏バテしないようにしてください。
さて、まずはレス返しから。
キーさんへ
>キーです。
どうも、感想ありがとうございます。
>調「どうも。ついに……雷矢が現れました。次回から雷矢が大活躍……することを期待します。」
今回は雷矢編になりますから、彼は活躍します。
>ナオ「ジェット・ドリル・ジムも強いですね。…それとも敵が弱いか。……指揮官が一番怯んで見えますね。この3人も今後活躍するんでしょうね。」
あの三人は強いですよ。特にジェットが。 ゲームで言うところの名無し兵では敵わないでしょう。 今後は、もっと先に登場する予定です。
>調「まぁ、とはいっても次回以降の一番の楽しみは雷矢ですけど。……敵は雷矢についてまるでわかっていない。…雷矢に勝てるわけが……です。」
雷矢が本当に戦う相手は、別にいますよ。 これからが強敵に当たるところなので、楽しみにしてください。
>ナオ「霊神宮とジェットたちでは、すべてが違い過ぎですね。」
ジェットたちは原作であるクロノスの大逆襲から何年か後という設定です。 その間、彼らはさらに戦闘を経験して強くなっています。並大抵の相手に遅れを取ることはありませんから。
>調「次回、雷矢とジェットたちはどうするのか。……次回も楽しみにしています。」
雷矢とジェットたちの絡みは今回少なめです。 ですが、今回の話を楽しんで下さると嬉しいです。
>ではまた。
キーさん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です!
2 雷矢は、自分に刃向かう使者がこれ以上いないことを確認した後、ジェット太知事へと顔を向けた。
「久しぶりだな。もっとも、初めて顔を合わせる奴らもいるようだが」
相も変わらずの険しい表情で千桜や泉たちに目を向ける雷矢。なんとなく彼に眼を飛ばされたような気になってしまった彼女たちは、身を強張らせてしまった。
「色々と聞きたいことがある…」
ジェットは、慎重な調子で口を開いていく。
「まず、あれはなんだ?」
そう言って、雷矢の背後にそびえ立つ三体のロボットを指差した。
自分たちと戦ってから、雷矢はどうしていたのかということは聞くつもりはなかった。何があろうと、生きている限り何度でも立ち上がる男なのだ。その際、こちらの度肝を必ずと言っていいほど抜かしてくる。
だからあんなロボットに乗せられるような形で登場しても不思議ではない。問題は、そのロボットの素性である。
霊神宮という組織であるものと、自分たちは今対立しているのだ。雷矢を連れてきたのだからその戦いに水を差すつもりなのだろうが、何が目的なのかを知っておくべきだ。
「それは、魔神に乗っているあいつらから聞けばいい」
雷矢がそう言うのと同時に、魔神の胸部宝石から光が地面に向かって放たれた。そしてその中から、それぞれの魔神の色に合わせた甲冑を着込んだ少女が三人、ゆっくりとエスカレーターに乗っているかのように降りてきた。
「女の子…?」
自分たちよりも年下な、中学生みたいに見える女の子たちがあのような巨大ロボットを動かしていたということに、千桜たちは軽く驚いた。
だがジェットたちは対照的に平然としていた。彼らの世界では、色々と事情があったにせよ中学生、果ては小学生までが戦士として戦っていたという光景を目の当たりにしてきたからだ。
あの三人も、詳しいことは知らないが戦うことを覚悟しているのだろう。
少女たちが地面に着くと、魔神は消え、少女たちの甲冑も制服の上に着用する軽装なものへと変わる。
それから、少女たちは雷矢に近づくのだが…。
「あーっ!」
少女たちの顔が確認できるところで、突然美希が声をあげた。
「み、美希ちゃん?」 「お、おいどうした?」
泉と理沙が驚いて何事かを尋ねてみるが、美希は二人に構ってはいられなかった。
「おまえ、ノヴァ!」
美希はそう言って、長い髪をおさげにした少女を指差した。
「え…?」
その少女、獅堂光はキョトンとしてしまう。
「おまえ、こんなところに何しに来た!」 「ちょ、ちょっと美希さん!」
怒った調子で光に喰ってかかろうとする美希を、歩が何とか抑えている。
「に、似ているけど別人じゃないかな?」 「え?」
言われて、美希は光の顔をまじまじと見てみる。
確かに、一見すると同一人物のようにも思えるが、この少女の赤い髪はノヴァよりも濃い色であるし、耳だって尖っていない。眼もつり気味ではないと、細かいところで異なる点がいくつか見受けられる。
「そ、そうか。いやすまない」
別人だとわかった美希は、光に向かって頭を下げた。
「ちょっと、何なのよあなたたちは」
いきなりケンカ腰で迫ってきたためか、光の友達である龍咲海は腹を立てている。
だがふっかけられた当の光はそれほど機嫌を悪くした様子はなかった。そんな彼女は、海を押し除けんかのような勢いで問いかけた。
「あの、ノヴァを知っているのか?」
ノヴァのことが気がかりな光としては、彼女のことを知っているのならば何でもいいから教えてほしい。そんな気持ちが大きく、つい美希たちの前まで勢い込んで出てしまったのだ。
「い、いや詳しくは知らないんだ」
光の剣幕に押されそうになったのか、美希は若干たじろぎながら答える。
「ただ、私たちもあいつに襲われたというだけで…」 「そ、そうか…」
期待していた情報が得られず、光はついうなだれてしまう。
直接出会うよりも前から夢の中で話しかけられていたとはいえ、少々不安過ぎて神経質になっていると自分でもわかっている。だが、なんとなくあのノヴァという少女は放っておけない感じがするのだ。彼女を思うと、まるで自分の心が半分えぐられるような気分になる。
「よろしいですか?」
と、それまで光や海の後ろで控えていた鳳凰寺風が、話を切り替えるために意見をしてきた。
「先ほどの様子から見て悠長なことをしているわけにはいきません。ですが、詳しい事情も知らないままというのも困りますので、互いに情報を交換し合うというのはどうでしょうか?」
人のよい笑顔を見せる風。
それを見てジェットは確信する。この少女は切れ者だ。仲間の二人も、意志の強そうな眼をしている。
感情的に、敵に回したくない。
「わかった。そうしよう」
ジェットは、風の申し出を引き受けた。
「まず、この霊神宮と精霊についてだが…」 「それについては既にご存じですわ」
風は雷矢に一目やってからにっこりと言う。
「ここへの道中に、聞けることは全てあの方から説明していただきましたわ」
雷矢はこちらを一瞥し、すぐに背を向けた。急いでいるから早くしろと言っているようだ。
「わかった。まず俺たちについてだが…」
今回はここまでです。 感想、指摘等があったら報告ください。
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Re: 新世界への神話Drei 8月12日更新 ( No.39 ) |
- 日時: 2012/08/21 19:53
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
八月も後半ですね。 まだまだ暑いですが頑張りましょう。
それでは、本編です。
3 「…なるほど。よくわかった」
自分たちの事については話し終えたジェットたち。そして今度は、光たちの話を聞いている。
「この世界にはセフィーロという国が存在するというのは小耳にはさんでいたが、まさかおまえたちが綾崎と同じ世界の人間だったとは驚いたぞ」
このことに、咲夜や歩たちといったあっちの世界の住人たちは特に驚いていた。
「私たちも、この世界で自分たち以外の地球の人たちと出会うなんて、思いもしなかったわ」
海は如何にもびっくりしました、と言わんばかりに目を丸くしている。光と風も、同様に衝撃を受けていた。
「私たちとしては、魔法というものがまるで信じられないのだが…」
理沙が胡散臭そうに光たちを、まるで品定めするかのようにじろじろと見ている。現在精霊という不可思議な存在を目の当たりにしているというのに、魔法という言葉には違った響きがするのだろう。
そんな中、微笑みを浮かべながら風がジェットたちに近づいた。
「見たところ、傷を負っていらっしゃいますね」
そう。大群の使者たちを寄せ付けなかったジェットたちとはいえ、全く傷を負わないということは難しいことである。それでも、何でもないように立っていられるのは歴戦を重ねてきた戦士らしく、流石だとも言えよう。
そんな彼らに向かって、風が手をかざすと、彼女の周囲がそよ風で揺れ出した。
「癒しの風!」
彼女がそう唱えると、ジェット、ドリル、ジムの身体が魔法によって生じた風に包まれていく。その風が、ジェットたちの傷を塞いでいく。
どうやら、風は回復魔法が使えるようだ。
「どう、これで信じてもらえるよね?」
海はこちらを振り返り、得意気に鼻を鳴らした。
咲夜たちは黙って頷く。光たちが格好よく見えたのか、目を輝かせている。しかし…。
「あんたがやったわけじゃないっちゅうのにな…」
魔法を見せたのは風だ。それなのに、さも自分がやったような態度の海に若干呆れてしまっているのだ。
「しょうがないでしょ!」
すると海は逆ギレとまではいかないが、怒ったように熱く言い寄って来た。
「私と光は攻撃用の魔法しか使えないのよ!それに魔法は無闇やたらに使うと自分の身が危なくなるの!」
魔法は便利だが、意味もなく使うとその威力が自分に跳ね返ってくるのだ。標的が存在して、それに狙いを定めることで魔法の効果を正く発揮させることができるのだ。 魔法は目的のためだけに使わなければならないと導師クレフに教えられた。改めて考えると、魔法というのは契約に基づいているものではないかと思う。
賑やかに会話している中で、ただ一人雷矢は我関せずといったように輪の中から外れ歩き出そうとしていた。
「あ、おい待てよ!」
それに気づいたドリルたちは、慌てて彼の前まで走り止めに入った。
「どこに行くんだよ、おまえ」 「決まっている」
憮然とした様子で雷矢は言い放つ。
「明智天帥のもとだ。奴が何を狙っているのか、この手で吐かせてやる」
目的自体はこちらと大差はない。ただ、力で訴えるその乱暴な手段は、相変わらずというか、なんというか。
「なんだ?」
呆れたような目で見ていると、雷矢が睨みを利かせてきた。
「い、いえ、なんでもありません」
その凄みに脅えた美希たちは、文句がないということを表すため慌てて笑顔を取り繕う。
「そうか…」
すると雷矢は再び歩き出そうとする。その挙動に、ジェットたちは違和感を覚えた。
以前の彼は立っているだけでも身を焦がすほどの強烈な憎しみを発していたのだが、今は違う。威厳のようなものは確かに感じられるが、それは剥き出しに放っておらず、自分の身の内に大人しく潜めていた。
「ちょっと待て」
しかし、それと雷矢を先に行かせるのは別である。
「明智天帥の狙いがわかったとして、その後はどうするつもりだ?」
サングラス越しに、ジェットの刺すような目が見える。
「まさか、戦うつもりか?」 「奴の考えによっては、あるいは…」
あるいはなんてものじゃないだろう。
必ずやるだろう、この男は。絶対に。
「その邪魔をするならば、以前のように弟たちにも手をあげるか?」
この問いに対し、雷矢は微かに眉をひそめた。誰にも悟られない程度であったので、ジェット以外誰も気付けなかった。
口調も変化がなかったので、彼がほんの少し心が揺らいだなんて誰もが思いもしなかっただろう。
そんな雷矢は、こう答えた。
「…今の俺には、明智天帥以外眼中にない」
それは聞こえようによっては危険だと思われる答えであった。自分の標的以外は例え殺してしまっても構わないと受け取れてしまう。それだけのことを、目の前にいる男はやってきたのだ。
だがジェットは、今の雷矢からはそのような真似はしないと、なんとなく感じていた。今の言葉だって、狙いはあくまで明智天帥だけであって、他は相手にすることはないということだろう。
それは、なんとなくだが感じた雷矢の静かな意志からそう考えたのだろう。
「…そうか」
その上で、ジェットは雷矢にこう返した。
「なら、先へ進め。獅堂たちと一緒にな」 「いいのですか?」
自分たちも含めてのことに、風は確認をとってみる。
「引きとめる理由はないさ。それに…」 「それに?」
続けようとした言葉を、海が促そうとするが。
「…いや、なんでもない」
引きとめようとしてもこの四人は自分たちを倒してでも進むだろうと、敵であった男やまだ子供である少女たちの前で口にするのは、なんとなくジェットのプライドが許せなかった。
「それじゃあ、行こうか」
光の呼びかけに、海と風は頷く。
そんな三人に構わず、雷矢は我先にと歩き出していた。
「あ、待ってよ!」
光たちは慌てて彼のあとを追いかける。雷矢は彼女たちに目もくれず先を目指している。
「いいんですか?ジェットさん」
雷矢たちの背を見送っているジェットに、ジムが耳打ちをしてくる。どうやら彼は、雷矢の事をまだ完全に信じてはいないようだ。
「大丈夫だろう。後のことは綾崎たちに任せよう」
雷矢が対面すべきなのは、ハヤテたちであろう。だからこそ、雷矢についてどうするかは、ハヤテたちが決めることなのだ。雷矢もまた、彼らと戦い以外での決着をつかなければならない。
「それに、獅堂たちもいるしな」
光たち三人に対してジェットがそう思うのは、彼女たちの目を見たからだ。
ダイやハヤテ、ナギたちと同じ、真っ直ぐな意志の強い目だった。
ああいう人間は、周囲に強い影響を与えていく。良くも悪くも、だ。
そして、既に雷矢は影響を受けているに違いない。そうでなければ、あんなに大人しくなれるはずがない。
と、他人の事で考えることができるのはここまでであった。
「これ以上はすきにさせんぞ!」
新たな使者の軍団が現れ、ジェットたちに今でも襲いかかろうとしていた。
「まったく、休ませてはくれないみたいだな」
軽口を叩きながらジェットは刀に手をかけるのであった。
今回はここまでです。
感想、指摘等があったらよろしくお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 8月21日更新 ( No.40 ) |
- 日時: 2012/08/28 20:58
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
夏休み、皆さん楽しめましたか。 少しでも充実していると幸いです。
それでは本編です。 今回から雷矢の戦いが始まります。
4 大聖殿へと続く階段へと足を踏み入れた雷矢は、その長い道のりを上っている最中であった。
「もう、一体どこまで長いのよ」
うんざりしたと言わんばかりの表情で海が呟く。
彼女の気持ちもわかる。ここまでずっと昇りのままなのだ。この世界では魔法騎士と呼ばれているが、体力的に見れば普通の少女。根をあげるのは当たり前なのだ。
そんな中で、四人はある建物の前に着く。
「あれは…」
風に倣って一同は建物を見上げていた。巨大なそれは念の間とも刻まれていた。
「なんだろう…休憩所かな?」
光の呑気そうな感想に、海は呆れ、風は微笑む。
どう見ても、ここは休憩所じゃない。雰囲気でわかる。
そんな三人を無視して、雷矢は何の断りもなく扉を開け、我が物顔で中へと入っていく。
「あ、ちょっと」
いきなり建物の中に入っていくその失礼な様に眉をひそめながら、光たち三人も後に続いていく。
中は静まり返っていた。それがまた、神秘的な雰囲気を引き立てており、どこか心が落ち着く感じがした。
それに水を差したのが、とある人物の声。
「止まりなさい」
四人のものではない、この間を預かる人物が発したものだ。
静かな口調ではあったが、逆らうことを許さない威圧が含まれており思わず四人は足を止めてしまう。
「勝手にここを通りぬけてもらうわけにはいきません」
黄金の精霊の一つである念のウィルワーの使者、エーリッヒが姿を現し、四人の前に立ちはだかった。
穏やかではあったが、エーリッヒから発している気迫がひしひしとこちらに伝わってくる。
しかし、光、海、風の三人は怯むことはなかった。彼女たちがセフィーロでの戦いを経験したことによって強くなった意志の力は、黄金の使者を相手に恐れを抱いても、決して引くことはしなかった。
三人が今まで対峙した中で、一番プレッシャーを感じたのはセフィーロの神官と、彼が愛した姫である。
ゆずれない願いのために戦い、亡くなった二人。その胸中を知ることなく手にかけた三人は、もう二度と悲しみを味わいたくない、後悔したくないと思っている。
「…ねえ、あなたの名前はなんていうんだ?」
光は、尋ねながらエーリッヒを見返す。芯の通った目で。
反らすことも無視することも、許されなかった。
「私は、エーリッヒと申します」 「エーリッヒ、あなたは明智天師のために戦っているのか?」
知りたかった。相手が何を考えているのかわからないままというのは、例え戦うことになったとしても耐えがたいことだ。
まだ若く、だからこそ眩しい純粋さである。
先にここを通って行った、あの少年少女たちのように。
だから思わず、少し素直に答えてしまう。
「明智天師のためではありません。あえて言うなら、偉大な先人との約束のため、ですね」
エーリッヒの脳裏に、賢明大聖の後ろ姿が浮かんできた。腐敗の中でも埋もれずにいた、立派な使者の姿を。
もちろんそんな胸中も人物も知らない光たちは首を傾げてしまう。
「先人…?先人って…」 「これ以上は語りません」
再びエーリッヒの目つきが鋭くなる。
「ここを通ろうとするならば、力づくでも阻止します」
そのままウィルワーと一体化し、臨戦態勢を取る。
彼は、本気であった。
「言いたいことはわかった」
すると、それまで光たちの後ろで黙って様子を見ていた雷矢が動き出し、かき分けるように彼女たちの前に出た。
「あなたは…ライオーガの使者、綾崎雷矢ですね」
そこではじめて、エーリッヒを雷矢は互いに見合った。二人とも無言ではいるものの、睨み合っているだけでも両者の間にはとてつもない緊張感が漂っている。
それが身に深く刺されたように伝わったので、光たちは思わず竦んでしまう。
「陰鬱の使者たちの一部を力づくで引き入れ、三界で暴れ回ろうとしていた男が、この霊神宮で何を企んでいるのですか?」
光たちに対する時よりも強まった警戒心を剥き出しにするエーリッヒ。だが無理もない。ハヤテやエイジたちのおかげで大きな被害にはならなかったものの、放っておいたらどれ程の混乱がもたらされようとしていたのか、想像に難くはないだろう。
「この三人と一緒にいるのだから、目的はわかりきっているだろう」
エーリッヒなど相手にしていないかのような態度で、雷矢は応じる。
「明智天師のもとへ向かうことだ」 「…明智天師はこのはるか先にある大聖殿にいます」
二人の間に入ることができない光たちはハラハラしながら様子を見ている。剣呑な雰囲気は、誰であろうと近づくことを拒ませていた。
「先程申し上げた通り、この念の間を通ることは許しません」
並の戦士でも震え上がってしまうほど、殺気を凄めるエーリッヒ。
しかし、それで怯む雷矢ではない。
「いちいち告げずとも、おまえもわかっているのだろう?」
雷矢の闘志に応じ、ライオーガが放電を起こしながら姿を現す。
「ここを通らせないと言うのなら、戦って、おまえを倒して通るまでだ」
そう言うのと同時に、雷矢はライオーガと一体化する。
二人の緊迫感は最大限に張り詰め、いまにも火が着きそうであった。
次回、雷矢とエーリッヒが激突する…
感想、指摘等があれば報告お願いします。
それでは。
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Re: 新世界への神話Drei 8月28日更新 ( No.41 ) |
- 日時: 2012/09/01 20:34
- 名前: 絶影
- ど、どうもお久しぶり…絶影です(汗)
今更何だよとか聞こえてきそうですが…感想に(笑)
おお!ちょっとひなゆめに来ていない内に雷矢が復活してる! そして光たちと共に霊神宮乗り込んで…え?エーリッヒと対決… うーん…今までの経緯からエーリッヒが怪しむのは当然ですが… 今の雷矢を見ると、二人が争う必要はない気がしますね(笑)
いくら雷矢が強いと言っても、黄金の使者であるエーリッヒに勝つことができるのか!
そしてハヤテ達は一人目(実質二人目ですけど)の黄金の使者ロクウェルと対決。 花南の頑張りでこの強敵を退けることが出来ました。 次はどんな強敵が現れるのでしょうか?
雷矢の戦いはもちろん、そちらの方も楽しみです! それでは次回の更新もお待ちしてます。
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Re: 新世界への神話Drei 8月28日更新 ( No.42 ) |
- 日時: 2012/09/02 10:47
- 名前: キー
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=9051
- χ「今回は……ジェットたちより雷矢だな。」
調「若干ひどくないか?」
χ「まぁ、それだけ雷矢に期待してるんだよ。」
調「とはいっても、この様子だとエーリッヒも実はわかってるんじゃないかな。」
χ「まぁ、どのみち形式上でもやらなくてはならないんだろ。」
ナオ「それより次回だね。…雷矢さんとエーリッヒさんが戦う。」
χ「そうだな。…ジェットたちよりも雷矢だな。」
調「ひどいことを言ってるのに気付いているのか?…まぁ、いい。」
χ「あ、次回以降の感想でキャラのリクエストが有ればどうぞ。」
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Re: 新世界への神話Drei 8月28日更新 ( No.43 ) |
- 日時: 2012/09/07 22:41
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 九月に入りましたね。
これから涼しくなると思うので夏より快適になるはずです。
さて、まずはレス返しから。
絶影さんへ
>ど、どうもお久しぶり…絶影です(汗) >今更何だよとか聞こえてきそうですが…感想に(笑)
お久しぶりです! 絶影さんが来てくれてうれしいです!
>おお!ちょっとひなゆめに来ていない内に雷矢が復活してる! >そして光たちと共に霊神宮乗り込んで…え?エーリッヒと対決… >うーん…今までの経緯からエーリッヒが怪しむのは当然ですが… >今の雷矢を見ると、二人が争う必要はない気がしますね(笑)
雷矢の話は試行錯誤を繰り広げましたからね。そして今回もどうしようかと悩んでいました。 エーリッヒの対決は、エーリッヒの役割上避けられないので。雷矢にとっても、重要な戦いになるわけですから、戦うというのが自然です。
>いくら雷矢が強いと言っても、黄金の使者であるエーリッヒに勝つことができるのか!
レベル差というのは、今回の話を見ればわかります。 これを見る限りは、ねえ…。
>そしてハヤテ達は一人目(実質二人目ですけど)の黄金の使者ロクウェルと対決。 >花南の頑張りでこの強敵を退けることが出来ました。 >次はどんな強敵が現れるのでしょうか?
次の刺客についても、考案中です。 結構時間がかかりますが、それだけ楽しめるよう頑張っています。
>雷矢の戦いはもちろん、そちらの方も楽しみです! >それでは次回の更新もお待ちしてます。
とりあえず、今回の雷矢の戦いを楽しんでいただければと思います。 絶影さんも頑張ってください。
キーさんへ
>χ「今回は……ジェットたちより雷矢だな。」 >調「若干ひどくないか?」
ジェット「ふう、ずいぶんな言われようだな」 ジム「まあ、今回の私たちは裏方ですので」 ドリル「仕方ないと言えば仕方ないな」
>χ「まぁ、それだけ雷矢に期待してるんだよ。」 >調「とはいっても、この様子だとエーリッヒも実はわかってるんじゃないかな。」
エーリッヒは雷矢がどれだけの強さかわかりませんから。 まずは雷矢を見る、それからです。
>χ「まぁ、どのみち形式上でもやらなくてはならないんだろ。」 >ナオ「それより次回だね。…雷矢さんとエーリッヒさんが戦う。」 >χ「そうだな。…ジェットたちよりも雷矢だな。」 >調「ひどいことを言ってるのに気付いているのか?…まぁ、いい。」
雑魚相手のジェットたちよりは楽しめると思います。 雷矢がどう戦うか、見ていてください。
>χ「あ、次回以降の感想でキャラのリクエストが有ればどうぞ。」
それでは、奏さんでお願いします。
絶影さん、キーさん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。
5 「戦うんだな…」
雷矢とエーリッヒの二人を見て光は呟く。海と風も、戦いは避けられないと直感していた。
精霊と一体化した二人の殺気は本物であり、いくら死闘を経験したことがあるとはいえ、日本の普通の中学生でしかない三人には無闇に割って入ることなどできなかった。
それと同時に、悲しくもあった。仕方のないことであるというのはわかりきってはいるのだが、それでも戦わずに済めば、とどうしても思ってしまう。全てを割りきれないところは、甘いかもしれない。
だが、この期に及んでそんなことを言うつもりも、増してやあくまで戦いを止めようという気もない。
二人とも、自分自身のために戦おうとしているのだ。自分たちがここへ来たのも、自らがそう願ったからである。雷矢とエーリッヒも、同様のことであろう。
それに、三人は”今は”戦いに割って入れないが、入るつもりがないということでもない。
後悔だけはしない。
そのために今は、戦うのだ。
雷矢とエーリッヒは未だに睨み合いを続けていた。
互いに相手の出方を伺い、一瞬の隙も見逃さないと神経を張り詰めていた。
これが黄金の使者同士の戦いならば、このような緊迫した状況にもなると納得ができるが、エーリッヒが今相手にしているのは雷矢だ。
たかが青銅レベルの使者でしかないはずの男が、黄金の使者にこれほどまで警戒されている。
そうさせているのは、綾崎雷矢から発している凄まじい闘志のためであった。それは青銅のレベルを遥かに超えていたのだ。
二人は硬直したかのように尚も身動き一つもしない。一秒が、二人には一時間以上にも感じているに違いない。
尚も続く膠着状態。放っておいたら永遠にそのままでいるかもしれないと思われた。
だがそれも、ついに破られた。
雷矢がいきなりエーリッヒに向けて放電してきたのだ。何のアクションも起こさない、ノーモーションからの攻撃。完全に不意を突いた形であった。
しかしそれは、エーリッヒに届くことはなかった。電撃が放たれたと同時に、雷矢の目の前からエーリッヒの姿が突然消えたのだ。
次の瞬間、雷矢は背後から突然発生した殺気を感じ、反射的にその場から飛び退いた。それと同時に、雷矢がそれまで立っていた場所が何か見えない力で押されてしまったかのように大きく窪んでしまった。
「…な、なにあれ?」
超常現象のように起こった光景に、目をぱちくりさせている海。光も風も驚いていた。
雷矢とライオーガの力は、これより前に目にしていたから不思議とも思わなかった。だがエーリッヒについては不明な点が多かった。
何故、一瞬で姿が消えたり現れたりしたのか。何故、床が砕けたりしたのかまったくわからない。
「なるほど、だから念の間というわけか…」
一方で、エーリッヒと直接相まみえた雷矢は、相手の力について十分に察することができた。
「おまえの精霊が司るのは念力。そしておまえ自身も超能力者だということだな」
突然消えたり現れたりしたのはテレポートによるもの。床を粉砕したのも念力によるものだということ。今までの中でも特殊なものである力と、表の門に刻まれてあった念の間という言葉からそこに結び付いたのだ。
雷矢から念力という単語を聞いて、光たちは納得すると同時に彼に対して感心していた。あのたった一瞬でそこまで悟るというのは、彼女たちには無理なことだ。三人の中で一番賢い風でさえ、もう少し時間をかければ気づけたかもしれない。
それだけに、雷矢にはただ驚愕するしかなかった。これが幾多の戦いを潜り抜けた戦士ということなのだろうか。
エーリッヒも同様に、性格が変わればそれが表に出ていたであろう。彼もまた、雷矢の使者としての資質を見抜いていた。
いくら規格外とはいえ、格下である青銅の実力を測れぬようでは、賢明大聖に特命を受けないどころか、黄金の使者として廃ってしまう。
この男は、ただ者ではない。
それを敵味方共通して、強く認識する。
そして、彼らにそんな感情を抱かせた雷矢は、エーリッヒに対して先程以上に警戒していた。
相手の力はわかったが、攻略法にまでは至っていない。
超能力にもエーリッヒ自身にも隙が全く見当たらなかった。攻め口がない以上、無闇に攻撃することは避けるべきであるし、先程の攻防によって奇襲は通用しないことは証明されている。
では、守りに徹するべきだろうか?
いや、それは愚かな選択だ。雷矢にはそれがわかっているから、防御という考えを頭から追い払っている。
今まで見てきた、雷や炎などという力と違い、念力は詳しいメカニズムは解明されていない。つまり、その力に対抗するすべは全くないのだ。
「どうしましたか?」
中々行動を起こさない雷矢の相手であるエーリッヒは、冷ややかに声をかける。
「私を倒さない限り、先へは進めませんよ?」
雷矢と対面している彼は棒立ちのまま。一見すると隙が多いように思われるが、超能力の発動に構えなど必要はなく、あれで戦闘態勢となっているのだ。
「動かないのであれば、こちらからいきますよ」
エーリッヒがそう言ってからすぐに、彼の念力によって雷矢が軽く飛ばされ、壁に激突してしまう。
「雷矢さん!」
その場で倒れこむ雷矢の姿を見て、光たちは声をあげる。
三人はエーリッヒの超能力を前に、すっかり言葉を失ってしまった。何を言っていいのか、わからないのだ。
一般的な精霊の使者がどれ程の実力を持っているのかは知らないが、強大な力を持つ雷矢を寄せ付けないエーリッヒは、口を閉ざしてしまうほど衝撃的だったのだ。
とはいえ、彼女たちは足が竦んでただ見ていることしかできないような臆病者ではない。手甲の宝石から各々剣を取り出し、エーリッヒと戦う姿勢を見せた。
だが。
「手を出すな!」
雷矢の張り上げた声に、三人は反射的に足を止めた。
それだけの迫力が、雷矢の声には込められていたのだ。
「こいつは、俺がやる!」
冗談ではない、と雷矢は思っていた。
いくら相手が自分よりも遥かに格上の黄金の使者であったとしても。
いくら少女たちが魔法を使え、腕が立つ者だったとしても。
女の子に、しかも三人に助けられたとあっては、この戦いに敗れること以上に屈辱なのだ。
そのプライドを支えに、雷矢はよろよろと立ち上がる。
超能力を防げない以上、彼が取れる手は一つしかなかった。
一瞬でも気を緩めてはいけない。間違いなく反撃を受けてしまう。
踏み込む足に力を入れ、先程以上に神経を尖らせる。
そんな雷矢の直感が、エーリッヒの周囲が微かに揺らいだのを捉えた。
恐らくは、念力を使う兆候だろう。
雷矢は躊躇することはなかった。
「電光石火!」
彼は一気にエーリッヒに襲いかかった。そのスピードは、瞬きしてしまえばもう追うことは不可能なほど速かった。
雷矢の狙い。それは相手が念力を繰り出すよりも早く攻撃することであった。
確かに念力を使う前ならば、エーリッヒを叩けるだろう。だが、念力が発動されるまでの時間は定かではないし、電光石火で以ても先手を取れないかもしれなかった。技自体をかわされることだって考えられる。
不安要素はあったものの、結果としては的を得た。
雷矢の必殺技はエーリッヒに命中し、相手の体勢を崩させた。
それにより、エーリッヒからプレッシャーが霧散したように感じ、念力の使用を阻止したのだと察した。
まずは出鼻をくじいた雷矢。だが、その成功に浮かれている暇はなかった。
雷矢は矢継ぎ早にエーリッヒに攻撃していく。念力を使う間を与えてしまえば確実にやられてしまう。そうなれば、せっかく先手を打てたことが水泡に帰してしまう。
手を止めてはやられてしまう。その思いから雷矢は次々と拳を繰り出し、電撃を浴びせる。
激しい猛攻にさらされているエーリッヒ。だというのに、彼はそれでも平然とした態度を変えないでいた。
「…あなたの必殺技、電光石火と言いましたね。白銀の精霊でもあれほどのスピードは出せませんから、見事なものです」 「何が言いたい…」
執拗に攻撃しているのに、苦しんでいる様子など見られない。蚊に刺された程度にしか感じていないのかと訝る雷矢。
「ですが、それでもまだ黄金の域には遠く及びません!」
そんなエーリッヒは、いつの間にか右の拳に念力を集中させていた。念力は次第に目で見えるエネルギーとなり、拳を覆っていった。
「サイキックブロー!」
念力のこもった拳が、雷矢の腹部へと入った。
次回、エーリッヒの攻撃はさらに続く…
感想、報告等があればよろしくお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 9月7日更新 ( No.44 ) |
- 日時: 2012/09/08 22:04
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7948
- どうも、絶影です。
いやはや、さすがにエーリッヒは強いですね。 雷矢もまた青銅の使者なのに白銀の使者をも超えるスピードを誇っているという時点で驚きですが(笑) しかしそんな攻撃も全くエーリッヒには効いていない。 黄金の使者はチートか!とも思いたくなります… やはり黄金の使者と対等かそれ以上に戦うためにはあれを発動するしか…(え エーリッヒの一撃を受けた雷矢はどうなってしまったのか。 そして雷矢の静止を受けた光たちはどう動くのでしょうか。 いや動かないかもしれませんけど(汗)
次回の更新も楽しみに待ってます♪ それでは〜
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Re: 新世界への神話Drei 9月7日更新 ( No.45 ) |
- 日時: 2012/09/11 21:38
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- 今日はサッカー、イラク戦でしたね。
スポーツというのは、見ていると熱くなります。ロンドンオリンピックでもそうでした。 皆さんはどうですか?
さて、まずはレス返しから。
絶影さんへ
>どうも、絶影です。
どうも。感想ありがとうございます。
>いやはや、さすがにエーリッヒは強いですね。 >雷矢もまた青銅の使者なのに白銀の使者をも超えるスピードを誇っているという時点で驚きですが(笑)
エーリッヒは黄金の使者の中でも腕が立つ方です。 そして雷矢も規格外の実力者。 この二人の戦いは、それをより際立たせると思います。
>しかしそんな攻撃も全くエーリッヒには効いていない。 >黄金の使者はチートか!とも思いたくなります…
黄金の使者は普通なら青銅、白銀では全く歯が立たない。例え雷矢でも例外ではない。 そのことを示したかったんですが、やっぱりちょっと強すぎましたかね…?
>やはり黄金の使者と対等かそれ以上に戦うためにはあれを発動するしか…(え
そう、あれを発動するしか…(笑) それができるかどうかも含めて、見守ってください。
>エーリッヒの一撃を受けた雷矢はどうなってしまったのか。 >そして雷矢の静止を受けた光たちはどう動くのでしょうか。 >いや動かないかもしれませんけど(汗)
光たちがどう行動するか。 実は雷矢にとって重要になるので見ていてください。
>次回の更新も楽しみに待ってます♪ >それでは〜
絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは本編です。
6 必殺技による逆襲を受けた雷矢は、勢いよく吹っ飛ばされてしまう。その身に受けた衝撃は今まで味わったことのない、予想以上に大きかった。
「こ。これが黄金の使者なのか…」
今までの人生の中で地を舐めるような苦汁を幾度も経験をしたとしても、これ程の相手を前にしたことはなかった。自分の力を全く寄せ付けず、顔色一つ変えずに返してくる男を。
それは雷矢が初めて、格上の戦士と対峙したことがであった。同時に黄金の使者を、ただの敵としてではなく超えたい強者として認識していた。
絶対、この男たちに負けたくないと。倒れこみながら雷矢は強く思っていた。
そこへ、エーリッヒが追い討ちとなる次の一撃を今にも打たんとばかりに構えていた。彼の周囲で、目に見えない念力が空で鳴っている。
続けて攻撃を受けるわけにはいかない。
雷矢は起き上がる間も置かずに再び電光石火を仕掛けてきた。電光石火がエーリッヒの念力よりも速く相手に命中するのは先程証明されている。この時も、エーリッヒよりも先に必殺技が決まるものだと思われた。
「遅い!」
しかしエーリッヒが睨みを利かせると、彼の背後にウィルワーのオーラが浮かび出てきた。
「メンタルクラフィクション!」
その瞬間、電光石火で攻めようとしていた雷矢の身体が、念力によってその場に押し止められてしまった。それだけなら普通に念力を使っているだけにしか過ぎないが、今エーリッヒが放っているものは今までのものとは少し変わっていた。
それまではただ押し返そうとしていただけに過ぎなかったのが、雷矢の全身を縛り上げるように締め付けて、身動きを封じている。加えて、それまで雷矢が纏っていた電撃さえも消えてしまったのだ。
「マインドを発動させた黄金の使者が必殺技を放てば、電光石火など悪あがきにもならないのですよ」
もっとも、マインドを発動させるまで至らせたことは見事ですと付け加えながらエーリッヒは語った。
そんな称賛を受け止める余裕など、今の雷矢にはなかった。本気を出したエーリッヒの必殺技から何としても抜け出す。頭の中はその思考ばかりが駆け巡っていたからだ。
だが焦ってはいない。冷静に集中できていないようであれば、誰もが脅威を感じさせるほどの男ではない。
この拘束を力づくで打ち破れないか試してみるため、雷矢は電光石火を使おうとした。
その瞬間だった。突然、雷矢の全身に痛みが走った。
「なっ…!?がっ…!」
あまりの激しさに、声をあげることもままならない。ただ異様に思うのは、この痛みが体の外からではなく内から、まるで捻じり切られるような痛みであることだ。
「必殺技を使おうとしても無駄ですよ」
エーリッヒの言葉通り、尚も必殺技で抗おうとした途端、またも激痛が雷矢を襲った。
「私のもう一つの必殺技、メンタルクラフィクションは肉体だけでなく精神をも縛りつける念力です。必殺技でもがけばもがくほど、精神を痛めつけることになります」
そして、冷ややかな声で付け加えた。
「傷を負い続けると、その果てには心が死ぬことになります」
それを聞いた光、海、風はイーグルを連想させる。眠ったままになっているものの心は存在している。その心さえも、なくなるということだ。
心が死ぬ。それは、ただ生きているだけの人形になるも同然に違いない。
下手に抗っては逆に自分がダメージを負うことになると悟った雷矢。打てる手を封じられた以上、彼は大人しくするしかなかった。
それでも、戦いは放棄しない。雷矢はこの状況を打開する得策がないか、探し出そうとしている。
そんな彼の不屈なる闘志は、エーリッヒにも伝わっていた。
エーリッヒは相手がどれだけの実力を持っているか、どんな意志でもって戦っているのか、超能力と相まって測ることができる。
だからこそ、エーリッヒは使者たちの間で「見極める者」とも呼ばれているのだ。立ち向かってくる者たちが抱く心に悪意があるかどうか探り、あるならば敵として排除し、そうでなければその者を見届ける。彼が賢明大聖から特命を授かったのも、エーリッヒがそういう人物であるからだ。
また、黄金の使者たちの中でもエーリッヒが一番手に任されているのも、霊神宮を攻めようとする敵を詳しく知るためである。後に続くであろう仲間たちと渡り合えるか、念の間を抜けたか否かで他の黄金の使者たちにそれを報せるのだ。
そのエーリッヒが見た雷矢からは、悪意というものは感じられなかった。闘志は並々ならぬ凄まじさではあるが、それ自体は純粋なものだ。噂されているような復讐鬼の様には見えなかった。
この男も、先に行ったハヤテたちと同じ挑戦者なのだろう。
信念は多少違えど、自らのために戦うのだと。
だがそのためには、彼の力を示してもらわなければならない。
エーリッヒは霊神宮に盲目的に従っているわけではないが、相手に情けをかけるような人間でもない。
その場で雷矢にかける念力を強めていく。肉体も精神も圧迫され、身をよじることさえ許されなくなる。
このまま、何もできずに終わってしまうか。
微かにエーリッヒが落胆した時であった。
突然、エーリッヒの横から炎、水、風が彼を狙って襲いかかってきた。雷矢に気を取られて遅れをとったため、回避は間に合わない。
ならばこの身で受け止めようか。黄金の精霊が持つ防御力は青銅、白銀の群を抜いて高い。生半可な攻撃では傷一つつかないだろう。
そう考えたが、そこでようやくエーリッヒは危機を悟った。迫りくる炎らは黄金のレベルに近い威力があると感じ、受け止めるなんて言えるものではない。
焦りを抱いたエーリッヒは、やむを得ないといった様子でメンタルクラフィクションを解除し、テレポーテーションでかわす。
奇襲を危ういところで回避したエーリッヒは、それを仕掛けた主を確認する。
光、海、風の三人が、魔法でエーリッヒを狙っていたのだ。
ちょっと短かったかな…?
次回に続きます。
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Re: 新世界への神話Drei 9月11日更新 ( No.46 ) |
- 日時: 2012/09/16 15:00
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7948
- どうも、絶影です。
エーリッヒ…最初の間にいるから一番弱いのかと思っていたら… 強いほうだったのですか(汗) 賢明大聖からの特命を授かり、相手を見極めるためだったのですね。 エーリッヒの必殺技メンタルクラフィクションを受けた雷矢は 肉体も精神も縛り付けられ、絶対絶命のピンチに。
そんな時に手を出したのが光たち。 彼らの攻撃は黄金の使者並みですか。何と恐ろしい… 手を出すなと言った相手に助けられた雷矢の反応が気になるところです。 そして雷矢はあれ(笑)を発動できるのか…。 色々気になりますね!
次回も楽しみにしてます!
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Re: 新世界への神話Drei 9月11日更新 ( No.47 ) |
- 日時: 2012/09/19 18:47
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
先日は台風がすごかったですね。 新潟では風が強かったです。
さて、レス返しを。
絶影さんへ
>どうも、絶影です。
どうも、感想ありがとうございます。
>エーリッヒ…最初の間にいるから一番弱いのかと思っていたら… >強いほうだったのですか(汗) >賢明大聖からの特命を授かり、相手を見極めるためだったのですね。
一番初めだからと言って弱いとも限りません。 例え負けても、味方のためにどれだけのことができるかが重要ですから。 エーリッヒは一番目に向いているということで、最初の間にいるということです。
>エーリッヒの必殺技メンタルクラフィクションを受けた雷矢は >肉体も精神も縛り付けられ、絶対絶命のピンチに。
これは特殊な技ですからね。 拘束しながらダメージを与える。結構いやらしいですよね?
>そんな時に手を出したのが光たち。 >彼らの攻撃は黄金の使者並みですか。何と恐ろしい…
光たちの心は原作での展開で心が強くなっています。 特に光は、原作の中でも目立っていますから。
>手を出すなと言った相手に助けられた雷矢の反応が気になるところです。 >そして雷矢はあれ(笑)を発動できるのか…。 >色々気になりますね!
ここでのやり取りが雷矢にとってどう受け取るか。 注目するところなので、それを見てください。
>次回も楽しみにしてます!
期待にこたえるよう頑張ります!
絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。
7 メンタルクラフィクションから解放され、その場で倒れこんだ雷矢。
彼はまずエーリッヒを見て、それから光たちに視線を移したことで何が起こったのか理解できた。
「手を出すなと言ったはずだ」 「ごめんなさい」
謝ったのだが、光の声には後ろめたいものは感じられなかった。
「でも、あなたのことは見捨てたくないんだ」
海も風も、光と同じ気持ちだった。自分たちがここにいるのは、ただ戦いを見物しに来たわけではないからだ。
「まったく…」
苦笑気味に呟く雷矢は、心に不思議な想いを感じていた。今まで自分の力のみで立ち上がってきた彼にとってそれはうまく言葉に表せないが、立ち上がらせるには十分な力を持っていた。
戦いに割り込んだことは困っているが、怒ってはいない。実際、エーリッヒの必殺技から自分を救出したのだから一方的に咎めるわけにも…。
そこまで考えた時、雷矢にある疑問が過った。
何故エーリッヒはメンタルクラフィクションを解除したのだろうか。維持したままテレポートすれば光たちの横槍は意味のないものであったはずだ。いや、光たちが加勢することは彼なら簡単に予想できるはずだから、戦闘前に抑えつけてもよかったはずだ。
余裕のつもりか。いや、それなら奇襲に焦るのは不自然である。
できなかったとしたら…?
その仮定が、雷矢にエーリッヒへの攻め手に導かせた。
「おい、そこの三人」
納得ができて嘆息した雷矢は、光たちに声をかける。
「手出しをしたことについては、やはり俺の気に食わん」
それを聞き、光たちの顔に切なさが浮かぶ。自分たちが拒まれたことに対してではない。こうまで他人の手を借りずに一人で戦おうとする雷矢に悲しみを感じたからだ。
「だが」
雷矢は続ける声音を、少し和らげて言った。
「おまえたちのおかげで、勝機が見えた。そのことには礼を言うぞ」
彼からそんな言葉を耳にするとは思ってなかった三人は、呆気にとられながらふと雷矢の背中に目をやった。
戦う前と同じ、闘志に満ち溢れている。だが今はそれに加えて、何か暖かみのあるものが含まれていて、より頼もしさが感じられた。
「エーリッヒ、おまえと戦って黄金の使者がどれ程の強さか、この身に染みてよくわかった」
雷矢は、真っ直ぐにエーリッヒに向き直る。
「正直、俺でも勝てるかどうかわからない。いや、勝てないだろう」
これまた雷矢の言葉とは思えない弱気な発言である。それでも、その端々からしっかりとした調子で響いていた。
「それでも、俺は戦う。俺のために、負けるからと言って戦いを引くことはしたくないからな」
静かに意気込む雷矢。そんな雷矢の背後に一瞬、雷凰のオーラが浮かび上がった。
雷矢の魂の資質である闘志が、マインドの片鱗を目覚めさせたのだ。
その闘志を表すかのように右の拳をかざし、強く握りしめる。
握った拳から、放電が起こり音を鳴らす。
「俺の思いも武器にして、おまえにぶつける!」
雷矢の闘志はエーリッヒにぶつかるのだろうか…?
今回は短いですが、マインドと魂の資質についての説明を載せます。 かなり遅いですが…
マインド 精神エネルギーを100%引き出すことのできる境地のようなもの。 普段、人は肉体が持つ力をセーブしている。力を全て出して運動したりすると、自らの肉体もその反動で傷ついてしまうからである。 精神エネルギーも同様のことが言え、常に全開で、外へと放出していけば心はそのストレスで壊れてしまう。 マインドは、その精神エネルギーを100%引き出すことのできる境地。誰でも引き出せることはできるが習得するのは白銀でも難しく、実質黄金の使者のみしか発動できないとされている。 しかも、必要以上にマインドを発動し続ければやはり心は死んでしまう、もしくは人の形をとれなくなってしまう(ATフィールドに影響が及ぶため)。だから黄金の使者も、技を放つ際等一蹴に力を爆発させる時のみ発動する。
魂の資質 使者が持つ心の力の根源で、これに目覚めないと一体化ができない、一体化の必要条件である。 精霊の属性は大きく分類して八つに分かれており、それに合わせて八つ存在している。 だが、中にはそれに当てはまらない魂の資質も存在するらしい。 現在判明しているのは
風→誠実 氷→勇気 雷→闘志 金→信頼 木→友情 土→? 水→? 炎→?
となっている。
以上です。
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新世界への神話Drei 9月19日更新 ( No.48 ) |
- 日時: 2012/09/20 11:34
- 名前: 氷結アイスブリザード
- お久しぶりです
エーリッヒ強いですね さすが黄金の使者です ハヤテのお兄さん雷矢さんがんばってください なんかすごい技でそうです FF5でいうと水はいたわりでした 土は希望だったかな? それでは
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Re: 新世界への神話Drei 9月19日更新 ( No.49 ) |
- 日時: 2012/09/24 21:20
- 名前: 絶影
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7948
- どうも、絶影です!
早速、感想に。
光、海、風の介入により、何とかエーリッヒの術から逃れることが出来た雷矢は それと同時にエーリッヒの攻略法を思いついたみたいですね。 エーリッヒの能力の限定条件はあれかなー?というのがあるのですが、 攻略方法は想像がつきません(笑) ついにマインドに目覚めた雷矢は、エーリッヒにどんな攻撃を仕掛けるのか!?
まだ明らかになっていない土、水、炎の魂の資質は一体何なのでしょうか。
次回も気になります! それでは
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Re: 新世界への神話Drei 9月19日更新 ( No.50 ) |
- 日時: 2012/09/27 21:58
- 名前: RIDE
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
- どうも。
九月も終わりそうですね。 十月から忙しくなるので、更新が停滞気味になる恐れが…。
ともかく、レス返しから
氷結アイスブリザードさんへ
>お久しぶりです
お久しぶりですね。 氷結さんが私の作品に書き込むのは本当に懐かしい感じがします。
>エーリッヒ強いですね >さすが黄金の使者です
エーリッヒの強さが伝わってよかったです。 期待通りの反応です。
>ハヤテのお兄さん雷矢さんがんばってください >なんかすごい技でそうです
勝負を決める一撃ですからね。 迫力がこもっていますよ。
>FF5でいうと水はいたわりでした >土は希望だったかな?
とりあえず、楽しく予想していてください。 私が属性に連想するものですので。
>それでは
また来てくれると嬉しいです。
絶影さんへ
>どうも、絶影です! >早速、感想に。
いつも感想ありがとうございます。
>光、海、風の介入により、何とかエーリッヒの術から逃れることが出来た雷矢は >それと同時にエーリッヒの攻略法を思いついたみたいですね。 >エーリッヒの能力の限定条件はあれかなー?というのがあるのですが、 >攻略方法は想像がつきません(笑) >ついにマインドに目覚めた雷矢は、エーリッヒにどんな攻撃を仕掛けるのか!?
エーリッヒの攻略方法は、意外なものとなります。 限定条件はまあ、わかりやすかったですかな? 攻撃は、何故と感じます。
>まだ明らかになっていない土、水、炎の魂の資質は一体何なのでしょうか。
この先の戦いで明らかになります。 楽しみにしていてください。
>次回も気になります! >それでは
今回も見てくださるとうれしいです。
氷結アイスブリザードさん、絶影さん、感想ありがとうございました!
それでは、本編です。
8 そして、エーリッヒに向かって駆け出して行った。
脇見もせずに、ただ相手を目指していく。ダメージ覚悟の特攻だろうか。
その気迫はエーリッヒに危機感を抱かせるには十分であった。しかし、それだけで彼が倒されるなどあり得ない。
「いかにマインドを発動させたとしても、破れかぶれの攻撃が通用するほど、黄金の使者は甘くはありません!」
見苦しいものを振り払うかのような様子で、念力による衝撃波を起こした。あんな攻撃を迎え撃つのに、必殺技を使うまでもないと思ったのだろう。
だが衝撃波が襲いかかろうとした瞬間、雷矢は信じられないアクションを起こした。
唐突に、雷矢がライオーガとの一体化を解いたのだ。それによってLCLの状態となった彼の身体を衝撃波が揺らし、その後雷矢は人間の身へと戻る。
そしてライオーガは人型形態となり、衝撃波を利用して上手く乗る形で上昇した。そこから更に、必殺技の電光石火で再びエーリッヒを狙う。
「まさか、一体化を解くことで攻撃を回避したとは…」
予想しなかったかわし方に、エーリッヒは感心する。
戦闘中に一体化を解く行為は、一見すると自殺行為だ。身を守る鎧を全て脱ぎ捨てることと同然だからだ。人型形態の精霊も、一体化した使者より力が格段に劣っている。
しかし、使者の強さは心で決まる。心の力の有り様によっては、遥かに格上の相手でもその差を覆すことさえある。その証明に、雷矢自身も一体化していた状態で人型形態のシルフィードやウェンドランらに負けたことがある。
「この一撃、いくら私でも無防備では手痛い傷を負うかもしれませんね」
油断して取りかかるわけにはいかない。エーリッヒは再びマインドを発動し、全力でもって迎え出た。
「メンタルクラフィクション!」
念で相手を磔にする必殺技で、ライオーガを捕らえた。じわじわと苦しめるこの技からの脱出が不可能なことは、一度受けているからよくわかる。
「精霊を封じられた以上、使者はもうどうすることもできない。終わりですね」 「どうかな」
背後から声をかけられたエーリッヒ。振り返った彼は、信じられないものを見た。
ライオーガとは別に、エーリッヒの後ろをとった雷矢が今まさに一撃を放たんとしていた。
ライオーガと一体化した姿で、だ。
「な……!?」
流石のエーリッヒもこれには動揺を隠しきれなかった。ライオーガは今、自身の必殺技で縛りつけている。それなのに、何故雷矢と一体化しているのか。
そんな疑問を相手に考えさせる暇も与えず、雷矢は必殺技を放つ。
「雷凰翔破!」
自らが誇る最大の必殺技を、エーリッヒに叩きこむ。
エーリッヒなら最悪かわせなくても、念力を使っての防御はできたはず。だが今回はそれをしなかった。
いや、取りたくても取れなかったように見えた。
雷凰翔破を無防備で受けたエーリッヒは吹っ飛び、倒れていった。
今回もかなり短いですね…。
次回は35話ラストです。からくりも、そこで解説します。
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Re: 新世界への神話Drei 9月27日更新 ( No.51 ) |
- 日時: 2012/10/22 21:35
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
前回の更新分が消えてしまったので載せます。 感想も消えてしまったのが残念です…。
9 見事に攻撃が決まった雷矢。だが、不可解な点は残されたままだ。
「な…なんなの?」
何がどうなったのか訳が分からず、海は口をあんぐりとあけている。光と風も、ただ呆然とするばかりだ。
「い、一体何が起こったの…?」
雷矢がライオーガとの一体化を解いたところまでは理解ができた。しかし、それから後の展開には全くついていけなかった。
ライオーガはエーリッヒの必殺技で拘束されていたのに、何故雷矢と一体化ができたのだろうか。
どうして、攻撃が見事に決まったのだろうか。
疑問が色々と渦巻き混乱が深まる中、倒れていたエーリッヒがゆっくりと起き上がってきた。
「やりましたね」
今度は彼がやり返すのかと思われたが、エーリッヒからはそんな意志は感じられず、声の調子も戦闘時と比べて穏やかなものへと変わっている。
「この私の、超能力者の弱点を突いたとは」
弱点。その言葉に光たちは気になりだした。
弱点とは、一体何なのだろうか。
一方の雷矢も、戦意のないエーリッヒに毒気を抜かされ話をはじめた。
「気づいたのは獅堂たちが魔法を使った時だ。俺にかけていた必殺技をわざわざ解いてから瞬間移動でかわしたことに、違和感を抱いた」
光たちの魔法にはエーリッヒも焦っていたようであった。だからといって彼が慌てて解除してしまうようなミスを犯す人間には見えない。
これには、何かがあると雷矢は勘づいたのだ。
「そして気づいた。おまえは、一度に多数の標的を狙えても、一度に二種以上の能力は使えないとな」
確証はなかったが、全くというわけでもなかった。
雷矢と光たちは知らないが、先にこの念の間を訪れたハヤテたちと戦った時も、エーリッヒは複数の能力を同時には使わなかった。また、一つの能力を使っている時に別の能力を使おうとすると、切り替えるように使用中の能力を止めてから新しい能力を発現という手順を踏んでいた。
雷矢の言うように、それぞれ異なる能力の同時使用は見られなかった。だから、彼の言うようにそれは不可能だと疑ってもおかしくはない。
そしてその疑惑は、正確に当たっていた。
「私たち超能力者が使う念力は、威力は絶大です。種類も多彩に存在しますが、あまりにも強大であるため、取り回しが困難という面があります」
その証明を、エーリッヒ自らが行ってくれた。
「念力を使う際は、瞑想しなければなりません。念力による技を一つ繰り出すのに全神経を注がなければなりませんので、もう一つの技を使うことに、集中力を削ぐわけにはいかないのです」
エーリッヒの話を聞きながら、光たちは超能力についてある光景を思い浮かべていた。
それはテレビの特集番組であった。そこで取り扱われていた、エスパーがスプーンを曲げているところなどを見ていた光たち。彼女たちにとって、エーリッヒの念力とは遥かに見劣りするが、トリックがあるにせよそういう類の力を持たない者には少々ながらも驚くことであった。
その時は超能力者の力に目を奪われていたが、今改めて思い出し、エーリッヒの話と照らし合わせて新たに気付かされた。
スプーン曲げをしていた者は、軽い受け答えを除けば他の行動はしていなかった。正にエーリッヒが語ったとおりに。
このことからも、超能力の弱点を物語っていた。
「技の切り換えを可能な限り高速にして、連続攻撃のように見せて悟られないようにしていましたが…」 「生憎、この俺には見抜かれてしまったな」
二つ以上の超能力の並列使用が不可能であることを見破った雷矢。
得意気にならないその様子からは、風格そのものが表れていた。数々の修羅場を経験し潜り抜けてきた彼だからこそ発することができるものであり、雷矢に相応しくもある。
強大な超能力を前にしても喰らいついていったからこそ、自分の弱点が読めたんだなとエーリッヒは考えた。
「ですが、私にもわからないことがあります」
ここでエーリッヒは、もう一つの謎について話を振った。
「ライオーガは私の必殺技で抑えていたはずです。なのに、どうしてあなたはライオーガと一体化ができたのですか?」
一番気になっていたことなので、光たちも聞く姿勢を深める。
「ああ、あれか」 彼女たちとは対照的に、雷矢は毅然としたまま口を開く。
「もうすでに見えるはずだ。あれの本当の姿を」
そう言われ、光たちは先程までメンタルクラフィクションにかけられていた方のライオーガへと目を向ける。
光たちは、それを確認した。
「あれは…」
姿形はライオーガと全く同じだった。異なるところなど見当たらず、見分けを突くことなんて困難であった。
体の色が、黒いことを除けば。
「ネガティブライオーガ…」
黒いライオーガを見たエーリッヒは、感嘆の息を漏らした。
ネガティブライオーガは、かつて雷矢が憎しみの心で生み出した陰鬱の精霊である。雷矢の憎しみはとても凄まじいものであったため、ネガティブライオーガも多数生まれたのだ。
ほとんどのネガティブライオーガは陰鬱の使者たちに一体ずつ渡されたが、創造主である雷矢自身が一体所持していてもおかしくはない。
「ネガティブライオーガの勾玉に幻魔雷光をかけ、ライオーガに見せるように錯覚させたのだ」
本物だと思わせて、相手に隙を与える。そしてみごとに底をつけたのだ。
黄金の使者であるエーリッヒすら惑わした幻魔雷光。本来は幻覚で精神にダメージを負わせる必殺技だが、格上の相手を翻弄させたのだから、本当に恐ろしい必殺技であることがわかる。もしエーリッヒの精神を直接狙っても、大したダメージの期待は薄いが通用はするだろう。
しかし、雷矢はいつ幻魔雷光を仕掛けてきたのだろうか?そんな素振りは見られなかったので、見当がつかなく首を傾げてしまう光たち。
いや、とエーリッヒは思い当たる節があった。
「あの時、私に一撃を与えると告げた時に、幻魔雷光を仕掛けたのですね」
雷矢はあの攻撃への意気込みとして、放電を起こしていた右の拳を握りしめ、掲げていた。
あの拳の中に、ネガティブライオーガの勾玉があったのだろう。加えて、右拳で起きていた放電が幻魔雷光だったのだ。
幻魔雷光は右手から電撃を発し、それによって生じた光を相手に見せる。光を目にした相手は幻覚に惑わされ、心を壊されていくという必殺技だ。
単に力を入れているだけだと思い気にも留めなかったが、あの放電を見た瞬間から雷矢の手中にはまっていたのだ。
「それにしても、意外でした」
エーリッヒは、語気を少しきつめに変える。
「ハヤテたちとの戦いで憎しみの力が玉砕されたはずなのに、まだその力を使っていたことは」
ダスク峡谷のあの戦いで、雷矢は憎しみから解放されたものだと思っていた。ハヤテたちに負けたことを機に、変わっていける。艶麗の襲撃がなければ、そんな彼を見てみたいという望みも叶えられたかもしれない。
だがネガティブライオーガを使ったことは、その期待を裏切る行為でもあった。雷矢の憎しみは、依然としたまま存在しているのだろうか。
そんな不安と警戒心を読み取ったのか、雷矢は皆に語った。
「俺から憎しみが消えることは、そう簡単ではない」
彼はここで、どこか沈痛な調子で声を落とす。
「憎しみは許されない、許すことのできない怒りが行き場なく募っていく感情だ。俺はまだ、自分を許してはいない」
三千院家を憎んでいた雷矢。だがそれ以上に、自分自身を憎んでいた。いくら三千院家の無責任な振る舞いと同時に、それに対して無力であった自分自身にも激しい怒りを抱いていた。そして、その感情を当たり散らすかのように弟たちと戦ったことをはじめ、罪を犯した自分を許していない。この自責の念が晴れない限りは、憎しみも消えないだろう。
「それに、少しでも憎しみを持っていなければ人を殴るなんてできないからな」
自嘲気味に続けた言葉は、光たちの心にも強く響いた。
もし人を怨むことも憤ることも、敵対することも全く知らない人間がいたら、そのものは戦いなんてできないだろう。格闘技であっても、相手に対して少しでも憎んでいなければ、握った拳を相手に向けて振るうことにためらいが生じ、やられてしまう。
光たちもエメロードを討つ時に、迷いなどを押し殺し半ば脅迫するかのように無理矢理殺意を駆り立て、突き動かされるかのようにその手で彼女を下した。その時の気持ちが、今この場で重なった。
人は憎まずにはいられない生き物なのかもしれない。そう思うと、自分たちが悲しく見えてしまう。
「だが俺は、まだ憎しみを捨てることはできなくても憎しみに囚われたりはもう決してしない」
この場に漂う暗然とした雰囲気を打ち消す、毅然とした声で雷矢は言った。
「憎しみを原動力にするのではなく、憎しみさえ己の武器とする」
憎しみを糧にして戦うのでは、ただ感情に振り回されるまま暴れるだけでしかない。それでは視野が狭まってしまい、大切なものまで見えずに傷つけてしまう。しかし、憎しみを己の意のままに扱うことができたなら…。
思えば最後の一撃も、ネガティブライオーガと一体化して放ってもよかったはずだ。それをしなかった、いや、できなかったのは雷矢自身が言っていたように、彼がハヤテたちと戦う以前とは違い憎しみを持たして戦っていたのではないからだ。
自らが生み出し、激しい憎しみの象徴であるネガティブライオーガを囮に使ったことは、雷矢が憎しみも自分のものとしていることを示しているのかもしれない。
「それが、これからの俺の戦い方だ」
まだ負の心に取り込まれる不安はあるものの、今の雷矢は安心できる。
「…そうですか」
そう判断したエーリッヒは、その身を少し脇へと寄せる。
「行きなさい」
先へと促してきた彼は、さらに続けて言った。
「あなたの戦いがこの先に待ち受けている黄金の使者たちに通用するかどうか、進んでみてください」
霊神宮からの挑戦と、エーリッヒの期待が込められた言葉だった。
「わかった」
それだけ応じると、雷矢は足早に念の間を去っていった。
光たちも後を追おうとするが、その前にエーリッヒが声をかけた。
「セフィーロから来た魔法騎士のみなさん」
神妙な面持ちの彼に、光たちは黙って耳を傾ける。 「余所者のあなたたちは戦うなとは言いません。この先の戦いも、ぜひ見届けてほしいのです」
これも、エーリッヒ個人の気持だった。
「セフィーロの柱制度撤廃に関わったあなたたちがこの霊神宮で思ったことがあるなら、迷わないでください」
それが、霊神宮のためになると信じていた。
彼女たちの想いは、国すら変えたのだから。
光たちは微笑みながら頷いた後、先を行く雷矢から離されないように走り出した。
一人残ったエーリッヒは、物思いにふけ始めた。
「まさか、綾崎雷矢まで来たとは思いもしなかった」
雷矢や光たちのことは、エーリッヒにも予想外のことであった。しかし、悪い意味ではない。
彼らによって、霊神宮はこれはもう自分たちだけの問題ではないと知ることになるのだろう。事は重大なのだと。
「そして、その後はどうなるのか…」
こればかりはエーリッヒにもわからない。
だからこそ、彼は今ハヤテたちの戦いを見届けようとしているのであった。
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Re: 新世界への神話Drei 10月22日更新 ( No.52 ) |
- 日時: 2012/11/10 21:53
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 止まり木が出来てから、もうすぐ一カ月。
そして、この小説もようやく再開です。 なかなか忙しくて更新できませんでした。まあ、待っている人は少ないと思いますけど。
まずは、旧ひなゆめで書いてくれた感想の返信を。
キーさんへ
>奏「すみません、ずいぶんと長くかけませんでした。…お詫び申し上げます。m(__)m
お久しぶりです。 感想は書ける時で構いませんよ。
>さて、さすが雷矢さんです。やっぱり雷矢さん頭いいです…というより、陰鬱の使者が使っていた『ネガティブオーガ』を…
第1スレで出てきたネガティブライオーガの再登場。 誰が予想できたでしょうか。
>そして、『憎しみすら武器にする』…ですか、かっこいいです。
雷矢がこれを言うと、カッコよく感じますよね。 共感できてよかったです。
>エーリッヒさんは何処まで悟っているのか…深いですねぇ。雪路の何時かの眠りと同じくらい深いですねぇ。
超能力のせいか、エーリッヒはそんなふうに見られていますね…
>雷矢さんもいつか自分を許せるといいです。
果たしてその日が来るのでしょうか…?
>では、次はいつ来られるかわかりませんが、リクエストが有ればどうぞ。」
それなら、サラさんをお願いします
絶影さんへ
>どうも、絶影です。
今回も感想ありがとうございます
>そうか!ネガティブだったのか! >これが第一声でした。
納得してもらったようですね。 安心しました。
>私なりに考えていたのですが、思いついたのは幻魔雷光まででした(いや負け惜しみとかじゃ…(汗 >ですが幻魔雷光だけだとエーリッヒには捕らえたという感触がなかったでしょうし >そもそも黄金の使者にそれが効くのか?ということも邪魔をしてですね〜…(ああ、何言っているのか自分でもわからなくなってきた…
混乱してしまっていますね…。 幻魔雷光は黄金にも効くことは判明しましたけど、期待できるほどの効果は現れません。
>とにかく、雷矢は強いですね!
まあ、その一言に尽きますね。
>憎しみさえ己の武器とする >雷矢らしい言葉だったと思います。
雷矢だからこそ、重みがありますね。 まさに彼の全てを物語っています。
>次は、第3の間ですか。 >一体どんな強敵が現れるのでしょうか?
第3の間は結構厄介な相手ですよ…
>それでは次回も楽しみにしています。
楽しめるように頑張ります。
キーさん、絶影さん、感想ありがとうございました。
それでは本編です。 第36話、楽しんでください。 止まり木での本格的なスタートとなります。
第36話 天にも届く憂の心
1 山の間を任せられているロクウェルは、新たな来訪者たちの気配を察した。
「来たか」
ロクウェルは門の方へと目を移す。その門が、外側から開かれた。
開けたのは当然、ロクウェルが察した来訪者だ。
「おまえがこの山の間を任されている黄金の使者か」
先頭で立っているのは、綾崎雷矢だ。彼は威風堂々とした様子でロクウェルを見ている。彼の後ろには、緊張な面持ちをしている獅堂光、龍咲海、鳳凰寺風の三人がいる。
「そうだ。私の名はロクウェル」
ロクウェルは、目を巡らせて雷矢をじっくりと観察する。
「おまえが綾崎雷矢だな。念の間を抜けてきたのか」 「俺がこの場にいることを考えれば、聞くまでもないだろう」
平然として返すが、実際念の間での戦いはそんな余裕あるものではなかった。エーリッヒには一撃当てるだけで精一杯あり、終始雷矢は赤子の手を捻るかのように扱われていた。
今雷矢たちの目の前にいるロクウェルも、黄金の使者である。エーリッヒと同等の実力を持っているに違いないため、またも苦戦となるだろう。
それでも、黄金の使者にも攻撃は通用する。全く勝ち目がないわけではない。
だから、戦うという気になれるのだ。
自らの魂の資質である闘志を奮い立たせ、雷矢はロクウェルと対峙する。
一方のロクウェルは、相も変わらず雷矢を品定めするかのように見ている。
「いい態度だな…」
臆していない彼に、うんうんと満足そうに頷いている。
「よし、おまえたち先に行っていいぞ」
あっさりと言い放ったので、雷矢の背後にいる光、海、風の三人はずっこけてしまう。
「ちょ、ちょっと、あなたはここを守るためにいるんでしょ?」
脱力しながら海が尋ねる。てっきりエーリッヒの時と同様に、戦わなければこの間は通ることはできないという話になると思っていたため、肩の落ち方も大きい。
もしかして、冗談のつもりなのだろうか。
そう思いロクウェルの顔色を除きこむが、彼女は至って真剣な表情をしていた。
「確かに、私はこの山の間を守らなければならない」
ロクウェルが話し出したので、光たちは耳を傾けながら気を取り直す。
「だがおまえたちは、先にここを抜けた三千院ナギたちと同じ目をしている。そんなおまえたちは、私が阻もうとしてもここを必ず突破するに違いない」
自分と戦った美野花南は、彼女が持つ信念で自分の心を動かした。雷矢たちも、同じような想いというものを感じるのだ。
エーリッヒもそれを感じて念の間を通したに違いない。ナギやハヤテたちと違い、雷矢たちに対しては手加減する理由はない。本気を出してっ戦っただろうに、それでも雷矢たちはここにいる。
そのことを、考える必要はない。
「おまえたちなら、三千院ナギの力になれるだろう。必ずな」
だが、ナギの名前が出てきた時から雷矢は浮かない顔をしていた。
「俺は別に、あの女たちと仲間になるつもりはない」
そう言って、顔を背ける雷矢。どうも彼はナギたちに対して気が引いてしまい、このような頑なな態度をとってしまうようだ。
無理もない。つい最近まで死闘を繰り広げ、しかも雷矢は本気で憎しみを抱いていた。そんな相手を、今は殺意がないとはいえどう向き合えばいいかわからないのだ。
光たちも、雷矢を元気づけたりはあえてしなかった。彼女たちは雷矢が何をしたのかは聞かされていたが、ナギたちがどういう人物かは知らない。ナギたちが何を思っているかわからないので、下手なフォローなどできなかった。
それでも、ロクウェルが明るい調子で話すのだ。悪い人間ではないはずだから、仲間になれるという希望は持てた。
「とにかく、先へ進もう」
ナギたちのことは、会ってから考えるべきだ。自分たちの先にいるのだから、いずれは追いつける。話はその時だ。
次の間へと向かい、雷矢たちは走り出す。その後ろ姿を見送るロクウェルは、不意にその口を開いた。
「だが、次の間で待つ黄金の使者は私やエーリッヒよりも手強いぞ」
本当は、こんなことを言うつもりはなかった。ナギたちもそうだが、雷矢たちはまだ敵とも味方ともはっきりとは分からない。明智天師から討てとの命令が出ているだけでは判断できなかったからこそ行かせたが、立ち位置が不明な以上、助言の類はなるべく避けるべきであった。
それでも、彼らに抱く思いが口を動かしていた。
「どういうことだ?」
雷矢たちは足を止めてロクウェルを振り返る。
「私の次に待つ黄金の使者は、明智天師が自らの黄金の精霊を授けた、明智天師の愛弟子なのだ」
重々しい口調で語るロクウェル。彼女の真剣身に圧されたが、雷矢たちは黙って聞き入る。
「あいつも、精霊の使者として鍛えさせてもらった明智天師のことを全面的に信じている。明智天師の命令ならば必ずやり遂げようとするに違いない」
明智天師の直弟子。
かなり厄介な相手であることを察するのは、簡単なことであった。
「内容はどうあれ、命令ならば私やエーリッヒのように迷うことはない。どんなことでも、な」
緊張のあまり、光、海、風の三人は喉を鳴らす。
一体、次の間で待つ黄金の使者は何者なのだろうか。
次回の舞台は第3の間です。
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Re: 新世界への神話Drei 11月10日 ようやく再開 ( No.53 ) |
- 日時: 2012/12/27 14:00
- 名前: 絶影
- お久しぶり、絶影です(汗)
何だかんだとあって感想遅れませんでした(泣)
では早速感想に!
雷矢は花南が破ったロクウェルと向き合い、そのまま戦闘に入ると思いきや あっさり通過を許されましたね。 通り抜ける際に、ロクウェルは次の使者が明智天師の愛弟子であると言い、 自分やエーリッヒのように迷わず、命令を実行するだろうと言い放ちました。
先に戦っているはずのハヤテ達はどうなっているのでしょうか。 そして第3の使者とは一体どんな人なのでしょうか。
次回も気になります。 それではまた。
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Re: 新世界への神話Drei 11月10日 ようやく再開 ( No.54 ) |
- 日時: 2012/12/28 22:55
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 更新が一カ月以上遅れた理由。
1 ひなゆめ復活による動きを見ているうちに時間が経ってしまった。 2 ハヤテのモバゲーにはまってしまった。
理由になっていませんね。特に2 しかもこのサイト名使ってギルド作っているし。
ま、今日のところはレス返しだけで。
絶影さんへ
>お久しぶり、絶影です(汗) >何だかんだとあって感想遅れませんでした(泣)
絶影さんも事情があるのですから、急がなくてもいいですよ。 こっちも更新遅れ気味ですから。
>では早速感想に!
>雷矢は花南が破ったロクウェルと向き合い、そのまま戦闘に入ると思いきや >あっさり通過を許されましたね。 >通り抜ける際に、ロクウェルは次の使者が明智天師の愛弟子であると言い、 >自分やエーリッヒのように迷わず、命令を実行するだろうと言い放ちました。
ロクウェルと雷矢の戦い、期待していましたか。 裏切っていたならごめんなさい。
>先に戦っているはずのハヤテ達はどうなっているのでしょうか。 >そして第3の使者とは一体どんな人なのでしょうか。
かなり目立つ人物だと思います。
>次回も気になります。 >それではまた。
絶影さん、感想ありがとうございました。
次回はできれば明日、茶会の前に更新します。
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Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.55 ) |
- 日時: 2012/12/31 17:48
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 月末茶会には間に合わなかったけど、年末には間に合ったぜ!
というわけで、今年最後の更新です。 来年はどうなるかな…?
前回の続き、楽しんでください
2 雷矢たちが山の間に着いたころ、彼らの先を行くハヤテたちは。
「ここが第三の間か…」
目前の、天の間と刻まれた第三の関門をじっくりと見上げていた。
「ここにも、ロクウェルのような強い奴がいるのかな…」
天の間の中にいる精霊の使者を想像し、達郎は体が強張り、震え上がる。
「なに?達郎アンタ恐いの?」
その様子を見て、花南が嘆息しながら声をかける。すると、達郎は一瞬だけ震えが強くなった。
「な、何を言ってんだよタカビー女。なんで俺が恐がるんだよ」 「声が裏返っているぞ」
氷狩もあくまで冷静に、鋭いところを指摘する。
「達はビビりやすいからね」
焦ったように口を抑える達郎を見て、佳幸は苦笑を浮かべた。他の者たちも皆、仕様がないという表情をしていた。
それが、達郎の神経を逆撫でさせることとなった。
「だから!俺はビビってねえっつうの!」
体の震えは恐怖によるものから、怒りによるものへと変わっていた。
その怒りをぶつけるかのごとく、門の扉を乱暴に開け放った。
「やってやろうじゃねえか!この中にいるのがどんな強い敵でも、気合入れてかかりゃ何とでもなるさ!」
門の前で、達郎は無駄に叫びまくる。
「やってやる、やってやるぞ!」 「なら、さっさと行くのだ」
無慈悲な声がかけられたと思ったら、突然誰かに背を押された。
「え?」
達郎はまず後ろを振り返る。手を伸ばしたナギが見える。どうやら、自分を突き飛ばしたのは彼女のようだ。
次いで周囲を見渡す。辺り一面淡い青が目に映え、雲みたいなものも浮かんでいる。まるで空みたいである。
ここまで、一瞬で確認ができた。だが、重大なことは別に存在した。
「あれ?」
そこで達郎は、足元に違和感を覚えた。何故か足がふらつき、安定しない。
いやな予感と共に、恐る恐るといった様子で下を向く。
あるはずの床が、そこにはなかった。この天の間に、床が見当たらないのだ。
「な、なんだここはーっ!?」
その悲鳴のすぐ後に、達郎は勢い良く落下していった。
仲間たちは、ただ呆然と落ちていく彼を見ていた。誰もが無表情で口を開けなかった。全員勝手に自爆したようなこの間抜けな展開に、言葉が出てこないのだ。
しばらくして、ナギがため息とともに呟いた。
「……まったく、ドジな奴だな」 「あなたのせいでしょ!」
ヒナギクがナギの頭を拳で押しつけ、軽く捻り回す。真面目なヒナギクにしてみれば、突き飛ばした張本人が人のせいにするような態度をとったことが気に喰わないのだろう。
ハヤテは苦笑していたが、他の皆は無関心であった。相手にする義理もないし、達郎にも一因はあるがナギのせいでもあることは明らかだったから、彼女の自業自得だと捉えていた。
それよりも、今は達郎の方が重大だ。
「ど、どうなってんだよ一体!?」
今も落下中の達郎は、半ばパニック状態となっていた。突然突き飛ばされてから自分の意志とは関わりなく進んでいった事態についていけないのだ。混乱してしまうのも無理はないだろう。
「けど、このまま落ちっぱなしってわけにもいかねぇ」
達郎はシャーグインと一体化し、下に向けて強めの勢いで放水する。それによって自身を持ち上げようと、最悪でも墜落のショックを和らげようとするためだ。
大量の水が放出されているので、当然働く力も大きいはずだった。
あるものが、あればの話だが。
「…おかしいな?」
何か違う、と達郎が感じたのは放水をしてから少し経った頃だ。
もう何か変化が少しでも起きてもいいはずだ。自分が今いるのは天の間という霊神宮の内部に存在している広間だ。いくら床が抜けていても、必ず底があるはずだ。自分の水の放出スピードなら、とっくに底に到達している。
それなのに、以前落ちたままであるということは…。
「もしかして、底なし…?」
どちらにせよ、自分はこのまま落下し続けてしまうのか。
その考えが、達郎の心に不安を駆り立てる。
「どうすりゃいいんだー!」
再び混乱する達郎。自分ではどうにもならない事態に、心が動揺を抑えきれなくなっているのだ。
もはや、自分以外の何かに助けを頼むしかない。
そんな願いが通じたのか、達郎の身体が落下中から急に宙で止まった。
何事かと思い達郎が首を巡らせると、自分の身に蔦が絡みついているのが確認できた。この蔦に、達郎は見覚えがあった。
「これは、フラリーファのアイビーウィップ?」
嬉しさを込めて、達郎は顔を見上げてみる。予想通り、自身に巻きついている蔦は上から伸びていた。
「まったく、手間をかけさせるわね」
その蔦を伸ばしていたのも、やはり人型形態のフラリーファだった。その傍らでは、花南が愚痴をこぼしながらも達郎を無事に確認できたことに胸を撫で下ろしている。
「でも、達郎が落ちてなきゃ皆気付けなかったね」
天の間の門前で、全員拓実の言葉に頷いていた。何も知らずに天の間へ足を踏み入れていたら、達郎に倣って落ちていた。そして達郎のように助けてくれる人はいないため永遠に落ちっ放しになっていただろう。
「おーい、早く引き上げてくれよ!」
全員が危なかったと息をついていたところに、下から達郎が救助を催促してきた。
「いつまでも宙にぶら下がったままにするな!なんとかしろ!」
その物言いが、花南の癇に障った。
誰のためにやっているのだ。元々は一人勝手に早がって、それでこの結果となったのだ。こちらには何の非もないのに、あんな尊大な態度を取ることが気に喰わない。
「この蔦、別に放してもいいのよ?」
凄みを込めた声をかける花南。冷たく、そしてとてつもない迫力があり、周囲にいた佳幸たちを震え上がらせた。
それは、達郎にも確実に伝わっていた。
「よ、よろしくお願いします花南さん」
花南と再び落とされる恐怖に圧倒されて、達郎はおどおどしながら大人しく頭を下げる。
今の花南なら本当にやりかねない。逆らってまた落ちてしまうなんてことにはなりたくないため、宥めるのが得策であった。
「よろしい」
達郎が置かれている状況も考え、花南はこれ以上何かを言うつもりはなかった。フラリーファに、引き上げを命じる。
天の間にいる黄金の使者はまだ姿を見せていない。本格的な闘いが起こる前に、達郎を助けなくてはならない。
だが、もう遅かったようだ。
「ふふ、落ちたのは一人だけみたいね」
聞き知らぬ女の声に、一同はまさかと思い顔を前に向けると、目を大きく見開いた。
彼らの視線の先に、この天の間を預かっていると思わしき黄金の使者がいたのだ。これはむしろ当然ともいえることなので、別に驚くべきことではない。
彼らが驚愕したのは、他にあった。
その黄金の使者は、天の間の中で平然と立っていたのだ。
そう、床のない天の間で。足をつける場所がないことは、先程の達郎の件で十分承知している。
更に、その黄金の使者はこちらに向かって歩き出した。宙で歩行するその光景は超常であり、神々しささえ感じてしまう。
「空中を歩いているなんて、一体何者なんだ?」
驚きをこめて息を洩らすと、そんな彼らを黄金の使者は嘲笑う。
「明智天師に反逆する不届き者には、これしきのことで騒ぎ立てるものですよね」
そして、ある程度の距離を取ったところで足を止め、話をはじめた。
「あなたたちのような愚か者たちに、この天の間内を渡ることはできません。ここは悪意ある者が入ってきたら最後、永遠に落ち続けるのよ」
ハヤテたちの前にいる黄金の使者は、少女のような幼い風貌を持っていた。体格もそれほど優れているわけでもなく、普通のティーンエイジャーと変わらない。純粋無垢というのが第一印象だが、生真面目さもどこか見受けられる。
「二度と地に足を着けることのなく、どこにも行き着くこともなく……永遠にね」
その純粋さと生真面目さが、ハヤテたちにとっては大きな脅威のように感じた。
「これも、霊神宮に刃向かったあなたたちに対する天罰ということになるわね」 「天罰、か」
その物言いに、塁が若干眉を吊り上げる。
「俺たちはこの天の間で落とされて当然だって言いたいのか」 「そうよ。既に落ちているあの子のようにね」
黄金の使者は人目達郎に移す。その目力は、達郎を一瞬怯ませる程のものが込められていた。
「できれば潔くその身を投げ出してくれればいいんだけど…」
ハヤテたちにはその気はない。皆、黄金の使者に対して挑みかかるかのように見ていた。
このまま大人しく従うつもりなど、全くないと言うように。
それは、相手の黄金の使者にも十分に伝わっていた。
「そういかないみたいね。いいわ、私が落としてあげるわ」
声に戦意を込めた後、今まで目にしてきた中でも匹敵するものはないと思われる神々しさを持った精霊が、黄金の使者の傍らに現れた。
「この天のゼオラフィムが使者、ミークの手によって!」
今年はここで終わりです。
また来年、よろしくお願いします。
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Re: 新世界への神話Drei 12月31日更新 ( No.56 ) |
- 日時: 2013/02/10 17:53
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
新年経ってから一月以上たちましたが、更新します。
3 ゼオラフィムと一体化するミーク。
その鎧のような外見からは、ゼオラフィムの神秘な雰囲気が更に増したような感じがした。
「さあ、誰から落とされたいの?」 「悪いがそう簡単に落とされるわけにはいかない」
塁もまたコーロボンブと一体化し、ハヤテたちの前に出てミークを見据える。
「とりあえずおまえを倒してから、どうやってここを渡るか考える」 「倒すですって?」
ミークはそんな塁に対しても、嘲笑を崩さなかった。
「むしろ倒されるのはあなたの方よ。けど、落とされるのも倒されるのもどちらにせよ同じ結果よね」
彼女はこちらの挑戦をあえて受けた。遊び半分ではあったが、手加減をするつもりもなければ慢心することもなかった。
やるからには全力で戦う。こちらの身を震え上がらせるほどに伝わった気迫が、それを物語っていた。
「あなたたちと戦ってあげるわ。素直に落ちる方を選択していれば痛い思いをしなかったのに、なんて後悔しないようにね」 「そんなことは考えもしねえよ!」
塁は全身から放電を起こし火花を散らして気合を入れる。パチパチと音が鳴る中で、その気合を相手にぶつけるかのごとく、必殺技を繰り出した。
「スパーキングブリッツ!」
掌をミークに向けて突き出すと、そこから真っ直ぐに電撃が放たれ、ミークに襲いかかろうとする。
小技の一つで格上の相手に対して大きなダメージは期待できないが、かすり傷程度なら負うはずだ。これは牽制で、敵の出方を伺うために塁は攻撃したのだ。
「このような技なんて、簡単に捌けるわ」
もちろん、ミークがこれに動じたことはなく、冷静さを崩さなかった。
「けど、私の力がどれ程のものなのか見せつけるにはいいわね」
彼女も小手調べをするつもりらしい。まるで空気をかき集めるかのようにミークは腕を振るいだす。
「クラウディバリアー」
すると、ミークの周囲に靄のようなものがかかり出し、彼女の姿が霞んで見えてきた。しかもただの靄ではない。鈍色の、まるで暗雲を思わせるように漂っているのだ。
その靄にスパーキングブリッツの電撃が突き破ってきた。そのままミークに命中し、彼女を痺れさせるのだと思われた。
だが電撃はミークに届く前に、靄の中で次々と枝分かれしていき、最後には散るように消失していった。
塁は、驚愕に声をあげてしまう。
「なんだ…?分解でもしたのか!?」 「いえ、吸収したと見た方がいいでしょう」
伝助が冷静に指摘し、氷狩もまた分析する。
「恐らくはあの靄の中で漂っている水滴や氷の粒が、スパーキングブリッツによって電気を含んだ、帯電状態となったんでしょう」
それを聞きながら、一同は靄の中にいるミークを見やる。
その彼女は余裕からなのか、塁たちに解説をはじめた。
「私が張ったクラウディバリアーは、雨雲と同じ成分でできた防御壁なのよ」
雨雲と同じということは、やはりあれは微小な水滴と氷の粒子によって生じているのだろう。
そして、氷狩は更に推測し、先程のスパーキングブリッツと結びつけると悪い予感を覚え冷や汗を一筋を流す。
「雨雲…まさか!」 「勘がいいわね」
氷狩の考えが当たっていることを告げるミークの声には、一瞬寒気を錯覚させる無機的な冷たさを感じることができた。
「雨雲が電気を帯びることによって、雷雲へと変わったわ」
そのことを証明するかのように、クラウディバリアーの靄の中では時折小さな閃光が起こり、鈍い音も轟き出す。
「先程の電撃、返すわね」
その言葉と共に、靄の中から塁に向かって電撃が放たれた。自分の電撃が返されたことに驚き、そのため反応が遅れた塁はかわしきれずに電撃を浴びてしまう。
「あのバリアーは攻撃を返すこともできるのか?」 「いや……」
息を呑むハヤテたちに、塁は少し違うと訂正する。
「ただ返しただけじゃねぇ。威力も増してやがる」
実際に受けた塁だからわかる。この電撃は、自分のスパーキングブリッツよりも攻撃力が高かった。
考えてみれば当然のことかもしれない。必殺技を返すのに相手もまた必殺技を、しかもこちらよりも力も完成度も高いのだから。
「あの雲のバリアーの前には、俺の攻撃も通用しないみたいだな」
氷狩は手が出せないことを唇を噛んで痛感する。雲は大気中の水蒸気が凝結、凍結によって水や氷になることで生じるものである。これは冷気によって起こることであるため、氷狩の言うとおりグルスイーグの攻撃はあまり効果がないだろう。また、冷気とは逆の熱で攻めて雲を蒸発させるという手も、実力差が大きくかけ離れているため有効とは言えない。それがわかっているから、佳幸も打つ手がないことの悔しさに拳を握りしめる。
「なら、僕の必殺技はどうかな?」
氷狩や佳幸たちとは別に、塁の次に攻撃に移ろうとしていたのが拓実であった。知らぬ間にアイアールと一体化していて、黄金の矢を弓に番える。
「ゴールデンアロー!」
ミークに狙いを定め、黄金の矢が放たれた。電撃や氷、炎と違い、実体のある物理攻撃だ。あのクラウディバリアーを突き破り、ミークにダメージを与える可能性があった。
だが黄金の矢は雲の防御壁の手前で、何かの力によって吹き飛ばされてしまった。
「こ、これは…」
拓実は一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに理解ができた。
「そうか気流。雲は気流とも結びつきがある」
雲が大気中に浮かぶのは、上昇気流と下降気流の力が釣り合うことでなる。雲の形も空気の影響によって決まることからも考え、雲の形成には気流や空気も必要と言えるだろう。
「気流の力によって、黄金の矢を弾き飛ばしたんだ」 「ということは、僕やハヤテ君の風の力で対抗してもあまり効き目はないということですね」
伝助が眼鏡の奥からミークを見据える。
普段おとなしいだけに、その目力には凄みがあった。
「ついでだから教えてあげるわ」
塁や拓実の必殺技を苦も無く退けたミークは、貫禄をにじみ出しながら話しだしてきた。
「今使っていた力は、ゼオラフィムによるものじゃないわよ」
あれがゼオラフィムの力ではない?
どういうことかわからないハヤテたちに向けて、腕に着けてあるリングを見せてきた。
「この力は、雲のクラウドリアによるものよ」
それを聞き、再び彼女のリングに目を戻す。
遠目なのではっきりとはしなかったが、リングには銀色に輝く、雲と刻まれた勾玉が挿入されていた。
確かに、クラウドリアの力とみて間違いないだろう。勾玉をリングに挿入すれば、その勾玉の精霊が持つ力が使えるのだ。
「元々私はクラウドリアの主である白銀レベルの使者だったわ。今は明智天師から譲り受けたゼオラフィムの使者だけど、勾玉はまだ私の手中にあるのよ」
ゼオラフィムと一体化したうえに、クラウドリアの力まで備わっていることに、益々手強いものを感じるハヤテたち。
天と雲を一緒にして捉えていたが、実のところはそれぞれ別の力だった。雲の力を攻略しても、ミークに決定打を与えることはまだできないだろう。
それでも、一つ一つ着実に攻めていくしかない。それらは必ず勝利へと結びつくはずだから。
そのためには防戦一方の展開から何としても攻勢に出なくてはならない。だがミークは、その機会を窺っていたハヤテたちに逆に攻撃を仕掛けようとしていた。
「今度は、こっちからいくわよ」
指を一本ハヤテたちに向けて指すミーク。その指の先で雲が発生し、それはどんどん大きく形成していく。
「クラウディアサルト」
その雲は瞬時にハヤテたちの頭上まで移動し、銃弾のような勢いで雨を降らしてきた。
それはまさに、水のマシンガンであった。
「くっ、防御がうまくとれない…」 「しかも、目がよく見えなくて…痛たっ!」
夥しい雨量の上に飛沫が目一杯かかり、視界が晴れずに周囲がよく見えない。その上全身は強風に煽られ、身動きが取れない。
豪雨と猛風、それを起こした雲はスコールのようにすぐに消えていった。だが、ハヤテたちは傍から見た以上のダメージを受けてしまった。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
身を呈して豪雨から自分を守ったハヤテの問いに、ナギはうむと言って頷く。
主の無事を確認できたハヤテは、ミークの方へと向き直る。
「これ以上お嬢様を危険に晒すわけにはいかない!」 「いい加減、こちらから攻撃しないとね!」
ヒナギクもハヤテの隣へと並ぶ二人はその場で自分たちの精霊と一体化、ミークを目指して飛びかからん勢いで駆け出そうとした。
「待ちなさい!」
しかし天の間の中へあと一歩のところで、伝助に慌てたように制止された。
「忘れたのですか?今天の間へと入れば、達郎君の二の舞になりますよ」
天の間には地面が存在せず、入ってしまえば永遠に落ち続けてしまう。
そのことを失念していたハヤテとヒナギクはその場で思い留まった。達郎の救助をしている花南はそれに手間取っている。戦闘中なのだから当然だ。自分たちが落ちることでこれ以上彼女に迷惑がかかるなんてことにはしたくない。
だが二人の気持ちもわかる。こちらの遠距離攻撃は全てかわされた。対抗するには近距離での技しかない。自分たちの力を最大限まで振り絞りやすいため、微小でもダメージは与えることはできる。
ただ、足場がなければそれも叶わない。どのような方法でミークに近づき、一発当てることができるのか。それがうまく思い浮かばない。
そんな中、ナギはあることを思い出したみたいでヒナギクに尋ねてみた。
「そういえばヒナギク、おまえ高所恐怖症なのにこんな近くまで来て大丈夫なのか?」
こんな時になにを呑気なことを、と宥めるつもりでナギを睨むヒナギク。
「べ、別にこの程度で恐いなんて言うわけないでしょ」
口では強がりを言うものの、指摘されてみて自分でも疑問に思えてきた。
「…わからないけど、あれを見ても恐いとか、そんな気にならないのよ」 「おかしいではないか」
ナギは有り得ないものであると、断固として言い放つ。
「ヒナギク高いところを恐がらないなんて、なにか不吉なことの前触れとしか思えん」
真面目な顔で豪語するナギに腹立たしくなるが、怒鳴りつけたくなる気持ちをヒナギクは抑え冷静に努めようとする。
高所恐怖症が筋金入りなのは自分が一番よく理解している。どうしてだなんてこちらが聞きたいくらいだ。
そんなヒナギクを傍目で捉えている優馬は、割と真剣に考え出す。
彼女の恐怖症が治ったとは思いにくい。でも、現実にヒナギクは空を前にしても平然としている。
いくら悩んでも答えが出てこない。袋小路に入りかけるが、優馬はふと閃く。
あの天の間は、本当に中が空中となっているのだろうか?
それが発想の転換となり、優馬は脳を素早く巡らせてゆく。
そして、ある仮定へと結びつくのであった。
次回も少し遅れるかもしれません。
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Re: 新世界への神話Drei 2月10日更新 ( No.57 ) |
- 日時: 2013/03/04 17:15
- 名前: 絶影
- またまたお久しぶりです(汗)
絶影です。
では、早速感想に!
ロクウェルを倒したハヤテ達は第三の使者がいる天の間へ。 恐がる達郎を無慈悲に突き飛ばすナギ。 ひどっ!!(笑) 底なしの空を落ち続ける達郎に救いの手を差し出すあたり、花南の優しさが窺えますね(爆
そんな中現れたのは、底なしの空に立つ、第三の使者ミーク。 彼女は空と雲の精霊を従えているのですか。 手強そうな相手だ…
遠距離攻撃は全く通じず、 近距離攻撃を仕掛けようにも達郎の二の舞になってしまう。
そんなミークの攻略を優馬が思いついたみたいですね。 ヒントはヒナギクが恐がらない、ですか(笑) 一体どんな仕掛けなのでしょうか?
次回の更新をお待ちしてます。 それでは、また。
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Re: 新世界への神話Drei 2月10日更新 ( No.58 ) |
- 日時: 2013/05/06 18:43
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 3か月ぶりですね。
果たしてここまで停滞して期待しているものか。
それはそれとして、先日のクイズ大会は面白かったです。 合同本、がんばろう。
さて、レス返しを。
絶影さんへ
>またまたお久しぶりです(汗) >絶影です。
お久しぶりです! 返信に結構時間かかりましたが…
>では、早速感想に!
>ロクウェルを倒したハヤテ達は第三の使者がいる天の間へ。 >恐がる達郎を無慈悲に突き飛ばすナギ。 >ひどっ!!(笑) >底なしの空を落ち続ける達郎に救いの手を差し出すあたり、花南の優しさが窺えますね(爆
ナギはあのように、結構容赦ない性格ですからね。 関心のない相手には、あのような対処をするかと。 花南は、一応仲間想いということで。
>そんな中現れたのは、底なしの空に立つ、第三の使者ミーク。 >彼女は空と雲の精霊を従えているのですか。 >手強そうな相手だ…
ただでさえ強いのに、二つの精霊を使っているのですから、反則にも思えますよね。
>遠距離攻撃は全く通じず、 >近距離攻撃を仕掛けようにも達郎の二の舞になってしまう。 >そんなミークの攻略を優馬が思いついたみたいですね。 >ヒントはヒナギクが恐がらない、ですか(笑) >一体どんな仕掛けなのでしょうか?
このヒントは簡単でしょうか? 結構予想できると思うのですが、どうでしょう?
>次回の更新をお待ちしてます。 >それでは、また。
随分待たせましたが、読んでくれると嬉しいです。
それでは、本編の更新楽しみにしてください。
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Re: 新世界への神話Drei 2月10日更新 ( No.59 ) |
- 日時: 2013/05/06 18:48
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 本編行きます。
4 「さあ、まずは一人」
その間に、ミークは自分たちの中から狙いを絞っていた。
「いつまでもぶら下がっているのも目障りよね」
そう言って、花南に引き上げられている途中の達郎に顔を向ける。達郎の方も気付いて彼女と向き合い、嫌な予感をし身を強張らせた。
「この辺りで落ちてもらいましょう」
言いながら、ミークは達郎に向けて指を振るった。それで気流の類でも操作しているのか、それによって達郎を繋いでいる蔦がちぎれ出してきた。
それを見て、達郎は大きな声で悲鳴をあげる。
「か、花南、急いでくれ!」 「わかっているわよ!」
言われなくても、フラリーファは急ピッチで引き上げを命じる。しかし、蔦が裂かれていくスピードの方が早い。
救出までもう少しのところで、遂に蔦が断ち切れてしまった。
今度こそ落ちる!
達郎が下へと引きずりこまれようとする。その寸前だった。
彼の腕が、何かによって掴まれた。達郎にはそれが人の手によるものだと感じた。
もしかして、助けてくれたのか?
一体誰が助けてくれたのか、確認するために顔を見上げた。
「大丈夫か?」
達郎が見たのは、ユニアースと一体化して自分を掴み上げようとしている優馬の姿であった。
「ゆ、優馬さん…?」
達郎は目の前にいる彼に唖然としてしまう。別段、仲間が助けてくれたことに対して疑っているわけではない。
優馬は今、天の間の中での空中に、何事もないかのように膝を着いていたのだ。これには達郎だけではなく皆も信じられなかった。
そんな達郎の心中がわかる優馬だが、今は他にやることがあった。
「聞きたいことがあるんだろうが、とりあえず今はお前を助けるぞ」
そう言って達郎を引き上げその手で彼を抱きながら、上に向かって飛び上がる。二人はミークと同じ高さで足を着ける。
達郎は自分も足で立っていられることに驚き、本当に足場があるのか軽く数回踏んでみて確認する。
透明なのか視認することはできないが、確かにそこに足が着けるように何か硬質なものが存在していた。
「ど、どうなっているんスか?」
達郎は隣で自分に抱きかかっている優馬に顔を向けた。どういった道理でこうなっているのか理解できず、彼に聞くしかなかった。
「ああ、こいつのおかげだ」
そう言って、優馬は空いている方の手に持っているものを見せた。
彼が手にしているのは、円錐型のランスを思わせる槍であった。しかもただの槍ではない。ユニアースの角が変化したものだ。
「こいつでアースフィールドを応用した場を作ったんだ。向こうもこの天の間に技をかけているからな、同じことをしたまでだ」 「天の間に、技って…?」
これまた訳がわからない。天の間とミークの必殺技がどう結びついているのか。ゼオラフィムの力によるということなのだろうが、それ以外のことに関しては難しく想像ができない。
ハヤテたちも話してくれと言わんばかりに優馬を注視する。その期待に応じて、優馬はミークから視線を外さずに説明を始めた。
「この天の間の中は本当に空中というわけじゃない。今俺たちが見ている風景は、あいつによって作られたものだったんだ」
優馬は更に詳しく続けた。
「恐らくは場を空に近い環境にして、尚且つ天の間に入ってこようとする奴らに対して催眠もかけているんだろう。達郎のように、空だと思った奴はミークの手中にはまって落ちていくんだ」
広域にまでも及ぶ大きな力と、催眠という高度な技術の組み合わせ。効果は大きいが扱いはとても難しく、黄金のレベルで初めて使えるような技である。
「ただ、本物に近いという疑似空間を作っただけでしかない。その証拠に、重度の高所恐怖症のヒナギクがなにも反応しなかったからな」
称賛するような調子で優馬は言うが、なんだか馬鹿にされたような気がしたヒナギクはあまり気分がよくない。皆の役に立てたことは嬉しいのだが、自分のコンプレックスを悪意に利用されたような感じがして、素直に喜ぶことができないのだ。
ともあれ、これで天の間のからくりが解けた。
「…あなたも戦場を対象とした必殺技が使えるのね」
ミークは優馬に少し感心を抱いた。まさか、自分の必殺技を察して、その中で堂々と立てる者がいたとは思いもしなかった。
「けど、私の前ではそれが限界のようね」
優馬がユニアースの角で発生させている足場は、とてもじゃないが広いとは言えない。彼と達郎の二人が少しばかり足を動かせる程度しかないのだ。天の間の空に比べ、吹けば飛ぶような儚いものである。
「同じ系統の技同士なら、強力な方が勝つわ。私のスカイフィールドを覆すことは無理なことよ」
青銅と黄金の差が、ここにも表れていた。やはりそう簡単にはいかないものだ。
「ああ、そうだな」
優馬は、それを承知していた。
「俺の必殺技が通用するなんて最初から期待してねえよ」
言いながら、彼は踏み込むように脚を屈め、力を入れ始める。
明らかに、何かを狙っている。今度は何を仕掛けてくるか。
「おまえのような必殺技を破るには、おまえ自身に一撃を入れるしかない」
これだけの大規模な技、維持するための集中力が過大な疲労となっているはず。そこへ攻撃が命中すれば集中力が途切れ、スカイフィールドは消失してしまう。
「そのための足場が作れれば、上出来な方だ!」
優馬の狙いは自分だ。
ミークがそれを理解した時には、彼は自分目掛けて跳び上がっていた。
生意気である、と優馬を見てミークは思った。
自分のスカイフィールドの中で立つことができたのは誉めてやろう。だが彼の攻撃が自分に命中するとまで思っているのは自惚れが過ぎている。
ミークは再び自分の周囲に雲を漂わせ、その雲から優馬に向かって電撃が放たれた。
スカイフィールドを使用しているため移動はできないが、迎撃することはできる。
だが電撃は、優馬の後方から飛んできた何かに防がれてしまう。
その何かは、金色の輝きを持つ矢であった。これだけで、拓実が放ったものだとわかる。
「女の人に忘れられるなんて、ちょっと傷つくなあ」
ミークは苛立たしげに一瞥するが、当の拓実は飄々とした態度を崩さない。
「他人の戦いは見ておくものだね」
そう言って、拓実は塁と佳幸を見やった。
電気は金属に引き寄せられやすい。スピリアルウォーズの第四戦、塁の電撃を自分の青龍刀を避雷針替わりにして佳幸はかわした。拓実はそのことを参考にしたのだ。
その拓実の援護もあり、優馬は雲を突き破ってミークへと一気に迫る。そして、右半身を後ろに引いて右膝を屈め、蹴りの構えを取った。
「ギャロップキック!」
その体制からキックを繰り出し、ミークを蹴りつけた。
蹴りの必殺技を入れられ、若干よろめいたミーク。同時に、天の間の内部が空中から元の石造りで囲まれた部屋へと変わった。
「スカイフィールドが破られたぞ!」
喜びを露にするエイジたち。だが、優馬はまだ攻撃を止めない。
ミークから至近距離で着地する優馬。そこから、リングを着けている彼女の腕に向かって思い切り蹴り上げた。ミークに足が届かなかったのか、当てる気がなかったのかわからないが空振りとなってしまう。
しかし、蹴りによる風圧でミークのリングに挿入されていた雲と刻まれている、クラウドリアの勾玉が弾き飛ばされた。
「しまった!」
ミークは慌ててそれを取り戻そうとするが、優馬がそれよりも速く掴み取った。
「三千院のお嬢さん!」
そして、ナギを呼ぶや否や彼女に向けてその勾玉を投げた。
自分ではとらえることのできない速さで真っ直ぐに飛んでくるので、ナギは急いであるものを取り出した。高速で飛来する勾玉に対して恐怖を感じ目を閉じるが、手にしたもので上手く勾玉を受け止めることができた。そして勾玉は、そのあるものに吸収されていった。
「リダート?」
ナギが手にしているものは、精霊を封印する道具だ。本来ジムが持っているはずなのだが…。
「霊神宮に着く前に、あの男から渡されたのだ」
優馬もナギがジムから手渡されるところを見ていたのだろう。
ナギがうまくクラウドリアを封印できたのを見て、優馬は安心した。
今回はここまでです。 次回もまだ戦いは続きます。
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Re: 新世界への神話Drei 5月6日更新 ( No.60 ) |
- 日時: 2013/07/25 21:29
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- ご無沙汰しています。
2か月も放置していて申し訳ありません。
待っていた人もそうでない人もとりあえず見てください。
それでは、どうぞ。
5 ほっと一息つく優馬。そんな彼に向かって、飛んでくるものが…。
「ん?あれは…」
それが黄金の矢だと理解したのは一瞬。それから急いで飛び退き、軽い悲鳴をあげながらかわした。
「拓実てめえ、何するんだ!」
こんな真似をする奴なんて、一人しか思い当たらない。
「ええっ、何のことですかね?」 「とぼけんな!」
黄金の矢が飛んできたということが、拓実が犯人だということを物語っている。動かぬ証拠が存在する以上、言い逃れはできない。
「ああ、すみません」
避けるのがもう一歩遅ければ優馬は巻き込まれていたかもしれない。だというのに、拓実は悪びれた態度もなく淡々と謝っている。
「僕の矢で加勢しようとしただけで、悪気はありませんよ」
口ではそう言っているものの、そんな彼からは誠意が見られない。
「決して、優馬さんに刺さってもそれはそれでいいかなとか思っては…」 「そんなことを口にしている時点で嘘だろうが!嫌がらせが目的だってことはわかってんだぞ!」
拓実の本音がわかり切っているからこそ、優馬は彼に対して怒鳴り散らす。
優馬と拓実。硬派と軟派という対照的な性格であるため、上手く折り合いがつかないことが多い。二人にとってこうした衝突は会えば必ずと言っていいほど起こってしまうが、こんな二人でも仲間同士でいられるのだから、本当のところはそんなに仲が悪いというわけではないだろう。
一頻り拓実と口論した後、優馬は再びミークに向き直る。
今までの尊大な態度はなりを潜め、彼女は顔を俯かせている。
「どうした?自分の必殺技が破られたことがそんなにショックか?」
呼びかけてみるが、何の反応もない。まるで石になったかのようにその場で硬直している。
「なんだ、こいつ?」
あまりの変わり様に、普段鈍い達郎でさえ訝しみ始める。
「ボーっとしやがって、俺の攻撃を喰らえ!」
中々動かないのでじれったくなったのか、達郎が苛立たしげに仕掛けてきた。
「ハイドロスプラッシュ!」
達郎の掌から水がミークに向かって激流となって放たれた。しかし、尚もミークは動こうとしない。
これでは直撃は免れない。誰もがそう思っていたのだが、水はミークの手前のところで突然飛び散ってしまった。
「な、なんだ?」
驚きに、達郎は軽く声をあげてしまう。彼女はないもしていないように見えた。クラウドリアが封印された以上、クラウディバリアーは張れないはずだ。
「なにか、見えない壁に阻まれたように見えたが…」
優馬も若干の動揺を抑えながら冷静に状況を分析する。あの力は、精霊のものとは少し違い、ミーク自身のものではないかと考える。
そこで二人は気づいた。ミークから、静かだがとてつもない怒気を発していることを。
本能的に察する。今のこの女はかなり危険だと。
「ヤ、ヤバいっすね…」
達郎の声は恐れに震えていた。ミークが殺気を抑えているように感じて、それが無気味であった。抑えていたものが恐ろしく、爆発する時が不穏なのだ。
優馬もまた警戒心を強めていた。迂闊な真似は控え慎重であるように努めようと心に言い聞かせている。
まずは自分と達郎で相手の様子を見ておかなければ。
「後ろにいる奴らには、まだ入るなと釘を刺さなきゃな」 「もう遅いです…」
傍から聞こえてきた声に、優馬は間抜けな声をあげてしまう。
恐る恐る振り向いてみると、そこには氷狩と伝助が優馬に対して申し訳なさそうに立っていた。
何故彼らがここにいるのだろうか?
疑問を抱いていると、今度は別の声が反対側から聞こえてきた。
「どうした?戦う気がなくなったのか?」
錆びたナットを回すかのような鈍い音が鳴るかと思われるほどぎこちない動作でそちらへと首を動かす。
「来ないなら、こっちからいくぞ!」
優馬が見たのは、ミークに対して挑発しているエイジやナギの姿だった。ハヤテや佳幸たち、残りのメンバーもいる。
完全に言葉を失ってしまう優馬。もしユニアースと一体化していなかったら、開いた口が塞がらない彼の表情が拝めたかもしれない。
「ようし、このチャンスに乗って全員で突撃…」 「ちょっと待てえぇぇっ!!」
優馬の怒声が、天の間内に反響した。
突然間近で響いた大声量の叫びに、ナギたちは顔をしかめて耳を抑える。
「なんですかもう、いきなり大声を出さないで下さいよ」
涙目で耳を抑えながら佳幸は優馬に悪態をつく。
「ああ、すまん……。て、そうじゃないだろ!」
一瞬彼らのペースに呑まれそうになる優馬だが、すぐにまた喚き出した。
「何やってんだおまえら!どうしてここへ入ってきた!」
かなり怒気が込められた一喝であったが、一同はこれに脅えた様子もなく優馬の質問に応じた。
「そりゃあ、スカイフィールドが破られたってことは、反撃のチャンスってことだから…」 「一斉攻撃で一気に決めようと思って入ってきました!」
随分とポジティブな調子で話すエイジたち。彼らにとっては優馬の援護のつもりで、その気満々で行動に移している。
そんな彼らを悩ましく思い、優馬は頭を抱えた。
「どうかしたんですか?」 「なんでもねえよ」
これ以上は怒る気にもなれなかった。呆れ返ってその気が削がれたのと、彼らは善意で行動したのだからこれ以上咎めると良心が痛んだからだ。
それでも、優馬はため息をつかずにはいられなかった。これからミークは全力で襲いかかってくる。その攻撃に、達郎一人でも難しいというのに、全員を守り切ることは自分には無理な話である。だというのに、呑気ともとれるようなポジティブさでいられると、なんだかムカムカしてくる。氷狩や伝助はまだそうしようとしたみたいだが、ハヤテやヒナギクら止めるべき立場にいる人間まで戦う気になっていることも一因にある。
そんな状況の中で、遂にミークが動き出そうとしていた。
「…!来るか」
ミークの気配を察して、優馬は仲間たちに構うのを止め、槍を手に取った。
「アースフィールド!」
その槍を地面に突き立てる。すると地面に紋様のようなものが浮かび出て、優馬を中心に味方全員を囲んだ。
これで防御は万全だ。破られるだろうが、何もしないよりはマシだ。
自分にとっては最高の守りを敷いた優馬は、ミークの方を窺う。
彼女は、俯かせていた頭を上げてこちらを見据える。
それだけで、彼女の気迫というのがより実感できた。
「まさか、一撃を食わされるなんて…。この失態は、大恩ある明智天師の失態となってしまうわ……」
ぶつぶつと少々興奮気味に呟いた後、ミークは優馬たちに向けて言い放った。
「死に方を選ばせるなんて悠長なことはもうしないわ。あなたたちは、私自らの手でこの世界からお別れさせてあげる」
この宣告に、優馬の味方たちも戦意を煽られる。
「その前にあんたを倒すさ」 「スカイフィールドは破られたんだ。もう悩むことはねえ」
攻撃を選ばなくてもよくなったことから、全員強気となっている。ほとんどが格闘や白兵戦の戦闘スタイルをとっているので、自由に戦えるようになった今ならなんとかなると思っているのだ。
「私が倒される?そんなことはないわ」
嘲笑と共に、ミークがマインドを発動させた。それを感じた優馬たちは、思わず身を硬直してしまう。
ミークの背後に浮かんだ、広大な天空のオーラ。彼女からあふれ出る精神エネルギー。それらが並々ならぬ迫力が秘めており、大気すら震えているようである。
「この感じ…」
今まで見てきた中で、これほどの力とは気を放てる黄金の使者は他にはいない。
これはヤバい、と優馬は本能的に危機を察していた。これまでにないくらいの。
「あなたたちはもう、進むことも逃げることも、私と戦うこともできなくなるんだから」
そう言いながら、ミークは掌に青白い光球を出現させる。精神エネルギーの密度が高いことは、見ただけでわかる。
そのエネルギー球を自分たちに向けて投げつけるのか。優馬たちはそう思ったが、ミークはそれを掌と一緒に頭上へと掲げる。そこでエネルギー球が段々と大きくなっていくのと同時に、ミーク自身も青く光り出す。
仲間たちが驚きの息を洩らしたのを、優馬は聞いた気がした。
そして、閃光は眩しさを増していく。まるでミーク自身がエネルギーそのものへと変わっていくように。
「スカイデッドホール!」
ミークがそう唱えた時、天の間内が光で溢れた。
今回はここまでです。 ミーク編はまだ長いです。
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Re: 新世界への神話Drei 7月25日更新 ( No.61 ) |
- 日時: 2013/09/28 17:50
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- また更新に大分間が空いてしまった…
早く進めたいんですけどね…
6 ミークが発した光によって一瞬視界を奪われてしまう優馬たち。 すぐに目が利くようになると、周囲がまた青空であることを確認する。事前にアースフィールドを展開していたので、今回は落下することはない。
「何かと思えば、さっきと同じような技じゃねえか」
達郎は胸を撫で下ろしていた。もっと規模の大きい、威力の高い攻撃を想像していたのだがその予想に反していたので安心しきっていた。スカイフィールドが一度破られていることもその要因となったのだろう。
「全く、芸のない奴だな…」
そのため敵の手中にいるというのに完全に達郎は油断しきっていた。そんな彼に、牙が剥かれた。
どうしてやるかと口にしている達郎は、突然間近で起こった爆発に巻き込まれてしまう。
「達郎!?」 「大丈夫か!?」
爆発音を聞いて、優馬たちは急いで達郎に無事かどうか確認を取る。
「平気っス」
ダメージは負ったみたいだが、立って話ができるのなら大したことはないだろう。
達郎が答えたのも束の間、今度は塁が脅威にさらされていた。
「な、何だこの風は…?」
身も裂くような猛風を前に、塁は腕でガードの構えを取る。吹き飛ばされそうになるが、なんとかこらえ切った。
この風も先程の爆発も、誰の仕業かわかっている。
「ミークはどこだ?」
ハヤテたちは犯人の姿を探すが、どこにも見当たらない。
姿を消して、どこかに隠れているのだろうか?
「どこにいる?姿を見せろ!」 「こそこそしているなんて卑怯よ!」
塁とヒナギクは周囲に向かって叫んだ。正々堂々とした性分であるこの二人にとっては、姑息な戦法など好ましくないものだ。
だがいくら呼びかけても、ミークは姿を現さず返答もしない。敵の求めに素直に応じるわけがないとわかってはいるが、それでも腹立たしくなる。
「優馬、ユニアースの角で見つけられませんか?」
伝助は至極冷静に提案した。ユニアースの角が持つ索敵能力ならば発見できるかもしれない。
優馬は伝助に頷いた後、槍の能力でミークを探し出す。彼はしばらく無言のまま槍に集中していた。
ハヤテたちも、その真剣な雰囲気に呑まれて黙っている。
「……ダメだ」
やがて、優馬は少々悔しそうに首を振って作業を止めた。
「ダメって、どういうことだ?」
予想外の答えに、ナギが若干意外そうな調子で尋ねる。
「まさか、ここもロクウェルの時と同じように、索敵能力を阻害する何かが放たれているんじゃ…」 「いや」
氷狩は山の間での戦いから仮説を立てたが、優馬はそれを否定する。
「ユニアースの角はちゃんと機能している。ミークがこの場にいることは角も捉えている」
その証拠に優馬は槍を見せた。槍は索敵中だということを示す光を点滅している。
「だが角はミークがここにいることはわかっているのだが、どこにいるのかわからない。突き詰めて言えば、本当に隠れているのか、実体が掴めないのか、とにかくどう言えばいいのか困っているみたいだ」 「なんじゃそりゃ」
話を聞いて、エイジたちも困惑してしまう。何を伝えたいのかわからない以上、こちらだって理解不能だ。優馬の言い回しが回りくどいこともその一因でもあるのだろう。
「どうかしら?私のスカイデッドホールは」
彼らが混乱している中、この場全体にミークの見下すような声が響いてきた。
ハヤテたちは辺りを見渡すが、やはり彼女の姿はどこにも見当たらない。そんな彼女に向けて、ミークはさらに続けて言った。
「このスカイデッドホールは、スカイフィールドと違って相手を閉じ込めることに特化した必殺技よ。私の作った異空間に飛ばされ、苦しむがいいわ」
ミークが作った異空間ということは、ここは天の間ではないということだ。言われてみると、スカイフィールドとは確かに雰囲気がどこか違う。発している力もより強いものを感じる。
しかし、ミークの姿が見えない以上攻撃のしようがない。ミークにダメージを与えればこの空間も消えるはずなのだが、これではどうしようもない。
逆に、ミークの方は何時でも攻撃可能で、尚且つ反撃を受ける心配はほぼないため思う存分攻撃ができる。
「その忌々しい陣、かき消してあげるわ」
その言葉に続くように、何かが削り取られるような音が聞こえてきた。
まさかと思って優馬は音がする下の方向を見た。途端、彼は焦り出した。
アースフィールドの円陣が、外周から削り取られようとしているのだ。これも、ミークの攻撃に違いない。
「おまえら、端に寄らず中心に集まるんだ!」
優馬が皆に呼びかける。陣が削られていく中で皆がバラバラに散っていたのでは危険である。少しでも安全を確保したいなら一か所に集まってもらわねば。
ミークは慌てふためく自分たちの姿を見て大層ご満悦だろう。虫唾が走るが、今はこらえるべきだ。仲間たちの安全の方が優先すべきである。
だが、逃げ遅れたものがいた。
達郎が崩れていく陣に足をとられ、踏み外して落下しそうになる。
「達郎!」
陣から転げ落ちそうな達郎の腕を、優馬が間一髪のタイミングで倒れこみながらも掴んだ。
「くっ、俺は力自慢ってわけじゃねえんだが…」
悪態をつきながらも、優馬は精一杯の力で達郎を引き上げようとする。自分で言うだけあって中々達郎は持ち上がらないが、手はしっかりと掴んでいた。
「無謀なことをするわね」
その光景を見て、ミークは嘲笑した
「足手纏いを助ける余裕なんてないはずなのに手を伸ばすなんて、そうとしか言いようがないわ」 「黙ってろ…」
優馬は苦しそうに息をつきながらもミークに言い返す。
「俺の勝手だろうが。口出しするんじゃねえ」
そんな彼の必死な姿を、ミークは面白いものの様に捉えていた。だから標的を、アースフィールドから優馬自身へと変えてきた。
優馬に集中攻撃を加え出したミーク。特に重点して爆撃したのは、達郎を掴んでいる手から腕にかけてだった。
まるでいたぶるかのように攻撃を続けていくミーク。だが、優馬はそれでも達郎から手を放したりはしなかった。
「意外としぶといわね」
ミークは頑として達郎を助け出そうとしている優馬に呆れと関心を抱いていた。
「どうあってもその手を放さないつもりね」 「当たり前だ」
確固たる思いを込めて、優馬は語る。
「こいつを助けることができるのは、俺だけだからな」
状況は彼の言う通りであった。優馬以外の味方は手が出せないよう、ミークが起こしている猛風に煽られ動けない。優馬をいたぶるのに邪魔はさせないというミークの徹底的なやり方だ。
そのため自分一人で達郎を助けなくてはならない。だからこそ優馬はここで手を引きたくないし、仲間たちも優馬がうまくやれることを祈っている。
「俺が手を放したら、こいつを助けることができなくなる。そしたらこいつは何もできなくなるし、俺もこいつに対して何もしてやれなくなる」
この手を放すのは簡単だ。だがそうすると後悔してしまう。そして、それを取り消すことは絶対にできないのだ。
特に命に関してははっきりとそう断言できる。五年前の先代のスセリヒメの件や医者として多くの患者たちを診てきた優馬だからこそ、説得力のある言葉だ。
「誰かが一人だけの力ではどうにもならない時に、俺はそいつを助ける。見捨てたくないっていう気持ちになっちまうからな」
我ながら饒舌だな、と優馬は感情的になっている自分を皮肉っていた。
だがその熱い感情こそが、達郎を掴む手を放さない所以であった。そんな彼の腕に着けているリングが微かに発行した。
優馬が持つ魂の資質に、リングが反応したのだ。
「いくぞ達郎!」
その瞬間、優馬から薄くぼんやりとしてわかりにくかったが、一角獣と思わしきオーラが発生した。そして、少しずつ達郎を持ち上げていく。
花南ほど確かではないが、仲間を助けたいという感情がマインドを発動させたのだ。
そんな彼に、ミークは再び猛攻を仕掛けてきた。
「……目障りね」
マインドに目覚めたから脅威として捉えたわけじゃない。優馬の人を助けようとする感情と、そんな彼に仲間がいることに苛立っているのだ。
自分だって明智天師のために戦っている。別に見返りを求めてのことではない。あの方から受けた大恩を少しでも返すだけのことだ。
だが、自分と師との間にははっきりとした結びつきがあるのだろうか。
優馬や彼らは、自分の様な理由も特にないのに、仲間としてよい関係を作り上げている。それがミークには羨ましく見えたのだ。
自分だって、明智天師ともっと良好に接していきたいと願うことがある。だが最近の、ジュナスが離反した頃からの明智天師とはそれができにくくなりつつあった。
それを思い出したミークは苛立たしい気分となり、半ば八つ当たりのように優馬へ攻撃を仕掛けようとする。先程と比べ、より力を入れた攻撃を。
「二人まとめて、落としてやるわ」
その時、大きな衝撃音が響いて耳を劈めいた。続いて激しい揺れが優馬たちを襲い、彼らはバランスを保つのが困難となってしまう。
運動神経が優れている者はなんとか姿勢を保てたが、そうでないナギや普段運動しない伝助などはその場で転んでしまう。
優馬も衝撃に打ち付けられるが、その前から倒れこんでいたためふらつくことはなかった。
「あの女、本当に大きな一撃を入れてきたな」
優馬をはじめ、誰もが皆これがミークの仕業であると感じていた。
しかし、それは思い違いであった。
振動の後、この空間に光が差し込んできた。ハヤテたちがそれを目で辿ると、四つの人影を目にした。
「あれは…!」
四つの内三つは全く知らなかったが、一つは見覚えがあった。それもそのはず、一度激闘を繰り広げた相手なのだから。
「兄さん…!」
三人の少女を連れ、こちらへと降りてくる人影はライオーガと一体化している綾崎雷矢本人のものであった。
まだまだ続きます
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Re: 新世界への神話Drei 9月28日更新 ( No.62 ) |
- 日時: 2013/12/31 23:20
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- こんばんわ。
チャット会やりながらの更新です。
また大分間が空いて、13年最後の更新となりました。 すみません。
それでは、どうぞ
7 話は少し遡る。
「ここが第三の間だな」
ハヤテたちに遅れながらも、雷矢たちは天の間に着いた。
「どうなってんだ、ここは…?」
真っ先に光が抱いた感想がそれである。開け放たれた門から青白い光が眩しく発しており、中の様子が全く見えない。
「入ってみればわかるわよ」
海は堂々と天の間へと歩き出す。しかし、いざ天の間内へ入ろうとした時、何か見えない力に押し返され、彼女は軽く悲鳴を上げて尻餅をついてしまう。
「海ちゃん、大丈夫?」 「平気よ」
心配そうに光が見ている中で、海は何事もなかったかのように立ちあがってスカートについた砂埃を払う。
「どうやら、ここを訪れた方々を中に入れないようですね」
風は思慮深く天の間を見ていた。自分たちの様な侵入者に対するセキュリティなのかはわからないが、天の間を前にして足が止まってしまうのは確かだ。
「それだけじゃない」
更に雷矢は、三人が驚くことを見抜いていた。
「この天の間の中は、異空間に繋がっている」
光たちが目を見張った中で、雷矢は天の間の門を指差した。その先に、普段ではありえないものを目にした。
なんと、門の周辺が何か歪んでいるのだ。注視しなければ見落としてしまいそうなほど微かではあったが、あれは確かに空間のひずみであった。
光たちもその現象に見覚えがあった。それはセフィーロ城が侵攻された際のことだ。魔物やノヴァが、城内に侵入する際に出現した黒い球体。あれの周囲には放電が起こっていたし、球体自体あの場で何か見えない力によってねじ曲げられてできたようにも見えた。恐らくあの黒い球体は別の空間への出入り口となっているのだろう。
「確か俺たちより先に弟や三千院ナギたちが大聖殿に向かっていると聞いたが…。どうやら今この天の間であいつらが戦っているのだろう」
さて、どうしたものかと考えだす雷矢。
はっきり言って、ハヤテたちの戦いに興味はなかった。三千院ナギがスセリヒメであろうとなかろうと、自分には関係のないことだ。自分は自分の戦いをすればいい。
そう割り切ろうとしていた。しかし、それでも無視ができなかった。それに…。
「第一、ここを突破しなくては先へと進めないからな」
むこうがどんな気でいるかは知らないが、こちらの邪魔をしなければ手を貸してやってもいい。
「ともかく、この中へと入って黄金の使者を叩きのめさないとな」 「でも、どうやって中に入るんだ?」
光が肝心なことを問い質した。普通に入ろうとしても、海の時のようにまた弾き返されるのは目に見えている。異空間へ行くということが難しいのは彼女たちもわかり切っている。
しかし、雷矢はこれを困難とは捉えていなかった。
「簡単なことだ」
彼はライオーガと一体化し、必殺技の構えを取る。
「門の中に向けて、全パワーをぶつけて入り口を開ける!」
エネルギーを衝突させて、炸裂を起こして穴を開けようというのだ。ここで放ったエネルギーが異空間の中にも影響を及ぼす程の大きさならば、異空間へとつなげることができるのかもしれない。
「おまえたち、俺に続け!」
これから放つ技に集中力を高める中で、雷矢は光たちに呼びかける。
彼女たちが放つ攻撃魔法の威力は絶大だ。本人たちの心によって大きく左右されるが、雷矢の必殺技を超え、黄金の域に届くところまで来ている。それを三発、雷矢の必殺技と合わせて放てば、異空間に穴が開くであろう。
少女たちは両手の中に魔法を込め始める。光は真紅の電撃を帯びたエネルギー球を、海は渦巻く水を、風は竜巻を。
「いくぞ、雷凰翔破!」
自身の最大の必殺技を異空間へぶつける雷矢。彼に倣って、光たちも魔法を撃つ。
「紅い稲妻!」
光は超高温によってプラズマ現象を起こしたエネルギー球から電撃を。
「蒼い竜巻!」
海は大きく渦巻いている水を。
「碧の疾風!」
そして風は自身の唯一の攻撃魔法を放つ。三人各々の魔法は雷凰翔破と合わさるように門の中へと命中した。
その瞬間、凄まじい閃光が視界一杯に広がって目を眩ませ、凄まじい衝撃が霊神宮を大きく揺らした。光たちはその衝撃で倒れないように堪えている。
しばらくして揺れが収まり、再び目が利くようになってから光たちは天の間を見る。
中からは青白い光を発していたのだが、四人の攻撃によるエネルギーとの衝突でまるで虫に喰われたかのように大きな穴が開いており、そこから天の間内部へと進んでくださいと言っているような光景となっていた。
「やった!これで中へと入れる!」
今までは青白い光が眩しくて見えなかったのだが、自分たちが作った穴から中の様子がはっきりと目にすることができた。このことから、異空間へ繋がる入口がうまくできたことがわかる。
「状況はよくわからないが、異空間で戦っているんだ。余程の強い力が働いているということになる」
かなりレベルの高い戦いであろうことは容易に想像できる。そこへ、自分たちも割り込むのだ。自然と喉を鳴らしてしまう。
それでも、彼女たちに引く気はなかった。
天の間へと我先に歩き出した雷矢。光たちも彼に続くように、天の間の中へと入っていくのであった。
今年はここまで。 続きは来年で。
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Re: 新世界への神話Drei 12月31日更新 ( No.63 ) |
- 日時: 2014/02/16 19:24
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
新年一発目の更新です
8 そのような経験を辿って、四人はハヤテたちと合流したのだ。
「兄さん……」
これによって一番心を打たれたのはハヤテであった。
生死不明だった兄との再会。一時は死んでしまったかと塞ぎこむこともあったが、こうして今対面している。それがとても嬉しい。
「生きて…いたんだね…」
ハヤテにはそれを口にするのがやっとであった。他は何も言えない。
人が心の底まで感想した時、言葉では表せないというが今のハヤテが正にそれであった。
雷矢の方も、張り詰めていた雰囲気を和らげる。ナギやヒナギクも、二人を優しく見守っている。
しかし、他の者たちはそう穏やかではなかった。
「何をしに来た!」
真っ先に警戒してきたのは優馬であった。槍先を雷矢の喉元に突き付けて威嚇する。
「感想の再会に水を差して悪いんだが、俺たちはまだおまえを許してはいねえんだ」 「場合によっては、またあなたと戦います」
伝助も挑戦する意志を示すかのように構えを取った。
「……一体化できるようになったか」
そんな二人を前に、雷矢は威圧的な態度を取った。
「雑魚がようやくまともに戦えるようになったのだな。俺と戦った時からよく強くなれたものだ」 「雑魚だと?」
雷矢の嘲るような物言いに、塁が怒って彼に掴みかかって来た。
「てめえ、戻ってくるなりそんなこと…」 「ケンカはだめだ!」
その時、両者の間に光が割って入り仲裁しようとする。
「雷矢さんは、あなたたちと戦うなんてことは考えてないんだ」 「この人がここに来たのは、ここで一番偉い人に会うためよ」
海も一緒になって雷矢について弁明する。彼女たちは既に雷矢を信頼していた。今みたいに仲間のように語るのも、彼がそうであると思っているからだ。
そんな彼女たちにを見て、塁や優馬たちは拍子抜けしてしまう。
「女の子……?」
あの雷矢の、容姿はそれなりにいいが気質が荒くて厳格で女の縁なんて人質としたマリア以外ないに等しい男が、三人の少女を連れている。
そのことが、とてもじゃないが信じられない。少女三人が可憐であったことも、雷矢とのギャップを感じさせていたのだろう。
対して、少女たちは先程の呟きに別の意味を見出していた。
「ちょっと!女の子じゃなかったらなんだっていうのよ!」
海が騒ぐようにこちらに詰め寄ってきた。自分はれっきとした女の子なのだ。それを否定したら怒るのは当然。全ての女の子に共通して言えることだ。
「あっと、すまん。そういう意味じゃあ…」 「じゃあ、どういうつもりよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる海。そんな彼女をどう宥めていいのかわからず、塁は困惑して口ごもってしまう。
そこへ、ハヤテが慌ててなんとかフォローしようとする。
「ええっと、その、君たちみたいな可愛い女の子が来たなんて思わなかったからさ……」
決して意図があって言っただけではないだろう。
だが、天然ジゴロと言われるだけのことはある。さりげなく女の子に対して可愛いという言葉出すあたりは流石だ。しかも効果は覿面だ。
「や、やだ。可愛いなんて…」 「わ、私なんて男の子みたいだってよく言われるし…」
ハヤテの可愛い発言に、一転して光と海は嬉しそうに照れ出した。ナギやヒナギクはそれを面白くないように見ていた。
「あの、皆さん」
そんな中、一歩引いたところでなりゆきを見ていた風が冷静に、呑気ともとれる調子で物申してきた。
「交流を深めて合うのもよいのですが、周りが捻じれているようになっていますわよ」
それを聞いて、全員周囲を見渡して確認する。
風の言うとおり、空間が何かでねじ曲げられているみたいだ。奇妙な光景である。
「ど、どうなってるのよ一体!?」
海は悲鳴を上げて狼狽している。今度は彼女の心情が理解できる。誰もが尋常ではない危機感を察していた。
「他にも霊神宮に来た人がいたなんて予想もしなかったわ」
この場に響いてきたミークの声から、怒りと苛立ちが感じ取られた。
「何が目的かは知らないけど、ここに入ったからにはまとめて葬ってあげるわ!」 「ちょっと!こっちの事情は無視なの!?」
自分たちが敵だろうが味方だろうがお構いなしというミークの態度に、海は文句を言いたてる。しかし、問答無用ということか、ミークはそれ以上何も言わなかった。
「私たちが入って来たことが、余程お怒りのようですわね」
風が頬に手を当てて言う。緊張感がない様に見えてしまう。
「とにかく、なんとかしないと!」
佳幸の言う通りであった。ここで何らかの手を打たないとここから出られないどころか、全員ミークに殺されてしまう。
「技を仕掛けたミーク本人に、一撃でも与えればこの空間も消えるはずだが…」 「その本人がどこにも見当たらないっていうのがなぁ…」
氷狩や達郎たちが頭を悩ませているのがそれだ。ユニアースの角でも見つけられない以上、彼女の姿を探し当てることはできず、攻撃もできないままなのだ。
「こうなったら手当たり次第ぶっ放して…」 「よしなさい。無駄に力を消費するだけよ」
半ば自棄気味になるエイジを花南が諌めた。四方八方に攻撃して運良くどこかに隠れているであろうミークに当たったとしても、それでもリスクの方が大きい。ここはまだ第三の間でしかない。大聖殿につく前に力尽きてしまう。
ミークがこの場にいることは確かなのだが…。
「相当怒っているわね、彼女」
ヒナギクの何気ない呟き。
「怒り、か…」
優馬がもう一つ考えていることは、その言葉と関係があるものだった。
このスカイデッドホールの捻じれ方。ミークが怒って起こさせたというよりも、彼女の怒りがそのまま捻じれとなった。そのように見えるのだ。
先程の衝撃にしてもそうだ。衝撃自体は雷矢たちによるものであろうが、あの時それとは別にこの空間自体も震えていたように感じたのだ。
まるでこの空間そのものが生き物であるかのように。
もちろん、空間が生き物だなんてことは有り得ない。まさかと思い優馬はそんな馬鹿馬鹿しいことから考えを切り替えようとしていた。
「いや、待てよ…」
優馬が謎についてひらめいたのは、その寸前だった。
続きはまた次回。
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Re: 新世界への神話Drei 2月16日更新 ( No.64 ) |
- 日時: 2014/04/27 21:18
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- また空いてしまった…
月一の更新目指していたのに…
それでは、本編です
9 「それならば納得できるが…とりあえず試してみるか」
半信半疑の念を抱きながら、優馬はユニアースの角を再び手に取った。
絶対とは言い切れないが、今度は違った反応を示すと感じていた。
「優馬さん?」
ハヤテは槍を持ち直した彼を見て首を傾げた。
「ユニアースの角を使っても、ミークは見つけられないはずじゃ…」
先程優馬がそれを用いて索敵しても捉えられなかったのは覚えている。角はちゃんと機能していたが、あやふやな反応をしたのだ。当てにならないものを使うことに疑うのは当然である。
しかし優馬はハヤテを無視して、槍に集中し始めた。
しばらくは沈黙がその場を支配していた。誰もが、雷矢や光たちも固唾を飲んで見守っている。
全員が注目する中、そう長くない時間の後、槍に変化が起こった。
頭上のある一転。そこに向かって槍から光が放たれたのだ。
「あそこに何が…」
ハヤテたちは光が伸びていく先を見上げた。ユニアースの角は、あそこに何を見つけたのだろうか。自然と緊張してしまう。
「今度はうまくいったな」
対して優馬は、安心と納得を口にしていた。
安心はわかる。ユニアースの角が正確に捉えられるか不安が存在していたのだろうから。だが、納得はどういったことによるものだろうか。
「ミークの意識はあそこに集中しているのか」 「おい、いい加減私たちに説明せんか!」
周囲を置き去りにして勝手に頷いている優馬を、ナギは拗ねた顔で見上げていた。
「ああ、すまん」
気づいたら、全員ナギと同様に優馬を見つめていた。皆の視線は、優馬を促すものとなっていた。
塁や伝助はともかく、子供たちにああいう目をされるのは苦手だ。優馬は内心苦笑しながら話を始めた。
「結論から言うと俺たちは思い違いをしていたんだ」
思い違い?一体何に?
「俺たちはミークが作ったこの異空間に閉じ込められた。ここまでは合っているな」
そう。ミークが自分たちの目前でスカイデッドホールのエネルギーを集中していたのを見ていたし、彼女自身も自分たちにそう言っていた。間違いのない事実だ。
「問題なのはここからだ。この中で俺たちはミークの攻撃を受けたことから、あいつもこの中にいて姿を消しているのかと思っていた。けど、それが違っていたんだ」
優馬はここで一拍置き、それから一層重々しくこう述べた。
「ミークはただこの異空間にいるんじゃない。あいつ自身が、この異空間そのものになっていたんだ」
これは重要なポイントである。だというのに、皆要領を得ずに呆然としていた。
無理もないだろう。優馬も、自分は何を言っているのだと苦笑気味となるほど、わかりにくい説明であったからだ。
「なるほど」
ただ一人、花南だけは理解ができたようだ。
「どうりで姿が見えないわけだわ。そう言うことならむしろ当然だもの」 「え?花南、わかったのかよ」
訳知り顔で頷いている花南に不審を抱く達郎。そんな彼を含めた皆に、花南は優馬の話に補足を加えた。
「あの女は、自分自身すらこの異空間を形成するためのエネルギーとしたのよ。スカイデッドホールを仕掛ける時、あの女も光っていたしね」 「難しいけど、つまりミークはこの異空間を作るのに自分の命までかけたってことかしら?」
話を聞いていたヒナギクは、要点を掻い摘んで正解かどうか聞いてみた。
「物分かりがいいわね」
白皇学院の生徒会長を務めるだけのことはあると、花南は心の内で関心を抱いていた。
命すらスカイデッドホールの糧としたということだから、この異空間がミーク自身と言っても間違いではないのだ。
「とにかく、そう言う訳でミークの姿はないも同然なんだ。だがあの女の意志はこの全域に行き届いている」
とりあえず皆は理解したとみて、優馬は解説を再開する。
「だから俺は、ユニアースの角でどこにミークの意志の中心となるところがあるのか、それを探ったんだ」
そして、見事に探し当てたということだ。槍が光で指し示した先こそが、ミークの意思が集中しているのだ。
「そこに向けて攻撃すれば、この異空間は破られるってことッスね!」
全員、顔を見合わせて合点する。
「いくぞ!」
佳幸、氷狩、伝助も自分たちの精霊と一体化し、仲間と共に攻撃に移る。
「俺たちの必殺技、喰らえ!」
一同は槍が放つ光に沿うように一斉に必殺技を繰り出した。そのエネルギーは槍が指し示す光で一点に集い、そこにあるだろうミークの意思に襲いかかろうとする。
レーザーサイトのような役割をしていた優馬は、ふと攻撃を仕掛けている仲間たちを見る。彼らの輪に混ざって攻撃に参加している、雷矢や光たちの姿も確認できた。
手を取り合うことを拒むあの雷矢でさえ、自分たちと協力している。ハヤテたちの結束の固さに、自然と引き寄せられたのだろう。
「俺たちのチームワークは、一長一短だな」
先程全員揃って天の間へ入り込むという危険なこともあれば、今のように他の奴らも引き入れることもあるから、正にその通りだ。
それでも、この結束力の強さは頼もしく感じている優馬。これならば、勝てるだろうと信じていた。
だが、ミークの底力は彼らの想像を超えていた。
「そ。そんな…これだけの威力を…」
なんと、ミークはハヤテたちの必殺技をそのまま押し返そうとしているのだ。これには全員が驚愕した。まさかここまでやるとは…
負けじとハヤテたちは押し返そうとするが、ミークの勢いを相殺するのが精一杯であった。一進一退で、必殺技の威力は双方から押し合わされていた。
「流石に命張っているだけはあるわね…」
軽い口調で余裕を取り繕う花南だが、実際はそれほど楽ではない。
この現状でも全力なのだ。少しでも油断したら返されてしまう。自分たちの必殺技でやられるわけにはいかないと気を引き締め続けていた。
そんな状況の中で、優馬は自分が悔しかった。照準をつけるためにそちらに手が回せないとはいえ、自分も攻撃に参加できれば少しは加勢できたかもしれない。
優馬は仲間たちを見やった。今は根性で持ちこたえているが、長引けばその精神力も尽きてしまう。
その前に、なんとかして彼らを助けたい。
そのための力が、欲しい!
そう強く願った時、優馬の脳裏にあるビジョンが浮かんできた。
「これは…!」
優馬は瞬時に理解した。ユニアースが何かを伝えている。その何かというのも、すぐにわかることができた。
「よし!いくぞユニアース!」
槍を握る手に力がこもる。仲間を思う心の表れであるかのように。そしてその心が、優馬の背後に再び一角獣のオーラを浮かび上がらせた。
「ユニアースが教えてくれたこの新たな技、受けてみろ!」
持てる力を全て、槍へと注ぎこんだ。槍が今までとは違う光を発していた。
「アースホーンバスター!」
その力が、光線となって槍の穂から先程と同じ軌道で放たれた。索敵していた時より太めの光条は、迫力が増していた。
優馬の新たな必殺技は先に放ったハヤテたちのそれと合わさり、少しずつ押し上げていく。ミークによって返されそうになっていた威力が再び勢いを取り戻しつつあるのだ。
予想外の巻き返しに、ミークは驚愕していた。その証拠とも言うべきか、異空間が彼女の感情に同調して揺らぎだした。
「俺たちの力、受けてみろ!」
優馬の叫びに込められた気合が力を振り絞らせる。もはやミークにはこれを止めることはできなかった。
「こ、こんなことが…」
ミークの心情が響いたと同時に、優馬たちの必殺技がスパークした。その瞬間、この異空間が再び激しく震えた。
次回で第36話ラストです
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Re: 新世界への神話Drei 4月27日更新 ( No.65 ) |
- 日時: 2014/05/10 21:39
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 更新します。
36話ラストです。
雷矢が出る話は長いな…
10 必殺技が炸裂し、異空間が消えた。
それにより、ハヤテたちは天の間へと戻っていた。
「スカイデッドホールが破られたのか」 「ミークはどこだ?」
一同はミークの姿を求め辺りを見渡す。
「あ、あそこに」
ヒナギクが指差したのは自分たちの後方。
振り返ると、そこにミークがうつぶせで倒れていた。彼女はピクリとも動かず固まっていた。
「…死んだのか?」
まさかという思いで塁は恐る恐る呟く。
「いや、生きている」
それに対して、優馬がミークから目を放さずに答えた。
「スカイデッドホールが破られた反動が、全部自分に跳ね返ったんだろう」
自分自身まであの必殺技に捧げたのだ。ハイリスクハイリターンということか効果は絶大だったが、破られたときに跳ね返ってくる威力も当然絶大である。
それを受けたミークはもはや戦える状態ではなかった。誰が見てもそう思うだろう。一体化は解かれ、瀕死しているのだから。
だがそれでも、尚もミークは戦おうとしていた。再び動き出した彼女は、顔を上げて敵意をこめた眼でこちらを睨んでいる。
「もうやめろ」
立ち上がろうとするミークだが、全身に力が入らないのかまた倒れてしまう。諦めずに何度も起きようとする彼女に、優馬は言葉をかけた。
「その様子じゃ戦いは無理だ。負けを認めろ」
冷たい言い方だが、優馬なりにミークを案じていた。これ以上戦いを続ければ、彼女にとって危険すぎるからだ。敵とはいえ無理をした結果壊れていく様を、優馬は見たくなかった。
しかし、ミークは優馬の言葉など聞き入れようとはしなかった。
「なにを…私は明智天師のためになら自分のことなんて…」 「バカヤロウ!」
頑固なミークの態度に、遂に堪忍袋の緒が切れた優馬は乱暴な足取りで彼女へと近づきながら怒鳴り出す。
「目の前でそんなこと言われちゃたまんねえんだよ!」
そう言いながら、優馬は肩でミークを担ぎ起こそうとする。
「命を捨てるのは勝手だが、そのタイミングを考えろ!」 「そうね…」
そこで、ミークの口角が吊り上がった。
様子が変わったのを感じた優馬はミークを見やるが、当の彼女は彼のことなど構いもせずに笑いだした。
何がおかしいのか。
気に障った優馬にミークは勝ち誇ったように告げる。
「確かにあなたの言う通りね。こうして冥土の土産ができたのだから…」
そして、ゼオラフィムに別の空間を開けさせる。優馬は瞬時に悟った。ミークは最後の抵抗として、自分を道連れに別空間へと身を投げ出そうとしているのだ。
「せめて敵の一人でも数を減らさなきゃ、申し訳が立たないのよ!」
ミークがそう言った途端、別空間の入口から吸引力が発せられた。その力は強く、ミークをも飲み込もうと引き寄せようとする。
当然、ミークを担いでいる優馬も引きずり込まれようとしていた。
「じょ、冗談じゃねえ!俺は付き合うつもりはねえ!」
優馬は最初ミークを担いだまま別空間から逃れようと試みて、それが無理だと察するとミークを置いて自分だけでも逃げようとする。
しかし、ミークにしっかりと掴まれ優馬は身動きが取れなくなってしまう。
「あなたにそのつもりがなくても、私は絶対放さないわよ」
いい迷惑である。
だが、ミークはどうあっても優馬と一緒にいくようだ。瀕死の状態であるというのに強い力で彼にしがみつくその様子は、まるでゾンビのようだ。どこにそんな力があるのだろうか。
ミークのしがみつく力が予想以上に強く、優馬は振りほどくことができない。
このまま、ミークと共に別空間へと飛ばされるのだろうか。
「…しょうがないか」
ふいに優馬はミークを引きはがすことも別空間から逃げることも諦めた。
心中しようとするミークは気に喰わない。だが、ミークに不用心に近づいたのは自分だ。迂闊な自分の責任だ。
だが優馬は後悔していなかった。ミークを放っておくことはできなかった。このように彼女が腹に一物を抱えていたことを知っていたとしても、だ。
何があろうと、例え敵であろうと手を差し伸べる。戦う者にとっては弱点となる性分だが、優馬自身は気に留めてはおらず、変わろうとも思っていない。
彼の根底には、人を憂う心が大部分を占めているのだ。
ミークと道連れになりそうになっても、口にしたようにしょうがないと捉えていた。
「こいつも、一人だけじゃさびしいからな」
そんなことを考えていた時だった。
突然、優馬は何かの力によってミークから引き離された。その勢いのまま、優馬は前から無様に倒れこんでしまう。
「痛たたた…誰だ!?」
優馬は半身を起して振り向いた。今のは誰かに掴まれ、投げ飛ばされたのだ。助けられたとはいえ、乱暴な扱われ方をされたことに腹を立てて一言申そうとした。
その相手は、優馬が絶句してしまう人物であった。
「な、おまえなんで…」
一瞬、優馬は自分が見たものを疑ってしまう。
「どういうつもりだ!」
それは、雷矢がミークを抑えていた光景であった。そこから察するに、優馬を助けたのは雷矢なのであろう。
優馬は信じられなかった。
あの冷徹な雷矢が、かつて敵であった自分を助けたなんて。
一体、どういうつもりなのか。そんな気持ちを込めて叫ぶと、雷矢は不敵な態度で返した。
「どうもこうもない。ただそうしたかっただけだ」
ふざけるなと優馬は更に怒りを募らせるが、それを口にする前に雷矢は続けた。
「貴様と同じようなものだ」
つまり、彼もただ自分がやりたかったことを行動したということだ。同じ理屈だったということが何を感じさせたのか。優馬は何も言えなくなってしまう。
「…頼んだぞ」
その言葉を最後に、雷矢はミークと共に飲み込まれていった。
別の空間への入口が閉じ、天の間に残ったのは優馬、ハヤテたちとなった。彼らはただ何も言えずに黙ったままでいた。
それ程、雷矢の取った行動が衝撃的だったのだ。
「…行くぞ」
しばらくして、優馬がユニアースとの一体化を解き、その場から踵を返した。彼はハヤテの側に通ると、足を止めてこう告げた。
「言っとくが、ショックで動けねえんならここで置いていくからな」 「ちょっと、そんな言い方…」
遠慮のない物言いに、海は食ってかかるが。
「あいつの言葉を無視する気か!」
声が荒くなったのは、それだけ感情が込められているからであろう。
「あいつは、この先のことを俺たちに頼んだんだぞ…」
雷矢にどんな意図があったかわからないが、優馬はそのように捉えていた。
「…そうね」
優馬の意志に触れ、海は考えを改めた。光も最初は浮かない顔をしていたが、風に励まされるように肩を掴まれて、元気を取り戻す。
「残るなんて言いませんよ」
そして、ハヤテの意志も固かった。
「お嬢様は先に行かなければなりませんから、僕も一緒に目指します。僕はお嬢様の執事ですから」
執事としての使命を全うしようとする姿勢に、優馬は少し頼もしさを覚えた。雷矢が連れてきた三人の少女も、あの男が同行を許しているのだから大丈夫だろう。
「けどあなた、意外とあの人のこと信頼しているのね」
海はもう優馬に対して反抗的でなくなっていた。明るい調子で優馬の肩に手を伸ばして友好の意を示した。
だがその途端、優馬はその場で硬直してしまう。
「?どうしたの?」
様子が変わったことに異変を感じ、海や光は優馬の顔を覗き込むが、優馬にとって彼女たちに応じるどころではなかった。
なんと、優馬はその場で倒れこんでしまったではないか。
「ちょ、優馬さん!?」
さすがにハヤテも驚愕し、何事かと優馬のもとへ駆け寄った。
一体優馬に何があったのか。ハヤテたちは訳がわからず混乱してしまうが、優馬と深い付き合いのある仲間たちは呆れて肩を竦めていた。
「やれやれ、気を抜くとすぐこうなるんだから」
拓実はため息をついた後、ハヤテたちに説明した。
「優馬さんは女性に対して免疫がない、ガチガチな硬派なんだ。少し触れただけで気絶してしまうほどにね」
そんな馬鹿な話があるのだろうか。
だが、現実に優馬が倒れているのだから、真実なのだろう。
「まあ、こうなったのは色々と理由があるんだけどな」 「なんとか克服できるようになったんですけど、戦いが終わったから気を抜いたんでしょうね」
苦笑を混じえながら、塁と伝助は優馬を肩で抱え上げた。二人をはじめ、皆優馬に対して温かく接していた。
その理由を、ヒナギクは察していた。
「人のことを考える人には、自然と優しくするものね…」
不器用だが、優馬は人のことを思いやっている。だから周りも優しくなる。
そんな彼だからこそ、土の属性の精霊に、優しさの魂の資質を持つ使者に相応しいと感じていた。
「よし、次の間へと急ぐのだ!」
ナギが威勢よく歩き出す。
先導を切るその姿は人のことなどお構いなしに見えるが、それでも自分たちは付いてきてしまうから不思議である。
「あの子も優しいってことなのかしら?」
そんなことを考えては微笑んだヒナギクも、第四の間に向かって進み出すのであった。
これで第36話は終わりです。 本当に長かった…
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Re: 新世界への神話Drei 5月10日更新 ( No.66 ) |
- 日時: 2014/11/02 22:38
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 半年ぶりとなってしまいました…。
それでは、今回から第37話です。 どうぞ
第37話 霊に吹く風
光、海、風という同行者を連れ、ナギたちは先を進んでいた。
次なる関門は、第四の間。
そこを目指して、ハヤテは意気込みを新たにしていた。
後を託した兄、雷矢の分まで戦うと。
そんな彼に、話しかけてきた者が。
「そんなに肩に力を入れるな。気張りすぎだぞ」 「す、すみません。って、え……?」
その声にハヤテは眉をひそめた。主や頼れる仲間のものではない。彼らに比べると厄介な、関わりたくない相手だからだ。
「まったく、それでは途中で力尽きてしまうぞ」 「ちょっと、神父さん!?」
ハヤテの傍に、いつの間にかアレキサンマルコ教会の元神父であり、秋葉のロード・ブリティッシュを自称する男、リィン・レジオスターがいた。
「なんでここに来たんですか?」 「そりゃあ、リアルで度肝を抜くバトルが見れるというのに、あのアパートで留守番なんてできるわけがないじゃないですか!」
子供のような言い分に、ハヤテは頭を抱えた。いい大人なのに、人の金でフィギュアを購入しているこのオタクに、散々悩まされているのだ。大人だけに、質が尚悪い。
「それにほら、私は一応君に憑いているという設定だし」 「ああ、そうでしたね…」
ハヤテはたった数分のやり取りだというのに気だるさを感じていた。リィンを相手にするのは、本当に面倒くさい。
「おーいハヤテさん、何やっているんですか」
すっかり肩の力が抜かれてしまったハヤテに、仲間たちが呼びかけてきた。気がつくと、ハヤテは彼らからかなり離れていた。
「一人でおかしな行動とっていると、置いていくぞ」 「すみません、すぐ行きます」
仲間たちはリィンのことなどいないかのような言動を取っている・
それもそのはず。彼らは本当にリィンのことが見えないのだ。
実はリィンはすでに死んでおり、自爆霊としてハヤテに取りついているのだ。だから霊を見る力がなければリィンのことがわからないのだ。
ちなみにリィンの死因は、自分が立てたダンジョンの罠にかかってのこと。教会の寄付金を私的な趣味のために使ったのだ。神に使えるものとしてあるまじき行為に、天罰が下ったのかもしれない。
しかし、色々と性格に問題があるとはいえ彼は神父。
「気をつけたまえ」
神妙な面持ちでハヤテに語りかけるその姿は、静かな威厳があった。ハヤテは胡散臭そうに振り返るが、リィンは構わず語り始めた。
「この先の第四の間、何やら怪しい気で満ちている」
抽象的な内容なので無視してもいいのだが、一応ハヤテは聞いてやることにした。
「そう。この私が引きこまれてしまうような、そんな気が…あれ?」
しかし、真面目に聞いていたのは最初だけでハヤテは途中から再び先へと進みだしていた。
「ま、待て!話は最後まで聞け!」
リィンは慌ててハヤテの後を追いかける。
そんなハヤテは扱いはぞんざいでもそれでもリィンの忠告はちゃんと受け入れていた。この男が真剣に話している時は、ごくまれだがその内容に深みがあったりするのだ。
今回も、彼の話は核心を突いていた。それは、第四の間に着いてすぐにわかった。
「ああ、なるほど…」
門の前に刻まれた文字を見て、ハヤテは納得した。
そこには、霊の間とあった。つまりこの間には霊の力に満ちていて、幽霊であるリィンはそれに引き寄せられたということだ。わかってしまえば呆気ないものである。
しかし拍子抜けしている場合ではない。
「霊の間ってことは…」 「ああ、あいつだ」
この中で待ち受けている相手が霊の間ということから容易に察することができた。その人物を思い浮かぶだけで気が引き締まる。
ゆっくり門を開けて中へ入ると、そこはやはり因縁の相手がいた。
「よう、よく来たな」
霊のファムザックが使者、サイガが不敵な笑みでハヤテたちを出迎えた。
今回はここまで。 久しぶりの割に短くて済みません…
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Re: 新世界への神話Drei 11月2日更新 ( No.67 ) |
- 日時: 2015/01/01 16:32
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- あけましておめでとうございます!
新年もこの作品をよろしくお願いします
それでは、更新します
2 「ここまで来るなんて結構やるんだなおまえら。まあ、そうでなければ面白ねぇけどな」
余裕あるサイガに対し、ハヤテたちは戦意をたぎらせていた。サイガは大の一件を起こした一人。その時の無念から、サイガは絶対に負けたくない相手となっていた。
それに比例して彼らにかかるプレッシャーも大きくなっている。あの時歯が立つことのできなかった使者に、勝つことができるのだろうか。
しかし、プレッシャーはサイガ自身からのものだけではなかった。
「なんだ…この霊の間」
達郎は落ち着きがなくまわりをキョロキョロと見渡している。というのも、この霊の間に入ってから妙に気苦しいと言うか、悪寒が止まらないのだ。
まるで、目に見えない冷たい牙を突き立てられたみたいに。
達郎はふと氷狩と目があった。彼は視線で達郎に訴えていた。恐らく彼も同じ気分なのだろう。達郎は頷きで応じた。
一体、この寒気は何なのか。
そんなことに構わず、サイガはハヤテたちへの長髪を続けていく。
「さあ、一人ずつでも全員がかりでもいい。かかってこい!」
ファムザックと一体化し、サイガは迎え撃つ態勢を万全にした。
「なら、俺が行こう」 「俺もだ」
そんな彼に挑む最初のチャレンジャーは氷狩と達郎だった。それぞれグルスイーグ、シャーグインと一体化し攻撃に出ようとする。
まずは自分たちが動いてこの異和感が何なのかを探る。強く実感している自分たちならば、直感でわかるかもしれない。
「おまえには、絶対に負けん」
様子見とはいえ、手を抜くつもりはない。
「フリージングスノウズ!」 「ハイドロスプラッシュ!」
氷狩と達郎は、サイガに向けて必殺技を放った。
その時既に、異変は起こっていた。
「こんなものか」
サイガは自分に襲いかかろうとする凍気や水流を無造作に払いのけた。必殺技を寄せ付けなかったのは、単に双方の実力差、ということだけではなかった。
「おいおい、なにやってんだよ」
塁が二人に半ば怒った調子で言いよってきた。
「全然技に力が入ってないじゃねぇか。どうしたんだ?」
二人が放った必殺技は、普段の時よりも威力も勢いも落ちていた。仲間として共に戦ってきた塁たちだから、全力でないことがすぐにわかった。
「調子悪いのか・まだ第四の間だぞ」 「いえ…」
氷狩と達郎は、塁たち以上に困惑していた。
「俺たちの力はまだ十分にありますけど…」 「その力を引き出すことが、できないッス…」
達郎は確認するように手を握ったり開いたりしている。その様子から見て、思ったほど力が入っていないのだろう。
「次は私が行ってみるわ」
二人に続くのはヒナギク。ヴァルキリオンと一体化し、氷の剣を手にする。
「直接攻撃なら多少はダメージを受けるはず!」
そう信じ、ヒナギクは剣を構えながらサイガへと真っ直ぐに駆け出した。対して、サイガはよけるつもりもなくその場で立ったままだ。
「受けなさい。氷華一閃!」
そのままヒナギクは剣を振るい、サイガに斬りかかろうとした。
響く金属による衝撃音。誰もがヒナギクがやったと思った。
だが、刃はサイガを捉えることはできなかった。
「な、なによこれ」
ヒナギクは信じられなかった。刃がサイガの手前の空中で止まっていたのだ。いや、サイガとの間にある見えない何かに防がれたようだ。
動きが止まったところに、サイガはヒナギクを拳圧でふっ飛ばした。
放出系も直接攻撃も通用しない。どうすればいいのだろうか・
「これならどうだ!」
しかし、まだ一つ手はあった。
「紅い稲妻!」
そう。先程加わった光、海、風が使える魔法だ。光は早速、プラズマ火球をサイガに向けて放った。
「魔法、か」
流石にこれはサイガも動じたようだ。だが、それはさほど大きなものではない。
前の攻撃に比べれば多少は手間取ったが、サイガはプラズマ火球も弾き飛ばしてしまった。
「中々やるな。だが、ここでは所詮この程度の威力しか出せん」
いまだ悠然として立ったままでいるサイガに対し、光はショックを受けてしまう。魔法までも受け付けない以上、打つ手がもうなくなってしまった。
そんな状況の中で、氷狩はサイガの言動に引っかかりを感じた。
ここではこの程度の威力しか出せない。
それでは、この霊の間では本気を出すことが不可能ということなのか。
一方では、風が海の様子がおかしいことに気づいた。
「海さん、どうかしたのですか?」
海の顔は青ざめていた。ぱっと見ても明らかであり、身体も震えている。
「み、見たのよ…」
しどろもどろながらも、海は口を開いてしっかりと伝えようとする。
「光の紅い稲妻に照らされて、一瞬何か不気味なものが見えたのよ…」 「不気味なものって、それがどこに?」
伝助が周囲を見渡すが、そんなものは見当たらない。海の錯覚だと誰もが捉えようとしていた。
だが花南は、何かを考えていた。
海が見たもの。それはまさか…。
思い当たった時、花南は塁の方を向いた。
「塁、コーロボンブにこの辺りに向けて放電させなさい」 「えっ、なんで?」
突然何を言い出すのかと意味がわからないが、花南は更に催促する。
「少し痺れる程度でいいから、早く!」 「わ、わかった」
急かされ、通常形態のままコーロボンブに放電させた塁。何が何だか疑問ばかりであったが、そんなものはすぐに吹き飛んだ。
「な、なによこれ!」
ヒナギクの震えながらそれを指差す。
それはこの世にあってはならないものだった。
「これ…見ちゃいけないもんだよな…」
塁はあまりの衝撃に呆然としてしまう。
「幽霊…ですね」
伝助の言うとおり、半分身体が透けているように見え亡者のような外見であるそれは幽霊と言われているものであった。
「な…なんなのだこれは?」
物々しく何かを叫ぶ幽霊に、ナギは恐れてハヤテにしがみつく。ホラーが苦手な彼女にとってこれは恐怖そのものであった。
「お嬢さん、何を恐がってんだよ」
そんなナギに、エイジが意地悪く話しかけてきた。
「幽霊なんか恐いもんじゃねえだろ。まったく、恐がりだな」
いかにも勇敢だというように胸を張るエイジ。しかし、ナギとハヤテは白けた目で彼を見ていた。
その理由は、彼の足にあった。
「まったく、本当に情けないお嬢さんだな」
いくら威厳をもった言葉を並べても、震えている足の方が今のエイジの感情をよく物語っていた。これを見れば、まず呆れてしまうだろう。
「足が震えていては、何を言われても説得力はないぞ」
痛いところを突かれ、エイジは口をつぐんでしまう。
「まったく、間抜けな奴だな」 「なんだと!あんただって!」
そのまま口論へと発展する二人。状況を忘れ言い争いに夢中になっているその光景を見て、ハヤテたちは飽きないのかとただため息をつくしかなかった。
「でも、これが幽霊だとしてもどうして今になって見えるように…?」 「道理はわからないけど、電撃やプラズマでそうなったんじゃないかしら?」
花南にしては珍しく曖昧な憶測だが、無理もないだろう。心霊現象には、科学的根拠がはっきりとしているわけではないのだ。
「でもこの霊たちが、私たちの力を抑えている直接の原因に違いないわね」 「その通りだ」
サイガは霊のいくつかをその手で招き寄せながらハヤテたちに語った。
「俺の精霊、ファムザックは幽霊を呼ぶことができる。そしてその霊を敵に取り憑かせ、相手の力を抑える。おまえたちも既に見えているはずだ」
サイガはハヤテたちを指差した。そのハヤテたちには、霊がその身に取りついていた。
「ひっ、何これ!」 「ハ、ハヤテ、取ってくれ!」
ヒナギクやナギは霊を取り払おうとするが、実体のない霊に対しては意味のないことだ。気味が悪いので早く取り払いたいのだが、どうすることもできない。
「この、気合で吹き飛ばしてやる!」
達郎は叫びまくるが、それでなんとかなるはずがない。無駄な行為に、味方までも呆れてしまう。
そんな彼をよそに、伝助がワイステインと一体化して、サイガに向かって駆け出し殴りかかろうとする。
「無駄だ!」
伝助の拳が届く前に、サイガは軽く伝助を振り払った。手を抜いていたとはいえ、伝助を遠くの壁まで衝突させるには十分な力がこもっていた。
「なるほど……パワーだけじゃなく、スピードも半減させているんですね」
起き上がりながら伝助は言った。あの特攻は、それを確認するためのものだったのだ。
「パワーやスピードだけじゃない」
サイガは更に力を集中させる。
「とくと聞くがいい!グリーフズシャウト!」
そのまま手をハヤテたちへ向けた瞬間、霊たちが一斉に叫び出した。それはおぞましい光景で、霊の間全域に反響している。
普通の人間にしたら、目も耳も塞ぎたくなるだろう。しかもこれはただの叫びではない。
「な、なんだ?なんか気分が悪くなっていくような…」
その叫びを聞いた塁たちは、急に気だるくなってしまっていた。肩を落とし、戦う気がないのが見ても明らかである。
「どうだ、戦う意欲がわからないだろう?」
彼らの様子をサイガは得意気に眺めていた。
「この叫びは、敵の気力を削ぐ。もうそろそろ効果が表れるはずだ」
彼の言うとおり、伝助や達郎に変化が起きていた。
「あ、あれ…?」
なんと、彼らの一体化が解けてしまったのだ。それも、本人の意志ではなくて。
確かに、戦意がなければ一体化はできない。だが、それを他人が強制できるものなのだろうか。
ここまでの効果をもたらすファムザックの力に、達郎たちは愕然としていた。
「さあ、これでおまえたちはここを抜けることはできなかったな」
この霊の間を突破するには、サイガに勝つしかない。だが今の状態では勝つことすらおろか、戦うことすらままならぬことは間違いない。生身や精霊だけでは、サイガに太刀打ちできないのは明らかだ。
だが、サイガは気づいていなかった。
「大人しくここでやられるか、引き返すかどちらか…」
言い終わる前に、サイガは誰かに殴り飛ばされていた。
「なっ…!?誰だ!」
不意だったがなんとかこらえた。しかし、ファムザックと一体化している今の自分をここまで後ずらせる程の力は今の奴らにはないはずだ。
サイガは自分を殴った相手を確認する。誰が、こんな力を持っているのだろうか。
「お、おまえは!」
サイガの前に立っていたのはシルフィードと一体化していたハヤテだった。
今回はここまでです。
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Re: 新世界への神話Drei 1月1日更新 ( No.68 ) |
- 日時: 2015/05/06 21:57
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 約4か月ぶりの更新となります
どうぞ。
3 精霊と一体化している状態だということに、サイガは驚きを隠せなかった。
「嘆きの叫びが響く中で、一体化ができるだと!?」
グリーフズシャウトを聞いたものは皆戦意を喪失してしまう。精霊の使者ならば一体化ができなくなってしまう。ヒナギクや佳幸がそうであるように、例外は存在しない。
だというのに、何故。しかしよく見ると、ハヤテの背後に微かに人影が見える。
「あれは…まさか幽霊か?」
そう。幽霊神父のリィンである。霊の力を司るファムザックの使者であるサイガには幽霊が当然のように見えるのだろう。
「ほう、私が見えるのか。まあ驚きはしないがな」
ハヤテの背後では、リィンが我が物顔でサイガに目を向けていた。
「もしかして、神父さんが助けてくれたんですか?」 「ああ。私は神の使いだからな。こんな悪霊を追い払うなど…」
いかにも自分が神聖であることを出張するリィンだが、サイガはそれを無視していた。
「まさか、既に霊に取りつかれている奴がいたとは…」 「えっ…?」
がっくりと肩を落とすサイガは、敵を前にしても構わず口を開き続ける。
「この技は霊をとりつかせて相手の気力を下げるものだ。だから、それよりも先に霊が取り憑かれている奴には全く効果がないんだ」
つまり、リィンのいつまでも成仏しないという鬱陶しさがハヤテを助けたということなのだ。助かったのはよいのだが、素直に喜べないものである。
ハヤテはつい複雑な顔をリィンに向けてしまう。
「…すみません、あなたに対してお礼が言えません」 「何だねその態度は。まるで私が間抜けみたいではないか」
リィンは口を尖らせるが、恰好をつけたところでこの結果なので恰好悪いとしか言えない。
「私よりも、敵の前でショックを受けてペラペラと自分の技についてバラしたあいつの方が間抜けではないか」 「う、うるさい!おまえのような幽霊に言われたくないわ!」
リィンに指差され、我に返ったサイガはまた戦闘中にあった冷徹さを取り戻していた。
「だが、たった一人で勝てるわけがない。おまえの仲間たちは俺が呼んだ悪霊によって戦意を失って…」
そう言いながらサイガが佳幸たちの方を向くと。
「あ、あれ?」
なんと、佳幸たちはいつの間にか悪霊たちから解放されていた。これもまたサイガは驚くことしかできなかった。彼らの力量では悪霊を払えないことは、先程から明らかになっていたことだ。
そこでサイガは見た。いや彼だけじゃない。ハヤテたちも今はじめて気づいた。
それまでいなかったはずの存在が、そこにいた。
「あの…ここはどこでしょう?」 「伊澄さん!?」
和服でおっとりとしたナギの親友の姿に、皆仰天していた。
悪霊が消えたのは、彼女の力によるものだろう。それは不思議ではない。
謎なのは、ここまで来れたということだ。この霊の間に着くには一本道を辿るしかない。しかし伊澄には途中にある三つの間を通過したようにも、そこにいる黄金の使者と遭遇したようにも見えない。
伊澄だから、迷子の二文字で済ませるだろう。だが、いつも思うが本当に謎である。
「皆さん、お揃いで。ところで、何をなさっているんですか?」
こちらのことなどお構いなしに、ゆっくりとした調子で語る伊澄。そんな彼女にハヤテたちは呆れて何も言えなかった。
ただ一人、怒りで震えている男がいた。
「ふざけるなよ…」
サイガであった。こうまで簡単に、しかも相手にはその気はないのに技を破られてしまい、自分がこけにされたように見えた。それが彼のプライドを逆撫でさせた。
「この俺を舐めるのも、いい加減にしてもらおうか」
そう言うと同時に、サイガの背後にオーラが浮かび出てきた。
マインドというのものは知らなくても、既に二度も黄金の使者と戦っているハヤテたちは察していた。これからサイガは、全力を込めて攻撃を仕掛けてくると。
ハヤテたちはその一撃に備え、身構える。
「こいつを呼ぶまでもないとは思っていたが…」
サイガは、自分の右手に力を集中し始めた。
「おまえたちには、身の程を知らなければならないからな」
その力はエネルギーの塊となり、だんだんと大きくなり象られていく。
「あれは…巨人?」
そして、サイガよりもはるかに巨大な、おぞましい亡者の姿となった。
「こいつは、フレイツガイスト」
サイガはそのエネルギー体に愛おしげに顔を向ける。対照的に、ナギたちは危ないものを感じていた。ホラーなものを愛でる男の姿に引いてしまっている。
「可愛いだろ?」
本当に、危ない男にしか見えなかった。
「フレイツ、獲物はあいつらだ」
サイガはハヤテたちを指差す。
「行け」
その命令を受け、フレイツガイストはハヤテたちに向けてゆっくりと頭を下げていく。
そして、その口を大きく開いていく。
「もしかして、このまま私たちを丸呑みするのでしょうか?」
こんな時でも、おっとりとした口調なのは風。
「いやー!あんなのに食べられるなんていやー!」 「そうなのだ!そうなのだ!」
ナギと海は恐怖で半ばパニック状態となっている。
「ま、煮ても焼いても食えない奴が混ざっているけどね」 「まったくだわ」
自分たちがそうだというのに、他人事のように拓実と花南は口にする。
このように様々な反応を見せた彼らを、フレイツは一口で呑みこんだ。
逃げたくてもそれはできなかった。あの巨人の霊を前に、足が何故か動けなかった。
恐怖で足が竦んだわけではない。あの霊が金縛りのようなものをかけていたのだろう。
ハヤテたちは成す術なくフレイツガイストに呑みこまれてしまった。当然フレイツは幽霊なのでハヤテは肉体的な痛みはなかった。
ただ、それまでうるさい程響いていたナギたちの悲鳴が突然途切れてしまった。
「お嬢様?」
振り返ってみると、なんとナギがその場で倒れていた。
「だ、大丈夫ですかお嬢様!」
駆け寄って呼び起こそうとするが、返事がない。気を失っているように見える。
そして、ナギだけではなかった。周囲を見るとヒナギク、光、佳幸たちまでもが意識を失い倒れている。立っているのはハヤテと伊澄だけであった。
「どうしてお嬢様たちは…」 「魂を食われちまったのさ」
混乱するハヤテは、サイガの話に耳を傾ける。
「そいつらはフレイツガイストに魂を喰われた。今ここにあるのは魂の抜けた抜け殻だ」
魂を喰った?
理解し難いが嫌な予感に青ざめるハヤテに向けて、サイガはさらに続けた。
「霊に取りつかれた奴や除霊師の魂は無理だが、その他の奴らは皆フレイツの身体の中に入っちまったな」
笑いを含めながら話すサイガに、ハヤテは怒りが込み上がっていく。
「魂を喰うことで、フレイツは力を増す。奴らの魂は、フレイツの餌となったわけだ」
そこまで言った時サイガの横をかすめてフレイツに向かって何かが飛んできた。
伊澄が呪符を投げつけたのだ。彼女もまた、サイガやフレイツに怒りを抱いているのだ。
呪符は見事にフレイツに命中した。その瞬間激しいスパークが起こったが、フレイツの方は何ともないようであった。
「やっても無駄だ」
サイガは付け加えた。
「フレイツは今まで十万の魂を喰ってきた。いくら嬢ちゃんが除霊師として優秀だとしても、一撃で浄化できるのは一体分だ。フレイツを完全に浄化できるまで、嬢ちゃんの体力が持つかな?」
伊澄の力がどれ程の容量があるか知らないが、技を十万回近く使うほどあるとは思えない。
「なら…」
ハヤテは即座に標的を切り替える。
「あなたを倒します!」
サイガに向かってハヤテは駆けだす。
「疾風怒濤!」
怒りを込めて必殺技を繰り出す。猛スピードで風を纏いながら迫るハヤテに対して、サイガは両手に力を込めそれを受け止めた。そしてハヤテを押し返す。
「おまえらだけで俺を倒せるものかよ」
サイガは軽く手首をスナップさせ、取るに足らないということを見せつける。
「そもそも、俺を倒しても喰われた奴がどうにかなると思えないけどな」
そうだ。仮にサイガを倒したとしても、フレイツに喰われた後なのだ。もうすでに消滅してしまっているかもしれない。今さらといってもいいぐらいだ。
「大丈夫ですよ」
しかしハヤテは、そんな心配は抱いていなかった。
「お嬢様は、色々なものに守られていますから」
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 5月6日更新 ( No.69 ) |
- 日時: 2015/08/14 21:32
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- またまた久しぶりの更新となります
どうぞ
4 「ここは…?」
気がつくと、ナギたちは不思議なところにいた。
全てが灰色の世界。上下感覚はあるものの、距離感がつかめない。自分たちも含めて、全てが曖昧にされている。
「もしかして、死後の世界というものでしょうか」 「やめてよ風!笑えないわよ!」
海は冷や冷やとしている。風の場を和ませるジョークだとしても、この状況ではそれを否定することしかできない。
「そう思われても仕方ないよな、この場合」 「なんか灰色の、はっきりとしない世界にいるんだからな」 「ちょっと!いい加減にして下さいって!」
他の者たちまで風に調子を合わせるものだから、ヒナギクも黙っていられなかった。
そんな彼女たちを余所に、ナギは何かを考え込んでいた。
「どうしたの?」
光は気になって彼女に聞いてみた。
「いや、私たちってあの不気味な大きなものに喰われたよな」
それははっきりと覚えている。あんなに食べられたくないと騒いでいたのを直前まで聞いていた。
「それなのに、どうして私たちはこうしていられるんだ?」 「ああ、それは…」
氷狩はナギの傍を指差した。
「そいつのおかげだ」
その先にあったのは、ナギがスセリヒメであることの証。
「龍鳳…」 「俺たちはどうやら魂を喰われてしまった。けど、龍鳳が守ってくれたから俺たちはここにこうしていられる」
喰われた魂は消えていくのだろうが、それを止めることができるものは自分たちの中では龍鳳しか考えられない。
その龍鳳を、氷狩は探るような目つきで見ていた。龍鳳が自分たちを、いやナギを守るために自ら力を使った。この場合、そうとしか考えられない。
ではやはり、ナギはスセリヒメに選ばれたということなのか?
「けど、それじゃあハヤテはまだ戦っているのか?」
ナギの問いに、氷狩はそちらに引き戻された。
「ああ、そうだろうな」
その答えを聞いてナギは少々思案し、そして意を決した。
「よし、早くここから出よう!」 「ええ?」
確認する様な応対に、ナギは続けて言った。
「ハヤテがまだ頑張っているんだ。だから、私たちもここでじっとしているわけにはいかないのだ!」
氷狩は思わず感心した。てっきり弱音を吐くかと思っていたが、ここで奮起するとは彼の予想外だった。ハヤテの存在がそうさせているのだろう。
「…そうだな」
氷狩は頷く。そして、彼だけではなかった。
「ハヤテ君一人だけじゃ、心配だものね」
ヒナギクをはじめとして、皆気を奮い立たせる。これもナギがもたらした影響なのだろうか。
スセリヒメとして認めるかどうかは別として、評価を改めるのだった。
「さて、それじゃここからどうやって出るか…」
脱出方法を考え始めるが、そんな暇は彼らに与えられなかった。
周囲に自分たち以外の気配を感じ、辺りを見渡す。
「どうやら、歓迎されているようだな」
いつの間にか彼らは、無数の亡者たちに囲まれていた。どこから現れたかはわからないが、数えるのが嫌になるほどだ。
「もう、いい加減にしてよね!」
幽霊の類が苦手なヒナギクはもううんざりしていた。
そんな彼女の叫びを無視するかのように、亡者たちはこちらに向かって駆け出してきた。
「やろうっていうんなら、こっちだって!」
エイジは一歩前に出て迎え撃とうとする。しかし、何か様子が違うことに気づき戸惑う。
「あれ、一体化できない?」 「このバカ!」
何がいけないのかわからないエイジに佳幸が咎めた。
「僕たちは今魂だけの存在なんだぞ。肉体がない以上、一体化は無理だ」
佳幸の言うとおり、一体化は自分の身体を変質させるもの。肉体がない今の状態では、一体化は不可能なのだ。
「まったく、そんなことにも気付かなかったのか」
困った奴だなと笑う達郎。だがその態度がどこか怪しい。
「こいつもわかっていなかったな…」
全員心の中でそうつぶやくのであった。
「一体化ができなくたって、こいつらを相手にすることには変わりはねえ!」
エイジは人型形態のウェンドランに亡者へと攻撃させる。ウェンドランは武器をうまく取り回し、時には亡者を殴って攻撃する。
どうやら亡者たちは大して強いという訳ではないみたいだ。ウェンドランの一撃一撃に次々と倒されていくところを見ればわかる。
ウェンドランに続くように、ヴァルキリオンやムーブランたちも戦い始めた。光、海、風の三人も剣を取り出して斬りかかっていく。
一体一体は容易に倒せても、数はきりがない。ナギあたちがこの場から脱出するための戦いは、そう早く終わりそうにはなさそうだ。
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 8月14日更新 ( No.70 ) |
- 日時: 2015/09/13 22:07
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 更新します
5 ハヤテは尚もサイガに喰い下がっていた。
ハヤテが攻撃を仕掛けてもサイガはそれをかわし、逆襲する。その繰り返しが続いていた。
「しつこい奴だな」
サイガはハヤテの執念にうんざりしていた。本気を出してはいないが、こう長引けばそう思ってしまうのは仕方がない。
それでも、ハヤテは決して戦うことを止めようとはしなかった。
「おまえがそうまでして勝ちたいという気持ちはわかった。けど、あのお嬢ちゃんにどうしてそこまで尽くそうとするんだ?」
サイガにはそれがわからなかった。この男はあの少女の執事だということは薄々察しているし、主を守るのが男の仕事だってこともわかっている。だが、それだけでこうまで自分に立ち向かおうとするのだろうか。
「あのお嬢ちゃんは、そこまでする程とは思えないんだがな」
不理解はサイガの中で、苛立ちへと変わっていく。
「あなたの思っているとおりですよ…」
そんなサイガの心情など理解しようもないが、ハヤテは彼に応えた。
「お嬢様はそれほど立派ではありません。むしろダメ人間に足どころか体まで浸かっています」
毎日の生活を思い浮かべるハヤテ。ナギのだらしない生活態度に手を焼かれ、ワガママな性格に困ってしまう。
だがそれでも…。
「そんなお嬢様でも、僕の人生そのものなんだ。だから、お嬢様は僕にとって大切な人なんです!」 「大切な人…」
その言葉はサイガの心に響いてきた。
「お嬢様のためにも、僕は負けられないんだ!」
苛立ちは更に、怒りへと変わっていく。
「人のため、か…」
瞬間、それまで半分穏やかであったサイガの気が研ぎ澄まされていく。ハヤテの勘ははっきりとそれを感じていた。
今までは遊び半分であったが、今から本気で攻めてくるということだ。身構えて警戒するハヤテ。 そんな彼に向けて、サイガは一本の指を差す。何をしてくるのかと思った矢先、その指先から閃光が放たれた。 咄嗟にかわすハヤテ。だが、光線は彼の背後にあった壁を貫き、穴を穿いた。サイガの指先ほどの大きさで、ひび一つはいることなく貫通している。
「俺は人のためにとか口にする奴が嫌いなんでね」
恐ろしい威力を見せつけたサイガの声には、殺気が込められている。
「そう言う奴は、徹底的に潰す」
追撃が始まった。サイガの指先から再び交戦が発射される。しかも今度は何発もの連射だ。
ハヤテはまた避けようとするが、多数の光条を全てよけることは流石に無理だったようで、途中からは立て直す間もなく受け続けてしまう。致命傷にはならなかったが、ダメージは大きい。
「これで終わりじゃないぞ」
サイガは続けて光線を放った。しかしハヤテも同じ技にいつまでも手こずるような男ではない。完璧に回避することは不可能でも、最低限のダメージに抑えることはできる。
そうした防御を取ることで、全弾かすめる程度で済んだ。上手くいったことに安心するハヤテ。
「甘いぞ」
だが、その後間髪いれずにはなった一撃がハヤテの脇腹を貫いた。気を抜いたところにい一発を貰ったのだ。思わず膝をついてしまう。
「この俺を相手にして、油断できると思っているのか?」
サイガは格上の実力でハヤテを圧倒する。だが、これでも降参はしないだろうと彼は感じていた。
実際その通りに、ハヤテは立ち上がってきた。先程の攻撃が効いているのか、ふらふらとした足取りでも、だ。
そうさせているのはやはりナギの存在があるからだが、それだけではなくなった。
「最後の一撃を受けた時、声が聞こえた」
今のハヤテからは、怒りの感情がはっきりとわかる。
「未練とも、助けを求めているとも、恨みともとれる声を。あれは亡者の声だな」
何故そんな声が聞こえたのか。それもわかっていた。
「あの光線は、亡者たちを利用したもの。そういうことだな」 「ああ、そうだ」
サイガは、あっさりとした様子で答えた。
「俺が指先から放つ霊撃射は、亡者を糧にして放つ、幽霊をエネルギー光線。現世への未練が大きい奴ほど、その威力はそれに比例していく必殺技だ」
サイガの態度からは死者に対する敬意が感じられない。かといって蔑んでいるわけでもない。まるで物であるかのように扱う。
それまでもやもやとしていたが、これではっきりとわかった。
この男は、死んだ人の魂を武器として、道具として扱っているのだ。
「あなたは…幽霊を、死んだ人の心を何だと思っているんですか?」
サイガが返したのは、無慈悲な答えだった。
「俺にとっては、無限に使える力だ。こいつらが多ければ、俺は強くなるからな」
ハヤテの中にあるサイガへの怒りが段々と増していく。
「死者が力を与えるなんて感動的じゃないか?それに、浮かばれない奴でも霊神宮のため、人のためになるんだ。成仏できなくても…」 「黙れ!」
語気を荒めるハヤテ。そんな彼に対してサイガも不快を増していく。
「どうやらおまえには、決定的な敗北を与える必要があるな」
それまでハヤテに向けていた指を仕舞い、拳を広げる。
「霊撃射は指先で撃つが、これから放つ霊撃波は掌全体から放つものだ。指より大きい分集まる力もより多くなり、威力も当然大きくなる」
説明するサイガの背後には、マインドを発動させたのかオーラが浮かび上がっている。
「深手を負っている今のおまえでは、かわすことはできないな」
先の一撃を受けたことがやはり響いているようで、ハヤテの瞬発力が落ちていることを見抜いていた。
「喰らいな!」
サイガは掌に集めた力を、ハヤテに向けて放った。
サイガが口にしたとおり、回避行動をとれないハヤテはサイガ同様両手に風の力を集中させ、その手を前にして霊撃波のブロックを試みた。
受け止めることには成功した。だが勢いを完全に殺したわけではなく、じりじりと後退させられていき、なんとか踏みとどまろうとする
その間にもハヤテには声が聞こえていた。亡者たちの悲しみ、恨み。そういったものも彼の気力を削ごうとしてくる。
だがハヤテはくじけなかった。負けるわけにはいかないと奮い立たせ、足に力を入れて踏ん張る。
そんな彼は、また声を聞いた。ただし、今までのものとは違う。
何故なら、それはより鮮明に聞こえ、しかもあるビジョンを頭に焼き付けてきたのだ。
荒れた町、並び立つ廃墟と化した家屋群。
濃い硝煙の中、幼い亡骸を抱いている少年。
「これは…!」
あどけなさはあったが間違いない。
この少年の面影は、サイガのものであった。
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 8月14日更新 ( No.71 ) |
- 日時: 2015/09/15 00:29
- 名前: プレイズ
- 作品を読ませてもらいました。
時間があまりなかったので全部は読めてませんが、感想を。 実を言うと以前からちょこちょこと部分的に読んではいましたw
多重クロスという事ですが、壮大なスケールの話ですね。 霊達とハヤテ達が一緒に行動していて、普通であれば違和感が出てしまうものですが、上手く調和して落とし込んでいて、そんな独特な世界観が好きです。 キャラ達がそれぞれ意志があって行動してるのが良くて、それによる戦いも熱い。 あと、バトルの描写が上手くて面白いですね。 最新回の戦いとか、惚れ惚れするような戦闘描写でした。
今後も小説を楽しみにしています。
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Re: 新世界への神話Drei 8月14日更新 ( No.72 ) |
- 日時: 2015/10/18 21:19
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも
今回はレス返しです
ブレイズさんへ
>作品を読ませてもらいました。 時間があまりなかったので全部は読めてませんが、感想を。 実を言うと以前からちょこちょこと部分的に読んではいましたw
読んでいただきありがとうございます 結構長くてすみません。少しずつ読んでいただいて結構ですので
>多重クロスという事ですが、壮大なスケールの話ですね。 霊達とハヤテ達が一緒に行動していて、普通であれば違和感が出てしまうものですが、上手く調和して落とし込んでいて、そんな独特な世界観が好きです。
自分で書いていて、ますます大きくなっていくのを感じています。 どんな世界を描こうか、日々努力しています。 多重クロスだと、難しい面もありますが可能性が無数にありますから。
>キャラ達がそれぞれ意志があって行動してるのが良くて、それによる戦いも熱い。 あと、バトルの描写が上手くて面白いですね。 最新回の戦いとか、惚れ惚れするような戦闘描写でした。
キャラたちは次々と生き生きしてくるイメージが湧いていて、それを書いています。 バトルについては、日々試行錯誤ですね。 上手くいったと思うものもあれば、ちょっと失敗したかなともうところもありますから。
>今後も小説を楽しみにしています。
頑張っていくので期待に応えます
ブレイズさん、ありがとうございました
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Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.73 ) |
- 日時: 2015/11/14 20:54
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 間が空きましたが、更新します
6 佳幸たちの魂と亡者たちとの戦いは続いていた。
「まったく、驚いたな」
佳幸は、苦笑を浮かべていた。
「亡者たちが合体して巨大化できるなんてね」
彼らは無数の亡者たちと戦っていた。相手の力はさほど強くもなく、持久戦に耐えられれば楽勝という状況であった。
ところが、しばらくすると不利を悟ったのか亡者たちは佳幸たちに構わず一斉に一つに集い、融合していったのだ。
そして現在。
彼らの前には、十メートルは超えているであろう巨大な亡者が立ち塞がっていた。大きくなった分、威圧感も増しているような気がして中々一歩が踏み出せなかった。
皆がそうであるのだが、一人だけそんなことなどどこ吹く風の奴がいた。
「へっ、でかくなりゃ強くなると思ってんのか?」
エイジだ。彼だけは目の前の巨人は先程まで戦っていた亡者たちの時とレベルは変わらないと見ているのだろう。
「大きさだけでビビるわけねぇだろう!」
その威勢のよさそのままに、ウェンドランは巨大な亡者飛びかかり思い切り殴った。
拳はまともに入った。今までの亡者ならそれだけで倒せたはずだ。
しかし、今そこにいる巨大亡者には全く応えてはいないようだ。逆にウェンドランが軽く払い飛ばされてしまった。
「あ、あれ?」
予想とは違う結果に、エイジは間の抜けた声を出してしまう。
ウェンドランに変わり、今度はコーロボンブとワイステインが必殺技を叩きこんだ。だがこれも、大して効いてはいないようだ。
「全員で攻撃だ!」
ムーブランらも加勢し、できる限りの攻撃を一斉に行う。
それでも、巨大亡者はダメージを負った様子は見られなかった。ムーブランたちは一旦退いて相手の出方を伺う。
「塵も積もれば山となる、ですか」
伝助が困ったといった表情をしていた。
一体一体は弱かったが、文字通り一つとなったことで力が重なり合ったのだろう。万以上の数がいたので、単純計算でも万倍ということになるのだろう。
「せめて一体化ができればな…」
塁が悔しそうに歯噛みする。一体化した状態で全員で戦えば恐らく勝機はあっただろう。だが今はそれができない。
「ま、それでも戦うしかないけどね」
特攻精神は今に始まったことではない。負けん気でいれば何とかなるだろうといつも考えているのだ。
諦めてはいけない。
その思いが強かったのは、塁だけではなかった。
「負けない…」
光、海、風の三人は剣の先を下に向けて前にかざしだした。
「ここから出るために…」 「そして、セフィーロのために…」 「私たちは絶対に負けない!」
そう叫ぶ三人の目前に、六方星の魔法陣が現れ、剣の鍔に埋めてある宝石が光り出した。
その光の眩さから、膨大なエネルギーが収束していくのが感じられた。
とてつもない、威力だ。
「何かわからんが、あいつらの前にいない方がいいな」
危険を察知して、塁たちは三人の後ろへと下がった。それと同時に、光たちは魔法を放った。
「閃光(ひかり)の螺旋!!」
光が炎を、海が水を、風が気流を放ち、それぞれが螺旋の軌道を描きながら重なり合い、強烈な光となって巨大亡者を呑みこんでいった。
あまりの眩しさに、佳幸たちは目を閉じる。
閃光が収まり、目が開けるようになって確認すると、目前の巨大な亡者は影も形もなく、塵一つ残らず消滅していた。
「す、すげぇ…」
あまりの威力に、全員言葉を失ってしまう。これだけの攻撃は、恐らく黄金の使者でも可能な者はそうはいないだろう。
これだけの威力を生みだしたのは、三人の少女たちの心だ。その強さに、皆思わず感心してしまう。
「すごいな、中学生のテンションってやつは」
光たちは中学生だ。滅茶苦茶だが決める時は決めるエイジも中学生。難しい年頃の複雑な心に優馬は半ば呆れているが、そんな彼に拓実が嫌味を。
「おじさんじゃ理解できないですよ」
嫌味なんて軽いものじゃない。悪意剥き出しの雑言だ。
「何だとこの野郎!」
二人はそのまま睨み合いを始めてしまった。
周囲が困って嘆息していると、再び閃光がこの場を照らし出した。今度は自分たちによるものではない。
次は何が来るのかと身構えるが、彼らの前に現れたのは一人の少年だった。
「…子供?」
エイジやナギよりも下の、年端もいかない少年だった。
短いですが、今回はここまでです 次回でラスト。 更新は年末近くになると思います。
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Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.74 ) |
- 日時: 2015/11/15 20:17
- 名前: プレイズ
- こんばんは。
簡単にですが感想を。
敵側といい味方側といい、一体化という概念はハヤテでは普段目にしないので面白いなと思いました。 合体して巨大化した亡者達は、レイアース勢の大技で倒せたようですね。 ってか光達かなり強いですねw 超威力の光線が打てるほど思いが強いという事ですね。中学生凄え。 最後に出てきた子供は、前回ラストの幼少期サイガかな?それとも別の子供かな。次回を楽しみにしています。
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Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.75 ) |
- 日時: 2015/12/28 22:18
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも
まずはレス返しからです
プレイズさんへ
>こんばんは。 >簡単にですが感想を。
感想ありがとうございます
>敵側といい味方側といい、一体化という概念はハヤテでは普段目にしないので面白いなと思いました。 >合体して巨大化した亡者達は、レイアース勢の大技で倒せたようですね。 >ってか光達かなり強いですねw >超威力の光線が打てるほど思いが強いという事ですね。中学生凄え。
ハヤテにはない設定ですよね、色々と。 レイアースは原作最終回後の時点ですので、かなり強いです ハヤテたちより強く見えるかもしれませんね
>最後に出てきた子供は、前回ラストの幼少期サイガかな?それとも別の子供かな。次回を楽しみにしています。
これについては次回を楽しみにしてください。
さて、次回は出来れば明日 37話最後になります
楽しみにしてください
それでは
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Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.76 ) |
- 日時: 2015/12/30 21:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも
2015年最後の更新です また、37話ラストです
どうぞ
7 「…誰だ?」 どこか悲壮な印象を漂わせているその少年は口を開く。
「僕の名前は…フレイツ」 「フレイツ?」
その名に引っかかりを感じる。
「まさか…あのフレイツガイストの…?」
恐る恐るといった様子で達郎が尋ねてみた。
「はい、フレイツガイストの核となっているのはこの僕です」 「じゃあ君が、元の幽霊…」
目の前の少年が大人しそうな雰囲気なため、幽霊に対する恐怖はなかった。むしろこの少年とあのおぞましい亡者と結びついていることの驚きの方が大きい。
しかし、当のフレイツは悲しみに顔を伏せるばかりだ。
「すみません…あの人の、サイガ兄さんのせいでこんな目にあってしまって…」
今、この少年は何と言った?
あのサイガを兄と呼ぶということは…?
「君は、サイガの弟なのか…?」
フレイツは、頷くことで肯定を示した。
「マジでか!?」
目の前にいる少年は儚げな優等生といった印象。逆にあの男は不良という対照的な二人が強大であることにも驚愕してしまう。
「僕と兄は、早くに両親を亡くしましたが、二人で何とか生きていました」
フレイツは、身の上を話し始めた。
「ですが、十四年前のことです。僕らが住んでいた町は戦争での空爆にさらされ、僕はその巻き添えくらい死んでしまいました…」
サイガの魂がこもった必殺技を受け止めたことで、ハヤテも彼の過去を知ることができた。
元々身寄りがない上に、霊的な力を持っていたために周囲からうとまれ、自分と弟の二人だけで生きてきたこと。
その弟も戦争で亡くなり、サイガは孤独となってしまった。
あてもなく放浪を続け、荒んでいた彼と出会った明智天師に目をつけられ、霊神宮へと連れられた。
そして使者としての類稀なる才を開花させ、最高の黄金ランクまで上り詰め、現在に至ったのだ。
そこまで理解した時、ハヤテが受け止めていた攻撃エネルギーは消滅していた。
「霊撃波をこらえきるとはな…」
サイガは感心していた。とどめとしてはなった技、仕留めるには十分の威力はあった。ハヤテのどこにそんな力があるのだろうか。
そのハヤテは、サイガに問いかけた。
「あなたが戦うのは、弟さんのことが理由なんですか…?」
それを聞いたサイガは、不快感を露にした。
「貴様…俺の心を覗いたな」
そのことがサイガのプライドを逆撫でさせた。相手が格下の青銅クラスであることも、余計に怒りを募らせている。同情なんて、彼にとって真っ平ごめんなのだ。
しかしハヤテには憐みの感情はない。それ以上にわからないことの方が大きかったからだ。
「なら、何故明智天師に味方するんですか?」
ハヤテにはもうサイガの戦う理由について想像がついていた。彼は弟の二の舞になる人物が増えないように戦っているのだ。自分が味わったような悲しみから、人を救うために。
だからこそ、霊神宮を支配しようとする明智天師に加担している理由がわからなかった。彼の目論見に気づいていないのだろうか。
いや、そのような人物がダイのなどを任せられるはずがない。この男は明智天師にとっては腹心の部下あることに違いないのだから。
理解がしがたいハヤテへの答えとして、サイガは一笑に付す。
「俺は別に味方しているわけじゃない。利用しているだけだ」 「利用?」
利用とは一体?
サイガは明智天師とはまた違う目的を抱いているのだろうか。
それについて、彼自身から語り出してきた。
「あの人が霊神宮を一つにまとめてくれるんなら、方法は問題じゃない。その後で倒せばいいのだからな」 「そんな…」
そんなやり方と考え方では必ず巻き添えが出てしまう。弟を亡くした戦争と同じ結果になるかもしれないのだ。これでは本末転倒だ。
この矛盾に口を挟まずにはいられないハヤテだが、その隙を与えずサイガは続けた。
「これも、弟のためだ…」
あまりに口調が強いので、ハヤテは思わず口をつぐんでしまう。
「弟が亡くなってから俺はあてもなくさまよっていた。そんなある日、俺は弟からの声を聞いた」
普通だったら死者の声が聞こえるなんてありえないが、サイガには不思議な力を持っていると言われていた。その能力のことを指すのだろう。
「弟は俺に言った。俺の持てる力をもって、自分のような人を出すなと」
サイガは一句一句に、自身の覚悟を込めていた。
「そのために、浮かばれない魂だろうと利用してやる。俺の力も、手段は問わない」
ハヤテはやっと理解できた。
この男は、弟への思い入れが強いのだ。思いが強すぎて、他のことが見えていないのだ。
その思いだけなら、ハヤテはとても素晴らしいと感じていた。相手が死んでもその人のことを思い続ける。自分にも、そういう人たちがいるからサイガのことはよくわかる。
だがそれでも。
「そのやり方は、弟さんの望んだものでしょうか?」
ハヤテの問いに、サイガは言葉を失ってしまう。
そう。サイガは自分の感情のみを主張している。弟のためと入っているものの、弟の気持ちというものは全く述べていない。これこそ、サイガが見えていないものである。
「それに、あの巨人…」
ハヤテはフレイツガイストの方を向く。
「弟さんの名前をつけて傍にいさせてるなんて、本当は何よりもあなたが…」 「黙れ!」
続く言葉をサイガは遮った。
「ペラペラと喋りやがって…」
サイガの背後に再びオーラが浮かび出てきた。
「今度こそ、終わりにしてやる」
再度霊撃波を放つつもりだ。先程はこらえ切ったがあれは運によるところが大きく、次も同じ結果にはならないだろう。
だがハヤテは退くつもりはなかった。
今の自分にはやりたいと思うこと、やらなければならないことがある。
「あなたが僕たちに霊の嘆きを聞かせましたが、今度は僕があなたに聞かせます」
使命と言うべきか。
漠然だがそんなものがハヤテの中にある魂の資質、誠実を揺らしていく。
そしてそれが彼のマインドを覚醒させ、バックに鳥獣のオーラを浮かび上がらせた。
「あなたの弟さんの、本当の思いを」
ハヤテは腕を折りたたんで小脇に構え、前屈みの姿勢となる。
疾風怒濤とは構えが違う。
新しい必殺技とでもいうのか?
「何をするつもりかはわからんが、おまえには無理だ!」
あの体制では横へかわすことはできない。後ろへ退いたとしても、霊撃波の射程範囲からは逃れることはできない。前に出ることは自ら必殺技を喰らいに行くという馬鹿げた行動だ。
だがハヤテは攻撃をしようとしている。無様に前へと出るしかないだろう。
なんにしても、ハヤテは霊撃波を受けるしかない。
「喰らえ!」
サイガは霊撃波を放とうとする。これが必殺の一撃となるはずだった。
しかしハヤテは、その寸前にサイガの懐にまで潜りこんでいた。
「なっ!?」
ほんの一時とはいえ、格上の相手であるサイガでさえ驚くスピードで迫ったハヤテ。
それはまさに、疾風のごとく。
その至近距離から、自分の全力を込めた掌でサイガを打ちつけた。
「疾風咆哮!」
掌底と、それによって生じた風圧によって、サイガは後方へと飛ばされる。
凄まじい轟音が響いていた。それはまるで、鳥獣の雄叫びであるかのようだった。
その中で、サイガは聞こえた。
「…!この声…」
それは確かに、弟の声であった。
その切実な願いは、サイガに十分伝わった。
「おまえは…!」
それは、一体化が解けてしまうほどサイガにとっては衝撃的だった。同時にそれまで存在していたフレイツガイストも消滅していた。
フレイツ消滅を目の当たりにしたハヤテは、不安に駆られた。
「お嬢様…!」
ナギたちの魂はフレイツに喰われたままだ。フレイツが消えてしまったら、ナギたちの魂も消滅してしまうのではないか。
しかしそれは取り越しに過ぎなかったようだ。
倒れているナギの口から、微かに息が漏れだした。
「ここは…?」
ゆっくりと目を開けるナギ。
ナギだけではない。ヒナギクや佳幸たちも気を取り戻している。全員の魂が無事に身体へと戻ってきたのだ。
「よかった」
安心して、ハヤテは胸を撫で下ろした。
「フレイツが無事に帰らせてくれたからな」
予想外の言葉に、サイガが一番驚いた。
「あいつが…あの中に…?」
そんな彼に、ナギはフレイツガイストに喰われてからのことを告げた。
「おまえの弟は、あの巨人の中でおまえが自分に囚われないでほしいと願っていたぞ」 「ああ…俺も今、あいつにそう言われた」
フレイツの声は、サイガにちゃんと届いたのだ。
「霊を使うこの俺が、逆に取り憑かれていたなんてな…」
自嘲気味に笑うサイガ。まさに皮肉な話である。
「…行けよ」
それがサイガに何をもたらしたかはわからない。
確かなのは、サイガにはもう戦意がないということだった。
「何か後味が悪いよな」
霊の間を後にして、達郎が口にする。他の皆も同じ気持ちだった。
「あの巨人の中に、フレイツが存在すると言ったけど…」
佳幸が神妙な顔で話し始めた。
「実はフレイツ本人じゃなくて、あの人の弟に対する強い思いから生まれた、思念体だったんだよね」 「そうなんですか?」
あの場にいなかったハヤテは彼らに尋ねる。
「ええ。本人が言っていました」 「それに、サイガは本当に霊の声が聞こえたんでしょうか?」
伝助はその点を訝しんでいた。
「一般に霊能者と言っている人たちが聞いた霊の声というのは、実際は風の音だったりというのが多くありますからね」
すると、全てはサイガの思い込みだったのであろうか?
嫌な気分が、全員を沈黙させてしまう。
「まあ、あいつの心を救ったのはハヤテ、おまえだ。それは間違いねえよ」
明るい調子で塁が軽くハヤテの肩を叩く。
「おまえはよくやったよ」 「…はい!」
励まされ、ハヤテは元気を取り戻した。
「…あっ」
そのまま先へと進もうとしたが、あることに気づく。
「伊澄さんは…?」
「ここはどこでしょう…?」
いつの間にか霊の間から姿を消していた伊澄は、再び霊神宮のどこかをさまよっているのであった。
37話はこれで終了です 来年はどうなるかな…?
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Re: 新世界への神話Drei 12月30日更新 ( No.77 ) |
- 日時: 2016/03/13 18:51
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
忙しくて現在まで更新できませんでした。
それでは、2016年最初の更新です 38話、始めます
第38話 水のように
第五の間の前に辿り着いたハヤテたち。
結局、伊澄のことはそのまま放置ということになった。酷い処置ともとれるが、いつも迷子の伊澄ならたぶん大丈夫であろうと予想したことなので、文句はなかった。ひょっとしたら全員同じ気持ちだったのかもしれない。
「闘の間、か…」
そんなことはさておき、全員は門の前に刻まれた文字を見た。
「闘ってことは、闘いにはかなり強いってことだね」 「堂々と出ているもんな。恐らく黄金の使者でも指折りってことだろう」
闘というのが、格闘ということを想定する佳幸たち。これまで戦ってきた黄金の使者と違い、純粋な戦闘技術は恐らく相当なものだろう。
「なあに、心配いらねえさ」
しかし達郎は不安など抱いていなかった。
「むしろ山とか天とかややこしい力がない分、やりやすいじゃねえか」
彼の言うことももっともだった。力の差がはっきりと出やすい分、小細工がないのでこちらとしては戦いやすいし、自分たちの性にも合っている。
しかし、達郎の口調はどうしても楽観的に捉えているとしか感じられない。
「なんなら、ここは俺に任せてみるか?」
明らかに調子に乗っている。
今までの勝利に浮かれているのであろう。元々の自分たちと相手にあるかなり離れた実力差が存在することを忘れてしまっている。
おかげで、皆からは呆れられている。
「まったく、おめでたい奴よね」
彼女に喰ってかかろうとする達郎だが、その前に他の皆からさらに畳みかけられる。
「寝言は寝てから言えよな」 「たまには冗談でもいいこと言ってよね」
塁と拓実にまで言われ、達郎は頑なとなってしまう。
「なんだよ!俺は至ってまじめだぜ!」
その言葉通り、彼は真剣な顔で語り出した。
「俺だって、この戦いに何の備えもしてこなかったわけじゃねえ。秘密兵器ってもんが俺にはあるんだぜ」 「秘密兵器?」
思わず優馬はオウム返しをしてしまう。その言葉はほぼハッタリにしか使われないからだ。
しかし、達郎は自信に満ちていた。
「一応聞きますけど、その秘密兵器って何ですか?」
伝助も半ば期待してないようで、聞いてあげなきゃ失礼かもということで尋ねてみる。
「それは、見てのお楽しみってことだ」
わざともったいぶらせる達郎は、佳幸と氷狩の方を見る。二人は、彼に苦笑で応じた。
この二人は何か知っている。だが友人のことを尊重して、何を聞かれても口を噤むだろう。
「まあいい。さっさと行くぞ」
うんざりした様子でナギは入ることを促した。他の皆も彼女に続いていく。
「あ、ちょっと待てよ!」
遅れて達郎も彼らを追い、全員が闘の間へと入っていった。
そんな彼らを待ち受けていたのは…
「497、498…」
回数を数えながら、ダンベル運動に汗を流す若い男だった。
「な、なんなの…」
海が肩を落としたのは、この光景が強烈なだけではない。
「お、来たか」
ナギたちに気づいた男は、運動を止めてこちらに向き直った。
「よく来たな。俺は闘のフィストネルが使者、シェルドだ」
細身だが引き締まった肉体に、滴る汗。
加えて、輝かしいばかりのさわやかな笑顔。
それはナギたちが思わす引いてしまう程の、十分な魅力をもっていた。
「ああいうの…苦手なの…」
どうやら海は、筋肉質な男は好みではないらしい。何かトラウマでもあるみたいだ。
そんな彼女に構わず、シェルドと名乗った男は話を続ける。
「俺の方は既に準備万端だ。ウォーミングアップしていたからな」 「ウォーミングアップって…」
伝助は恐る恐るといった調子で尋ねた。
「使者の戦いは心の力によりますけど、何故そんなことを…?」 「ましてや、一体化すれば体のつくりが変わるからな。意味がないんじゃ…?」
優馬も揃って口にする。こちらが一体化するほどの相手じゃないということかもしれないが、準備運動をするのはどうしてか。
「わかっていないな」
シェルドは不遜な態度で話し始める。
「これは俺の戦闘意欲を沸き立てるためにやっている。適度な運動は精神を高揚させるからな」
確かに、肉体にある刺激を与えると興奮作用を起こす。この男はそうやってテンションを高めているのだろう。
これに対して、反応は様々だった。
「なるほど、一理あるな」 「まったく、体育会系の考えそうなことね」
理解して感心を示す塁と、呆れて嘆息する花南。対照的な二人は、互いに目を付け合った。
そんな二人は放っておいて、シェルドは話を進める。
「この闘の間に来れたってことは、それなりにやるってことだな」
シェルドはハヤテたちを注意深く矯めつ眇めつ見まわした。
「もうわかっているが、ここを通りぬけたければ俺を倒さなければならない」
煽るような調子で話すのは、こちらに対する挑発なのか。
「最初に言っておくが、俺にはエーリッヒやミークのような特殊な力があるわけじゃない。この体一つが武器だ」
シェルドのその姿は、裏表のない堂々としたものだ。それに加えて、言葉の端々に絶対負けないという自信に満ち溢れている。
「もちろん格闘だけじゃ黄金の使者にはなれん。俺だけの技というものがあるから、用心しておけよ」 「ここまで正々堂々されると、何も言えなくなるね」
拓実は半ば呆れるように頭を抱えていた。相手は正直者を通り越した馬鹿なのだろうか。こういう相手に彼は苦手だ。
「だが油断は禁物だな」
既にコーロボンブと一体化した塁が一歩前に出る。
「ほう、最初はおまえか」
塁を挑戦者とみて、シェルドもフィストネルと一体化した。
塁が一番先に出たのは、シェルドと戦ってみたいという気持ちが強かったからだ。それだけでなく、味方の中では格闘センスが抜き出ているため、格闘で相手を倒すシェルドが自分とどれだけ実力がかけ離れているか確かめることができる。
シェルドの実力はいかほどか。緊張と興味で気を引き締める塁だった。
今日はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 3月13日更新 ( No.78 ) |
- 日時: 2016/05/15 21:24
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
最近調子が落ち込んでいます
それでは、更新します
2 そんな彼に、シェルドから仕掛けてきた。塁へと素早く殴りかかった。 その攻撃をかわした塁。だがシェルドは一瞬で塁の視界から消え彼の脇へと回り込み、追撃を行う。
寸前のところで回避できた塁。シェルドはまたも姿を消すが、今度は塁も彼がどこに行ったかわかった。
「後ろか!」
振り向き様に塁は拳を繰り出す。そこで攻撃しようとしていたシェルドは急いでかわすが、塁の拳がシェルドの肩をかすめた。
僅かな時間の攻防の後、両者ともに後退して距離を取る。
「中々やるな…と言いたいところだが、これはまだ様子見程度だ」
シェルドはまだ余裕を見せていた。対して塁は彼との距離を詰めずに横へと移動する。
レベルの差を悟った塁は、無闇に近づくことを避けた。自分の攻撃がかすったとはいえ、シェルドは本気を出していない。
だが攻める手立てがないわけじゃない。ショックサンダーを受ければ黄金の使者といえども一瞬は動けなくなるはず。その隙を狙ってサンダーボルトナックルを打つ。それが塁の作戦だ。
しかし、塁はショックサンダーを放つ前に何かによって後ろへと吹っ飛ばされてしまった。
「な、何が起こったんだ?」
何故塁が吹っ飛ばされたのか。
「シェルドがやったんだ…」
起き上がった塁。その身で受けた事だから理解ができた。
「シェルドがって…あいつは特別な力はないはずだが…」
彼自身がそう言っていたことだ。優馬から見て、シェルドは嘘をつくような男ではない。
「奴は、拳を当ててきたんだ」 「拳って…」
塁とシェルドの間は結構距離が開いている。離れたところから、どうやって拳を当てたのだろうか。
「まさか、拳圧で…」 「わからねえ。けど、この衝撃は殴られたものだ」
腹部をさする塁。仕組みはわからないが、確信は持っている。
「なら、次は僕がいきましょう」
伝助はワイステインと一体化し、塁と交代する。
「ウイングトルネード!」
背中の翼で生じた突風でシェルドの逃げ場を塞いだすぐ後、伝助は急接近する。遠距離でも拳を当てられるというのなら、間合いは関係ない。
伝助は至近距離から連続で拳を繰り出す。目にもとまらぬ速さで畳みかける攻撃を、シェルドは全てかわしていく。
それを見て、海は息を呑んでいた。
「す、すごい…目で追い切れるかどうかの動きだわ、二人とも…」 「それでも、シェルドっていう人の方が速い。危なげなくかわし切っている」
隣にいた光も、それが確認できていた。恐らく二人とも剣道やフェンシングで見切りを身につけているのだろう。
そうでなくても、シェルドに攻撃が当たった様子が見られないところ、彼が伝助よりも速く動いていることは明らかだった。
「でも、シェルドはかわすだけで攻撃はしていないな」
佳幸の言うとおり、シェルドは伝助に手を出してはいない。
彼は気づいていた。伝助は牽制のためにラッシュを仕掛けているのだと。執拗な攻撃を続けることで、相手が反撃する暇を与えないのだ。
「攻撃は最大の防御ってところか」
氷狩は観戦しながら冷静にそう口にした。
相手の攻撃を封じている伝助。その状況の彼は機会を狙っていた。
そして遂に伝助は仕掛けた。シェルドの頭に向かって足を大きく蹴り上げる。
かわされはしたが、予想外の攻撃だったためかシェルドは身体を大きく後ろへとのけぞってしまう。そのため彼は姿勢を崩した。そしてそれは、伝助の狙い通りであった。
伝助は嵐鷲滑空拳を繰り出した。シェルドの体勢では回避することはできない。身体を起こすが間に合わない。必殺技は決まるはずだった。
だがそれは、シェルドには当たらなかった。
否、拳は当たりはしたが期待通りのダメージは与えられなかった。
何故なら、シェルドの拳も伝助に命中していたからだ。
シェルドはカウンターを利用したのだ。力の入らない体勢から拳を繰り出しても威力はそれほどないだろう。だが、伝助の必殺技の威力を加えれば拳自体のパワーは少なくても、相手に与えるダメージは大きくなる。
反撃を喰らい、よろめいてしまう伝助。それでも追撃を受けないように素早く仲間たちの元へと戻る。
「強いですね。闘と名を冠するだけはあります」
塁をふっ飛ばした拳といい、今のカウンターといいやはりこの男の格闘センスは大したものである。今のやり取りで、それを実感させられた。
「なら、あの人よりも速く攻撃できれば!」
ハヤテはシルフィードと一体化し、疾風怒濤で攻撃する。先程の伝助以上の速度をもった攻撃であった。
その必殺技を、シェルドはあろうことか真正面から受け止めたのだ。
「えっ、喰らった!?」
ハヤテは驚きに声をあげずにはいられなかった。今放ったのは必殺技だ。速くて完全にはかわせなくても、致命傷を避けるようにしなければ手痛い一撃を受けることになるのだ。
だがシェルドは無防備で受けたのだ。しかもそれ以上に信じられないのは、疾風怒濤を受けたというのに、全く応えた様子がないのだ。
疑問を抱く間もなく、ハヤテは吹っ飛ばされてしまう。シェルドはその際またも、何のアクションも見せなかった。
「どうだ?この俺の力は」
シェルドは余裕たっぷりに話しかけてきた。
「闘いの中で特別な技を使っているが、おまえたちはそれに気づくこともできないようだな」
そうなのだ。ハヤテたちはいつシェルドが言う特別な技を使っているかわからない。特別な力が何かもわかっていない。それに加え、格闘も強い。
「こんな奴を、どう相手にすればいいんだよ…」
思わず達郎は弱音を吐いてしまう。根が素直なために、ついつい本音が口から出てしまうのが悪いところだ。
だが彼の気持ちもわかる。シェルドに対し、皆どう取りかかっていいのかわからないのだ。
その中で達郎が特に顕著に表れていた。彼は既に逃げ腰となっていた。
そんな彼は、ふとハヤテを見た。ハヤテは立ち上がろうとしており、どうやらまだ戦うつもりだ。
何故戦い続けるのか。今はまだ勝機が見えないのに、やっても無駄としか思えない。
達郎は傷つくのが嫌いだ。無意味に傷つくのなんて最も嫌だ。
でも、視界にナギの姿が入った時、達郎は思い出した。ナギの目的と、自分たちはそれに少なからず触発されてここに来たのだと。
そのために、花南や優馬、精霊の使者としては自分より若輩のハヤテも奮戦し、活躍してきたのだ。
そんな彼らに対して、自分はどうなのか。
そこまで考えた時、達郎は意を決していた。
「特別な技が何なのかわからなくても…」 「戦って、倒せばいいだけだ!」
ハヤテと塁は、再びシェルドと立ち向かおうとする。
その二人を遮るように、達郎が全員の前に出た。
「な、何だよ達郎」
突然のことに戸惑う塁。しかし達郎は、衝撃的なことを口にする。
「あいつは、俺がやる」 「はあぁ!?」
全員、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「って、なんか不満っすか?」
達郎は全員に向けて口を尖らせる。
「さっき言ったように、一人でやるつもりか?」
塁はまだ達郎の言うことを信じていないようで、確認を取って見る。
「当然っすよ!」
達郎はまた闘の間に入る前のテンションを見せつけている。それがまたかえって不安を煽らせているのだ。
「宣言通り、ここは俺に任せてくれ!」 「けど達…」
佳幸は尚も心配であった。達郎が戦いを嫌うことは幼馴染の彼がもっともよく知っている。だからこそ止めようとするのだが、達郎の意志は固い。
「今ならまだ悪い冗談で済ませるわよ」
花南が半ば脅迫味を込めて告げる。それは警告であり、ここで引いても誰も笑わないという思いやりでもあった。
しかし、それでも達郎は引かなかった。
「いいから!俺がやるって言ったらやるんだよ!」
そんな達郎を見て花南は薄く笑う。どっちかと言うと彼女は友のやる気を応援したいという方だった。先程の発言もそのつもりで、ああいえば達郎はかえって奮起すると睨んだからだ。おかげで、佳幸は益々達郎の身を案じるのだが。
「とにかく、黙って見ていろ!」
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 5月15日更新 ( No.79 ) |
- 日時: 2016/07/09 17:09
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- お久しぶりです。
本編更新します
3 勇みよく前に出る達郎。意地を張っているのだから、その姿は滑稽にも見えた。
「本当に一人で俺と戦うつもりか?」
戦う相手であるシェルドにまでそう心配されるのだから、達郎は腹立たしさを抑えることができなかった。
「何度も言わせんな!」
そのはねっ返り様が、シェルドには好感を抱けたようだ。
「おまえの心意気を称え、特別に教えってやろう」
だから、塩を送りたくなった。
「えっ、教えてくれるの?」 「ああ。知ったところでどうということはないからな」
それは、自分は絶対負けないという自信の裏付けか、闘いを楽しむ者の気まぐれか。
恐らく後者の気持ちの方が強いだろう。シェルドは高揚感を隠していないからだ。
「俺たち精霊の使者が力としている心、精神エネルギーは実は人間の誰もが持っているということは知っているな」 「えっ、そうなの?」
精霊についてはじめて知ることが多い光、海、風の3人は近くにいたエイジに尋ねてみた。
「あ、ああ…」
口調がはっきりしないところを見ると、エイジも半分はわかっていなかったのだろう。いや、自分たちにとって当然のことだったのでいつの間にか忘れていたという方が正しいだろう。
「今さらそんなことを言ってどうするんだ」
この場で復習会なんてごめんだ。緊迫さに水が差された上に達郎は勉強が嫌いだ。小難しい話は遠慮してほしい。
「まあ聞け」
達郎を少し宥めるようにしてから、シェルドは再び説明を始めた。
「さっき話した精神エネルギーの他に、人にはもう一つエネルギーをもっている」
精神エネルギーとは別のもう一つのエネルギー。
達郎たちはそれについて興味を引かれた。人間にはもう一つ、どんなエネルギーを持っているのか。
「それは常に人体の中を流れ巡っている。だがそれを自らコントロールするのは精神エネルギー以上に素質が必要とし、それを戦闘で使うには更に高等技術を身につけなければならない」
そう言い、シェルドの周囲の空気が揺らぎ始めた。
「だがこの人が生きるための力、生命エネルギー。一部では闘気とも呼ぶが、それの威力は凄まじいものだ」
そして彼は、掌を上にしてかざす。
「闘気は中々見ることはできないが、おまえたちの実力でも見えるようにしてやろう」
シェルドは掌に力を集中し始める。すると、その掌が発していく。
その手を、シェルドは離れの壁に向けて振るった。いや、手に帯びていた光を壁に向けて投げたのだ。光は真っ直ぐに飛んでいき、壁を砕いた。
「生命エネルギーはその流れを身体の中で活性化させることができるが、熟練した者はこのように精神エネルギー以上の威力を持ったエネルギー弾として飛ばすことができる」
この光景を見て、ハヤテたちは悟った。
離れた相手に拳を当てることができたのは、拳に乗せた闘気を相手に飛ばして当てていたからだ。
「解説は以上だ」
シェルドは再び達郎に向き直る。
「さあ、やろうか」 「ああ、やってやるぜ!」
達郎もシャーグインと一体化し、戦闘態勢を整えた。
その途端、達郎は吹っ飛ばされてしまった。塁の時と同じように、シェルドの闘気を受けてしまったのだ。
「い、いきなりなんて卑怯だぞ!」
起きながら、達郎は刺々しい口調で責める。しかし、シェルドはそれを軽く流した。
「おいおい、戦いはもう始まってんだぞ。卑怯はないだろう」
正論である。達郎は何も言い返せなくなってしまう。
「ちくしょう、見てろ!」
苛立ちのままに達郎はシェルドに向かって駆け出し、一気に殴りかかった。しかし、力み過ぎているのか伝助のラッシュに比べて速度は遅くシェルドに簡単に見切られてしまう。
そこから達郎は突き飛ばされ、またシェルドと距離ができてしまう。
また、あの拳が来る!
達郎はとっさに身構えて迎え撃とうとするが、防御をとる暇もなくやられてしまった。
厄介な技だ。二度も受けて達郎は実感する。
それは闘気の威力だけではない。それ以上に、闘気を飛ばすために繰り出す拳の速度だ。
あの速度で殴れば、とてつもない威力を持つだろう。闘気はそれを倍増させているだけだ。
恐らくあの一撃にシェルドの全てが込められているのだろう。あれ程のスピードは、自分たちを遥かに超えており、そうなかなか出せるものではない。
「何とかしてあの拳を見切らないと…」
あの拳の速さを捉える事が出来ればかわすことが、最悪でも防御をとってこらえることができるかもしれない。
「無理だな」
その希望を、シェルドは一蹴した。 「俺が放つ拳のスピードは、青銅クラスはおろか白銀クラスでさえも出せない。そんなスピードを、どうやって見切るというんだ?」
理にかなったように聞こえたので、達郎はつい押し黙ってしまう。そんな彼に畳みかけるように、シェルドは更に言い放った。
「よしんば見切ることができても、おまえの攻撃は俺には通じないさ」 「な、なんだと!」
この言葉は、沸点の低い達郎を怒らせるには十分だった。
「んなことは、こいつを喰らっても言えるか!?」
達郎は怒りのままに必殺技を放つ。
「ハイドロスプラッシュ!」
以前のものよりも大きな水流がシェルドを呑みこもうとする。だというのに、シェルドは逃げる素振りを見せない。
それどころか、拳を構えて殴る体勢をとった。
「無駄だ!」
気合と共に、シェルドは必殺の拳を放った。
その威力は、水を割りそのまま達郎を襲う。驚く間もなく、とてつもない衝撃を受け達郎は倒れてしまう。
必殺技まで破られるなんて。奴の言うとおり通用しないのか。
自信も砕かれた達郎に、シェルドは容赦ない言葉を浴びせた。
「おまえの攻撃は一見すると迫力はあるが、見た目だけだ。派手な見かけ倒しに過ぎん」
はっきりとシェルドは断言する。
「そんな技では、この俺を倒すことはできん!」
突き立てられた達郎の敗北宣言。
達郎はそれをすぐには受け入れられなかった。
「そんなことが…」
彼はシェルドに気づかれずに彼の背後へ回り込む。
「あってたまるか!」
そこからシェルドを抱え、あろうことか達郎を投げ飛ばそうとする。
「ちょっと、止めるんだ達!」
すかさず佳幸は制止の声をかけた。
シャーグインはパワーがある方じゃない!フィストネルと一体化したシェルドを投げ飛ばすなんてことは無理だ!」
それは事実であり、かつ佳幸の達郎への思いやりであった。しかし、それは達郎を更に意固地にさせる。
「見てろ…必ず決めてやる…」
少しずつ、シェルドの身体が床から上がっていく。
これならいけると達郎は思った。非力な自分でも、シェルドを持ち上げることができたのだから、投げ飛ばすことだってできるはずだ。
だが、シェルドは冷静だった。
「腕の力を入れ過ぎだ。これでは簡単に抜けられてしまうぞ」
そう言って、達郎の腕から容易に飛び上がって脱出してしまう。更に全体重をかけたシェルドの逆襲が見事に決まった。
手痛い一撃に、達郎はその場でうずくまってしまった。
「これでわかっただろう、おまえの技が派手な見かけ倒しだということが」
よろめきながら起き上がる達郎を、シェルドは見下ろしている。
「対して、俺の必殺技はシンプルだが、破るのは難しい」
そう語るシェルドの背後に、達郎は見た。
浮かび上がる拳闘士のオーラに、達郎は思わず竦んでしまう。
「証拠としてこの俺の全力を込めた必殺技、グランドフィストを受けてみろ!」
今まで以上の闘気を帯びた拳を、達郎に叩きこんだシェルド。
全力の必殺技をそのまま腹に受けた達郎は、その威力のままふっ飛ばされてしまう。
成す術もなく一方的にここまで打ちのめされた。
その事実を、倒れながら達郎は痛感していた。悔しさはなかった。それさえも打ち砕かれたみたいだ。
闘志さえも消えてしまった。今の達郎は脱力し切っていた。
それを示すかのように、達郎のシャーグインとの一体化も解かれてしまう。
「さて、次はだれが相手だ?」
達郎はもう戦闘不能とみなし、シェルドは残りの皆に顔を向けた。
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 7月9日更新 ( No.80 ) |
- 日時: 2016/10/09 21:18
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- お久しぶりです
本編更新します
4 情けねえ。
倒れながら達郎はそう思っていた。一矢報いることもなくいい様にやられ、醜態をさらす羽目になるとは。
ただの一撃も当てられなかったことが、益々喪失感を煽らせていた。
自分の技が見かけ倒しだというシェルドの指摘も、今なら受け入れることができる。考えてみれば、自分は結構派手好きであった。
そう、昔から…。
それは、幼いころだった。
両親が経営している、女性のための美容室にいた達郎は、あるものに目を奪われていた。
それは服屋などで見かける展示用のマネキンであった。ただ、そのマネキンにはきらびやかなドレスを着ており、人を引き付けるような美しさを持つように仕立て上げられていた。
達郎も、子供心ながら釘付けとなっている。思わず手をドレスの方へと伸ばそうとした。
「ダメよ達郎」
不意に声をかけられ、達郎は驚いて身を大きく震わせる。
いつの間にか、彼の後ろには母親が笑顔でそこにいた。
「それに触っちゃダメ。折角ここまできれいにしたのだから、崩れちゃお見せできるものじゃなくなるでしょ」
強く、それでいて優しく温かい調子で諭され、達郎は空中で止めていた手をひっこめた。
「ごめん…」 「わかればいいのよ」
まさに母性溢れる笑みに、達郎もすぐまた明るくなった。
「それにしても、キレイなドレスだな」
達郎はこういう美しい服が好きだ。それは好きな親の仕事からの影響によるところもある。
「これを着た女の人は、もっとキレイになるだろうな」
何より、達郎が美しい服を好きな理由がそれにあった。女の人がキレイな服を着てより美しくなる。子供だから、そんな夢見がちな思いがあった。
けど両親は女性をキレイにしてきた。劇的という訳ではないが、両親が手を施す前よりも美しくなっている。だから達郎はそんな仕事をしている両親を誇っていた。
「けどね達郎、お父さんはこのドレスよりキレイなものを仕立てられるのよ」
母がこう言うのだから、達郎は益々敬意を増していく。
「それって、本当なの?」
目を輝かせて尋ねる達郎。そんな彼の前に、母はあるものを差しだした。
「これを使ってね」
何か特別なものか?
しかし、その期待は裏切られた。
達郎の目に映ったのは、何の変哲もない無地のジャケットであった。
達郎のテンションは、急激に下がっていった。表情から見ても明らかである。
「…本当なの?」 「本当よ」
疑り深い目を向ける達郎に対しても、母は笑顔のままだった。
ちょうどその時、店員がこちらに近づいてきて客が来たことを伝えに来た。
母は、達郎に向かって言った。
「あなたも見てみる?」
その言葉につられ、達郎は見学することにした。
客は女性だった。三十代半ばの歳で、親友同士のパーティに出るため少しおめかししてほしいとのことだ。
ある一室で客と一緒に待つ達郎。客は特別美しいという訳ではないが、一般の人が見ればまあきれいだなと思わせる程度だ。
どうやら父と母はあのジャケットを使うつもりだ。達郎は不安で一杯だった。父を疑うつもりはないが、本当にうまくいくのだろうか。
しばらくして、母が部屋に入ってきた。準備ができたようだ。
客を連れていく母。立ち入ることができないので、達郎は部屋で待っているだけだ。
その間は、あのジャケットに対して疑っていた。
だが、その気持ちは客が戻ってくると一瞬に吹き飛んだ。
客はあのジャケットを着ていた。しかし、ただ着ているのではない。
ジャケットとスカーフをはじめとした小物やアクセサリーといったものとうまく工夫されているのだ。化粧やヘアスタイルも派手ではないが、上手く引き立たせている。
一言で表すなら、着こなしている。
客が満足そうに帰っていった後も、達郎は感動していた。
「すごいな。お父さんは」
同時に、父への尊敬の思いも大きくなっていた。
「あんな地味なジャケット使って、あの女の人をキレイにするなんて」
店に飾ってあったドレスよりも、明らかにキレイだと感じた。一体どのようにすればあのようになるのだろうか。
興味津々という気持ちが目に表れていた。それを見て取った父は達郎に言った。
「僕が特別何かしたってわけじゃないさ。あの人の気持ちがあの服をキレイに見せているのさ」 「どういうこと?」
首を傾げる息子に、父は悟りかけるように続けた。
「この店は、普通の女の人でも美しくなれる。それはそうなりたいという気持ちがあってこそだ。それは服も同じ、普通の服でも気持ち一つで変われるんだ。わかるかい?」 「わかんない」
達郎には理解ができなかった。服は単に服に過ぎないのではないのか。
「まあ、今はまだわからなくてもいいさ」
まだ幼い息子には難しい話だということに気づき、苦笑しながらも話を終わらせた。
「そのうちわかるさ。飾り気のないものは、その人を最もよく表わすということを」
この回想は達郎に何をもたらすかな…?
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Re: 新世界への神話Drei 10月9日更新 ( No.81 ) |
- 日時: 2016/12/29 21:56
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- お久しぶりです
今年中には38話を終わらせる予定です。
それでは、どうぞ
5 昔のことを思い出した達郎は、自然と立ち上がっていた。
「勝ち目のない戦いだとわかったばかりじゃないのか」
その気配を察したシェルドは、振り返らずに話しかけた。
達郎が立ちあがったのは尚も自分と戦うためだと皆も思っていた。それは確かなことである。
だが彼は、不意に笑いだした。その場にいたものは面を喰らってしまう。
「どうした、なにがおかしい」
気でも触れたのかとシェルドは疑い出した。
「いや、親の、特に親父の一言は後から身に染みるってな」
いきなり笑いだしたので錯乱したのかと思ったが、どうやら違う。先程までは頭に血が上がり切っていたのだが、今は落ち着いている。
ふっきれた、と言った方がいいだろうか。しかし、きっかけが何なのかわからない。
だがまあそれはどうでもいい。達郎が再び戦おうとしていることが重要なのだ。すでに彼はシャーグインと一体化している。
「何度やっても無駄だと徹底的に教えなくてはな」
うんざりした様子で向き直るシェルド。
そんな彼に達郎は殴りかかろうとする。その拳をを受け止めようとするシェルドだが、達郎はそのガードしようとした手ではなく、手首をつかんだ。
「フェイントか!」
拳を繰り出すのではなく、相手の腕を抑えることが本当の狙いだった。やはり達郎は冷静になっている。
そして達郎は、シェルドの腕を後ろへと捻りあげた。シェルドは身体を回して逃げようとするが、それを許さず達郎はもう一つの手でシェルドの身体を抑えつけた。
見た目は地味で、ダメージもそれほど大きいものではない。しかし、相手の動きを封じるにはいい技である。
「何の変哲もない技がそいつを一番よく表わすって、まさにその通りだな」 基本となる技は、礎となるもの。どんな大技も基本ができていなければ成り立たない。故に基本技はその者を表していると言ってもよいのだ。
「更に、基本技はそれ自体が威力が低くても…」
言いながら、達郎はシェルドを抑えていた手を放し、その腕で彼の首をねじ曲げる様に絡め、両足も組みついた。
「組み合わせて使えば、強力な一撃となる!」
そして、シェルドの身体をねじ曲げる。各部をホールドしたまま。
「なんか、プロレス技みたいだな」 「達郎があんな技使ってくるなんて…」
達郎はどこか恰好をつけたがる傾向がある。加えて、力押しな戦法をとることが多い。だから、あのように地に敵と寝転がり、汚れながらも地味な技をかけているなんて少し驚きである。
もちろん、達郎はただの根性無しではないし、潔癖症と言う訳ではない。それでも、普段情熱をあまり見せずお調子者の面が目立つ彼からは想像難い光景だ。
だが、戦法を変えたことは効果があった。敵であるシェルドすらも評価していた。
「自分の精霊に合わせた戦いをしてくるとは」
達郎の精霊シャーグインは、攻撃よりも防御の面に秀でている。力で押し切るよりも、このような関節技で相手の動きを封じるようなスタイルが合っている。相手の攻撃の目を摘むことも、防御の一つだ。
「褒めてやりたいが、まだまだ未熟だな」
シェルドは一瞬力を抜いてから、なんと自ら技の締め付けを強くしていったではないか。
皆気でも触れたのかと思ったが、相手の方から押してくるので達郎は思わず掴んでいた手を放してしまう。
その生じた隙をシェルドは逃さなかった。素早くたつろうから離れると、彼を思い切り蹴り上げた。再び転び回される達郎。
「このような稚拙な技で、俺を止められると思うか」
やはり闘の精霊の使者は格闘技に精通していた。そんな相手に、達郎の技など子供だましでしかない。
達郎自身もそれはわかっていたことだ。
「単なる準備運動だ」
それでも、何らかの手ごたえは得たみたいだ。
達郎は堂々とシェルドに立ち向かっている。
「攻めてダメなら、守りに徹すればいいだけだ」
もう大丈夫だ。先程のような焦燥も固執もない。達郎の心は至って澄んでいる。
彼の心を表すかのように、リングも光を発している。
「水の属性である精霊の使者が持つ魂の資質は、純粋…」
純粋、何にも着飾らない心。単純と言われるほど素直な心を持つ達郎を表す最もな言葉である。
「達のテンションが上がっている証拠だ…」
シャーグリングが光っている光景を見て、佳幸は確信した。
「あれを使うつもりだ」 「あれって、さっき言っていた秘密兵器ってやつ?」
ここに入る前に達郎が口にしていた言葉を花南は思い出す。
「ハッタリじゃなかったのね」
そんなことかを思っていると、今度は達郎自身が発光し出した。
何が起こっているのか。それはすぐにわかった。
次回でラストです
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Re: 新世界への神話Drei 12月29日更新 ( No.82 ) |
- 日時: 2016/12/31 19:49
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- どうも。
なんとか年中に38話を終わらせることができました…
そでは、どうぞ
6 シャーグインと一体化している達郎の姿が若干変化し出しているのだ。フォルムがシャープから丸みを帯びた流線形のフォルムへと。
それを見たシェルドは呟く
「形態変化か…」
精霊と一体化している使者はその姿を戦況に合わせて変えることができる。これにより、どんな戦いにも対応することができる。それ自体は特に高等な技術という訳ではないため、青銅クラスでも使えるのだ。
「できたのは偶然だったけど、達はそれをうまくものにできた」
佳幸がそう言う頃には、達郎の形態変化が終わっていた。
それまでは従来のシャーグイン、シャチやサメに近い鋭いシルエットだった。それからどちらかといえばイルカを想像させる、角が取れた姿へと変わった。
「その姿がどういう能力を持っているのか、見せてもらおう」
シェルドは達郎のアクションに身構える。あの形態がどんな力を使ってくるかわからないので、まずは様子見といったところだ。しかし、達郎は動こうとしない。
ならばこちらから仕掛ければよい。実力はこちらが上なのは明らかなのだから、油断しなければ大丈夫だ。
達郎に向かって殴りかかるシェルド。しかし、その拳を達郎はかわした。
「なんだと!?」
シェルドは驚きを隠せなかった。今まで自分の速いパンチを、達郎は見切れなかったはずだ。それが今になってかわされるのか。
もう一度、達郎に攻撃して見る。二回目も避けられてしまう。
いや、拳が当たった感触があった。それが、受け流されたように思える。
加えて、もう一つ注目したことが。達郎の回避する動きが曲線のようだったのだ。これによって、シェルドは理解した。
「その形態は、防御に特化しているのだな」
防御能力を強化。といっても、相手の攻撃を受けて耐えるのではなく相手の攻撃を受け流せるようにできるのだ。
そんな防御に強くなった達郎だが、なんと彼はシェルドに向かって駆け出していった。
防御タイプが自分から突っ込むなんて、無謀もいいところだ。やはり甘いなと思いながらシェルドは拳圧を連続で繰り出した。ところがこれを、達郎は曲線を描くような動きで次々とかわしていく。
まるで、しなやかに泳ぐイルカのように。
「あのような動きをされては、当てることができん…」
直線的な軌道では曲線な動きを捉えることはできない。達郎の新形態はシェルドにとっては苦手ということだ。
曲線な動きで攻撃をかいくぐって、達郎はシェルドの懐にまで迫ってきた。
「だが、まだ甘い!」
そこでシェルドはフックを繰り出した。フックも曲線を描くパンチ。達郎を捉える事ができるかもしれない。
予想通り、拳は達郎に当たる。しかし、達郎は体の柔軟性を活かしその威力を受け流しつつ逆襲の蹴りを見舞った。
決まった。達郎は自信を持っていた。
だが、シェルドには怯んだ様子はなかった。それを察して、達郎は即座に距離をとった。自分がカウンターを喰らう訳にはいかない。
「確かに、防御能力は高くなった。それは誉めるべきだ」
ここにきて、シェルドはようやく達郎の実力を認める。
「だがそれでも、この俺に勝つことはできない」
それは、負け惜しみという訳ではない。
「防御はよくなったが、この俺に決定打を与える力がないままではないか」
そうなのだ。既にハイドロスプラッシュが通用しないことを証明されてしまった達郎には、シャーグインのパワー不足も相まってシェルドにダメージを与える手がないのだ。
「確かにそうだな」
だから、達郎は決意した。
「俺の力全てを、あんたにぶつけるだけだ」
達郎の力が高まり出した。
「おまえ、自分の全ての力そのものをぶつける気か」
シェルドは若干眉をひそめたような声をもらす。
力の全て。それは永遠に眠ったままになるまで力を使いきるということではないのか?
仲間たちも、心配になってくる。
「達郎、まさか…」 「大丈夫」
しかし達郎の考えはその疑念と違っていた。
「特攻みたいなことはしねえよ。ただ戦えるまでひたすら頑張るだけだ」
そう言って、シェルドに挑んでくる達郎。シェルドの攻撃を上手く防ぎながら攻めようとするも攻撃を決めることができない。
しかし達郎はその手を止めなかった。技や策などの小細工なんて今の達郎には持っていないし、あったとしてもシェルドには通用しないだろう。
それでも、達郎は戦いを止めなかった。それは戦いを始める前から抱いていた気持ちによるところもある。
花南や優馬、ハヤテたちの戦う姿を目の当たりにして、達郎は心を打たれていた。それに、ここで戦わなくては陽子や夜光に顔向けできなくなる。
「達郎、後は私たちに任せて下がりなさい」
だから、花南の言葉も聞き入れなかった。
「ふざけんな!俺の戦いだから、最後まで俺がやる!」
自分のために、陽子や夜光のためにも最後まで戦う。
その純粋な思いが、達郎からサメのようなオーラが浮かび上がらせた。水属性の魂の資質は純粋ということを、示しているように。
しかしいくらパワーを増すことはできても、攻撃のチャンスはこれで最後だ。決めることができなければ、それで終わりだ。
達郎はシェルドに対し、最後の攻撃を行おうとする。
その気迫は、今までの中で一番凄まじいものであった。だからシェルドも、全力で応えた。
「グランドフィスト!」
先程のものとは違い、速度がかなり上がっている。恐らくは威力も。
これは、受け流すなんて簡単にできない。
だから、達郎は下手にかわそうとはせず、そのまま真正面から受けた。
「直撃!?」
ハヤテたちは驚いてしまう。
だが、これが達郎の狙い。この瞬間に自分の力の全てをぶつける。
達郎の右手を中心に、水が渦巻きはじめる。
「スクリュートーピード!」
渦巻く水と共に拳を回しながらシェルドに叩きこんだ。あたかも魚雷のように。
グランドフィストを放った直後なので、シェルドは回避することができない。
シェルドもまた、達郎の新必殺技をガードせずに受けるのだった。
「相討ち!?」
単に結果だけを見ればそうだが、達郎が初めてシェルドをふっ飛ばしたのだ。達郎にとっては大きな意味である。
「攻撃が通じた…」
先程までと違い、新必殺技は確実にシェルドにダメージを与えることができたのだ。黄金の使者にも通じる必殺技を身につけた喜びは大きい。
「この技も事前の特訓で得たものか?」
ゆっくりと起き上がったシェルドは、一応聞いてみた。
「いや、たった今思いついた技なんだ」
それががむしゃらにやってきた成果だと達郎は信じていた。
「その努力は本物ということか」
シェルドもそう受け取っていた。
達郎は思っていた。このような戦いではないにしろ、父も仕事で困難に面した時、自分のように力をつくしたのだろう。
ただ、父には傍に仲間がいた。母や、佳幸の両親、他にも大勢が。
そして、自分にも…。
「これから先も戦いがあるが、それでもあがき続けるか?」
このシェルドの問いに、達郎は強い意志を持って頷いた。
それにシェルドは納得したようで、フィストネルとの一体化を解いた。
「ならばその先へ進み、あがき続けるがいいさ」
そして、シェルドは達郎たちに道を空けた。
「あがき続けるさ」
そう言って、達郎はシェルドを後にする。ナギたちも彼に続く。
達郎の後ろ姿を見送っていたシェルドは、彼に自分の姿を重ねていた。
「俺もあいつのように頑張っていたな」
精霊の使者となったばかりの頃、あこがれの人目指して修行していた。そして若輩ながら、あの人と同じ黄金の使者となった。達郎のように努力して。
「あなたの前まであいつらが来たら、どうなるんでしょうかね、師匠」
その場面を想像し、シェルドは思わず笑みをこぼすのだった。
これで第38話は終わりです。 2017年もよろしくお願いします
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Re: 新世界への神話Drei 12月29日更新 ( No.83 ) |
- 日時: 2017/01/30 21:56
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 2017年最初の更新です。
年中にこの第3スレまで終わらせたいです。
それでは、第39話です
第39話 愛と鬼
1 闘の間を突破し、ナギたちが目指すは第6の間。
「いやあ、順調順調」
上機嫌で歩を進むは達郎。
「最初は負けるかもと思ってけど、見事俺の秘密兵器が決まったな」
調子に乗っているのはいいが、あまりうるさいと鬱陶しいものである。
「けど、勝ったわけじゃないわよね」
花南の言葉に、達郎は口を閉ざしてしまう。
「あの程度でいい気になるなんて、呆れてしまうわ」
いつものように花南に言い立てられる達郎。彼も彼女に対しては弱腰になってしまう。
「な、なんだよ!おまえだって同じじゃないか!」
それでも反論はするのだが、彼女に睨まれ脅えてしまうのだった。
「けど、ここまで来て誰も勝ちがないのは事実だよね」
佳幸は重苦しい表情で考え込む。
「ここまで勝ちはないけど負けもない。でもそれは黄金の使者が一人相手だったから。しかも全力を出していない」
それに、と佳幸は花南、優馬、ハヤテ、達郎を見て回る。
「身体の傷とかはユニアースの治癒術や鳳凰寺さんの回復魔法で問題ないけど、力の源となる心の方はそうもいかないからね」 「一人相手に相当消費するからな…」
氷狩も深刻に捉えている。
「私は別に、あの程度のことなんて…」 「強がりはよしなよ」
自分のことはなんでも見透かされているような佳幸の態度は気に喰わないが、事実なので花南は何も言わない。
「できればどこかで休みたいところだが…」
時間をかければ向こうの気が変わって全戦力を差し向けてくるかもしれない。そもそもここは敵地、安心して休めるわけがない。
「…先を進みましょ」
ヒナギクが、静かな声で皆を促す。
なんにしろ、彼らには進む以外の道はないのだ。
そんな彼らの、次の関門は。
「鬼の間、か」
第6の門が、ハヤテたちの前に物々しくそびえ立っていた。
「まさか、本当の鬼が待ち構えていたりして…」 「この世界では、ありえることですわ」
海と風は中にいる人物について考え込む。この世界には妖精みたいな生き物もいるのだから、いても不思議ではない。
「ま、こっちには鬼のように強い生徒会長がいるけどね」 「誰が鬼よ!」
自分を指して鬼という花南に、ヒナギクは怒る。
「とにかく、入りましょう」
ハヤテが門を開け、他の者も彼に続いて中へと入っていく。
鬼の間へと入った瞬間、全員言葉を失ってしまう。
中は、想像とは違っていた光景だった。石造りの建物なのは今までと変わらないが、異様なのはその内装だ。
「なんだ、これ…」
エイジがそれを見て呟く。
鬼の間の中には、無数の像が整然と並んでいた。一体一体がきちんと手入れされており、像の出来も見事であった。
「これは…仏像?」 「よくできていますね」
塁と伝助は目を細めて見渡していた。趣向が和風であるこの二人には関心を抱かせるものなのだろう。
それにしても、仏像とはいえこうして大勢に目を向けられると見張られているようで気が気でない。それでも、霊の間と違い不気味な気配というものはないから安心はできる。
「よく来たな」
そして、鬼の間の番人がハヤテたちの前に姿を現した。
「私の名はタイチ。この鬼の間を任されている者だ」
タイチという男は、老人であった。長身でやや体つきは細い。物腰は柔らかく、穏やかな印象だ。
とてもじゃないが、鬼というようには見えない。それどころか、こちらに対する敵意すら感じないのだ。ミークやサイガは最もだが、自分たちを試そうとしたエーリッヒでさえある程度の戦意を見せてきた。
だが、タイチにはこちらと戦おうとはしなかった。それどころか、信じられないことを言いだしてきた。
「どうだろう?ここで少し一休みしていかないか」
一瞬言葉を疑ってしまった。この男にとって、自分たちは敵のはず。疲れている今叩くには絶好のチャンスなのに、何故自ら棒に振るのか?
動揺するハヤテたちを余所に、タイチはどこからかテーブルと、人数分のカップとティーポットを用意してきた。
「精霊界で上質な茶葉で淹れたものだ。口に合うかどうかわからないが、飲んでくれ」
的に茶を勧めるなんて、何かの罠だろうか。しかし、タイチからは相も変わらず悪意というものがなさそうだ。
皆が戸惑い警戒している中、動いていたものが二人。
「これ、おいしい!」 「ちょうど喉が渇いていたんだよな」
達郎と氷狩がカップを受け取り、中身をその口に含んでいた。
疑いもせず茶を飲んだ二人に、ハヤテたちはずっこけてしまう。
「ちょっと、何やってんのよ!」
海が間髪いれずにツッコミを入れる。そうせずにはいられなかった。
「毒が入っていたらどうするの!?」
ヒナギクも彼女に続いた。この二人には、人を疑うということを知らないのか。
「でもこの人、悪い人には見えないし…」
光が困った顔で言う。悪気がなさそうなその様子に、海の苛立ちは更に大きくなる。
「だからって…」 「まあ、いいじゃないか」
それを諌めたのは氷狩であった。
「なんであれ、休みが必要なのは事実なんだからな」 「それに、黄金の使者たちはそんなせこい真似はしないよ。そんなことしたら…」
そこまで言って、佳幸はタイチの傍にいる精霊に目をやった。
「あの精霊がああまで穏やかでいるわけないから」
何を根拠にと言いたいところだが、自信満々に言うのだからとりあえず従うことにした。
佳幸のこの言動は、精霊に対してどんな思いを抱いているのか垣間見えた。
「…おいしい」
口に含んだ瞬間、身体が何だかほぐれていき、心が安らいだような気分になった。香りがそれほど強いわけではないのに鮮明であり、味も温かさも口いっぱいに広がっていく。
はっきり言うと、十分にリラックスができた。連戦で消費していた精神力を回復させたのだ。
「よっしゃあ!元気が出てきたぜ!」
エイジは右拳を左手に打ち付け、活力があふれていることを表す。
「それは何よりだ」
タイチはその様子を見て満足していた。
「さて、元気になったのなら、大人しくここから去ってもらおうか」
それを聞き、一同はタイチの方へ向く。
「僕たちにお茶を飲ませたのは…」 「帰るための体力がなければ、どうすることもできないだろう?」
確かに、ここから帰るには十分なほど体力は回復した。だが、自分たちは帰るつもりなど微塵もない。
「悪いけど、僕たちは動ける限り前へ進むと決めましたから」 「そうか…」
次回、戦闘開始
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Re: 新世界への神話Drei 1月30日更新 ( No.84 ) |
- 日時: 2017/02/12 21:22
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- どうも。
今年は月一更新目指して頑張ります。
2 ハヤテたちの意志が固いことを知り、タイチは少し顔を俯かせた。なんだか、本当に戦いたくなくて心を痛めているようだ。
「なら、一つ言っておこう」
気持ちを早く切り替えたタイチは、ハヤテたちに向けて言った。
「鬼のゴヨーダと一体化した私に対して、三度目までの攻撃で倒すようにな」
奇妙なことを言う。
アドバイスのつもりだろう。敵側から送られてきたということもそうだが、三度まで攻撃を許すとはどういうことなのだろうか。困惑が増すばかりだ。
しかしタイチは既にゴヨーダと一体化しており、準備万端と言った様子で待ちかまえていた。
こちらとしてはどういくか。
三度までの攻撃で倒さなければならないとなると、慎重になろうとするあまりどうしても尻込みしてしまう。
「僕がいこう」
そんな中で、佳幸が自ら名乗り出てきた。
「あの人は戦いたくないのに、僕たちは戦わせようとしているんだ。その気持ちが僕にはわかるから、僕が出なきゃと思うんだ」
なんとも責任感にあふれる言葉である。
それに、攻撃回数が限られているのなら佳幸がうってつけだ。佳幸のムーブランは仲間内の中では一番攻撃力が高い。一撃の威力が大きいほど、この状況では有利だ。
ムーブランと一体化し、タイチと対峙する佳幸。
しばらくの間睨み合っていたが、佳幸が青龍刀を構え、タイチに向かって駆け出していった。
「あの剣…」
ヒナギクは佳幸の剣が変わっていることに気づく。
「今までの物に比べて、大きくなっていない…?」
他の皆も見てわかる。佳幸の持つ刀は元から身の丈ほどの大きさを誇っていたが、今はそれよりも更に、佳幸の身体を超えているのだ。
「佳幸もパワーアップしたってことね」
前の間で達郎が佳幸と一緒に特訓したという話をしたことを思い出し、これもその結果だと理解した。
タイチに迫っていく佳幸だが、対するタイチは動こうとしない。
このまま動かないつもりか?
ならば、と佳幸は決めた。このまま自分の必殺技を叩きこむ。
佳幸の青龍刀に炎が纏い、龍を象っていく。
「炎龍斬り!」
その剣を佳幸は、タイチ目掛けて振りおろした。
刀身がタイチを捉え、彼を斬りつけた。しかし、タイチについた傷は浅く、大したダメージは与えられなかったようだ。
自身の必殺技が微かな傷しかつけられなかったことに佳幸はショックを受けた。だが、それを引きずるほど佳幸は弱くない。
自分の必殺技が効果がないのなら、もっと効果のある技を出せばいい。もっと強い威力のある技を叩きこめばいい。
再び佳幸は動く。だが今度はタイチも動き出した。
「大した傷でもないのに、脅威に感じましたか?」 「全力で向かってくる相手には、それ相応の対応をしないとな」
そう言い、タイチは佳幸と一定の距離を保っていく。佳幸の次の手を窺っているのだ。
佳幸の攻撃は全て相手に近づいて行うもの。こう距離を取られては、佳幸は攻撃をすることができない。
とはいえ、タイチはこちらに攻撃してくる気配がない。不意打ちを狙っているわけでもなさそうだ。反撃の心配をせず、安心して攻撃が繰り出せる。
一気にタイチに迫り、佳幸は自身の最大の必殺技を放つ。
「ブーストフレイム!」
拳と共に、そこから発する火炎をタイチに叩きこんだ。タイチはその威力を押し切れずに、身体がわずかに後退してしまう。
「思った以上のパンチだな」
タイチは佳幸の拳が当たった箇所をさする。そこは、拳の後が焼けただれたように残っていた。
だが、決定打には至っていない。そして、佳幸に許された攻撃回数は1回。
「佳幸はどう攻める気だ?」
優馬は心配する。炎龍斬りとブーストフレイム、この二つが佳幸の持っている必殺技だ。タイチを倒せるような技はもうない。決め手となる必殺技がない以上、佳幸にはどうすることもできないはず。
当の本人も、追い詰められた様子が伝わってきた。最も、それも覚悟していたことだろうが。
佳幸は、どう打っていくのか。
「…よし!」
どうやら、何かを決めたようだ。
佳幸は右手を拳として構え、左手で剣を上げる。体勢としては隙が多いが、タイチの方から攻撃してくることはないので、多少問題はない。しかし、どのような攻撃をするつもりか。
ハヤテたちが見守る中、佳幸の持つ青龍刀に再び炎が纏われる。
「炎龍斬り!」
そして、その刀を左手だけで振るった。あの巨大な刀を片手だけで扱えるのを見ても、ムーブランがパワータイプだということが確認できる。
振るった刀から炎が離れ、龍を模って空中を舞い始める。
それと同時に、佳幸がタイチに向かって駆け出した。炎の龍もそれに合わせてタイチに迫っていく。
そのまま彼らは、タイチと至近距離まで詰めていった。そこから、佳幸は攻撃を繰り出した。
「ブーストフレイム!」
再び必殺技を叩きこむ。それと同時に炎の龍がタイチを飲みこんだ。
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 2月12日更新 ( No.85 ) |
- 日時: 2017/04/23 21:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- どうも。
お待たせしました。続きです。
3 炎龍斬りとブーストフレイム。二つの必殺技を同時に受け、流石のタイチも倒れてしまった。
「やった!タイチを倒した!」
タイチは攻撃は三度までと言ったが、一度に二発の必殺技を同時に発してはいけないとは言っていない。残り一撃当ててよいという状況の中で、佳幸がブーストフレイム以上の威力を出すには、この方法しかなかった。
「さすが兄貴だぜ!」
弟のエイジはこの活躍に喜ぶ。
一方の佳幸は冷静にタイチの様子を伺っていた。これで倒されて欲しいが、黄金の使者の強さと言うのは嫌というほど見てきた。まだ終わっていない。そう予感していた。
佳幸は注意深くタイチから目を放さなかった。そのタイチが今、起き上がってきた。倒し切れていなかったのだ。
警戒する佳幸だが、その間も与えずタイチが突然消えてしまった。
「!?どこに…」
タイチの姿を探す佳幸。その瞬間、彼は何かを感じ戦慄を覚える。
体が震える中、振り返ると同時に佳幸は殴り飛ばされてしまう。彼の身体は勢いよく飛び、仏像の一つと衝突。衝撃で仏像は粉々に砕け散った。
思わぬ一撃を喰らった佳幸は、よろめきながら起き上がりタイチの姿を確認した。
「うそでしょ…」
タイチを目にした佳幸は思わずそう呟いてしまった。先程までのタイチは強さは秘めていたがそれを表に出さず、仏のような態度で接していた。
だが、今の彼は怒気と言うものを隠さず発している。それは正に、鬼のような出で立ちである。
離れているハヤテたちにも、それがひしひしと伝わっていた。
「な、なにあれ…?」
皆戦き震え上がってしまう。今までの戦いの中でこれ程の怒気というものを感じたことはなかった。それだけに、大きな恐怖を抱いてしまう。
突然の変わり様に、驚きながらも立ち上がる佳幸。
それまで防御に専念していたタイチが、攻撃してきた。遂に本気を出してきたのだ。気を引き締め、奮い立たせようとするが、やはり佳幸もタイチに対する恐怖の方が大きく、戦うことに迷いも生じている。
それと同時に、タイチの変わり様に戸惑いも抱いていた。彼に一体何が起こったというのだ。
「三度目の攻撃でもこの俺を倒せなかったな…」
タイチが発した声にも、先程までの穏やかさが消えていた。
「後悔してもらおう」
そう言って、タイチは金棒を手にした。まさに鬼が使うような、佳幸の青龍刀と同じくらいの大きさの金棒を。
タイチはその金棒を、佳幸目掛けて上から降りおろす。佳幸はそれを青龍刀で受け止めるが…。
なんという重さだ。
受け止めた佳幸は、その一撃に押し潰されそうであった。青龍刀を持つ手、腕だけでなく体全体がその重圧にかかっていて、足の踏ん張りがきかなかった。
身体全体がきしみそうだ。このままでは、全身はちきれてしまう。
危険を感じた佳幸は、剣を放してその場から離れる。あのまま力比べを続けていたら、確実にミンチにされていただろう。
だが佳幸が逃げた先には、またも仏像が飛んできた。すんでのところでかわすことができたが、佳幸の足は止まってしまう。
そこへタイチの追撃が迫ってきた。威力の高い攻撃を受けまいと佳幸は必死でかわすが、かわすのに精いっぱいで攻撃に転じることができない。
「まさに、鬼神だな」
鬼の間を任されている者だと、納得できる威圧と出で立ちであった。
「しかし、何故あんな風に変わったのだ?」
それが謎であった。あのように変貌してしまうのは、どうしてなのか。
ここに来てからわからないことばかりだ。最初は、タイチが言ったあの言葉だ。
「三回以内の攻撃で、倒すようにしろ、か」
戦う前にタイチが口にした言葉。あれが、鍵となっている気がした。
「三度の攻撃を受けると、彼はあのように変わるのではないでしょうか?」
確証はないが、そんな気がする。
そんな考えを抱く中、タイチは今も佳幸への攻撃を続けていた。素早いラッシュを連続で繰り出している。
佳幸はかわすこともガードすることもできず、サンドバックの様に殴られ続けている。ダメージは蓄積され、遂に佳幸は倒れてしまった。
倒れた佳幸を、見下ろすタイチ。彼からは、どこか哀愁のようなものが感じられた。それは佳幸に対しても、自分自身に対するものとも見受けられた。
「できれば、この力は使いたくなかったのだがな…」
その声も、やはり悲しそうに聞こえた。
「この力は強大すぎる。故に私は常に力を抑えている。相手を一方的に痛めつける戦いは、好みではないからな」
倒れている佳幸は、黙って話を聞いている。
「だが人は大切なもののためには牙をむく。そういう者たちには、私は立ち向かう。その意志を汲んで、な」
やはり、そうだったのだ。
このタイチという男は、慈愛の情が深いのだ。戦う敵に対しても、それは変わらないのだ。戦いたくないという言葉は、その表れであろう。
それと共に、敬意も存在している。戦いに対して全力で応じるところを見ても、それがわかる。
ただ、本当に敬意に値するかどうか見極めるために相手からの攻撃を三度受ける必要があるのだろう。そして、尚も立ち向かおうとする者には鬼となって全力で迎え撃つ。敬愛するスセリヒメのために。
その慈愛と鬼のごとき力に、佳幸は敬服する。実際、戦ってみてその実力の違いを痛感させられた。彼は自分より強い。
だがそれでも。
「僕だって、ここで倒れるわけにはいかない…」
ゆっくりと、それでいて力強く立ち上がる佳幸。
「誰かを思って戦っているのは、僕だって同じだから!」
今回はここまでです。
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Re: 新世界への神話Drei 約1年ぶりの更新 ( No.86 ) |
- 日時: 2018/04/14 15:03
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- お待たせしました。
ゲーム大会等色々とやることがありまして、この小説を長い間更新停止状態としてしまいました。 約1年以上の更新となります。
4 佳幸が戦うのは、自分のためだけではない。ナギのため、仲間たちのため、そして精霊のため。
先代のスセリヒメ、黒沢陽子は多くの人を思ってその身を散らした。けど、自分たち以外の使者はそれをしなかった。守るべき陽子も、人であるのに。これでは救いがない。陽子も、人の心を救うはずの精霊も。
だから戦う。スセリヒメであろうがために試練が待ち構えているナギの、苦しくても戦うことを選んだ仲間たちのために。そして、精霊が正しく人の心を救えるようにするために。
人を思う佳幸の心が、自身のドラゴンリングを光らせた。その様子を、タイチも確認していた。
「その言葉は、偽りではなさそうだな」
ドラゴンリングの光を見て、タイチは佳幸が自分と同じ魂の資質を持っていると確信する。
「おまえも炎の精霊の力となる、愛の魂を持っているのか」
そして、それに呼応するように自らのデモンリングを光らせる。
やはりタイチも、愛の魂の資質を持っているのだ。
「おまえの気持ちはわかった」
タイチは、佳幸の心を使者として認めた。
しかし、それと戦いは別だ。
「だが、私は戦いを引くつもりはない」 「だから僕は、あなたを倒す!」
そして、佳幸は力を集中し始めた。
「本当はもっと後の戦いに取って置きたかったけど、あなたは強い。出し惜しみはしない」
佳幸の中で高まっていく心の力が炎を生む。それは大きくなって、佳幸の身体を包みこんでいく。
「あれは…」
その様子を見た達郎は思わず口からこぼれた。
「何か知っているのか?」 「佳幸も特訓で新たな力を得たんだ。あれはその兆候だ」
そう言い、達郎は佳幸の方を見ろという。
「そろそろ変化が現れるぞ」
彼の言うとおり、佳幸を包む炎の様子が変わっていく。それまでは紅い炎だったが、段々と青い炎へと変わっていく。
炎が吹き飛び、佳幸が新たな姿を披露した。
先程までと違い、身体の色が赤から青に変わった。体のフォルムも、空気抵抗が減らされ、身軽なイメージを持つ。
「形態変化か…」
タイチはその姿を調べるように見る。
「そんな手を使っても、この私は倒せん!」
佳幸目掛けて金棒が振りおろされる。
叩きつけられると思われたが、その直前佳幸の姿が突然消えた。
「なんだ!?」
一瞬のことにハヤテたちは驚くが、この形態のことを知っている達郎はもちろん、タイチも初見ですぐに見破っていた。
「高速移動か」
タイチは佳幸の姿を一瞬で捉えていた。佳幸は、通常では瞬時にたどり着けない場所まで移動していた。
「その形態は、スピードに特化したのだな」 「そうさ。あなたの攻撃に当たるわけにはいかない。だから、よければいい」
敵の攻撃を回避しながら、自分の攻撃を当てる。基本の考え方だ。
驚くべきは佳幸の移動速度だ。シルフィードと一体化したハヤテもそうだが、今の佳幸のスピードはかなり速い。これは黄金クラスに匹敵するレベルだ。
しかし、そのためにはより高い集中力が必要だ。
それがどこまで続けられるのか、試してやるか。
タイチが腕を振りかざすと、周囲に立ててあった仏像が浮かび上がっていく。対して佳幸は、両手に二振りの小太刀を構える。
タイチは仏像を次々と佳幸に向けて飛ばしていく。佳幸は高速移動でかわすか、小太刀で裁きながらタイチに迫る。
そして、その小太刀でタイチに素早く斬りかかっていく。何回も何回も連続で。
しばらく経った後、佳幸は再びタイチと距離を取った。あれだけの猛攻を受けたのだ。タイチは大きなダメージを負っているはずだ。
しかし、タイチは大して傷を負っているようには見えなかった。それどころか、佳幸への攻撃を再開したではないか。
「どうなってんだ?あれだけ佳幸の攻撃を受けて動けるなんて…?」
佳幸とムーブランの攻撃がタイチにも通用するのは最初の戦いで証明されている。大した傷はつけられなかったものの、あれだけ攻撃されれば相当こたえたはずだ。
この疑問に、達郎は困ったように説明した。
「あの青の形態は赤よりもスピードは上がるけど、その分攻撃力は下がってしまうんだ」 「なるほど。だから先程のように攻撃を連続で当てなきゃ、相手を倒すことはできないってわけね」
確かに、今の佳幸を見ればわかることだと花南は考える。
佳幸が今手にしている武器はいつもの青龍刀ではなく、小太刀だ。振るう力が少ないものに切り替わっていることから、パワーダウンしていることは明らかだ。
それでも佳幸はタイチに挑む。力は下がったが、スピードが上がったことで敵の攻撃を回避することができる。後はタイチを倒すまで攻撃し続ければいい。
だが、タイチへの攻撃途中、佳幸は突然吹っ飛ばされてしまう。
「嘘!?」
これにはみんな驚いた。今の佳幸は多少反応が遅れても回避できるはずだ。それがどうして、タイチの攻撃に当たってしまったのだろうか。
その理由にいち早く気づいたのは氷狩だった。
「まさか、佳幸が高速移動を停止する瞬間を狙ったのか?」 「そうだ」
どういうことなのか、タイチが更に解説した。
「この男が高速移動できるのは約十秒。それを過ぎるとしばらくの間高速移動ができなくなる。そこを狙えば攻撃を当てることができる」
つまり、高速移動は十秒の間だけ続くのであって、その後高速では動けない時間がある。そこを突かれたのだ。
タイチの説明を聞いた氷狩は、悔しそうに歯噛みする。
「十秒か…そこまでは数えられなかったな」 「いや、気づけるおまえもすごいよ」
達郎の言葉は皆の気持ちを代弁していた。いつも冷静な氷狩だから気づけたのだろう。自分たちは戦いに熱中していて気付けなかった。
まあそれは今どうでもいい。問題はタイチと佳幸だ。いくら時間切れのタイミングがわかっていても、初見で攻撃を当てることは難しい。やはりタイチは強い。そして佳幸だ。タイチの一撃を喰らい、一体化こそ解かれはしなかったが青から赤へと変わっていた。
あまりのダメージに、佳幸はついに後ろへと倒れこみそうになる。
そんな彼を、支える腕が伸びてきた。
「言ったでしょ」
佳幸は自分を支えてくれた者の顔を見る。
「あんたが倒れたら、私が起こすって。背中も押してあげるって」
フラリーファと一体化した花南が、佳幸の背を押して起こしてくれた。
彼女の手に込められた力と、何よりも心が佳幸の心に再び炎を灯す。
「ありがとう」
佳幸は花南に向き、礼を言う。
「もう、大丈夫さ」
その瞬間、佳幸の背後に炎の龍のオーラが浮かび上がった。
この二人の間にあるのもまた、愛。その愛が、佳幸にマインドを目覚めさせたのだ。
「行ってきなさい」
佳幸を戦いへと送り出す花南。
傍から見れば、淡白な何気ないやり取り。しかしそこに込められたお互いを思う心は、何よりも大きい。
佳幸はいつもの青龍刀を構え、タイチに向き直る。
「わかっていると思うが、次で最後になるぞ」
タイチは勝利の確信からか、余裕ある態度を見せる。
「青の形態になっても、十秒以内に倒せなければ今度こそおまえは倒れてしまうぞ」
先程は運よく重傷にならずに済んだ。だが、二度も都合よくは起こらない。これがラストチャンスになる。
そのラストチャンスに、佳幸はかけた。
今回はここまでです。
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Re: 新世界への神話Drei 約1年ぶりの更新 ( No.87 ) |
- 日時: 2018/10/13 16:39
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- お待たせしました。
39話ラストを更新します。
5 「これで決めてみせる!」
何を思ったのか、佳幸は青龍刀を上に向けて放り投げた。
その瞬間、佳幸はまた青の形態へと変わり一気にタイチへと肉薄した。
そこからはまた連続攻撃を繰り出す。高速による数々の攻撃は流石にタイチも見切ることができない。
「いいぜ!佳幸がこのまま押していけば…」 「けど、青の形態は一撃の威力が低い。ダメージの期待値に達せられるかどうか…」
その懸念が当たるのか、タイチが倒れる気配はない。
もうすぐ十秒が経ってしまう。やはりだめなのか。
そう思った時だった。先程佳幸が投げた青龍刀が弧を描きながら佳幸の頭上にまで落下してきた。
「!?まさか!」
タイチが気づいた時には遅かった。
頭上にまで刀が降りてきた時、佳幸はその柄を両手でつかむ。その瞬間、青龍刀の刀身に炎が纏わる。いつもとは違う、蒼い炎が。
「蒼炎龍斬り!」
赤の形態の時と同じ必殺技。しかし赤の形態より素早く刀を振るったため、威力が増している。
その必殺技を受け、タイチは吹っ飛ばされた。
そこで、ちょうど十秒が経った。
タイチは驚愕していた。まさか自分が倒されるなんて思っていなかったのだ。予想外のことに、ゴヨーダとの一体化が解かれてしまう。
だがすぐに、彼の気持ちは感心へと変わっていた。
「見事なものだ」
タイチは起き上がると、佳幸へ素直に称賛を贈った。
「一点突破を完全に達成させるとは。この私を相手に、な」
実のところ佳幸は攻撃を集中させていた。一番最初に攻撃した炎龍斬りから、傷をつけたところを重点にして狙っていた。青の形態の時も、闇雲に連続攻撃しているように見えていたが、全て一か所へと攻め続けていたのだ。
その結果、佳幸はタイチを倒すことができた。格上の相手に、一点突破を達成させたというのは、タイチの言うとおり見事だ。
しかし佳幸はその称賛を素直に受け取らなかった。
「あなたが本気を出せば、僕は瞬殺されていましたよ」
戦いの中で佳幸は察していた。タイチの実力はこの程度ではない。彼は鬼と呼ばれる力と気性を全て明かしていない。まだ隠している。
するとタイチが笑顔でこう返した。
「君もそうであろう。君の心の中に、黒龍が潜んでいるのが見えた」
それを聞き、佳幸に緊張の色が表れた。
「最も、君はまだそれを自分で制御できていないようだが」 「…できても、それはあまり使いたくないですけどね」
苦笑することで、場の雰囲気を和ませようとする。周囲を気遣ってのことだろう。皆を不安にさせる力だということは理解できた。
それに、佳幸たちは殺し合いを望んでいない。
「君たち、この先へ向かいたいのだろう」
ならば、とタイチは安心して信じることができた。
「えっ、いいんですか?」 「ああ、行きたまえ」
それを聞き、遠慮なしにハヤテたちはタイチを後にしていった。
タイチはそれを見送りながら、毒気を抜かれた気分だった。
戦いの中でもそうであった。こちらが鬼の気性を見せているのに佳幸は恐怖せず、自分の思いを貫こうとした。こちらの思いを受け止めようとして。
実力が遥かに上の相手に、そんな姿勢でいようとしたのだ。呆れてしまう。あるいは、大物になる器の片鱗か。
なんにせよ、敵の心まで気にするその姿は、真の使者と言えよう。
「これで何かが変わるという訳ではないが、何が起こるか楽しみだな」
「兄貴はやっぱり凄いな」
先を行く佳幸の背を見ながら、エイジはそう呟いた。
一体化ができ、ようやく肩を並べたと思ったのだが、兄はその上を行っていた。
そんな兄は、振り返ってこう言った。
「おまえが僕を追い越せるわけないだろ」 「な、なんだと!?」
あからさまな挑発的な態度に、思わずカチンときたエイジだが、そこに花南が口を挟んだ。
「佳幸だって、女の私に支えられたじゃない」 「おっと、そうだったね」
苦笑する佳幸。双方の間には怒りや蔑みはなく、互いの身を思う心があった。
守りたいと思う。彼女だけでなく、仲間の皆を。人を思う愛情が大きいのが、佳幸だ。
氷狩や塁など戦いでは強い者たちはいるが、八闘士の中で佳幸が注目されるのはその愛情によるところが大きい。
敵に対しても変わらない心。それは使者として大きな力となり、仲間にも力を与える。
立ちはだかる難問も半分くらいまで来た。残りも油断できないが、そこでも佳幸は皆の力になるだろう。
これで39話は終わりです。
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Re: 新世界への神話Drei 10月13日更新 ( No.88 ) |
- 日時: 2018/11/05 21:46
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも、RIDEです。
今年中にこのスレを終わらせることを目標に、ペースを上げます。
それでは、第40話です
第37話 雷獣の牙VS虎の鎧
「次は第7の間か」 「十二の間の半分を突破。自分たちでも信じられないよ」
ハヤテたちは現在、第7の間を目指していた。
黄金の使者たちと戦い、ハヤテたちは疲労が見せ始めていた。しかし、ここまで進んできたことが、彼らの戦意を燃え上がらせていた。
中でも一番熱くなっているのは、この男だった。
「この先に待ち受けている黄金の使者たちも強いだろうし、気合入れていかなきゃな」
塁は拳に力を入れる。ただしそれは使命感だけではない。
「なんていうか、血が滾ってきたぜ」
彼は今までの戦いを見て、軽い興奮状態になっているのだ。今まで碌に戦えなかったことがそれを増している。
それを見ている仲間たちは呆れてしまっている。
高校時代、塁はケンカに明け暮れ、今は板前の仕事と共に格闘技の手ほどきを受けている。そのため、八闘士の中では武闘派であり、今までの戦いで闘争本能に火がついたのだろう。
手を焼かされるという訳ではないが…。
「熱くなるのは勝手ですけど、空回りしないでくださいね」
こういう時に、何かと上手くいかないのが塁だ。力はあるから頼れるのだが、彼が意気込むと失敗や不運な出来事にあってしまうのだ。その度、仲間が苦労する羽目になるのだが。
痛いところを突かれ、塁は弁解に苦しくなってしまう。
「な、何言ってるのさ。俺だって決める時は決めるぜ」 「雷矢との戦いで完全に遅れてきた奴は誰だったか?」
優馬に睨まれ、塁は押し黙ってしまう。
「…優馬さん、恨んでますか?」 「いや、ただ気負い過ぎるなということだ」
それを聞き、塁も表情を引き締める。
「わかっていますよ。相手の実力が上なのは既に明白。決して楽観視はしませんよ」
それを見て、全員は安心した。
「なら、心配はなさそうだな」
皆が塁を信じている様子をみて、達郎は不満を露にする。
「なんか、俺の時と違って皆安心していない?」 「そりゃ、達兄が口だけで簡単にやられちゃうような奴だからじゃない?」
エイジのその言い分に、達郎はムッときた。
「言っとくけどな、おまえが一番の不安要素なんだよ」 「ええっ!?」
心外というような顔をするエイジ。
「そんなわけないよな、皆?」
仲間たちに声をかけるが、その反応は冷たかった。
「いっつも考えなしで突っ込むからな…」 「たまに頭を使うにしても、ロクなことじゃないからな」
全員、ため息をついてしまう。
「な、なんだよ」 「それがおまえの評価ということだ」
見下した目を向けてくるのは、ナギ。
こうなると、次の展開が見えてくる。
「なんだと、この腐った性根のチビ女が!」 「おまえに言われたくないわ、このバカ野郎が!」
もはやお決まりとなった二人のケンカに、会ったばかりの光、海、風は戸惑ってしまう。
「ちょ、ちょっとケンカは…」 「いつものことですから、気にしないでください」
ハヤテが呆れ半分で返答した。
「え…いつも?」
その言葉に光たちは唖然としている。こんなレベルの低いケンカをいつもしているというのか。
その間にも、ナギとエイジのケンカは続いていた。
「はいはい、そこまでだ」
見かねた塁が二人の仲裁に入った。
「その元気は、これから戦う相手にぶつけようぜ」
そう言って、二人の肩を抱きなだめる。彼の兄貴分な性格に触れたことで落ち着きを取り戻したナギとエイジは言い争いを止めるのだった。
「さあ、行こうぜ」
そして、全員が次の間へと入っていった。
今回はここまでです。
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Re: 新世界への神話Drei 11月5日更新 ( No.89 ) |
- 日時: 2018/11/18 22:09
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
続きを更新します
2 第七の間の中は、武器や防具が飾られていた。
「鎧の間って刻まれていたけど…」
この内装を見れば、それも納得できる。
「この間を預かる使者は…?」
少し先を進んでところで、その姿を確認できた。
「おまえたちが、十二の間を進んでいる奴らか」
腕を組み、仁王立ちでハヤテたちのことを待ち構えていた。彼の後ろには、鎧をまとったとらがこちらの様子を伺っていた。
そのいで立ちから、かなり年季の入った戦士だとわかった。
「私の名はトキワ。黄金の精霊の一つ、鎧のアムドライが使者だ」
こちらが警戒しているのを察したのだろう。アムドライはハヤテたちに向かって唸りだした。
それは、トキワ自身も感じていた。 「いい意気だ。これは楽しめそうだ」
彼は楽しそうにハヤテたちを見た後、アムドライと一体化した。その姿は、様々な武具を装備した黄金の鎧であった。
「さあ、どこからでもかかってくるがいい!」
鎧の見た目もさることながら、自身のある態度。打ち破ることは困難だろう。
「ようし」
一行の中で、一歩前に出たのはエイジだった。
「その武器がどれだけの威力をもっているか、勝負だ!」
同じ武具を纏うもの同士、どちらが勝っているか戦おうというのだ。対抗心を燃やしやすいエイジの考えはわかりやすい。
「チェーンファング!」
エイジはウェンドランと一体化し、牙のついた鎖をトキワに向かって振るった。これに対して、トキワは盾を投げつけ相殺した。
するとエイジは鎖を捨てた。絡み合った武器をいつまでも持っていても仕方がない。武器の一つを封じたのは上出来だろう。
そこへトキワが迫り、短剣を突きたてようとする。間一髪盾で払いのけたエイジはファイブラスターを撃つ。
バスターモードでの至近距離発射。煙が立ち込める中、エイジは少々でもダメージを与えられたはずだと見当ついていた。
だがトキワは無傷であった。彼は斧をエイジに向けて振りおろした。盾で防ごうとしたエイジだが、斧によってたては砕かれ、エイジ自身も吹っ飛ばされてしまう。
「選手交代、だな」
エイジと入れ替わるように、シャーグインと一体化した達郎が飛び出していった。
トキワは斧を手にしたまま達郎に攻撃していくが、達郎はそれを全て見切っていく。
闘の間での経験が、うまく活かされている証だ。
「ハイドロスプラッシュ!」
隙を見て、達郎は必殺技を放つ。狙いはトキワの持っている斧。
その目論見通り、見事斧を弾き飛ばした。今が攻撃の好機である。
「スクリュートーピード!」
達郎の必殺技が、トキワに叩きこまれた。
しかし、鎧には傷一つつかず、トキワを一歩後退させただけであった。
「か、硬すぎでしょこの鎧…」
あまりの防御力に、苦言をこぼしてしまう。
と、そこへ素早い蹴りが達郎に襲いかかってきた。間一髪で達郎はかわしたが、その蹴りにあるものを感じた。
「この蹴り…」
既視感のようなものだが、ゆっくりと考えている暇はない。
トキワは今度は槍を手にし、達郎に矛先を次々と突きつけてくる。
それを柔軟さを利用してかわす達郎だが、続いてトキワが繰り出した拳はかわせずその身に受けてしまう。
「痛た…けど、やっぱりこの拳…」
何度も受けた達郎だから、気づけた。
「シェルドと同じだ」 「ほう。では、シェルドに勝ったのはおまえか」
達郎を確認して、トキワは言った。
「あいつと同じと思わない方がいいぞ。私はシェルドの師だからな」
自らシェルドの師であることを明かした。
確かにトキワの武芸は達人レベルである。僅かに見ただけでも、シェルドより上である可能性がわかる。
「師か…」
達郎は立ち上がる。彼は弱腰にはなってはおらず、むしろやる気を燃やしていた。
「なら、尚更俺がやらなきゃな」
シェルドの師ということは、彼と戦法や思考、癖などがいくつか共通しているに違いない。そうなれば攻略法も共通してくる。
ならば、シェルドを破った自分が戦うのが適任だ。
「ドルフィンフォームをもう一度…」 「ちょっと待った!」
そこで制止をかけたのは、エイジだった。
「俺が先にやったんだ。横から入ってこないでよ」
やられっぱなしというのが性に合わないのか、エイジは意地を張っていた。同じ武器使いとして負けるわけにはいかない、と。
「今度こそ、一撃喰らわせてやる」 「無理すんな。大人しく引き下がれよ」 「嫌だ!」
互いに譲らず、睨み合いをはじめてしまう。達郎は仲間を無闇に傷つけまいという思いからだが、エイジがそれに気づかず、意固地になっているので妥協できなくなっている。
「ちょっと待った、二人とも」
そんな中、塁が二人の間に入った。
「悪いが、あいつは俺がやる」 「ええっ?」
不満そうな声を上げるエイジ。そんな彼に塁は言った。
「俺は闘の間でシェルドと戦いたかったが、達郎に持っていかれちったからな」
先の戦い、シェルドの格闘センスを思い返しては残念がっていた塁。せめてもう少しだけでも手合わせを願いたかったのだ。
だが今、目前には彼の師であるトキワがいる。恐らくはシェルドと同等、いやそれ以上の実力を秘めているに違いない。
「だから、ここで戦うのは俺だ」
塁の表情は、先程鎧の間で見せていたものと同じだった。
強敵と戦いたい。自分の力を試したい。その気持ちが入るまえと同様、いやそれ以上に高ぶっていた。
「…わかったよ」
その心を察した達郎は、大人しく引き下がった。
「塁さん、負けちゃダメっすよ」 「ちょ、ちょっと待って。まだ俺は…」
尚も食い下がろうとするエイジ。その彼の首根っこを、達郎が掴んだ。
「いいから、さがれって!」 「えっ?わっ、ちょっと!」
そのまま、エイジを引きずり下ろす達郎。
「は、放せよ!俺はまだ…」 「大人しく戻って来い!」
抵抗するエイジに、佳幸の一喝が鎧の間全体に響いた。
兄の一言となると、エイジは大人しくなるしかなかった。渋々といった様子でエイジは引きずられていくのだった。
今回はここまでです
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Re: 新世界への神話Drei 11月18日更新 ( No.90 ) |
- 日時: 2018/12/02 21:31
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
続きを更新します。
3 邪魔が去ったこところで、塁とトキワは対峙し合う。
「おまえ、中々やりそうだな」
一目見ただけで、トキワは塁の強さを見抜いていた。
「それはどうも」
塁もトキワの実力を感じていた。互いに伝わる実力のレベル同士の戦いになることと、格上であるということがひしひしと伝わるトキワの実力に思わず武者震いし、強張った笑みを浮かべてしまう。
いざとなると、やはり緊張してしまう。
それさえも、塁は闘志に変える。コーロボンブと一体化し、戦闘態勢を整えた。
「…見たところ、拳での戦いを得意とするようだな」
コーロボンブと一体化した塁の姿、立ち振る舞いを見た。そこから、経験に基づいて判断した。
「私も、どちらかと言えば拳でやり合う方が好きでね」
すると、それまで持っていた槍や斧を全てその身から離した。
「これで私の得物は全て手から離れた。残ったのは拳のみ」
それはつまり、拳同士の戦いに持ち込むということだ。けど、どうしてわざわざこちらに合わせてくれたのだろうか。
「おまえと、拳を突き合わせてみたくなった」
どうやらトキワも塁と同じなようだ。
「言っておくが、私は負けるつもりはない」 「上等」
塁の方はとっくに覚悟を決めていた。
「俺は勝つ!」
気合と共に、塁はトキワに挑みかかった。対してトキワはシェルドと同様の高速の拳を繰り出した。
トキワの拳は塁に直撃するかと思われた。だが、塁の姿が突然消えてしまった。
「!?どこへ…」
トキワはすぐに見つけた。塁が自分の足目掛けてスライディングしている。
この意表をついた塁の攻撃は成功した。塁の蹴りがトキワの足に見事当たり、トキワのバランスを崩すことができた。
すかさず塁は起き上がり、トキワに向けてアッパーを打った。これも確実に入り、トキワをのけ反らせた。
「中々やるな」
塁の攻撃は次々と決まった。しかし、トキワにダメージを与えらえた様子はなかった。
「やっぱり固ぇな、その鎧」
あれだけの攻撃を受けても、トキワの鎧には傷一つついていなかった。
もちろん塁もそのことは想定内で、先程の攻撃も様子見である。
あの鎧を打ち破るには、全力を込めた一撃でなければならないようだ。
しかし、塁は攻撃ばかりを考えるわけにはいかなかった。
「今度はこっちからいくぞ」
トキワは再び高速の拳を繰り出した。今度はかわせない。
咄嗟に塁は両腕を前で交差してガードを取った。ガードは間に合い、その身を大きく押されながらも、大きなダメージを受けずに済んだ。
「くぅ、腕がしびれるぜ…」
ガードした腕を振るう塁。結構こたえたようだ。
そうしながら心を落ち着かせる。集中し、感性を研ぎ澄まし、相手の拳を見切るために。
そして、再び放たれる高速の拳。
その拳を、塁は完全に避けた。
「何!?」
驚くトキワに対して、塁は冷静だった。
「おまえの拳も速いが、シェルドよりは遅い。だからかわせたんだ」
シェルドの拳は先程の闘の間で十分見てきた。目に焼き付いているからこそトキワの拳が若干遅いことを見抜けた。かわすこともできた。
「まあ、かなり危なかったけどな」 「それでも大したものだ」
まさか自分の拳がかわされるなんて思いもしなかった。
「確かに、拳の速さ、闘気の練度に関しては私よりシェルドの方が達者だ。あいつは闘気の扱いにかけては天才的だからな」
もっとも、才能があっても鍛錬がなければ開花させることもできない。トキワはシェルドを師事していたころを思い出す。シェルドは熱心に自分の指導を受けていた。その成果が実ったということだ。
弟子は見事に師を超えた。
そのことをトキワは嬉しく思えた。
「おっと、今は戦いの時だったな」
トキワは戦いに集中を戻し、塁と向き直る。
「先程は私の拳をかわしたが、これはどうかな?」
次にトキワは高速の拳を連続で繰り出した。前方一面に迫ってくる。全てかわすことは難しい。
「それでも、やってみせる!」
致命傷を避けることだけを優先し、回避と防御を取っていく。
その結果、ボロボロになりながらも立ち続けることができた。
「耐えきったぜ」 「ほう」
そう簡単に終わっては面白くはない。
二人とも、奇しくもそう思っていた。
そして、今度は塁の番だ。
「サンダーボルトナックル!」
塁の自信ある必殺技だ。
まず、彼の拳から稲妻の拳、電撃がトキワに向って放たれた。
今のトキワは得物を手にしていない。佳幸の時と同様何かを避雷針がわりにすることはできない。
稲妻の拳が、トキワに直撃した。鎧なので電流は確実に伝わっている。トキワの体は痺れたはずだ。
動きを止めたところへ、塁は雷鳴の拳、実体の拳をトキワに叩きこんだ。
拳は真っ直ぐに叩きこまれた。見事に命中したのだから、誰もが決まったとそう思っていた。
「つぅ…」
しかし、痛みに声を上げたのは塁の方だった。しかも、トキワの鎧にはかすり傷すらついていない。
「サンダーボルトナックルも効かないなんて…」
塁の自信ある必殺技を受けても傷がつかない。
やはりあの鎧は、相当な硬さのようだ。
「どうやらおまえは、それが限界みたいだな」
言いながら、トキワは拳を振り上げる。その拳に、炎が宿る。
「炎神剛斧!」
その拳を、塁目掛けて勢いよく振りおろした。身の危機を察した塁は急いでその必殺技をかわした。
自分の必殺技が通用しなかったことで、塁に若干焦りが生じていた。それが思慮を欠き、攻撃の手を早めてしまった。
「ショックサンダー!」
塁の手から電撃が放たれた。並の相手なら痺れるこの電撃、鎧となっているトキワには防ぎようがない。
だが、相手が格上の実力者であることを忘れてはいけない。
トキワは気合を一つ入れると、身体のしびれを一瞬で吹き飛ばした。
「これがサンダー……雷か?」
トキワは塁の必殺技を受けて、落胆の様子を浮かべた。
「この程度で雷の名をつけられては困る」
トキワの雰囲気が変わった。迫力が増したのを感じ、塁は若干怖気ついてしまう。
「雷の名を冠するには、これぐらいの威力をもたなければな」
トキワが構えに入る。彼の周囲で放電が起こる。
強大な威力を察する塁。今からではかわせないことも悟っていた。
「雷神槍雨撃!」
無数の光の束、電撃が塁に命中した。まるで無数の槍に突き刺されたような痛みを受ける。
それ程、トキワの電撃の威力が凄まじいのだ。
まるで、雷神の槍であるかのように。
トキワの必殺技を受け、塁はズタズタにされてしまう。先程のラッシュの時とは違い、ダメージが大きすぎて膝をついてしまう。
そのまま倒れこんでしまう。誰もがみんな、もう立てないとそう思っていた。
だが。
「負けねぇ…」
なんと、塁がたちあがってきたのだ。
トキワの雷神槍雨撃を受け、立ち上がる力もないはずだ。
だが、塁は立ち上がってきた。
「このまま倒れるわけにはいかないんだよ…」
今回はここまでです。
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Re: 新世界への神話Drei 11月18日更新 ( No.91 ) |
- 日時: 2018/12/08 19:20
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
続きを更新します。
4 負けられない。
その思いは負けん気の強い塁の中でとても大きかった。それが、塁を立ち上がらせる原動力となっている。
いや、立ち上がるだけではない。強敵と戦う時に沸き立つ感情。
「闘志…か」
塁の魂の資質。それが更に彼のマインドを覚醒させる。
塁の背後に、雷獣のオーラが浮かび出てきた。
「…面白い」
塁に呼応するかのように、トキワもマインドを発動させた。
塁が発した雷獣のオーラに襲いかかるように、鎧を纏った虎のオーラがトキワの背後から生じた。
「もう一度喰らってもらおうか!」
トキワは再び雷神槍雨撃を繰り出す。ダメージが残っているため塁はかわすことができない。
加えて、トキワは今マインドを発動している。必殺技の威力は段違いに上がっている。
雷神槍雨撃を、塁は成す術もなく受けてしまう。大きく後方へと吹っ飛ばされてしまう。
地に倒れ、意識が見られない。今度こそやられたか。
「塁さん…」
しかし、塁はまた立ちあがった。
「ほう…」
これにはトキワも驚いた。立ち上がってきたことだけじゃない。
「…ん、あれ…」
なんと、塁は立ち上がって木から意識を取り戻したのだ。言いかえれば、塁は無意識状態の中で、本能によって立ち上がったのだ。
本能で戦いを継続する。それは並大抵でできることではない。
そういえば先程塁は言っていた。このまま倒れるわけにはいかないと。その思いが、本能レベルで行動を起こしたのだ。
彼の戦士としての素質は、自分たちに匹敵するかもしれない。
「全力での雷神槍雨撃を受けても、立ち上がってこれるとはな…」
もう一つの驚きはそれであった。一発目と違い、手を抜いていない。塁も直撃を受けたはず。立ち上がるだけの力も残っていないはず。
「へっ、同じ技を立て続けに喰らって倒れるわけにはいかないんでな」
つまり、一撃目を喰らった時点で雷神槍雨撃についてある程度見切ったということだろう。そのため、技を喰らっても致命傷には至らないよう、防ぐことができたという訳だ。
そんな塁を、トキワは益々好ましく思えてくる。
「それで、立ち上がってきてどうするんだ?」
塁の次の手に興味がわいてくる。
結局のところ、トキワも戦いが好きなのだ。
「その鎧を叩っ切る」
塁は右手をトキワに向ける。
「この一撃でな」
彼の右手が電気を纏いだす。それと同時に、再び塁から雷獣のオーラが浮かび出てきた。
トキワは一瞬戦慄を覚えた。それはオーラによるものではない。
これから塁が放つ一撃には、自分が手痛いダメージを与えることができるほどの威力を秘めていると感じたのだ。
「喰らえ!」
塁が駆け、トキワとの距離を詰めていく。トキワは迎え撃とうとする。
炎神剛斧を放つが、塁はそれをかわし、一気に肉薄して一撃を放った。
「エレクトロンブレイク!」
塁は手刀をトキワに向けて思いっきり叩きこんだ。
電撃を纏った手刀の一振りが、トキワの鎧を捕らえ、紙のように切り裂いた。
「なんと…」
自慢の鎧を切り裂かれ、トキワは驚きを露にする。
「すげぇぜ、塁さん!」
味方側からも称賛の声が上がる。
「あんな必殺技を持っていたなんて、やるじゃないか!」 「ええ、ですが…」
その中で、伝助は暗い顔をしていた。
「どうしたの、伝さん?」 「…あの必殺技は、塁君の全力が込められた、断ち切れないものはない技です。それが、トキワの鎧とぶつかった」 「それがなにか?」
何が言いたいかわからない。そんな一同に伝助が説明した。
「矛盾って言葉を知っていますか?」 「た、確かつじつまが合わないって意味だったような…」 「この言葉の由来は、中国の故事にあります」
ある商人が、矛と盾を売っていた。
矛は、どんな盾も突き通し。
盾は、どんな矛も防ぐ。
商人は、矛と盾についてそう謳っていた。すると客は言った。
その矛と盾をぶつけたら、どうなるか。
商人は、答えることができなかったという。
「これを題材にした話の結末は、ぶつかり合った両者は共に砕けてしまうというのがほとんどです」 「じゃあ、今その通りのことが起こったとしたら…」
この場合、盾はトキワの鎧、矛は塁のエレクトロンブレイクに置き換わる。トキワの鎧が切り裂かれたが、同時に塁も…。
「右腕を、いってしまいましたね…」
注意深く見てみると、塁は右腕を下げている。無意識であろうが自分でも危険を察しているのだろう。
「でも、あの技は右腕だけしか出せないわけじゃないでしょ?」 「そうだね。でも、出せてあと一回ってところかな」
あと、一発。
塁はそれにかけるしかないのだ。
一方、トキワは冷静だった。自慢の鎧に傷をつけられたというのに。
これも自信の表れだろうか。そう思っていると、突然トキワの一体化が解かれた。
これにはみんな驚いた。
一体化が解かれるほどのダメージを受けたのだろうか。いや、トキワ自らアムドライとの一体化を解いたのだ。
余裕とは違う。何のつもりだろうか。
「傷をつけられた以上、最早鎧はあってもないようなもの。ならば、私の心の力で勝負を決めてやろう」
どうやら向こうは防御を捨て、攻撃のみに集中するようだ。
皆これはチャンスだと思った。相手との実力差は大きい。倒すなら今しかない。
だが塁は。
「面白い」
なんと塁も、コーロボンブとの一体化を解いたではないか。
「あんたと俺、どっちの闘志が強いか勝負だ」
塁は対等の条件でトキワと勝負するつもりだ。後は心の力だけが勝負を左右する。
「まったく、呆れちゃうわね」
花南はため息をついてしまう。コーロボンブと一体化したまま戦えば勝てるものを、わざわざ自分も一体化を解くなんて、どうかしている。
しかし、塁はやる気だ。そしてトキワも。
「おまえ、変わっているな」 「あんたこそ」
二人は互いに笑いだした。
「…変わっているわね」
こんな状況で笑いあうなんて、花南にはわからなかった。いや、彼女だけでなく皆理解できなかった。
戦い合う二人だけで感じあえるものがあるのだろうか。
「おまえ、デスマッチはやったことがあるか」
それは、唐突な質問だった。
「ない」
けど、と塁は強い意志を込めて言った。
「戦うからには、俺の命すら力の一部として戦っている」
彼の目に、嘘などなかった。
それを感じたからこそ、トキワは塁に提案した。
「どうだ、決着ぐらいデスマッチでつけないか?」
そう言って、宝玉を二個取りだした。
血を想像させる紅。なんだか禍々しい印象を与える玉である。
「この宝玉をリングに挿入すると、精霊が受けるダメージがダイレクトに使者へ伝わる」 「つまり、それをリングにつけて、どっちが倒れるまで戦えってことだな」
精霊が受けるダメージが使者にも伝われば、下手をすれば精神崩壊、最悪の場合ショック死に至ってしまう。
「この俺の挑戦、受けるか?」
塁に恐怖はあったが、それ以上に闘志が燃えていた。
格上の黄金の使者からの挑戦状。それは自分を一人の使者として認めてくれたのかもしれないということだ。
ならば自分も、これを受けなければならない。
「答えは、イエスだ!」
今回はここまでです。
年末までのレス終了に間に合うかな。
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Re: 新世界への神話Drei 12月8日更新 ( No.92 ) |
- 日時: 2018/12/21 22:00
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
今回で第37話は最後です。 それでは、どうぞ。
5 「…いい答えだ」
トキワは塁に向けて紅の宝石をよこした。
塁はそれをしっかりと受け取り、躊躇せずにリングへと挿入した。それを見てトキワも紅の宝石を装備する。
それだけで、始まりの合図はなかった。デスマッチは既に幕が明かされている。
コーロボンブとアムドライはお互い殴り合った。それだけで、塁とトキワに激しい痛みが走る。
両者ともに倒れこみそうになるが、歯を食いしばり足で踏ん張りなんとかその場に踏みとどまる。
「やるな」 「お互いにな」
そこからは、二人とも殴り合いの応酬となった。相手が殴れば、自分も殴り返す。その繰り返しであった。
ダメージを受け、体力も精神力も減ってきている。しかし負けたくないという闘志だけは逆に燃え上がり、二人を戦わせているのだ。
ハヤテたちはこの戦いを見守ることしかできなかった。
塁はトキワに、トキワは塁に集中していた。この状況で横槍を入れることは簡単だ。
しかし、それはできなかった。いや、したくなかったと言ったほうがよいか。
自分たちは先へと進まなければならない。だが、闘志をもってぶつかり合う二人の中に割って入るのはなんとなく気が引けた。
彼らは自分の全てをかけて戦っているのだ。ならば、自分たちは塁の戦いを見守りたい。
「困ったものだわ」
そんな言葉を口にする花南。彼女には塁の行動が理解できない。だが感情は理解できる。
塁はプライドをかけて戦っているのだ。自分なら水を差されたくない。だから塁が勝つことを信じて見届けるしかない。
自分たちは、自分のためにも戦っているのだ。
そんな仲間たちの思いなんて気づいていないだろうが、塁は尚も戦い続けていた。
「ショックサンダー!」
コーロボンブがアムドライに向けて電撃を放った。かわすことはできず、電撃を受けるアムドライ。
「サンダーボルトナックル!」
続けて必殺技を放つ。拳は見事アムドライに命中した。
アムドライが受けたダメージが、トキワにも伝わる。
「くっ…やるな…」
二発分の必殺技を受け、トキワは気を失いかけるが何とか取り戻す。
ここまでやるとはトキワは思わなかった。これ程ギリギリの戦いになるなんて、高揚せずにはいられない。
そして、黄金の使者として負けるわけにはいかない。
「雷神槍雨撃!」
アムドライから無数の電撃が放たれ、コーロボンブに襲いかかる。
コーロボンブを通して、ズタズタに切り裂かれる痛みを感じる塁。
しかし、それをこらえて真っ向から対峙する。
「どうした?エレクトロンブレイクとやらは出さないのか」
トキワは塁に向けてそう話しかけてきた。
「おまえにはもう、その技しか残されていない。エレクトロンブレイクでなければ俺を倒すことはできないぞ」
明らかに挑発である。しかし、事実でもあった。
そしてそれは相手も同じだと塁は感じていた。お互い最後の一撃を控えていると。
次の一発で、勝負が決まる。
塁はこの一撃に、コーロボンブに、自分の闘志を込めた。
「エレクトロンブレイク!」
電撃を纏った手刀が、振り下ろされる。
「雷神槍雨撃!」
相手もまた、電撃の槍をこちらに飛ばしてきた。
両者の必殺技が交錯し、それぞれが標的に牙をむいた。
コーロボンブは貫かれ、アムドライは切り裂かれた。そしてそのダメージを受けた塁とトキワはその場で倒れてしまった。
沈黙が鎧の間を支配する。
「まさか…二人とも死んじまったんじゃないよな」
ピクリと動かない二人を見て、達郎はそう思ってしまう。
それを聞き、全員が怒りだす。
「何縁起でもないことを言ってるんだよ!」 「塁さんを信じろ!」 「いや…でもさ…」
責められて、達郎は怯んでしまう。しかし、彼の気持ちもわかる。
塁は立ち上がれるのか?それとも…。
固唾を呑む中、遂に誰かが動いた。
起き上がったのは…。
「くっ、生きているか…」
意識が朦朧としながらも、トキワが立ち上がってきた。
「い、生きていたのか?」 「いや、生かされたのだ」
そう言い、トキワは自分のリングから赤い宝玉を取り出した。
その宝玉には、ひびが入っていた。
「ショックサンダーとサンダーボルトナックルだったか?あれらの必殺技によってこの宝玉が機能しなくなったのだ」
つまり、こういうことだ。
塁の放ったショックサンダーはアムドライを通じて、トキワにではなく彼がつけているリングへとダメージを与えていたのだ。宝玉の効果が働かないように麻痺させて。
次に放ったサンダーボルトナックルも、宝玉自体が狙いだった。これにより宝玉にヒビが入り、その機能が半減したのだ。
「勝負には勝ったが、相手に命を救われたか…」
こんな結果では、素直に喜べないトキワである。
「しかし、何故この男はそんな真似を?」
その疑問に答えたのは、拓実であった。
「塁はケンカが好きだけど、殺し合いはしたくない。遺恨が残るような戦いは絶対ごめんなんだ」 「それが、この男のやり方という訳か…」
それで死んだら元も子もない。
だが、自分の流儀に従って闘志を燃やして戦い、決着がついたのだ。もし塁がトキワを殺して構わない気でいたら、自分も死んでいたかもしれない。
「この勝負、私の負けかもな…」
倒れている塁に、トキワは賛辞を送る。
一方、塁の仲間たちは。
「塁さん…やられちまったのかよ…」
塁の死に、皆悲しんでいた。ハヤテも、ナギも、光たちも。
「ちくしょう!」
そして、エイジがトキワに向って歩き出そうとする。 「待ちなさい、エイジ君!」 「放してくれ!塁さんの仇を取るんだ!」
伝助の制止を振り払い、塁の脇を通り過ぎてトキワに喰ってかかろうとした時だった。
突然、エイジが前のめりに倒れこんでしまった。
「ぶっ!な、なんだ…」
頭だけを後ろに向けると、エイジは驚く。
なんと、死んだと思われた塁がエイジの足首を掴んでいるではないか。しかも…。
「勝手に殺してんじゃねぇ…」
顔だけ上げて、エイジを睨んでいるではないか。
「生きてた!?」
この場にいる誰もが驚く。
「ま、まだ彼女もできてねえのに死ねるかよ…」 「そのセリフ、情けないと思わないの?」
毒を入れた拓実にうるさいと返しながらふらふらと立ち上がり、次に塁はエイジの頭を軽く叩いた。
「おまえの気持ちは嬉しいぜ。けど、拓実が言ったように復讐ごっこはやめてくれ。お互い納得したルールで戦ったんだから、悔いはないさ」
エイジの方はと言うと、唇を尖らせていた。恐らく塁の言葉ではなく、自分が子供扱いされたような態度に納得がいかないのだろう。
そして塁は、トキワと向き直った。
「…引き分けか」 「いや」
トキワは自分の紅の宝玉を見せる。
「これにひびを入れた程の技を繰り出したこと。何よりデスマッチで相手から命ではなく死を奪ったのだから、脱帽せずにはいられんな」
その上で、自らは生きているのだ。素直に敗北を認めるしかないと言った。
「じゃあ…」 「ああ、ここを通るがいい」
それを聞き、みんな喜びながら闘の間を後にする。
「ルイ、とか言ったな」
そんな中、トキワは塁を呼び止めた。
「おまえにはもう戦う力はないはず。それでも先へ進むのか?」
これに対して、塁は迷うことなく答えた。
「あいつらの盾にでもなればいい。とにかく、動けるなら戦うまでだ」
そう言って、塁も去っていった。
「…見せてもらおうか、おまえの闘志がどこまで行くのか」
その言葉は、塁の魂の資質を認めたことの証であった。
これで第37話は終わりです。
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Re: 新世界への神話Drei 12月21日更新 ( No.93 ) |
- 日時: 2018/12/31 23:45
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも、RIDEです
このスレも100スレが近くなったので 続きは新スレとなります
新しいスレは「新世界の神話 第4スレ」となります。
新スレでもよろしくお願いします。
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