Re: 新世界への神話Drei 8月14日更新 ( No.70 )
日時: 2015/09/13 22:07
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

更新します


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 ハヤテは尚もサイガに喰い下がっていた。

 ハヤテが攻撃を仕掛けてもサイガはそれをかわし、逆襲する。その繰り返しが続いていた。

「しつこい奴だな」

 サイガはハヤテの執念にうんざりしていた。本気を出してはいないが、こう長引けばそう思ってしまうのは仕方がない。

 それでも、ハヤテは決して戦うことを止めようとはしなかった。

「おまえがそうまでして勝ちたいという気持ちはわかった。けど、あのお嬢ちゃんにどうしてそこまで尽くそうとするんだ?」

 サイガにはそれがわからなかった。この男はあの少女の執事だということは薄々察しているし、主を守るのが男の仕事だってこともわかっている。だが、それだけでこうまで自分に立ち向かおうとするのだろうか。

「あのお嬢ちゃんは、そこまでする程とは思えないんだがな」

 不理解はサイガの中で、苛立ちへと変わっていく。

「あなたの思っているとおりですよ…」

 そんなサイガの心情など理解しようもないが、ハヤテは彼に応えた。

「お嬢様はそれほど立派ではありません。むしろダメ人間に足どころか体まで浸かっています」

 毎日の生活を思い浮かべるハヤテ。ナギのだらしない生活態度に手を焼かれ、ワガママな性格に困ってしまう。

 だがそれでも…。

「そんなお嬢様でも、僕の人生そのものなんだ。だから、お嬢様は僕にとって大切な人なんです!」
「大切な人…」

 その言葉はサイガの心に響いてきた。

「お嬢様のためにも、僕は負けられないんだ!」

 苛立ちは更に、怒りへと変わっていく。

「人のため、か…」

 瞬間、それまで半分穏やかであったサイガの気が研ぎ澄まされていく。ハヤテの勘ははっきりとそれを感じていた。

 今までは遊び半分であったが、今から本気で攻めてくるということだ。身構えて警戒するハヤテ。
 そんな彼に向けて、サイガは一本の指を差す。何をしてくるのかと思った矢先、その指先から閃光が放たれた。
 咄嗟にかわすハヤテ。だが、光線は彼の背後にあった壁を貫き、穴を穿いた。サイガの指先ほどの大きさで、ひび一つはいることなく貫通している。

「俺は人のためにとか口にする奴が嫌いなんでね」

 恐ろしい威力を見せつけたサイガの声には、殺気が込められている。

「そう言う奴は、徹底的に潰す」

 追撃が始まった。サイガの指先から再び交戦が発射される。しかも今度は何発もの連射だ。

 ハヤテはまた避けようとするが、多数の光条を全てよけることは流石に無理だったようで、途中からは立て直す間もなく受け続けてしまう。致命傷にはならなかったが、ダメージは大きい。

「これで終わりじゃないぞ」

 サイガは続けて光線を放った。しかしハヤテも同じ技にいつまでも手こずるような男ではない。完璧に回避することは不可能でも、最低限のダメージに抑えることはできる。

 そうした防御を取ることで、全弾かすめる程度で済んだ。上手くいったことに安心するハヤテ。

「甘いぞ」

 だが、その後間髪いれずにはなった一撃がハヤテの脇腹を貫いた。気を抜いたところにい一発を貰ったのだ。思わず膝をついてしまう。

「この俺を相手にして、油断できると思っているのか?」

 サイガは格上の実力でハヤテを圧倒する。だが、これでも降参はしないだろうと彼は感じていた。

 実際その通りに、ハヤテは立ち上がってきた。先程の攻撃が効いているのか、ふらふらとした足取りでも、だ。

 そうさせているのはやはりナギの存在があるからだが、それだけではなくなった。

「最後の一撃を受けた時、声が聞こえた」

 今のハヤテからは、怒りの感情がはっきりとわかる。

「未練とも、助けを求めているとも、恨みともとれる声を。あれは亡者の声だな」

 何故そんな声が聞こえたのか。それもわかっていた。

「あの光線は、亡者たちを利用したもの。そういうことだな」
「ああ、そうだ」

 サイガは、あっさりとした様子で答えた。

「俺が指先から放つ霊撃射は、亡者を糧にして放つ、幽霊をエネルギー光線。現世への未練が大きい奴ほど、その威力はそれに比例していく必殺技だ」

 サイガの態度からは死者に対する敬意が感じられない。かといって蔑んでいるわけでもない。まるで物であるかのように扱う。

 それまでもやもやとしていたが、これではっきりとわかった。

 この男は、死んだ人の魂を武器として、道具として扱っているのだ。

「あなたは…幽霊を、死んだ人の心を何だと思っているんですか?」

 サイガが返したのは、無慈悲な答えだった。

「俺にとっては、無限に使える力だ。こいつらが多ければ、俺は強くなるからな」

 ハヤテの中にあるサイガへの怒りが段々と増していく。

「死者が力を与えるなんて感動的じゃないか?それに、浮かばれない奴でも霊神宮のため、人のためになるんだ。成仏できなくても…」
「黙れ!」

 語気を荒めるハヤテ。そんな彼に対してサイガも不快を増していく。

「どうやらおまえには、決定的な敗北を与える必要があるな」

 それまでハヤテに向けていた指を仕舞い、拳を広げる。

「霊撃射は指先で撃つが、これから放つ霊撃波は掌全体から放つものだ。指より大きい分集まる力もより多くなり、威力も当然大きくなる」

 説明するサイガの背後には、マインドを発動させたのかオーラが浮かび上がっている。

「深手を負っている今のおまえでは、かわすことはできないな」

 先の一撃を受けたことがやはり響いているようで、ハヤテの瞬発力が落ちていることを見抜いていた。

「喰らいな!」

 サイガは掌に集めた力を、ハヤテに向けて放った。

 サイガが口にしたとおり、回避行動をとれないハヤテはサイガ同様両手に風の力を集中させ、その手を前にして霊撃波のブロックを試みた。

 受け止めることには成功した。だが勢いを完全に殺したわけではなく、じりじりと後退させられていき、なんとか踏みとどまろうとする

 その間にもハヤテには声が聞こえていた。亡者たちの悲しみ、恨み。そういったものも彼の気力を削ごうとしてくる。

 だがハヤテはくじけなかった。負けるわけにはいかないと奮い立たせ、足に力を入れて踏ん張る。

 そんな彼は、また声を聞いた。ただし、今までのものとは違う。

 何故なら、それはより鮮明に聞こえ、しかもあるビジョンを頭に焼き付けてきたのだ。

 荒れた町、並び立つ廃墟と化した家屋群。

 濃い硝煙の中、幼い亡骸を抱いている少年。

「これは…!」

 あどけなさはあったが間違いない。

 この少年の面影は、サイガのものであった。




今回はここまでです