Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.55 )
日時: 2012/12/31 17:48
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

月末茶会には間に合わなかったけど、年末には間に合ったぜ!


というわけで、今年最後の更新です。
来年はどうなるかな…?


前回の続き、楽しんでください


 2
 雷矢たちが山の間に着いたころ、彼らの先を行くハヤテたちは。

「ここが第三の間か…」

 目前の、天の間と刻まれた第三の関門をじっくりと見上げていた。

「ここにも、ロクウェルのような強い奴がいるのかな…」

 天の間の中にいる精霊の使者を想像し、達郎は体が強張り、震え上がる。

「なに?達郎アンタ恐いの?」

 その様子を見て、花南が嘆息しながら声をかける。すると、達郎は一瞬だけ震えが強くなった。

「な、何を言ってんだよタカビー女。なんで俺が恐がるんだよ」
「声が裏返っているぞ」

 氷狩もあくまで冷静に、鋭いところを指摘する。

「達はビビりやすいからね」

 焦ったように口を抑える達郎を見て、佳幸は苦笑を浮かべた。他の者たちも皆、仕様がないという表情をしていた。

 それが、達郎の神経を逆撫でさせることとなった。

「だから!俺はビビってねえっつうの!」

 体の震えは恐怖によるものから、怒りによるものへと変わっていた。

 その怒りをぶつけるかのごとく、門の扉を乱暴に開け放った。

「やってやろうじゃねえか!この中にいるのがどんな強い敵でも、気合入れてかかりゃ何とでもなるさ!」

 門の前で、達郎は無駄に叫びまくる。

「やってやる、やってやるぞ!」
「なら、さっさと行くのだ」

 無慈悲な声がかけられたと思ったら、突然誰かに背を押された。

「え?」

 達郎はまず後ろを振り返る。手を伸ばしたナギが見える。どうやら、自分を突き飛ばしたのは彼女のようだ。

 次いで周囲を見渡す。辺り一面淡い青が目に映え、雲みたいなものも浮かんでいる。まるで空みたいである。


 ここまで、一瞬で確認ができた。だが、重大なことは別に存在した。

「あれ?」

 そこで達郎は、足元に違和感を覚えた。何故か足がふらつき、安定しない。

 いやな予感と共に、恐る恐るといった様子で下を向く。

 あるはずの床が、そこにはなかった。この天の間に、床が見当たらないのだ。

「な、なんだここはーっ!?」

 その悲鳴のすぐ後に、達郎は勢い良く落下していった。

 仲間たちは、ただ呆然と落ちていく彼を見ていた。誰もが無表情で口を開けなかった。全員勝手に自爆したようなこの間抜けな展開に、言葉が出てこないのだ。

 しばらくして、ナギがため息とともに呟いた。

「……まったく、ドジな奴だな」
「あなたのせいでしょ!」

 ヒナギクがナギの頭を拳で押しつけ、軽く捻り回す。真面目なヒナギクにしてみれば、突き飛ばした張本人が人のせいにするような態度をとったことが気に喰わないのだろう。

 ハヤテは苦笑していたが、他の皆は無関心であった。相手にする義理もないし、達郎にも一因はあるがナギのせいでもあることは明らかだったから、彼女の自業自得だと捉えていた。

 それよりも、今は達郎の方が重大だ。

「ど、どうなってんだよ一体!?」

 今も落下中の達郎は、半ばパニック状態となっていた。突然突き飛ばされてから自分の意志とは関わりなく進んでいった事態についていけないのだ。混乱してしまうのも無理はないだろう。

「けど、このまま落ちっぱなしってわけにもいかねぇ」

 達郎はシャーグインと一体化し、下に向けて強めの勢いで放水する。それによって自身を持ち上げようと、最悪でも墜落のショックを和らげようとするためだ。

 大量の水が放出されているので、当然働く力も大きいはずだった。

 あるものが、あればの話だが。

「…おかしいな?」

 何か違う、と達郎が感じたのは放水をしてから少し経った頃だ。

 もう何か変化が少しでも起きてもいいはずだ。自分が今いるのは天の間という霊神宮の内部に存在している広間だ。いくら床が抜けていても、必ず底があるはずだ。自分の水の放出スピードなら、とっくに底に到達している。

 それなのに、以前落ちたままであるということは…。

「もしかして、底なし…?」

 どちらにせよ、自分はこのまま落下し続けてしまうのか。

 その考えが、達郎の心に不安を駆り立てる。

「どうすりゃいいんだー!」

 再び混乱する達郎。自分ではどうにもならない事態に、心が動揺を抑えきれなくなっているのだ。

 もはや、自分以外の何かに助けを頼むしかない。

 そんな願いが通じたのか、達郎の身体が落下中から急に宙で止まった。

 何事かと思い達郎が首を巡らせると、自分の身に蔦が絡みついているのが確認できた。この蔦に、達郎は見覚えがあった。

「これは、フラリーファのアイビーウィップ?」

 嬉しさを込めて、達郎は顔を見上げてみる。予想通り、自身に巻きついている蔦は上から伸びていた。

「まったく、手間をかけさせるわね」

 その蔦を伸ばしていたのも、やはり人型形態のフラリーファだった。その傍らでは、花南が愚痴をこぼしながらも達郎を無事に確認できたことに胸を撫で下ろしている。

「でも、達郎が落ちてなきゃ皆気付けなかったね」

 天の間の門前で、全員拓実の言葉に頷いていた。何も知らずに天の間へ足を踏み入れていたら、達郎に倣って落ちていた。そして達郎のように助けてくれる人はいないため永遠に落ちっ放しになっていただろう。

「おーい、早く引き上げてくれよ!」

 全員が危なかったと息をついていたところに、下から達郎が救助を催促してきた。

「いつまでも宙にぶら下がったままにするな!なんとかしろ!」

 その物言いが、花南の癇に障った。

 誰のためにやっているのだ。元々は一人勝手に早がって、それでこの結果となったのだ。こちらには何の非もないのに、あんな尊大な態度を取ることが気に喰わない。

「この蔦、別に放してもいいのよ?」

 凄みを込めた声をかける花南。冷たく、そしてとてつもない迫力があり、周囲にいた佳幸たちを震え上がらせた。

 それは、達郎にも確実に伝わっていた。

「よ、よろしくお願いします花南さん」

 花南と再び落とされる恐怖に圧倒されて、達郎はおどおどしながら大人しく頭を下げる。

 今の花南なら本当にやりかねない。逆らってまた落ちてしまうなんてことにはなりたくないため、宥めるのが得策であった。

「よろしい」

 達郎が置かれている状況も考え、花南はこれ以上何かを言うつもりはなかった。フラリーファに、引き上げを命じる。

 天の間にいる黄金の使者はまだ姿を見せていない。本格的な闘いが起こる前に、達郎を助けなくてはならない。

 だが、もう遅かったようだ。

「ふふ、落ちたのは一人だけみたいね」

 聞き知らぬ女の声に、一同はまさかと思い顔を前に向けると、目を大きく見開いた。

 彼らの視線の先に、この天の間を預かっていると思わしき黄金の使者がいたのだ。これはむしろ当然ともいえることなので、別に驚くべきことではない。

 彼らが驚愕したのは、他にあった。

 その黄金の使者は、天の間の中で平然と立っていたのだ。

 そう、床のない天の間で。足をつける場所がないことは、先程の達郎の件で十分承知している。

 更に、その黄金の使者はこちらに向かって歩き出した。宙で歩行するその光景は超常であり、神々しささえ感じてしまう。

「空中を歩いているなんて、一体何者なんだ?」

 驚きをこめて息を洩らすと、そんな彼らを黄金の使者は嘲笑う。

「明智天師に反逆する不届き者には、これしきのことで騒ぎ立てるものですよね」

 そして、ある程度の距離を取ったところで足を止め、話をはじめた。

「あなたたちのような愚か者たちに、この天の間内を渡ることはできません。ここは悪意ある者が入ってきたら最後、永遠に落ち続けるのよ」

 ハヤテたちの前にいる黄金の使者は、少女のような幼い風貌を持っていた。体格もそれほど優れているわけでもなく、普通のティーンエイジャーと変わらない。純粋無垢というのが第一印象だが、生真面目さもどこか見受けられる。

「二度と地に足を着けることのなく、どこにも行き着くこともなく……永遠にね」

 その純粋さと生真面目さが、ハヤテたちにとっては大きな脅威のように感じた。

「これも、霊神宮に刃向かったあなたたちに対する天罰ということになるわね」
「天罰、か」

 その物言いに、塁が若干眉を吊り上げる。

「俺たちはこの天の間で落とされて当然だって言いたいのか」
「そうよ。既に落ちているあの子のようにね」

 黄金の使者は人目達郎に移す。その目力は、達郎を一瞬怯ませる程のものが込められていた。

「できれば潔くその身を投げ出してくれればいいんだけど…」

 ハヤテたちにはその気はない。皆、黄金の使者に対して挑みかかるかのように見ていた。

 このまま大人しく従うつもりなど、全くないと言うように。

 それは、相手の黄金の使者にも十分に伝わっていた。

「そういかないみたいね。いいわ、私が落としてあげるわ」

 声に戦意を込めた後、今まで目にしてきた中でも匹敵するものはないと思われる神々しさを持った精霊が、黄金の使者の傍らに現れた。

「この天のゼオラフィムが使者、ミークの手によって!」





今年はここで終わりです。

また来年、よろしくお願いします。