Re: 新世界への神話Drei 12月15日更新 ( No.6 )
日時: 2011/12/24 14:18
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

世がクリスマスイブだというのに、
ここで寂しく更新している自分・・・・

泣かないぞ。


さて、レス返しです。

絶影さんへ

>どうも絶影です!
>…では早速感想に!

いつもありがとうございます!

>前回の話で少し出てきていたスセリヒメの弟、
>黒沢夜光という人が出てきました。

夜光は出番が少ない(まあ、今はあの状態なので仕方ありませんが)ですけど、
エイジにとっては重要なキャラクターです。
これから先の出番は未定ですが果たして復活するのでしょうか。

>エイジはそのスセリヒメを犠牲にした霊神宮を恨み
>復讐しようとする夜光を止めたようですね。

エイジは最初夜光についていこうとしましたが
それを佳幸に止められて、思い直して止める側に回ったということです。
その結果、夜行が植物状態となりました。戦いの結果は、ここでは伏せておきましょう。

>私のような者が言うのも難ですが…復讐は何も生みませんからね。
>でも後ろめたいという気持ちがエイジにはある様子。

夜行を止められず、植物状態になってしまった。
そのことに自分にも一因があると思っているからこそ、エイジは負い目を感じているのです。

>そんなエイジの元に現れたのは兄である佳幸。
>彼はエイジを挑発していましたね。

佳幸の意図がなんなのか。
まあ、エイジに対する思いが込められていることは確かです。

>そしてバスケの勝負を仕掛けた。
>バスケで何かを伝えようとしているのか、それとも他の思惑があるのか。
>気になりますね!

今回は青春ものっぽくなった気がします。
暑苦しいようですが見てくれると嬉しいです。

>それでは次回の更新待ってます♪


絶影さん、感想ありがとうございました!

それでは、本編です!

今回は少し長めとなっています。


 2
 男たちは、談笑しながら歩いていた。

「おまえたちがわざわざ埼玉からやって来たとはな」

 塁は驚いたという風にそう言いながら後ろに続く達郎と氷狩を見やる。

「達郎はともかく、氷狩の奴はいかにも特訓しましたって感じだったな」
「そういう塁さんだって。努力をしていたって伝助さんから聞きましたよ」

 氷狩のその言葉を聞いて、塁は顔を真っ赤にする。

「伝さん・・・・内緒って言ったのに・・・・」

 それは置いておくとして、塁は改めて達郎と氷狩のほうを向く。

「でも信じられないな。達郎も氷狩も、まだ割り切れていないものかと思っていたぜ」

 当時は二人はまだ小学生だ。自分たちに比べて幼い心を持っていたので、深い傷を刻まれたあの出来事に関して逃避したくなっても無理はないだろう。

 しかし、予想に反して二人は行動を起こしていた。これは杞憂だなと塁は思った。

 それでも、やはり二人はまだ高校生であった。

「・・・・正直言うと、まだ迷っているんだ」

 達郎が少し落ち込んだ顔で話し始めた。氷狩も同様に少し俯かせている。

「ただ、じっとしていられないって感じなんだ。なんかやばそうな状況になっていくかもしれないってことは、花南から聞いているんだけど」

 決心が中々つけられない。そんな感じで語っていく。

「きっぱりと答えを出した二人からすれば、みっともないでしょうけど」

 氷狩が、やっぱり塁と伝助は大人なんだなと感心するが、当の二人はとんでもないと言わんばかりに手を振った。

「どうだか。戦わなきゃいけないってのはわかっているけど、明るい兆しは見えないんだよな」

 いっそのこと、戦って敗れて散ろうか?

 そんな自暴自棄的な考えまで抱いてしまう。

 だが無理もないだろう。ナギに従って霊神宮に行くということは、精霊の使者でも最強クラスの黄金の使者たちと戦わなければならないということだ。そのうちの幾人かの実力に触れたことのある彼らはその大きな実力差を痛感していた。

 逆立ちしたって、それは覆せない。戦いになっても相手にはされないだろう、と。

 暗いイメージしか出てこない四人は、そのままとある広い公園の近くまで歩いていた。

「あれ?」

 そこで塁は、前方にある人影を発見する。

「拓実さんと優馬さんかな?」

 達郎と氷狩も二人に気付いたようだ。

「拓実!優馬さん!」

 塁が呼びかけると、あちらも気付いたようだ。

「どうしたんだ?」

 四人は優馬たちのもとに駆け寄る。

「いや、ここで面白いことが起こっているんだ」
「面白いこと?」

 三人は首を傾げてしまう。少し広いだけで特にその辺にあるものと変わらない公園で、二人が注目するものがあるのだろうか。

「あれだよ」

 拓実が指差した方向に、塁たちは目を向ける。

 そこでは、佳幸とエイジが、バスケの1on1を繰り広げていた。



 佳幸とエイジ。二人は互いに息を切らしていた。

 先攻が佳幸で、後攻はエイジ。このやり取りを、もう何回やったかわからないほど、二人
は白熱していた。

 そしてまた、佳幸の攻撃からはじまった。

 今度こそ止める!

 そう意気込んでディフェンスするのだが、佳幸はエイジの動きを手玉に取るかのように抜いていき、レイアップを決める。

「チクショウ!」

 いいようにやられてしまい、エイジは悪態をつく。

 さっきからずっとこの調子であった。こちらがいくら守ろうとしても、佳幸に抜かれ、またはその場でシュートを打たされてしまう。1on1がはじまってからずっと、佳幸はエイジを相手にシュートを入れつづけていた。

「また僕が決めたね」

 対して、佳幸はシュートを決めたことに対する喜びなどは特に表さず、平静な様子でエイジにボールを渡す。

「次はエイジだよ。いい加減無得点は飽きたから、早く僕のように点を入れてみなよ」

 余裕の証なのか、そんな挑発までかけている。

「おう!みせてやるよ!」

 エイジは苛立ちを露にして言い返した。

 得点を入れつづけている佳幸に対し、エイジは無得点であった。彼のドリブルも、シュートも、全て見透かされているかのようにカットされていた。またシュートを打てたとしてもリングに嫌われ、零れたボールは全て佳幸に拾われてしまうことで、エイジの攻めは終わってしまう。

 今回も、佳幸のうまいスチールによって、エイジはボールを奪われてしまった。

 佳幸はボールを片手に得意そうな表情を浮かべた。

 エイジは、手も足も出せなかった。

 元々、自分が不利だということは承知していた。自分はまだ中二で、兄は高一なのだ。プレイの精度、体格の差など、全体的な面から見てエイジよりも佳幸の方が上であることは明らかだ。

 だがエイジにも勝機がないということはなかった。

 それは体力面である。佳幸は去年中学3年生であったため、夏から受験勉強に追われていてしばらくバスケから離れていた。対して、中学一年生だったエイジはずっとバスケをやっており、そのブランクが体力の差となっている。

 現に佳幸は、エイジよりも激しく疲労している。それは、とてもバスケなんてできる状態ではないのは見て明らかだ。

「そんなフラフラで、まだやられるのかよ・・・・」

 思わずエイジはそう零してしまう。それは悪態からではなく、それでも続けようとする相手への敬意と、そこまでやるかという呆れをこめていた。

「やれるさ・・・・」

 すると佳幸は、エイジにこう返した。

「戦う前から負けているような人の前で、疲れたなんて言えないからね」

 それを聞いて、エイジが微かに眦を上げる。

「戦う前から、負けているって・・・・」
「そうだよ」

 佳幸はエイジのことなど気にしてはいないような態度で続ける。

「いつものおまえなら、何があっても決して諦めない、どんな逆境でも挑んでいくじゃないか。それが、今は戦ってもいないのに負けたように落ち込んでさ」
「・・・・・落ち込んじゃ悪いってのかよ」

 近づいて、佳幸を睨みつけるエイジ。そのまま、溜まっていた鬱憤を晴らすかのように喚き始めた。

「勝てる見込みがない戦い!どうあがいても変えることが不可能に近い現実!勝てるとか変えてやるとかっていう気持ちだけじゃどうにもならないってことぐらい、わかってんだろ!」

 エイジの脳裏に五年前の光景が浮かんでいく。自分たちの力では陽子だけでなく夜光も助けられなかった。それが現在の霊神宮と被って見えた。

 一人の力でどうにかできるほど、世界は甘くない。巨大な存在の前に、自分たちはちっぽけな人間でしかないのだ。大切な友達一人救えなかった自分が、なにをしろというのだろうか。

「それがわかっているなら、なんで逃げるんだ!」

 佳幸はそこでエイジの肩を強く掴む。

「おまえが戦うかどうかはどうでもいい。でも、今のおまえは何もしていない!夜光や陽子さんの事を利用して現実から目を背けているだけじゃないか!」

 その言葉は、エイジの心に大きく響いた。

 霊神宮には共感できない。それは変わることはないだろう。あの二人に後ろめたさを抱くことも、悪くはないだろう。ナギの事だって、ただ嫌いなだけならそれだけでいい。

 だが、それを隠れ蓑にしていいのだろうか。

「デボネアとか言うものの存在を聞かされなければ、僕もおまえのようにしていただろう。だからわかる。おまえは‘今’、‘自分’で選んでいない」

 佳幸は更に畳み掛ける。

「過去に負い目に今を見ないで、自分の気持ちをよそに二人に選択を強要しているだけだ。」

 陽子や夜光のことは、もう過ぎてしまったことだ。なのにいつまでもそれにすがっていいのだろうか。

 それを理由に、今から目を背けていいのだろうか。

 佳幸の強い眼差しに、飛ばす激にエイジは魅せられてしまう。

 比較的おとなしいイメージを持つ佳幸が、こんなに熱くなる光景は珍しいとも感じるだろ
う。だがエイジは知っている。

 自分が真剣に迷っている時、家族として本気で諭す際に兄はいつもこのような表情そしている。

 五年前、自分を見失いそうになった時も、激しいケンカになったもののその時も佳幸はエ
イジにぶつかっていった。

 あの時と同じ表情で、佳幸はなおもエイジに語りつづける。

「いつものおまえなら、何かが変わるかもしれないから戦うんだと言っているじゃないか。それがなんだ、あのお嬢さんを前にしてからそのザマは。結局おまえは口だけの臆病者じゃないか」

 その侮蔑に、エイジは腹を立てた。

「うるさい!誰が臆病者だ!」

 死人や植物状態の人間に助けられる程、自分は落ちぶれていないはずだ。

 目の前の兄や、あんな堕落した小さいお嬢様に対抗心を燃やすエイジ。と、脳裏にナギの顔が浮かんできたところでエイジは気付いた。何故ナギに固執していたのか。

 落ちぶれていて尊大でも、今自分の気持ちにまっすぐでいる。スセリヒメのことでも、そんな彼女が心のどこかでは羨ましかったのかもしれない。

「なら、僕のシュートを一度でも止めてみろ!僕からシュートを決めてみろ!」
「ああ!やってやるよ!」

 最も、エイジも負けず嫌いなので素直にナギを認める気はなかった。そして、目の前の兄
にもこのまま負けっぱなしでは気がすまない。

 エイジは距離をとって佳幸と対面し、ディフェンスの構えを取る。

「俺はディフェンスでしょ、早くやろうぜ」

 やる気になったエイジを見て、佳幸は笑顔を浮かべた。

 すぐにシュートの構えを取った佳幸を見て、エイジはプレッシャーを掛けに行く。

 だがこれはフェイントだった。すぐにドリブルでエイジの右側から通り抜けようとする佳
幸。

 だが今度のエイジは一味違う。何とかくらいついて佳幸を止めようとする。

 再び止めに入ろうとするエイジを見て、佳幸は左側へと身体を向ける。

 そこから抜くのかと思いエイジも左側を抑えようとするが、それもフェイクだった。方向転換せずに右側からドライブしていく。

「負けない!」

 しかしエイジは話されずについていき、佳幸のシュートをブロックした。

「どうだ、止めたぜ」

 ブロックしたボールを拾い、エイジは得意げに笑う。

「まだ僕から点取ってないでしょ」
「そのセリフ、すぐに負け惜しみにしてやるよ」

 そして、エイジのオフェンスが始まった。

 ステップからフェイクをいれてドライブしていくが、佳幸は簡単には騙されずに喰らいつく。

 そんな彼を、身体を後ろから回り込ませて抜いたエイジ。

 その迷いがないような鮮やかさは、佳幸が抜かれても疑問には思えないほどであった。

 見事、シュートを決めたエイジ。得点を入れはしたが、特に喜びを露にはしない。

 佳幸も無言のままだった。互いの息遣いだけが妙に耳に入っていく。

「聞いていいか?」

 しばらくしてから、エイジが口を開いた。

「兄貴はさあ、今、誰かのために戦うって選んだわけ?」

 これに対し、佳幸は苦笑しながら答える。

「それも少し含まれている。まあ、ほんの少しだけどあのお嬢さんのためもあるし、何よりもあの人がいるからね」

 あの人というのが誰だかわかるエイジ。

「けど一番は、自分がやりたいことだからかな。本心から目を背けたら、それこそ負け犬
だ」

 素直な心を述べる佳幸。そこには陽子や夜光のことで左右されない、明確な今の自分の意
志が込められていた。

「だから、可愛い弟を見過ごせないという思いで、ケンカを吹っかけたのさ」
「・・・・こっちはいい迷惑だぜ」

 さりげなく兄弟愛というものを口にした佳幸に、エイジは照れてしまう。

「それで、まだ続けるのか?」

 ボールを投げつけ、1on1をやるのかエイジが尋ねると、佳幸は苦笑しながら首を横に振っ
た。

「こっちはもう続ける体力ないからね。帰ろうか」
「まったく、勝手だぜ」

 そう言って、エイジは踵を返す。

「どこに行くんだ?」
「一人で帰れる!」

 足早に去っていくエイジ。

 冗談ではない。これ以上勝手に付き合って入られなかった。

 向こうはただ自分のために行動したのだ。決してこちらのためではない。

 わかりきっている。わかりきっているのだが、あの場にずっといたら、佳幸に礼のひとつでも送りそうな照れくささがエイジに胸の中に存在していたのだった。



「・・・・相変わらずだね、あの二人」

 佳幸も反対側から出て行ったところで、拓実が呟いた。

 佳幸とエイジの1on1を、彼らは最後まで見届けていた。当人たちに気付かれてはいない
が、あの場に入っていくような野暮なことをするつもりはなかったので、幸いではあった。

「けど佳幸のやつ、好き勝手言ってくれるじゃねえか」

 佳幸の言葉はこちらにも響いていた。彼が発した激に対して、達郎は含み笑いをしてい
る。

「まったくだぜ、まるでこっちまでも勝つ気がないような物言いだぜ」

 塁も達郎に同調していた。すると氷狩が、意地が悪そうな調子で彼に突き刺す。

「あれ、明るい兆しが見えないとか言っていたのは塁さんではありませんでしたっけ?」

 これに対して、塁は苦笑しながらも言い返す。

「おまえだって、随分と迷っていたくせに」
「まあ、要するにだ」

 そこで優馬が、おそらくは全員が考えているであろうことを締める。

「このままウジウジしているのは俺たちらしくないし、このまま舐められっぱなしは我慢ならないってことだろ」

 その言葉に、全員が同時に頷く。

 過去は過去でしかない。これから起こるであろう戦いにはまったく無関係だ。

 だから、今の自分の気持ちで選ばなければならないのだ。

 そして彼らは、吹っ切れたようであった。






一応補足を付け加えると
佳幸はエイジに対して戦いを強要しているわけではありません。
ただ、過去の負い目ではなく今の自分の気持ちで選べと言っているわけです。
エイジが戦いを選ぼうが選ばないだろうが、誰も責めるつもりはまったくない。
自分がどうしたいか、それで判断しろということです。