Re: 新世界への神話Drei 12月31日更新 ( No.63 )
日時: 2014/02/16 19:24
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

どうも。
新年一発目の更新です


 8
 そのような経験を辿って、四人はハヤテたちと合流したのだ。

「兄さん……」

 これによって一番心を打たれたのはハヤテであった。

 生死不明だった兄との再会。一時は死んでしまったかと塞ぎこむこともあったが、こうして今対面している。それがとても嬉しい。

「生きて…いたんだね…」

 ハヤテにはそれを口にするのがやっとであった。他は何も言えない。

 人が心の底まで感想した時、言葉では表せないというが今のハヤテが正にそれであった。

 雷矢の方も、張り詰めていた雰囲気を和らげる。ナギやヒナギクも、二人を優しく見守っている。

 しかし、他の者たちはそう穏やかではなかった。

「何をしに来た!」

 真っ先に警戒してきたのは優馬であった。槍先を雷矢の喉元に突き付けて威嚇する。

「感想の再会に水を差して悪いんだが、俺たちはまだおまえを許してはいねえんだ」
「場合によっては、またあなたと戦います」

 伝助も挑戦する意志を示すかのように構えを取った。

「……一体化できるようになったか」

 そんな二人を前に、雷矢は威圧的な態度を取った。

「雑魚がようやくまともに戦えるようになったのだな。俺と戦った時からよく強くなれたものだ」
「雑魚だと?」

 雷矢の嘲るような物言いに、塁が怒って彼に掴みかかって来た。

「てめえ、戻ってくるなりそんなこと…」
「ケンカはだめだ!」

 その時、両者の間に光が割って入り仲裁しようとする。

「雷矢さんは、あなたたちと戦うなんてことは考えてないんだ」
「この人がここに来たのは、ここで一番偉い人に会うためよ」

 海も一緒になって雷矢について弁明する。彼女たちは既に雷矢を信頼していた。今みたいに仲間のように語るのも、彼がそうであると思っているからだ。

 そんな彼女たちにを見て、塁や優馬たちは拍子抜けしてしまう。

「女の子……?」

 あの雷矢の、容姿はそれなりにいいが気質が荒くて厳格で女の縁なんて人質としたマリア以外ないに等しい男が、三人の少女を連れている。

 そのことが、とてもじゃないが信じられない。少女三人が可憐であったことも、雷矢とのギャップを感じさせていたのだろう。

 対して、少女たちは先程の呟きに別の意味を見出していた。

「ちょっと!女の子じゃなかったらなんだっていうのよ!」

 海が騒ぐようにこちらに詰め寄ってきた。自分はれっきとした女の子なのだ。それを否定したら怒るのは当然。全ての女の子に共通して言えることだ。

「あっと、すまん。そういう意味じゃあ…」
「じゃあ、どういうつもりよ!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる海。そんな彼女をどう宥めていいのかわからず、塁は困惑して口ごもってしまう。

 そこへ、ハヤテが慌ててなんとかフォローしようとする。

「ええっと、その、君たちみたいな可愛い女の子が来たなんて思わなかったからさ……」

 決して意図があって言っただけではないだろう。

 だが、天然ジゴロと言われるだけのことはある。さりげなく女の子に対して可愛いという言葉出すあたりは流石だ。しかも効果は覿面だ。

「や、やだ。可愛いなんて…」
「わ、私なんて男の子みたいだってよく言われるし…」

 ハヤテの可愛い発言に、一転して光と海は嬉しそうに照れ出した。ナギやヒナギクはそれを面白くないように見ていた。

「あの、皆さん」

 そんな中、一歩引いたところでなりゆきを見ていた風が冷静に、呑気ともとれる調子で物申してきた。

「交流を深めて合うのもよいのですが、周りが捻じれているようになっていますわよ」

 それを聞いて、全員周囲を見渡して確認する。

 風の言うとおり、空間が何かでねじ曲げられているみたいだ。奇妙な光景である。

「ど、どうなってるのよ一体!?」

 海は悲鳴を上げて狼狽している。今度は彼女の心情が理解できる。誰もが尋常ではない危機感を察していた。

「他にも霊神宮に来た人がいたなんて予想もしなかったわ」

 この場に響いてきたミークの声から、怒りと苛立ちが感じ取られた。

「何が目的かは知らないけど、ここに入ったからにはまとめて葬ってあげるわ!」
「ちょっと!こっちの事情は無視なの!?」

 自分たちが敵だろうが味方だろうがお構いなしというミークの態度に、海は文句を言いたてる。しかし、問答無用ということか、ミークはそれ以上何も言わなかった。

「私たちが入って来たことが、余程お怒りのようですわね」

 風が頬に手を当てて言う。緊張感がない様に見えてしまう。

「とにかく、なんとかしないと!」

 佳幸の言う通りであった。ここで何らかの手を打たないとここから出られないどころか、全員ミークに殺されてしまう。

「技を仕掛けたミーク本人に、一撃でも与えればこの空間も消えるはずだが…」
「その本人がどこにも見当たらないっていうのがなぁ…」

 氷狩や達郎たちが頭を悩ませているのがそれだ。ユニアースの角でも見つけられない以上、彼女の姿を探し当てることはできず、攻撃もできないままなのだ。

「こうなったら手当たり次第ぶっ放して…」
「よしなさい。無駄に力を消費するだけよ」

 半ば自棄気味になるエイジを花南が諌めた。四方八方に攻撃して運良くどこかに隠れているであろうミークに当たったとしても、それでもリスクの方が大きい。ここはまだ第三の間でしかない。大聖殿につく前に力尽きてしまう。

 ミークがこの場にいることは確かなのだが…。

「相当怒っているわね、彼女」

 ヒナギクの何気ない呟き。

「怒り、か…」

 優馬がもう一つ考えていることは、その言葉と関係があるものだった。

 このスカイデッドホールの捻じれ方。ミークが怒って起こさせたというよりも、彼女の怒りがそのまま捻じれとなった。そのように見えるのだ。

 先程の衝撃にしてもそうだ。衝撃自体は雷矢たちによるものであろうが、あの時それとは別にこの空間自体も震えていたように感じたのだ。

 まるでこの空間そのものが生き物であるかのように。

 もちろん、空間が生き物だなんてことは有り得ない。まさかと思い優馬はそんな馬鹿馬鹿しいことから考えを切り替えようとしていた。

「いや、待てよ…」

 優馬が謎についてひらめいたのは、その寸前だった。



続きはまた次回。