Re: 新世界への神話Drei レス返し ( No.76 )
日時: 2015/12/30 21:15
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

どうも
2015年最後の更新です
また、37話ラストです

どうぞ


 7
「…誰だ?」
 どこか悲壮な印象を漂わせているその少年は口を開く。

「僕の名前は…フレイツ」
「フレイツ?」

 その名に引っかかりを感じる。

「まさか…あのフレイツガイストの…?」

 恐る恐るといった様子で達郎が尋ねてみた。

「はい、フレイツガイストの核となっているのはこの僕です」
「じゃあ君が、元の幽霊…」

 目の前の少年が大人しそうな雰囲気なため、幽霊に対する恐怖はなかった。むしろこの少年とあのおぞましい亡者と結びついていることの驚きの方が大きい。

 しかし、当のフレイツは悲しみに顔を伏せるばかりだ。

「すみません…あの人の、サイガ兄さんのせいでこんな目にあってしまって…」

 今、この少年は何と言った?

 あのサイガを兄と呼ぶということは…?

「君は、サイガの弟なのか…?」

 フレイツは、頷くことで肯定を示した。

「マジでか!?」

 目の前にいる少年は儚げな優等生といった印象。逆にあの男は不良という対照的な二人が強大であることにも驚愕してしまう。

「僕と兄は、早くに両親を亡くしましたが、二人で何とか生きていました」

 フレイツは、身の上を話し始めた。

「ですが、十四年前のことです。僕らが住んでいた町は戦争での空爆にさらされ、僕はその巻き添えくらい死んでしまいました…」



 サイガの魂がこもった必殺技を受け止めたことで、ハヤテも彼の過去を知ることができた。

 元々身寄りがない上に、霊的な力を持っていたために周囲からうとまれ、自分と弟の二人だけで生きてきたこと。

 その弟も戦争で亡くなり、サイガは孤独となってしまった。

 あてもなく放浪を続け、荒んでいた彼と出会った明智天師に目をつけられ、霊神宮へと連れられた。

 そして使者としての類稀なる才を開花させ、最高の黄金ランクまで上り詰め、現在に至ったのだ。

 そこまで理解した時、ハヤテが受け止めていた攻撃エネルギーは消滅していた。

「霊撃波をこらえきるとはな…」

 サイガは感心していた。とどめとしてはなった技、仕留めるには十分の威力はあった。ハヤテのどこにそんな力があるのだろうか。

 そのハヤテは、サイガに問いかけた。

「あなたが戦うのは、弟さんのことが理由なんですか…?」

 それを聞いたサイガは、不快感を露にした。

「貴様…俺の心を覗いたな」

 そのことがサイガのプライドを逆撫でさせた。相手が格下の青銅クラスであることも、余計に怒りを募らせている。同情なんて、彼にとって真っ平ごめんなのだ。

 しかしハヤテには憐みの感情はない。それ以上にわからないことの方が大きかったからだ。

「なら、何故明智天師に味方するんですか?」

 ハヤテにはもうサイガの戦う理由について想像がついていた。彼は弟の二の舞になる人物が増えないように戦っているのだ。自分が味わったような悲しみから、人を救うために。

 だからこそ、霊神宮を支配しようとする明智天師に加担している理由がわからなかった。彼の目論見に気づいていないのだろうか。

 いや、そのような人物がダイのなどを任せられるはずがない。この男は明智天師にとっては腹心の部下あることに違いないのだから。

 理解がしがたいハヤテへの答えとして、サイガは一笑に付す。

「俺は別に味方しているわけじゃない。利用しているだけだ」
「利用?」

 利用とは一体?

 サイガは明智天師とはまた違う目的を抱いているのだろうか。

 それについて、彼自身から語り出してきた。

「あの人が霊神宮を一つにまとめてくれるんなら、方法は問題じゃない。その後で倒せばいいのだからな」
「そんな…」

 そんなやり方と考え方では必ず巻き添えが出てしまう。弟を亡くした戦争と同じ結果になるかもしれないのだ。これでは本末転倒だ。

 この矛盾に口を挟まずにはいられないハヤテだが、その隙を与えずサイガは続けた。

「これも、弟のためだ…」

 あまりに口調が強いので、ハヤテは思わず口をつぐんでしまう。

「弟が亡くなってから俺はあてもなくさまよっていた。そんなある日、俺は弟からの声を聞いた」

 普通だったら死者の声が聞こえるなんてありえないが、サイガには不思議な力を持っていると言われていた。その能力のことを指すのだろう。

「弟は俺に言った。俺の持てる力をもって、自分のような人を出すなと」

 サイガは一句一句に、自身の覚悟を込めていた。

「そのために、浮かばれない魂だろうと利用してやる。俺の力も、手段は問わない」

 ハヤテはやっと理解できた。

 この男は、弟への思い入れが強いのだ。思いが強すぎて、他のことが見えていないのだ。

 その思いだけなら、ハヤテはとても素晴らしいと感じていた。相手が死んでもその人のことを思い続ける。自分にも、そういう人たちがいるからサイガのことはよくわかる。

 だがそれでも。

「そのやり方は、弟さんの望んだものでしょうか?」

 ハヤテの問いに、サイガは言葉を失ってしまう。

 そう。サイガは自分の感情のみを主張している。弟のためと入っているものの、弟の気持ちというものは全く述べていない。これこそ、サイガが見えていないものである。

「それに、あの巨人…」

 ハヤテはフレイツガイストの方を向く。

「弟さんの名前をつけて傍にいさせてるなんて、本当は何よりもあなたが…」
「黙れ!」

 続く言葉をサイガは遮った。

「ペラペラと喋りやがって…」

 サイガの背後に再びオーラが浮かび出てきた。

「今度こそ、終わりにしてやる」

 再度霊撃波を放つつもりだ。先程はこらえ切ったがあれは運によるところが大きく、次も同じ結果にはならないだろう。

 だがハヤテは退くつもりはなかった。

 今の自分にはやりたいと思うこと、やらなければならないことがある。

「あなたが僕たちに霊の嘆きを聞かせましたが、今度は僕があなたに聞かせます」

 使命と言うべきか。

 漠然だがそんなものがハヤテの中にある魂の資質、誠実を揺らしていく。

 そしてそれが彼のマインドを覚醒させ、バックに鳥獣のオーラを浮かび上がらせた。

「あなたの弟さんの、本当の思いを」

 ハヤテは腕を折りたたんで小脇に構え、前屈みの姿勢となる。

 疾風怒濤とは構えが違う。

 新しい必殺技とでもいうのか?

「何をするつもりかはわからんが、おまえには無理だ!」

 あの体制では横へかわすことはできない。後ろへ退いたとしても、霊撃波の射程範囲からは逃れることはできない。前に出ることは自ら必殺技を喰らいに行くという馬鹿げた行動だ。

 だがハヤテは攻撃をしようとしている。無様に前へと出るしかないだろう。

 なんにしても、ハヤテは霊撃波を受けるしかない。

「喰らえ!」

 サイガは霊撃波を放とうとする。これが必殺の一撃となるはずだった。

 しかしハヤテは、その寸前にサイガの懐にまで潜りこんでいた。

「なっ!?」

 ほんの一時とはいえ、格上の相手であるサイガでさえ驚くスピードで迫ったハヤテ。

 それはまさに、疾風のごとく。

 その至近距離から、自分の全力を込めた掌でサイガを打ちつけた。

「疾風咆哮!」

 掌底と、それによって生じた風圧によって、サイガは後方へと飛ばされる。

 凄まじい轟音が響いていた。それはまるで、鳥獣の雄叫びであるかのようだった。

 その中で、サイガは聞こえた。

「…!この声…」

 それは確かに、弟の声であった。

 その切実な願いは、サイガに十分伝わった。

「おまえは…!」

 それは、一体化が解けてしまうほどサイガにとっては衝撃的だった。同時にそれまで存在していたフレイツガイストも消滅していた。

 フレイツ消滅を目の当たりにしたハヤテは、不安に駆られた。

「お嬢様…!」

 ナギたちの魂はフレイツに喰われたままだ。フレイツが消えてしまったら、ナギたちの魂も消滅してしまうのではないか。

 しかしそれは取り越しに過ぎなかったようだ。

 倒れているナギの口から、微かに息が漏れだした。

「ここは…?」

 ゆっくりと目を開けるナギ。

 ナギだけではない。ヒナギクや佳幸たちも気を取り戻している。全員の魂が無事に身体へと戻ってきたのだ。

「よかった」

 安心して、ハヤテは胸を撫で下ろした。

「フレイツが無事に帰らせてくれたからな」

 予想外の言葉に、サイガが一番驚いた。

「あいつが…あの中に…?」

 そんな彼に、ナギはフレイツガイストに喰われてからのことを告げた。

「おまえの弟は、あの巨人の中でおまえが自分に囚われないでほしいと願っていたぞ」
「ああ…俺も今、あいつにそう言われた」

 フレイツの声は、サイガにちゃんと届いたのだ。

「霊を使うこの俺が、逆に取り憑かれていたなんてな…」

 自嘲気味に笑うサイガ。まさに皮肉な話である。

「…行けよ」

 それがサイガに何をもたらしたかはわからない。

 確かなのは、サイガにはもう戦意がないということだった。



「何か後味が悪いよな」

 霊の間を後にして、達郎が口にする。他の皆も同じ気持ちだった。

「あの巨人の中に、フレイツが存在すると言ったけど…」

 佳幸が神妙な顔で話し始めた。

「実はフレイツ本人じゃなくて、あの人の弟に対する強い思いから生まれた、思念体だったんだよね」
「そうなんですか?」

 あの場にいなかったハヤテは彼らに尋ねる。

「ええ。本人が言っていました」
「それに、サイガは本当に霊の声が聞こえたんでしょうか?」

 伝助はその点を訝しんでいた。

「一般に霊能者と言っている人たちが聞いた霊の声というのは、実際は風の音だったりというのが多くありますからね」

 すると、全てはサイガの思い込みだったのであろうか?

 嫌な気分が、全員を沈黙させてしまう。

「まあ、あいつの心を救ったのはハヤテ、おまえだ。それは間違いねえよ」

 明るい調子で塁が軽くハヤテの肩を叩く。

「おまえはよくやったよ」
「…はい!」

 励まされ、ハヤテは元気を取り戻した。

「…あっ」

 そのまま先へと進もうとしたが、あることに気づく。

「伊澄さんは…?」



「ここはどこでしょう…?」

 いつの間にか霊の間から姿を消していた伊澄は、再び霊神宮のどこかをさまよっているのであった。




37話はこれで終了です
来年はどうなるかな…?