Re: 新世界への神話Drei 2月16日更新 ( No.64 )
日時: 2014/04/27 21:18
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

また空いてしまった…
月一の更新目指していたのに…

それでは、本編です


 9
「それならば納得できるが…とりあえず試してみるか」

 半信半疑の念を抱きながら、優馬はユニアースの角を再び手に取った。

 絶対とは言い切れないが、今度は違った反応を示すと感じていた。

「優馬さん?」

 ハヤテは槍を持ち直した彼を見て首を傾げた。

「ユニアースの角を使っても、ミークは見つけられないはずじゃ…」

 先程優馬がそれを用いて索敵しても捉えられなかったのは覚えている。角はちゃんと機能していたが、あやふやな反応をしたのだ。当てにならないものを使うことに疑うのは当然である。

 しかし優馬はハヤテを無視して、槍に集中し始めた。

 しばらくは沈黙がその場を支配していた。誰もが、雷矢や光たちも固唾を飲んで見守っている。

 全員が注目する中、そう長くない時間の後、槍に変化が起こった。

 頭上のある一転。そこに向かって槍から光が放たれたのだ。

「あそこに何が…」

 ハヤテたちは光が伸びていく先を見上げた。ユニアースの角は、あそこに何を見つけたのだろうか。自然と緊張してしまう。

「今度はうまくいったな」

 対して優馬は、安心と納得を口にしていた。

 安心はわかる。ユニアースの角が正確に捉えられるか不安が存在していたのだろうから。だが、納得はどういったことによるものだろうか。

「ミークの意識はあそこに集中しているのか」
「おい、いい加減私たちに説明せんか!」

 周囲を置き去りにして勝手に頷いている優馬を、ナギは拗ねた顔で見上げていた。

「ああ、すまん」

 気づいたら、全員ナギと同様に優馬を見つめていた。皆の視線は、優馬を促すものとなっていた。

 塁や伝助はともかく、子供たちにああいう目をされるのは苦手だ。優馬は内心苦笑しながら話を始めた。

「結論から言うと俺たちは思い違いをしていたんだ」

 思い違い?一体何に?

「俺たちはミークが作ったこの異空間に閉じ込められた。ここまでは合っているな」

 そう。ミークが自分たちの目前でスカイデッドホールのエネルギーを集中していたのを見ていたし、彼女自身も自分たちにそう言っていた。間違いのない事実だ。

「問題なのはここからだ。この中で俺たちはミークの攻撃を受けたことから、あいつもこの中にいて姿を消しているのかと思っていた。けど、それが違っていたんだ」

 優馬はここで一拍置き、それから一層重々しくこう述べた。

「ミークはただこの異空間にいるんじゃない。あいつ自身が、この異空間そのものになっていたんだ」

 これは重要なポイントである。だというのに、皆要領を得ずに呆然としていた。

 無理もないだろう。優馬も、自分は何を言っているのだと苦笑気味となるほど、わかりにくい説明であったからだ。

「なるほど」

 ただ一人、花南だけは理解ができたようだ。

「どうりで姿が見えないわけだわ。そう言うことならむしろ当然だもの」
「え?花南、わかったのかよ」

 訳知り顔で頷いている花南に不審を抱く達郎。そんな彼を含めた皆に、花南は優馬の話に補足を加えた。

「あの女は、自分自身すらこの異空間を形成するためのエネルギーとしたのよ。スカイデッドホールを仕掛ける時、あの女も光っていたしね」
「難しいけど、つまりミークはこの異空間を作るのに自分の命までかけたってことかしら?」

 話を聞いていたヒナギクは、要点を掻い摘んで正解かどうか聞いてみた。

「物分かりがいいわね」

 白皇学院の生徒会長を務めるだけのことはあると、花南は心の内で関心を抱いていた。

 命すらスカイデッドホールの糧としたということだから、この異空間がミーク自身と言っても間違いではないのだ。

「とにかく、そう言う訳でミークの姿はないも同然なんだ。だがあの女の意志はこの全域に行き届いている」

 とりあえず皆は理解したとみて、優馬は解説を再開する。

「だから俺は、ユニアースの角でどこにミークの意志の中心となるところがあるのか、それを探ったんだ」

 そして、見事に探し当てたということだ。槍が光で指し示した先こそが、ミークの意思が集中しているのだ。

「そこに向けて攻撃すれば、この異空間は破られるってことッスね!」

 全員、顔を見合わせて合点する。

「いくぞ!」

 佳幸、氷狩、伝助も自分たちの精霊と一体化し、仲間と共に攻撃に移る。

「俺たちの必殺技、喰らえ!」

 一同は槍が放つ光に沿うように一斉に必殺技を繰り出した。そのエネルギーは槍が指し示す光で一点に集い、そこにあるだろうミークの意思に襲いかかろうとする。

 レーザーサイトのような役割をしていた優馬は、ふと攻撃を仕掛けている仲間たちを見る。彼らの輪に混ざって攻撃に参加している、雷矢や光たちの姿も確認できた。

 手を取り合うことを拒むあの雷矢でさえ、自分たちと協力している。ハヤテたちの結束の固さに、自然と引き寄せられたのだろう。

「俺たちのチームワークは、一長一短だな」

 先程全員揃って天の間へ入り込むという危険なこともあれば、今のように他の奴らも引き入れることもあるから、正にその通りだ。

 それでも、この結束力の強さは頼もしく感じている優馬。これならば、勝てるだろうと信じていた。

 だが、ミークの底力は彼らの想像を超えていた。

「そ。そんな…これだけの威力を…」

 なんと、ミークはハヤテたちの必殺技をそのまま押し返そうとしているのだ。これには全員が驚愕した。まさかここまでやるとは…

 負けじとハヤテたちは押し返そうとするが、ミークの勢いを相殺するのが精一杯であった。一進一退で、必殺技の威力は双方から押し合わされていた。

「流石に命張っているだけはあるわね…」

 軽い口調で余裕を取り繕う花南だが、実際はそれほど楽ではない。

 この現状でも全力なのだ。少しでも油断したら返されてしまう。自分たちの必殺技でやられるわけにはいかないと気を引き締め続けていた。

 そんな状況の中で、優馬は自分が悔しかった。照準をつけるためにそちらに手が回せないとはいえ、自分も攻撃に参加できれば少しは加勢できたかもしれない。

 優馬は仲間たちを見やった。今は根性で持ちこたえているが、長引けばその精神力も尽きてしまう。

 その前に、なんとかして彼らを助けたい。

 そのための力が、欲しい!

 そう強く願った時、優馬の脳裏にあるビジョンが浮かんできた。

「これは…!」

 優馬は瞬時に理解した。ユニアースが何かを伝えている。その何かというのも、すぐにわかることができた。

「よし!いくぞユニアース!」

 槍を握る手に力がこもる。仲間を思う心の表れであるかのように。そしてその心が、優馬の背後に再び一角獣のオーラを浮かび上がらせた。

「ユニアースが教えてくれたこの新たな技、受けてみろ!」

 持てる力を全て、槍へと注ぎこんだ。槍が今までとは違う光を発していた。

「アースホーンバスター!」

 その力が、光線となって槍の穂から先程と同じ軌道で放たれた。索敵していた時より太めの光条は、迫力が増していた。

 優馬の新たな必殺技は先に放ったハヤテたちのそれと合わさり、少しずつ押し上げていく。ミークによって返されそうになっていた威力が再び勢いを取り戻しつつあるのだ。

 予想外の巻き返しに、ミークは驚愕していた。その証拠とも言うべきか、異空間が彼女の感情に同調して揺らぎだした。

「俺たちの力、受けてみろ!」

 優馬の叫びに込められた気合が力を振り絞らせる。もはやミークにはこれを止めることはできなかった。

「こ、こんなことが…」

 ミークの心情が響いたと同時に、優馬たちの必殺技がスパークした。その瞬間、この異空間が再び激しく震えた。



次回で第36話ラストです