Re: 新世界への神話Drei 5月15日更新 ( No.79 )
日時: 2016/07/09 17:09
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

お久しぶりです。

本編更新します


 3
 勇みよく前に出る達郎。意地を張っているのだから、その姿は滑稽にも見えた。

「本当に一人で俺と戦うつもりか?」

 戦う相手であるシェルドにまでそう心配されるのだから、達郎は腹立たしさを抑えることができなかった。

「何度も言わせんな!」

 そのはねっ返り様が、シェルドには好感を抱けたようだ。

「おまえの心意気を称え、特別に教えってやろう」

 だから、塩を送りたくなった。

「えっ、教えてくれるの?」
「ああ。知ったところでどうということはないからな」

 それは、自分は絶対負けないという自信の裏付けか、闘いを楽しむ者の気まぐれか。

 恐らく後者の気持ちの方が強いだろう。シェルドは高揚感を隠していないからだ。

「俺たち精霊の使者が力としている心、精神エネルギーは実は人間の誰もが持っているということは知っているな」
「えっ、そうなの?」

 精霊についてはじめて知ることが多い光、海、風の3人は近くにいたエイジに尋ねてみた。

「あ、ああ…」

 口調がはっきりしないところを見ると、エイジも半分はわかっていなかったのだろう。いや、自分たちにとって当然のことだったのでいつの間にか忘れていたという方が正しいだろう。

「今さらそんなことを言ってどうするんだ」

 この場で復習会なんてごめんだ。緊迫さに水が差された上に達郎は勉強が嫌いだ。小難しい話は遠慮してほしい。

「まあ聞け」

 達郎を少し宥めるようにしてから、シェルドは再び説明を始めた。

「さっき話した精神エネルギーの他に、人にはもう一つエネルギーをもっている」

 精神エネルギーとは別のもう一つのエネルギー。

 達郎たちはそれについて興味を引かれた。人間にはもう一つ、どんなエネルギーを持っているのか。

「それは常に人体の中を流れ巡っている。だがそれを自らコントロールするのは精神エネルギー以上に素質が必要とし、それを戦闘で使うには更に高等技術を身につけなければならない」

 そう言い、シェルドの周囲の空気が揺らぎ始めた。

「だがこの人が生きるための力、生命エネルギー。一部では闘気とも呼ぶが、それの威力は凄まじいものだ」

 そして彼は、掌を上にしてかざす。

「闘気は中々見ることはできないが、おまえたちの実力でも見えるようにしてやろう」

 シェルドは掌に力を集中し始める。すると、その掌が発していく。

 その手を、シェルドは離れの壁に向けて振るった。いや、手に帯びていた光を壁に向けて投げたのだ。光は真っ直ぐに飛んでいき、壁を砕いた。

「生命エネルギーはその流れを身体の中で活性化させることができるが、熟練した者はこのように精神エネルギー以上の威力を持ったエネルギー弾として飛ばすことができる」

 この光景を見て、ハヤテたちは悟った。

 離れた相手に拳を当てることができたのは、拳に乗せた闘気を相手に飛ばして当てていたからだ。

「解説は以上だ」

 シェルドは再び達郎に向き直る。

「さあ、やろうか」
「ああ、やってやるぜ!」

 達郎もシャーグインと一体化し、戦闘態勢を整えた。

 その途端、達郎は吹っ飛ばされてしまった。塁の時と同じように、シェルドの闘気を受けてしまったのだ。

「い、いきなりなんて卑怯だぞ!」

 起きながら、達郎は刺々しい口調で責める。しかし、シェルドはそれを軽く流した。

「おいおい、戦いはもう始まってんだぞ。卑怯はないだろう」

 正論である。達郎は何も言い返せなくなってしまう。

「ちくしょう、見てろ!」

 苛立ちのままに達郎はシェルドに向かって駆け出し、一気に殴りかかった。しかし、力み過ぎているのか伝助のラッシュに比べて速度は遅くシェルドに簡単に見切られてしまう。

 そこから達郎は突き飛ばされ、またシェルドと距離ができてしまう。

 また、あの拳が来る!

 達郎はとっさに身構えて迎え撃とうとするが、防御をとる暇もなくやられてしまった。

 厄介な技だ。二度も受けて達郎は実感する。

 それは闘気の威力だけではない。それ以上に、闘気を飛ばすために繰り出す拳の速度だ。

 あの速度で殴れば、とてつもない威力を持つだろう。闘気はそれを倍増させているだけだ。

 恐らくあの一撃にシェルドの全てが込められているのだろう。あれ程のスピードは、自分たちを遥かに超えており、そうなかなか出せるものではない。

「何とかしてあの拳を見切らないと…」

 あの拳の速さを捉える事が出来ればかわすことが、最悪でも防御をとってこらえることができるかもしれない。

「無理だな」

 その希望を、シェルドは一蹴した。
「俺が放つ拳のスピードは、青銅クラスはおろか白銀クラスでさえも出せない。そんなスピードを、どうやって見切るというんだ?」

 理にかなったように聞こえたので、達郎はつい押し黙ってしまう。そんな彼に畳みかけるように、シェルドは更に言い放った。

「よしんば見切ることができても、おまえの攻撃は俺には通じないさ」
「な、なんだと!」

 この言葉は、沸点の低い達郎を怒らせるには十分だった。

「んなことは、こいつを喰らっても言えるか!?」

 達郎は怒りのままに必殺技を放つ。

「ハイドロスプラッシュ!」

 以前のものよりも大きな水流がシェルドを呑みこもうとする。だというのに、シェルドは逃げる素振りを見せない。

 それどころか、拳を構えて殴る体勢をとった。

「無駄だ!」

 気合と共に、シェルドは必殺の拳を放った。

 その威力は、水を割りそのまま達郎を襲う。驚く間もなく、とてつもない衝撃を受け達郎は倒れてしまう。

 必殺技まで破られるなんて。奴の言うとおり通用しないのか。

 自信も砕かれた達郎に、シェルドは容赦ない言葉を浴びせた。

「おまえの攻撃は一見すると迫力はあるが、見た目だけだ。派手な見かけ倒しに過ぎん」

 はっきりとシェルドは断言する。

「そんな技では、この俺を倒すことはできん!」

 突き立てられた達郎の敗北宣言。

 達郎はそれをすぐには受け入れられなかった。

「そんなことが…」

 彼はシェルドに気づかれずに彼の背後へ回り込む。

「あってたまるか!」

 そこからシェルドを抱え、あろうことか達郎を投げ飛ばそうとする。

「ちょっと、止めるんだ達!」

 すかさず佳幸は制止の声をかけた。

 シャーグインはパワーがある方じゃない!フィストネルと一体化したシェルドを投げ飛ばすなんてことは無理だ!」

 それは事実であり、かつ佳幸の達郎への思いやりであった。しかし、それは達郎を更に意固地にさせる。

「見てろ…必ず決めてやる…」

 少しずつ、シェルドの身体が床から上がっていく。

 これならいけると達郎は思った。非力な自分でも、シェルドを持ち上げることができたのだから、投げ飛ばすことだってできるはずだ。

 だが、シェルドは冷静だった。

「腕の力を入れ過ぎだ。これでは簡単に抜けられてしまうぞ」

 そう言って、達郎の腕から容易に飛び上がって脱出してしまう。更に全体重をかけたシェルドの逆襲が見事に決まった。

 手痛い一撃に、達郎はその場でうずくまってしまった。

「これでわかっただろう、おまえの技が派手な見かけ倒しだということが」

 よろめきながら起き上がる達郎を、シェルドは見下ろしている。

「対して、俺の必殺技はシンプルだが、破るのは難しい」

 そう語るシェルドの背後に、達郎は見た。

 浮かび上がる拳闘士のオーラに、達郎は思わず竦んでしまう。

「証拠としてこの俺の全力を込めた必殺技、グランドフィストを受けてみろ!」

 今まで以上の闘気を帯びた拳を、達郎に叩きこんだシェルド。

 全力の必殺技をそのまま腹に受けた達郎は、その威力のままふっ飛ばされてしまう。

 成す術もなく一方的にここまで打ちのめされた。

 その事実を、倒れながら達郎は痛感していた。悔しさはなかった。それさえも打ち砕かれたみたいだ。

 闘志さえも消えてしまった。今の達郎は脱力し切っていた。

 それを示すかのように、達郎のシャーグインとの一体化も解かれてしまう。

「さて、次はだれが相手だ?」

 達郎はもう戦闘不能とみなし、シェルドは残りの皆に顔を向けた。





今回はここまでです