Re: 新世界への神話Drei 7月12日更新 ( No.33 )
日時: 2012/07/26 21:14
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

どうも。
約二週間ぶりの更新となります。待たせてしまった方はすみません。

そして、唐突ですが今回で34話は終わりです。
長めですが、楽しんでください。


それでは、どうぞ。



 3
 よろよろと倒れこみそうになる佳幸だが、青龍刀を杖代わりにしてその身を支える。

「大丈夫?花南さん」

 佳幸の問いに、花南は黙って頷く。

「危なくなったら盾になるって、言ったからね…」

 そう。ムラサキノヤカタで交わした約束。佳幸は自ら告げたことを、本当に行っただけだ。

 黄金の使者の必殺技が持つ威力は桁違いだ。無防備で受けることは自殺行為に等しいことである。

 それでも、佳幸は花南の代わりに必殺技を受けた。自ら傷つくことを承知して。

「何度でも盾になるよ。だから花南さんは安心して戦って」

 佳幸にとって彼女にどんなに大きい危険が迫ろうとも、前に出て守ろうとする。恐れ以上に守りたいと思うほど、花南は大切な存在であった。

 そして花南も、彼と同様の思いを抱いていた。

「わかったわ」

 自分の油断で一番に思っている人が傷ついてしまったことに、花南は強く自責していたが、それ以上に守ってくれたことに対する嬉しさが大きかった。

 それは花南を立ち上がらせ、彼女の気を奮い立たせる以上に有り余っていた。お互いの想いが、力になるという証と言えよう。

「なるほど。それが絆の力というわけか」

 ロクウェルは花南と佳幸を見て納得していた。

「傷ついて立ち上がることができたわけだが、その状態で戦えるのか?」
「私が駄目だったとしても、皆がいるわよ」

 花南は佳幸やヒナギクたちを指しながら言う。

「私たちは明智天帥のところへ行くために戦っているわ。手を取り合って。個人の実力では黄金の使者に敵わなくても、一人じゃないから力を合わせることができる」

 花南を良くは知らないナギは意外に思った。人に対しては突っぱねる態度をとる彼女から協力というものを説き出したからだ。

 だがヒナギクや花南の仲間たちはわかっていた。彼女が個人は絆のために、絆は個人のために力を尽くすものだと考えていることを理解しているということを。

「種はそれだけでは芽を伸ばさない。土や水などの恩恵を受けて花を咲かせるように、例え弱くても一致し合えば実を結ぶことができるのよ」

 そんな思いを抱いている花南の腕に着けてある、フラワーリングが呼応するように光り出す。

「木の属性が必要とする魂の資質は友情だったな」

 花南のリングを見せながらロクウェルは呟く。

「その思いが、奴としての友情というわけか…」

 ここに来て、ロクウェルは迷いだした。花南をはじめとした八闘士たちはスセリヒメの名を騙る三千院ナギと共に霊神宮に仇なそうとしていると、明智天帥から聞かされていた。それを討つのは、精霊の使者として当然のこと。自分が最高位の黄金ランクならば尚更従わなければ、下の者たちに示しもつかない。

 だが実際に花南と戦って、彼女の強さ、特に心を見て、本当に討つべき相手なのかどうか躊躇してしまう。このような人物たちが、悪事を働くとはとても思えない。それでも、賢明大聖と並ぶほど名高いあの明智天帥が嘘をつくとも思えない。

「おまえのような奴を、放っておくわけにはいかないな」

 結局のところ、ロクウェルには戦うという選択肢しかなかった。

 どちらにせよ、これだけの力を持つものを無視することはできないからだ。

「あら、黄金の使者ともあろうものが、青銅相手にムキになるとはね」

 花南は皮肉気にロクウェルを挑発していく。

「これ以上みっともないところを見せないためにも、今度こそあの必殺技でとどめを刺すべきじゃないかしら?」

 傍から見ればそれは命知らずな行為であった。明らかに花南は深いダメージを負っているため、まともに戦える状態ではない。必殺技でなくても、小技で突かれただけで倒されるのは目に見えている。

「花南!ここからは私も一緒に…」
「余計なお世話よ」

 加勢しようとするヒナギクを手で制する花南。

「あんたが入っていったら、かえってややこしくなるだけよ」

 相も変わらずの憎まれ口を叩くが、その内にはヒナギクたちへの配慮が含まれていた。

 今はまだ協力して戦うところではない。なんとかして突破口を開くが、せめて勢いをこちらに向かわせなければならない。それを果たさない限り仲間たちに申し訳がない気がするために、花南に引くつもりなどなかった。

「な、なんですって!」

 しかし、言葉の表面だけをとってしまったヒナギクは、カっとなってつい花南に掴みかかろうとしてしまう。

 そんな彼女を、エイジと拓実が抑える。

「まあまあヒナギクさん、落ち着いてッス」
「ここは花南に任せよう」

 宥める二人だが、ヒナギクと同様の不安を抱いていた。あれで本当に戦えるのかと。

 だが八闘士たち全員は花南を疑っていなかった。彼女は勝算もなしに闇雲に突っ込むような馬鹿ではない。

 そんな彼らが思ったとおり、花南には一つだけ手が残されていた。ロクウェルを挑発したのも、そのための賭けであった。

「…よかろう」

 そして、黄金の使者としてのプライドを抱くロクウェルは、あえて乗って来た。

「今度こそ受けよ!我が最大の拳を!」

 ロクウェルが距離をとり、溶岩の拳を再び構えた。

 それを見た花南は、何を思ったのか全身の力を抜きはじめた。体勢もどこか変である。

「ボルケーノバースト!」

 そんな彼女の身に、ロクウェルの拳が見事に入った。

 花南の身が宙に舞う。誰もがやられてしまったとそれを見て思ってしまうだろう。

 だが、ロクウェルには違和感があった。

「手応えがない…?」

 仕留めた実感がわかないのだ。こう、威力を受け流されたというか、吸収されたような。

「まさか!」

 そこでロクウェルは、花南が何を企んでいたのか察した。

 彼女は、自分の必殺技を利用するつもりだったのだ。そんなロクウェルの心中での推理を正解だと示すように花南が言った。

「小細工が効かない以上真っ向から勝負するしかない。けど、青銅と黄金で単純に力をぶつけ合っても結果は見えているわ。だから、私の力にあんたの力をくわえさせてもらったのよ」

 花南が力を抜いた姿勢をとったのは、ボルケーノバーストの威力をその身に纏うため。自らの力自体はロクウェルに圧倒的に劣っていても、吸収した威力を上乗せすれば大きなものへと変わる。

 花南の狙いに愕然とするロクウェル。必殺技を放ち、尚且つそれでとどめに至らなかったことも動揺する要因となったのだろう。

 地中から伸びてきた蔦に、彼女はすぐに気付かなかった。

「これは!」

 縛られ、身動きができない中ロクウェルは悟った。

 これは大技を放つための仕掛けだ。照準をつけられないために、こうして相手が逃げられないようにしている、と。

 その隙に花南は空中で植物のような杖を、二本取り出した。

「スタークロッド二本なら、十分通用するはず」

 ただ今までのスタークロッドとは違い、先端には鋭く尖った蕾のようなものがついてあった。

 更にそこから杖の先をロクウェルに向けて、体勢をまっすぐに伸ばす。

「そして自分の体を回転させることで、パワーが上乗せされる!」

 そのまま、錐揉み回転する花南。その速度は、風を切る音が聞こえたほどだ。

 花南は今から繰り出そうとする一撃に気迫を込めている。今までのどの技のものよりもはるかに大きいと、見ただけで佳幸たちにはそれが伝わってくる。

 その凄まじさを物語ったのか、花南のバックにほんの一瞬だけ満開となった花のオーラが浮かび上がったのだ。

「あれは!」

 黄金の使者であるロクウェルは驚きに声をあげる。

 まさか、追い込まれたこの状況で、花南がマインドを発動させたなんて思いもしなかったことだ。

 そして花南は、激しく回転しながらロクウェル目掛けて突撃し出した。

「喰らいなさい!スパイラルバッド!」

 杖の先をロクウェルに向けたまま自身を弾丸として飛んでいくその姿には、とてつもない迫力というものが感じられた。

 ロクウェルは拘束を破ろうともがくが、蔦は緩まず絡みついたまま彼女を逃さない。

 彼女は焦っていた。花南のあの技には自分の技の威力が、しかも倍増されて込められているのだ。しかも花南はマインドを発動させているため、精神エネルギーは全開だ。

 あれを受けてしまえば自分はやられてしまう。そう確信したからこそロクウェルは蔦と格闘しているのだ。

 そうしている間にも花南は猛スピードでロクウェルとの距離を詰めていく。周囲で見ている佳幸たちは、花南の勝利を疑わなかった。

 だが。

「黄金の使者は、そう簡単にやられるものではない!」

 ロクウェルはマインドを発動させて、力任せに蔦を引きちぎった。

「そんな!?さっきよりも強く押さえつけているはずよ!」

 相手の底力に驚いてしまうが、今さら技を止めることはできない。それにもう相手の目前まで迫っているのだ。ロクウェルが今から避けようとしても間に合いはしまい。

 ならば、真っ向から立ち向かうしかない。

 そう判断したロクウェルは、右手から鉤爪を出現させ、前へと突き立てる。

 鉤爪と回転する蕾の先同士が、そのまま激突し合った。

 右手に力を込めるロクウェル。そこから鉤爪で花南を弾き返そうとした。

 しかしそれよりも先に、鉤爪にひびが入って来た。

「くっ、もたない?」

 瞬時にそう判断したロクウェルは、鉤爪を軸にして右側へ回るように後方へと下がり出す。

 刹那、鉤爪は砕け散ったが、花南はロクウェルの鼻先をかすめて通り過ぎてしまった。

 そのままでは地面に衝突してしまうところで、花南は咄嗟に滑りながら着地をする。しかし、彼女はほぼ放心状態であった。

 自身の最大で、起死回生となる必殺技が寸前のところで避けられたのだ。それも、逃げられないように縛っておいたにもかかわらず、だ。愕然としてしまうのも当たり前である。

 とにかくこれで花南には打つ手がなくなった。もうロクウェルには抵抗することもできない。

 ロクウェルを見てみると、彼女は俯いて震えていた。鉤爪を砕いたことに怒りを抱いているのだろうか。

 今からロクウェルの猛攻が始まるに違いない。花南は自分の身がぼろぼろに痛めつけられてしまうことを覚悟していた。

 だが、ロクウェルは。

「ハハハハハ!こいつは驚いた!」

 突然、豪快に笑いだしたロクウェルに、一同は呆気にとられてしまう。

「ハハハ、失礼。まさか鉤爪が折れるなんて思わなかったからな」

 そう言って、折れてしまった鉤爪をつけている右手を上げる。

「このハンタークローは今までどんな相手でも仕留めてきた自慢の得物で、私のプライドでもあるのだ」

 今まで経験してきた戦いの中で鉤爪を使っていた場面でも思い出しているのか、ロクウェルの声には懐かしみが含まれているような気がした。

「その鉤爪を折ったのはおまえが初めてだ。本当に、おまえたちには底が見えない力を持っているのだな」

 そこまで言うと、ロクウェルは一体化を解いた。それと同時に、彼女の背後に見える出口の扉がゆっくりと開かれていく。

「行け」

 ロクウェルは、その背後の扉を指した。

「私のプライドを折ったのだ。それは、おまえたちの勝利にも等しいからな」
「え…?」

 素直に負けを認めたことが意外に思えたため、一同はロクウェルに注目しながら間抜けな声を漏らしてしまう。

「ほ、本当に?」

 達郎は恐る恐る尋ねてみた。

「ああ、本当だ」

 ロクウェルはあっさりと頷いた。

 それを見た途端、全員は顔を明るくした。

「やったあ!」

 苦戦はしたが、なんとか最初の関門を突破できたことに喜びを露にする。

 これから先も戦いが続く中で、鷹が初戦に大げさな、とも思ってしまうだろうが、この勝利の意味は大きかった。

 勢いという面でもそうだが、なのよりも青銅に対して雲の上の存在であるような黄金の使者に自分たちの技は、思いは通じるのだと。不可能ではないのだということを証明したのだから。

「大丈夫、花南さん?」

 佳幸は立ち上がろうとするこの戦いの功労者に手を差し出す。

「平気よ」

 口では強がりを言うものの、花南はその手をしっかりと取る。やはりその身に蓄積されたダメージは相当大きいのだろう。

 そんな状態で、しかもたった一人で勝利を収めた彼女に仲間たちは称賛を送った。

「すごいぜ花南。たった一人で勝っちまうなんて」
「マグマエルプトを受けてしまった時はもうダメかと思ったが、大したものだ」

 褒め言葉を口にする中で、仲間たちは内心こうも思っていた。

 この先の戦いは自分の番だ。彼女以上に頑張らなければならないと。

 それがわかっているから、花南はあえていつものクールな調子で言い捨てた。

「そんなに興奮することはないでしょ。私が戦うからには勝つのが当たり前なんだから」

 まあ、幾度か本当に挫けそうになったがそんな胸中は口にしなかった。余計なこと言うほど、彼女は愚かではないからだ。

「それよりも、早く先に進みましょう」
「ああ、そうだな!」

 しかし、気分がよいのか仲間たちは憎まれ口を叩かれてもいちいち怒りはせず、言われた通りに出口へと向かい出した。

「花南」

 そして、彼らの後に続こうとした彼女を、ロクウェルが呼び止めた。

「これから先も私の時のようにうまくいくとは限らん。明智天帥のところまで辿り着くことは楽ではないと思え」

 対して花南は、小気味良い笑顔を見せながら言い返した。

「忠告ありがとう。けど、相手がどんなに強くても、私たちはただ突き進むことしかできないのだから、怯える暇はないわ」
「いい心意気だ」

 ロクウェルは満足そうに頷いた。

 自分が認めただけのことはある、と言うふうに。

「その気持ちを忘れてはいけないぞ。それと…」

 ロクウェルは次いで、佳幸の方を顎でしゃくった。

「あんないい男、手放してはいけないぞ」
「それは、余計なお世話というものよ」

 そう言い捨てて、花南も去っていく。

 そんな彼女の背を、ロクウェルはどこか期待を込めて見送っていた。



 次の間へと移動中、ナギは花南を見ながら歩いていた。

「…どうしたの?」

 ナギの視線に気づいて、花南は振り向いた。

「あ、その大したことじゃない」

 何を言おうか戸惑ってしまったことと、花南の目つきが鋭かったため、ナギは気圧され一瞬どもってしまう。

「ただすごいと思っただけだ。仲間がいるのに、あそこまで強がろうとするなんてな」

 それは幾ばくかの呆れも込めていた。戦いの中で花南は自分が倒れても皆がやってくれると言った。ならば、最初から協力し合っていた方が楽に戦えたはずだ。それを、プライドのために自ら傷ついたなんて、考えれば馬鹿らしいではないか。

 しかし花南がナギに返したのは、同様の皮肉であった。

「あら、いつも見栄張るような態度をとるあんたがそれを言うかしら?」
「わ、私は見栄を張ってなどない!」

 ナギは声を張って否定する。ムキになった彼女を愉快そうに見ながらも、花南は真剣な口調で言った。

「仲間がいるから、こそよ」

 淡々としているため、意味がわからず首を傾げるナギ。そんな彼女に構わず花南は続けた。

「仲間の前で強がることでもできるのなら、みっともなく倒れているわけにはいかないのよ」

 それだけ言って、花南は先へと行ってしまった。

 益々理解が難しくなってしまう。仲間と協力するより、自尊心を優先させるのか。仲間がいるからそんなことをする必要があるのだろうか。なんのために仲間がいるというのだろうか。普通はそう考えてしまう。

「…そうか」

 だがナギは、そしてハヤテやヒナギクは察した。花南の心中を。

 花南があのように一人で戦おうとしているが、それは仲間のためにやろうとしている。先ほどの発言も、仲間のために強がることしかできないなら、望んで強がろうとする意志の表れでもあった。

 あるいは、本当にただみっともないところを見せたくないだけかもしれない。いずれにせよ、花南の行動には、仲間を意識したものがほとんどであることだ。

 だから、花南の魂の資質が友情なのも、なんとなくだが納得できた。

 そして、花南が仲間でよかったと思っていた。

「さあ、次はあんたたちがしっかりと働いてもらわないとね。この私が活躍したのに、無様な戦いをしたら許さないわよ」

 この態度がある限りは、本当に良かったのかと不安になるのではあったのだが。






34話はこれで終了です。

次回からは、あの男のお話です。