Re: 新世界への神話Drei 4月27日更新 ( No.65 )
日時: 2014/05/10 21:39
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

更新します。
36話ラストです。

雷矢が出る話は長いな…


 10
 必殺技が炸裂し、異空間が消えた。

 それにより、ハヤテたちは天の間へと戻っていた。

「スカイデッドホールが破られたのか」
「ミークはどこだ?」

 一同はミークの姿を求め辺りを見渡す。

「あ、あそこに」

 ヒナギクが指差したのは自分たちの後方。

 振り返ると、そこにミークがうつぶせで倒れていた。彼女はピクリとも動かず固まっていた。

「…死んだのか?」

 まさかという思いで塁は恐る恐る呟く。

「いや、生きている」

 それに対して、優馬がミークから目を放さずに答えた。

「スカイデッドホールが破られた反動が、全部自分に跳ね返ったんだろう」

 自分自身まであの必殺技に捧げたのだ。ハイリスクハイリターンということか効果は絶大だったが、破られたときに跳ね返ってくる威力も当然絶大である。

 それを受けたミークはもはや戦える状態ではなかった。誰が見てもそう思うだろう。一体化は解かれ、瀕死しているのだから。

 だがそれでも、尚もミークは戦おうとしていた。再び動き出した彼女は、顔を上げて敵意をこめた眼でこちらを睨んでいる。

「もうやめろ」

 立ち上がろうとするミークだが、全身に力が入らないのかまた倒れてしまう。諦めずに何度も起きようとする彼女に、優馬は言葉をかけた。

「その様子じゃ戦いは無理だ。負けを認めろ」

 冷たい言い方だが、優馬なりにミークを案じていた。これ以上戦いを続ければ、彼女にとって危険すぎるからだ。敵とはいえ無理をした結果壊れていく様を、優馬は見たくなかった。

 しかし、ミークは優馬の言葉など聞き入れようとはしなかった。

「なにを…私は明智天師のためになら自分のことなんて…」
「バカヤロウ!」

 頑固なミークの態度に、遂に堪忍袋の緒が切れた優馬は乱暴な足取りで彼女へと近づきながら怒鳴り出す。

「目の前でそんなこと言われちゃたまんねえんだよ!」

 そう言いながら、優馬は肩でミークを担ぎ起こそうとする。

「命を捨てるのは勝手だが、そのタイミングを考えろ!」
「そうね…」

 そこで、ミークの口角が吊り上がった。

 様子が変わったのを感じた優馬はミークを見やるが、当の彼女は彼のことなど構いもせずに笑いだした。

 何がおかしいのか。

 気に障った優馬にミークは勝ち誇ったように告げる。

「確かにあなたの言う通りね。こうして冥土の土産ができたのだから…」

 そして、ゼオラフィムに別の空間を開けさせる。優馬は瞬時に悟った。ミークは最後の抵抗として、自分を道連れに別空間へと身を投げ出そうとしているのだ。

「せめて敵の一人でも数を減らさなきゃ、申し訳が立たないのよ!」

 ミークがそう言った途端、別空間の入口から吸引力が発せられた。その力は強く、ミークをも飲み込もうと引き寄せようとする。

 当然、ミークを担いでいる優馬も引きずり込まれようとしていた。

「じょ、冗談じゃねえ!俺は付き合うつもりはねえ!」

 優馬は最初ミークを担いだまま別空間から逃れようと試みて、それが無理だと察するとミークを置いて自分だけでも逃げようとする。

 しかし、ミークにしっかりと掴まれ優馬は身動きが取れなくなってしまう。

「あなたにそのつもりがなくても、私は絶対放さないわよ」

 いい迷惑である。

 だが、ミークはどうあっても優馬と一緒にいくようだ。瀕死の状態であるというのに強い力で彼にしがみつくその様子は、まるでゾンビのようだ。どこにそんな力があるのだろうか。

 ミークのしがみつく力が予想以上に強く、優馬は振りほどくことができない。

 このまま、ミークと共に別空間へと飛ばされるのだろうか。

「…しょうがないか」

 ふいに優馬はミークを引きはがすことも別空間から逃げることも諦めた。

 心中しようとするミークは気に喰わない。だが、ミークに不用心に近づいたのは自分だ。迂闊な自分の責任だ。

 だが優馬は後悔していなかった。ミークを放っておくことはできなかった。このように彼女が腹に一物を抱えていたことを知っていたとしても、だ。

 何があろうと、例え敵であろうと手を差し伸べる。戦う者にとっては弱点となる性分だが、優馬自身は気に留めてはおらず、変わろうとも思っていない。

 彼の根底には、人を憂う心が大部分を占めているのだ。

 ミークと道連れになりそうになっても、口にしたようにしょうがないと捉えていた。

「こいつも、一人だけじゃさびしいからな」

 そんなことを考えていた時だった。

 突然、優馬は何かの力によってミークから引き離された。その勢いのまま、優馬は前から無様に倒れこんでしまう。

「痛たたた…誰だ!?」

 優馬は半身を起して振り向いた。今のは誰かに掴まれ、投げ飛ばされたのだ。助けられたとはいえ、乱暴な扱われ方をされたことに腹を立てて一言申そうとした。

 その相手は、優馬が絶句してしまう人物であった。

「な、おまえなんで…」

 一瞬、優馬は自分が見たものを疑ってしまう。

「どういうつもりだ!」

 それは、雷矢がミークを抑えていた光景であった。そこから察するに、優馬を助けたのは雷矢なのであろう。

 優馬は信じられなかった。

 あの冷徹な雷矢が、かつて敵であった自分を助けたなんて。

 一体、どういうつもりなのか。そんな気持ちを込めて叫ぶと、雷矢は不敵な態度で返した。

「どうもこうもない。ただそうしたかっただけだ」

 ふざけるなと優馬は更に怒りを募らせるが、それを口にする前に雷矢は続けた。

「貴様と同じようなものだ」

 つまり、彼もただ自分がやりたかったことを行動したということだ。同じ理屈だったということが何を感じさせたのか。優馬は何も言えなくなってしまう。

「…頼んだぞ」

 その言葉を最後に、雷矢はミークと共に飲み込まれていった。

 別の空間への入口が閉じ、天の間に残ったのは優馬、ハヤテたちとなった。彼らはただ何も言えずに黙ったままでいた。

 それ程、雷矢の取った行動が衝撃的だったのだ。

「…行くぞ」

 しばらくして、優馬がユニアースとの一体化を解き、その場から踵を返した。彼はハヤテの側に通ると、足を止めてこう告げた。

「言っとくが、ショックで動けねえんならここで置いていくからな」
「ちょっと、そんな言い方…」

 遠慮のない物言いに、海は食ってかかるが。

「あいつの言葉を無視する気か!」

 声が荒くなったのは、それだけ感情が込められているからであろう。

「あいつは、この先のことを俺たちに頼んだんだぞ…」

 雷矢にどんな意図があったかわからないが、優馬はそのように捉えていた。

「…そうね」

 優馬の意志に触れ、海は考えを改めた。光も最初は浮かない顔をしていたが、風に励まされるように肩を掴まれて、元気を取り戻す。

「残るなんて言いませんよ」

 そして、ハヤテの意志も固かった。

「お嬢様は先に行かなければなりませんから、僕も一緒に目指します。僕はお嬢様の執事ですから」

 執事としての使命を全うしようとする姿勢に、優馬は少し頼もしさを覚えた。雷矢が連れてきた三人の少女も、あの男が同行を許しているのだから大丈夫だろう。

「けどあなた、意外とあの人のこと信頼しているのね」

 海はもう優馬に対して反抗的でなくなっていた。明るい調子で優馬の肩に手を伸ばして友好の意を示した。

 だがその途端、優馬はその場で硬直してしまう。

「?どうしたの?」

 様子が変わったことに異変を感じ、海や光は優馬の顔を覗き込むが、優馬にとって彼女たちに応じるどころではなかった。

 なんと、優馬はその場で倒れこんでしまったではないか。

「ちょ、優馬さん!?」

 さすがにハヤテも驚愕し、何事かと優馬のもとへ駆け寄った。

 一体優馬に何があったのか。ハヤテたちは訳がわからず混乱してしまうが、優馬と深い付き合いのある仲間たちは呆れて肩を竦めていた。

「やれやれ、気を抜くとすぐこうなるんだから」

 拓実はため息をついた後、ハヤテたちに説明した。

「優馬さんは女性に対して免疫がない、ガチガチな硬派なんだ。少し触れただけで気絶してしまうほどにね」

 そんな馬鹿な話があるのだろうか。

 だが、現実に優馬が倒れているのだから、真実なのだろう。

「まあ、こうなったのは色々と理由があるんだけどな」
「なんとか克服できるようになったんですけど、戦いが終わったから気を抜いたんでしょうね」

 苦笑を混じえながら、塁と伝助は優馬を肩で抱え上げた。二人をはじめ、皆優馬に対して温かく接していた。

 その理由を、ヒナギクは察していた。

「人のことを考える人には、自然と優しくするものね…」

 不器用だが、優馬は人のことを思いやっている。だから周りも優しくなる。

 そんな彼だからこそ、土の属性の精霊に、優しさの魂の資質を持つ使者に相応しいと感じていた。

「よし、次の間へと急ぐのだ!」

 ナギが威勢よく歩き出す。

 先導を切るその姿は人のことなどお構いなしに見えるが、それでも自分たちは付いてきてしまうから不思議である。

「あの子も優しいってことなのかしら?」

 そんなことを考えては微笑んだヒナギクも、第四の間に向かって進み出すのであった。



これで第36話は終わりです。
本当に長かった…