Re: 新世界への神話 ( No.1 ) |
- 日時: 2009/08/11 18:06
- 名前: RIDE
- 更新します。
ですが、まだ第1話とはいきません。ご了承ください。
プロローグ2
男は、気持ち良さそうに空を眺めていた。
「ふぅ、この星の空も青いなあ」
異なる星々と航行ができるようになっている時代、宇宙全体に激震が走った戦争が起こった。男の故郷はその主戦場になったが、失われた太古の技術が復活したこともあって、戦争が終わってまだ間もない今、復興は進んでいる。
男がいる星は、故郷に似ているが違う。故郷ではまだはるか遠くの異性との航行技術がまだ発展途中だが、男にそんなことは関係なく、現在は宇宙旅行を楽しんでいる。
「おっ、あれは・・・・」
そんな時男の目に留まったのは、宇宙船であった。男にはそれに乗っている人物の顔が容易に思い浮かべた。自分を捕まえに来たのだという目的さえも。
「おもしろい。いつものことだが、そう簡単にはいかないぜ」
人が悪そうな笑みを浮かべて、自分のロボットを隠しているところまで駆けだした。ロボットに乗り込み起動させると、そのまま飛び上がって宇宙船の後ろについた。
「ふふふ・・・・俺の姿が見えるかな・・・・?見えないよな・・・・?」
男のロボットにはあらゆるレーダー類からロストできるシステムを積んでおり、宇宙船からはこちらを見つけることは絶対に不可能である。向こうのパイロットが必死に自分を探しているだろうと想像すると、おかしさが込みあがり、男は笑いをこらえていた。
だがそう楽しんでもいられなかった。宇宙船の進行方向に歪みみたいなものが生じ始めた。このままでは飲み込まれてしまう。
「まずいっ!」
今にも歪みの力に引きずられそうになっている宇宙船を、男のロボットが引き戻そうとする。宇宙船のほうが大型であるのにも関わらず、コクピットにいる男の両の拳が光ると、ロボットは力を発揮し、宇宙船の救出に成功する。しかし、急激に負荷を与えたので、動力系統、フレーム等が故障してしまった。
「まずいな・・・・」
システムもダウンしてしまい、機体も思うように動かせないため、逃げることもできない。仕方がないと、男は覚悟を決め、宇宙船を地上に降ろし始めた。
「この野郎!」
宇宙船から降りてきたバンダナを巻いた男は、ロボットから降りてきた男を手加減抜きで殴った。
「ちょっと!」
同じく宇宙船から降りてきた、赤みを帯びたオレンジ色の髪の女が、バンダナの男を止めようとする。
「けどよ・・・・」
バンダナの男は、目に涙をためてわめいた。
「俺たちに戦後処理押しつけて・・・・。皆死んだと思ってんのに自分は何事もなかったかのようにぶらぶらしやがってよ・・・・」 「悪いな」
男は、穏和な笑みを見せた。
「平和になった今、俺は表舞台から退いたほうがいいと思ってな。だから、お前らを見守ることにしたんだ。本当に、苦労かけてすまんな」 「おまえ・・・・」
バンダナの男は、男に寄ってくる。
「キレイにまとめようとしてんじゃねぇー!!」
そして男の体を思いきり締め上げた。
「どうせおまえ、俺たちを高みの見物のように楽しんでただけだろうが!」 「痛い、痛い痛い!」
猛烈な痛みに、男の表情がひどく歪む。 「もう、そのへんにしとけば」 「そうよ、止めなさい」
それまで傍観していた、3人目の宇宙船の搭乗者である眼鏡をかけた女も、二人の取っ組み合いを止める。
「でも、どうして急に空間が歪みだしたのかしら」 「ここだけじゃない」
男は、先程とは打って変わり、真剣な口調で語りだした。
「まだ公に知られてはいねぇが、ここのところ空間の歪みが頻繁に起こっている。今回で確認できた中では4回目だ」 「例の遺跡や転送装置がイカレたんじゃねぇのか?」 「それも違うみてぇだ。まったく原因が分からねえ」
頭を抱えてしまう男。バンダナの男たちも同様に悩んでしまう。
「それについてお答えしよう」
そんな時だった。4人の背後にいつの間にか人が立っていた。気配もしなかったので当然驚く。
「だ、誰だおまえ!?」
こちらの動揺もよそに、その男は答えた。
「私は賢明大聖。精霊界の霊神宮を預かっているものだ」 「精霊界・・・・?」
それを聞くと、男は呆れたように溜息をついた。
「やれやれ、こんなすぐに三界に関わるなんて思いもしなかったぜ」
この前の戦争で暗躍していた人物の狙いも、三界に関わっていたため、それについてはすでに存じていた。何度聞いても雲をつかむような話であるのだが、自分と目の前の男はその生き証人になるのだから、真実ではあるのだ。
「私たちの世界に、この世界の住人が入り込んでしまったせいで、空間の歪みが生じてしまったのだ。だから、その人物を捕らえてもらいたい」 「思ったより話短けぇな・・・・ってかあんた、人の話聞く気ねえだろ?」
バンダナの男は胡散臭そうに賢明大聖を睨むが、
「ああ、わかった」 「って、即答かよ!?」
バンダナの男は、突っ込まずにはいられなかった。
「おまえらはもう少しこの世界で調査をしてくれ。あとこいつの修理も頼む」
男は自分のロボットを指した。
「って言ったって、必要になるかもしれないだろ?それに1人で行く気か?」 「心配ない。人員も搭乗機も、母さんが残したものを使う。急な展開だが、力ずくでも連れていく」
再び、男に課せられた宿命が動き出す。
「そして、そいつらにやらせる」
本人に、やる気は無いみたいだが。
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Re: 新世界への神話 ( No.2 ) |
- 日時: 2009/08/12 20:44
- 名前: RIDE
- 更新します。
プロローグは前回で終わり、今回から物語が始まります。 長くなると思いますが、ですが、長い目で見てください。
第1話 転校生現る
4月8日、新学期の日。
高校2年生となったハヤテとナギは、白皇学院で自分たちの教室を目指していた。
「クラス分けってどうなってるんでしょうか?お嬢様と違うクラスになってるなんてこと・・・・」 「無いんじゃね?いろんなイミで」
思わずそのいろんなイミとやらを考えてしまうハヤテであった。
「しかし、他にはどんな奴と一緒なのかな」 「そうですね」
などと言っている間に教室の前までついた二人。ハヤテは躊躇することなく扉を開けた。
「あら。ナギにハヤテ君、おはよう」
まず、二人に挨拶したのは、才色兼備の生徒会長、桂ヒナギクである。
「あ、ヒナギクさんも同じクラスなんですね。これから1年間よろしくお願いします」 「もう、大げさよ。そんなにかしこまらなくても」
いつもヒナギクには迷惑をかけていると思っているため、当人にそう思われる程礼儀正しく挨拶するハヤテ。一方のヒナギクは、表面上は普通を装っているが、内心は意中の男の子と同じクラスになったことに動揺しており、周囲の男子生徒から自分たちに対しての羨望や嫉妬の視線に気づいていなかった。
「まあ、よろしくしてやらんでもないがな。ところでヒナギク、私たちの席はどこだ?」 「あ、ナギは私の隣。ハヤテ君は私の後ろの席」
言われた通りに席に着く二人。ところが、なぜかハヤテの隣の席だけが空いていた。クラスの生徒たちはほぼ全員揃っている。
「これは、一体・・・・?」 「まったく。空けとくのなら私がそこに座らせてもらうぞ」 「ダメよナギ。ちゃんと決められた席につきなさい」
まじめな性格のため、勝手に席を移動しようとするナギを注意するヒナギク。もっとも、好きな男の子と一緒にはさせたくないという恋心も若干含まれているみたいだが。
「しかし、この席は一体何なのだ?」 「そこはだな」
突然現れたのは、生徒会役員でもある瀬川泉、花菱美希、朝風理沙の3人であった。
「うわっ!どこからでたのだ?」 「出たって失礼だな。人を神出鬼没みたいに言うな」 「それよりも、そこの席についてだが」
情報収集が得意な美希は、小さなノートを取り出して話し始める。
「今日、この学校に4人の男子生徒が転校してくるの。で、そのうちの一人がこのクラスに入ることなったの」 「その転校生が座る席がここなんだよ」
だから空いているのかとハヤテは納得した。どんな人が来るのだろうか。
「話によると美形なんだって。楽しみだな〜」 「ほほう、泉は面食いなんだな」 「そ、そういうわけじゃないよ〜」
などとじゃれていると、教室の扉が開いた。ハヤテたちは急いで席に着く。
「みんな、おっはよー!」
ヒナギクの姉、雪路とまったく知らない男の二人が入ってきた。
「このクラスの担任の美しき世界史教師、桂雪路よ!で、隣にいるのは副任の風間先生よ」
雪路は、隣にいる男に前に出るように促す。眼鏡をかけ、いかにも知的な感じのする男は、緊張の様子も見せずに挨拶する。
「この度白皇学院に赴任することになりました、風間伝助と申します。担当教科は古典です。よろしくお願いします」
伝助は頭を下げると、一歩下がった。
「続いて、このクラスに転校生が入ります!」 「先生、その転校生は美形なんですか?」 「ええ、美形よ!ちょー美形!さぁ入って!」
生徒の質問に大げさに答えた雪路は、教室の外にいる男子生徒に中に入るように促した。
転校生は、確かに美形だった。男前というような雰囲気だった。
男子生徒は、面倒くさそうに自己紹介を始める。
「今日からこの学校の生徒になります、高杉ダイです。皆さんよろしくお願いします」 「はい、それじゃ高杉君の席は綾崎君の隣ね。みんな、よろしくね!」
ダイは、自分の席まで移動し、座る。なんとなく気まずいハヤテはとりあえず挨拶した。
「よ、よろしく、高杉君」
ダイは、ハヤテに向かって頭を下げただけであった。
付き合いにくい相手に、これから先こんな調子でいくのだろうと思うと、不安が募るハヤテであった。
時は変わって昼休み。
ハヤテ、ナギ、ヒナギク、美希、泉、理沙の六人は、外で昼食をとっていた。普段は人が大勢いることが嫌いなナギも、
「まぁ、たまには大勢で食べるのも悪くないな」
ということで、みんなに混じっている。
「それにしても転校生の高杉君、かっこよかったねぇ〜」 「ああ、噂に違わぬ容姿だったな」 「でも態度は気に食わないわね。それになんか情けないように見えたし」
彼女たちは、転校してきたダイについての話に花を咲かせていた。
「ハヤ太くんは高杉君の隣にいてどう思った?」
ハヤテはこれまでの授業の中でのダイの様子を思い出しながら話した。
「そうですね・・・・授業中ずっとうとうとしていたので確かに情けなく見られるかもしれません。ですが、頭はとても良いですよ。わからないところを聞いてみたら、わかりやすく丁寧に教えてくれました」 「まあ、そうでなくては白皇に入ることはできないがな」 「そうね・・・・あら、高杉君じゃない?」
ヒナギクの指した茂みの奥に、ダイと見知らぬ男子学生が談笑しながら昼食をとっていた。興味が沸いた6人はそちらのほうへ足を進める。
4人はこんな会話をしていた。
「ここはいいところですね」 「ホント。オイラ勉強は苦手だけど、やっぱり学校はいいよな」
まじめそうな顔立ちの男子生徒に、体格のしっかりした生徒が同調する。
「そういえばおまえ、女子生徒に手を出さなかっただろうな?」
ダイが思い出したように向かいの生徒を睨んだ。その彼もまた美形で、この中では1番かもしれない。
彼が何か言う前に、まじめな少年が告げ口する。
「それはもう大変だったんですよ。自己紹介でいきなりナンパしようとしたんですから」
ダイはため息をついて呆れてしまった。
「シュウが同じクラスで助かったぜ」 「おいおい、俺は・・・・ん?」
美形の男子生徒がハヤテたちに気づいたようだ。ダイたちもハヤテたちを見つける。 「おまえら・・・・」 「ダイ様、お知り合いですか?」 「同じクラスの人たちだ」
それを聞くとまじめな男子生徒はハヤテたちの前まで近づいて頭を下げる。
「はじめまして。私はダイ様とともに転校してきた三井シュウと申します。ダイ様と仲良くしてくれることをお願い申し上げます」
大げさに見えるシュウの挨拶に、ハヤテたちは呆気にとられるしかなかった。
「オイラの名前は真中大地。よろしく・・・・」
大地が言い終わる前に美形の少年がナギたち女性陣の前に躍り出た。
「はじめまして、俺の名前は青居翼。いやしかしここに転校してよかった。こうして美しいお嬢さんたちに出会えたのだから。もしよろしければ・・・・」
そこまでいった翼は、ダイに足蹴にされた。
「っ痛ぁ〜、何するんだよ」 「それはこっちのセリフだ!初対面の相手に何やってんだ!引いてるだろ!」
そして二人はハヤテたちそっちのけでケンカを始めてしまった。
「あの、あなたたちは一体・・・・?」
話ができそうなシュウと大地に何者なのか尋ねてみた。
「私たちとダイ様は、簡単に言うと主従関係なんです」 「えっ、じゃああなたたちも執事なんですか?」 「まあ似たようなもんだな。オイラたちはダイ従者なんだ」 「なるほど」
聞き終わった後、ハヤテたちは翼と言い争っているダイを見た。その姿からでは、主という風には見えない。
「ほらっ、謝れ」
ダイは翼を女性陣の前まで引き連れて、無理やり頭を下げさせる。
「・・・・申し訳ない」
翼は渋々謝った。さすがに女性陣も戸惑い、何か言おうとするが、その前に大地の腹の虫が豪快に鳴った。
「腹減った〜」
しばらく皆呆気にとられていたが、やがておかしさをこらえ切れなくなり、笑ってしまう。ダイだけは、
「お前はそれだけしか言えないのか」
と言っていた。笑い終わった後ヒナギクは問いかける。
「ねぇ、高杉君たちは部活動とかやらないの?」 「俺は無理だ。両親がいなくて、4人だけで生活しているから俺が家のことをやらなきゃいけないんだ」 「私もダイ様のお手伝いがありますからね」 「シュウ、俺に合わせなくていいんだぞ。入りたい部活の一つぐらいあるだろ」 「いいえ。ダイ様をサポートすることこそ、私の務めなのですから」
ダイは溜息をついた。シュウのいいところは勤勉なのだが、真面目すぎるのがダイを悩ませている。一方、翼と大地は部活動へのやる気満々である。
「オイラは空手部!柔道部と迷ったけど、やっぱこれだな」 「俺は剣道部だ。馴染み深いからな」 「青居君、剣道部に入るの?」 「そのつもりだが」 「よかったですね、ヒナギクさん。新入部員ですよ」
ハヤテに言われるまでもなく、ヒナギクは喜んでいた。剣道部は人気がなく、部員が少ないのである。
「桂さんは剣道部の部員なのか?だったら翼が女子に手を出そうとしたとき・・・・」 「まかせて。荒っぽくても止めるわ」 「殺すつもりで頼むな」 「そう。でないと女子は俺の美貌に殺され・・・・」 「いい加減にしろ!!」
ダイはキレだして、翼の首を思いきり締め上げる。
「ちょ・・・・冗談に決まってるだろ・・・・」 「黙れ!もう我慢ならん!俺がこの場で殺す!」
などと周りを気にせず組み合う二人。そろそろ午後の授業が始まるころである。
「ちょっと二人とも、そろそろ授業・・・・」
生徒会長としてヒナギクが忠告しようとするが、シュウがそれを止める。
「ああなると止めることはできません。授業には間に合うはずですから放っておきましょう」
憐れむシュウとおもしろがっている大地はそのまま去って行った。ハヤテたちも、放置することにためらいはあったが、言うとおりにした。
変な人たちというのが、6人の感想であった。こんな人たちと一緒でこれからの一年大丈夫かなと、不安な思いも抱いていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.3 ) |
- 日時: 2009/08/13 12:50
- 名前: RIDE
- 前回から1話丸々載せるのは長い文章になるということがわかったので、今回から分割して更新していきたいと思います。
第2話 発端
1
新学期の翌日、すでに夜の闇が浸透している時間。
ハヤテは、白皇に編入する前の学校の同級生であり、現在も親交のある西沢歩と一緒に夜道を歩いていた。
二人はバイトの帰りで、夜道は危ないからという歩の強い推しもあって、ハヤテは歩を家まで送ることになった。ナギも同じバイトをしていて、この場にいればそれを阻止したかもしれないが、生憎と言っていいか事情があって今日は休んでた。
二人は、新学期のこととかを話していた。
「ハヤテ君は、ヒナさんとかと同じクラスになったんでしょ?」 「ええ。だから、がんばらなきゃなぁって・・・・」 「なんで?」
ハヤテはそこで気まずそうな表情になった。
「これ以上ヒナギクさんに嫌われるのは良くないですから。迷惑かけっぱなしで・・・・」 「は?」
歩は呆気にとられていた。彼女はヒナギクのハヤテに対する恋心を知っていたので、こんな言葉が出てくるとは予想していなかったのだ。
「でも、冷たい態度も、愛情の裏返しなんてこと・・・・」 「ありえませんよそんな幻想」
平行線のような気持ちのすれ違いに、歩はただ呆れることしかできなかった。
「あれ、綾崎君ですか?」
そんな時、反対方向からシュウが歩いていた。後ろにはダイもいる。
「三井君に高杉君。どうしたんですかこんな夜に?」 「ちょっと緊急に買わなくてはいけないものがあって。そちらの方は?」 「前の学校の同級生です。バイトの帰りで家まで送っているんです」
ハヤテと話しているシュウの後ろでダイはつまらなそうな表情をしていたが、突然人の気配に気づいて叫んだ。
「綾崎、伏せろ!」 「え?は、はい!」
ワンテンポ遅れて言われた通り行動しようとしたハヤテは、その一瞬でも間に合わないと判断したダイによって押し倒されてしまう。同時に地面に弾丸が着弾した。その弾は、間違いなくハヤテの頭を狙ったものであろう。
「くっ!」
ダイは半身を起して弾が撃たれた方向に石を投げた。気配がなくなっている。逃走したのだろうか。
「シュウ、追え!」 「はい!」
シュウは追跡を始め、ダイは放たれた弾丸を見る。わずかだが、ダイが目を見張らしたのをハヤテは見ていた。
ダイがその弾丸をポケットに入れるのと同時に、シュウが戻ってきた。
「申し訳ありませんダイ様・・・・完全に逃げられてしまいました」 「そうか・・・・」
ダイは立ち上がって起き上がろうとしているハヤテのほうを向いた。
「綾崎・・・・今日はもう襲われることはないと思うが、気をつけて帰れ」 「え、ええ・・・・」 「しかし、明日また同じことが起こらないとは限らない。しかも襲撃者は俺の知っている奴かもしれない」 「ええっ!?」
ハヤテは驚いたが、ダイは無視して続ける。
「だから明日、俺はお前を護衛する。1日だけだから、我慢してくれ」 「大丈夫ですよ。僕はそう簡単にやられませんし、多分これは三千院家の遺産狙いではないかと・・・・」
三千院家の遺産の相続条件は、ハヤテを倒せというものである。襲撃者はそれが狙いなのだとハヤテは考えていた。
だが、有無を言わせぬダイの圧力を感じ、ハヤテは口が開けなくなる。
「敵はお前が思っている以上に強大だ。周囲を危険にさらしたくないのなら、俺の言うとおりにしろ」
ダイの圧力は、今まで感じたことがないぐらいに大きかった。そのため、ハヤテはその言葉をのむことしかできなかった。
「わかりました。また明日、会いましょう」
ハヤテは一礼し、再び歩を送っていた。
「・・・・ダイ様」 「わかっている。こんなに早いとは思わなかったけどな」
翌朝。
三千院家の敷地の門から出てきたナギとハヤテを出迎えたのは、ダイであった。
「高杉君」 「言ったろ、護衛するって。まぁ、よろしく頼むぜ」 「護衛の必要なんかない。ハヤテにかかればどんな敵にも負けはしない」
だからさっさとどこかへ去れと言わんばかりの態度であるナギだが、ダイは全く気にしていなかった。
「念のためだ。さ、行こうぜ」
ダイは歩き出した。遅れないように二人は付いていく。
こんな調子で白皇につき、教室に入った3人は無言のまま席に着く。
3人・・・・とくにダイから異様なプレッシャーが発せられ、教室にいる生徒たちは中々そこに近づけなかった。
「おはよう」
声をかけたのはヒナギクだった。もっとも席が近いため、和ませなければ持たないと感じたのだ。
「どうしたの?すごい空気が漂っているんだけど?」 「実はですね・・・・」
ハヤテは昨日起こったことを説明しようとしたが、ダイに眼で制されて黙ってしまう。余計な人間を関わらせたくないためである。
「昨夜ハヤテが何者かに襲われてな、だからこうして警戒しているんだ」
しかし、ナギがすべて話してしまった。それを聞いてヒナギクはハヤテの身を案じだす。
「襲われたって・・・・ハヤテ君、大丈夫なの?」 「ええ。高杉君に助けてもらいましたから。今日も1日護衛してもらっているんです」
ヒナギクは何かを考えながら、ダイに問う。
「ねぇ、高杉君は学校が終わってもハヤテ君の護衛するの?」 「ああ。一応翼と大地も一緒にってことで、部活が終わるまで綾崎たちを残らせるつもりだが・・・・」
ヒナギクは何かを決めたようで、強気な笑みを浮かべて言った。
「私も護衛するわ」 「は?」 「生徒会の仕事もないし、丁度いいわ。生徒会長だから、生徒を守る義務があるもの」
ヒナギクの心の中にあったのは義務感と、好きな人を守りたいという思いだった。
「中々面白そうね」
それまで遠くで耳を傾けていた3人が輪の中に入ってきた。泉、美希、理沙の生徒会3人娘である。
「話はきかせてもらった」 「私たちもついて行くのだ〜」
遊び感覚で同行しようとする3人。そんな魂胆が手に取るように分かるヒナギクは当然、反対した。
「駄目よ。下手をしたら命を落としちゃうのよ」 「大丈夫、いざとなったらヒナにまかせる!」 「少しは自分で自分の身を守ろうとしなさい!」
ああだこうだと言い合ったが、3人組は折れず、結局ついていくこととなった。
女子に当たり散らすわけにもいかないので、ダイはため息をつくしかなかった。
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Re: 新世界への神話 ( No.4 ) |
- 日時: 2009/08/14 15:09
- 名前: RIDE
- 更新します。
前回の続きです。それから、明日から来月の20日あたりまで、個人的事情により更新できません。ご了承ください。
2 夕方。
ハヤテの周りをナギ、ヒナギク、美希、泉、理沙、そして翼と大地が固めている。安全だ と思っているのか、それとも大勢でぞろぞろとしたくないのかダイは一歩引いており、普段守る立場であるハヤテは逆に守られていることに戸惑っている。
彼らが白皇の校門まで行くと、シュウが待ち構えていた。
「三井君って、先に帰ったんじゃ・・・・?」 「先に帰って準備を整えてから、護衛を務める予定だったので。それよりもダイ様、昨日現場に居合わせた子が・・・・」
シュウが指した方向には、歩が彼と同じように校門前で待っていた。
「西沢さん、なんでここに!?」 「私も、ハヤテ君が心配だから・・・・」 「おまえがいると逆に迷惑だハムスター。とっとと帰れ」
ハヤテを狙うナギと歩の恋のライバル同士は、とたんにいがみ合おうとする。
「そ、そんなこと面と向かって言うかな!?私だって・・・・」 「あの、ここでもめていてもしょうがありませんので、その方も一緒にということで」
シュウは急いでその場をまとめた。その隣ではなぜかイライラしているダイがいる。
歩を加えた一行は三千院家へと向かう。シュウは歩く速度をダイに合わせてそっと囁きかける。
「ダイ様、あまり大勢で行動したくない気持ちはわかりませんが、ここは抑えて」 「わかっている」
これでも抑えているつもりでいるダイではあるが、それが態度に出ているのであった。
三千院家の屋敷についた彼らを迎えたのは、有能な美人メイド、マリアであった。彼女は最初、人数の多さに驚いていたが、すぐに客間へと案内した。その間に翼は彼女を口説こうとしたが、ダイの鉄拳制裁によって翼は吹っ飛ばされる。
そして客間にはすでに二人の少女がいた。ナギの親友、愛沢咲夜と鷺ノ宮伊澄である。
「おまえら!」 「よっナギ、遊びに来たで」
予期せぬ客人たちにナギは驚き、ダイは苛立ちを募らせる。
マリアが淹れた美味しい紅茶も、ダイを落ち着かせることはできない。そんな彼をシュウが再び注意する。
「ダイ様」 「わかっている。だから女に手を出している翼に当たっているだろう」 「おいおい、手を出しちゃいけないのか?」 「うるさい。大体おまえそんなキャラじゃなかっただろ」 「あの・・・・」
ひそひそと話していたのが不審に思われたのか、マリアがこちらに近づいてきた。
「な、なんでしょうか?」 「いえ。紅茶、お口に合わなかったでしょうか?」 「そんなことありません、美味しいですよ」
マリアは不審を隠さない目で去っていく。完全に怪しまれているようだ。
一方、咲夜と伊澄は昨日の事件のことをナギから聞かされた。
「ハヤテ様・・・・大丈夫ですの?」 「ええ、この通り。高杉君たちも助けてくれましたし」 「まぁ、ハヤテなら大丈夫やろ。それよりもあいつら、信用してええんか?」
咲夜もまた、ダイたちに疑惑の目を送る。
「何か知っているみたいですから、落ち着いたら話をしようとおもっているんですが・・・・」
そんな時だった。突然、部屋が暗くなった。
停電かと思ったが、それだったらすぐに部屋の様子などが分かるはずであった。しかしこの暗さは、光がまったく無い、闇そのものといった様である。
呆然としていたハヤテたちであったが、今度はそのまま下へと急速に引かれていく。
「うわぁぁぁぁっ!!」
落下時間は長く、彼らは無様な格好で着地したが、幸い怪我することはなかった。
「いったぁ〜い!」 「な・・・・なんなのだ、ここは・・・・」 「私たち今までナギちゃんちの部屋にいたんだよね?それが何でこんなところにいるのかな?」 「それに何で真っ暗なのよ・・・・」 「ここは一体どこなのでしょう・・・・」
女性陣がパニックになる中、ハヤテは皆をまとめようとする。
「落ち着いてください皆さん!」
その言葉にマリアやヒナギクなどしっかりした性格の者たちは冷静を取り戻したが、言葉を聞かず慌てふためく者もいる。
突然、乾いたような大きな音が木霊した。
「静かにしろ!できないなら黙らせるぞ!」
それは拳銃の発砲音であり、それと共にダイの声が聞こえた。
ようやく口を閉ざした一同は、ダイの姿を見て目を疑った。
身長は少し伸び、顔立ちも大人に近づいていて、さっきまでのダイが成長しているようであった。
「高杉君・・・・だよね?」
見渡すと、翼、大地、シュウの3人の姿も変わっている。
「聞きたいことがあるのはわかるが、今は黙っててくれ。それよりも、みんな集合してくれ」
言われた通りにまとまるハヤテたち。その周囲をダイたちが囲む。
「!・・・・来る」
そこで事は起こった。 ブラックホールでも現れたのか、全員が上方に引きずり込まれそうになる。
「くっ・・・・これは・・・・」
なんとか耐えるダイたちだが、引力に負けた者もいた。
「きゃあぁぁぁぁあつ!」 「美希、泉、理沙、歩!」 「咲夜さん、伊澄さん!」
マリとヒナギクは何とかこらえていたが、美希、泉、理沙、歩、咲夜、伊澄の6人は吸い込まれてしまった。
そして。
「お嬢様!?」 「ハヤテェーッ!!」
必死にハヤテにしがみついていたナギも、その手が離れてしまい、彼女は叫びを木霊させて闇の中へと消えてしまった。
「お嬢様!お嬢様ー!!」
追いかけようとするハヤテは止めようとする大地とシュウを振りほどこうとする。
「このままじゃヤベェな・・・・」
そうダイが思った時だった。闇に亀裂が走り、眩しい光が溢れてくる。
その眩しさに、思わずダイたちは目を閉じる。
次に目を開いたときは、三千院家の客間にいた。
だがそこに、先程闇にさらわれた7人の姿はいない。
ハヤテは、自分の目の前で主をさらわれ、それに対して何もできなかった自分を執事として心の中で責めていた。マリアとヒナギクも、親しい者たちが連れ去られたショックで何も言うことができない。
「まさか、こう来るとは思わなかった・・・・」
沈黙を破ったのはダイにみな注目した。彼や翼たちの姿は学生に戻っている。
「やっぱり、あなた方はなにか隠していらしゃるのですね」
マリアが、有無を言わせぬ視線と口調で語りかける。
「話してください」
ダイは考えるようなそぶりを見せた後、しばらくして答えた。
「わかった。だがここでは無理だ、俺たちの住んでる所に行く。ついてこい」
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Re: 新世界への神話 ( No.5 ) |
- 日時: 2009/08/14 17:18
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第3話をお送りします。
第3話 戦いの始まり
1 ハヤテ、マリア、ヒナギクの3人は自宅への道を進むダイたちの後ろについていた。
彼の家は一般の家屋に比べると、若干大きめだった。
ハヤテたちは家に入り、ある部屋まで案内させられる。
「そこで立っていろ」
3人の周りを翼たちが囲み、ダイはその中に入った。
その中で、ダイは拳に力を入れ始める。すると、ダイの両拳が光りだし、彼らの足元に何らかの文字で描かれた大きな陣みたいなものが浮かび出た。
「な・・・・何これ!?」
ヒナギクが驚きの声をあげる。ハヤテとマリアも同様の表情をしている。
光はだんだん部屋中に満ちていき、ハヤテたちは目を開けていられなくなった。
次にハヤテたちが目を開くと、そこはダイの部屋ではなく、石造りの宮であった。
壁も天井もない、どれだけの広さなのかもつかめない。
ハヤテたちはダイたちの姿を確認する。4人は、三千院家の屋敷での異変事と同様、成長した姿である。
「あの・・・・なんで成長しているんですか・・・・?」
ダイを除く3人は20〜30代のあたりだなと推測しながらマリアが問いてみた。
「これがおれたちの本当の姿だ」 「え?」
理解ができないハヤテたちに、シュウたちは説明を続けた。
「向こうに行くとなぜか十七歳の時の肉体になってしまうんですよね。あ、ちなみに私の三井シュウと名乗っていますが、本名はトリプル・ジムと申します」 「俺の青居翼というのも偽名で、ブルー・ジェットというのが本当の名だ」 「オイラも本当は、ロッドドリルっていうんだぜ」
ハヤテたちは何が何だかわからない。だがダイたちはそんな彼らをほっといて、先へ進もうとする。あわててついていくハヤテたち。
石造りの道を歩いていく。だが、ここから下をのぞいても地上が見えなく、空がはっきり見えているため空中に位置していることが分かる。それは、重度の高所恐怖症であるヒナギクにとっては地獄であった。
震えながら歩を進めるヒナギクを見て、ハヤテはそっと彼女の手をとった。
「ハヤテ君・・・・?」 「こうしていれば、落ち着かれると思いましたから・・・・。大丈夫ですよ、僕がいますから」 「・・・・うん」
ヒナギクはハヤテの手をしっかりと握る。安心したのか、震えは無くなった。
そして彼らは途中いくつかの間を通り抜け、終点である宮殿にたどり着く。
ダイは挨拶もなしに扉を開けた。
彼らを出迎えたのは、まだ10歳くらいの少年だった。
「タカスギ殿、どうなされましたか?」 「教主に会いたい。会わせてくれ」 「わかりました」
少年はダイたちを先導し、主がいると思われる間まで案内した。
「教主様、ダイ・タカスギ様が会見をお望みですが」
扉越しに男の声が聞こえた。
「通したまえ」
扉が開き、中に入ると男が立ち上がって迎えてくれた。
「どうしたのだダイ。会いたくなったとは」 「話がある。だがその前にこいつらの疑問に答えてやってくれ」
ダイは後ろのハヤテたちを指した後、少年のほうを向いた。
「それまでお茶を飲んでるから。白子、淹れてくれ」 「はい」 「この前のお菓子まだあるだろ?それも一緒につけてくれ」 「ダイ様!図々しいですよ!」
ダイの阿漕な態度に腹を立てたジムは叱りだすが、ダイは耳を閉ざす。
「お茶にお菓子はつきものだろ。それにそれぐらいのもてなしを俺たちは受けるべきなんだぜ。そうでないと困る」
そんなダイにジェットは苦笑し、ドリルは同意したように頷く。
「はぁ・・・・ダイ様・・・・」
そしてジムは情けないとばかりにため息をつくのであった。
「桂先生みたいですね・・・・」 「ええ・・・・」
ハヤテたちも苦笑するしかない。
「さて・・・・、何を話せばいいのか・・・・」
考え込んでいる男に、マリアが尋ねてきた。
「あの・・・・最初に聞いておきたいんですが、あなたは誰なんですか?そしてここは一体どこなのでしょうか?」 「うむ。ここは精霊界の天空に位置する霊神宮、私はここの教主で、人は私を賢明大聖と呼んでいる」 「精霊界・・・・?」
聞いたことのない単語である。
「まず、その説明からだな」
賢明大聖は大きく一息ついて話し始めた。
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Re: 新世界への神話 ( No.6 ) |
- 日時: 2009/09/19 17:48
- 名前: RIDE
- お久しぶりです。
待っている人はほとんどいなかったと思いますが 約1か月ぶりに更新します。
2 「かつて異なる次元に二つの世界を創った者がいた。二つの世界は一人一人が力を持ち、望みが実現できる世界であった。だが人々は己の力を過信し、覇権をめぐって絶えず争っていた。それを憂いた創造主は、もうひとつ世界を創った。一人の意思によって全てが左右される世界、この精霊界を」
ハヤテ達はまるで雲の上のような話についていけなくなってきたが、賢明大聖は続ける。
「元々存在していた二つの世界にもその影響が出始めてきた。一つの世界には人の心から生まれ、心を癒す存在である妖精と、それが力をつけて神変した精霊が精霊界から出入りするようになったため、神話の残る世界となった。もう一方の世界は創造主と彼の仲間たちが創った究極の生物兵器、クロノスの騎士が監視した中で機械文明を発達させていった。その世界はクロノスの騎士と彼の母星クロノス星の技術が宇宙を浸透していった。だが最後の騎士はクロノスによる時代を終わらせ、人間に世界を渡した」
賢明大聖はお茶を楽しんでいるダイたちを指す。
「ダイ・タカスギらはその世界から私が呼んだのだ」 「そうだったんですか。でも、なんのために?」
そこでダイはティーカップを置き、真剣な目で話に参加する。
「今、俺たちの世界は空間が歪み出している。賢明大聖によれば、おまえたちの世界に俺たちの世界の住人が侵入して、事を起こしていることが原因であるため、そいつを追い出せばいいということだった。だが・・・・」
ダイはポケットから銃弾を取り出し、賢明大聖を睨む。
「この銃弾は俺たちの世界の技術で作られた物だ。そこにいる綾崎ハヤテは昨日、この銃弾に貫かれるところだった。それだけではなく今日、奴の主ははじめ数人が何者かにさらわれちまった。俺たちの世界の住人が関わっていて、そいつが何者かはわかったけど、なぜこんなことしたのか納得いかねえ。何か隠していることがあるんじゃねえのか?」
ダイの追及する眼差しを受け、賢明大聖は彼に向かって頷いた。
「確かに私は君に話していないことがある。しかし隠していたわけではない。正体を現した時に話そうと思っていた」 「どうだか」
言い訳のような言葉に胡散臭そうな態度のダイを無視して、賢明大聖は再び話し始めた。
「この精霊界も、一年程前に人間たちが築く世界へと変わり始めた。だがそのころ、とある女が人知れず精霊を使って三界を征服しようと企て、この霊神宮から人員を引抜などを行っていた。つい最近になってダイ・タカスギたちの世界の住人を引き込んだ。女はそれだけではなく、この霊神宮に宣戦布告し、封印していた八体の精霊の奪取を企んだ。かろうじて一体は守り抜いたが、一体はその時の混乱で行方不明となってしまい、残りの6体は女に奪い去られてしまった」 「つまり、空間の歪みはその女のせいでもあると?」
ジムが慎重な様子で訊ねると、賢明大聖は強く頷いた。
「ダイ・タカスギ、君たちにやってもらいたいのは、その女、艶麗と彼女の手下を倒してもらいたい」
賢明大聖は一歩左に動いた。彼の背後に隠れていた卓が露わになる。卓上には、万華鏡みたいな大きさの筒のような物が置いてあった。
「これはリダートという。艶麗の手下のほとんどは精霊の使者だ。その精霊を倒せばこれが自動的に精霊を封印できる。精霊を失えば使者は戦闘不能になる。ダイ・タカスギ、これを持って艶麗たちを倒してほしい」
しかしダイはこう言った。
「断る」
その答えはこの場にいるもの全員を驚かせた。それまで無機的な感じであった賢明大聖でさえ声を荒げる。
「な、何故だ!?」 「あんたたちが総力をあげてやっつけりゃいい話じゃねえか。何で俺がやらなくちゃいけない」 「一年前、この世界を人間たちが築き始めてから、霊神宮はなるべく人間の世界に干渉しないと決めたのだ。艶麗はまだ本格的に動いていないが、我々も表立って動ける訳ではない。それに先ほどの話しにでてきた、君の世界の住人も艶麗側にいるのだ」 「だからって別に俺がやるまでもないだろ。白子、おかわり」
あまりのダイの態度の悪さに、腹を立てたものが数名いた。
「ダイ様!」 「わっ!」
突然ジムが顔を近づけてきたので、驚いてお茶をひっくり返すダイ。ジェットとドリルも目を吊り上げている。
「ダメですよ、ちゃんとやらなくては!あの方たちと約束したのでしょう?」
言われて、かつて自分が大事な人から課された使命を思い出したダイ。
「・・・・そうだな」
深く反省したような様子を見せるダイ。そのまま首を縦に振るのかと思われたが、彼はジェットが愛用している物と思われているサングラスをひったくってそれをかけ、ジェットには自分を思わせるような変装をさせる。
「そういうわけだ。ダイ、しっかりやれよな」
ジェットの口調を真似て、扮したつもりでいるダイ。全員呆れて何も言えなくなる。
「この馬鹿者!いい加減にしないか!!」
突然そんな声が聞こえたかと思うと、次の瞬間ダイは電流を流されているかのようにしびれ出した。
「あああああっ!わかった、やるよーっ!」
何が起こったのかハヤテたちには解らないが、とりあえずダイは引き受けることを承諾したのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.7 ) |
- 日時: 2009/09/21 18:37
- 名前: RIDE
- 更新します。
第3話のラストです。
3 「ところで、その盗まれなかったって言う精霊なんだけど、見せてくれねえか」
しびれも収まったダイは、これから戦う事になる精霊というものがどんなものか知っておく為に、賢明大聖に要求した。
「わかった。ついてきたまえ」
一行は賢明大聖に続いて大聖の間を出て、とある大広間へと着いた。そこには床に八芒星が描かれてあった。
その八芒星の一角だけ、光っている所があった。
「ん・・・・?」
光は、真っ直ぐにハヤテの元へ向かった。良く見ると光を放っている勾玉なんだということがわかる。ハヤテは手にとってみると、光は一瞬強くなり、それが止んだ後ハヤテの手にあったのは、勾玉ではなく鳥獣のぬいぐるみみたいな物であった。それには手触りというものが全く感じられない。
「これは・・・・」
ハヤテの近くにいたマリアとヒナギクも彼の手を覗き込んでくる。
「それが精霊だ」
賢明大聖はわずかに驚きを含みながら説明する。
「これが・・・・」 「そうだ、風のシルフィード。綾崎ハヤテ、君の精霊だ」 「ええっ!!」
急に自分のものだといわれたハヤテは、理由を聞かずにはいられなかった。
「な、何で僕なんですか!?」 「君の心が、シルフィードの主にふさわしかったのだろう。だからシルフィードは君を主に選んだ」 「でも・・・・」
そこまで言いかけたハヤテはふと思った。自分はナギの執事。主がさらわれたのなら全力で取り返さねばならない使命がある。
そのためには、この力は必要不可欠である。
「わかりました。シルフィードは、僕が預かります」
シルフィードはハヤテの決意した表情を見た後、意匠された腕輪を出現させ、それをハヤテに渡す。
「シルフィリング。シルフィードの主の証だ。決して離すなよ」
説明する賢明大聖に、ハヤテは強く頷いた。
「でも、シルフィードって言われても、これじゃカッコいい感じはしないわね」 「そうですわね。とても強そうには見えません」
ヒナギクやマリアの言葉に苦笑しながら賢明大聖は二人に述べた。
「仕方ない。その姿は力を抑えている状態なのだから。力を開放すれば真の姿、さらに人型に変わる事ができる。そして、精霊と使者が一体化したとき、その形態は精霊以上の戦闘力を持つのだ。」
マリアとヒナギクは驚きをこめて、改めてハヤテの周りを飛び回っているシルフィードを見る。その様子は可愛げがあって、やはり戦うようなイメージが沸けない。
「最後に二つ言っておく。妖精や精霊は通常、力のある人間にしか見えない。君たちは精霊界に来た為に目にすることができるようになったが、一般人の前で妖精や精霊をみても動揺したりしないように気をつけてくれ。もう一つ、妖精は人の心から生まれる。人の淋しさから生まれた妖精は時として人の心に取り込み、その人の心を弱くする。それらに引き込まれないように、自分の心を強くもってくれ。そしてそれらを気味悪がっては駄目だ。その妖精は、その人が救いの手を求めているという現われなのだから」
そして賢明大聖はもう一度ハヤテに向き直った。
「シルフィードを頼んだぞ、綾崎ハヤテ」
霊神宮を後にし、来た道を戻って歩くダイたち。
「あの・・・・タカスギさん、少し聞いてもよろしいでしょうか?」
マリアの質問に一同は足を止める。
「あなたはこれから、精霊と戦うのですよね。そのための力はあるんですか?」
するとダイは、表情をきょとんとさせる。
「何言ってるんだ。精霊は精霊同士戦わせるのが得策だろ?だから艶麗とか言う女とその手下は綾崎にみんな任せる」 「ええっ!」
精霊の使者になったばかりだというのに、そんな大変なことを押し付けられたハヤテは、声をあげずにはいられなかった。
「当然だ。俺たちの標的は俺たちの世界の住人と、艶麗だ。」 「でも、あなたに戦う力があることは確かなんですよね?その力を見せてくれませんか?」
ダイはマリアたちを見ながら少し考え、その要求をのむ事にした。
「まあ、見せるぐらいなら問題ないかな」
そうつぶやいた後、ジェットたちを手招きした。彼らに何か話した後、ダイはマリアたちに説明を始めた。
「賢明大聖も言ってたが、俺たちの世界は機械文明が他の二つの世界より発達している。その世界には精霊なんてものはねえけど、かわりに戦闘用の巨大ロボットがあって、人々はそれに乗って戦うんだ。けど」
ダイはそこでジェットたちを指す。
「このジェット、ドリル、ジムの3人は違う。こいつらはクロノス星の機械生命体であった前世の力を受け継いでいて、その力を開放する時、ロボット形態に慣れるんだ」
「ええっと・・・・つまり・・・・」
いまいち話の内容を理解できない。
「ま、百聞は一見に如かずだ。ジェット、ジム、頼むぞ」
二人は頷き、そのまま通路から飛び降りる。
ハヤテたちは髪を逆立てる様に驚いた。ここは空中で、しかもかなりの高さである。そんなところから飛び降りたら自殺行為にしか見えない。
だが、下から光が大きく発したかと思うと、下からジェット飛行機とヘリコプターが上昇してきた。
「これは・・・・」 「これがあいつらの力だ。ちなみに飛行機はジェットで、ヘリコプターはジムだ」
ハヤテとヒナギクは常識を超えた状況に、開いた口がふさがらないような心境だった。精霊の事も信じられない事ばかりだが、目の前で人が乗り物に変わった事は、それ以上にインパクトがあった。
マリアも興奮が冷め遣らぬ様子で、再びダイに質問する。
「タカスギさんも、変身できるんですか?」
すると3人の表情を見て満足そうなダイは笑いながら答えた。
「いや、俺はそんなことはできない。俺の力は、見せる時がきたら見せるさ」
どうやらダイはもったいぶるのが好きそうだ。それに、まだ戦う気ではないらしい。
「さて、このまま地上に降りるとするか。綾崎たちはジムに乗ってくれ。俺とドリルはジェットに乗る」 「ダイ、俺の方がジムよりも速くお客を降ろせるぜ」 「速く降ろせるって、おまえはスピード狂だろうが!そんな奴に乗せられるか!」
そんなやり取りを聞きながら、ハヤテたちは恐る恐るヘリコプターに乗り込んだ。
全員が乗り込んだのを確認したら、ジェットとジムは降下を始めた。
精霊界の人間が住む地上へと。
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Re: 新世界への神話 ( No.8 ) |
- 日時: 2009/09/22 18:28
- 名前: RIDE
- 更新します。
第4話の始まりです。
第4話 火のブレズオン 1 地上に着地したヘリコプター形態のジムからマリアが降りてきた。ハヤテに付き添われてヒナギクも続いていく。
「大丈夫ですか、ヒナギクさん?」
ヒナギクの顔色が悪いので心配するハヤテ。
「し、死ぬかと思ったわ・・・・」
ヒナギクは、頭をクラクラさせていた。
飛行機形態のジェットは先に着いており、ダイがハヤテたちを待ち構えていた。
「さて綾崎、修行を受けてもらうぞ」 「い、いきなりですね」 「そのシルフィードっていう精霊の力早く引き出して、おまえの主のチビ女助けたいんだろ?」 「それはそうですが、何をする気なんです?」
ダイの背後で人間に戻ったジェットとドリルが拳を鳴らしているのを見て、悪い予感がするハヤテ。
「簡単だ。ジェットとドリルを相手に実戦訓練だ」 「いきなりですか!?」
精霊での戦い方がまだわからないのに、実戦訓練なんてできるはずがない。しかしダイは自分の都合を押し付けてくる。
「俺も早くこんな戦い終わらせたいからな。おまえには即戦力となってもらいたいんだ。そうなれば楽できるし」 「こっちの身にもなってくださいよ!」
ハヤテは叫ばずにいられなかった。しかも、ジェットが手にしているのは・・・・。
「あの、ジェットさんが持っているのって・・・・」 「ああ、真剣だ。ジェットは剣の達人だからな、真剣も難なく扱える」 「斬られたら死んじゃいますよ!」 「そうなったらそこまでだな。あと攻撃はシルフィードでのみだからな。まあ、うまく戦えよ」
ジェットとドリルはハヤテを睨み、構えを取った。
「ま、待ってください!」
だが問答無用とばかりに、二人はハヤテに襲い掛かった。ジェットが振るう高速の剣を危ないところでかわし、続いてきたドリルの拳も間一髪でよけた。
「中々粘るな、アイツ。まあ、ジェットとドリルは手加減しているんだろうけど」
ダイたちは離れた所で一方的な実戦訓練を見守っていた。危険だとか生徒会長として無視できないとかいろいろ喚いているヒナギクはダイが強制的に退かせた。
「ちょっと腹減ったな。ジム、食い物探して来い」 「ダイ様、なんでもかんでも私を使うのはどうかと・・・・」
パシリ扱いに異論を唱えたジムだったが、ダイの実力行使を受け、渋々と出て行ってしまった。
それをそばで見ていたマリアとヒナギクは、一見して困った性格のこの男とどう接すればいいのかわからずにいた。敵を倒すよりもこのことのほうが難関のようにも思える。
一方ハヤテは、ジェットとドリルの攻撃をかわすのに精一杯だった。
とりあえず、シルフィードの力を解放しなければならないとは思っているのだが、何もかもが初めてのハヤテにとっては、どうすればいいか全くわからなかった。
「ええいっ!こうなったら戦うしか!」
覚悟を決め、ジェットとドリルに対して闘志を燃やし始めるハヤテ。
その瞬間、シルフィードの身体が光に包まれ、そのシルエットが変わり始めた
頭は鳥類の物で、羽根が生えた腕と鉤爪のような足が出現し、これこそまさに鳥人と言うべき姿となった。
「これがシルフィードの真の姿・・・・?でもどうやって・・・・」
そこでハヤテは、先ほど賢明大聖が妖精や精霊が人の心から生まれるということを言っていたのを思い出し、それによって理解した。
「そうか!さっきまで僕はどうやってシルフィードの力を引き出そうかとばかり考えていて、戦う事に迷っていた。でも、僕が戦う事を決めたとき、シルフィードは力を解放した。戦う意志を持ったとき、精霊はそれに合わせて力を貸してくれるんだ!」
そしてハヤテは、ジェットとドリルを見据える。
風のシルフィードというぐらいであるから、風を起こす事ができるはず。そう考えた疾ハヤテは、シルフィードの風で二人が吹き飛ばされるところを思い描く。
そのイメージを受けたシルフィードは、両の掌に竜巻を起こし、それをジェットとドリルに突きつける。しかし二人はそれでも微動だにせず、また傷ついた様子も見られなかった。
「そこで止めだ」
臨戦態勢をとる両者の間にダイが割って入った。
「今のところは、少し戦えるようになったぐらいでいっか」
そこへジムが戻ってきた。ダイは彼の腕の中にある食べ物をひったくるように取り、それを口にする。
ハヤテは、迷惑ではあったが、少しばかりダイに感謝の念を抱いていた。
しかし、その気持ちはすぐに萎む。
「どうした?」
腹を抑えてうめき出したダイを見て、ジェットたちが駆け寄ってきた。
「腹・・・・痛ぇ・・・・」 「まさか、ジムの持ってきた食いもんで?」 「そんな!」
心外とばかりにジムは声を荒げる。
「どちらにしても今薬は持っていない。近くに村があったはずだからそこまで行こう。ジム、頼むぞ」
言われる前に、ジムの姿は変わっていた。今度はスーパーカーだ。
ジェットとドリルはダイをジムに乗せる。続いて乗り込んだハヤテ、ヒナギク、マリアの三人は、ダイがなんだか情けないように思えてきたのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.9 ) |
- 日時: 2009/09/23 18:52
- 名前: RIDE
- 更新します
2
高い岩場が並んだその麓に、小さな村があった。
その村の薬屋は平和な一日の終わりに安息していた。だが、近づいてくる轟音が彼の平穏を断ち切った。
スーパーカーが薬屋の家屋に突っ込み、壁を破壊した。
「おいジェット、速けりゃいいってもんじゃねぇんだぞ!」
スーパーカーからドリルがジェットに文句を言いながら降りてきた。
「いいではないか。目的地に着ければ」
ダイを抱えながら降りてきたジェットは何事もない様子で店主に近づいた。
「腹痛の薬をくれ」
突然の来客に店主は慄きながらも薬を運んできた。ジェットはそれを受け取って、ダイに飲ませた。
「どうだ?」 「・・・・治ってきた」 「そうか、よかった。これは代金だ」
霊神宮から資金の提供を受けているので、金銭面には問題なかった。しかし・・・・。
「あの、壊した壁は・・・・?」 「え?」
壊した壁はもちろん、壊した本人が弁償しなければならない。
「直ちに払ってもらいますよ」 「ええっと・・・・」
時を待ってもらえば、霊神宮が立て替えてくれるのだが、今すぐ払えというのなら別だ。現在の自分たちの手持ちはではとても足りない。
仕方がないのでダイたちは、自分たちで壁を修理する事になった。
「な、情けない・・・・」
ジムは自分たちの格好の悪さに、涙を流していた。
「泣いている暇があったら手伝え。それにしても綾崎、おまえ釘打つの早いな」 「僕以前大工仕事のアルバイトをやった事がありますから」
ハヤテのおかげで修理が捗る中、村が騒がしくなってきた。
「どうしたんだ、一体?」
村の入り口あたりに人が集まりだしている。気になったので、一同も作業を止めてその輪 の中に入っていく。
村の前には、荒くれ者と思われる集団がやって来ていた。しかも驚くべき事に、その先頭にたっているのは、ハヤテたちが良く知る人物であった。
「咲夜さん!」
その声を聞いて、咲夜もハヤテたちの存在に気付く。
「何や、自分らも来とったんか」
咲夜は、クックッと感じ悪く笑った。
「咲夜さん、どうしてここに?後ろの人たちは一体?」
咲夜の後ろにいる荒くれ者らを指すと、咲夜の代わりにその者たちが答えた。
「我々は艶麗様の使いである」 「咲夜様は艶麗様に忠誠を誓った。手始めに我々と共にこの村を襲う事にしたのだ」 「そんな・・・・」
ハヤテとマリアは信じられなかった。咲夜は悪事に手を貸したりはしないはずであった。
「ほなおまえら、行くで!」
咲夜の号令で艶麗の手下たちは村の襲撃を始めようとしたその時だった。
「おまえ、人という道を知らないな」
村人たちの前へダイが出てきた。その場にいる全員が彼に注目する。
「俺は薬屋の壁を修理しなければならねえと約束した。約束は守らなきゃいけねえ。それが 人という道の一つだ。約束果たす前に滅茶苦茶にしてもらっちゃあ困るな」
尊大にかまえているダイに対して、艶麗の手下たちはキレだした。
「ふざけるな!何を訳のわからんことを言っている!」 「そうだ!おまえからぶっ殺してやる!」 「待った!」
ダイに襲い掛かろうとした艶麗の手下たちを咲夜が止めた。
「中々面白い男やな。気に入ったで」
咲夜は天に手をかざした。すると掌で炎が浮かび出た。目の錯覚かとも思ったが、どうやら本物のようだ。
「あれはまさか、精霊の力?」 「精霊の使者なんて、久しぶりに見たぞ!」
村人たちが交わす言葉を聞いて、人間たちに世界を委ねたというのは本当らしいと賢明大聖の言葉を思い出したダイであった。
「ここは僕が・・・・」
ハヤテはシルフィードを呼び出そうとするが、ダイによって止められる。
「何するんですか!?」
精霊との戦いは自分に任せるとダイは言った。それなのにここで自分を止めたら、村は荒 されてしまう。自分の命も危ないというのに、彼には戦う意思も見当たらない。
「ここじゃ駄目だ。ジム、いいか・・・・」
ダイはジムにそっと耳打ちする。
「それじゃ、はじめるか」
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Re: 新世界への神話 ( No.10 ) |
- 日時: 2009/09/24 18:59
- 名前: RIDE
- 更新します。
第4話ラストです
3
炎は咲夜の頭上で大きくなっていく。敵意むき出しである。
漂う緊張感に、村人たちが固唾を飲む。
それを打破したのはジムだった。彼はヘリコプター形態となり、ダイたちの頭上で滞空する。
ダイとハヤテは彼の中へ乗り込み、近くの岩場まで運転する。
ジムから降りたダイは、懐から拳銃を取り出した。そして眼下にいる艶麗の手下たちに向けて岩場の上から発砲をはじめた。
手下たちは混乱した。ダイは殺さないように撃っているが、それを知らないために当たるのではないかと恐怖を感じてしまう。
「ブレズオン!」
咲夜が叫ぶと、炎の勢いはだんだん小さくなり、蜥蜴に似た二足歩行の動物がそこにいた。
咲夜が上に跨ると、蜥蜴はダイたちのいる岩場めがけて跳び上がった。
岩場の上に着き、蜥蜴から降りた咲夜は、ダイたちと対峙する。
「やっぱりそれも精霊だな?」 「そや。名前は火のブレズオン」
ブレズオンは身体に火を纏いはじめた。それを見て危機感をもったハヤテはシルフィードを開放形態にする。
そして、ダイは納得したように頷いていた。
「なるほど。艶麗とかいう女がおまえらをさらったのは、盗んだ精霊と組み合わせるためだったのか。しかし・・・・」
ダイは大げさにため息をついた。
「計画が狂ったぜ。とりあえず強い奴を何人か倒して、艶麗に揺さぶりをかけるつもりが、こんな三下じゃ話になんねえぜ」
それを聞いて、相手に舐められていることを知った咲夜は怒った。
「なんやて!ようし、ウチとブレズオンの力、見せたるで!」
ブレズオンは口から炎を吐く。間一髪かわしたダイとハヤテだが、上着が少し焦げてしまう。
「そらそら、どんどん行くでぇ!」
ブレズオンは炎を吐きつづけている。その炎の威力が、シルフィードに攻撃させないでいた。
「こっちだ!」
ダイはハヤテを先導しながらぐるぐると逃げ回る。炎は彼らの後を追い、あっという間に二人の周囲を囲んだ。
勝利を確信した咲夜は不適に笑った。
「とどめや!」
ブレズオンが炎を吐こうとした瞬間、咲夜の横から炎が走った。
反射的によけた咲夜は、辺りを見て自分も炎に囲まれている事を確認した。
「バカめ、条件はおまえも同じだ」
ダイはただ逃げ回っているだけではなかった。相手の逃げ道を塞ぐことを見越しての行動だったのだ。
「力をうまく使えないようじゃ、やっぱり三下だな」
ダイはハヤテに首で攻撃を促す。シルフィードはハヤテの意志をうけて力を増していく。
「くっ、ブレズオン!」
高熱の炎に囲まれてる中、打開せんとばかりにブレズオンはシルフィードに特攻を試みる。
「いけっ、シルフィード!」
シルフィードは、疾風のごとくスピードで、ブレズオンに突進した。
大ダメージを受けたブレズオンは光に包まれていき、そして全身が輝きだした。光が消えると、そこにあったのは勾玉であり、それはダイの懐に真っ直ぐに飛んでいった。
驚いたダイは、懐に何があるか思い出し、それを取り出した。
賢明大聖から預かったリダートが、微かに光を発していた。
「やっつけりゃ封印できるってのはこういう事なんだ」
彼の隣にいるハヤテは、咲夜が倒れそうになるのを見て、あわてて彼女の身体を抱える。
「咲夜さん、大丈夫ですか?」 「う・・・・あれ、ここはどこなんや・・・・?」
気がついた咲夜は自分が置かれている状況が全くわからないでいた。
「思っていたが、やっぱりマインドコントロールされていたんだな。そして精霊を倒せば正気に戻るということか」
ダイは咲夜に怪我がないことを確認すると、彼女をハヤテに任せて村へと降りていった。
「倒しちゃいましたね」
村に戻ってきた二人を見ながら、マリアは呆然としていた。
艶麗の手下たちは既に去っている。頭がやられたことで、戦意を失った為である。
「でもなんで、あんな岩場で戦おうとしたのかしら?」
ヒナギクはそこがわからなかった。どうせ戦うのなら移動しなくても良いのではないかと思っていた。
「では実際にここで戦っていたらどうなっていたでしょうか?」
唐突なジムの質問に、ハヤテもヒナギクもマリアも答えに窮した。
「ブレズオンの炎はシルフィードの風によって煽られ、広がった炎はこの村をも包んでしまったかもしれませんね」
3人は言われてはじめてそこに思い当たった。
「じゃああの人は、この村に被害を及ばさないために!?」
ハヤテたちは、改めて村人たちから賞賛されているダイを見る。彼らの中の、ダイに対する評価は変わっていた。
「ありがとう、君たちは恩人だ!」
村人たちの完成に包まれ、得意げになるダイ。しかし・・・・
「それじゃ約束どおり、壁を修理してもらいましょうか」
薬屋の言葉にダイは硬直してしまった。
ダイは壁の修理を再開していた。
「な、情けない・・・・」 「泣くなジム、人の道は険しいんだぜ」
その姿で言われても、説得力はない。
評価を改めたハヤテ、ヒナギク、マリアの三人だったが、やはり情けなさはどうにもならないと思った。
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Re: 新世界への神話 ( No.11 ) |
- 日時: 2009/09/25 18:26
- 名前: RIDE
- 更新します。
第5話、スタートです。
第5話 土のガイアース
1 火のブレズオンの封印後、ハヤテたちは自分たちの世界に帰った。
ナギや他のさらわれた女の子たちのことは気になっていたが、ブレズオンを封印したなら、向こうからさらった子を盗んだ精霊の使者として遣わせるはずだというダイの言葉を信じることにしたのだ。
そして翌日。
「花菱さん、瀬川さん、朝風さん、鷺ノ宮さん、そしてナギちゃんは、しばらく欠席ということになったわ」
雪路がどうしたのかしらと言わんばかりに出欠を取っている。
美希や泉、理沙、歩、伊澄たちの両親には、三千院家の力でなんとか黙ってもらっている。それでも、ハヤテとヒナギクの寂しさは晴れるわけはなく、暗い表情を見られないように俯いている。
そして一日は進んでいき、風間伝助の古典の授業が終わり、昼休み。
ダイは昼食を摂ろうと、場所を移動しようとする。
「あ、ちょっと・・・・」
そんな彼を、ハヤテとヒナギクが呼び止めた。
「何だ?」 「一緒に食べませんか?いろいろと話もしたいですし・・・・」
ダイは別に気にした様子もなかった。
「いいぜ」
ジェット、ドリル、ジムこと翼、大地、シュウも加わり、外で食事をはじめる。ダイたち四人はおにぎりを食べている。いや、おにぎりしか食べていない。
「おにぎりだけ・・・・ですか」
彼らの弁当箱には、おにぎりしか入っていなかった。それも、いびつな形である。
「今日は大地が弁当の当番だからな。こいつは料理ができないんだ」 「オイラは作るよりも、食べる方が好きだからな〜」 「まあ、食えない物ではないからいいが」
大地は屈託無く笑い、翼は苦笑しながら食べていた。
「あの・・・・タカスギさん」 「さんはやめてくれ。この世界では同級生なんだから。シユウたちに対しても、学校とかでは本名で呼ぶな」 「じゃあ、高杉君・・・・」
ハヤテたちは何か質問しようと思っているのだが、何を聞いたらいいのかわからない。
人生の辛酸を嘗め尽くしてはいるが、平凡に生きてきたつもりの自分が、ある日髪やそれ に近い者に会って、その動揺が一日で治まるはずがない。全て夢とも思いたいが、目の前にダイたちがいることが、現実だという事を証明している。
「本当は何歳なんですか?」
そんなどうでもいいことを聞いてみてしまった。
「19だ。翼たちは人間の歳で言うなら20代後半」
面倒くさいふうにダイは答えた。
若干なんか気になることがあったがそれを口に出せず、再び静寂が包まろうとしている中、ヒナギクが最も興味深い質問をした。
「あなたたちの、機械文明が発達した世界って、どんなところなの?」
ダイはしばらく考えた。言うべきかどうか迷ったが、別に言ってはならないことでもないことに気付いたので、話しはじめた。
「基本的に人々の生活レベルはこの世界と変わらない。だがそれは俺の故郷、育った星での場合だ」
ダイはさらに話を続ける。
「故郷では遺伝子技術と宇宙開発が発達していた。特に後者に熱を入れていて、宇宙に人口の居住施設、コロニーを建設したりした。最近では遠い銀河の星々とも交流を持つようになり、最も発達した星では、まるで魔法みたいな技術がたくさんあった」
宇宙だの銀河だのを聞いて、つくづく夢のような話だと実感させられる。
「平和だったんですね」
よくはわからないが、話を聞くと良いことばかりの世界に思えた。
だが、ダイはそれを首を振って否定した。
「そうでもないぜ。100年前の政派のうらみや兄弟げんか、住んでる所の違いで戦争が起こって、それを発端に世界全体を消そうとした奴まで現れたんだ。しかもそいつは、俺の故郷の星で影から争い煽っていた一つの家系なんだから、たまったもんじゃない」
ちょうどそこでチャイムが鳴った。
「五限目が始まるな。話はここまでだ」
ダイは立ち上がった。ハヤテたちを見ると、まだ聞きたい事があるのがわかる。
「まだなんか聞きたかったら、学校が終わった後三千院家の屋敷で話すぞ。あそこのメイドも、おまえたちと同じ気持ちだろうし」
そういうことにして、それぞれの教室に戻っていった。
そして放課後。
「じゃあヒナギクさん、部活頑張ってください」 「ありがとう。それじゃ、ナギの家で会いましょう」
ヒナギクは部活が終わってから、翼、大地と共にナギの屋敷に向かうことにした。
「それじゃ、行きましょうか」 「ああ」
教室の前では、シュウがダイを待っていた。
「ダイ様、おつとめご苦労様です」 「おつとめって、大げさだよおまえ」
シュウを改めて一歩引いた所から見ると、やはりパシリのようだなと思いつつ、ハヤテは要件があることを伝える。
「ちょっと寄りたいところがあるんですけど」 「寄りたいとこ?」
そこは、レンタルショップタチバナという看板が掲げられた、レンタルビデオ屋であった。
店の中に入ると、カウンターにはナギや咲夜と同じくらいの年頃の少年が座っていた。
「よう、借金執事」 「こんにちは、ワタル君。これ、返却する物です」
そう言って、この店の経営者であり、ナギの許婚でもある橘ワタルに数本のDVDを提出した。
その間、ダイとシュウはアニメやマンガのDVDコーナーを意外なものを見る目で物色していた。
夢中になっていたため、シュウは店員と思われる眼鏡を掛けたメイド服の女性と接触してしまう。
「キャッ!」
メイドはよろけてしまい、持っていたDVDがいくつかこぼれ落ちてしまった。
「あ、すみません」
シュウは彼女と一緒に落ちているDVDを拾う。
「ありがとうございます」
橘家のメイド、貴嶋サキは一礼して再び仕事に取り掛かろうとしたが、自分のスカートに足がつまづいて、見事に転んだ。
同じ使える側の立場として、こんなドジな女性に同情してしまった。
そしてダイは、カウンターにDVDをいくつか置いた。
「これ借りるぜ。こいつの名義で」 「えっ、これを・・・・」
指されたハヤテは、ダイの脅迫の視線を受けてながら借りるための料金を払う。なぜDVDなんて借りるのかと疑問に思いながら。
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Re: 新世界への神話 ( No.12 ) |
- 日時: 2009/09/26 18:29
- 名前: RIDE
- 更新します
2 ヒナギク、翼、大地がナギの屋敷を訪れていた時には、ダイとシュウは大画面で流れるDVDの映像に釘付けとなっていた。
「何なの、これ?」 「じつは・・・・」
ハヤテから事情を聞いたヒナギクは呆れてしまった。
「高杉君って、こういうのが好きなの?それとも、向こうの世界にはこういう文化は無いのかしら?」
だが翼と大地は二人に混ざり、真剣な面持ちでブツブツと会話している。
「これってマリーメイアの反乱だよな?」 「デビルガンダム事件まである。もっとも俺たちは当事者のダイから話を聞いただけだから良くわからないが」 「エオニア戦争は描かれていないか・・・・。というより、キャラが違うような・・・・」 「電脳世界って、こんなイメージなんですね」
話の内容を聞くと、異世界から来た割には詳しすぎるような気がして、ハヤテは質問してみた。
「あの・・・・、向こうの世界からきたのにご存知なんですか?」 「見てきたからな」 「えっ?」
言葉の意味がわからずぽかんとしてしまう。
「このメディアに流れているのは、俺たちの世界で起こったことでもあるんだ」 「ええっ!!?」
部屋にいたハヤテ、マリア、ヒナギクの3人は地がひっくり返るような気分に見舞われた。
「時々お互いの世界がこういうふうに物語として語られることがあると賢明大聖が言っていた。まあ、細かいところに違いはでてるが」
説明するダイを、ハヤテたちはまじまじと見てしまう。彼らは言わばマンガの世界からやって来たようなものだ。神々がどうとかよりも、こちらの方に衝撃を受けてしまう。
改めて借りてきたDVDを確認する。白いMSが出てくるものや戦闘機怪獣の戦い、ラブコメな戦艦に銀河の天使たち、電脳世界の冒険記、少年が神話になる物語。
これら全てが、ダイたちの世界で起こったのだ。
「その・・・・よろしいでしょうか?」
ダイはメディアを止め、訊ねてきたマリアの方を向いた。
「高杉さん、あなたは只者じゃありませんよね。向こうの世界では何をやってたんですか?」
ダイは一息つくと、いつものはぐらかすような様子も無く話し始めた。
「俺がこの歳の時、故郷の星を中心に戦乱が広がっていった。俺はそれを止める為に戦い、戦乱を裏から煽っていた奴を倒した。その頃から俺は、人々から勇者と言われるようになった」 「勇者・・・・」
普段はそういうふうには見えないが、確かにダイは隠れた貫禄がある。勇者というのも頷けるような気がした。
ダイはさらに続けようとする。
「俺は・・・・」
その時、屋敷が大きく揺れ出した。
「地震?」 「いや違う。外に出てみるぞ」
何かを感じたダイは皆を促した。その際にダイは大地に何かささやき、了承を得ると、彼をその場に残らせた。
不審者がいるというSPの情報を元に、その不審者がいる場へと向かうダイたち。
そこにいたのは、ハヤテの元同級生であった。
「西沢さん!」 「歩!」 「やっぱりいたね、ハヤテ君。ヒナさんも一緒だったんだ」
歩は、小さな女の子の風貌をした精霊を従えていた。
「そこにいるタカスギっていう人だけならともかく、シルフィードが加わったら厄介だっていってたから、私が来たんだ」
昨日の咲夜と同様、いつもの人のよさそうな歩の表情はそこに無かった。
「ハヤテ君、私にやられてくれないかな?それとも、私の土のガイアースと戦う?」
歩を相手に戦うのは、いささか気が引けたのだが。
「大丈夫だ。昨日のように精霊を倒せば催眠が解けるはずだ」
と言うダイの言葉を信じ、わずかにためらいながらも戦いを決心した。
「その顔は戦うって言う顔だね。ガイアース!」
火花が散ったとともに、ガイアース地面に拳を叩きつけた。途端に大地が大きく揺れる。
「うっ、うわぁ!」
ハヤテたちの足元がふらついた隙にガイアースは攻めようとしたが、その前に開放形態のシルフィードが立ちはだかった。
ガイアースに襲い掛かり、連打を浴びせるシルフィード。ガイアースは一旦距離をとって再び地に拳を突きつけた。今度は地面がシルフィードに向かってせり上がっていく。
しかし地面に捉えられる瞬間、シルフィードは空へ飛び上がっていた。そのまま足の鉤爪でガイアースを切り裂き、蹴り飛ばす。
ガイアースの身体が光に包まれ始めた。封印されるのかと思い勝利を確信したのだが、ガイアースはその姿を変え始めた。胸当てと手甲を装備した、大人の女の戦士に。
「あれがさらに力が増した人型って奴か」
ガイアースは知るフィードに向かって飛び上がる。シルフィードはさらに上昇しようとするが、間に合わない。
「地砕爆慎拳!!」
ガイアースの必殺技を身体に受けてしまい、シルフィードは受身も取れないまま落下してしまった。
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Re: 新世界への神話 ( No.13 ) |
- 日時: 2009/09/27 18:07
- 名前: RIDE
- 更新します
第5話ラストです
3 「ああっ!」
シルフィードが倒され、ハヤテは軽い混乱に陥った。
「ど、どうすれば・・・・」
そんな時、ダイが一声かける。
「しっかりしろ」 「えっ?」 「シルフィードはまだ戦える。だがおまえが戸惑っているようじゃシルフィードは出せる力も出せない。強く意志をもて」 「高杉君・・・・」
言われると、もう一度戦えるような気がして、ハヤテは気合を入れなおした。
歩を助けたい、と。
その時、シルフィードも光に包まれ、姿を変えていく。
身体はガイアースと同様大人に変わっている。手足はそのままだが、背中には一対の翼が生え、頭は人間の物になっている。
人型になったシルフィードの力は、同じ人型のガイアースと互角だった。だがシルフィードが空を飛べる以上、勝負は見えていた。
土の技を受けないシルフィードに、動きが止まった隙をうかがうガイアース。空中で止まったその瞬間、地砕爆慎拳を当てようとした。
「今だ、ドリル!」
突如、地面からドリルのついたタンク車が現れ、ガイアースの体勢が崩れだした。
ロッド・ドリルのドリルタンクモードである。
逆に、ガイアースに隙ができた。
「いっけえっ!」
シルフィードは風をまとい、ガイアースに突進した。
まさに疾風の如く。直撃を受けたガイアースは力尽き、リダートに封印される。
そして歩は、その場に倒れこんだ。
「西沢さん!」 「歩!」
ハヤテとヒナギクは歩の傍に駆け寄った。
気がついた歩は、二人を見てきょとんとしている。
「ハヤテ君、ヒナさん・・・・あれ、私なにしてたのかな?」
普段の歩に戻ったらしく、二人は安心した。
「それじゃ、私は西沢さんを送っていきますね」
夜も遅くなったのでそれぞれ帰ることとなった。その際、女の子一人では危険だというこ とで、シュウは歩を、翼はヒナギクに付き添うことになった。
「じゃあねハヤテ君。助けてくれてありがとう」
歩は笑顔でハヤテに礼を言い去っていく。
「歩、助けられて良かったわね」
ふいにヒナギクがハヤテに声を掛けた。
「はい。それとヒナギクさん、すみません」 「え?」
謝れるようなことをされていないと思っているため、ヒナギクは首をかしげる。
「今日もまた、戦いに巻き込んでしまって・・・・」 「べ、別にいいわよ」
そんなことでも気遣ってくれる事が嬉しく、ヒナギクはつい照れてそっぽを向く。
「うちの生徒たちも囚われているんだから、生徒会長として見届けないと。ハヤテ君こそ大変な身なんだから、これからも気をつけてもらわないと・・・・」 「ありがとうございます。そんなに心配して下さって・・・・」 「だ、だから・・・・。もういいわ!おやすみ!」
必死で何かをごまかそうとするのだが、言葉が回らず、そのまま去っていった。
「ま、また怒らせちゃった・・・・」
何が原因かわからないが、ハヤテは落ち込んでしまった。
「俺たちも行くか」 「そうだな」 「待ってください」
大地とともに帰途につこうとするダイを、マリアが呼び止めた。
「高杉さん。真中さんを呼び止めた時点で、相手が土を操る敵だとわかっていたんですか?」 「・・・・さあ、どうかな?」
笑ってはぐらかすその姿は、いつものダイであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.14 ) |
- 日時: 2009/09/28 18:16
- 名前: RIDE
- 更新します
第6話をお送りします
第6話 水のアクエリス
1 白皇学院の昼休み。ほとんどの者が昼食を摂っている。
もちろん、この男たちも。
「艶麗に盗まれた精霊は、あと五体か」 「四体だ。一体行方不明だって言ってたからな」
ダイたち4人は、盗まれた精霊を指折りして数えていた。
「いいじゃない、ねぇ〜」 「駄目よ、お姉ちゃん!」
どこからか二人がもめている声が聞こえてきた。
桂雪路とヒナギク姉妹である。
「ヒナ〜、お金貸してよ〜」 「駄目ったら駄目!そうやってお姉ちゃんは借金ばかり作っていくんだから」
そこへハヤテがやってくる。
「また給料無くなったんですか?桂先生」 「うるさいわね。私に恵んでくれないのならどっか行ってよ」 「お姉ちゃん!いい加減にして!」
さらに別の乱入者が。
「綾崎ぃ、そこにいたのかぁ」
執事らしい男が現れ、ハヤテは鬱陶しい表情になる。
「げっ、虎鉄さん・・・・」 「そんな顔するな、愛しい人よ。せっかくの出番なんだからな」 「僕は一生会いたくなかったですよ、変態・・・・」
ぎゃあぎゃあと騒がしくなり、ついにこらえ切れなくなった。
「うるせぇー!!」
大声とともにダイがヅカヅカと歩いてきた。
「いい加減にしやがれ!少しは周りのことも考えろ!」
彼の声のほうが明らかに騒音だと思った一同だが、ここはあえて突っ込まないようにした。しかし、これ以上ヒナギクに怒られたくない雪路は、そっと逃げ出していた。
「あ、待ちなさいお姉ちゃん!」
ヒナギクが気付いた時には、雪路はもう遠くへ行っていた。
「もう・・・・」
残されたヒナギクは口を尖らせた。
「で、綾崎、こいつ誰?」
ダイはハヤテに付きまとおうとしている男を指す。
「この人は、瀬川家の執事で、虎鉄さんという人です」
虎鉄はダイに目もくれず、尚もハヤテの周りでうろちょろしている。
「これから二人で仲良く話でもしようじゃないか」
虎鉄はハヤテの肩を抱こうとするが、その手はハヤテに振り払われた。
「いい加減に・・・・」 「へ?」 「ぐふっ!」
虎鉄の顔面に、ハヤテの拳がクリーンヒットした。
「あ、愛は痛いものだ・・・・」
そう言って、虎鉄は気絶した。
「本当に変態だな」 「ええ。しかも鉄道オタクときています」 「どうしようもないな。でも瀬川家のって、瀬川泉の?」 「ええ。瀬川さんの執事で、双子のお兄さんでもあります」 「そうか・・・・」
ああでも、心の中は妹が心配なのかもと思っていると、今度は別の方向で生徒のざわめきが聞こえるような気がしてきた。
「なんだろう。桂先生が暴れているとか?」
ありえそうな話である。
「とにかく、何が起こっているのなら行ってみましょう。本当にお姉ちゃんが暴れているのなら止めさせないと」
そうしてダイ、翼、大地、シュウ、ハヤテとヒナギクがたどり着いたのは、大きな池だった。その池は信じられないことに、大きく渦を巻いていた。そして、水が大量にあふれ出て、ダイたち以外の生徒を流し込んでいった。しかも、池の水はすぐにまた貯まっていく。
「これは・・・・」 「精霊の仕業だな」
ダイたちが気付くと同時に、池の水が天に向かって噴出し、水柱が立った。
その上には、瀬川泉が立っていた。
「瀬川さん!」 「やっほ〜。ハヤ太君、ヒナちゃん、元気だった?」 「泉!あなた生徒会役員でしょ。それなのに生徒を傷つけるなんて、生徒会長として許さないわよ!」
ヒナギクの怒りを、泉は一笑に付す。
「これでもそんなことが言えるのかな?」
ヒナギクに圧縮された水の弾丸が撃たれる。腹部に命中し、彼女は腹を抱えてうずくまる。
「ヒナギクさん!」
ハヤテはヒナギクの元へ駆け寄り、彼女を支えると、泉を睨んだ。
「何やってるんですか、瀬川さん!ヒナギクさんはあなたの友達じゃないですか!」
ハヤテは怒った。普段の泉がにこやかな笑顔で、他人を攻撃するような事はしない子だけに、この怒りは大きかった。
しかし、次のハヤテの発言は泉の逆鱗に触れる。
「それに、瀬川さんはいじめるよりもいじめられるのが好きなはずです!」 「・・・・!!そのことを言ったこと、後悔してあげるよ。いいんちょさんのちからをみせてやるのだ〜!」
どうやら、洗脳された事で性格が攻撃的になったみたいである。
今度はハヤテに水の弾丸が襲い掛かる。だが、一気に人型形態になったシルフィードがハヤテの前に現れ、風の防御壁で弾丸を防ぐ。シルフィードは突風を起こし、泉に向けて反撃 するが、彼女も同様に水の防御壁で突風を受け付けない。
「直接攻撃するしかないってことか。でも女の子に暴力をふるうなんて・・・・」 「攻撃する相手を間違えるな」 「え?」
ハヤテたちは一瞬意味がわからなかったが、ダイは続ける。
「戦うなら瀬川じゃなくて、あいつの精霊と戦えってことだ」 「でも、その精霊の姿が見えないんですけど」 「じゃあ聞くけど、なんで瀬川は水柱の上に立っているんだ?」
言われてみると、確かにおかしい。人が水の上に立つことなんて常識的に考えて不可能である。
「おれの考えが正しければ、相手の精霊は池の水と同化している。だから瀬川は水の上で立っていられるはずだ」 「むむっ・・・・」
図星をさされると顔に出やすいいところは洗脳前と変わっていないようだ。
「高杉君の言う通りだよ。この池の水には精霊が同化しているんだ。名前は水のアクエリス」 「なるほど。水の精霊だから自在に池の水を操れるというわけか」 「でもどうする?水と同化しているということは、こちらの攻撃は全く通じないということだぞ」
沈黙するハヤテたちに追い打ちをかけるかのように、アクエリスは巨大な津波を起こす。この大きさでは、回避することは無理である。
だが、津波がハヤテたちをとらえる寸前、大量の水が彼らの手前で渦を巻いて池に戻っていく。
何が起こったのか、何者の仕業なのかあたりを見渡す。
「まったく、校内で騒がれると迷惑なんですよね」
そう言って現れた男は。
「風間先生?」
ハヤテたちのクラスの副任でもある、古典教師の風間伝助が、大鷲のような精霊を従えている。
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Re: 新世界への神話 ( No.15 ) |
- 日時: 2009/09/29 18:14
- 名前: RIDE
- 更新します。
明日から、更新が停滞気味になりますので、ご了承ください。
2 「大丈夫ですか?」
なんでこの男がやってきたのかわからないが、とりあえずうなずく一同。
「よかった。では、早く終わらせますか」
伝助は、キッと泉を見据える。
「攻撃を当てるためには、こちらも水と同化する、水の力を得なければなりません。そこで綾崎君」
伝助は、ハヤテに海のように青い勾玉サイズの宝玉を手渡した。
「これは・・・・」 「海の力が宿った、海の宝玉です。これを君に貸しましょう」 「でも、これでどうするんですか」
使い方がわからないので、ハヤテは説明を求めた。
「リングにへこんでいるところがあるでしょう?そこにそれを挿入すればあなたの精霊は水の力を得ます。あなたは自分の精霊を水に同化して敵を攻撃してください。相手の攻撃は、僕とこの風のワイステインが防ぎます」
そんなやりとりをしている間に、またもや津波が襲いかかる。先ほどよりも巨大なものである。
ハヤテは急いで宝玉をシルフィリングに差し込んだ。すると、シルフィードの背中の翼が魚のヒレのように変わり、手足には水かきがついた。
シルフィードは池に潜り、身体を水に同化していく。そこで、水のアクエリスを見つけた。アクエリスはすでに人型であり、左腕には亀の甲羅のような盾を着けている。
シルフィードはアクエリスに殴りかかるが、その拳は装備されている盾によって防がれ、逆に一発を喰らってしまう。しかしシルフィードもやり返す。
水の精霊だけあって、水中でのアクエリスの動きは素早かった。シルフィードも水の力を得ているが、アクエリスの比ではなかった。だが、シルフィードはアクエリスを押してい る。その理由は攻撃の点にあった。シルフィードは風を操る応用で攻撃性の音波を作り、それをアクエリスに向けて放っていた。水中ではより早く伝わる音波の前では、アクエリスも回避できない。
ついに、シルフィードはアクエリスの盾を砕いた。追いつめられたアクエリスは、起死回生の必殺技を放った。
「オキジシェン・ブリット!」
酸素の弾丸をシルフィードに狙いを定めて放つ。破壊力は十分にあると思われる。
対するシルフィードも最大の攻撃、疾風の如くの速さで突進する。
弾丸とシルフィードがぶつかり合い、水泡がその場を包み込む。
アクエリスは、自分の勝利を確信していた。
しかし予想は裏切られ、水泡の中からシルフィードが躍り出てきた。シルフィードはそのままアクエリスに突進する。
突進を食らったアクエリスは、光と化していった。
再び伝助の精霊である風のワイステインによって津波が池に戻されてから、しばらく経った後、泉の足場となっていた水柱が突然崩れた。
「きゃああああっ!?」
そのまま池の中へと落ちていく泉。同時にアクエリスがリダートに封印された。
池を警戒する必要がなくなったので、ハヤテは泉を救出しようとするが、既にシルフィードが彼女を助けていた。
全員が泉のそばに駆け寄った。
「瀬川さん」
ハヤテは泉の顔を覗き込んだ。
「う・・・・ん」
泉が目を覚まし、身体を起こした。
「あ、ハヤ太君にみんな。どうしたの?」 「よかった。気がついて・・・・」
そこでハヤテは泉から顔を背ける。
「ほえ?」
不思議に思った泉だが、自分の体をみて顔を紅くする。彼女の制服が濡れているため、身体のラインが浮き出ている。
「にゃぁあああああ!」
慌てて身体を隠そうとする泉。
「お嬢!」
そこへ虎鉄が再びやってきた。
「虎鉄君」 「お嬢、どうしたんです?いままでどこに・・・・」 「おっと」
急きこんで尋ねようとする虎鉄を、翼が手で制する。
「いろいろと聞きたい気持ちはわかるが、今はそっとしときな。ただ黙っているのも、いい男の条件だ」
何が何だかわからない虎鉄。そんな二人は放っておいて、ダイは離れたところで自分たち を眺めている伝助のほうを向き、彼に近づいていく。
「風間先生、あんたは自分の精霊の力で竜巻を起こして、その遠心力を利用して水を池に戻した。そんなこと、普通の使者でもできそうだが、戦闘中でも少しでも動じないそのたたずまい、綾崎に貸した海の宝玉。あんたいったい何者だ?」
伝助は一つ咳払いをして、話し始めた。
「僕は風のシルフィードの使者、八闘士の一人である風間伝助です」 「八闘士・・・・」
ダイはその言葉に聞きおぼえがあるようだ。
「霊神宮の噂を聞いたことがある。五年前、この世界で精霊の力を悪用しようとした奴らを摘発した八人の使者たち。そいつらはその功績を称えられ、八闘士と呼ばれるようになったと」
その一人が今、ダイの目の前にいた。
「賢明大聖から、あなたのことを聞かされました。協力せよとも、申されております」 「あいつ・・・・」
人を無視した霊神宮の教主の態度に、ダイは腹立ちを覚える。
「しかし、味方になってくれるのは心強い。頼りにしてるぜ」 「はい。異世界の勇者に対して出すぎたようですが、お力になります」
二人が協力関係を結んだ所へ、大声を上げてやって来た者が。
「なんの騒ぎ!?」
雪路は、周囲をぐるりと見渡した。
「桂先生、これは・・・・」 「なるほど、そういうことね」
事情を説明しようとする声に耳を貸さず、雪路は勝手に解釈した。
「学校を荒そうだなんて、いい度胸してるわね!」 「は?」
呆気にとられるハヤテたちにむけて、雪路はビシッと指をさす。
「さあ、出すものを出しなさい!それで今日のところは見逃してあげるわ!」
教師にもかかわらず、口止め料を請求してきた。そんな信じられない行動に対しても、ダイは動揺しなかった。
「いいぜ。払おうじゃないか。こいつが」
ダイは、隣にいる伝助を指した。
「え!?ちょ、ちょっと!」 「力になってくれるんだろ?」
それとこれとは違うと口に出そうとしたが、雪路が迫力をもってズイっと伝助の前に出た。
「同僚だからって容赦はしないわよ。さあ、払いなさい」
獣のオーラを漂わせる雪路に、伝助は慄いて後ずさりしてしまう。
「し、失礼します!」
そして、彼は急いで去って行った。
「あ、待てーっ!」
雪路も後を追いかけ始めた。
その後、雪路はヒナギクにきつく叱られた。そしてダイも・・・・。
「ダイ様、押しつけるなんてよくないですよ!」
シュウにこってりと絞られ、ふてくされるのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.16 ) |
- 日時: 2009/10/06 20:46
- 名前: RIDE
- 久々の更新です。
前回で第6話は終わり、今回から第7話をお送りします。
第7話 氷のヴァルキリオン
1 「まったく、お姉ちゃんったら・・・・」
アクエリスを封印してから日も暮れ、辺りはどっぷりと暗くなっていた。
ヒナギクは夜道のなか、ハヤテと翼に付き添われて帰宅していた。ヒナギクにとって、翼の存在は余計だったが、意中の人と二人きりだと緊張して気まずくなると思ったので、助かったりがっかりしたりと複雑であった。
「お、公園だ」
近くにあった負け犬公園に目がとまった翼は、そこを指した。
「ちょうどいい。少しあそこで休んでいこう」 「だめよ、学校帰りに寄り道だなんて」
まじめな性格のヒナギクは当然、それを認めようとはしなかった。
「いいじゃないですか、少しぐらいお話ししても」
そうハヤテにも言われたら、味方のいないヒナギクは反論ができなかった。
「しょうがないわね」
仕方がないので、二人とともにヒナギクも公園の中に入って行った。すぐにベンチを見つけ、ハヤテとヒナギクはそこに腰かける。
「そこで待っててくれ。ジュースを買ってくる」
そう言って、ヒナギクに向けてウインクをした後、自販機を探しに行ってしまった。
ヒナギクは彼のウインクの意味を瞬時に理解していた。二人きりにしてやったということ語りかけたということを。彼女は彼の気遣いに余計なことだと腹を立てたくなる気分になった。
「ええっと・・・・」
ヒナギクは何を話していいかわからず、口ごもってしまう。対するハヤテも、ヒナギクを怒らせてはいけないという、彼女とは違った緊張感を持っていた。
「そ、それにしても風間先生が使者だったなんて驚きましたね」 「そ、そうね。しかも八闘士なんてなんだか偉そうじゃない」
などとその場つなぎの会話をしていると、ふとハヤテはヒナギクのものとは違う、微かな声を耳にする。
「見つけた・・・・」 「え?」
誰か周りにいるのかと、辺りを見渡すハヤテ。
「どうしたの、ハヤテ君?」 「いえ、見つけた、とか何とか聞こえたので・・・・」 「そう?私は何も聞こえなかったけど・・・・」
首をかしげながらヒナギクも目を凝らしたが、やはり姿は見えず、気配すらなかった。
しかし、信じられないことが起こっていた。
「え?これ・・・・」 「雪?」
なんと、大粒の雪が降り出して来たのである。今の季節は春で、そんなことはありえないはずなのに。
「なんだ、これは?」
ジュースを買いに戻ってきた翼も目の前の異常気象に目を見張らせている。
「見つけた・・・・」
そして、3人の目の前に女の子が現れた。神秘そうな雰囲気を漂わすその少女は、ハヤテたちに対して、獲物を見つけた獣のように微笑んだ。
それを見た瞬間、翼は理解した。
「この子、精霊だ」 「え?それじゃ、この雪はあの子が降らせたんですか?」
翼は黙って頷いた。しかし、使者の姿が見当たらない。
この世界を漂っていた妖精が力をつけたものだろうか。そう思っていると、シルフィードが相手の精霊に向けて威嚇するように震えだした。
「ど、どうしたんだ?」
ハヤテは反応に困るが、翼はそれで相手の正体について確信する。
「そうか。あいつが行方不明になったっていう精霊か」
それを肯定したのは、意外にも相手の精霊であった。
「そう。私は氷のヴァルキリオン」
ハヤテとヒナギクはそれまで精霊に対して無口なイメージを抱いており、それを覆されたことで少し驚いた。
対して、翼は冷静さを崩さずにヴァルキリオンに尋ねた。
「それで、どうして俺たちの前に現れたんだ?」
仲間の元に戻ってきた、という風には考えられなかった。ヴァルキリオンから発せられる、こちらに対する敵意がはっきりとわかるからだ。
「シルフィードよ。なぜ人間の味方をする」
ヴァルキリオンはハヤテたちを無視して、シルフィードに話しかけてきた。
「五年前の戦いで、我々は人間の心に巣食う醜さを見てきたではないか。あんな者たちに使われていたのでは、心を癒すことなどできん。我々は、独立するべきなのだ」
それを聞いて、シルフィードも自分の意見を述べる。
「我々は人の心から生まれたことを忘れたのか。人と妖精、精霊は互いに切れない繫がりで結ばれているのだ」 「それを今から変えるのだ。艶麗も霊神宮も私の手で倒す」
ヴァルキリオンは、シルフィードを睨んだ。
「私を止めるために戦うか?」 「もちろんです」
そこでハヤテがシルフィードの横に並んだ。
「僕たちは艶麗を倒して、大切な人たちを取り戻さなければならないんです。邪魔をするつもりなら、あなたを倒します」
ヴァルキリオンは、そんなハヤテを見て愉快そうに笑った。
「こんな貧相な奴を主に選ぶなんて、貴様の眼も腐ったな」
貧相と言われて、ハヤテは軽く傷つく。くじけそうになる彼をヒナギクは励ます。
「大丈夫よ、ハヤテ君!貧相で、借金があって、おまけにメイドのほうが天職だといわれるぐらいな女顔でも、気にすることはないわ!」
フォローになっていない。ハヤテは大きなショックを受けてしまい、傍らで見物していた翼は笑ってしまう。
「な、なんの!それでも僕には、やらなくちゃいけないことがあるんだ!」
闘志を燃やしてハヤテは立ち上がった。
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Re: 新世界への神話 ( No.17 ) |
- 日時: 2009/10/13 21:31
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 「では、その思いを見せてもらおう」
ヴァルキリオンは刀身が氷の剣を出現させて、それを手に取った。それに合わせて、シルフィードも解放形態に姿を変える。
辺りは緊張感に包まれた。
それを破ったのは、ヴァルキリオンであった。氷の剣でそのままシルフィードに斬りかかった。シルフィードはそれをかわし、強風でヴァルキリオンを上空に持ち上げる。そのまま殴りかかろうとするシルフィードだが、寸前にヴァルキリオンは小さなつららみたいなものを投げつけた。シルフィードは攻撃をあきらめ、それをかわして地面に着地する。後に続いてヴァルキリオンも地に足をつけた。
「やるな。だが、これで全力だと思うなよ」
不敵に笑うヴァルキリオンの姿が光に包まれ、人型へと変わった。
人型のヴァルキリオンは、ガイアースと同じく外見は大人の女性で、鎧を身に纏った、神話に出てくるような戦乙女のような風貌であった。
ヴァルキリオンはシルフィードに向けて手をかざす。危機を察したシルフィードはとっさに跳び上がり、それまで立っていた地面は瞬時に凍った。
シルフィードめがけてヴァルキリオンも先ほど以上のスピードで飛び上がる。一気に懐にまで潜り込まれたシルフィードは、防御の構えも取れないままヴァルキリオンの太刀を受けてしまい、そのまま落下してしまう。さらに追い討ちとばかりに、解放形態時のものよりも大きな錐の形の結晶をシルフィードに投射する。それは、立ち上がろうとしたシルフィードの右腕を貫いた。
「くっ・・・・」
自分の精霊が負けているのは、自分のせいである。ハヤテは力不足を痛感していた。
「ハヤテ君・・・・」
一方のヒナギクも、今までずっとハヤテの戦いをそばで見ていたのに、何もできない自分に対して悔しい思いでいっぱいである。
「誰かを守るという思いが強いとは限らない。何のために、誰を守るのか。それをはっきりさせなくてはいけない」
ヴァルキリオンの言葉を聞いて、ハヤテは以前にも同じようなことを言われたことを思い出した。
ナギの祖父、三千院帝に自分の人生は無意味だと言われたことを。
「それでも僕は、ナギお嬢様の執事!必ず、お嬢様を取り返さなければならないんだ!」
そのハヤテの意気込みを受けて、シルフィードも人型形態へと変わった。
人型へと変わったシルフィードは一気に押し返す。強烈な一撃をヴァルキリオンに喰らわせ、そのまま格闘で圧倒していく。受け太刀になるしかなかったヴァルキリオンだが、隙を見て氷の剣を突き刺そうとする。切っ先がシルフィードの肩をとらえ、深手とはいかないがそれなりのダメージを与える。
そのままシルフィードの格闘とヴァルキリオンの剣技がぶつかり合う。一進一退の攻防が続き、互いの力は互角のように思われた。
だが、ハヤテの思いの力を身に宿しているシルフィードは戦闘能力を増大させていき、だんだんと一方的にヴァルキリオンを殴り続けていく。
そしてついに決着がつく時が来た。シルフィードはヴァルキリオンを蹴り付けながら後退し、一定の距離をとる。そこから疾風の如くスピードによる突進をヴァルキリオンに向けて放つ。対するヴァルキリオンも、氷の剣を構えて一閃する。
すれ違う二人。少しの間その場で立ったままであったが、ヴァルキリオンは苦しそうに膝をつき、振り返ったシルフィードには身体に一本の傷が走っていた。
「相討ちと言いたいところだが、一撃の差にこれほど差があるのではな・・・・」
シルフィードは浅い傷のようでまだ立っていられるが、ヴァルキリオンは今の一撃で戦闘不能になったらしい。いまなら、封印することもたやすいのだが。
「戦う前から思っていたが、おまえは何か別の目的で戦っているのでは?」
そう言うシルフィードに、ヴァルキリオンは自嘲っぽく笑う。
「ああ言っていたが、結局私も精霊だ。戦うには私の使者が必要だ。しかしただの人ではだめだ。その選択基準として、シルフィードの使者を量ることにしたのだ」
ヴァルキリオンは立ち上がろうとしたが、深い傷を負った影響で起き上がることも困難のようだ。
「艶麗は、倒さなければならない・・・・」 「でしたら、今封印するのはやめておいたほうがいいですね」
ハヤテは翼に同意を求める。ダイがいないこの中で決定権を持つ翼は、首を縦に振った。
「一応、ダイにもここへ来てもらうか」
了承はしたのだが、まだヴァルキリオンに対する不信感がぬぐえない翼は、ダイにここへ 来るように連絡をかけた。
そして、それが終わり携帯電話を閉じたときだった。急に周囲の風景が変わり始めた。
その変化は、ナギたちがさらわれた時のものと同様である。
「空間に引きずり込まれたのか!?」
見ると、翼の姿も大人のものに変わっている。
そして、精霊を従えた使者が何人か、ハヤテやシルフィードの前に現れた。
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Re: 新世界への神話 ( No.18 ) |
- 日時: 2009/10/15 19:47
- 名前: RIDE
- 更新します。
第7話ラストです。 やっと、あの人が戦いに加わります。
3 「艶麗の手下か!?」
現れた使者の精霊たちがシルフィードとヴァルキリオンに向けて攻撃を始める。動けないヴァルキリオンをかばって、シルフィードは前に出て突風を起こすが、いくつかが掻い潜ってヴァルキリオンに迫っていく。
「正宗っ!」
そこへ、名匠、正宗が作ったといわれる木刀、正宗を手に、ヒナギクが立ちふさがった。彼女は正宗を上段に構えて、勢いよく精霊の一体に向けて振り下ろした。人間にとっては強烈な一撃なのだろうが、精霊相手では対して効いていないようだ。
「何を考えている」
苦しげにヴァルキリオンは口を開く。
「そんなもので精霊が倒せるはずがない。引っこんでいろ」
だがヒナギクは凛として言い返した。
「戦えばあなたを守れるかもしれないじゃない。駄目だからってただ黙ってみているなんて、もう我慢できないわ!」
ハヤテの戦いに参加したかった。しかし、自分には精霊がいないからただ黙って見るだけしかなかった。しかし、だからといって何もしなければ、本当に何もできないということに、ヒナギクは気がついた。だから、こうして敵に対峙しているのだ。
愚かな行動に見えるが、ヴァルキリオンは彼女が気に入った。この女なら、と。
「おまえ、名前は」 「桂ヒナギクよ」 「そうか」
ヴァルキリオンは、重い体を引きずって、ヒナギクの元に跪いた。すると、彼女の目の前に、シルフィリングに似た腕輪が光を発して現れた。
「これは・・・・」 「ヴァルキリング。私の主であることの証だ」 「え?それって・・・・」
つまり、ヒナギクを自分の主に選んだということである。
「共に戦ってくれるか、桂ヒナギク」
それに対する答えは決まっている。ヒナギクは微笑んだ。
「ええ。任せて」
ここに、第二の使者が誕生した。
「それで、この場はどうすればいいの?」
ヴァルキリングを装着しながらヒナギクは尋ねた。まともに戦ったら、数で押されてしまう。
「考えがある」
残る力を振り絞って先ほどヒナギクに打ちのめされた精霊たちを氷の力で凍らせて封印した後、ヒナギクに案を打ち明けた。
ハヤテとシルフィードは突風によって敵を押さえつけているが、敵はじりじりとこちらに近づき始めてきた。
シルフィードの力が限界に近付けば、一斉攻撃によってやられてしまうだろう。
「ハヤテ君!」
そんな不安を抱きだした時、突然ヒナギクに呼ばれ、振り向くハヤテ。
「リングをかざして!」
ヒナギクは腕を上げるような動作をしている。それにならってハヤテはリングがよく見えるように左腕を上げた。
ヒナギクの腕から光が放たれ、シルフィリングに収束されていく。何が起こったのか驚いてリングを見ると、氷と刻まれた勾玉が挿入されている。
シルフィリングに勾玉が挿入された瞬間、シルフィードは力が湧き、凍えるような冷たい風を起こした。風を受けた敵の精霊たちはすべて凍結してしまい、封印されていった。
「やったね、ハヤテ君」
ヒナギクが近寄ってくる。そこでハヤテは、ヒナギクがヴァルキリングを着けていることに気付いた。
「ヒナギクさん、それ・・・・」 「シルフィードにヴァルキリオンの力が備われば勝てるかもしれないって言うから、リング間で勾玉のやりとりをしたの。手を動かせば時間もかかるし妨害も入ると思ったから」
子供のように成功を喜ぶヒナギク。しかしハヤテの聞きたいことはそこではない。
「これは遊びじゃないんですよ!命を落とすかもしれないほど危険なのに、なんで使者になったんですか!?」
思わず咎めるような口調になってしまうハヤテ。本気で心配しているからそうなったのだが、逆にヒナギクは口を尖らせた。
「なによ、私がそう簡単にやられると思っているわけ!?」 「そうじゃなくて・・・・」
ハヤテが次の言葉を言う前に、ヒナギクは真剣な表情で語った。
「あなたが戦っているのを、もう黙って見ていられないわ。一人より、二人って言うじゃない」
ヒナギクの決意が固いことを知ったハヤテは、それを承諾するしかできなかった。
「わかりました。ですが、あなたが危なくなったら僕が守ります。それは約束しますから、覚えておいてください」
そこでヒナギクは、ハヤテが本気で心配していることを知り、嬉しくてつい照れてしまう。
「べ、別に助けてもらわなくても、いいんだから!」
そう普段のように突っぱねてしまうのだった。
「おしゃべりはその辺にしておけ」
それまで見物していた翼が二人の元に歩いていく。
「大将格が一人、まだ残っている」
二人が見上げてみると、巨大な影が一つ、自分たちの前に存在していることに気付く。
「まずいですね・・・・」
自分が飲み込まれそうなほどの巨大さに、力を浪費したシルフィードでは勝てそうに見えない。
「おまえたちは下がっていろ」
翼が一歩前に出て、巨大な影を睨む。
「ここは俺がやる」 「そういうことだ」
そこで、翼に呼ばれたダイが姿を現す。
「あいつの相手は、俺たちの担当だ」
そう。目の前の相手は、ダイのよく知る人物だからだ。
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Re: 新世界への神話 ( No.19 ) |
- 日時: 2009/10/23 21:28
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第8話となります。
第8話 ジェット出陣
1 目の前の一つの影は、少しずつ輪郭を浮かび上がらせた。
「え・・・・?」 「あれは・・・・」
だんだんと見えてきたそれに、ハヤテとヒナギクは目を丸くする。
「ロボット・・・・?」
そう。マンガに出てくるような戦闘ロボットだ。ダイたちの世界にはそういうものがあると聞いていたが、実際目の前に存在しているものを見ると、やはり呆然としてしまう。
「やはり、おまえだったんだな。甦りやがって」
鋭い目つきで睨みながら、ダイは口を開く。
[フフフ。久しぶりだな、ダイ・タカスギ]
相手のロボットからも、スピーカーを通した声が聞こえてきた。
「あの、一体・・・・?」
二人の関係が並々ならぬものに思えて、ハヤテは恐る恐る訊ねてみる。
「あの男は、俺の仲間を裏切ったんだ」
ダイは怒りを抑えるように拳を握り締める。
「そしてあの男は俺たちの敵側について、そいつに代わって世界征服を目論んだ。だが裏切ったことへの報いか結局は切り捨てられて、孤立したアイツは俺の仲間にやられて、最後は異空間に呑み込まれたはずなんだがな・・・・」
そこでダイは呆れたようにため息をついた。
「艶麗とかいう女に助けられてもらった後も、その女の手下として働いているところから見て、世界征服はあきらめていないみたいだな。いや、艶麗を利用して三界を我が物にするつもりなんだろ?ジンジャー・コールド」
すると、ジンジャー・コールドは意味ありげに笑った。
[どうかな・・・・?はっきりしているのは、私は艶麗様のために働くという事]
ロボットがゆっくり構えを取った。
[つまり、おまえを倒すということだ、ダイ・タカスギ。このまま素直に私の手にやられるか、それとも戦うか?]
それを聞き、今度はダイが馬鹿馬鹿しいとばかりに笑った。
「わざわざ俺が出るまでも無いさ。おまえ相手に」 [なに?] 「それに、聞いてなかったのか?こいつがやるって」
ダイは一歩前にいる翼を指した。
「ふっ、そういうことだ」
不適に笑う翼は、ダイがハヤテとヒナギクをこれから起こるであろう戦いに巻き込まれないように避難させているのを横目で確認する。
[何だ、貴様は?]
ジンジャーの問いに対しても翼は笑みを崩さない。そんな彼の身体から光が発し始めた。
眩い閃光の後、翼は巨大なロボットへと変わっていた。
「え・・・・?」 「なにあれ・・・・?」
遥か後方に下がったハヤテとヒナギクはそれを見て何がなんだかわからなくなった。
「ブルー・ジェット、マシンロボモード」
二人は、そう言ったダイの方へ振り返った。
「あれがジェットの戦闘形態だ。俺たちの世界じゃあれで戦ってきたんだ」 「でも、相手の方が大きいわよ。勝てるのかしら?」
相手のロボットの全高はジェットの二倍以上に見え、まるで大人と子供のような光景にヒ ナギクは不安になるが、ダイはそんなことは気にしていない。
「でかけりゃ強いってもんじゃねえだろ。それに、ジェットの実力は俺たちの世界じゃ最強クラスなんだぜ」
ダイの視線はジェットに釘付けのままである。
「仮にジンジャーのあのメカがあれからパワーアップしていたとしても、ジェットの実力はそれに引けを取らない、むしろ勝っていると俺は見た」
ダイの、ジェットの勝利を確信している気持ちに触れ、ハヤテとヒナギクはそれ以上何も言えない。
「まあ、黙ってみていようぜ」
ジェットとジンジャーのメカ、ケイオスとの間に緊張感が漂う。
ケイオスは構えを取るが、ジェットは何の動きも見せない。
[何だ貴様、闘う気があるのか?]
しかしジェットは先ほどから笑みを浮かべたままだ。まるでどうぞ攻撃して下さい、と言っているようだ。
そう受け取ったのか、ジンジャーはケイオスの胸部に設置された砲を撃つ。ノーモーションからのビーム、ジェットの今の体勢からではかわすことは難しい。
しかし、ビームに貫かれると思われたジェットの姿は、ビームに触れる直前に突如消失した。
[何っ!?]
急いでジェットの姿を捜すと、相手は背後に回っていた。
ジンジャーはどういうことなのかと焦ったが、すぐに落ち着きを取り戻す。
優秀だと自負しているジンジャーの頭脳は、ジェットは瞬間移動と錯覚してしまいそうな超高速移動が可能だということを理解したのだ。
しかし、理解することとそれを実際に捕らえることは別である。今度は、本来前方に向けて展開する背部のキャノン砲を後方に向けたまま放つが、この砲撃も空を通っただけで、ジェットはケイオスの懐にまで移動していた。
[くっ、すばしっこい!]
あまりのスピードにジンジャーは悪態をつく。だがチャンスであった。こう距離がつまっていては、せっかくの高速移動も活かせない。
ケイオスは高周波ナックルを装備した拳を突きつけようとする。対するジェットは腰の鞘から剣を抜く構えを取る。
「天空真剣、燕返し!」
ジェットの振るった剣がケイオスの拳と衝突し、はじき返した。ジェットはそのまま後退し、一定の距離を保つ。
[なるほど]
一通り闘ってみて、ジンジャーは再び余裕を取り戻していた。
[その素早い動きに、先程の剣技。防御時に真価を発揮するみたいだが、それだけでは勝てないぞ]
自分の機体が傷つけられることは無いと判断したため、またいくら自分よりも速く動けても、長期戦になればこちらもエネルギーの問題などはあるが、向こうもいずれは必ず疲労してしまい、攻撃を受けやすくなると予測し、勝機はあると睨んだためだ。
しかしジェットはそれに堪えた様子は無かった。
「確かに、このままだと埒があかないな」
ジェットは再び剣を抜く構えを取り、超高速移動でケイオスの至近距離まで接近する。またも突き出されるケイオスの拳を燕返しで払いのけ、振った剣をそのまま上段に構える。
「天空真剣、鋼割り!」
そのまま剣を振り下ろす。相手の装甲の硬さに、一刀両断とまではいかなかったが、大きな傷を残すことはできた。
ジンジャーは自分が設計した高性能を誇る機体が傷つけられたこと、そしてスピードはもちろん、攻撃、防御の剣技など予想以上のジェットの戦闘力に驚愕していた。
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Re: 新世界への神話 ( No.20 ) |
- 日時: 2009/10/25 18:12
- 名前: RIDE
- 更新します。
ジェットvsジンジャー後半戦です
2 遠くから戦闘を眺めていたハヤテとヒナギクは、ジェットの闘う様に歓声を上げていた。
「ジェットさんって、あんなに強かったのね」 「このままいけば、ジェットさんの勝利ですね」 「このままいけば、な」
確かにダイは、ジンジャーよりもジェットの方が実力は勝っていると思っている。だから、この戦闘はジェットが勝つと信じて疑わないでいた。
しかし、ジンジャーははじめ自分を狙っていた。自分と彼との実力差は十分理解しているはずであろう者が、だ。そこまでするからには、何らかの隠し球を用意しているのではないかと疑っている。
「何を隠しているのか・・・・」
勝てる相手とはいえ、ジェットには油断無く闘ってほしいとねがうダイであった。
油断していた、とジンジャーは反省していた。
ダイ・タカスギの部下だと侮っていたが、相手の剣における技量は、ダイの実力よりも上だと実感できる。
ならばダイよりもこの男を優先して倒さなければならない。ダイならばいろいろと策を尽くせるが、ジェットのように純粋に力だけで闘わなければならないような相手は、ジンジャ ーにとって厄介だからである。
「さっそくこいつを使うことになるとはな」
ケイオスのコクピットの中で、ジンジャーはつぶやいた。
ジェットへの攻撃を再開するジンジャー。ジェットに向けて、ケイオスの拳を飛ばした。先ほどのように超高速移動でかわしたジェットは、そのままケイオスの近くまで行き、跳び上がった。
そのまま鋼割りを決めようとしたが、背後で青白い光が発したかと思うと、突然後ろから衝撃を受けた。ジェットはよろめき、技を決められなかったが、何とか着地だけは成功する。
衝撃は、ケイオスが飛ばした拳によるものであった。飛ばした拳を操れるということは、コントロール装置が設けられているのであろう。しかしそれでも、こんなに早く戻ってくるはずがない。
そこでジェットは、衝撃を受ける前に青白い光が発したことを思い出し、そこからあることに行き着いた。
「まさか、ボソンジャンプか?」
余裕なのか、ジンジャーから答えが返ってきた。
[異空間を漂流していたからな。私自身は跳べなくても、爆弾などを送り込めるようにはなったさ]
ボソンジャンプとは、ダイたちの世界で使われている時空間移動だが、コントロールできない部分が多く、実用に関してはいろいろと条件が必要なのである。
おそらくジンジャーは異空間での漂流体験を元に独自に研究し、その技術の一部を手にしたのだろう。
再び拳を飛ばすケイオス。ジェットはまたもかわし、相手が拳をボソンジャンプさせる前に攻撃しようとするがやはり遅く、ジェットの頭上で青白い光が発生する。今度は上から襲ってくる拳をジェットは燕返しで払い除けるが、そこにケイオスの背部キャノン砲が火を吹き、砲弾が無防備なジェットへと吸い込まれていった。当たり所が悪かったのか、受身も取らずそのまま墜落しかけているジェットに、追い討ちをかけるように高周波ナックルを叩きつけた。
[フフフッ私の勝ちだな]
ジンジャーは、勝利を確信した。
[多少手間を掛けてしまったが、それについては称えよう。それでも、私が負けることはないのだ]
ケイオス両手を組み、振り上げた。
[ダイ・タカスギを倒すための準備運動になったよ]
それをそのままとどめの一撃として振り下ろした。
だが、ジェットの身体を叩きつけると思われた拳は、寸前のところで止まった。
ジェットが剣で攻撃を防いでいたのだ。
ジェットは拳を払い除け、後退する。
[む・・・・!]
そこでジンジャーは思わず唸った。ジェットから覇気が放たれているのに気付き、その凄まじさに一瞬身がすくんでしまったからである。
「そういえば、まだ名乗っていなかったな」
ジェットは、ケイオスに向き直った。
「俺は勇者ダイ・タカスギを守る三機衆の一人、音速の剣士ブルー・ジェット」
ジェットは、剣を鞘に収める。
「おまえを倒す者の名だ。覚えておけ」
その言葉を聞いてジンジャーは気に食わない気持ちになった。
[この私を倒す、だと]
ケイオスは右の拳をジェットに向ける。
[この期に及んでそんなことを言うか!]
その拳を飛ばすケイオス。対するジェットは、居合抜きの構えのまま先程と同様の超高速移動をもってかわす。
「見せてやろう。このブルー・ジェット最大の技を!」
そう叫んで跳び上がったジェットの死角からボソンジャンプされた拳が飛んでくる。攻撃態勢を取っているため、剣は抜けない。無防備のまま高周波ナックルを受けるしかないとジンジャーは確信していた。
だが驚いたことに、ジェットは二段目の跳躍でケイオスの拳をかわし、その拳を踏み台にしてケイオスに向かってさらに加速した。
「天空真剣奥義、鎌鼬!!」
ケイオスとすれ違うジェット。ケイオスの左腕が地に落ちた。
放ったのは超高速の居合抜きだった。剣を抜く際、早い抜刀スピードのため真空波が生じ、それからおこるかまいたち現象と相まって高い攻撃力を生み出す、剣の達人であるジェットだからこそできる技であった。
[くっ、まだだ!]
片腕を切り落とされた状態のケイオスでも、なおもジンジャーは戦おうとしていた。
その時、戦いを静止する声が。
「そこまでよ」
この緊迫した場にはそぐわない、明るい女の声であった。
[え、艶麗様・・・・!]
ジンジャーの言葉に、ジェットだけでなく後ろで戦いを見守っていたダイたちも目を見開いた。
ジェットとケイオスの間に、絶世の美貌と抜群に均整のとれた身体の持ち主である、ジンジャーの親玉が現れた。
「お終いよ。これ以上はやっても意味がないわ」 [しかし・・・・] 「私の言うことが聞けないのかしら」
口調こそ甘美に聞こえるが、その端には脅迫めいたものがあり、それを感じたジンジャーは彼女に従った。
艶麗はダイたちを見つけると、そちらに近づいていく。
「あなたが噂の勇者様ね」
ダイは、艶麗を睨みつけている。
「会えて嬉しいわ」 「こっちもだ。敵の顔を知らないままじゃ気分が悪いからな」 「ふふっ。今日は忠告に来たのよ」
表情こそ誰もが振り向くような笑顔だが、そこから並々ならぬ迫力を感じる。
「今すぐ私の邪魔は止めなさい。さもなければ、痛い目を見るわよ」
それをダイは一笑して却下した。
「いやだね」 「そう。それじゃあまた会うことになるわね。その時は泣かしちゃうから」
艶麗もその答えを予測していたのだろう。笑顔のまま別れを告げた。
「またね、勇者様」
艶麗はこの場から消えていった。彼女に続いてジンジャーも去っていく。
[止むを得ん、決着はいずれダイ・タカスギ共々つけてやる。覚えておけ、ブルー・ジェット]
残された者たちは負け犬公園に戻っていた。ジェットやダイの姿もこの世界にあわせたものに変わっていた。
翼の元に駆け寄った時、ハヤテとヒナギクは思わず立ちすくんだ。
翼の身体から、大量の血が流れていた。
「あの男、中々やるな。少し油断した結果がこうなったか・・・・」
苦しそうに息をつきながら、翼は強がって微笑んだ。
「もちろん、次はこうはいかないさ・・・・」 「何かっこつけてんだ」
そんな翼の肩を、ダイが担いだ。
「こいつのことはまかせろ」
ダイは、ハヤテとヒナギクの方を向いて告げる。
「おれたちはこのまま帰る。おまえたちも気をつけて帰れよ」
そして、そのまま二人と別れていった。
「艶麗自ら姿を現したということは、敵も本気になったということか」
帰り道、ダイと翼は艶麗について話し合っていた。
「ああ。アイツ自身、かなりできるヤツだと思う」
その強さは、おそらくあのジンジャー以上ではないかと予測してしまう。
「それに・・・・」 「それに?」
思わず口にしかけたダイは、なんでもないと言って噤んだ。
彼女が人間でも精霊でもないものに感じた、なんてことは、言っても信じられないだろうと思ったからだ。
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Re: 新世界への神話 ( No.21 ) |
- 日時: 2009/10/27 21:25
- 名前: RIDE
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今回から第9話です。
第9話 兄弟の再会
1 「では、桂さんが新たに精霊の使者となったわけですね」 「ああ」
ダイと翼は帰宅後、大地とシュウに公園での戦いのことを話していた。翼の怪我はこの世 界にはない治療技術によって、驚くべきスピードで回復していた。
「てことは、戦力が増えたってことだな。良かったぜ、楽ができて」 「良かあねぇ」
ダイはヒナギクが使者になったことに不機嫌であった。
「あいつはなまじ武道に長けているから、無茶とも取れる行動が多い。冷や冷やものだぜ」 「確かに。余裕のないときはそうなるかもしれん」
三人は頷くが、同時にこうも思っていた。
「しかし、何をするかわからないおまえが言っても説得力はないぞ」 「そうですよ。桂さんはまだ、冷静に判断できますし」 「おまえら・・・・!」
それらを口にした翼やシュウに対して、ダイはムキになった。
「俺のことはどうでもいいだろ!それより艶麗のことだろ!」 「そうだな」
再び気を引き締める一同。
「戦いはこれからなんだ。警戒しろよ」
翌日
「だからってこれは露骨すぎだろ・・・・」
翼、大地、シュウの三人は周囲を睨みながら、ダイの横に並んで登校してきた。端から見れば不審者そのもので、ダイは呆れるしかなかった。
この昼休みも、全方位に注意が行くように三人は背中合わせで昼食を摂っていた。その様子を、ため息をつきながら見ているダイ。
「甘いですよ、ダイ様」
人差し指を突き立てて豪語するシュウ。
「相手はところかまわず出現する、神出鬼没の使者なんですよ。この昼食時を狙って攻めて来るかもしれません」
だからと言ってこれはオーバーだと思うダイ。そんな彼の気持ちに気付かずシュウは続ける。
「そうなって慌てたら遅いんですよ。敵は見逃してくれません。ああいうふうにはなりたくないでしょう?」
シュウが指した方向。そこにはハヤテともう一人。
「待て!綾崎!」
虎鉄が叫びながらハヤテを追いかけている。
「いい加減にしてください!しつこいですよ!」
ハヤテが困った顔で止めるように頼んでも、虎鉄は聞き入れない。
「そんなこと言わないでくれ!せっかくおまえのための弁当まで用意したんだぞ!」
ストーカーの物言いで、虎鉄は迫っていた。
「よくもまぁ、あそこまで熱心なことだ」 「ああいうオタクや変態は結構めげないからな」
翼と大地が嫌味っぽく笑う中、ダイが立ち上がった。
「どうした?」 「黙らせてくる」
つまるところ、たまったストレスを発散させる為の八つ当たりだろう。翼はやれやれと肩をすくめた。
ダイがスタスタと虎鉄に歩み寄り、拳を振ろうとしたその時だった。
突然、雷が虎鉄に落ちてきた。
「―――――!?」
虎鉄は声にならない叫び声をあげ、黒焦げになって倒れた。
天気は雲ひとつない晴天である。落雷なんて起こるはずがない。
「ダイ?」
訝るように声を掛けた翼に対し、ダイは首を横に振って否定する。
とりあえず虎鉄の近くまで集まるダイたち。ハヤテと、追いかけっこを笑顔で眺めていた泉も駆け寄る。
「虎鉄君、大丈夫かなぁ・・・・」
泉が心配そうに覗き込んだ。
「死んではないと思いますよ」 「う・・・・うぅ・・・・」
ゾンビのように這い上がる虎鉄。
「あ、綾崎ィ・・・・ゴフッ!」
ハヤテは足で虎鉄の頭を思い切り踏みつける。
「しばらく黙っといて下さい」
悪意とも取れる満面の笑みを見せるハヤテであった。
「おい、あれ!」
大地が指した方向に全員目を向ける。
ここから結構離れていると思われるところに、鳳と巨人の影がそびえ立っていた。
「一体なんだろ?」
すぐに消えたその影に泉は首を傾げるが、他の者たちは全員気付いていた。
あれは、精霊であると。
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Re: 新世界への神話 ( No.22 ) |
- 日時: 2009/10/30 21:35
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から原作キャラの家族設定から考えたオリキャラが登場します。 タイトルを見れば想像できますけど。
2 放課後。
ダイの元には翼、ハヤテ、ヒナギクが集まっていた。
昼休みあの場にいなかったヒナギクは、生徒会室で仕事をしていた。高所恐怖症のため時計台の最上階からの絶景が見えないため、巨大な影については確認できなかったが、晴天にもかかわらず雷が落ちたことは、雷鳴によってわかった。彼女もまた、精霊の仕業なのではないかと思い、ダイたちと合流したのである。
「あの雷は、間違いなく二つの影のうちどちらかの仕業だ」
念のために大地とシュウは待機させた。伝助にも協力させてもらおうかと考えたのだが、職員会議のために仕方なく断念した。
「雷を操る能力ですか。手ごわそうですね」
そして四人は影が立っていたと思われるところに着いた。
そこは木が生い茂る森の中。視界は悪く、緑以外何も見えない。
「誰かいる・・・・」
だがダイは、人の気配を感じ取っていた。
「出てこい!」
返事はなかった。だが、彼らの前に人影が現れる。
「美希!理沙!」
クラスメートで生徒会メンバーである花菱美希と朝風理沙であった。
「なんだ。三バカ娘の二人じゃないか」
ダイは、大げさなふうに落胆して見せた。
「二人で組めば俺たちを倒せると思い込んでるみてぇだけど、バカ同士組むなんてまさにバ カだな」
ダイの暴言に、美希と理沙は顔をしかめた。
「我々を甘く見てもらっては困るな」 「そうだ!見ろ、この力を!」
美希は金属の巨人を、理沙は瑞鳥のような鳥をそれぞれ自分たちの前に呼び寄せる。
「くらえ!」
巨人は拳を、瑞鳥は電撃をダイたちに叩きつけようとする。
ダイたちはそれを感じ、寸前に後方に飛んでかわした。
「なるほど、力は一人前だな。しかし、それで一人前と言うことは、やっぱり一人一人は半人前のバカってことだな」
再び発せられたダイの暴言に、美希と理沙はいちいちムキになる。
「いいだろう。そこまで言うなら、私たちの各々の力を見せてやる」 「ついてこい!」
美希と理沙は、別々にこの場を去った。
「うまくいった」
二手に分かれたのを見て、ダイは笑った。
「あいつらを分散させるためにわざわざ挑発をしたんだが、こうまでうまくいくと本当にバカなんだと思っちまうぜ。あいたっ!」
ダイは後頭部を手で抑えた。ヒナギクが木刀・正宗で叩いたためである。
「何すんだ、この木刀女!」 「高杉君、これ以上あの子たちをバカ呼ばわりしないで!」
友達思いのヒナギクは、ダイの言動に腹が立ったのだ。
ダイはそれ以上二人のことについては口にしなかった。
「わかったよ。それじゃあ、翼と綾崎は花菱を、そこの木刀女は俺と一緒に朝風を追うぞ」
二人一組になってそれぞれ追いかけ始める。ハヤテと翼は鬱蒼とした森の中を駆け、切り拓かれた地へとたどり着いた。
「待っていたぞ」
鋼の巨人とともに美希が仁王立ちで待ち構えていた。
「この金のバロディアスを倒せるかな?」
巨人、バロディアスは人型形態へと変わっていく。
「僕が相手です、花菱さん!」
疾風のシルフィードも一気に人型形態へと変わっていく。
「翼さんは下がっててください」 「わかった」
素直に従う翼。もしハヤテがやる気でなくても、彼はハヤテにやらせるつもりだった。基本的にダイや翼は、艶麗やジンジャー以外との戦闘はこの世界の住人に任せるつもりである。
「いきます!」
シルフィードとバロディアスが激突し始めた。
一方、ヒナギクとダイも別の開かれた場へと着いた。
そこには予想どおり理沙がいた。ただ一つ思ってもみなかったのは、彼女が地に伏せている状態であるということだった。
「理沙・・・・?」
最初は、自分たちの隙を突くためのフェイクか悪ふざけかと思って身構えていたが、理沙は何の反応もない。
恐る恐る近づいていくと、ヒナギクは息を呑んだ。
倒れている理沙には、激しく争った跡があった。
「理沙!」
ヒナギクは理沙に駆け寄って彼女を抱き起こす。ダイは疑問を抱いていた。
「一体誰が・・・・?」
大地やシュウたちではない。彼女が艶麗を裏切り、その制裁というふうにも考えにくい。
つまり第三者の仕業ということになるが、何の目的で理沙を襲ったのか見当がつかなかった。
「う・・・・」 「理沙!」
うめき声とともに理沙が気を取り戻した。
「ヒ、ヒナか・・・・くっ」 「理沙、しっかり!」
負傷しているのか、身を起こそうとすると理沙は苦しそうな声をあげる。
「ラ、ライオーガを・・・・奪われてしまった・・・・。ハ、ハヤ太君に伝えなければならないことが・・・・。ライオーガを奪った男は・・・・」
理沙が続けた言葉に、ヒナギクはただ驚愕するばかりであった。
「金剛粉砕撃!!」
バロディアスの必殺技を、かろうじてかわすシルフィード。
戦況は互角であった。力で勝るバロディアスに対し、シルフィードは攻撃を当てては後退するというヒットアンドアウェイ戦法でいくが、相手の防御力は高く、中々致命傷を与えることができない。
一発でも攻撃を受けてしまえば、危ない。
そんな緊張感の中、理沙とともにいた瑞鳥がこの場に現れた。
「雷のライオーガ。ヒナたちをやっつけたんだな、理沙」 「そんな!」
ダイはともかく、ヒナギクがやられるなんて信じられないという思いで、雷のライオーガを見つめるハヤテ。
だが同時に美希も、ハヤテと同様の表情となる。
「誰だ、おまえは?」
ライオーガの後ろにいたのは理沙ではなく、一人の男であった。
「水入らずの再会に、貴様は邪魔だ」
開放形態のライオーガは翼部を勢い良くバロディアスに打ちつけた。それだけでバロディアスは封印され、美希もそのまま倒れてしまった。
「開放形態で人型形態の精霊を倒すなんて・・・・」
開放形態と人型形態で力を比べたら、人型形態の方が断然強い。それをひっくり返すということは、あの男の心の力は、それほど強いと思われる。
「誰だ貴様は?艶麗と何か関係があるのか?」
翼は警戒しながら、正体不明の男に聞き出した。
「艶麗?誰のことだ?」
男の姿はよく見えないが、声の調子から悪ふざけではなく、真剣に答えているのだとわかる。
「何故ライオーガを奪った?」 「力を得るためだ」 「力?」 「そうだ。滅ぼすための力だ」
翼は訳がわからなかったが、危険な奴だと認識した。それは、先ほどからあの男から発している修羅と思えるほどの憎悪を感じていたからだ。もしそれで人が殺せるのならば、この場にいる全員は間違いなく命を奪われている、そんな錯覚を起こしてしまうぐらいであった。
「ハヤテ君!」
そこへ、ヒナギクとダイも参入する。ヒナギクも男の憎悪を感じて、怯んでしまう。
「もう一度問います。あなたは誰なんですか?」
返答はない。
「答える気がないのなら、答えさせるましょう!」
ハヤテは攻撃態勢をとるが、それをヒナギクが止めた。
「ダメよハヤテ君!あの人は、あなたのお兄さんなのよ!」 「えっ?」
思わずふらついてしまうほどの衝撃を受けたハヤテ。
「ヒナギクさん、今なんて・・・・」 「あの人は、お兄さんなのよ。ハヤテ君」
ハヤテは、期待と不安の入り混じった目で男を見た。
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Re: 新世界への神話 ( No.23 ) |
- 日時: 2009/11/04 17:26
- 名前: RIDE
- 更新します。
第9話ラストです。
3 男は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
だんだんと男のシルエットがわかってくる。身長はハヤテよりも大きく、顔は大きなバイザーで隠している。
「バイザーを取ってください!」
震える声でハヤテは命じた。
男はゆっくりとバイザーを外した。そこから覗く顔。大きく目立つのは左目に走る一本の傷だ。
「雷矢兄さん・・・・!」
自分の兄の顔を見て、ハヤテの目に涙が溢れてくる。
「生きていたんですね・・・・!」 「久しぶりだな、ハヤテ」
ハヤテの兄、雷矢は弟に優しく微笑んだ。
「でも兄さん、何故こんな事を?」
雷矢はその疑問に答えず、別の話を切り出す。
「ハヤテ、俺と一緒に来ないか?」 「え?」
「俺たちは共に世の中の身勝手や不合理を押し付けられた。そんな世界に復習しようとは思わないか?」 「それは・・・・」
確かに両親に一億五千万で売られた時、自暴自棄にその場にいたナギの誘拐を企てた。あれほど人生に絶望したことはなかった。
「数ヶ月前の僕なら、兄さんに賛成していたでしょう」
だが、それがきっかけでハヤテはナギに救われることになった。未遂とはいえ罪を犯した自分を執事として雇ってくれたその恩は、今でも心に染み渡っている。
「でも僕には、そんな世の中に守りたい人たちがいるんです」
ナギをはじめとしてマリア、そして隣にいるヒナギクなど、いろいろな人たちがハヤテの脳裏に浮かんだのだった。
「そうか」
あきらめたように目を伏せた雷矢は、次の瞬間には先ほどの憎悪をたぎらせた。
「ならば、ココで死ね!」 「兄さん!?」
雷矢の憎しみを受けて、ライオーガはハヤテに向けて攻撃した。その前にシルフィードが割り込んで、間一髪でハヤテを守る。
「兄さん、何故!?」 「これ以上の問答は無用!」
雷矢は再びライオーガに攻撃を命じようとする。
「待ちなさい!」
それをヒナギクが止めた。彼女は怒りの形相で雷矢を睨む。
「あなた、ハヤテ君のお兄さんなんでしょ?何で弟のハヤテ君を殺そうとするの!私にもダメなお姉ちゃんがいるけど、私を傷つけるような事はしないわ!」
雷矢はそれを一笑に付した。
「甘いな」 「なんですって!」
家族思いのヒナギクは、そんな雷矢の態度が許せなくなった。
「その曲った根性叩きなおしてやるわ!」
それに呼応するように、ヴァルキリオンが現れ、ライオーガめがけて氷の剣を振るう。そこから凍気が発し、ライオーガに襲い掛かる。
ライオーガは凍気を翼部で払い除ける。その瞬間にヴァルキリオンは一気に人型へと変わり、跳び上がって氷の剣を上段に構える。そのままライオーガに振り下ろすが、もう片方の 翼部でこれも払い除けられ、そのまま振り飛ばされてしまう。
「邪魔をするなら、おまえも殺す」
ライオーガの口内に電撃が溜まり、ヴァルキリオンとヒナギクに向けて放射した。
「危ない!」
咄嗟にシルフィードが風によるバリアを展開しながら前に出て、二人の盾となる。
「兄さん」
ハヤテの表情には迷いはなく、真っ直ぐに雷矢を見る。
「いくら兄さんでも、ヒナギクさんに手を出す事は許しません!兄さんがこれ以上暴力をふるうなら、ぼくは兄さんを止めます!」
そのためには、ライオーガに自分が持てる最大の力をぶつけなければならない。
ヒナギクとアイコンタクトを交わすハヤテ。彼の意図を汲んだようで、ヒナギクは了承の意を示した。
ヴァルキリオンが核である勾玉に戻り、ハヤテのシルフィリングに収まった。シルフィードに冷気の力が宿る。
「いっけぇぇ!」
シルフィードが凍気を纏いながら、疾風の如くスピードでライオーガに突進する。
しかし、ライオーガはそれを真正面から受け止め、そのまま難なく押し返した。
「そんな・・・・」
押し出され、倒れたシルフィードを見てハヤテは絶望する。
「シルフィードの必殺技が、こうも簡単に破られるなんて・・・・」 「ほう、これが必殺技だというのか。俺も同じ事ができるぞ。」
ライオーガ全体が雷に包まれる。
「電光石火!!」
そのままライオーガはシルフィードに突進する。まともに喰らったシルフィードは、大きなダメージにより通常形態にまで戻ってしまう。
ライオーガの電光石火は、シルフィードの突進よりも速く、威力も大きかった。
「必殺技とは、こういうもののことを言うのだ。おまえたちのは、ただの体当たりだ」
非常にも雷矢はハヤテに言い放つ。
「加えて訂正する。俺はただ暴れるのではない。この汚れきった世界を滅ぼす。そのために俺はこの力を使う」
雷矢の言葉に含まれている憎しみの大きさに、ハヤテとヒナギクは絶句してしまう。
今の雷矢は、憎しみの塊にも思えた。
「兄さん、一体何があったんですか・・・・?」 「言ったはずだ、これ以上の問答は無用だと」
ライオーガがハヤテに攻撃を仕掛けようとする。
「待て」
それまで静観していたダイが一歩前に出る。
「何だ貴様は」 「部外者だ」
ダイの答えに、ふざけていると感じた雷矢は顔をしかめる。
「だがこいつらは俺のためにも生かしてもらいたいんだ。だから命を奪うのはやめてくれ」 「・・・・断る!」
腹をたてた雷矢は、迷うことなくライオーガに電撃をダイに向けて放射させる。
雷撃は、真っ直ぐダイへと伸びていく。
「でしゃばったのが貴様の罪だ」
黒焦げの焼死体が出来上がっている。そう確信していた。
だがそこに、雷矢の思い描いたものはできなかった。
電撃はダイの横に大きな穴を穿していた。ダイは無傷である。
雷矢は信じられなかった。照準は、確かにダイに合わせていた。
「外れた・・・・?いや・・・・」
もう一度電撃を放つライオーガ。それを雷矢はじっくりと見る。
電撃は、ダイの手前で不自然に反れた。先ほどと同じようにダイの横に落ちる。
偶然とは考えにくい。おそらく、何らかの力でダイは電撃の軌道を変えているのだろう。とても人間技とは思えない。
「貴様は危険な存在だ。この電光石火で葬らなければならん!」
再び雷に包まれるライオーガ。対するダイももう黙ってはいられない。
「このままやられるわけにはいかねえな」
そう言ったダイは、どこからか槍を出した。二本の剣が柄同士で結合したようなそれを、強く握る。
一瞬、ダイの両拳が光ったように見えたかと思うと、彼は持っている槍を横薙ぎする。
「!ライオーガ!!」
ダイが槍を振るう寸前に、ライオーガは翼で身を守り、雷矢もライオーガの陰に隠れる。
強い突風が生じ、止んでしばらくたった後、雷矢の後ろで重量のあるものが次々と落下す る音が聞こえた。
振り返った雷矢は、そこにある光景に息を呑む。たくましそうな多数の樹木たちが、切り落とされていた。
「電光石火のパワーを急速に防御に回していなかったら、俺もライオーガも斬られていたな・・・・」
そして、ダイは本気ではない。彼の余裕ある表情がその証拠だ。
雷矢は、底知れぬダイの力に恐怖を感じた。今ここで彼と敵対したら、命の保証はないとまで思ってしまう。
「仕方ない。ここは引くとするか」
雷矢は去り際にハヤテに告げる。
「ハヤテ。もし命が惜しかったら、三千院家から身を引くんだな」 「え?それはどういう・・・・」
しかしそれにも答えず雷矢とライオーガは完全にこの場から姿を消した。
「兄さん・・・・」
雷矢が去った跡を、ハヤテはしばらく切なそうに見ていたのであった。
兄弟の再会は、憂鬱なものとなった。
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Re: 新世界への神話 ( No.24 ) |
- 日時: 2009/11/06 21:28
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第10話です。
第10話 木のフォレシオン
1 あの後、ダイ、ジェット、ドリル、ジム、ハヤテ、ヒナギクの6人は霊神宮へと訪れていた。
「賢明大聖!」 「なんだ・・・・うぉっ!?」
大聖殿に入り込むなり、ダイは賢明大聖を足蹴にした。
「どういうことだ!?艶麗以外にも敵がいるじゃねぇか!」 「ダイ様、落ち着いて!」
賢明大聖に乱暴するダイを、ジムは必死で止めた。
「いたたた・・・・。一体何があったんだね?」
ダイは雷矢とライオーガのことについて説明した。
「そんなことが起こったとは。思ってもみなかったな」 「本当にそう思ってんのか?」
賢明大聖に懐疑的な目を向けるダイ。
「全くの予想外だ」 「ふうん。で、このことはどうすんだ?」
雷矢は、おそらく艶麗に関わるような事はしないだろう。だが本来霊神宮が対処すべきことを自分がやるのだとしたら、はっきり言って面倒くさい。
「それはこちらで考えておくが、とりあえずは保留だな。君たちは今までどうり艶麗を追ってくれ」 「へいへい」
それはつまり、自分の手を煩わせることになるかもしれないということで、ダイは気のない返事をした。できれば、自分に関わらないでくれと雷矢に祈らずにはいられない。
賢明大聖への不信と不満を抱いたまま、ダイは大聖殿を出ようとして、入ってきた人とぶつかってしまう。
「うおっと」
とりあえず何か言おうと相手の顔を見ると、その顔は仮面によって覆われていた。
「明智天師、どうした?」 「賢明大聖、お話が・・・・」
仮面の男はダイを無視して通り過ぎ、賢明大聖と事務的なことを話し始めた。なんとなく不愉快なダイは、その陰でこっそりと白子を捕まえる。
「なあ、あの仮面の男は誰だ?」 「あのお方は、明智天師といいまして、賢明大聖の弟であり大聖の補佐をお仕事とされてお ります」
説明を受けたダイは、訝しげに明智天師を見る。ただしそれは、賢明大聖に対するそれとは違っていた。何かこう、まとまっていないような。
自分でも自負するほどのカンの鋭さを持つダイだが、はっきりとしたことはわからなかった。
「やっかいなことになりましたね」
帰途の中で、ジムたちは雷矢のことで話し合っていた。しかしハヤテだけは暗く俯いている。
「どうしたの?ハヤテ君」 「え?」
そんなハヤテの沈んだ表情に気付き、ヒナギクが気遣うように訊ねる。慌てて取り繕うとするハヤテだが、その前にヒナギクが核心をついた。
「お兄さんのこと?」 「・・・・はい」
ハヤテはぽつりぽつりと話し始めた。
「兄さんは昔から僕が危ない目にあいそうになるといつも助けてくれたんです。僕が泣く時には黙って胸を貸してくれて、そんな兄さんを僕は尊敬していました。僕が両親に外国の開発区に飛ばされそうになった時も、兄さんは自ら進んで代わりになってくれた。それが最後に見た兄さんの姿でした・・・・」
懐かしむような笑顔を見せたハヤテだったが、すぐにまた萎んだ。
「開発は中止となってスラムになったと聞きましたから、あの後兄さんが死ぬほど苦労したことはわかります。でも、僕に男らしくあれと言っていた兄さんが、ああいう風になるなんて、僕には信じられない・・・・」
誰も、どんな言葉をかけていいかわからなかった。
「絶望するには、まだ早いんじゃねぇか?」
そんな中で、ダイは口を開いた。
「弟のもとを訪れて、一緒に来いって言ったんだ。わかれる時もおまえを気にしてたんだ。それはまだ、兄貴としての情が残っているんじゃねえか?」
今までのダイなら、下手な慰めだと感じただろうが、先ほどのあの強さを見てダイに威厳というものを感じ取ったため、ハヤテはダイの言葉を信じることができた。そうでなくても、ダイの言葉は何故かそうさせてしまう力がある。
「そうよハヤテ君。兄弟の絆がそう簡単に切れるわけないわ」
ダイの一言が空気を穏やかにしたのか、ヒナギクも明るい声で励ました。
「・・・・そうですね。僕は、僕の兄さんを信じます」
元気を取り戻したハヤテは、その後は落ち込んだ様子は見られなかった。
しかし、ダイは雷矢から感じた憎しみとは違うものに、少し頭を捻らせるのであった。
翌日。
「さて、帰ってお屋敷の仕事をしなくちゃ」
一日の授業が終わり、ハヤテが帰宅しようとしたその時、ハヤテの携帯電話が鳴り出した。
「マリアさんからだ」
急な用事でもできたのかと思いながら、電話を繋ぐハヤテ。
「もしもし、ハヤテですけど?」 [ハ、ハヤテ君!大変です!]
よほど興奮しているのか、マリアは突っかえながら言葉を続けた。
[ナギが、ナギが見つかりました!] 「・・・・え?」
一瞬、その言葉が信じられなかった。自分の主であるナギは艶麗に捕まっているはずであった。
[三千院家のレーダーに反応がありました。伊澄さんと共に今、白皇学院にいます!]
しかし、自分の主が敵の手から逃れ、身近にいるかもしれないとなると、駆けつけたくなるのが執事というものだ。
「ダイさん!」
マリアから詳しい場所を聞き出したハヤテは、ダイを引っ張ってナギと伊澄のいる場へと向かった。
そこは校庭で、ナギと伊澄はオロオロしていた。
「お嬢様!」
そんな時現れたハヤテに、ナギは顔を輝かせた。
「ハヤテ!」
そのままハヤテに抱きつくナギ。心細かったのか、嗚咽をこぼしている。
そんなナギを、ハヤテは優しく抱き締める。しかしダイはナギを疑っていた。艶麗が仕掛けた罠という可能性が否定できなかったので、試してみた。
「おいチビ女、おまえ本当に引きこもりの三千院ナギか?」 「だ、誰がチビで引きこもりだ!」 「その反応、正しく本物のお嬢様ですね」
とりあえず二人は安心した。
「でもアイツは・・・・」
ダイは不審の目を伊澄に向けると、ナギは怒って親友をかばった。
「伊澄を疑うな!私たちがここにいるのは、伊澄のおかげなんだぞ!」 「そうなんですか?」
ハヤテも一見して頼りなさそうな少女を見る。
「はい。さらわれた皆さんは催眠術みたいなものをかけられていましたが、私には効きませんでした」 「どういうことだ?」 「伊澄さんには不思議な力があるんです」
ナギに聞こえないほどの小声でダイに補足するハヤテ。伊澄はゆっくりとした口調で事情の説明を続けた。
「私はナギを術から解かせて、隙を見て脱出しました。こちらの世界へは何とかたどり着けましたが、そこからは、どちらへ行けばよいのか、オロオロと・・・・」
要するに迷子である。ナギはやはり引きこもりのため外の空気には慣れておらず、伊澄は重度の方向音痴であるため、当然の結果であろう。
「全く、信じられないほど遠いところにまで行ってしまってたぞ」
そう言ってナギが取り出したのは、名産品やら観光土産やらの品々。中には外国の物まで混ざっている。
「そうですか・・・・」
それらを見て冷や汗をたらしていたハヤテは、ある根本的なことに気付いた。
「あれ?お嬢様たちは携帯をお持ちのはずですよね?それを使えば迎えをよこせたのですが・・・・」
今まで気付かなかったことをハヤテに指摘され、ナギは悔しそうに唇を噛み、伊澄は愕然としながらつぶやいた。
「逆転の発送・・・・」 「いやいや、違いますから」 「ええいうるさいぞ!ハヤテのバカ!」
ナギに逆ギレされてしまい、ハヤテは苦笑するしかなかった。
「あ、あの、ハヤテ様・・・・」
伊澄がオズオズとハヤテに訊ねてきた。彼を駄々っ子のように殴っていたナギも注目する。
「ハヤテ様は、こういうものとご一緒ではありませんか?」
そう言った後、伊澄の近くに梅の花を模した精霊が姿を現した。
「それは?」 「木のフォレシオンと言うみたいで、艶麗のところから連れてきました。これが見えるということは、やはりハヤテ様も同じようなものとご一緒なんですね」
答えとして、ハヤテはシルフィードを出現させる。彼の傍にいたナギもおおっと驚きの声をあげた。連れさらわれたとはいえ彼女も精霊界の地を踏んだ為、精霊を目にすることができるのだ。
「それで、ハヤテ様にお願いがあります」
伊澄の目は、妖怪退治を請け負った時のような真剣なものであった。
「ハヤテ様のそれと、このフォレシオンを闘い合わせたいのです」 「え?」
一泊置いてから、ハヤテは反対した。
「ダ、ダメです!危険ですよ!」
そんなことはないのだが、本当は伊澄だけ洗脳されているんじゃないかと思いたくなってしまう。しかしそんな彼の気持ちをよそに伊澄は断固として闘う気でいた。
「私は修行も兼ねて、このフォレシオンに使者と認められたいのです。どうか、お願い致します」
ハヤテは内心ため息をつきたい気分であった。おしとやかで頼りなさそうに見える伊澄だが、変なところで頑固であり、こうなってしまうと彼女の意志は変えることはできないのだ。
「わかりました」
仕方なく、ハヤテは戦うことに決めた。その際、ダイにアイコンタクトを送る。
「チビ女、俺たちはさがるぞ」 「えっ?こ、こら!引っ張るな!」
ハヤテの意志を汲み取ったダイは、ナギを連れてこの場を去っていく。そんなダイにハヤテは感謝した。伊澄はこの戦いで霊力を使うかもしれず、彼女がそれを持っていることはナギには隠しているのだ。
「ハヤテ!伊澄を傷つけるようなことはするなよ!」 「わかっています、お嬢様」
去り際のナギの言葉に、ハヤテは笑顔で答えるのだった。
「本気でお願いしますね」
フォレシオンが人型へと変わっていく。
「ええ」
シルフィードもそれに合わせて人型に変わる。戦うことに消極的なハヤテだったが、心の隅では再び兄と対面する時のために強くならなくてはならないとも思っていたのだ。
二体の精霊は、それぞれ一定の距離を保った後、同時に仕掛け始めた。
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Re: 新世界への神話 ( No.25 ) |
- 日時: 2009/11/10 21:28
- 名前: RIDE
- 更新します。
この話は自分であまりよい出来ではないと思ったので今回で終わらせます。
2 同じ頃、異変を感じた少女がとある教室に一人いた。
「ん、これは・・・・?」
少女は一瞬、無視しようかとも思ったが、ある噂を耳にしていた彼女は、興味が沸いたのでそちらに向かおうとした。
「おや?どこに行くのです?」
教室を出ようとする彼女を、クラスメートの日々野文が捕まえる。
「いけません!私たちは掃除当番!ちゃんと教室を綺麗にしなくては・・・・」 「うっさい!私のこと注意する暇あったら、さっさと掃除しなさい!」
怒鳴られた文は、思わずすくんでしまう。
「はは、はいですーっ!」
そのまま文が離れていった隙に、少女はあっという間に行ってしまった。
「おお、すごい足の速さです!韋駄天です!驚きました!ビックリしましたよね、シャルナちゃん!」
文は、同じ掃除当番であるインドからの留学生、シャルナ・アーラムギルに声をかけた。シャルナは表情を変えずに淡白に言った。
「別にそれほどの速さではなかったわよ、文ちゃん」 「そ、そうでしたか!?」
冷静なシャルナの突っ込みに、文は冷や汗をたらしながらドキドキしていたのだった。
シルフィードとフォレシオンは、互いに殴り合って牽制していたが、遂にフォレシオンが 必殺技を放った。
「花唇封殺陣!」
すると、シルフィードを中心に古代文字のようなものが地に浮かび出て、続いて巨大な一 輪の花が出現した。その花はシルフィードを飲み込むように閉じていった。このまま中に閉 じ込めた敵を圧迫して苦しめるという技だが、ハヤテが強い想いを念じ、それを受けたシルフィードはつむじ風を起こしながら、力ずくで封殺陣から逃れていく。
「あら、逃れましたのね」
声だけ聞けばおっとりした感じだが、伊澄の内心は穏やかではない。シルフィードの力がこれほど大きいとは思わなかった。既に数回の戦闘を経験した差がここに現れているのだ。
「もっと力を与えなくては」
伊澄は懐から梵字が刻まれた呪符を取り出す。呪符から強力な力が放たれ、フォレシオンに注がれていく。途端に、フォレシオンの姿はそれまでの華奢そうな外見から筋骨隆起したものに変わり、目の色も攻撃性がはっきりと出ている。
フォレシオンはそのままシルフィードに殴りかかった。牽制の時とは違う大振りな動作であるため避けるのは容易であったが、段々とフォレシオンの様子が危険なように思えてきたので、防御の空いている箇所へ一発入れるが、大して効いている様子は見られず、逆に強力な一撃を喰らってシルフィードは倒れてしまう。さらにフォレシオンは右手を植物の根のようなものに変化させてシルフィードに襲い掛かった。シルフィードは咄嗟に身を引き、地についたフォレシオンの右手が吸い上げるようにうごめく。
「ウオオオオオオォォォッ!」
そのままフォレシオンは天に向かって雄叫びをあげる。
「な、なにが起きているんですか・・・・?」
フォレシオンの様子を見てハヤテは軽く恐怖を覚える。
「わ、私にも・・・・」
伊澄はオロオロとしている。まさかこんなことになるなんて思いもしなかったようだ。
フォレシオンは周囲に生えている樹木に当り散らすなど暴れており、ハヤテはどうしたらいいのかとただ見つめているだけしかできない。
「い、一体・・・・?」 「不純物でドーピングしたからよ」
後ろから声をかけられ、振り向くハヤテ。そこには、白皇の制服を身に着けた女子生徒がいた。見慣れない顔なので、新入生なのだろう。
「誰ですか、あなたは?」
するとその新入生は、良くぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張った。
「私は八闘士の一人、美野花南よ」 「え?じゃあ、風間先生の仲間なんですか?」
自分の近くに二人も使者がいたことに驚き、それを口に出したのだが、自ら八闘士と名乗った少女はそれを聞いて、不快な表情でハヤテに迫った。
「言っとくけど、伝と同格にしないで!実力じゃ私が上なんだから」 「は、はぁ・・・・」
年上を敬うとはほぼ遠い美野花南の無遠慮さに、ハヤテはたじたじとなる。
「それよりも、あれね」
花南は、暴れているフォレシオンを指した。
「精霊の力もそれを引き出すのも全て、使者の心によるものだわ。だけど、それ以外の霊力のあるもので強制的に力を引き出したりした場合、ああいう風に拒絶反応を起こして凶暴化してしまうことがあるのよ。宝玉とか例外はあるけど、あれは精霊のためにと念じられて作ったものだから別に問題はないわ」
そこまで言って花南は、伊澄をじろっと見る。
「何も知らないトーシロのくせに、変なマネをするからよ」
花南の強い視線を受けて、伊澄は少々引き気味となった。
「それで、どうすればいいんですか?」 「そりゃあ、使者の心で暴走を押さえ込むのが理想的だけど」
花南は伊澄を横目で見てから、あっさりと切り捨てる。
「無理そうね。イメージが貧困そうだもの」
伊澄は軽くショックを受けたが、花南は気にしない。
「となれば、そこの貧相な執事が頑張るしかないわね」 「ぼ、僕が?」 「あんたたちが起こしたことでしょ?」
当たり前のことだと言わんばかりの態度に、ハヤテは何も言えなくなる。だが確かに、ここまでの騒ぎになってしまったのは自分たちが原因である。
「わかりました。あれを倒せばいいんですね?」 「そうよ」
ハヤテは緊張し、それがシルフィードに伝わりピリピリとしていく。それを見た花南は、彼女なりにフォローする。
「大丈夫よ、あんたは負けないわ」
その花南にフォレシオンが襲い掛かるが、その拳は彼女の傍らに現れた精霊が人型形態に変化して止める。
「この私と、木のフラリーファが援護するからよ」
木のフラリーファは一気に押し返して、攻勢に出た。
「スタークロッド!」
フラリーファは植物の茎のような長い棒で打撃を与えていく。間を入れずに打ち続けられ、フォレシオンは手も足も出ない。
そしてフラリーファのスタークロッドがフォレシオンの胴に強烈な一撃を入れたため、フォレシオンに隙が生じた。
「今よ!」
すかさず攻撃に移ろうとするシルフィード。しかしそこでハヤテは思い出してしまう。昨日、雷矢とライオーガに技を容易に破られてしまったことを。この砕かれた自信は、すぐには回復できるものではなかった。
しかしそれ以上に、主のために、自分がすべきことをやるためにという思いが、ハヤテの心の中では大きかった。
「僕はやるんだ!」
その時、ハヤテの脳にイメージが浮かび出てきた。シルフィードの新しい必殺技が。
それを念じながら、シルフィードに攻撃を命じた。
「疾風怒濤!」
そのままシルフィードはフォレシオンに向かって飛んでいく。技自体はこれまでの高速移動と変わらないが、シルフィードの身体には風を纏っており、威力も速度も上がっていた。
シルフィードが放った必殺技、疾風怒濤の直撃を喰らったフォレシオンは、そのまま光となって封印された。
「や、やった・・・・」 「当然よ。この私がいるんですから」
花南は、高飛車に笑ってみせた後、打って変わって真面目な顔つきとなる。
「いい?精霊と使者は人の心のため、そして人を守ろうとするスセリヒメのためにその力を使うのよ。今度またこんな私闘まがいなことをやったらただじゃおかないわ。わかった?」 「はい・・・・」
ものすごいプレッシャーに押されて、ハヤテは慄きながら答えた。
「あの、スセリヒメっていうのは・・・・?」 「ああ。人の心に潜む闇、世界の混乱を払うといわれている救世主のことよ」
花南は簡単に言うと、この場を去ろうとする。
「タカスギとかいう人にも伝えといて。この私の手を煩わせることのないようにってね」
それだけ残した花南であった。
「はぁ・・・・」
今日も大変な目にあったハヤテ。しかし心は軽かった。大切な主が戻ってきたのだから。
「帰りましょう伊澄さん。お嬢様のもとへ」 「そうですね。ナギが待ちくたびれているでしょう」
大切な方の友人とともに、ナギのところへ戻っていった。
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Re: 新世界への神話 ( No.26 ) |
- 日時: 2009/11/11 17:20
- 名前: RIDE
- 今日はハヤテの誕生日。
ですが話とは関係ありません。 第11話、更新します。
第11話 八闘士
1 「ナギッ!!」
長く留守にしていた主の屋敷への帰還を出迎えたのは、彼女にとって姉同然のメイドであった。
「マリア・・・・」
よく見ると、マリアの目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「おかえり、ナギ・・・・」
それを聞いた途端、ナギは泣きじゃくりながらマリアに抱きついた。それまでの不安がぽろぽろと零れ落ちるかのように。
そんな彼女に、マリアは何も言わずにナギの頭を優しく撫でていた。
「ハヤテ君もお疲れでしょう。ナギのことは私に任せて、今日はもうお休みになってください」 「わかりました。ではお言葉に甘えて」
信頼できるメイドに今日の残りの仕事を引き受けてくれたハヤテは、開放感とともに自室で身体を休めるのであった。
翌日。
「邪魔するぜ」 「ダイ様、ちゃんと行儀よくしてくださいよ」
休日の昼間に、ダイは三千院家の屋敷にズカズカと上がりこんだ。後ろにはシュウ、翼、大地の三人が続く。
「おまえたち、何をしに来たんだ?」
屋敷の主であるナギは、不機嫌を露わに出迎えた。
「これからの戦いについて話し合おうと思ったんだ」
ダイは、そんな彼女の気持ちはよそにしている。
「他にもここへ来る奴らがいるぜ」
ちょうどそのタイミングで、来客者がまた訪れてきた。
「へぇ、ピカピカだな」 「なんだかよくわからねぇけど、高価なもんが並べられてんな」 「まったく。二人とも、庶民面しないで。私まで同じように見られるじゃない」
二人の少年を引き連れて、花南が客間へ入ってきた。彼女はダイを見つけて一言言った。
「私の手を煩わせないでって言った筈よ。それなのに、こんなところに呼ばせるなんていい度胸してるじゃない」 「はぁ・・・・このタカビー女は・・・・」 「なんですって!」
後ろでため息をついた少年を、花南は容赦殴る。一方、ナギはそんな光景が目に入らないようだ。
「何故ここなんだ・・・・?」 「ここなら、高級な紅茶が飲み放題だからな。あと、高級な茶菓子も・・・・」 「誰が出すか!」
髪を逆立てしそうな勢いでナギが怒鳴る。その様子を、猫みたいだなとダイは他人事のように思う。
「さっきからから失礼だな」
人のことは言えないはずなのだが、ダイは唇を尖らせる。
「ここで話そうといったのは綾崎だぜ」 「なに!?」
ナギは振り返って背後にいる執事を睨む。危機を感じたハヤテの全身に冷や汗が垂れる。
「ハヤテ・・・・・・・・」 「は、はい?」
なんとか爆発させないようにと慎重になるハヤテ。
「長らく敵に捕まっていて、行方不明だったこの私がようやく帰ってきたのだぞ。なんとも思わないのか?」 「ええ。ですからもう二度とこんなことが起こらないようにと対策を練るのも兼ねていろいろと討議しようかと・・・・」
プルプルとナギが怒りに小さく震えだす。ハヤテは気付いていない。
「本当はヒナギクさんも呼びたかったんですけど、生徒会の仕事で忙しいと仰ってましたし・・・・」 「ハヤテの・・・・」 「え?」 「バカァ―――――ッ!!」
強烈な平手打ちが顔面に入り、ハヤテはその場でダウンしてしまう。
「フンだ。私は庭にいるぞ。勝手に話しでもしてるがいい」
ご立腹な様子でナギは出て行った。
「どうしたんでしょうか、お嬢様?」 「いけませんよハヤテ君。再会して間もないんですから」 「そうか。お嬢様は話し合うことよりも、僕が一言任せてくださいと言って欲しかったんですね」
ピントのずれた解釈に、忠告したマリアをはじめ普段他人事に無関心な態度のダイでさえ違うだろ、という視線を送る。
「まあ、当たらずしも遠からずなんですけどね」 「え?」 「いえ。紅茶を出してきますね」
マリアは、逃げるように容器などを運びに行った。
「で、話をする前に綾崎、一つ聞きたいことがある」
ダイが真剣な表情でハヤテに問う。
「おまえは、これからも俺たちと共に戦うつもりか?」
するとハヤテは、呆気にとられた表情になった。
「何言ってるんですか。僕は風のシルフィードの使者で・・・・」 「元々おまえはさらわれた自分のご主人を助けるために使者となった。そして昨日、その主人は帰ってきた。もうおまえは戦わなくていいはずだ」
調子を崩すことなくダイは続ける。
「本当言うと、艶麗なんて俺とシユウたちだけでも事足りる。八闘士なんてモンたちも加わっても戦力が有り余るぐらいだ。でもおまえは、そんな俺たちについていけるのか?」
ハヤテはようやくダイの言いたいことがわかった。
抜けるなら、今だと。
ハヤテは何か言おうと思うのだが、言葉が選べない。詰まってしまうと変な調子になって しまうので、慎重なものをとろうとするのだが、そうすることによって逆に袋小路に入ってしまい、内心パニックになってしまう。
「落ち着け」
そんなハヤテの前にシルフィードが現れ、助言を与えていく。
「ゆっくり呼吸しろ。そして頭に浮かんだ真っ直ぐな言葉を話せ。それが正しい言葉だ」
言われたとおりに呼吸を整えるハヤテ。すると頭の中が明瞭となり、自然と口が開いていく。
「・・・・僕にはもう戦うための明確な理由はありません。でも、兄さんのことがありますし、精霊の使者に選ばれたからには、これからも戦わなければと考えていたんです。自分にできることですから。でも艶麗との戦いが終わった後のことは・・・・」
黙って聞いていたダイは、決断したように頷いた。
「わかった。とりあえず、この戦いだけは手伝ってもらう。考えてみれば、俺がこんなことを言う権利はねぇからな」 「いえ。僕も皆さんに心配かけないように強くなりますから」
ハヤテはてっきり、ダイは自分が弱いから特に理由がないなら降ろすつもりでいたのだと思っていた。
しかしダイは、これ以上人を巻き込みたくないためにあえて突き放すことを言ったのだ。そのことに、ハヤテは気付かなかった。
「でもそれならヒナギクさんにこそ言うべきでは?女の子ですし・・・・?」 「あら、女の子は戦ってはいけないのかしら?」
しまった、とハヤテは思った。この場にいる唯一の女子である花南が、笑顔で嫌味を言う。
「下手をしたら、その辺の女よりも可愛く見えるお顔なのに、たいした口よね」 「はうっ!」
花南の言葉が、ハヤテの心にクリティカルヒットした。
「まったく、このタカビー女は・・・・」 「なんですって!」
花南は後ろにいる少年の一人を、引っぱたいた。
「ダメだよ花南さん。達も一応謝って」
もう一人の少年が二人を諌める。
「桂については聞くまでもないだろ。綾崎、おまえがいる限り」 「なんでですか?あ、生徒会長だから生徒を守らなければと考えているんでしょうね。迷惑かけないようになおさら頑張らないと」
ダイは内心呆れていた。どうしたらここまで鈍感になれるのかと。
人前では態度に出さないため、あまり知られてはいないが、ヒナギクはハヤテに対して恋心を抱いている。ダイがそれを知ったのは、常人よりも優れたカンだからである。
この鈍感がやがて相手や自分を傷つけるかもしれない・・・・。
そこでダイは考えるのを止めた。所詮は他人事だ。違う世界の住人である自分には関係な いし、自分から変わろうとしない限りはいくら忠告しても無駄であるとわかっていたからだ。
「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね」
少年たちがハヤテたちのほうを向いた。
「僕は岩本佳幸。花南さんと同じく、八闘士の一人です」 「俺は西園寺達郎。俺も八闘士の一人だ」
岩本佳幸は頭を下げ、西園寺達郎は笑顔を見せる。
「よろしくお願いします」 「こちらこそ」
ハヤテと佳幸は、互いに握手しあった。
「名乗りも済ませたとこで、これからについて話し合おうぜ」
ようやく本題に入ると、まず佳幸が口を開いた。
「艶麗の手下については問題ないでしょう。ほとんどが青銅精霊の使者でしょうし」 「青銅精霊(ブロンズスピリット)?」
聞きなれない単語に、首を傾げるダイたち。
「呆れた。そんなことも知らないの?」
ため息をついた花南を窘めてから、佳幸は説明した。
「精霊はスピリットと呼ばれることもあって、それらは主にリングと勾玉の硬度によって、上から順に黄金(ゴールド)、白銀(シルバー)、青銅というふうにクラス分けされています。当然、上のクラスの使者たちは強く、逆に青銅は最下層の使者たちが多数所属しておりま す」 「おまえたちの精霊はどのクラスなんだ?」 「青銅です。八闘士全員同じクラスです」 「一番最下層なのに八闘士と言われているのか・・・・」
何か言いたそうなダイの態度が、花南の癇に障る。
「なによ、文句でもあるの?」 「いや、逆にその枠に収まりきれない実力があるんだなって思っただけさ」
花南は納得いかないようだったが、そういうことにしておいた。
「あの、僕のシルフィードは・・・・」
オズオズと訊ねたハヤテに対して、達郎が答えた。
「ああ。シルフィードやヴァルキリオン、盗まれた精霊に関しては皆青銅クラスっすよ」 「艶麗の手下についても同様だと思いますので、それに関しては問題ないでしょう。ですが・・・・」
佳幸はそこで思案顔となった。
「艶麗の実力については未知数ですので、僕たちでも倒せるかどうか・・・・」 「それはおまえたちが考えることじゃねぇだろ」
ダイは自信有り気に宣言する。
「あの女は俺が倒す。頼まれたことだからな」 「ジンジャー・コールドも、今度こそ斬ってみせる」
翼も意気を込めるように拳を握った。
「ところで、兄さんは艶麗側につくと思いますか?」
ライオーガを奪ったハヤテの兄、綾崎雷矢を思い浮かべると、困惑してしまう。
「あの男はどう出るかわからねぇからな・・・・」 「でもこれだけ聞くと、なんか楽勝って感じがしねぇか?」
大地が暢気な声で言うが、どこか張り詰めたものを感じる。
「そうですね」
佳幸やシュウも同様に意味ありげな笑みを浮かべた。
「相手に気付かれるような偵察を遣わせているんですから」
一瞬してこの部屋の空気が凍りついた。
「ムーブラン!」
佳幸が部屋の一角を睨むと同時に、炎龍を模した彼の精霊、火のムーブランが解放形態でそこへ突進する。
体当たりによるダメージのため、虎の姿形をした精霊と男が現れた。
「てめぇも艶麗の手下か」 「そうだ。我が名は爪牙。こいつはタイガネル」
爪牙の精霊、タイガネルは開放形態から人型形態へと変わっていく。
「こうなったら、おまえたちの命を頂く!」
佳幸が身構えるが、達郎がそれを止める。
「ここは俺に任せとけって。ジャーグイン!」
達郎の傍に、鮫をイメージした彼の精霊、水のジャーグインが現れ、一気に人型形態へと変わった。
「くらえっ!」
先制攻撃を仕掛けたのはタイガネルであった。
「バンカーズネイル!」
五本の指が重なって打ち杭のようになり、ジャーグインに突き立てようとする。
しかし、達郎は余裕の笑みを浮かべた。
「甘いな。ジャーグインの必殺技は攻撃と防御が同時にできるんだぜ!」 「なにっ!?」 「自分の技の威力を喰らいやがれ!」
ジャーグインの掌から水の球体が発生する。
「ハイドロスプラッシュ!」
その掌をタイガネルに向けると、水球から激しい勢いで水が放射された。水流はバンカーズネイルを押し戻し、タイガネルは自分の必殺技の威力も加わった水流を受け、そのダメージの大きさによって封印されてしまった。
「あ・・・・・・」
動揺した隙を逃さず、シュウと大地は爪牙を取り押さえた。
「まったく、こんなのが偵察じゃ艶麗ってのもたかがしれてるわね」
花南は屈んで爪牙の顔を見た。爪牙は何故か笑っている。
「何がおかしいのよ」 「おまえら、俺たちの目的が偵察だけかと思ったか?」
その言葉に引っかかった佳幸は爪牙に訊ねた。
「たち?仲間がいるのか?」 「ああ。今ごろ相棒は、三千院ナギの命を狙っているだろうぜ」
それを聞いた途端、ハヤテは全身の血が引いたように感じた。屋敷の庭とはいえナギは今外にいて、しかも一人きりでいる・・・・。
「お嬢様!!」 「あ、綾崎さん!」
シュウが制止する前に、ハヤテは飛び出していった。
「翼、大地、シュウ!その男を見張っていろ!」 「達、花南さんもよろしく!」
ダイと佳幸は急いで後を追った。
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Re: 新世界への神話 ( No.27 ) |
- 日時: 2009/11/13 21:18
- 名前: RIDE
- 更新します。
第11話ラストです。
2 三千院家の屋敷の広大な庭には、高級樹林による林があった。
ナギは、その木の一つに寄りかかっていた。
「ふんだ・・・・。ハヤテのバカ・・・・」
ナギは延々とハヤテに対して一人愚痴っていた。
その理由は一つ。彼女は今日一日中ハヤテと二人っきりでいたかったのだ。そのため、今日のハヤテの態度がナギを不愉快にさせたのだ。
「愛する私が帰ってきたというのに、何だあの態度は・・・・」
ナギとハヤテは初めて出会ったとき、とある事情でお互いにズレが生じてしまい、今もそのまま、思い違いが続いているのである。
「ふぅ・・・・」
いつまでもここで落ち込んでいるのも飽きたので、屋敷に戻ってゲームでもしようと思った。まだ攻略中のものがあるので、早くクリアしたかったからだ。
そんな時、突然大きな爆発音が聞こえてきた。
「見つけたぞ」
そして、ナギの前に、明らかに部外者な男が現れた。
「な、なんだおまえは」 「おれは茨棘。三千院ナギ、おまえの命を奪う者だ」
それを聞いて、ナギは自分の身の危険を感じた。逃げ出そうとしたいのだが、恐怖で足が動かない。
「待て!」
そんなナギをかばうかのように、木の上から人影が降りてきた。
「警備用ロボを破壊しただけでなく、ナギお嬢様のお命まで奪おうとは、この不届き者め!」
ハヤテの上司である執事長のクラウス。そして愛沢家の執事である巻田と国枝。
「ナギ!」
彼らが茨棘に挑みかかると同時に、咲夜がナギのもとへ駆け寄った。
「だめやないか!ひとりで外におるなんて!」
それを聞いたナギはムッとして言い返した。
「咲夜こそ、こんな場面でのこのこ来おって!危険なんだぞ!」 「心配あらへん。あいつらに任せとけば・・・・」
しかし咲夜の期待は裏切られることになる。
「ソーンミサイル!」
飛来してきた大型の棘に、三人は吹き飛ばされた。
「このブライアルの前で生身で挑むなど、愚かだな」
茨棘の前には、両腕に茨が巻かれた人型形態の精霊がいた。
「三千院ナギ、次はおまえだ!」
今度はナギに向けて、必殺技であるソーンミサイルを放つ。咲夜はナギをかばうために前に出るが、大きな棘は彼女共々ナギを貫くであろう。本能的に目を閉じる二人。
だがいつまで待っても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、数々の武器を身に纏った人型形態の精霊が、盾を持って二人を守っていた。
「な、何者だ!?」 「それはこっちのセリフだ」
その言葉とともに、横から少年が割り入ってきた。見た目からナギや咲夜と同年代だと推測でき、背は少し高い。
「精霊の反応があるから行ってみれば、女の子を襲うなんて黙っちゃおけねぇな」
危機感を感じた茨棘は、思わず足がすくんでしまった。
「くっ、ブライアル!」
ブライアルが少年の精霊に襲い掛かった。必殺技が効かないとわかっているので、肉弾戦で戦うつもりだ。
「おまえみたいな奴にはもったいねぇが、ウェンドランの必殺技を見せてやるぜ!」
少年の精霊、ウェンドランが拳を構える。
「流星闇裂弾!」
ウェンドランは拳による連打をブライアルに浴びせる。それはまるで流星の如く。
百発近く殴られて、ブライアルは封印された。
「おのれ!こうなったら・・・・」
茨棘はナギに向かって走り出した。少年を、咲夜を突き飛ばし、懐から刃物を取り出して襲い掛かった。ナギは逃げようかと思ったが、自分の足の速さでは追いつかれてしまう。
呼べば必ず、駆けつけます・・・・!
そんなハヤテの言葉を思い出したナギは、ためらわずに叫んだ。
「ハヤテ―――――ッ!!」
刃物を振り下ろそうとした茨棘の手を、何者かが掴んだ。
「お嬢様に手を出すことは、この僕が許しませんよ」
それはいつになく怒ったハヤテであった。彼は刃物を叩き落とし、茨棘を一発で地に伏せさせた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」 「・・・・・・ハヤテッ!」
ナギは迷うことなくハヤテに飛びついた。その後ろで起き上がった茨棘の肩を、先ほど突き飛ばされた少年が掴んだ。
「おまえ、よくも突き飛ばしたな!」
強烈な一撃が茨棘の顔面に入り、ふらついて倒れそうになるところをダイが捕まえる。
「おしまい、てとこだな」
ダイは茨棘を自由にさせないように拘束した。ダイと一緒に駆けつけた佳幸は少年を見て驚いた。
「エイジ!」 「あ、兄貴じゃないか」
佳幸はダイたちに対して少年を紹介した。
「僕の弟で、エイジと言います。八闘士の補欠みたいなものですが、実力は僕たちと同レベルです」
佳幸は、弟にも挨拶するよう促した。
「はじめまして。岩本エイジです」
エイジは頭を下げた後、大げさのように感嘆する。
「いやぁ、金持ちの令嬢の屋敷に行くって兄貴が言ってたけど、部活の練習試合の帰り道にあったなんて偶然だなぁ。広い庭に大きい屋敷、そして美しいお嬢さん」
エイジは咲夜の手を握る。
「お世辞みたいだけど、可憐ですね」 「いや・・・・その、ウチ・・・・」
照れてドギマギする咲夜の横で、ナギは顔をしかめていた。
「おい・・・・」 「ん?君は妹かい?」
妹という言葉に怒鳴りそうになるが、ナギはできるだけ抑えて、震える声で言った。
「確かに咲夜も令嬢だが、ここの主はこの私、三千院ナギだ」 「ええっ?この小学生が?」
それを聞いた途端、我慢が限界となった。ナギは怒りを爆発させる。
「誰が小学生だ!私は今年で14になるのだぞ!」 「嘘!俺とタメなの!?」
驚きを隠せずにいるエイジ。その時、彼の背後に大柄の男たちが現れる。
「君か?勝手に敷地内に入ったのは」 「え?」
三千院家のSPが、エイジをがっちりと拘束した。
クラウスたちを介抱した後、爪牙と茨棘を送るために翼と大地は霊神宮に向かい、残った 者たちは屋敷にいた。
「それにしても、あのお嬢さんが狙われるなんてな」
達郎はまったくの予想外と言わんばかりに驚愕したままである。
「でもこれで、賢明大聖の言うことは信じられるな」
ダイは納得したように語りだした。
「艶麗は間違いなく三界の支配をたくらんでいる。あのチビお嬢さんを標的に入れたのも、三千院家を滅ぼしてこの世界の経済に混乱をもたらそうとしたからに違ぇねぇ」 「確かに、そう納得できますね」
シュウも同意するように頷いた。
「でも、エイジさんのおかげで大事にならなくてよかったですね」
そのエイジは、気に入らないが命の恩人だ、とナギの一言によってSPから解放され、今 は紅茶を淹れているマリアをじろじろと見ている。
「あの、なんですか・・・・?」
当然、見られている方は不愉快である。
「いや、あのナギっていう子は影武者かなんかで、本当はあなたがここのお嬢様・・・・」 「まだ言うか!」
主だということを疑われているナギはエイジに絡んでくる。
「だってさ、このメイドさんの方がお嬢様ぽいっし、かなりの美人だし・・・・」 「私はお嬢様っぽくないし、美人でもないってことか!?」 「とんでもない。お嬢ちゃんも十分かわいいよ」
お嬢ちゃん呼ばわりに納得ができず、ナギはエイジを睨みつづけている。
「まあまあ。それよりも、久しぶりなんやから一緒に遊んだるで」
空気を切り替えるために咲夜が切り出してきた。元々彼女はナギの顔を見にここへ来たのだ。
「そうだ!咲夜、おまえに見せたいものがあるんだ!」
そう言って取り出したのは、グロスホッポーというラジコンであった。
「結構上達したんだぞ」
ナギはリモコンを手にし、ハンドルを切った。グロスホッポ?はナギの操縦通りにキレのある動きを見せる。
「ほぅ、やるようになったやないか」 「へぇ、すごいな」 「どうだ、恐れ入ったか」
咲夜だけでなくエイジも見入ったので、ナギは得意げになる。
「おまえもやってみるか?」
そう言ってナギはエイジにリモコンを差し出す。彼に恥をかかせるつもりなのだ。
「まぁ、いきなり私のように動かせるようには・・・・」
ナギがブツブツ言っている間に、エイジはグロスホッパーを動かした。
力強い走行に迫力のあるドリフトを見せつけられ、操縦は下手だと思っていたナギは黙ってしまった。
「すごいな!やるやないか自分!」 「俺も中々やるだろ?」
絶賛を浴びるエイジをナギは悔しそうに見つめる。どうもエイジにだけは負けたくないらしい。
「俺はもっとすごいのができるぞ」
そう言ってエイジが持っているリモコンを引ったくって操縦するダイ。
アクセル全開でジャンプしたグロスホッパーは、錐もみ状態で飛行した。
「おおっ!!」
全員が感心する。しかし、グロスホッパーの落下先には高価な食器類が並べられていた。
「あ!」
ガッシャ――――ン!と大きな音を立てて、食器類は割れてしまった。
その惨状を、皆何も言わずに眺めている。
「・・・・なんてことをしたんだ、おまえは」
しばらくしてナギが怒り心頭に詰め寄ってくる。マリアも笑顔であるが、激しいプレッシャーをかけている。
「・・・・帰るか」
縮まっているダイをよそに、佳幸、達郎、花南、そしてエイジが帰り支度をはじめる。ハ ヤテは黙って破片を集めている。
「外とか広いとこじゃなくて、部屋の中でラジコンなんか動かしたあなたたちが悪いですよ」
そんなシュウの言葉を、誰も聞いていなかった。
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Re: 新世界への神話 ( No.28 ) |
- 日時: 2009/11/24 19:55
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回の第十二話は結構長めとなっております
第12話 危険なハイキング
1 休みが明け、白皇学院では授業中。
ナギは、面倒くさそうに授業を受けていた。といってもナギにとっては授業を受ける必要がないほどの学力があるので、本人にはその意欲がないのでが、初日を除けば新学期以来彼女は登校していない。この上でサボることはダメだとマリアから圧されて、渋々登校したのだ。
「あぁ、ダルイなぁ・・・・」
昼休み、ナギがやる気のないため息をつくのを見て、ハヤテは苦笑を浮かべた。
「フハハハハッ!何だそのザマは!」
そんな二人に向けて、背後から高笑いをする男子生徒が一人。
「場所を移そう、ハヤテ」 「そうですね」
どこかへ移動しようとするナギとハヤテ。
「おーいっ!無視しないでくれ―――!」
そんな二人を男子生徒は必死で止めた。
「誰だおまえは?ハヤテわかるか?」 「東宮康太郎さん。一応、クラスメートです」
影が薄いような発言に軽くショックを受けるが、東宮康太郎は持ちこたえた。
「綾崎ハヤテ、おまえに話がある」
東宮はそう言って話を切り出してきた。
「知っているかと思うが、僕には野々原という執事がいて・・・・」 「知っているか?」 「まぁ、かすかに覚えてはいますが・・・・」
東宮は話を続ける。
「その野々原は先日、留学のためにイギリスに行ってしまったんだ。僕を一人を置いて・・・・」
めそめそと語るその姿はまるで捨てられた恋人のようであった。
「で、その話が一体我々とどういう関係が・・・・?」 「そこでだ」
東宮は改まって向き直り、ハヤテを指差す。
「綾崎ハヤテ!おまえを僕の執事にしてやる!」
それを聞いた途端、ハヤテとナギは呆れ返って何も言えず、再びそのまま去ろうとした。
「あ、待って・・・・」
二度も無視された東宮は、慌てて二人をこの場に留めさせようとする。
「執事の掛け持ちなんてできません!」 「そういうのは執事募集の広告とか出すなりなんとかしろ」 「それじゃどうにもならないからおまえに頼んでいるんだろ!!」
切迫した叫びに、思わず二人は彼を注視する。
「もうすぐ新学年最初のオリエンテーション、『クラスのみんなの親睦を深めるための高尾山遠足』があるだろ?」
ずいぶんと庶民的であるこのイベントは、諸々の事情により例年よりも遅く実行されることになっていた。
「そのイベントは、班を作って登っていくってイベントなんだけど・・・・」
東宮はそこでしょんぼりしたように顔を落とす。
「僕・・・・、友達いないから、きっと一人ハブられる・・・・」
さびしそうな人影に、ハヤテとナギは同情してしまう。
「でも、僕はハブられるの平気ですよ」
そのハヤテの言葉に、ナギと東宮は愕然とし、彼を勇者だと称えたくなった。
「何やってんだ?」
その場をたまたま通っていたダイが3人を見て近づいてきた。
「実は・・・・」
ハヤテから事情を聞いたダイは、バカバカしいとばかりに一笑した。
「そんなことで慌てんなよ、まったく」 「じ、じゃあおまえはハブられてもいいっていうのかよ?」
ダイは一息ついた後、東宮やハヤテたちを睨む。
「俺はハブるとかハブられるとかは問題じゃねぇ。俺の言うことを聞くか聞かねぇかによって決める!」
三人は、ダメだこの人と呆れてしまった。
「それにしても、山に登るのか・・・・」
ナギは、不安そうにつぶやいた。
そして、ハイキング当日。
登校前の朝、ナギはハイキングが以下に危険なことかを述べていた。実際はサボるための口実なのだが。
「学校行事なんだから行きなさい」
それを見透かしているマリアは、あえて冷徹な態度をとる。
「山に登って、少しは体力のある子になりなさい」 「高尾山は東京都民がみんな学生の頃登ったりする山なんで、そんなに大変な山じゃないですよ?」
ハヤテもそれなりにフォローするが、それでもナギは涙目で拒否をする。
「山なんかに登ったら、体力つく前に死んじゃうよ〜だ」 「死にません!」
マリアはしょうがないと、スクリーンにある映像を呼び出した。
ナギは、アニメかマンガのおもしろい動画かなんかだと思ったが、その予想とは違ったものであった。
[え、高尾山に登れないお嬢様?そんなのいるわけないじゃん]
スクリーンには、ナギが勝手に敵視しているエイジが写っていた。どうやら事前に撮影したものらしい。
[小学生でも楽勝な山を登れないなんて、そいつの顔を見てみたいぜ。きっとひ弱で間抜けそうな・・・・]
エイジの言葉に怒りを爆発させたナギは、劇場に任せてスクリーンを叩き壊した。
「高尾山・・・・登ってやろうじゃないか」
マリアは心の中で安心していた。挑発が逆効果になるのではないかと心配していたが、うまくいったみたいだ。
というわけで、白皇学院の生徒たちは、クラスで班を作り、高尾山を登るのだが・・・・。
「こんなの全然楽じゃないのだ」
始まったばかりだというのに、ナギはブツブツと愚痴をつぶやいている。
「大体、私に体力がないとはいえ、あいつよりはあると思うぞ」
ナギは後ろを指した。そこには班のメンバーである東宮が倒れていた。
「まったく、これだからお坊ちゃん育ちはダメなんだ」
同じ班のメンバーである虎鉄は呆れ返っていた。
「東宮君どーしよっか?」
泉の質問にダイは無慈悲なことを言う。
「置いてって獣のエサにしよう」 「いやいや、班行動ですから置いていくわけにはいかないでしょう。何とか立ち上がってもらわないと・・・・」 「ふふ・・・・近道だ・・・・」
その時、自暴自棄になったように東宮が立ち上がった。
「こんな山道登ってられるか!僕は近道を行く!」
東宮はバカヤローなどと叫びながら道から外れた場所へと走り出していく。
「ちょ、東宮さん!」
ハヤテが制止しようとした時には、東宮の姿は見えなくなっていた。
「いかんハヤテ!これでは班行動が乱れる!早く追いかけるんだ!」
それは休むためのナギの口実なのだが、そんなことに気付かないハヤテはためらわず東宮を追いかけ始めた。その後ろには虎鉄がつく。
「あれ?高杉君は?」
残されたナギや泉が辺りを見渡すと、ダイの姿がなくなている。
信じられないことに、どさくさに紛れてダイは班から逃げ出していた。
「しかし、一人は気楽だとつくづく思うな」
ダイは背を伸ばし大きく息をついて、草むらに腰を降ろす。
「ダメじゃないですか。勝手に班から離れちゃ」
そんな彼に近づいたのは、副任の風間伝助だ。しかしダイは彼の言葉にも耳を貸さない。
「同じように一人でいる奴に言われたくないな。しかも副任がよ」 「僕は一応、見回りのつもりなんですけどね」
だが二人は急に真剣な表情となる。
「それに、あんただって感じているんだろ?ここの妙な気の流れが」 「ええ」
ダイは立ち上がって伝助とともに茂みの一角を見る。そこから、凶暴化した野生動物が踊り出てきた。
「ワイステイン!」
伝助の精霊、ワイステインが解放形態となって野生動物に翼を打ちつけた。野生動物はその一撃で去っていった。
「ただの山だと思っていましたが、動物が凶暴化するなんて・・・・」 「ここになんかあるみてぇだな。自然の流れが変わるほどのものが」
二人は顔を見上げると、互いに頷いた。
「行きましょう」 「おう」
二人は、再び登り始めた。
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Re: 新世界への神話 ( No.29 ) |
- 日時: 2009/12/01 21:38
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 同じ頃。
「大丈夫か?伊澄」 「ええ。こんな一本道で迷うことの方が難しいわ、ワタル君」 「その難しいことを成し遂げている気はしますけど・・・・」
橘ワタル、鷺ノ宮伊澄、霞愛歌の三人は、班のメンバーである春風千桜とはぐれて、森の中を迷っていた。
ワタルは少し後悔していた。伊澄が極度の方向音痴だということは彼もよく知っていた。だから自分がしっかりと先導しなければならなかったと責任を感じていたのだ。
「あの・・・・」
申し訳なさそうに伊澄が口を開いた。
「私は道に迷ったのではありません。何か特別な力に引かれている、とでも言うのでしょうか・・・・」
なんとも言い訳がましい言葉に、ワタルは内心ため息をつく。
だが、愛歌には心当たりがあった。彼女はそっと胸元の石を触る。
それは、三千院家の当主でありナギの祖父でもある三千院帝から手渡されたもので、持つ者に不幸を呼び寄せる呪いの石だと言われている物だ。だから、道に迷ってしまったのだと思ったのだ。
しかし、伊澄を引き付ける力は、それによるものではなかった。
「は!?遭難?」
雪路に呼ばれたヒナギクは耳を疑った。そんな険しい山でもないのに遭難?
「そうなんですよヒナ」 「遭難だそうなんですよ」
実際は大変なことのようなのだが、美希と理沙の口ぶりでは緊張感がないように聞こえる。
元々一緒にいたこの二人に加え、雪路の周りにはナギ、泉、千桜らがいた。彼女たちから、ハヤテたちや伊澄たちが行方不明だという報告を受けたのだ。
「というわけだからヒナ、こっちはあなたに任せるから、私たちは今から迷子の奴らを捜してくるわ」
雪路のその言葉に美希たちは引っかかった。
「ん?」 「私・・・・」 「たち・・・・」
それはつまり、誰かが雪路と一緒に行動するということだ。しかし、一体誰が?
「てことで、行くわよいいんちょさん!」 「ええ!?ちょっ、わたしー!?」
泉は異議を挟む暇も無く雪路に引っぱっていかれた。
「もう、お姉ちゃんったら・・・・」
ヒナギクは姉の強引さに呆れていた。その隣で、ヴァルキリオンが何か警戒している様子でいることに、彼女は気付かなかった。
ハヤテ、虎鉄、東宮の三人は山の中をさ迷っていた。
「ここはどこだ?」 「やっと二人きりになれたね」
考え無しに突っ走ったため、現在地もわからず、どの道を行けば戻れるのか見当がつかない東宮。虎鉄に至っては、ハヤテとのムードに浸っている。
「バカですか、あなたたちは」
二人に呆れながらハヤテは何とか戻ろうとしていた。
そんな時だった。向かい側から木が砕けるような大きな音がした。
前を向くと壁のようなものが行く手を遮っている。見上げると、それは大きな熊であった。
何故こんな大きな熊が!?
現実逃避しかけたが、それは一瞬だった。
巨大熊は、三人を見るなり唸り声を上げて襲い掛かった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
三人は、全速力で逃げ出した。
「なんなんだあれは!?ていうか、なんで襲ってくる!?」 「知りませんよ!」 「野々原〜、野々原〜・・・・。あっ!」
泣きながら走っていた東宮が躓いた。その彼に向かって巨大熊が牙を向けようとした。
「させるかぁっ!!」
ハヤテは振り返り、巨大熊の顔面に蹴りを入れた。
「綾崎―ッ!!」
歓喜極まって東宮はハヤテに抱きついた。
「わっ!こんな時になに抱きついてるんですか!」
全力でのキックだが、あの巨大さではまったく効くとは思えない。せいぜい怯む程度であろう。
早く逃げなくてはと東宮を急かそうとした矢先、巨大熊が再び爪を振り下ろそうとする。
ハヤテの本能が危機を告げた。本当にマズイと・・・・。
「逃げて!東宮さん!」
被害が及ばないよう、東宮を突き飛ばすハヤテ。
そして、巨大熊の爪がハヤテを捕らえようとした。
しかし、そうはさせんとシルフィードが現れ、解放形態となって風の力で熊の爪を受け止めた。
「シルフィード!一体・・・・?」
突然現れたことにハヤテは驚くが、シルフィードはその驚きをさらに大きくするようなことを言った。
「こいつ、精霊の力を受けて凶暴化している」 「ええ!?」
驚きは疑問に変わった。何故熊が精霊の力を受けているのか。
「おい!行き止まりだぞ!」
虎鉄の言葉でハヤテは思考を停止した。彼らが逃げる先は、谷となっていた。
まさに絶体絶命。そんな場に近づいてくる人影が。
「こっちです・・・・」
ワタルと愛歌は、伊澄に先導されながら進んでいた。
「本当にいいの?彼女についていって」
愛歌は不安だった。他に追いつく手段がないとはいえ、無闇に進むのもかえって状況が深刻化するかもしれないからだ。
「平気平気。伊澄はその、か弱いだけの女じゃないっていうか・・・・」
頬を赤らめて目を泳がせるワタルを見て、愛歌は納得する。
「そういうところがスキなんだ」
はっきりと言われたワタルは吹き出してしまった。
「なななな、なに言ってんだよ!!べべべ別にスキとかそんなんじゃなくて!!!」 「ふ〜ん」
真っ赤になって慌てるワタルを愛歌はおもしろがって見ている。
「あ・・・・」
伊澄のその一言によって二人は正面に向き直った。
彼女たちは、ハヤテたちと巨大熊が戦っている場面に遭遇してしまった。
しかも、巨大熊は三人に矛先を変えた。
「うわぁぁぁ!」
逃げ出そうとするワタルだが、伊澄や愛歌の足では逃げ切れないと判断し、逆に彼女たちの前に出た。
「伊澄やねーちゃんはやらせねぇ!」
ワタルは二人をかばって熊の一撃を受ける覚悟を決めた。
「人の生徒に手を出すんじゃねぇー!」
熊が一撃を繰り出す前に、雪路が熊の顔面に蹴りを入れた。
「大丈夫!?みんな!」
泉も駆け寄り、全員に怪我が無いことにホッとする。ただ一人、ワタルだけが伊澄の前で格好をつけたのに、空振りで終わってしまったことに軽くショックを受けていた。
「ここは私たちが、なんとかするわ!」
巨大熊の前に、ハヤテ、虎鉄、雪路が立ちはだかった。
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Re: 新世界への神話 ( No.30 ) |
- 日時: 2009/12/11 19:13
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 一方。
ナギは美希、理沙と同様息を切らせながら歩いていた。
「これ終わったらこの山買い取って平地にしてやる・・・・」 「同感だな・・・・」 「やめてよね、そういう逆恨みみたいなこと」
ヒナギクはそんな三人に山の醍醐味を教えようとしたその時だった。
「あ!」
千桜が何か見つけたようだ。彼女が指した方向を見ると、そこにはタヌキの子供が。
その可愛らしさに、全員タヌキの方へと駆け寄っていった。
「!こ、これは・・・・」
近づいてみると、タヌキの身体中に数々の傷があることに気付いた。しかも、負って間もないようで、その痛々しい姿に一同は絶句してしまう。
「一体誰がこんなことを・・・・」
その犯人はすぐに現れた。タヌキを追ってきたと思われる獰猛な犬が草むらから踊り出て、五人めがけて飛び掛ってくる。
「キャァァァァッ!」
だが不思議なことに、犬は空中で何かにぶつかったように転倒し、叩かれるように去っていた。普通の人たちにはそう見えた。
実際はヴァルキリオンが解放形態となって、ヒナギクたちを犬から守り、追い払ったのだ。
「ヴァルキリオン、どうしたの・・・・?」 「この山一帯、精霊の気に満ちている」 「え?」 「おーい」
そこへ、ダイと伝助が合流してきた。
「高杉君!だめじゃない勝手に離れちゃ」
しかしダイは、反省する様子もなくふんぞり返る。
「俺は俺の好きなようにやるだけだ」
今すぐ成敗したいところだが、それよりも気になることがあった。
「風間先生、高尾山に精霊の気が満ちているというのは・・・・」
八闘士の一人なら確かな答えが出てくると思い、ヒナギクは質問した。
「そうです。いま、その原因を探っているところです」
精霊の仕業だということがわかったので、ヒナギクは気を引き締める。
「ん?あそこか・・・」
ダイはある一点を指した。
「誰か戦ってんのか・・・・?」 「ハヤテ君たちかも!」 「行きましょう。全員で」
全員でってことは、ナギや美希たちも一緒ということだ。彼女たちの身を考えれば、当然ヒナギクは伝助の言葉に反対する。
「危険です!もし何かあったら・・・・」 「ですが、ここで離れてもし彼女たちがさっきのような動物に出くわしたら、それこそ危険ですよ」
確かに一理あった。一番の安全というのは、目が届くことなのかもしれない。
一行は、ダイが示す方向へと進み始めた。
「ダブル執事キック!!」
ハヤテと虎鉄は同時に巨大熊に蹴りを入れた。熊は倒れこむかと思われたが、こらえ切った。
「くそっ!これでもダメか!」
予想以上に強い巨大熊に手を焼かせるハヤテたち。そんな中、雪路があるアイディアをひらめかせる。
「ここは頭を使って戦うのよ!」
そう言って近くに落ちていた木の棒を拾う。
「動物が動くものを狙う習性を利用して、これを谷底に投げ捨てれば・・・・」
木の棒を追って巨大熊も谷へと落ちるかと思ったが、熊は動く気配を見せなかった。ただ、ため息とともに雪路を哀れみの目で見下していた。
「動物のくせに、ナマイキだぞー!!」
とにかくこれで打つ手は無くなった。こうなったらシルフィードに戦わせるしかない。ハヤテがそう考えた時だった。
「そのアイディア、誘導するものが木の棒以外ならいいんじゃないか!?」
全員、声のした方向を向く。
「例えば、人間とか!」
なんと、東宮が崖近くに生えている樹の枝に立っていた。一応、命綱のつもりなのか、その辺に生えていたツタで自分の身と樹を繋いでいた。
「だ―――!!東宮くーん!!」 「こんな人のアイディア、発展させてもダメですよ!!」
端から見れば緩やかな自殺であるが、東宮は身を引かなかった。
彼の心の中には彼の執事であった野々原の残した言葉があった。誰かを守れる、強く、勇気のある男になれと。
「さあこい熊野郎!僕の勇気、おまえに見せて・・・・」
東宮が言い終わる前に、巨大熊は爪で樹の幹を切り倒した。
「わ!?わっ、わー!!」
そのまま真っ逆さまに落ちていく東宮。
野々原・・・・僕にはまだ・・・・!
そんな心の叫びを表すかのように、東宮は空中で腕を差し出した。すると、その腕を掴んだ者が。
「!綾・・崎・・」
虎鉄に支えられ、その虎鉄は雪路に支えられ、雪路はワタルに支えられ。そんな形でハヤテは東宮を救出したのだ。
しかし、危機が去ったわけではない。巨大熊は東宮を引き上げているハヤテたちに狙いをつけ、腕を振り上げる。そこへシルフィードが解放形態となって、巨大熊を追い払った。
「たいした勇気でしたよ」
東宮を引き上げたハヤテは、彼を褒め称えた。
「綾崎・・・・」
東宮はそっとハヤテの腕を掴む。
「ダメなのだ!」
そこへ、ヒナギクたちとともにダイと伝助に先導されたナギがやって来た。
「リアルで男同士など、そんな・・・・」 「いいじゃねぇか、なー!」
その隙を狙って虎鉄は後ろからハヤテに抱きついた。
ぎゃあぎゃあと騒いでいる彼らを見て、ダイは呆れるようなため息をついた。
「緊張感を解いた途端これかよ・・・・。ま、いいか。進もうぜ」 「ええ」
ダイと伝助は歩き出そうとする。
「待ってください。僕も行きます」 「私も、一緒に行かせてください」
ハヤテとヒナギクが進み出た。他の者たちも全員、同様の表情をしている。
「どうする?」
ダイはそっと伝助に耳打ちした。
「仕方ありません。幸い、精霊は記憶を消すこともできるので、精霊の事を知っているもの以外都合の悪いところは後で忘れさせましょう」
それを聞いて、ダイはまた深くため息をつくのであった。
「ついてこい」
二人の後を追う一同。その際、伊澄は誰にも知られないよう愛歌を呼び止め、そっと彼女の胸元に倒れこむように寄り添った。
そして、伊澄が彼女の胸元の石に触れた途端、その石に模様みたいなものが浮かび出たことに愛歌は驚いた。
「それは、愛歌さんが持つには、大きすぎる力だと思いますよ」
伊澄の力に呆然としながら、愛歌は会釈して見せた。
「私も、そう思います」
二人は遅れないよう早足でついていった。
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Re: 新世界への神話 ( No.31 ) |
- 日時: 2009/12/28 22:26
- 名前: RIDE
- しばらく音沙汰していませんでしたが、更新します。
第十二話ラストです
4 「ここだな」
ダイたちは精霊の気の流れの源であると思われる場所についた。そこは大きな洞窟となっている。
「なるほど、そういうことだったんだな」
ダイは、自分の推理を語りだした。
「ここにはなにか大切なものがあって、それを守るためにこの先にいると思われる精霊は高尾山全体に気を放っていたんだ。そして、その気を受けた動物たちは凶暴化したって訳か」
精霊とは無関係な人々にとっては、何を言っているのかわからなかったが、ハヤテたち精霊の使者たちはダイが言うとおりだと納得していた。
「可能性はあるわね。何か障壁みたいなものもあるし」 「でも、この洞窟の先には何があるんでしょうか?それに、これだけの力を持つ精霊って一体・・・・?」 「行ってみればわかりますよ」
伝助は前を見据える。
「こいつを倒してから、ですけど」
洞窟の前には最後の砦ともいうべき巨大な動物が待ち構えていた。見るからに、あの巨大熊よりも大きい。
ダイが前に進み出よおうとするが、それを伝助が制止した。
「あなたは無関係の人たちを下がらせてください」
生徒を守る立場にある伝助は、一番信頼できそうな者に生徒たちを任せる。残ったのは伝助とハヤテ、ヒナギクだけとなった。
「綾崎君、桂さん、よく見ていてください。精霊の闘いを」
伝助の傍には既にワイステインが人型形態でいた。そのワイステインに向かって、巨大動物が攻撃を仕掛けてきた。
「ウインドガーディアン!」
ワイステインは風を起こして防御壁をつくり、自分に対する攻撃を防いだ。同時に背中の翼を広げる。
「ウイングトルネード!」
翼から竜巻が放たれ、巨大動物をズタズタに打ちのめしていく。それでも、巨大動物は吹き飛ばされずになんとかこらえ切った。
「意地でもここを通さないとは、立派ですね」
伝助は巨大動物の必死な姿に感動する。
「でも、通させてもらいます。動物虐待で気は引けますが、ワイステインの最大の必殺技を受けてもらいましょう!」
ワイステインは、右の拳を低く構えて力を貯める。
「嵐鷲滑空拳!」
その名のとおり、滑空のような勢いで拳を打ち付ける。巨大動物は後方へ飛ばされ、気を失ってしまう。
「安心して下さい。気を失わせる程度に手加減しましたから」
そう独りつぶやいた後、伝助は結界に向き直る。同時にワイステインは先ほどの必殺技の構えに入った。
「いけ、ワイステイン!」
伝助の心を受けて、先ほど以上の破壊力を秘めた嵐鷲滑空拳が結界とぶつかった。結界は揺らぎ、すっと消えた。
洞窟の中を一行は進む。
メンバーは全員であった。何も知らない人たちについては外で待っててもらおうかと思ったが、気の流れを止めるまでは危険であり、そもそもダイが原因をじかで見たいと言い出し たために、我も我もと声があがってしまい、仕方なく連れて行くことにしたのだ。
洞窟の中にある、元凶と思われるものを発見するには、そんなに時間はかからなかった。
「なんだ、あれは?」
それは光を放っていた。洞窟全体を照らすほどの大きなものではないが、黄金に光っているためその実体を捉えられない。
「一体これは?」
伝助がそれに触れようと手を伸ばすと、黄金の光は眩しさを増した。強い光にほとんどのものが目を眩ませる。
唯一人、誰も気付かない中でナギだけはその光の中であるヴィジョンを見た。
光が収まり、目が慣れていくと、発行していたものの正体が確認できた。
黄金の勾玉に、同じように意匠が施された黄金のリング。そして宝石のように美しい光沢を持ち、水晶のように透き通った勾玉があった。
「これは!」
伝助は驚き、その彼の背後からダイが顔を覗かせ、黄金の勾玉とリングに目を留めた。
「この黄金の勾玉とリングって、精霊の中で一番上のランクにあるっていう黄金精霊(ゴールドスピリット)の勾玉とリングじゃねぇのか?」 「ええ。太古の昔から十二体存在し、また十二体しか存在できないと言われて、黄金の輝きを持ち、他の精霊とは一線を画す力を持つ精霊です。その精霊に選ばれた、最上級の実力の使者に送られる主の証であり、最高の高度を誇る黄金リングまでここにあるなんて」
伝助は、動揺を隠せなかった。
「ですが、もっと驚いたのはこいつです」
伝助の目は、水晶のような勾玉に釘付けであった。
「何故龍鳳がこんなところに?」 「龍鳳(りゅうほう)?」
何のことかわからず首を傾げる。
「龍鳳は、霊神宮を統治する救世主、スセリヒメの精霊です。精霊と言っても、龍鳳はこの世界の創世時から存在していると言われ、また神なのではないかという説もあります」 「いずれにしろ、精霊よりも大きな奴ってことか」
話のスケールの大きさに、傍らで聞いていたハヤテとヒナギクは気が遠くなりそうになるが、話についていけない人たちのことを思えばまだマシだと思い直していた。
「これで謎は解けましたね」
伝助は黄金の勾玉をよく見た。勾玉には、翼闘士と刻まれてあった。
「この翼闘士と思われる精霊は、龍鳳を守るために結界を敷いた。そのために高尾山全体が精霊の気で満ちてしまったんですね」 「山全体を気で覆ったり、動物を凶暴化させたりと、黄金の精霊はおまえらが持ってる青銅の精霊と比べモンになんねえな」
ダイは、黄金の精霊の力に感心していた。しかし、新たな謎も生じる。
「でも、これらは霊神宮にとって必要なモンだろ?なんでこんなところにあるんだ?」 「さあ・・・・。5年前、龍鳳は霊神宮に保管され、黄金の使者も十二人全員いたと聞きましたが、それから僕たちは霊神宮と関わろうとしませんでしたし・・・・」
つまり、この5年間の間に何かが起こったということである。
「とにかく、これらを霊神宮に渡せばわかることです」
伝助はそう言って龍鳳の勾玉を拾おうとした。しかし、それを横からひったくった者がいた。
「これは私が預かる」
ナギであった。彼女はいつもの尊大な態度で龍鳳の勾玉らをリュックに詰め込んでいる。 当然、正義感の強いヒナギクはナギの勝手な行動をとがめる。
「ナギ、それはオモチャじゃないのよ!」 「お嬢様、いくらなんでも・・・・」
さすがにハヤテも主のやったことはどうかと思い、ナギを諌めようとした。
だが、ナギが見返してきたとき、二人は何も言えなくなった。ナギの瞳には先ほどまでの子供っぽさは感じられない。妙に大人っぽいというか、神妙さが出ているというか。とにか く、威圧感みたいなものは無いが、不思議な力を受けているみたいに感じた。
同様にナギの目を見た伝助も、反論する気にはなれなかった。ため息をついて、渋々それを承諾した。
「まあ、その龍鳳の勾玉が本物だとは限りませんし、黄金の勾玉とリングも、それほどの力を持っているだけの模造品という可能性も否定できませんしね。しばらく持っていても、問題は無いと思います」
しかし伝助は不安であった。もちろん、使者でないものに精霊の勾玉を持たせることもそうだが、何よりもナギのあの目であった。これらが光った時、ナギに何かあったのだろうか。
頂上まで登りつめたナギは、その絶景に目を奪われていた。
「どう?最後まで自分の力で登りきった感想は?」
ヒナギクが澄ました顔でナギに問い掛けた。
「ま、悪くない感じだ」
その偉そうな態度は、いつものナギであった。
後ろでは美希たちがガヤガヤ騒いでいた。あの洞窟から出た後、ナギ以外の使者でない者たちは黄金の勾玉らに関する出来事は記憶から消され、動物に襲われたことなど無かったか のように楽しんでいた。
「今日は本当に疲れたなあ」
すがすがしい空気を胸いっぱいに吸うハヤテ。ただ高尾山に登るだけよりも何倍も疲労してしまった。
しかし、この一日が後に精霊に関することで大波乱のきっかけになろうとは、ハヤテや伝助たち使者はもちろん、ダイですら予想できなかった。
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Re: 新世界への神話 ( No.32 ) |
- 日時: 2009/12/29 23:39
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回は補足的なストーリーとなります。
三千院ナギの計画
「う〜ん・・・・」
夜、ベッドの中で黄金の勾玉とリング、水晶の勾玉を見ているナギは思案顔でいた。
「どうしたのですか?」
隣で寝ているマリアは気になって訊ねてきたが、ナギは素っ気なく返した。
「私は今考え事をしているんだ。話し掛けないでくれ」 「わかりました。でも、早く寝てくださいね」
マリアは特別相手にせず、そのまま眠りについていった。
「どうするか・・・・」
これから何をすればいいのか、目的と結びつける行動を思い浮かべるナギ。
「・・・・これだ!」
閃いたナギは、それを実行に移せるように頭の中でいろいろと計画を練る。十分に組みあがると、その時を待ち遠しく思いながら眠っていった。
遠足の安息日を経た今日。
ナギが白皇の敷地内にある林を歩いていると、どこからかバラの花びらが空中で舞っていた。
「僕に用があるって聞いてのだけど?」
いつの間にか、ナギの背後には冴木氷室が立っていた。その後ろでは、彼の主である大河内大河が花を散らせている。
「そうだ」 「いつもの執事君はどうしたんだい?」 「ハヤテにはまだ知られたくない。それよりも、頼みがある。もちろん何も用意していないわけではないぞ」
どこからかナギはアタッシュケースを取り出し、中を見せる。札束が隙間無く埋まっていた。
「・・・・話を聞こうか」
執事だというのに、金が好きという俗な考えをもつヒムロにとってそれで十分であった。
まずは一人目の人材を確保したナギであった。
続いてナギが訪れたのは、動画研究部の仮部室であるプレハブであった。
「あ、ナギちゃん。どうしたの?」
扉を開けて中に入ってきたナギを泉がいつもの笑顔で迎えた。
「おまえのとこの変態な執事はいないか?」 「虎鉄君?待ってて、すぐ呼ぶから」
泉は携帯電話を取り出して虎鉄を呼び出した。それから数秒で来るところは、執事の務めということだろう。
「何か用ですか?お嬢」 「用があるのはナギちゃんだよ」
それを聞いた虎鉄は怪訝そうにナギを見下ろした。
「そんな顔をするな。ハヤテに関するアイテムが手に入るのかもしれないのだぞ」
途端に虎鉄の目の色が変わった。
二人目も難なく手中に入れることができたのだった。
学校から帰ってきたナギは、バイト先へと向かった。
バイト先の喫茶店どんぐりでは、既に歩が働いていた。
「早いな、ハムスター」 「ナギちゃんが遅いんじゃないかな。って、ハヤテ君は?」 「疲れているみたいなので、今日は休ませた」
疾風が来ないと知って、歩は少し落胆した。
ナギは支度をし、歩とともに仕事に取り掛かった。少ないとはいえ客は来るのだ。まじめ にやらなくてはいけない。
しかし、真っ先にやってきたのは、この男であった。
「イエー!見つけましたよ、綾崎ハヤテ!・・・・ってイマセーン!?」
ハイテンションで外国人っぽいなまりの日本語とともに店に入ってきたのは、白いスーツを着たパンチパーマの男だ。彼の姿を見てナギと歩は白けてしまう。
「誰あの人?」
歩はひそひそとナギに聞いてみた。
「・・・・誰だっけ?」
ふざけているのか、本当に忘れているのか、関わりたくないのか。どれかはわからないが、ナギはそんな返事をしたのだ。
「ノォ――!この私を忘れたというのデスカ!?」
男の方もわざとだと思わせるような大胆な嘆きぶりである。
「我こそは三千院家の遺産を狙うギルバート!つまりあなた方のライバルなので?ス!」 「はぁ・・・・」
ギルバートの個性の強さに、歩までもがうんざりした顔になる。
「しかし、ここに綾崎ハヤテがいないとは・・・・。こうなったら、このチビを脅して・・・・」 「待て」
ナギがギルバートの方へと歩み寄る。何かあるのかと余裕ある笑みを浮かべるナギに警戒したギルバートは、思いがけない言葉をかけられることになる。
「今すぐというわけではないが、ハヤテを倒すチャンスをくれてやろう」 「ホワット!?」
信じられないという目でナギを見るギルバートは震えだした。敵の方からこんなチャンスをくれてもらったことに、屈辱を感じているのかと思いきや。
「ありがとうございマース!!」
土下座でもしかねない勢いで感謝の意を表すギルバート。プライドのない奴である。
「ちょっとナギちゃん、大丈夫なの?」
要領を得ない歩であったが、なにかハヤテたちに不利な展開になりそうなので、不安そうに訊ねてみた。
「大丈夫だ。数が欲しかったところだしな」 「ほえ?」
もう訳がわからない歩。ナギはそんな彼女を放っておいた。
これで三人が引き込んだことになる。
どんぐりのマスターの事情のため、バイトは早く切りあがった。
ナギはSPが運転する車に乗っていた。行く先は、レンタルショップタチバナ。
車が店の前で止まると、ナギは降りて店の中へと入っていった。
「あらナギお嬢様。いらっしゃいませ」 「何しに来たんだ」
メイドの貴嶋サキはにこやかに挨拶し、逆にワタルは仏頂面で出迎えた。
「おまえたちに用があるわけではない。ただ人を待っているだけだ」 「はぁ?」
訳がわからないワタル。そんな中、自動ドアが開き一人の客が入る。
「こんにちは、ワタル君」 「あ、シスター。いらっしゃい」
眼鏡をかけた修道女、ソニア・シャフルナーズがカウンターに借りていたDVDを返却する。
「面白かったですよ、これ」
そのままワタルと談笑しようとしたソニアに、ナギが話し掛けてきた。
「シスター、ちょっといいか?」 「なんですか、三千院さん?」 「大金を手に入れたくないか?」
ワタルとサキには見えなかったが、金が大好きな聖職者の目の色が変わった。
「もちろんですとも」 「決まりだな。シスターには後で別にワタルの動画をやろう。動画研究部が撮影したレアなものだ」 「おい!なんだよそれは!」
ワタルは怒鳴った。何も言わなかったが、サキも不機嫌な表情である。
ともかくこれで四人目が揃った。しかしここでナギは困り顔となった。実は必要な人数は 五人なのだが、最後のあと一人が決まりかねない。
どうしたらいいのかと悩んでいたら、またもや来客が。
「ワタル君、遊びにきたよ。って・・・・」
眼鏡をかけた少年は、ナギを見て顔を紅くした。
「ナ、ナギさん・・・・」 「む、おまえは確か、一樹といったな・・・・」
ナギはすぐにいつもの仏頂面に戻ったが、西沢一樹はナギが思案顔だったのを見逃さなか った。彼はナギの前までずいっと詰め寄った。
「何か悩み事でもあるの?」 「い、いや。おまえには関係な・・・・」 「僕でよければ力になるよ!」
強引だが、真剣な一樹の表情を見て、やってくれるかもとナギは思った。
「で、では頼みがあるのだが・・・・」
こうして、五人目が決定した。
「ふむふむ、そうか。ではよろしく」
携帯電話の通話を切るナギ。
彼女はある建設事業に依頼をしていた。ある建物を設立して欲しいからである。
金持ちが持ちかけてきた仕事であるため、事業者は首を横には振らなかった。
「どんなに急ピッチでも、完成はゴールデンウィーク明けか・・・・」
しかし、そんなに遅くはないとナギは思った。
「さて、あとは企画内容だな」
ナギは紙とペンを取り出して何かを書き始めた。
ゴールデンウィーク明け、彼女の計画が実行される。
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Re: 新世界への神話 ( No.33 ) |
- 日時: 2009/12/30 22:57
- 名前: RIDE
- 更新します。
第13話 黄金の勾玉と矢
1 ゴールデンウィークが過ぎ、若葉が息吹く季節となった。
「二度目とはいえ、呆然とせずにはいられないな」 「ああ」
佳幸とエイジは三千院家の屋敷の門の前でぼんやりと見上げていた。
「二人とも、早く行こうぜ」
達郎は遠慮無しに門の中へと入っていた。
「・・・・達兄はすぐ順応するなあ」 「ありのままを受け止める性格だからね」
そう言いながら二人も後に続いた。途中SPに行く手を阻まれるが、ナギから送りつけられた手紙を見せると、すんなりと道を空けてくれた。
「こんな手紙を送りつけて、あのお嬢さんは何を考えてんだ?」
手紙を見ながらエイジはつぶやく。内容は、ただ屋敷に来いと書かれているだけであった。
「じきにわかるさ」
三人は屋敷の前まで歩き、そのまま中へと入っていった。マリアが一礼して彼らを出迎えた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
エイジはまず、マリアに質問してみた。
「メイドさん、お嬢さんは何の用で俺たちを呼んだんだ?」 「さぁ・・・・。このところ、誰にも内緒で何かしているみたいなんですが・・・・」
悩ましげに首を傾げるマリア。表情からは主に対する不安と心配が見て取れる。
「とにかくお部屋に案内いたします。他の方たちもお待ちなられておられますよ」
他の方たちと聞いて、三人は顔を見合わせた。まさかという思いがよぎる。
「こちらです」
マリアの後に続いた三人は、しばらくしてある部屋の前まで着いた。ドアを開けたマリアに促され、中へと入っていく。
「やあ、三人とも」 「遅いじゃない、何やってたのよ」
伝助と花南が挨拶してきた。二人の近くではヒナギクが優雅に紅茶を飲み、ハヤテがそのカップに淹れたての紅茶を注いでいた。
しかし部屋の中にいるのは四人だけではなかった。荒っぽい風貌と真面目そうな印象をもつ二十歳頃の若者二人と、伝助と同年代の、色男と呼ばれてもおかしくない者が仏頂面で用意された椅子に腰掛けていた。
「塁さん、拓実さん、優馬さん」
佳幸が呼びかけると、三人は表情を和らげた。
「よぉ、やっときたか」
荒っぽい男、稲村塁は親しそうに手を上げた。
「やっぱりおまえらのところにも手紙がきたか」
土井優馬は色男っぽい外見同様、手紙を示す動作もキザッぽかった。
「しかし、顔知らずの俺たちのところにまでよく送れたもんだ」 「三千院家の力なら、簡単のことでしょうけどね」
金田拓実は冷静な様子で頷いていた。
「この調子だと、彼のところにも届いてそうだけど・・・・」
彼というのが、八闘士の最後の一人だというのは簡単に推測できた。
「それでも来ない。相変わらずというか、たいした奴というか」 「ま、気まぐれな性格じゃないから何か事情があるんだろうけどな」
などと喋っていると、彼らをここに招き寄せた少女が部屋に入ってきた。ナギは部屋に設置された簡易のお立ち台に登って、集まった十人を見下ろす。
「若干人数が揃っていないようだが、まあいいだろう」
ナギは尊大に見せるよう小さな身体で胸を張り、大きく息を吸う。
「私は疑問に思っていたのだ。八闘士と呼ばれる者たちはどれほどの強さなのかと。そして、それを知るための手段として私は面白いことを考えついた」
もったいぶらせながらも、ナギは重々しく告げた。
「精霊と精霊同士の闘いを、ショーとして行う!」
それを聞いた一同の反応は緩慢なものであった。ただ一人、優馬は鋭い視線をナギにぶつけてきた。
「つまり、あんたたちは俺たちを戦わせて、それを見世物にするわけだな」 「そうだ。おまえたちはハヤテやヒナギク、それに私が選んだ五人の使者と共に強さを競い合ってもらう」
頷くナギに、訝しげに塁と拓実は口を開く。
「精霊は人には見えねぇ非科学的なもんだ。一般の人たちには馴染めねぇと思うけど?」 「第一、僕たちがあなたの言うとおり素直に戦うと思いますか?」
だがナギは自身満々に答えた。
「人型になれば見えることができるのだろう。バーチャルなゲームとでも言えば納得してもらえるさ。それに、おまえたちが戦わなければならないほどの物がこちらにはあるのだ」
ナギの後ろで閉ざされていたカーテンが開き、その向こうに五つの青銅の勾玉とリングが置かれていた。ナギが選んだという使者のもであろう。しかし何より佳幸たちの目を引いたのは、それらよりも高い位置にある、眩しい光を放っているものであった。
「黄金リングに翼闘士の勾玉!?」
十二体しか存在しないはずの黄金精霊がこの場にいることにほとんどの者が驚きの声を上げる中、伝助はナギに抗議しようとした。
「三千院さん、あなたこの前手に入れたこれを景品にするつもりなんですか?」 「伝さん、ここにこんなものがあるって知ってたんすか?」
事情を知らないものたちに伝助は高尾山での出来事を話した。
「フン、飽き飽きしてきたぜ」
不機嫌を露わにしてエイジは立ち上がった。
「そんな戦い、俺はごめんだ。あんたのようなワガママなお嬢様の気まぐれに付き合うつもりはねぇよ」 「なんだって?」
侮蔑された言葉にナギが眦を上げた時だった。
「待て!」
突如、部屋の隅からエイジと同じ年頃と思われる、眼鏡をかけた少年が姿を現した。
「何だ、おまえは?」 「僕は西沢一樹。ナギさんに選ばれた使者だ。そこの君、なんてことを言うんだ!」
一樹は、怒りのままにエイジに突っかかってくる。
「一樹とかいったな。でしゃばりだぜおまえ、あんな女に選ばれたからって」 「あんな女って言うことはないだろ!」
ちらりと一樹の表情を見るエイジ。その真剣さが、彼に納得をもたらした。
「なるほどな。おまえがマジに怒る理由はわかった。けど、端から見りゃあの女に媚びてシッポ振っているようにしか見えないぜ」
エイジはさらに挑発的な言葉を並べて、一樹の憤りを煽っていく。
「あの女の奴隷になっているようじゃ、おまえの思いは報われることはねえな」 「うるさい!黙って聞いていればいい気になって!今すぐ叩きなおす!」
一樹とエイジは互いに身構えた。
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Re: 新世界への神話 ( No.34 ) |
- 日時: 2009/12/31 22:42
- 名前: RIDE
- 今年最後の更新です。
この回も最後で、来年からは新展開です。
2 「止めんか!」
一触即発になるところをナギが仲裁に入った。
「おまえら、少し場をわきまえてもらいたいな」 「だ、だけどナギさん、彼はあまりにも失礼すぎじゃあ・・・・」 「私の言うことが聞けないのか?」 「は・・・・はい」
ナギに逆らえず渋々従うその姿に、エイジではないが哀れに思うだろう。
「そんなに戦いたいのなら、やるべき時と場所でやるんだな」
しかし、エイジはなおも反発する。
「ふざけるな!そんな戦いに出る気はないって何度言わせるんだ!もう帰るぜ!」
ドアに向かうエイジの後を、佳幸たち八闘士も続こうとする。
「どうしてもやらないというのか」 「さっきからそう言っているだろ」 「そうか」
するとナギは悪めいた笑顔になる。
「ならば仕方ない。おまえたちの家族には不幸になってもらうしかないな」 「なに!?」
エイジは踵を返してナギに食いついた。
「おい、それはどういうことだ!?」 「言ったとおりだ。このまま戦いに参加しないのなら、おまえたちだけでなくその周りにいる人たちにまで圧力をかけるつもりだ」 「お嬢様、そんな脅しはいけませんよ!」
それまでハラハラしながら事の進行を見守っていたハヤテは黙っていられなくなった。
「ナギ、その横柄な態度は生徒会長として見過ごせないわ」 「お二人の言うとおりです。少し落ち着きになられてはどうですか」
ヒナギクとマリアも進言するが、ナギは依然として頑固であった。
「そこまでしてもこの戦いは運行しなければならない。そのためには、あいつらにも参加してもらわなければならないのだ」
だから強引な手段を使っても構わないと言わんばかりに胸を張るナギ。だがそんな脅迫にも動じない者がいた。
「そんなことをしたら、こっちも黙っていられないわ。美野グループを怒らせれば、いくら三千院でも火傷じゃ済まないわよ」
裕福な家系の子息が通う白皇の生徒である花南も当然、複数の企業を経営する実業家の令嬢である。その実業家グループは、財界に名高いというわけではないが、それなりに力があった。
「私を止めることができると思っているのか?」 「少なくとも、ワガママなチビ女は止められるわ。自分の勝手で大騒動なんて起こしたくないでしょう?」
彼女たちは不適に笑いあう。
「そういうことだ」
花南の仲間であるエイジたちは何も問題が無いかのように去ろうとする。高飛車な性格が目立つため、やられたらやり返す考えの持ち主であることは承知していたし、自分や仲間の ためならば、それくらいやるのだろうとわかりきっていたからだ。
「悪いけど、俺たちは帰るぜ」
エイジたちは今度こそ立ち去ろうとする。しかし、どうしても彼らに戦ってもらいたいものが他にもいた。
「逃げることは許さん」
続いて現れたのはダイであった。彼の姿を見て佳幸は改めて檀上の五つの勾玉を見た。ブレズオン、ガイアース、バロディアス、タイガネル、ブライアル。どれもリダートに封印された精霊たちばかりである。
「なるほど。あなたも手を回したというわけですね」
ナギとは違い、油断ならない相手なので慎重な態度をとる。
「これから激しくなると思われる戦いに備えて、おまえらには強くなってもらわなければ困る。俺が楽できるためにもな」
最後の言葉は如何なものかと思ったが、確かにそれは正論でもあった。敵の強大さが把握できない以上、強くなることに越したことはない。楽しみたいという思う気持ちもダイの中にはあるのだろうが。
それがわかったのか、八人は黙って退出しようとする。
「ちょっと・・・・」 「よい」
追いかけようとする一樹をナギが制止する。
「もう返事など聞かなくともわかっている」 「そうだな」
ダイもしたり顔で頷く。
「でも、どうせなら忍び込んでいる敵を退治してもらいてぇな」
ダイはとある方向へ手近にあった物を投げつけた。それは、隠れていた招かれざる客に当たり、その者の人影が曝け出された。
「また偵察か。艶麗の奴も懲りないな」
呆れてしまうダイ。しかし逃がすつもりはない。
「よし、僕が相手だ!」
ナギの前で格好つけようと、一樹が自ら一歩前に出る。エイジの言うとおりでしゃばりの ようだなとダイは思った。
「ガイアース!」
その声とともにリングと勾玉が独りでに飛び出してきた。リングは一樹の腕に自ら装着し、勾玉からは光が発し、それが段々とガイアースをかたどっていった。
「行けっ!」
命じられるままに、人型形態のガイアースは密偵に挑みかかった。
「サビ?ナ!」
対する密偵も自らの精霊を呼び出す。ムササビに似た精霊が人型形態に変わり、ガイアースと衝突し始めた。
二体共に殴りあう。互角の戦いのように見えた。
「一気にかけよう!」
スパートを上げるガイアース。サビ?ナを一方的に攻撃しつづける。
「今だ!」
ガイアースの必殺技、地砕爆慎拳がサビーナの胴に見事に入った。ハヤテとヒナギクはそのまま封印されるかと思ったが、サビ?ナは寸前で威力を受け流す体勢に入っていたため、受身を取って立ち上がった。
「そんな!」
驚く一樹とは対照的に、密偵は勝ち誇る。
「その程度か?」
今度はサビ?ナが攻める番となった。ガイアース以上の執拗なラッシュに、防御を取る間 もなく殴られる。
「今度はこちらの必殺技をお見せする番だ」
サビ?ナはわずかに後退し、脚を屈めて力を溜める。
「グラインドプレス!」
そのままグライダーのように跳び上がって、ガイアースにのしかかった。
「こ、このままじゃ・・・・」
一樹は苦戦していた。サビ?ナが退いた後もガイアースは地に蹲っており、どうすればいいか解らずにいる。
それを八闘士たちは興が冷めたような表情で見ていた。
「なにあれ、弱っちいわね」
花南は嘲るようにため息をついた。
「あの一樹って奴、ケンカ弱いんじゃねえか?」 「おまえ、見た目だけで判断するのは早計だぞ」
塁と優馬はそれぞれ感想を口にする。
「しかし、彼に何事がなくても、あの男に逃げられる可能性はあります。それは阻止しないといけません」 「まったく、あのお嬢さんのためになんてゴメンなんだけどな」
伝助は冷静に指摘し、エイジは渋々な態度を示す。
「でも、あの程度の敵に大勢でかかるのはよくありませんよ。ここは僕が」 「待て佳幸、俺に行かせろ」
勇み出る佳幸を達郎が止める。そんな二人の前に立った者が。
「悪いね、僕が出るよ」
拓実は、自分のリングをかざして見せた。
「あの子に精霊の戦いの見本にもなるし」 「親切だな、おまえ」 「必ずしもよい方向に行くとは限らないぞ」
塁とは優馬は苦笑するが、拓実は心配がなかった。
「僕は信じているからね。いくよ、アイアール!」
拓実がそう叫ぶと、彼の精霊である金のアイアールが出現し、金色の弓をを持った人型形態と変化する。
そのまま密偵とともに逃げようとするサビ?ナの前に立ちはだかった。
「ちっ、どけ!」
厄介なので強引に押し通ろうとするサビ?ナと密偵だが、アイアールによって軽く突き飛ばされてしまう。
「くっ・・・・」
無視して通り過ぎることができないと判断した密偵は、やむを得ずサビ?ナをアイアールと戦闘させる。アイアールはサビ?ナの攻撃を振り払いながら刃のついた弓で確実にダメージを与えていく。
「こうなったら・・・・」
叶わないとみた密偵は、サビ?ナにグランドプレスを放たせる。アイアールはかわしたのだが、この必殺技の前に怯んでしまい、その隙に密偵とサビ?ナは全速力でこの場を離れようとする。
「逃がさない!」
アイアールの手中にどこからか現れた金色の矢が握られ、アイアールはそれを弓に番えて、力強く引く。
「ゴールデンアロー!」
そのまま矢が放たれると、標的に定められたサビ?ナに、逃走する以上の速度でもって矢が飛び、サビーナに突き刺さる。この一撃でサビ?ナは封印されてしまった。
「ま、まさか・・・・」 「そこまでだ」
自分の精霊が封印された事態に驚き、後ずさりした密偵を、ダイがしっかりと捕まえた。
「す、すごい・・・・」
戦闘を眺めていた一樹は、自分とガイアースでは苦戦した相手をいとも簡単に倒した拓実とアイアールの強さに愕然としていた。このような者たちと戦って果たして勝てることができるのだろうか。
一方で、ハヤテとヒナギクは今の戦闘で闘争心に火がついていた。
「この人たちのように強くなりたいわね」 「はい・・・・」
そして、エイジたちは何も言わずに出て行ってしまった。
「いいのですか、ナギ?参加しないのかもしれませんよ?」
マリアが一応尋ねてみるが、ナギには問題なかった。
「あいつらの答えは聞かなくても解ったと言ったはずだ」 「でも、少しやりすぎではありませんか?」
彼らを参加させるための強制的な手段のことに、咎めるような調子で問いても、ナギは構わないと答えた。
「あいつらがとれる道は、戦うこと以外にないのだからな」
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Re: 新世界への神話 ( No.35 ) |
- 日時: 2010/01/01 23:26
- 名前: RIDE
- 更新します。
新年最初は少し短いです。
第14話 スピリアルウォーズ勃発
1 ナギの屋敷に集まってから数日後。
精霊同士の戦いの情報は、新感覚のバーチャルゲームショウとして世界中に流され、開幕一週間前で信じられないほどの注目を集めていた。もちろん、三千院家が宣伝にも少々力を入れているからこそ世界中でにぎわっているのだろうが。
「なあ、本当にこの山にあったのか?」
そんな世情の中、高尾山に登る男が四人。
「ええ、間違いありません」
道案内の伝助の後を、優馬、拓実、そして大き目のリュックサックを背負った塁が続いていく。
彼らは山登りを楽しむためではなく、あることを調査するために登っていた。
「ねえ塁、聞かないでいたけどさ、その荷物は何なの?」
拓実が尋ねると、塁はレトルト食品やら懐中電灯やらを取り出して見せた。
「遭難した時に役立つものをいろいろと・・・・」 「あのね、この高尾山で遭難するわけないでしょ?もしするとなったら、コースから外れた道を行ってしまったって考えられるけど、僕たちはそんな幼稚園児じゃないんだからさ」
実際に遭難してしまったハヤテ達には聞かせられないなと聞き耳を立てていた伝助は、目 的の場所を目にした。
「ここですよ」
そこは、龍鳳と翼闘士の勾玉を見つけた洞窟であった。そのまま中に入る四人。
「相変わらず暗いですね」 「こんな時こそ懐中電灯の出番。持ってきてよかっただろ、拓実?」 「いばらないでよ。それより、全員ぶつかったり身体触ったりしないでよね」 「男同士でベタベタする趣味はねぇよ」
そんなやり取りをしている間に、二つの勾玉が置かれてあった場所まで着いた。
「特に変わったことはなさそうだが・・・・」
二つの勾玉が本物なのか、何故この山にあったのか、その謎を解明するための手がかり を四人は求めていた。しかし、洞窟の中にはそれに値するものは見当たらず、あると信じて高尾山に登った四人の期待は萎みかけてきた。
「ん・・・・?」
そんな中、優馬が何か見つけたのか、地面をかきだし始めた。
「優馬、どうしたのですか?」
伝助たちも優馬の側に寄って見る。
異物はすぐに取り出せた。細長く、変な形の白い石のようなものである。
「それは、一体?」 「・・・・人骨だ」 「人骨!?」
塁たちは驚いて後ずさりした。
「死んでから数年以上経ってるみたいだが、よくわからないな」
すると、拓実が恐る恐る手を伸ばした。
「それ、僕の知り合いの鑑識官に調べさせてもらいましょうか?」
祖父は警察官の武道指南役、そして幼い頃に亡くなった父も警察官という警察の家族を持つ拓実には、警察関係といろいろなパイプで繋がっているため、それが可能であった。
「わかった」
優馬は白骨を拓実に渡した。
「確証はないが、勾玉に関係していると思う」 「ええ。しっかり調べるように頼んでおきます」
拓実は頷いた後、それを大切に扱うように懐にしまった。
しかし、人骨が出てきたということは、ここでなにか穏やかではないことが起こったということである。翼闘士と龍鳳の勾玉をめぐって、何が起こったのか。
謎は深まるばかりであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.36 ) |
- 日時: 2010/01/09 12:43
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 開幕前日。
エイジ、佳幸、達郎、花南たちはとある屋敷を訪れていた。
三千院家のもの程度では無いが、やはり豪華な屋敷である。
「よぉ、久しぶりに来たぜ」
エイジは、車椅子に座っている同年代の少年に話し掛けた。
少年は車椅子の上で寝ているように見えるが、注意して見ると顔には生気がなく、付き人の世話がなければ食事や移動、排泄もできない。そんな植物状態がもう五年も続いている。
「今日はただ、元気だって伝えに来ただけなんだ。中二になっても相変わらずバスケに夢中で。控えだけどメンバーとして頑張ってんだ。すぐにレギュラーのポジションも獲って見せるさ」
泣きそうになりながらも健気に話し掛けるエイジを、佳幸たちも切なそうに見ていた。
「兄貴や達兄、花南姐さんも志望校に受かって、もう高校生なんだ。高校生活は大変みたいだけど、その分青春を楽しんでいるみたいで・・・・」
返事が返ってこないとわかっていても、エイジは語りつづける。
「俺たち待っているからな。おまえが目覚めるまで、待っているからな」
それを最後に、エイジは少年に背を向けて離れていった。
「なお、何であいつに会ったんだ?」
屋敷から出た後、達郎は少年のもとへ尋ねた理由をエイジに聞いてみた。
「別に・・・・。ただ、ここに来れば答えが出るんじゃないかって思っただけさ」 「三千院のお嬢さんの、戦いについてか?」
佳幸が問い掛けると、エイジは黙って頷いた。
「俺は・・・・」
エイジが口を開きかけた時、突然花南が前方を指した。
「ねえあれ、塁たちじゃない?」
彼女が指す方向を見ると、確かに塁、伝助、優馬、拓実の四人が話し合っていた。何の話題か気になったため、エイジたちは彼らに近寄った。
「おーい。塁さん、伝さん、優馬さん、拓実さん」 「おまえら。どうしたんだ?」 「ちょっとね。それより、何話してたんスか?」
塁たちは高尾山で白骨を見つけたこと、それを預かっていた拓実から調査結果が出たとの報せがきたので、こうして集まったということを話した。
「なるほど。それで、その骨から何がわかるんスか?」
拓実は一息ついてから微妙に緊張感を漂わせながらわかったことを告げる。
「この骨は死後四、五年は経っているって言ってたから、この骨の持ち主は五年前にあの洞窟で亡くなったことになるんだ」 「え、それだけッスか?」
気抜けしてしまう達郎とエイジだが、他の者たちは皆考え込むような表情をしていた。
「な、なんだよ?それがどういうことなんだ?」 「まったく、本当脳ミソ筋肉ダルマねあんたたち」 「なんだと!」
ムキになる達郎を無視する花南。間に入った佳幸は仲裁し、達郎たちに説明する。
「五年前といえばあの戦いと同じ時期で、その時は龍鳳の勾玉は確かに霊神宮側に存在していた。もしあのお嬢さんの持っている勾玉が本物で、白骨死体もそれに関わっているとしたら、あの戦いの後すぐに龍鳳は霊神宮を離れたんじゃないかって思うんだ」 「なるほど」
達郎とエイジは頷くが、すぐにあることに気付く。
「でもあれが本物か偽物かは別にして、何が起こったかはわからねえままじゃん。あれから俺たちは霊神宮と関わろうとしなかったし、そこのところはさっぱりだ」 「いや」
ここで口を挟んだのは優馬と拓実であった。
「俺と拓実はあれから一年ぐらいの間は霊神宮と接触する機会があった。しかし、その間龍鳳や翼闘士に関する目立った騒ぎは見られなかった」 「考えられるのは二つ、あの勾玉はやっぱり偽物ということか、霊神宮は何か隠しているんじゃないかな」
霊神宮に対して好印象を持っていない一同は、さらにその不信感が増してきた。
「くそっ!」
むしゃくしゃした塁は乱暴に頭を掻く。
「こうなると、霊神宮に告げ口していいもんかどうか迷っちまうぜ」
ナギが行おうとしていることを霊神宮に知らせれば。止めてくれるのではないかと淡い期待を抱いていたが、この話を聞いてしまうと、報告した自分たちの身まで危なくなるんじゃないかと不安が生じ、佳幸たちは黙り込んでしまう。
「どっちにしたって、俺は戦うって決めたよ」
エイジのその言葉に、七人は驚いたように彼を見た。
「俺思ったんだ。ただ待っているだけじゃどうしようもない。アイツが目覚めた時、全てを受け止めるようにならないほど強くならなきゃいけない。そのためにも、負けちゃいけないんだって」
佳幸たちは決意を語るエイジにただ惹き付けられていた。
「そのために勝つ、その時まで勝ちつづけるんだって、決めたんだ」
エイジは天を仰いだ。それはまるで、天へと昇った人に確認するようであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.37 ) |
- 日時: 2010/01/12 21:30
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 そして、大会当日。
世界中から集まってきたのではないかと疑うくらい、三千院家の敷地内に建てられた闘技場にたくさんの人だかりができていた。
闘技場の収容人数は十万人と巨大なものであるが、それでも入場できなかった者が存在し、そんな人たちはせめて興奮だけでも味わおうと、闘技場にひしめいていた。
「いやあ、これはおもしろそうやなあ」
特等席に招待された咲夜と伊澄は、待ち切れないぐらいワクワクしている。
「そうね・・・・あら?」
大きな音とともにドームが閉じられていき、明かりが灯されていく。それと同時に海上に設置されたクリスタルボードもそれぞれ点きはじめた。
[みなさま、本日は三千院の闘技場にようこそいらっしゃいました]
場内にアナウンスが響き渡り、観客は静まった。
[戦いをはじめる前にいくつか説明します]
クリスタルボードに、十六人の組み合わせによるトーナメント表が表示される。
[戦いはトーナメント方式ですすめていきます。ルールは無制限一本勝負、戦闘不能とみなされれば負けとなり、最後まで勝ち残った者には最高位の証である黄金のリングと勾玉が与えられます]
上階のさらに上に位置している祭壇にスポットライトが注がれる。祭壇の上には黄金のリングと翼闘士の勾玉が置かれていた。
[それでは、本大会の創始者、三千院ナギ嬢が皆様にご挨拶を申し上げます]
祭壇とは反対側の上段。そこに設置された豪華な椅子に座っていたナギが立ち上がった。
「この戦いは思いの強さが勝敗を決める。それゆえ私はこの戦いをスピリアルウォーズと名付けた」
観客たちはゴクリと喉を鳴らす。
「史上初のスピリアルウォーズの勝利者が誰となるのか、それを今・・・・」
ナギが手をかざすと同時に、天から十六の流星が降ってきた。それらを、ある者たちが掴んでいた。
「流星の球にはそれぞれアルファベットが記されている。それが、トーナメントボードに自動的にインプットされ、対戦相手が決まる仕組みだ」
その流星の球を掴んだのは、すでにスタンバイしている精霊の使者たちであった。
トーナメント表は、左からアルファベット順で対戦者が並べられている。
第一試合の組み合わせであるAとBの球を掴んだのは、エイジと虎鉄である。
「ふっ、初戦からこんな子供が相手とはな」
タイガネルを伴っている虎鉄は余裕の表情でエイジに接する。
「まあ、この俺が相手なのだから、悪く思うなよ」
そこで、試合開始のアナウンスが入る。
[第一試合、開始!]
それと同時にタイガネルがウェンドランに向かってダッシュしていく。先制攻撃を仕掛けるつもりだ。
タイガネルは思い切り殴りつけようとするが、逆にウェンドランのカウンターを喰らってしまった。
「なっ・・・・!」
大きく吹っ飛ばされたタイガネルを虎鉄は信じられないとばかりに見た。
「虎鉄さんとか言ったか?こっちはあんたなんかの相手をしているわけにはいかねぇ。俺は今火のように燃えているからな」
勝ち続けると誓ったエイジの闘志は、かなり熱く燃えていた。
「いくぜ!」
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Re: 新世界への神話 ( No.38 ) |
- 日時: 2010/01/19 21:35
- 名前: RIDE
- 今回の話は
こんな展開でいいのかと不安ですが それでも更新します。
4 今度はウェンドランが攻勢に出た。タイガネルを殴打するその力は、エイジの思いを受けて通常よりも強くなっていた。
一方、タイガネルはウェンドランのラッシュをガードしていた。それしか行動がとれないように見えるが、虎鉄は何かを伺っているような目をしている。攻撃を続けさせながら、エイジは警戒しはじめていた。
「今だ!」
どんな連携攻撃でも、一発一発に必ず間隔が空く。虎鉄はわざとラッシュをとらせて、そのタイミングを測っていたのだ。
隙を突いてウェンドランの両腕を払い除け、牽制の一撃を与える。一瞬攻撃を止めたウェンドランに、間髪入れずに必殺技を放った。
「スチールファング!」
両の拳でウェンドランを挟み撃ちにする。強烈な一撃にウェンドランは膝をついてしまった。
「終わりだな」
虎鉄は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「この勝利を、我が愛する綾崎に捧げよう!」 「ちょ、何言ってるんですか!」
十万人の前でとんでもないことを言われたハヤテは動揺してしまう。
「ふっ、照れるなよ」
虎鉄はハヤテに構わず語りだした。
「鉄道オタクというだけで女どもが寄り付かないこの俺に、咲き誇るように舞い降りたのが綾崎だった。アイツは俺の心を癒してくれた。俺はアイツを愛している。だから同姓婚の認められている国で結婚を・・・・」
そこまで虎鉄が言いかけたとき、突然エイジが笑い出した。
「何がおかしい」
虎鉄は不満そうにエイジを睨む。
「おかしいさ。あんたは自分の愛を真っ直ぐに貫くようなことを言っているけど、その思いは女から、報われないっていう事実から逃げるために自分自身を納得させるもんだ。真摯なもんじゃない」
エイジは毅然として虎鉄を見据えた。
「そんな逃げるような、まやかしの愛しか抱けない奴に、俺は負けない!」
エイジの意気を受けて、ウェンドランが立ち上がった。
「まやかしだと・・・・」
虎鉄はエイジの言葉に腹を立て、ワナワナと震えだす。
「許さん!」
タイガネルが攻撃を仕掛けてくる。ウェンドランはそれをかわしながら距離をとっていた。近づかなければ、あの必殺技は出せないからだ。
「離れていればスチールファングは来ないと思っているな?甘いぞ!」
タイガネルはスチールファングを放つ。すると、タイガネルの腕から衝撃波が発生し、ウェンドランを挟み込もうとする。
ウェンドランはこれを回避するが、タイガネルは再びスチールファングの構えを取る。一見すると、タイガネルが有利のように思えた。
だがここまでの流れは全て、エイジが思い描いたとおりであった。タイガネルがスチールファングを放とうとしているのを見て、エイジは笑みを浮かべた。
「ここだ!」
スチールファングが離れた相手にも有効だということは予想できた。それでもあえて距離をとったのは、相手の鋼鉄の牙、すなわちタイガネルの両腕を砕くためである。
「シールドブーメラン!」
ウェンドランは背負っている盾を取り出し、タイガネルに向けて投げつけた。
衝撃波を起こす前に、タイガネルの腕はウェンドランの盾を挟み込んでしまう。さらにその盾の縁から隠し爪が出現し、タイガネルの両腕をがっちりと捕らえた。
両腕を開放することができないタイガネルに対して、ウェンドランは右手に矢を、左手に銃を持つ。
「ミーティアロー!」
まず右手の矢を投げつけ、タイガネルの左腕をつぶす。
「ファイブラスター!」
続いて左腕の銃から炎の弾丸を撃ち出す。これによってタイガネルの鋼鉄の牙は完全に砕かれ、相手の腕を固定していた盾はウェンドランのもとへ戻ってきた。
「し、信じられん・・・・こんな・・・・信じられん!」
虎鉄は、自分が追い込まれている状況が何かの間違いではないかと疑いたくなる。ここでも彼は目の前の事実を受け止められずにいた。
「言ったろ、逃げるような奴には負けないって」
ウェンドランは剣を構え、タイガネルに向かって駆け出していく。
「ブレードスラッシュ!」
両腕が使えないタイガネルは無防備で切り裂かれ、通常形態へと戻ってしまった。
[タイガネル戦闘不能、ウェンドランの勝利!二回戦進出決定!]
途端に歓声が湧き上がる。一般人には通常形態、解放形態の精霊は見えないのだが、バーチャルゲームショウだと思い込んでいるので、負ければ消えるものだと解釈しているのだ。
そんな歓声を浴びるエイジは、ゆっくりと虎鉄のほうへ歩み寄ろうとするが、先に虎鉄が足を踏み出していた。
「岩本エイジ、と言ったな」
険しい顔を向ける虎鉄。ケンカでもする気なのかと観客たちは不安にざわめき出すが。
「礼を言うぞ」
突然、エイジに感謝を述べる。
「確かにおまえの言うとおり、俺は綾崎にしつこく付きまとっておいて、実のところアイツから逃げていた。女から目をそむけて、アイツにアタックしていればいずれはと信じていたが、それは相手のことを考えずに突っ走る、ただのワガママに過ぎなかったんだ」
堅気である虎鉄は、それまで恋愛には縁がなかった。だから周りが見えずに一直線だったのだろう。
「ありがとう、岩本エイジ」
虎鉄は、これを機にストーカーから足を洗った。
エイジは照れくさそうな表情で虎鉄に言った。
「あんたのいいところはその真っ直ぐさなんだ。その真剣さを理解できる女を、あんたなら出会えるさ」
虎鉄は、強く頷いた。
「いいぞー!エイジーッ!」 「虎鉄くーん!あなたもよく見ると格好いいわー!」 「私、ファンになるわー!」
丸く収まった事態に、観客たちは二人に歓声を送るのであった。
「やるな、あいつ」
ダイ、翼、大地、シュウの四人はナギやマリアと同じ位置から戦いを眺めていた。
「けどチビ女よ、岩本の弟にこのまま勝ち続けられたら腹の虫が収まらないんじゃねえのか?」
何かと気の食わないエイジの勝利に、ナギは機嫌を損ねているかと思ったら、実際はそうでもなかった。
「それよりも、まだ来ていない八闘士の最後の一人を大至急呼ばなければならん。急げ!」
一方、ハヤテやヒナギクはエイジの戦いに魅せられていた。
「すごい・・・・」
対して、佳幸たち八闘士は落ち着いていた。
「それほど不思議でもないさ。あの虎鉄とかいう人はエイジの言うとおり自分をごまかすような思いを持っていた。けれどそれは、エイジの思いに比べたら弱かっただけさ」
前に突き進もうとするエイジの思いの大きさを、彼らはよく知っていた。
そして佳幸はエイジの成長をしみじみと感じていた。戦いを見てではない。その後の、虎鉄の心を解きほぐしたことを見てそう思ったのだ。
エイジは、精霊の使者として成長している、と。
「このままいくとエイジが優勝するかもしれないな」 「悪いけど、そうはさせないよ」
ヒムロはバラを取り出し、不敵に笑った。
「優勝を手にするのは、この僕なのだから」
ソニア、ギルバート、一樹も同じ狙いだと言わんばかりの表情をしていた。
そして、ハヤテやヒナギク、八闘士たちもエイジの戦いに闘志を燃やしている。
黄金のリングと勾玉をかけたスピリアルウォーズは、ヒートアップしていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.39 ) |
- 日時: 2010/01/26 21:33
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第15話です。
第15話 氷の使者たち
1 「ただいま」
とある少年が帰宅してきた。返事をしたのは、彼の伯父であった。
「おかえり」
少年の両親は海外に赴任しているため、彼は伯父の家に厄介していた。その伯父はテレビで放送されているスピリアルウォーズを見ていた。少年もリビングに入って一目見る。
「どうしても行かないのかい?招待されたんでしょ?」
三千院ナギから少年宛てに手紙が送られてきたことは、伯父も知っていた。しかし少年は興味なさそうにそっぽを向いた。
「何度催促されても、あんな金持ちの道楽のような見世物に参加する気はないよ」 「自分だって普通の家庭よりも裕福なのに、そんなこと言えるのかな?」
伯父の皮肉を無視して、少年は中継を見る。彼の仲間たちが出ていることに対して、意外そうに目を細めた。
[勝者、ウェンドラン!]
そして、ウェンドランと使者の少年の戦う様を見て、少年は立ち上がった。
「悪いけど、また外出してくる」
リビングから出て行く少年を見送る伯父は、どこに行くのか見当がついていた。
自分の部屋で少年は支度をはじめた。
「エイジ、おまえは特別な思いをもって戦っているみたいだな」
少年のもとに、蜥蜴のような精霊が出現する。
「でもそれがどれほどのものなのか、皆がどんな思いを抱いているのか、確かめよう。行くぞ、グルスイーグ」
少年は腕にグルスリングを着け、戦いの場へと向かった。
第二試合のCとDに組み込まれたのは、ヒナギクとソニアであった。
「生徒会長風情が、しゃしゃり出るものじゃないわよ」
バロディアスを従えたソニアは、ブツブツと物言ってくる。
「本当、でしゃばりね」 「ちょっと、いつまで独り言言っているつもり?戦う気あるの?」
対して、ヒナギクは余裕であった。
「その態度、気に入りませんね。神の許で改めてもらいます」
聖職者らしい言葉だが、獣のような戦意は剥き出しである。
「行きます!」
ヴァルキリオンとバロディアスは真っ向からぶつかり合った。ヴァルキリオンの氷の剣を、バロディアスの鋼の腕が受け止める。
「地下のダンジョンでの決着、ここで着けましょうか!」
あの時は悪霊が現れたために勝負はつかなかったが、今度は邪魔が入らず、思い切り戦うことができる。
「はあぁぁぁ!」
ジリジリと押していたバロディアスはさらに力を強め、ヴァリキリオンを押し出した。そ こからバロディアスは連打を打つが、ヴァルキリオンは迫り来るそれらをなんとかかわし、体勢を整える。
パワーでは勝てないと判断したヴァルキリオンは戦法を変える。バロディアスを撹乱させながら一撃ずつ与えていくというヒットアンドアウェイでいく。
「甘い!」
しかしバロディアスは惑わされず、ヴァルキリオンの攻撃にしっかりと会わせてくる。そのため、効果的なダメージが与えられない。
「攻撃にさえ注意すれば、撹乱行為なんて意味がないわ!」
そして、いずれはその姿を捉えられる。ヴァルキリオンの動きを予測できるようになったバロディアスは、その腕を掴んで遠くに投げ飛ばす。低空に飛ばされたヴァルキリオンは手を地に突け、自分の体を押し上げて華麗に着地する。
相手のペースを乱す戦い方が通用しなくなったヴァルキリオンは、ただひたすらにバロディアスへの攻撃を実行する。しかし、鋼の腕で攻撃を寄せ付けない上に防御力が高いので、やはり致命傷には至らない。
逆にバロディアスは、ヴァルキリオンを必殺技の照準に定めた。
「クロスハンマー!」
まず右腕でフックを、次に左腕でアッパーカットのパンチを繰り出し、相手の身体に十字を刻む。その十字の中心に、とどめのストレートを打ち込んだ。
鋼の豪腕による必殺技は、ヴァルキリオンをダウンさせる。そのまま戦闘不能となってバロディアスの勝利になると思われたが、なんとヴァルキリオンは立ち上がってきた。
「そんな!」
自分の腕力の強さには自信をもっているソニア。そんな彼女の自信を感じているためバロディアスもかなりの剛力で、その腕から放たれる必殺技、クロスハンマーはかなりの威力であるはずなのだが、ヴァルキリオンが立ち上がっているところを見て、それほど傷はついていないみたいだ。
予想外のことに眼鏡の奥から目を大きく開かせているソニアは、ふとバロディアスの腕を見て、威力が半減した理由が判明できた。
ヴァルキリオンが持っているのは氷の剣で、それを用いた攻撃をバロディアスは腕で防御していた。そのため何度も氷の剣の凍気を受け、いつの間にか腕は凍り付いてしまったの だ。そのため、全力の必殺技を出せなかったのだ。
使者であるヒナギクも意図していなかったみたいで、目を瞬かせていたが、チャンスだと理解すると、再び攻めに入った。
まずは前に戦いでのエイジ同様、必殺技を放つ腕に狙いを定める。威力が半減しているとはいえ、油断はできない。
氷の剣を脇に構え、バロディアスの腕に叩きつける。凍り付いているため砕かれやすい腕は、強烈な一撃によって機能を失ってしまう。
あとはとどめを刺すだけ。しかしゆっくりと取れるほどのゆとりがあるとはいえ、バロディアスの高い防御力は健在であり、普通に攻撃していれば勝利を手に入れる前に疲労し、形勢は逆転してしまう恐れがある。
だが、ヴァルキリオンには隠し玉があった。
「出し惜しみなんて好きじゃないから、ここで見せてあげるわ!」
ヒナギクが余裕の笑みを浮かべると同時にヴァルキリオンが持つ氷の剣の凍気が増大し、ヴァルキリオンは一気にバロディアスの懐にもぐりこんだ。
「氷華乱撃!」
斬り、薙ぎ、突きらの剣技による攻撃を何度もバロディアスに浴びせる。それは、氷の花が咲き乱れているように見えた。この必殺技によって、バロディアスは通常形態に戻ってしまうほどのダメージを受けてしまった。
[バロディアス戦闘不能、ヴァルキリオンの勝利!二回戦進出決定!]
一段と大きくなった歓声に無関心を装いながらも、ヒナギクは充実感に浸っていた。それは必殺技の氷華乱撃の威力によるところが大きく、このイメージの確立のために彼女自身、剣道の鍛錬を積んだかいがあった。
「すごいですね、ヒナギクさん」 「ふふっ。どう?この必殺技は」
感心しているハヤテを見て、ヒナギクはさらに得意げになる。
「ハヤテ君も覚悟しときなさい。まあ、決勝戦まで残っていればの話だけどね」
ハヤテは第六試合に組み込まれた。そのため二人は大きく離れていて、鉢合うには彼女の 言うとおり、決勝戦まで勝ち続けなければならない。その条件は自分も同じだというのに、ヒナギクは決勝戦に出られるつもりでいた。
「桂さん、だっけ?悪いけど、俺には勝てないぜ」
そんな彼女に、二回戦で戦うエイジが水を差してきた。
「虎鉄さんやあのシスターに比べれば、実戦経験の差で勝っていたけど、氷の精霊使いとしてはまだまだだな」
その言葉に、ヒナギクは目尻を微かに上げたが、無言を徹した。
二人は戦う前から、互いに睨みあっていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.40 ) |
- 日時: 2010/01/27 21:23
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 第二試合も終わり、本来ならそのまま第三試合へと進むところだが、自動的にEとインプットされた十六人目の使者が来ていないため、ナギたち主催者側は協議を交わし、その審判を下した。
[第三試合の使者が未到着のため、本来ならばその使者の不戦敗になるところですが、今しばらく待ち、第四試合を繰り上げて行います]
アナウンスを聞いて、第四試合で戦う佳幸と塁は苦笑しあった。
「やっぱり来ないようですね」 「ま、それはそれで安心するけどな。アイツまでこんなことにつき合わされなくてよ」
他の八闘士たちも同様の表情をしていた。そして第三試合で戦うはずだったヒムロは安心していた。
「助かったよ。もうしばらく戦いの雰囲気を肌で感じてないと、勝てそうにないからね。対戦相手に感謝しなきゃ」 「なら悪いな。あんたの希望にお応えできなくて」
そう言って、佳幸や達郎と同年代の少年が精霊を従えて現れた。
「氷狩(ひかり)!」
塁たちはその姿に驚く。彼こそは氷のグルスイーグの使者であり、八闘士の最後の一人である桐生氷狩であった。
「久しぶり、みんな」 「氷狩、あれほどダンマリを決め込んでいたのに、今になってどうして?」
達郎の質問に、氷狩は落ち着いた態度で答えた。
「おまえたちが何を思って戦うのか、それが知りたくなってな」 「ふん。遅れてきたくせにクールぶるんじゃないわよ」
性格的なところで、花南は氷狩が気に入らなかった。その氷狩は彼女を一目見てから、トーナメント表に視線を移した。花南は第八試合に組み込まれており、対戦相手は達郎であった。
「おまえこそ、達郎に遅れをとることはないよな?」 「心配いらないわよ。私がやられるわけがないから」 「そんな余裕でいられるのも今のうちだぞタカビー女。打ち負かしてやるんだからな」
花南と達郎は火花を散らし合う。醜いように見えるが、自分の知っているままの二人に、氷狩は安心して戦いの場へと歩いていった。
「桂さん、よく見ておくんですね」
そんな彼の姿を目で追っていたヒナギクに、伝助が囁きかけた。
「あなたの戦いもそれなりに良いものでした。しかし、まだ使者としては未熟な部分があり ます」
エイジと同じようなことを言われたヒナギクは、こみあがってくる不愉快な気分を再び押 さえ込む。
「氷狩君の戦いを見れば、氷の精霊の使者がどうあるべきか、大体わかるでしょう」 「氷の精霊の使者の、あるべき姿・・・・」
なんとなく興味を引いたヒナギクは、この戦いをよく見ることにした。
[第三試合の使者がただいま到着しましたので、試合内容を予定通り行います]
氷狩と対峙するヒムロ。彼の精霊は、ブライアルである。
「戦いに遅れてきた臆病者、と観客は思っているに違いないけど、僕の目にはそう見えないね」
背景に花びらを散らせながら、ヒムロはバラの花を取り出して、香りを嗅ぐ仕草をしてみせる。
「お手柔らかに、お願いするよ」
その背景の花吹雪はもちろん、ヒムロの主であるタイガの演出である。今タイガは手を休めているため、花びらは散っていない。
「タイガ坊ちゃん、花」 「あ、ごめんヒムロ」
注意されたタイガは再びわっせわっせと花を撒き散らし始めた。主が執事の世話をするその光景は、なんだかシュールなように感じられるが、そんなことに無関心の氷狩はヒムロに質問してみた。
「ひとつ聞きたい。あんたは何のために戦うんだ?その目的を聞きたい」
ヒムロはバラの花をかざすなど、気取った構えを取りながら答えた。
「僕は金が好きなんだ。この戦いで優勝すれば、大金を貰う約束を三千院家のお嬢様と約束したんだ」 「俗なことだな」 「黄金の勾玉やリングなんて僕には関係ない。金さえ手に入ればそれでいいのさ」
それ以上、氷狩が聞きたいことはなかった。
「そういう目的で戦うのなら、俺はあんたを倒さなくちゃな」 「僕は純粋だから、はっきりと言おう」
ヒムロの目の色が真剣なものへと変わる。
「悪いけど、勝たせてもらうよ」
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Re: 新世界への神話 ( No.41 ) |
- 日時: 2010/01/29 21:22
- 名前: RIDE
- 更新します。
第十五話ラストです
3 [第三試合、開始!]
合図とともにブライアルは構えるが、グルスイーグは人型になったまま突っ立っていた。
「どうぞ攻撃して下さい、とでも言っているのかい?」
口では余裕だが、内心では警戒しているヒムロ。彼の心情を表すかのように、ブライアルは距離を保とうとする。しかし、グルスイーグはなおも無防備であった。
このまま相手を伺うよりは、敵の誘いに乗るべきだと、ブライアルは攻撃を仕掛けてきた。
はじめはグルスイーグの力量を測るため、軽めのラッシュで攻めていく。グルスイーグはそれら全てを足を動かさずに紙一重でかわしていく。
「やはりやるね。でも、そう簡単にはいかないよ」
ブライアルは拳に力を入れ、必殺技の構えに入った。
「ライリングペタルス!」
ブライアルはその拳でバラの花を舞い散らした。しかし、パンチ自体は先ほどと変わりはなく、グルスイーグはまた難なくかわす。
しかし、この必殺技は相手を殴ることではなかった。空中で漂っている無数のバラの花びらがグルスイーグの右腕を覆い、そのまま締め付けるようにまとわりついた。
「かかったね」
ヒムロは、得意げに笑った。
「この必殺技は殴るものではなく、花びらを飛ばし、相手を拘束させて自由を奪うというものなのだよ」
ブライアルは続けてライリングペタルスを放つ。右腕の次は両足に花びらががっちりと食い付いた。これでグルスイーグは移動できない。
「決まったね。この勝負、僕がもらった」
ブライアルは棘の生えた蔦を持って構えた。
「ソーンウィップ!」
その蔦をもって打撃を与える必殺技でグルスイーグを痛めつけるが、グルスイーグの微動しない表情から見てそんなに苦痛ではないらしい。
「その程度の必殺技では、グルスイーグは倒せないぞ」 「さて、どうかな」
なぜかヒムロは余裕であった。
「君の精霊の体を見てみたまえ」
言われたとおり、グルスイーグの身体を見てみると、なんと蔦の棘が刺さっていた。
「その棘には、人間に例えるなら死に至る毒のようなものが含まれているのさ。それも速効性のね」
つまり、これ以上は何もしなくても勝利は確実ということである。だが、ブライアルはまたも棘の蔦を構えた。情けとして、一思いにとどめを刺す気でいるのだろう。
再びソーンウィップを放つブライアル。その棘の蔦をグルスイーグは無傷な左手で掴み、そして何故か氷狩は笑っていた。
「もうそろそろ遊びは終わりにするか」
その瞬間、グルスイーグの左手から凍気が放たれた。掴んでいる棘の蔦だけでなく、それを伝ってブライアルの右腕まで凍結させる。
「これでソーンウィップだけでなく、ブライアルの右腕も使い物にならなくなったな」 「だけど、もう一つの必殺技は残っているよ」
ブライアルは左腕でライリングペタルスを放った。花びらがグルスイーグの頭を縛り付けるのだが。
「まだわからないのか」 「な・・・・!」
ヒムロは絶句した。グルスイーグの頭に貼りついた花びらが凍り付いて、ぽろぽろと離れていく。
右腕や両足から、そして体に刺さっている棘まで同じように地面に落ちていく。
「いくらかかってこようが、グルスイーグにブライアルの必殺技は効かない」
そういえば、棘が刺さっているのなら今ごろとっくに倒れているはずである、とヒムロは思い当たる。つまり、グルスイーグはまったく傷を負っていないことになる。
「ブライアルの必殺技は全て、グルスイーグの氷のヴェールに遮られている」
注視すると、グルスイーグの体の周囲が白く光っていることに気付く。
「この氷のヴェールは凍気によるバリアで、炎をもってしてもとけることはない。生半可な攻撃では、このヴェールを突き通すことは不可能だ」
氷狩が言い終わると、グルスイーグは右の拳を構えた。
「この場から立ち去れ」
そこにこめられた凍気を、グルスイーグは放った。
「フリージングスノウズ!」
雪を生じさせるほどの凍気を受けたブライアルは、そのまま凍り付いてしまった。
[ブライアル戦闘不能、グルスイーグの勝利!二回戦進出決定!]
第一、第二試合の時とは違い、観客は盛り上がらなかった。まるで彼らも、グルスイーグの必殺技によって凍りついたのかのように。
「すごい・・・・」
ヒナギクも呆然とする。そんな彼女に伝助は言った。
「あなたの戦いは自ら動いて活路を見出そうとしていました。それが悪いとは言いません が、気持ちまで動いてはいけません。氷のように固まって、じっと構える不動の心が、氷の精霊の使者に必要なんだと思います」 「不動の心・・・・」
その言葉は、ヒナギクの中で大きく響いた。
降りてきた氷狩は、次の第四試合で戦いあう佳幸と塁の前に出る。
「二回戦の相手は佳幸か、塁さんか・・・・」
そう言って二人の眼を見る。両者とも、負ける気はないといった強い瞳だった。
「二人の思いがどれほどなのか見せてもらうから」
彼らはどんな思いを抱いてこの戦いに参加したのか、どちらの思いが強いのか。どちらかが勝ち進めたとしても、それは自分が相手でも貫きとおせるのか。
佳幸や塁だけではない。この大会に参加している使者全員が、氷狩の対象である。
「ただ、誰が相手でも、俺は強い意志を持って戦いに臨むだけだ」
それが氷狩の不動なる心であった。
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Re: 新世界への神話 ( No.42 ) |
- 日時: 2010/02/03 21:12
- 名前: RIDE
- 更新します。
第16話 炎龍VS雷獣
炎龍を模した精霊、火のムーブランの使者である佳幸と、雷獣を模した精霊、雷のコーロボンブを従えた塁は互いに向き合う。
八闘士同士の戦いとあって、エイジたちも緊張した面持ちで観戦する。
[第四試合、開始!]
その号令とともに互いの精霊は人型形態と変わっていく。その際、塁は観客席から自分の知っている顔を見つけた。
「板長、理子?」
がっちりとした体躯の男と、ボーイッシュな女。いずれも板前として働いている対の上司である板長と、同年代の職場の関係者である。
「何で二人がここに・・・・?」 「どうしたんですか、塁さん?」
あらぬ方向を向いたままぼんやりとしている塁が気になって、佳幸は呼びかけた。
「悪い。知り合いの顔を見つけたもんだから、つい・・・・」
ここが戦いの場であることを思い出した塁は、再び佳幸と対面する。
「仕切りなおして、戦いをはじめるか」
コーロボンブはムーブランに向かって駆け出し、ムーブランは青龍刀のような大きめの剣を持って構える。
ムーブランが剣を振るった。それをかわしてコーロボンブは顔面に拳を入れようとするが、ムーブランも頭を動かしてそれを避け、またも剣で攻撃する。
攻撃してはかわされ、攻撃されたらかわす。一進一退の攻防に、緊迫した観客たちは声を出せずただ固唾を飲むばかりである。
「塁!!」
そんな戦いに水を差したのは、板長と理子であった。二人は観客席から塁の近くまで降りてきたのだ。その際、二人を止めようとした警備員は板長が殴り倒していた。
「板長、理子。どうしてここに?一体何が?」
佳幸にちょっと待てと手で合図しながら、塁は二人に尋ねた。ここまでして自分に会いに来たのだから、何か重大なことが起こったということだけは感じていた。
「塁・・・・・・。おじいちゃんが、おじいちゃんが危篤なの・・・・」
それを聞いた途端、塁の目は大きく開かれた。
「なんだって!老師が!?」
目で板長に問いかけると、彼は首を振って肯定を示した。
塁が老師と呼ぶ理子の祖父は、塁たちが勤めている料亭のオーナーである。
高校卒業後、実家の居酒屋を継ぐためにそこで修行していた塁だが、偶然訪れた老師に目をつけられて、塁はそのまま彼の料亭に引き抜かれることとなった。
老師の料亭は名高いところであり、そこで修行することに塁は緊張した。しかし最初の頃は料理をさせてもらえず、またそこのしきたりなどに彼は苦悩した。そんな時、老師から助言と励ましをもらい、何度も乗り越えてきた。そうやって三年間老師の教えを受け、現在厨房を任せられる板前の一人として働いている。
塁にとっては大恩ある老師。その老師が今、臨終を迎えようとしているとなると、いても立ってもいられない。
「悪い。すぐに行きたいところだけど、少し待ってくれ」
しかし、塁は佳幸に向き直った。
「老師が言ってた。自分が受け持ったことなら、最後まで責任を持てと」
老師の教えを守らずに死に目に立ち会ったら、老師に合わせる顔がない。せめてもう始ま っているこの試合を戦わなければと塁は思ったのだ。
不安げな理子に、彼は言った。
「なあに、すぐに終わるさ」 「いいんですか?そんなことを言って」
佳幸が言った。ここに残ると決めた以上は自分と戦ってからでなければ老師のもとへはい けない。しかし、自分は簡単にやられるつもりはないし、同様に塁も負けない気でいる。決着はそう早く着くものではないと思ったのだ。
「心配はいらねぇさ」
だが、塁は何故か余裕であった。
「あれから五年間、俺たちは揃って戦うことはなかった。その間に、俺はおまえらの知らない新たな必殺技を編み出していたんだ」
コーロボンブの拳に、パチパチと電気を帯び始める。
「こいつを前にしたら、立ってなどいられねぇはずだ」
その拳を構えて、コーロボンブは放った。
「サンダーボルトナックル!」
電気を帯びた正拳突き。それを喰らったムーブランは大きく後方へ飛ばされてしまった。
必殺技がまともに入った手応えを感じた塁。相手を確認するまでもないと、自分の勝利を 疑わなかった。
「よし、行こう」
戦いの場から降りて、老師のもとへ向かおうとする塁。だが理子はビックリして塁の後ろ を指した。
「る、塁、まだ・・・・」
振り返った塁も驚愕した。ムーブランが立ち上がっていたのである。
「バカな。サンダーボルトナックルはまともに決まったはず・・・・」 「生憎だけど、僕も黙ってやられるわけにはいかないんですよ」
佳幸は、不敵に笑った。
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Re: 新世界への神話 ( No.43 ) |
- 日時: 2010/02/11 19:49
- 名前: RIDE
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2 「今度は僕たちの番です!」
ムーブランの剣が炎に包まれる。
「炎龍斬り!」
その剣を、コーロボンブ目掛けて大きく振り下ろす。しかし、塁にはムーブランの必殺技はお見通しであった。
コーロボンブは電気を拳に帯電させ、その手でムーブランの剣を白刃取りしてそのまま押し返した。
「くっ、それなら!」
再び炎龍斬りを放つムーブラン。今度は剣にのせた炎を、炎龍を模した大きな炎弾に変えて飛ばす。しかしこれも、コーロボンブの電気の溜まった手によってはじかれてしまう。
「な・・・・」 「いくらやっても効かねえよ」
愕然とする佳幸に対し、余裕を見せる塁。
「炎龍斬りは五年前によく見ていたからな。分析できねぇわけじゃねえ」
相手はともに八闘士。お互いのことは熟知している。それは当然、相手の精霊の必殺技に 関してもだ。
「けど、打つ手のねえおまえと違って、俺にはサンダーボルトナックルがある。おまえの知らない必殺技が」
そんな自分に対して、決め手のなくなった佳幸は戦意を喪失するかと思われたが、彼の目からはなおもかわらず強い意思がこめられていた。
「そうか。やっぱり徹底的にやらなきゃいけねえみたいだな」
コーロボンブ拳を構えて、戦闘態勢を取る。
「おまえの負けだということをしっかりと教えてやるから、覚悟しろ!」
再び殴りかかるコーロボンブ。そのパンチを、ムーブランは剣の刀身で受け、そのまま払い除ける。
「僕は負けない!」
通用しないとわかりきってはいるが、それでも炎龍斬りを放つムーブラン。コーロボンブは今までと同じように電力を用いて防御した後、ムーブランの無防備な脇腹へと手を伸ばした。
「スパーキングブリッツ!」
その手から電撃が放たれ、ムーブランを襲った。
この必殺技はムーブランの炎龍斬りと同様に、五年前から使用している。そのためこれも正面から放てばムーブランはかわしてしまうが、必殺技を放った直後にできる隙を利用すれば、防御されることも回避されることもない。
「これでわかったろ。おまえの負けが」
だが、佳幸からは諦めるような姿勢はまったく感じられない。微かに苛立ちをこめながら塁は問いた。
「何でだ。何で戦いを止めない」
すると佳幸は皮肉っぽく言った。
「勝てない戦いじゃないですから」
そしてムーブランは炎龍斬りで攻撃する。まるでバカの一つ覚えのような行動に、塁は呆れてしまう。
「おまえが見たその勝機は幻だ。目を覚まさせてやる」
コーロボンブはまたそれを受け止め、懐にスパーキングブリッツを放った。
しばらくそれが繰り返されていた。その中で、自分のリングに異変が起き始めていること に塁は気付かずにいた。
一方、何度も必殺技を破られているムーブランと佳幸は、誰もが降伏すべきと思う状況の中、いまだに攻撃を続けている。
またムーブランは炎龍斬りを繰り出す。いい加減うんざりしてきた塁は、これで終わらせようと思った。
コーロボンブが炎龍斬りを防ぎ、ムーブランにとどめとなるスパーキングブリッツを浴びせようとしたその時だった。
ひび割れのような乾いた音が塁の耳に響いた。左腕から聞こえたその音に、もしやと思い塁は自分のリングを見る。
「これは・・・・!」
塁のライガリングには、無数のヒビが入っていた。知らぬ間にリングが傷ついていたことに、塁は驚愕する。
「おまえ、これを狙って・・・・!」
まさかと思い、塁は佳幸の方を見やる。
佳幸はまた、不敵に笑った。
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Re: 新世界への神話 ( No.44 ) |
- 日時: 2010/02/12 20:09
- 名前: RIDE
- 更新します
3 「ど、どういうことなんですか?」
ハヤテは訳がわからなかった。
「私に聞かないでよ」
ヒナギクも、何故塁のリングが壊れたのか不可解であった。そんな二人に、花南と達郎が解説する。
「つまり、佳幸はコーロボンブを狙ったんじゃなくて、塁のライガリングを狙って攻撃したのよ」 「老師とかいう人のことを聞かされて、塁さんは内心焦っていた。早く佳幸とのケリを着けたいために、攻撃も防御も常に全力で行こうとするその思いがリングの負荷となって、耐え切れなくなったんだ」
そう言われても、ハヤテとヒナギクにはまだわからないことがあった。
「だから、それがなんでリングへの負荷になるのよ?」
これについては伝助が説明した。
「リングは単なる使者の証や、別の精霊の勾玉や宝玉から力を読み取るだけのものじゃありません。精霊へと流れる使者の思いを調整したり、精霊のダメージを使者に逆流させないための機能もあるんですよ」
言わばリングは、不安定である使者の思いの流れを定常させるため、相手の攻撃から使者を守るためのものでもあるのだ。
「岩本君は、稲村さんのリングの損傷を狙っていたんですか」
リングのそういった面を知ったハヤテとヒナギクは、自分たちは今までリングに守られ、助けてもらっていたんだなと感心していた。
その傍らでは、拓実と優馬が冷静に試合を分析していた。
「なんにしろ、この戦いは終わりですね」 「ああ。塁はリングが半壊したとはいえ、コーロボンブはまだ健在だ。対する佳幸は、ムーブランが無傷という点では同じだが、佳幸自身は・・・・」
その佳幸は、膝をついて息を荒げていた。
「あれだけ必殺技を連発したんだ。高いテンションを維持するのに相当疲労したはずだ」
今の佳幸の精神状態では、これ以上戦うことはできない。勝つ気でいたのに、リングを損傷するだけで終わった佳幸に、あっけないものを感じる優馬たちであった。
理子もとても疲れている様子の佳幸を見て、戦いがこれで終わり、塁は祖父のもとへ行けると安心していた。
「さ、塁。早く・・・・」
しかし塁は、彼女に言った。
「悪い。この戦い長引いて、もしかしたら老師の最期は看取れねぇかもしれねぇ」 「え?でもあの子は・・・・」
板長も懐疑的な目を向けるが、塁は確信していた。
「あいつは必ずまた立ち上がってくる」
五年前の戦い、佳幸はその落ち着いた性格とは裏腹に、熱い心をもって戦っていた。今日彼と戦って、その熱い心は失っていないと塁は感じた。そしてその心がある限り、佳幸は何度も立ち上がってくることも思い出していた。
「ま、負けない・・・・」
その佳幸は、体に力を入れて身を起こそうとする。
「負けられないんだ!」
迫力をもって立ち上がった佳幸に、闘技場にいるほとんどの者たちは圧倒されてしまった。
改めて佳幸を見て、戦意が失われていないことを確認した塁は、ライガリングを腕から外した。
「壊れかけのリングなんて飾りにすぎねえ。最後は俺の思いを全部ぶつけてやる」
佳幸はその意気を買った。
「いいでしょう。でも、そこまでの覚悟を見せてもらうと、なんだかハンデをつけてもらっているようで気が引けちゃいますね」
そう言って彼も塁にならってリングを地に置いた。
「これでお互い条件は対等。勝負だ、塁さん!」
リングを外して戦いに臨む二人の姿に、エイジたちは観客同様戦慄を覚えた。
「正気かよ二人とも。確かにリングがなければ自分たちの思いが直に流れ、リングを付けた ときよりも力を伝えやすいけど・・・・」 「同時に精霊のダメージが使者に逆流しやすくなる。つまり、自分の心を無防備にさらすということだ」 「下手をしたら精神的ショックによってお互い死んでしまうかもしれない」
誰もが慄然としている中で、佳幸と塁の戦いを目の当たりにしている氷狩は、何故二人はこうまでして戦うのだろうかと疑問を抱いていた。
一方、ナギたちが座る主催者側の席では。
「ナギ、この試合中止にした方が・・・・」
これからの試合展開によってはとんでもない騒ぎになるのではと思い、マリアはナギに戦いを止めるように勧告する。
「ナギ?」
しかし、ナギは黙ったままだった。一瞬意地でも張っているのかと思ったが、ナギの表情は幼い頃からずっと傍にいたマリアでさえ見たことのない真剣なものであった。
「あの二人はもう誰にも止められねえよ」
代わりに答えたのはダイであった。
「この闘技場があの二人の闘志に支配されちまっているみてえだからな。こうなったらいくところまで見届けなきゃいけねえ。特に俺たちは、関係者なんだからよ」
それを聞いたマリアはハッとした。
そう。この戦いを開いたのは他でもない自分たちなのだ。ならば、どんなことがあろうとも最後まで見ておかなければならない責任がある。
マリアは意を決して佳幸と塁に視線を戻した。
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Re: 新世界への神話 ( No.45 ) |
- 日時: 2010/02/16 20:17
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 激しく火花を散らし合う佳幸と塁。
「佳幸、おまえは何のためにそうまでして戦うんだ?」
そう問い掛けた塁だが、いや、と言って首を振った。
「聞くまでもねえことだったな」
塁は横目で観戦しているエイジを見る。
「おまえは強くなろうとしている弟のエイジのために、あいつが乗り越えるべき壁として存在しようとしているんだろう。勝ち進めば、準決勝で当たるからな」
自分のためではなく、他人のために戦える。こういう性格も、五年前から変わっていなかった。
「俺もエイジに惹かれてここに来たけど、もう一つ理由がある」
塁はそれまで抑えてきた闘志を露にしていく。
「老師のもとで修行してきた俺は、そこで働くこと、生きることについて学んだ。老師から得たそれらを試すため意味でも、この戦いに出たんだ」
対峙している佳幸は、それをピリピリと肌で感じていた。
「それで負けたとしたら、俺は老師に顔向けできないんだ」
佳幸の心と同様、五年前から変わらない、雷獣を思わせる塁の闘志。本人は知らないが、この闘志が気に入って塁を招き入れたと老師が語っていたことを、板長は思い出していた。
「老師のためにも、佳幸、おまえを倒す!」
闘技場は緊迫した空気に包まれた。
その中で、ムーブランとコーロボンブは互いに睨みあったまま、微動だにしなかった。
守りを捨てたため、一発でも攻撃を受ければやられてしまうので、動けないのだ。そのため両者は攻撃に集中し、相手の隙を早く見つけようとしているのだ。
「炎龍斬り!」
だが、先手必勝とばかりに、ムーブランは必殺技を放った。攻撃に専念するため、今までのように防御するわけにはいかないと推測した佳幸は、隙など見つける必要はないと判断したのだ。
炎を纏った剣が振り下ろされるが、コーロボンブはその剣筋を素早い動きでかわした。
「そんな・・・・!」 「言ったろ、炎龍斬りは効かないって。要は防御するか回避するかの違いだけだ」
必殺技が完全に通用しなくなったことが証明された今、佳幸に打つ手はなくなってしまった。そして、コーロボンブは詰めとしてサンダーボルトナックルの構えに入った。
「終わりだ!」
だがその時、コーロボンブの身に一本の切り傷が現れた。
「な・・・・!これは一体・・・・!?」
まさかとは思うが、考えられるのは一つしかない。
コーロボンブは、完全にかわし切れてはいなかったのだ。そのことに、ショックを受ける塁。
そこへ、ムーブランはまた炎龍斬りを繰り出した。先ほどと同じように回避するコーロボンブ。
今度こそかわした。塁にはその実感があった。
だがそれは、コーロボンブの身につけられた二本目の傷によって裏切られた。しかもその傷は、一本目のものよりも切り口が深くなっていた。
「見誤っていたのか・・・・?いや・・・・」
間違いない、と塁は確信した。
佳幸の心を受けて、ムーブランの炎龍斬りは進化しているのだと。
となると塁には躊躇ができなくなってしまう。このまま炎龍斬りを続けさせれば、コーロ ボンブはいずれ避けきれなくなってしまう。
「今のうちに、サンダーボルトナックルで仕留めねえと・・・・」
再びコーロボンブの右拳に電気が帯びていく。しかし佳幸は言った。
「悪いけど、僕もサンダーボルトナックルを見抜きましたよ」
単なる脅しかと思ったが、続いた言葉に塁は愕然した。
「稲妻の拳を反らすことさえできれば、雷鳴の拳をかわすことはたやすいですからね」 「!おまえ・・・・」
たった一度受けただけで看破したことに、塁は言葉を失ってしまった。
佳幸と塁の会話を聞いた優馬や伝助は、瞬時に納得した。
「なるほど。サンダーボルトナックルはニ連撃のような技だったんだな」 「え、わかったんスか?」
達郎やエイジ、ハヤテ、ヒナギクは解釈に苦しんでいた。
「雷が起こるとき、まず空が光って、それから音が響くでしょう?」 「あっ、そうだわ!」
伝助の説明を聞いて、ヒナギクは理解できた。
「サンダーボルトナックルも同じことなのね。必殺技を打つ時、その拳から電撃が放たれて、まずそれをお見舞いしてから、本命の拳を入れるんだわ」
それを聞いて、ハヤテと達郎は頷いた。
「電撃はパンチよりも早く相手に届きますからね。だから稲妻の拳、雷鳴の拳というわけですか」 「ああ。電撃は相手の動きを止めるためと、技を確実に入れるためのレールとして放っているんだな」
ひとまず謎は解けた。しかし、同時に心配事ができる。
「理屈はわかったけど、だからと言って攻略できるとは限らねえな。電撃と拳の時間差だって、そんなに間があるわけじゃねえし」 「うん。攻略できる余裕も、佳幸にはあるかどうか・・・・」
達郎と拓実が不安を漏らす中、エイジはきっぱりと言った。
「兄貴は、やるよ」
彼は、超えるべき存在である兄を信じていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.46 ) |
- 日時: 2010/02/19 21:34
- 名前: RIDE
- 更新します。
長かった16話ラストです。
5 ムーブランとコーロボンブは、互いに剣と拳を握り締める。
最後の技が、繰り出される時が来たのだ。
「サンダーボルトナックル!」
先に打ってきたのはコーロボンブであった。ムーブランも同時に駆け出す。
雷鳴の拳よりも早く稲妻の拳が放たれようとした時、ムーブランは剣を投げつけ、コーロボンブの前へと突き立てた。
放たれた稲妻の拳は、その剣に吸い寄せられていった。電気が金属に吸い寄せられやすいという性質を利用して反らすとは考えもしなかった塁だが、これではムーブランも必殺技が使えなくなってしまう。
コーロボンブが慣性のまま雷鳴の拳を打つのと同時に、ムーブランはコーロボンブ目掛けて跳び上がって、拳を構える。その拳に、炎が宿り始めた。
「まさか!」
そう、相手が知らない技があるのは、コーロボンブだけではなかった。
「ブーストフレイム!」
ムーブランの拳がコーロボンブの胴へと当たり、さらにそこから火炎放射を浴びせる。無防備で必殺技を受けたコーロボンブは、封印される寸前のところで通常形態に戻った。
「うわあああああぁぁぁっ!」
そして、コーロボンブが受けた打撃と火炎のダメージが塁の心へと逆流してしまい、雄叫びをあげながら塁はその場に倒れ込んでしまった。
[コーロボンブ戦闘不能、ムーブランの勝利!二回戦進出決定!]
だが、あまりにも凄絶な戦いに、観客たちは声をあげることができなかった。
ここまで集中力を持続させてきた佳幸は、疲労感から再び激しく息を切らせながら膝をついた。ムーブランも通常形態に戻っている。
一方、塁は倒れたまま起き上がる気配を見せない。医者である優馬は心配になって塁のもとへと走っていった。
「これは・・・・!」
容態を見た優馬は、顔を青ざめてしまう。
「ショックが大きすぎて、心臓が停止している・・・・」
それは、死を意味することだった。
「そ、そんな・・・・」
それを聞いた理子は、泣き崩れてしまった。
「なんとかならないのか?」
それまで無口無表情を貫いてきた板長も同様を見せた。
「方法はあります。ライガリングを塁に着けさせて、そのリングに先ほどの必殺技を打ち込むんです。リングがまったく同じ力をもって、心臓を再び動かします。半壊していても問題はないでしょう。ただ・・・・」
優馬はより一層表情を曇らせた。
「一つ問題が。時間があまりない上に、心臓を停止させたものと全く同じ力を加えなければ なりません。それができるのは佳幸だけなんですが・・・・」
その佳幸は疲労困憊な様子で、誰が見ても早く休ませなければならないと思わせる身であ った。
「この状態では・・・・」
だが佳幸は、立ち上がろうと動き始めた。
「くっ・・・・」
それに合わせてムーブランも人型形態へと変わるが、佳幸はすぐに崩れ落ちそうになる。
「兄貴、しっかり!」
そこへエイジが駆け寄り、彼を抱き起こした。
「俺も手伝うぜ!」
達郎も走ってきて、エイジとともに両側から佳幸の肩を担いだ。
「伝助、拓実、来てくれ!」 「言われなくても!」 「すぐ行きます!」
優馬に呼ばれた二人も、急いでライガリングを拾って塁に着けさせ、それが狙いやすいよ うに三人で彼を支えた。
「チャンスは一度しかないわね・・・・」
そうつぶやいた後、花南はハヤテのほうを向いた。
「あんた執事なんでしょ?さっさと二人分の担架をこっちに寄越しなさいよ」 「それはどういう意味?やっぱり岩本君には無理で、稲村さんの死体とともに片付けようっていうこと?」
詰問するヒナギクの怒りを、やり過ごすように花南は返した。
「そうじゃないわ。塁が復活した後、二人ともすぐには動けないからよ」
佳幸は必ずやる。そう信じての言動であった。
その佳幸は、途切れそうな心をなんとか繋ぎとめている。彼の心を受けたムーブランは、拳が届く距離まで近寄って、ライガリングにブーストフレイムを叩き込もうとした。
だが、その拳を突如人型形態のグルスイーグが止めた。
「慌てるな」
グルスイーグの使者である氷狩は、佳幸の方へと走ってきた。
「氷狩!おまえなにすんだ・・・・」
勢い込んで責めようとする達郎を手で制しながら、氷狩は佳幸にアドバイスを送った。
「そこからじゃ近すぎる。リングが処理できずにパンクしてしまうぞ。少し下がらせたほうがいい」
そう言っている間にグルスイーグが、ムーブランを二、三歩ばかり後ろにずらさせた。
「よし、いいぞ佳幸。ん・・・・?」
そこで氷狩は、佳幸が自分たちの呼びかけに全く反応を示さないことに気付く。
「やはり、既に気を失っているな」 「ええ!?でも・・・・」
それならムーブランは通常形態に戻るはず。そんな疑問に、氷狩は簡潔に答えた。
「おそらく、佳幸は本能によって動いているんだろう。立派なことだが、無意識状態では精霊に攻撃させることができない・・・・」
もうダメだと、氷狩や達郎たちが諦めかけたその時だった。
「佳幸!しっかりしなさい!」
花南の叱咤激励が闘技場に響く。
「このままじゃあんた、精霊の力で塁を殺したことになるのよ!それでいいの!?」
その言葉に、佳幸はピクリと反応する。
「精霊は人を殺すためにあるんじゃない・・・・」
彼は決然とした表情で頭を起こした。
「人を救うための力なんだ!!」
その叫びとともにムーブランはライガリングにブーストフレイムを打ち込んだ。リングは砕け、優馬や伝助、拓実とともに塁の体が衝撃によって吹っ飛ばされた。
「失敗したのか・・・・?」
ライガリングの破片を見て、達郎はまさかと思った。
「いや・・・・」
優馬は安堵の表情を浮かべ、伝助や拓実にも確認を取った。
「聞こえるよな」 「ええ。間違いありません」 「僕にも聞こえます。塁の心臓の鼓動がはっきりと・・・・」
つまり、塁の蘇生に成功したということだ。闘技場が大きな歓声に包まれた。
その中で、理子と板長は佳幸に多大な感謝の念を抱いていた。
「ふう、安心しました」 「ええ。死人が出たら大変なことになっていました」
主催者側の席では、マリアやシュウたちが胸を撫で下ろしていた。しかし、ダイだけはまっすぐにナギを睨んでいる。
「で、チビ女よ。おまえ何する気だったんだ?」
花南が佳幸を励ます直前、ナギは席から立ち上がって、何か行動を起こそうとしていた。それをダイだけが見逃さなかったのである。
「岩本は自分の精神力で立ち上がったけど、そうでなかったらおまえがあいつを起こしていただろうな。でも具体的に何をするつもりだったんだ?第一、こんな大会を開いた本当の目的は何だ?」
しかし、ナギは黙秘を貫いていた。
「ま、俺には関係ないからいいけどな」
ダイは深く追求はせず、謎のままにしておいた。
「翼、大地、シュウ、出るぞ」
それよりも気になることがあった。ダイは、この闘技場に何か怪しい気配を感じていた。
「ちょっと探ってみるか」
ハヤテに呼ばれて担架を持ってきた男たちが、佳幸と塁をのせて運んでいくのを、達郎は笑顔で眺めていた。
「本当によかったぜ」 「ああ」
自分に同調してきた氷狩を、達郎は意外なもののように見た。氷狩はそれに気付かずに続ける。
「皆といると、心が安らぐな。皆も同じようだから、五年前から続く俺たちの仲はまだ健在なんだな」
照れくさそうに頬を掻く氷狩。
「特に佳幸は、五年前から変わらない思いをもっていた。塁さんも、そして皆も単なる名声のためじゃなく、自分の思いを貫くために戦っているんだな」
そんなことを口にする氷狩にも、確固たる思いができた。
「俺も、自分が使者であることの誇りをもって戦う」
そんな氷狩を見ていた達郎は、先ほどのことを思い出して、彼に向かって頭を下げた。
「悪い氷狩。俺止めに入ったのはてっきり邪魔しに来たのかと思っちまって・・・・」 「気にするな。それよりも達郎、花南との戦い頑張れよ」 「おまえもな。二回戦の相手は佳幸だからな」
二人は、互いに笑顔をかわすのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.47 ) |
- 日時: 2010/02/20 21:19
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第17話です。
第17話 ユニアースの角
1 スピリアルウォーズ一回戦も半分が終わり、折り返しに差し掛かろうとしていた。
「ようやく僕の番か」
ガイアースを引き連れて、一樹が上がっていく。やっとナギの前で活躍できると思うと、心が弾んでくる。
彼に対するは優馬と、一角獣に似た彼の精霊、土のユニアースだ。ユニアースは、槍となった一角獣の角を手にした人型形態となっていた。
「まったく、死傷者が出たかもしれなかったというのに、あのお嬢さんはまだこんなことを続けるつもりなのか」
呆れている優馬とは別に、一樹は戦う気満々であった。
「ナギさんは強い人を求めているんだ。だから僕は、勝ち続けることでナギさんにふさわしい男だということを証明してみせる!」
一樹のそんな態度を見て、優馬はさらにため息をついた。
「西沢一樹とか言ったよな。あのお嬢さんに惚れているところ悪いが、そんなことでしか自分を証明できないんじゃ、残念だけど実は結べないと思うぜ」
それを聞いた一樹は、不快を露にした。
「そっちこそ、大人のくせに今さら戦いに怖じ気づくなんて、みっともないですよ」
言われた優馬は、自嘲気味に笑った。
「そうだな。もう今さらなんだもんな。なら戦うしかない。だが、俺らしく戦わせてもらうぜ」
医者である優馬は、医療現場に携わっている。そんな自分が精霊の使者として人の心も癒 していけるのだろうか試す意味で、また、対戦相手が心に暗いものを負っているのなら、それを取り払ってしまおうという思いでここに来たことを思い出した彼は意を決した。
[第五試合、開始!]
合図とともに人型形態のガイアースは、ユニアース目掛けて駆け出した。対するユニアースは身構える様子もなく、ただ槍を地に突き立てた。
「んっ?」
足で踏む先が異様な反応を示しだしたため、ガイアースは止まってしまった。
それは、ユニアースの角の槍によるものであった。突き立てられた地点を中心に、槍はユ ニアースを囲むように、地に古代文字で描かれた陣を敷くのであった。
「これでもう、ユニアースには一歩も近づくことはできない」 「なんだって?」
優馬の言葉に一樹は怒りを煽られていく。
「このアースフィールドは中に入ろうとする精霊を敵と見なしたら、そいつを拒み、徹底的に排除しようとする。それでも入ろうとする覚悟があるなら、入って来い」 「なにを!排除しようとするのなら、やってみてくださいよ!」
こけおどしだと思い。軽く見た一樹はガイアースにアースフィールドを無視して突き進ませようとした。
だが、ガイアースの足がアースフィールドの中へと踏み入れた瞬間、陣の範囲内の地がせり上がって、生き物のようにガイアースを攻撃した。不意打ちを食らったガイアースは陣の外へと飛ばされてしまった。
「そんな。地面が攻撃してくるなんて・・・・」
予想外の抵抗に驚く一樹。優馬はそんな彼に宣告した。
「俺の勝ちだな。今の手を抜いた一撃をかわせないようでは、この勝負は決まったようなものだ」
さらに優馬は無慈悲とも取れることを言い放った。
「相手の望みをホイホイとかなえるだけの奴がそいつの心を射止められるものか。あのお嬢さんのことは、諦めるんだな」
今の言葉や手加減されているという事実は、一樹を激昂させるのに十分であった。
「言いたいことばっか言って・・・・」
屈辱に震える一樹の心がガイアースにも伝わり、力となっていく。
「僕をなめないでください!」
再び突撃するガイアース。パワーがあがった今なら、アースフィールドを突き破れると思った。
しかし、この陣は予想以上に強固であった。アースフィールドの中に入ったガイアースは、足場を揺らされてしまったために体がふらついてしまい、そこへ土の一撃を受けてしまったので、またもや陣の外へ跳ね除けられてしまった。
「ま、まだだ!まだ僕は!」
一樹はめげなかったが、いろいろな角度からガイアースにアースフィールドの突破を試みさせた結果、身構えていても、また最初の一撃をかわすことができても、立て続けに次の攻撃が襲い掛かり、ガイアースはユニアースに近づくことさえできなかった。
そして、四度目の突入も、地を舐める結果となった。
「うっ・・・・、くっ」
それでもガイアースは立ち上がった。往生際が悪いとか何とか言われようが、一樹はここで引くつもりはなかった。手抜きでここまでやられては、ナギの前で格好がつかない。なんとか、せめて一矢でも報いなければ。
だが、アースフィールドは強大であった。前後左右入り込む隙がなく、まさしく鉄壁の陣であった。
「だけど、一つだけ空いているところがある・・・・」
ガイアースは、上空に向かって跳び上がった。
「真上からなら、地面での攻撃は届かないはず!」
一樹の読みどおり、陣の上にいるガイアースに攻撃はしてこない。落下するガイアース は、ユニアースに地砕爆慎拳の狙いを定めた。
しかし、優馬は動じなかった。
「この俺が唯一の手薄な場所をがら空きのままにしておくと思ったか?生憎だが、ちゃんと備えはしてあるんでね」
ユニアースは膝を屈ませ、力を足へと溜める。
「ギャロップキック!」
必殺技を繰り出そうとするガイアースに、カウンターで上段回し蹴りを決めるユニアース。かえって必殺技を喰らってしまったガイアースは、その場に倒れ込んでしまった。
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Re: 新世界への神話 ( No.48 ) |
- 日時: 2010/02/21 21:15
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 「ほら兄貴、タオル替えるぞ」 「ありがと。・・・・ああ、気持ちいいな」
簡易ベンチに仰向けで横たわっている佳幸の顔からタオルを取ったエイジは、新しい濡れたタオルを敷いた。
第五試合が行われている頃、とある控え室では。
佳幸が冷たさに心を安らかせていると、ノック音がしてきた。
「入っていいか・」
ドアの向こうから塁の声が聞こえてきた。エイジは許可を出す。
「どうぞ」
ドアが開かれ、塁が入ってきた。彼はまだ疲労がとれずに寝ている佳幸のもとへ近づき、声をかけた。
「大丈夫か、佳幸?」 「塁さんこそ。もう歩き回って平気なんですか?」 「ああ。もう平気だ」
命を落としかけたとは思えないほど、塁は元気だった。
「もっとも、おまえのおかげだけどな。理子たちから聞いたぜ。おまえは命の恩人だ、ありがとう」 「大げさですよ塁さん。僕たち仲間じゃないですか」
佳幸と塁はともに笑いあった。その塁が帰り支度をしているのに気付き、エイジは尋ねた。
「もう帰るんスか?」 「ああ。みんなには悪いけど、老師のことが気になるからな。生きているうちに顔合わせできればいいんだけど・・・・」 「大丈夫ッスよ!塁さんがこうやって九死に一生を得たんだから、その老師っていう人もきっと盛り返してくれるッス」
エイジからの励ましを受けた塁は、不安が少し晴れる。
「そうだん。うん、きっとそうだ」 「そうそう。ん、あれ高杉さんじゃね?」
開けっ放しにしているドアの隙間から、エイジは何かを探しているようなダイの姿を見つける。
「何なんだ?おーい、高杉さーん!」
エイジの呼びかけに気付いたダイは、控え室の中へと入ってきた。
「おまえら、こんなところで休んでいたのか」 「ええ、まあ。どうしたんスか高杉さん?何か探し物しているみたいでしたけど」 「そんなところだ。一応おまえらにも伝えておくか」
そこでダイは険しい顔つきとなって語りだした。
「実はこの大会が始まった時から、異様な気配を感じていたんだ」 「え?」
思いがけない話の内容に、エイジだけでなく佳幸や塁も耳を傾ける。
「どこかで俺たちのことを監視しているような・・・・」 「え、それって・・・・」
佳幸がまさかと思って聞き出す前に、ダイが口にした。
「そうだ。招かれざる十七人目の精霊の使者が、この闘技場に来ている」
その言葉に、エイジや佳幸、塁の三人は驚愕した。
「ほ、本当なんですか!?」 「ああ。こちらに対する敵意をはっきりと感じる。翼たちにも今探らせている」 「そうか・・・・」
すると塁は、どうしようもないことにむしゃくしゃして頭を掻いた。
「くそー、優馬さんとユニアースがいればすぐに見つかるんだろうけど、今は試合中だしなぁ・・・・」
ダイは、それがどういうことなのかわからなかった。
「何でそいつらが十七人目の使者をいち早く見つけられるんだ?」
それについては、佳幸が説明した。
「ユニアースの角にはいろいろな力があるんです。モチーフとなっているユニコーンと同じように治癒の能力はもちろん、攻撃、防御能力にも秀でています。しかし何よりも、自分に敵対するものを瞬時に探り当てる優れた索敵能力を持っているんです」
話を聞いたダイは、納得したように頷く。確かにその力があれば、真っ先に十七人目の使者にたどり着けるだろう。
「それを知っていれば、もっと早くに行動できたのにな」 「でも、あんたが動くほどのものなんスか?その十七人目の使者は?」
エイジが根本的な質問をした。
「まさか、あの艶麗とかいう女なのか?」 「いや、あいつやその手下とかじゃない。違う感じがする」
だが、ダイの表情はより一層深刻さを増した。
「俺の予感が正しければ、そいつは艶麗よりも厄介だ。奴は、この闘技場にいる全員を無差別に殺すかもしれねぇからな」
それを聞いた佳幸たちは、そんなバカなと思った。その者が同じ精霊の使者である自分たちを狙うのではあれば何かと理由を考えることができるが、何の関係もない一般人にまで手をかけるなんて、一体何のためかわからないからである。
その時、闘技場から異様な歓声が聞こえてきた。何か起こったらしい。
「まさか、現れやがったのか!?」
ダイは急いで闘技場へと向かう。
「俺たちも行くぞ!」 「はい!兄貴はここにいて!」
塁とエイジもその後を追った。
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Re: 新世界への神話 ( No.49 ) |
- 日時: 2010/02/22 21:02
- 名前: RIDE
- 更新します。
第17話ラストです
3
倒れているガイアースに対し、ユニアースは悠然として立っていた。
誰が見ても、勝敗は明らかになっていた。
「最後に一つ、物申すぜ」
優馬は一樹にむけて語った。
「例え意中の女が自分に興味がなく、敵対していたとしても、自分に惚れさせる。それがモテル男というものだ」
澄ました顔で勝利を確信する優馬。そんな時だった。
ユニアースの角の槍が、異様な反応を示しだした。ガイアースと戦っていたときとは全く違う。
それを感じた優馬は、ガイアースよりも警戒すべき敵が存在することを理解した。
「一体、誰が・・・・?」
だが優馬が推測する前に、角の槍をつかんだものがいた。
「と、とった・・・・」
ガイアースであった。一樹はまだ戦うつもりでいた。
「いろいろと忠告をありがとうございます。でも勝つのは僕みたいですね」
角の槍をとればこちらのものだと思っているのだろうが、優馬としてはそれどころではない。
「今ユニアースの角は重大なことを教えようとしている。この場にいる全員の危機を報せているのかもしれん」 「なんだって?」
それを聞いても、何もわからない一樹には悪あがきにしかとれない。
「角を放せ。そうでないと機会を失ってしまう」
しかし、勝負にこだわる一樹は素直に言うことに従わない。
「そうはいくもんか!やっと掴んだ逆転のチャンスなんだ、倒すまで放すもんか!」
ガイアースは角の槍を掴んでいる右手を引き寄せようとする。思わず優馬は声を荒げた。
「よせ!手を離さなければ、おまえの精霊は呪われるぞ!」
そう叫んだ瞬間、角の槍が光り出し、思わず槍を手放したガイアースの右手から肩までが 石化してしまった。
「こ、これは・・・・」 「穢れき心持つ者がこの角に触れると、呪いがかけられる。おまえが名誉にこだわったため、ガイアースは呪われてしまったんだ」
話を聞いた一樹が身を引いていると、角の槍は光を点滅させ始めた。
「危機がすぐ近くまで迫っているのか」
ユニアースの角の槍を持って、その先を全方位にまわしてみる。
そして、ある方向を指したところで、角から光がそこへと伸びていった。
「な、なんなんだ・・・・?」
観客とともに一樹は混乱してしまう。
「油断するな」
そんな彼に注意する優馬。用心していなければ、確実に身の危険が降りかかるからである。
「この方向にいるのか。この闘技場にいる全員の脅威となる敵が。しかし・・・・」
優馬は顔をしかめた。
角が指し示す方向。そこには、黄金のリングと勾玉が存在しているからだ。
突然、闘技場内に閃光が発し、雷鳴が轟いた。
次の瞬間、黄金の勾玉とリングは消えており、代わりに瑞鳥の精霊を従えている、バイザーをかけた男がその場にいた。
「あ、あれは・・・・!」
観客も、伝助たちも、駆けつけたダイやナギたちも驚愕する。
しかし、一番衝撃を受けたのはハヤテだった。
「兄さん・・・・!」
そこにいたのは、ハヤテの兄である雷矢と、彼の精霊である雷のライオーガであった。
予期せぬ来客に、闘技場内は緊迫した空気に包まれる。
「やっぱり、俺の勘は当たっていたか・・・・」
ダイは、微かに強張った様子でつぶやいた。
「よりにもよって、雷矢が忍び込んでいたなんてな・・・・」 「あいつが綾崎さんの兄貴で、雷のライオーガを奪ったっていう奴なんスか・・・・?」
エイジと塁は、改めて雷矢を見た。
「噂どおり・・・・いや、噂以上のプレッシャーだ」
そしてそれは、優馬も感じていた。
「なんという憎しみだ。肌ではっきりとわかるほどの大きさなんて・・・・」
ユニアースの角も、光がより鮮明となっている。
「角が緊張度を最高点にまで上げている・・・・」
こんなことは滅多にない。それだけに、優馬も警戒心を強めた。
「あいつは、地獄から来た男だとでもいうのか・・・・?」
ユニアースの角から発している光が激しく点滅し始める。攻撃に出ることを促しているのだ。
「仕方がない!」
弟のハヤテには悪いと思いながらも、攻撃を実行させることにした優馬。
だが、雷矢の精霊のライオーガが人型形態に変わり、ユニアースに向けて電撃を放った。その攻撃を肩に受けたユニアースは、吹っ飛ばされてしまう。
「なッ・・・・!」
ユニアースを吹っ飛ばすほどのダメージを与えたことに、優馬だけでなくほかの使者たちも驚いてしまう。
「やめてください、兄さん!」
前に進み出るハヤテ。雷矢はそんな弟に視線を移すと、バイザーを取ってひと睨みする。
「相も変わらずのその気弱な面。ほとほと愛想が尽きた!おまえから血祭りに上げてやる!」
その目には、前にあったとき以上に憎しみを煮え滾らせていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.50 ) |
- 日時: 2010/02/28 21:18
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第18話です。
第18話 雷矢再び
1 「死ねっ!」
ライオーガはハヤテ目掛けて飛び降りてきた。そのまま膝蹴りをハヤテにお見舞いしようとしたが、シルフィードが前に出て身替りになる。
「兄さん、何故ここに!?」
ハヤテは自分たちのもとに降りてきた雷矢に尋ねた。
「あの時言ったはずだ。話すことなど、何もないと!」
ライオーガは、必殺技の構えに入る。
「電光石火!」
電気を纏った体当たりに狙われるシルフィード。その間に、人型形態のワイステインが割 って入り、風の防御壁を起こすが、ライオーガはそれを易々と突き抜け、ワイステインは電光石火を受けてしまった。
「ああっ!」
ワイステインが受けたダメージの大きさがリングにも反映されたようで、伝助のイーグルリングが破壊されてしまう。圧倒的な攻撃力に、初めて雷矢を見る八闘士の面々は呆然としてしまう。
「邪魔が入ったが、今度こそとどめを刺す」
ライオーガは拳をシルフィードに叩き込もうとする。だが、それを制止する者がいた。
「ちょっと待ちなよ」
一樹とガイアースだった。ガイアースは無傷の左手でライオーガの腕を掴んでいた。
「今は僕と土井さんとの試合をやっているんだ。突然やってきて、水を差して欲しくないんだけど」
雷矢はそれに答えなかった。ライオーガはうるさいものを追い払うかのように腕を払い、瞬時にガイアースは距離を取った。
「手当たり次第ってこと?」
一樹は段々と腹が立ってきた。
「なら、このガイアースが・・・・」
だが、そのガイアースは攻撃を受けたようで、ダメージによって通常形態となってしまった。
「そ、そんあ・・・・避けたつもりが・・・・」
完全に見切れなかったことに、ショックを受ける一樹。
次にライオーガに立ち向かったのは、ギルバートとブレズオンであった。
「あなたのその行動、紳士として見ていて目が痛いデース」
紳士に見えるのはスーツ姿だけだというのに、ギルバートはフッフーンと鼻を鳴らしながら胸を張っている。
「この私が成敗してあげまショウ!」
ブレズオンも、まだ解放形態だが炎を高く吹き上げていた。
「あなたは地獄からやってきたようデスが、再び送り返してあげまショウ!炎地獄ヘト!」 「地獄へ送り返す、だと・・・・」
その言葉は、雷矢の怒りに触れたようだ。
「その地獄がどういうものか、貴様に教えてやる!」
ライオーガは、ブレズオンに向けて拳を突き出すと、その拳から光が発射された。
目を瞬いたギルバート。そんな彼の体に、雷が落ちてきた。
「ノオオォォォ―――ッ!」
全身に何万ボルトの電流が走り、ギルバートは絶叫する。
再び落雷がギルバートの体へと吸い込まれる。しかも、電圧は先程のものよりも上がって いる。
何とか逃げ出したいギルバートだが、足が痺れて動けないため、ここから移動することが出来ない。
三発目。今度は両腕が麻痺し、完全に身動きが取れなくなってしまう。そこへ四発目、五発目と落ちる度に電圧が増していく雷を受け続けるギルバートは、内臓が膨れ上がるような感覚に見舞われてしまう。
そしてついに、とどめの雷がギルバートを襲った。百万ボルトもの高電圧を受け、ギルバートの体ははちきれ、内臓がそこらに飛び散っていった。
「ギャアアアアァァァァ―――――ッ!!」
壮絶な痛みに悶えるギルバート。うっすらと目を開けると、鏡でもあるのか、今の自分がもう一人、すぐ目の前にいた。
もう一人の彼は、ギルバートの方を向くと、彼に対して気味の悪い笑顔を送った。
それを見たギルバートは、声にならない叫びを上げた。
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Re: 新世界への神話 ( No.51 ) |
- 日時: 2010/03/11 19:08
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回はそれほどではないにしろ危険な描写があるので 少々不安です。
2 ライオーガの拳から放たれた光をブレズオンが浴びた途端、ギルバートは恐怖の表情でガクガクと震えだした。
「一体、どうしちまったんだ・・・・?」
エイジたちは呆然とする。お互いにらみ合ったのはわずか一,二秒の間だけ。ライオーガが発した光が原因だとしても、浴びたのはブレズオンで、ギルバートに向けられたものではないというのに。
「精神攻撃だ」
唯一、事態を理解している氷狩が説明する。
「ライオーガはブレズオンを通してあのギルバートとかいう男に幻覚を見せたんだ。強い催眠効果のある幻覚をな」 「そうだ」
雷矢はあっさりと肯定し、堂々とギルバートの前まで近づく。
「そして、この男の魂は死んだのだ。ズタズタに引き裂かれてな」
そう言って、ギルバートの額を軽く指で小突いた。それだけで、ギルバートは倒されてしまった。
「あんな簡単に倒されるなんて。それほど強い精神攻撃なのか・・・・」 「青銅の精霊では、精神攻撃は難しいと言われているのに・・・・」
雷矢とライオーガに圧されているエイジたちに、ダイは冷めた表情で分析した。
「それでもあいつらはまだ全力を出していない。俺たちに見せたのは氷山の一角でしかないんだ」
その言葉を聞いて、相手の恐ろしさにただただ愕然してしまう。
「そういえばハヤテ。おまえにみやげがあったな」
一方の雷矢は、何かを取り出した。
「死ぬ前に受け取るがいい」
それを、ハヤテの足元に向けて寄越した。それは、あまりにも惨いものであった。
「これは・・・・!」 「イヤアァァッ!」
ハヤテは息を呑み、それを見てしまった女性の観客たちが多数、悲鳴をあげる。
それは、血だらけの男女の生首であった。しかもそれは、ハヤテにとって因縁ある人物たちのものである。
「僕の両親の・・・・首だ・・・・」 「え!?」
ハヤテの両親ということは、雷矢の両親でもあるということだ。その生首を、雷矢が持っているということは、つまり・・・・。
「あなた、実の両親を手にかけたというの!?」
ヒナギクを問い詰めるが、雷矢は黙ったままだ。答えるまでもないということらしい。
「なんてことを!」
ヒナギクは激昂する。
「あなたを地獄に送ったり、ハヤテ君を一億五千万で売りつけるような人たちでも、あなたにとっては両親じゃない!それを・・・・」
だが雷矢は罪の意識など感じていないようだ。
「その勤めを果たせなかったものなど親と呼ばれる資格があると思っているのか?どちらにせよハヤテは感謝すべきだと思うがな。これで恨みが晴れたのだからな」 「黙りなさい!」
ヒナギクの怒りを受けて、ヴァルキリオンは人型形態に変化して構えた。雷矢とライオーガの強さに後込みしそうであったエイジたちも、彼の態度に腹を立て、人型形態に変化した自分の精霊に臨戦態勢を取らせた。
「ほう。次はどいつだ?」
そんな彼らを、雷矢は相手と見なしていないようだ。
「何なら全員でかかってくるか?一人一人では到底太刀打ちできそうにもなさそうだからな」 「なにを・・・・」
かけられた挑発によって、ヴァルキリオンたちは今にも飛びかかろうとする。
「ククク・・・・」
その時、闘技場に不気味な笑い声が響いてきた。
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Re: 新世界への神話 ( No.52 ) |
- 日時: 2010/03/16 20:12
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 「なにも雷矢様自ら手をお下しになるまでもなりません。そいつらごとき雑魚は我らにおまかせを・・・・」
最初に雷矢が姿を現した場所に、また新たな男たちが八人出てきた。
「な、なんだあいつら!?」
黒い衣装で、雷矢と同じようなバイザーを着けた男たち。しかし真に驚くべきところはそこではなかった。
「黒いライオーガ・・・・!?」
彼ら全員、ライオーガと全く同じ姿形の精霊を従えていた。唯一つ、ライオーガとの違いは使者の男たちと同じように黒い色であることだ。
その黒いライオーガは、使者と共に闘技場に降りてきた。
「フッ、とったぞ!」 「え!?」
黒いライオーガたちは皆、ヴァルキリオンたちの背後についていた。
「こうも簡単に後ろを取れるとは・・・・」 「俺たちがその気ならとっくにやられているぞ」
男たちは、得意げに笑っている。
「貴様ら青銅の精霊と使者は、やはり最低の実力だな」
そう話す男たちの正体を、拓実や優馬たちは見抜いた。
「まさか、おまえたちは・・・・」
だが全て言い終わる前に、雷矢の怒号が飛んだ。
「待て!誰がそんなマネをしろと言った!」
怒鳴られた黒ずくめの男たちは、竦みながらも意見を述べた。
「し、しかし雷矢様、こいつらを・・・・」 「こいつらの始末は今急いで着けなくともよい」
そこで雷矢は狙いをつけるように主催者側の席を睨んだ。それを見てダイはまずいと思った。翼も大地もシュウも自分と一緒に出て行ったため、あそこを守るものは今誰もいない。
ライオーガは主催者側の席に向かって飛び上がり、ナギとマリアの前に対峙する。
「ナギッ」
マリアがかばうようにしてナギの前に進み出た。そんな彼女の鳩尾にライオーガは一発入れ、気絶させる。
そんなマリアを抱えて、ライオーガは雷矢のもとへ戻っていた。
「おまえたち、持っていくべきものはしっかりと手にしたな」
雷矢は、黒ずくめの男たちに確認を取った。
「既にちゃんと、手にしました」 「そうか。ならば引き上げるぞ!」 「はっ!」
雷矢は最後にハヤテに向かって言った。
「ハヤテ。貴様の命はしばらく預けといてやる」
それを残して、雷矢と黒ずくめの男たちは消えていった。闘技場は静まり返り、エイジたちは呆気に取られていた。
「あいつら、黄金の勾玉とリングを奪うのが目的だったんだな」
雷矢たちが現れた、黄金の勾玉とリングが置かれていた場所に何も無くなっていることか ら、優馬はそう推測した。
「あのメイドさんをさらったのは、俺たちに対する挑発かなんかか・・・・」 「でもあの黒ずくめの男の人たち、一体何者なんでしょうか?」
ヒナギクが首をかしげていると、優馬がその疑問に答えた。
「奴らは、陰鬱の精霊の使者だ」 「陰鬱の精霊?」
ハヤテとヒナギクが聞いたことのない言葉だ。
「陰鬱の精霊。またの名をネガティブスピリットと呼ばれるそれは、人の淋しさから生まれた妖精が、救われずに黒き姿となり、人の暗い心に取り付く精霊だ」
二人は優馬の説明に黙って耳を傾けている。
「そして、核である勾玉も黒いそいつらの使者は、私利私欲のためだけに力を使い、霊神宮からも見放された存在だ」
優馬はそこでハヤテに視線を向ける。
「おまえの兄は、その陰鬱の精霊の使者に魂を売ったんだ」
それを聞いたハヤテは、辛そうに目を伏せた。
「何をしている!」
そんな中、ナギの使者たちに対する叱咤の声が響いてきた。
「早く陰鬱の精霊の使者たちを追え!マリアと勾玉とリングを取り返して来い!」 「うるせぇ!指図されるまでもねぇ!」
上から物を言われて、ムカムカしたエイジは言い返した。
「あんなリングどうだっていいが、目の前で人攫いまでされちゃ放っておくわけにもいかねぇ。ちゃんと取り返してきてやるよ!」
達郎、氷狩、拓実も頷く。
「塁、伝、あんたたちはここに残ってなさい」
四人と同様に飛び出そうとする塁と伝助に、花南は釘を刺した。
「リングが砕かれてんでしょ?万が一ということを考えて、行かせるわけにはいかないわ」 「俺も、一緒に行きたいところだが・・・・」
そう言って、優馬は倒れているギルバートを見た。
「医者として、あんな姿を見過ごすわけにもいかないからな」
優馬は、ユニアースをギルバートのもとに近づけさせ、治癒能力のある角を当てさせた。 普段は人間の持つ、治そうとする力を尊重するために治療には使わないのだが、精霊の攻撃 を受け重傷を負った場合は別である。
「僕は行きます!」 「私も!」
ハヤテとヒナギクは名乗り出た。そんな二人を花南は仕方なさそうに承諾した。
「わかったわ。急ぎましょう、まだそんなに遠くへは行っていないはず!」
花南たち七人の使者は闘技場を出て行った。
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Re: 新世界への神話 ( No.53 ) |
- 日時: 2010/03/18 21:39
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 闘技場から離れようと、ネガティブライオーガを従えた陰鬱の精霊の使者たちは、それぞれ分かれて練馬の街を走っていた。
「む・・・・?」
そのうちの一緒に走っていた二人は、異変に気付いて足を止めた。
「雪に、桜の花・・・・?」
辺り一面に、雪と桜の花が舞い降っていた。それは有り得ないことであった。雪に関しては季節はずれであるし、もう散ってしまったはずの桜が花ごと降っているのはおかしいことである。
そして、彼らはいつの間にか、自分たちの前を立ち塞いでいるものたちが現れていることに気付いた。
「グルスイーグ、フラリーファ」
それらの精霊の後ろには、使者である氷狩と花南がいた。
「おまえら、黄金のリングと勾玉を持っているか?」
それを聞いた陰鬱の精霊の使者たちは、意味ありげに笑ってはぐらかそうとする。
「腕ずくしかないな」
仕方ないとばかりに、グルスイーグとフラリーファは人型形態となって構えた。
「氷狩、足を引っ張らないでよね」 「誰に向かって言ってんだ?」
ネガティブライオーガも戦闘態勢をとるが、その前に雪と花がさらに大量となって振り出してきた。
「こ、これは・・・・」 「まだわからないの?」
花南が呆れた風に口を開いた。
「これが何の意味なのかわからない時点で、あんたたちは負けてるのよ」
そして、フラリーファは必殺技を放った。
「ブロッサムボム!」
フラリーファがブローを打つと同時に、周囲の桜の花が一斉にネガティブライオーガに襲い掛かり、爆発しだした。その威力は、ネガティブライオーガらだけでなく、陰鬱の精霊の使者も爆風を受けて気を失いかける。
そこへ、グルスイーグも間髪入れずに必殺技を繰り出す。
「フリージングスノウズ!」
今度は凍気を受け、ブロッサムボムを喰らって弱っていたネガティブライオーガは凍結してしまい、光となって封印された。
後には、完全に気絶した陰鬱の精霊の使者たちが倒れていた。花南と氷狩は、彼らの体を探るようにして触る。
「・・・・ないわ。あんたの方は?」
花南に尋ねられると、氷狩も首を横に振った。マリアについてはもちろんのことだが、この陰鬱の精霊の使者たちは黄金の勾玉とリングも持っていなかった。
「それにしても、大変なことになったわね」 「ああ。黄金の勾玉とリングをめぐって、俺たち青銅の使者と陰鬱の使者との戦いが始まったんだ」
これはその前触れであると感じる二人であった。
「ほう。俺たちについて来れるとは・・・・」 「青銅の使者にしては、中々やるな」
別のところでも、エイジと拓実が陰鬱の精霊の使者二人を捕まえていた。
「黄金のリングと勾玉を返してもらおうか」
拓実がそう言うのと同時に、アイアールとウェンドランは人型形態に変わっていく。
しかし、陰鬱の精霊の使者たちは嘲笑っていた。
「残念だったな。俺たちは何も持ってないぜ」
そのことを表すかのように二人は手をひらひらと振った。本当のことを言っていると感じたエイジたちは、彼らを無視して突き進もうとした。
「おおっと!」
その前を、人型形態のネガティブライオーガが立ち塞がった。
「俺たちを前にして、無事ですむと思って・・・・」
だが陰鬱の精霊の使者たちが言い終わる前に、ウェンドランとアイアールはネガティブライオーガの背後に回っていた。
「なにっ!?」
陰鬱の精霊の使者たちは驚愕した。ウェンドランは彼らが見切れないほどの速さで移動し ていたのだ。
「さっきのおまえらのセリフじゃないけど、こう簡単に後ろを取れるようじゃ、陰鬱の精霊と使者もたいしたことないな」
余裕あるエイジの一言に、陰鬱の精霊の使者たちは唇をかみ締める。
「くっ!」 「遅い!」
ネガティブライオーガは離れようとしたが、アイアールとウェンドランはそう易々と逃がさなかった。
「これでわかったでしょう。さっさと僕たちを通してくれ」
だが、陰鬱の精霊の使者たちは道を空ける気配を見せない。
「どうしてもやるというのなら、来い!」 「くそっ!これ以上舐められてたまるか!」
捨て鉢な思いでネガティブライオーガを突撃させるが、アイアールとウェンドランの方が速かった。
アイアールはウェンドランから矢を渡され、それを弓に番えた。
「ミーティアロー乱れ撃ち!」
アイアールが放つと同時に矢は数十本にも増え、次々とネガティブライオーガに突き刺さる。一発一発がウェンドランが直接放つよりも、アイアールのゴールデンアローよりも威力は大きく、ネガティブライオーガは封印されてしまった。
「あ・・・・」
たじろぐ陰鬱の使者たち。すかさずウェンドランとアイアールが彼らを拘束する。
「おまえたちの目的はなんだ?」
身動きがとれない二人に、拓実が尋ねた。エイジも詰め寄って聞き出してくる。
「おい!おまえらは一体なんなんだよ!」
すると、陰鬱の使者たちは笑いながら答えた。
「俺たちは影さ。雷矢様に忠実な」
彼らは笑みを崩すことなく続けた。
「これだけは教えといてやる。雷矢様は青銅の使者でありながら、その強大な力で俺たち陰鬱の使者さえも支配なされた。その力は、黄金の勾玉とリングを手にすることで、天と地をも掴むだろう」 「雷矢様は黄金の勾玉とリングを持って、この世界の支配者となられるのだ」
そこで陰鬱の使者たちは歯を強く食いしばったかと思うと、急にガクッと頭を下げた。
「お、おい、どうした・・・・」
彼らの頭を起こしたエイジと拓実は、目を開いて絶句した。
陰鬱の使者たちの口の端から血が流れている。舌を噛み切って自決したのだ。
「敗者は死。それが陰鬱の使者たちの掟ということか」
やるせない気分となった拓実だが、エイジはもっと辛く感じているだろうと思い、彼を気遣った。
「大丈夫かい、エイジ?」 「心配しなくてもいいっスよ。それより拓実さん、奴らの言ってたことが本当な ら・・・・」
拓実も同意見だという風に頷いた。
雷矢は、復讐のためだけでなく世界征服でもやらかすつもりなのだろうか。二人は雷矢の憎しみの大きさを改めて認識していた。
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Re: 新世界への神話 ( No.54 ) |
- 日時: 2010/03/23 19:20
- 名前: RIDE
- 更新します。
第18話ラストです。
5 逃走していた陰鬱の使者たちは、背後から近づいてくる気配を感じ、足を止めた。
「誰かが、来る」
その警戒心が、ネガティブライオーガを人型形態へと変化させる。それと同時に、強い風が突然吹いた。
「ちっ、やっぱり青銅の奴らか!」
風と共に彼らの前に現れたのはシルフィードであった。そこからネガティブライオーガに向けて疾風怒濤をお見舞いしようとするが、ネガティブライオーガは上に跳んでそれをかわした。
だがその上には、ヴァルキリオンが待ち構えていた。
「氷華乱撃!」
必殺技を受けたネガティブライオーガは、光となって封印された。
遅れてやってきたハヤテとヒナギクも、拳や木刀・正宗で陰鬱の使者たちを叩きのめした。
「あなたたちは、何も持っていないようね」
ヒナギクは黄金の勾玉やリングがあるかどうか確認するが、この二人はどれも持っていな かった。
「ひとつだけ聞きたい」
ハヤテは陰鬱の使者たちに問い掛けた。
「兄さんは何故あんなに変わってしまったんだ?兄さんに何があったんだ?」 「それを知れば、貴様は罪の意識によって自ら命を絶つであろう」
陰鬱の使者たちは、笑って語りだした。
「貴様らも見たとおり、今の雷矢様に流れているのは血でも涙でもない、憤怒の炎よ」 「雷矢様をそうさせてしまったのは、貴様ら三千院家の関係者なんだぞ」
三千院家という言葉が出てきたことに、ハヤテとヒナギクは驚きを隠せなかった。
「そ、それは一体・・・・」
だがそれ以上は聞けなかった。陰鬱の使者たちが舌を噛み切ったからだ。
何が兄を変えてしまったのだろうか。本当に自分たちのせいなのだろうか。ハヤテの疑念は募るばかりであった。
とある池のほとりに、一人の陰鬱の使者が到着した。ここが落ち合いの場であるようだ。
しかし、彼の仲間たちは一行に集まる気配がない。
「黄金の勾玉をもった奴は先に雷矢さまのところへ行かせたからよしとして、他の奴らはどうしたんだ・・・・?」 「倒されたに決まってんだろ」
突然、そんな言葉が聞こえてきたかと思うと、池の水がひとりでに吹き上がった。
そこから現れたのは、人型形態のジャーグインであった。
「言われなくてもわかっていると思うけど」
同時に、達郎もその姿を見せる。
「黄金リングを持ってんなら、素直にこっちに返せ。そうじゃなきゃ・・・・」 「このっ!」
全て言い終わる前に、ネガティブライオーガが人型形態となってジャーグインに飛びかかった。
「やっぱり、やるしかねぇか」
ジャーグインは両手を前に揃えて水球を作り出す。
「ハイドロスプラッシュ!」
激しい水流がそこから起こり、それに呑まれたネガティブライオーガは封印された。
陰鬱の使者も余波を受け、転倒してしまった。その際、黄金リングが零れ落ち、達郎はその隙を逃さず掴み取った。
「黄金リングは取り返すことができたか・・・・」
だが、黄金の勾玉は雷矢のもとへ向かっていると言っており、マリアもまた雷矢自身の手の内だ。そして、この男の言葉から察するに雷矢はもう、こちらの追える範囲にはいない。今すぐに取り返すことは不可能となってしまった。
「それにしても、手応えがねぇな。あんたたち、陰鬱の使者じゃ弱いほうじゃねぇの?」
それを聞いた陰鬱の使者たちは怒ることはなく、素直に受け止めた。
「そのとおり。俺たちは単なる雷矢様の影にすぎん」
彼は、笑いながら続けた。
「黄金リングを取り返して対等になったと思ったら大間違いだぞ。雷矢様のまわりには最強の陰鬱の使者がついているのだからな」
そこまで言って、彼は自決した。
やはり、雷矢の憎しみを解こうとするのは無理かもしれない。激突しかないと悟った達郎は、空しさを感じるのであった。
「う・・・・」
目を覚ましたマリアが見たのは、知らない風景であった。
「ここは・・・・?」
起きようとするが、縛られているために身動きがとれない。
「気がついたか」
彼女の近くには雷矢がいた。さらにそこへ闘技場に現れた黒ずくめの男がやって来た。
「申し訳ありません雷矢様。どうやら他の者たちはやられ、黄金リングまで取り返されたようです」 「貴様らの実力ではその程度よ」
雷矢は気にした様子を見せなかったが、その声には怒気が含まれている。
「奴ら八闘士たちが盾突くというのであれば、打ち砕くまでだ!」
彼は、三千院家に肩入れする者たちに向けて、敵対心を露にする。
「そして黄金リングを再び奪い、この雷矢の野望を実現させるのだ!」
雷矢から発せられる憎しみを感じたマリアは、反射的に身震いを起こすのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.55 ) |
- 日時: 2010/03/27 19:54
- 名前: RIDE
- 更新します。
第19話 陰鬱の使者たち
1 「なにい!取り返せたのは黄金のリングだけだと!」
帰ってきた達郎たちの報告を聞いたクラウスは激しく怒った。
「それでよくおめおめと帰ってこれたな!いったい何をやっているんだ!」
対して、エイジたちはうんざりした様子で聞いている。
「クラウス、もういい」
頭から湯気を出しかねない執事長を諌めたのは、主であるナギであった。クラウス同様不機嫌であったが、普段のように騒ぎ立てるようなことはなく落ち着いている。
「いずれにせよ、マリアは返してもらわねばならんし、黄金の勾玉も無ければスピリアルウォーズを再開することもできん。おまえたちは必死で取り返すのだぞ。いいな」
屋敷から出ると、エイジは苦情を吐かずにはいられなかった。
「上から物を言うのが当たり前な態度しやがって、頭にくるぜ」 「あの人たちにいちいち怒ってたらきりがないよ」
兄である佳幸は苦笑しながら弟を宥める。
「では、僕はここで」
八闘士たちの中で真っ先に別れを告げたのは伝助だった。彼の手には自分のイーグルリン グと塁のライガリングがあった。
「これから陰鬱の使者たちと戦うって時に、リングが壊れたままじゃ本当に一人だけで大丈夫っすか?」
塁が心配そうに尋ねる。伝助は彼と自分のリングを修復させるために、これから出かけるのだ。
「子供のお使いではありませんし、塁君は早く老師という人の元へと帰らなくてはならないでしょう?一人で十分ですよ」
でも、と佳幸は念を押した。
「気を付けてください。リングの修復を頼めるのは精霊界にある秘境と聞きましたから」 「わかっています。すぐにリングを修復してくれるとは限りませんけど、修復されたリングに期待して待っていてくださいね」
そして塁は危篤状態にある老師の元へ、伝助は精霊界に向かうために皆から離れていった。
「それじゃ、俺たちも帰るか」
達郎の一言に、一同は頷いた。
「俺たちも気をつけなきゃな。いつ陰鬱の使者が襲ってくるかわからないからな」
そう注意を促した優馬は、ヒナギクが三千院家の屋敷の方を向いていることに気付いた。
「桂さんとか言ったな。どうした?」 「え?あ、その・・・・」
呼びかけられたヒナギクはなぜか慌てふためきながら返答した。
「だ、大丈夫かなって・・・・」 「何がだ?」 「ハヤテ君・・・・」
それを聞いた拓実も、ハヤテの心中を思いやった。
「兄があんなことをやってしまったんだ。気に病んでなければいいんだけど」
だが花南だけは、俯かせた顔を紅潮させているヒナギクを見て、年増な笑みを浮かべた。
「・・・・なによ」
花南の視線に気付いたヒナギクは、彼女をジロリと睨む。それだけで同年代からは貫録があるように感じられるが、花南は大して動じず冷やかしを入れてきた。
「あんた、あの執事に惚れてるんでしょ?」 「な!!!」
途端に紅くなっていたヒナギクの顔がさらに真っ赤に染まった。
「な、な、何言っているのよ!!」
狼狽するヒナギク。そこにいつもの凛とした態度はなかった。
「わ、私は白皇の生徒会長なのよ!そんなふしだらなことが許されるわけないじゃない!」
必死な形相で言い訳をする。
「それに、ハヤテ君には、別に好きな人がいるもの」 「えっ、本当!?」
佳幸や達郎は、純粋な好奇心から追及しようとする。
「ハヤテ君には十年もの間思い続けている人がいて、その人に伝えたいことをずっと抱え込んでいたのよ。私なんかが入り込む隙は・・・・」 「で?」
それまでヒナギクのことを茶化そうとしていた花南は、彼女の言い分を聞いている内にだんだんと虫唾が走り、苛立ちを含ませながら口を開く。
「それで、だからあんたはあの執事のことを諦めるってわけ?」
花南の挑発的な態度に、ヒナギクはむかついて食ってかかった。
「じゃあ、他に何しろっていうのよ」
花南は呆れたようで、大げさのように溜息をついた。
「生徒会長とか偉そうなこと言うけど、威勢がいいのは口だけね」 「なんですって!」
ヒナギクは今にも木刀・正宗を叩き込むような勢いで花南に詰め寄る。対する花南も鋭い目つきで睨み返し、両者は激しく火花を散らしていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.56 ) |
- 日時: 2010/03/30 21:19
- 名前: RIDE
- 短いですが、更新します。
2 「ケンカはやめなよ!」
一触即発な二人の間に、仲裁として佳幸が割って入った。仕方なく二人は眼をつけるのを止め、お互いそっぽを向いた。
「あいつ自身が悩んでいることに悩んでどうするんだ?」
優馬の言葉に全員首を傾げてしまう。彼は再び、今度は噛み砕いて言った。
「つまり、あいつの悩みを共有するならともかく、あいつが苦悩する姿に心配してもしょうがないんじゃないのか?」
これもいまいちわかりにくく、達郎やエイジにはさっぱりだったが、ヒナギクには理解できていた。
「ハヤテ君と一緒に同じ悩みを抱えて、一緒に考えなきゃいけないってことね」
人の悩んでいる姿を見るのではなく、人の悩みに触れ、それを理解し、それに対して自分はどうしたらいいのか、例え答えは出なくても考えることが心配することではないのかと優馬は言いたいのだ。
「優馬さんの言うとおりですね」
佳幸は強く頷く。
「これから戦うあの雷矢という男の人に対して、綾崎さんを後押しすることぐらいしかできないかもしれませんけど、それでも苦しみを分かち合うことであの人の助けにはなると思います」 「そうね・・・・」
ヒナギクは優馬に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます土井さん。私が何をすべきなのかはっきりしました」 「別に、どうということはない」
照れたように顔を背けた優馬は、そのまま逃げるように去って行った。
「行っちゃった」
佳幸たち八闘士は苦笑した。その理由がわからず、ヒナギクは恐る恐る聞いてみた。
「私、何か悪いことした?」
すると、拓実が苦笑したまま答えてくれた。
「いいや。ただ、優馬さんは苦手というか・・・・」 「苦手?」
しかし拓実はこれ以上は話してくれなかった。
「じゃ、僕もこれで」
そして、彼は帰途へついてしまった。
「さあ、帰ろう」
佳幸、達郎、エイジの三人も三千院家の敷地を後にしようとした。
「待て」
そんな三人を氷狩が呼びとめた。
「せっかく会ったんだ。バスケの2ON2でもしないか?」
それを聞いた途端、エイジたちは踵を返してきた。
「いいですね氷狩さん!やりましょう!」 「久しぶりに四人でやるのもいいね」 「ああ、行こうぜ!」
バスケが趣味の四人は氷狩を先頭にして駆け出していった。
「まったく、あの男どもは・・・・」
呆れかえった花南は、ついヒナギクと顔を合わせてしまった。二人はすぐ、頬を膨らませて顔を背け、そのまま別々に帰っていった。
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Re: 新世界への神話 ( No.57 ) |
- 日時: 2010/04/09 20:54
- 名前: RIDE
- 短いですが、更新します。
今日から少しずつ、過去の記事を読みやすいように修正していきます。
3 そして翌日。
「今日も大変だったわ」
放課後、生徒会の仕事を終わらせたヒナギクは帰途の途中であった。
結局ハヤテとは顔を合わせずじまいであった。同じクラスであるため彼が登校してきたことは確認できたのだが、話す機会は得られなかった。ハヤテは兄のことで悩んでいる様子はなかったが、無理をしているようにも見受けられた。昨日、優馬からの言葉によって雷矢のことで気に病んでいるであろうハヤテの心を支えてやろうと意気込んでいただけに、ヒナギクはかなり落ち込んでいた。
昨日といえばもうひとつ、思い起こすことがあった。
それは花南にぶつけられた言葉だ。あれだけ聞くと、まるで自分が臆病者のように扱われている感じがして、なんとなく腹が立ってくる。
「こっちの気も知らないで・・・・」
遠慮なく好き勝手に侮蔑する彼女を、ヒナギクは好きになれないと思った。
「あれ?」
物思いにふけていると、ヒナギクは前方にある人物を発見する。
「ハヤテ君?」
まさにそれは、ヒナギクが今日会おうとして、声をかけることができなかった少年であった。ハヤテは周囲が目に入っていない、思いつめた表情で歩いていた。
そのためまたも声をかけづらくなってしまったが、なんとなく気が気でならなくなったヒナギクはこっそり後を追うのであった。
上の空のハヤテは、負け犬公園まで歩いていた。
「気持ちの整理がつきたいってお嬢様に言ったけど・・・・・」
とてもじゃないが、気持ちが晴れそうにない。それでも、ナギのために戦うということだけに関しては迷いはない。だが・・・・。
「どうして兄さんと戦わなければいけないんだ・・・・?」
途方に暮れるハヤテ。
「綾崎ハヤテだな」
そこへ突如、奇妙な声が聞こえてきたと思った瞬間、ハヤテは攻撃を受けてしまう。
「な、なんだ?」
咄嗟に身を構えるハヤテは、自分のシルフィリングが凍り付いていることに驚いて目を見開かせる。
「今のは、凍気による攻撃なのか・・・・?」
リングを狙って凍結させているということは、相手が精霊の使者であることを証明している。
「フフフ・・・・」
そう考えていると、この場に怪しげな笑い声が響いてきた。
「あなたは、陰鬱の使者なんですか?」
返答はない。しかし、自分に対する敵意だけははっきりと感じているので、ハヤテはシルフィードに声がした方向へ攻撃させるが、リングが凍結しているのでハヤテの心の力はうまく伝わらず、結局は解放形態での生半可な攻撃となってしまった。
「フッ、この程度か」
相手のものと思われる精霊がシルフィードの攻撃をはじいた。凍気が辺り一面を立ちこませるほどの霧を生じさせているため姿はよく見えないが、輪郭はぼんやりと浮かんでいた。
「あ、あれは・・・・」
衝撃を受けているハヤテとシルフィードに向けて、相手の精霊は凍気を放った。黒い雪を生じさせたそれはシルフィードを凍りつかせ、ハヤテを転倒させた。
「フ、フリージングスノウズ・・・・?」
倒れているハヤテは信じられない思いでいた。今の相手の攻撃は、ハヤテの知っている精霊の必殺技に似ていたからだ。
相手の精霊がこちらに近づいてくる。ハヤテはその精霊の人型形態をはっきりと見ることができた。
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Re: 新世界への神話 ( No.58 ) |
- 日時: 2010/05/01 21:28
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 「や、やっぱりグルスイーグ・・・・」
そう。相手の精霊は氷狩のグルスイーグに似ていたのだ。唯一つ、体色が黒いことを除けば。
「黒いグルスイーグ・・・・。それじゃあ・・・・」
そこへ、黒いグルスイーグの後ろからその使者がやってきた。その者はハヤテの予想どおり、陰鬱の使者であった。彼はズカズカと倒れているハヤテに歩み寄り、その体を足蹴にした。
「雷矢様の弟だと聞いていたから、どれだけ骨のある奴かと思ったら、雷矢様とは似ても似つかぬ弱々しい奴だ」
陰鬱の使者はハヤテの身を掴み起こした。
「聞け、綾崎ハヤテ。もうおまえたち兄弟の絆は存在することはない」
男は、冷酷な笑みを浮べて言った。
「だから心置きなく、貴様を討つことができる」
陰鬱の使者がハヤテに手をかけようとしたその時だった。
「正宗!」
手に木刀・正宗を持ったヒナギクが人型形態のヴァルキリオンと共に跳び上がり、二人の間に割って入った。反射的に陰鬱の使者はハヤテを放し、後退して離れた。
「ヒ、ヒナギクさん・・・・」 「ハヤテ君はやらせないわ!」
ヒナギクとヴァルキリオンは陰鬱の使者と黒いグルスイーグに対峙する。
「甘いな」
黒いグルスイーグは今度はヴァルキリオンに向けて凍気を放った。ヴァルキリオンは全身を黒い雪に包まれて、そのまま氷像となってしまった。
「ヒナギクさん・・・・逃げてください・・・・」
戦況を不利と見たハヤテは、ヒナギクに自分を残して逃げるように促すが、彼女はそれをきっぱりと断った。
「イヤよ。ハヤテ君を置いていくことなんてできないわ」 「でも・・・・」 「安心しろ」
二人が言い合っているうちに、陰鬱の使者と黒いグルスイーグは退路を塞いでいた。
「二人仲良くあの世へ行かせてやる。陰鬱の精霊の恐ろしさを肝に銘じながらな!」
黒いグルスイーグがハヤテとヒナギクにとどめを刺そうとした。
その寸前、横から何者かが攻撃し、黒いグルスイーグは飛び退いてかわした。
「な、なんだ・・・・?」 「本物が来たということだ」
そこに現れたのは、真のグルスイーグと氷狩であった。
「あんたの言うとおり、ここに敵がいましたね」
氷狩はそう言って、後ろにいるダイを振り返った。
「俺のカンはよく当たるんだ」 「論理的じゃないですけど、あんただと何故か信用できる気がしてきます。それにしても・・・・」
氷狩は、黒いグルスイーグと陰鬱の使者に向き直った。
「陰鬱の精霊に、このグルスイーグと同じネガティブグルスイーグが存在すると聞いたことがあるが、それがおまえか」
グルスイーグの登場によって、周囲に散っていた黒い雪が白い雪へと変わっていく。それを見た陰鬱の使者は不敵に笑った。
「おもしろい。青銅か陰鬱、どちらが強いグルスイーグか決着をつけたいと願っていたところだ。ここではっきりとさせてやろう!」
二体のグルスイーグが睨みあう。お互い瓜二つな姿形であるが、それぞれ青銅と黒い陰鬱の精霊というはっきりとした違いがあった。
「受けてみろ!ダークフロストの恐怖を!」
ネガティブグルスイーグは黒い雪を生じさせる必殺技を真っ先に放った。黒い霧に包まれたグルスイーグは暗闇に目を奪われ、身に付いた霧による水滴が氷結し、完全に凍りつく時には、ヴァルキリオン同様の黒いグルスイーグの氷像が出来上がっていた。
「このネガティブグルスイーグの必殺技は、暗闇と霧氷二つの恐怖をもたらすのだ。これにかかれば、例え炎でも凍りつくであろう」
勝利を確信する陰鬱の使者。だがそれもすぐに打ち破られる。
グルスイーグの氷像に亀裂が入っていく。それを陰鬱の使者だけでなく、ハヤテとヒナギクも驚きをもって見ていた。
「ネガティブグルスイーグはこの程度の凍気しか放てないのか?」
グルスイーグの身からぽろぽろと氷の破片が零れ落ちる中で、氷狩は何事もなかったかのように言った。
「炎を凍りつかせることはできても、このグルスイーグを凍らせることはできないようだな」
ダークフロストによる凍気は、グルスイーグの全身を覆っている氷のヴェールを侵食しただけで、グルスイーグを凍らせるには至らなかったのだ。
完全に氷が身から落ちたグルスイーグに対し、ネガティブグルスイーグは身構えた。
「今度はこちらの番だ。真のグルスイーグの必殺技を見ろ!」
グルスイーグはフリージングスノウズをネガティブグルスイーグに向けて放った。ネガティブグルスイーグはグルスイーグの後ろへと跳んで回避したが、完全にはかわしきれず左足が凍りついてしまった。
「終わりだな」
膝をつくネガティブグルスイーグを見て、氷狩は言いたてた。
「それではもはや次の攻撃はかわしきれん」 「うう・・・・」
悔しそうに呻く陰鬱の使者。しかしどうすることもできない。
「これで最後だ!」
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Re: 新世界への神話 ( No.59 ) |
- 日時: 2010/05/06 21:32
- 名前: RIDE
- 更新します
5 グルスイーグはフリージングスノウズでネガティブグルスイーグを仕留めようとした。
だが、突如として何かがグルスイーグの足元に飛来してきた。
「なに・・・・」
地に突き刺さったそれは黒い矢であった。自分の仲間の精霊が使うものと似ているものに、氷狩は目を見張らせる。
「フフフ・・・・」
笑い声が響くと同時に、人影が浮かんできた。
「遊びが過ぎるぞ、ネガティブグルスイーグ」
どうやら仲間の陰鬱の使者らしいが、ネガティブグルスイーグの使者は反発を示した。
「余計な手出しをするな!」 「そうはいかん」
また、人影が出現してきた。今度は複数現れ、合計四人の影を氷狩たちは呆然と見渡していた。
「雷矢様がお待ちかねだ。これ以上待たせることは許されん」 「むう・・・・」
雷矢の名を出されては、さすがに逆らうことはできなかった。
「仕方ない、勝負は改めてつけよう。それまで命は預けとくぞ」
ネガティブグルスイーグとその使者も影となり、六つの人影はこの場から消えていった。気配さえも感じられなくなった後、ダイは緊張を解いて氷狩に話しかけた。
「桐生、奴の手ごたえはどう?」 「油断はできませんね」
氷狩はグルスイーグを指した。グルスイーグの左腕には微かに攻撃された跡があった。おそらくネガティブグルスイーグがフリージングスノウズを避ける際につけたものだろう。ダメージは小さいとはいえ知らぬ間に攻撃されていたことに氷狩は少し下を巻いていた。
「だが、それほど強敵というわけでもないですけどね」
一方、ハヤテとヒナギクの間には無言の空気が漂っていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.60 ) |
- 日時: 2010/05/10 18:04
- 名前: RIDE
- 更新します
少し長いかもしれません
6 「ハヤテ君・・・・」
なんとかそれを打開しようと、ヒナギクが気遣わしげに声をかけようとするが、それをハヤテが遮った。
「なんで・・・・」 「え?」 「なんで逃げなかったんですか!?」
普段のハヤテとは違い、苛立ちをぶつけるような調子でどなる。その迫力に、ヒナギクは思わず身を竦ませてしまう。
「この場にい続けていたら間違いなく死んでいたんですよ!なのになんで僕を置いていかなかったんですか!?」 「けど私は、ハヤテ君が心配で・・・・」 「それも、生徒会長として義務だって言うんでしょう!?」
それを聞いたヒナギクは、ひどく傷ついた。自分がここにいるのは、ただハヤテのことを思ってのことである。それを、自分の不本意ではない、仕事だから仕方ないというように言われ、余計なことだと切り捨てられ。普段のヒナギクなら負けず嫌いな性格から言い返しただろうが、真剣にハヤテのことを考えていただけに、それができないほどショックは大きかった。
「わ、私はただ、本当にハヤテ君のことが心配だったんだよ。生徒会長とかそんなの関係ない。ただあなたのことを心配していただけなのに・・・・」
人前では決して弱みを見せないヒナギクは、完全に余裕を失っており、細々と零してしまう。
と、それまで二人のことを見守っていたダイは、まっすぐにハヤテの元へと歩き出した。そして、近くに落ちていた氷の欠片を拾い、それをハヤテの頭に思い切り叩きつけた。
「えっ!?」
殴られたハヤテだけではなく、ヒナギクも氷狩も遠慮のない一撃に唖然としてしまう。
「氷で殴られたんだ。これで頭の方も冷えただろう」
そういう理屈ではないのだが、それを突っ込める空気ではない。
「よく見てみな、桂の顔を」
言われたとおり顔を見上げたハヤテは、ヒナギクが切なそうな表情をし、それが真摯なものであるということにやっと気がついた。
「桂をこんな顔にしたのは、おまえなんだぞ」
ダイはハヤテに厳しい言葉を投げかけた。
「おまえは兄貴のことにとらわれるあまり、周囲が見えていなかったんだ」
ハヤテは図星を刺され、ピクッと身を震わす。
「それは今に限ってのことじゃない。おまえはいつも借金があるからとか運がないからとかで自分を過小している。だから、相手が抱いているおまえに対する気持ちがわからなくて、勝手に自分の中で完結しているんだ」
ダイは俯いているハヤテを掴み、乱暴に自分の方へと向けさせる。
「自分の殻に閉じこもっているから、相手のことがわからない。つもりおまえは、自分のことしか考えられない、執事として、増しては人間としても最低だということだ!」
そして、ハヤテの身体を地に叩きつけるように投げ捨てた。
「そんなおまえが、一人前のような口をきく資格はない!」
ハヤテは痛みを感じていた。投げられたことによる体の痛みではなく、心の痛みだ。ダイの言葉の全てが染み渡っていた。
彼の言うとおりであった。自分は周囲の人たちとは違う。ろくでもない両親のもとで育ち、大切な人を傷つけ、誘拐を企んだという罪を犯した人間なんだと。そう言い聞かせ、温情をかけられるべきではないと自分ひとりで頑張ろうとした。ナギの執事となってからでもそういった心境でいて、金持ちの人たちと自分は違うものだと自分勝手にそう決め込んでいた。だがそれは、相手を見くびっているということをハヤテは理解する。
幼いころからの思い出の少女、天王洲アテネに対しても、自分が力をつけたと思いこんでは調子に乗って、うまくいかなかったからというだけで相手につらく当たり、相手の心中は何なのか再会するまでわからなかった。それらもすべて、自分の思い上がりによる事であったのだ。
自分がとても卑しい存在に見えたハヤテは苦しみ、泣きそうな表情で自らの体を抱きしめた。
「高杉君、言い過ぎよ!」
ヒナギクはそれまで黙っていたが、さすがにダイの言葉は酷だと感じ、ハヤテを擁護しよ うとした。ダイはそんな彼女にそっと囁いた。
「おまえもいつまで自分の気持ちを抱え込んだままにしてんだ?腹の中にためこんだままに しておくから余計に悩むんだろ」 「なっ・・・・!」
なんでそんなことをとか、今は関係ないこととか言おうとしたが、反論を許さないようなダイの眼差しの圧力に負けたヒナギクは口を閉ざした。
「あの五人の陰鬱の使者たちは、雷矢に召集されたと言っていた」
彼らから離れたところで様子を眺めていた氷狩が二人に話しかけてきた。
「奴らの実力を見る限り、陰鬱の中でも最強クラスだろう。雷矢は戦闘態勢を完璧に整えたというわけだ」 「だから、おまえたちにも協力してもらうぞ。戦いまでは、そう時間もないだろうからな」
沈んでいるハヤテとヒナギクにそう告げるダイ。一般的にみれば過酷なようで、そこまでの仕打ちを行う必要があるのかとも思われるが、ダイはこれでよいと思っていた。これは単なる説教のためではない。あの雷矢と戦うには、より一層強い心でなければ勝てないどころか、二人では死んでしまうかもしれないという恐れがあった。
二人にとってはここからが試練であった。乗り越えられるかどうかはわからないが、あとは自分たち次第だということで、ダイは氷狩を促し、暗く落ち込んでいるハヤテとヒナギクを残してこの場から去って行った。
二人、とくに絶望に打ちひしがれたハヤテは意気消沈としてしまっていた。何をすべきなのか、これからどうするか行動さえ思い浮かばず、しばらくはただそこでじっと動かずに留まっていたのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.61 ) |
- 日時: 2010/05/11 20:00
- 名前: RIDE
- 更新します
19話ラストです
7 どことも知れぬ巨大な峡谷。
そこをすべて一望できる崖に、雷矢はいた。
「雷矢様!」
そんな彼の後ろに、先ほどハヤテたちの前に現れた陰鬱の使者たち五人が、敬意をもって跪いた。
「ネガティブグルスイーグ」 「ネガティブアイアール」 「ネガティブムーブラン」 「ネガティブコーロボンブ」 「ネガティブワイステイン。以上五名、ただ今戻りました!」
雷矢は振り返り、自分の配下の中で最も実力のある使者たちを見下ろした。
「おまえたちに使命を与えるが、言わなくともわかっているな」
申されなくともと、五人の中でリーダー格であるネガティブワイステインの使者が代表して答えた。
「八闘士ら青銅の使者を倒し、黄金リングを奪えばいいのですね」 「そうだ。近いうちに奴らに挑戦状を送りつける。黄金リングを持って俺たちのもとへ来いとな」 「しかし、持ってくるのでしょうか?」
ネガティブコーロボンブの使者が質問してきた。敵がこちらの言い分に従うかどうか疑っているのだ。
「心配ない。こちらには黄金の勾玉に加え、人質までいるのだ。素直に来てもらわなければ、どうなってしまうかと脅せばいいだけだ」
そのために雷矢は、マリアをさらったのだ。
「黄金の勾玉はこの雷矢の手中にある。確認するが、おまえたちの使命はなんだ?」 「わかっております、雷矢様」
ネガティブムーブランの使者は不敵に笑った。
「我ら五人、必ずや青銅の使者たちから黄金リングを奪うことで、雷矢様のご期待にお応え します」
確認をとった雷矢は黙って頷いた。
あとは三千院家と、それにかかわる者たちを打ち倒すだけだ。雷矢はその時を待ち構えるのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.62 ) |
- 日時: 2010/05/18 19:59
- 名前: RIDE
- 更新します。
今回から第20話の始まりです
第20話 伝説の秘境
1 とある道場で、塁は瞑想していた。
この道場は塁の職場である料亭の敷地内に建てられた小さな武術の道場で、料亭の従業員は皆、ここで武術を極める義務があるのだ。この道場はその自信を鍛えるため場所として建てられたのだ。
精神を集中させていた塁は、こちらに近づいてくる足音を聞き目を開けた。
入ってきたのは板長と、スピリアルウォーズで危篤状態だと聞かされていた老師であった。
「ホッホッホッ。心は静まったか?塁よ」
八十歳を超えている老人は、朗らかに笑った。どう見ても危篤になるとは思えない元気な様子である。
実は危篤というのは嘘で、塁の心を試すものであった。真実を知った時、塁は老師に対して怒りを覚えたが、何より老師の思惑通りに少なからず動揺してしまった自分の未熟さを痛感してしまった。だから塁はここで自分の心に活を入れなおしていたのだ。
「はい。十分に落ち着きました」 「そうか。その様子だとまた新たな戦いに赴くようじゃな」
先ほど、三千院家から連絡が入ってきた。陰鬱の精霊の使者たちからの挑戦状が送られてきたとのことだ。
一週間後、精霊界のダスク峡谷へ、黄金リングを持参して来いと。そしてもし現れなかった場合、人質の命はないとも記されていた。
間近に迫った陰鬱の使者たちとの戦いに備えて、塁は自分のテンションを高め、維持しようとしている。
「ええ。申し訳ありませんが、来週にまた呼ばれる用事が出来ましたので、空けてもらえないでしょうか」 「ふむ・・・・」
老師は、塁に対して目を光らせる。
「板長、組み手の相手をしてやれ」
それは、許可を出したということを意味していた。
頷いた板長は、塁の前まで歩いて行った。塁も立ち上がって構えをとる。
二人はそのまま組み手を始めた。
伝助は自分たちのリングを修復させるために精霊界の秘境にいる。ならば自分は彼が持ってきてくれるその直ったリングに値する使者でならなくてはならない。そうやって塁は自分を鍛えているのだ。
伝助は必ずリングの修復を頼んで、すぐにでも直ったリングを持って帰ってくる。
塁は、そう信じていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.63 ) |
- 日時: 2010/05/25 19:51
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 精霊界、イルミス山岳地帯。
「このあたりのはずだが・・・・」 伝助はこの地を彷徨っていた。リングの修復ができる人物はここにいると言われている。しかし、歩いても歩いても手がかりすら見当たらない。
「もっと奥深く行かなければ・・・・」
そう思い、再び険しい山道を登りはじめた。歩を進めるうちに、伝助は樹が生い茂る森を抜け、岩場へとたどり着いた。
「あ、あれは・・・・」
そこで伝助は、目の前に小さな小屋を発見した。あそこにリングを修復できる人物がいるのかと思い、その小屋へと足を向ける。
「誰だい?」
その途中声をかけられ、伝助はその方向を向く。そこには、金髪の少年がいた。
伝助はその少年に尋ねてみた。
「この山に精霊の使者のリングを修復できる人物がいるって聞いたのですが・・・・もしかして、君のこと?」 「じゃあ、リングの修復を頼みに来たんだね」
それを聞いた少年は何かを考え込んでいる様子を見せた後、笑顔でこう言った。
「今忙しくてね、リングの修復に手が着けられないんだ。だから、手伝ってくれないかな?」 「手伝うって・・・・」
何をさせるかわからない伝助は思わず身構えてしまう。
「そう硬くならないで。ただの野草摘みだよ」
少年は、伝助にとある方向を指す。
「こっちだよ。ついてきて」
そう言って歩き出す少年。伝助もあとを追いかけた。
道中、伝助は少年に尋ねた。
「君のような子供がリングの修復ができるとは、驚きましたよ」 「違うよ、僕にリングの修復ができる技術はないよ」 「え?」
少年がリングの修復ができる人物だと思っていた伝助は目を丸くした。
「僕はミハエル。エーリッヒの下で修行を受けている見習いの使者さ」
そんな伝助に、少年ミハエルは自己紹介をする。
「それで、僕の師でもあるエーリッヒこそが、君の探しているリングの修復ができる人物さ。そのエーリッヒは今、先に野草摘みに行っているんだ」 「なるほど」
伝助は理解した。リングの修復を頼みたければまずはエーリッヒたちの仕事を終わらせなければならないということだ。
会話をしているうちに、二人は野原へと着いた。そしてそこには一人の先客がいた。
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Re: 新世界への神話 ( No.64 ) |
- 日時: 2010/06/07 19:19
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 「遅いですよ、ミハエル」
褐色の肌に銀髪をもつこの男性は、自分より遅れてミハエルを咎めた。
「ごめんよ、エーリッヒ」
ミハエルと交わすやり取りをみて、この男がエーリッヒだと察した。
「あなたがエーリッヒ・・・・」
そこでエーリッヒは、伝助の存在に気付いた。
「そうですが、私に何か用でしょうか?」 「あなたを尋ねる使者の目的はひとつに限られます。ですが、野草摘みを終わらせなければそれができないとミハエル君から聞いたので、お手伝いにきたのです」
エーリッヒは伝助をしばらく見ていた。
「人手が増えて、嬉しいですよ」
そう言って、エーリッヒは作業に取り掛かった。伝助とミハエルもそれにならった。
汗を流しながら野草を摘む三人。手を動かしながらミハエルは伝助に喋った。
「ねえ、なんでリングの修復が必要なの?」 「陰鬱の精霊の使者との戦いが控えているのです。だから、一刻も早く修復させてもらいたい。どうしてもリングが必要ですから」
伝助も、手を休めることなく答えた。
「その陰鬱の使者は、どうするの?」 「戦うからには、倒すしかないでしょう」
それを聞いたエーリッヒは厳しい視線を伝助に送った。が、それに気付かない伝助が続けた言葉に、それは和らいだ。
「霊神宮へと送って、使者としての心を取り戻して欲しいですからね」
ミハエルはきょとんとしながら聞いた。
「相手を殺して終わりにする、でもいいんじゃない?」 「確実な方法はそれですが、それじゃあ使者になった意味がないじゃないですか。心を救う使者となった意味が」
それを聞いたエーリッヒは、微かに口の端を吊り上げた。
三人は着々と作業を進め、摘み上げた野草は山となっていた。
「今日はここまでです」
エーリッヒが仕事の終了を告げた。
「あなたのおかげで早く済みました。ありがとうございます」 「いえ、そんな」
礼を言うエーリッヒに会釈を返す伝助。
その時、突然強風が吹いた。
「ああっ!」
伝助は声を上げた。せっかく摘んだ野草が風に乗って次々と吹かれてしまう。
だが、エーリッヒがそちらに視線を向けただけで、野草はそれ自体が意思を持っているかのごとくもとのところへと収まっていった。
「な、なんだ・・・・?」
何が起こったのかわからず、伝助は困惑してしまう。
「超能力だよ」
そんな彼にミハエルが説明した。
「エーリッヒはサイコキネシスを使う精霊の使者でもあって、エーリッヒ自身もエスパーな んだ。だから、念力やテレポーテーションの類が容易く使えるんだ。僕も超能力者だけど、使者の力量同様まだまだエーリッヒには遠く及ばないのが現実さ」
そう言っている間にまた突風が吹いた。エーリッヒとミハエルは念力で野草を抑えるが、その後から続いた風は防ぎきれず、一部の野草が持って行かれる。
「ワイステイン!」
それを見た伝助が自分の精霊であるワイステインを呼び出す。ワイステインは突風よりも強い風を起こして、持って行かれそうになった野草を取り戻した。
「すごいね、その精霊」
ワイステインはもちろん、その力を自在に扱える伝助の使者としての力量に、ミハエルは感心した。
「どうも」
それに対して、伝助は余裕に返したのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.65 ) |
- 日時: 2010/06/15 20:06
- 名前: RIDE
- この展開にどうかと思いながらも
更新します。
4 小屋に戻った伝助、エーリッヒ、ミハエルの三人。
「さて、手伝ってくれたことですし、あなたの用件を聞きましょう」
エーリッヒは、伝助のほうを向いた。
「この二つのリングの修復をお願いしたいのです。理由は先ほど話したとおりのことです」
伝助は、半壊したイーグルリングとライガリングを取り出した。
「時間もないので、一刻も早くお願いします」
エーリッヒは二つのリングを受け取った。しばらくそれをいろいろと観察した後、思いがけないことを口にした。
「残念ですが、この二つのリングの修復は無理です」 「な、なんですって?」
呆気にとられる伝助に向けて、エーリッヒは宣告した。
「この二つのリングは既に死んでいます。死んだものを甦らせることはだれにもできません」
イーグルリングとライガリングが死んでいる。
そう聞かされても、伝助には意味がわからなかった。そんな彼に、エーリッヒは説明した。
「リングにも、魂というものが宿っているのです。そのリングにこめられた魂まで砕かれてしまった場合、いかなることがあってもリングの力は失い、元には戻らないのです」
確かに、死人が生き返らないことを考えれば、リングに宿る魂が死んでしまえば、甦らせることはできないということは的を得ていた。
しかし、だからと言って伝助は引き下がるわけにはいかなかった。
「それでも、これから陰鬱の精霊の使者たちと戦うのに、どうしてもリングが必要なんです」
陰鬱の中でも最強の部類に入る使者たちや雷矢と戦うにあたって、リング無しでは命を落としてしまうことが目に見えている。戦うにはリングを着けて万全の状態で臨まなければならない。
「霊神宮でもその人がいない中で、リングを修復できるのはあなたしかいないのです。なんとかできませんか?」
それに、と伝助は付け加えた。
「僕には、方法がないとは思えないんです」
伝助は、自分の仮説を述べ始めた。
「リングの機能が完全に失われているのなら、これは使者としての証でもなくなってしまいます。ですが、僕はまだワイステインの使者でありますし、ワイステインも先ほど僕に従ってくれました。精霊がやられない限りは、リングは何とかなると思うのです」
熱意をもって訴える伝助に観念したのか、エーリッヒは希望を口にした。
「あなたの言うとおり、一つだけ方法がないわけではありません」
エーリッヒの視線は、真剣さを増していた。
「ですが、それによってあなたは死ぬことになるでしょう」 「死・・・・」 「ええ。それ以外に方法はありません」
嘘は言っていないと感じた伝助。
「どうします?あなた次第ですが・・・・」
伝助は考えた。このままリングがなければ、やはり自分と塁は負けてしまう。だが自分の命によってリングが修復されるのなら、塁だけでも勝てるはずと思った。
「何をすればいいんですか?」
スピリアルウォーズの一回戦第四試合を思い出す伝助。あの時、佳幸と塁は命を賭けて戦っていた。
今度は自分の番だと、彼は意を決した。
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Re: 新世界への神話 ( No.66 ) |
- 日時: 2010/06/22 19:51
- 名前: RIDE
- 更新します
5 「詳しく教えてください」
エーリッヒは、伝助の覚悟を汲むことにした。
「先ほど申し上げたとおり、失ったリングの魂は取り戻すことはできません。ですから、替わりとなる新しい魂をリングに吹き込んでやればいいのです」
どうあっても甦ることができないのなら、新しいものを用意すればよい。寿命の切れた電 球を取り換えるような簡単な話である。
「それには、あなたの思いをこめればいいんです。血と共にあなたの全身を駆け巡る思いを」
使者の思いを魂とする。
そう語るエーリッヒだが、ここで釘を刺す。
「リングに思いを込めるのはそう容易いことではありません。数に関係はありませんが、これは黄金の使者でしかできません。白銀の使者でさえやっとできること。青銅の使者であるあなたがどうがんばってもできないでしょう」
しかし、とエーリッヒはあるものを取り出した。それは、濁った色の液体が入ったガラス瓶であった。
「これを飲めばあなたでもそれが可能となります。ですが、あなたはその間酷い幻覚を見ることになるでしょう。並みの人間なら、それだけでショック死してしまうほどの」
リングの修復のために死ななければならないということがこの言葉でわかった。
正直、幻覚に対して恐れを抱いたのは事実だが、それでも伝助は臆することなくその液体を飲み干し、イーグルリングとライガリングを手に握った。
それから伝助は、幻覚を見せ付けられることとなる。
「ぐ・・・・ぐぁああ・・・・」
身を切りそうな表情と、耳を塞ぎたくなるような呻き声から、伝助の痛々しい様子がよくわかり、ミハエルでさえ目を背きたくなってしまう。
しかし伝助の変化にそれ以上のことは起こらない。発狂してもおかしくない中で、彼はただ耐えていた。
「ぐわぁぁぁっ!」
しばらくして、彼の両手が光り出し、それは二つのリングへと吸い込まれた。それと同時に伝助も気を失い、倒れこみそうになるが、そこはエーリッヒが支えた。
「自分のリングのみならず友のリングのために死をかけるとは・・・・」
エーリッヒは、気を失った伝助の顔を覗き込む。
「あなたは、友に対して誠実なのですね」
エーリッヒは、ミハエルのほうを向いた。
「ミハエル、道具を用意してください。私は、伝助を運びます」
命じられたミハエルは道具を取りに行くため、エーリッヒは伝助を安静な所へ安置しておくためそれぞれ小屋の中へと入る。
すぐに外へ戻る二人。エーリッヒはミハエルが持ってきた道具を受け取った。
「伝助の心に応えて、リングは見事に甦らせてみましょう」
そしてそのまま、作業に取り掛かった。
一週間後、精霊界ダスク峡谷。
巨大に切り立った崖の谷間は迷路となっている。複雑に入り組んでいて、足場の険しい道となっていた。
「恐らくここが陰鬱の使者たちのアジトなんだろうな」
まさに天然の要塞と呼ぶのにふさわしいこの峡谷を見上げて、黄金リングを持っているダイは呟いた。
「そうですね。ここら辺一帯は荒れ果てていて、人が全く寄り付かない地となっているようですから、うってつけですね」
彼の他にはジム、ジェット、ドリル、佳幸たち八闘士にハヤテとヒナギクの合わせて十三人が、ダイの後ろに控えていた。
「しかし、伝助は間に合わなかったようだな」
この一週間、伝助は帰ってくることはなかった。彼について何の報せも来ないまま、決戦の日を迎えてしまったのだ。
「仕方ねぇさ。伝さんの身に何か起こったんだ。俺はリング無しで戦う」 「だけど、それじゃあ危険すぎるよ」
勇み出る塁を拓実は何とか思い止ませようとしていた。
「ん・・・・?」
そんな時、ジェットはこちらに近づいてくる人影に気付いた。
「来たようだぞ」
彼が指した方向に全員振り向く。
「あ、あれは・・・・」
徐々に明らかになっていくその姿に、八闘士、とくに塁は顔を綻ばせた。
「伝さん!」
たまらず、塁は駆け出した。
「伝さん、無事だったんスね!もう待ちくたびれたっスよ!!」
だが、伝助は微笑んだかと思ったら、その姿は幻であるかのように消えていった。
「で、伝さん・・・・?」
残されたのは、ライガリングのみであった。
塁はそれを拾い上げた。完璧に修復されていて、まるで初めてこれを手にした時のようであった。
「伝さんは、魂となってこれを届けに来たのか・・・・?」
とりあえず腕に着けてみた。その装着感から断言した。
「間違いない。ライガリングは甦ったんだ!」
塁の戦闘準備は、完全に整ったのである。
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Re: 新世界への神話 ( No.67 ) |
- 日時: 2010/07/01 21:11
- 名前: RIDE
- 前回で20話は終わりました。
今日は簡単なキャラ紹介のみとします そして、しばらくは長期停滞としますので、すみません。
オリジナルキャラ紹介?
風間 伝助 (カザマ デンスケ)
年齢 25歳
特徴 眼鏡、猫舌
新学期、ハヤテたちのクラスの副任を受け持つこととなった、白皇学院の新任教師。また精霊である風のワイステインの使者で、その間では少々名高い八闘士の一人でもある。 眼鏡をかけているところから想像できるとおり、性格は至ってまじめ。堅物に見られがちだが、人付き合いは柔和な方で、頼りがいのある存在として慕われている。そのため八闘士の仲間内でも伝さんと呼ぶ者がいるなど、頼もしい大人の一人として存在している。
詳しいデータは希望があれば、載せることにします。
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Re: 新世界への神話 ( No.68 ) |
- 日時: 2010/08/25 19:30
- 名前: RIDE
- 久しぶりの更新です。
約一カ月ぶりのスタートは、第21話からです。
第21話 修復リングと黒炎の恐怖
1 修復されたライガリングをまじまじと見ている塁。
「しかし、誰がこのリングをここまで運んで来たんだ?」
そんな疑問を抱かずにはいられずにいた。
「まさか本当に、伝さんの魂によるものだとは思えないけど・・・・」
ワイステインが代わりに運んで来たのかとも思ったが、それなら姿を現すはずである。
一体誰が、と思っていると、ダイが歩き出して、空を掴んであげた。
「いい加減、姿を見せたらどうだ」
すると、ダイの掴む先に、金髪の少年が現れた。
「なんだ、こいつは?」
全員、ダイから放された少年に注目する。
「僕はミハエル。ライガリングを持って来たんだ」 「おまえが?」
塁はミハエルとライガリングを交互に見やった。
「うん。伝助って人が遅れてくるから、リングだけでも運んできてって頼まれたんだ」 「なに・・・・?」
伝助は皆のもとへと急いでいた。イーグルリングとライガリングは既にエーリッヒの手に よって完全に修復されていた。
「この分だと間に合いそうですね。ところで・・・・」
伝助は振り返った。後ろでは、何故かエーリッヒとミハエルが後を追っていた。
「なんでついて来るんですか?」 「そりゃ心配だもん。今日目覚めたばかりなんだから」
正直これから向かうところのことを考えればあんまり連れて行きたくない気もするのだが、ミハエルも、口を開いてはいないがエーリッヒもその気であろうことから、伝助は止めることはしなかった。
そんな彼らの前に、突如として立ち塞がるものたちが現れた。
それは象程の大きい体で、伝助たちを見つけると、唸り声を上げて威嚇しだす。
「魔物・・・・ですね」
魔物。異形の動物であるこの生き物が存在することは精霊界では珍しくはなかった。ただ し、それは一年前までの話である。
「何故今になって魔物が・・・・」
予想外の事態に、わずかだがさすがにエーリッヒも動揺する。
魔物たちは、伝助たちを足止めさせている。それを見て、伝助はミハエルたちの方を向く。
「お二人にお願いしますが、先に行ってこれを僕の仲間に渡してくれませんか?」
そう言って、塁のライガリングを差し出した。
「ミハエル、先に行って渡してきなさい。私は伝助と共にいますから」
エーリッヒがそう言ったので、ミハエルが一人で先を進むこととなった。
ライガリングを受け取り、ミハエルは前に進みだす。彼を狙おうとした魔物を、伝助のワイステインが打ち倒す。
始まった戦いを背にして、ミハエルは先へと急いだ。
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Re: 新世界への神話 ( No.69 ) |
- 日時: 2010/09/01 19:30
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 「そうか・・・・」
事情を知った塁はミハエルに礼を言った。
「ライガリングを持ってきてくれてありがとな」
塁は、目の前の断崖絶壁へと視線を向ける。
「ようし、伝さんの分まで戦ってやる!」
他の八闘士たちも頷き、複数存在している谷底の迷路への入り口へと足を踏み入れようとした。
「待て!」
そんな彼らを、ダイが制した。
「な、なんだよ、こんな時に」
いざっていう雰囲気に水を差された塁や達郎、エイジらは転びそうになった。
「全員では行かせない。まずは数人に中へ入ってもらい、残りは外で待機だ」
皆何故か反対意見を出すことなく、その言葉に従った。
「それじゃあ、突入するメンバーを決めるぞ」
ダイは全員の顔を見渡し、その中から選び抜いた。
「稲村、岩本弟、桐生、そして綾崎」
言いながら、ダイは彼らを指していく。
「以上この四人だ。そして黄金リングを預かるのは・・・・」
その黄金リングを、ダイは持たせるべき者に投げて渡した。
「綾崎、おまえだ」 「ぼ、僕ですか!?」
受け取ったハヤテは戸惑ってしまった。この中では未熟な使者な自分に任せていいのかと不安に思ってしまう。
「責任重大だからな。頼んだぞ」
だが、元々頼まれたら断りにくい性格の上、そこまで念を押されてしまってはハヤテはもう嫌とはいえなかった。
「・・・・わかりました」
じつはこれがダイの狙いだったりする。このプレッシャーを与えることで、少しでも兄である雷矢に対する気持ちを割り切ってもらいたいのだ。メンバー選考にしても、先日のことからまだ気まずいままであるハヤテとヒナギクは一緒にさせてはいけないとか、塁を選ばなくては彼のボルテージは収まりそうにないなど、いろいろ気を遣っていたのだ。
「よし、行こうぜ」
塁が呼びかけ、エイジ、氷狩、ハヤテの三人は頷いた。彼は真っ先に入口へと向かおうと したが、ふとこの場に残る佳幸たちの方を向いた。
「伝さんは必ずここに来てくれるはずだから、あの人のことを待っててくれよな」
そう言い残し、塁は谷底へと入っていく。彼にならって他の三人も、別々の入り口から中へと入っていった。
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Re: 新世界への神話 ( No.70 ) |
- 日時: 2010/09/04 19:24
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 谷底の迷路は、予想以上の難所であった。
底がとても深いため陽の光は届かず、まるで洞窟のようである。
道も穴や坂が存在していたり、途中で複数に分かれているなど、自分が今どの辺にいるのかわからないようになっていた。
「他のところから入ってったあいつらも、迷ってなきゃいいけどな」
坂を登りながら呟いた塁は、頂まで着いて息を呑んだ。
そこから先は拓かれた空間で、先ほどまで歩いてきた道に比べ、敵が襲ってきても戦えるぐらいに広かった。
そして、その場から出るためにいくつかある道の一つ。その前に陰鬱の使者が立ちはだかっていた。
「おまえが俺の相手か」
問いかける塁の横では、コーロボンブが人型形態へと変わっていた。
「そうだ。このネガティブコーロボンブによって、おまえは倒されるのだ」
相手の黒いコーロボンブも人型形態で、いつでも戦えるようにこちらを挑発していた。
「悪いが、倒されるわけにはいかねぇ」 「安心しろ、嫌でも倒されるさ」
ネガティブコーロボンブの身体から放電が起こり始めた。
「このショッキングサンダーの前にな!」
その電気が、コーロボンブに襲いかかった。
「スパーキングブリッツ!」
コーロボンブも必殺技を放ち、ネガティブコーロボンブの黒い電気エネルギーとぶつかり合う。
「ふっ、ネガティブコーロボンブの前ではそんな必殺技などすぐにかき消されるわ」
だがそんな陰鬱の使者の予想に反して、コーロボンブの電気エネルギーはどんどん黒い電気エネルギーを飲み込み、そして、ネガティブコーロボンブを攻撃した。
「すげぇ・・・・」
塁は呆然と自分の腕に着けたリングを見た。
「完璧に直っているだけじゃねぇ。前のリング以上に俺の心をコーロボンブに伝えることができてる」
だから、ネガティブコーロボンブの必殺技を押し返す程の力を発揮できたのだろう。
「このリングには、伝さんの思いが宿っているのかもしれないっスね」
その思いに応えるためにコーロボンブはとどめの必殺技を放った。
「サンダーボルトナックル!」
スピリアルウォーズの時以上の威力を持った一撃が、ネガティブコーロボンブをふっ飛ばした。
「あ、ああ・・・・」
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Re: 新世界への神話 ( No.71 ) |
- 日時: 2010/09/05 19:32
- 名前: RIDE
- 今日も更新します。
4 「終わりだな」
塁はネガティブコーロボンブの使者を追い詰める。
「どの道を行けば雷矢のもとに着けるのか、教えろ」
だがその問いに陰鬱の使者は答えなかった。
「通させはしない。おまえはここを永遠に彷徨うのだ」
そう言った時、深手を負ったネガティブコーロボンブが最後の力を振り絞って全方位に向けて攻撃を行った。自らを封印する引き換えに放ったそれは、周囲の壁を削り、このためにできた多数の巨大な岩が次々と落下してきた。
「おまえは一生、ここから出られないのだ」
その言葉を最後に、ネガティブコーロボンブの使者は岩に身体を押し潰された。パニックで慌てふためいたら彼のようになってしまうため、塁は冷静に周囲を見渡しながら岩を避けていく。
岩石の落下はすぐに止んだ。砂埃が舞う中で、塁はほっと息をついた。
「助かった・・・・ああ!」
だが、晴れてきた視界の中で、塁は絶句した。ネガティブコーロボンブの後ろにあった先へと進める道が、全て岩によって塞がれってしまっていたのだ。
「あいつ、これを狙ってたのか」
岩は人の力では動かせないほど大きい。谷底なので上へと攀じ登っていけば出られるかもしれないが、周りの岩壁や道を塞ぐ岩は登りにくいものとなっている。当然、空を飛ぶこともできないので、上空へ出るのは不可能である。
「そうだ、戻りの道は・・・・」
もしかしたらと思って振り返ってみたが、ここまでの道のりもやはり閉ざされていた。塁は完全に閉じ込められてしまった。
「駄目か・・・・どうすりゃいいんだ・・・・」
途方に暮れる塁。自分はたった一人で朽ちていくのだろうか。そんなことを考えていると、あるところを発見する。
「おお、あれは!」
そこは、唯一塞がれていない道であった。他にあった道とは違い、ひっそりとしていたため、塁は今まで気づかなかったのである。
「ラッキー!」
迷うことなくそちらへ足を向ける塁。先へ進めるとは限らず、行き止まりかもしれないのだが、恐れを抱くことはなかった。あそこにいたままでは永久に出られない。だから塁は行 動した。
だが、しかし・・・・。
「この道で、大丈夫なのか?」
しばらくして、どれほど進んでも続く道に塁は不安を覚え、歩く速度を緩めてしまう。
その後も、彼はグルグルと迷うことになってしまうのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.72 ) |
- 日時: 2010/09/10 23:41
- 名前: RIDE
- 夜分遅くにすみませんが、更新します。
5 谷底の中を歩いていた雷矢は、大きな地滑りのような音が響いてくるのを聞き取っていた。
「始まったか」
敵が攻めてきたことを理解した雷矢。ならば黄金の勾玉を持って戦いに赴かなければならないのだが、その前にやりたいことがあった。
分かれ道に差し掛かる雷矢。その道の一つは、陰鬱の使者二人が誰も入らせないように遮っていた。
「通せ」
そう命じると、配下の二人はすんなりと空けてくれた。ためらうことなく雷矢は突き進む。
その先には大きな鉄の檻があり、中には捕らえられたマリアが閉じ込められていた。マリアは雷矢が近づいてくるのを感じると、彼を睨みつけた。
「安心しろ、おまえは囮にすぎん」
雷矢は、澄ました顔で言った。
「戦いが終わり、今後三千院家に関わらないと誓うのなら、命は助けてやる」 「何故そんなにまで三千院家に敵対するのですか?」
マリアはそれが気になってしょうがなかった。彼は何故こうまで自分たちのことを憎んでいるのだろうか。
「おまえに語る必要はない」
雷矢は答えなかったが、彼の目からその思いを汲みとったマリアは、瞬時に納得した。
「恨み、なんですね」
それを聞いた雷矢は、微かに眦を上げた。そんな彼に構うことなくマリアは続ける。
「どういったことかはわかりませんが、あなたは三千院家に苦しみを味わされられた。だか ら、三千院家を憎みその恨みを晴らそうとしているのですね・・・・」
無言を貫こうとしたら雷矢だが、口を開かずにはいられなくなった。
「ああ、そうだ!俺は三千院家の奴らが憎い!」
この男からは想像できない程の感情的に雷矢は言い放っていく。
「俺の両親にしたってそうだ!自分の欲のためだけに子供を地獄に送るような奴を、許せるわけがないだろう!!」
そこで雷矢は、マリアが自分を哀れみの目で見ていることに気付いた。思わず雷矢はたじろいでしまう。
「可哀相な人。あなたは苦しみが大きすぎて、相手を憎まずにはいられないのですね・・・・」
その口調から、本気で自分のことのように不憫だと思っていることがわかる。普段なら同情なんか切り捨てるのだが、今の雷矢にはそんな余裕はなかった。
「でも、あなたはそんな弱い人ではないはずです。目を覚ましてください」 「う、うるさいっ」
何とか反論しようとするのだが、何故かマリアの目を見ていると言葉を返すことができず、焦りばかりが募っていく。
「貴方の弟のハヤテ君はどんなに辛くても、決して弱音は吐きませんでした。そんな彼が尊敬しているのですから、貴方も強い人に違いありませんわ!」 「黙れっ!!」
とうとう苛立ちを抑えきれなくなった雷矢は、鉄の檻を力いっぱいに殴りつけた。脅えて身を竦ませたマリアは、それ以上何も言わなかった。
荒く息をつきながら雷矢は立ち去っていった。その内心では、取り乱してしまったことに自己嫌悪していたが、すぐに持ち直していた。
もう誰の言葉にも騙されない、自分の心のままに戦うのだと、憎しみを煮え滾らせるのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.73 ) |
- 日時: 2010/09/11 13:44
- 名前: RIDE
- 更新します。
21話ラストです。
6 別の入り口から入っていったエイジは、広大な場へとたどり着いていた。
「かなり広いな・・・・」
その先の道も、自分が歩いてきたところよりもかなり大きく、なんとなく感心してしまう。
「フフフ・・・・やっと来たか」
背後から笑い声が聞こえ、エイジは振り返った。
「青銅のムーブランが来てくれることを期待していたのだが、まあ、その弟で我慢してやるか」
自分の頭上にある岩場に、黒いムーブランとその陰鬱の使者が待ち構えていた。戦いの空気を感じ取り、ウェンドランは人型形態となる。
「ムーブランの偽物か」 「このネガティブムーブランが偽物かどうか、この必殺技を受ければはっきりするさ!」
使者と共に飛び降りたネガティブムーブランは黒い炎を宿らせた剣を構えた。
「黒龍斬り!」
その黒い炎が龍の頭を形取り、ネガティブムーブランが剣を振ると同時に龍の口から黒い炎の弾を放った。炎弾はウェンドランの腕や胴、脚に直撃し、そのすぐ後に全身を黒い炎が包み込んだ。
「岩本エイジとウェンドランはこの程度か」
物足りなさを感じるネガティブムーブランの使者。エイジが青銅のムーブランの使者である佳幸の弟だと聞いていたので、中々の実力者ではないかと思っていただけに、その落胆は大きい。
「この分だと、青銅のムーブランとおまえの兄貴も噂ほどではなさそうだな」 「どうかな」
勝ち誇るネガティブムーブランの使者に対し、エイジは不敵に笑う。その途端、ウェンドランは黒い炎を吹き飛ばした。その光景に、陰鬱の使者は目を見張らせる。
「なにぃ・・・・」 「兄貴とムーブランの炎はこんなもんじゃねぇぜ。守りたいものや相手を思う心もなければ、どう頑張ってもおまえたちは偽物だ」
ウェンドランは、銃を取り出した。
「そして、俺たちにも劣る!」
その銃は、両手持ちの大型ライフルへと変わり、ウェンドランはその銃口をネガティブムーブランに向けた。
「バスターモードファイブラスター!」
高熱の火炎が放射され、それを浴びたネガティブムーブランは封印されてしまった。
「このまま雷矢のところまで突き進んでやる」
自分の精霊がやられて呆然としていたネガティブムーブランの使者だったが、それを聞く と負けたにもかかわらず得意げになった。
「残念だが、雷矢様のところへなど辿り着けん」 「なに?」
無視して通り過ぎようとしたエイジは、その言葉が気になって足をとめた。
「な、なんだ一体・・・・?」
そして、段々と体温が上昇していくのが感じてくる。
訳がわからないエイジ。だが、腕や腹などウェンドランが黒龍斬りを受けた箇所と同じところが疼くように感じている。
「こ、これは・・・・?」 「それこそ黒龍斬りの、黒炎の恐怖だ・・・・」
先に必殺技を放っていたネガティブムーブラン。その黒い炎は、精霊を通り抜けて使者に直接攻撃するものであった。
「おまえもすぐに、俺と同じ運命をたどるのだ・・・・」
そう言って、ネガティブムーブランの使者は自決した。
エイジはそちらに気を取れる余裕はなかった。体温はどんどん上がっていき、あの黒炎に 燃やし尽くされるようであった。
「だ、だめだ・・・・気をしっかり持たないと・・・・」
エイジは足に力をこめた。精霊の攻撃によって使者が不調になることは、使者の心が揺らいでいるということだ。心をしっかりと持たなければ、左程問題ではない。 だが、エイジは段々と身体が重く感じられてきた。
「くっ・・・・」
遂には壁に寄りかかり、息を荒くさせる。
先へは、当分進めそうにはなかった。
「チャンスだ」
そして、物陰から今の戦いを眺めていた一人の陰鬱の使者が、ぐったりとしているエイジに狙いを定めたのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.74 ) |
- 日時: 2010/09/19 19:53
- 名前: RIDE
- 更新します。
第22話です。
第22話 追い風が吹く
1 佳幸たちは先にダスク峡谷の迷路に入っていったエイジたちの身を案じながら彼らの帰りを待っていた。
「遅いなあ・・・・」
達郎はぽつりと不安を零す。
「ねえ、いつまでここにいるの?」
ミハエルが問いかけてきた。
「それはこっちのセリフだぜ。帰らないのか?」 「だって、気になるじゃないか」
つんとして、そっぽを向くミハエル。
「それより、まだここにいる気?あの中に入らないの?」
ミハエルは入口を指す。
「入らないのって、聞かれてもなあ・・・・」
自分たちはダイの許可がなければエイジたちを追うことはできない。そんな必要はないのだが、彼の前だと自然とそんな風になってしまう。
そのダイは、何か考え込んでいるようだ。
「・・・・そうだな」
彼は、決断した。
「そろそろ、応援をよこすか」 「それじゃあ・・・・」
途端に皆の顔から不安が晴れる。じれったく待っていただけであったが、ようやくエイジたちの援軍に行けるからだ。
「ただし、最初の時と同じように、俺が選んだ奴しか行けないからな」
そう念を押して、皆の顔を見渡すダイ。
ちょうどその時、ようやくエーリッヒと伝助が姿を現した。
「伝さん!」
佳幸たちは伝助が来たことに顔を輝かせた。
そう言って微笑む伝助のもとへ、一同は安心して駆け寄った。
「伝さん、遅いッスよ!」 「あまり冷や冷やさせるな」
仲間たちは次々に喜びを露にする。
「よし、ここは風間先生に任せよう」
そんな彼らを見たダイは、伝助を援軍のメンバーに指名した。
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Re: 新世界への神話 ( No.75 ) |
- 日時: 2010/09/23 19:30
- 名前: RIDE
- 更新します。
2 「土井さんもついていってくれ。医者がいるならいざって言う時に応急処置ができるし、ユニアースがいれば迷うことなく先に入っていったあいつらに会えるだろうからな」
伝助の容態を一目見てわかったのか、最適な同伴者を連れて行くことにした。
伝助は見破られたのかとダイに視線で問い掛けた。それに気付いたのかダイは全員に向けてこう説明した。
「今の風間先生は、誰にも曲げられない意志をもっている」
確かに、例え誰にどう言われようが、自分は戦う。その気持ちを察して自分を名指ししたのだろう。
そこに、彼の心情がどのようなものかは知らないが
「他の奴らは悪いが、もう少しここで待機してくれ」
それを聞いて達郎は不満の声を上げるが、ジェットが警告のように刀の鍔を鳴らすと、それだけでおとなしくなった。
「では皆、行ってきますね」 「俺たちに任せて、安心してそこで待っていてくれ」
優馬と彼から事情を聞き、経緯を理解した伝助は迷路の中へと入ろうとする。
「伝助、よろしいのですか?」
そんな時、エーリッヒが呼びとめた。
「貴方の魂は極力消耗しています。途中で出会った魔物程度ならともかく、これからの戦いでは例えかすり傷でも負うことは許されません。血と共に流れている消耗しきった魂が外に出て、あなたの心は死ぬことになるのですから」
しかし、その忠告を受け入れた上で伝助は進む気であった。
「わかっています。ですが、僕は行きたいんです。僕にできることをやるだけですし」 「わかりました」
エーリッヒはそれから何も言わず、佳幸たちと一緒に伝助と優馬を見送った。
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Re: 新世界への神話 ( No.76 ) |
- 日時: 2010/09/25 19:32
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 ハヤテは、足場の悪い道を歩いていた。
「暗いから、足元に気をつけないと・・・・」
そんな彼は、突然足を止めてしまう。
「エイジ君!」
目の前に、壁に寄りかかってぐったりとしているエイジと遭遇したのだ。
「エイジ君、しっかりしてください!エイジ君!」 「・・・・やぁ、合流しましたね」
エイジはハヤテの呼びかけに弱々しく反応した。普段の元気一杯な姿からは創造できない程である。それだけのダメージを受けてしまったのだろう。
とにかくエイジを助けようとハヤテは彼に近づいた。彼の容態を確認しようとしたその時だった。彼の足元に黒い矢が突き刺さった。
「ちっ、邪魔が入ったか・・・・」
ハヤテは矢が飛んできた方向を見やった。そこには、黒いアイアールと、その陰鬱の使者がいた。
「まあ、この俺自らが手を下さなくてもそいつはやられる。ネガティブムーブランの黒炎を受けてしまったのだからな」
陰鬱の使者はハヤテを見下しながら言っていく。
「黒炎を受けた精霊の使者は、精神を燃やし尽くされる。肉体に異常はなくてもな。その様子だと、もってあと一二時間といったところだな」 「な・・・・」
敵の宣告に、ハヤテは愕然としてしまう。
「さあ、救助が無駄だとわかった以上、このネガティブアイアールとの戦いに集中するしかないだろう」
ネガティブアイアールは、黒い矢を弓に番えた。
「黒い矢を受けて倒れるがいい!」
その矢がシルフィードに向かって放たれた。
「シルフィード!」
シルフィードは人型形態となり、その矢をかわす。
ネガティブアイアールは連続して矢を放つが、シルフィードはそれらをすべてかわしていく。しかしハヤテはエイジをかばおうとしているため、攻撃を実行できない。
「そんなことで俺たちを倒せるものか・・・・」
ネガティブアイアールは数本の矢をまとめて放った。シルフィードはかわすことができず、風の力でその矢を反らす。
「どうしてもそいつをかばおうというのか・・・・」
ネガティブアイアールの使者は、ハヤテの強情さに半ば感心してしまった。
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Re: 新世界への神話 ( No.77 ) |
- 日時: 2010/09/26 20:14
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 「こいつは想像以上にしぶとそうだな」
その時、仲間の陰鬱の使者が彼の背後から現れる。
「ネガティブワイステイン」
黒いワイステインの使者は、ハヤテを一瞥する。
「さすがは雷矢様の弟といったところだな。だが、このネガティブワイステインも戦いに加わったとなると、そうもいかない」
確かに、一体二の上エイジを守りながらの戦いとなると、精霊の使者になりたてのハヤテに勝機などないのは明らかである。
「ちょっと待ってください」
しかし、この場に近づいてくる人影が二つ。
「おまえはもう一人二人戦わなければならなくなったぜ」 「なに?」
やって来たのは優馬と、そして・・・・。
「風間先生!」
自分の担任が生きていたことに対する喜びを、ハヤテは露わにする。
「大分苦労したようですね、綾崎君」
伝助は何食わぬ顔で笑いかけた。
「後は僕たちに任せて、休んでいてください」 「折角ですけど、そうもいかないんです」
ハヤテは事情を説明した。
「エイジ君を早く助けなくては・・・・」 「ちょっと見せてくれ」
優馬とユニアースはエイジに近づいた。エイジは肩で息をしており、尋常ではないことがよくわかる。
ユニアースはエイジに自身の角を当てる。治癒能力のある角で回復させようというのだ。しかし・・・・
「・・・・すぐには回復しないな。こうなると、治療に専念しなければならないが・・・・」
ここは戦場で、しかも目の前には敵が二人もいる。悠長なことは言っていられない。
この場は、仲間たちに任せるしかなかった。
「伝助、病み上がりのおまえに頼むのは医者として失格かもしれんが、この執事の坊やと一緒に敵を倒してくれないか?」
伝助は、快く承諾した。
「心配はいりません。あなたがエイジ君を治療している間に、ことは済んでいるでしょう」 「果たしてそういくかな?」
ネガティブアイアールの使者はハヤテを、ネガティブワイステインの使者は伝助をそれぞれ睨んでいる。どうやら、一騎打ちを仕掛けているみたいだ。
「いきますよ!」
それならこちらも望むところと、伝助とハヤテは自分たちの相手と向かい合った。
ハヤテは、先程自分たちを苦しめていた相手と睨み合う。
「フフフ・・・・おまえはもう終わりだ」
ネガティブアイアールは矢の先をシルフィードに定めた。
「とどめ!」
その矢を放ったネガティブアイアール。しかし矢は、シルフィードの風の力によって打ち倒されてしまった。
「なっ!」 「エイジ君をかばっていた時とは違うよ」
攻撃ができるようになったハヤテは、不敵に笑った。
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Re: 新世界への神話 ( No.78 ) |
- 日時: 2010/09/29 19:59
- 名前: RIDE
- 更新します
5 「あんな死人同然の奴のために、無駄なことをする奴らだ」
一方、ネガティブワイステインは嘲笑を浮かべ、対する伝助はムキになることはなく、冷静に言い返した。
「助かる希望があるなら無駄でもせずにはいられない。それが仲間の絆というものだとは思いませんか?」 「知らんな・・・・」
ネガティブワイステインとその使者は、こちらに歩んできた。
そして、ネガティブワイステインは攻撃を仕掛けてきた。
「シュレッドウインド!」
ネガティブワイステインの翼から強風が吹いてきた。その風を受けると、ずたずたに相手の身を裂く必殺技である。
しかしワイステインは、さほど傷を受けた様子はなく、自身が起こした風をもってシュレッドウインドをかき消した。
「なんと!」 「生憎ですが、今のワイステインはそんな必殺技ではダメージを負いません」
伝助は相手の必殺技を消すほどの力を送れた自分のリングに目をやった。
「この修復されたリングのおかげで、僕の思いを力に変えることができるのです。防御力は、あなたが思っているほど大きいですよ」 「ならば、そのリングをもってしても私たちにはかなわないことを教えてあげよう」 「できますかね、あなたに」 「フフフ・・・・」
妖しげに笑うネガティブワイステインの使者に、伝助は何かを感じた。
「ここまでやるとは、少々油断がすぎていたな」
ネガティブアイアールの使者は矢を破られても、ハヤテに対して余裕を崩さなかった。
「これは、あれを使うしかないな・・・・」
そう言って、懐からあるものを取り出した。
一方のネガティブワイステインも、同じ物を手にしていた。
「それは!」
ハヤテと伝助はそれを見て驚愕した。
陰鬱の使者たちが手にしているもの。それは、雷凰と刻まれた黒い勾玉、ネガティブライオーガの核であった。
「あ、あなたたちまでネガティブライオーガを持っているのですか!?」 「ネガティブライオーガは、陰鬱の使者全員に手渡されているのだ」 「で、ですが陰鬱の精霊は元となった精霊と一対ずつ表裏の関係です。ライオーガが一体のみですから、そんな多くの数は生まれないはずでは・・・・?」
闘技場で陰鬱の使者たちを目にしてから抱いてきた疑問であった。例えば伝助のワイステインのネガティブは目の前にいるネガティブワイステイン一体しか存在せず、同じ精霊は世界には生まれることはないだがライオーガは一体だけなのに対し、そのネガティブは多数存在している。
驚愕冷め遣らず、理解ができない伝助に、ネガティブワイステインの使者は勝ち誇ったようにその疑問に答えた。
「私たちが所持するネガティブライオーガは、雷矢様の憎しみから生まれたものだ」 「なっ、それだけであの数を!?」 「雷矢様の憎しみというのは、それだけ計り知れないほどの強さなのだ」
ハヤテは愕然とし、伝助は雷矢を説得できる可能性が全くないということを再認識した。
同時に、このままでは雷矢はネガティブライオーガを増殖させ、大規模な軍隊をも作ってしまうことも可能だと知る。そして、そこから行き着く先は世界の席巻なのか、それ以上のことを起こすつもりなのか・・・・。
いずれにしろ、雷矢を止めなくてはならないということを改めるハヤテと伝助。だがその前に、目の前の相手をどうにかしなければならない。
「いくぞ!」
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Re: 新世界への神話 ( No.79 ) |
- 日時: 2010/12/28 17:49
- 名前: RIDE
- 忘れられていると思いますが、更新します
6 二人の陰鬱の使者は、自分たちのネガティブリングに、ネガティブライオーガの勾玉を挿入した。
ネガティブアイアールとネガティブワイステインに、ネガティブライオーガの力が加わった。
ネガティブアイアールは再び数本の矢を弓につがわせ、放った。シルフィードが先ほどと同様に風で打ち倒そうとした時、その矢は解放形態のライオーガに似た鳳に変わった。
「な、矢が変わった!?」 「これがネガティブアイアールの隠し技、シャドウアローだ!」
一見すると矢に黒い鳳のエネルギーみたいなものを纏っているだけにしか見えないが、矢は本当に命を得たかのように、あらゆる方向に飛び回ってはシルフィードに突きかかる。
「黒い矢はネガティブライオーガの力により、黒いカラスとなった。相手がやられるまで攻撃を続けていくぞ」
カラスとなった矢は執拗にシルフィードを攻撃していた。
一方、ネガティブライオーガによってパワーを増したネガティブワイステインは、棒立ちのままでいた。
「どうぞ攻撃してくださいと言っているのですか?」 「そうだ」
伝助が挑発すると、意外にも相手の陰鬱の使者はそれを肯定した。
「なら、お言葉に甘えて!」
ワイステインはネガティブワイステインの胸に強烈な一撃を入れる。しかしネガティブワイステインにはその威力を受けているようには見えず、立ったまま微動だにしなかった。
「これがワイステインの力か・・・・?」
ネガティブワイステインの使者は、少し落胆の色を浮かべた。
「くっ!」
再び拳を振るうワイステインだが、その瞬間ネガティブワイステインは横についていた。
「どこを狙っている」
不敵に笑う陰鬱の使者。ネガティブワイステインは動き出すが、ワイステインはその速さ についていけない。
「今度はこちらがお見せしよう。ネガティブワイステインの実力を」
ネガティブワイステインは、右の拳を構えた。その拳に、ネガティブライオーガを象った エネルギーが集まる。
「スパイラルピーク!」
殴りかかるネガティブワイステインは、ワイステインに当てる直前拳をひねらせた。それによってワイステインの身は横に回転しながら大きくふっ飛ばされてしまった。
ネガティブライオーガの力が加わったことで、ネガティブワイステインの防御力、スピード、必殺技が増し、相手は手強くなったと伝助は思い知らされる。
「本来なら封印されるところだが、新たなリングのおかげといったところだな」
ネガティブワイステインの必殺技を受けても大した傷を負わせない程、修復されたワイステインに力を送って防御させた。
しかしそれでも、ネガティブワイステインの優勢には変わりない。
「もう一発だ!」
再びスパイラルピークによって飛ばされるワイステイン。シャドウアローによって苦しめられているシルフィードのもとへ転がっていく。
「風間先生!」 「綾崎君。そちらも苦戦しているようですね・・・・」
ハヤテと伝助は隣り合う。一方、ネガティブワイステインの使者もネガティブアイアールの使者に並ぶ。
「順調だな」 「ああ。しかし貴様、ワイステインまでこちらに近づけるとは・・・・」
ネガティブアイアールは、矢をワイステインに向ける。
「奴もネガティブアイアールが仕留めてもよい、ということかな?」 「好きにしろ」
ワイステインと伝助が相手にはならないのは、先程の激突でわかったことだ。自らが手を下すまでもない。
了承が出たところで、ネガティブアイアールはワイステインにシャドウアローを放つ。
陰鬱の使者二人は、勝利を確信していた。
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Re: 新世界への神話 ( No.80 ) |
- 日時: 2011/01/06 19:23
- 名前: RIDE
- 更新します。
7 シルフィードとワイステインは、シャドウアローに苦しめられている。
「フフフ・・・・もうそろそろだな」
陰鬱の使者二人は、黒い鳳が敵を貫くところを待ちわびていた。 しかし、窮地に立たされた状況の中伝助とハヤテはまだ強気であった。二人はひそひそと会話している。
「綾崎君、黒い鳳の攻撃パターンは?」 「全て見切らせてもらいました」
それを聞き、二人は強く頷く。
「いきますよ!」 「はい!」
ワイステインはウイングトルネードを放つ。同時にシルフィードも突風を起こした。
互いに風の力をもつ精霊同士、力を合わせた強力な風により、黒い鳳は次々と打ち倒されてしまった。
「バカな!」
愕然とする陰鬱の使者たちに、ハヤテと伝助が静かに語った。
「残念ですが、僕は何が何でも兄さんを止めるという目的があるんです。だから、ここで立ち止まっているわけにはいかないんだ!」 「そして、僕たちはそのために手を結びあえる。それは僕たちが持つ、絆がそうさせるのです!」
二人は、特にネガティブワイステインが衝撃を受けた。
「そ、そんなものは所詮馴れ合いだ!」
ネガティブアイアールは矢を弓に番える。それを見て、ワイステインは拳を構えた。
「綾崎君!シルフィードをワイステインの拳の上に!」 「は、はい!」
シルフィードが構えた拳に乗る。その間にネガティブアイアールがシャドウアローを放つが、それに続くようにこちらも力を合わせた必殺技を放った。
「鳥獣滑空拳!」
シルフィードを乗せたまま、ワイステインは嵐鷲滑空拳を打つ。そして、その勢いに乗ったシルフィードは拳を踏み台にして、疾風怒濤を繰り出した。
嵐鷲滑空拳の威力が上乗せされた必殺技は、巻き起こした風により黒い鳳をすべて倒し、さらにネガティブアイアールへと突進した。
「なっ!?」
ネガティブアイアールの使者は驚きながら自身も風によって飛ばされ、壁に激突して気絶した。同時にネガティブアイアールと力を与えていたネガティブライオーガも封印されてしまう。
「封印されただと!?」 「よそ見している場合ですか?」
伝助に言われ、陰鬱の使者は気付く。ネガティブワイステインの前に、ワイステインが現れていた。
「こいつ!」
ネガティブワイステインは、咄嗟に構える。
「今度は全力での必殺技を放ってやろう!」
相手との実力はこちらが上なのは先程わかっていること。だが、勢いに乗る伝助たちに警戒しないわけにもいかないので、油断はしなかった。
「消え去れ!」 「消えはしません!この必殺技は!」
ネガティブワイステインはスクリューピークを放つが、ワイステインの方が速かった。拳に鳥獣滑空拳によって起きた風を纏わせる。
「嵐鷲滑空拳!」
普段以上の威力をもったこの一撃に打たれたネガティブワイステインは大きくふっ飛ばされ、ネガティブライオーガ共々封印されてしまった。
しかしここで、思わぬこととなってしまう。
嵐鷲滑空拳の余波が、周囲の壁を崩していったのだ。そして、一際大きい岩が陰鬱の使者の頭上から落下していく。
陰鬱の使者は動かない。敗者は死という掟に従うつもりなのだろう。
「危ない!」
だが伝助が咄嗟に飛び掛り、陰鬱の使者を落下点から遠ざけた。 それにより、陰鬱の使者が下敷きになることは免れたが・・・・
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Re: 新世界への神話 ( No.81 ) |
- 日時: 2011/01/07 19:31
- 名前: RIDE
- 更新します。
第22話ラストです
8 「風間先生!」
ハヤテは絶叫してしまう。
飛び込んだことで、伝助は大きな傷を負ってしまった。その傷口から、血が大量に流れている。
「何故助けた!?」
陰鬱の使者は信じられなかった。この男には自分を助けても意味のないこと。いや、そもそも戦いの中で敵を助ける義理などないはずだ。
混乱する陰鬱の使者に対し、伝助は苦笑しながら答えた。
「・・・・気がついたら、飛び込んでいました」 「な・・・・!?」
陰鬱の使者は絶句してしまう。
「そ、そんな理由で助けるなんて・・・・」 「いいじゃないですか。僕が助けたかっただけですし・・・・」
伝助は、自嘲したまま続けた。
「精霊の力は、そのためにあるのですから・・・・」
伝助は笑顔を見せるが、誰が見てもそれは弱々しいものと思えた。
「しっかりして下さい、風間先生!」
ハヤテが伝助のもとへ行き、何とか応急処置をしようとするが、それでも間に合わない程傷は深かった。
「・・・・どうやらこの状況では助かりませんね。ですが、最後に人を助けたとなれば、悪い気分ではありません・・・・」
そう言って、伝助の目が霞んでいく。
「駄目です!起きてください風間先生!」
ハヤテは必死に伝助に呼びかける。死なないでくれと願いながら。
一方、傍らにいる陰鬱の使者は、自分を省みずに他人を救おうとする伝助の姿に衝撃を受けた。自分の命を惜しまないその姿に。
いや、伝助だって命は惜しいと思っているはず。それでも尚、自分を助けたのだ。
助けたかった。簡単には言ったが、伝助の思いがどれほど強いかよくわかった。同時に、 彼に仲間がいる理由も。
そんな彼の思いが、陰鬱の使者を動かした。
「下がれ」
ハヤテをどかし、彼に向けて手をかざす。
「魔法治療(スープラ)!」
聞いたことのない単語を唱える。すると、その手から光が伝助に向かって放たれ、光に包 まれた伝助の傷が見る見るうちに塞がっていく。
「起きろ!」
伝助に活を入れた陰鬱の使者。
目覚めた伝助は、まず自分が元気であること、次に傷が治っていることに驚愕した。
「私の魔法で治したのだ」 「魔法・・・・?」 「精霊界で人が暮らす世界にある私の故郷。そこには魔法というものが存在している国がある。私も、そこで魔法を習ったのだ」
理解できないという表情をする伝助とハヤテに対し、陰鬱の使者は付け加えた。
「そこで使われている魔法は、心の強さが直接反映される。精霊と同じ類であるから、安心 してくれ」
とりあえず、自分は助かったということだ。そして、彼の言葉から察するに、本気で自分を助けたいと思ったこともわかった。
伝助の怪我が治ったのを確認した陰鬱の使者は、その場を去ろうとする。
「どこへ行くのですか?」 「死に場所さ。私は陰鬱の使者。負けた私は掟に従って命を絶つが、せっかく君に助けてもらったんだ。死に場所ぐらいは選んでもいいだろう」
そうは言っているが、彼の表情からは自決するという気というものは感じられなかった。彼は彼なりに、陰鬱の使者であろうとしているのだろう。と同時に、勝者である伝助が助けた命なのだから、無駄に落としては相手に失礼とも思っているのかもしれない。
相手も中々誠実なのだと実感する。そんな彼の背中を見て、伝助はあることを聞かずに入られなかった。
「何故、僕を助けたのですか?」
先ほどは相手から尋ねられた問いに、彼も伝助と同じ答えを口にした。
「そうしたかったからだ」
簡潔な答えだった。
だが、伝助を満足させるには十分すぎるのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.82 ) |
- 日時: 2011/03/06 20:42
- 名前: RIDE
- 長く停止していましたが、更新します。
今回から第23話です
第23話 集結
1 戦闘に勝利したハヤテと伝助は先へと進んでいた。
優馬とエイジについては、向こうから先に行ってくれと促した。エイジが全快したら、必ず追いつくと言って。
優馬のその言葉を信じて、二人は歩く。
一方、塁は未だに迷路の中を彷徨っていた。
「どこ行きゃいいんだ?」
進めるだけ進んだはいいが、自分がどこにいるのかまったくわからず、グルグル回っているようにも感じる。
「本当に一生、ここから出られないってことはないよな・・・・?」
そんな不安を抱いてしまうが、それでも塁は歩みを止めようとはしなかった。
そして彼は、複数に枝分かれしている道の前に辿り着く。
「また分かれ道かよ・・・・、ん?」
絶望的な状況に脱力仕掛けてきたとき、ふと塁の耳にかすかな声が聞こえてきた。
聞き耳を立てる塁。どうやら、前方の分かれ道のうちのひとつ、その先から発しているようだ。
何が起きているのかわからないが、とりあえずその道へと足を向けることにした塁。
進んでいくうちに、声も段々と聞き取れるようになる。
「・・・・どうするつもりなのですか・・・・?」
声は女性のものであった。そして塁はこの声に聞き覚えがある。
「三千院のお嬢さんとこのメイドさんがいるのか?」
ここへ訪れた理由の一つは、彼女の救出だ。この先に彼女がいるのならば、先へ進んで助け出さなければならない。
ゆっくりと歩いていた塁は、それまでのやる気のない様子から一変、使命感を抱きながら走り出した。
マリアのもとへと目指す塁。その間にも、彼女の声が聞こえていた。
「なっ、そこを引かないでください!」
突然、マリアの声が切羽詰ったものへと変わった。
走りながら、塁は彼女の身に対する不安を募らせていく。
「だ、だめです!そこは・・・・!さ、触らないでください!」
聞こえてくるマリアの声から、塁はこの先で彼女が陰鬱の使者たちに何をされているのか想像する。
まさか、あいつらはあのひとに如何わしいことをやっているのでは・・・・!
焦った塁は更にスピードを速めた。一刻も早くマリアの下へ駆けつけ、彼女を男たちの毒牙から救い出さなければ!
塁は全速力で走り、そして、マリアが囚われている鉄格子の前に着く。
「おい、おまえら!」
そこで彼が見たのは―――――
「うわ!また引っかかった!」 「うふふ、甘いですね。こんな芝居に引っかかるなんて」 「くそー!そんな余裕で要られるのも今のうちだ!相棒、いくぞ!」
鉄格子の中でマリアと看守と思わしき陰鬱の使者が、仲良くババ抜きをしている光景であった。
緊張感が抜けたやり取りに、塁は土埃を広く撒き散らしながら盛大に滑りこけてしまうのだった。
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Re: 新世界への神話 ( No.83 ) |
- 日時: 2011/03/14 16:50
- 名前: RIDE
- 更新します。
まあ、だれも続きを期待はしていないでしょうが・・・・
2 「あら、稲村さん」
大きな音を立てたので、マリアも塁がきたことに気付いた。
「あ、あんたたち、なにやってんだ・・・・」
全速力で走ったため、息が途切れながらも塁はマリアに質問した。
「なにって、トランプですけど・・・・」 「そうじゃない!なんでそいつらと・・・・」
呑気そうなマリアに塁は苛立ちを露にする。
彼女は囚われの身であったはず。それが何故、敵であるものたちと一緒に鉄格子の中で遊んでいるのだろうか。
そんな塁に、マリアは退屈そうに答えた。
「いつまでもこの中で何もできずにいるのは退屈ですし、少し相手をしてもらっていたんです」 「あ、相手って、そんな簡単に・・・・」
確かに、捕虜に必要以上のストレスを与えさせないのも看守の仕事だと思う。捕虜が我慢できずに暴走したら大問題になるかもしれないからだ。
しかし、その看守である陰鬱の使者たちはマリアに対して親しみを込めて接しているようだ。それも、お互い友人関係であるのかと思えるほどだ。
「ええ。快く引き受けてくださいました」
そう言って満面の笑みを浮かべるマリア。
塁は悟った。奴らはこの笑顔にやられてしまったのだと。彼女の笑顔は、それはそれは光り輝くような美しいものであったが、従わないと何かが怖いオーラが何処か潜んでいたよう な気がした。
「さて、稲村さんがきてくれたことですし、ここから出ますか」
マリアは立ち上がって、メイド服についている埃などを払った。
「開けてくれませんか?」 「あ、はい。今すぐ」
躊躇することなく、自分たちと一緒にマリアを鉄格子の外へと出した陰鬱の使者。
こいつらメイドさんの見張りだよな。簡単に解放していいのかと塁は思うが、手間が省けるので何も言わない。
「さあ、行きましょう」 「行きましょうって、悪いけどメイドさん、俺道わからない・・・・」
塁は自分が道に迷った挙句ここにたどり着いたことを説明した。それを聞いたマリアは、陰鬱の使者たちの方に向き直り、満面の笑顔を見せた。
「すみませんが、地図など持ってはいませんか?」 「あ、それなら私が」
陰鬱の使者は嬉々としてマリアに地図のようなものを差し出す。それを受け取ったマリアは、塁のもとへと戻った。
「これで問題ありませんね。では、今度こそ行きましょう」 「はい・・・・」
あいつらは何故地図を持っているのか、それを何故安々とこちらに渡せるのだろうか。そもそも要塞は侵入者が迷うようにできているものだが、地図を持っているということは自分たちもそうなのか。それは組織の一員としてどうなのかと色々と突っ込みたかったがマリアの笑顔を見ると、その気力も失せ黙ってこの場を後にする。
しばらくしてから、しまったー!など、閉じ込められてしまったー!などいろいろ聞こえてきたが、塁は聞こえないふりをしてマリアに言う。
「メイドさん、悪いけどこのまま雷矢のところまで付き合ってもらう。他の皆がもう奴と会っているかもしれないからな」 「構いません。むしろ、私の方からお願いするところです」
危険であっても、自分にも雷矢を止める義務がある。
マリアの強い意志を感じた塁は、彼女に対する印象を呆れや恐怖から一変して感心する。
「わかった。急ごう!」
仲間と敵を目指すことから、二人は自然と駆け足になるのであった。
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Re: 新世界への神話 ( No.84 ) |
- 日時: 2011/03/17 22:24
- 名前: RIDE
- 更新します。
このお話が面白いっていう人いますかね・・・・?
3 一方、別の場所では。
「バ、バカな・・・・・!」
凍り付いているネガティブグルスイーグを見て、陰鬱の使者は絶句していた。
「これが実力だ」
そんな彼に対し、光は冷徹に言い放つ。
雷矢のところへ向かう途中、氷狩はネガティブグルスイーグの使者と遭遇し、戦闘となった。相手は今度こそ決着をつけてやると意気込んでいたが、前に戦った相手に苦戦するような氷狩ではなかった。グルスイーグのフリージングスノウズを食らい、ネガティブグルスイーグはこのように凍結してしまったのだ。
「悪いが、俺はおまえを相手にしているわけにはいかない。お別れだ」
氷狩が先に進み始めようとしたその時だった。
「ら、雷矢様・・・・」
反対側から、氷狩たちの標的である雷矢が現れたのだ。
ネガティブグルスイーグの使者が、雷矢を見て怯えだす。
「雷矢様、自分は・・・・」 「黙れ」
部下が言い切る前に、雷矢は懐から短刀を取り出し、ネガティブグルスイーグの使者の喉に突き立てたのだ。
「なに!」
氷狩はその光景に目を大きく見開く。
「ああ・・・・」
陰鬱の使者は、切り口から血を溢れさせ、恐怖の形相のまま死んでいった。
「な、なんて奴だ・・・・」
躊躇なく人を殺した雷矢に、氷狩は恐怖を抱く。
この男は、自分たちと同じ人間なのだろうかと。
その雷矢は、氷狩の方に顔を向けた。二人は互いに睨みあう。
氷狩のほうから先に口を開く
「まさか、おまえから姿を見せるとは思わなかったぞ」 「ここへ入り込んだ使者の中では、おまえが一番の実力者みたいだからな。おまえを討っておけば後は問題ない」
彼らの精霊であるグルスイーグとライオーガは、それぞれ人型形態となる。
「黄金の勾玉と人質を返せ!」
そう要求する氷狩だが、答える気がないのか雷矢は無言を徹する。
「素直に言うことを聞く気はないということか。やはり戦うしかないな」
グルスイーグは闘志を表している。対するライオーガも、威嚇するように右手に電気を帯びだした。
この場に漂う緊張感が限界まで張り詰める。
「いくぞ!」
グルスイーグとライオーガは、同時にぶつかり合った。
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Re: 新世界への神話 ( No.85 ) |
- 日時: 2011/03/21 22:40
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 「電光石火!」
まず先に必殺技を放ったのはライオーガだった。右腕に溜めていた電気をスパークさせ、その光でもって相手を目くらませ回避させないようにする。 対して、グルスイーグは氷のヴェールに力を集中させて防御する。しかし、電光石火は小さなダメージとなったとはいえ、その威力は氷のヴェールを突き抜けてしまった。
「さすがにやるな・・・・」
氷のヴェールを貫き通す相手に、氷狩は油断が許されなかった。
「今度はこちらの番だ!」
グルスイーグは反撃に出た。
「フリージングスノウズ!」
しかし、凍気が襲い掛かる瞬間、ライオーガの姿は消えていた。
「なにっ!?」
気づくと、ライオーガはグルスイーグの背後に回っていた。
「そこか!」
グルスイーグは振り向きざまに殴るが、これも拳が空を裂いただけで、ライオーガは別の場所にいた。
氷狩はおかしいと感じていた。確かに奴の力は強大だが、こちらの攻撃がかすりもしないのは明らかに変であった。ライオーガは、回避行動のアクションも何も取っていないのに、だ。
困惑する中で、雷矢は言った。
「人の絆というものを大切にしているような女々しい奴に、このライオーガを倒せるものか」
それを聞き、氷狩は気づいた。
「そういえば、おまえは精神攻撃が使えるのだったな・・・・」 「そうだ。このライオーガは精霊のみならず使者の心まで砕くのだ」
しまった、とそのことを失念していた氷狩は痛感していた。精神攻撃ができる相手なら、敵対する使者の心の中をのぞくことぐらい雑作もないだろう。そして、彼と対峙した時から自分は既に相手の手中にはまっていたのだ。
「桐生氷狩よ、小手調べはここまでだ!」
ライオーガの右の拳に光が灯り始める。
「幻魔雷光!」
その光を、グルスイーグに向けて放つ。氷狩は必殺技を浴びたグルスイーグを通して幻覚を見せつけられた。
自分の目の前に仲間たちがいる。
皆、氷狩にとって大切な人たちだ。
そちらへと向かう氷狩。
だが彼らのもとへ来た途端、仲間たちの体が腐っていき、崩れ落ちてしまった。
「うわあああああーっ!!」
自分にとってむごいものを見せつけられた氷狩は、たまらず雄叫びをあげた。
「ああああ・・・・」 「どうだ、幻魔雷光によって精神を引き裂かれた衝撃は・・・・?」
膝をついて身を悶える氷狩を、雷矢は平然として見下ろす。
「気がおかしくなったかもしれんな・・・・」 「う・・・おおおお・・・・」
そんな氷狩は、体を震わせながら立ちあがってきた。
「せ、精神を攻撃されたとしても、そんなことでは俺は負けない!」
彼は決然として雷矢を見据える。
「俺の一番大切なものを踏みにじったんだ。覚悟してもらおう!」
その熱い思いが、グルスイーグの力となっていく。
「俺の、いや今まで人の心を残酷に打ち砕き、殺めてきたその罰を受けろ!」
グルスイーグは、裁きとなる必殺技を放った。
「フリージングスノウズ!」
凍気がライオーガに襲いかかる。ライオーガの氷像が出来上がっていると思われたが、そこにライオーガの姿はなかった。
「こ、これは・・・・?」 「残念だったな」
気がつくと、ライオーガはグルスイーグの背後についていた。ライオーガが必殺技をかわしたことに氷狩は驚き、そんな彼に雷矢は言い放った。
「俺は一度見た必殺技は、二度も通用しないのだ」
だが氷狩には、わからないことがあった。
「グルスイーグの必殺技を、おまえに見せるのは初めてのはずだが・・・・?」
フリージングスノウズを破られた時から抱いていた疑問であった。彼に手の内は明かしていないというのに、どうやって雷矢はこちらの必殺技を知ることができたのだろうか。
その答えとして、雷矢は自分の腕に着けているサンダーリングをかざして氷狩に見せた。
「それは!」
そこに挿入されているものを見て、氷狩は絶句した。
サンダーリングには、氷竜と刻まれた黒い勾玉が挿入されていた。先程自分たちが倒したネガティブグルスイーグの勾玉が。
「これを通じて、ネガティブグルスイーグが見たグルスイーグの必殺技を、ライオーガも見ることができたのだ」
リングに他の精霊の勾玉を挿入すれば、自分の精霊はその力を備えることができる。その特性を利用したのだ。
「そういうことだったのか・・・・」
ネガティブグルスイーグのことは全く失念していた。いつの間にか勾玉をその手中に入れたのかわからないほど戦闘に集中しすぎていたのだ。周りを見落としていたことで、思わぬところで足を竦んでしまった。
だからと言ってこのまま負けるわけにはいかない。自分が諦めない限り戦いは終わらないのだ。
グルスイーグは尚も戦おうとする。しかし幻魔雷光を受けた傷は大きかった。
その姿は弱々しく、誰が見てもやられるのは当然だと思うほどであった。
「これで終わりだ!」
ライオーガは右の拳でグルスイーグの左胸を打ち抜いた。そのダメージが使者である氷狩にも伝わり、彼は激しく疼き出した左胸を抑え込んだ。
「所詮はこの程度か・・・・」
雷矢は落胆したようにため息をついた。
少しは骨のある奴かと思ったのだが・・・・
「ま、まだだ・・・・」
しかし、氷狩の目はまだ輝いている。
「このまま引き下がるわけにはいかない。おまえがこれほどの実力者でも俺は動じない。最後まで戦うだけだ」
その思いを受け、グルスイーグはライオーガに殴りかかった。グルスイーグの右拳が、ライオーガの右腕に軽い傷をつける。
「無駄なことを・・・・」 「む、無駄なことかな?この傷のせいで痛い目を見ても知らないぞ・・・・」
氷狩は強がりと思える笑みを浮かべたまま倒れる。そこでグルスイーグは力尽きた。
「終わりだな・・・・」
ライオーガはグルスイーグから拳を引き抜いた。
ちょうどその時、伝助とハヤテがこの場に現れた。
「氷狩君!」
伝助とハヤテは倒れている氷狩を見て目を大きく開いた。
「おまえたちもこのようなザコに続いて、やられに来たか」 「な・・・・!」
ハヤテは倒された氷狩を一笑した雷矢に怒りを沸いた。
「兄さん・・・・桐生君は三千院家とは何の関わりもないのに・・・・こうやって手を下すなんて・・・・」 「俺に歯向かうなら、排除するまでだ」
それを聞いて、ハヤテは戦闘の構えを取った。対する雷矢は不敵な構えだ。
「この兄に勝てると思っているのか」 「勝たなければなりません。僕はお嬢様の執事、お嬢様の害為すあなたを例え兄であっても全力で止めます!」
ハヤテはシルフィードと共に一歩前に出ようとする。
しかし、それを伝助が遮った。
「風間先生、何を・・・・」 「生徒に身内同士での死闘をさせるわけにはいきません。ここは僕が相手をしましょう」
伝助は、ハヤテと位置を入れ替わった。
「最初に言っておきます」
雷矢を睨みながら伝助は言った。
「敗者でも、誇りを持って戦ったのです。それを笑うあなたは、もはや使者の風上にもおけません。この場で倒します」
伝助は、激しく怒りを燃やしていた。
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Re: 新世界への神話 ( No.86 ) |
- 日時: 2011/03/22 10:20
- 名前: 大魔王
- どうも、初めまして
大魔王と申す者です 感想を書いて良いものか分かりませんが 感想を書きたいと思います 最初から、一気に読ませていただきましたが かなり面白かったです!! 特にバトルが キャラについては、心当たりがある位で、分からなかったのですが それでも、かなり面白かったです 後、こんな事書いても良いのか分かりませんが 技名や人物名に、読み方も入れると良いと思います そうすれば、読者も読みやすいかなと すいません、こんな事を書いて 続き、楽しみにしてます 大魔王でした
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Re: 新世界への神話 ( No.87 ) |
- 日時: 2011/03/30 21:51
- 名前: RIDE
- 更新する前に・・・・
な、な、なんと! この掲示板初の感想が投稿されているではありませんか! とっても嬉しいです! 初めてなのでうまくできるかわかりませんが、レス返しします。
>どうも、初めまして >大魔王と申す者です
はじめまして。 大魔王さんの小説読んでいますよ。
>感想を書いて良いものか分かりませんが >感想を書きたいと思います
書き込んでくれてありがとうございます。 謙遜なさらずになんでも書いて構いませんよ。
>最初から、一気に読ませていただきましたが >かなり面白かったです!! >特にバトルが
面白かったのですか! ありがとうございます。 ですが、バトルの描写についてはあまり自信はありませんよ。 正直これでよいのかわかりませんし…
>キャラについては、心当たりがある位で、分からなかったのですが >それでも、かなり面白かったです
版権キャラについては、後々詳しく説明しようと思っています。 私はもったいぶるのが好きなので。 他にも、色々な原作を混ぜようと考えています。
>後、こんな事書いても良いのか分かりませんが >技名や人物名に、読み方も入れると良いと思います >そうすれば、読者も読みやすいかなと >すいません、こんな事を書いて
いえいえ、ご指摘ありがとうございます。 確かに読み方は必要ですよね。 今後は気を付けます。
とりあえず、今までの23話の中で出てきた人物名と技名の読みがなを紹介します。
稲村 塁 → イナムラ ルイ 桐生 氷狩 → キリュウ ヒカリ 風間 伝助 → カザマ デンスケ 土井 優馬 → ドイ ユウマ 綾崎 雷矢 → アヤサキ ライヤ
幻魔雷光 → ゲンマライコウ
といったふうに読んでください。
>続き、楽しみにしてます >大魔王でした
はい!これからもがんばって更新します。 大魔王さんもがんばってくださいね
それでは、更新します。
5 気迫を見せる伝助を、雷矢は鼻で笑う。
「そいつは無理だな。おまえでは、そしてハヤテにも俺とライオーガを倒すことはできん」 「どうですか」
ワイステインは、拳を構えた。
「おまえも死の幻影を見るがいい」
対して、戦いをすぐに終わらせようとライオーガが幻魔雷光を放とうとしたその時だった。
「ウイングトルネード!」
ワイステインの翼が起き、突風を起こした。しかし、通常の必殺技とは異なり、風力を一点に集中させて放たれた。
その風が向かった一点とは、雷矢の右腕だった。幻魔雷光を放とうとしていたが、強い風がそれを防いでいた。
ワイステインはそこへ更に、必殺技を放った。
「嵐鷲滑空拳(らんじゅかっくうけん)!」
拳による必殺技は、ライオーガの右腕に叩きこまれた。
「これだけのダメージなら、幻魔雷光は使えませんね」
ライオーガの右腕は、大きく傷つき、力を入れることができない状態であった。幻魔雷光も放つことができなくなったことも、拳に灯っていた光が消えたことで証明されていた。
「幻魔雷光は右腕から放たれるものですからね」 「!貴様・・・・どうやって気付いた!?」 「ライオーガの右腕ついてある傷から。氷狩君は、これを教えるためにつけさせたものだと」
伝助は、鋭い視線で雷矢たちを見つめる。
「貴方がザコだと嘲った氷狩君は、ちゃんと仲間に示しを指せる立派な使者なんですよ。そして今も、あなたは彼によって動きを封じられている」 「なに!?」
そこで目線を下に向けた雷矢は、自分とライオーガの足元が凍らされていることに気付いた。
「まさか!?」
あり得ないと思いながらも、こんな真似ができる者に目を向ける。
「お、おまえは!」
仕掛けたのは、自分にとどめを刺されたはずの氷狩とグルスイーグであった。彼らは若干苦しそうにその場で立っていた。
「バ、バカな。おまえは・・・・」 「生憎と、気を失う程度で済んだんだ」
幸運だったと付け加える氷狩。
「言ったはずだ。その傷のために痛い目を見ても知らないって」
そう皮肉を贈った後、氷狩は伝助の方を向く。
「それにしてもさすが伝助さんですね。あの傷から俺の意図を読んでくれて」 「仲間ですからね」
二人は笑顔を交わし合う。
さらに、ハヤテたちの背後から優馬がやって来た。そして・・・・。
「エイジ君!」
なんとか助かったエイジの姿もそこにあった。
「全員集合ってところだな」 「まだ一人いませんけどね」
伝助の補足に、優馬は遅れている仲間を思い浮かべ顔をしかめた。
「塁の奴、どうしたんだ?まぁ、いいか」
一人いなくても自分たちが優位にたっているため、それ以上は気にせずこの場に揃った五人は、毅然として雷矢を睨んだ。
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Re: 新世界への神話 ( No.88 ) |
- 日時: 2011/03/31 18:45
- 名前: 大魔王
- どうも、大魔王です
それでは、感想です 雷矢は強いですね けど、油断と相手を甘く見てたので痛いしっぺ返しを喰らいましたね 氷狩とグルスイーグは気絶してなかったんですね けど戦力になるのでしょうか? それから、エイジが合流して、全員集合まで塁が足りませんが、それでも有利ですね ここで雷矢が盛り返せるのか それとも、仲間の絆に圧倒されるのか 続きが楽しみです お互い更新頑張りましょう それでは、大魔王でした おやってら〜♪
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Re: 新世界への神話 ( No.89 ) |
- 日時: 2011/03/31 19:43
- 名前: RIDE
- 今回も感想が来ていますので、レス返しから始めます。
大魔王さんへ
>どうも、大魔王です >それでは、感想です
また感想を送ってくださてありがとうございます。 大魔王さんの作品も応援していますよ!
>雷矢は強いですね >けど、油断と相手を甘く見てたので痛いしっぺ返しを喰らいましたね
正直言って、一対一の戦いなら雷矢のほうが強いです。 でも伝助も氷狩も、全員で戦おうとしていましたからね。勝利のために、一人一人が力を合わせようとした。そのため雷矢は不覚を取ってしまったんです。
>氷狩とグルスイーグは気絶してなかったんですね >けど戦力になるのでしょうか?
はっきり言って、精霊の使者の強さは心に拠ります。 負けないという強い思いがあれば、どうにかなります。 ぶっちゃけて言えば、ハヤテとシルフィードより強いです。 ん、今某執事がショック受けたような・・・・気のせいか。
>それから、エイジが合流して、全員集合まで塁が足りませんが、それでも有利ですね
数的にみれば有利ですね。 ていうか、塁は何しに来たんだ・・・・?マリアさんを助けたとはいえ、このままではダイの采配ミスになってしまう・・・・
>ここで雷矢が盛り返せるのか >それとも、仲間の絆に圧倒されるのか >続きが楽しみです
今回の話になりますが、雷矢にはまだ隠し玉があります。 彼は簡単には降参しないつもりです。
>お互い更新頑張りましょう >それでは、大魔王でした >おやってら〜♪
ええ、できるだけ頑張りましょう! 感想、ありがとうございます。
それでは、多少短いかもしれませんが、更新です。
6 「この辺で観念したらどうです?いくらあなたでも、これだけの人数を相手に戦えないでしょう」
五人は、雷矢を取り囲むように動いたが、雷矢は余裕を見せていた。
「頭数を揃えれば勝てると思ったら、大間違いだぞ。おまえたちが束になっても、この俺には勝てん」
そう言って、雷矢とライオーガは足元で凍っている氷を吹き飛ばした。
「この程度で俺の動きを封じたと思うなど、甘い奴らだ」
これを見て、この男は生身でも強いと判断したハヤテたちは、警戒を強めた。半端なく強い相手に、緊張する。
「・・・・とはいえ、これだけの真似をしたのだ。手加減するわけにもいかないな!」
彼から放たれる強烈なプレッシャーに、氷狩たちは全員身構える。
「全力でいかせてもらう!」
突然、雷矢の腕に装着されているサンダーリングが光りだすと、雷矢の身体はオレンジ色の液状的な体質に変わった。その液体に、ハヤテは見覚えがあった。
「に、兄さんがLCLに・・・・?」
驚く間に、ライオーガが光となってサンダーリングへと吸い込まれていく。
何が起こるのかわからないハヤテ。だが他の四人は愕然としていた。
「こ、これは・・・・!」
雷矢の肉体は鎧のような硬質なものへと変わっていた。ライオーガを想像させるような甲冑へと。
「な、何が起こったんだ、一体・・・・?」
ハヤテは困惑する。兄がいきなり人ではなくなり、マンガに出てくるような戦闘ロボットのような姿へと変わったのだ。驚くのも無理はない。
しかし、彼を除く四人の驚愕はその比ではなかった。
「精霊と一体化したんだ」
優馬は、普段の冷静さからは考えられないほどの尋常でない量の汗を流していた。
「一体化すると、人型形態の精霊ではどうあっても太刀打ちできない力を、使者は得ることができます。あれこそが真の使者の姿なのです」
伝助も強張りながらハヤテに説明する。
「まさか、一体化までできるなんて思いませんでした。僕たちの仲間内では佳幸君と達郎君、花南さんの三人だけだというのに・・・・」
その三人は今この谷底の外にいる。この場で雷矢に対抗できそうなものはいない。
「恨むぜ・・・・突入するメンバーを選ぶなんてマネをした高杉さんを」
氷狩は笑って見せたが、その表情は硬かった。
「驚くのはまだ早いぞ!」
雷矢は右拳に力を入れはじめる。幻摩雷光を放つかと思ったがどうやら違う。
右手に溜める電力がそれとは大きい。直接攻撃に宿らせるものだと直感する。
「全員、俺の最大の必殺技で倒されるがいい!」
グルスイーグたちは防御の構えを取り始めるが、もう間に合わない。
「雷凰翔破(らいおうしょうは)!」
雷矢は拳を振るい、それによって拳圧と溜めていた電気がグルスイーグたちに向けて放たれた。その威力は精霊だけでなく使者をも吹き飛ばす勢いがあった。
「終わった・・・・」
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Re: 新世界への神話 ( No.90 ) |
- 日時: 2011/03/31 20:25
- 名前: 大魔王
- どうも、大魔王です
早いですが、お気になさらずに それでは、感想です 雷矢の強さが異常ですね ダイも、雷矢がここまで強いとは思ってなかったのでしょうか? けれど、やっぱり奥の手がありましたね 流石は雷矢と言った所でしょうか? まさか、精霊との一体化とは!? 驚きの強さです!! 彼の憎しみはどれほど強いのでしょうか!? ところで、精霊との一体化ですが 青銅よりランクの上の使者は、楽にできるのでしょうか? 雷矢の必殺技を受けて吹き飛んだハヤテ達は、はたして無事なのか!? 続きが楽しみです!! それと、こちらのに感想を戴いておりますので お礼を言います どうも、ありがとうございます それでは、大魔王でした おやってら〜♪
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Re: 新世界への神話 ( No.91 ) |
- 日時: 2011/04/05 21:23
- 名前: RIDE
- 感想がきていますので、本編の前にレス返しです。
大魔王さんへ
>どうも、大魔王です >早いですが、お気になさらずに
いえいえ、こちらこそ日をだいぶ空けて申し訳ありません。
>それでは、感想です >雷矢の強さが異常ですね >ダイも、雷矢がここまで強いとは思ってなかったのでしょうか?
はっきり言って、一般で測れるレベルをはるかに超えています。 そして、ダイは何も考えていません。とはいえメンバー選び自体は適当というわけではなく、彼なりの考えがあります。 それが明らかになるのは、雷矢編が終わってすぐになると思います。
>けれど、やっぱり奥の手がありましたね >流石は雷矢と言った所でしょうか?
流石、としか言い様がありません。 実際、彼は生身でも人型形態の精霊相手に勝てる力がありますから。 本当に恐ろしいです。
>まさか、精霊との一体化とは!?
詳しいメカニズムも今後紹介します。
>驚きの強さです!! >彼の憎しみはどれほど強いのでしょうか!?
三千院家に対しては、ネガティブライオーガを次々と生み出すほど果てしなく強いです。 理由は、彼の過去に由来しますが、それも決着がついたら明かされます。
>ところで、精霊との一体化ですが >青銅よりランクの上の使者は、楽にできるのでしょうか?
先の話になりますが、一体化自体にはまだ秘密があります。 青銅の使者はまず一体化ができることが最低条件となっています。 次のランクである白銀の使者に上がるには、その秘密をクリアしなければなりません。 黄金の使者については空席が生じた場合、ある条件を満たした白銀の使者から選ばれるという仕組みです。 ただしこれは霊神宮におけるプランであり、雷矢のように青銅の使者の範疇を超えた実力を持つ者や、エイジのように心が強くても一体化ができないという使者も存在します。 ちなみに雷矢は白銀へ上がるための秘密もクリアしています。
>雷矢の必殺技を受けて吹き飛んだハヤテ達は、はたして無事なのか!? >続きが楽しみです!!
続きを載せますので、楽しんでください!
>それと、こちらのに感想を戴いておりますので >お礼を言います >どうも、ありがとうございます
いえいえ、掲示板はみんなで使うものですから、感想や励ましを送るのは礼儀だと思っています。 むしろ、こちらこそお礼を言いたいです。 大魔王さんも、がんばってください。
それでは、第23話ラストです。
7 雷矢は勝利を確信していた。
だがふと前を見ると、彼は思いがけないものを目にした。
「な・・・・!」
エイジたちの前に、人を乗せるほど大きさをもつ白銀の狼型ロボットが現れ、バリアーのようなものを張って彼らを守っていた。
「う・・・・」
エイジも気がつき、自分たちを守ってくれたロボットをまじまじと見る。
「なんだ、こいつは・・・・?」
何故雷矢の攻撃を防いでくれたのか、そもそもこのロボットの正体は何なのだろうかと疑問が沸いてくるが、頭がそれらを整理できなくて口にできない。
「ダイ・タカスギからの伝言だ」
そんなエイジたちに、狼ロボットは語りかけた。
「おまえたちに、使者として雷矢と戦うのではない」
エイジたちは、わけがわからず戸惑ってしまう。このロボットの言うことを信じるならダイが送ってきたものだろうが、勝たなくてもよいというのはどういうことだろうか。
そんな彼らに向けて、狼ロボットは更に続けた。
「ケンカをやれ、それだけだ」
それを最後に、狼ロボットは光となってこの場から消えた。
頭を俯かせていたダイは、ゆっくりと頭を上げた。
「どうかしました?」
彼の側にいたジムが体調でも悪くなったのかと思い、尋ねてみた。
「なんでもない。それよりこの戦い、もうすぐ終わるぞ」
そういう彼の左腕の手首辺りが、何故か淡く光っていた。
何が言いたかったのか判らず、ハヤテたちは呆気に取られていたが。
「そうか・・・・」
エイジは再び立ち上がり、戦う姿勢を見せる。
「そうだよな・・・・」
彼は雷矢に向かって叫んだ。
「誰だって何かを憎んだりするのは当たり前だ。けど、あんたはそれを恨めしがったまま、ガキのように当り散らしているだけじゃないか!」 「・・・・なんだと・」
雷矢はそれを聞き、怒りをエイジに向けるが、彼は怯まない。続いてハヤテを指した。
「あんたの弟さんだって、人生の辛酸を舐めきってきた。けど負けずに頑張ってきた!あんたはそんな綾崎さんの足元にも及ばない、ただの弱虫なガキだ!」
彼の言葉は、ハヤテの心を響かせていく。
「そしてこれは、弱虫が癇癪ぶつけただけの、ただのケンカだ!精霊を使おうが、一体化しようが、弱虫相手にケンカで負けてたまるか!」
そう吠えたエイジに対して、氷狩たちも皆強気な笑みを浮かべ始めた。
「そうだな・・・・」 「一番年下のおまえにそこまで言わせて、大人の俺たちが倒れたままというわけにはいかないな」 「ここで起き上がれなかったら、僕たちもあの人と同じ弱虫ってことになりますからね。そ れは勘弁したいですから」
そして、全員立ち上がり、彼らの精霊も再び人型形態へと変わった。
「まだ戦いは終わりません。兄さんが憎しみを捨てきれないというのなら、僕たちはその憎しみごと兄さんを打ち倒します」
ハヤテは、そう雷矢に宣言する。
「今から俺たちの反撃だ。覚悟しろよ」
エイジも、強気な笑顔で雷矢を指差すのであった。
次回、雷矢編クライマックス!
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Re: 新世界への神話 ( No.92 ) |
- 日時: 2011/04/05 22:48
- 名前: 氷結アイスブリザード
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=6879
- こんばんわ〜
氷結です いつも感想ありがとうございます 伊澄さんまでナギたちと一緒に吸い込まれてしまうとは 霊力が高くても運動能力は一般人並ですね デビルガンダム事件 デビルガンダムの細胞は怖いですよねw ギルバードあわれなw 氷系がヒナギクと氷狩と陰鬱側に一人で3人も氷属性好きの私にはうれしいことです^^ 雷矢強すぎですね ただでさえ強いのに精霊と一体化してさらに 憎しみは相当高いですね HPも2943 なのでしょうか? 氷狩死ななくてよかったです 氷狩がんばってー
それでは
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Re: 新世界への神話 ( No.93 ) |
- 日時: 2011/04/06 19:22
- 名前: 大魔王
- どうも、大魔王です
それでは、感想です 狼型のロボットが、ハヤテ達を守ってましたね そのロボットは、何者(?)なんでしょうか? そして、ダイからの伝言がありましたね なる程、雷矢がいくら強くても所詮は駄々こねてる奴って事ですか そんな奴に負けてられませんよね ダイは、ナイスアドバイスですね♪ 次回で、クライマックスですか とても、楽しみです!! お互い更新頑張りましょう 大魔王でした おやってら〜♪
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Re: 新世界への神話 ( No.94 ) |
- 日時: 2011/04/06 20:23
- 名前: RIDE
- 連日更新〜♪
と、その前にレス返しから。 お二人も感想が来ていることに驚きながらも、いきます。
氷結アイスブリザードさんへ
>こんばんわ〜 >氷結です >いつも感想ありがとうございます
こちらでは初めてですね、氷結さん。 こちらこそ、感想を送っていただきありがとうございます!
>伊澄さんまでナギたちと一緒に吸い込まれてしまうとは >霊力が高くても運動能力は一般人並ですね
こう言ってはあれですが、伊澄さんは霊力に頼ってばかりで他が疎かになっているというか・・・・。 まあ、氷結さんの言うとおり運動能力は並ですので。
>デビルガンダム事件 デビルガンダムの細胞は怖いですよねw
本当、恐ろしいとしか言いようがありません。 ダイの世界では事件が解決していますので、デビルガンダムの登場は少し難しいかな・・・・。希望があればできますけど・・・・。 主役キャラたちは登場させる予定です。かーなーり後になると思いますが。
>ギルバードあわれなw
所詮、彼はやられ役ですから(汗)
>氷系がヒナギクと氷狩と陰鬱側に一人で3人も氷属性好きの私にはうれしいことです^^
気に入っていただけてうれしいです。 他の属性に関してもそうですが、氷属性は私が抱くある感情を表すつもりです。
>雷矢強すぎですね >ただでさえ強いのに精霊と一体化してさらに
今のハヤテたちにとって、大きな力の壁というものを表したかったのです。 恐るべきところは、彼は何の予備知識もなしに一体化をやってのけました。 ランクなんて枠組みには当てはまりません。一応、八闘士たちもそうですが、彼はその比ではありません。
>憎しみは相当高いですね >HPも2943 なのでしょうか?
これを見たとき、思わずクスリと笑ってしまいました。
>氷狩死ななくてよかったです >氷狩がんばってー
この声援には、本人に応えてもらわないと。
「なんだ?ここはどこだ?」
いや、君への応援が届いているから
「そうか。応援ありがとうございます。エイジたちに比べるとあまり目立っていませんが、期待に応えるよう、必ず活躍を見せます。」
以上、氷狩からでした!
氷結さん、感想ありがとうございます!
大魔王さんへ
>どうも、大魔王です >それでは、感想です
今回もありがとうございます。
>狼型のロボットが、ハヤテ達を守ってましたね >そのロボットは、何者(?)なんでしょうか?
ロボット自体はオリジナルですが、宿っている魂はある作品の人物です。 ヒントは、ジェット、ドリル、ジムです。 ダイにとっては、大きな存在となっています。
>そして、ダイからの伝言がありましたね >なる程、雷矢がいくら強くても所詮は駄々こねてる奴って事ですか >そんな奴に負けてられませんよね
もちろん。ハヤテたちは立ち上がることを知っていますから。 ですが、それだけでは解決には至りません。 雷矢に対してどうするかが、ポイントになってきます。
>ダイは、ナイスアドバイスですね♪
実際、ダイはハヤテたちの戦いに関してはこういう役回りしかしません。 自分たちの世界の問題は、その世界の住人が解決しろという考えですから。
>次回で、クライマックスですか >とても、楽しみです!!
ご期待に応えられるようになるかどうかわかりませんが、楽しんでいただけたらうれしいです。
>お互い更新頑張りましょう >大魔王でした
はい、がんばりましょう!
感想を通じて、雷矢の反響が大きかったことに驚いています。 近いうちに、彼のプロフィールでものせるべきでしょうか・・・・?
それでは更新します。 100スレ間近なので、分割数は少なくなります。そのため、バトルは今回で終わりますがご了承ください。 24話、スタート!
第24話 笑顔で解決
1
何故だ。
雷矢にはわからなかった。
何故彼らは立ち上がれるのだろうか。
実力の差はわかりきっているはず。どうあがいても奴らに自分は倒せない。
なのに、何故這いつくばってでも戦おうとするのだろうか。
「いきますよ、兄さん!」
そんな雷矢に、最初に立ち向かったのはシルフィードであった。
「疾風怒濤(シップウドトウ)!」
まっすぐ突っ込むシルフィード。それを雷矢は難なく受け止めた。
「俺を打ち倒すなどと言っておきながら、まだためらっているのではないか、ハヤテよ?」
そう指摘されて、ハヤテは唸ってしまった。ダイに激しく叱責されて以来、自分のやることに迷いを抱き、こんな状況でもはたしてこれでよいものかと逡巡していた。
「そんな心では、俺は倒せんぞ!」
シルフィードを押し返し、横転させた雷矢。だが本調子ならば、シルフィードを壁に激突 させたはずである。
「おまえこそ。口では強がりを言っても、どこか怖じ気しているのか?」
氷狩がそう指摘すると同時に、雷矢の懐へとグルスイーグが潜り込んでいた。
「フリージングスノウズ!」
凍気を繰り出す必殺技を浴び、その勢いのまま雷矢は空中へ飛ばされ、下へと落ちていく。
「本当は迷っているのではないですか?僕たちに対してと、自分のしていることが」
そこを、ワイステインが狙っていた。
「嵐鷲滑空拳!」
拳の必殺技を受けて、雷矢は別方向へと飛ばされた。その先にはユニアースが待ち構えていた。
「ギャロップキック!」
回し蹴りを炸裂させる必殺技が決まる。さらに続けてウェンドランが攻撃した。
「流星暗裂弾(リュウセイアンレツダン)!」
百発近い拳の連打を受けた雷矢は、その勢いのまま壁と激突した。
「すごい・・・・」
肩を並べていたハヤテは、必殺技を抑えられた自分に対し、雷矢をここまで圧倒した彼ら の実力に感心すると同時に、何もできない自分を歯がゆく感じた。
「気を抜かないでください、綾崎君」
そんなハヤテに、伝助が叱咤した。
「まだ彼はやられていません」
伝助の言葉どおり、雷矢は立ち上がってきた。あれだけの猛攻撃を受けてもなお立ち上がってくることに、ハヤテは信じられなかった。
「いくら頑張ろうが、人型形態の精霊と一体化した使者とは根本的に力の差が大きいのだ。たいしたダメージにはならん」
雷矢は、ゆっくりと構えた。
「いろいろと喚いたようだが、最後に勝つのは俺のようだな」 「まだだ!まだ、諦めたりしない!」
ウェンドランは、剣を取り出した。
「ブレードスラッシュ!」
それを上段に構えて雷矢目掛けて跳び上がり、そのまま勢いよく振り下ろす。
だが雷矢はその剣筋を指だけで押さえ込み、何事もなかったかのように払い除けた。
「これならどうだ!」
今度は、矢を握る。
「ミーティアロー!」
その矢を投げつけるが、これに対しても雷矢は片手ではじいた。
「まだ抵抗するか?」
何度必殺技を繰り出しても全く傷がつかない雷矢に、成す術がなくなってしまう。
「全員おとなしくやられるがいい」
そう言って雷矢は、電光石火の構えをとった。
「まずはハヤテ、おまえからだ!」
最初の標的をハヤテに決めた雷矢は、そのまま突っ込む。そんな両者の前にワイステインが割って入り、風の防御壁を起こすが、雷矢はそれを突き破っていく。
「これを使って!」
それを見たウェンドランはワイステインに盾を与えた。ワイステインはそれを前に構え た。
「無駄だ!そんな盾など砕いてやる!」
しかしそんな雷矢の予想に反して、盾は電光石火を受け止めた。その際、傷のひとつも入 っていない。
「な、なにぃ・・・・」
一体化した自分の必殺技を、精霊の盾が防いだことに雷矢は驚いた。
「このウェンドランの盾は風の力が備わっています。それを風の精霊が手にしたことによって防御力が格段に上がったのです。いくらあなたでも、これは砕けないでしょう」
砕けないことはないにしても、自分の必殺技を防いだこの盾を前にしてはたかが精霊を倒すのにも時間がかかると雷矢は感じた。
「ならば、貴様らの精神を砕いてやる!」
煩わしく思った雷矢は、肉体よりも心と幻摩雷光を放とうとした。
「させるか!」
ウェンドランはグルスイーグに、今度は鎖を寄越した。そのエイジの狙いを、氷狩は瞬時に悟った。
「アイシングファング!」
グルスイーグは鎖を雷矢に投げつけた。すると、幻摩雷光を放つ右腕に鎖が絡みつき、先端の牙が腕に食い込んだ。そして、雷矢のその腕は鎖が巻き疲れ、果ては凍り付いてしまっ た。
「これでもう幻摩雷光は放てない」
雷矢は腕に力をこめるが、やはり光は灯らない。幻摩雷光は完全に封じられてしまった。
「な、なぜこうも・・・・」
自分の必殺技をことごとく退ける彼らを、雷矢は信じられなかった。
「ウェンドランは他の精霊に武器を与えることができる、人呼んで武装精霊なんだ。それは持つ精霊の力によって、力を増していく」
エイジは説明し、ウェンドランはユニアースに銃を渡す。
「このようにな」
ユニアースはその銃を撃った。
「ユニホーンショット!」
炎の弾ではなく、硬い石の弾が放たれる。
雷矢ははじき返そうとしたが、本来まっすぐに飛ぶはずの弾は突然それをかわすかのよう に軌道を曲げ、雷矢に直撃した。
続けて連発するユニアース。そのどれもが曲がりくねるように飛び、雷矢は回避すること ができなかった。
「この銃をユニアースが持てば、弾は角の能力が付加されるんだ。相手の急所を探し、敵意 あるところに必ず当たるホーミング機能がな」
エイジは雷矢に向かって言い放つ。
「俺たち仲間の絆が、俺たちの力を何倍にも強くさせているんだ!」
雷矢はそんなエイジたちに迫力のようなものを感じ後込みしそうになる。
「俺たちはこれだけの絆で結ばれている!俺たちは負けない!」 「図に乗るな!」
雷矢は自身の最大の必殺技、雷凰翔破の構えに入った。
「おまえたちが抱く仲間の絆とやらも、すべて吹き飛ばしてやる!左腕で繰り出す技は本調子ではないが、それでもおまえたちを倒す力はある!」
「たった一人で憎しみを燃やすことしかできないあんたに、そんな力があってたまるか!」
そう吼えたエイジは、仲間たちを見た。
「俺が決める!」
優馬や氷狩たちはそれを聞いて苦笑を浮かべる。
「やれやれ、こうなると止められないな」 「最後を決めるのは、綾崎さんがふさわしいと思うが・・・・」
仕方ないと言う二人は、ユニアースとグルスイーグの勾玉をエイジに送った。伝助、そして彼らを見たハヤテも勾玉を差し出す。
エイジは、それらすべてを自分のドランリングに挿入した。
「雷凰翔破!」
雷矢と同時に、ウェンドランも必殺技を放った。
「流星暗裂弾!」
二つの必殺技の威力がぶつかり合った。
「そんな技など・・・・」
だが流星暗裂弾は雷凰翔破の威力を打ち消し、そのまま雷矢に襲い掛かる。
「なっ・・・・」
ウェンドランの拳には、ワイステインとシルフィードの風の力、ユニアースの土の力、グルスイーグの氷の力が宿っていた。+四体分の精霊の力を加えた必殺技を受けた雷矢は、大 きく飛ばされてしまった。
持てる力のすべては出し尽くした。これで終わるはず。
だが・・・・。
「ま、まだだ・・・・」
まさか、奴は不死身なのだろうか。
倒れてしまった雷矢は、よろよろと立ち上がる。しかしダメージが大きいのか、ライオーガとの一体化が解けてしまう。
それでも雷矢は戦う姿勢を見せた。その目に憎しみを帯びて。
「まだ俺は・・・・」
すぐにまた倒れても、その身を這って進もうとする。そこまでしても体を突き動かす雷矢の憎しみに戦慄を覚え、もうどうしようもないのではとエイジが感じたその時だった。
「もうやめてください!」
次回、ある人物によって戦いが終わり・・・・?
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Re: 新世界への神話 ( No.95 ) |
- 日時: 2011/04/06 22:56
- 名前: 大魔王
- どうも、大魔王です!!
早いですが、お気になさらず それでは、感想です 雷矢敗北ですか•••• 雷矢の強さも凄かった けれど、仲間との絆•信頼•友情の前では憎しみは散る•••••という事なんですかね? まぁ、とどめを差したのはエイジでしたが良かったと思います けれど、十四の精霊の力を喰らってもまだ戦える(?)のですか••••• ほんと、彼の憎しみはどれ程深く強く苦しいのでしょうか? そして、最後に登場したある人物とは!? 続きが気になります 更新頑張ってください♪ 大魔王でした おやってら〜♪
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Re: 新世界への神話 ( No.96 ) |
- 日時: 2011/04/07 00:46
- 名前: 氷結アイスブリザード
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=6562
- こんばんわ
みんなのコンビネーションや連携で強力な戦闘力も持つ雷矢と戦ってますね もし一人一人で戦っていたらやられてましたね 幻摩雷光の時も仲間同士の連携がとれてなければアイシングファングもきまりませんでしたし 氷狩いい活躍してます^^ さすがの雷矢も4対の精霊の融合攻撃にはやられましたね やはり仲間との絆は強いです。 しかしそれでも戦おうとする雷矢。ハヤテの兄だけあってタフはやはりすさまじい
最後に現れた人はいったい? 更新がんばってください それでは〜
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Re: 新世界への神話 ( No.97 ) |
- 日時: 2011/04/08 18:55
- 名前: RIDE
- どうも。
まずは、レス返しからいきます。
大魔王さん
>どうも、大魔王です!! >早いですが、お気になさらず >それでは、感想です
いつもありがとうございます!
>雷矢敗北ですか••••
正確には彼はまだ負けたというわけではありません。 彼が負けたと認めるのは、今回です。
>雷矢の強さも凄かった >けれど、仲間との絆•信頼•友情の前では憎しみは散る•••••という事なんですかね?
一人よりも二人、二人よりも三人のほうが良いと昔から言いますしね。 まあ、ただ数が揃っていれば良いというわけではありませんし、雷矢を倒せた要因はそこにありますよ。
>まぁ、とどめを差したのはエイジでしたが良かったと思います
そうですか。そう言ってもらえると安心しました。 エイジ「いや、熱くなりすぎちゃってさ・・・・」
>けれど、十四の精霊の力を喰らってもまだ戦える(?)のですか••••• >ほんと、彼の憎しみはどれ程深く強く苦しいのでしょうか?
今までの人生の中で彼を突き動かしてきたものですから。
>そして、最後に登場したある人物とは!?
簡単に予想できたと思いますが、今回で明らかとなります。
>続きが気になります >更新頑張ってください♪
そう言ってもらえると嬉しいです。 大魔王さんも小説頑張ってください!
氷結アイスブリザードさん
今回も感想ありがとうございます!
>みんなのコンビネーションや連携で強力な戦闘力も持つ雷矢と戦ってますね
彼らの連結力は並じゃありません。 まあ、ハヤテは少し遅れているところはありますが、一ヶ月ほどの付き合いしかないので仕方ありません。
>もし一人一人で戦っていたらやられてましたね
一対一では、雷矢のほうに大きく分がありから。
>幻摩雷光の時も仲間同士の連携がとれてなければアイシングファングもきまりませんでしたし >氷狩いい活躍してます^^
氷狩「見せ場がサポートとはいえ、喜んで頂いて嬉しいです。」
>さすがの雷矢も4対の精霊の融合攻撃にはやられましたね >やはり仲間との絆は強いです。
彼らは励ましあって、心の力を高めていきます。 そのため、絆はエイジたちの最大の武器となっているのです。
>しかしそれでも戦おうとする雷矢。ハヤテの兄だけあってタフはやはりすさまじい
ええ。今までハヤテよりも波乱万丈な人生を送っていたのですから。 そのために憎しみも強いです。
>最後に現れた人はいったい? >更新がんばってください
いよいよ明らかになる最後の人物。果たして・・・・
お二方、感想ありがとうございます!
それでは、第24話後半、そしてこのスレでの最後の話です。
2 この場に女の声が響いてきたかと思うと、誰かが雷矢のもとへ駆け寄ってきた。
「マリアさん?何故ここに・・・・」
そう。この場に現れたのはとらわれていたマリアであった。
なぜここに、と首を傾げるハヤテの肩を、後ろから塁が叩いた。彼がマリアを助け、ここまで連れてきたのだと理解した。
「決着は着きました。もう戦う必要はありません」
マリアは自分の膝を枕にして雷矢を介抱する。
「だから、もうこんな戦いはやめてください・・・・」
とても悲しそうな表情で訴えるマリア。その姿を見て、雷矢の刺々しい憎しみも落ち着いてくる。
「何故、俺を助ける?」
雷矢にはわからなかった。
「三千院家側のおまえたちにとっては、俺は敵でしかない・・・・」
この問いに対し、マリアはこう答えた。
「あなたの憎しみの陰に、助けて欲しいという思いを感じたような気がしたんです。その時、私たちは分かり合える。そう思いましたから・・・・」
そして、彼女は満面の笑みを浮かべた。
それを見た雷矢は、胸の奥から暖かいものがこみ上がってきた。マリアの優しさ、自愛 というものが胸に込み上げてくる。
こんなものを、雷矢は生きていた中で感じたことはなかった。
頬を伝う何かに気付かないほど、彼は感動していた。
「泣いて・・・・いるのですか?」
マリアに言われ、自分が涙を流していることに始めて気付いた。
「涙・・・・?」
もう泣かないと決めていたのに、何故・・・・?
自分でも疑問に思う雷矢。ふとマリアに目を戻すと、彼女はまた自分に向けて微笑んだ。
彼女を前にして、涙を流したことはもうどうでもよくなっていた。彼はただ、涙を触った 手を大事そうに握り締めた。
その光景に、エイジたちはホッとしていた。マリアが飛び出したときはどうなるかと冷や 冷やしたが、何事もなく、むしろ自分たちではできなかった雷矢の心を動かしたことに感心 していた。
「まさか、メイドさんの笑顔ひとつで解決なんてな・・・・」
優馬は肩をすくめた。
「けどあれが、本来僕たちがすべきことなんですけどね・・・・」 「こんな騒ぎを起こしたあの男に対して、俺たちもつい力づくなやり方になってしまいましたしね」
伝助、氷狩が続けて言う。精霊の使者としての使命を考えれば、本来はマリアのような解決方法が望ましい。
だが、窃盗、果ては殺人まで犯し、憎しみを募らせる雷矢に戦うしか方法がないと思い込んでいたのだ。
「ま、あのメイドさんの笑顔を前にしたら、誰も縮こまるって・・・・」
先ほど、マリアが牢屋から脱出した時のことを思い出し、塁は苦笑する。
「あら・・・・」
それが聞こえたのか、マリアは塁に顔を向ける。
「どういう意味ですか?」
そして、彼に向けて笑顔を見せた。
それは雷矢に対しての無垢な笑みと同様だった。同様であるのだが、何故か恐ろしいプレッシャーを放っているような気がして、塁だけでなくエイジたちも身を強張らせてしまう。
彼女には、逆らわないほうがよい。
このとき彼らは、そう固く誓ったのだった。
「俺の・・・・負けだ」
雷矢は柔和な表情を見せた。
「俺はおまえたちに、そしてこのメイドに完敗した」 「そういうことだ。思い知ったか」
笑って威張る塁に、エイジは呆れてため息をついた。
「・・・・塁さんは何もしてないっスよ」 「まったくですね」
伝助は思い切りよく塁の頭を叩いた。
「痛・・・・あ、伝さん!生きていたんスね!」
喜びを露にする塁だが、伝助は顔を詰め寄り、容赦なく塁を責めた。
「人が死ぬかもしれない戦いをしていた時に、君は何をやっていたんですか?」 「え、ええーっと・・・・」
詰め寄られて、塁の視線が泳いでしまう。
「お、おれだって陰鬱の使者を倒したし、あのメイドさんだって・・・・」 「その間、グルグルと迷っておられたようですけど?」
にこやかな表情で釘を刺さすマリア。また、どこか黒いものを浮かばせていた。
それにより塁は反論できなくなって萎んでしまう。エイジたちはその様子を見て笑った。
「ふっ・・・・」
それにつられてか、雷矢も笑顔を見せた。温かみのある笑顔を。
「おまえたちのような者が、三千院家についているとは信じられんな・・・・」 「一体、三千院家にどんな恨みを持っていたんだ?」
優馬の問いに、雷矢は答えてくれた。
「俺が飛ばされた開発区は、三千院家が主導となって開拓していた。だが奴らは、三千院帝は先行きが不安だということでそれを打ち切った。そこに住む者たちに何の補償もしないままに」
言葉の端々に怒りを込める雷矢。
「そこはスラムとなり、力が支配するようになった。人も変わった。だから、三千院家が許せなかった。だが・・・・」
そこで雷矢は自嘲するような表情を見せた。
「おまえたちとぶつかり、負けたことで、そんなことはどうでもよくなってしまった。これからどうするか・・・・」 「まず、両親をはじめとしてあなたが殺めた人々に対して罪を清算しなくてはなりません」
伝助は教えを説くように口を開く。
「それから後は、一緒に考え・・・・」
だがすべてを言い終わる前に、突如として地面が大きく揺れ出した。
谷底の岩崖が崩れ始め、岩石が次々と落下していく。
「な、なんだ!?地震か?」 「このままじゃ全員生き埋めになってしまう。なんとかここから出ないと・・・・」 「ええ!あなたも早く・・・・」
マリアは雷矢を起こして連れて行こうとしたが、その雷矢はマリアをエイジたちのほうへ突き飛ばした。
「キャッ!な、なにを・・・・」
マリアだけでなくエイジたちも呆然とする中、雷矢はハヤテに向かってこう言った。
「ハヤテ。おまえも俺に劣らず苦労してきたんだよな。そんな弟に手を上げようとした兄を許してくれ・・・・」 「ま、まさか・・・・」
まるで別れの挨拶のような言葉に、ハヤテたちは動揺してしまう。
そこで雷矢とハヤテたちの間に巨大な岩石が割って入り、雷矢の姿を見えなくした。
「兄さーん!」 「雷矢さーん!」
ハヤテとマリアの叫びは、轟音によってかき消されてしまった。
雷矢、そしてハヤテたちの運命は・・・・?
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Re: 新世界への神話 ( No.98 ) |
- 日時: 2011/04/09 14:05
- 名前: 大魔王
- どうも、大魔王です
それでは、感想です 声を掛けたのはマリアでしたか…… 凄いですねメイドって あの憎しみの塊だった、雷矢の心を救ったのですから 確かに、“笑顔で解決”ですね♪ 聖母マリアのような顔と悪魔のような恐ろしい顔 2つの顔を持つ彼女には逆らえませんよね♪ そして、雷矢の憎しみの原因が明かされましたね ……あのジジイは、一体何がしたいんだろう 理由を聞くと帝を憎んだのも分かります 酷いですからね 多分、本人に言っても無駄でしょうが……… そして、洞窟が崩れ始めましたね マリアを庇った雷矢は無事でしょうか? 続きが楽しみです それでは、大魔王でした 次スレでも頑張って下さい
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Re: 新世界への神話 ( No.99 ) |
- 日時: 2011/04/10 00:08
- 名前: 氷結アイスブリザード
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=6702
- こんばんわ
氷結です。 マリアさんはやはりさすがですね しかもすさんでいた雷矢の心を聖母のように癒したのですから そしてもひとつの笑みでさっきまで勇敢に戦っていた人たちを怖がらせた。 あのじいさんほんとひどいなー アテネでもハヤテにひどい選択を言ってハヤテを苦しめたりしたし あの帝は一回でもいいことしたシーン原作で一回も見たことないし 洞窟が崩れてしまう バトルが終わったあと建物とか壊れるシーンは王道ですね 続き楽しみです。
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Re: 新世界への神話(次スレへ続く) ( No.100 ) |
- 日時: 2011/04/10 18:45
- 名前: RIDE
- どうも。
このスレ最後のレス返しです。
大魔王さんへ
>どうも、大魔王です >それでは、感想です
いつもありがとうございます。
>声を掛けたのはマリアでしたか…… >凄いですねメイドって >あの憎しみの塊だった、雷矢の心を救ったのですから
同感です。しかも彼女はとても有能ですからね。
>確かに、“笑顔で解決”ですね♪ >聖母マリアのような顔と悪魔のような恐ろしい顔 >2つの顔を持つ彼女には逆らえませんよね♪
タイトルはこれを意識して付けました。 マリアさんは三千院家では最強とも言われている存在ですから。 彼女に適う人はそうそういないと思います。
>そして、雷矢の憎しみの原因が明かされましたね >……あのジジイは、一体何がしたいんだろう
この小説では、私なりの考えで帝を解釈しています。 何がしたかったのかはかーなーり後になって明らかになると思います。
>理由を聞くと帝を憎んだのも分かります >酷いですからね >多分、本人に言っても無駄でしょうが………
あのジジイは、じぶんのこと以外はああいう風な態度だと思います。 それでいて頑固ですから。まあナギの祖父だということを考えれば当然かもしれません
>そして、洞窟が崩れ始めましたね >マリアを庇った雷矢は無事でしょうか
さあ、どうなるのでしょう? このように焦らすのが好きです。困った性格だ。
>続きが楽しみです >それでは、大魔王でした >次スレでも頑張って下さい
はい、頑張ります!
氷結アイスブリザードさんへ
>こんばんわ >氷結です。
今回も感想ありがとうございます。
>マリアさんはやはりさすがですね >しかもすさんでいた雷矢の心を聖母のように癒したのですから >そしてもひとつの笑みでさっきまで勇敢に戦っていた人たちを怖がらせた。
マリアさんの慈愛はとても暖かいです。 そしてマリアさんのオーラは夜の暗闇よりも怖い(汗)
>あのじいさんほんとひどいなー >アテネでもハヤテにひどい選択を言ってハヤテを苦しめたりしたし >あの帝は一回でもいいことしたシーン原作で一回も見たことないし
確かに、あのジジイは優しさという字はありません。 帝はただ、現実のみを突きつける人です。決して逃げることの許されない現実を。
>洞窟が崩れてしまう >バトルが終わったあと建物とか壊れるシーンは王道ですね
確かに、そう思います。 私はアウトローもそうですが、王道は好きです。
>続き楽しみです。
期待に添えるよう頑張ります!
100スレに達したので、次スレへと移ります。
タイトルは、続・新世界への神話です。
下のURLからいけます。
http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129
感想をくださった大魔王さん、氷結アイスブリザードさん。 そしてこの作品を見てくださった皆さんありがとうございます。
次スレでもよろしくお願いします。
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