Re: 新世界への神話 ( No.39 )
日時: 2010/01/26 21:33
名前: RIDE

更新します。
今回から第15話です。


  第15話 氷の使者たち

 1
「ただいま」

 とある少年が帰宅してきた。返事をしたのは、彼の伯父であった。

「おかえり」

 少年の両親は海外に赴任しているため、彼は伯父の家に厄介していた。その伯父はテレビで放送されているスピリアルウォーズを見ていた。少年もリビングに入って一目見る。

「どうしても行かないのかい?招待されたんでしょ?」

 三千院ナギから少年宛てに手紙が送られてきたことは、伯父も知っていた。しかし少年は興味なさそうにそっぽを向いた。

「何度催促されても、あんな金持ちの道楽のような見世物に参加する気はないよ」
「自分だって普通の家庭よりも裕福なのに、そんなこと言えるのかな?」

 伯父の皮肉を無視して、少年は中継を見る。彼の仲間たちが出ていることに対して、意外そうに目を細めた。

[勝者、ウェンドラン!]

 そして、ウェンドランと使者の少年の戦う様を見て、少年は立ち上がった。

「悪いけど、また外出してくる」

 リビングから出て行く少年を見送る伯父は、どこに行くのか見当がついていた。

 自分の部屋で少年は支度をはじめた。

「エイジ、おまえは特別な思いをもって戦っているみたいだな」

 少年のもとに、蜥蜴のような精霊が出現する。

「でもそれがどれほどのものなのか、皆がどんな思いを抱いているのか、確かめよう。行くぞ、グルスイーグ」

 少年は腕にグルスリングを着け、戦いの場へと向かった。



 第二試合のCとDに組み込まれたのは、ヒナギクとソニアであった。

「生徒会長風情が、しゃしゃり出るものじゃないわよ」

 バロディアスを従えたソニアは、ブツブツと物言ってくる。

「本当、でしゃばりね」
「ちょっと、いつまで独り言言っているつもり?戦う気あるの?」

 対して、ヒナギクは余裕であった。

「その態度、気に入りませんね。神の許で改めてもらいます」

 聖職者らしい言葉だが、獣のような戦意は剥き出しである。

「行きます!」

 ヴァルキリオンとバロディアスは真っ向からぶつかり合った。ヴァルキリオンの氷の剣を、バロディアスの鋼の腕が受け止める。

「地下のダンジョンでの決着、ここで着けましょうか!」

 あの時は悪霊が現れたために勝負はつかなかったが、今度は邪魔が入らず、思い切り戦うことができる。

「はあぁぁぁ!」

 ジリジリと押していたバロディアスはさらに力を強め、ヴァリキリオンを押し出した。そ
こからバロディアスは連打を打つが、ヴァルキリオンは迫り来るそれらをなんとかかわし、体勢を整える。

 パワーでは勝てないと判断したヴァルキリオンは戦法を変える。バロディアスを撹乱させながら一撃ずつ与えていくというヒットアンドアウェイでいく。

「甘い!」

 しかしバロディアスは惑わされず、ヴァルキリオンの攻撃にしっかりと会わせてくる。そのため、効果的なダメージが与えられない。

「攻撃にさえ注意すれば、撹乱行為なんて意味がないわ!」

 そして、いずれはその姿を捉えられる。ヴァルキリオンの動きを予測できるようになったバロディアスは、その腕を掴んで遠くに投げ飛ばす。低空に飛ばされたヴァルキリオンは手を地に突け、自分の体を押し上げて華麗に着地する。

 相手のペースを乱す戦い方が通用しなくなったヴァルキリオンは、ただひたすらにバロディアスへの攻撃を実行する。しかし、鋼の腕で攻撃を寄せ付けない上に防御力が高いので、やはり致命傷には至らない。

 逆にバロディアスは、ヴァルキリオンを必殺技の照準に定めた。

「クロスハンマー!」

 まず右腕でフックを、次に左腕でアッパーカットのパンチを繰り出し、相手の身体に十字を刻む。その十字の中心に、とどめのストレートを打ち込んだ。

 鋼の豪腕による必殺技は、ヴァルキリオンをダウンさせる。そのまま戦闘不能となってバロディアスの勝利になると思われたが、なんとヴァルキリオンは立ち上がってきた。

「そんな!」

 自分の腕力の強さには自信をもっているソニア。そんな彼女の自信を感じているためバロディアスもかなりの剛力で、その腕から放たれる必殺技、クロスハンマーはかなりの威力であるはずなのだが、ヴァルキリオンが立ち上がっているところを見て、それほど傷はついていないみたいだ。

 予想外のことに眼鏡の奥から目を大きく開かせているソニアは、ふとバロディアスの腕を見て、威力が半減した理由が判明できた。

 ヴァルキリオンが持っているのは氷の剣で、それを用いた攻撃をバロディアスは腕で防御していた。そのため何度も氷の剣の凍気を受け、いつの間にか腕は凍り付いてしまったの
だ。そのため、全力の必殺技を出せなかったのだ。

 使者であるヒナギクも意図していなかったみたいで、目を瞬かせていたが、チャンスだと理解すると、再び攻めに入った。

 まずは前に戦いでのエイジ同様、必殺技を放つ腕に狙いを定める。威力が半減しているとはいえ、油断はできない。

 氷の剣を脇に構え、バロディアスの腕に叩きつける。凍り付いているため砕かれやすい腕は、強烈な一撃によって機能を失ってしまう。

 あとはとどめを刺すだけ。しかしゆっくりと取れるほどのゆとりがあるとはいえ、バロディアスの高い防御力は健在であり、普通に攻撃していれば勝利を手に入れる前に疲労し、形勢は逆転してしまう恐れがある。

 だが、ヴァルキリオンには隠し玉があった。

「出し惜しみなんて好きじゃないから、ここで見せてあげるわ!」

 ヒナギクが余裕の笑みを浮かべると同時にヴァルキリオンが持つ氷の剣の凍気が増大し、ヴァルキリオンは一気にバロディアスの懐にもぐりこんだ。

「氷華乱撃!」

 斬り、薙ぎ、突きらの剣技による攻撃を何度もバロディアスに浴びせる。それは、氷の花が咲き乱れているように見えた。この必殺技によって、バロディアスは通常形態に戻ってしまうほどのダメージを受けてしまった。

[バロディアス戦闘不能、ヴァルキリオンの勝利!二回戦進出決定!]

 一段と大きくなった歓声に無関心を装いながらも、ヒナギクは充実感に浸っていた。それは必殺技の氷華乱撃の威力によるところが大きく、このイメージの確立のために彼女自身、剣道の鍛錬を積んだかいがあった。

「すごいですね、ヒナギクさん」
「ふふっ。どう?この必殺技は」

 感心しているハヤテを見て、ヒナギクはさらに得意げになる。

「ハヤテ君も覚悟しときなさい。まあ、決勝戦まで残っていればの話だけどね」

 ハヤテは第六試合に組み込まれた。そのため二人は大きく離れていて、鉢合うには彼女の
言うとおり、決勝戦まで勝ち続けなければならない。その条件は自分も同じだというのに、ヒナギクは決勝戦に出られるつもりでいた。

「桂さん、だっけ?悪いけど、俺には勝てないぜ」

 そんな彼女に、二回戦で戦うエイジが水を差してきた。

「虎鉄さんやあのシスターに比べれば、実戦経験の差で勝っていたけど、氷の精霊使いとしてはまだまだだな」

 その言葉に、ヒナギクは目尻を微かに上げたが、無言を徹した。

 二人は戦う前から、互いに睨みあっていた。