Re: 新世界への神話 ( No.29 )
日時: 2009/12/01 21:38
名前: RIDE

更新します。


 2
 同じ頃。

「大丈夫か?伊澄」
「ええ。こんな一本道で迷うことの方が難しいわ、ワタル君」
「その難しいことを成し遂げている気はしますけど・・・・」

 橘ワタル、鷺ノ宮伊澄、霞愛歌の三人は、班のメンバーである春風千桜とはぐれて、森の中を迷っていた。

 ワタルは少し後悔していた。伊澄が極度の方向音痴だということは彼もよく知っていた。だから自分がしっかりと先導しなければならなかったと責任を感じていたのだ。

「あの・・・・」

 申し訳なさそうに伊澄が口を開いた。

「私は道に迷ったのではありません。何か特別な力に引かれている、とでも言うのでしょうか・・・・」

 なんとも言い訳がましい言葉に、ワタルは内心ため息をつく。

 だが、愛歌には心当たりがあった。彼女はそっと胸元の石を触る。

 それは、三千院家の当主でありナギの祖父でもある三千院帝から手渡されたもので、持つ者に不幸を呼び寄せる呪いの石だと言われている物だ。だから、道に迷ってしまったのだと思ったのだ。

 しかし、伊澄を引き付ける力は、それによるものではなかった。



「は!?遭難?」

 雪路に呼ばれたヒナギクは耳を疑った。そんな険しい山でもないのに遭難?

「そうなんですよヒナ」
「遭難だそうなんですよ」

 実際は大変なことのようなのだが、美希と理沙の口ぶりでは緊張感がないように聞こえる。

 元々一緒にいたこの二人に加え、雪路の周りにはナギ、泉、千桜らがいた。彼女たちから、ハヤテたちや伊澄たちが行方不明だという報告を受けたのだ。

「というわけだからヒナ、こっちはあなたに任せるから、私たちは今から迷子の奴らを捜してくるわ」

 雪路のその言葉に美希たちは引っかかった。

「ん?」
「私・・・・」
「たち・・・・」

 それはつまり、誰かが雪路と一緒に行動するということだ。しかし、一体誰が?

「てことで、行くわよいいんちょさん!」
「ええ!?ちょっ、わたしー!?」

 泉は異議を挟む暇も無く雪路に引っぱっていかれた。

「もう、お姉ちゃんったら・・・・」

 ヒナギクは姉の強引さに呆れていた。その隣で、ヴァルキリオンが何か警戒している様子でいることに、彼女は気付かなかった。



 ハヤテ、虎鉄、東宮の三人は山の中をさ迷っていた。

「ここはどこだ?」
「やっと二人きりになれたね」

 考え無しに突っ走ったため、現在地もわからず、どの道を行けば戻れるのか見当がつかない東宮。虎鉄に至っては、ハヤテとのムードに浸っている。

「バカですか、あなたたちは」

 二人に呆れながらハヤテは何とか戻ろうとしていた。

 そんな時だった。向かい側から木が砕けるような大きな音がした。

 前を向くと壁のようなものが行く手を遮っている。見上げると、それは大きな熊であった。

 何故こんな大きな熊が!?

 現実逃避しかけたが、それは一瞬だった。

 巨大熊は、三人を見るなり唸り声を上げて襲い掛かった。

「うわぁぁぁぁっ!!」

 三人は、全速力で逃げ出した。

「なんなんだあれは!?ていうか、なんで襲ってくる!?」
「知りませんよ!」
「野々原〜、野々原〜・・・・。あっ!」

 泣きながら走っていた東宮が躓いた。その彼に向かって巨大熊が牙を向けようとした。

「させるかぁっ!!」

 ハヤテは振り返り、巨大熊の顔面に蹴りを入れた。

「綾崎―ッ!!」

 歓喜極まって東宮はハヤテに抱きついた。

「わっ!こんな時になに抱きついてるんですか!」

 全力でのキックだが、あの巨大さではまったく効くとは思えない。せいぜい怯む程度であろう。

 早く逃げなくてはと東宮を急かそうとした矢先、巨大熊が再び爪を振り下ろそうとする。

 ハヤテの本能が危機を告げた。本当にマズイと・・・・。

「逃げて!東宮さん!」

 被害が及ばないよう、東宮を突き飛ばすハヤテ。

 そして、巨大熊の爪がハヤテを捕らえようとした。

 しかし、そうはさせんとシルフィードが現れ、解放形態となって風の力で熊の爪を受け止めた。

「シルフィード!一体・・・・?」

 突然現れたことにハヤテは驚くが、シルフィードはその驚きをさらに大きくするようなことを言った。

「こいつ、精霊の力を受けて凶暴化している」
「ええ!?」

 驚きは疑問に変わった。何故熊が精霊の力を受けているのか。

「おい!行き止まりだぞ!」

 虎鉄の言葉でハヤテは思考を停止した。彼らが逃げる先は、谷となっていた。

 まさに絶体絶命。そんな場に近づいてくる人影が。

「こっちです・・・・」

 ワタルと愛歌は、伊澄に先導されながら進んでいた。

「本当にいいの?彼女についていって」

 愛歌は不安だった。他に追いつく手段がないとはいえ、無闇に進むのもかえって状況が深刻化するかもしれないからだ。

「平気平気。伊澄はその、か弱いだけの女じゃないっていうか・・・・」

 頬を赤らめて目を泳がせるワタルを見て、愛歌は納得する。

「そういうところがスキなんだ」

 はっきりと言われたワタルは吹き出してしまった。

「なななな、なに言ってんだよ!!べべべ別にスキとかそんなんじゃなくて!!!」
「ふ〜ん」

 真っ赤になって慌てるワタルを愛歌はおもしろがって見ている。

「あ・・・・」

 伊澄のその一言によって二人は正面に向き直った。

 彼女たちは、ハヤテたちと巨大熊が戦っている場面に遭遇してしまった。

 しかも、巨大熊は三人に矛先を変えた。

「うわぁぁぁ!」

 逃げ出そうとするワタルだが、伊澄や愛歌の足では逃げ切れないと判断し、逆に彼女たちの前に出た。

「伊澄やねーちゃんはやらせねぇ!」

 ワタルは二人をかばって熊の一撃を受ける覚悟を決めた。

「人の生徒に手を出すんじゃねぇー!」

 熊が一撃を繰り出す前に、雪路が熊の顔面に蹴りを入れた。

「大丈夫!?みんな!」

 泉も駆け寄り、全員に怪我が無いことにホッとする。ただ一人、ワタルだけが伊澄の前で格好をつけたのに、空振りで終わってしまったことに軽くショックを受けていた。

「ここは私たちが、なんとかするわ!」

 巨大熊の前に、ハヤテ、虎鉄、雪路が立ちはだかった。