Re: 新世界への神話 ( No.34 )
日時: 2009/12/31 22:42
名前: RIDE

今年最後の更新です。
この回も最後で、来年からは新展開です。


 2
「止めんか!」

 一触即発になるところをナギが仲裁に入った。

「おまえら、少し場をわきまえてもらいたいな」
「だ、だけどナギさん、彼はあまりにも失礼すぎじゃあ・・・・」
「私の言うことが聞けないのか?」
「は・・・・はい」

 ナギに逆らえず渋々従うその姿に、エイジではないが哀れに思うだろう。

「そんなに戦いたいのなら、やるべき時と場所でやるんだな」

 しかし、エイジはなおも反発する。

「ふざけるな!そんな戦いに出る気はないって何度言わせるんだ!もう帰るぜ!」

 ドアに向かうエイジの後を、佳幸たち八闘士も続こうとする。

「どうしてもやらないというのか」
「さっきからそう言っているだろ」
「そうか」

 するとナギは悪めいた笑顔になる。

「ならば仕方ない。おまえたちの家族には不幸になってもらうしかないな」
「なに!?」

 エイジは踵を返してナギに食いついた。

「おい、それはどういうことだ!?」
「言ったとおりだ。このまま戦いに参加しないのなら、おまえたちだけでなくその周りにいる人たちにまで圧力をかけるつもりだ」
「お嬢様、そんな脅しはいけませんよ!」

 それまでハラハラしながら事の進行を見守っていたハヤテは黙っていられなくなった。

「ナギ、その横柄な態度は生徒会長として見過ごせないわ」
「お二人の言うとおりです。少し落ち着きになられてはどうですか」

 ヒナギクとマリアも進言するが、ナギは依然として頑固であった。

「そこまでしてもこの戦いは運行しなければならない。そのためには、あいつらにも参加してもらわなければならないのだ」

 だから強引な手段を使っても構わないと言わんばかりに胸を張るナギ。だがそんな脅迫にも動じない者がいた。

「そんなことをしたら、こっちも黙っていられないわ。美野グループを怒らせれば、いくら三千院でも火傷じゃ済まないわよ」

 裕福な家系の子息が通う白皇の生徒である花南も当然、複数の企業を経営する実業家の令嬢である。その実業家グループは、財界に名高いというわけではないが、それなりに力があった。

「私を止めることができると思っているのか?」
「少なくとも、ワガママなチビ女は止められるわ。自分の勝手で大騒動なんて起こしたくないでしょう?」

 彼女たちは不適に笑いあう。

「そういうことだ」

 花南の仲間であるエイジたちは何も問題が無いかのように去ろうとする。高飛車な性格が目立つため、やられたらやり返す考えの持ち主であることは承知していたし、自分や仲間の
ためならば、それくらいやるのだろうとわかりきっていたからだ。

「悪いけど、俺たちは帰るぜ」

 エイジたちは今度こそ立ち去ろうとする。しかし、どうしても彼らに戦ってもらいたいものが他にもいた。

「逃げることは許さん」

 続いて現れたのはダイであった。彼の姿を見て佳幸は改めて檀上の五つの勾玉を見た。ブレズオン、ガイアース、バロディアス、タイガネル、ブライアル。どれもリダートに封印された精霊たちばかりである。

「なるほど。あなたも手を回したというわけですね」

 ナギとは違い、油断ならない相手なので慎重な態度をとる。

「これから激しくなると思われる戦いに備えて、おまえらには強くなってもらわなければ困る。俺が楽できるためにもな」

 最後の言葉は如何なものかと思ったが、確かにそれは正論でもあった。敵の強大さが把握できない以上、強くなることに越したことはない。楽しみたいという思う気持ちもダイの中にはあるのだろうが。

 それがわかったのか、八人は黙って退出しようとする。

「ちょっと・・・・」
「よい」

 追いかけようとする一樹をナギが制止する。

「もう返事など聞かなくともわかっている」
「そうだな」

 ダイもしたり顔で頷く。

「でも、どうせなら忍び込んでいる敵を退治してもらいてぇな」

 ダイはとある方向へ手近にあった物を投げつけた。それは、隠れていた招かれざる客に当たり、その者の人影が曝け出された。

「また偵察か。艶麗の奴も懲りないな」

 呆れてしまうダイ。しかし逃がすつもりはない。

「よし、僕が相手だ!」

 ナギの前で格好つけようと、一樹が自ら一歩前に出る。エイジの言うとおりでしゃばりの
ようだなとダイは思った。

「ガイアース!」

 その声とともにリングと勾玉が独りでに飛び出してきた。リングは一樹の腕に自ら装着し、勾玉からは光が発し、それが段々とガイアースをかたどっていった。

「行けっ!」

 命じられるままに、人型形態のガイアースは密偵に挑みかかった。

「サビ?ナ!」

 対する密偵も自らの精霊を呼び出す。ムササビに似た精霊が人型形態に変わり、ガイアースと衝突し始めた。

 二体共に殴りあう。互角の戦いのように見えた。

「一気にかけよう!」

 スパートを上げるガイアース。サビ?ナを一方的に攻撃しつづける。

「今だ!」

 ガイアースの必殺技、地砕爆慎拳がサビーナの胴に見事に入った。ハヤテとヒナギクはそのまま封印されるかと思ったが、サビ?ナは寸前で威力を受け流す体勢に入っていたため、受身を取って立ち上がった。

「そんな!」

 驚く一樹とは対照的に、密偵は勝ち誇る。

「その程度か?」

 今度はサビ?ナが攻める番となった。ガイアース以上の執拗なラッシュに、防御を取る間
もなく殴られる。

「今度はこちらの必殺技をお見せする番だ」

 サビ?ナはわずかに後退し、脚を屈めて力を溜める。

「グラインドプレス!」

 そのままグライダーのように跳び上がって、ガイアースにのしかかった。

「こ、このままじゃ・・・・」

 一樹は苦戦していた。サビ?ナが退いた後もガイアースは地に蹲っており、どうすればいいか解らずにいる。

 それを八闘士たちは興が冷めたような表情で見ていた。

「なにあれ、弱っちいわね」

 花南は嘲るようにため息をついた。

「あの一樹って奴、ケンカ弱いんじゃねえか?」
「おまえ、見た目だけで判断するのは早計だぞ」

 塁と優馬はそれぞれ感想を口にする。

「しかし、彼に何事がなくても、あの男に逃げられる可能性はあります。それは阻止しないといけません」
「まったく、あのお嬢さんのためになんてゴメンなんだけどな」

 伝助は冷静に指摘し、エイジは渋々な態度を示す。

「でも、あの程度の敵に大勢でかかるのはよくありませんよ。ここは僕が」
「待て佳幸、俺に行かせろ」

 勇み出る佳幸を達郎が止める。そんな二人の前に立った者が。

「悪いね、僕が出るよ」

 拓実は、自分のリングをかざして見せた。

「あの子に精霊の戦いの見本にもなるし」
「親切だな、おまえ」
「必ずしもよい方向に行くとは限らないぞ」

 塁とは優馬は苦笑するが、拓実は心配がなかった。

「僕は信じているからね。いくよ、アイアール!」

 拓実がそう叫ぶと、彼の精霊である金のアイアールが出現し、金色の弓をを持った人型形態と変化する。

 そのまま密偵とともに逃げようとするサビ?ナの前に立ちはだかった。

「ちっ、どけ!」

 厄介なので強引に押し通ろうとするサビ?ナと密偵だが、アイアールによって軽く突き飛ばされてしまう。

「くっ・・・・」

 無視して通り過ぎることができないと判断した密偵は、やむを得ずサビ?ナをアイアールと戦闘させる。アイアールはサビ?ナの攻撃を振り払いながら刃のついた弓で確実にダメージを与えていく。

「こうなったら・・・・」

 叶わないとみた密偵は、サビ?ナにグランドプレスを放たせる。アイアールはかわしたのだが、この必殺技の前に怯んでしまい、その隙に密偵とサビ?ナは全速力でこの場を離れようとする。

「逃がさない!」

 アイアールの手中にどこからか現れた金色の矢が握られ、アイアールはそれを弓に番えて、力強く引く。

「ゴールデンアロー!」

 そのまま矢が放たれると、標的に定められたサビ?ナに、逃走する以上の速度でもって矢が飛び、サビーナに突き刺さる。この一撃でサビ?ナは封印されてしまった。

「ま、まさか・・・・」
「そこまでだ」

 自分の精霊が封印された事態に驚き、後ずさりした密偵を、ダイがしっかりと捕まえた。

「す、すごい・・・・」

 戦闘を眺めていた一樹は、自分とガイアースでは苦戦した相手をいとも簡単に倒した拓実とアイアールの強さに愕然としていた。このような者たちと戦って果たして勝てることができるのだろうか。

 一方で、ハヤテとヒナギクは今の戦闘で闘争心に火がついていた。

「この人たちのように強くなりたいわね」
「はい・・・・」

 そして、エイジたちは何も言わずに出て行ってしまった。

「いいのですか、ナギ?参加しないのかもしれませんよ?」

 マリアが一応尋ねてみるが、ナギには問題なかった。

「あいつらの答えは聞かなくても解ったと言ったはずだ」
「でも、少しやりすぎではありませんか?」

 彼らを参加させるための強制的な手段のことに、咎めるような調子で問いても、ナギは構わないと答えた。

「あいつらがとれる道は、戦うこと以外にないのだからな」