「支天輪の彼方で」5周年記念総括文  RSS2.0

4.読者に何を提供するか


Since : 2003.10.14
written by 双剣士
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従来

 読者はある種の期待をもってWebサイトを訪れる。そしてその期待とは『○○さんのサイト』でありさえすれば良い、▲▲に関連したサイトでありさえすればよいという単純なものではない。そこに行けばその人独自の小説やCGが見られる、そこでしか出会えない友人たちと交流できる等々の具体的な利益を提供する必要があり、それをサイト運営者は明確に意識しておく必要がある。

現在

 目的意識を持ってサイト運営をするという基本的考えは変わっていませんが、その目的に添うコンテンツの制作だけに専念したり掲示の際に優遇して扱うというのは、やや独善的な方向性だったかも知れません。運営者の考える目的と読者の求める魅力とは必ずしも一致しませんし、単一の色しか出せないWebサイトは初心者には趣旨明快でも常連さんにとっては飽きられやすいサイトだと言う見方も出来ますから。


 さて前章にて、当サイトでは方針Bに基づいて1年ごとに目標を掲げその達成度を測っていることをお話しました。方針Aを採らなかった以上は『自分で納得のいく小説を書く』ことを目標には出来ませんから、掲げる目標はあくまで読者からの意見や反響を持って評価できるものということになります。俗な言い方をすれば『読者に受けるコンテンツは何か』になりますね。


 以前の私ならば、これに対する答えは明快でした。
『質の高い新作小説の公開、それに尽きる』
 もともと私は器用なほうではありません。狭く深く集中的にのめりこむ、悪い意味での理系人間です。日常生活で遭遇する様々な事柄、コミック講読や小説書きの合間に時間を費やしている趣味や時間のつぶし方……様々な側面の集合体として私という人間が存在するわけですけれども、それらを並行して進めて他者の批評に耐えうるものに育てあげる自信はありません。したがって自分の趣味をWebに公開し読者からの批評を仰ぐにあたってはポイントを絞るべきだと考えました。そしてご存じのように自作SSの公開を唯一絶対のメインコンテンツとし、SSの内容に関する評価や意見が読者から寄せられることを期待していたのです。そのためには掲示板を有害だとすら思っていた時期があるほどに(1周年総括文を参照)。
 しかもこの決断には伏線があります。私は最初からSS集めをするためにインターネットの世界に入り、SS集めという趣味にどっぷりと浸かっていたころにWebサイトを開設しました(2周年総括文を参照)。当時の私のブックマークは8割以上が自作SSサイトであり、残りがオンラインソフト配布サイトだったと思います。したがって自分のサイトをデザインする際には他のSSサイトを参考にし、想定する読者像も自分と同じSS愛好家に設定したのです。そうすることが自然であったから。
 今にして思えば、ネットという新しいメディアで何が出来るのか、これもしたいあれもしてみたい、と好奇心旺盛に手を広げてみる時期をパスしてしまったと言っていいかもしれません。そのためでしょうか、大抵のサイトが持っているプロフィールや掲示板やチャット等のコンテンツに対してはほとんど興味がわきませんでした。読者としての私は『新作SSが出たことをチェックしやすく、そこへ効率よく(少ないクリック回数で)たどり着けること』に配慮してくれているサイトを『親切なサイト』だと考えていましたし、そういうサイトに出会ったら脇目も振らずにSSコーナーに直行していました。それ以外のコンテンツは読むことはあっても自分のパソコンに保存しようとは考えませんでした……こういう習性を持つ運営者が同種の読者を想定して作ったのが『支天輪の彼方で』だったのです。


 こういうスタートを切れたことは良いことだったと現在も思っています。サイトの目指す姿を明確にしたお陰で『何をすればいいんだ』と途方にくれることはありませんでしたし、他サイトのリンク集や検索エンジンに登録する際にも紹介文に迷うことはなくなりました。創作メインにしたからには全ての不満が『自分の実力不足』に還元されますので、他サイトに嫉妬したりアクセス数を改竄したりといった不毛な行為にも走らずに済みました。方針Bへと向かうレールが無意識のうちに引かれていたのです。


 さて上述のように目的だけは明確だった当サイトですが、全力をSS書きに費やすことで自他共に満足できるWeb生活を送れたかと言うと、そうではありませんでした。常に背を押されるような執筆姿勢がスランプを生み、そのことがますます弱気を招く。そしてそれが久しぶりに公開する新作SSに対する過剰な期待となり、反響皆無という現実に直面してさらに落胆の度を増すことになる……5年たった今だから他人事のように書けますが、当時は出口の見えない日々にもがき苦しみ、いつも後ろめたいような気持ちで更新ネタを考えていました。方針Bを取ったからには全ての責任は自分自身にあります。今度はオリジナル小説を書くぞ〜というつぶやき(3周年総括文を参照)などは新分野というかすかな可能性にすがろうという悲痛な思いの産物だと、今になって省みれば気恥ずかしいものすらあります。


 こうした悪循環を断ち切るきっかけは2つありました。1つ目は2002年1月に半月間だけ実施した、連載テキスト企画の予想以上の好反響、もう1つは2002年4月〜9月にわたって放映されたTVアニメ「ぴたテン」に伴う訪問者数の急増とその後の毎日連載小説の顛末です。後者については次章で詳しく述べますので、ここではテキスト企画の方について書きます。
 連載テキスト企画はその冒頭(このページ)で述べているように、書き癖を付けることと長年親しんできた執筆スタイルに新風を吹き込むことが目的でした。読者に無視されることを望んでいたわけではないですけれども、過去の毎日連載小説での実績からして半月間のうちに感想は0〜2通、それも同一人物から届くのが関の山だろうなと予想していたのです。
 ……実際やってみて驚きました。4周年総括文(このページ)に生々しい驚愕の様子が載っているとおり、予想を大きく上回る好反響を得たのです。しかも感想の差出人を見てみると、テキスト企画を目当てに来た新顔の読者さんだけでなく、これまで小説に感想を寄せてくれていた古参読者の方々がほぼ勢揃い、それどころか過去に一度も小説の感想を送ってくれたことのない相互リンク先の管理人さんまでが登場するという脅威のラインナップ。
 小説サイトを見に来る読者は小説を第一に求めているはず、という思いこみは木っ端微塵に粉砕されました。後で冷静になってから考えてみると理解できなくもないのです。小説を目当てに訪問する読者は、そりゃ最初は小説コーナーに向かいます。しかしそこで小説目次ページにブックマークを張りWWWC登録をして更新があるまで再訪問しない、などという行動をとるのは初期の私くらいなもの。普通の人は2度目に見に来て小説の追加が無いと分かったときには、他に何か面白いものはないかと当サイト内の別のページを見るんですよね。ですから小説以外のページを楽しみにしている読者というのは居て当然だし、ただでさえ新作の遅い当サイトに長年つきあってくれている読者さんがそういう行動をとったって何の不思議もないのです。


 このことに気づいたとき、SS純血主義という黒雲はパァッと吹き払われました。そうであるなら独り善がりな思いこみのために小説以外のコンテンツを期間限定公開に留めるのは、読者の利益に反することになります。これまで繋ぎのつもりで連載してきた戯言欄でのサイト紹介も、主要コンテンツのひとつとして扱う方が読者の意に添うことになります。それらに時間を割いたからと言って小説執筆がおろそかになる心配をする必要はありません、だって小説オンリーでの運営に限界を感じていた矢先だったのですから。


 そんなわけで去年から『支天輪の彼方で』は開設当初とは異なる方向性へと進み始めました。小説同様にテキスト企画も更新が遅いままなんですけど(笑)、サイト内の位置づけは明らかに変わっています。それもこれも読者の皆さまのお陰です。


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