従来の考え方について説明は要らないでしょう、過去4年間の総括文で毎年のように反省している事柄です。よって前置きは省略して、さっそく変化のきっかけになった事件について述べることに致します。
連載テキスト企画を終了してから2ヶ月後の2002年4月、ぴたテンのTVアニメ版の放映が開始されました。思い起こせばTVアニメ版守護月天やセイバーJtoXが放映されていた頃には、当サイトはまだ幼年期でブームの波に乗ることが出来なかったのです。この機を逃す手はないと思ってアニメ感想掲示板を設置しました。ひょっとしたら方針Cの『読者に育ててもらうコンテンツ』を手掛けるきっかけになるかも、という淡い期待もあったのです。
正門のカウント数は70ヒット/日に急増しました。1999年3月にSurfers Paradiseに登録して以来なにをやっても変化しなかった30ヒット/日のペースが、瞬く間に倍増してしまったのです。言うまでもなくぴたテンコーナーのアクセス数(直接リンクを含む)も急カーブを描きました。そして放映開始1ヶ月を過ぎてもカウント数は元に戻ろうとはしませんでした。新規読者さんは当サイトを見る価値ありと判断してくれたんだ……じ〜んと感慨に浸りながらアニメレビューの更新にいそしんだのを覚えております。
ところがしばらくするうち、妙なことに気づきました。アニメ感想掲示板への書き込みが皆無なのです。読者同士で盛り上がれる場を提供しようと言う方針Cの目論見は早くも崩れました。ひょっとして双剣士が長文レビューを書くから突っ込みにくいのかと思い、わざとレビュー記事を遅らせたりもしてみましたが、書き込みがないのは相変わらずでした。にもかかわらず、放映終了まで当サイトのアクセス数は落ちることはありませんでした。
この時の遅れが、巡り巡ってアニメ26回分のうち半分以上のレビューを落丁させてしまうという大失態に繋がっていきます。この点はいくら責められても仕方ありません……が、この経験から私の認識は変わりました。去年の時点でこれを書くとファンの方に怒られるかと危惧して控えていましたが、今なら良いでしょう。
『この増えた読者さんは、アニメ版ぴたテンと連携した情報があるから当サイトに通ってるんじゃない。アニメ化によりぴたテンの知名度が上がったことで、これまで当サイトを知らなかった読者さんが巡回してくれるようになった、それだけのこと』
つまり毎週更新されるホットな情報を求めてくるのではなく、アニメ情報とは関係無しにぴたテン好きな方々が通うようになったに過ぎないのです(もちろんぴたテンファンに来ていただけるのは嬉しいです。ここで述べてるのはアニメ版最新情報と来客数との関連のこと)。ホットな情報を絶えず追加し続けなければ読者に飽きられてしまう、という思いこみはここでも否定されました。そしてもうひとつ言えることは、
『読者の喜びそうなコンテンツを揃えることより、知名度向上という外的要因の方が、読者数およびアクセス数に与える影響は大きい』
という、運営者の努力とアクセス解析結果との間に相関があるはずという思いこみに冷や水を浴びせかける現実です。これまで信じてきたのは何だったんだ、と愕然たる思いに駆られましたね。
しかし悪いことばかりでもありません。2002年10月にアニメ放映は終わりましたが、当サイトの正門カウント数は50〜60カウント/日と僅かな減少幅で済みました。この事実は先ほどの推測……来客者の大半がTVアニメの最新情報目当てでなかったという推測を裏付けるとともに、この時点で残ってくれている読者さんたちは『支天輪の彼方で』というサイト自体を気に入ってくれている方々だということを意味します。これで張り切らないわけには行かないじゃないですか。
そこで遅筆癖に鞭を入れる意味も込めて、ぴたテンの毎日更新小説を開始しました。2002年12月から翌年2月まで続いた、6万ヒット記念の長編SSがそうです。過去2回+テキスト企画でゴール直前に挫折したという経験から、今回は原作を逸脱しても構わない設定とし最終回の日も決めずにスタートしてみました。何より大きな変化は、以前までは『一気に3〜4日分書いて休む』というペースだったのに対して、今回は『常に2日先の分を書く』という保険つきの毎日執筆体制に挑戦したことです。
この連載によって私はたくさんの発見をしました。最終日に詰め込むタイプだと思っていた自分に毎日執筆が可能だったこと、ネタが思いつかなくてもとりあえずキーを叩いているうちに進むことがあること、その気になれば朝方1時間半で小説って書けるもんなんだということ……さまざまです。こうした前向きな知見とそれが判明したことに対する覚悟については、連載最終回のあとがきに書きました(このページです)。
ですが本章は5周年総括文です。サイト運営に対してどういう知見を得たのか、そういう観点でこの連載期間を振り返ってみるとあまり楽しくない事実が見えてきます。
まず意外だったのは、連載以前に比べてアクセス数もページビュー数もぜんぜん増えなかったということです。連載小説はお勧めリンク集に負けないくらいのアクセス数を毎日稼ぎ出していたのですが、そのぶん別のページが割を食ってアクセスを減らしていることが判明しました。これは連載小説を読むために読者が増えたのではなく、今までも来てくれていた読者さんたちが当サイト巡回時間を連載小説のチェックに振り替えた、ということを意味します。連載小説という負荷の高い課題に挑戦するため他のコンテンツの更新を犠牲にすることは、総体的にはサイトの活性化に繋がらなかったのです。新作をまめに提供することが当サイト運営の正道であり読者の希望に沿うことである、という以前からの思い込みにまたしてもメスが入れられることになりました。
また目標としていたはずの毎日執筆を曲がりなりにも実行に移してみると、思っていたより自分自身に充実感がなかったことも驚きでした。毎日執筆を続けるためには日常の空き時間をすべて小説ネタの構築に当てなければなりません。そうしないと間に合わないからではなく、そういう生活が当たり前になってしまうのです。仕事も漫画読みも手につかないし、息抜きに外出や旅行に行こうという気持ちも浮かばなくなりました。繰り返しますが暇がないからではありません、常に小説のことを考えてないと不安になってしまう日々が続いたのです。
小説執筆以外の全ての日常生活を犠牲にし、それでもサイトの盛況には繋がらない……自分の目指していたことはこういうことだったのかとショックを受けました。プロの作家であれば生活の全てを創作活動に充てられることは本望かもしれませんが、私は趣味の範囲で創作を続けているアマチュア作家に過ぎません。たまにやる分には良いけれど、こんな生活を理想として掲げ続けているのはどうか……最終回のあとがきに暗いニュアンスが垣間見えているのは、こうした思いを抱いていたためなのです。
こうした経験を得て今後の方針をどう定めたのか、それは次の章で述べます。ここでは上記のような苦悩に薄明かりを差し込ませてくれた、ある経営学の本に載っていた言葉を挙げておくことにしましょう。手元にその本がないので要旨のみ書きますが……。
産業革命の後、大量生産の時代には『顧客の求めるものを、より安く』というのが製造業の経営戦略の基本であった。しかし20世紀初頭に生活必需品が顧客の手元に行き渡ってくると、今度は『必要ではないものを、顧客に欲しいと思わせる』つまり『市場を作り出す』戦略が重要になってきた。T型フォードの安価路線に対して、購買層に応じて車格や装備を変えたラインナップ戦略で対抗したゼネラルモータースの戦略は、そのさきがけとなるものである。これだぁって思いましたね。読者が求めているはずのものを愚直に作り続けることが唯一の戦略じゃない。アンケートなどで読者の要望を探ってもロクな結果は出てこない。重要なのはこちらの提供するものを読者に欲しがらせることなんだって。