Re: 新世界への神話 4スレ目 ( No.1 ) |
- 日時: 2020/01/12 22:00
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- どうも、RIDEです。
スレを立ち上げて一年ほど間が開いてしまいましたが、本日から更新再開です。
ここから駆け足で更新していく予定です。
それではどうぞ
第38話 刃に秘める勇気
1 闘の間を抜け、ハヤテたちは第八の間の前に。
門には、刃の間と刻まれていた。
「刃、か…」 「この中にいるのは、むやみやたらに刃物振り回す危ない人ってわけじゃないよな…」
物騒な発想をしてしまう。
「けど、それならここはヒナギクさんに任せましょうか」
ハヤテはヒナギクの方を見て言った。
「なんで私なの?」
自分が選ばれた理由がわからず、ヒナギクは尋ねる。
「だって、ヒナギクさんは剣の達人ですし、うってつけかと」
それを聞き、ヒナギクは思ってしまう。
自分のイメージが、まず剣だということはどういうことなのか。
確かに、自分は剣道部に入っている。自分でもそれなりに腕っ節が強いと思っている。
しかし、女の子に対して真っ先に思い浮かぶというのが強いというのはどうだろう。なんだか野蛮そうでいい気がしない。
「どうかしましたか?」
顔に出ていたのだろう。ハヤテが怪訝そうに顔を覗き込んだ。
「なんでもないわ」
そっぽを向く。こんな態度をしたら益々怪しまれるだろう。
何をやっているのだろう。自分でそう思ってしまった。
「大丈夫?」
軽い自己嫌悪に陥っていると、花南が声をかけてきた。
「心配してくれるの?」
普段は冷たいくせに、こんなときに気にかけてくれるなんて。いいところあるではないか。
「あんたも一応頭数に入っているんだからね。足引っ張るなんてことになったらこっちが困るのよ」
前言撤回。やっぱりこの女は口も性格も悪い。
「余計なお世話よ!」
つい、ケンカを買う調子で返してしまう。すると花南はそれに満足したようだ。
「その意気よ。あんたは頭の中でいろいろ悩んだって解決できないんだから。何も考えずに体動かせば自然と解決できるわよ」
この、相手を見下すような口調はどうにかならないのか。
苛立ちが募り、思わずこぶしを握ってしまう。
怒鳴りたいところだが、ここはこらえる。彼女の言うとおり、考えこんでもしょうがない。ここは行動で示さなければ。
それに、これが花南なりの励ましだということも、彼女と衝突したからわかっている。
礼は言わないが、彼女が驚くような活躍で応えたい。
「見ていなさい」
それだけ言い、ヒナギクは前へと進む。彼女に続いて、他の者たちも刃の間へと入っていった。
「てっきり鎧の間と同じように、刃がたくさん飾られているかと思ったけど」
達郎は刃の間を見渡していた。
「すっきりとしているな」
刃の間は、派手な装飾といったものはなく素朴なものであった。視界を遮るものはなく、一面を見渡せる。
罠の類も、見当たらない。
「まさか、ここの番人もいないってことは…」 「そううまい話はないようだ」
氷狩が達郎に前を指し示す。
彼らの先には、一人の女が待ち構えていた。
しかし、何か様子がおかしい。こちらに向かず、何かブツブツとつぶやいている。
「あなたがここの間を守る黄金の使者?」
ヒナギクが尋ねてみるが、それにも気付かず腕組みしながら悩んでいる。
侵入者が来たというのにこの体たらく。ここを守る気があるのだろうか。
「このまま通り過ぎてもいいかな」
そんなことを考えていた時だった。
「ん、おまえたちは誰だ?」
タイミング悪く、女はこちらに気づいたようだ。
「もしかして、先程から噂されている明智天師への反逆者か?」
ここで嘘をついてもしょうがないし、嘘が通じる相手とも思えない。
「そうだ」
ハヤテたちの緊張感が高まる。
黄金の使者との八回目の戦闘が始まるのか。
しかし、女は動く気配を見せない。何をするのかと身構えているが、こちらに対してまるでいないかのような対応を見せる。
しばらくして、女は腕組みをして考え込んだ。
「ちょっと!」
全員突っ込まずにはいられなかった。
「それが反逆者への対応!?」
自分の預かる間に人が来たのだから、それなりの対応はするのだろう。
何より自分たちは反逆者なのだ。討伐行動に出るべきではないのか。
「おお、そうだったな」
女は、何かを思い出したようだ。
「私の名はユラ。刃のレイズオンの使者であり、この刃の間を守る黄金の使者だ」 「あ、これはどうもご丁寧に」
とりあえず頭を下げてしまう。
「自己紹介は済んだな」 「ああ…って、呑気すぎるだろ!」
ユラとのやり取りで、調子が乱されてしまう。
この人は、この間を守る気があるのか。
「いや、おまえたちと戦っていいのか悩んでしまってな」 「悩みすぎでしょ!」
当人が来たのに煮え切らないその優秀不断な態度に、ツッコミと同時に海は呆れてしまった。
「まあまあ、何故そんなに悩むのでしょうか」
海を宥め、風は疑問を投げかけた。
「…確かに私は黄金の使者として、この間を守らなくてはならない」
ユラの言葉には、使命感が込められている。それはハヤテたちにも伝わっていた。
「しかし、同時に迷っている。改革が必要なのはわかるが、明智天師に加担しても良いのかどうか」
つまり彼女も、明智天師を疑っているのだ。
「なら、僕たちを通してもらえませんかね?」
拓実はこれを好機だと思った。
「こんな美人に憂い顔は似合わない。僕たちが明智天師のもとへ行き、必ずやその疑念を晴らしてみせましょう」
いつもの、女性へアプローチでもするかのように語りかける。
ここでユラから信頼を得れば、無傷でこの間を通り抜けることができる。
「だが、私はおまえたちも信用できない」
更にユラはこう言った。
「特におまえのような、軟派な男は信じられない」 「これは手厳しい」
やはり、簡単にはいかないようだ。
ユラは、言葉で丸めこめる人間ではない。行動で示すしかないと拓実は実感した。
「はっきりしないなぁ」
達郎は苛立ちを募らせていく。単純な性格の彼からすれば、決断しきれないその態度は好ましくないのだろう。
他の者たちも、達郎ほどじゃないが煮え切らないものを抱いている。
「だったら、その悩みをたち切ってやりましょう」
ヒナギクがユラに向けて一歩前に出た。
「私の剣を見て、それではっきりさせてもらいますから」
ユラは剣士であるという推測から、手合わせを願うヒナギク。剣道をやっているから、剣を振るえば解決できると思ったのだ。
「あら、やる気になったの?」
刃の間に入る前は渋々だったのだが、この変わり様に花南は少し目を見張る。
「ウジウジと悩むなんてじれったいもの」
とにかく、行動あるのみ。悩むよりも実行に。
「…本当におてんばね」 「けど、これが私だから」
女の子とは思えない活発さ。眉をひそめる者もいるし、時々自分も困る時があるが、今のヒナギクはそれを受け止めていた。
ユラはそんなヒナギクをまじまじと見ていた。
「おまえ、天邪鬼で負けず嫌いだな?」
突然、そんなことを言われてヒナギクは表情をむすっとさせる。しかし、ユラに悪意はない。
「そんな人間は私の好みだ」
そこでユラは天を仰ぐ。
「…あいつと一緒だ」 「あいつ?」
どこか親愛と物憂げな表情をしているのでヒナギクは気になったのだが、当然ユラは答えない。
「見せてもらうぞ、おまえの剣を」
今回はここまで。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 1月12日更新 ( No.2 ) |
- 日時: 2020/01/18 21:09
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します
2 ユラはレイズオンと一体化して剣を構える。
「負けないわ」
ヒナギクもヴァルキリオンと一体化し、剣を取り出した。
その手にしている剣は…
「白桜か」
その剣こそが、ヒナギクが本気であることを物語っていた。
一方のユラは白桜を見て感心している。
「まさか、その名刀を目の前にするとは思わなかったな」
ユラは、益々やる気になったようだ。
「その剣に恥じぬような使い手であることを祈っているぞ」
その言葉が、戦闘開始の合図となった。
ヒナギクとユラの剣が、互いにぶつかり合う。
相手を切りつけるために素早く振るわれた剣が、相手のそれと結びあう。互いにその応酬を繰り返す。
もちろんこれは、小手調べに過ぎない。
「この程度はまだ及第点だ。これだけでは実力があるとは言えないぞ!」
そう言い、一旦距離を取ったユラは一層素早さを増して剣を振るった。
ヒナギクは咄嗟に飛び退くが、かわし切れず剣の切っ先に捕らえられてしまう。彼女の身に、傷がつけられた。
「速い…!」
完全に見切れなかったことに、ヒナギクは衝撃を受ける。
「放心している場合かな?」
ユラは剣撃を次々と繰り出していく。ヒナギクは受ける一方で、自身の剣で防ぐことしかできない。
しかし、やられるばかりが桂ヒナギクではない。
剣撃が止む隙を見て、攻勢に転じた。
「今度はこっちの番よ!」
流れを自分のものにするため、ヒナギクは必殺技を放つ。
「氷華乱撃!」
斬り、薙ぎ、払いを次々と繰り出す。当たった箇所は凍結してしまう、ヒナギクの自信ある必殺技である。
白桜がユラを捉える。ユラの頭が、胴が、足が凍りつく。
「やった!」
しかし、その喜びも一瞬であった。
ユラの身体から、氷の破片が次々と飛び散っていった。
「自ら凍結を破った?」
動きを止めたところに重い一撃を見舞わせるつもりだったのだが。やはり一筋縄ではいかないということだ。
それでも、何度でも放てば。そう思った時だった。
突然、ヒナギクの身体に痛みが走った。
それほど大きいものではない。だが、何故。
「隙だらけだったのでな。反撃させてもらった」
ユラの言葉に、ヒナギクは自分の身体を確認する。
なんと、いつの間にか彼女の身体には切り傷がつけられていた。それも、一つだけじゃなく、複数も。
恐らくヒナギクが必殺技を放った時、ユラも反撃していたのだ。ヒナギクの目にもとまらぬ速さで。
「驚いている暇はないぞ」
ユラは今度は剣で突いてきた。
高速の剣さばき。ヒナギクはこれにもかわせず体を貫かれてしまう。だが、この傷も大した痛みではない。
致命傷を外れるような腕ではないのは最初に剣を合わせた時にわかっている。手を抜いているのなら、どういうつもりなのか。
「ここで終わらせるわけにはいかない」
ユラはゆっくりと、しかし隙を見せずに剣を構え直す。
「おまえの剣を見せてもらうまでは、早々に決着をつけるつもりはないからな」
彼女はヒナギクの実力を測っているのだ。戦う前に二人は悩みを断ち切るとか言っていた。それだけの実力をもっているかどうか、またその力を引き出すために。
「…もしかして、あれが全力か」 「…まだよ!」
ヒナギクは白桜を手にユラに斬りかかろうとする。
「意気込みはいいが、それだけのようだな」
ユラはそれを軽くいなしていき、反撃を加えていく。
その度、ヒナギクは傷をつけられていく。小さな痛みでも、積み重なっていけば大きなダメージへと変わっていく。
しかし、それでもヒナギクは剣を振り続けた。諦めることなく。
「…ならば、この一太刀で終わらせてやろう」
ユラは剣を構え直す。それと同時に彼女が纏う空気が一層張り詰めていく。
「受けてもらおう!この必殺の一太刀を!」
一気にヒナギクへと迫り、剣を振るう。
「ブレイテッドレイザー!」
ユラの力が込められた刃が、ヒナギクを切り裂く。ヒナギクはその場で倒れてしまった。
「所詮はこの程度か…」
ユラは少し残念そうに顔を俯かせた。
「結局、私の悩みを断ちきることはできなかったか…」 「けど、悩む暇はないわよ」
その声を聞き、ユラは驚く。
なんと、ユラの必殺技を受けたはずのヒナギクが立ち上がっていたのだ。剣を杖代わりにしてだが。
「私の必殺剣を受けてなお立ち上がるとはな…」
驚きはあったが、ユラはすぐに気持ちを切り替える。
「ならば、もう一度受けてもらおう」 「あら、それであの必殺技が放てるのかしら?」
不敵な態度を見せるヒナギク。
劣勢なのは彼女の方である。なのに、あの余裕は一体何故。
「…これは!」
そしてユラは気づいた。
なんと、自身の剣が凍りついているではないか。いや、剣だけではない。ユラの身体が半分、氷で覆われていた。
「い、いつの間に…」 「今まで闇雲に剣を振るっていたんじゃないのよ」
ヒナギクの狙いはそれにあった。
彼女はユラに斬りかかると同時に微かだが凍気を放っていたのだ。それを何回も繰り返すうちにユラを凍結させるに至ったのだ。ユラ自身が気づかないうちに。
ブレイテッドレイザーを受けてもヒナギクが立ち上がってこれたのもこれが理由だった。体の半分も凍りついた状態で必殺技を放っても完全に決まるわけがなく、半分程の威力しか出せなかったのだ。
逆に、ヒナギクの方は必殺技を繰り出す絶好のチャンス。ユラは防御もとれないし、かわすことだってできない。
「今度こそ受けてもらうわよ、私の必殺技を!」
ヒナギクは再び必殺技を放った。
「氷華乱撃!」
斬り、薙ぎ、払いがユラを襲う。ユラを覆う氷を砕き、彼女の身体を宙に舞わせた。
「なるほど。必殺技と言うだけのことはあるな。だが…」
ユラは華麗に着地してみせる。
「私の剣を受け続けたダメージで、おまえも威力の全てを出せなかったようだな」
ヒナギクは悔しそうにユラを睨む。
「せめて、万全の力が出せていれば…」
必殺技が効かない、負っているダメージは大きい。その状態で、ユラを倒せるとは見込めない。
ヒナギクの負けが、濃厚であった。
今週はここまで。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 1月18日更新 ( No.3 ) |
- 日時: 2020/01/25 21:28
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
3 「まだよ!まだ私は戦える!」
負けず嫌いな性格から毅然として立ち上がる。しかし、内心では自棄に近いものが渦巻いていた。
必殺技も効かない今、打つ手がない。どうしたらよいのか。
気持ちが後ろ向きになってしまい、一歩後退してしまう。
それをユラは見抜いていた。
「威勢は良くても、叶わないことは察しているようだな」
剣先をヒナギクに向ける。
「最後はやはり、私の剣で決まるのだな」
やられる。
直感したヒナギクは逃げたかったが、逃げることができない。逃げても避けられない。
「終わりだ!」
ユラがヒナギクに向けて、剣を振るった。
斬られた。
その実感はあった。
しかし、思ったほどの痛みはなかった。
見てみると、つけられた傷は浅かった。ユラの必殺技のタイミングは完璧だった。必ずやられていたはずだ。
「くっ…」
ユラが口惜しげに毒づいた。
ユラの持つ剣に視線を移すと、なんと剣の先端が欠けているではないか。
「もしかして、最初から…?」
ヒナギクは意図していなかったことだが、最初の打ち合いでユラの剣は強度が落ちていた。そこへ、凍気によって更に脆くなり、ブレイテッドレイザーに耐えられなくなったのだろう。
「剣一本で決着が左右されるとはな」 「剣一本…」
剣一本という言葉がヒナギクに響いた。
先程まで、自分はユラに勝てないと落ち込んでいた。実際、ヒナギクとユラの実力は覆せるものではない。
だが、たかが一本の剣によってユラの必殺技は防がれたのだ。
負けず嫌いな性格の為、ヒナギクはいつの間にか勝つことに熱中していた。相手を倒して、勝利を得ることにこだわり過ぎていた。
その結果、ユラの実力の前に膝をつきそうになった。
だから、考え直さなきゃいけない。
今の自分の実力では、ユラに一太刀浴びせるのが精一杯だ。しかし、その一太刀が勝利へと必ず至るのだ。
「一振りでも…あの人に当てなきゃ!」
少しでも勝利へと進もうとするヒナギク。
その原動力となる勇気の力が、彼女のマインドを覚醒させた。
「開き直ったか?」
マインド覚醒を見て、ユラはそう感じていた。
いずれにしても、必殺技はもう通用しない。例え剣が直っても見切られている上では同じだ。
だから、ヒナギクが見切れないスピードで剣を振るった。
ところが、ヒナギクはその剣を紙一重でかわした。
マインドが覚醒しただけではない。ヒナギクは今集中している。
ユラがそう気づいた通り、ヒナギクはユラの持つ剣のみに注意していた。ユラの攻撃は主に剣によるものだ。だから剣のみ気をつけていれば、多少の傷は負うことはあっても、決定的な一撃をかわすことはできる。
一振りに集中。それは防御だけではない。
自分は人たちが精一杯。ならば、その一太刀に自らの力を全て込めればいい。
「乱撃のように何回も繰り返すんじゃなくて、一振りに集中すれば…」
ヒナギクは剣を構え直す。それと同時に、彼女の背後に戦乙女のオーラが浮かび出てきた。
そして彼女は、剣に力を、勇気を込めた。
「氷華一閃!」
ヒナギクが白桜を、ユラに向けて振るった。
「そんな技にかかるか…」
振るうスピードは自分より速くない。いくらパワーがあっても、当たらなければいいだけだ。
ユラは余裕をもってかわそうとしたが。
「…なに!?」
気づいたら、ユラの身体はまたも凍りついていた。力任せに動こうとするが、全く動けない。
そのまま、必殺技を喰らったユラはそのまま吹っ飛ばされてしまった。
「な、なんだ今の技は?」
ヒナギクの新必殺技を目の当たりにしたが、疑問も生じていた。
「ユラはいつ凍結させられたんだ?」
エイジにはわからなかった。ヒナギクからはユラを凍結させようというそぶりは全く見えなかった。
「恐らく、剣を振るった時だろう」
氷狩は冷静に分析していた。
「氷華一閃は塁さんのサンダーボルトナックルと同じ、まず凍気、次に斬撃という技を連続で放つんだ」
つまり、剣を振るったと同時に凍気が相手に襲いかかり、凍ったところで必殺技の威力を叩きこむのだ。
「狙ってやったわけじゃないわ」
ヒナギクは言う。
「私は剣に自分の力を込めていた。けど、剣はその力をすべて受け入れきれず外へ漏れてしまった。それがヴァルキリオンの力によって凍気に変わって、必殺技と一緒に放たれたのよ」
ユラが先に凍ったのは、凍気の方が速かったからだろう。
「俺も似たような技を持っているが、それを会得するのに結構努力したんだぞ…」
それをこの短期間、しかも戦闘中に習得するとは。
塁は悔しそうに、そして感心したように零した。
「やっぱり、ヒナギクさんはすごいですね」 「ああ、全く同意だな」
ハヤテとナギはヒナギクを称賛する。
「けどまあ、白桜でも受け切れないなんて、どれだけの力を持っているのかしら?」
一方で、花南はいつものように嘲笑的な態度を見せる。これに対して、ヒナギクは食ってかかる。
「何が言いたいのかしら?」 「いえ、ヒナギクって本当に力任せの戦いがお似合いだなって思ったのよ」 「私が脳筋って言いたいのかしら!?」
怒りが湧き立ってくるヒナギク。そんな彼女に花南は最後に一言。
「私が言ったとおり、無心で戦ってその技を得た。そのことは、誇りなさい」 「…一応、礼を言っておくわ」
賛辞と感謝。そんな雰囲気ではないが、互いの心中は伝わっている。
…そのはずだと、仲間たちは一応思うのであった。
「感動はその辺にしておこう。戦いはまだ終わっていない」
氷狩の指摘に、全員意識を戦闘に戻す。
「氷狩君、冷静だね」
佳幸は敬意をこめて呟く。
ヒナギクが戦闘に注意し直すと同時に、倒れていたユラが起き上がった。
戦闘が再開されるのか?
だが、ユラは何か思考にふけているようだ。
「まさか、また悩みこんでいるんじゃないか…?」
達郎はそう思ったが、それに反してユラはヒナギクに向き直った。
「やはり、あいつみたいだな…」 「あいつ?」
いったい誰なのか。ヒナギクにはわからなかったが、ユラは話を続ける。
「あいつは八闘士と同じ時期に私の弟子となった。それまで半ば荒んでいたあいつの心は安らぎと共に強くなっていった。だが…」
ユラはそこで暗い顔となる。
「私のもう一人の弟子…あいつにとって兄弟子になるものが任務中に行方不明になってしまった。そして、その任務には当のあいつもいた」
それを聞き、八闘士は何か思い当たった。
「ショックを受けたあいつに対して、私は何もしてやれなかった。あいつは私を許してくれたが、それでも私は何もできなかった私を許せなかったんだ」 「もしかして、あなたの弟子って…」
佳幸たちの問いには答えず、ユラは悲しそうに俯いてしまった。
「私は無力だ。こんな自分が霊神宮の腐敗を正すことが出来るのか。弟子たちにとって尊敬される黄金の使者であるように霊神宮に従順すべきか、悩んでいたんだ…」
自身の力不足を痛感し、足を止めてしまった。ユラは自分で想うほど至っていないわけではないが、それでも弟子たちに何もできなかったのは無念だったのだろう。
ユラの弟子を思う心が、はっきりと伝わった。
「だが、おまえたちは一歩踏み出した。私より弱くても、現状を打破するために前へと進もうとした」
そこでユラは一体化を解き、端へと身を寄せた。
「その勇気を信じて、先へ進むがいい」 「い、いいんですか?」
ユラは笑みを持って答えた。
「そこの娘、ヒナギクといったか?見事に私の悩みをたち切ったのだ」 「えっ?それは一体…?」 「さあ行け!」
ユラに促され、ヒナギクは前へと進みだす。他の皆も彼女を追う。
刃の間に残ったのは、ユラだけとなった。
「そう、悩みはたち切られ、決心ができた」
誰もいなくなった間でユラは呟く。
「私がこれからしなければならないのは、新たなる使者たちの支えになること。しかし、彼らがそれに値するかどうかは…」
ユラはハヤテたちが去った方向を見つめる。
「これから先に待ち受けている、真の試練で明らかになる」
その言葉の裏には、彼らなら大丈夫。そういう思いが込められていたようであった。
第38話はここまでです。
次回、第39話 来週更新予定です
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Re: 新世界への神話 4スレ目 1月18日更新 ( No.4 ) |
- 日時: 2020/02/02 21:42
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週から第39話を更新します ぜひ読んでください。
第39話 光へと羽ばたけ
1 「懐かしいな…」
男は、自分が預かっていた間へと帰っていた。 「まさか、ここに帰ってくるとは思わなかったな…」
中に入り、物思いにふけっていく。見るものすべてに懐かしい目を向ける。まるで故郷に帰ってきたかのように。
それもそのはず、彼はこの間の主なのだから。
埃が積もっているのは、長いこと留守にしていたから。彼は理由があって、ここを空けなければならなかったのだ。
本来ならこのまま放置されるつもりだった。彼自身も、ここから遠く離れた名も無き土地で命果たすはずだった。
だが、男は運よく生き延びることができた。だからこそ、彼はここに戻り時を待つことにしたのだ。
「さて、彼らはちゃんとここに来るだろうか…」
しばらくして。
「ここが第九の間か…」
刃の間を突破したナギたちは、第九の間の前まで来ていた。
「翼の間、か」 「翼ってことは…」
全員、ある精霊を思い浮かべる。
「その予感は当たっている」
ナギがある勾玉を取り出す。
それは、龍鳳と同様ハヤテたちが戦いを始めるきっかけとなった精霊のものであった。それは今ナギの手元で光っている。
「この間に近づくほど、輝きが増しているんだ」
その精霊は、翼のフェザリオン。十二体しか存在しない黄金の精霊の一つである。
五年前、明智天師の手から龍鳳を守るため、主であるジュナスと共に霊神宮を離れた。その後、ジュナスとも別れ、龍鳳を守る結界を単身で張り続け、ナギたちと出会った。そしてそのまま彼女の手元にあり、この戦いも連れられてきたのだ。
「じゃあ、この間の主は…」 「ジュナス、でしょうね」
一同は安心する。
ジュナスは明智天師に反旗を翻している。ならば自分たちの味方であり、敵対することはないはずだ。
加えて、ジュナスは今行方知れずだ。つまり、この間は現在無人のはずである。
「さっさと行こう」
全員は翼の間へ入っていく。敵がいないなら、用はない。ナギたちは止まることなく通り抜けるつもりだった。
だが、そんな彼女たちの前に立ちはだかる影が一つ。
「待っていたよ」
誰もいないかと思われた翼の間に一人、ナギたちを待ち構えていた。
「誰だ、おまえは?」
見知らぬ男を前にして、ナギたちは緊張してしまう。
この男はいったい何者なのか。
ここにいるということは、この男はまさか…?
「私の名は…」
それを聞いたとき、一同は驚愕する。
「ジュナスだ」 「ジュナス…?」
ナギたちは一瞬、思考を停止してしまう。
「ジュナスって、死んだはずじゃ…」
高尾山でフェザリオンを発見したとき、傍らには白骨があった。見つけた塁たちはそれがジュナスのものだと思った。だから、てっきりジュナスは死んだものと思い込んでいたのだ。
「信じられないかもしれないが、私は翼のフェザリオンが使者、ジュナスだ」
困惑しているハヤテたちに、ジュナスは説明する。
「私もあそこで死ぬかと思っていた。それほどの深手を負っていたんだ。だが、ある男と偶然出会い、彼に助けられたんだ」 「その男とは?」
その名前は、意外なものであった。
「綾崎イクサだ」 「兄さん!?」
思いもよらぬ名前に、一番衝撃を受けたのはハヤテだった。
「ああ。額に十字傷を負った大男だ」 「間違いない…」
自身の兄であることを確認したハヤテは、ジュナスに尋ねずにはいられなかった。
「イクサ兄さんは今、どこに?」 「それは私にもわからない。精霊界へ行く前に会うことはできたが、すぐに別れてしまった。神出鬼没なので、どこに行ったかも…」 「そうですか…」
兄の居場所がわからなかったことは残念だが、少なくとも無事であることが聞けただけでよかった。神出鬼没というところも、兄らしくて逆に心配がなくなってしまう。
「それで、なぜあんたはここに来たのかしら?」
花南の言葉に、一同はジュナスに注意を戻す。
生きていたとして、この翼の間に戻ってきた理由は何だろうか。それに、もう一つ気になることがある。
「大体、なんで今になって俺たちの前に現れたんだよ」
達郎の言うことも最もだった。事情があるにせよ、少なくともこの霊神宮に来てからは自分たちを援助してくれてもよかったのではないか。
それに対して、ジュナスは答えた。
「私が手を下さなかったのは、君たちを信じてのことだ。龍鳳に選ばれたスセリヒメを真に信じた君たちなら、相手が誰であろうと打ち勝てる意志がある。そう信じていた」
言い逃れにも聞こえる言葉だが、ジュナスからはそういう逃避というものは感じられない。
真摯に自分たちのことを思っている。自分たちがやられそうになったら、同じようにその痛みを感じ、応援してくれた。
そのことが、嬉しかった。それが伝わって、ハヤテたちは心が昂るのを感じていくのだった。
「そして、今君たちの前に現れたのは…」
突如、ジュナスの纏う空気が一変する。
ハヤテたちも、自然と緊張する。
「君たちの力を、この私に見せてほしい」
彼の目は、有無を言わせない迫力を込められていた。
今回はここまでです 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 2月2日更新 ( No.5 ) |
- 日時: 2020/02/09 21:14
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
2 「この先に待っているタイハ、ユラ、あと一人の黄金の使者、そして明智天師。残す難関を前に突破できる力があるかどうか」 「ちょ、ちょっと待てよ」
塁が何かを言おうとするが、彼らに質問する暇は無かった。
「な、なんなのだ!?」
ナギから驚きの声があがったので、全員そちらのほうを向く。
彼女の手元で、フェザリオンの勾玉とリングが発光した。何事かと思ったその瞬間には、勾玉とリングが宙に浮き、ジュナスの元へと飛んで行った。
待ちかねていた主の元へ、帰っていったのだろう。
「フェザリオン、今までよく龍鳳を守ってくれた」
ジュナスは、愛おしそうにその勾玉を手にする。
「そして今、私に力を貸してくれてありがとう」
リングの方も、ひとりでにジュナスの手首に装着される。その瞬間、ジュナスとフェザリオンが一体化する。
「さあ君たち、ここまで来ることができたその力を見せてくれ」 「って言われても、何をすればいいんだ?」
その方法が提示されないことで、首をかしげてしまう。
「簡単だ。君たちの全力による必殺技を私に向けて放てばいい」 「ちょっと、それは危険じゃないのか?」
十一人の必殺技を全て受けるつもりなのだろうが、それではジュナスの身がもたないのではないか。達郎は彼の身を案じるが、ジュナスは特に意にも介さなかった。
「心配ない。それで倒れる私ではない」 「へえ、面白いことを言うわね」
自信溢れるジュナスの物言いが、花南のプライドに障った。
彼女は既にフラリーファと一体化しており、茎の杖を手にしていた。必殺技を放つ気満々である。
「そんな人には、一発入れてやらないと気が済まないわね」 「珍しく気が合うわね」
ヒナギクもヴァルキリオンと一体化し、白桜を構えていた。
意見が同じ時の二人は、誰にも止められない。
「行くわよ」 「言われなくても!」
二人は同時にジュナスへと迫っていく。
「スタークロッド!」 「氷華一閃!」
二人の得物がジュナスに襲いかかる。ジュナスはそれを両手で押さえるが、力は相殺しきれず、体が後退してしまう。
「あんまり私たちのこと、舐めてもらっては困るわ」 「甘く見てると、痛い目見るわよ」
相手が誰であろうと、構わずに挑む。
女子でありながらその勇ましい姿に、仲間たちも心動かされた。
「よし、僕たちも行こう!」 「女の子が先導して、黙って指をくわえているってのもかっこ悪いからね」
ハヤテたちも自分たちの精霊と一体化し、戦闘態勢をとる。
彼らが本気になったことを確認し、満足したジュナスは次に光たちの方を向く。
「魔法騎士の三人も、遠慮なく攻撃してくれ」 「え?でも…」
光たちも、無抵抗の人に攻撃を加えることに躊躇してしまう。しかし、ジュナスはそんな心を取り除いていく。
「君たちもこれからの戦いに彼らの味方になる。私はそう信じているから、君たちも信じてくれ」
信じる心。
自分たちの力の源を悪意なく口にするので、光たちはそれを承諾することにした。
そこからは、必殺技の連続だった。ハヤテの疾風怒濤、佳幸の炎竜斬りなどが飛び交い、光たちも魔法を繰り出した。
十一人の必殺技と、三人の魔法。合わさればすさまじい威力になることは間違いないだろう。
だが、ジュナスはそれらを全て受け、尚且つダメージすら受けていないような風体で立ちはだかっていた。
「マジかよ…」
決して手は抜いていなかった。相手を倒すつもりで全員放った。マインド覚醒者は、マインドを解き放って。
それでもジュナスは立っていた。今まで多くの黄金の使者と戦ってきたが、これほどタフな者はいなかった。
「私たちの魔法も効かないなんて…」
光たちも衝撃的だった。彼女たちの魔法は、今までどんな窮地も覆してきた切り札だ。それが通用しなかったのだから、その分ショックは大きい。
「いや、君たちの攻撃は見事だ」
だというのに、ジュナスはハヤテたちをたたえてきた。
「さすがはここまで突破できたことはある、素晴らしい技だ。魔法騎士の魔法も、心の強さが込められていたのを感じた」
次にジュナスは伝助、氷狩、拓実の方を見やる。
「君たちはまだマインドには目覚めていないが、素質はある。今後の戦いではその力をつけられるだろう」
この男にほめられ、ハヤテたちは自信がみなぎってくるのを感じた。この男の言葉には、そんな力が込められているのかもしれない。
「しかし、ただ一人不安でもある」
それを聞き、全員に緊張が走る。
全員の中で一人だけ失格。それは格好悪いし、仲間外れにされたような気もする。自分がそうでありたくないと全員は思う。
果たして、いったい誰なのだろうか。
「それは、君だ」
ジュナスはその一人を指差した。
今回はここまでです 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 2月9日更新 ( No.6 ) |
- 日時: 2020/02/16 21:36
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
3 「お、俺?」
指された男、エイジは驚きのあまり自分を指差してしまう。なぜ自分が、と言わんばかりの様子だ。
こいつ、自分じゃないと思い込んでいたのか…。
あまりの呑気さに、全員内心で呆れてしまう。
「君だけが、他の皆と比べて足りないものがある」
ジュナスだけが、冷静にエイジに語る。
「俺に、何が足りないっていうんだ!?」
冷淡ともとれるような態度で自分に欠点があることを言うのだから、沸点の低いエイジは激しくなってしまう。
「俺だって、みんなと一緒にここまで戦ってきたんだ!それなりの実力はある!」 「本当に戦ってきたのか?」
突然の問いに、エイジは虚を突かれた。
「あ、当たり前だ!」 「本当にそうか?」
先程までの温かみとは一転して、氷のような冷たさをもった言葉をジュナスは投げかける。
それが、エイジの心をえぐっていく。
「君は一緒に戦ったというが、ただついてきただけではないのか?」 「そ、それは…」
エイジは言葉を噤んでしまう。ここまで来て、エイジはなにも活躍してないからだ。同じような氷狩、伝助、拓実は素質ありと言われたのに、自分だけは別。果たして、それで一緒に戦ってきたと言えるのだろうか。
だが、それでも。
「俺がただついてきただけかどうか…」
エイジは拳を握りなおす。
「もう一度この技をくらって思い知れ!流星暗裂弾!」
ジュナスに向かって必殺技を放つ。自分だって何もしてこなかったわけじゃない。その証明として、拳に怒りを込める。
だが、ジュナスはその拳をいとも容易く捌いた。
「なら、こいつだ!」
エイジは武器の剣を取り出す。
「ブレードスラッシュ!」
その剣で、ジュナスに斬りかかっていく。しかしこれも簡単に払われてしまう。しかも、特に警戒するわけでもなく、だ。
「こいつならどうだ!」
今度は銃を持って構える。
「ファイブラスター!」
銃弾がジュナスを襲うが、またも何事もないかのように防いでしまった。
これらの攻撃を見てきて、ジュナスは落胆しきっていた。
「やはりな。これではダメだ」 「何がダメなんだ!?」
エイジは益々訳が分からなくなってしまう。これだけの技を見せても覆せないものがあるなんて。焦りと怒りがエイジの中で最高潮に達してしまう。
「君の力は別に問題ではない。君の力、心は彼らの中で特に輝いている。ちゃんと育てていけば、黄金の使者に匹敵、いやそれ以上になるかもしれない」
ならば、何がいけないというのか。
それを今、ジュナスは突きつけた。
「足らないのは…君の技だ」 「技…?」
技について、エイジは特に問題無いと思っていた。武器と組み合わせた多彩な技。これだけ多くの技を持っているのだから大丈夫なはずだ。
しかしジュナスは、そんなエイジの考えを真っ向からぶち砕いた。
「君は必殺技と言っているが、到底必殺技と呼べるものではない。すべて他人の見よう見真似だ」 「み、見よう見真似…」
その言葉は、エイジに大きな衝撃を与えた。これには彼にも、心当たりはあった。
「例えば先程のブレードスラッシュ。細かい所に差異はあるが、これはムーブランの炎龍斬りを意識した技になっている。
それは事実であった。エイジにとって一番インパクトのある必殺技が、兄である佳幸の炎龍斬りだ。あの技のような威力を出したいと思っているエイジは、自然と炎龍斬りに似た形の技を編み出してしまっていたのだ。
ブレードスラッシュだけではない。ファイブラスターや他の技も、仲間である八闘士たちのものを見て、その模倣からはじまったものだ。模倣だけで、自分自身の技と呼べるレベルにはまだ達していない。
つまりエイジは、自分だけのオリジナルである必殺技を持っていないのだ。
「他人の真似技しか持っていないのなら、この先の戦いでは通用しない。そもそも君がいなくても事は足りる」
これもある意味では正しかった。仲間の技がすべて使えるというのは器用だが、役に立つとは限らない。オリジナルの使い手である仲間の方が、より有効にその技を使えるからだ。
仲間がいればエイジは必要ない。そのようなことを宣告されては、エイジもショックを受けてしまう。
ただついてきただけというジュナスの話も、これでは頷けてしまう。
だが、エイジはまだ納得していなかった。
「この技だけは、誰の真似でもないぜ!」
三度、流星暗裂弾を放つ。
同時に百発以上の拳を繰り出す。仲間の技を参考にしたのではない。自分で編み出した技。自身のもっとも自信ある必殺技である。
「確かに、これは君だけの技といえるな。だが…」
ジュナスはその百発以上の拳を全てかわしきった。
「技の練度は、まだまだだな」
流星暗裂弾も、通用しなかった。
これでエイジの持つ技は、全て無くなってしまった。
彼はもう、攻めることができなくなったのだ。
「今度こそ、打つ手なしということが実感できたかな」
しかし、エイジはまだ戦意を失ってはいなかった。
「あきらめないぞ…必殺技が無くったって、戦える限り戦い続けてやる!」
そのまま、ジュナスに向かって殴りかかるが。
「甘い!」
ジュナスによって、カウンターの一撃を受けてしまう。
「そんな実力で、この私と戦えると思ったのか」
ジュナスはエイジを完全に寄せ付けないでいる。正攻法で戦っても彼には勝てない。それでも、負けん気の根性でエイジは立ち続ける。
しかし、この状況を逆転できる具体的な策はエイジの頭には浮かんでこなかった。今までどんな強敵も跳ね除けてきた必殺技もジュナスにすべて破られてしまった以上、エイジはどうすればいいかわからなかった。
「どうすればいい…?」
その心音が、思わず言葉として零してしまう。
「新しい必殺技を作るんだ!」
そんなエイジに、佳幸がアドバイスを送った。
「おまえだけの新しい必殺技を、今ここで!」 「そ、そんなこと急に言われても…。それに、新しい必殺技なんてどう作ったらいいかわからねえよ…」 「そんなの、誰かに教わるもんじゃないだろ!」
達朗も発破をかける。
「自分のオリジナルなんだから、自分自身で編み出さなきゃ意味がないだろ!」 「け、けどよ…」
この窮地に、誰の助力も借りずに自分だけで突破しなければならない。追い込まれてしまったエイジは弱腰となってしまう。
必殺技を作れと言っても、そう簡単ではない。しかも、実戦でいきなりだ。
どうしたらいいかもわからない。誰も教えてくれない。
エイジは完全に行き詰ってしまう。今の彼からは普段の威勢の良さは完全に消えてしまっていた。
「というか、別に私たちはあいつを待たなくてもいいのではないか?」
ナギは、ハヤテたちはジュナスの課題をクリアした事を思い出した。
「ここはあいつに任せて、私たちは次の間を目指そうではないか」 「ちょ、ちょっと待てよ!俺はそんなのゴメンだぜ!」
ここまで来て置いてけぼりにされるのは勘弁してほしい。エイジはナギを睨むが、等のナギは涼しい顔のままだ。
「おまえのために、ここで足止めされても困るからな」 「名案だな」
ジュナスが口を挟んできた。エイジに対する挑発のつもりだろう。
味方からも敵からも言われ、一層意地になるのが岩本エイジという男だ。
「冗談じゃねえ!ここで置き去りにされてたまるか!」 「だが、今の君では無理だ」
ジュナスがここで構えに入る。
彼から伝わる気迫から、本気であることがわかった。ついにジュナスが攻めに転じてきたのだ。
「君に、真の必殺技がどういうものなのか見せてやろう」
ジュナスの背にある翼が舞い、周囲で風が切る。
「フラップシュート!」
エイジに向けて、必殺の拳が放たれた。
咄嗟に盾で防ごうとしたエイジだったが、強風で盾が飛ばされ、無防備で相手の必殺技を受けてしまう。
翼によって起こった風にエイジの体が宙に舞い、そこにジュナスの拳が叩き込まれた。
フラップシュートを受けたエイジは、その威力によって意識を飛ばしてしまうのであった。
今回はここまでです。 続きは来週更新します
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Re: 新世界への神話 4スレ目 2月16日更新 ( No.7 ) |
- 日時: 2020/02/23 22:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
4 気がつくと、エイジは一人倒れていた。
起き上がって周囲を確認すると、自分以外誰もいない。
いや、自分が進もうとしている先に、誰かいる。
佳幸をはじめとした仲間たちだ。エイジは起き上がろうとするが、何か見えない力で抑えつけられているのか、動くことが出来ない。
やがて、佳幸たちはエイジに背を向けて進みだした。エイジは声をかけるが、彼らは聞いてはくれない。追いかけようにしても、立ち上がることができない。
このまま自分は倒れたままなのか。
いや、これで終わりたくはない。
邪魔しているのが何であるかわからないが、自分の持てる力すべてを振り絞って立ち上がろうとする。
そう、今までの戦いのように。
そして、エイジは立ち上がり、佳幸たちを追いかけ始めるのであった。
そこでエイジの意識は現実に戻された。
フラップシュートで倒されたエイジは、よろめきながら立ち上がる。
「大丈夫か、エイジ?」
仲間たちが心配して声をかける。傷ついても、大抵のことでは元気を失わないエイジだけに不安になってしまう。
「ああ、なんとか」
一体化が解けてしまったエイジはそう返し、何か思案しているようだ。
普段の騒がしいほどの活発さを潜め、真剣みを増した彼の表情に一同は若干気後れしてしまう。頭でもぶつけて気がおかしくなったのではないかと疑ってしまうほどに。
そんな彼らに、エイジは決心した様子で告げた。
「皆、先に行ってくれ。俺も後で追いつく」 「エイジ?」
さっきまでとは違うことを口にした彼に、皆戸惑いを感じてしまう。
やはり頭でも打ち、そのショックでおかしくなったのだろうか。
そう思ってしまうのは、それだけエイジが手を焼かされている証拠でもある。普段の彼なら、今の皆の表情を見ただけで憤慨してしまう。それこそいつもいがみ合っているナギのように。
しかしエイジはそれでも騒ぐことはなかった。
「本当に大丈夫か?」
つい口に出てしまうぐらい、皆の方がショックを受けていた。
「大丈夫だ。だから早く行ってくれ」
心配だが、何時までも立ち止まっていられないのも確かだ。一同はエイジを信じて、彼を残し先を進むことに決めた。
翼の間を出る途中、ナギが振り返ってエイジを見やった。自分が彼を残していこうと言ったのを気にしていたら何か悪い気がしてしまう。かといってこの男に謝るのは何か違うし、何より自分のプライドが許せない。
何を言おうか迷っているナギ。そんな彼女に対して、エイジの方から切り出してきた。
「早く行かないと置いて行かれるどころか、俺に追いつかれるぞ。あんた鈍足なんだからな」 「誰が鈍足だ。私はおまえたちと違って体力バカじゃないんだ」 「わかったわかった。だから早く行け」
鼻を鳴らして去っていくナギを確認した後、エイジはジュナスに再び向き直う。
「これで心置きなく戦える。あんたにも、とことん付き合ってもらうぜ」 「置いていかれるのは嫌だったのではなかったのか?」
ジュナスはエイジの心を確認する。彼が何かを吹っ切ったのは間違いないが、どういったきっかけでそうなったのか知りたくなった。
「置いていかれたくない。それが甘えとなっていたんだ」
ジュナスから見たエイジの心は、固い決意に満ちていた。
「俺はあんたたちへの挑戦者だ。そして、俺は仲間たちに対しても競い合っていかなきゃいけねえ。ただ憧れているだけじゃダメなんだ」
エイジの今の心境は、初めて精霊と出会った頃と同じであった。佳幸をはじめとした八闘士たちに憧れ、希望を持ち彼らのようになろうと努力しようとした時の気持ちと。
そして、仲間たちを先に行かせたのは自分の中にあった気持ちの緩みを引き締めるため。一体化が出来るようになってから、エイジは心のどこかで仲間たちと対等になった、これで自分もようやく一人で戦えるという意識があったのだろう。その安心感と自信を振り払い、前に進むと自らを奮い立たせなければならない。
「だから俺は、自らの力で道を切り開いていくんだと、自分に言い聞かせたんだ」
エイジにはもう、意地や慢心、油断などは無い。
「進む先には皆がいる。希望を捨てずに、俺は戦う!」
再びウェンドランと一体化するエイジ。
どんな状況でも、諦めずに前へと進もうとする。そんないつもの調子を取り戻し、エイジはジュナスと対峙する。
「俺の技を全て見切ったというけど、あんたも甘いな」
エイジは両手を前に構えた。その手の中でエネルギーを練り出し、大きな光球を作り出す。
「俺にはまだ、この技が残っている!」
エイジは、上空へと飛び上がった。
「メテオダンクフォール!」
大きな光球を、ジュナスに向けて投げつけた。その光球を、ジュナスは感心したように見ていた。
「確かに、今までの技とは違うな。だが…」
ジュナスはそれを両手で受け止め、上へと弾き返した。
「まだ、足りないものがある」 「まだ?他に何があるっていうのかよ」
この技はエイジのオリジナルである。完成品とは言い難い練度ではあるが、同じ黄金の使者であるエーリッヒも防御に手を回した技なのだ。ジュナス相手にも通用するとエイジは思っていた。
パワーは十分にある。けど、ジュナス曰くまだ足りないものがあるらしい。
「再びこの技を受けて、それを思い知れ」
ジュナスの翼が風を生み、続けてフラップシュートが放たれた。
ジュナスの必殺技を受け、エイジはまたも倒れてしまう。しかし、エイジはもう倒れたままというわけにはいかない。
何度でも立ち上がる。ここであきらめたら道は閉ざされてしまう。全身に力を、魂を込めて立ち上がるんだ。
そこでエイジは、力を込めるということで気づいた。
ジュナスの技、フラップシュート。あれは背中の翼で風を起こし、それと共に集めた力を拳に込めていた。ジュナスの思いを込めて。
そうだ。必殺技はここで勝負を決めるという気迫を込めて、全ての力を放つものだ。
なにより、使者は心を強く持つことで力を高めているのだ。要は、それだけなのだ。
理解したエイジは、もう一度拳を構える。流星暗裂弾を放つつもりだ。
「その技はもう通用しないはずだが?」 「それでも、俺にはこの技しかないんだ」
流星暗裂弾。エイジはいつもここぞという時はこの技を使ってきた。彼にとってはやはりこの技こそが決め技なのだ。
相手の口車に乗せられたからと言って、そうやすやすと封じることなどないのだ。
開き直ったエイジの背後に龍のオーラが浮かぶ。
マインドが発動したのだ。今までと違う何かが来るとジュナスは悟る。
「フラップシュート!」
警戒はしていた。だがそれよりも、エイジの力を確認しておきたいという気持ちの方が強かった。
おまえが本物だというのなら、打ち破って見せろ、と。
「これで最後だ」 「負けるか!」
力を。
「負けるもんか!」
思いを。
「負けてたまるか!」
この一撃に込める。
エイジの拳が、今までよりも眩しく輝きだす。
「流星暗裂弾!」
光る拳でもって、フラップシュートに突撃する。
両者の拳が激突。互いの威力がぶつかり合い、相殺されたかと思われた。
だが、エイジはもう止まらない。
「負けてたまるか!」
なんと、フラップシュートを打ち破り、そのままジュナスの顔面を殴り飛ばした。
勢いよく倒れたジュナスは、驚きをもってエイジを見上げた。まさか、ここまでの力を持っていたなんて予想外だったのだ。
「…見事だ」
一体化を解き、ゆっくりと起き上がるジュナス。
「君に足りなかったもの。それはここぞという時に放つ必殺技に、力と思いを込めること。もうわかっているね」
仲間の技を参考にしてきたエイジだが、そのため形ばかりを優先して技を磨いていってしまった。彼が戦いから遠ざかっていたこともあって、技の威力そのものを上げることをしなかったのだ。
「マインドは、使者の力である心を100%開放するものだ。しかし、いくら力を全開にしても、それを技に反映させなければ意味がない」 「だから力を、心を技へと結ぶことが俺には必要だった」
ジュナスは、微笑みでそれを肯定した。
「君の魂の資質は十分に輝いていた。どんな逆境でも屈せずに立ち向かっていくその心は使者として大いなる力だが、まっすぐにしか突き進まないのが難点だった」
曰く、それではただ力を放っているだけでしかない。ホースやバケツなどを用いず、水道から出る水を手でそのまま掬って放水しているようなものだと。
バカにされているような口ぶりに、何処となくエイジは面白くなかった。しかし、真剣な話なので何時ものように口は挟まない。
「だが、君が今放った必殺技はそれを乗り越えたものだ。君だけの力が加われば、始めは真似でもそれはいつか、君だけの必殺技へと進化していくだろう」
今はまだ完成とは言えない。だが、自分を打ち破った程の威力が出せるのだ。必ず最強の必殺技が出来るに違いない。
「それを見ることができないのは残念だが…」
そこでエイジは気付いた。
「あ、あんた足が…」
ジュナスの足が、消えかかっている。
いや、足だけではない。ジュナスの全身が透けてきている。このまま消えてしまうかのように。
どうなっているのかわからず焦っているエイジとは対照的に、ジュナスはすべてを悟っているかのようだ。
「こうなることは覚悟していた」
ジュナスが話をしている間にも彼の体はますます透けてきている。
「私にはもう、ここで戦えるだけの力しか残っていなかった。それが尽きれば、私自身の存在は消滅する」 「つまり、死ぬってことなのか?あんたは、自分がそうなるまでして俺たちと戦いたかっていうのかよ!」
詰問口調で問うエイジに対して、ジュナスは静かにうなずいた。
「スセリヒメと彼女に従う君たちを、確認しておきたかったからな」
先程見た当代のスセリヒメであるナギを思い返すジュナス。
純粋な目をしていた。まだ幼さが残り心も弱いが、内に秘めた情熱と優しさを感じた。
彼女を信じる者たちは、しっかりと支えになるに違いない。だから、彼女は大丈夫だし強くなれる、そう信じることができる。
「後のことは君たちに託す。頼んだぞ」 「ま、待て…!」
それを最後に、ジュナスは消滅してしまった。
後に残ったのは、ウェザリオンとそのリングのみ。
呆然と立ち尽くすエイジ。一体化も解け、名残を求めるような目でウェザリオンを見ている。
「どいつもこいつも、人に色んなモノ背負わせて…」
エイジは膝を着き、床を思い切り殴った。
「バカ野郎!」
ジュナスの影がある人物と重なってしまう。前代のスセリヒメである黒沢陽子と。
自分の命をかけて自分たちに後を託す。死を恐れず、辛さを表に出さずにただただ自分の務めを果たそうとする、そんな姿が。
本当は、自分たちだってもっと生きていたいだろうに…。
エイジの中で、やり場のない思いだけが行き場なく溢れていく。彼の瞳に涙がたまり、どこにぶつければいいのかわからない。
そんな彼に、声がかかった。
このまま止まったままでいいのか、と。
ハッとしてエイジは振り返る。その声は、ウェンドランのものであった。
「…そうだよな。俺は先に進まなきゃいけねえ」
涙をぬぐってエイジは立ち上がった。
思いを託された。それは自分を認めたということ。ならば自分はそれに応えなくてはいけない。
それが託された者の務めだと、エイジは教えられたのだから。
「まずは、皆に追いつかないとな」
翼の間を後にするエイジ。思いを受け取り、先へ進む。その姿に、もしかしてという思いをジュナスは抱いたのかもしれない。
これにて39話は終わりです 次回は来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 2月23日更新 ( No.8 ) |
- 日時: 2020/03/01 21:45
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
最近イラスト描く方に熱中しています。
今週から40話を更新します。 ぜひ読んでみてください。
第40話 八色の風
1 エイジを翼の間に残して、ハヤテたちは第十の間を目指す。
残す間はあと3つ。俄然やる気が出てくるものである。
「残りはあと三人。ラナロウ、リツ、それとまだ見ぬ使者が一人」 「ここまで来れたなんて、自分たちのことなのに未だに信じられないよ」 「けど、まだ終わりじゃない。最後まで皆で力を合わせていこう」
少年たちは足を進めながら、決意を固め合う。伝助はそんな彼らを少し離れた所で追いかけていた。
そんな彼に、拓実が歩を合わせてきた。
「少しいいですか?」
拓実がひっそりと声をかけてきた。ハヤテたちには聞かせられないことなのだろう。
伝助は視線で話を進めることを促した。
「皆はああ言っているけど、この先犠牲が一人、二人は必ず出るはずです」
確かに、それは簡単に予想ができた。天の間では雷矢がミークの道連れとなってしまった。犠牲というわけではないが、前の翼の間ではエイジを残して先へと進んでいる。
そして、この先の戦いでもそういう事態が起こるかもしれない。最悪の場合、死人が出てしまうことも…。
「だから、ここから先は誰を先に行かせなければならないか、その優先順位を確認しておきたいんです」
伝助は暫く考えた。いや、考えるふりをした。
出るべき答えは、一つしかないのだから。
「…僕たち二人が命を張ってでも、三千院さんたちを明智天師のもとへ行かせなければならない、ということですね」
スセリヒメであるナギは最優先に明智天師の待つ場所へと行かなければならない。こちらは望んでいるわけではないが、そこで戦いは必ず起こるだろう。そうなれば、彼女を守らなければならないハヤテもいなくてはならない。
また、ヒナギクや佳幸など、マインドを覚醒させた者たちも戦力として必要なのは間違いない。そうやって消去法で選択していくと、残るのは自分たちだ。
「ええ。残る三人の黄金の使者の相手は、僕たちが優先的に引き受けるべきではないかと」 「その意見に俺も賛成です」
二人は驚いた。いつの間にか、二人の背後には氷狩がいたのだ。
「動揺を与えないように二人だけで密かに話していたんでしょうが、俺には筒抜けですよ」
流石は八闘士のリーダーだ。どんな時も冷静で、周囲の変化にも気づける。
「俺たちはまだ無傷な方ですからね。体張って道開く役には適任です」 「けど氷狩君、君はそれでいいんですか?」
伝助と拓実は、出来るだけ自分たちだけが犠牲になるつもりであった。自分たちよりも若く実力もあり、しかも皆をまとめる氷狩まで一緒にさせたくはない。これは、大人である自分たちがやるべきだ。
だが氷狩は、表情をきつくして二人に詰め寄った。
「馬鹿にしないでください。俺も、あいつらも、そうなる時が来ても逃げたりはしませんよ」
もう何があっても逃げない。そう決めたからこそナギについていき、戦っているのだ。気持ちは皆、伝助や拓実と同じだ。
それが伝わった二人は、もう何も言わなかった。
「わかったよ。僕たち三人でやろう」
拓実としては、その時が来るまで氷狩を差し向けるつもりではない。自分でもどうしようもない時は、氷狩の意を汲む。
もっとも、その時が来ないように戦うだけだが。
「おーい、三人ともー」
達郎に呼びかけられ、三人は急いで追いかけるのであった。
「圧の間か」
第十の間の前まで着いたハヤテたち。
警戒しながら中に入るが、静かな空気に一同は首を傾げる。人一人の姿も見当たらない。
「誰もいないね」 「この中には、使者はいないのか?」 「いえ、誰かいます」
ハヤテはいち早く、まだ見ぬ存在を察知していた。
「わ、わかるんですか?」 「ええ。なんとなく敵意というか、気配というか、そういうものを感じるんです」
どこかの暗殺者みたいな能力に、一同は呆れてしまう。
これも執事に必要な能力ということなのだろうか。
「確かに、誰かいるみたいね」
ハヤテに同意した白皇学院生徒会長に、おまえもか!と心の中で突っ込んだ。
「よくわかったな」
そして、姿を消していた黄金の使者が現れる。
その顔に、ハヤテたちは見覚えがあった。
「おまえは!」 「ラナロウ!」
間違いない。ダイを捕えた使者の一人、ラナロウである。
そのラナロウは、ハヤテたちを見て感心していた。
「十二の間に入る前に比べると、たくましい顔になったな」
何処か嬉しそうに話すラナロウ。その心境がわからないこともあってか、ハヤテたちはより警戒を強める。
「見事な快進撃だが、それもここまでだ」
瞬間、ラナロウは上へと高く飛び上がった。
それを見た伝助は瞬時に悟った。攻撃が来る。それも大規模な。
このままでは皆が巻き込まれてしまう。
「皆、前へと逃げるんです!」
幸い、タイハが飛んだため前が空いている。この方向へと逃げれば圧の間を突破できる。
ハヤテたちが足を動かしたと同時に、タイハの攻撃が襲ってきた。
華麗に回避する者、何とか逃げられた者、転んだナギを寸前で抱えて助けるハヤテなど、各々様々なアクションを見せた。
「皆、無事か?」
氷狩が仲間たちの安否を確認する最中、攻撃を受けた床を見て絶句してしまう。
床には、大きな窪みが出来上がっていた。爆発による産物ではない。なにか大きな手によって直接押し潰されたかのような惨状であった。一体、どんな攻撃をしたのだろうか。
ラナロウが着地する。その姿は、精霊と一体化したそれであった。
「どうだ。俺の精霊プテラクスの力は」
そして、ハヤテたちに追撃を加えようとする。ハヤテたちはまだ急な回避行動から体勢を整えていない。
やられる!
だが、ラナロウは追撃の手を途中で止めた。
何故。そう思った時だった。伝助が、ラナロウの背後をとっていることに気がついたのは。
「伝さん?」 「いつの間に?」
ラナロウが攻撃した時しか思いつかない。皆に前進するように促した伝助だが、自分はそれとは逆に後退したのだ。そのおかげで、伝助は上手くラナロウの背後をつくことができたのだ。
これでラナロウはハヤテたちに追い討ちができなくなってしまった。もしそれを行おうとすれば、彼は背後から伝助の攻撃を無防備で受けてしまうことになる。
しかしこれでは、伝助が孤立した形となっていた。
「伝さん!」 「皆さんは先に進んでください!」
救援に向かおうとする佳幸たちを、伝助は止める。
ラナロウが挟まれている位置にいる今、ハヤテたちの前を妨げるものはいない。ハヤテたちは今、圧の間を突破できる絶好のチャンスを与えられているのだ。
伝助一人を囮にすること、で。
「皆、行こう」
伝助を救うか、このまま先へ進むか。迷っているハヤテたちに、氷狩が声をかける。
「ここで俺たちが立ち止まっていては、伝助さんの行為が無駄になってしまう」
伝助は自分たちのために自らラナロウを釘付けする役目を受けたのだ。自分たちの目的である、明智天師のもとへ行くために。
「そうだね…」
伝助のことは心配だ。だが、彼も自分たちと一緒に戦う仲間である以上、伝助の戦いを邪魔してはいけない。
この場を伝助に任せ、ハヤテたちは圧の間を去っていく。最後尾にいた拓実は、ふと振り返り伝助を見る。
その目は、伝助を信じていると訴えていた。伝助はそれに頷いて答えた。確認した拓実もその場を後にする。
圧の間に残ったのは、伝助とラナロウだけとなった。
「一人でこの俺を食い止め、仲間たちを先に行かせたか」
ハヤテたちを追うのは危険だと判断したラナロウは、伝助と向き直る。彼までこの間を抜けさせまいと、戦いを仕掛ける気だ。
「それだけじゃありません」
伝助もワイステインと一体化して、戦う構えを取った。
「ここであなたに勝って、皆の後を追いかけます!」 「俺に、勝つ?」
それを聞いたラナロウは笑い出した。
自分に勝つ。本気でそう思っているのか?目の前にいる彼はそんな心中なのだろうと伝助は思った。
確かに、彼と自分では実力が大きくかけ離れている。結果の見えている勝負になるかもしれない。だが…。
「勝ちますよ」
目の前の相手に向けて、強い意志を込めてきっぱりと言い放った。
今回はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 3月1日更新 ( No.9 ) |
- 日時: 2020/03/08 21:28
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
2 「おまえひとりで勝てると思うなよ」
ラナロウはそう言い、指鉄砲を伝助に向ける。その瞬間、伝助は何かに体を弾かれた。
ちょうど鉄砲玉のようなものを喰らった衝撃を受け、体が吹っ飛んでしまったのだ。
「い、今のは…?」
立ち上がる伝助だが、何が起きたのかわからなかった。そんな彼に、ラナロウは攻撃の手を緩めない。
しかしそう続けてやすやすと打たれる伝助ではない。次々と飛び交う攻撃を見事にかわしながら、反撃を試みる。
「ウイングトルネード!」
背中の翼を起こし、風を生じて相手にぶつけようとする。しかし、その風はラナロウの手前で何かによってかき消されてしまう。
「これが攻撃か?手ぬるいな」
ラナロウとプテラクスの力がよくわからない。圧ということなのでそれに関わるものということは理解できる。先ほどの指鉄砲は空気の圧縮弾のようなものを放っていると思われるので、空気を操っているのではないだろうか。
「攻撃とは、こういうものを言うのだ」
そう言い、伝助に向けて手刀を振るった。伝助とラナロウの間に距離がかなりとれているため、手刀は当たるわけがないと一見するとそう予想するだろう。
しかし、伝助は危機を察して回避行動をとった。しかし、かわし切れず伝助の胸に大きな切り傷が生じてしまう。
「今のは…」
斬りつけられたような実感はない。かわりに、何か力によって押し開かれたように感じた。空気を操っている素振りも見えない。
これらの攻撃を受け、伝助は理解した。
「そうか、圧。彼は圧力に干渉することができるのか」 「いかにも」
ラナロウは床を拳で殴り、握りこぶしサイズの礫を作る。
その礫を、空中に向けて放り投げた。ラナロウがそれに集中すると、その礫は粉々となってしまった。まるで何かの力に耐え切れず、内部から破裂したかのように。
「俺の精霊、プテラクスは圧力そのものを操ることができる。それによって空気、水だけではなく、電気や磁力までも影響を及ぼせる」
そう言い、指先を伝助に向けた。
「先程は圧力を一点に集中させて、空気の弾丸を作り出し、それを放ったのだ」
空気弾は、伝助の頬を掠めた。自分の力を見せ付けるため、ラナロウがわざと外したのだ。
「そして」
次にラナロウは、またも手刀の構えをとり、腕を上げる。
「点から線へと変えることで、切れ味の鋭い刀へと変わる」
その腕を振り下ろし、圧力によってできた空気の刃を伝助に向けて飛ばしてきた。今度は確実に当てるために。
回避した伝助。だが、ラナロウは本気となっている。
「これで終わりではないぞ!」
攻撃の手を緩めず、次々と手刀を繰り出すラナロウ。伝助はかわすのがやっとであり、反撃に転ずることができない。回避し続けても疲労がたまっていくばかりだ。
そしてついに、ラナロウが伝助を捉えた。
伝助の脚が、空気の刃に斬りつけられた。傷はそれほど深くはないが、伝助は膝を着いてしまう。
「これで終わりだ!」
ラナロウはとどめのつもりで手刀を振り下ろした。
やられるわけにはいかない。
伝助は背中の翼をはばたかせ、風で全てを吹き飛ばそうとする。
風と空気の刃が激突する。互角の威力。第三者がいたらそう見えただろう。
だが風が止み、両者がしばらく睨み合った後だった。
伝助の両翼が、地に落ちてしまった。
ラナロウの空気の刃によって、斬り落とされていたのだ。
「か、風の防御壁でさえも突き破るのですか…」
伝助は相手の威力にただ驚愕する。例え相手が黄金クラスでも完全とはいかないが、それでも威力を相殺できる自信が彼にはあった。
「しかし中々やるな。ああでもしなければ翼どころかおまえの体はバラバラとなっていたからな」
だがもう、伝助には身を守る手段がない。
「次はそのリングを狙おうか!」
ラナロウはイーグルリングに向けて空気弾を放った。咄嗟に伝助はそれをかわす。
そこから再びラナロウの猛攻が始まった。翼が斬り落とされたこともあり、伝助は今までの機敏さは失われ、攻撃を受け続けてしまう。それでもリングを守っているのは意地によるものであろう。
「しかし、なんて威力なんだ…」
伝助の体力は限界に近かった。数々の攻撃を受け続けているので当然といえば当然だが、それにしてもよく戦っていたほうである。それでも劣勢は覆せず、伝助はもう普通には戦えない。
それでも。
「これでとどめだ!」
ラナロウは最後となる一撃を伝助に向けて打ってきた。
ところが、驚くべきことに伝助はそれを紙一重で避け、ラナロウの顔面に拳を入れたのだ。
ラナロウは言葉を失ってしまう。初めて自分の顔面に一発入れられたこと、伝助がまだ動けたことに。
「僕だって、そう簡単に終わらせるわけにはいかないんですよ」
自分にも、戦う理由があるのだから。
「それがどうした!」
ラナロウには、伝助の事情など知ったことではない。
空気弾をもって、次々と伝助に攻撃を仕掛けていく。かわすことも防ぐこともできない伝助は、それらを甘んじて受けてきた。
しかし、今度は足を止めない。むしろ、伝助は今の状態からは出せるとは思えないほどのスピードでラナロウに接近していく。
そして、ラナロウに打撃を与えていく。パンチ、キックの応酬により、伝助はラナロウを怯ませ、後退させている。
「こ、この男…!ここまでやるなんて…!」
先程とは一転し、守勢に回されたラナロウはただ驚愕していた。伝助にはもう、反撃できる力などないはずだ。なのに、何故。
半ば混乱しているラナロウに、伝助の蹴りが胴に見事に入った。思わぬ一撃を喰らったラナロウは倒れてしまう。
「おまえ、何故ここまでできる。おまえの実力では俺に敵わないのはわかり切っているはずだ」 「約束しましたからね」
伝助はまっすぐにラナロウを見据えている。その様は、威風堂々という言葉が正に合っていた。
「皆を先に行かせて、僕もここであなたに勝って後で追いつくと」
そこでラナロウは気付いた。
伝助の背後に、大きな鷲のオーラが浮かび上がっていた。
「この男、マインドを解放させているのか…!」
それで先程からの反撃が、自分を圧倒できるほどの力になっていることがわかった。
務めを果たそうとする思い、仲間たちのために自らの力を奮おうとする心。そんな伝助の誠実な心が、マインドのトリガーとなったのだ。
それにしても、とラナロウは伝助の人となりを思った。
最初は物静かな印象だった。物腰も丁寧で、とても戦いに似合わない男だった。来ている服装も、役所勤めを思わせるものであった。
それが、戦っていくうちに力強さが増していった。態度は変わらないが、勢いを強くしていき、現在このラナロウをも吹き飛ばそうとしている。
まるで、そよ風が段々と激しい嵐へと変わっていくように。
そして、その勢いはまだ止まらない。
「ワイステインが使者、風間伝助最大の必殺技、受けてもらいます」
伝助は拳を構え、必殺技を放とうとする。
マインドを解放した必殺技。威力は今までの比ではないはず。
伝助がラナロウに向かって駆け出した。
彼の必殺技を喰らうわけにはいかない。ラナロウは圧力を操作して伝助の行く手を阻もうとする。しかし、伝助の足は止まらない。
「嵐鷲滑空拳!」
そして、伝助最大の拳がラナロウに叩き込まれた。その威力によってラナロウは吹っ飛ばされてしまう。
今週はここまでです。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 3月8日更新 ( No.10 ) |
- 日時: 2020/03/15 21:50
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんわ。
今週の分を更新します。
3 はじめてラナロウを倒すことができた。
それは、このままいけば彼に勝てる。伝助にそう確信させるには十分であった。
だが。
「どうやら俺はおまえを甘く見ていたようだ」
ダメージは効いている。なのに、ラナロウは立ち上がってきた。
マインドが覚醒した中での必殺技。それを受けた中で、ラナロウは決心した。
「俺も、全力の技で応じよう」
青銅クラスが、黄金クラスを倒した。
この事実から、伝助の強さを認めなければならない。だから、ラナロウも自身最大の必殺技を放つことを決めた。
「受けるがいい」
ラナロウは両の掌に圧力を用いて、周囲に散ったエネルギーを集める。
「プレサスブラスター!」
そのエネルギーをビーム条にして伝助に向けて放った。
目覚しい反撃を見せた伝助だが、彼にはもう相手の攻撃を回避する余裕はない。
そのまま巨大なビームに、伝助は飲み込まれてしまった。
プレサスブラスターは、圧力によって作られたビームだ。それには、空気や水や電力といったエネルギーが含まれている。
それらが伝助の身に牙を立てていく。
プレサスブラスターを受けた伝助はその場で倒れてしまった。
終わった。
ラナロウはソウ確信していた。プレサスブラスターを受けた以上、立ち上がることはできない相手の体はズタボロになっている。
これでようやく、敵の一人を倒せた。
霊神宮にたてつく者は許さない。何者であろうと、排除するまでだ。
「さて、次はこの間を抜けた奴らを追いかけるとするか」
倒れている伝助を背にし、ラナロウはハヤテたちの後を追い始める。この先に待ち受けている黄金の使者がそう簡単にやられるわけではないが、反逆者を許さないのは変わりない。自らの手で討たなければ気が済まない。
そんな彼を止めるものが。
「どこに行くんです?」
声のした方向に、ラナロウは驚きをもって振り返った。
なんと、伝助は起き上がっていた。プレサスブラスターを受け、その身は動くことさえできないはずだというのに。
その状態で立ち上がったことが信じられないが、ラナロウはすぐに興味を失せた。
「そんな体で何をするというのだ?」
もはや伝助に、抵抗する力などないと見ていたからだ。
「あなたを、倒す」
それを聞いたラナロウは思わず笑ってしまった。
何の冗談だろう。そんな身で戦えるというのだろうか。
「最大の拳と言っていた嵐鷲滑空拳も、この俺には通用しなかったではないか」
そう。伝助の必殺技は決定的なダメージは与えられなかった。伝助にはもう攻め手がない。そのはずだった。
だがラナロウは、突如戦慄を覚えた。
伝助はまだ、何かをやろうとしている。技はすべて失ったというのに。
そんな彼にラナロウは気付いていた。伝助はまだ何かを隠している。
それは、あの嵐鷲滑空拳以上の威力を秘めていると。
「まだ、嵐は止んでいないというのか」
そこでラナロウは気づいた。
「風が…吹いている?」
八方向から、この厚保野間に風が流れ込んでいる。
ありえないことだ。圧の間は外から完全に閉ざされている。出入り口はともかく、十二の間には風が通るような窓は無い。
しかし現実、風は伝助を中心にして集うように流れている。これは、伝助が起こしたものだというのか。
「人には、求めるものと避けるものがあります」
伝助は、まっすぐにラナロウを向いている。相手に目を反らさせない。そんな迫力が込められていた。
「利や誉などの四順を求め、衰えや苦しみなどの四違を避ける…」 「八風、か」
八風。それは仏の教えにある単語である。仏の修行には、それを妨げる八つの出来事が存在し、利い、誉れ、称え、楽しみの四順と、衰え、毀れ、譏り、苦しみの四違からなるそれらを八風としている。
「この八風に侵されない者こそが、賢人とされています。ですが…」
伝助は自らが抱く何かの思いを込め、拳を握った。
「それらに心が揺さぶられ、時には間違いを犯してしまうのが人ではないのでしょうか。だからこそ、人は心を理解し、救いたいと願うのではないのですか?」
その拳に、八つの風が集っていく。
「人として、精霊の使者として、この風間伝助はそう考えているのです」
ワイステインと出会い、精霊の使者となり佳幸たちと出会ってから、苦しんだり楽しんだり時には失敗をすることもあった。八風に侵されてきたといってもいい程だと自分では思う。
だが、その度に自分は強くなろうとしてきた。助けてもらった仲間たちのためにも、今度は自分もやらなくてはならない。身を張ってでも。
「その心をこめたこの拳で、あなたを倒します」
そう言ったと同時に、八つの風の勢いが強まる。
今、はじめてラナロウは伝助に危機感を抱いた。
このままでは本当に、自分は倒される。今決定的なとどめを与えなければ、やられる。
「これで終わりだ!」
ラナロウは最後の一撃として、プレサスブラスターを放とうとする。しかし、伝助の方が早い。
「受けなさい!この拳を!」
圧の間内の風が、ひときわ強く爆ぜた。
「嵐鷲八風拳!」
第十一の間へと先を急ぐハヤテたち。
後に残った伝助も、必ず追いつくと信じて。
そんな彼らを、一瞬そよ風が撫でた。
「これは…」
全員が何かの予感をいだかせるには十分であった。
「まさか…」
伝助の身に何かが起きたのか。
足を止め、圧の間があった方向を振り返ってしまう。
伝助は無事なのだろうか。みんな心配してしまう。
「ここで止まるわけにはいかない」
それでも、彼らは進まなければならない。
「伝さんに言われたもんな。先に言ってくださいって」
伝助と約束したのだ。自分も後で追いつくから、先に行ってくれと。
ハヤテたちはそれを信じて行くしかない。
大丈夫だ。伝助は約束を反故するような男ではない。
伝助の必殺技、嵐鷲八風拳によって舞った砂埃が晴れる。
伝助とラナロウは、最後の激突からその場で立ち尽くしたままだった。ピクリとも動く様子は全く見せない。
「風間伝助、と言ったか?」
しばらくして、ラナロウは伝助に問いかけた。
「おまえは、何のために戦ったのだ?」
伝助は、黙ってラナロウの話に耳を傾けている。
「自らを傷つけてまで、なぜここまで戦おうとする。おまえほどの男が、ただ私利私欲のためだけに戦うとは思えない」
もしそうであったのなら、伝助はこんなボロボロの状態になってまで戦おうとは思わないはずだ。この男はそんなに愚かではないはず。
一体何がこの男を戦わせているのだろうか。
「正義のため、なんて格好つけたことは言えませんが…」
伝助は疲労の中、弱弱しくもしっかりと声を絞った。
「仲間のため、スセリヒメとなる三千院ナギさんのため、そしてなにより彼らが好きな自分自身のために」
スセリヒメ。
その単語に、ラナロウは反応した。
「ナギさんはワガママにも見えますが、純粋で優しい心を持っています。それだけでなく、人を引き付ける魅力というのもあります」
自分たちはナギを信じ、ついてきた。なんだかんだ言いながら、エイジだってそうだ。
彼女の周りには自然と人が集ってくる。彼女に何かそうしたくなる、そんな気持ちを抱かせる。決して悪い人ではないということも分かっている。それはきっと、ナギはそういう人物だからだろう。
「そんなナギさんだからこそ、龍鳳も選んだのでしょう。だから僕も、今度こそ力になりたいと戦うことを選んだ。それだけです」
陽子の時のようにはさせない。
その思いが、伝助の戦う理由であった。
「…そうか」
それを聞いたラナロウは、納得したようだった。
「スセリヒメのため。霊神宮にいる使者であるなら当然のことであろうに、忘れていた」
ラナロウの戦意が失せたのか、彼とプテラクスとの一体化が解かれた。
「俺は明智天師に従えばいいと思っていた。彼が間違っていても、使者としての務めを果たすことが精霊の使者であるべきなのだと」
ラナロウだって悪人ではない。ただ使命感が強すぎたため、盲信のきらいがあっただけだ。
伝助は戦っていて、それがよく理解できた。
「けど、俺よりおまえの方が霊神宮の使者にふさわしい。俺の敗北は必然というわけか」
ラナロウの体が、ふらりと揺れ出す。
「おまえの勝ちだ、風間伝助。だが、おまえもここまでだ」
この言葉を最後に、ラナロウは倒れるのであった。
伝助はしばらく立ち尽くした後、ワイステインとの一体化を解いた。そこから、第十一の間を目指して歩き出す。
「行かなくては…」
だが、数歩したところで、伝助は突然吐血してしまう。
「八風拳の反動、か…」
嵐鷲八風拳は滑空拳以上の威力を秘めている。だがその強すぎる力は使い手の精神や肉体まで傷めてしまう。故に伝助はとっておきとしてこの技を禁じ手としていた。
しかし伝助は勝利のためにそれを使った。しかもダメージを負った状態で繰り出したのだ。伝助にはもう先に進む力すらない。
それでも、彼は先を目指す。
「約束したのですから。行かなくては…」
だが足はおぼつかず、逆に伝助は前のめりで倒れてしまう。
同時に圧の間に風が入り込み、彼の体を優しく撫でるのであった。
第40話はここまでです。 次回は来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 3月15日更新 ( No.11 ) |
- 日時: 2020/03/22 21:34
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
第41話 凍の道
伝助の後押しを受け、ハヤテたちは第十一の間へ着いた。
雷矢、エイジ、伝助。三人の離脱者が現れてしまったが、それでも彼らは先へと進まなければならない。
そんな彼らの前に待つ残り二つの難関。その内の一つが、この陽の間である。
「入る前に一つ確認したい」
全員が陽の間へ入ろうとした寸前で、氷狩が待ったをかけた。
「なんだよ氷狩、これからって時に」
水を差された達朗は、ズッコケてしまった。
「皆はこれから先、仲間が倒れても振り返らないことができるか?」
その言葉に皆口を噤んでしまう。自分が傷つくことは痛い思いをするだけで済む。だが、仲間たちがそうなるとどうしても気にしてしまう。普段はまとまりは無いが、根が善人なので放っておくことができないのが彼らなのだ。
「できるさ」
そんな中、拓実が自信を持ってその意を示した。
「皆が僕を信じて先を託したんだ。それを無下にするなんて、仲間としては失格さ。そんな真似はしたくない」
拓実は嘘は言っていない。この言葉は本心から出たものだ。
ただ、それはこの時点で生まれたものではない。それ以前、この話題が出る時に備えたものであった。拓実は必ずこういう話が生じると考えていた。だからこそ、このタイミングでそれを口にした。皆が何か言う前にこの言葉を口にすれば、自分に誘導されると踏んだからだ。
「そうだね」
拓実の狙い通り、仲間たちは彼の言葉に同調してきた。
「せっかく背中を押されたんだ。止まっちゃその人に悪いからね」
次々と決心していく彼らに、拓実は安心した。
ここで立ち止まったら、自分たちを信じた伝助に申し訳がない。自分がそう思うのだから、仲間たちにも少しはその気持ちはあるはずだ。
「行きましょう」
ハヤテが呼びかける。皆はそれに頷いた。
「私たちは立ち止まる暇はない。ならば先へ行くぞ!」
ナギの号令を合図にし、全員陽の間へと入っていく。
「うまくいきましたね」
そんな中、氷狩がそっと拓実に耳打ちしてきた。
共謀したわけではないが、二人は仲間たちの意志を固めるためにあのような問答をしたのだ。そしてそれは成功した。
「僕はまた、逆の考えが君にあったのかとも思ったけどね」
あの場であのような問いを投げかけるということは、進むのを止めて引き返すことを促すようにも思えた。氷狩はその狙いがあったのではないかと拓実は疑ってしまったのだ。
「それで進むのを拒んだら、それはそれでいいと思っていました」
臆病風に吹かれても、笑う人間はいない。自分たちは戦いを強制しているわけではなく、各個人の意思を尊重してのことなのだから。周りに流されるような人間は自分の周りにはいない。
「あとは、皆が熱くならないよう、冷静に、クールにいかないとな」
陽の間の中は、はっきり言って明るかった。障害物になりそうなものも無いため、今までと比べて眩しいほどだ。
「これだけ視界が広いと、不意打ちとかは通用しないな」 「それにしても眩しくないか?それにこの中の空気なんか熱い…」
ハヤテたちは光に目を眩ませかけ、また中の温度に少々汗ばんでいた。
「それはここが、陽のラサンストの使者であるタイハが預かる間であるからだ」
ハヤテたちの前に、一人の男が現れる。
彼こそが、第十一の黄金の使者だろう。
「おまえたちは陽の力を前にして、ここから先へ行けるかな」
タイハはラサンストと一体化し、ハヤテたちの行く手を阻んだ。
「行ってみせるさ」
コーロボンブと一体化した塁が、彼めがけて駆け出した。
タイハまで目前といったところまで迫るが、そこでタイハの体が突然発光しだした。
「うわっ、なんだ?」
急なことに足を止めてしまう。
それだけなら何ということはない。相手の位置はわかりきっているのだからその方向へ進めばいいだけだ。
だが、なぜかその光に押し返され、タイハのもとへ行くことが出来ない。抵抗すればするほどその力が強まってしまう。
ついに塁は光によって吹っ飛ばされ、仲間のもとへと戻された。
「一体、あれは…?」
調べるために、花南はフラリーファと一体化し、リーフディアーツを投げつけた。
これも光によって跡形もなく消えてしまった。しかし、今ので判明できた。
「あれは、バリアも兼ねた攻撃ってことね」
どういう理屈かはわからないが、タイハから発する光は物理的な力にも干渉できるのだろう。だから塁を止めたり、吹っ飛ばすことができたのだろう。
「そうだ。このライトカーテンの前では、おまえたちはどうすることもできないのだ」 「断言するのはまだ早いんじゃないですか」
今度は佳幸がムーブランと一体化して構えをとる。
「炎龍斬り!」
炎の龍が剣から放たれ、タイハに向かって襲い掛かっていく。タイハはこれもライトカーテンで消し飛ばした。
「こんな程度の技、子供だましだな」 「けど、目くらましにはなったでしょう」
タイハが気づいた時には、シルフィードと一体化したハヤテが背後に回り込んでいた。スピードには自信があるハヤテだから、わずかな時間でも隙をつくことができる。
そこから、ハヤテはタイハに得意のキックをお見舞いする。
この攻撃に、タイハは倒れかけてしまう。ハヤテの不意打ちとはいえ、ただのキックで倒れかけたのだ。タイハは肉弾戦には他の黄金の使者と比べて弱いのかもしれない。
怯んだところに、ハヤテはパンチを入れた。これも受けてしまうタイハ。
だが、タイハだってやられたままではいられない。
お返しにと殴り返すタイハ。この一撃にハヤテは耐えきり、今度は彼から三発目となる拳を入れてくる。
「もう少し上げないといけないか…」
ぶつくさと何かを言うタイハ。それに構わずハヤテは追撃を加えていこうとする。
だが、カウンターとなるタイハの一撃により、ハヤテはよろめいてしまった。
その威力を受け、ハヤテは驚いていた。
「さっきより、力が上がっている…?」
一発目は何とかこらえることができるほど、パンチに威力は無かった。しかし今のはそれと比べると、驚くぐらい明らかに倍増している。 腕力を抑えているという話ではない。あのパンチはあれで全力だった。それに格闘ではハヤテの方に利があるのは先程のやり取りで確認できる。そんなハヤテは、タイハの身体的スペックというか、それは自分より優れてはいないように感じていたのだ。
戸惑っている中、タイハがもう一発、ハヤテを仲間たちの元へと吹っ飛ばした。
「陽の力が、ライトカーテンのみかと思ったか」
タイハは一連の攻防において、少しも動揺した素振りは見せなかった。
「陽の力は、プラスさせる力も持っている。運動でも温度でも、その力を高めることができるのだ」
なるほど。一発目と二発目で威力が違ったのはそのためだったのだ。二発目の威力が上がっていたのは、陽の力によって威力を増していたからだ。
あのライトカーテンも、正確にはプラスのエネルギーが働きかけていたのだろう。恐らく、温度や空気抵抗を陽の力で高めていたのだ。光が発していたのも、その影響なのかもしれない。
それでも、攻めることができないわけじゃない。さっきだってハヤテは肉弾戦を挑み、一瞬とはいえ優位に立てたのだ。戦えるのであれば、状況を変えることができる。
「次は私が行くわ」
そう言い、ヒナギクはヴァルキリオンと一体化する。
「私も行こう」
光も自分の剣を取出し、ヒナギクと並んだ。
二人の剣道少女が並び立つその光景は、頼もしさに満ちていた。
この二人なら、やってくれると。
「行くわよ!」 「ああ!」
ヒナギクと光、二人が同時にタイハへと挑んだ。
ヒナギクが剣を振るうが、タイハはこれをかわす。すかさず光が剣撃を叩き込もうとするが、これも回避されてしまう。
この攻防が、何回も繰り返された。
「ヒナギクと獅堂の剣による連続攻撃が、当たらないなんて…」
恐らく、タイハは陽の力で自身の反射神経を高めているのだろう。そして、タイハはただ避けつづけているだけとは限らない。
振りかかってきたヒナギクの剣を白刃取りし、彼女ごと払いのけた。続けて飛びかかってきた光に対しても、軽くあしらう。
そこへ、タイハに向かってまっすぐに矢が飛んできた。
ゴールデンアローだ。拓実がいつの間にかアイアールと一体化し、矢を撃つタイミングを狙っていたのだ。
タイハへと飛ぶ黄金の矢だが、これもライトカーテンによって防がれてしまう。矢は熱によって熔け、細かく折れてしまった。
この必殺技でもライトカーテンは貫くことができなかった。タイハに攻撃する絶好の機会だったのだが、無意味に終わってしまった。
それどころか、拓実は逆に危機に陥ってしまう。黄金の矢がタイハを逆撫でさせたのか、怒気を彼に向けてくる。
タイハの拳に光が灯っている。陽の力を拳に集中させているのだ。
そして、タイハは拓実の方を向いた。こちらに攻撃してくるのだとはっきりと感じ、思わず動きを止めてしまう。
「ライトスピアー!」
錐状の光が、高速で拓実に迫っていく。この速さでは、とてもかわすことは出来ない。
「拓実、あぶねえ!」
咄嗟に塁が拓実にタックルをかまし、ライトスピアーから逃した。だが、かわりに塁が脇腹にライトスピアーを受けてしまった。
「塁!」 「大丈夫だ」
脇腹を抑えながら平気だとアピールする塁。動ける状態なのだから大事ではないのだろうが、楽観してはいけない。
「優馬さん!」
すぐに優馬を呼びかける。優馬は塁のもとへ駆け寄り、傷を診る。
「治癒術で何とかなるが、見たことのない傷だな」
刺傷とも火傷ともとれるし、そうでもないとも言える、不思議な傷である。陽の力について、詳しく調べたくなる。
だが個人的な興味は置いといて、今は治癒に専念すべきだ。
「確かに陽の力は脅威だ。けど、だからってこっちの戦い方が変わるわけじゃないさ」
佳幸が皆を奮い立たせようとする。
「僕たちの戦いは、相手がどんな強大でも立ち向かう。そうでしょう?」
佳幸の言うとおりである。ここに至るまでその戦いの連続であり、それらを潜り抜けてきたからこそ、自分たちは今ここにいるのだ。
「ようし、こうなりゃとことんやろうぜ!」
佳幸の発破を受け、全員がやる気になった時であった。
「待て!」
氷狩が制止を呼びかけた。彼が待ったをかけると、空気が一変する力をもたらしていく。
これも、彼のリーダーシップによるところが大きいのかもしれない。
「確かに俺たちは常にそう戦ってきた。けど、考えもなしに闇雲にやっては勝利はない。今のままじゃ勇猛とはほぼ遠い無謀だ」
これも的を得ていた。今のハヤテたちはタイハを倒すことだけに熱中している。そのあまり、タイハへの対策を考えていない。そんなことでは氷狩の言う通り無謀の他ならない。
「熱くなるのはいいけど、熱くなりすぎてはいけない。一旦頭冷やさないとな」 「氷狩君、本当に冷静だね」
佳幸は氷狩の落ち着き様に感心していた。ほとんどの者が戦いに集中している中で、ただ一人だけ冷静だったのだから。
しかし今はそれは置いておく。
「それで、どう戦っていこうか」
ハヤテたちはタイハへの対策を考え出す。
「皆、ここは俺一人に任せてもらえないか」
ここでも氷狩は意見を口にした。
「皆は先に行ってくれ。あの男の相手は俺がする」 「勝算はあるのか?」
優馬が氷狩を睨んでいる。
彼は視線で訴えていた。伝助のように、信頼たる何かがなければ置いていくことは許さないと。
「安心してください。俺ならタイハを抑えることができます」
ただ、と氷狩はここで言いよどんだ。
「少しだけ相手の動きを止めることができればいいのだが。伝助さんがいれば…」
風を操るワイステインの使者である伝助なら、風でタイハの動きを止めることができたであろう。しかし伝助はこの場にはいない。同じ風を使うハヤテはナギを守らなくてはならない。
どうすれば…。
「私に任せてくれませんか?」
そんな中で、風が自ら名乗り出た。
「できるのか?」 「あなたが、ちゃんとあの方を抑えることができるのなら」
大した自身だと氷狩は感じた。それは自分も同じことだが。
そして、彼女も優馬も自分のことを信じているのだ。本気で止める気なら、自分も残ると言うだろう。仲間である優馬はともかく、出会ったばかりの風まで信頼を寄せているのだ。嬉しく思える。
だが、目的は明智天師のもとへ行くこと。そのためには、多少の危険の中でも身を置かなければならない。
それに、自分は本当にタイハを抑える自信がある。だからここに残ると言えるのだ。
「任せてくれ」
嘘偽りのない言葉。
それは、確かに風に伝わった。
「わかりました」
氷狩の勇気を汲んで、風も行動をとった。
「戒めの風!」
唱えると同時に、タイハの周囲で風が渦巻きその身を拘束した。
「魔法、か」
攻撃ではなく、風で相手の動きを止める魔法。しかもその効果は強力で、さすがのタイハも振りほどくことができない。
しかしそれは自身の力を陽の力によって上げればいいだけだ。そうすればこんな魔法など簡単に打ち破れる。
タイハが陽の力を使おうとした時だった。
「フリージングスノウズ!」
グルスイーグと一体化した氷狩が間髪入れずに必殺技を放った。雪を生じさせる程の冷気を浴び、タイハは凍り付いてしまった。
「さあ、今のうちに!」
氷狩に促され、ハヤテたちは一気に駆け出した。
振り返る者は誰もいなかった。皆信じているのだ。ここに残ると言った氷狩の勇気を。
一人、また一人と去っていき、陽の間に残ったのは氷狩と、凍り付いたタイハだけとなった。
そのタイハも、すぐに凍結から回復した。
「この程度で俺を凍りつかせると思ったか」
おそらくこれも、陽の力によるものだろう。
「おまえこそ、これが俺の全力だと思うなよ。今のは足止め程度に抑えておいた」 「その余裕、すぐに後悔するぞ」
今回はここまでです。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 3月22日更新 ( No.12 ) |
- 日時: 2020/03/29 22:33
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
2 タイハは掌を氷狩に向ける。
「サーマルレーザー!」
そこから熱をもった光線が氷狩に向かって放たれた。しかし、レーザーは氷狩の手前で弾けて消えてしまった。
「おまえのライトカーテンと同じように、俺も自分の身をアイシングヴェールに覆われているんだ」
凍気をヴェール状にして放つことで、自分の身に薄い氷の防御壁を纏っている状態になり、それが相手からの攻撃を弾いているのだ。
「今度は本気でいくぞ!」
次は氷狩が攻撃する。最初の時とは違い全力でのフリージングスノウズは、タイハのライトカーテンを無効にし、彼の右腕を凍りつかせた。
すかさず、氷狩はタイハに肉薄し拳を一発入れた。これを受け、タイハはよろけてしまう。
氷狩は実感した。これなら勝てる。
グルスイーグの力は、氷を操るだけでなく相手を凍らせる力もある。温度を下げる、マイナスに働くエネルギーである。
それはプラスのエネルギーをもたらす陽の力を相殺できるかもしれない。
その氷狩の読みは当たった。互いの力は互いによって無効にされている。これならあとは肉弾戦だ。
「なるほど。俺たちの力は互いに相殺し合うようだな」
タイハも氷狩の力についてはある程度認めたようだ。
「だが、おまえも俺の力を見くびっているようだな」
タイハの纏う空気が、一層重みを増す。
「真のサーマルリレーの威力を思い知るがいい!」
そう言って、氷狩の右足に向けてレーザーを放った。アイシングヴェールによって防げる、もしくは威力が半減されると氷狩は思っていた。
だが、レーザーはヴェールを貫通し、氷狩の右足に直撃した。
「うわっ!」
思わず膝をついてしまう氷狩。右足にうまく力が入らないのだ。
先程の塁のように、炎傷とも何ともとれる傷。痛みはないが、これでは足を満足に動かすことができない。
「陽の力を舐めるな」
タイハが、黄金の使者としての核を見せ出した。
「陽の力には制限というものは存在しない。俺が望めば望むほどプラスの力を上げることができる。おまえのヴェールなど、紙切れほどにしかならん」
それを証明するかのように、タイハはレーザーを今度は左足に向けた。右足をまともに動かせないため、氷狩はかわすことができない。
氷狩は左足にも直撃を受けてしまった。足を封じられた以上、氷狩はもう逃げることはできない。
「無限に近い陽の力を、思い知ったか」 「無限に近い…」
その言葉を受け、氷狩は気づいた。
「まさか、陽の力というのは太陽…?」
太陽。あの強烈な光や熱も、無限に近い力も、すべて太陽を彷彿される。その圧倒的な力も。
「太陽の前では、おまえの氷などすぐに解けるものだ」
タイハの威圧感の前で、氷狩は思わず竦んでしまった。自分が対峙しているのは太陽、自分の力では覆すことなどできない。
「己の力量というものがわかったようだな」
動けずにいる氷狩に、タイハは構えをとる。あの構えは、ライトスピアーだ。
「最後はこの技によって敗北をかみしめるがいい!」
タイハは氷狩目掛けて光の角を突き刺してきた。
アイシングヴェールが突き破られ、スピアーに貫かれた氷狩。彼はそのまま振り払われ、倒れてしまう。
終わった。
タイハはそう確信していた。ライトスピアーは確実に氷狩の急所を貫いた。死にはしないが、もう戦えないはずだ。
「なっ…!」
しかし、氷狩は立ち上がってきた。しかも、ライトスピアーで受けた傷も浅かった。
「ライトスピアーを受けて何故…?」 「生憎、一度見た技をそうやすやすと受けるわけにはいかないからな」
氷狩の脳裏には雷矢と戦った時のことが浮かんでいる。
雷矢との戦い。雷矢は一度見ただけでフリージングスノウズを見破り、完全にかわしたのだ。驚きも生じたが、それ以上に悔しさに見舞われた。
仲間たちの力を合わせることで雷矢には勝ったが、氷狩の心にはその感情が深く根付いていた。
あの人に、負けるわけにはいかない。それなら最低、あの人ができたことぐらいできるようにならなければならない。
完全にかわすことはできなくても、ダメージを最小限に抑えることはできる。
「なるほど、うまくかわしたというわけか。だが圧倒的な実力差を前にしてまだ戦うのか?」 「実力差は、問題じゃない…」
氷狩は、タイハから目を背けない。
「大切なのは、逃げ出さないこと。恐くてもいい、やせ我慢でもいい。目を背けずに、立ち上がることなんだ」
そして氷狩は、再びタイハと戦おうとする。そんな彼に、タイハは辟易していた。
「まだ太陽を相手にするつもりか?」 「太陽だって、いつかは終わりが来る。けど、それでも燃え続けようとしているんだ」
構えをとる氷狩。
「なら俺だって。溶かされてしまうとしても、何度でも挑戦し、陽の力もおまえも凍結させてみせる!」
フリージングスノウズを放つ氷狩。
「無駄だ。この攻撃で、おまえの敗北は決定となる」
タイハはとどめとなるサーマルレーザーを撃つ。これによりフリージングスノウズは打ち消され、そのまま氷狩を焼くと思われた。
「なっ!これは…!」
だが、サーマルレーザーは両者のちょうど中間で抑えられてしまった。フリージングスノウズがレーザーを押し留めているのだ。
「バカな!お互いの必殺技の威力が互角だと?」
タイハは手を抜いていない。全力で攻撃している。その攻撃に、氷狩が押し留めているのだ。自分より実力が離れているこの男が。
「まさか、この俺と同等レベルまで威力を上げたというのか?」
なんて奴だ、とタイハは驚いた。だが、すぐに気が付いた。
氷狩の体から、白い気体が出来ているのだ。
タイハは瞬時に理解した。あれは冷気であると。
「奴の体から冷気が漏れている…!」
それが示すのは、一つしかなかった。
「おまえ、自分の限界以上に高めた力を放っているのか!」
タイハの実力は氷狩のはるか上のレベルだ。それに対抗するためには、自分の心の力をタイハの域にまで上げればいい。
氷狩はそこまで高めた力を、すべて出し切っているのだ。しかしそれは、完全にコントロールできるものではない。
自分の技量を超えた力など簡単に制御できるわけがなく、せっかく高めた力が消えてしまうか、力に振り回されてしまう。氷狩の体から冷気が漏れているのはその証だ。
そして、それだけの力を使っていけば、体力の消耗も激しくなる。
疲労から、フリージングスノウズの勢いが下がっていく。このままではサーマルレーザーに押し切られてしまう。
「くっ、負けるか!」
疲れを振り切り、氷狩は再び心の力を高めようとする。
「よせっ!それ以上はおまえの身が…」 「それでも!」
自分の身が危険だろうと、自分は戦うんだ。
その勇気が、氷狩のマインドを覚醒させた。
恐竜のオーラを背後に浮かばせ、さらに自分の力を高めた。その力を、フリージングスノウズをこめる。
再びフリージングスノウズに勢いが戻る。レーザーと拮抗し、そしてレーザーは拡散されていった。
タイハはそのまま、フリージングスノウズを浴びてしまった。その凍気の威力に、彼は倒れこみそうになる。
「バカな!押し返されただと!」
自分の必殺技と互角なだけでなく、それを押し返して自分にダメージを与えるとは。
凍りついた自分の下半身を見て、タイハは驚いていた。
「しかし、おまえだって無傷ではあるまい」
タイハは氷狩の方を確認する。
氷狩も左肩から腹部にかけて凍結していた。自分のレベルでは扱いきれない力で必殺技を放ったため、その反動でダメージを受けてしまったのだろう。
「見事な反撃だが、それもここまでだな」
自分は脚を凍結させられた。対して、氷狩は左上半身の凍結に加え、両足はレーザーを受けて満足に動けない。
傷だけではない。必殺技であるフリージングスノウズはタイハを凍らせはしたが、決定的なダメージを与えることができなかった。力で相手を上回ることができても、それをぶつける技がないのだ。
「最早勝負は見えている。が、ここまで戦ったおまえには相応の敬意を払うべきだな」
タイハは、新たな構えをとり、力を練りだし始める。
「最後だから教えてやる。陽の力というのは、プラスイオンを操る力だ」
イオンとは、原子が電子を放出したり受け取ったりすることでできる粒子であり、プラスイオンは前者の、もっとも外側の電子殻から電子を放出し正の電荷をもつことでなる。
プラスイオン、陽イオンとも言うが、この物質が原子からなるには電子を放出させるためのエネルギーが必要である。当然、より多くの電子を放出させるにはそれに比例してエネルギーはもっと大きくなっていく。そして、二つ以上の電子を放出させた陽イオン、多価イオンと言うが、電子を吸収すると膨大なエネルギーを放出する。
タイハはこの多価イオンを操ることができる。そして、それがもつエネルギーを戦闘に利用しているのだ。また、太陽は水素原子による核融合によるものであり、多価イオンはそれによって生じたプラズマに多く存在している。タイハが自身を太陽と称していたのはこのためであろう。
「そして、これが俺の持てる力を込めた最大の必殺技だ」
タイハの掌に光球が出現し、段々と大きくなっていく。
「その名も、ソーラービーム!この光エネルギーの光線が、おまえの氷を勇気をも撃ち抜く!」
見るだけでわかる。最大の技というのは口だけではない。いくら氷狩が力を高めても、フリージングスノウズでは対抗できない。
氷狩はもう成す術はない。タイはそう確信していた。
だがそれは、氷狩がフリージングスノウズしか技を持っていると仮定してのことだ。
「…なんだ、それは!」
氷狩もまた、タイハに応じるように構えをとった。
見たことのない構えだ。だが、氷狩が集中しているのを察し、フェイクではなく真の、まだ見ぬ必殺技であることを察する。
「…できればこの技は使いたくなかった」
彼はここに来る前日まで行った修業を思い出す。彼は今日に備えて佳幸、達郎と共に特訓をしていた。
二人の協力もあって、氷狩は一体化を習得することができた。だがこれだけでは、二人に追いついたとは言えない。
佳幸は攻撃、達郎は防御というように、自分にも特化した技というものがなければならない。ただ氷を使って攻撃するのではヒナギクの真似でしかなく、それでは自分が一緒に行く意味がない。
試行錯誤の末、氷狩は自分の持ち味というものを手にすることができた。
それは、対象を凍結さえること。相手やその攻撃、そしてすべてを凍りつかせる。相手を封じることのできるこの技は他の仲間たちにはできないことだ。
目指すべき方向が決まったなら、あとは努力するだけだ。
そして、氷狩は極めることができた。だがそれは、諸刃の剣であった。得た必殺技は極めすぎたため、氷狩の今のレベルでは扱いきれないのだ。
それでも、やるしかない。
「自分が傷つくことになろうとも、自分で決めたことだから逃げ出してはいけないんだ」
実戦で使うのは初めてだ。どうなるかもわからない。
それでも、やらなければならない。
対して、タイハは余裕の態度だ。
「この正念場で、自らの手に余るような技で決められると思うか!」 「決めてやる」
氷狩の決意は固かった。
「ならば思い知るがいい。黄金の使者の格と、自らの浅はかさを!」
タイハの掌で、一層光が増しソーラービームを放った。
氷狩も、同時に秘めたる力を発した。
「アブソリュート・レイ!」
両者の技が今、交錯した。
本気の技同士のぶつかり合い。勝ったのは、どちらか。
「大した奴だな、おまえは」
技を放った構えのまま、タイハはふと笑った。
「この俺のソーラービームを止め、そして俺自身を凍りつかせるとは」
彼が言葉を紡いでいく内に、足からその身を氷が覆っていく。氷狩の必殺技が勝ったのだ。
「だが、おまえとてただじゃすまなかったな…」
タイハが完全に凍結したと同時に、氷狩もまた凍りついていた。やはり彼の必殺技は、まだ自分では扱いきれていなかったのだ。
だが氷狩は満足していた。タイハをここに留まらせ、仲間たちを先に行かせたのだから。彼が託した思いは、ハヤテたちの中で勇気となり、戦いの原動力となるだろう。
41話はこれで終了です。 次回は来週更新予定です
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Re: 新世界への神話 4スレ目 3月29日更新 ( No.13 ) |
- 日時: 2020/04/05 20:53
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
第42話 金色の信念
1 十二の間も、あと一つ。
その名も月の間。
ハヤテたちは、最後の黄金の使者、リツが待ち構えているこの間の前まで来ていた。
「黄金の使者最後の一人であるリツがこの中にいるんだな」 「あの顔たちのいい美形か」
リツの顔を思い出す一同。
中々の整った顔。世間で言うところのイケメンだった。その顔が脳裏に浮かんだとき、大半の男性陣が機嫌を悪くした。
「なんていうか…ムカついてきた」 「態度もキザっぽいし、こっちの神経を逆撫でしてるしな」
もちろんリツは意識して振舞っているわけではない。結局のところ、口にしているのは単なるひがみなのだろう。
「そんなにやっかむなよ」 「そうそう、男の嫉妬はみっともないよ」
優馬はなんとかなだめようとするが、拓実がそれに続いた時、彼に対して顔をしかめる。
「まあ、色男にろくなのはいないというのは事実だけどな」 「どうして僕を見るのさ優馬さん。色男と女の子にもてるのはイコールとは限らないのさ」
口ではそれほどではないと言いながら、拓実もそれなりにハンサムだ。それに、彼にはガールフレンドが多くいる。どうしても嫌味にしか聞こえず、皆の苛立ちが煽られていく。
しかし、彼の次の言葉がその苛立ちも沈める。
「けど、あの人には因縁みたいなものがあるからね。ここは僕に任せてくれないか?」
いつもの軽薄そうな余裕ある態度は鳴りを潜め、いつにない真剣な態度だ。
「こういう言葉は悪いけど、皆は邪魔だ。僕一人の手で、完全に決着をつけたいんだ」
因縁。
彼が口にしたこの言葉にはきっと、並々ならぬ思いが込められているのだろう。
「わかった。ここはおまえに任せよう」
拓実の意思を尊重し、優馬は意見を受け入れた。
ここを抜ければ、明智天師の元は目前だ。拓実が戦っている間に決着がつくかもしれない。拓実が必要以上に傷つくことが無くなるかもしれないのだ。
ならば、それに乗ってみるのもいい。それは優馬の優しさも含まれていた。だから、緊張を和らげるために自分から拓実に皮肉を送る。
「まさかこんなペテン師みたいな奴に背中を任せるなんて思いもしなかったがな」 「そんなこと言っていいんですか?その背中狙っちゃいますよ」
会話だけ聞くと物騒だが、このやり取りからは確固な信頼関係がうかがえた。
「頼みますよ」 「ああ」
最後に短く会話して、月の間へと向き直るのだった。
十二人目の黄金の使者、リツはこちらへと近づく多くの気配を感じ取っていた。
「とうとうここまで来たか」
まさか、自分の所までたどり着くとは思わなかった。彼らの実力では、道半ばで倒れる。そうリツは思っていた。
だが結局はリツの予想を裏切る結果となった。しかし特に驚きはしなかった。ここまで来たのなら、自分が彼らを降せばいい。
敵の姿が目で見える距離まで詰めてきた。十人以上はいるが、問題ない。
リツは自分の精霊、ローゼスターと一体化する。誰が相手でも迎え撃つ。それが十二人目の黄金の使者、最後の砦ともいえるべき自分の務めだ。同時に襲い掛かろうがすべて止めてやる。
だが、そんな彼らの背後から追いつこうとするものが。
それらはあっという間にハヤテたちを追い抜き、リツへとまっすぐに向かっていく。輝きを放つ無数の黄金の矢が。
「虚を突いたつもりか?だがこの程度!」
リツは上空へと跳び飛んでくる矢を避けた。その位置から、下にいるハヤテたちに狙いを定める。
「させるか!」
そこへアイアールと一体化した拓実が横から体当たりをかまし、その勢いのままリツを壁へと押さえつけた。
「皆、急いで!」
言われるまでもない。ナギたちは走って二人の脇を通り過ぎていく。
「拓実、思う存分決着つけろよ」
去り際に優馬は拓実に声をかけるのであった。
その後、ハヤテたちは難なく月の間を抜けることができた。出口から出たと同時に、ナギはその場で倒れてしまった。
「み、水…」
震えながらハヤテに手を伸ばす。ハヤテは苦笑を浮かべながら水をナギに飲ませる。準備はいいが、どこに隠していたのだろう。
「それにしても、拓実さんの因縁って何だろう?」
そのことが気になっている光は首をかしげる。他の皆も、それなりに興味はあるみたいだ。
ただ一人、優馬はあきれたように手で頭を抑えていた。
「ああ、あれは嘘だ」 「え?」
優馬にはわかっていた。あれは自分たちを先に行かせるための方便だということが。
一人残された拓実が心配しないわけではない。しかし、拓実ならば大丈夫だと信じていた。
普段の軟派な態度は気にくわないが、拓実は仲間たちの思いになんかしらで応じてきた。本心は中々見せず、今回のように嘘もつくがそれも自分たちのためである。だからこそ優馬は、仲間の中で拓実を一番信頼していた。
「拓実…頼んだぞ」
心の中で、優馬は祈るのであった。
「さて、皆行ったね」
ハヤテたちが行ったことを確認した後、拓実はリツから離れた。
「皆の後を追いかけたいところだろうけど、そうはさせないよ」
拓実はここでリツの足止めをする目論見だ。ハヤテたちなら明智天師を何とかしてくれる。言葉にこそしないが拓実は仲間たちを信頼していた。
「おまえひとりで私を止められると思っているのか」 「勝てないのはわかっているさ」
実力の差は十分に理解している。それでも、リツをここに釘付けにすることぐらいはできる。自分だって、八闘士の一人でありハヤテたちの仲間でもあるのだ。その仲間たちに、任せろと言ったのだからそれに応えなければならない。
一方でリツは拓実をいぶかしむように見ている。
「わからないな。おまえの仲間は存分に決着をつけろと言ったが、当のおまえからはそんな意思を微塵にも感じられないのだが」 「あれは彼らを行かせるための嘘さ。でもまあ、強いて言うなら…」
拓実は、自分とリツを交互に指差しながら言った。
「精霊の使者の中で、どっちが一番の美形かははっきりさせたいな」
それを聞き、リツは癪に障った様子を見せた。
「おまえのような軽薄な男には、手加減する気にはなれないな」 「なんだ、あなたもお堅い人なのか」
どうして自分の周りにはこんな硬派な人ばかり集まるだろう。こういった人たちは付き合いが面倒臭く、拓実はため息をついてしまう。
とはいえ、今回はいたってやることは簡単で、それほど難しいことではない。
「悪いけど、手加減する気はないっていう気持ちは、僕も同じだから」
今回はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 4月5日更新 ( No.14 ) |
- 日時: 2020/04/12 21:02
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
2 矢を手にする拓実。しかし弓を構える暇を与えずにリツが迫っていく。
三日月の形をした刀を振るい、拓実を斬ろうとするリツ。拓実はそれをかわして距離をとろうとするが、リツはそれを許さず攻撃し続けていく。
拓実が矢と弓を武器にしていることから、距離を詰めて戦うというのは正しい。実に有効な戦法だろう。
だが拓実は思う。自分を舐めるなと。
「僕はよく軟弱者だと思われているようだけど、ケンカの方だってそれなりに腕が立つのさ」
襲い掛かる刃を巧みなフットワークでかわしていく。
「いい男は足腰も強くないとね。戦いでもベッドの上でも重要だし」
そう言いながら、リツの顔面に裏拳を入れた。続いて弓を持つ手を高々と上げる。
「この弓、刃が仕込まれているんだよね。これで斬りかかろうか!」
頭を揺さぶられ、思考力が定まらない中、リツは刀で防御をとろうとするが。
「なぁんて、ウソさ」
空いたリツの腹部に拓実は蹴りを入れた。その勢いのままリツは後退してしまい、両者の間に距離がとれた。
この好機を逃す拓実ではない。素早く矢を弓に番え、そのまま放つ。
矢は見事、リツの脇腹に命中した。当然、これで終わりではない。
更に拓実は矢を次々と放つ。放たれた矢は、それぞれ勝手な方向へと跳んでいく。
ゴールデンアロー乱れ撃ちだ。黄金の矢は外れていくものもあるが、ほとんどはリツに当たっていた。
「これで最後!」
拓実はとどめとなるゴールデンアローの一矢を、リツに向けて放った。
ところが、リツはその矢を右手で受け止めてしまった。
「軟派な男だと思っていたが、それに反して戦い慣れているな」 「あなたこそ、美しい顔立ちからは想像できない腕力と反射神経をお持ちのようで」
余裕を取り繕っているが、拓実は内心驚いていた。とどめの一発がまさか防がれるとは予想していなかったのだ。
そんな拓実への挑発なのか、リツは矢の穂を指だけで砕いた。
「このまま長引けば、足止めを狙う貴様の思うつぼだな。ならば、短期決戦といこうか!」
そう叫んだ瞬間、リツは拓実を思いきり殴り飛ばした。吹っ飛ばされた拓実だが、その勢いを利用して思い切り地面を蹴り、リツの死角へと跳んでいく。
そこからゴールデンアローを放つ。死角からの攻撃だ。かわすことはできないはず。
するとリツは、今度は指一本で矢を受け止める。その瞬間、矢は粉々に崩れ落ちてしまった。
「本当にすごい力だね」
呆れたような声を出すものの、拓実は危機感を抱いた。黄金の矢を砕くほどの握力を誇る手に捕まってしまっては、如何なるものでも握り潰されてしまうだろう。
リツを近づけさせないため、ゴールデンアロー乱れ撃ちを行う。矢がリツの視界一杯にばらまかれる。
その矢の一つ一つを、リツは華麗にかわしていく。
これには拓実も驚愕するしかなかった。スピードはもちろん、矢を一本一本見切ることのできる眼力と瞬時での判断力は素晴らしいの一言しか出なかった。
だがどんなに強者でも、必ずどこかに隙はある。
「…そこだ!」
拓実はそれを見逃さず、ゴールデンアローを放つ。ところが、矢がリツに当たった瞬間、矢の方がボロボロに崩れ落ちてしまった。
ここにきて、拓実は違和感を抱いてしまう。戦っていく内に、リツが強くなっていく気がするのだ。黄金の矢だって、初めはリツにダメージを与えられたものの、今では当たっただけで矢の方が粉々になるのだ。
それに、疲労感が並々ならぬものとなっている。今まで戦ってきた中で一番の強敵だということもあるだろうが、それにしては体力と精神力の消耗が激しすぎる。ペース配分はきちんとしてきたつもりなのだが。なにかあるのか。
これでは、リツの言う通り早期決着しかなくなってしまう。
「この私がだんだんと強くなっているようで戸惑っているな」
そんな拓実の心を、リツは見破っていた。
「正確に言うと逆だ。おまえが弱くなっているのだ」
拓実はその言葉が理解できなかった。確かに、疲れによって力は落ちるものだが、劇的に変わるわけではない。
それとも何かあるのかと、拓実は再びゴールデンアローを放った。この攻撃の結果によって、何かがわかるはずだ。
その黄金の矢は、またもリツに当たった瞬間に散ってしまった。
またも同じ結果となってしまった。こうなると、リツの言うことが現実になっているのかもしれない。
疑問が確信へと変わりつつある中、リツが何が起こったのか説明をしだした。
「月はその美しさとは裏腹に、吉兆の証でもある。その姿を見れば、生物的本能を刺激される。おまえたちの世界には獣になるという伝承もあったな」
そういえば、と拓実は狼男の話を思い出す。あれも満月の夜に変身して暴れまわっていたと聞く。
「わが精霊ローゼスターも、その月の力を宿している。相手の心を刺激させ、不安定にさせる波動を放つ力だ」
つまり、自分もその波動を受けていたということなのか。自分が弱くなったというのはそういうことなのか。
半信半疑のまま、拓実は三度ゴールデンアローを放つ。矢がリツへと迫っていくが、当のリツは意にも介していなかった。
「この技こそ、その力の証明であり、究極の到達だ」
リツは、飛んで来る矢に向けて指を差す。
「ルナティックビーム!」
彼の指先から光線が放たれ、黄金の矢に命中する。それだけで、矢は砂粒レベルまで分解されていく。
「使者の心の力さえも、この技の前では不安定となり力となさずに消えるのだ」
拓実が弱くなったというのは、月の力を受けて心の力がいつものように攻撃にこめられなくなったことを言うのだろう。それも、当人に気づかれないレベルで。
だからと言って、拓実が勝てないことが証明されたわけではない。
「なら、これはどうかな?」
拓実は今度は乱れ撃ちを行う。一本では崩れてしまっても、十数本も迫ってくれば防ぎ切れないかもしれない。
「何本増えようが同じことだ」
リツも掌を前に掲げ、構える。
「ルナティックウェーブ!」
その掌から衝撃波のようなものが放たれ、黄金の矢を次々と砂へと変えていく。更にその脅威は拓実にも迫っていき、その勢いで彼を転倒させた。
リツの必殺技を受けたことによる痛みはなかった。だが、月による狂気、ルナティックの波動を受けたことで心に影響が出たのか、拓実のアイアールとの一体化が解かれてしまっていた。
まさか、使者との一体化まで強制的に解いてしまうなんて。攻撃的ではないが、その強力な技に拓実は驚愕するしかなかった。リツとローゼスターは、精霊の使者にとって天敵であることを実感する。
「どうだ?私の前ではおまえを全力を出し切れないことがこれでわかっただろう?」
しかし、拓実は弱気になることはなかった。
「果たしてそうかな?」
拓実の余裕ある態度が気にかかるリツは、彼の視線を辿ってみる。その先の、自分の上腕を見て、今度はリツが驚く。
自分の腕に、かすった程度だが切り傷が出来ていた。後ろを振り返ってみると、黄金の矢が一本、地面に刺さっていた。
一本だけ、ルナティックウェーブを受けても崩れずに飛んでいき、かすったとはいえ傷をつけたのだ。まさか自分も傷を負うとは思っていなかっただけに、リツはそのことが信じられなかった。
「僕だって、ただやられるわけにはいかない。みんなが僕を信じて先に行かせたんだ。その信頼には、応えたいと思うじゃないか」
拓実は仲間たちを信じている。きっと何とかしてくれると。そして自分はそんな彼らの仲間でもあり、共に戦ってきたのだ。自分にも、それだけの力があると信じている。
何より、ここで負けたらリツだけでなく仲間たちにも負けたような気になってしまう。ナギやエイジや塁、優馬たちの勝ち誇るような顔を思い浮かべては、腹立たしくなった。
「気にくわない連中が多いけど、僕はそれでも彼らを信じているからね」
ルナティックウェーブにも揺れない拓実の心が、彼のアローリングを光らせた。
「なるほど、金属性の精霊の使者は信念もしくは信頼であると聞いたが、おまえにもそれなりの思いがあるということか」 「どうかな」
天邪鬼な一面がある拓実は、うそぶいて見せた。
「だが、私だってこれ以上足止めされるわけにはいかない。明智天師への恩に報いるためにも」 「恩…?」
拓実はふとそれが気になった。明智天師の弟子であったミークと同様に、リツもまた彼と何かあるのだろうか。
リツは、自らの身の上を話し始めた。
「私は、元は陰鬱の精霊の使者であったのだ」 「えっ、あなたが?」
黄金の使者の一人が、霊神宮と敵対する陰鬱の使者であったことに、拓実は驚きを隠せなかった。
もう少し、リツの話が聞きたくなった。
「使者としての力を持つ私は、負の心に囚われ陰鬱の使者へと堕ちてしまった。私の心はそのまま闇へと沈んでいったが、あの方が救ってくれたのだ」
あの方というのは、明智天師のことに違いない。
「闇から引き上げられた私は、あの方のような使者を目指し、修行した。その中で、私と同じような人間も多く見てきた。その心と触れ合うことで、私自身も強くなった」
そこでリツは、自らのリングを見せる。
「元々陰鬱の精霊であったこローゼスターも、こうして黄金の精霊にまでなることができたのだ。これもあの方のおかげだったから、私はその恩を返したいのだ」 「ローゼスターが、陰鬱の精霊だった?」
この事実に拓実は驚いていた。陰鬱の精霊がそのネガティブを自ら晴らすなんて聞いたことが無かったし、自分たちがそれをやろうとしてもうまくいかなかったからだ。
拓実は希望を持てた。それと同時に、この戦いに負けるわけにはいかなくなった。
「あなたに勝てば、僕たちも陰鬱の精霊を救える力がつくということか」
拓実の矢を握る手に、力がこもる。
「足止めできればそれでいいと思っていたけど、そんな甘い考えは捨てよう。僕は絶対に、負けない!」
また、ゴールデンアローの乱れ撃ちを行う。対するリツも、先ほどと同様ルナティックウェーブで迎え撃とうとする。
矢が一本ウェーブをかわして自分にかすり傷をつけたのはまぐれだ。こんなことは二度も起こらない。リツはそう信じていた。
そんな彼を裏切るように、矢がまたしてもかすり傷とはいえダメージを与えた。しかも、今度は矢が二本と増えていた。
「まぐれではない。まさか、矢を撃つたびに奴の心の力は高まっていくのか…?」
それが本当なら、月の力は通用できなくなってしまう。戦いが長引けばこちらが不利になるかもしれない。
だが月の力を封印して正攻法で戦うのは危険かもしれない。拓実がそれを狙っているかもしれないのだ。彼はまだ何かを残している。使者としてのカンが、そう告げている。
誘いに乗るか、自分の戦いを貫くか。
「…ここで戦いが長引けば、先に行った奴らが明智天師の元へ着いてしまうか…」
自分はともかく、明智天師が危機に陥るのだけは避けたい。優先度を考えれば、答えは決まり切っていた。
「アイアールの使者。おまえとの勝負、受けて立つ!」
月の力を用いず、拓実との直接対決を降す。ハヤテたちに追いつくにはそれしかない。それに、この男の真価というものを見てみたい。そんな気持ちもリツにはあった。
三日月の刃を再び手にし、リツは拓実に攻め入る。対して、拓実は距離をとり、ゴールデンアローの乱れ撃ちを行う。
「その程度の技、最早月の力を使うまでもない!」
三日月の刃を前に構えることで、盾代わりとして矢を払い除けるリツ。これにより矢がリツに突き刺さることはないが、それでも拓実は乱れ撃ちを行い、相手を近づけさせまいとする。
しかし、リツはついに拓実に手が届くところにまで詰めてきた。そこでリツは三日月の刃を振り下ろした。その刀身が拓実を捕らえようとした瞬間、拓実は手にしている弓でそれを防ぐ。
競り合いが続く中、拓実の弓が三日月の刃を払い除けた。リツの手から刃が離れ、拓実も感覚がマヒしたのか、手から弓を落としてしまう。
ここまでの流れは、リツの想定内であった。そして、彼の本領発揮はここからであった。
リツは二つの手を拓実のそれに組ませ、潰すかのように強く握る。
彼の握力の強さは、黄金の矢を砕いたことで証明されている。拓実の両手は、完全に粉砕されてしまった。
しかし、これこそ拓実が狙っていた唯一の好機であった。今リツの手は自分のと組まれている。これでは自慢の握力も働かない。
叩くなら、今しかない。
一方、何かを察したリツは危機から逃れようと拓実から離れようとするが。
「…なんだ、これは!」
自分の手と拓実の手が組んでいる状態で黄金に固められていた。これでは手を離すことができない。
「あなたほどの使者を相手にするには、僕自身が矢となるしかない」
そう言い、リツと繋がったまま上空へと高く飛び上がった。
高く高く上がり、天井スレスレのところでリツを下に向けて急降下する。
「地面に叩きつけるつもりか?それだけではこの私は倒せないぞ」
言いながら、リツは気づいた。
無数の矢が穂を天に向けて、地面に刺さっている。このまま落下すれば、リツの体は串刺しとなってしまう。
「まさか、先程から矢を何本も打ったのは、これのため…」
そう。単なる悪あがきと思われた数々の乱れ撃ちは、このための布石だったのだ。しかし、矢の穂をうまく天に向くようにするには撃ち方に工夫がいるし、途中で相手に気づかれてもおかしくないはずだ。
「矢に気づかなかったのは、私が奴を甘く見ていたからだ」
何より、拓実の信念が実ったのがこの結果なのだろう。
リツの体が着地と同時に、無数の矢に貫かれた。しかし、リツと手をつなぐ形で捕らえていた拓実も、リツほど深くはないとはいえその身に矢が突き刺さった。
「はは…やっぱりこういう相打ち覚悟ってやつは嫌だね…」
痛い思いをするなんて、拓実はまっぴらごめんだ。しかし、仲間たちの信頼に応じられない方がよっぽどごめんだ。
「けど、これで足止めはできたな」
これではリツは動くことはできない。約束通り、拓実はこの場を任すことができたのだ。
「後を追うことはできないけど、頼んだよ…」
ハヤテたちなら、うまくやってくれる。拓実はそう信じているからこそ、後のことは安心できた。
「ただ…男を押し倒すなんて二度と勘弁してもらいたいな」
こんな状況でも、拓実は軽い調子を崩さなかったのだった。
第42話はこれで終了です 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 4月12日更新 ( No.15 ) |
- 日時: 2020/04/19 21:58
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
第43話 激動する霊神宮
雷矢、伝助、氷狩、拓実。
彼らがその身を挺したおかげで、ハヤテたちはついに十二の間をすべて突破した。約一名置いて行った奴がいたような気もするが、今は考えないでおこう。
明智天師のもとは、最早目前であった。
「あとはもう明智天師だけだ。みんな、もうひと頑張りだぞ!」
ナギが残ったハヤテたちに発破をかける。言葉だけを聞けば格好いいが…。
「そんな後ろで、息を切らしながら言ってもなぁ…」 「う、うるさい!走りっぱなしなんだから、しょうがないだろ!」
体力のないナギにとって、長距離を走るというのは酷だろう。よくここまで走れたものだ。負けず嫌いなだけかもしれないが、意外と根性があるのかもしれない。
「けど本当に、よくここまで来れたよね僕たち」
佳幸が今までの激闘を振り返る。立ちはだかった黄金の使者たちはみんな強大で、それを突破できたことが奇跡のように思える。しかし現実であり、佳幸たち自身も実力がついていくのを手応えとして感じていた。
「お嬢様の言う通り、ここまで来たのですから、あとはもう突っ走りましょう!」
ハヤテの一言に、皆も頷く。
「そうだな。けど、油断は禁物だぜ」
その中で、達郎だけは真剣な表情であった。
「後はここだけ、そう安心しきったところを狙った罠が仕掛けられているかもしれねえからな」 「ちょ、ちょっと達」
普段ならここで調子に乗るところなのに、今は慎重になって警戒している。本人はふざけているわけではないのだが、何か嫌な予感がして佳幸は達郎を止めようとする。
だが、少々遅かった。
「そう、突然兵士の大軍が目の前に現れたり…」
達郎がそう言った時だった。
上空から、大量の影が飛来し、ハヤテたちの前へと降り立った。それらは皆人の形をしていたが、背に翼が生えていたり、指が鉤爪状になっていたりと体の一部がそれぞれ異形のものであった。
それらを、ハヤテたちは知っていた。
「傀儡兵…」
艶麗、そして霊神宮に着く直前に襲い掛かってきたモノたち。それらと同じものがこうして自分たちの前に立ち塞がっている。
全員、達郎に避難の視線を向ける。
「な…なんだよ?」
別に自分が何かしたわけではない。自分はただ危険性を訴えただけだ。まさかこうなるとは思っていない。
それでも、口にしたことが現実となったのだ。みんなが達郎を責めたくなる気持ちもわかる。十二の間を突破できたとはいえ、全員は疲労しきっているのだから。
「達郎、あんた後で死刑」 「ちょっ、花南!?」
それだけで死刑宣告されるとは思わなかった。しかし本気ではないことはわかっているので達郎はそれ以上は騒がなかった。花南の方も、目前の大軍に対してどうするかということに思考を切り替えている。
「…強行突破しかなさそうね」
策を考えたり実行したりする余裕はない。何より、明智天師の元へあとわずかというところまで来たことでみんな体力以上に気力が高まっている。足を止める時間が長くなって、皆の意気が消沈することは避けたい。明智天師には、気力だけでも勝っておかなければならない。実力では勝てなくても。
「この状況じゃ、それしかないわね」
ヒナギクが白桜を手にする。
「全部蹴散らす勢いで行くわよ!」
そして、今すぐ飛び掛かっていくように敵の大軍に立ち向かっていく。
「待ちなさい」
だがその直前、花南がヒナギクの襟首を掴んで引き戻した。
「ちょ、普通に呼び止めなさいよ!」
呼びかければ、運動神経の良いヒナギクなら寸前に止まることができた。こんな痛い思いをすることはなかったというのに。
花南はそんな訴えは無視して、全員を招いて輪を作らせ話し始めた。
「確かに強行突破しか手はないわ。けど、皆が闇雲にバラバラで動いたんじゃ危ないわ」
更に花南は一拍置いてから、有無を言わせない強い口調で続けた。
「ここは縦一列に並んで、一点突破を目指すわよ」
花南の案はリスクがあった。もし先頭が倒れてしまったら、後ろに並んでいる者たちは脚が止まって敵の袋叩きにあってしまうからだ。
だがヒナギクや風は、これが今の自分たちに合っていることに気づく。
「なるほど。披露しきった私たちの力でも、一点に合わせればかなりの力になる。縦一列は、力を一点に集中させやすいわね」 「敵の攻撃も一転に集中してしまいますけど、あえてそうすることで攻撃を引き寄せる。そうして先頭が倒れても、後ろに並ぶ人たちが踏み越えていくことで突破はしやすくなりますわ」
これを聞き、光は真っ先に反対する。
「ダメだ。この中の誰かが犠牲になるようなことなんて、私は嫌だ!」
光は純粋な性格である。誰かが傷つけば彼女も悲しむ。自分のことのように人の痛みを共有しようとする彼女は、会ったばかりとは言えハヤテたちに倒れてほしくない。
「雷矢さんやエイジ君、風間さん、桐生さん、金田さんだけでもう十分だ。他に何か考えれば…」 「けど、それでも僕は花南さんの案でいこうと思う」
はっきりと言った佳幸の顔を光は確認する。彼は花南を微塵も疑ってはいない、屈託のない表情だった。
「頭の切れる花南さんの考えなら、僕たちは花南さんを信じるさ」 「それに、ただ素直に犠牲になんかならねえよ。ここまで来たんだ、こんなところで倒れてたまるかよ」
達郎が気合を入れるのを見て、光は理解する。
彼らは花南を、そして自分を信じている。目的を果たすまでは、決して倒れない。それだけの力を持っているのだと信じている。
自分たちも、信じる心を力にしている。彼らと同じだ。ならば信じるだけだ。
「…私たちも、あなたたちを信じる」
光、海、風の了承を得たところで、花南はもう一つ付け加えた。
「もちろん全員が先へ進めるつもりということで話しているわ。けど、優先順位ははっきりしないといけないわ」
そう言って、彼女はある人物らを指した。
「あんたたち二人は、最優先で明智天師のもとへ行かなければならないわ」 「僕たちが?」
指名されたナギとハヤテは、どうして自分たちなのかわからず戸惑う。
いや、ナギはわかる。彼女はスセリヒメという重要な存在。明智天師の悪事を暴けるのは彼女しかいない。
「なんで僕も?」 「あんたはこのおちびさんを守らなきゃいけないでしょ」
言われて気づく。自分はナギの執事だ。その使命は、ナギを守ることだ。
ハヤテが悟ったのを確認し、花南は皆に呼びかけた。
「それじゃあ皆、私が言うように並んで」
ハヤテたちは素早く、花南の指示通りに縦一列へと並んだ。
先頭は佳幸。ムーブランのパワーなら並大抵の敵は蹴散らせる。彼が前に立ち、道を開くのだ。
その彼の後ろには優馬がつく。敵の攻撃を一番食らうであろう佳幸を治癒術で回復できるし、何よりユニアースの角による索敵能力で敵の動きを常にチェックできる。戦闘が見逃した、または見えない敵に対してサポートするには、優馬がうってつけだ。
そして三番目、四番目は達郎、海と続く。スピードのある海の魔法と柔軟のあるシャーグインの戦法は、追撃等の援護にも働く。
更に五番目は風がいる。攻撃よりも防御重視の魔法と高い知力を持つので、相手の動きを読み、見方を守ってくれる唯一の頼りだ。
彼女の後ろに、一番重要なハヤテとナギがつく。二人が狙われても風の魔法で守ることができるし、ハヤテなら列の中心にいても、いざとなったらその身体能力で一気に敵を飛び越えられる。ちなみにナギはハヤテの背におぶさっている。当初ナギは気恥ずかしさからそれを拒んでいたが、皆からの無言の圧力に負け、渋々従った。
二人の後ろには光が控えている。ここに置いたのは攻撃力というよりは、彼女の高い運動能力だ。万が一列から離れたハヤテに敵が迫ってきても、彼女の運動神経ならそれに反応できる。
残った三人から塁、ヒナギク、そして殿に花南と並ぶ。後方からの追撃を防ぐ役目に、指示した責任をとるからと言って花南自らが着く。
「怪しいな」
しかし、達郎は花を訝しんでいた。
「普段のおまえは、そんな責任なんて言葉は口にしないんだよな」
佳幸をはじめとして、花南をよく知る人物たちもまた同様であった。花南は仲間の為なら必要なら力を尽くすが、基本的には不真面目な性格である。それが今かしこまった物言いをするのだ。何か企んでいるのではないかと疑うのも無理はない。
「あら達郎、あんた一人を囮にして私たちは悠々と抜けていくっていう手もあるのよ」
満面の笑顔で、しかし黒いオーラを漂わせて言うのだ。
「さあみんな、列を乱さず息を合わせて進むぞ!」
ただの意地悪なのだが、本当にやりかねないのが花南。そんな彼女をよく知っているからこそ、達郎は恐れてこれ以上何も言えなくなるのだった。
「準備はいいかな?」
佳幸が振り返り、優馬たちに確認をとる。彼らの目が、いつでもいけると語っていた。
「よし、行こう!」
佳幸の号令と共に、使者たちは精霊と一体化し光たちも武器を手にした。
そのまま、敵の大軍へと突撃していった。
先頭の佳幸が次々と迎え撃つ敵を蹴散らしながら前へ前へと進んでいく。その勢いは止まらず、後ろに続く優馬たちの足が止まることはなかった。
もちろん優馬たちもちゃんと働いていた。相手の攻撃が正面から来るとは限らないが、彼らは見事それを捌いていた。おかげでハヤテたちに危機が及ぶことはなかった。
そうして、佳幸たちは難なく突破できた。
「全員いるな?」
先頭の佳幸が周囲を見渡す。全員の姿が確認できたので、無事であることが理解できた。
「よかった。敵がそれほど強くなかったおかげで何とか進めたね」 「けど、これだけ手応えがないならわざわざ列で並ばなくてもよかったんじゃね?」
達郎の言うとおり、敵はあまり強くなくこれなら各個人でそれぞれバラバラに突撃しても何とかなっただろう。花南の策も、単なる徒労でしかなかったなと内心で嘆息する。
「いいえ、列を組んだ意味はここにあるわ」
花南はそう言い、佳幸の背を押す
佳幸の体が少し前に出たのと同時に、ハヤテたちの後方に巨大な蔦の壁が出現した。
「花南?まさか…」
花南の真の狙いが今理解できた。
彼女は、追ってくる敵すべての足止めをするつもりなのだ。蔦の壁を出したのも花南であり、敵の全身を防ぐためと自分以外の味方が戻ることを防ぐためである。
「花南さん…僕たちを先に進めるために」
列を組ませたのは自分が一番最後に着くため。最後尾にいれば、自分を除く全員を前へ行かせやすくためだったのだ。
「さあ皆、明智天師に目にもの見せてやりなさい!特に佳幸!」
最後に花南は、佳幸だけに向けて激励を送る。
「支えるだけじゃなくて、背中を押して送り出したのよ。必ず負けちゃだめよ」
壁を作る際、佳幸の背を押したのは一緒に取り残されないようにするため。そして、それとは別にもう一つの思いも込められていた。
戦う目に二人が交わした約束。片方が倒れそうになったらその背中を支えると。それは互いに支え合っていくという互いの思いと、一人でも奮起してくれという願いが込められているのだ。
その心を背に受け、立ち上がらない佳幸ではない。ましてや、それが大切な女からの思いなら特に。
「行こう、みんな」 「いいのか、あいつを置いていって」
ナギが不安そうに尋ねる。花南に対してあまりいいイメージは持っていないが、それでもこの場に残しておくことには人情的に抵抗があった。
「大丈夫ですよ」
そんな彼女をハヤテがなだめた。
「花南さん一人が残ったわけではありませんから」
「あんたまで残らなくてもよかったのよ」
花南は自分の隣に並び立つ人間に冷ややかな対応をする。
「生徒会長の私が、後輩一人を置いていくなんて真似はできないわよ」
ヒナギクも、憮然とした態度で返した。
列を組んだ時、ヒナギクは花南の考えを察した。だからこそ、彼女は花南のすぐ前に位置取ったのだ。蔦の壁が出現する寸前に、花南の方へと飛び込めたのだ。
「自分から私の前に着くって言いだしたから、なんとなくこうなるんじゃないかと思ったけど」
これでは格好がつかない。それに明智天師へ向かう戦力を割いたことになった。
思ったようにならず、花南は不機嫌だ。しかし、過ぎてしまったことはしょうがない。
今は、目の前にいる敵に集中しなければ。
敵の大軍はこちらへじりじり迫ってくる。後ろの蔦の壁はそう簡単に破れない自信はあるが。
「…このままただ立っているなんてできないわよね」 「当然よ」
各々の精霊と一体化し、二人は敵の大軍へと挑みかかった。
花南とヒナギクはそれぞれの武器で敵を次々と倒していく。しかし、一度に襲い掛かる人数が次第に増えてくると、一人では捌き切れなくなる。
花南が倒しきれなかった敵の一人が背後から迫るが、ヒナギクがこれを打ち倒す。今度はそんな彼女を敵が狙ってくる中、花南がカバーをする。
二人はそうして互いに協力し合いながら敵を蹴散らしていく。出会ってからの時間は短く、しかも常にいがみ合っていた。だというのに、コンビネーションのよさを見せつけている。心底では互いを認め合っている証だろうか。
「私たち、案外いいコンビになれるかしら?」
背中を合わせた時、ヒナギクは冗談っぽく言葉をかけた。
「…皮肉だったらぶっ飛ばしてたわよ」
プライドの高い花南にとって、誰かと手を組むなんてことはあまりしない。
けどまあ、と花南は思う。
塁や達郎らと比べれば、マシかもしれない。
とりあえず、今は彼女と息を合わせよう。そうすれば楽に戦えるのだから。
そう考え、花南はヒナギクと共に戦う。不本意だが、悪い気はしないと彼女は感じるのであった。
今週はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 4月19日更新 ( No.16 ) |
- 日時: 2020/04/26 22:16
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
2 「ようやく一息付けるな」
翼たちの戦いも、今やっと敵がいなくなったことで終わろうとしていた。
「雑魚ばっかりだったけど、数が多かったのが厄介だったな」
大地は肩を鳴らし、ハヤテたちが進んでいった先を見据える。
「さてと。あいつらがどこまで行ったか知らないけど、俺たちもダイの救出に向かうか」
自分たちにとって最も重要なのはそれであった。ダイは命にかえても守らなければならない。ハヤテたちとは協力関係にあるが、彼らばかりにアテにするわけにはいかない。それに彼ら自身の戦いもあるのだ。自分の戦いは、自分で決着をつけなければならないというのが翼たちの考えだ。
彼らが明智天師の元へ目指そうとした時だった。
「待ってください」
シュウが呼び止め、二人とは別の方向を見ていた。
「あれ、気になりませんか」
そう言うので、二人も彼が指さした先に目を向けた。
離れに建物がある。本殿からかなり距離があるため、普段なら見落としていただろう。
もちろん、シュウが目を付けたのはただ離れているだけというだけではない。
「隠していますけど、あれ工場のようです」 「秘密工場ってとこか」 「ええ。けど、敵にというより味方に知られないような造りですよ」
それはおかしい。あの工場も霊神宮の一部であるはずだ。それを宮にいる者たちにも伏せておくとは。
少しの情報でも漏れないようにするためだろうが、何を、何のために。
「調べてみませんか?」
これに翼も大地も同調した。ハヤテたちのことは気になるが、彼らなら必ず勝てるだろうと信じている。何故かそんな思いを抱くが、それだけの力を持っているのも事実だ。心配はない。
それに、何かの手掛かりがつかめるかもしれない。勘ではあるが、怪しいのなら調べてみるまでだ。
「シュウの見立て通り、やはり工場だったな」
翼たちは建物の中へと入り、内部を確認しながら足を進めていく。
詳しくはわからないが、何かを加工する機械や、パソコンや研究資料のようなものがあることからここが工場であるのは間違いない。
異様なのはその様子であった。工具などが散らばっており、資料は半ば破られている。とてもじゃないが、直せなさそうだ。
だがそれよりも異常の極めつけとなるのは、円筒状の巨大なカプセルだ。中はオレンジ色の溶液に満たされており、人の形をした異形のものが浸かっていた。おそらく傀儡兵を作るための装置だろう。それが無数に存在している。
「不気味なとこやな…」 「ああ…ん?」
気づいて、翼は振り返って確認した。
後ろには、咲夜、千桜、歩、生徒会三人娘たちがいた。翼たちの後をついて行ったのだろう。
「なんでついて来たんだ」 「なんでって、別に来るなとも言われんかったし」 「置き去りにされて敵と会うなんてことにはなりたくないからな」
そうだった。彼女たちには身を守る力すらない。連れて来ても危機に遭遇する可能性は高いが、放っておくよりはマシだ。
「戦いになったら、逃げるか隠れるかするんだぞ」
翼はそう念を押してから、工場の方へと気を取り直す。
この工場は破壊しておくべきだ。少なくとも傀儡兵の生産を止めることが出来れば、無用な戦いはなくなるはず。
だが、翼たちはそれをすぐには実行しなかった。勘ではあるが、この工場は他にも秘密があると感じた。だから、工場をもう少し確認したかった。
そして、その勘は当たった。
更に進むと、野球場よりも広い空間へとたどり着いた。搬送用のフォークリフトなどがあることから、倉庫のようなものだと推測できる。
ただ、目を引くものはそれらではなかった。
巨大な機械兵器が整然と並んでいた。人型のものがほとんどだが、恐竜や獣、鳥などのフォルムもいくつかある。
それらの多くは、翼たちにも見覚えがあった。
「あれはMS(モビルスーツ)、いえMD(モビルドール)ですね」 「キメラブロックスもあるぜ」 「積尸気もあるとはな」
全て、彼らの世界で使われた兵器である。
「私たちの世界から鹵獲してきたんですね」
世界を渡ることは、霊神宮にとっては難しいことではない。実際に賢明大聖が向こうの世界へ訪れていたのを見たのだから。
問題は、なんのために鹵獲してきたか、だ。ここは捕らえた兵器を調査、研究をしていたのだろうが、それが主たる目的ではないはずだ。一体、何のために。
理由はわからないが、これらについても対処すべきだろう。
「だが、まずは傀儡兵の製造を止めないとな」
これ以上傀儡兵に手を焼かれるわけにはいかない。これだけの数だ。ハヤテたちにもこいつらを差し向けているに違いない。ハヤテたちの障害になるということは、ダイの救出の障害にもなるということだ。
「そうだな。MDとかは後で何とかなるもんな」 「急いでやりましょう。ダイ様を助けるためにも」
翼たち三人は傀儡兵の生産設備へ戻ろうとした。
「そうはさせんぞ」
彼らを呼び止める声が倉庫全体に響き渡った。
三人の前に、一人の男が現れた。黒いローブに身を包まれているが、それから覗ける、腕に着けているリングから精霊の使者であることはわかった。
「ここを任せている者としては、侵入してきたおまえたちを見過ごすことはできん」 「おまえがここの責任者か」
翼は千桜たちに目配せする。戦いになることを訴えているのだ。
彼との約束を思い出し、千桜たちは一斉に散り散りとしながらも各々それぞれ身を物陰に隠れた。
その間にも、目の前の男は口を止めなかった。
「この牙のファンダイルの使者、ハイドがおまえたちを仕留めてやる」
ローブを脱ぎ捨て、鰐を模した精霊と一体化する。そして、こちらへと迫っていく。
「たった一人で、俺たちに勝てると思っているのか」
翼たちもマシンロボの姿となり、ハイドを迎え撃つ。
勝負は、一瞬で着いた。
ジェットたちの拳によって、ハイドは吹っ飛ばされてしまった。流石に一対三では不利であったが、数の要因だけではない。
「なんだこいつ、弱すぎるぞ」
実力に手応えがないのである。リングの輝きから白銀クラスであることはわかるが、今まで戦ってきた同クラスの相手より弱すぎるのである。
「当たり前だ!俺は技術員兼汚れ仕事役だ!バリバリの戦闘員の真似なんてできるか!」
突然の逆ギレに、ジェットたちは面食らってしまう。今まで見てきた白銀以上の使者にあった品格が全くないことにもよるだろう。
「だが、おまえたちの負けだ。腕を見るといい」
勝ち誇るハイドに首を傾げるジェットたちは、腕の方へ目をやる。
見ると、腕に小さな牙が一本突き立てられていた。ハイドがつけたものだろう。
「こんな小さな牙で何が…」
痛みはない。大したことはない。
だが次の瞬間、ジェットの体に気怠さが遅い、膝を着いてしまう。彼だけでなく、ドリルとジムも同様だ。
「い、一体何が…」 「確かに、その牙自体はどうってことはない。ただ、毒が仕込まれている。電磁毒ともいうべきかな」 「電磁毒だと…」
その言葉を聞いた途端、ジェットは驚きをもってハイドを見上げた。
「なんで知ってるかって?向こうの世界へはただロボットを奪ってくるだけじゃなく、おまえたちマシンロボのことも調べに行ったんだぜ」 「だが、貴様にもその精霊にもそんな力はないはずだが…」
それを聞き、ハイドは不敵な態度で二つの宝石を見せた。それぞれ電と毒と刻まれている。
「これら二つの宝玉の力を組み合わせることで、俺は電磁毒の能力を得ることが出来たのだ」
そう言いながら、牙のような形をした短剣を手にする。
「その状態では、動くことすらできないだろう?」
その通りだ。ジェットたちは体を動かす力すらなく、また振り絞ることすらできない。戦うことはおろか逃げることもできず、ただそこでうずくまることしかできない。
「俺はさっき言ったように汚れ仕事役だ。殺しにもためらいはねぇ。一思いにやってやる。まずはブルー・ジェット、貴様からだ!」
そして、ジェットに短剣を突き刺そうとした時だった。
突然、爆音が格納庫に響き渡った。ハイドは音がした方向を見てみる。
「傀儡兵の生産施設が!」
施設内で爆発が起こったのだ。それによって吹っ飛ばされた扉や、そこから立ち込める爆煙がその証明だ。
「バカな…爆発など起こるわけが…」
先程ハイドが確認したときには爆発物などなかった。ジェットたちが去る直後に調べたのだから彼らが仕掛けたわけではない。見落としはない自信もいある。
「自然に爆発したとは考えられん。一体何が…」 「私が爆発しました」
爆発を起こした張本人。その姿が爆煙を割って現れた。
「おまえは…白!?」
その名を聞き、ジェットたちも顔を上げてみる。
間違いない。賢明大聖の付き人であった少年だ。大人しそうな印象だったため特に気にもせずに接していたが、霊神宮の全権が明智天師に移ったことで、付き人から降ろされたものだとは勘づいていた。
「き、貴様ここのことを知っていたのか。しかし、軟禁されていたはず…」 「私が連れ出したのさ」
その言葉と共に、一人の女が白の傍らに立つ。
短髪に鋭い目つき、全身にフィットしたボディスーツ。戦士だということがわかる。
「お、おまえは蹴のクレイオンの使者、ソラ!」
彼女の姿を見た途端、ハイドは戦き後ずさり始めた。
「そ、そうか。弟子である八闘士を助けるために動き出したということか」
それをソラは一笑した。
「まさか。あいつらに精霊を教えたのは事実だけど、私が助けるほどの義理はないよ」
八闘士ということは、この女性は佳幸たちの師ということか。
「ただ、今の霊神宮は気に入らないのさ。特におまえはな」
そう言って、ソラは一層睨みを利かせた。それだけで、ハイドは怖気づいて尻餅をついてしまった。
腕利きの戦士と戦場とは遠い場所で暗躍する技術士。明らかな気迫の差がそこに示されていた。
「さて、ぶっ飛ばされる覚悟はできているか?」
ソラの傍らにいる、鶴の姿を模した精霊クレイオンが人型形態となり戦闘態勢をとった。一体化をするまでもないということ、その自信が良く伝わってくる。
「舐めるなよ。俺だっておまえと同じ白銀クラス。簡単にやられてたまるか!」
そう言い、立ち上がって駆けだした。この場にいる全員がソラに攻撃を仕掛ける。そう思っていた。
しかし、ハイドの狙いは違っていた。
「まずは白、おまえからだ!」
ハイドはソラではなく、白を標的としていた。ソラには敵わなくても、付き人でしかない白なら倒せると見込んだのだろう。
「その命、もらった!」
だが、自らの牙を白に突き立てようとした瞬間、ソラにその腕を掴まれ止められた。
「あ、あれ?」 「だからおまえは三流なんだよ…」
一番注意しなきゃいけない相手を自分から目をそらした。その瞬間から、もう結果は出ていた。
「ぶっ飛べ」
ソラが怒りとも呆れともいった調子の言葉と共に、クレイオンが鋭い蹴りをハイドにお見舞いした。
蹴り上げられ、ハイドの体は上空へと勢いよく飛んでいく。天井をも突き破り、空の彼方へと消えていった。
「大丈夫ですか?」
白がジェットたちの元へ駆け寄り、声をかけた。
「ああ。すまない、あのような奴の手中にはまってしまって」 「何言ってるんだ。そこいらに隠れている子たちに気遣って動けなかったんだろう?」
ソラはジェットたちの考えも見抜いていた。千桜たちに影響が出ないか見極めるため、わざと技を受けたのだ。
高い実力を持つ者同士、互いの意思が疎通できたのだろう。
「あんたたちなら、あいつごとき簡単にひとひねりだろう?」 「それはどうかな?」
不敵とも、謙虚とも取れる態度で応じながら、ジェットはよろよろと立ち上がる。どうやらまだ毒は抜けきっていないようだ。
「その様子だと、佳幸たちの救援には行けないね。私たちもそうだけど」
見ると、ソラも白もボロボロである。ここまで来るのにかなり命がけだったのだろう。
「あなたが岩本君たちの師匠なんですね。白と一緒に動いていたということは、賢明大聖のために…?」 「師匠なんてたいそうなものじゃないよ。それに、私はそこまでの使命はないよ。ただ、付き人であった白は別だけどね」
ソラの口ぶりは、無愛想なものであった。それでも、なにかの感情が含まれているようなのは気のせいだろうか。
「私は気になっているのさ。明智天師のことがな」
明智天師。賢明大聖の弟であり、兄が亡き今霊神宮の全権を握る仮面を着けた男。
「賢明大聖と並んで名君と言われていた。先代のスセリヒメであった黒沢陽子が亡くなった後も過激な振る舞いをするようになったが、それでも事を荒立てようとはしなかった」
それが今になって牙をむくようになるとは。何があったのか。
「明智天師に何があったのか、何があったのか」
いずれにせよ、ナギたちが明智天師の前に着けばわかるだろう。
「できれば、戦いなんて起きなきゃいいけどね」
そのソラの呟きが佳幸たちの身を案じてのものか、ただ単に巻き込まれたくないのかはわからない。
ただ、それがかなうことはないのだということは、全員承知していた。
43話はこれで終了です。 次回は来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 4月26日更新 ( No.17 ) |
- 日時: 2020/05/03 21:56
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します
第44話 死闘
1 遂に、目指していた明智天師の間までたどり着いた。
ここまで数々の戦いを経てきた。道中倒れていく仲間も、次々と現れた。
しかし、ナギたちはとうとうここまで来れた。
「この先に、明智天師がいる…」
ナギや光たち以外は何度も来たことがある見慣れた廊下を歩いていく。賢明大聖がいた時はただ古代の西洋風な造りだなんて思っていた。だが今は、様々な緊張感が絡み合っている。
「いよいよだな…」
ここに来るまでの道中を思い返す。いくつもの激闘を潜り抜けてきたことが、ハヤテたちの実力を上げていくこととなり、彼ら自身もそれを実感していた。
なにより、仲間たちがいたからここまで来れた。協力し合えたからこそ進めた。照れくさくて口には出せないが、みんな心の中ではそう思っている。
だからこそ、全員明智天師に臆することはなかった。
「ここまで来たのだ。もう突き進むだけだ!皆、行くぞ!」
あのナギでさえやる気になっているのだ。もう迷いはない。
「見てろ!目にもの見せてやる!ハヤテがな!」
ハヤテ任せなところは相変わらずだが。
「ここまで来てなんだけど、本当に大丈夫なのか?」
途中で逃げ出したり、弱音を吐いたりしないだろうか。この最終局面で。
不安になり達郎はハヤテに耳打ちする。ハヤテは苦笑するも、心配はないと答えた。
「お嬢様の無駄に高いプライドから考えて、泣き言は言うかもしれませんけど意地でも逃げ出したりしないでしょう」 「聞こえているぞ。無駄に高いってどういうことだ」
バカにされているような、実際半分はバカにしているのだが、そんな調子で言うのだから、ナギは口を尖らせる。
とりあえずやる気が失われないので安心する。自分たちがここまで来ようと思ったのも、彼女が戦いまで覚悟したことに感心したからだ。例えおふざけでも、ここでやめるとか言い出したらその怒りは計り知れないものだっただろう。
「心の準備はできたかな?」
佳幸が皆に確認をとる。残ったメンバーの中では自然と彼がまとめ役となっていた。
全員頷きで返答する。それだけで十分伝わった。
「よし、行こう!」
目の前の扉を力いっぱいに開け、中へと入っていく。
そのまま進んでいくと、玉座が見えてきた。もちろん、そこに座っているのは…。
「おまえたち、よくここまで来れたな」
法衣のようなローブ、顔を隠す仮面が目立つこの男こそ、明智天師である。
「明智天師ですね?」
佳幸がいつになく険しい表情で尋ねてみる。
「…そうだ。こうして対面するのは初めてだな」
決して横柄ではない。しかし、尊厳と威圧に満ちたその態度。賢明大聖を彷彿させるのは彼が弟だからだろうか。
普通の人ならそれだけで気圧されただろう。だが、激闘を経て心を強くしたハヤテたちは怯むことはなかった。
「明智天師、僕たちは霊神宮の敵ではありません。この三千院ナギお嬢様は龍鳳に、時代のスセリヒメに選ばれたのです」
ハヤテのその言葉と共に、ナギが傍らに並んだ。
「それを証明するために、僕たちはここまで来たんです。決してあなたたちに敵対するつもりは…」
その時だった。
龍鳳が、突然光りだしたのだ。ハヤテたちは何のことかわからないが、ナギだけは理解できていた。
「龍鳳のリングが…この先にある」
ナギの言葉が正しいことを表すかのように、光は明智天師の玉座のさらに奥へと伸びているようであった。
「リングと惹かれ合っているということは、やはり本物か」
明智天師はこれを見て、何故か笑みをこぼす。それが何を意図するものかはわからない。顔を仮面で隠しているため、表情がわからないためでもある。
「確かに、スセリヒメの証となる龍鳳のリングはこの先の龍鳳の間にある。あれは他の精霊と違い、リングと勾玉それぞれ別々に保管してあるのだ」
なぜ別々なのかはわからないが、ジュナスがリングも一緒に持ち去れなかったのはそういう理由なのだろう。どうして対になっているはずのリングと勾玉が揃っていないのか少し疑問に抱いていたが、これで解決できた。
「ああ、石像となったダイ・タカスギもそこにいる」
ダイの名前が出たところで、ハヤテたちは聞かずにはいられなかった。
「高杉さんはどうなっているんですか?どうすれば助けられるんですか?」 「死んではいない。石化を解きたければリングによって龍鳳の力を解放させ、その力を使えばいい。龍鳳は明朗(ポジティブ)の最大級の力を持っているからな」
いわく、ダイにかけた術は陰鬱の精霊と似た力によるものだそうだ。それと相反し、なおかつ巨大な力を持つ龍鳳なら破ることができるというのだ。ただし、真のスセリヒメがその力をすべて開放しなければならない。
つまり、ナギがこの先の龍鳳の間でリングを授かれば、ダイを救出することができるのだ。
「しかし、そこの少女を龍鳳の間へと行かせるわけにはいかない」 「何故ですか?」
返答自体は予想できた。しかし、こうも自分たちの行く手を拒む理由がわからない。
真の龍鳳だということは認めている。それが何か不都合でもあるのか。明智天師は何を考えているのだろうか。
「必要ないからだ。龍鳳もスセリヒメも」 「必要ないとは、どういうことですか?」 「言葉通りだ。私は、スセリヒメや龍鳳のいない霊神宮を作ることを目指しているからな」
スセリヒメや龍鳳のいない霊神宮。
その言葉に、佳幸や達郎が微かに反応を示した。
「愚かだと思わないか?たった一人だけに運命を担わせ、他の使者たちは腐敗に堕落していく。いくら自分たちの旗頭とはいえ、これで使者は人の心を救えるのか?」
佳幸たちは先代のスセリヒメ、黒沢陽子と当時の霊神宮を思い返す。あの時の状況は、明智天師の言う通りであった。それをはっきりと実感できたのは使者になってからしばらく経った後だが、それが腹立たしさをさらに増していた。
怒りは、明智天師も同じだった。
「そんな霊神宮を、私は変えたい。腐敗を正して、真のあるべき霊神宮を取り戻したいのだ」
彼の言葉には切実な思いが込められている。他意はなく、真摯な心がこちらにも伝わっており、佳幸たちも誘われかけている。それが正しいと感じるからだ。
だが、それを容易に頷けるほど彼らは単純ではない。
「その気持ちはわかりますけど、だからって襲撃することはないのでは?」
これに対して、明智天師はわずかに顔を伏せて答えた。
「今の霊神宮を混乱させず、かつ変革をもたらすには、真実を伏せすべてが明るみになる前に片をつけるしかなかった」 「他に方法があったはずです!」
ハヤテの言葉にも明智天師は耳を貸さなかった。
「多少過激であっても、仕方のないことだ」
これに嘆息したのは、ターゲットにされているナギであった。
「まったく、いかにも迷君が言いそうなセリフだな」
彼女は呆れていた。組織のトップであるはずの者が、強硬姿勢であることはともかく、仕方がないなどと情けない発言をしたことには、ナギでなくとも怒りを抱いてしまう。
「荒事で解決しようとするなんて、今時の子供でもしない。第一、それでは本当の改革ではない。暴力の革新など、存在しないのだ」
小娘が何を偉そうに。
そう感じたのだろう。明智天師から怒気が発せられる。しかし彼が何か言う前にハヤテがそれを遮った。
「明智天師。このナギお嬢様は真性のダメ人間で、面倒くさくて情けないうえ、負けず嫌いな困った人です」 「おい!誰が悪口を言えといった!」
てっきり自分に同調してくれるのかと思ったら、主である自分をこっぴどくこき下ろすのでナギは当然怒り出す。
それを一旦受け流して、ハヤテはさらに続けた。
「ですが、それでもまっすぐに自分や他人のために頑張れる人です。お嬢様なら、スセリヒメになっても腐敗に負けることはありません」
佳幸たちも、ハヤテほどナギを信じているわけではない。ただ、ナギがスセリヒメになることは認めていた。
最後に、ナギははっきりと締めくくった。
「おまえのやり方は認められない。従っておまえが作ろうとしている霊神宮など、お断りだ」
互いの主張は相容れないものである。明智天師はもう、話し合いは無理だと判断したのだろう。
「ならば、言葉はもう必要ないな」
いや、言葉を交わす意思などはじめからなかったかもしれない。
「力づくでも、貴様らを止めてもらおう」 「やっぱりそうなるのか…」
ナギは呆れてしまうが、佳幸たちは不気味さを感じていた。
「なんだ。急に様子が変わった…?」
明智天師が放つ雰囲気というか、纏う気がそれまで厳かだけであったのが、悪意に満ち溢れたものへとなっていった。まるで、人が変わったかのように。
すると、明智天師がつけている仮面にひびが入った。それと同時に悪意のオーラが増し、仮面のひびも進んでいく。
そして、仮面がひとりでに粉々となって散り、明智天師の素顔が露になった。
賢明大聖と兄弟というだけあって、顔立ちは彼に似ている。しかし、その眼差しだけは違っていた。その悪意が込められた目が合った瞬間、ハヤテたちは寒気が走った。
先程までにはなかったこの悪意は一体…?
戸惑いと恐れを抱くが、十二の間を突破してきた彼らはそれに負けない。
「ひとつ言っておきます。このお嬢様がスセリヒメになるとしても、今はまだ戦う力もないか弱い女の子です」
ハヤテは明智天師を睨みながら言う。その目には、その言葉には、明智天師に対する敵意が込められている。
「それに手をかけようというのなら、あなたはもう人の指導者である死角はありません」 「だいたい、これだけの人数を相手にたった一人でどうにかなると思っているのか?」
続けた達郎の言葉は去勢のようにも見えたが、事実でもあった。いかに疲労しているとはいえ、黄金の使者との激戦でレベルアップした自分たちをたった一人で相手をして勝てるとは到底思えない。
「確かに、ここまで来たおまえたちに対して、最早隠す必要はないな」
しかし、明智天師は自身に満ちた様子で、玉座からゆっくりと立ち上がった。
「今こそ、真の主の元へ戻ってこい」
その彼の背後に現れたのは…。
「ゼオラフィム!?」
間違いない。ミークの精霊である、天のゼオラフィムである。
「な、何故ここにゼオラフィムが…?」 「言ったはずだ。真の主の元へ戻ってきたと」
ゼオラフィムの主はミークのはず。明智天師自らが弟子の彼女に送ったとミーク自らが言っていたではないか。
明智天師が真の主というのなら、ミークは一体…?
「そして、おまえたちの言うとおり、私には明智天師と名乗る資格はない。智に明るい師というには、な」
明智天師。その名は賢明大聖の補佐に着いた時に送られたものだ。その明るい智能をもって、皆を天から導く師になれと。
その願いを踏みにじる行為をした以上、明智天師の名は捨てるしかない。
「今から私は一人の使者に戻るだけだ。天のゼオラフィムが真の使者、マサキとしてな」
今回はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 5月3日更新 ( No.18 ) |
- 日時: 2020/05/10 21:40
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します
2 全ての権威を手放し、組織の長としての重責から解放されたマサキ。
その彼に、ハヤテたちは圧迫されてしまう。十二人の黄金の使者たちもそのプレッシャーは凄まじかったが、マサキは格が違うと言ってもいい。黄金の使者たちが内心彼を疑っていても、従わざるを得なかったのはこれが一因となっているかもしれないと感じた。
マサキの後方にいたゼオラフィムも、人型形態となって動き出そうとしていた。
「く、来るなぁ!」
高まった緊張感が焦りを生んだのか、達郎が叫び、シャーグインが人型形態となってハヤテたちの前に出た。いつ攻撃してくるかわからないという不安と、防御の要としてナギたちの盾にならなければならないという義務感から動いたのだろうが、これは迂闊であった。
次の瞬間、シャーグインがゼオラフィムの攻撃によって吹っ飛ばされてしまった。
ゼオラフィムによる攻撃だということはわかる。たった一発によるものだということも察する。
しかし、その攻撃が全く見えなかった。全員反応すらできなかったのだ。人型形態の精霊に。
さらに驚くべきは、その攻撃力だ。シャーグインが倒れると同時に、達郎もその場で倒れてしまった。
「達郎!?」
みんなが達郎を見やり、優馬が彼の元へと駆け寄って診てみる。
「大丈夫だ。気を失っているだけで死んではいない」
その言葉にハヤテたちはひとまず安心する。しかしマサキとゼオラフィムに脅威を覚えずにはいられなかった。達郎がつけているシャーグリングに、無数のひびが入っているのだ。 シャーグインが受けたダメージがそのまま使者である達郎に伝わったのだろう。本来ならリングがそのダメージから使者を守るのだが、あまりの威力に肩代わりしきれなかったのだ。ショック死にならなかったのは、幸運だったのかリングがせめてもと守ったのか。
「前にもあったかもしれないけど、いつ見ても震えるな」
これにより、マサキとゼオラフィムの使者としてのレベルは、十二人の黄金の使者より上だと改めて認識する。
「すまないな。はずみでやってしまった」
当のマサキは、悪びれない様子で声をかける。
「しかしここからは、遠慮なしでいくぞ」
そして彼は、ゼオラフィムと一体化する。
ミークのものとは意匠が少々異なる姿が、ハヤテたちの目の前にある。霊神宮での最後の戦いが、始まろうとしていた。
果たして、ハヤテたちは勝てるのだろうか。彼らも自分たちの精霊と一体化するが、不安が心を占めているのだった。
「さあ、天からおまえたちを落としてやろう」
マサキが力を集中し始める。
「来るぞ!俺に集まれ!」
優馬の呼びかけで全員彼を中心にして寄せ合う。彼らは先のミークとの戦いでゼオラフィムの技を知っていた。
今いる場を天空の環境に変えるスカイフィールド。自らを天空環境の異空間となって敵を引きずり込むスカイデッドホールの二つだ。
「なるほど。天の間では土井優馬、貴様にミークは負けたのだったな」
そう。ゼオラフィムの二つの技は優馬とユニアースによって破られている。彼を中心に陣形を組めばどう攻めて来ても対処できると思うのは当然だろう。
「だが私はミークとは違う。この技がその証だ」
マサキは自らの掌に力を集中し始める。優馬はそれを打ち破ろうとするが、その考えが甘かったことをすぐに知る。
「天下流動!」
次の瞬間、マサキの掌から光が生まれ、ハヤテたちを包み込んだ。
気がつくと、ハヤテたちは天空に漂っていた。
「これは…落ちてる!?」 「いや、浮いているんだ!」
周囲は雲一つない天空。自分たちはそこで、重力に従うことも逆らうこともできずただただ漂っていた。
「やはりこれは…スカイデッドホールでは?」 「いや、違う!」
索敵能力に優れたユニアースの角を手にしている優馬は断言する。
「マサキの意思はどこにもない。また、マサキ自身がこの空間になったわけでもない。奴はこの空間のどこにもいないんだ!」 「それじゃあ、マサキは異空間を作って、そこへ僕たちを引きずり込んだというのですか?」
今まで精霊が使ってきた空間に関する技は、輪をかけるものがその空間内にいることが前提であった。だというのに、マサキはこの異空間にはいないというのだ。
「私たちの知らない必殺技であることは、周囲を見ればわかりますわ」
風の言葉で、一同は異空間を見渡してみる。
「風ちゃんの言うとおり、空が金色になっているね」
スカイデッドホールは、青い空であった。それに比べて、この空は黄金に輝いている。目が眩んでしまう。
しかも、それだけではない。
「なあ、なんか気分が落ち着いてこないか?」
ナギの言葉で、そういえばと気づく。ここに来てから、不思議と心が安らいでしまう。
このまま、下手をしたら眠ってしまいそうな…。
「いけない!気をしっかり持て!」
優馬が慌てて全員に向けて怒鳴った。
「それはこの異空間による影響だ!マサキは気力を削がせ、抵抗させることなくここに閉じ込めるつもりなんだ!」
言いながら優馬は思い出していた。大学時代、伝助が興味をもって調べていたものだ。
仏教では六道という六つの世界が存在しているという。そのうちの一つに、天道というものが存在する。
そこに住む者は長寿で、空も飛べる。苦しくもないためただ甘楽がある世界。しかし、自力で悟りを開くことができない世界。
この異空間もそれと似ているのではないか。ただ楽のみを与え何かをするという意志をなくさせる。そして何もすることなく永遠にここで漂いながらさまようことになるのだ。
「も、もしそうなら急いでここから脱出しなきゃ!」
みんな慌てだすが、どうやってここから抜け出すのか、その方法がわからない。気をしっかり持っていても段々とそれがほぐれていく。このままここにいてもいいような気がする。
「…もう何もかも、どうでもよくなってきたのだ」
怠惰な存在ともいえるナギに至っては、全身がしぼんでしまっているかのように気が抜けきっていた。
「お嬢様、しっかり!」
だらけ切ったナギを起こそうとするハヤテ。肝心のナギが消沈してしまっては全員士気が下がるかと思われたが、皆いつもの光景をを見ているような気がしてとりあえず安心していた。
それより今は、この異空間からの脱出が問題である。
「…やはり、この方法しか思いつかないな」
優馬は何かを決心したようだ。ユニアースの角が変化した槍を強く握る。
「この状況で、どれだけの力が出せるかわからないが…」
そう言いながら、槍に力を込める。ユニアースの索敵能力でもって、この異空間の弱点等を探るつもりだ。
しばらくして、優馬は見つけた。この異空間の力場というものを。そこへダメージを与えればこの異空間は崩壊する。
しかし、全員をここから脱出し、元のマサキがいる場所まで戻す力は今の優馬にはない。この異空間の力にあてられてしまい、思うように力が振り絞れないのだ。
だが、ハヤテやナギたちは何としても戻さなければならない。
「おまえら、よく聞け」
優馬の呼びかけに、全員が彼の方を向く。
「今からアースホーンバスターを放って、この異空間に穴をあける。そうすれば、おまえたちの力でもここから脱出することができるはずだ。その穴をくぐり、光が指し示す方へとまっすぐに進めば戻れるはずだ」
いいな、と確認すると全員頷き合う。了承したようだ。
「いくぞ!」
優馬が槍を構え、アースホーンバスターを放つ。放った先で、選考と爆発音が起こった。
そして、目でわかるように空間に空洞が出来上がっていた。と同時にハヤテたちに気力が沸いてきた。
「急げ!この異空間が崩壊しはじめている!」
見ると、確かに周囲に朧気がかかってきた。このままここにいればこの異空間と共に消えるか、どこかへ飛ばされてしまう。
ハヤテたちは光が差し込んでくる方向へと跳び上がる。それだけで、優馬があけた穴へと吸い込まれるように飛んでいく。
ハヤテは周囲を確認する。まずナギだ。彼女もハヤテ同様に飛んでいる。とりあえず安心した。次に光、海、風もいて、佳幸と塁も一緒だ。
しかし、優馬は…。
「土井さん!?」
アースホーンバスターを全力で放ったため、優馬には跳び上がる力すら残っていなかった。全員は無理だというのは、彼一人は残るということであったのだ。
優馬はハヤテたちへ言葉を贈る。
「頼んだぞ!」
そしてハヤテたちは異空間を抜ける。優馬の姿が見えなくなる。
そのことに、ハヤテたちは悲しく思った。だがもう、彼に何かすることはできない。また、戻る気もなかった。
そんなことは、彼の望みではなかったからだ。
ハヤテたちは、すぐに明智天師の間へと落ちていった。
戻ってきたのだ。その事実に安心するハヤテたち。一方で驚いているのはマサキ。
「天下流動からどうやって脱出したのだ?」 「土井さんのおかげです」
ハヤテたちは、マサキに対して構えをとる。
自分たちのために、というわけではない。あくまで自分がやりたいことをやったわけだ。
それでも、ほんの少しぐらいは優馬は自分たちのことを思っていたに違いない。だから、自分たちがやらなければならない。
「そこをどいてもらえますか」
実力行使でも、この先へと進む。そして龍鳳のリングを手に入れるのだ。
一方のマサキも構えをとる。それに比例して、怒気も増していく。
「天下流動を抜けてきたおまえたちには、閉じ込めるなど生ぬるい手はもういいな」
ハヤテはナギを一旦下がらせる。ナギは戦闘に参加できるほどの体力も腕力もない。危険な目には遭わせられない。
それと同時に、佳幸が青龍刀でマサキに斬りかかっていく。相手に攻撃する暇を与えないつもりだ。相手をいきなり襲うなんて気が引けるが、そうも言っていられない。
佳幸の刀身に龍を象った炎が纏われる。炎龍斬りだ。この必殺技を叩き込めば多少ダメージを与えられるはずだ。
勢いよく振り下ろされる剣。だがそれは、マサキを捉える前に彼が片手で剣を掴みそのままへし折ってしまった。
今まで共に戦い抜いてきた信頼ある獲物を折られてしまい、佳幸は愕然としてしまう。タイチとの戦いでも欠けることすらなかった剣を、いとも容易にやったのだ。佳幸の自信すら打ち砕いたのだ。
しかし、止まるわけにはいかない。
佳幸に続いてハヤテ、塁が挑みかかる。まずハヤテがマサキに殴りかかるが、マサキは佳幸の腕を片手でつかみ、ハヤテへと放り投げる。
佳幸と激突したハヤテは、マサキに攻撃することができずその場で転倒してしまう。だが、まだ塁がいる。
塁の左手は手刀の構えに入っている。エレクトロンブレイクだ。トキワとの戦いで右手では負傷の為放てなくなっている以上、左手で必殺技を放つしかない。利き手ではないが、威力は絶大だ。
例え左手がつぶれても、ここでやらなくてはいけない。
塁は覚悟をもって、マサキに斬りかかった。
「エレクトロンブレイク!」
紫電を纏った手刀が、マサキ目掛けて振り下ろされる。
それがマサキを捉える直前、逆に塁の方が吹っ飛ばされてしまった。マサキが佳幸を投げたのとは逆の、空いている拳に力を込めて叩きつけたのだ。
塁は壁と激突し、その場で倒れてしまう。一体化が説かれてしまったところから気を失ってしまったのだろう。
そしてマサキは、ハヤテと佳幸に狙いを定める。二人はまだ激突でもつれ合ったまま、動くことができない。このままでは狙い撃ちされてしまう。
「炎の矢!」
そこへ、二人の間を遮るかのように光が魔法をマサキに向けて放った。
襲い掛かる無数の炎。それに対して、マサキはバリヤーのようなものを前面に張り炎の矢を防いだ。
隙が無さすぎる。
達郎、優馬、塁の三人を瞬く間に倒し、あれだけの攻撃を寄せ付けずに涼しい態度でいられるマサキに対して、そんな実感しか持てなかった。
だからと言って、すぐにはあきらめない。自分たちは、ナギをこの先に行かすため相手を引き付ければいいのだ。
ハヤテと佳幸は、再び立ち上がる。
「獅堂さんたちはお嬢様を守ってください。僕たちは何とかあの人を押さえつけて見せますから、その間にここを抜けてください」 「痛めつけられても、絶対にあの人を放しません。ただ、魔法での援護はお願いします」
光たち三人は剣も強いが、魔法が使えるのが何よりの強みだ。それに、これから自分たちが行う攻撃には、とてもじゃないがついていけないだろう。
「いきますよ、ハヤテさん」
佳幸は、青龍へと形態変化する。
「準備はいいですよ、佳幸君」
そして、二人は一斉にマサキへと攻め立てていった。
高速の連続攻撃。並の相手なら防ぐ暇もなく滅多打ちにされていただろう。
だが、マサキはそのすべてをかわし切っていた。目にもとまらぬ速さで繰り出しているその攻撃が、次々と当たらないのだ。しかも、押しているのはこっちなのに、彼はわずかでも後退しなかった。これでは、ナギの為に隙を作ることすらできない。
このままでは、何も変わらない。
そう判断した二人は、一気にマサキを押さえにかかった。どちらかは必ずマサキに組み付けるだろう。
目論見通り、マサキを捕まえることができた。ハヤテは彼の腕を掴んで、拘束しようと試みる。佳幸も青龍携帯の武器である二振りの小太刀を取り出し、串刺しにしてやろうとする。
しかし、マサキは組みつこうとするハヤテをいとも簡単に振りほどき、その身を放り投げた。更に佳幸の持つ小太刀を二つとも指で砕き、彼を突き飛ばした。
その瞬間、マサキの体を強烈な風が包み込む。
風の魔法である戒めの風である。相手の体を風で捕らえ、動きを止める魔法だ。光や海でも破れないこの魔法ならマサキをここで釘付けにできる。そう確信して、ナギに進むよう促そうとした。
しかし、その風の中でマサキは徐々に動き出している。
これには風も驚きを隠せなかった。戒めの風が、足止めにもならないとは。
マサキはすぐに戒めの風を気合だけで吹き飛ばした。その衝撃で、ナギたちも吹っ飛ばされてしまい、その場で倒れてしまう。
「いたたた…あっ!」
痛みをこらえながら状態を起こしたナギが目を開けると、自分の周囲に光、海、風の三人が倒れていた。それも、自分よりも傷ついた様子で。
「お、おい!大丈夫か!」
ナギはなぜ彼女が自分よりもダメージを負っているのがわかっていた。
吹っ飛ばされた時、彼女たちは飛んでくる礫などから彼女をかばっていた。落下の時も、光たちがクッションとなって衝撃を和らげてくれたのだ。
「だ、大丈夫…?」
傷つきながらも、光は顔を上げてナギに微笑みかけた。
「おまえたち、なんで私を助けたのだ?」
光たちは精霊の使者ではない。自分を助ける義務なんてない。また知り合ったばかりの自分たちにそこまでの義理もないはずだ。
それなのに、傷ついてまで自分をかばった。
「何故、そこまでして…」 「決まっているでしょ」
海と風も、光と同じ目をしていた。
「あなたなら、と信じたからよ」 「三千院さんならきっと、この戦いをだれもが満足する形で終わらせることができる。綾崎さんたちと同じことを、私たちも思い、そして信じましたから」
信じると、彼女たち三人は言う。
不思議だ。まだよく知りもしない自分を信じたことも、その心に触れて、立ち上がる気力が沸いてきたということも。
心の強い人だと実感すると同時に、そんな彼女たちのようになりたいと。そう思った時には、ナギは立ち上がっていた。
「私だって、このまま倒れたままでいるわけにはいかない…」
その彼女の前には、マサキが立ちはだかっていた。
今回はここまでです。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 5月10日更新 ( No.19 ) |
- 日時: 2020/05/17 22:08
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今週の分を更新します。
3 エイジは先を急いでいた。
「みんな!俺もすぐに行く、待ってろよ!」
翼の間から出たエイジは、ハヤテたちに追いつこうと走っている。彼らは当然この先で強敵と戦っているに違いない。仲間たちが戦っているときに自分だけがいつまでも後れを取るわけにはいかない。
何よりも、自分の為にたた戦うと決めたのだ。このまま戦わずに終わってたまるものか。
そしてエイジは第十の間、圧の間へと勢いよく突入した。
中を進みながら状況を確認する。人の気配がしない。仲間たちはもうすでにここを離れたのか。それとも…。
そんなことはないと不安を払ったエイジは、目前に倒れている人影をひとつ見つける。気になってその顔を覗き込んだ。
「こいつは…ラナロウか」
男の顔は知っている。黄金の使者の一人だ。ここで倒れているということは、先に行った仲間たちがやったに違いない。でも、仲間たちがいないところを見るとこの間を抜けたのだろうか。
その少し先に、もう一人倒れている。今度は、エイジもよく知る人物だ。
「伝さん!」
エイジは伝助の元へと駆け寄り、容態を確認する。
「大丈夫か!」 「うっ…エイジ君…?」
呼びかけたことに気が付いたのか、伝助はうっすらと目を開けた。
見たところ深く傷ついている。口元に血がこびりついているところを見ると、血を吐いたのだろう。
その伝助は、エイジの肩を手で押した。
「エイジ君、早く行って皆に追いつきなさい。急がなければならないのはわかっているでしょう?こんな体では追いつけはしませんが、僕の心も一緒に…」
そう言い、エイジにあるものを手渡した。それを確認したエイジは、それにこめられた伝助の心をも受け取った。
「伝さん…伝さんのように、俺も俺の約束を守って見せる」
伝助の誠実の心。エイジがそれを感じ取ったのを見て伝助は微笑んだ。
今のエイジなら心配することはない。安心して先へと行かせられる。
「僕も後で行きますから…エイジ君、行きなさい…」
それを聞き、エイジは伝助を置いて去っていった。
伝助の心を手にして。
「次の間は何だ?」
第十一の間の前まで来たエイジ。陽の間である。
確認するや否や、エイジは中へと入っていく。内部のすべてが凍りついているのを見て、ここで戦ったのはヒナギクか氷狩だろう。
さらに進んでいくと、その推測を裏付ける二体の氷像が立っていた。一体は黄金の使者と思われる人物。そしてもう一体は…。
「氷狩さん!」
エイジは氷狩の氷像へと近づいていく。これが氷狩本人であるということは何となくだがわかる。しかし、氷属性の精霊の使者である彼が何故。一体どのような戦いがここで行われたのか。
思わずエイジ氷狩の氷像に手を触れていた。
“何をしている、エイジ…”
その時、エイジの心に声が響いてきた。
それは氷狩の声であった。氷像となっても意識はあるようで、エイジの心に直接伝えに来たのだ。
“おまえにはまだ戦いが待っているんだろう?ならばおまえの戦いに行け”
そして、エイジの元にひとひらの雪が舞い落ちてきた。エイジがそれを手にした時、雪はあるものへと変わった。エイジはそれを大切そうに握り締めた。
「氷狩さん…氷狩さんの何分化の一の勇気、受け取りました」
氷狩からもらった勇気は、エイジをさらに奮い立たせた。一歩、また一歩と踏み出すことを促していく。
自分のことよりも、前へ進むことを後押ししてくれた氷狩。そのことに感謝しつつ、エイジは次の間へと向かう。
「いよいよ十二の間の最後だな!」
第十二の間である月の間へと突入したエイジ。周囲には目もくれず、ただまっすぐに走っていく。
そんな彼の前には、無数の矢に突き刺されている黄金の使者、リツが倒れていた。そして、もう一人…。
「拓実さん!」
こちらも深手を負って倒れている。拓実はエイジに気がつくと、彼の方に顔を向け、苦しそうに息をつきながらも語り掛けた。
「エイジ…早く行くんだ…」
拓実の目には強い意思が込められており、それを見たエイジは助けようとした手を思わず引っ込めてしまった。
ここで拓実を助けてはいけない。自分は先へと行かなければならない。仲間を置き去りにしてでも。そう決めたのだ。
「拓実さん、ここで俺が見捨てても拓実さんなら大丈夫だと信じているから」
それを聞いた拓実はふっと微笑んだ後、傷みながらなんとか腕を伸ばしてエイジにあるものを渡した。
しっかりと受け取り、エイジは月の間を後にした。ここを抜ければ明智天師の間は目前だ。
その道を走るエイジだが、行く手に次々と異形のモノが倒れていることに訝しむ。
これらはすべて傀儡兵だ。みんな先頭によって倒されたようである。ということはここで戦闘が起こり、誰かがこいつらと戦ったのだ。
その誰かは、少し進んだところで見つけた。
「花南姐さん!ヒナギクさん!」
道の脇でぐったりと座り込んでいる二人を目にし、エイジは心配になって駆け寄っていく。
「騒がないで」 「少し疲れただけよ」
いつもの強気な調子で返事をする。大したことはなさそうだが、疲労は隠しきれてないようだ。もう少し先へ進んで戦う力もないほどに。
「私たちのことより、早く明智天師の元へ行きなさい」 「ハヤテ君たちが先に着いているはず。助けが必要なことはあなただってわかるでしょ」
彼女たちはそう言うが、エイジは気がかりだった。女の子二人を残していくことが不安だった。
「けど、二人は…」 「私たちの心配をするなんて早いのじゃないのかしら、エイジ?」 「戦う相手はもう一人だけでしょ。なら、いいじゃない」
確かにその通りだ。それに、この二人がそう簡単にやられるとは思えない。
「わかったよ、二人とも」
それにしても、とエイジは思った。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
二人は肩を寄せて座り込んでいる。互いに身を預けているその光景は、エイジの言うとおり仲の良さというものがうかがえた。
「まさか。仲良くなんてなっていないわよ」
花南はあり得ない、と言わんばかりにため息をついた。
それをどこか面白く見えたヒナギクは、クスっと笑う。それが聞こえたのか花南は彼女を睨むがそれだけだ。どうやら悪口をたたく気力もないようだ。
「それよりもあんた、先に行くならこれを持っていきなさい」
そう言い、花南はエイジにあるものを差し出した。
「なら、私も」
同様にヒナギクも手を取り出し、エイジに花南と同じものを受け取らせようとする。
二人の勇気と友情の心そのものと言ってもいいそれを、エイジは手に取り走り出す。
遂にエイジは、明智天師の間の前まで着いた。
「ようやく…ようやくここまで来たぜ」
目指していた場所を前にして、エイジは緊張で喉を鳴らした。
ハヤテたちは先にいるという。もう明智天師との戦いが始まっているに違いない。彼らがやられることはないが、苦戦しているのは確かだろう。
自分も今からそこへ行くんだ。そして戦う。
決意を込めて、エイジはその一歩を踏み出そうとする。
その瞬間、エイジに向かって死角から攻撃が放たれた。とっさにそれを察したエイジは寸前のところで避けることができた。
「誰だ?」
まだ敵がいたのか。一体誰だ。
「よく避けたものだな」
先に進むことばかりに目を向けていたため、自分の死角にまでは注意していなかった。しかも、そこは影に覆われており、身を隠すには絶好である。
しかし奇襲が失敗した以上、二度はない。それに、エイジもすでに暗闇からでもその気配を感じている。
「姿を見せろ!」
この呼びかけに素直に応じたわけではないだろう。しかし、隠れるのは無意味なので、大人しくしたがったようだ。
影の中から、その人物が姿を現す。
それは、エイジも見覚えのある人物だった。
「ミーク?」
天の間を守っていた黄金の使者、ミークだ。天の間での戦いで異空間と共に消えたはずの彼女が、今ここにいて、血走った目でエイジを睨んでいる。
「明智天師ノ敵…全テ殺ス…」
本当に様子がおかしい。なんだか理性を失った獣のように、目の前のエイジに対して牙を剥いている。
そしてエイジは気づく。今のミークは、あれに違いないと。
「おまえ…傀儡兵だったのか」
異形のモノというべき傀儡兵。姿形こそヒトのままだが、彼女から放つ気配は異形のモノのそれと同じだ。
「でも、どうしてここに…?」 「おそらく、明智天師…マサキの奴にここに落とされたんだろう」
そう言って、背後からエイジと肩を並んだのは。
「優馬さん!」 「真の主であるマサキがゼオラフィムを呼び寄せたから、ミークは異空間を維持できなくなった。しかも主であるマサキは邪魔な虫でも払い落とすかのようにこいつを扱ったんだ」
優馬はミークに憐みの目を向けている。
「マサキにとってこいつはゼオラフィムの使者の代行だったのかもな。表立って動けない自分のかわりに働いてもらうための駒として」
ミーク自身は師であるマサキのために戦っていた。だが、当のマサキは弟子としては見ていなかった。
「ミークのマサキに対する敬愛も、そうあるように仕組まれていたのかもしれないな」
そう考えると怒りなのか、虚しさなのか、よくわからない思いが込みあがってきた。
「けど、今は目の前にいるこいつを倒すことを考えなくちゃな」
感傷を振り払った優馬。それを見たエイジも彼に倣う。
そうだ。相手がどうであれ、それが自分たちが止まっていい理由にはならない。本当にナギやハヤテたちを助けたいのであれば。
ところが、身構えたエイジを優馬が制した。
「優馬さん?」 「おまえはさがっていろ。マサキとの戦いに、なるべく力を温存してもらいたい」
そう言い、優馬はユニアースと一体化する。
「第一、こいつの相手は俺がしていたんだ。ここは俺にやらせろ」
自分が戦っていた相手なのだ。ちゃんと決着つけなければ気が済まないのだろう。その気持ちはエイジもわかる。
それに、最後の戦いを前に力を無駄に使いたくないのも事実だ。だから、ここは素直に優馬に任せることにした。
優馬は膝に力をため、蹴りの態勢に入る。対するミークも、精霊と一体化した姿となった。おそらく彼女のものと言っていたクラウディアとだろう。
「ゆ、優馬さん!」
エイジは少々不安になった。見たところ、優馬は力を激しく消耗しきっている。ミークの方もそうだろうが、彼に比べればまだ余裕があるように見える。これで勝負になるのだろうか。
「任せろと言ったはずだ!」
しかし、優馬はそれでもやる男だ。口にはしないが、エイジの為に。そしてエイジも優馬ならやれると疑っていないため、それ以上口出ししなかった。
構えたまま動かない優馬に、ミークが仕掛けてきた。その拳を優馬に叩きこもうとする。それに合わせて、優馬も回し蹴りを行う。ギャロップキックだ。
激突の後、交錯。
その末、倒れたのはミークだった。ギャロップキックが見事に入ったのだ。クラウディアとの一体化も解ける。
優馬も力を使い果たしたのか、振り返って勢いよく腰を下ろした。彼の目は、ミークを見ていた。
マサキの代わりに戦うことを使命とされた人形を見る優馬の心中は、エイジにはわからない。
ただわかるのは、優馬は戦った相手のことまで案じてしまう、優しい人物であるということだけだ。
「どうしたエイジ、行かないのか?」
そう言い、優馬もまたあるものを差し出した。
「俺はもう行けない。だから、かわりにこれを持っていけ」
エイジはそれを受け取った。優馬の魂の資質である優しさを、それから感じた。
「おまえたちなら、必ずあいつらの助けになる。だから行け」
頷き、仲間たちの元へ向かおうとするエイジだが、ふと気になって足を止めた。
おまえたち?
てっきり自分の一人しかいないと思っていたが、他に誰かいるのか。
「気づいていたのか」
その言葉と共に、もう一人男が姿を現した。
「あ、あんたは!」
エイジは驚いた。この場に自分たち以外の人間がいたことにもそうだが、この男がまさかこの場にいることの方が何よりも大きい。
対して、優馬は予想していたと言わんばかりのすまし顔であった。
「ミークが戻ってこれたんだ。一緒にいたおまえもここにいるはずだからな」 「そうか。しかし手を貸してやればよかったかな?」 「いや、エイジにも言ったがミークは俺がやらなきゃいけなかったからな。誰にも手を出されたくはなかった」
言葉のやり取りの中に、緊張感が漂う。この男のことを考えれば、それはむしろ当然だろう。
しかし、態度を柔和させたのは優馬の方からだった。
「だが、綾崎はおまえの助けが必要だろう。あいつのためにおまえも早く行け」
この言葉に、男もエイジも目を丸くした。てっきり男は行かせないとか許せないというようなことを口にするのかと思ったからだ。
二人の顔を見た優馬は、不服とばかりに鼻を鳴らした。
「俺だってガキじゃないんだ。必要ならたとえ気に入らない相手の力も借りるさ」
それに、と優馬は続けて言った。
「俺がおまえを許しても、おまえを救ったことにならない。綾崎に許されてこそ、おまえは救われるはずだ」
この男とハヤテの関係を知れば、そう考えるのは当然だろう。
「だから行け、綾崎の為にも。あいつもおまえと話すことを望んでいるはずだ」
男を諭す様子を見て、エイジは改めて思った。
「…優馬さんって、やっぱ優しいじゃん」
かつて敵であった男でさえこのように送り出したのだ。その心は、やはり優しさと言えるだろう。
「うるさい!早く行け!」
照れ隠しに怒鳴る優馬を尻目に、エイジたちは明智天師の間へと入っていくのだった。
今週はここまでです。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 5月10日更新 ( No.20 ) |
- 日時: 2020/05/24 21:20
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
4 マサキを目前にして、ナギは委縮してしまっていた。
相手の威圧だけで動けないでいるのだ。第一、腕力では当然勝てないし、説得ができればこんな戦いなんてしない。口先でのごまかしも通用しないし、思いつきもしない。ナギの足では、この男から振り切れもしない。
まさに、逃げ場なしである。
「小娘、貴様を龍鳳の間へは行かせない」
ゆっくりとナギに近づいていくマサキ。対して、負けじとナギは一層睨み返す。
「虚勢はよせ。おまえひとりではどうすることもできない」 「だが私は、決して逃げたりなんかしないぞ!」
ナギは弱弱しくも、引くつもりなどなかった。
「この私が、おまえみたいにいつまでもいじけているような奴に、負け犬みたいに尻尾を巻いて帰るわけがないだろう」 「…なんだと?」
ナギは意図して挑発したわけではないだろう。しかし、それはマサキを刺激するには十分であった。
それに気づいてはいないが、ナギは続けて言った。
「私はおまえが考えているようなスセリヒメにならない。私は、一兆部売れる漫画家になれるスセリヒメになるのだからな」 「…は?」
予想もしない言葉に、マサキは言葉を失ってしまう。彼だけでなく、佳幸や光たちも呆気にとられている。こんな緊迫した場面で漫画家になるというのだから、空気ぶち壊しだ。本気なのかどうかさえ疑ってしまう。
そんな彼らなど、ナギはお構いなしだ。
「私は今までのスセリヒメらとは違う、私がなりたいと願ったものに、自ら選んで掴み取るのだ。誰かが決めた使命とかじゃなくて、私がそう決めたから。だから、おまえなんかに逃げてたまるか!」
そのナギの啖呵は、ハヤテの身体の奥底から力を沸かせた。
そうだ。お嬢様はいつもその熱い魂と優しさを持っていた。
僕やカユラさんがヤクザや警察に引き渡されそうになった時、それを止めようとした。
巨大ロボット7号を相手にして、ワタル君とサキさんを守ろうとした。
サメに喰われそうな僕を助けるため、冷たい海水に入ろうとした。
何より、僕のために王玉を砕き、莫大な遺産を継げなくなっても僕と共に自分たちの力で生きる未来を選んだ。
そんなお嬢様だからこそ、僕は彼女を守りたいと思ったんだ!
ハヤテが立ち上がるには、その理由だけで十分だった。
「…まだやるのか?」
マサキに対して、ハヤテは毅然として立ち向かう。ハヤテはマサキに、ナギに、自分自身を含めたこの場にいる全員に言い聞かすように心からの思いを絞り出した。
「僕はお嬢様を信じている…。お嬢様ならきっとやってくれる、自分で掴み取ってくれると。だから僕は、お嬢様のために戦うんだ!」
ハヤテの魂からの叫び。
「そうだ…」
それに呼応するかのように、光たちも立ち上がる。
「私たちは彼女を信じている。そして彼女も私たちを信じている」 「あなたの言う改革よりも、彼女の方が信じることができます。そんな彼女と敵対するのなら、私たちは戦います!」
各々の剣を持ち直して、戦う構えをとる。
「よそ者である魔法騎士たちが、口を挟むというのか」 「これはもう霊神宮だけの問題ではないということですよ」
佳幸もふらふらとよろめきながら立ち上がってきた。
「セフィーロ、精霊界、高杉さんたちの世界、そして僕たちの地球をも巻き込んだ事態になっているんです。それを一つの組織という小さな事情でかき乱してどうするんですか」
それは正しい意見であった。今、各地で時空のゆがみが起こっている。原因がいまだに判明していない以上、世界の枠を超えてその人たちと協力し合って求明し、対処しなければならないのだ。霊神宮の事情も無視できないが、優先するべきはそちらであるはずだ。
「それに、あなたは改革を掲げていますが、具体的な内容は語っていません。言葉の響きはよいですが、何をやるのかは言っていません。その先のビジョンが見えません」
佳幸はそこで、マサキを指さした。
「改革はあなたの本心からなのですか。それとも何かに言わされているのですか」
これはここでマサキと対面したときに生じた疑問だった。マサキの悪意は、こちらを圧倒させたが、同時に違和感を抱かせた。
それは誰かが植え付けたものであり、マサキはそれに扇動されてこのような行動を起こしているのではないか。
「確かに霊神宮は変えなきゃいけない。けど今、改革を実行しようとしたのはなぜなんですか?」 「わ、私は…」
佳幸の言葉に、マサキは動揺を見せ出す。しかし佳幸は止めない。
「あなたは一体、誰に、何を取りつかされたんだ…」 「私は、私は…」
一瞬、マサキの雰囲気が変わった。悪意のプレッシャーは消え、彼が明智天師と呼ばれていた頃の穏やかさを取り戻していた。
「そうだ、私は…あの女に…」 「女?」
女とは一体誰なのか。
佳幸がそれを問おうとした時、突然、マサキが悶え始めた。同時に彼から漆黒のオーラが溢れ出し、まとわりつくように漂っている。
あのオーラから、負の感情のようなものを佳幸は感じ取った。それが、マサキのものとも違うということにも。
「まさか、彼が何かを言おうとしたからなのか…」
まだわからないことも多いが、マサキが何者かによって取りつかれていることは理解できた。操られているわけではないようだが。
しかし、それから解放させれば、なんて甘い考えは捨てるべきだ。倒すことを考えていかなければやられてしまう。生半可な気持ちが通る相手ではない。
戦いが再び始まる。
佳幸のその予感は当たった。黒いオーラが吸収されるようにマサキの中へと入っていく。 そして、マサキの凄まじい悪意がこの場一面に伝わってくる。
それでもハヤテをはじめとして皆怯まなかった。戦うことを決めたのだから。
「話は終わりだ。三千院ナギ、討たせてもらおう!」
マサキが拳を握り、ナギに殴りかかろうとする。寸前にハヤテが割って入るが、マサキの威力の前では彼が受けても二人共々吹っ飛ばされてしまう。
「ハヤテさん、これを使え!」
その時、横から二人のもとへ何かが飛んできた。それが何なのか目で捉えたハヤテは手に取って前へとかざし、マサキの拳を防いだ。
飛んできたのは、ウェンドランの盾であった。更に間髪入れずにマサキへ電撃が襲い掛かってきた。咄嗟に飛びのいて、距離をとることでかわしたマサキ。
「他にもまだ歯向かう者がいたのか…」
マサキ、そしてハヤテたちは新たに参入してきた者の姿を探す。
彼らは、すぐに見つけることができ。たこちらに近づく人影が二人。
どれも、ハヤテたちの見知った顔である。
「ようやく来たか。少し待たせやがって」
一人目は、佳幸の弟である岩本エイジ。すでにウェンドランと一体化している。
「けど、いいタイミングだろ?まさに主役って感じだろ?」
そうでしょ、とエイジは隣にいる男に同意を求める。
精霊、ライオーガと一体化しているその姿を、ハヤテたちは見間違えるはずがなかった。
「兄さん…」
ハヤテの兄、綾崎雷矢は弟であるハヤテの方へと顔を向ける。
「俺がやったことを許してくれとは言わん。だが、俺がおまえたちと共闘することを許してほしい」
ハヤテたちへの凶行。弟であるというのに殺すつもりで手をかけた。その罪は消えることはないし簡単には償えない。
それでも、ハヤテのために戦うことは止めてはいけない。何より、命ある限り雷矢は戦い続けなければならない。例え許されなくても。
それだけの闘志と覚悟を、今の雷矢は持っている。
だからハヤテも、心おきなく答えることができた。
「許すことなんて何もないですよ。あなたは兄で、僕は弟なんですから」
そう、兄と弟であることの間に理屈なんていらない。ただそこにいる、それだけで十分なのだ。
そしてそれは、雷矢を救うことになった。
「そうか、私がゼオラフィムを呼び寄せたためにミークは技をかけられなくなった。だから脱出することができたということか」
マサキは、消えたはずの雷矢がここに現れたことに対して特に驚愕はしなかった。ただ、また敵が増えた、単にそう感じたようだった。
「しかし、貴様が現れたところでどうしようもない。こいつらと共に倒されに来たものだな」 「俺が倒されようが構わないが、こいつらまではやらせない」
雷矢は、ゆっくりとマサキに近づく。
「この私を、貴様が今まで倒してきた相手と一緒にしてもらっては困るな」 「おまえこそ俺を舐めるなよ。今までの俺とは違うぞ」
そう。今の雷矢は憎しみに囚われても、後悔に打ちひしがれてもいない。
ハヤテに許されたことで、彼は心置きなく戦えるのだから。
今回はここまでです。 続きは来週更新します。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 5月24日更新 ( No.21 ) |
- 日時: 2020/05/31 22:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
5 「電光石火!」
雷矢はいきなり必殺技を繰り出す。それを真正面から受けたマサキは、この戦いではじめて倒れた。
「今だ、早く行け!」
雷矢はナギに先に進むよう発破をするが。
「言ったはずだ。今まで倒してきた相手と一緒にするなと」
なんと、マサキはすぐに立ち上がってきた。それも大してダメージを受けた様子もなく。
これには雷矢も驚愕せざるをえなかった。自分の必殺技を受けてほぼ無傷で立ち上がってきた者などいなかった。
マサキの言っていることははったりではない。雷矢はそれを激しく実感する。
しかし、マサキの相手は雷矢だけではない。
「チェーンファング!」
エイジが牙のついた鎖をマサキに向けて投げつけ、からめとる。あっという間にマサキは鎖に縛られてしまった。
「何してるんだ!止まってんじゃねぇ!」
エイジの叱咤に、ナギは再び動き出そうとするが。
「こんなもので、この私を止められると思うな」
マサキは瞬く間に鎖を引きちぎってしまった。これにエイジは愕然とした。
「足止めにもならないのか…」
鎖を自ら解くとは半ば予想してはいたが、こうもあっさり破られるとはそれ以上だ。
やはり、最初から全力で行くしかない。しかし、満足に動けるのは恐らく自分と雷矢しかいない。迂闊に動いて返り討ちにあったら終わりだ。
どうすればいい?
「何を躊躇している?」
中々一歩が踏み出せない中、雷矢がエイジに声をかけた。
「どんな相手にも持てる力全開でぶつかっていく。そんなおまえだから、おまえの仲間たちはおまえにすべて託したのではないのか?」
雷矢の言葉を受け、エイジは皆から受け取ったものを確認する。
それと、ジュナスとの戦いを思い出す。あの時知ったのではないか。死力を尽くさなければ状況は打破できないと。
決意を固めたら、エイジの行動は早かった。
「流星暗裂弾!」
必殺技を、いきなりマサキに向けて放つ。
百発以上連続で繰り出される高速の拳。それらすべてを、マサキは軽々とかわしながらエイジへと迫っていく。
「おまえの技がこの私に通用するわけがなかろう」
やはり、エイジの行動は勇み足だけで終わってしまったのか。
「確かに、俺の技だけなら、な」
必殺技が交わされたというのに、なぜかエイジには余裕があった。
エイジの狙い。マサキはそれを察したが、そこまでの時間を稼がれたことが既に手中にはめられていたのだ。
「もう一度、俺の技を食らってもらうぞ」
マサキの横から、雷矢が二度目の電光石火を仕掛けていたのだ。これがまともに入り、マサキはその勢いのまま壁に叩きつけられる。
そこへ更にエイジがマサキを押さえつけるようにして飛び掛かり、矢でマサキの手を壁に刺しつけた。これでマサキの動きを封じたつもりだったのだろう。
「これで私の動きを封じたつもりか」
だがマサキは、風穴が開いても構わないかのように、その右手に自ら矢に深く差し込んでいく。そうすることで、右手を抜くことに成功した。 エイジは戦慄した。手が引きちぎれてもいい。それほどの覚悟がなければできないことだ。
ともあれ右手と引き換えに、マサキは身の自由を取り戻した。それはエイジと雷矢にとっては、一転してピンチになったということだ。
「この私の右手を傷つけたのだ。それ相応の例をしなければならないな」
そう言い、二人に対して構えをとる。
「天のゼオラフィムが真の使者、マサキの最大の必殺技を見よ!」
今まで感じたことのない力と威圧を感じる。すぐにこの場から逃げなければならないと本能が警告しているが、その威圧に足がすくんでしまって動けない。
「烈鳴爆砕!!」
左の拳を繰り出すと同時に、天を燃やし、裂く程の衝撃にこの明智天師の間が激しく揺れた。
遠巻きにいたハヤテたちも、その衝撃によってダメージを受け、倒れかけてしまう。
「そ、そんな…余波だけでこんなにもダメージを受けてるなんて…」
身を焦がす熱と強烈な爆風に何とか耐えるハヤテたち。
では、標的とされ至近距離から必殺技を受けたエイジと雷矢は?
爆発によって宙に舞った砂埃が晴れると、そこにあったのはマサキの姿だけだった。
二人はどこに。探そうとした時だった。エイジと雷矢がズタボロの状態で上から落ちてきたのだ。
マサキの必殺技、烈鳴爆砕を受け二人は上へ舞い上げられた。そして大きなダメージを負ったため、受け身も取れないまま床に叩きつけられたのだ。
エイジと雷矢の容態は、一目見ただけでわかる。一体化は解けていないが、深手を負っている。そのまま動かなくなってもおかしくはなかった。
だが、二人ともピクリと動き出す。
「生きていたか。やはり利き手でないと全力は出せんな」
ゆっくりと起き上がるエイジと雷矢を見て、マサキは冷静にそう言った。
「へへっ、俺たちの攻撃も無意味じゃなかったということだな」
よろめきながらも、エイジは構えをとる。まだ戦う気でいるのだろう。
「そんな状態でまだ戦うというのか」 「皆にいろんなものを託されたんだ。そう簡単に終わらせるわけにはいかないんだよ」
仲間たちやジュナス、エーリッヒ。ここに至るまで様々な人の思いを託されてきた。
彼らの願いを、無下になんてできない。
「あんたがどんなに強くても、ゆずれないモンがあるならあきらめちゃいけないんだ…」
そして、自分の心からも逃げない。エイジにとって、仲間たちも自分もゆずれないものだから。
「だから俺は戦う!」
その思いをぶつけるかの如く、エイジはもう一度流星暗裂弾を放った。
「バカめ。その技は通用しないことを忘れたか」
炎の矢を防いだ時と同様、マサキは前面にバリヤーを張った。エイジの必殺技は全てそれに弾かれてしまう。
しかし、それでもエイジは流星暗裂弾を打ち続ける。
「あきらめるか…」
このまま続けていけば、エイジの拳の方が砕けてしまうかもしれない。いや、拳どころか腕さえも使えなくなってしまう。そんな不安さえ抱かせてしまう。
それでも、エイジは流星暗裂弾を止めなかった。
「こいつは霊神宮の現状にあきらめた。何もかもに絶望して、力で訴える手段に出た。そんな奴に勝つには、俺はどんなことがあっても、どうしようもない時でも、まずはあきらめないことなんだ!たとえ通用しなくったって、俺にはこの技しかない!なら、最後まで打ち続けてやる!そして必ずおまえに喰らわせてやる!」
エイジのその思いが、必殺技に変化を起こした。
流星暗裂弾を防いでいるマサキは、確かにそれを感じていた。威力が、速度が上がっている。打ち続けるごとに、微かだが止まることなく上がり続けていく。
「あきらめるか!あきらめるもんか!あきらめてたまるか!」
その時、エイジの中であるイメージが生じた。
巨大な龍が、眩しく光っていく。
それは刹那にも満たない、一瞬とも言えるかどうかもわからない短い時だった。しかし、エイジはそれで何かをはっきりと掴んだ
エイジは技を止め、拳を引いて構えなおした。それと同時に、エイジの背後に龍のオーラが浮かび出た。
「いくぞ。これが俺の新しい必殺技…」
再び、エイジが拳を振るう。
「龍星暗裂弾!」
流星暗裂弾のように、いくつもの拳を高速で繰り出すのではない。ただ一発の拳を放つだけだ。
しかし、その拳は今までよりも眩しく光っていた。そして拳から龍を象ったエネルギーが放たれ、マサキに向かって飛んで行った。
「これは…今までとは威力も速度も違う!」
光の龍は、マサキのバリヤーを突き破り、彼をそのまま吹っ飛ばした。
エイジが、マサキを倒した。
無鉄砲で生意気な、トラブルメーカーとして手を焼かされていた彼が、霊神宮で一番強い使者を倒した。
驚きも大きいが、佳幸はエイジがどんな苦境にもあきらめずに努力してきた姿を知っているためどこか感慨も深かった。
こんな状況でなければ、素直にエイジを褒めていただろう。
しかし、その喜びは戦いの後にしてからだ。
「今なら…今ならやれる!」
マサキは弱者とみていたエイジの攻撃で倒れるという、予想外の事態に動揺しているはず。だから、今までなかった隙が生じているに違いない。叩くには、今しかないのだ。
「雷矢さん!彼の心に目にもの見せてやるんです!」
雷矢にそう叫んだ後、佳幸はナギの方を向く。
「その後お嬢さんはすぐに龍鳳の間を目指して!その間は、僕たちがなんとかマサキを止めて見せる!」 「しかし、今ならあれが効果があるかもしれないとはいえ、あの男がそう簡単にあれを受けてくれるとは思えないぞ」
不安を抱く雷矢に、佳幸は何かを投げてよこした。
「そいつを使ってください!」
それを確認した雷矢は、すべて承知した。
その間に、マサキは立ち上がっていた。
「しかし…岩本エイジにここまでの力があったとは…」
格下だと侮っていたために、そのショックは大きかった。
打ちひしがれているとところへ、雷矢がマサキへと迫っていく。
「マサキ、覚悟しろ!」
左手に帯電させているのか、火花がパチパチと飛んでいる。このまま殴り掛かるつもりだろうか。
「この私を舐めるな!」
ただまっすぐに突っ込むだけでは、かえっていい的になるだけである。奴が攻撃する前に、こちらの拳を当ててやる。
佳幸が睨んだ通り、この時マサキは冷静ではなかった。そうであれば、すぐに気づけただろう。
マサキは思い切り雷矢を殴った。雷矢は防御をとらず、吸い込まれるように拳が左胸をえぐった。
しかし、その瞬間マサキは違和感がした。殴った感覚がおかしい。
自分が殴ったのは、本当に雷矢なのか?
その疑問に答えるかのように、殴られた雷矢はまるでガラスのように粉々に砕け散ってしまった。
飛散する破片。その後方から、もう一人雷矢が右腕に帯電させながらマサキに向かって走っていた。
二人の雷矢。前にいた一人は砕けてしまった。砕けてしまった方は左腕に、もう一人は右腕に帯電。
これらの要素から、マサキはからくりを見抜いた。
「鏡像か!」
マサキが攻撃したのは、雷矢を鏡写しにして作ったダミーだ。
佳幸が雷矢に渡したもの。それはかつて戦った映理の精霊、鏡のカメルーンの勾玉であった。その力を使って雷矢は自身の鏡像を作り、マサキを出し抜いたのだ。
マサキが冷静ならば、すぐに鏡像だと気づけたはずだ。鏡写しということは、左右反転した姿となっているからだ。やはりエイジにやられたショックは、それに気づけなかったほど大きかったのだろう。
もう一つ、マサキが気づけなかった要因がある。
「今度は直接、幻覚を見せて惑わせてやる」
雷矢の技の中に幻魔雷光というものがある。幻覚を見せる電撃を相手に流して、心を砕く必殺技だ。これは電気による光を見ただけでも相手にかけられるという利点がある一方、右腕からしか放てないという欠点もあるため、警戒もされやすい。
だが鏡像を介すればそれとは気づかせずに光を見せることができる。左右反転するため、相手は左腕に帯電しているように見える。更に鏡像を通して幻魔雷光の光を見たので、マサキは完全に鏡像を本物だと錯覚してしまったのだ。
そして今、雷矢は右腕にこめた力を放とうとする。
「この幻魔雷光で、貴様の心を手玉に取ってやる!」
雷矢の右腕から電撃が放たれ、マサキを襲った。体に流れる電撃に、マサキは身を震わせる。
「行け!三千院ナギ!」
雷矢の激と共に、ナギは龍鳳の間へと走り出す。
「い、行かせるか」
うまく動けない体に鞭打って、マサキはエネルギーを拳にこめ、それをナギに向けて放った。
あの少女を、絶対に龍鳳の間へ行かせてはいけない。今のマサキにあったのはその思いであった。
マサキの放ったエネルギーが、ナギを後ろから貫いた。ところが、その瞬間ナギの姿が消えてしまった。
「なっ、幻覚だと!?」
それとは見抜けなかったことにショックを受けるマサキ。雷矢の幻魔雷光は、自分すら手玉にすら取れるというのか。
その一方で、ナギは龍鳳の間を目指し、この明智天師の間から離れようとしていた。
「くっ、待て!」 「それはこっちのセリフだ!」
マサキは今度こそナギを止めようとするが、それをハヤテたちが遮る。
「ここから先は行かせない!」
佳幸はエイジから剣を受け取り、光と並び立つ。
「炎の矢!」
光の魔法である炎の矢がマサキに向かって飛んでいく。これに合わせて、佳幸も剣に炎を纏わせながらマサキに飛びかかっていく。
「炎龍星斬り!」
炎の矢が当たると同時に、エイジから渡された剣を用いた佳幸の必殺技がマサキに炸裂した。
魔法と必殺技を一緒に受け、さすがのマサキも怯んでしまう。この隙を、彼らは絶対に逃さない。
海は魔法を、エイジは必殺技をそれぞれ放つ。
「水の龍!」 「龍星暗裂弾!」
水と光の龍がマサキに突進し、彼を宙に舞いあげた。これなら反撃は取れないはず。ここでとどめを打って勝負を決める。
「疾風怒濤!」
ハヤテはマサキに向かって、勢いよく飛んでいく。それに続けて、風が魔法を放った。
「碧の疾風!」
風の魔法によって生じた疾風による効果なのか、ハヤテはそれを身に纏うような姿で更に加速する。
そのまま、ハヤテはマサキに突撃していった。ハヤテの肉弾は見事に決まり、マサキを壁の方へ吹っ飛ばした。
勢いよく壁に激突したマサキは、そのまま床へと落下する。続いて壁が崩壊し、落ちてくる数々の瓦礫がマサキを襲った。
下敷きとなったマサキは、ピクリとも動く様子がない。
「…やった!」
倒れたままのマサキを見て、ハヤテたちは勝利を確信する。
「やった!ついにやったんだ!」
最後の強敵だったマサキを倒した。それを力を尽くすまで戦ったハヤテたちにとって大きな喜びであった。
これで、戦いが終わる。
そう思っていたのだが…。
今回はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 5月31日更新 ( No.22 ) |
- 日時: 2020/06/07 20:30
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
6 勝利の余韻を引き裂く、瓦礫が崩れ落ちる大きな音がこの場に響き渡る。
嫌な予感のまま音のした方向を見ると、瓦礫の中から起き上がってきたマサキの姿があった。
「そんな…あれだけの必殺技と魔法を叩き込んでも平気だなんて…」 「いや…」
ところどころに大きく傷つき、震わせている身体を見れば、通用したことは明らかだ。
「完全に倒しきれなかったんだ」
自分たちの攻撃の威力が足りなかったのか。あるいはマサキが耐えきったのか。いずれにせよ、これで終わったと信じ切っていただけにそれが裏切られたショックは大きかった。
対して、マサキの方は今にでも攻撃をしでかねないほどの敵意をこちらに向けてくる。間違いなく反撃が来る。
「おのれ。もはや許さん。こうなれば、徹底的に吹っ飛ばしてやる!」
マサキが再び構えをとる。とてつもないプレッシャーがこの場を支配する。今にでもこの明智天師の間が消滅してしまうと錯覚してしまう。
ハヤテたちはマサキを前にして逃げることができない。というより、この威圧感から逃げることは不可能だと察してしまう。
プレッシャーがピークに達した時、マサキの背後に天空のオーラが浮かび出た。
「烈鳴天破!!」
瞬間、眩い光と共に大きな爆発が起こった。明智天師の間は粉々に吹っ飛び、跡形もなく崩落していった。
天をも揺るがしかねない威力の爆発。その音と衝撃は霊神宮全体、そして近くの空域にまで響き渡った。
霊神宮にいる者は皆、戦いが終わることを察していた。
「うわわっ!」
突如襲ってきた大きな揺れに、ナギはバランスを崩して転んでしまう。
膝を打ってしまうが、痛がってはいられなかった。軽傷であったということもあるが、それ以上に気になることがあった。
「ハヤテ…」
今の衝撃は、先程抜けてきた明智天師の間から起こってきた。あそこではまだ、ハヤテたちがマサキと戦っていたはず。つまりこれは、彼らの戦いによって起こったものであることがわかる。
気になるのは、ハヤテたちが無事であるかということだ。
ナギは嫌な予感をしていた。全員やられてしまったという最悪のケースだ。先程の大きな揺れがそれを頭に焼き付かせ、離れないのである。
「…ハヤテ」
だが、ナギは止まらずに進みだした。約束したのだから。
それに、ハヤテたちなら大丈夫。根拠はないが、そう信じることができたから。
だからナギは、龍鳳の間へ進むことができのだ。
明智天師の間は烈鳴天破によって壁も天井も吹っ飛ばされ、その瓦礫が至るところに散乱していた。
その瓦礫と共に、光、海、風の三人が倒れていた。死んでいるのかはわからないが、少なくとも意識はないように見える。
この光景を見て、マサキは高揚した。
「ようやく、ようやく終わった。反逆者たちも、厄介な相手である魔法騎士たちも倒れた。私は、勝ったのだ!」
勝利の余韻を噛みしめるマサキ。しかし彼はすぐに現実へと戻った。
「そうだ。まだ終わりじゃない。肝心の三千院ナギを止めなければ意味がないんだ」
冷静になったところで、ナギを追いかけようとする。自分の足なら今から走っても彼女が龍鳳の間に着く前に追いつけるだろう。
そんな彼に、待ったをかける声が。
「待ってください」
それを聞き、振り返ったマサキは驚愕した。
ハヤテ、佳幸、エイジ、雷矢。
膝を着き、深く傷ついている様子ではあるが、それでも戦う意志が消えていないことが伝わってくる。
「何故だ…烈鳴天破を受けてまだあらがうだけの力がある…?」
魔法騎士の三人でさえ倒れているのだ。防ぐ手段が何もない以上、あれを受けたらこうして立ち向かうことができないはずだ。彼らはダメージこそ負ってはいるが、光たち程深く傷ついてはいないようだ。
かわすことは不可能。こらえるだけの力も残っていないはず。
ならば、なぜ彼らはここにこうしているのか。
「よく見てみるんだ。僕らの前に何があるのか」
佳幸に言われ、マサキは気づく。彼らの前方に、光の防御壁が張られている。これが烈鳴天破からハヤテたちを守ったのだ。
しかしこれはハヤテたちによるものではない。これを張って彼らを助けたのは…。
「勾玉…?」
八つの勾玉が宙に浮き、八芒星を描いている。それが強力な力場を発生させ、光の防御壁を生んだのだ。
「仲間の皆が、俺たちを守ってくれた」
ヴァルキリオン、フラリーファ、シャーグイン、グルスイーグ、ワイステイン、コーロボンブ、ユニアース、アイアール。
八芒星を作っているのは、皆仲間たちの精霊の勾玉だ。
「ここに来るまでに託された、皆の思いと力が助けてくれたんだ!」
エイジが明智天師の間まで着く途中、ヒナギクたちから受け取ったものの正体はこれだったのだ。自分たちは共に戦えなくても、何かの力にはなるのだという思いを込めて。
「皆がこれを託したのは、俺たちを信じているからだ。俺たちならやってくれると信じているから!」
そう叫びながら、エイジは力強く立ち上がる。
「こんな俺でも信じてくれるのなら、やってやるしかないじゃないか!」 「そうだ…!」
エイジに同調するように、ハヤテも立ち上がった。
「彼らはナギお嬢様のことも信じてくれた。そんな彼らがこうして力を貸してくれたんだ。お嬢様の執事である僕が立ち上がらないわけにはいかないんだ!」
絆の情や使命感に燃える二人。そして、弟たちの奮起に兄たちも黙ってはいられない。
「倒れてなんていられない。力がある限り戦うって、決めたのだから!」 「一度は敵対したこの俺をも守ってくれたのだ。それ相応の働きをしなければな!」
佳幸と雷矢も、気合を入れて立ち上がった。
マサキはそんな四人に圧倒されかけていた。仲間たちと力を合わせ、心を強く持ち、強大な相手と戦っていく彼らが、大きな存在のように感じたのだ。自分を超えていくかのような存在に。
彼らの心の強さは、彼らがつけているリングを見ればわかる。彼らの魂の資質に反応して、リングが今までよりも眩しい光を放っている。
今の私は、あれほどの輝きを出せるのだろうか。
心に翳りが差し込んだところで、マサキは気を持ち直した。
「立ち上がったところで如何というのだ?もはや手も足も出せないというのに。潔く負けを認められないというのなら、今ここで引導を渡してくれる!」 「僕たちは負けない!」
マサキが必殺技を放つ前に、ハヤテたちは迎え撃つ構えをとっていた。
「皆のために、自分たちのために!」
負けずに立ち上がった彼らに応えるように、八芒星を描いていた勾玉がそれぞれのリングへと自ら挿入していった。
ハヤテのリングにはヴァルキリオン、アイアールが。
佳幸のリングにはフラリーファ、シャーグインが。
エイジのリングにはワイステイン、コーロボンブが。
雷矢のリングにはグルスイーグ、ユニアースが。
仲間たちの精霊が、ハヤテたちに力を与えていく。
「マサキ、今こそおまえを倒す!」
全ての力と心を込めて、ハヤテたちは必殺技を放った。
「疾風咆哮!」 「ブーストフレイム!」 「龍星暗裂弾!」 「雷鳳翔破!」
鳥獣、炎龍、光の龍、雷鳳のオーラが浮かんだと同時に、四つの必殺技がマサキを大きく吹っ飛ばした。
ハヤテたちはこの戦いの中で一番の手応えを感じていた。これは、決まったと。
飛ばされた後、マサキはそのまま倒れた。呻いてから数秒の後、ゼオラフィムとの一体化が解けると同時に意識を失った。
「遂に…倒した…!」
霊神宮の内乱の主犯であったマサキに。五年前のジュナスの事件から続いた長い因縁に、今やっと決着がついたのだ。
だが、まだすべてが終わったわけではない。
「お嬢様…あとは任せましたよ」
ナギが龍鳳のリングを手にし、スセリヒメであることを証明しなければならない。だがナギなら、きっと大丈夫。
力尽きたハヤテたちは、一体化を解いてその場で倒れてしまった。気を失うまで彼らの胸中にあったのは、ナギへの安心感であった。
45話はこれで終了です。 次回は来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 6月7日更新 ( No.23 ) |
- 日時: 2020/06/14 21:32
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
この小説も一つの区切りが近くなってきました。 今週の分を更新します。
第46話 復活
1 どれだけ走っただろうか。
息も切れ切れで、走るというよりも、歩く速度になりつつあるが、それでもナギは走るのをやめなかった。
実際は大した距離ではないのだが、体力のないナギにとっては地獄のようであった。
だが今、その思いも終わる。そして、霊神宮での戦いも。
「ここが…龍鳳の間?」
その一室には、中央に祭壇があった。暗い部屋にそこだけ光が当てられているその光景は、神々しさを感じる。少し奥の方に、石像となったダイもいる。
何よりナギが注目したのは、祭壇に祭られていた一つのリングだった。
「あれが、龍鳳のリングか」
間違いない。主だからわかるが、龍鳳も反応している。
あれを自分が手にすれば、この戦いが終わるのだ。
数刻呻いた後、マサキは気を取り戻した。
上体を起こして、自分の前方にハヤテ、佳幸、エイジ、雷矢の四人がうつ伏せになっているのを確認する。
そうだ。自分は彼らの必殺技を受けて吹っ飛ばされたのだ…。
四人は一体化が解かれ意識を失っているようだ。あの技を放ったことで、力尽きて倒れてしまったようだ。
自分は、どれくらいの時間気を失っていたのか。
そこに気づいた時、マサキは焦燥しだした。
「三千院ナギは!?」
急いで立ち上がり、龍鳳の間へと駆け出した。
すでにナギは龍鳳の間にたどり着いているかもしれない。それでも、自分は龍鳳の間へ行かなければならない。時代のスセリヒメの待つあの間へ。
走りながら、マサキは自分の思考に異変を感じていた。
何故、自分は三千院ナギを止めなければならないと考えていないのか。自分はナギをスセリヒメにさせないはずだった。彼女が龍鳳のリングを手にしてスセリヒメとなったとしても、力づくでもその座から降ろせばいいはずだ。なのに何故そこまでの考えに至らないのか。自分が龍鳳の間へ行くことにしか胸中にないとしても、負けを受け入れようとしている自分に疑問を抱いてしまう。
自分は心から霊神宮の改革を望んでいたのではないのか。スセリヒメのいない霊神宮を目指していたのではなかったのか。その思いは、こんな敗色濃厚な状況になったとしても決して薄れるはずはなかったはずだ。
それとも、これは自分の本意ではないということなのか。
あの戦いの中で佳幸が言いかけていたが、自分は誰かに踊らされているのだろうか。
そう、あの女に…。
「ええぇぃっ!とにかく先へ急がなければ!」
そう。今はただそれだけだ。そこに答えがあるのだから。
迷いを振り切ったマサキは、龍鳳の間へと着いていた。そこでは、ナギが今にも龍鳳のリングを手にしようとしていた。
「やめろぉっ!」
そうはさせまいと、マサキはナギへと飛びかかる勢いで手を伸ばしていく。
ナギがリングを手にするのか。マサキがそれを阻止するのか。
それが決まるまで、一瞬。その一瞬が、永遠のように感じていた。
そんな長くて短い時間の後、ある指が何かに触れた。
「な、なんだ?」
勝利を掴んだその者は、突然のことに驚いた。
「こ、これは…!」
龍鳳の間が、光によって明るく照らし出された。
それによってはっきり見える。ナギが手にした龍鳳のリングがひとりでに彼女の腕に装着されるところを。
虹色の輝きの中、龍鳳がまるで祝福するかのように、ナギの周囲で舞っている。
その光景は、マサキを絶句させるには十分すぎた。
ナギはたった今、真のスセリヒメとなったのだ。
エーリッヒたち黄金の使者たちは皆、明智天師を目前にして集っていた。
「揃いましたね」
皆と言っても全員ではない。ミーク、ジュナスはすでに亡くなり、ラナロウ、タイハ、リツの三人は戦闘による深手で動くことができない。集ったのは半数ほどでしかなかった。
「皆も感じたのでしょう。龍鳳の輝きと共に力が解放されたのを」
聞くまでもない。全員それでここまで来たのだから。
「あの三千院ナギという少女が、やはりスセリヒメとなったか」 「見事だな。あの少女も、彼女を信じて戦ってきた使者たちも」
誰もがナギは途中でリタイアするものだと思っていた。ハヤテたちも、自分たちを乗り越えることなどできないと。
その予想は覆り、ナギは新たなスセリヒメとなった。
だが特に、驚きやショックはなかった。むしろ、彼らと手合わせした者として、当然のことだと感じていた。心のどこかで、こうなることを期待していたのかもしれない。
しかし自分たちはマサキに忠誠を誓ったのだ。それを裏切るわけにはいかないし、そうはしたくないとも思っていた。マサキはそれだけの人物なのだ。
だからこそ、わからないのだ。
「エーリッヒ、おまえはわかっているのではないか?明智天師、いやマサキのことについて」
ロクウェルの問いに、全員がエーリッヒの方を向く。
「おまえもジュナスも、マサキの兄である賢明大聖の命令で動いていた。そしておまえは見定めるものだ。自分で見抜いたか、賢明大聖から聞いたか知らんがおまえは真実を知っているのではないか?」
エーリッヒはロクウェルを見た。彼女の目は、真実を求めたいという意志が強く表れていた。他の皆も同様だった。
「ならば話そう。最も、まだ私にもわからない部分はあるが」
ナギがスセリヒメとなり、戦いに決着がついた今だからこそ話すべきだと判断したのだろう。エーリッヒは今まで隠してきたマサキについて、その思い口を開いた。
「結論からいうと、マサキは利用されているのだ。ある者に悪意を植え付けられたうえで」
マサキが利用されている。
それを聞き、ロクウェルたち他の黄金の使者たちは驚く。厳格で高潔な強い精神を持つマサキが、何者かに悪意を植え付けられたなんて考えられない。
信じられないという意思を目で訴えかけるが、エーリッヒはそれを否定する。
「この戦いを通じてそれは確信に至りました。五年前から抱いていた疑惑が正しかったのだと」 「と言ってもよ、俺はマサキとそれなりに接する機会が多かったけど、そんな悪意など微塵も感じなかったぞ」
弟子であったミークほどではないにしろ、リツ、ラナロウと共にマサキから特命を受けることが多かったサイガ。エーリッヒのように心中を見抜けはしないが、自分も黄金の精霊の使者だ。邪悪な意思を少しでも感じることはできる。何もなかったというサイガは、何かの間違いではないかと疑っている。
そんなマサキに、エーリッヒは平然として言った。
「それは、マサキがいつも着けている仮面のおかげです」 「仮面…」
そういえば、とマサキが常に仮面を着けていたことを思い出す。
「あの仮面は一種の宝具なのでしょう。あれによって悪意を外に発せずに抑え、呑まれないようにしていたのです」 「呑まれないようにって…そうか、これはマサキの本意じゃなかったんだよな」
先程エーリッヒは悪意を植え付けられて利用されていると言った。そこから察するに、マサキ自身も悪意に支配されまいとしていたのだろう。最悪の状況にさせまいと。結局はこんな内乱まで起こる事態になったのだが。
「そういえば、マサキがあの仮面を着けるようになったのは、五年前からだったな」 「そうだ。確か先代スセリヒメ、黒沢陽子の死からジュナスが脱走する間に着け始めたんだ」
黄金の使者たちはそのことを思い出していた。当初は突然のことにみんな驚いていた。単純なイメチェンをするような人物ではないので、あの仮面には何かの意味があるのではないかと推測はしていたが、それにとどまらず、ありもしない噂までもが飛び交ったこともあった。
「そう。その少し前、マサキは調査のためにセフィーロに潜入していたのです」 「調査、とは一体…?」
エーリッヒは、表情に神妙さを増して続けた。
「あの国の住人は、柱も含めて気がつかなかったのですが、その深淵には闇が潜んでいたのです。それも巨大な」 「闇だと。我々黄金の使者たちも気づかなかったというのか」
知らぬ間にそんなものがあったことに、ロクウェルたちは驚く。
「マサキと賢明大聖だけが微かに気づいていました。詳細を知るためにマサキはその闇と接触したのですが、返り討ちにあってしまい…」 「そこで心に悪意を植え付けられたということか。しかし、マサキを退けるとはその闇とは一体…?」
はっきり言って想像ができない。それがより不気味さを醸し出していた。
「そこまでは私もわかりません。ですが、戦いが終わった今なら、向こうから本性を現すかもしれません」
今週はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 6月14日更新 ( No.24 ) |
- 日時: 2020/06/21 21:41
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
2 スセリヒメとなったナギを前に、マサキは茫然としていた。
もっとも起こりたくなかった事態を前にして、一瞬思考を停止していた。
ナギをスセリヒメにさせないこと。それに失敗した今、自分の敗北は明らかであった。
だがそれを、マサキは認めたくなかった。それ故に、彼はさらなる暴挙に出ようとしていた。
「かくなる上は三千院ナギ、貴様をこの場で仕留めさせてもらう!」
これまで闘争を起こしても、殺人はやろうとはしなかった。それは明智天師と呼ばれた男としてのプライドがストップをかけていたのかもしれないと、マサキ自身この時はそう思った。
迫っていくマサキに対して、ナギは立ち尽くすことしかできなかった。恐怖で足がすくんでしまったこともあるが、ナギでは逃げられないことを察していたのかもしれない。抵抗などする前にやられてしまうのも目に見えている。
「待て!」
だがマサキはナギの手前で突如止まってしまった。
彼の目前に、剣先が突きつけられていたからだ。
「この女に手出しはさせねえ。助けてもらった恩もあるしな」
マサキは、自分に剣先を向けている男を睨んだ。
「ダイ・タカスギ…!」
ナギの背後から、ダイが剣をマサキに突き付けていた。先程の光によって、ダイは石像化から解放されたのだ。
「石になっていたとはいえ、事情は大体わかっているぜ。明智天師、いやマサキ、見苦しい真似はよせ」
ダイは剣と共に威圧をマサキに向ける。それは貫禄にあふれており、彼が戦士であることが十分わかる。
対峙しているマサキは迂闊に動けなくなった。ハヤテたちとの戦いで力を大きく消耗した今の自分がダイと戦って勝つというのは、容易なことではない。自分と相手の力を見誤ってしまうほど、マサキは熱くなってはいない。
戦うのは不利だ。ならば、不本意だが逃げるしかないのか。
しかし、退路も既に塞がれてしまっていた。
「逃がしませんよ」
龍鳳の間の入り口には、伊澄が立ち塞がっていた。
これにはマサキだけでなく、ダイまでもが驚いていた。
「おまえ、どうやってここへ…?」
突如現れた伊澄。彼女の身なりは汚れなどない綺麗なままである。ここまで来るにはハヤテたちのように戦っていくか、自分でも険しい抜け道を通らなければならない。しかし、彼女にはそんな困難を突破してきたような様子には全く見えない。
困惑する彼らに、伊澄はなぜかしたり顔でこう言う。
「真実も正解もいつも一つ。だけど、そこに至るまでの道も一つしか限られているとは、あなたたちの思い込みにすぎませんよ」 「いや、迷子になっていたら偶然ここに着いただけだろ」
伊澄が極度の方向音痴だということをよく知っているナギは、ただ呆れるばかりだった。
そこへ、ハヤテたちが遅れて登場した。彼らはまず、近くにいる伊澄に目がいった。
「伊澄さん、何故ここに?」 「説明が必要か?」
有無を言わせない、というより呆れて何も言えないという口調でナギが言うと、同じく彼女をよく知るハヤテはああ、と何とも言えない表情で納得していた。
「それより、お嬢様。お嬢様なら期待に応えてくれると信じていましたよ」
ナギの手首に着けられている龍鳳のリング。そして石化から復活したダイ。これらを見て、ハヤテたちは状況が理解できた。
これまでの自分たちの戦いが、それを通して強くしていった心が報われたのだ。自分たちが信じたナギがスセリヒメとなったことが、今は喜ばしい。
逆に、窮地に立たされたのはマサキであった。傷ついたハヤテたちはともかく、ダイに加え伊澄までいては実力行使などできない。伊澄の名と「術式・八葉」をはじめとした力はマサキにも知れ渡っており、一目置いていた。
更にそこへ、エーリッヒたち黄金の使者がこの場に現れた。
「マサキ、もう終わりです」
エーリッヒは、静かに宣告する。
「あなたほどの人が悪あがきなどすべきではない。素直に負けを認めなさい」
しかし、それを聞き入れるマサキではない。
「ふざけるな!力や資格があるとはいえ、年端もいかない少女を再び死地へと送り出すことになってもいいというのか!」
マサキの叫びは、自らの中にそれまで溜めていた切実な思いを叩きつけるかのようであった。
「先代のスセリヒメであった黒沢陽子のように、使命だと言って追い詰め、まだ若い命を散らす。それでいいのか?そんなことがあっていいというのか!」
いつしかマサキは、目から大粒の涙を流していた。それもただの涙ではない。
「先代は、陽子はまだ子供だったんだ!彼女には未来があったんだ!あの場で死ぬべきではなかったのだ!あれしかなかったとはいえ…」
それは、血涙だった。マサキの慟哭はこの場にいる全員の心に響いた。まるで、足元からすべてが崩れ落ちる錯覚さえ感じる。
だからこそ、ハヤテはわかったのだ。
「マサキさん、あなたは先代のスセリヒメを…黒沢陽子さんのことが好きだったのですね」
恋愛感情までいっていたかどうかはわからない。
ただ、その敬愛は空よりも高く、海よりも深かったのだろう。だから陽子が死んだ時、世界が崩れ落ちるほどの絶望を味わったのだろう。
「陽子は、周りにいる者たちを引き付け、笑顔にさせた。心に光を灯させたのだ。私は、そうありながらも自らも微笑んでいた彼女が愛おしく、守りたいと思ったのだ。しかし、この霊神宮は彼女を捨て石同然に切り捨てることしかできなかったのだ!」
陽子への愛情、それに対する自らの無力感。
ハヤテにはマサキのその心がよく理解できた。自分にも、何よりも守りたいと思う人がいる。その人、ナギが亡くなってしまえばと想像してしまうと、マサキのことも理解できる。
そんなハヤテだから、言わずにはいられなかった。
「けどい、黒沢陽子さんはあなたに悪事をさせるために犠牲になったわけじゃない!僕にも自分のすべてだと言えるナギお嬢様がいる。お嬢様は、僕が困っているところは見たくないからと言って助けてくれました。陽子さんも、今のあなたの姿は望んでいないと思います!」
更にハヤテだけではない。マサキに語らずにはいられない者は他にもいる。
「私たちも、あなたと似たような思いをした。先代のセフィーロの柱だったエメロード姫をこの手で死なせてしまった。けど、よくはわからないけどその黒沢陽子って人が亡くなったのはあなたのせいじゃない。自分を責めなくていいんだ」 「それに、その人のためにと言って三千院さんを襲うなんて卑怯じゃない!あなたはその人に責任を押し付けているだけよ!」 「黒沢陽子さんはあなたたちを愛していた。だから、捨て石になることも厭わなかったと思います。彼女が愛したものを、あなたが壊すというのですか!」
光、海、風の三人も言葉に心を込めて語っていく。魔法騎士として戦ってきたときの記憶と感情を思い出しながら。
彼らの言葉に、マサキは心が揺らぎだす。
「わ、私は…」
だが、マサキから漆黒のオーラが噴き出し、先程の戦いのように彼を覆い包み込んでいく。
「なるほど。あれがマサキに植え付けられた悪意というやつか」
オーラを見た黄金の使者たちは、初めて見るそれに慄いた。
「ええ。私もこれほどまでとは思いませんでした」
あのエーリッヒでさえ、顔を引きつらせていた。予想していた以上に深い闇に、自分でも手をつけられないと直感してしまう。
口にはしなかったが、賢明大聖は弟であるマサキを救ってほしかったはず。賢明大聖の弟子として、師の願いはできれば叶えたいものだが、自分たちでは無理だ。
「おまえらはさがれ。俺がやる」
そんなエーリッヒを見てか、ダイが戦いを始めようと一歩前に出る。
「俺はそいつに一杯食わされたからな。その落とし前はつけなきゃ気が済まねぇ」
それは本心であろう。だがそれだけではなく、身内であるエーリッヒたちにマサキを討たせないという思いもあるような気がした。どんな感情に由来してかはわからないが。
いずれにせよ、ダイは本気だ。そしてマサキも、この場にいるすべての者に敵意を向けてくる。
ダイは二振りの刀を出現させ、柄の底同士を連結させて槍のように構える。ダイとマサキの間に緊張が走る。
「待ってくれ」
そのダイを、ナギが制止した。
「ここは、私にやらせてくれないか」
それを聞き、ダイは怪訝そうな顔でナギを見た。
「おまえが、戦うのか?」
ナギは到底戦える人間ではない。マサキに瞬く間にやられてしまうのが目に見えている。スセリヒメとなった以上、ナギをここで危険な目に遭わせるわけにはいかない。
だがナギの考えは、彼らと違っていた。
「戦いなどしない。ただ、少しあいつと話すだけだ」
話をする。
それを聞きダイは呆気に取られてしまう。今更話すことなんてあると思えないし、相手が素直に話を聞くと思えない。
「わかった」
だがダイは、大人しく引き下がった。
「巻き込まれたとはいえ、俺は部外者みたいなもんだからな。ここの事情はおまえらで任せるべきだろう」
それに、戦わずに終わらせることができるならそれに越したことはないからな。そう付け加えてダイは槍を下げる。
そして、決着を自ら引き受けたナギとマサキが対峙する。
スセリヒメの運命を終わらせようとしたマサキと、運命を引き継いだナギ。この対立が今、終わりを告げようとしていた。
ナギは、穏やかな口調でマサキに語り掛けた。
「マサキ、もういいだろ」
ナギにとっては、慎重に言葉を選んだつもりだった。しかし、マサキは先程のようにいきり立った。
「もういい、だと…」 「ああ。おまえは十分戦った。でも、もう終わりにしていいんだ」 「そんな言葉で大人しく引き下がれるか!」
確かに、マサキがこの戦いに、霊神宮に、スセリヒメにかけた思いは大きい。言葉一つだけで片付くわけがない。
いつもならマサキの怒号に怯んだだろうが、ナギは怯えずに語りだした。
「黒沢陽子も、そう思っている」
陽子の名前が出たところで、マサキは怒りを抑える。
「と言っても、龍鳳に宿っていた残留思念のようなものを感じだけだがな。けど、それからはおまえや霊神宮を恨んではいなかったぞ」
そして、ナギはマサキにあるものを差し出した。
「ただ、これを渡しそびれただけだ」
ナギの手の中にあるものは、光を放っていた。
「これは…」
マサキは目を見張った。
それは、羽の形をしたバッジのようなものであった。見た目からして金属できていることがわかるそれは、虹色の輝きを放っていた。
まるで、龍鳳の羽根を連想させる。
「私へ送ると言っていたもの…」
マサキの脳裏に、過去の出来事が浮かんでくる。
五年前。まだ陽子が亡くなる前のこと。
自分が霊神宮における業務から休憩している時、同じく休みに来た陽子と出くわした。
いくらか会話をした覚えはあるが、内容は覚えていない。他愛のないことだったような気がする。ただ疲労と、これから起きこるであろう戦いに、気が気でなかったので、陽子のことに構おうとしなかった。
ところが、陽子の方はこちらの心を見透かしていたのか自分に労いや励ましの声をかけてきた。その言葉は、マサキの心に深く浸透していった。怒りも気怠さも消え、ただ明瞭になっていく。
そして、陽子は自分がいるから頑張れる、それは賢明大聖たちも同じだと言い、日頃の感謝と共にその証を龍鳳の羽根を送ると言った。
最初は恐れ多いとして拒否した。龍鳳の羽根は最高の使者と認められた者にしか送られないものだから。それは賢明大聖に送るべきものだと。
だが陽子は、あなただって立派だと言った。
「陽子は、自分は弱さというものを知っていて、その弱さと向き合い、戦っている人だと」
羽根を受け取ったマサキの手は、その時の感動で手が震えていた。
「私に力をくれたのだ…」
その力の名を、ハヤテたちは知っている。
「違いますよ。あなたは元々その力を、勇気を持っていたのです」
弱さを知り、認め、前へと進む心。
それは正しく、勇気と言えよう。
「ハヤテさんの言うとおりだ。あなたは霊神宮の腐敗に目を向けてきた。自分の中にある悪意とも戦ってきた。それ自体は勇気のあることだと、僕は思う」
佳幸も彼なりの思いと言葉をかけていく。マサキは悪人ではなく、自分たちと同じ使者だ。声をかけずにはいられなかった。
「それに、あんたは一人じゃない陽子さんも言っていたじゃないか」 「そうだ。周りを見てみろ」
エイジとナギが示したもの。
それは、エーリッヒたち黄金の使者だった。
「おまえを疑っていたとしても、それでもこいつらはおまえへの忠誠心は失わず、一部を除いておまえから離れようとはしなかった。それは、おまえを認め、信じていたからではないか」
そう言われ、マサキはエーリッヒたちを見やる。彼らの目もまた、ハヤテたちと同様に暖かみがあった。
みんなマサキを思っているのだ。あなたは一人じゃないと。
「あの時の陽子の言葉が、今になって心に響いてくるとは…」
マサキは涙を流していた。その時に気づけなかった後悔もあったが、陽子や、エーリッヒたち、そしてナギやハヤテたちの思いに心が大きく感動したからだ。
「おまえなら、自分の内にある闇を払い除けることができる」
ナギがそう言うと同時に、傍らにいた龍鳳が人型形態となった。
龍鳳の人型形態は、美しい大人の女性だった。やや茶のかかったブロンドの長い髪と水晶を思わせる瞳を持ち、背中には八枚の翼が虹色の輝きを放っている。そして、その手には神々しい杖が握られている。
「私たちが今、その手助けをしよう」
今週はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 6月21日更新 ( No.25 ) |
- 日時: 2020/06/28 21:42
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します。
3 龍鳳が杖の先をマサキに向けると、そこから虹色の光線が放たれ、マサキを包み込んでいった。
攻撃の類ではない。ただ、マサキの心に光を照らしているだけだ。
それが、勇気を奮い立たせると信じて。
「私は…私は…」
光に照らされている中で、マサキの身体から黒いオーラがあふれ出てきた。
詳しいことはわからないが、マサキの闇が光を拒絶しているように見える。
そして、その時は訪れた。
「私は!」
絶叫したと同時に、マサキの身体から漆黒のオーラが放出された。マサキ自身が闇を追い払ったかのようだ。
「これが…龍鳳の力…」
初めて見るその力に、ハヤテはただ呆気にとられていた。巨大な力を持っていたのはわかるが、それが発揮すると大きな威力をもたらすと思っていたのだが、予想と違っていたので拍子抜けしている。
だが同時に納得もしていた。龍鳳の力にあった神々しさ。あれならば、マサキの心の闇を払い除けるだろうと。
「二度も言うが、私と龍鳳が闇を払い除けたのではない。あいつ自らの力で闇を振り払ったのだ」 「その助けをするのが、龍鳳とスセリヒメということです」
佳幸の言葉に、ナギは頷きで肯定を示した。
ナギはスセリヒメとして初の使命を果たしたのだ。目の前にいる、闇を完全に払いきったマサキがその証だ。
これで、戦いが終わった。誰もがそう思っていた。
それを引き裂いたのは、天井からの衝撃だった。大きな音と共に天井が崩落していく。
「崩れるぞ!散れ!」
ダイの呼びかけで、全員が落下していく瓦礫から逃げていく。
その中でダイは、まず自分の近くにいたナギとマサキを、次いで周囲を見渡して全員の無事を確認する。砂埃が舞う中でも、目が利くのだろう。
「誰の仕業だ…」
ダイたちは皆上を向く。天井が崩壊したのは、外から何者かが攻撃したからだ。彼らはその犯人の姿を捉える。
それは、既に倒された者であった。
「艶麗!?」
間違いない。ヴィルクスと一体化しているが、あの姿は正しく艶麗だ。
「バカな!?」 「何故奴が!?」
ダイとマサキが驚きに声を上げる。ダイは確実に仕留めたはずの彼女が生きていることが。マサキは傀儡兵として役目を終え、活動停止したはずの道具が動いていることが信じられないのだ。
艶麗と思われる人物は、こちらを見下ろす。その姿から、凄まじい怒気が発しているのを感じる。
「我は新たに生まれ変わったのだ…」
口調は変わっているが、その声は間違いなく艶麗のものだ。
「傀儡兵として使われていく中で我に宿った憎しみが、我に力を与えた。そして、今まで酷使してきた奴らに、報いを与えるべく戻ってきたのだ!」
やはり艶麗は、今までと違って何かがおかしい。
そう感じさせるのは、やはり艶麗が発している憎しみである。それは、ハヤテたちに身に覚えがあったからだ。
「このオーラ…先程のマサキと同じもの…」 「じゃあ、あいつも誰かに憎しみを植え付けられ、復活したっていうのか!」
マサキの件と今の艶麗。同一犯の仕業とみて間違いないだろう。
問題は、誰がということだが、今は考えている場合ではない。
艶麗が、ナギを標的に定めたからだ。
「まずは新たなスセリヒメ、おまえからだ!」
しまった。ナギの周囲には身を隠せるものはない。足場も先程の崩落で悪くなっており、ナギの足では逃げきれない。ハヤテも近くにいない。このままでは危険だ。
「お嬢様!」
ハヤテたちがナギの元へ駆け出すが、それよりも先に艶麗が攻撃した。
間に合わない。やられる。
だが、何者かがナギの前に割って入り、その攻撃をその身一つで受け止めた。
その人物の名前を、ナギたちは叫ばずにはいられなかった。
「マサキ!」
特にエーリッヒたち黄金の使者は、その声に悲痛をにじませていた。
ナギの盾となったマサキは、そのまま力なく前のめりに倒れていった。
「艶麗!貴様!」
ハヤテ以下精霊の使者たちは怒りを艶麗に向け、今にも飛びかかりそうになるが。
「おまえらは下がっていろ!」
ダイは剣を手にし、彼らより先に前へと飛び出した。
「あいつを討つのは俺の役目だ!」
ダイは艶麗を討伐してくれと賢明大聖から依頼され、それを承諾した。艶麗を倒すことはダイにとってはやり遂げなければならないことだ。
それを、予期せぬ何者かが手を出してきたとはいえ、艶麗の復活を許し、このような惨状を招いてしまった。これは自分の責任だ。
せめてこの女は、自分の手で討たなければならない。自分を解放してくれたナギたちのためにも。
ダイは瓦礫を跳び渡っていき、艶麗に迫っていく。
「そう言えば、我は一度貴様に倒されたのだったな。その屈辱も、晴らさなくては気がすまんな」
艶麗はダイを睨むと、そのまま上昇していき龍鳳の間の外へと出ていった。
ダイもそれを追い、屋根の上に立つ。見ると、艶麗はハイパー化をしていた。更に、その背後には多くの影が控えていた。
それらに対し、ダイは目を見張った。
「おまえの敵は、我だけではないぞ」
崩壊した秘密工場から、翼たちは外を眺めていた。
こちらでも変化を捉えていた。ナギが真のスセリヒメとなったこと。艶麗が復活したこと。そして今、龍鳳の間の方角へと数多の巨大な影が飛来していくのを。
「まずいな…」
おそらく艶麗たちの相手はダイがやろうとするだろう。彼の性格から考えて、その想像は難しくない。
だがこれではダイが不利だ。彼の実力を疑っているわけではない。数の上で見れば、ダイが苦戦するのは目に見えている。
しかしそれ以上に、ダイにはどうしようもないことがある。
「翼さん、ここは私たちが」
シュウと頷き合い、二人はそれぞれブルー・ジェットとトリプル・ジムに変身する。
「おまえたち、どこか安全なところに隠れるんだ。ここも危なくなるぞ」
ジェットが威圧をかけて告げるのだから、千桜や歩たちは怯えて従った。
その辺に身を隠したのを見て、ジェットはとりあえず良しとした。危なくなるとは言ったが、先頭の余波がここまで及ぶとは思えない。だが、色々と問題児な連中だ。勝手に動き回っては困る。
とはいえ、万が一のためドリルは残しておく。
「ドリル、ここは任せたぞ」 「おう。二人も気をつけてな」
ドリルに見送られながら、ジェットとジムはダイの元へと飛んで行った。
今回はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 6月28日更新 ( No.26 ) |
- 日時: 2020/07/05 21:05
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
4 襲い掛かる機影の数々に、ダイは身を守るのに精一杯であった。
敵は艶麗だけではなかった。多数の戦闘機やらロボットやらが、ダイを挑発するように飛行している。どれもダイにとってみたことのある機体ばかりだ。
クワガタムシと翼竜を合体させたようなオレンジの機体は、キメラブロックスに分類されるゾイドだ。BZ-005、フライシザースは格闘能力を向上させた空戦ゾイドであり、特に目が引くクワガタムシのようなはさみなど、相手を切り倒すための武器を装備している。
ライフルを下部に取り付けた黒い戦闘機が、正確無比な動きで翻弄していく。このOZ−01MDトーラスは、実はMSという人型形態に変形可能な機体である。また、MD(モビルドール)システムという無人機として運用もできる。このトーラスも動きからして、無人機であろう。
フライシザースとトーラスの機体群に、ダイはどうすることもできなかった。フライシザースもトーラスも、スペックではバイカンフーはおろかケンリュウにも歯が立たないだろう。だが、ケンリュウにもバイカンフーにもできないことがある。
「こっちも飛べれば…」
そう。ケンリュウもバイカンフーも空を飛ぶことはできない。ここに至るまでの激闘で霊神宮はボロボロで、足場には悪いしこれ以上の崩壊はなるべく防ぎたい以上、ジャンプの連続はなるべく避けたい。
それに、飛び道具も持っていない。となれば近づいてきたところを剣で切り倒すしかないのだが、何機もたかって襲い掛かれば太刀打ちできない。
故にダイはケンリュウと合身しなかった。そうすればただのいい的になるだけである。しかしこのままでは埒も明かない。
打つ手がなくて代は困っていた。そんな彼に、救援が現れる。
ブルー・ジェットがフライシザースやトーラスらを次々と切り倒しながら、ダイの元へと飛来してくる。
「無事のようだな、ダイ」
ジェットの声はいつものように冷静であったが、ダイが助かったことに対する喜びが含まれているように感じた。
「見ての通りだ。ジェット、やっぱり来てくれたか」 「ダイ様!私もいますよ!」
忘れられていると思ったのか、あわてたようにヘリコプター形態のジムが飛び出してきた。対して、ダイの対応は冷ややかであった。
「なんでおまえがいるんだ?ジム」 「だ、ダイ様…」 「まあ、ちょうどいい。乗らせてもらうぞ」
泣きそうになるジムを無視して、ダイはヘリコプターの彼の中へと乗り込んでいった。
「よし、二人とも行くぞ」
ダイのこの一声で、ジェットとジムは感情を戦闘へと素早く切り替える。この辺りは戦士の性と言ってもよかった。
ヘリコプターのジムがガトリング砲で牽制しながら、ジェットが剣で敵を切り裂いていく。敵も砲撃で迎えてくるが、ジェットとジムも難なくかわしていく。
一機、また一機と撃墜していき、艶麗を除いて敵はわずかとなった。
「俺たちの手にかかれば、こんなものだ」 「ダイ様…あなたほとんど何もしていないでしょう」
大半はジェットの手柄だというのに、我がことのように得意気となっているダイにジムは呆れてしまう。
とはいえ、敵の数は減った。しかし、艶麗には動揺する様子は見られなかった。
「我が用意した戦力はこれだけではないぞ」
そう言うと、今まで姿を隠していたのか新たな機影が次々と現れた。しかも、フライシザースや戦闘機形態のトーラスとは違い、皆人型形態のロボットである。
BZ−011、ロードゲイルはフライシザースが別のキメラブロックスと合体したゾイドだ。フライシザースの翼とはさみに、牙がついた恐竜型ブロックスの頭部、槍となった角などを装備している。格闘能力を高めるために、二足歩行も可能にしている。
MSの量産機の一つである、GAT−04ウィンダムも多く存在している。単体では飛行できないが、背部にジェットストライカーパックという飛行用の装備をしているため、こうして滞空しているのだ。
そして、多数のウィンダムやロードゲイルの先頭に立つのは、一機のMSだ。
「あれは…確かストライクノワールだったか?」
ストライクノワール。GAT−X105EストライクEにノワールストライカーを装備した機体だ。以前戦ったライゴウガンダムの兄弟機であり、その特徴的な頭部からガンダムタイプに分類される機体だ。
「まずいな…ジムは役立たずだし、ジェット一人だけで奴らの相手をしろというのは酷だ」 「人に乗っといて、役立たず呼ばわりですか!」
この言い様には弱気で温厚なジムも怒らずにはいられなかった。
とはいえ、状況はこちらが不利なのは明らかだ。こちらの戦力はジェット一人に等しい。お世辞にも、ジムは戦闘向きとは言えない。対して、相手は艶麗、ストライクノワール、それに多数のロードゲイルとウィンダムだ。艶麗以外は無人機のようだが、フライシザースやトーラスより高性能だ。ジェット一人だけでは苦しい。
こちらも味方が欲しい。そう思った時だった。
突如、この場に時空の歪みが発生した。それも、今までのものに比べ巨大なものが。
「なんだ、突然に!?」
艶麗も面食らっている様子から、これは彼女が起こしたものではないだろう。
時空の歪みは、何かを飲み込もうとしない。むしろ歪みの中から何かが出てくる。巨大なものが。
「あれは…戦艦か?」
ダイの予想通り、それは巨大な戦艦だった。白亜に輝き、腕のように前方へと突き出た左右側面のブレード状のパーツがついており、独特のフォルムを持っていた。
「ナデシコ?」
戦艦に見覚えがあるダイは、その名を口にする。
「いや、まさか…」
まさか、ここに現れるはずはない。そう思ったダイだが、ジムに入ってきた通信がそれを否定した。
「ジムさん、お久しぶりです」 「ルリ?ホシノ・ルリか?」
計器から聞こえてきた声は、ナデシコの艦長ホシノ・ルリのものだった。
「ダイさんもいるのですか。なら、そのままナデシコに着艦してください。渡すものがあります」 「!そうか、あれが直ったのか!」
言葉の意味を察したダイは、すぐに行動を移す。
「なら急いで行く!お互い話はあるだろうが、今は…」 「ええ。向こうはこっちも敵としてみているようですし」
敵は、ナデシコにも武器を向け始めている。
「エステバリスサブロウタ機以下、空戦可能な機動兵器は各機出撃してください」
ジムがナデシコへと向かって飛行する。その中でダイは、ナデシコのハッチからロボットが飛んでいくのを確認する。
青い人型兵器が真っ先に出る。肩部に砲塔を装備しているその機体は、ルリが言っていたエステバリスだ。
それに続く機体は、ダイの目を引くことになる。まずは、赤い小型の恐竜型ロボットだ。
「サウロナイツに、飛行用のパーツをつけたのか」
ブロックスにはフライシザースやロードゲイルのようなキメラとは別種が存在している。サウロナイツはその中の一種だ。キメラと共通して合体が可能であり、今のサウロナイツは飛行用ブロックスと組み合わせて飛行能力を持たせている。
「続くのは純製のインパルスと…試験機か?ディスティニーの武器をつけているな」
上半身と下半身、戦闘機の三機が合体して一機のMSとなった。さらに四基の翼が付けられた赤いバックパック、フォースシルエットを背部に装着することで空戦能力を得る。ZGMF−X56S、インパルスガンダムは機体の合体分離とバックパックによる換装が特徴だ。
もう一機、インパルスがいるがこちらはカラーも細部も違う。バックパックも、二枚の大きな翼に長身の砲塔と体験がそれぞれ二本一対ずつ備わっている。この武器を見て、ダイはディスティニーというガンダムタイプのMSを想起していた。ディスティニーはインパルスの発展期であると聞いたから、これは両者の間を繋ぐ試験機なのだろう。
これらの機体を操縦しているパイロットが誰なのか、ダイは皆想像がついた。何故彼らがどうしてと思うが、それも後で聞けばいい。
考えていると、ジムはナデシコのハッチ内へと入り、機動兵器の格納庫へと着いていた。
「ダイ!」
ジムから降りたダイを迎えたのは、彼と同年代の女性だった。
「ミサキ、おまえも来たのか」 「あれの整備ができるメカニックなんて、私ぐらいしかいませんよ」 「俺もいるぜ!」
横から顔を出してきたのは、眼鏡をかけた目つきの怪しい男だった。
「あ、あんたは…」 「俺はウリバタケ・セイヤ。いつかはあの機体に触れてみたいと願っていたが、ついに、ついにそれが叶うとは!」
一人勝手に盛り上がるウリバタケに、ダイは若干引き気味となってしまう。ミサキはそんな彼らを見て苦笑する。
「ダイはウリバタケさんとは初対面でしたね。大丈夫、性格はこうでもメカニックの腕は優秀ですから」 「ああ。そういえばナデシコはそんな連中の艦だったんだな…」
性格にアクがあっても、一流の腕前を持つ人物たち。ナデシコのスタッフたちの共通項がそれであるとダイはどこかで聞いたのを思い出していた。
「それはともかく、急ぎましょう」
ミサキの先導で、ダイは一機の人型ロボットの前へと行く。
「時空の歪みに呑まれかけてあちこち破損していたのが、直っているな」 「当然です。私、ミサキ・アクハルが手掛けたのですから」
完全な状態のロボットを見て、ダイは笑みを浮かべた。
「ケンリュウもバイカンフーもいい機体だが、俺はやっぱり慣れ親しんだこいつが一番だな」
そう言って、ダイはミサキに告げた。
「じゃ、行ってくる」
そして、ロボットのコクピットへと乗り込んだ。慣れた手つきで計器に灯をつけ、立ち上がったのを確認する。
世界を渡ると同時にこの機体は修理に預けた。それから数か月、久しぶりに乗る機体だが体の感覚ははっきりと覚えている。まるで自分の体のようにこの機体を動かすことができる。
整備員らに誘導され、ダイは機体を重力カタパルトへと乗り込ませる。
ハッチが開き、発信の許可が出る。
「ダイ・タカスギ、ウィンガード行くぞ!」
ダイの機体、ウィンガードが勢いよく射出され、ナデシコの外へと飛んでいった。
ジェットたちが戦っている戦場を、ウィンガードは高速で飛んでいく。事前に空戦用のパーツを装備させていたウィンガードは、空中で自在に舞っていた。
ディスティニーインパルスがストライクノワールと戦うのを横目に確認したダイは、艶麗との距離を詰め寄っていく。
ウィンガードを見つけた艶麗は九本の尾が変化した銃を撃つ。九つの光線を、ダイは全てかわし切る。反撃に、ウィンガードが腰部に着けていたライフルを手にし、銃口を艶麗に向けた。気づいた艶麗は回避行動をとろうとするが一歩遅く、ライフルから放たれたビームが艶麗の右肩に当たった。
しかし、表面に大きな傷を与えただけで、大したダメージには至らなかった。
「まあ、たった一撃で終わらせるような相手じゃないよな」
それでも、ビームの出力に問題はない。機動力も、空戦用装備でのウィンガードの水準値が出ている。
改めて、ウィンガードが納得のいくように直っていることを実感するダイ。ならばもう問題はなかった。
自分の腕前が、この女に劣ることなどないという自信があるからだ。
戦闘による衝撃が、秘密工場にも伝わってくる。
千桜は、人ひとりはいれるような瓦礫の隙間を見つけ、そこに隠れていた。瓦礫に埋もれてしまう心配はあるが、戦闘による恐怖には勝てなかった。
体を縮ごませて身を抱える千桜。時折聞こえてくる爆音には恐れを感じるが、彼女の胸中にはもう一つ、親友たちの身を案じていた。
ナギは大丈夫だろうか。綾崎君やヒナがいるから心配はないだろうが、皆今どうしているだろうか。
それに、高杉君は…。
千桜の脳裏に、ダイの顔が浮かんできた。
ゴールデンウィークでの件以降、千桜はダイのことが気になっていた。理由はうまく言葉にすることはできないが、とにかく気になっていた。ダイが石像になったと聞いた時も、とても焦燥してしまった。
だからここに来れたのはよかったと思っている。こうして戦闘で怖気づいてしまっているが、それでも後悔はしてなかった。
そんなことを考えていると、再び衝撃が襲ってきた。しかも、今まで以上に強い揺れだ。その揺れに、千桜は横へと倒れこんでしまう。
その時、小さな電子音が鳴ったのが聞こえた。何事かと思った次の瞬間には、周囲で明かりが次々と点いていく。
「こ、これは…?」
今まで暗くてよくわからなかったが、千桜は自分が今いるのは様々な計器に囲まれたシートの上であることを理解した。
まるで、何かの乗り物のコクピットのようである。
「一体、何なんだ…?」
混乱する千桜をよそに、それまで開かれていた天井が閉まり、全方位に周囲の状況が映し出される。
それがモニターであることを千桜が理解する前に、シートが、いや千桜がいるこの空間がゆっくりと動き出す。
「ま、まさか!?」
おそらく倒れこんだ時、こいつの起動スイッチか何かを押してしまったのだろう。急いで降りようとしたが、時すでに遅し。
瓦礫の中から、千桜を乗せた戦闘機が勢いよく飛んで行った。
今回はここまでです。 次回は来週更新予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 7月5日更新 ( No.27 ) |
- 日時: 2020/07/12 21:44
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今日でこの小説も第一部終了です。
ここまで来るのに長かった…
それでは、どうぞ。
5 ウィンガードを駆るダイは、着実に艶麗を追い詰めていた。
相手の攻撃をかわし、その動きを封じるように牽制しながら反撃を加えていく。完全にダイがペースを掴んでいた。既に一度戦っているため、その動きが読めているのだろう。
逆に焦りを見せているのは艶麗であった。打つ手がことごとく破られ、引き連れた無人気も予想外の来訪者たちによって壊滅状態にまで陥ってしまっている。もはや彼女の配色は見て明らかだった。
「おのれ…おのれおのれ!」
悔しそうに声を荒げる艶麗。しかしどんなに苛立っても彼女にはもうどうすることはできない。
ならば、やることはひとつしかない。
「妖尾九連打!」
艶麗は九つに分かれた鞭を振るって、相手を打ち倒す必殺技を繰り出した。この鞭の軌道を読むことも、またかわすこともダイには容易であった。
だがダイは油断していた。艶麗の狙いまでは読めていなかったのだ。
鞭を全てかわしたウィンガードは、艶麗に肉薄しようとするが、機体に何かが絡まり、うまく動かない。
ウィンガードは、艶麗の鞭に絡めとられていたのだ。そのため、一瞬ウィンガードの動きが止まってしまった。その隙を、艶麗は逃さなかった。
「覚えてろ!この恨みはいつか必ず晴らしてみせよう!」
艶麗は全速力でこの場から離れだす。どうあってもダイには勝てないのなら逃げるしかない。
「待て!」
鞭を振りほどいて、ウィンガードは艶麗を追う。だが一瞬とはいえ動きを止めてしまったことは痛く、高機動を誇るウィンガードでも追いつくことは難しい。
それでも彼女を逃がしてはならない。彼女を蘇らせたのは誰なのか調べなくてはならない。何より、いきなり襲ってきて雰囲気をぶち壊したのだ。彼女をぶちのめさなければ気がすまない。
そんな思いが通じたのか。いや、そういうわけではないのだろうが、艶麗の対面から大型の戦闘機が高速で飛来してきた。このままお互いまっすぐに飛んでいけば正面衝突しかねない。危機を感じた艶麗は急停止し、あわてて戦闘機をよける。
「なんだ?」
ダイも戦闘機の存在に気づき、ウィンガードを横へと移動させる。
戦闘機はそのまま通り過ぎていったかと思ったら、急に引き返して来たり、ジグザグに飛んだり、ダイたちの周囲を縦横無尽に取り囲むように飛んでいた。そのため艶麗は逃げることができず、ダイはダイで戦闘機の方へ気をとられてしまった。
「あれは、一体…?」
その時、ウィンガードのコンピュータがあの戦闘機の機種特定を自動で行っていた。それが終わり、はじき出された結果を見たダイは目を丸くした。
「ウィンガードの、支援戦闘機…?」
そんなものが存在していたなんて知らなかった。だが、それが何故今この場で飛び回っているのだ。
色々と驚くことが多いが、まずはあの戦闘機とコンタクトをとってみるべきだ。見たところ、艶麗の差し金ではないようだし、味方になってくれるかもしれない。
向こうと通信がつながったが、こちらが呼びかける前にスピーカーから声が聞こえてきた。
[なんだこれ!?どうして動いているんだ!?]
その声の主は、意外な人物だった。
「春風か?」
あの戦闘機には千桜が乗っているのか。
「なんであいつが。とにかく、あの戦闘機を止めないと」
そもそも千桜は戦闘機の操縦なんてしたことはないはずだ。それに、通信機から聞こえる声音からして、相当パニックになっているようだ。誤って危険な操作でもしたら、戦闘機も千桜も、木っ端微塵となってしまう。何としても防がなければ。
再び戦闘機がこちらに向かって飛んできた。これは好機だ。
ウィンガードは通り過ぎようとする戦闘機にしがみついた。戦闘機は自分より大型のウィンガードにしがみつかれたままでも飛んでいく推力を出し、ダイを驚かせたが、ウィンガードは負けずと損壊しない程度に戦闘機を強く叩いた。
[うわっ、なんだ?] 「落ち着け春風!ダイ・タカスギだ!」 [えっ、高杉君…?]
コクピットにまで伝わった衝撃と、ダイの呼びかけによって、千桜はようやく落ち着いたようだ。
「大丈夫か?」 [う、うん] 「どうしてそんな戦闘機に乗っているんだ?」
まだ不安があるようだが、千桜はそれでも答えてくれた。
戦闘が遠く離れていた千桜たちにまで危険が及びそうになったこと。千桜たちはそれぞれ避難したが、彼女は知らずにその戦闘機のコクピットに乗り込んでしまったこと。
[私、何かスイッチとか押したみたいで、こいつが勝手に飛んで行ってしまったんだ]
ダイは少し考える。ウィンガードの兄弟機はいくつか存在するが、操縦システムはすべて共通するよう統一されている。この戦闘機もウィンガードの支援機であるなら、それに違わないだろう。
「春風、操縦桿の近くにいくつかボタンがあるだろ。青いやつを押すんだ」 [う、うん。うわっ、なんかコンソールみたいなものが出てきた] 「大丈夫だ。そのコンソールを俺が言うように操作するんだ」
操作自体は簡単だが、状況が状況なのでダイはひとつひとつ丁寧に説明していく。
「最後に、一番奥にあるスイッチを切り替えるんだ」 [こうか…うわっ!]
それまで飛び回っていた戦闘機がスピードを落とし、ウィンガードと共にその場で滞空する。
「よし、これで完全自動操縦(フルオート)は解除できた。春風、今のこいつはおまえが念じればその通りに動いてくれるぞ」
恐らくこの戦闘機にはあらかじめ何らかのプログラムが仕込まれていたのだろう。また、フルオートモードになっていたので起動し、パイロットを検知すれば自動で運転するようになっていたのだ。
だが今は自動は自動でも、千桜の思念によってある程度コントロールできるようになっている。これで少なくとも間違って自爆なんて真似は起こらないはずだ。
「茶番は終わりか?」
そこへ、艶麗が目前まで迫っていた。今までそちらの方には気を向いていなかったので、ダイは完全に虚を突かれてしまった。
「あの方が念じていた…逃げることは許さんと…。私は、ここで戦うしかないのだ!」
よくはわからんが、艶麗は誰かに脅されたみたいだ。なんにせよ、彼女にとっては絶好の機会。今ならダイを討つことができるかもしれない。
ダイはかわすことができない。せめて千桜だけでも守ろうとウィンガードが身構える。
[き、来た!]
一方の千桜は、間近にまで来た敵に恐怖を感じたようだ。それに反応したのか、戦闘機に装備された二門の砲塔から艶麗に向けてビームが発射された。
推力だけではなく、小型にしては高い出力と威力。そして至近距離からの砲撃を受けた艶麗はのけ反ってしまう。
「な、なんて威力だ…!」 「そうだな、俺も驚いた」
艶麗はその瞬間、背筋に悪寒が走った。
一瞬。戦闘機が艶麗に攻撃してから今に至るまでの時間は、一瞬と言ってもよいだろう。
その一瞬で、ウィンガードは艶麗の背後についていたのだ。両手に剣を持ち、今にも斬りかからん様子で。
ウィンガード越しに伝わるダイのプレッシャーが、艶麗には恐ろしく感じた。
まるで、狼に牙を立てられたような錯覚までした。
艶麗が振り向こうとした時には、ウィンガードはすれ違いざまに剣で彼女を切り裂いた。
刃は確実に艶麗を捉えていた。傷は深手である。
「こ、こんなところでやられるのか…。デボネア様に復活してもらえたというのに…」 「デボネア?そいつ黒幕か」
それ以上の情報は聞き出せないだろう。というより、それ以外の情報を艶麗は持っていないに違いない。彼女はただ恨みを晴らすためだけが目的なのだから。
「所詮、我はいいように使われる人形でしかないということなのか…」 「そうかもな」
ウィンガードは、艶麗の対面についていた。
「だがこの霊神宮の奴らは、おまえを見て何かしら省みるだろう。自らの過ちや弱さを受け入れ、認めることができる。そして人形の貴様と違って、恐れも恨みも超えていく」
そして、剣先を彼女に向ける。
「その心を、人は勇気と言うらしい」 「…貴様、一体何者だ」
艶麗には、ダイが人でない何かのように感じたのだろう。だからこんな言葉が出てきたのだ。
ダイは思わず笑みをこぼした。艶麗の言葉がおかしかったからではない。そういった言葉は以前から何度も聞かされたからだ。
事実、自分はちゃんとした人間ではない。
だからダイは、お決まりのようにこう返した。
「悪いが、おまえに名乗るほどの名は持っていないんでね」
その言葉と共に、ウィンガードは剣を一閃。艶麗を斬り捨てた。
「恨みも哀しみも終わりだ、人形」
そして、艶麗は爆散した。霊神宮の負の象徴だった傀儡兵は、これで全て無くなった。
ダイの言うとおり、霊神宮にまつわる哀しみは、これで終わったのだった。
離れたところでも、デスティニーインパルスがストライクノワールを長剣で斬り落とし、撃墜させていた。他の無人機も、皆片付いている。
霊神宮の戦いは、今度こそ終わったのだ。
「マサキ!しっかりしてください!」
ナギをかばい重傷を負ったマサキのもとに、みんな集まって何とか手当を行っている。
しかし、マサキの顔色が良くならない。
「よせ…助からないことは私にもわかる…」
マサキの言葉通りということは見ればわかる。彼の傷口からはおびただしい量の血が流れており、誰が見てももう駄目だと判断するだろう。
「だが!」
そんな現実に、どうしても受け入れたくないというのが全員一致の思いであった。
ナギもまた、目に涙を浮かべていた。
「…優しいな」 「おまえは悪いやつではないからだ!」
ナギの言葉を聞き、マサキは微笑んだ。
それは、十分に後を託せることへの安心感のように思えた。
「…私に悪を吹き込んだ者は、陰鬱の使者たちとは違う。それ自体が闇であり、精霊界だけでなくすべての世界の破壊と消滅を望んでいる」
全ての世界を破壊し、消滅する。
その言葉を口にした者を、ハヤテは知っていた。光も何か、思うところがあるというような表情をしていた。
「奴には…デボネアには情けはいらない。絶対に倒すんだ」 「デボネア!」
予想通りの名前が出てきて、ハヤテと光は揃えて口に出す。二人は顔を見合わせるが、今はマサキの方が気がかりだ。
マサキはナギの方へ顔を向ける。そこに悪意はもうなく、あるのは謝罪の意思だ。
「私のしてきたことは、許されることではない。すまな…」 「許すさ!さっきも言ったが、おまえは悪い奴じゃない!おまえの気持ちはわかる!」
ナギが強い口調でそうきっぱりと言ったので、マサキは心が救われただろう。彼の表情を見ればわかる。憑き物がとれたような、安らかな表情だ。
「ありがとう…」
それを最後に、マサキは事切れた。彼の死を悼むように、沈黙がその場を支配するのだった。
「デボネア、か」
少し落ち着いたところで、ウィンガードから降りてきたダイと合流して話をする。内容は、デボネアについて、だ。
「艶麗は自分を蘇らせたのはデボネアだと言っていた。おそらく同一人物とみていいだろう」 「デボネア自身は、マサキを始末してもらうのに都合がよかったからあいつを利用したんだな」
始末の目的は口封じだろう。名前程度なら知られても構わないが、それ以外のことは知られたくないのだろう。
「デボネアは、セフィーロにも現れて、他の国も一緒に滅ぼすと告げてきたわ」 「けど、夢の中にまで出てきたというのは、光さんだけですわ」
海と風は、怪訝そうに光を見やる。光自身も困惑しながらそのことを話す。
「影がかかって姿ははっきりと見えなかったけど、デボネアは夢の中でも同じことを言っていた。あと、女の子が一人いた」 「女の子?」 「顔はわからないけど、時々その子だけの白昼夢を見てしまうんだ」
ハヤテとヒナギクは、その少女に心当たりがあった。
「その女の子は、ノヴァですね」 「ノヴァ?」
ハヤテは、ノヴァとデボネアと初めて出会った時のことを話した。
「その女の子、ノヴァは獅堂さんと同じ容姿をして、同じ魔法を使うんです」 「だからあなたたちは、私のことをノヴァと間違えたのか」
夢の中で会っただけでなく、これだけ自分との共通項が多いと何か運命のようなものを感じてしまう。
だから光は不安を抱いていた。ノヴァは自分が好きなものはみんな嫌いで、すべて殺すとまで言っていた。本当に運命だとしたら、海も、風も、セフィーロの人々も、みんなノヴァに襲われてしまう。
「大丈夫よ光。私たちはそう簡単に殺されたりしないわよ」 「私たちも狙われているのですから、光さんだけで悩むことはありませんわ」
光の不安を察したのか、海も風も彼女を元気づけようとする。
「…ありがとう」
そうだ。自分はこの親友たちと一緒にいる。喜びや悲しみを共有でき、今まで共に戦ってきた親友が。
自分たちは互いを信じている。その心だけは、見失わないようにしよう。
「話の続きは、ここじゃなくてセフィーロでやるべきだな」
ダイが神妙な面持ちで語るので、皆静かになって聞いている。
「最終的には全ての世界を消滅させる気なんだろうが、デボネアはまず最初にセフィーロを狙うに違いない。セフィーロの人々にも事情を説明して、なんとか協力関係を結んで奴を迎え撃つべきだ」 「そうだね。ダイの言うとおりだ」
そう言って、こちらに近づいてくる人影が二つ。
一人は赤毛の少年。ナギと同年代に見え、服装は高貴な印象を与えている。もう一人は銀髪の少女で、妖精と錯覚してしまうほどの美しさを持っていた。軍服をきちんと着ていることから、まじめな人だということがわかる。
「アトレー、ルリ」 「異変は私たちの世界でも起きています。世界の垣根を超えているなら、こちらも世界を超えて手を結ぶのが得策でしょう」 「あんたら、もしかしてあの戦艦に乗っていた人間か?」
エイジが疑問を投げかけたのを見て、二人は自己紹介を始めた。
「僕はアトレー・アーカディア。アーカディア王国の王です」 「はじめまして。ガーディアンフォース所属、ナデシコC艦長ホシノ・ルリです」
アーカディア王国にガーディアンフォース。わからない言葉もあるが、王様と艦長という、身分が高いことは理解できた。それがまだ十代の少年少女のことに、ただ感心してしまう。
そんな彼らをよそにして、ダイは冷静に質問する。
「二人が来たってことは、向こうの世界は深刻なんだな」 「ええ。時空の歪みが頻繁に生じて、人々は混乱しています。この状況の中、ガーディアンフォースに原因究明と事態収束のために動くように命じられました」 「別の世界に行くのに時空転送装置が使えるかどうかわからなかったけど、うまくいってよかったよ」
なるほどと頷いていたダイだが、ふと気づいた。
「なんで原因が別の世界にあると睨んだんだ?そもそもこの世界のことも、俺やジェットたちがここにいることも何で知っているんだ?」
ダイには嫌な予感しかしなかった。
「誰かから聞いたな?と言ってもミサキがいる時点で想像つくけどな」
アトレーもルリも、黙ったまま返事もしない。ダイにはそれが肯定を示しているように見えた。
「とにかく、そのことも含めてセフィーロで話そう。ここは今までの戦いでそれどころではないからな」
ナギがそう言って話を締めようとする。ダイは納得がいかなかったが、その通りなので何も言わず従うことにする。
「私はハヤテたちと共にセフィーロに行く。霊神宮のことはおまえたちに任せるぞ」 「あなたはここに残って霊神宮の立て直しを行ってもらいたいのですが、この状況ではそれは後回しですね」
エーリッヒたちは、ナギの命令を承認した。
ふと、ナギは上空を見上げた。何か思いをはせるようだ。
「普通の生活に戻りたいか?」
そんな彼女にエイジが声をかけた。その顔は真剣そのものだ。
ここでうんと頷いても、エイジはナギを責める気はなかった。誰だって必ずそう思うものだと知っているからだ。
だがナギの反応はそれとは違った。
「いや、ただ面倒くさいなぁって…」
その答えに、エイジはただ呆気にとられていた。そして、思わず笑ってしまった。
「なにがおかしい」 「いや、逃げようと思わなかっただけマシだなって」
口を尖らせるナギを、エイジは何とかなだめようとする。それが尚更、ナギには面白くなかった。
「誰が逃げたりするもんか。自分で決めたことなんだからな」 「そうだな」
エイジもまた、今日の戦いで同じことを思っていた。
「俺も逃げないって決めた。自分のために逃げたくない。そして、強くなりたいって」
ナギとエイジ。同じ思いを共有することに以前までなら不服しかなかったが、この戦いを通じてそれぐらいなら悪くないという気持ちに変わっていた。
「お嬢様」
そこへ、ハヤテが近づいてきた。
「ハヤテ」 「お嬢様が戦おうというのなら、僕も共に戦います。それが僕の決意ですから」
それは、ここにいるほかの精霊の使者たちも全員同じであろう。
「そうだな。私は弱い。そんな私でも戦うことを決めたから、おまえたちがいてくれるのだな」
ナギは、この場にいる使者たちに感動していた。
「これからも頼むぞ、ハヤテ。そして岩本エイジ」
エイジは何を言われたのかわからず目を丸くしたが、すぐに含みのある笑みを浮かべて返した。
「よろしくな、三千院ナギ」
どこか似ているが、互いにいがみ合っていた二人は、この戦いで少しだけ相手を認めるのであった。
三つの世界のどこかにある、常に闇で覆われた場所。
「愚かなる者どもよ。三つの世界が力を合わせたところでこの私には勝てん」
そこに、デボネアはいた。ノヴァも一緒だった。
「ヒカル、もうすぐ会えるね。ヒカルも、ヒカルが好きなものも、みんな殺してあげるから」 「すべては、消滅する運命なのだ」
闇の中で、デボネアとノヴァの笑い声が響いていく。
誰もが初めての、新世界の戦いが陽焼き始まるのであった。
第一部、完
はい、これにてこの小説は一区切りをつけさせます。 長らく読んでくれた皆さん、ありがとうございます。
近日中にあとがき等を載せる予定です。
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Re: 新世界への神話 4スレ目 第一部完 ( No.28 ) |
- 日時: 2020/08/30 17:30
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- あとがき
これにて新世界の神話の第一部が終わりました。
ここまで来るのに結構な時間がかかりました。 本当は1スレで終わる予定だったのですが、ついつい書きたいことを増やしてしまったことが災いとなってしまいました。やれリアルが忙しくなり、やれ寄り道したり、気がつけば十年近く。 今も読んでくれている人はほとんどいないだろうけど、見てくれてありがとう。
長期化した第一の理由は、佳幸たちを登場させたことですね。 本来登場させるつもりがなかった彼らを出したことでもっと活躍を描きたくなってしまい、しまいにはハヤテたちより目立っていた感が。 それでも書きたいものなら書こうとして、ここまで来ました。 愛着ってすごいものだと思います。
さて、この話の続きですが 現在構想中なので、しばらくは時間がかかります。 今度はいろんな多作品のキャラたちが参戦し、ハヤテたちと共に戦います。 ようやくクロス作品らしくなれる…。
最後に繰り返しますが、最後まで読んでくれてありがとうございました。
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