Re: 新世界への神話 4スレ目 5月10日更新 ( No.20 )
日時: 2020/05/24 21:20
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
今週の分を更新します。


 4
 マサキを目前にして、ナギは委縮してしまっていた。

 相手の威圧だけで動けないでいるのだ。第一、腕力では当然勝てないし、説得ができればこんな戦いなんてしない。口先でのごまかしも通用しないし、思いつきもしない。ナギの足では、この男から振り切れもしない。

 まさに、逃げ場なしである。

「小娘、貴様を龍鳳の間へは行かせない」

 ゆっくりとナギに近づいていくマサキ。対して、負けじとナギは一層睨み返す。

「虚勢はよせ。おまえひとりではどうすることもできない」
「だが私は、決して逃げたりなんかしないぞ!」

 ナギは弱弱しくも、引くつもりなどなかった。

「この私が、おまえみたいにいつまでもいじけているような奴に、負け犬みたいに尻尾を巻いて帰るわけがないだろう」
「…なんだと?」

 ナギは意図して挑発したわけではないだろう。しかし、それはマサキを刺激するには十分であった。

 それに気づいてはいないが、ナギは続けて言った。

「私はおまえが考えているようなスセリヒメにならない。私は、一兆部売れる漫画家になれるスセリヒメになるのだからな」
「…は?」

 予想もしない言葉に、マサキは言葉を失ってしまう。彼だけでなく、佳幸や光たちも呆気にとられている。こんな緊迫した場面で漫画家になるというのだから、空気ぶち壊しだ。本気なのかどうかさえ疑ってしまう。

 そんな彼らなど、ナギはお構いなしだ。

「私は今までのスセリヒメらとは違う、私がなりたいと願ったものに、自ら選んで掴み取るのだ。誰かが決めた使命とかじゃなくて、私がそう決めたから。だから、おまえなんかに逃げてたまるか!」

 そのナギの啖呵は、ハヤテの身体の奥底から力を沸かせた。

 そうだ。お嬢様はいつもその熱い魂と優しさを持っていた。

 僕やカユラさんがヤクザや警察に引き渡されそうになった時、それを止めようとした。

 巨大ロボット7号を相手にして、ワタル君とサキさんを守ろうとした。

 サメに喰われそうな僕を助けるため、冷たい海水に入ろうとした。

 何より、僕のために王玉を砕き、莫大な遺産を継げなくなっても僕と共に自分たちの力で生きる未来を選んだ。

 そんなお嬢様だからこそ、僕は彼女を守りたいと思ったんだ!

 ハヤテが立ち上がるには、その理由だけで十分だった。

「…まだやるのか?」

 マサキに対して、ハヤテは毅然として立ち向かう。ハヤテはマサキに、ナギに、自分自身を含めたこの場にいる全員に言い聞かすように心からの思いを絞り出した。

「僕はお嬢様を信じている…。お嬢様ならきっとやってくれる、自分で掴み取ってくれると。だから僕は、お嬢様のために戦うんだ!」

 ハヤテの魂からの叫び。

「そうだ…」

 それに呼応するかのように、光たちも立ち上がる。

「私たちは彼女を信じている。そして彼女も私たちを信じている」
「あなたの言う改革よりも、彼女の方が信じることができます。そんな彼女と敵対するのなら、私たちは戦います!」

 各々の剣を持ち直して、戦う構えをとる。

「よそ者である魔法騎士たちが、口を挟むというのか」
「これはもう霊神宮だけの問題ではないということですよ」

 佳幸もふらふらとよろめきながら立ち上がってきた。

「セフィーロ、精霊界、高杉さんたちの世界、そして僕たちの地球をも巻き込んだ事態になっているんです。それを一つの組織という小さな事情でかき乱してどうするんですか」

 それは正しい意見であった。今、各地で時空のゆがみが起こっている。原因がいまだに判明していない以上、世界の枠を超えてその人たちと協力し合って求明し、対処しなければならないのだ。霊神宮の事情も無視できないが、優先するべきはそちらであるはずだ。

「それに、あなたは改革を掲げていますが、具体的な内容は語っていません。言葉の響きはよいですが、何をやるのかは言っていません。その先のビジョンが見えません」

 佳幸はそこで、マサキを指さした。

「改革はあなたの本心からなのですか。それとも何かに言わされているのですか」

 これはここでマサキと対面したときに生じた疑問だった。マサキの悪意は、こちらを圧倒させたが、同時に違和感を抱かせた。

 それは誰かが植え付けたものであり、マサキはそれに扇動されてこのような行動を起こしているのではないか。

「確かに霊神宮は変えなきゃいけない。けど今、改革を実行しようとしたのはなぜなんですか?」
「わ、私は…」

 佳幸の言葉に、マサキは動揺を見せ出す。しかし佳幸は止めない。

「あなたは一体、誰に、何を取りつかされたんだ…」
「私は、私は…」

 一瞬、マサキの雰囲気が変わった。悪意のプレッシャーは消え、彼が明智天師と呼ばれていた頃の穏やかさを取り戻していた。

「そうだ、私は…あの女に…」
「女?」

 女とは一体誰なのか。

 佳幸がそれを問おうとした時、突然、マサキが悶え始めた。同時に彼から漆黒のオーラが溢れ出し、まとわりつくように漂っている。

 あのオーラから、負の感情のようなものを佳幸は感じ取った。それが、マサキのものとも違うということにも。

「まさか、彼が何かを言おうとしたからなのか…」

 まだわからないことも多いが、マサキが何者かによって取りつかれていることは理解できた。操られているわけではないようだが。

 しかし、それから解放させれば、なんて甘い考えは捨てるべきだ。倒すことを考えていかなければやられてしまう。生半可な気持ちが通る相手ではない。

 戦いが再び始まる。

 佳幸のその予感は当たった。黒いオーラが吸収されるようにマサキの中へと入っていく。
そして、マサキの凄まじい悪意がこの場一面に伝わってくる。

 それでもハヤテをはじめとして皆怯まなかった。戦うことを決めたのだから。

「話は終わりだ。三千院ナギ、討たせてもらおう!」

 マサキが拳を握り、ナギに殴りかかろうとする。寸前にハヤテが割って入るが、マサキの威力の前では彼が受けても二人共々吹っ飛ばされてしまう。

「ハヤテさん、これを使え!」

 その時、横から二人のもとへ何かが飛んできた。それが何なのか目で捉えたハヤテは手に取って前へとかざし、マサキの拳を防いだ。

 飛んできたのは、ウェンドランの盾であった。更に間髪入れずにマサキへ電撃が襲い掛かってきた。咄嗟に飛びのいて、距離をとることでかわしたマサキ。

「他にもまだ歯向かう者がいたのか…」

 マサキ、そしてハヤテたちは新たに参入してきた者の姿を探す。

 彼らは、すぐに見つけることができ。たこちらに近づく人影が二人。

 どれも、ハヤテたちの見知った顔である。

「ようやく来たか。少し待たせやがって」

 一人目は、佳幸の弟である岩本エイジ。すでにウェンドランと一体化している。

「けど、いいタイミングだろ?まさに主役って感じだろ?」

 そうでしょ、とエイジは隣にいる男に同意を求める。

 精霊、ライオーガと一体化しているその姿を、ハヤテたちは見間違えるはずがなかった。

「兄さん…」

 ハヤテの兄、綾崎雷矢は弟であるハヤテの方へと顔を向ける。

「俺がやったことを許してくれとは言わん。だが、俺がおまえたちと共闘することを許してほしい」

 ハヤテたちへの凶行。弟であるというのに殺すつもりで手をかけた。その罪は消えることはないし簡単には償えない。

 それでも、ハヤテのために戦うことは止めてはいけない。何より、命ある限り雷矢は戦い続けなければならない。例え許されなくても。

 それだけの闘志と覚悟を、今の雷矢は持っている。

 だからハヤテも、心おきなく答えることができた。

「許すことなんて何もないですよ。あなたは兄で、僕は弟なんですから」

 そう、兄と弟であることの間に理屈なんていらない。ただそこにいる、それだけで十分なのだ。

 そしてそれは、雷矢を救うことになった。

「そうか、私がゼオラフィムを呼び寄せたためにミークは技をかけられなくなった。だから脱出することができたということか」

 マサキは、消えたはずの雷矢がここに現れたことに対して特に驚愕はしなかった。ただ、また敵が増えた、単にそう感じたようだった。

「しかし、貴様が現れたところでどうしようもない。こいつらと共に倒されに来たものだな」
「俺が倒されようが構わないが、こいつらまではやらせない」

 雷矢は、ゆっくりとマサキに近づく。

「この私を、貴様が今まで倒してきた相手と一緒にしてもらっては困るな」
「おまえこそ俺を舐めるなよ。今までの俺とは違うぞ」

 そう。今の雷矢は憎しみに囚われても、後悔に打ちひしがれてもいない。

 ハヤテに許されたことで、彼は心置きなく戦えるのだから。




今回はここまでです。
続きは来週更新します。