Re: 新世界への神話 4スレ目 3月15日更新 ( No.11 )
日時: 2020/03/22 21:34
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
今週の分を更新します。


第41話 凍の道

 伝助の後押しを受け、ハヤテたちは第十一の間へ着いた。

 雷矢、エイジ、伝助。三人の離脱者が現れてしまったが、それでも彼らは先へと進まなければならない。

 そんな彼らの前に待つ残り二つの難関。その内の一つが、この陽の間である。

「入る前に一つ確認したい」

 全員が陽の間へ入ろうとした寸前で、氷狩が待ったをかけた。

「なんだよ氷狩、これからって時に」

 水を差された達朗は、ズッコケてしまった。

「皆はこれから先、仲間が倒れても振り返らないことができるか?」

 その言葉に皆口を噤んでしまう。自分が傷つくことは痛い思いをするだけで済む。だが、仲間たちがそうなるとどうしても気にしてしまう。普段はまとまりは無いが、根が善人なので放っておくことができないのが彼らなのだ。

「できるさ」

 そんな中、拓実が自信を持ってその意を示した。

「皆が僕を信じて先を託したんだ。それを無下にするなんて、仲間としては失格さ。そんな真似はしたくない」

 拓実は嘘は言っていない。この言葉は本心から出たものだ。

 ただ、それはこの時点で生まれたものではない。それ以前、この話題が出る時に備えたものであった。拓実は必ずこういう話が生じると考えていた。だからこそ、このタイミングでそれを口にした。皆が何か言う前にこの言葉を口にすれば、自分に誘導されると踏んだからだ。

「そうだね」

 拓実の狙い通り、仲間たちは彼の言葉に同調してきた。

「せっかく背中を押されたんだ。止まっちゃその人に悪いからね」

 次々と決心していく彼らに、拓実は安心した。

 ここで立ち止まったら、自分たちを信じた伝助に申し訳がない。自分がそう思うのだから、仲間たちにも少しはその気持ちはあるはずだ。

「行きましょう」

 ハヤテが呼びかける。皆はそれに頷いた。

「私たちは立ち止まる暇はない。ならば先へ行くぞ!」

 ナギの号令を合図にし、全員陽の間へと入っていく。

「うまくいきましたね」

 そんな中、氷狩がそっと拓実に耳打ちしてきた。

 共謀したわけではないが、二人は仲間たちの意志を固めるためにあのような問答をしたのだ。そしてそれは成功した。

「僕はまた、逆の考えが君にあったのかとも思ったけどね」

 あの場であのような問いを投げかけるということは、進むのを止めて引き返すことを促すようにも思えた。氷狩はその狙いがあったのではないかと拓実は疑ってしまったのだ。

「それで進むのを拒んだら、それはそれでいいと思っていました」

 臆病風に吹かれても、笑う人間はいない。自分たちは戦いを強制しているわけではなく、各個人の意思を尊重してのことなのだから。周りに流されるような人間は自分の周りにはいない。

「あとは、皆が熱くならないよう、冷静に、クールにいかないとな」



 陽の間の中は、はっきり言って明るかった。障害物になりそうなものも無いため、今までと比べて眩しいほどだ。

「これだけ視界が広いと、不意打ちとかは通用しないな」
「それにしても眩しくないか?それにこの中の空気なんか熱い…」

 ハヤテたちは光に目を眩ませかけ、また中の温度に少々汗ばんでいた。

「それはここが、陽のラサンストの使者であるタイハが預かる間であるからだ」

 ハヤテたちの前に、一人の男が現れる。

 彼こそが、第十一の黄金の使者だろう。

「おまえたちは陽の力を前にして、ここから先へ行けるかな」

 タイハはラサンストと一体化し、ハヤテたちの行く手を阻んだ。

「行ってみせるさ」

 コーロボンブと一体化した塁が、彼めがけて駆け出した。

 タイハまで目前といったところまで迫るが、そこでタイハの体が突然発光しだした。

「うわっ、なんだ?」

 急なことに足を止めてしまう。

 それだけなら何ということはない。相手の位置はわかりきっているのだからその方向へ進めばいいだけだ。

 だが、なぜかその光に押し返され、タイハのもとへ行くことが出来ない。抵抗すればするほどその力が強まってしまう。

 ついに塁は光によって吹っ飛ばされ、仲間のもとへと戻された。

「一体、あれは…?」

 調べるために、花南はフラリーファと一体化し、リーフディアーツを投げつけた。

 これも光によって跡形もなく消えてしまった。しかし、今ので判明できた。

「あれは、バリアも兼ねた攻撃ってことね」

 どういう理屈かはわからないが、タイハから発する光は物理的な力にも干渉できるのだろう。だから塁を止めたり、吹っ飛ばすことができたのだろう。

「そうだ。このライトカーテンの前では、おまえたちはどうすることもできないのだ」
「断言するのはまだ早いんじゃないですか」

 今度は佳幸がムーブランと一体化して構えをとる。

「炎龍斬り!」

 炎の龍が剣から放たれ、タイハに向かって襲い掛かっていく。タイハはこれもライトカーテンで消し飛ばした。

「こんな程度の技、子供だましだな」
「けど、目くらましにはなったでしょう」

 タイハが気づいた時には、シルフィードと一体化したハヤテが背後に回り込んでいた。スピードには自信があるハヤテだから、わずかな時間でも隙をつくことができる。

 そこから、ハヤテはタイハに得意のキックをお見舞いする。

 この攻撃に、タイハは倒れかけてしまう。ハヤテの不意打ちとはいえ、ただのキックで倒れかけたのだ。タイハは肉弾戦には他の黄金の使者と比べて弱いのかもしれない。

 怯んだところに、ハヤテはパンチを入れた。これも受けてしまうタイハ。

 だが、タイハだってやられたままではいられない。

 お返しにと殴り返すタイハ。この一撃にハヤテは耐えきり、今度は彼から三発目となる拳を入れてくる。

「もう少し上げないといけないか…」

 ぶつくさと何かを言うタイハ。それに構わずハヤテは追撃を加えていこうとする。

 だが、カウンターとなるタイハの一撃により、ハヤテはよろめいてしまった。

 その威力を受け、ハヤテは驚いていた。

「さっきより、力が上がっている…?」

 一発目は何とかこらえることができるほど、パンチに威力は無かった。しかし今のはそれと比べると、驚くぐらい明らかに倍増している。
腕力を抑えているという話ではない。あのパンチはあれで全力だった。それに格闘ではハヤテの方に利があるのは先程のやり取りで確認できる。そんなハヤテは、タイハの身体的スペックというか、それは自分より優れてはいないように感じていたのだ。

 戸惑っている中、タイハがもう一発、ハヤテを仲間たちの元へと吹っ飛ばした。

「陽の力が、ライトカーテンのみかと思ったか」

 タイハは一連の攻防において、少しも動揺した素振りは見せなかった。

「陽の力は、プラスさせる力も持っている。運動でも温度でも、その力を高めることができるのだ」

 なるほど。一発目と二発目で威力が違ったのはそのためだったのだ。二発目の威力が上がっていたのは、陽の力によって威力を増していたからだ。

 あのライトカーテンも、正確にはプラスのエネルギーが働きかけていたのだろう。恐らく、温度や空気抵抗を陽の力で高めていたのだ。光が発していたのも、その影響なのかもしれない。

 それでも、攻めることができないわけじゃない。さっきだってハヤテは肉弾戦を挑み、一瞬とはいえ優位に立てたのだ。戦えるのであれば、状況を変えることができる。

「次は私が行くわ」

 そう言い、ヒナギクはヴァルキリオンと一体化する。

「私も行こう」

 光も自分の剣を取出し、ヒナギクと並んだ。

 二人の剣道少女が並び立つその光景は、頼もしさに満ちていた。

 この二人なら、やってくれると。

「行くわよ!」
「ああ!」

 ヒナギクと光、二人が同時にタイハへと挑んだ。

 ヒナギクが剣を振るうが、タイハはこれをかわす。すかさず光が剣撃を叩き込もうとするが、これも回避されてしまう。

 この攻防が、何回も繰り返された。

「ヒナギクと獅堂の剣による連続攻撃が、当たらないなんて…」

 恐らく、タイハは陽の力で自身の反射神経を高めているのだろう。そして、タイハはただ避けつづけているだけとは限らない。

 振りかかってきたヒナギクの剣を白刃取りし、彼女ごと払いのけた。続けて飛びかかってきた光に対しても、軽くあしらう。

 そこへ、タイハに向かってまっすぐに矢が飛んできた。

 ゴールデンアローだ。拓実がいつの間にかアイアールと一体化し、矢を撃つタイミングを狙っていたのだ。

 タイハへと飛ぶ黄金の矢だが、これもライトカーテンによって防がれてしまう。矢は熱によって熔け、細かく折れてしまった。

 この必殺技でもライトカーテンは貫くことができなかった。タイハに攻撃する絶好の機会だったのだが、無意味に終わってしまった。

 それどころか、拓実は逆に危機に陥ってしまう。黄金の矢がタイハを逆撫でさせたのか、怒気を彼に向けてくる。

 タイハの拳に光が灯っている。陽の力を拳に集中させているのだ。

 そして、タイハは拓実の方を向いた。こちらに攻撃してくるのだとはっきりと感じ、思わず動きを止めてしまう。

「ライトスピアー!」

 錐状の光が、高速で拓実に迫っていく。この速さでは、とてもかわすことは出来ない。

「拓実、あぶねえ!」

 咄嗟に塁が拓実にタックルをかまし、ライトスピアーから逃した。だが、かわりに塁が脇腹にライトスピアーを受けてしまった。

「塁!」
「大丈夫だ」

 脇腹を抑えながら平気だとアピールする塁。動ける状態なのだから大事ではないのだろうが、楽観してはいけない。

「優馬さん!」

 すぐに優馬を呼びかける。優馬は塁のもとへ駆け寄り、傷を診る。

「治癒術で何とかなるが、見たことのない傷だな」

 刺傷とも火傷ともとれるし、そうでもないとも言える、不思議な傷である。陽の力について、詳しく調べたくなる。

 だが個人的な興味は置いといて、今は治癒に専念すべきだ。

「確かに陽の力は脅威だ。けど、だからってこっちの戦い方が変わるわけじゃないさ」

 佳幸が皆を奮い立たせようとする。

「僕たちの戦いは、相手がどんな強大でも立ち向かう。そうでしょう?」

 佳幸の言うとおりである。ここに至るまでその戦いの連続であり、それらを潜り抜けてきたからこそ、自分たちは今ここにいるのだ。

「ようし、こうなりゃとことんやろうぜ!」

 佳幸の発破を受け、全員がやる気になった時であった。

「待て!」

 氷狩が制止を呼びかけた。彼が待ったをかけると、空気が一変する力をもたらしていく。

 これも、彼のリーダーシップによるところが大きいのかもしれない。

「確かに俺たちは常にそう戦ってきた。けど、考えもなしに闇雲にやっては勝利はない。今のままじゃ勇猛とはほぼ遠い無謀だ」

 これも的を得ていた。今のハヤテたちはタイハを倒すことだけに熱中している。そのあまり、タイハへの対策を考えていない。そんなことでは氷狩の言う通り無謀の他ならない。

「熱くなるのはいいけど、熱くなりすぎてはいけない。一旦頭冷やさないとな」
「氷狩君、本当に冷静だね」

 佳幸は氷狩の落ち着き様に感心していた。ほとんどの者が戦いに集中している中で、ただ一人だけ冷静だったのだから。

 しかし今はそれは置いておく。

「それで、どう戦っていこうか」

 ハヤテたちはタイハへの対策を考え出す。

「皆、ここは俺一人に任せてもらえないか」

 ここでも氷狩は意見を口にした。

「皆は先に行ってくれ。あの男の相手は俺がする」
「勝算はあるのか?」

 優馬が氷狩を睨んでいる。

 彼は視線で訴えていた。伝助のように、信頼たる何かがなければ置いていくことは許さないと。

「安心してください。俺ならタイハを抑えることができます」

 ただ、と氷狩はここで言いよどんだ。

「少しだけ相手の動きを止めることができればいいのだが。伝助さんがいれば…」

 風を操るワイステインの使者である伝助なら、風でタイハの動きを止めることができたであろう。しかし伝助はこの場にはいない。同じ風を使うハヤテはナギを守らなくてはならない。

 どうすれば…。

「私に任せてくれませんか?」

 そんな中で、風が自ら名乗り出た。

「できるのか?」
「あなたが、ちゃんとあの方を抑えることができるのなら」

 大した自身だと氷狩は感じた。それは自分も同じことだが。

 そして、彼女も優馬も自分のことを信じているのだ。本気で止める気なら、自分も残ると言うだろう。仲間である優馬はともかく、出会ったばかりの風まで信頼を寄せているのだ。嬉しく思える。

 だが、目的は明智天師のもとへ行くこと。そのためには、多少の危険の中でも身を置かなければならない。

 それに、自分は本当にタイハを抑える自信がある。だからここに残ると言えるのだ。

「任せてくれ」

 嘘偽りのない言葉。

 それは、確かに風に伝わった。

「わかりました」

 氷狩の勇気を汲んで、風も行動をとった。

「戒めの風!」

 唱えると同時に、タイハの周囲で風が渦巻きその身を拘束した。

「魔法、か」

 攻撃ではなく、風で相手の動きを止める魔法。しかもその効果は強力で、さすがのタイハも振りほどくことができない。

 しかしそれは自身の力を陽の力によって上げればいいだけだ。そうすればこんな魔法など簡単に打ち破れる。

 タイハが陽の力を使おうとした時だった。

「フリージングスノウズ!」

 グルスイーグと一体化した氷狩が間髪入れずに必殺技を放った。雪を生じさせる程の冷気を浴び、タイハは凍り付いてしまった。

「さあ、今のうちに!」

 氷狩に促され、ハヤテたちは一気に駆け出した。

 振り返る者は誰もいなかった。皆信じているのだ。ここに残ると言った氷狩の勇気を。

 一人、また一人と去っていき、陽の間に残ったのは氷狩と、凍り付いたタイハだけとなった。

 そのタイハも、すぐに凍結から回復した。

「この程度で俺を凍りつかせると思ったか」

 おそらくこれも、陽の力によるものだろう。

「おまえこそ、これが俺の全力だと思うなよ。今のは足止め程度に抑えておいた」
「その余裕、すぐに後悔するぞ」





今回はここまでです。
続きは来週更新します。