Re: 新世界への神話 4スレ目 4月19日更新 ( No.16 )
日時: 2020/04/26 22:16
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
今週の分を更新します。


 2
「ようやく一息付けるな」

 翼たちの戦いも、今やっと敵がいなくなったことで終わろうとしていた。

「雑魚ばっかりだったけど、数が多かったのが厄介だったな」

 大地は肩を鳴らし、ハヤテたちが進んでいった先を見据える。

「さてと。あいつらがどこまで行ったか知らないけど、俺たちもダイの救出に向かうか」

 自分たちにとって最も重要なのはそれであった。ダイは命にかえても守らなければならない。ハヤテたちとは協力関係にあるが、彼らばかりにアテにするわけにはいかない。それに彼ら自身の戦いもあるのだ。自分の戦いは、自分で決着をつけなければならないというのが翼たちの考えだ。

 彼らが明智天師の元へ目指そうとした時だった。

「待ってください」

 シュウが呼び止め、二人とは別の方向を見ていた。

「あれ、気になりませんか」

 そう言うので、二人も彼が指さした先に目を向けた。

 離れに建物がある。本殿からかなり距離があるため、普段なら見落としていただろう。

 もちろん、シュウが目を付けたのはただ離れているだけというだけではない。

「隠していますけど、あれ工場のようです」
「秘密工場ってとこか」
「ええ。けど、敵にというより味方に知られないような造りですよ」

 それはおかしい。あの工場も霊神宮の一部であるはずだ。それを宮にいる者たちにも伏せておくとは。

 少しの情報でも漏れないようにするためだろうが、何を、何のために。

「調べてみませんか?」

 これに翼も大地も同調した。ハヤテたちのことは気になるが、彼らなら必ず勝てるだろうと信じている。何故かそんな思いを抱くが、それだけの力を持っているのも事実だ。心配はない。

 それに、何かの手掛かりがつかめるかもしれない。勘ではあるが、怪しいのなら調べてみるまでだ。




「シュウの見立て通り、やはり工場だったな」

 翼たちは建物の中へと入り、内部を確認しながら足を進めていく。

 詳しくはわからないが、何かを加工する機械や、パソコンや研究資料のようなものがあることからここが工場であるのは間違いない。

 異様なのはその様子であった。工具などが散らばっており、資料は半ば破られている。とてもじゃないが、直せなさそうだ。

 だがそれよりも異常の極めつけとなるのは、円筒状の巨大なカプセルだ。中はオレンジ色の溶液に満たされており、人の形をした異形のものが浸かっていた。おそらく傀儡兵を作るための装置だろう。それが無数に存在している。

「不気味なとこやな…」
「ああ…ん?」

 気づいて、翼は振り返って確認した。

 後ろには、咲夜、千桜、歩、生徒会三人娘たちがいた。翼たちの後をついて行ったのだろう。

「なんでついて来たんだ」
「なんでって、別に来るなとも言われんかったし」
「置き去りにされて敵と会うなんてことにはなりたくないからな」

 そうだった。彼女たちには身を守る力すらない。連れて来ても危機に遭遇する可能性は高いが、放っておくよりはマシだ。

「戦いになったら、逃げるか隠れるかするんだぞ」

 翼はそう念を押してから、工場の方へと気を取り直す。

 この工場は破壊しておくべきだ。少なくとも傀儡兵の生産を止めることが出来れば、無用な戦いはなくなるはず。

 だが、翼たちはそれをすぐには実行しなかった。勘ではあるが、この工場は他にも秘密があると感じた。だから、工場をもう少し確認したかった。

 そして、その勘は当たった。

 更に進むと、野球場よりも広い空間へとたどり着いた。搬送用のフォークリフトなどがあることから、倉庫のようなものだと推測できる。

 ただ、目を引くものはそれらではなかった。

 巨大な機械兵器が整然と並んでいた。人型のものがほとんどだが、恐竜や獣、鳥などのフォルムもいくつかある。

 それらの多くは、翼たちにも見覚えがあった。

「あれはMS(モビルスーツ)、いえMD(モビルドール)ですね」
「キメラブロックスもあるぜ」
「積尸気もあるとはな」

 全て、彼らの世界で使われた兵器である。

「私たちの世界から鹵獲してきたんですね」

 世界を渡ることは、霊神宮にとっては難しいことではない。実際に賢明大聖が向こうの世界へ訪れていたのを見たのだから。

 問題は、なんのために鹵獲してきたか、だ。ここは捕らえた兵器を調査、研究をしていたのだろうが、それが主たる目的ではないはずだ。一体、何のために。

 理由はわからないが、これらについても対処すべきだろう。

「だが、まずは傀儡兵の製造を止めないとな」

 これ以上傀儡兵に手を焼かれるわけにはいかない。これだけの数だ。ハヤテたちにもこいつらを差し向けているに違いない。ハヤテたちの障害になるということは、ダイの救出の障害にもなるということだ。

「そうだな。MDとかは後で何とかなるもんな」
「急いでやりましょう。ダイ様を助けるためにも」

 翼たち三人は傀儡兵の生産設備へ戻ろうとした。

「そうはさせんぞ」

 彼らを呼び止める声が倉庫全体に響き渡った。

 三人の前に、一人の男が現れた。黒いローブに身を包まれているが、それから覗ける、腕に着けているリングから精霊の使者であることはわかった。

「ここを任せている者としては、侵入してきたおまえたちを見過ごすことはできん」
「おまえがここの責任者か」

 翼は千桜たちに目配せする。戦いになることを訴えているのだ。

 彼との約束を思い出し、千桜たちは一斉に散り散りとしながらも各々それぞれ身を物陰に隠れた。

 その間にも、目の前の男は口を止めなかった。

「この牙のファンダイルの使者、ハイドがおまえたちを仕留めてやる」

 ローブを脱ぎ捨て、鰐を模した精霊と一体化する。そして、こちらへと迫っていく。

「たった一人で、俺たちに勝てると思っているのか」

 翼たちもマシンロボの姿となり、ハイドを迎え撃つ。

 勝負は、一瞬で着いた。

 ジェットたちの拳によって、ハイドは吹っ飛ばされてしまった。流石に一対三では不利であったが、数の要因だけではない。

「なんだこいつ、弱すぎるぞ」

 実力に手応えがないのである。リングの輝きから白銀クラスであることはわかるが、今まで戦ってきた同クラスの相手より弱すぎるのである。

「当たり前だ!俺は技術員兼汚れ仕事役だ!バリバリの戦闘員の真似なんてできるか!」

 突然の逆ギレに、ジェットたちは面食らってしまう。今まで見てきた白銀以上の使者にあった品格が全くないことにもよるだろう。

「だが、おまえたちの負けだ。腕を見るといい」

 勝ち誇るハイドに首を傾げるジェットたちは、腕の方へ目をやる。

 見ると、腕に小さな牙が一本突き立てられていた。ハイドがつけたものだろう。

「こんな小さな牙で何が…」

 痛みはない。大したことはない。

 だが次の瞬間、ジェットの体に気怠さが遅い、膝を着いてしまう。彼だけでなく、ドリルとジムも同様だ。

「い、一体何が…」
「確かに、その牙自体はどうってことはない。ただ、毒が仕込まれている。電磁毒ともいうべきかな」
「電磁毒だと…」

 その言葉を聞いた途端、ジェットは驚きをもってハイドを見上げた。

「なんで知ってるかって?向こうの世界へはただロボットを奪ってくるだけじゃなく、おまえたちマシンロボのことも調べに行ったんだぜ」
「だが、貴様にもその精霊にもそんな力はないはずだが…」

 それを聞き、ハイドは不敵な態度で二つの宝石を見せた。それぞれ電と毒と刻まれている。

「これら二つの宝玉の力を組み合わせることで、俺は電磁毒の能力を得ることが出来たのだ」

 そう言いながら、牙のような形をした短剣を手にする。

「その状態では、動くことすらできないだろう?」

 その通りだ。ジェットたちは体を動かす力すらなく、また振り絞ることすらできない。戦うことはおろか逃げることもできず、ただそこでうずくまることしかできない。

「俺はさっき言ったように汚れ仕事役だ。殺しにもためらいはねぇ。一思いにやってやる。まずはブルー・ジェット、貴様からだ!」

 そして、ジェットに短剣を突き刺そうとした時だった。

 突然、爆音が格納庫に響き渡った。ハイドは音がした方向を見てみる。

「傀儡兵の生産施設が!」

 施設内で爆発が起こったのだ。それによって吹っ飛ばされた扉や、そこから立ち込める爆煙がその証明だ。

「バカな…爆発など起こるわけが…」

 先程ハイドが確認したときには爆発物などなかった。ジェットたちが去る直後に調べたのだから彼らが仕掛けたわけではない。見落としはない自信もいある。

「自然に爆発したとは考えられん。一体何が…」
「私が爆発しました」

 爆発を起こした張本人。その姿が爆煙を割って現れた。

「おまえは…白!?」

 その名を聞き、ジェットたちも顔を上げてみる。

 間違いない。賢明大聖の付き人であった少年だ。大人しそうな印象だったため特に気にもせずに接していたが、霊神宮の全権が明智天師に移ったことで、付き人から降ろされたものだとは勘づいていた。

「き、貴様ここのことを知っていたのか。しかし、軟禁されていたはず…」
「私が連れ出したのさ」

 その言葉と共に、一人の女が白の傍らに立つ。

 短髪に鋭い目つき、全身にフィットしたボディスーツ。戦士だということがわかる。

「お、おまえは蹴のクレイオンの使者、ソラ!」

 彼女の姿を見た途端、ハイドは戦き後ずさり始めた。

「そ、そうか。弟子である八闘士を助けるために動き出したということか」

 それをソラは一笑した。

「まさか。あいつらに精霊を教えたのは事実だけど、私が助けるほどの義理はないよ」

 八闘士ということは、この女性は佳幸たちの師ということか。

「ただ、今の霊神宮は気に入らないのさ。特におまえはな」

 そう言って、ソラは一層睨みを利かせた。それだけで、ハイドは怖気づいて尻餅をついてしまった。

 腕利きの戦士と戦場とは遠い場所で暗躍する技術士。明らかな気迫の差がそこに示されていた。

「さて、ぶっ飛ばされる覚悟はできているか?」

 ソラの傍らにいる、鶴の姿を模した精霊クレイオンが人型形態となり戦闘態勢をとった。一体化をするまでもないということ、その自信が良く伝わってくる。

「舐めるなよ。俺だっておまえと同じ白銀クラス。簡単にやられてたまるか!」

 そう言い、立ち上がって駆けだした。この場にいる全員がソラに攻撃を仕掛ける。そう思っていた。

 しかし、ハイドの狙いは違っていた。

「まずは白、おまえからだ!」

 ハイドはソラではなく、白を標的としていた。ソラには敵わなくても、付き人でしかない白なら倒せると見込んだのだろう。

「その命、もらった!」

 だが、自らの牙を白に突き立てようとした瞬間、ソラにその腕を掴まれ止められた。

「あ、あれ?」
「だからおまえは三流なんだよ…」

 一番注意しなきゃいけない相手を自分から目をそらした。その瞬間から、もう結果は出ていた。

「ぶっ飛べ」

 ソラが怒りとも呆れともいった調子の言葉と共に、クレイオンが鋭い蹴りをハイドにお見舞いした。

 蹴り上げられ、ハイドの体は上空へと勢いよく飛んでいく。天井をも突き破り、空の彼方へと消えていった。

「大丈夫ですか?」

 白がジェットたちの元へ駆け寄り、声をかけた。

「ああ。すまない、あのような奴の手中にはまってしまって」
「何言ってるんだ。そこいらに隠れている子たちに気遣って動けなかったんだろう?」

 ソラはジェットたちの考えも見抜いていた。千桜たちに影響が出ないか見極めるため、わざと技を受けたのだ。

 高い実力を持つ者同士、互いの意思が疎通できたのだろう。

「あんたたちなら、あいつごとき簡単にひとひねりだろう?」
「それはどうかな?」

 不敵とも、謙虚とも取れる態度で応じながら、ジェットはよろよろと立ち上がる。どうやらまだ毒は抜けきっていないようだ。

「その様子だと、佳幸たちの救援には行けないね。私たちもそうだけど」

 見ると、ソラも白もボロボロである。ここまで来るのにかなり命がけだったのだろう。

「あなたが岩本君たちの師匠なんですね。白と一緒に動いていたということは、賢明大聖のために…?」
「師匠なんてたいそうなものじゃないよ。それに、私はそこまでの使命はないよ。ただ、付き人であった白は別だけどね」

 ソラの口ぶりは、無愛想なものであった。それでも、なにかの感情が含まれているようなのは気のせいだろうか。

「私は気になっているのさ。明智天師のことがな」

 明智天師。賢明大聖の弟であり、兄が亡き今霊神宮の全権を握る仮面を着けた男。

「賢明大聖と並んで名君と言われていた。先代のスセリヒメであった黒沢陽子が亡くなった後も過激な振る舞いをするようになったが、それでも事を荒立てようとはしなかった」

 それが今になって牙をむくようになるとは。何があったのか。

「明智天師に何があったのか、何があったのか」

 いずれにせよ、ナギたちが明智天師の前に着けばわかるだろう。

「できれば、戦いなんて起きなきゃいいけどね」

 そのソラの呟きが佳幸たちの身を案じてのものか、ただ単に巻き込まれたくないのかはわからない。

 ただ、それがかなうことはないのだということは、全員承知していた。






43話はこれで終了です。
次回は来週更新予定です。