Re: 新世界への神話 4スレ目 3月29日更新 ( No.13 )
日時: 2020/04/05 20:53
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは
今週の分を更新します


 第42話 金色の信念

 1
 十二の間も、あと一つ。

 その名も月の間。

 ハヤテたちは、最後の黄金の使者、リツが待ち構えているこの間の前まで来ていた。

「黄金の使者最後の一人であるリツがこの中にいるんだな」
「あの顔たちのいい美形か」

 リツの顔を思い出す一同。

 中々の整った顔。世間で言うところのイケメンだった。その顔が脳裏に浮かんだとき、大半の男性陣が機嫌を悪くした。

「なんていうか…ムカついてきた」
「態度もキザっぽいし、こっちの神経を逆撫でしてるしな」

 もちろんリツは意識して振舞っているわけではない。結局のところ、口にしているのは単なるひがみなのだろう。

「そんなにやっかむなよ」
「そうそう、男の嫉妬はみっともないよ」

 優馬はなんとかなだめようとするが、拓実がそれに続いた時、彼に対して顔をしかめる。

「まあ、色男にろくなのはいないというのは事実だけどな」
「どうして僕を見るのさ優馬さん。色男と女の子にもてるのはイコールとは限らないのさ」

 口ではそれほどではないと言いながら、拓実もそれなりにハンサムだ。それに、彼にはガールフレンドが多くいる。どうしても嫌味にしか聞こえず、皆の苛立ちが煽られていく。

 しかし、彼の次の言葉がその苛立ちも沈める。

「けど、あの人には因縁みたいなものがあるからね。ここは僕に任せてくれないか?」

 いつもの軽薄そうな余裕ある態度は鳴りを潜め、いつにない真剣な態度だ。

「こういう言葉は悪いけど、皆は邪魔だ。僕一人の手で、完全に決着をつけたいんだ」

 因縁。

 彼が口にしたこの言葉にはきっと、並々ならぬ思いが込められているのだろう。

「わかった。ここはおまえに任せよう」

 拓実の意思を尊重し、優馬は意見を受け入れた。

 ここを抜ければ、明智天師の元は目前だ。拓実が戦っている間に決着がつくかもしれない。拓実が必要以上に傷つくことが無くなるかもしれないのだ。

 ならば、それに乗ってみるのもいい。それは優馬の優しさも含まれていた。だから、緊張を和らげるために自分から拓実に皮肉を送る。

「まさかこんなペテン師みたいな奴に背中を任せるなんて思いもしなかったがな」
「そんなこと言っていいんですか?その背中狙っちゃいますよ」

 会話だけ聞くと物騒だが、このやり取りからは確固な信頼関係がうかがえた。

「頼みますよ」
「ああ」

 最後に短く会話して、月の間へと向き直るのだった。



 十二人目の黄金の使者、リツはこちらへと近づく多くの気配を感じ取っていた。

「とうとうここまで来たか」

 まさか、自分の所までたどり着くとは思わなかった。彼らの実力では、道半ばで倒れる。そうリツは思っていた。

 だが結局はリツの予想を裏切る結果となった。しかし特に驚きはしなかった。ここまで来たのなら、自分が彼らを降せばいい。

 敵の姿が目で見える距離まで詰めてきた。十人以上はいるが、問題ない。

 リツは自分の精霊、ローゼスターと一体化する。誰が相手でも迎え撃つ。それが十二人目の黄金の使者、最後の砦ともいえるべき自分の務めだ。同時に襲い掛かろうがすべて止めてやる。

 だが、そんな彼らの背後から追いつこうとするものが。

 それらはあっという間にハヤテたちを追い抜き、リツへとまっすぐに向かっていく。輝きを放つ無数の黄金の矢が。

「虚を突いたつもりか?だがこの程度!」

 リツは上空へと跳び飛んでくる矢を避けた。その位置から、下にいるハヤテたちに狙いを定める。

「させるか!」

 そこへアイアールと一体化した拓実が横から体当たりをかまし、その勢いのままリツを壁へと押さえつけた。

「皆、急いで!」

 言われるまでもない。ナギたちは走って二人の脇を通り過ぎていく。

「拓実、思う存分決着つけろよ」

 去り際に優馬は拓実に声をかけるのであった。

 その後、ハヤテたちは難なく月の間を抜けることができた。出口から出たと同時に、ナギはその場で倒れてしまった。

「み、水…」

 震えながらハヤテに手を伸ばす。ハヤテは苦笑を浮かべながら水をナギに飲ませる。準備はいいが、どこに隠していたのだろう。

「それにしても、拓実さんの因縁って何だろう?」

 そのことが気になっている光は首をかしげる。他の皆も、それなりに興味はあるみたいだ。

 ただ一人、優馬はあきれたように手で頭を抑えていた。

「ああ、あれは嘘だ」
「え?」

 優馬にはわかっていた。あれは自分たちを先に行かせるための方便だということが。

 一人残された拓実が心配しないわけではない。しかし、拓実ならば大丈夫だと信じていた。

 普段の軟派な態度は気にくわないが、拓実は仲間たちの思いになんかしらで応じてきた。本心は中々見せず、今回のように嘘もつくがそれも自分たちのためである。だからこそ優馬は、仲間の中で拓実を一番信頼していた。

「拓実…頼んだぞ」

 心の中で、優馬は祈るのであった。



「さて、皆行ったね」

 ハヤテたちが行ったことを確認した後、拓実はリツから離れた。

「皆の後を追いかけたいところだろうけど、そうはさせないよ」

 拓実はここでリツの足止めをする目論見だ。ハヤテたちなら明智天師を何とかしてくれる。言葉にこそしないが拓実は仲間たちを信頼していた。

「おまえひとりで私を止められると思っているのか」
「勝てないのはわかっているさ」

 実力の差は十分に理解している。それでも、リツをここに釘付けにすることぐらいはできる。自分だって、八闘士の一人でありハヤテたちの仲間でもあるのだ。その仲間たちに、任せろと言ったのだからそれに応えなければならない。

 一方でリツは拓実をいぶかしむように見ている。

「わからないな。おまえの仲間は存分に決着をつけろと言ったが、当のおまえからはそんな意思を微塵にも感じられないのだが」
「あれは彼らを行かせるための嘘さ。でもまあ、強いて言うなら…」

 拓実は、自分とリツを交互に指差しながら言った。

「精霊の使者の中で、どっちが一番の美形かははっきりさせたいな」

 それを聞き、リツは癪に障った様子を見せた。

「おまえのような軽薄な男には、手加減する気にはなれないな」
「なんだ、あなたもお堅い人なのか」

 どうして自分の周りにはこんな硬派な人ばかり集まるだろう。こういった人たちは付き合いが面倒臭く、拓実はため息をついてしまう。

 とはいえ、今回はいたってやることは簡単で、それほど難しいことではない。

「悪いけど、手加減する気はないっていう気持ちは、僕も同じだから」





今回はここまでです。
続きは来週更新予定です。