CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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ことの発端
曇り空の土曜日。午前中で終わる授業の半分を家で寝過ごし、残り半分を教室で熟睡して過ごした岡崎智也がのろのろと身を起こしたのは、クラスメイトたちが下校し始めるHR後の喧騒の中だった。
「あ、あの……岡崎、くん……」
ぼんやりした視界に飛び込んできたのは、髪をショートカットにした内気な少女の姿だった。藤林椋、このクラスの委員長。くじ引きで押し付けられた損な役割を生真面目に果たそうとする、朋也がどこかに置き忘れてきた良心の代弁者。
「……あぁ、おはよ、藤林」
「お、おはようございます……もう、お昼ですけど……」
椋は恥ずかしそうに身をすくめながら、朋也の机の脇に立っていた。地元では進学校で通っているこの学校において、サボりの常習犯である朋也に関わろうとする人間は少ない。3年生で一緒のクラスにならなければ、消極的な椋が朋也に話しかけることなど無かっただろう。
「あの、これ……先生からもらったプリントです。今日は大切な話が、たくさんあったので……」
「あぁ、サンキュー」
「……あんまり綺麗な字じゃ、ないんですけど……」
渡されたプリントの上には、女の子らしい丸い文字で書かれたメモが置かれていた。3者面談、将来の進路を相談、などといった語句が走り書きされて丸で囲ってある。落ちこぼれの朋也にとっては、どうでもいい内容ではあったが。
「……あ、あの……やっぱり授業は、ちゃんと受けたほうがいいと……」
「考えとくよ。それじゃな」
「あのっ!」
軽薄な返事をして立ち上がろうとする朋也を、椋は珍しく大きな声を出して呼び止めた。かすかに顔を赤らめながら、上目遣いで立ち上がった朋也に視線を向ける。
「あの、岡崎くんは……やっぱり、進学、するんですよね……」
「んなもん考えてねぇよ。そもそも俺なんかを拾ってくれる大学なんて、あるとも思えないしな」
「で、でもそれじゃ……将来は、その……」
「わかんねぇって。ま、なるようになるだろ」
「……し、将来の夢とか、無いんですか……?」
「そんなの真面目に考えてる奴なんて……」
考えてる奴なんていない、と言いかけた朋也の元に、ふと悪戯心が舞い降りた。
「……そうだな、藤林のところに永久就職なんてどう? 日がなのんびり寝て過ごす生活、うん俺にぴったりだな」
「…………!!」
「あ、でもそうすると、あの凶暴女が身内になっちまうのか……危ない危ない、命がいくつあっても足りそうに無いな。あははは」
「…………」
椋の顔色は真っ赤になっていた。しまった、冗談を言う相手が悪すぎた……朋也はあわてて手を振ると、苦笑しながらその場を後にしようとした。すると学生服の袖がくいと引っ張られた。
「……占って、みますか……」
「占い? なにを?」
「相性……あ、いえ、そうではなくて……岡崎くんが将来、何になるかについて……」
「それ、当てになるの?」
占い好きの委員長、藤林椋。彼女の占いが絶対に当たらないことを、本人以外は皆知っている。反射的にそう問い返してしまった朋也であったが……自分に似合わない職業とかを指摘されれば、それはそれで春原をからかうネタになるか、と即座に考えを変えた。
「……う、占いは、あくまで占いですから……」
「ま、いいか。やるよ、占い」
「……はい、それじゃ……」
椋はカバンからトランプを取り出すと、慣れた手つきで扇型に広げて朋也のほうに差し出した。
「3枚のカードを、ひとつずつ引いて、表を向けて机に並べてください」
「じゃ、これ」
最初に引いたのはハートの2。間髪入れずに椋の解説が始まった。
「気になる異性と、2人っきりで……」
「……俺の将来を占うんじゃなかったっけ、これ?」
「あ、いえ……きっと、将来は円満な家庭を築けるってこと、なんじゃないかって思いますけど」
「ふ〜ん、ま、いいけど……次はこれ」
「クローバーの1……これはごく近い将来、明日とか、今日の午後とか……」
「……藤林、なんだか恋占いみたいに聞こえるけど」
はっと顔をあげた椋は、顔を真っ赤に染めると神妙にうつむいた。
「ご、ごめんなさい……確かにそうですね。女の子たちとやる占いのときの癖で、つい……」
「ま、いいか、ここまで来たら。もう1枚、引くんだっけ?」
「は、はい……どうぞ」
そして朋也は3枚目を引き……そのまま表情を硬直させた。占いに詳しくない彼であっても、このカードが生半可な意味でないことは分かる。
「……ジョーカー……」
「……そ、そんな……」
「な、なぁこれ……どういう意味になるんだ? そもそもトランプ占いに、ジョーカーってありなのか、なぁ?」
「…………」
うつむいたまま何も答えない椋。その沈黙を受けて、朋也の脳裏には最悪の想像が駆け巡った。ジョーカーといえば道化師、道化といえば春原……勘弁してくれ、俺にその気は無い!
「なんとか言ってくれよ、藤林!」
「…………」
「なんだよ、ロクでもないことなんだろ! 覚悟は出来てるからさ、正直に言ってくれ」
「いえ……そういうことでは、ないです」
内気な委員長は朋也と視線を合わせないようにしながら、どこかそわそわした様子で最後のカードの解説を始めた。
「とびっきり良いことが、起こります……えぇ、ずっと思い出に残るような、素敵な出来事が……」
朋也の背中を大量の冷や汗が駆け下りた。絶対当たらない占いの出した甘美過ぎる結論は、彼にとって死刑宣告に等しかった。
- 筆者コメント
- 椋は単独だとボケっぷりが足りないので、朋也も突っ込みが入れにくいようです。書き慣れていくうちに朋也らしくなるんでしょうか。
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