CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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ことみ1
息せき切った朋也が演劇部の部室に駆け込んだとき、中には先に来ていたボケ属性の2人が待っていた。
「あっ、岡崎さん、こんにちは」
「朋也くん……」
うれしそうに挨拶をする古河渚のそばから離れると、一ノ瀬ことみ(はとことことドアのそばに歩み寄ってお約束の挨拶を始めた。
「こんにちは、はじめまして。3年A組の、一ノ瀬ことみです。趣味は読書です。もしよかったら、お友達になってくれると、うれしいです」
「よしよし、よく言えたな。でも初対面じゃない相手にその挨拶はおかしいぞ。ほら、バージョン2」
「……うん」
頭をなでられて気持ちよさそうに目を細めたことみは、いったん部屋の中央に駆け戻ると、再び朋也の方に歩いてきた。
「朋也くんじゃ、あーりませんか」
「おやおやことみさん、しっぽを出しっぱなしにしちゃ、だーめじゃないの」
「……!!」
ことみはあわててお尻を押さえると、涙目になってふるふると首を振った。
「私、しっぽ、ないの……」
「あ、いや、そこは『なんでやねん』とつっこんで欲しいとこなんだが」
「……ツッコミの道は、とてもむずかしいの」
悲しげにうつむくことみ。そんな2人に対して、一連のやりとりを見ていた渚がぱちぱちと拍手を送った。
「ことみちゃん、今日も岡崎さんと息ぴったりですっ! その演技が舞台のうえで出来れば、オスカー受賞間違いなしですよっ!」
オスカー賞はいつから地域振興券なみの扱いになったんだろう。
「もちろんBGMは『だんご大家族』でっ♪」
「それで賞金は、2千円札?」
「だんご大家族は現役ですっ!」
いや、そんなマジな瞳で断言しなくっても。
「とにかく岡崎さん、こっちに来て座ってください。腕によりをかけたお弁当、ことみちゃんが作ってきてくれたんです」
「……私の手作りなの。とってもとっても、おいしいお弁当なの」
濃すぎるボケ連鎖から昼食の話題に移り、朋也はほっと胸をなで下ろした。そう言えば腹の虫もクウクウと鳴っている。
「こいつはまた、豪勢なお弁当だな。午後一杯かけても食べきれるかどうか」
「あ、いえ、ことみちゃん、ちょっとだけ作りすぎちゃっただけですよね」
5人で食べるには多すぎる量に一瞬恐怖を感じた朋也であったが、ことみの気持ちはよくわかる。覚悟を決めて部室の中央に腰を下ろそうとして……しかし次の一言を聞いた瞬間、朋也は跳ね上がるように立ち上がった。
「みんなに喜んでほしくて。朋也くんにも渚ちゃんにも、杏ちゃんにも椋ちゃんにも」
「悪い、こうしちゃ居られないんだった。出るぞ、ことみ」
「朋也くん、お弁当、嫌い……?(涙目)」
「違うんだ。今日はちょっと事情があって、あいつらと顔を合わす前に……」
「ほほ〜ぉ?」
そのとき、ドアの方から揶揄するような声があがった。その声を聞いた瞬間、朋也の全身は硬直し……機械仕掛けの人形のように、ぎりぎりと首だけをドアの方に回転させた。
「ことみの作ったお弁当を放り出して、手に手を取って逃避行? そんなに恐れてる『あいつら』ってのが誰のことか、ぜひともうかがいたいわねぇ〜」
「い、いやその、別に逃避行ってわけじゃ……」
「気になるわよねぇ〜、友達のあたしたちに隠し事だなんて。お昼を食べながらじっくり聞かせてもらおうじゃないの、時間はたっぷりあるんだし」
「……あ、あの、こんにちは……」
勝ち誇ったように部室に入ってくる藤林杏(の後ろからは、顔を真っ赤に染めた妹の椋(も姿を現した。一番会いたくないやつに捕まってしまった朋也の運命は、まさに風前の灯火と言えた。
- 筆者コメント
- いささか反則気味の展開ではありますが、図書室で座り込んでた頃のことみよりは、5人で漫才やってる頃の方が魅力的であること、この点は読者の皆さんもご納得いただけると思います。第2話からはちゃんと朋也とのツーショットになりますので。
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