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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年05月24日
written by 双剣士 (WebSite)
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陽平・芽衣1

「それで、僕のとこへ転がり込んできたってわけ?」
 土曜日の放課後、不吉きわまりない宣告を受けた岡崎朋也は家には帰らず、そのまま悪友である春原陽平すのはら ようへいの学生寮に押し掛けてきていた。土曜の授業を丸ごとさぼった陽平は上機嫌で朋也を迎えた。
「だからさ、授業なんか出たってロクなこと無いんだよ。僕みたいに昼まで寝こけてるのが一番だって」
「お前の意見が正論に聞こえるようになっちゃ、世も末だな……」
「どういう意味っすかねぇ?!」
 学校で遅刻魔とサボリ魔の勇名を欲しいままにする2人の少年は、寝そべって漫画を読みながら冗談含みの罵り合いを続けていた。
「春原はいいよな、毎日が平和で。お前なら藤林に占ってもらっても、俺みたいなことは言われないんだろうな」
「当然さ、日頃の行いがいいからね」
「いや、“気になる異性”って時点で既にお前は対象外だろうし」
「……嘘でもいいから、そんな予言を言われてみたいっす……」
 春原陽平は“ヨヨヨ”と嘘泣きをした後、いまさら気づいたように朋也の方を振り返った。
「考えてみれば岡崎、言われた予言そのものは悪い話じゃないんだよな。とびきり素敵な出来事が起こるんだろ? ありがたく受けとっとけば良いじゃない」
「藤林が言ったのでなければ、俺だってそうするさ」
「じゃその幸運、僕が代わりにもらっていい?」
「遠慮なく受け取ってくれ、骨は拾ってやる」
「よおぉ〜し、それじゃさっそく!」
 春原は元気よく立ち上がると部屋着のままで寮の部屋を飛び出し……十数秒後に舞い戻ってきた。
「誰に会いに行けばいいっすか!!!」
「それが思い浮かばない時点で、お前、負け組」
「けちけちしないで教えろよ、僕たち友達だろ?」
「あたしに春原なんて友達はいないわ」
「残酷! おまけにネタ古っ! グレてやるぅ〜」
「なにを今更……」
 朋也の冷笑を背に受けて春原は再び部屋を飛び出した。どうせまた少ししたら戻ってくるだろ、と考えた朋也はそのまま漫画を読み続けたが……数分後にドアを開けたのは意外な人物だった。
「おにいちゃ〜ん、遊びに来たよぉ……って、あれ? 岡崎さん?」
「あっ、君は……」
 扉を開けたのは快活そうなお下げ髪の少女。ヘタレ陽平の出来すぎた妹、春原芽衣すのはら めい であった。陽平の実家のある田舎の中学校に通っているが、兄の様子を見ることを口実に時折こっちに遊びに来ることがある。当然ながら、陽平の部屋に入り浸っている朋也とも顔なじみであった。
「ご無沙汰してます、岡崎さん……それで、おにいちゃんは?」
「さぁ、さっき部屋を飛び出していって、今頃はどこを放っつき歩いてるやら」
「もう、しょうがないなぁ……でもちょうどいいかな。すみませんけど岡崎さん、協力してくれます?」
「な、なにを?」
「掃除するんです! もう、よくこんな汚い部屋に寝転がっていられますね! ほらほら、床に転がってる漫画をもって廊下に出てください!」

                 **

 ……そして、誰にも探されないまま空虚な逃走を続けていた春原陽平が寮に戻ってきたのは夕方になってからだった。
「おかえり、おにいちゃん」
「ぐはっ! め、芽衣、なんでお前がここにいる?!」
 すっかり片づいた陽平の部屋では、芽衣と朋也がお茶をすすりながら談笑していた。一瞬の驚愕から抜け出した陽平は、すぐに朋也のそばにしゃがみ込んでひそひそ声を漏らした。
「おい、岡崎、例のブツはどうした? 芽衣に見られないように隠してくれたんだろうな?」
「なんのことだ、まるで憶えてない」
「……ふん、そうか、それならいい……わけねーだろ薄情者、ぐわぁあぁ〜」
「あ、要らないものは塵も残さず綺麗に捨てといたからね、おにいちゃん♪」
 にこやかな芽衣の笑顔に陽平の全身は硬直した。兄の威厳という単語は、この兄妹からは微塵も感じられなかった。
「おにいちゃんの学生生活、岡崎さんからいろいろと聞いちゃった♪ 青春を満喫してるみたいだね」
「ま、まぁな、あは、あははは……岡崎、おまえ芽衣に何を話した?」
「別に、お前のありのままを、包み隠さず」
「包み隠してくれよぉ〜〜」
 絶叫と慟哭と阿鼻叫喚を繰り返す陽平。そんな彼を冷ややかに見放して、春原芽衣は輝くような笑顔を向かいに座る朋也に向けた。
「それじゃ岡崎さん、しばらくこっちにいるんで、いつもみたいに泊めてくださいね♪」
「い、いつもみたいにって……ホテルかどっかを取ろうって気はないわけ?」
「そんなの、お金がもったいないじゃないですか。それとも……駄目なんですか、おにいちゃん・・・・・・♥」
「ぐわあぁっ……」
 小首を傾げて殺し文句を放つ芽衣。異性と関わらずに過ごそうと思っていた朋也の休日計画は、この瞬間あっさりと崩れ去った。


筆者コメント
 なんだか台詞ばっかりになってしまいました。春原をどう描くかはCLANNADのSSを書く際の肝とも言える部分なのですが、やっぱり難しいです。打たれ強いんだか弱いんだかわからないキャラだもんなぁ。


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