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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年05月25日
written by 双剣士 (WebSite)
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智代1

「朋也、いま帰りか?」
 土曜の授業を午前中で終え、とぼとぼと下校しようとする朋也を呼び止めたのは、腰まで届く長い髪が自慢の美少女であった。彼女を取り巻いていた少女たちの群れから黄色い悲鳴が上がる。それもそのはず、この春に朋也の1つ下の学年に転入して以来、文武両道を地で行く彼女は周囲の羨望の的なのだ。
「すまない、知り合いを見かけたから先に帰る……待ってくれ、朋也」
 取り巻きを振り払って朋也の傍に駆け寄る美少女。風になびく銀色の長い髪に周囲から溜め息が漏れる……彼女ほどの優等生がなぜ不良と名高い岡崎朋也に構い続けているのか、今では学園7不思議の1つとまで呼ばれるようになっていた。当人の超然とした振る舞いが一層神秘性を高めている面もあったが。
「来てくれて助かった。なかなか振り切れなくて困ってたんだ」
 彼女……坂上智代さかがみ ともよは朋也に追いついて隣に並ぶと、ほっとしたように軽口をたたいた。だが話しかけられた朋也のほうは、智代と目を合わせないままでこめかみに指を当てていた。
「……どうした、朋也」
「別に、なんでもない。悪いが今日は勘弁してくれないか」
「何をだ? 気になるだろう、そんな不景気な顔をされては」
 智代は不機嫌そうに頬を膨らませると、朋也の行く手をさえぎるように先回りして胸をそらせた。朋也の頭痛はますますひどくなった……そう、智代はこういうヤツなのだ。喧嘩を挑みに行く春原に付き添っていただけの縁だというのに、どこをどう気にいられたのか、しきりに自分の世話を焼きに来る。転入してきたばかりで知り合いが少ないのは分かるが、こうも明け透けに会いに来られると周囲の目が痛い。
 ……そう、さっき椋の占いを聞いたとき、女難の可能性として朋也の脳裏に真っ先に浮かんだのが、このミステリアス下級生なのだ。
「悪い、今日は野暮用があってな。1人にしといてくれ」
「付き合うぞ。朋也の趣味とやら、一度見てみたいと思ってたんだ」
 どうやら尋常な方法では追及をかわせそうにない。朋也は偽りの仮面をかぶることを決意した。
「いや実はな、春原のバカがまた他校に喧嘩を売っちまって、これからボコボコにされに行くところなんだよ。あんなやつでも一応、骨は拾ってやりたいからな」
「義理堅いんだな。朋也のそういうところ、私は嫌いではないぞ」
「だから、お前は来ないほうが良いって。いま暴力沙汰に巻き込まれるのは困るだろ? お前、生徒会に立候補するって言ってたんだからさ」
「春原がどうなろうと構わないが、朋也がとばっちりを受けるのは目覚めが悪い。一緒に行こう、盾くらいにはなれるぞ」
 冗談だろ、と朋也は心の中で突っ込んだ。かつて伝説の女と呼ばれた智代の格闘術をもってすれば、護衛役に留まらず相手校の不良全員を壊滅させかねない。それでなくてもこいつは目立つんだから。
「それで、どこに行くんだ?」
「……悪い、違うんだ。いま言ったのは嘘なんだ。お前についてきて欲しくなくて」
「分かってる。出来すぎた話だと思った。それで、本当はどこへ行くんだ?」
「プレゼントを探しに行くんだ。女の子向けの」
「なっ……!!」
 さすがの智代も絶句。朋也は心の中で手を合わせながら、次から次へとでまかせを言った。
「そういうことだ。こんなことに智代を付き合わせるのは悪いしな。それじゃ……」
「わかった。プレゼントなら私が選んでやろう。こういうのは男には難しいだろうし」
 智代の立ち直りは早かった!
「いや、お前ね……」
「お前みたいなニブチンに、プレゼントなんか選べるわけがない。安心しろ、意地悪したりはしないから」
「だから、これからそいつと待ち合わせなの! お前、邪魔なの!」
「気にすることはない。遅かれ早かれ、顔を合わせる相手だ。意外と話せる相手かもしれないし」
 どーすりゃいいんだ! 朋也は頭を抱えたまましゃがみこんだ。
「智代、お前、けっこう意地が悪いやつなのな……」
「相手による。朋也が正直に答えないからだ。そろそろ本当のことを言ったらどうだ?」
 勝手極まりない決め付けではあったが、朋也は返答に詰まった。どうして言える? お前と一緒にしたら不幸が起こるっていう占いが出たから、だなんて。
「……朋也?」
 しゃがみこんだままの朋也を心配したか、智代はしゃがみこんで額に額を当ててきた。遠目にはキスシーンに見えなくもないその行為に、下校中の生徒たちはざわめきたった……だが智代は慌てて立ち上がると、細身に似合わぬ強い力で朋也の腕を引っ張りあげた。
「少し熱があるようだな。早く帰ったほうがいい」
「いや、俺は別に、そんな……」
「何も言うな。風邪を移さないために私を遠ざけようなんて、何を水臭い……家まで案内しろ、玉子酒くらい作ってやるから」


筆者コメント
 智代は典型的な世話女房タイプなので、私にとっては書きやすい部類に入ります。でもこんな彼女が本当にいたら、大変だろうな。


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