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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年05月29日
written by 双剣士 (WebSite)
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杏1

 椋の占いの結果を聞き、逃げるように家路を急ぐ土曜日の放課後。その下校途中で、朋也の運命を変える事件は起こった。
「朋也〜♥」
 背中越しに聞こえる耳慣れた呼び声と、ドップラー効果でわずかばかり甲高く聞こえるエンジン音。危険を察知した朋也は……。

  1. 素直に右に寄る
  2. 急いで右に寄る
  3. さりげなく右に寄る
  4. そこはかとなく右に寄る

「全部一緒かよっ!」
 理不尽な選択肢にツッコミを入れながら朋也は右側に身体を寄せた。するとさっきまで身体のあった箇所を猛烈な勢いでミニバイクが走り抜け、軽やかなスピンターンとともに朋也の目の前に急停止した。
「残念〜」
「……お前、俺が逃げなかったらそのままき殺すつもりだったろ?」
「いいじゃない、いいじゃない。問題なし、結果オーライってことで」
 けらけらとミニバイクの持ち主……藤林杏ふじばやし きょうは笑いかけると、いきなり底意地の悪そうな表情をして朋也に顔を近づけて来た。
「それとも……意識した? ちょっとくらいは」
「……なにをだ」
「椋の占い」
 杏の早耳に内心舌を巻きつつも、朋也はわざととぼけてみせた。
「藤林の占い? 気になる異性とどうこうって言う、あれだろ? なんでお前なんかを意識せにゃならんのだ」
「……そんなに思いっきり、断言しないで欲しいんだけど」
 らしくもなく暗い顔を見せる杏に朋也は慌てた。しまった、つい口を滑らせたか……だが一瞬の後に顔を上げたのは、見慣れたいつも通りの杏だった。
「そうじゃなくてさ、近いうちに良いことが起こるっていう、あれ」
「…………」
「知ってるんでしょ? 椋の占いが当たらないことくらいは」
「……ああ」
「だから、ここで骨の2,3本も折ってあげれば、不幸も底をつくんじゃないかと思って」
「……確信犯かよっ!」
 この凶暴女……と声を荒らげようとした朋也の耳に、杏はメフィストフェレスの笑みを浮かべて甘言を流し込んだ。
「入院したら、椋がナース姿で面倒見てくれるわよ。フラグが立って、ウハウハよぉ?」
「…………」
 朋也の脳裏に、ナースキャップを被った藤林椋の姿が浮かんだ。
「……結構いいかも」
「でしょ? じゃやり直しね、今度は逃げないでよ」
 杏はバイクにまたがって一旦100メートルほど離れると、轟音をあげながら朋也に向かって突っ込んで来た。朋也はそれを両手を広げて受け止め……るわけもなく、当たる寸前で闘牛士のように身をひるがえした。
「なんで避けるのよ!」
「当たるかぁっ! だいたいお前、今の明らかに殺気があったぞ!」
「当然でしょ。妹のコスプレ姿に鼻の下を伸ばすようなやつは、あたしが冥府に送ってやるわ」
「死に損かいっ!」
 杏と朋也の会話はいつもこんな具合だった。当人たちにとっては性差を意識させないからかい合いだったが、端からみれば仲良くじゃれ合ってるようにしか見えない。実は当人たちの少なくとも一方はそれに気づいていて、このままの状態が続くことに漠然とした不安を感じては居たのだが……今の関係を壊してまで次の段階に進む勇気を持てないまま、現在に至っているのだった。
「でさ、冗談抜きでどうするの? これから」
「別に……占いごときで休日を棒に振ってたまるかよ」
「おーおー、強がっちゃって」
 杏は嘲りの笑みを浮かべると、ころっと表情を変えて楽しげに話しかけてきた。
「だったらさ、どうせ暇なんだろうから、ちょっと頼まれてくれない?」
「……とてつもなく嫌な予感がするな」
「たいしたことじゃないわよ。ボタンの散歩」
 学園でも何度か会っているペットのウリボウの名を挙げながら、その飼主は邪気ありありの瞳で朋也の顔を覗き込んだ。


筆者コメント
 『フラグが立ってウハウハ』こんなことをゲーム本編中で言い放つ正ヒロインを、私は初めて見ました。他にもいろいろとツッコミどころが多い杏シナリオですが、こうなると逆に闘志が燃えあがります。ようし、やってやろうじゃないの。


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