CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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草サッカー編1
「なぁ、オッサンオッサン」
「なんだ小僧」
「いきなり草サッカー編って、どういうことだよ! これはキャラ把握用のSSだろ、オッサンと早苗さんがメインのはずだろ!」
「うっせぇな、作者がやりたいってんだからしょうがねぇだろ。作者の夢が俺たちの夢なんだよ!」
「……オッサン、ゲーム本編では逆のことを言ってたんじゃ?」
「つべこべ抜かすな小僧、見ろこのラインナップを! こないだの草野球で勝利を収めたメンバーが勢揃いだぞ!」
古河秋生は誇らしげに、目の前に並ぶメンバーを指し示した。
古河渚(、藤林杏(、伊吹風子(、坂上智代(、春原陽平(と芽衣(、相楽美佐枝(、芳野祐介(、そして岡崎朋也(。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……9人しかいないぞ。オッサンを入れても1人足りねぇじゃねぇか」
「安心しろ。頼もしい助っ人を呼んである」
秋生が身をひるがえした先には、意外な人物が立ち尽くしていた。
「……ことみ。ひらがなみっつで、ことみ。呼ぶときは、ことみちゃん」
「あんたなのっ!」
朋也と杏が豪快にずっこけ、ことみのボケっぷりを知る渚は苦笑い。応援に来ていた藤林椋(の表情もそれに等しい。その他の面々はポカンとしていた。
「そうとも、名付けて東洋のスーパーコンピュータ! そもそも、れっきとした正ヒロインなのに今まで出番が
無かった事の方がどうかしてたんだ」
「っていうか、こんな子いたっけ? あたし名前くらいしか聞いたことないわよ」
本人をはばかって小さな声でつぶやいた美佐枝。しかし超音波怪獣の地獄耳は伊達ではなかった。ことみはとことこと駆け寄ると、朋也の陰に隠れながら涙目で訴えた。
「……いじめない? いじめない? いじめない?」
「ああ、大丈夫。みんないい奴だから」
「そ、そうそう、気にすることなんかないわよ」
朋也と杏が慌ててフォローに入ると、ことみは安心したように微笑んだ。こうなるともう、お前は応援席に行ってろとは言えない……朋也と杏の口から、思わず重い重い溜め息が漏れ出てしまうのも無理からぬところ。
一方の秋生のほうは至って上機嫌だった。
「よぅし、これで全員そろったな。それじゃポジションを決めるぞ」
「ちょっと待ってよ。なんであたしたちが、サッカーなんかやらなきゃいけないわけ?」
「そうだ。そもそもサッカーなんて、やったことないんだぞ」
新旧生徒会長コンビの鋭いツッコミ。今回は誘ったのが朋也でないだけに、誘われた者たちのモチュベーションはいまひとつである。
「それはな……」
「あっ、対戦相手が来た!」
秋生の言葉を遮ってグランドを指さす陽平。そこにはきちんとユニフォームをまとった、見覚えのある高校生たちの群れがぞろぞろと近づいてきていた。ユニフォームの胸にはウチの高校のエンブレムが刻み付けられている。
「あ、あれ、ウチのサッカー部じゃないんですかっ!」
「強そうですっ」
「なぁに、たいしたことないない。今日は思い上がったあいつらに、正義の鉄槌をくだしてやるのさっ、ボンバヘッな僕たちの力を合わせてなっ! いいだろ、みんな?」
相手を見て驚く風子と渚を尻目に、陽平は張り切って断言した。しかし、
「そのサッカー部にいられなくなるようなことしたの、誰だっけぇ?」
「スポーツ推薦枠で入ってきて落ちこぼれた春原に言われても、説得力ないわねぇ〜」
陽平の過去を知る2人、杏と美佐枝のの暴露発言によって、一気にシラケムードが漂い始める。
「な〜んだ、春原が言い出したのか。アホらし、アホらし」
「要するに私怨か。くだらんな。さて、午後からの予定では確か……」
「……私には、よく分からないの」
「こう見えても、風子、眉間にしわ寄るくらいに忙しいんです」
「まったく失礼なやつだ。相変わらず私を女の子扱いしていないのだろうか」
「あ、あのぉ、せっかくみんな集まったんですし……」
朋也、祐介、ことみ、風子、智代の集中砲火を受ける陽平。散々である。唯一好意的な姿勢を見せてくれている渚が、もっとも戦力的に頼りない存在だというのも皮肉なもの。
「そんなぁ! 力を貸してくれよぉ!」
「「「「「「「やだ」」」」」」」
「リエゾンっすかぁ!」
号泣する陽平を一顧だにせず、帰ろうと歩き始めた一同であったが……その前に立ちはだかったのは、ひたむきさが服を着たような小柄な少女であった。
「お願いします、皆さん! 確かにおにいちゃんはバカでヘタレで間抜けで根性なくて格好だけの人ですけど、それでもサッカーが好きなんです! 嫌な思い出しか残らない高校生活にしたくないんです! お願いします、力を貸してください!」
一生懸命に頭を下げる芽衣の姿に、一同の心は大きく揺り動かされた。
「……そうか、芽衣ちゃんは以前にサッカー部と一悶着、あったもんな」
「ここまで頼られると断りづらいわねぇ」
「確かにこのままじゃ、春原の高校生活って悲惨の一言だし」
「思い出を残したい、か……そいつは、いいなっ♪」
「……素敵な思い出は、とっても大切なの」
「お姉ちゃんを祝福してくれるんだったら、考え直してあげても良いです」
「まぁ、ボールを蹴飛ばすことで誰かの役に立つのなら、生徒会にとっても悪い話ではないし」
「みなさん頑張りましょう、だんご大家族ですっ!」
「……娘の発言は気にしないでくれ。とにかく、やる気になってくれたみたいだな」
「み……みなさん、ありがとうございますっ!」
あっという間に盛り上がり始めた、古河ベイカーズの面々。春原芽衣は感激の涙を浮かべながら、改めて深々と頭を下げた。その隣では、
「ふん、どうせ僕なんて、僕なんて……」
……いじけ虫が1匹、しゃがんで地面に『の』の字を書いていた。
- 筆者コメント
- 本来ここは秋生・早苗編を書くはずだったんですが……悪魔のささやきに乗ってしまいました。筆者はサッカーにあまり詳しくないので、細かい点はお目こぼしを。
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