CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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草サッカー編2
「……えっと、藤林の占いはどうなったんだっけ?」
「細かいことは気にするな。そら、俺たちのチームの布陣だっ」
豪快な問題発言で朋也の疑問をかき消すと、古河秋生はサッカーのポジションを図示した紙を広げた。
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| 芽衣 秋生 風子 |
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| 渚 智代 朋也 ことみ |
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| | 美佐枝 陽平 杏 | |
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|____|_______ 祐介 _______|____|
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「オッサンがCF(センターフォワード)なのは、いいとして……」
「なんで僕がDF(ディフェンダー)なんすかぁっ!!!」
雪辱を誓っていた春原陽平は、泣き出しそうな顔で秋生に詰め寄った。
「仕方ねぇだろ。お前は貴重なサッカー経験者なんだから、守備の要をやってもらわなくちゃな」
「FW(フォワード)で点取りたいっす!」
「わがまま言うな。それに考えて見ろ、お前が前線にいたとして、誰がお前にパスを送る?」
自分を取り巻く冷たい視線をぐるりと見渡して、悲しそうに肩を落とす陽平。監督兼エースの秋生は、次に美佐枝の方を振り返った。
「それであんた、守備を頼むな。素人のサッカーには左利きなんて少ないから、攻撃の大半は左サイドから来るだろうし」
「ちょっと、女にサッカー部の突進を止めろっての?」
「あんたはどっしり構えてる方がいい、その胸じゃ前線で走るのは無理だろ」
「……まぁ、確かに走り回るのは苦手だけどねぇ」
さすがは大人。セクハラ発言に血管を浮き上がらせながらも、美佐枝は我を通そうとはしなかった。つづいて秋生の視線は杏に向く。
「で、あんたは右サイドバック」
「あたしはフォワード、やりたかったなぁ」
「気持ちはよく分かる。俺もあんたは攻撃向きの性格だと思うが……事情を察してくれ。あんたまで攻撃に回したら守備が空になるんだ」
「朋也がいるじゃない」
「腕を上げられないやつに、ヘディングでの競り合いは任せられん」
「……仕方ないわね。ここでゴネたら陽平と同類になっちゃうし」
「そんなに嫌っすかぁ?!」
複雑な納得の仕方をする杏。秋生はほっと息をついてから、長身の青年に向き直った。
「……で、すまんがキーパー、やってくれ」
「わかった。こんな危険なポジションを女には任せられんしな。子供たちの夢を守るために微力を尽くさせてもらおう」
斜に構えて格好を付けながら芳野祐介はゴールキーパー役を承諾した。そんな彼からさっさと視線を外し、秋生はウイングの2人……芽衣と風子の方を向く。
「それから、あんたとあんた、俊足を生かして敵陣を引っかき回して欲しい」
「わかりましたっ」
「任せてください。風子、神出鬼没なのは得意なんです」
「それから小僧、お前は中盤の要な。あのヘタレから俺までボールをつないでくれ」
「オーケー」
あのヘタレ、が誰を指すかは確認するまでもないことだった。朋也がうなずくのを見て、中盤トモトモコンビの片割れが口を開いた。
「私は、何をすればいいんだ?」
「ああ、智ぴょんはいつも通り、豪快に前に蹴ってくれればいいから」
「変な呼び方をするな。それに私は豪快なプレイなど嫌だぞ」
思わず本音を漏らした秋生に、智代は不満顔。それを受けて朋也がフォローを入れた。
「難しく考えるな、智代。俺たちの役目はゴールが空いてたらシュートすること、空いてなかったら自分より前のやつにパスを回すこと。それだけだから」
「……わかった。朋也がそう言うなら……その2つくらいなら、なんとかやれそうだ」
敵の居る中でその2つを全うできれば、すぐにでも日本代表になれる……朋也はそう思ったが、口には出さなかった。
「お父さん、わたしとことみちゃんは、何をすれば良いんですか?」
「……あぁ、こぼれ玉を拾って近くのやつに渡すんだ」
「わかりましたっ」
「……わかったの」
この2人にタックルでボールを奪うことなど期待できない。秋生の指示はまことに的確だった。中盤はボロボロになるだろうが、その分は秋生の運動量と陽平のオーバーラップ、そして智代の長距離砲でカバーしようと言う作戦である。
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| 秋生 |
| 芽衣 風子 |
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| 智代 |
| 朋也 |
| 渚 ことみ |
| +------------------------+ |
| | 美佐枝 陽平 杏 | |
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|____|_______ 祐介 _______|____|
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前半0分
古河 鬼畜
ベイカーズ VS サッカー部
0 − 0
そして開始のホイッスル。キックオフを選択した秋生は朋也からのボールを受け取ると、猛然と敵ゴールに向かって突進した。芽衣と風子ですら唖然と見とれてしまう中、秋生はサッカー部ディフェンス陣をたった1人でずたずたに切り裂き……そのままシュート、あっさりと先制点を挙げた。
「どうだ!」
「す、すごい……」
「偉そうに言うだけのことは、あるわねぇ」
ディフェンスの陽平と美佐枝が感嘆のため息をもらす。それほどに鮮やかなゴールシーンであった。素人相手と甘く見ていたサッカー部の面々は、次元の違うストライカーの登場に思わず毒気を抜かれてしまった。
「……おい、あのオッサンが居るなら中盤なんて要らないんじゃないか?」
「あの人があと4,5人いたら、日本代表にだって勝てそうね」
朋也・杏の右サイド突っ込みコンビも、このときばかりは毒舌のふるいようがない。他の面々も尊敬のまなざしでガッツポーズをする不良中年を見つめ、応援席の椋と早苗もおおはしゃぎ。古河ベイカーズは早くも勝ったようなムードに包まれていた。
……だが。有頂天になった秋生の一言が、この雰囲気を暗転させる。
「いいかぁてめぇら、約束は守れよ! もし俺たちが勝ったら、これから1ヶ月間、早苗のパンを定価で買わせるからなぁ!」
「……あ、秋生さん……」
思わず口を滑らせた秋生がハッと振り向いたとき。応援席にいる彼の妻、古河早苗はうるうる涙目になって、小さな肩を震わせていた。
「わたしのパンは……罰ゲームの、景品だったんですねぇ〜〜〜!!」
「待て早苗、俺は……俺は、大好きだあぁぁ〜〜〜〜!!!」
顔を覆いながら駆け出す早苗と、あわててその後を追う秋生。一同が唖然として見送る中、古河夫婦はグランドから姿を消し……唯一その光景を見慣れている彼らの娘が、申し訳なさそうにつぶやいた。
「ああなったら……お父さんたち、当分は帰ってこないと思います……」
「どうすんだよ! あのオッサンが居なくなったら、こっから先は……」
古河ベイカーズは、前半1分にして早くも最大の危機を迎えた。
- 筆者コメント
- あっきーと早苗さん、早くも退場です……あはは、まぁ勢いってことで。
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