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| 2019年11月10日(日)20時29分
アル・ノワールは悩んでいた。
先日、「娯楽なんざいくらでもあるんだ」と大見得切ったはいいものの、問題はそのあと。
今にして思えば、アルが嗜んでいる娯楽など、高が知れていた。
いや、そもそもの問題である。
アルにとって娯楽とは、それこそ今の生活そのものなのだ。というより、料理しながら冒険者連中の話を聞いて暴れようものなら怒鳴りつける__そんな日常が好きなのだ。
朝から掃除や仕込みをして夜遅くまで開店、日々に充実感を感じているアルが少ない時間に外に出てまでなにか娯楽を探すなんてこと、まずしないのだ。
もちろん、アルもそれなりの年頃だ。欲しいものはそれなりにある。買う時間が無いだけで。
しかしそれも、娯楽というよりは生活で使う実用品の品々だ。魔王に「娯楽だ」と紹介するには、少々無茶がある。
それゆえに、悩んでいた。知らなければ教えてやることもできない。
結局一週間近く、なにもせずに時は経って行った。
◯
「マオちゃーん! こっちにビールだ!」
「こっちには焼き鳥ー! 五人前頼むぜ!」
「チャーハンまだかー!」
「ランド失せろ!」
「誰だ失せろつったのはあああああ!」
【翼の休憩場】は昼からとても賑わっていた。
しかし、魔王の登場によりランドの存在価値が徐々に消え失せているのが最近の問題で__
「あ、父さん。別に休憩してていいぜ。マオも慣れてきたし」
「そうね。いっそ裏で寝てていいわよ」
__魔王の登場による問題は特にない。
「お前ら!? 終いにゃ泣くぞ!」
「そうだぞ!」
「ま、マオちゃん……!」
まさかの自分を肯定する魔王に、思わず感動するランド。
「あいつら食い方がとても汚いのだ! 我はあれに触れたくない! 片付けはランドの役目だからな!」
ランドは泣いた。
「ひでえなマオちゃん」
「むしろこれが礼儀よ」
「騒ぐのは致し方ない。しかし汚い食い方が礼儀だと言うのならいっそ死んでしまえ。その礼儀を抱えたままな」
「へいへい」
「はいはい」
「ほいほい」
「ひいひい」
「ふうふう」
「最後の二人! 挨拶に紛れて辛さを誤魔化したり冷ましたりしてるでない! 漢ならばくっといかぬか!」
その後に二人分の絶叫が響いたが酒場ではいつもの光景であった。
「なにやってんだ……」
「いいじゃない。馴染んできて」
「だといいがな」
「あなたも頑張りなさい」
「意外と見つからねえんだよ……」
「あなたお金はあったでしょう」
「使った」
「あらあら。あれだけの貯金なにに使ったんだか」
「……知ってんのかよ」
こんな時に自分の無趣味さを嘆くばかりである。さらにとある理由で手持ちの金もすっからかんである。
アルとしてはそんなことより自分の懐事情を把握している母に恐怖を抱くが。
「まあ、でもあなたなら何に使ったかわからなくても信頼できるわ」
「まず把握しようとしないでくれ」
「無趣味だものね。買うとなったら必要なものを買うもの」
「無視すんな」
「マオちゃんの楽しみもちゃんと見つけてあげなさいよ」
「……へいへい」
最終的に諦めたアルではあるが、最後の言葉には素直に従った。元よりそのつもりだからだ。
しかし現状に進展はなく、ため息をつき__直後に店のドアが勢い良く開いた。
『ホントにいたああああああーーーーーー!!!』
「ぬわぁ!? な、なんじゃこいつらは!」
「あら。ニーナちゃんリーナちゃん。いらっしゃい」
「今回は時間が空いたな」
そこには常連である二人の女性がいた。二人はなぜかアルとフレイの言葉にも耳を貸さず、魔王のところに歩み寄ると、抱きつく。
「可愛いーーーー! なにこれ!? お人形さん!?」
「髪の毛キレー。肌もっちもっちー」
「き、キサマら! やめぬか!」
__契約さえ無ければこんな奴ら!
魔王は二人をどけようとするも、店の不利益になるようなことを避けてか全力で抵抗出来ずにいる。
それを眺めていたノワール一家は律儀に契約を守る魔王の姿に嬉しさを覚えるが、揉みくちゃにされていくその光景に複雑な気分になってしまう。
「お、おい。ニーナ、リーナ。そんぐらいにしてくれ」
「あと十__」
「秒でもなんでもさっさと」
「__年」
「今すぐ離せババァ」
その時、アルの耳に「ぷちっ」という何かが切れた音が聞こえたのは、恐らく幻聴ではないだろう。
『ア〜〜ル〜〜く〜〜ん』
「げっ」
『ちょっとこっちに来なさい!』
「か、母さん」
「行ってらっしゃい」
「ちょっ」
「アル! 助けんか!」
『いらっしゃーい』
「ええい! どうにでもなれ!」
その後。
アルは年上のお姉さんの扱い方を小一時間聞かされることになる。アルと交代で解放された魔王は、逃げるように料理を冒険者の元へと運んで行った。
「ったく。酷い目にあった」
「こちらのセリフじゃ」
二人ともげんなりした様子で休憩していた。というより、フレイが休ませた。
ついでと言うことでニーナとリーナの食事に付き合うことになり、魔王は警戒しアルを挟んで座っている。
「悪かったわよ」
「でも噂通りの可愛い子だったからついね」
『噂?』
「ええ。いっぱいあるわよ」
そうニーナが切り出し、リーナが列挙していく。
失敗ばかりのドジっ子ウェイトレス。老若男女問わず魅了する美貌。ロリコン歓喜。お月様のような輝き。ドM心が刺激されるお姫様。突如襲来した美少女。理想の具現化……などなど。
アルは「そんな噂流れてたのか」と純粋に驚き、魔王は人間の評価など興味がないのかフレイが作ったチャーハンを食べていた。
「我が美しいのは当然じゃ。今更なにを言うておる」
「おい。都合のいいとこだけ抜き取るな失敗ばかりのドジっ子ウェイトレスさん」
「それは人違いじゃな」
堂々と否定するその姿に一種の感動を覚えてしまうものの、それ以上はなにか言うこともなくアルもチャーハンを食べて行く。
しかし、ニーナとリーナはそんな魔王にさらにハートを撃ち抜かれたようで、
『この子ください!』
「ダメよ〜」
なんてことを平然と言ってくるのだから困ったものである。
マオ=魔王であることを知るノワール一家としては、冗談でも人に預けることなど出来ない。
二人も本気で言っているわけでは無いらしく、その後は魔王も(強引に)交えた談笑をしていた。
不意に、アルは違和感を感じた。
「それにしても」
「ん?」
「なに?」
「いや。珍しいなと思ってさ。愚痴らないなと思って」
二人が全く愚痴を言わないことである。
二人は毎回、数日間溜め込んだストレスを【翼の休憩場】で発散、言うなれば羽休めをしに来ているようなものなのだ。
普段はアルとフレイ相手に酒をちびちび飲みながら社会への不満を言い続けるのだが、今日はそういうことがなぜか無い。
「あぁー」
「まあ、マオちゃんの噂聞いて来たようなものだしねー」
「そうそう。人って楽しみあると苦労なんてものは忘れるものよ」
「ねー」
「そういうもんか?」
__まあ、楽しそうだからいいか。
そうアルが思った時
「苦労は忘れてはならぬぞ」
魔王は否定するようにそう言った。
「マオちゃん?」
「苦労は忘れてはならぬ。苦労を忘れると、喜びも薄れて行く」
「えっと……」
「なにもない平凡な日々が幸せだと言っていいのは、その前になにか取り返しのつかないことをしでかした者のみ。生き物は刺激が無ければ生きていけぬ。精神が磨耗する。なにもしないことで心が欠けていく。刺激を得るには、苦労して喜びを掴み取ることじゃ。特に理由もなく飲む酒と、景気づけや何かをやり切った後の酒では同じ酒でもまるで違う旨さがある。だから、苦労を忘れてはいかぬ」
魔王が話し出すと、不思議と周囲は静かになっていた。
静けさという言葉とは無縁のはずの酒場に、その瞬間だけはたしかに静けさがあった。
誰もが魔王の言葉に耳を傾け、その言葉を聞いた。
これから冒険に行く者も。
冒険から帰ってきた者も。
仕事から解放された者も。
みんなその言葉を聞いていた。
魔王はしばらくかちゃかちゃと皿を鳴らしながらチャーハンの残りを減らしていったが、周囲の静けさに気付いた。
「む? どうしたのじゃ?」
その言葉に、まるで毒気を抜かれたようにまたざわざわと酒場は賑わって行った。
「そっか、そうだね」
「うーん……まさか年下に諭されるなんてね!」
ニーナとリーナは何かを吹っ切ったように声を上げる。その表情はとても晴れやかだった。
アルとフレイもどこか安心したようだ。……しかし、魔王だけは少し違った。
「年下? 我はこう見えてひゃ」
「こう見えてマオは結構年あるんだぜ!」
それに重ねるようにアルは叫ぶ。
「アールくーん。ダメだよ女の子の年齢を叫んじゃ」
「曖昧にしてもアウトだからねー」
「うぐっ」
「いや、我はとくに気にしないのじゃが」
「えー! なんで?」
「信じられない」
「上に立つ者は下にいる者に寛容でなくてはな。この程度で腹も立たん。それに、こやつの無礼は今に始まった事ではない」
『お、大人』
ニーナとリーナの魔王を見る目が尊敬の域に達しつつあり、アルは恐れおののく。
魔王の威光は人間にも通用するらしい。
「あー、マオちゃんみたいな上司が欲しかったなー」
「あー! そうだ聞いてよフレイさん! この前職場で」
「あらあら。楽しみがあっても大変なのね」
『とりあえずお酒!』
「あいよ」
アルは席を立ち、料理で手が塞がっているフレイの代わりに酒をニーナとリーナのジョッキに注ぐ。
そして、信じられないものを見た。
「ま、マオ」
「ん?」
「今、笑って」
「……」
魔王が笑っていた。
あり得ない、とも思った。
見間違い、とも思った。
しかし、たしかに笑っていた。
指摘された魔王は驚きに目を見開き__俯いた。
「……マオちゃん?」
「どったのー?」
「……いや」
そう言って、魔王は静かに席を立つ。
「済まぬな。少し気分が悪い。休む」
「あ、ああ……」
どこか悪い様子は無い。
しかし、その雰囲気はいつもより沈んでいた。
「どうしたんだ、あいつ」
「っ! はぁ、はぁ」
周囲に誰もいないことを確認し、一気に崩れる。
やってしまった。
“楽しい”と思ってしまった。
人間と語らうことを、楽しいと。
「っ!」
全身から嫌な汗が噴き出る。
気持ち悪い。笑ってしまった。心が緩んだ。
しかし、忘れてはならない。
我は魔王。史上最強の魔王。
人類の怨敵。数多の人間を殺し、恐れられ、力を示した。
人間と交わることなど許されない。
魔王は強者でなければならない。
魔王は恐れられなければならない。
魔王は唯一でなければならない。
「……我は、我だ」
強く気高く絶対無敵。
我が我である由縁。
「混じってなどおらぬ」
思い出すのは、食べたこともない暖かい料理。
ムカつく小僧。哀れな男。常に笑顔の女。
魔王城に比べれば馬小屋のような宿に集まる者ども。騒音。似つかわしくない女組。
たった一、二週間。
それだけの間に、随分と多くのものが胸に詰まっていた。
そのことを自覚したうえで、溢れそうになる気持ちを、抑え込む。
◯
「おーい。マオ」
あれから魔王が部屋から出てくることはない。
寝ているのだろうか? 夕食近いということでアルも呼びかけ続けるのだが、反応はない。
「……寝てんのか?」
やはり返事はない。
「……また呼びに来る」
アルは諦めて下へと降りて行った。
少しして、キィっと開く音がした。
「マオちゃん起きた?」
「全然だ。後でまた呼んでみるけど」
「おいおい。しっかりしろよバカ息子」
「だったらお前が行ってこいクズ」
「ついに親父を付けなくなったか」
父さんと母さんは四人分の食事を用意しテーブルについていた。
「マオの奴。どうしたんだ」
「やっぱり、人と魔族じゃダメなのかしら」
「やっぱ弱ってるうちに殺しちまった方が」
「お前をか?」
「あなたを?」
「なんで妻子そろって俺を見る!」
父さんは叫ぶが、俺と母さんはさらっと無視。
素知らぬ顔で席に着く。しかし、食事に手を付けることはなかった。
「……殺すのは無しだ」
「そうね。触れ合って悪い子じゃ無いと思うし」
「あのなぁ、相手は魔王だぞ? そりゃ、俺だって嫌だよあんな美少女殺るなんて。でも、人類の敵になるっつーなら今のうち殺っちまった方がいいだろ。後で見逃さなきゃよかったなんて言っても意味ねえぞ」
そんなことは百も承知。
それでも、俺の脳裏に焼き付いて離れないのはあいつの、マオの笑顔だ。
敵にならない道だってあるはずなんだ。
重い沈黙が訪れる。食事は冷めて行く一方だ。
耐えきれなくなり、なにかを発しようとして__
「なにをしけた面をしておる」
__話の中心人物が現れる。
「マオ! 遅えぞ!」
「ふん」
マオはとても不機嫌な顔で立っていた。だが、こちらに歩いてくる様子はない。
「なにしてんだ。飯食おうぜ」
「いらぬ」
「はぁ?」
素っ気なく返された一言に思わず驚いた。
短い期間ではあるものの、あんな美味しそうに母さんの飯を食べていた奴がいきなり「いらぬ」と言い出したのだ。
「なんだよまた」
「なんだよではない。むしろ遅かったくらいじゃ」
「なにが」
「“お主ら人間と馴れ合い過ぎたと言っておるのだ”」
「……なに?」
緩みかけた空気が急速に冷えて行く。
母さんも父さんも戸惑っていた。
「そこの男の言うとおりじゃ。お主らは我を殺すべきじゃった。なのにそうしなかった。誰がどう見てもこう言うじゃろうな。「なぜ殺さなかった」、と」
「ど、どうしたんだよ急に」
ずれている、と思った。
昼間見た笑顔。普段の不機嫌顔。
そして、今の敵意に満ちた表情。
一度だけ見た、最初の頃の表情だ。
まるで時間が巻き戻ったように、マオ__魔王はそこにいた。
「急にでは無い。思い出しただけじゃ」
「なにを」
「我が魔王であることを、じゃ」
突如、マオの体からとてつもないプレッシャーが放たれた。
まるで吹き飛ばされるかのように俺の体は椅子から落ちる。しかし、実際はなに一つ飛ばされてないし、それどころか揺れもしなかった。
息は荒くなり、まるで心臓を握られてるかのような“死”を感じた。
__勝てない。
その感情は、最初の頃に感じたものよりも大きいものだった。
「忘れるな、人間。我は“魔王”。マオという名前ではない。“深淵より出でし者”とし、魔族の頂点に立った者よ。この手は何度もキサマ等の同族の血で染めた。今は契約に基づき働こう。せいぜい気をつけることだ。我は、例え魔王城に戻れずとも__キサマ等人間を滅ぼす気なのだから」
そう宣言すると、マオは部屋へと戻っていた。
俺たちは動けないでいた。
まるで、時間巻き戻ったようだった。全てが振り出しに戻ってしまったかのような感覚。
食事はすっかり冷めてしまった。
◯
「ねえアルくん。マオちゃんどうしちゃったの?」
「なにが」
「なにがって……なんだか、急に冷たくなった感じ」
その日の魔王はいつもと違いミスを犯さなかった。
どれも完璧にこなし、広がった噂で客は集まって売り上げにも貢献している。
しかし、最初から来ていた常連客の中には気付き始めている人もいた。
魔王がまるで、別人のような雰囲気を醸し出していることに。
そして、原因はわからないが何もかもが変わってしまった事を知っているノワール一家としてはどうしようもないことを知っている。
「……別に変わんねえよ。ミスが減ったんだ。売り上げも上がってるし問題無えだろ」
__全部変わった。たった一夜で、全部。
言葉とは裏腹に、心は荒れていた。
いきなり“魔王”に戻り、縮まったと思っていた距離は開いてしまった。アルからしたらわけがわからない。
しかし、その理不尽をどうにかできる近くは持ち得ていないのだ。
アルはただ、時間が解決してくれることを待つしかない。
『問題あるよ』
しかし、この二人はそんなもの待ってはくれなかった。
「なんだよ」
「おかしいよ。昨日はあんなに仲良さそうだったのに」
「別に良かねえよ。こんなもんだ」
「絶対におかしい」
「っ。なにがわかる」
元々避けたかった話題ということもあり、ニーナとリーナの追求に思わず強い言葉で返してしまう。
二人も驚いたように目を見開いていた。
「あ……わ、悪い」
「う、ううん」
「でも、その、いろいろあるんだ」
「……わかった。解決したら、また一緒に食べようね」
「……ああ」
「フレイさん! ちゅーもーん!」
「こっちもー!」
「はいはい」
アルは頭をひやすため一旦下がろうとし、フレイとすれ違う時に耳元で囁かれた。
「二人に感謝しなさいよ」
それだけ言ってフレイは作業に戻る。
__わかってるよ。
心の中で呟き、そしてアルは休憩へと入った。
事態はなに一つ解決しないまま、数日が過ぎる。
◯
その日はいつも通り時間が過ぎて行きく。
ただ、いつもと違うところがあるとすれば普段は多人数で囲めるテーブルから動かない冒険者の中から一人、ガタイのいいリーダーのような人物が一人アルの元へと来たことだ。
「よおアル坊」
「んだよロックス。注文なら親父かマオに言え」
「うんにゃ。ただ、無駄金使ったなと思ってよ」
「別に。特に使い道も思いつかんかったからな」
そんな会話を隣にいたフレイは聞きつける。
「アルがあなたたちになにか?」
「ああ。依頼を受けたね」
「アルの貯金って結構あったはずだけれど」
「母さん」
アルの懐事情を完全に把握しているフレイは“依頼”について聞き出そうとするが、慌ててアルがそれを止める。
若干不機嫌そうな表情になるフレイとわかりやすく慌てているアルを見て笑った後、ロックスはアルに助け舟を出した。
「フレイさん。悪いが守秘義務ってもんがあるんだ」
「あら。親に話せない息子の秘密? 尚更聞きたいわね」
「思春期の息子の秘密だ。黙って見守ってやるのが礼儀だろう?」
「あなたにそれを言われるなんてね。歳を取っちゃったわー」
「いやいや。フレイさんはまだお若い」
「あらお上手」
そんな風にいい雰囲気 になっていると、
「ロックスー! 人の妻口説いてんじゃねー! 世話してやったの忘れたか!」
テーブルの方からランドの叫び声が聞こえた。
「……はぁ。すっかり流されちゃったわね」
「ま、過保護過ぎるのもいけねえってことですな」
「はぁ?」
「そうね。そうするわ。早く戻りなさい」
「そうしましょう。じゃあなアル坊」
そう言ってロックスは戻り、そしてランドに突き飛ばされた。
「母さん。過保護ってなんだ」
「あなたは知らなくていいのよ〜」
「……」
そして、過保護にされた覚えの無いアルだけが納得のいかない表情で作業を続けていた。
「おーい。今代勇者様がイルニス村にて魔族を撃退したってよ」
冒険者たちの間で話題になっているのは、専ら今代勇者についてだ。
魔王が現れる度に新たな勇者が選定され、選定方法は機密扱いされている。
もしかしたら仕事で一緒になるかもしれないし、そうでなくとも荒くれ者が多い冒険者たちにとっては“強い”というだけで注目の人物である。
「おい、イルニス村って……ここの近くの村じゃねえか。撃退ってことは幾らか逃げたんだろ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。なんせここは、“魔陣の勇者が造った町”なんだからな。魔族だってそうそう近づかねえだろ」
「アホか。それはもう千年も前のことだろ。それに、特別結界が貼られてたりするわけでもない。こりゃあ、しばらくはクエストに出ねえで警備に当たった方がいいかもな」
「心配し過ぎだろ」
「冒険者の心得その一。臆病であれ。帰ってきたら町が消えてたなんて、嫌だぞ俺は」
「へーへー。じゃ、しばらくは酒なしか?」
「酔う理由も無いしな」
「うへぇ〜」
こういった会話が行われるのは珍しいことではない。アルも、昔こそ魔族が来るかもとビクビクしていたが今では慣れたものだ。
しかし、魔族の話題となると気になるのが魔王の存在である。
__もしもここが破壊されたら、店が無くなったらマオは本当に俺たちの敵になるのか?
__だとしたら、絶対にここは守らないと。
視界の端にいる魔王を見据え、アルは密かにそう決意していた。
勇者が造った町?
ここが?
いつだったか夢に見た最後の決戦。そしてその後。私が死んだ後の光景。
あれが嘘か本当かはわからない。しかし、あれが死して尚、生き続けている我の一部が記憶していた光景だとしたら、ここは勇者が造った町?
我を埋めた土地に町を造る?
どういうことじゃ。わからん。
……まあ、すでに死んだ者のことなどどうでもいい。
魔族が攻めにくるかもしれぬ、か。
好都合じゃろ。この店が壊れれば、契約もそこで終了。再び魔王として我は立つことができる。
昔のように戦乱の世に身を委ねることができる。
この町も、人間らも、世界も、壊して終いじゃ。
ズキ
我の手は血塗られておる。
繋ぐことなど望めはせん。
ズキ
我と少なからず交友もあった者たちも千年という時に呑まれておるじゃろう。
戻る場所も無い。
ズキ
躊躇うことなどない。
ズキ
なのに、この痛みはなんなのじゃ。
食事があんなに暖かく、上手いものであったなど知らなかった。
人と触れ合うことがこんなにも安らぐなど知らなかった。
自分の中にある魔王としての自分と“マオ”としての自分。
我はいったい、どちらとしての我になりたいのか。
「マオちゃーん。注文」
「ぬ? ああ」
今、ここで働いている間は考えずに済む。
今は、それだけが救いだった。
◯
その時、魔族は飢えていた。
闘争を楽しむことが魔族にとっての本望だとしても、負けて嬉しいわけではない。
殺るからには勝ちたい。自分たちから仕掛けておいて、それは少し理不尽だと思わなくはない。
しかし、魔族たちはどこ吹く風でそんな理不尽を振るう。
そんな魔族たちは今、逃げていた。
忌まわしくもあり、同時に嬉しくもある強敵の存在__今代勇者から逃げていた。
村を襲撃し、暴れ、立ち向かって来る兵を殺戮し、そしてようやく現れた勇者に負けて逃げた。
魔力は消耗し、疲労によって力も入らない。
食料を求めた。
腹いっぱい肉を食い、一日寝て休めば強靭な生命力を誇る魔族であればたいていの傷は治る。
疲労したとはいえまだ少しは戦える。数もいる。
どこか、どこか別の村を襲おう。
そう結論を出すのは当然とも言えた。魔族にとってはそれが普通なのだから。
そして見つけた。
そこは「ホロウシティ」と呼ばれていた。
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