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高校の卒業式に書いたやつ

by ネームレス
小説投稿 | 2016年11月 5日(土)22時23分
『卒業おめでとうございます!』

今日は卒業式。しかも高校の、だ。
高校の卒業式は今までの卒業とは少し違う気がする。小学校も、中学校も、どちらもその延長線上の道へ進むための卒業だ。
だが、高校の卒業は進学か就職かの道を選ぶことになり、進学も大学や専門学校等あるが、小学校から中学校、中学校から高校という進学とはあらゆる面で違うだろう。
それになにより、ここから先の人生には《責任》という言葉が重くのしかかってくる。
親の保護下で、なんでも親がやってくれるという時期は過ぎ、多くのことを自分でやっていかなければならない。一人暮らしをする者もたくさん増えることだろう。そうなれば身支度やらなにやら全て自分でやらなければならない。なにか失敗しても責任を取らなければならないのは親では無く自分だ。
高校の卒業はそういった自分の立場から、大人になるために卒業するといった意味合いもあると思う。
……まあ。
だからと言って、特別思い入れがあるわけではないから「さっさと終われ」と結構本気で思っていたりするのだが。



「終わったね〜」
「終わったな」
「で、あんたは一人なわけ。やーい、ぼっちぼっち〜」

う、うるせえ。ちげえし。友人いるけど運悪く全員別のクラスなだけだし。クラスに友達いないなら作ってしまえなどというコミュ力の高いことなど俺には出来なかった。

「ぼっちじゃねえ。というか、お前も話す奴がいるならそっち行けよ」

あれなんだよな。俺のコミュニティが極端に小さいだけで、他の奴らは普通に他のコミュニティ入ってたり作ってたりするもんね。俺だけがこいつの特別、なんて思い上がりなんですよ。

「やーねー。あんたが一人だったから同情して話してやってるだけじゃん」

こいつの場合、同情半分からかい半分である。
しかし、それでも仲が悪いわけでなく、全くの悪意からくるわけではないことは分かっているから少なからず嬉しいと感じてしまう俺はきっとチョロい。絶対言わないけど。にやけそうなのを必死で抑える。

「別に。クラスで一人なのはいつものことだし、今更だろ」

そもそも俺は一部の奴らから一時期嫌がらせの標的にまでなったのだ。しかもその《一部の奴ら》というのは大抵顔が広い。
正直、そんな奴らと普通に付き合える奴らと仲良く出来る自信などない。漫画の中のような誰からも嫌われるテンプレ不良などなかなかいない。

「そうだね。あんたいつも本読んでるしね」
「話す奴がいないからしょうがないだろ。流石に今日は持って来なかったけど、持ってきた方良かったわ……」
「バカス」
「うっせ」

なんだかんだで二年ほどの付き合いになるこいつとの軽口の押収は日常の一部みたいになってたから、それも今日で終わりとなるとやっぱ寂しいと思う気持ちもある。
しかし、こいつともう二人、俺に同情とからかい目的で話す奴がいるから、そいつらが合流すると嬉しさ以上に流石にうざさが上回るからそこはせいせいする。
まあ、そんな事になる前に唯一男子の俺はさっさと離脱する(させられる)のだが。

「そんじゃあたし行くから」
「おー。行け行け」

あっちが満足したらさっさとおさらば。いつものスタンス。今日が卒業式であることを忘れさせてくれる。
だが、やっぱり空気が違う気がする。
最初で最後の不思議な空気だ。気持ちがふわふわするような、そんな気持ち。
話す奴もいないボッチ野郎でも、そんな青春らしい空気がほんの少しだけ、心地よかった。
変わらない日常風景。しかし、本当に変わらないものなどありはせず、同じように見えてその中身は全く違ったりする。今日もいつもと同じように話すクラスメイトの話題の中心は卒業後についてだった。……いや。中には普段と大差ない奴もいる。ある意味凄い。
ふと気付いた。
教室の外に母さんがいたのだ。それ以外にも他の奴らの親が続々と。
……そろそろ終わりか。

「おーい。お前ら、席に付けー」

そのうち、少しふっくらとした体格の教師が現れる。……なんだかんだで三年間担任としてお世話なってんだよなぁ。履歴書書きではお世話なりました。

「ほんじゃ最後のホームルーム始めるぞ」

《最後の》、か。
その言葉になにか思うことが無いでも__いやなにも無えな。
凄い。我ながら「さっさと終われ」としか思わん。いったいこの中にどれだけ本気で最後のホームルームという言葉に感慨深さを持つ者がいるだろうか。
むしろ嫌がらせの記憶があるからせいせいしてしまう。会うことは激減だろうけど、友人然り、さっきの女子然り、連絡は取り合えるから本当の意味での《別れ》ではないし、あれ!? むしろこの学校に感慨深さを持つ理由無いじゃん!
そんな風に無駄な思考を巡らせていたら先生の話が終わっていた。先生、もう一回お願いします。……無理ですよね。さーせん。

「では、最後に一人ずつ皆へメッセージを教壇に立って言ってくれ」

えー。嫌だよー。めんどくさいよー。
そんな俺個人の気持ちなど関係なく、容赦無く始まって行く。メッセージ云々は前から言われてたし、先生の「考えてきたよな?」という視線が痛い。
というか一発目の人が一気にハードル上げて行くんですがそれは。なにこの人、かっこいい。女子なのに。声が張っててそこまで大きい声では無いのに凄く響く。
なにも考えてない。やばい、順番的には真ん中だけどなにも考えてないです。急げー急げー。無難なワードを繋げてけー。

「では__」

と言ったところで俺の番。え? なにが起きた?
あ、はい。俺ですね。
内容はとくに中身も無いので割愛。



「全員が終わったな。じゃあ最後に先生から」

まだあるのか……。そう思う俺はきっと恩知らず。

「さて、これから皆はそれぞれの進路に向かって行くと思う。全員が同じ道では無いし、いろんな苦労が待っていると思う。だけど最初はそんなもんだ。どんな事も一歩目ってのは不安だし、それから先、何があるかはわからない。行ったことのある道を行くわけでは無いからな。でも、そういった一歩を積み上げて行くことで人ってのは大人になっていくんだ。お前たちは冒険者だ。社会という地図のない世界にこれから旅立って行く冒険者だ。これから行く道には山もあるだろう。崖もあるだろう。雨だって降るし嵐に見舞われることもあるだろう。だが苦労の分だけオアシスもあれば暖かい日差しでポカポカする日だってある。お前たちにはそういう旅をして欲しい。そして全力で楽しめ」

先生がそう締めくくり、皆は何か思うところがあるのか__もしくは何も考えていないのか__静かに聞き入っていた。
旅、か。
これから俺は高校時代とは比べ物にならないくらい、行動範囲が広がるだろう。その時、今まで見たことのない景色を見ていくことだってあるはずだ。
初めての経験だってしていくだろう。初めての場所にだって行くはずだ。そうやってこれから様々な初めてを俺はしていくのだろう。
そういったことをきっと旅と呼ぶのだろう。
……うん、ここまで考えてあれだけど、これを旅と呼ぶかは微妙だ。あ、いや、精神的な旅だよきっと。だからせふせふ。

「それじゃ皆。起立」

ガタガタッ、と全員が立つ。先生は全員の顔を見回し、最後の挨拶をした。

「礼!」

誰も「さようなら」とは、言わなかった。



「あんたいいの?」
「なにが」
「友達とか話したい子とかいないの?」
「いいんだよ。話そうと思えばいつでも話せるし。それより、疲れたからさっさと帰りたい」
「あんたがいいならいいけど……はぁ」

玄関を出てステルスを最大にし玄関前の在校生の集団をくぐり抜け、追いついてきた母親と合流。
いつものリズムを崩すことなくそのまま帰宅するつもりだった俺に、母親も思わず呆れてしまったようだ。

「帰りにラーメンでも食おうぜ」
「いいけど。はぁ。あんただけなんでしょうね。こうやってさっさと帰ろうとする人なんて」
「いや。地元民なら絶対少なからず帰ってるって」

多分。
……。

「……ねえ」
「なによ」
「旅ってなに?」

その質問を聞くと、母はクスリと笑った。

「おい」
「いやごめん。だってねぇ、あんたでも担任の話聞いて思うところあるんだと思って」
「酷くね? 流石にその反応は酷くね?」

人を、っつーか息子をなんだと思ってる。

「そうねー。旅ってのは人生のことよ」
「人生ねぇ」
「先生も言ってたでしょ。これからあんたにはいろんな苦労がのしかかるんだから」
「無理」
「拒否権は無いから」
「横暴だ……」
「人生なんてそんなもんよ」

そんな人生に意味なんてあるのだろうか。
今みたいに暮らせば、きっと十年後二十年後はすぐだ。後悔もいっぱいする。働くようになれば、今よりもっと苦労もする。
何もせず、何も成せず、何も残さず、ただ死ぬだけの人生なんじゃないだろうか。
そう思うと、俺は不安になった。自分がオアシスを見つけられる自信が無い。
正直、怖い。

「だけど、死ぬのって怖いでしょ」
「……」
「だったら、生きるしかない」

その通りだけどさ。

「だからさー。頑張れ青年! 家の借金も返してくれー!」
「結局それか!」

冒険には金が必要らしい。旅費がかかる旅だなぁ……。



昔、先生に「自分の人生の主人公は自分だからな」と言われたことがある。
しかし、本当にそうだろうか?
漫画の世界だって、書かれてなくともその世界が誕生したその瞬間から歴史というものが刻まれている。
名前の与えられない人間(キャラ)だっている。しかし、その人間にだって人生はあったっていいはずだ。しかし、所詮モブはモブ。背景に徹し、世界を循環させるためだけにいる。
なら、自分がその背景でないとなぜ言い切れるだろうか。
自分の人生の主人公は自分? 人生を旅とするのなら、全員が秘境を見つけ、なにか大成を成すとでも言うのか?
じゃあ、なぜ人は旅(じんせい)を続けるのか。
きっとその答えを探すことこそがその人の旅の目的なのではないだろうか。
もし既に答えを見つけている者がいるのなら、それはその人の旅の後日談。その時、初めて人は幸福であると言えるのではないだろうか。ここの考え方も、また人それぞれなのだろうが。
高校卒業。今年で十九歳。就職コースで四月から新人社員として社畜の仲間入りを果たす。
俺は今だに旅の答えを見つけていない。そして、それを見つけるためにこれからも、生き続ける。


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あとがたり
卒業後のテンションで書きなぐったものです。フィクション5割ぐらいで読んでください。この時期はいろいろあったんですはい。
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