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処女作リメイク投稿3 |
by RIDE |
小説投稿 | 2017年11月18日(土)21時 5分 |
どうも、RIDEです。
処女作リメイクの第3部が出来上がったので投稿します。 ここから後篇です
再びタイムネット世界に招かれたトールとエール。
新たな勇者として選ばれたレイ、そしてダイ。
新たな戦いがあるかもしれないタイムネット世界の可能性の一つ。その話の続きをここに記そう。
マーズタワーでの激闘後、勇者たちとミハン、ステルド両勢力は協力関係を結んだ。
モンスターの回収競争は続けても良いが、勢力同士の争いは禁止する事。また、ジンジャーを相手にする場合は全面的に共闘し、互いに情報を共有することとなった。
これにより、勇者とミハン、ステルドの関係は敵対から少し良好になった。勇者たちもまたタイムネットマスターを目指しており、彼らはよきライバルとして、互いのレベルを上げていく結果になった。
しかし、この関係を快く思わなかった人物もいた。
「本気なのか、ニール!」
マーズタワーの出入り口に、ダイの声が響き渡った。
「何度も言わせるな」
ダイだけでなく、トールたち他の勇者もそこにいた。彼らもまた、今まさに出て行こうとするニールが信じられなかった。
「どうして急に、出ていこうとするの…?」
突然のことだった。リナや時の老人たちと集まっている所にニールが現れ、自分はここから出ていくと言いだしたのだ。理由も言わずそのまま去ろうとする彼を、トールたちが追いかけ、現在に至る。
「そうだな、敵と仲良くやっていこうとするあんたたちのゆるさ加減に、我慢できなくなったってとこだな」 「敵と和解する事も、時には重要だと思いますけど」
レイが冷静にニールを諭そうとする。トールとエールもそれに続く。
「なあ、ミハンの事が気に入らないのはわかるけどよ、今はタイムネット世界の為に我慢しようぜ」 「あんたの呪いだって、解かれるかもしれないのよ」
すると、ニールはトールとエールを思い切りにらむ。あまりの迫力に、二人は思わず後ずさってしまう。
「誰がそんなことを頼んだ」
ニールはトールたちに背を向け、今度こそ去ろうとする。
「最初に言ったように、おまえたちと仲間になるつもりはない。助けた恩の分は働いたから、もういいだろ」 「待ちやがれ!」
その身勝手さに対する怒りが我慢しきれず、ダイはニールの背後から殴りかかろうとする。
だがニールは振り向きざまにその拳をつかみ、そこからけたぐりの要領でダイを地面へと転倒させた。
「力づくでも、ということか?貴様では俺を止めることは絶対にできん」
金色の目でダイを見下ろし、嘲笑したニールは今度こそ去っていく。
「…できるはずが、ないんだ」
その際に残した最後の言葉は、まるで自分に言い聞かせていたようであった。
それから後、トールたちはモンスター回収のためタイムネットへと降りていた。
ジンジャーのことも気がかりだが、そればかりに構ってはいられない。まずは狂暴化しているモンスターたちをすべて回収し、この世界の住人同士の争いを終わらせなければならないと判断したからだ。ミハンやステルドとは友好ではあるが、他の勢力がすべてそうとも限らない。
トールたちの回収作業は、ミハンやステルドを上回るペースであった。特にトールとエールは、以前の冒険での経験を活かして効率良くモンスターを回収していった。
今も、二人の采配によるバサディアンたちの活躍によって数体のモンスターを回収することができた。
「すごいですね、トールさんとエールさん。これでミハンさんやステルドさんたちとモンスターの回収数で並びました。残りのモンスターも後1体となりましたね」
レイはトールたちの働きぶりにただただ感心していた。
「私では、到底二人のようには戦えません」 「そんなことないわ。レイもあなたのモンスターも戦っていく中でレベルが上がっていっているわ」
レイ、そしてダイと二人のモンスターも、トールたちの傍でにいることでその戦い方を学ぶことができた。またどのように鍛えればいいのかも教えられることもあって、勇者と呼ばれるにふさわしい力を手にしている。
「そうだぜ。結構頼りにしているからな、レイ、ダイ」
褒められて、レイは顔を綻ばせてしまう。ダイも本来ならここで調子に乗るはずであった。
しかし、その彼は今上の空であった。トールたちから少し離れた所で、ただ空を見上げていた。
「おいダイ、聞いているのか!」
トールが声を張り上げると、ようやくダイも気づいたようだ。
「ったく。ニールがいなくなってショック受けてるみてえだが、そんな暇は俺たちにはないだろ」 「っていうか、あんたニールとは仲悪かったでしょう?むしろ清々したんじゃない?」
トールたちにはわからなかった。事あるごとにいがみ合っていたダイとニール。お互い険悪であると周囲は思っていた。だが、実際は違うのだろうか。
「別に、あいつがいなくなってどうってわけじゃないんだ。ただ…」
そこでもう一度空を見上げるダイだが、異変はその時起こった。
「曇って来たのか?」
まだ昼間だというのに空が段々と暗くなっていく。はじめはそう思ったのだが、上空には雲ひとつなんてない。それに、雲による遮光とも違う。まるで光そのものが失われていくかのようだ。
空を見渡してみると、異変の大元に気付いた。
「太陽が、消えていく?」
太陽が徐々にその姿を隠していく。そのために、日光が遮られ暗くなっていたのだ。
「日食、かしら?」 「いえ、宇宙に出れるほどの文明をもっている世界。日食なら事前に前兆を察することも、人々に報せることもできるはずです」
レイの言うとおり、日食とは違う気がする。そもそも、自然現象によるものとは思えない。
「とにかく、一旦リナと連絡取ろうぜ」
創造主である彼女なら何か知っているかもしれない。そう思い、トールの発言に全員が頷く。
何か良くないことの前触れかもしれない。
本能的に、そう感じるのであった。
[勇者諸君。久しぶりだな] [このジンジャーが、なぜこんなメッセージを送ったか大体は予想がつくだろう] [太陽と月は、我がタイムネット世界から姿を消させた。だがそれだけではない、この世界のこの時間を切り離し、あらゆる時空から隔離した。それでどうなるのかは創造主に確認するのだな] [さて、これを止め、元の時空へと戻るには我を倒すしかない。新大陸の謎の遺跡が我の拠点だ] [なお、我は最後のモンスターを所持している。誰がタイムネットマスターになるか、遺跡の闘技場で決着もつけよう] [待っているぞ]
[これが私たちの所に送られてきたメッセージよ]
ステルドの拠点。そこにトールたちとステルド、そしてミハンが集まっていた。彼らは今、マーズタワーにいるリナと通信で会話している。
[火星からも、太陽と月が黒いオーラに覆われているのを確認したわ。肉眼でもレーダーの類でも、それら二つを捕らえることができないわ] 「それじゃあやっぱり、これはジンジャーの仕業なのね」
太陽と月を隠し、こんなメッセージをよこしてきた。間違いなくジンジャーは本気である。
「正真正銘、これが最後の戦いになるな…」
全員、それを実感するのであった。
「けど、太陽と月を封印したり、この世界の時を切り離したり、結局ジンジャーって何者なんだ?」 「奴の目的も、はっきりとわかっていないんだよな」
こことは違う外の世界から来たということ、人間ではないかもしれないということ以外何もかもが不明である。そのことに、不気味さを感じてしまう。
「ただ、言えることがあるとしたら」
ステルドが神妙な面持ちで口を開く。
「奴はこの世界が崩壊してもお構いなし、ということですかね」
それにミハンも同調する。
「そうですね。タイムパラドクス砲なんてものを持ち出してきたんです。良心や感情といったブレーキが無い以上、最悪の方向へと突っ走るしかありません」 「さすが、同類はよくわかっていますね」 「よしてください」
ステルドの嘲笑に、ミハンが肩をすくめる。それから二人は笑いあった。
ミハンとステルド。ともに自身の勢力を率いてタイムネットマスターを目指すライバル同士ではあったが、今になってみれば同じリーダーで同じものを目指す者同士、ある種の共感や多少の理解はあったのかもしれない。それが共闘をきっかけに良い方向へと進み、現在では親友みたいなやり取りをしている。
特にミハンは、感情に暖かみのようなものを感じる。ダイとの戦いで、それを思い出したかのようだ。その為ミハンに親しみも湧くのだが、ニールの一族を根絶やしにした張本人であることを思うと、仲間だと素直に喜べない。
[いずれにしても、最悪のケース、つまりはこの世界の崩壊も想定しなければならないということははっきりしておくわ]
リナの言葉に、一同は気を引き締める。
[そちらの世界の封印は、私の力でもってしても破ることは出来ない。通信もその関係でこれが最後となるわ。あなたたちだけに頼ってしまうのは、心苦しいけど…] 「心配ねえぜ、リナ」
トールとエールは自信満々というように微笑む。
「私たちは、ちゃんと帰って来るから」
「これがG-2のパワーアップした姿か…」
ステルドの拠点、兵器の巨大格納庫にて。
「ええ、G-2を主に機動力の面で強化しました。スラスター付きのアーマーと背にウイングバーニアパックを追加させて、空も飛べるようにしたんです」
名付けて、G-2T-MAXという。
ステルドの説明を聞きながら、トールは新たなG-2に目を輝かせていた。男の子はよくメカに心惹かれると言うが、トールもその例外ではない。どんな武器がるのか、変形するのかと興味津々だ。
そしてそれは、隣のロボットへと移していく。
G-2と同じくらいのサイズであり、しかしG-2とは少し意匠の違う人型ロボットである。色はG-2が白であることに対し、こちらは黒だ。
「隣のメカは何だ?」 「あれはN-3。試作段階で開発が止まっていたものをミハン専用の機体として改良したものです」 「ミハンの…」
ミハン専用の機体を、ステルドの軍が組み上げている。その事実に、トールは少し驚いていた。
「G-2程の機動力はありませんが航空能力も持っていて、ミハン用に出力、砲撃力、射撃及び狙撃能力を上げました」 「そうなのか。でもいいのか?同盟を結んだとはいえ、敵のトップにこれを渡すんだろ?」
敵に塩を送るステルドの胸中を確かめたくトールは質問してみた。
ステルドの答えは、自身に満ち溢れていた。
「レジェンドトッポとレジェンドドラゴンを失って、ハンデのあるミハンに勝ったって嬉しくないです。なにより、個人的な感情より、タイムネット世界のためですから」
ただ、とステルドには一つ不安があった。
「2台ともまだ最終調整に時間がかかっていて、終わるのは明日ですが出発の時刻には間に合いません」
ジンジャーは自分たち以外の勢力すべてにもメッセージを送っていた。モンスターが最後の一体、しかもそれが他のモンスターとは一線を画す強さであるという話なのだから、それを狙うものは大勢いるだろう。その中には、悪用を考えている者もいないとは限らない。
だからこそ、急いで自分たちで回収しなければならない。しかし、明日の出発にステルドとミハンは遅れ、トール、エール、レイ、ダイの4人で行かなければならないのだ。
戦力不足が心配だが、トールも先程のステルドと同様の表情を見せた。
「心配いらねえよ。俺も、ベスタートッポ以上の力を手に入れたんだ。おまえらが着く頃には俺が決着をつけているだろうぜ」 「それは頼もしいですね。期待していますよ」
「明日か…」
ミハンは自室の窓から夜空を見上げていた。
明日の一戦によってはタイムネットマスターが決まる。それに目指していたというものの、その戦いに自分は遅刻する。
しかし焦りはなかった。タイムネットマスターになるというある種の執着も今は存在していない。
それどころか、トールたちと手を組み、ここまで至ったことに充実感を味わっている自分を発見していた。自分たちの勢力いる人間と一緒にいる時よりも、彼らと時に口論し、時に手を取り合っていることの方が印象深く残っている。そしてミハン自身も感情を素直に吐露することができていた。
ああ、とミハンは理解した。自分が心を押し殺すようにしてきたが、それはそれだけの人間が周囲にいなかったこと、また自分がそれを望もうと思っていなかったことが一因であるのだと。
自分が望んだものは、タイムネットマスターになることではなかった。
だからこそ、最後の戦いはしくじるわけにはいかない。この世界のため、何よりも仲間と呼べるものたちのために。
「僕がここまで来れたのも、単に彼のおかげでもありますからね」
考えなしの無鉄砲。しかし心に素直で真を突くことのできる少年。そんな彼だからこそ、自分の心を開けたのだ。
「ミハン、いるか?」
ちょうどその時、思い浮かべていた少年が部屋の前に来ていた。どうぞと声をかけたと同時に、ダイが扉を開けて入ってくる。
「どうしたんですか、ダイ君。出発の時刻は早いんですからもう寝るべきでしょう」
一応忠告するミハンだが、それが聞き入れないということもわかっていた。
「明日が最後の戦いになる。恐らくあいつも来るだろう。だから、どうしても聞きたい事があるんだ」
そして、翌朝。
新大陸に、ステルドの軍の飛行船が下りる。そこから出てきたのは、トールたち4人である。
「こんなに早く着くとは思わなかったな」 「ステルドの軍の技術力って、本当にすごいのね」
飛行船に感心しながら、トールたちは地図を広げた。ステルドやミハンたちが出来る限りの情報を集めたところ、この地図をはじめいくつかの収穫があった。
「謎の遺跡があると思われる先には、流砂があるのね」 「遺跡を目指した人は過去にたくさんいましたけど、ほとんどの人が引き返しています。きっと簡単にはたどり着けない仕掛けがあるはずです」
前の冒険で新大陸の険しさを知っているトールとエールは気を引き締めている。ダイやレイもまた、最後の戦いということで慎重な様子だ。
「みんな、いいな?遺跡に向おう」
トールたちは地図を頼りに進み始める。道中、流砂が襲いかかったがサイコキネシスを使えるモンスターがお供にいたので、うまくかわすことができた。
しかし、彼らの前に無数の巨岩が無造作に高く積まれた絶壁が立ち塞がった。
「おかしいな。この先に遺跡があるはずだけど…」 「大勢の人が引き返したのは、多分これのせいじゃないかしら」
だとしたら、この岩の先に遺跡があるのだろうか。
「ここで立ち往生かよ」
これだけの岩をどかすのには、かなりの時間がかかる。そうしている間に、最後のモンスターが別の勢力に確保されてしまうかもしれない。
「バサディアン、上から見てくれないか」
バサディアンをはじめとして、空を飛べるモンスターたちに自分たちを抱えて飛び越えられないだろうか。流石に一度に全員は無理だが、ここで止まるよりはよいと考え、トールはバサディアンに様子見を依頼した。
バサディアンは頷き、空へと飛び上がった。そのまま絶壁の頂点まで辿り着こうとした時、何かに叩きつけられたように落下してきた。そのまま倒れてしまうバサディアン。
「ど、どうしたんだ?」 「わからん。だが、空から飛び越えるのは拒むらしい」
どういう理屈かは不明だが、上空からは何かの力によって超えないようにしているみたいだ。モンスターのサイコキネシスをかけても見たが、効果はなかった。
「だとすると、地面を掘って進むというのも同じ結果になるかもしれないな」 「やっぱり、この岩をどけるしかないのかしら?」
落胆するトールたち。しかしここで、それまで黙っていたレイが絶壁のある一点を指した。
「ダイさん、あそこへ登ってくれませんか」
女の子では到底登れなさそうな険しさなので、一番体力のあるダイがいくのが適任だったのだろう。
レイの誘導によって壁を登っていくダイ。すると彼は、あるものを発見する。
「なんだ、この岩?これだけなんか他とは違うような…」 「やっぱり、それは巧妙に造られた偽物ですね」
レイだけが遠目から、それがフェイクだと気付いたのだ。おっとりとしていながら察しの良い彼女にトールたちは感心してしまう。
「恐らくそれが遺跡へと続く道への扉か鍵でしょう」 「わかった。調べてみる」
ダイは偽物の岩に手をかける。すると、その岩が押し沈んでしまった。続いて轟音が鳴ったかと思うと、トールたちの前の岩壁に人一人が入れるような穴が開かれた。
「もしかして、これが遺跡につながる道…?」 「他にあてもないし、入ってみようぜ」
ダイも降りて、全員が穴の中へと入っていく。
中は洞窟のようになっていた。暗かったので、ピカポチが先頭となって光を照らして先を進んだ。
「まるでトンネルだな」 「この先に遺跡があるのね」
歩き続け、対面から光が差し込んできた。出口だ。
出口を抜けると、トールたちの前に広がったのは町であった。町とはいえ、並んでいる建物はこの世界では一昔前のものであり、人も住んでいる様子ではない。
「ここが遺跡か…?」 「あれ、闘技場じゃない?」
エールの指した方向。そこに円形の一際大きな建物があった。自分たちの連想している闘技場と違いない。
「行ってみようぜ」
トールたちはその建物へ向かおうとする。
「待て」
そんな彼らの前に、行く手を遮る者が現れた。
「ニール!?」
マーズタワーで別れたきり、久しぶりの再会となる。だが、彼は今こちらに向けて明確な敵意をむき出しにしていた。
「おまえたち、俺と戦え」
そう言い、剣先をトールたちに向ける。彼は本気だ。
「冗談じゃ、なさそうだな…」 「操られているとかでもなさそうね…」
一時は味方となってくれた人物。できれば戦いたくないのだが…。
「みんな、ここは俺にやらせてくれ」
そんな中で、ダイだけは戦う気満々だ。
「あの野郎、一度ぶっとばしておきたかったんだ」
ニールが離脱して以来、元気を取り戻したダイ。ニールに対して対抗意識を持っている彼のことだから、やはりニールを気にしていたのだろう。
それがここにきて姿を現したのだ。邪魔をしたことによる怒りもあるが、喜びもあるに違いない。
いずれにせよ、ここはダイに任せるのが適任だろう。やるべきことを放棄するような人物ではない。
「まあ、おまえが抜けた所で困ることは特にないからな」 「なんだよそのセリフは!かける言葉が他にもあるだろ!」
はいはい、がんばれと適当に相槌を入れながら、トール、エール、レイの3人は闘技場へと走り出す。
「待て、おまえたち」 「俺がいるだろ!俺じゃ不満か?」
怒鳴られ、ニールはしょうがないというようにダイと向き直る。
ダイは自身の感情を沈め、口を開いた。まず、彼に言いたいことがあったからだ。そのために昨夜、ミハンから確認をしたのだ。
「ニール、聞いてくれ。ミハンがおまえの一族を皆殺しにしたのは…」 「一族がタイムネット世界を征服し、人々を支配しようとしていたから、だろ」
思わぬ返答に、ダイは目を丸くする。
「知っていたのか?」 「一族の黒い噂は耳にしていた。ある時一族の裏の顔を見て、それを確信した」
ニールの一族はタイムネット世界では高名だった。だが、時の柱が崩壊した時、未来世界での一族はハッカー集団をはじめとしたタイムネット世界を蹂躙する犯罪グループをまとめる総本山となっていた。それを知ったミハンは、すでに暗躍し始めている現代において一族を止めようと考えた。一族を壊滅、皆殺しという結果になってしまったのは、一族が人々を巻き込むことを辞さない抵抗を見せたため、止むを得なかったという。
「それを知っていてもなお、ミハンに復讐したいのか?」
ニールは今まで一族の闇を知らないと思っていた。だからこそニールは復讐を考え、また真実を知ればその心も薄れるのだと思っていた。しかし、知っていたのならなぜ?
一族の悲願を遂行するためか。
それとも、呪いを受けたことによるものか。
「復讐したいわけでは無い。倒したいんだ。奴も、ステルドも、おまえたち勇者も」
ニールは、金色に変わった目でダイを睨む。
「邪魔をするのなら、例え弱いおまえでもな」
トール、エール、レイの三人は闘技場の入口前にいた。
入口にはドアがある。それを開ければ中へと入れた。しかし、入口前まで近づいた時それを躊躇してしまった。
「な、なんかすごいプレッシャーを感じるけど…」 「それも、悪寒が走るような冷たさと恐怖を感じます…」
ドア越しに、視線のようなものを感じるのだ。とてつもない悪意をもった。それが一歩踏み出すことを止めていたのだ。
以前タイムネット世界を冒険したトールとエールでさえ、これ程のものは感じたことがなかった。思わず彼らも身を竦んでしまう。
「でも、ここで足を止めるわけにもいかないな」
ニールの足止めを買ったダイのためにも、トールたちは勇気を振り絞りドアを開けた。
次の瞬間、三人は閃光に包まれた。
「うーん、いい朝だ」
早朝、ステルドの拠点。
「いよいよですね、トールさん、エールさん」
トール、エール、レイは外で停めてある飛行艇の前に揃っていた。
「ああ。それにしてもダイの奴、まだ来ないのかよ」 「まあ、ダイが来なくたって問題ないわよ。私たちだけでこの飛行艇に乗って…」
そこで、エールの言葉が止まってしまった。
「…乗って、どこ行くんだっけ?」 「おいおいエール、しっかりしろよ。俺たちは…」
だが、トールも首を傾げてしまう。
「あれ?何しに行くんだっけ?」 「私も、思い出せません…」
なんと、三人とも忘れてしまっていた。
「まあ、ダイが来れば何か思い出すだろ」
そう言い、トールは呑気にダイを待つ。レイもそれに倣う。
だがエールは気分が晴れなかった。何か、大事なことを忘れている気がする。
どうしても、思いださなければならないことのような…。
「本当に思い出せないの…?」
そう言い、二人の前に出るエール。
「まあ、忘れてしまうことなんてどうせ大したことじゃ…」 「本当にそう思うの!?」
エールは鬼気迫るような調子でトールに迫り、手をトールの頭の横、飛空艇に勢いよく叩きつける。
「エ、エール、どうしたんだよ!?」 「いいから答えて!ここはどこなの!?」
いきなり壁にドンと脅され、トールは委縮するが、エールはお構いなしだ。
「どこって、ステルドの拠点だろ?」 「今は何時?」
エールはレイの方へと向く。レイも混乱してはいるが、言われた通り時計に目をやる。
「変ですね、時計が止まっています」
トールたちも確認するが、彼らの時計も止まっていた。電池切れとも違う。
「私たちはどこへ、何をしようとしていたの!?」
さすがに異常を感づいたか、真剣に記憶を張り巡らせる。すると、おぼろげだが何かを思い出した。
「確か…直前までドアを開けようとしていたような…」
それでエールは確信する。
この違和感は、ドアにあると。
この場にあるドアは、ステルドの拠点のものと、飛空艇のもの。
どっちが怪しいか…。
一瞬、エールはドア越しに悪寒を感じた。
間違いない、あれだ!
「みんな、あのドアに攻撃よ!」
エールのモンスターは、飛空艇のドアに目がけて技を放った。
技は見事、ドアに命中した。
次の瞬間、エールたちは闘技場のドアの前に戻っていた。
「なんとか、帰ってこれたわね」
エールは、安心してほっと息を付く。もしあのまま忘れていたら、永遠にここへは戻れなかっただろう。
それにしても、何とも言えない不気味さがまだ心に残っている。
「今のは、幻を見せられていたのか…?」 「いいえ、ちがいます」
何が起こったのか理解したレイ。彼女の表情は普段のおっとりしたものとは違い、明らかに恐怖と緊張で引き締まっている。
「ジンジャーは時空から切り離したタイムネット世界から、さらに出発前の時刻を切り離して、そこに私たちを閉じ込めたんです!」 「おまけに、記憶操作までされたようね」
思い出せて良かったと思うが、エールは思いなおす。もしかしたら、わざとそうするように仕向けていたのではないかと。
そうして脅え、戸惑う自分たちを見て楽しんでいたのだ。相手の底知れない力量に、エールは寒気を覚えた。
しかしこれで、ジンジャーの正体がわかった。
「時空関連に干渉する力を持つということは、奴の正体はただ一つ!」
彼女は、恐怖と敵意をもって口にする。
「時空を住処にする生き物、時空間生物よ!」
4部へと続く。
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