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ほぼ趣味(※まどか☆マギカ小説 ハヤテ関係なし) |
by ピーすけ |
小説投稿 | 2015年 4月 5日(日) 5時46分 |
魔法少女、という言葉をきいて、連想されるのはどのような物だろうか。 摩訶不思議で煌びやか。かっこよくてカワイイ。私が初めの頃抱いていたのは、そんなごく普通の印象だった。 それは今だってそうだ。と、私は口元に残忍な笑みを装った。 右手にはオープンホールドしたデザート・イーグル。グリップから空になったマガジンを引き抜き.50AE弾を装填。スライドロックリリース。シャッ、と鋭い音を立てて、初弾がチャンバーに装填される。 次いでデザート・イーグルを左手に持ち替え、盾の中からVz61スコーピオン短機関銃を取り出す。使用する弾種こそ単発あたりの威力に乏しい.32ACP弾だが、毎分約800発の連射性能による弾幕は心強い。 冷たい銃握の感触だけに全幅の信頼を預けて、私は壁にしていた瓦礫から飛び出す。 ――轟音。 アスファルトを易々と貫き、深々と地面に突き刺さっていたのは槍。柄の太さは一抱え以上、長さは私の身長の二倍ほど。構造こそ原始的な武器ではあるが、威力で言えば戦車砲クラスだろうか。常人なら掠めただけで即死。魔力で強化している私ですらも、一撃で戦闘不能は免れない。 的中すれば。の話だけれど。 いち早く地面を蹴り、空中に身を投げ出してい回避していた私は、槍の柄に着地。砂埃を煙幕にして一気に即席のジャンプ台を駆け上がる。そして、速度はそのままに魔力によって離陸。空中で両腕を交差して二挺を構える。さながらフィギュア・スケートのジャンプのように。基本に忠実な構えなど必要ない。重要なのはむしろ発砲のタイミングだ。 赤い髪と青い髪を視界の隅に収める。 一斉射。マズルフラッシュが眩く明滅する。瞬く間に両銃の弾倉が空に。手ごたえはあった。が、急所を外している以上予断は許されない。 再装填の暇が惜しみ、私は用済みを投げ捨てて新たにAK-74突撃銃を取り出す。カラシニコフの裁きの下、5.45㎜弾が対象の顎を食いちぎらんと放たれ、だがそれにマスケット銃から放たれる魔弾がことごとく応じてのける。弾丸で弾丸を撃ち落す奇跡の絶技。 やはり、こと戦闘経験において彼女は頭一つ抜けている。一筋縄ではいかない。 それでも、要するのは僅かに三手だと、私は知っていた。まずは時間停止。しかし私は彼女にリボンで繋がれているので、停止の影響は彼女にまでは及ばない。 まず黄髪の回し蹴りが私のAKの銃身を打ち払い、生じた隙を逃さずにマスケットの銃口を向ける。私は横に身を投げ出してそれを躱しつつ、今度はベレッタの二挺拳銃で応戦する。9㎜パラベラムと魔弾の交差。互いに的中には至らず。 「……っ!!」 だがしかし、三点バーストで張られた弾幕が、黄髪の体を画鋲のように宙に縫い付ける。先の一手が退路を封じるものだとようやく理解した黄髪の顔に恐怖が浮かぶ。時間停止解除。心臓に9㎜パラベラムを叩きこむ。的中と同時にバナナ・ピールを起こして変形した弾丸が、運動エネルギーを効率的に人体急所に伝える。黄髪の表情が絶望に固まったまま死の色に染まっていた。まあ、これでも死んだとは言えないのだけど。 これで数秒くらいは時間稼ぎになる。さて、ここから先は初めてのパターンだけれど。 「このっ!」 いち早く負傷から復帰した青髪が、サーベルで唐竹割を仕掛けてくる。半歩引いて回避。斬撃は唐竹から横なぎに偏移。稲妻のようなそれを、ベレッタで受け止める。 当然、拳銃と刀では有利な間合いが異なる。私はバックステップで間合いを取り直そうとし、それを許すまいとして青髪が猛然と責め立てる。二挺拳銃と二刀流の組手。仲が良いとは言えずとも、お互いに既知の仲。故に戦闘は互いに次手の読み合いとなり、銃と剣は複雑な文目を描いて幾度も交差する。予め申し合わせたかのような死の舞踏。そういえば、前にもこんなことがあったっけ。あのときは黄髪のほうだったけれど。青髪はそれほど卓越していないので、まだやりやすい。私と青髪を繋ぐリボンは、黄髪が再起するまで一時的に効果を減じている。再度時間停止を図ろうとしたところで、文字通りの横やりが入った。 遅れて復帰した赤髪。単体でも恐ろしいが、彼女たちの真骨頂はコンビネーションである。拳銃二挺では致命的に火力が足りない。 だから、次に私がとったのはミニミ機関銃の二挺構え。魔法により増幅された膂力ならではの常識破り。もちろん弾幕の濃度も、単発の威力もそれまでの比じゃない。 「オイほむら!!」 赤髪が悲痛な叫びをあげた。彼女はリアリストでありながらも、実は一番正義を信じている。正義が潔癖でないことを知り、それでも根の優しさはいつだって最後に顔を覗かせてしまう。 「なんでだ。なんでだよ・・・・・・ッ」 どんなに呼びかけても届かないって、あなたは知っていたはずなのに。それでも、友のためにずっと呼ぶのね。私を友達だって、思ってくれているのね。ありがとう……でも、もういいの。私はあなたたちの敵であると決めたから。それは一番大切なあの子の為に。いいえ、あの子を愛する私の為に。 私のあり方は苦しいけれど、それすらも愛おしむ私は、もう優しさなんていらないの。 「そんなの、決まっているじゃない。私は私の都合で動くし、そのためだったらなんだってやるわ」 私は悪魔。皆の敵。たとえ私たちの戦いにあの子が泣いていても、あの子に嫌われても、今この世界が数えきれないほどの繰り返しの上に成り立っていると、私は知っている。だから、絶対に覆させたりなんかしないし、負けてやるつもりもない。一人ぼっちには、慣れている。 「どういうつもりだよ。敵にまわっておきながら、殺しもしねえくせに!! まだ本当は、イカレちまったわけじゃねえんだろ。なあ」 「だって、あなたたちを殺しちゃったら、あの子が悲しむじゃない」 「お前のせいで……あいつは泣いてるんだぞ。友達って信じたあんたのために!!」 「それはいいの。あの子の涙が私のためだとしたら、私はとても嬉しい」 「だったらなんであんたは心の底から笑おうとしないんだ。そこまで倒錯しちまったのなら、もっとわかりやすく悪役になることだって出来たはずだろ」 魔法少女たちの戦いは華やかで、眩しい。 もっとも正義を知る少女の叫びは、甘露のごとく尊いと思うから、悪魔となってなお血と硝煙の香りが濃い兵器を使っている。 脆く倒壊していく私の世界。愛する彼女が優しければ優しいほど、私の幸せを望めば望むほど壊れる、そんな歪な――だけど私にとってはこの世界だけが唯一縋れるかけがえのないもの。 そのためにはいつまでだって、戦い続ける。悪魔であり続けてやる。心の底から笑えなくたって構わない。だって、今は絶望さえも愛おしいのだから。 「悪いわね。でも、説得は無駄よ」 「こんな茶番、いつまで続けるつもりだ」 赤髪の指摘に、私は思わず声を上げて笑いそうになった。 私を助けようとしてくれるみんなの声を、私は火薬の無粋な音で上塗りすることにする。 「根競べなら、負けないわ」 何度だって繰りかえす――仮に今この戦いに負けても、私にはやり直す力がある。 それはとても独りよがりで醜い欲望―― この熱くて暗い、強固な支えがある限り、絶望も希望の力も、地に私の膝をつかせることは叶わないのだろう。
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