「支天輪の彼方で」9周年記念総括文  RSS2.0

2.数多く書くことで得たもの・失ったもの


Since : 2007.10.12
written by 双剣士
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はじめに数多く書くことで得たもの・失ったもの小説以外を切り捨てた閉塞感読者からどう思われているか今後についておわりにご意見専用掲示板

 読者の皆様には不満がおありでしょうが、現在の『支天輪の彼方で』はきわめて高い執筆ペースを保っています。「ハヤテのごとく!」のSSに舵を切った2005年5月より前(約6年半)の作品数が守護月天9/セイバー7/ぴたテン8/ゲーム系14だったことを思えば、その後のハヤテ56本という数字の突出ぶりがうかがえるでしょう。
 これは月刊誌から週刊誌へ移ったことでSS執筆の元ネタ供給が潤沢になったという面もありますが、何より『長編から読みきり短編へ』という執筆スタイルの変化が大きな要因として挙げられます。月天やセイバーJを扱っていた頃は2〜5編構成の長編(1編あたり20〜30kB)を半年以上かけてじっくり執筆するのが普通だったのに、今では長編はほとんどなく12kB程度の短編を書くことが多い。それも脇役の描写などは大胆に削って、起承転結の本筋に関わる部分に薄く肉付けした風味の作品が大半になってきています。最近になって来てくれるようになった読者の中には、『双剣士はこういう軽いギャグしか書けない、骨太な長編を書き上げるなんて無理、不可能』と思い込んでおられる方も少なくはないでしょう。

 勿論この執筆スタイル変更は意識的に行っているものです。SSを読みに来た読者にとって嬉しいのは、たとえ少しでもいいから読むに値する更新が頻繁にあること、というのは論を待ちません。以前の私は『SSは焦っても仕方ないからじっくり熟成した納得の一品を、更新ペースが低いのは他のコンテンツでカバー』という方針3周年総括文を参照)でやっていたのですけど、3年前の更新休止期間を経てからは『自分が頑張ってみんなを楽しませる』から『自分も一緒に楽しむ』に意識が変わりました。魅力的なキャラクターが沢山いて主人公以外の誰を中心にしても物語を組み立てられる「ハヤテのごとく!」は、散発的に短編を書きまくるにはうってつけの素材だったのです。

 このスタイル変更によって、確かに新作は増えました。更新内容も「新作SS追加」が主となり、それ以外のコンテンツに頼る必要もなくなりました。来客数が増えたかどうかはジャンル盛衰との関連もあって明確ではありませんけど、来てくれたお客様が目を通してくれる作品数は確実に増えました。更新継続や再開を催促するボタンを押してくれる方の数も以前とは比較にならないほど増えてくれました。当サイトの悩みの種だった『SS執筆だけでは更新ペースが上がらない、読者に忘れられる』という心配は(少なくとも私自身にとっては)少なくなりました。
 SSサイトの管理人がSS執筆をメインとして更新し、読者はその新作SSを読んでまた訪れる……SSサイトとしての当たり前の姿が、ここまで来てようやく形になりつつあるようです。

 しかしその反面、失ったものもあります。
 まずひとつに、執筆開始前のネタ選別基準が明らかに甘くなりました。これを読んで読者が面白いと思ってくれるか、他のSSサイトで既に書いているネタと重複しないか、そういった熟考を経て執筆前にボツにする作品が以前は多く、実際の執筆に至るのは思いついたネタの20%程度でした。しかし現在では60%くらいは選別を潜り抜けて執筆に取り掛かるようになっています……もちろん執筆中にツマラナサに気づいた作品は捨てていますので、サイトに載せるのは正味50%弱くらいですが。
 また執筆後に推敲する時間も短くなりました。以前は書き上げたら一晩寝かせて、それから1週間くらいかけて推敲と突っ込みを重ね『完璧じゃね?』とナルシスト気味に惚れ込める出来になってからサイトに公開していたのですけど、今では執筆完了後に読み返しを2時間程度しているだけです。誤字脱字や誤解を招く表現などはなるべく無いようにしているつもりですが、文章のリズムというか、台詞と地の文の比率調節などに割く時間はすっかり減ってしまいました。
 限られた時間内で納得行く出来にはしているつもりですけど、それでも「以前だったら公開しなかったよな」「あー読み返してみると分かりにくい」と感じる作品がいくつか混じるようになってきているのは確かです。

 それともうひとつ。原作未読の読者に対する配慮が明らかに減ってしまいました。もともと2次創作は「読者に原作の知識があることを前提としてキャラ紹介や状況説明を省略し本筋に全力集中できる」というのが特長となる創作活動ではあるわけですけど、それでも以前は「自分のSSを読んで原作に興味を持ってくれる人がいたら嬉しいな」という理想というか、心の余裕を持つ余地があったのです(詳しくは連載テキスト企画の1/18,19分を参照)。現在はもう、そういった配慮はばっさりと切り捨ててしまっています。5年半前の自分に見えていたものにあえて目をつぶって突っ走っているわけです。

 執筆前の練り込みが甘く、執筆中の余裕がなく、執筆後のチェックも短い。これでは作品数がいくら多くても、腕が上達するわけがありません。サイト自体の興隆は以前より上だけれど、文章書きとしての自分は以前より退化してるんじゃないか。最近はそんな危惧をひしひしと感じるわけです。


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