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secret nightmare(連作短編)レス完了
日時: 2013/06/30 02:18
名前: 春樹咲良

初めましての方は初めまして。春樹咲良と申します。
基本的に,小説掲示板に顔を出すのはこれが初めてなので,大半の方は初めましてでしょうか。

本作は連作短編の形式をとっています。
作者の見やすさの都合で,この親記事は前書きと目次という形をとらせて頂きます。
以下,目次は随時更新していくことにします。

連作ですが一話完結なので,どこから読んで頂いても構いません。
ハヤテとヒナギクしか出てきません。作風はシリアス成分強めです。
ここの掲示板の多くの作品と比べると,少し毛色の違うものを書いているかも知れません。

それでは,よろしくどうぞお付き合いください。


※不定期更新です。更新については気長にお待ちください。



目次

>>1 secret nightmare【1】:partner
>>2 secret nightmare【2】:heart
>>3 secret nightmare【3】:anniversary
>>6 secret nightmare【4】:monthly
>>11 secret nightmare【5】:sharing
>>15 secret nightmare【6】:phrase
>>18 secret nightmare【7】:enemy
>>21 secret nightmare【8】:tear
>>24 secret nightmare【9】:remember
>>28 secret nightmare【10】:forecast
>>31 secret nightmare【11】:caffeine

番外:extra nightmare:cloud(第1回 ハヤヒナ合同本 http://soukensi.net/perch/sp/hayahina01/hayahina01.pdf p61に収録)


あなたに出会う夢が怖くて,眠れなくなるから――
























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secret nightmare【1】 ( No.1 )
日時: 2013/06/30 17:08
名前: 春樹咲良

partner


ああ,まただ。また同じ夢。
夢の中のあなたは,まだ私の見たことのない顔で私に笑いかけてくれる。
見たことがないのだから知るはずもないのに,確かに分かるのだ。あなたにとって特別な人にだけ見せてくれる優しい顔だと。
そして同時に気づくのだ。これは夢だと。なぜなら,都合が良すぎる。
あなたはきっと,私にこんな風に笑いかけない。





「あれ,起きてたんですか」
明け方。いつもよりわずかに早く目が覚めてしまったので,水を飲みに台所を覗くと,やはりハヤテ君が居た。
「それは私のセリフよ。本当に,一体いつ寝てるの?」
「ついさっきまでは寝ていましたよ。執事ですから,皆さんより先に寝るわけにも,皆さんより後に起きるわけにもいかないだけです」
「どこの関白宣言よ,それ」
どう計算しても一日三時間寝ているとは思えない。しかし,私が起きていてハヤテ君がまだ寝ている朝というのは未だかつて訪れたことがない。
「関白宣言と言えば」と,ハヤテ君は朝食の支度をする手を止めずに,笑いながら答えた。
「ヒナギクさんには,『亭主関白』という言葉が全然似合いませんね。いやぁ,ていうかむしろヒナギクさんが関白みた……あいたっ」
「あらごめんなさい,ちょっと手が滑ったわ」
相変わらずびっくりするほど失礼なことを言う。
「どう滑ったら白桜が僕の頭に命中するんで……」
「もう一回滑る?」
「いえ,なんでもないです」
わかればいいのよ,と言いながら,なんだか自分が本当に関白みたいだなと思ってしまった。しかし,そうだとすると,
「私が関白なら,ハヤテ君がお嫁さんって言った方がずっとしっくり来るわよ」
言ってしまってからもの凄く恥ずかしいことに自分で気づいてしまった。みるみる顔が赤くなっていくのがわかる。慌てて,
「ほ,ほら,憎たらしいくらい女の子の格好似合うし」
と付け加えた。自分が関白たる亭主で,ハヤテ君が嫁だなんて,我ながら発想がおめでたいにも程がある。大体,いくら彼の働きがお嫁さん的だと言っても,ハヤテ君はここに住んでいる全員にとってのお嫁さん的存在と言うべきだ。
「ははは,前にも似たようなことを言われたことがあります」
取り繕う私に気づかない様子で,ハヤテ君は苦笑混じりに言った。
「ご飯はおいしいし,身だしなみも清潔に保っているし,文句なしにいいお嫁さんね,ハヤテ君」
気づかれなかったのをいいことに,少しだけ追い打ちをかけてみる。ハヤテ君は,やめてくださいよ,と言わんばかりに手をひらひらと振ってそれをあしらうと,話題を変えるように言った。
「それにしても,『関白宣言』だなんて,随分古い歌をご存じですね」
「そうかしら。でも,有名な部分だけ歌詞を知ってるだけよ。全部聴いたことは無いと思う」
「そうなんですか。まぁそういう人の方が多いでしょうね」
結婚する前にこれだけは言っておく,ということを夫になる男性が妻になる女性に対して列挙している歌だと漠然と思っていたが,違うのだろうか。
「ハヤテ君はちゃんと聴いたことがあるの?」
「ええ,一応,昔やってたバイトの関係で,70〜80年代の歌謡曲はひととおりフルコーラスで歌えますよ」
どんなバイトだったのかは聞かないことにしよう。しかし,そう言われるとどんな歌なのか少し気になる。一瞬,「じゃあ歌ってみて」と言いそうになったが,直前で思いとどまった。それこそ恥ずかしすぎて憤死する。
「じゃあ,全体的にはどんな歌なの? お嫁さんに対してああしろ,こうしろっていうのが続く感じなの?」
「んー,そういうわけではないですね。亭主は色々と要求するんですけど,その理由を後から説明するんです。自分の弱さをさらけ出しながら,相手への思いやりをいっぱいに詰め込んだ言葉が並んでいますよ」
「ふーん。今度聴いてみようかな」
聴いているところをうっかり誰かに見られないように気をつけないといけない。
そういえば水を飲みに来たんだった,と思い出し,ふと時計を見るといつも起床する時間になっていた。
「それじゃ,そろそろジョギングに行ってくるから」
「はい,行ってらっしゃい。お気を付けて」

その後,時間の空いたときに『関白宣言』の歌詞に目を通した。
最後のフレーズを読んだとき,もしもハヤテ君に歌ってもらっていたら,ということを想像してしまい――
あまりの恥ずかしさに悶えのたうち回った。


-------------------------------
SSを書くのは多分8年振りくらいです。
久しぶりすぎて筆が進まず,ショートショートにまとまってしまいました。

もしかして,『関白宣言』(さだまさしの歌)を知らない人とか居るのかな。
J●SRACが怖いので,歌詞をそのまま書くわけにはいかずこんな形になりました。
一度,歌詞を見てみるとよいかと思われます。

続くかも知れない。



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secret nightmare【2】 ( No.2 )
日時: 2013/07/01 15:59
名前: 春樹咲良

heart


自分の望んでいたはずのことが,思いがけない形で実現したとき,素直に喜べなかったのは何故だろう。まるで,実現してしまったこと自体が罪であるかのように,自分の心は苛まれていく。
あなたの無神経な笑顔は,それだけで憎たらしく,それだけで愛おしい。こんな,ままならない感情を持つことになると分かっていたならば――
分かっていたならば,何かが変わったというのだろうか。





「恋は罪悪」という言葉は,どこで見かけたのだったか。昔読んだ小説の一節だった気がするが,それがいつのことだったのか,すぐには思い出せない。本棚に並んでいる本のどれかだっただろうか,と思ったが,確かめるほど気になることではなかったのでやめておいた。
古今東西,「恋」にまつわる格言は掃いて捨てるほどある。自分にはあまり縁のないことだと思って,ほとんど気にも留めずに生きてきたけれど。実際に「人を好きになる」という経験をして,今まで自分の知らなかった感情が,自分の中にもあるのだということを知った。それもここ半年の間に,私を取り巻く環境は驚くほど劇的に変化した。

夜風にでも当たろうと思って縁側に出る。まだ起きている住人も多い時間だが,縁側には誰もいなかった。
何の因果か,数ヶ月だけという約束でなし崩し的にこのアパートで暮らすことになってしまってから,しばらく経つ。生活自体には慣れたが,そもそもアパートの持ち主も,その他の住人の大半も,同世代の友人知人ばかりという環境は,落ち着いて考えるとかなりぶっ飛んでいる。そんな生活に「慣れた」と言い切れる私に気づいて,人間の環境適応能力の高さを改めて実感する。
いや,いくらぶっ飛んでいるとはいえ,環境だけ見れば友人知人との共同生活は,合宿の延長のようなものだ。ある一点の問題さえなければ,入居の時にあそこまで渋ることはなかっただろうと思う。

「今日は風が涼しくて気持ちいいですね」
その「問題」が,縁側に座る私の背後から声をかけてきた。びく,と肩が飛び上がったのを隠すように,平静を装って振り返る。
「私の背後に立つなんて,ハヤテ君,気配が殺せるの?」
「執事には神出鬼没のスキルがデフォルトで備わっているんですよ」
なにそれ,と受け流すと,このアパートの執事であるハヤテ君は,私の隣にそっと腰を下ろした。
執事がいるアパートなんて,日本中どこを探しても他に見つからないだろう。そして,この恐らく日本唯一のアパート付きの執事は,びっくりするほど万能で,呆れかえるほど無神経な男の子だ。
「何か考え事ですか?」
「別に大したことじゃないわ。気分転換に夜風に当たろうと思っただけ」
当人を前にして「あなたのことを考えていた」とは言えない。
「お疲れなんじゃないですか。ヒナギクさん,生徒会のこととかでいつも忙しそうですから」
働かない役員が約3名いたりするのが主な原因だと思うが,そんなことより,
「私に言わせれば,ハヤテ君の方が働きすぎよ。いつか過労でぶっ倒れるわよ」
「僕は忙しいのに慣れてますから。ご心配には及びません」
でも,とハヤテ君は言葉を続けた。
「今日は僕もちょっと,気分転換ですね」
そう言うと,ハヤテ君はゆっくり夜空を見上げた。つられて見上げると,月を覆っていた雲が少しずつ晴れていくところだった。そう言えば今日は,満月だったかも知れない。
しばらくは無言で,二人で夜空を見ていた。満月がくっきりとその姿を現すと,おもむろにハヤテ君が言った。
「見てくださいヒナギクさん。月が綺麗ですね」
そうね,と答えようと思ったところで,ふと思い出した。さっきまで考えていた,「恋は罪悪」という言葉。その小説を書いたのが誰なのか。その作者が,「月が綺麗ですね」と訳したと言われている言葉。色々なことがぐるぐると頭の中を駆けめぐって,蒸気を発するほど顔が熱くなる。
「……」
無言の時間が長かったからか,ハヤテ君が「ヒナギクさん?」とこちらの顔を覗き込もうとしてきたので,思わず
「な,何でもないわよ!」
と取り繕おうとして,顔を覆いながらハヤテ君の背中をはたいた。が,はたく力が強すぎたのか,ハヤテ君はもんどり打って前方の庭先に転げ落ちた。
「あいたたた……」
「ちょ,ちょっと大丈夫?!」
「ははは,大丈夫ですよ。鍛えてますから」
背中をさすりながら縁側に座り直すハヤテ君と入れ替わりに,いたたまれなくなって私は立ち上がった。
「へ,部屋に戻るわ!」
「え? は,はい。おやすみなさい」
わずかに困惑を浮かべながら,いつも通りのあいさつを私にかけてくれる。いつもそうだ。私だけが勝手に盛り上がって,変な方向に感情がほとばしって,ハヤテ君にもの凄い迷惑な思いをさせている。
女の子として意識されていないのではないかと常々思っては落ち込む。大体が自業自得だから始末に負えない。

「恋は罪悪」――本当に,その通りかも知れない。
少なくとも私は,こと恋が絡むと,明らかに判断力が低下する。自分の行動を振り返って,自己嫌悪に陥ってしまうことも度々。
でも,世の中に数多ある恋の格言は,その多くが恋の両面的な価値を指摘している。「苦しいものであり,しかしだからこそ素晴らしい」と。目に付く格言のエッセンスだけを抜き取れば,概ねそういうことをみんな言っている。
それは,もう何百年も前からそうだったのだろうと思う。
だから,今しばらくは私も,このちっぽけな大問題に踊らされている。


-------------------------------
基本的に行き当たりばったりの短編連作で進む予定です。

話題にした作家が誰なのかは,博識な読者諸賢にはお分かりのことだろうと思って名前は出しませんでした。
どうでもいいですが,千円札のデザインが変わってからもうすぐ10年経つらしいですね。

※5/14追記
まさかの本編ネタ被り…。
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secret nightmare【3】 ( No.3 )
日時: 2013/07/01 16:45
名前: 春樹咲良

anniversary


夢が幸せであればあるほど,目覚めた時の現実との落差が鮮明になる。
あなたと過ごす時間も,ある意味では夢のようなものなのかもしれない。
微睡みのようにぼやけた頭で,伝えたいはずの想いが,どんどん形を失っていく。
あなたの気持ちを確かめる勇気が,どうしても持てないままでいる。





放課後。生徒会関連の残務整理のために時計塔に向かう途中,大きな笹が昇降口のそばに括りつけられているのが目に止まった。そういえば,
「そういえば,明日は七夕でしたね」
思っていた言葉が突然背後から聞こえてきたので,驚きのあまりよく考えずに裏拳を飛ばしていた。
「次に私の背後に立ったら命がないわよ」
上体を大きく反らせて私の攻撃をかわしたハヤテ君が,何事もなかったかのように笑って立っていたので,何故か悔しくなって脅し文句のような言葉がつい飛び出てしまった。
「ヒナギクさん,殺し屋でも始めたんですか」
それすらも軽く受け流され,後にはただ恥ずかしさだけが残る。
気を取り直して,目の前でさらさらと揺れる笹の葉にもう一度向き直った。笹には色とりどりの短冊が結び付けられている。
「いつの間に飾ってあったのかしら。随分たくさん短冊も結んであるけど」
「昼休み頃にはあったみたいですよ。みんなどんな願い事をしてるんですかね」
どうせ他愛のない願い事ばかりだろうと思いながら,手近な短冊に書いてある願い事を読み取る。

《世界征服》

いきなりスケールの大きなものが来た。短冊からはみ出かねない大きな字で書いてある。他のものを見ていくと,

《数学の成績があがりますように》

《億万長者になれますように》

《無病息災》

《変革と調和》

《カド番脱出》

《ここに書かれた全ての願い事が叶いませんように》

こんな調子で,まともな願い事の方が少ない。
「七夕の短冊はいつから大喜利大会になったのよ」
と思わずツッコミを入れていると,隣で同じように願い事を見ていたハヤテ君が,笑いながら短冊のひとつを指さして言った。
「ヒナギクさん,見てくださいあの短冊。あれ,ヒナギクさんが書いたんですか?」
どれ,と思ってハヤテ君が指さす先にある短冊に書かれた願い事を見ると,

《ハンバーグが食べたい》

「次に背後に立った時と言わず,今死にたいみたいね」
「じょ,冗談ですってば」
ハヤテ君は両手を挙げて,「どうどう」のポーズをとっている。馬じゃない。
「私の頭の中がそんなにハンバーグでいっぱいだと思っているわけ?」
「いやぁ,日頃からハンバーグへの愛は溢れていますよ」
「日頃の私のどの辺を見てそういうことを言ってるのよ」
まったく,人のことを何だと思っているのだ。私だって四六時中ハンバーグのことを考えているわけがない。毎日ハンバーグが食べたいわけではないし,七夕の願い事にしたいほどでもない。
「ははは,まぁ,すみません。あ,ところで,ハンバーグで思い出しましたけど」
短冊を見るのにも飽きたので,時計塔の方へ歩き出した私に並んでハヤテ君が話を続けた。
「今日の晩ごはん,何かリクエストありますか?」
この調子だとハンバーグにされかねない。いや,もちろん好物なので嬉しいが,ここでハンバーグをリクエストすると,私のキャラクター性がハンバーグに固定されかねない。
「そうね……」
しかし,一度ハンバーグのことに話が及ぶと,それ以外の料理を思い浮かべるのはなかなか困難な話だ。何とかハンバーグから離れなければならない。短冊に書いてあった願い事のせいで,私のキャラクター性に危機が訪れている気がする。
――そうだ,明日が七夕ということは,
「今日って,7月6日よね」
「ええ,明日が七夕ですからね。それがどうかしましたか?」
「じゃあ,サラダが食べたいわ」
「サラダですか? それは,今日が7月6日ということと関係があるんですか?」
あれ,知らないのか。今日が何の日なのか。
「誰かの誕生日とか……あ,シルベスター・スタローンの誕生日ですね,そういえば」
「だから何だって言うのよ。生卵でも飲めっていうの?」
「違いますか……」
わずかでも正解の可能性があると思って言っているのだろうか。
「うーん,何かの記念日? ん,記念日? あ,もしかして」
どうやら思い当たったようなので,頷いて正解の旨を示した。
そう,7月6日は『サラダ記念日』だ。
だからサラダが食べたい,というのも少し安直過ぎる気がするが,ハンバーグから離れられれば何でもいいと必死で考えていたらふと思い浮かんだのだった。
「あれ,7月6日だったんですね。流石に短歌が元になっているのは知ってましたけど,日付を意識して記憶していませんでした。ヒナギクさん,よくご存知ですね」
案外,そんなものかも知れない。そういえば,何で7月6日なのかは私も知らない。
「わかりました。今晩は腕によりをかけて美味しいサラダを作りますよ」
「でも,サラダはメインにはならないんじゃない?」
「ん,それもそうですね」
ハヤテ君は立ち止まって少し考える素振りを見せてから,優しい笑顔でこう言った。
「では,メインには美味しいハンバーグを作りましょうかね」

『サラダ記念日』の短歌は,随分前に見かけて気に入ったので,ずっと覚えていた。何気なく送っていた日常の中にこそ,大事な瞬間があるということを言っている気がしたのだ。
きっと,こうして何気なく送っている日々も,後になって思い返してみれば全部,大事な記念日になるんだろうと思う。それが実感できるのは,もう少し先のことなのかも知れないけれど。


-------------------------------
少しずつ作風が横滑りし始めている気がしています。
そのうち最初の方にも加筆修正をしていくかも知れない。

あ,ちなみに「ハンバーグの日」もちゃんとあって,8月9日がそうです(8と9でハンバーグって語呂合わせですかね)。
世の中には色々な記念日がありますが,その元祖はこの『サラダ記念日』にあるみたいですね。
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ハヤヒナもハン●チ世代なのに ( No.4 )
日時: 2013/07/01 22:56
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
こちらでは初めまして。

非常に好みのタイプです。(意味深)
ヒナ独白、相変わらずのハヤテ、もどかしい気持ち…ヒナ好きをやって長いですが、改めて初心に帰った気がします。
一話一話がコンパクト、それでいてハヤ←ヒナらしさは濃厚に抽出されている…読者としては読みやすい事この上なしです。
今後の自分の参考にもさせて頂きたく思います。

さだまさし、夏目漱石、俵万智と、学生時代に頭に入るような知識になんとも懐かしい気分にさせて頂きました。
ヒナとハヤテ、生まれ年は私も一緒なのに、8年若返って初めてこいつらと「同い年」…悔しいですのう。笑


『ハヤテ君は両手を挙げて,「どうどう」のポーズをとっている。馬じゃない。』

↑個人的に一番好きな文。主語の抜けた文章からヒナが興奮してる様が伺えました。


では、次回も楽しみにしております。
失礼しました。
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レス ( No.5 )
日時: 2013/07/02 00:39
名前: 春樹咲良

>>4 ロッキー・ラックーンさん

いつもお世話になっています。
そして,こちらでは初めまして。

SSに限らず,創作方面での自分の能力には早々に見切りを付けていたのですが,気まぐれという名の諦めの悪さが露呈した模様です。
それでも形にしてみて,それを読んでくださる方,感想をくださる方が居るのはありがたいことだなぁと,久しぶりに実感した次第です。
技術的には未熟な点が多々ありますが,生暖かく見守っていただけると,少しずつつけ上がります。

ちなみに,前に話したかも知れませんが,私もハヤテ達と同世代(2005年時点で高2)なので,書くときはいつも自分の高校時代を思い返しながら書いています。
この歳になってみないと気づけなかったこともあるなぁ,としみじみ実感したりしています。
本編の,時間軸に忠実な部分は私も気に入っているので,第3話(>>3)ではわざわざ「2005年7月6日が平日であること」を,携帯のカレンダーを遡って確認するなどしています。

それから,「しあわせの花」をざっと読ませていただきました(すみません,分量が結構あったので,ひとまず先に目を通すだけしました)。
本編の雰囲気そのまま,テンポ良く流れていく会話がとても刺激的でした。
私の作品は目下作者に余裕がないので,ハヤテとヒナギク以外のキャラクターが存在すらしていないかのような世界になっているという点から見ても,大いに参考にさせていただきたい点が多数。
まだまだ精進が足りませんね。
また,じっくり目を通してから,今度は作品の方に感想を書き込ませていただこうかと思います。

これからもよろしくお願いいたします。
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secret nightmare【4】 ( No.6 )
日時: 2013/07/03 16:44
名前: 春樹咲良

monthly


時々,全てを見透かされているのではないかという気になって,恐ろしくなる。
あなたの眼差しは,いつも優しく,いつも平等で――
だからいつも,私は苦しい。
――私には,眩しすぎる光。





朝から身体は明らかな不調を訴えていたが,昼を過ぎてからは体調は悪化の一途を辿り,放課後,時計塔に着いた時には,ほとんど倒れこむようにしてソファに横になった。
体が重い。腹の底に鉛を溜め込んだみたいな鈍痛が,全身の倦怠感につながっているようだ。
不調の原因ははっきりしているが,それにしても今日は例になく症状が重たい。そして間の悪いことに,こんな時に限って薬も切らしていた。
今朝から言ってみれば気力だけでここまで何とか乗り切ってきたが,まだ残っている仕事の山を見ると,いい加減音を上げたくなってくる頃合いだった。

ふと耳を澄ますと,こちらに近づいてくる足音がした。
むくり,と起き上がり,乱れた髪を整えながら,今は誰にも会いたくないんだけどな,と思っていた。
会いたくない,会いたくないと思っている時に限って――
「ヒナギクさん,居ますかー?」
――やって来るのは,出来れば今は一番会いたくない人だ。
「何度も言ってるけど,ノックしてから入りなさいよ」
振り向かずに無愛想に答えると,ハヤテ君は申し訳なさそうに
「すみません,いつも気をつけようとは思っているのですが」
と言った。この人がノックもせずに扉を開けるせいで,一体何度着替えの最中を目撃されてしまったか分からない。
「いつも気をつけて私の着替え中にドアを開けているのかと思ったわ」
「そんな,人聞きの悪い。ピーピングトムの趣味はないですよ」
「『着替え中の生徒会長』を白皇学院の名物扱いしようとした人が言うセリフとは思えないわね」
この辺りで止めておかないと,今日は皮肉に歯止めが効きそうにない。
「まぁ,いいわ。ところで……」
と口にしたところで,思いとどまった。「頭痛薬とか持ってない?」などと聞いてしまっては,自分の窮状を知らせることになってしまう。変に勘がよく,そして絶望的にデリカシーのないハヤテ君のことだ,どんな天然無神経が発動するか分かったものじゃない。
場合によっては殴り飛ばすどころか絞め殺したくなっても不思議ではない気がする。
「……何でもないわ」
ハヤテ君は一瞬怪訝そうな顔をしたが,すぐに用件を済ませて出て行った。途中からいつもの机に頬杖をついて対応していたが,ハヤテ君が出て行くと同時に,机に突っ伏した。

やはり今日はいつも以上に重い。原因として真っ先に思い浮かぶのはストレスだが……まぁ,確かに環境は随分変わった。自分ではうまくやり過ごしているつもりでも,少しずつ溜まったストレスが,こんな形で自分に降りかかってくるとは思っていなかった。
弱気になりそうな自分を,なけなしの気力で奮い立たせようとする。まだこんなに仕事が残っている。少しだけ休めば,何とか動ける。月の障りごときで執務不能に陥るようでは,由緒ある白皇の生徒会長の名折れだ。
そんなことを考えているところへ,ノックの音が舞い込んだ。
どうぞ,と答えたのとほぼ同時に開いたドアのところに立っていたのは,帰ったはずのハヤテ君だった。
「何よ,まだ用事?」
露骨に嫌な顔をしてしまった気がする。ああ,嫌だな。こんな自分は,本当に嫌だな。
「いえ……すみません。ここのところ少しお疲れのようでしたので,差し入れでもと思って。ここに置いておきますね。お邪魔してすみません」
それでは,とハヤテ君は私に返事をする暇も与えずに,部屋を辞した。
一人取り残された私は,「何なのよ,一体」と悪態をつきながらハヤテ君が置いていった「差し入れ」を確認する。
「差し入れ」はドラッグストアの袋に入れられていた。最寄りの店舗でも,白皇から割と距離のあるところではなかったか。このわずかな時間で往復したというのだろうか。相変わらず,常人離れした身体能力だ。
袋の中身は,夏みかんのゼリーとお茶,そして――頭痛薬だった。
やっぱり,気づかれていたのだろうか。人に対する気配りにかけては右に出るものが居ないと言っていいハヤテ君のことだ,私の不調に目敏く気づいたのは,そこまで驚きではない。私も,余裕が無さすぎていつも通りに振舞えていなかった。
私の不調を頭痛によるものと考えて買ってきたのか,或いは――
どちらにしても,この状況では有り難いに違いない。ただ,それでもなお貰った薬を服用するのをしばらく躊躇った。ここでこの厚意に甘えてしまっていいのか?
厚意と好意を都合よく取り違えようとしているわけではない。元々の性格からくる意地っ張りだ。

「女の子らしさ」と無縁,とは言わないまでも,それをほとんど意識することのないまま,長く過ごしてきた。生来の負けず嫌いで,小さい頃から随分男勝りに育ってきたし,大抵のことでは男に負けることもなかった。ほとんどのことは努力でどうにかできることだったし,そのために自分を高めるのが楽しかった。
それでも,いや,だからこそだろうか,自分が女に生まれたことを疎ましく思ったことは,一度や二度ではない。自分ではどうにもできないところで,私は女という性を生きなければならないのだということを,そのたびに受け止めなければならなかった。
年齢を重ねるに連れて,少しずつ折り合いを付けられるようになってきた。今の自分の性格は,性差を特別意識してのことではないつもりだ。
それでも,自分が弱っているところは,出来れば誰にも見られたくない。ある意味,着替えを覗かれるよりもずっと恥ずかしい。

頼ってしまったら,引き返せなくなりそうだと思った。
弱い自分を認めてしまうのが怖かった。他の誰でもなく,ハヤテ君に守ってもらいたいと思っている私が,どうしようもなく悔しかった。
「……本当に」
ビニール袋を胸に抱き寄せて,自分に言い聞かせるように呟いた。

本当に,素直じゃない。


-------------------------------
横滑りしつつある作風を更に迷走させるなど。ややネタ切れ気味です。
リアルの都合で,次はあるとしても週明け以降になりそうです。
感想への返信は極力させていただくつもりですが。

ここの読者層を考えると,少し躊躇うようなテーマで書いてしまいましたが。
コメントしづらい。ヒナギクってどんな子どもだったんでしょう。

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???「マリアさん、今月分のオルニ●ン来てましたよ?」 ( No.7 )
日時: 2013/07/03 23:25
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

やっぱり好みのタイプです。(迫真)
なんやかんや言ってもイザという時(今回の場合は実はヒナにとって重大な事態であると思います)にはヒナを気遣えるハヤテ。いけるやん!

しかし驚いた事に、そんなハヤテを頼りたいと思ってる自分に悔しさを覚えているヒナ。コレが結構衝撃的でした。
同じような状況を書いた時に、自分では恐らく出来ないヒナの動かし方です。
絶望的に悪い体調の中でも発動してしまう意地…元来の桂ヒナギクというキャラクターの成分をコトコトコトコト濃い煮汁になるまで煮出して、煮詰めて煮詰めて、濃厚なエキスにしたような印象を受けました。うーん、初心に帰りますね。
ヒナの内面(特に負けず嫌いと恋心)をここまで描けた作品とは久々に出会えた気がします。

ちなみに目次の”monthly”を見てゲス顔で下スクロールをしたのは内緒です。
しかも当たってしまうとは…笑

それでは次回も期待しております。
失礼しました。
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レス ( No.8 )
日時: 2013/07/04 01:55
名前: 春樹咲良

>>7 ロッキー・ラックーンさん

お世話になります。

ハヤテは白皇の誇るクラッチヒッターですからね。
ここぞという時のボーンヘッドが玉に瑕ですが。
最初のプロットでは,彼は何も考えずに帰宅して出番終了だったのですが,気づいたら何故か戻ってきてしまいました。作者の当初の意図から離れて勝手に動き出してしまうので困ります。

ヒナギクについても,基本的には状況だけ設定してあとはスタンドアローンに振る舞ってもらったのですが,どうやら彼女は悔しいらしいです。彼女なりの複雑な心境があるのでしょうけれど,実は何故彼女が悔しいのか,はっきりと説明することは私にもできなかったりします。
小説を書くときには,プロットを緻密に立てる派と,登場人物が好き勝手に動き回る様を描写する派に分かれると聞いたことがありますが,私はどちらかというと後者のようです。
私の捉えている範囲でのヒナギクに,適当な舞台を用意して,そこで彼女がどのように動くかを,私が観察しているというイメージですね。

それにしても,目次に示されたタイトルだけでピンと来る方がいらっしゃるとは,侮りがたし……(笑)
婉曲的な表現って難しいな,と改めて実感しました。というか,どのレベルまでなら許されるのかは結構手探りです。
元々がかなり挑戦的なテーマというか作風で飛び込んでいる自覚があるので,読者諸賢の反応はやっぱり気になるものですね。
いずれにせよ,まだまだ精進が足りません。

今後ともよろしくお願いいたします。
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Re: secret nightmare(短編連作)レス完了 ( No.9 )
日時: 2013/07/04 03:50
名前: 餅ぬ。

こんばんは。餅ぬ。です。
初めまして……になるのでしょうか。(チャットで会っていたらごめんなさい)
一話目からすごくツボにハマってしまい、更新を楽しみに毎日こっそりと覗いていました。

なんというか、求めていた理想的なハヤヒナ(ハヤ←ヒナ)像がここにありました。
恋に患うヒナのもどかしさが堪りません。そして相変わらずなハヤテもまた……(笑
ハヤテとのヒナのやり取りがすごく二人らしくて、原作基準のキャラを活かすというのはこういうことなんだろうなあと感嘆してしまいました。
私も短編集を書いている身ですが、脳内イメージが先行してキャラ崩壊がよく起こるので、綺麗で読みやすい文体とハヤテのごとくらしい世界観はとても参考になります。

そして四話目がもう色々と衝撃を受けました。
書きにくいであろう内容をさらりと書き上げる手腕が羨ましいです……。
ヒナの体調不良に心底共感できた為か感情移入しすぎて、さり気無く気配り上手なハヤテにきゅんとしてしまいました(笑
故にヒナの負けず嫌いというか、悔しいという気持ちがすごく際立っていて、ヒナギクという女の子の味わい深さを改めて感じました。
他のお話でもそうですが、恋心を自覚しながらも素直になれないヒナが可愛くて大好きです。

それでは、長々と乱文失礼致しました。
これからも更新を楽しみにしています。
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レス ( No.10 )
日時: 2013/07/04 15:53
名前: 春樹咲良

>>9 餅ぬ。さん

お世話になります。
(チャットでお会いした記憶は,私も曖昧です……)
とりあえず,こちらでは,初めましてですね。

お読みいただきありがとうございます。何だか身に余るお言葉が並んでいる気がします(ビクビク)
人によってヒナギクというキャラクターの受け取り方(餅ぬ。さんのお言葉を借りれば「脳内イメージ」ですね)は色々あると思います。
私も,原作から読み取れる範囲でのヒナギクの性格というか,人となり(私の中でのヒナギクに対する「脳内イメージ」)を基準に置きつつ,それを膨らませていく感じで書いています。
作者によってヒナギクのキャラクターが原作の描写の範囲からは多少離れることがあっても,それは作者の個性の範疇であって,キャラ崩壊とまでは行かないのかなぁと思ったりもします。

余計なことを承知で言いますが,およそ少年漫画やアニメに出てくるキャラクターが,月の障りのときどうしているか,なんて,それこそある意味キャラ崩壊のような気がしてきます(少なくとも20代男性がゲスい顔でスクロールしたくなるくらいには)。
正直なところ,自分が「ハヤテのごとく!」の世界観を壊さないように書けているかはあまり自信がないところです(他作品の世界観を持ち込んでは居ませんが,そういう点ではなく)。
とはいえ,大きく不評を買っているわけでは無さそうだという点では結構安心しました。
技術的にはまだまだ精進が足りないと思っているのですが,主に皆さんのヒナギク愛に応えられるように,ちまちまと書いていく所存です。

今後ともよろしくお願いいたします。
それでは。
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secret nightmare【5】 ( No.11 )
日時: 2013/07/05 11:24
名前: 春樹咲良

sharing


いつの間にか,ルビコン川を渡ってしまっていたみたいだ。
思い返してみるけれど,それがいつのことだったかは分からない。
或いはまるで,初めて会ったときから,こうなることを知っていたかのような。
そう,囚われてしまったのは,私。
どんなにもがいても,溺れそうなの。
今はまだ,光の届かぬ水底で――





迂闊だった。こんな時に限って,傘がないなんて。
こんな時というのはつまり,下校途中に夕立に遭ってひとまず公園の東屋に避難した今の状況を言う。
校門を出たところまでは,夏真っ盛りかというような日射しがあったはずだったのに。
途中からポツポツと降り出した雨に歩く速度を速めたのも束の間,バケツをひっくり返したような,というのはこういうのを言うんだろうというような大雨になってしまった。
こんなことなら折り畳み傘を鞄に入れておくべきだったと後悔したが,この雨ではあまり効果的ではなかったかもしれない。
学校になら置き傘くらいはあっただろうが,引き返すには少し遠い。出来れば早く帰りたいと思っていたが,どうやらそれも叶いそうにない。
濡れた制服が肌に張り付いてベタベタする。
いつまでもこうしては居られない。このままでは確実に体が冷えて風邪を引く。
早く帰らなければ。しかし,この雨がいつまで続くか分からない。
こんな時――そう,ピンチの時に駆けつけてくれる人。
そんな私の考えを読み取ったかのように,ふと気づくとこちらに歩いてくる人影があった。
――まさか,本当に現れるとは。

「あぁ,よかった」
ハヤテ君は,東屋で雨宿りをしている私を認めると,走って駆け寄ってきた。
「もしかして,傘をお持ちじゃなかったのではなかったかと思って」
この人は,本当に,どうしていつも……どうして……
「お迎えにあがりました,ヒナギクさん」
傘を畳んで,執事らしくお辞儀してみせた彼はしかし,
「……どうして一本しか傘持ってないのよ」
畳んだ傘の他は手ぶらでやってきたのだ。
「……あれ?」

何ということだろう。ピンチ拡大だ。
傘は一本,人間は二人。雨の中,濡れずに二人で帰る方法として,考えられるものは――
一緒の傘に入る。
……無理だ。
嫌なわけではない。しかし,圧倒的にこちらからは頼みづらい。
かと言って,ハヤテ君が提案してくるのも――
「では,ヒナギクさんはこれを差して帰るといいんではないでしょうか」
「でも,それじゃ……」
「僕は走って帰りますし」
そう言って私の手に傘を握らせる。そうだった。この人はこういう人だった。
「それもおかしいでしょう。ていうかそれじゃ私の方が気持ち悪いわ」
傘を持ってきてもらっておいて,持ってきてもらった人には濡れて帰ってもらうなんて,このままずぶ濡れで帰った方が幾分かマシだ。
「いえ,しかしですね……」
ああもう,このままでは埒があかない。
「はぁ……」
この際,仕方がないか。
この人は,変なところで頑固だ。女の子の扱いに関して言うなら,気が回り過ぎてどこかズレていることも多々ある。
そう,だから,今から私がする提案は,とても不本意ながらするものだ。断じて勘違いしてはならない――
一体誰に言い訳をしているんだろうか,私は。

「……このままこうしているわけにも行かないし,二人とも早く家に戻らないといけないし」
声が震えているかもしれない。
「そんなに離れてないっていうか,ちょっと急げばすぐに着く距離だし,だからその――」
言い訳がましいかもしれない。でも,勢いに任せて,
「傘,一緒に入って帰らない?」
一気に言ってしまう。ああ,言ってしまった。
「ええとその……いいんですか?」
「何よ,私とじゃ不満?」
多少の遠慮を示すのは,ハヤテ君ならありそうだと思っていた。しかし,続くハヤテ君の一言は,緊張していた気分を一気に暗転させるものだった。
「いえ,そういう訳では……。ただその,僕と傘をシェアするのは,ヒナギクさん,イヤだったりしないかなと……」
もう少しで,持っていた傘をダメにする勢いでハヤテ君を打ち据えるところだった。
この期に及んで何てことを言うのか。
ここまで,思い切って,言ったのに。
ここまで,いつも,助けてもらっているのに。
――こんなに,想っているのに。
「……じゃない」
「えっ?」
「イヤなわけ,ないじゃない!」
ほとんど叫ぶように言ってしまってから,
「……何でもない」
何でもないわけがない。
ハヤテ君は,それ以上は固辞しなかった。
「……すみません」
また謝られてしまった。
「それじゃあ,少し急ぎますけど」
再び私から傘を受け取ると,それを差したハヤテ君の横に並んで,私たちは歩き出した。

顔があげられなかった。
重苦しい無言。二人で黙々と帰り道を歩いていく。
さっきまでの会話を思い返してみる。どうしていつも,こう失敗ばかりしてしまうのだろう。
折角の,その……相合傘なのに。
そう言えば――ハヤテ君は,「傘をシェアする」という表現をしていたっけ。
何て言い回しだろう。意図的に「相合傘」という単語を避けられたのか。
どうしてこうなってしまうのだろう。そう考えると,気持ちが一気に沈んでいく。
信号待ちで止まったときに,意を決して一度,ハヤテ君の方をちらりと見上げてみた。
ハヤテ君は,妙に緊張した顔をしていて――あれ? 緊張しているの?
もしかして,この表情は,ハヤテ君――
――何だ,そうか。
ハヤテ君も,恥ずかしいのか。
そう言えば,情緒が小学生並みだとからかったこともあったっけ。思えば遠い昔のことのようだ。
私だけが恥ずかしがっているわけじゃないのだと分かると,沈んでいた気持ちが急に軽くなったようだった。
「何よその顔。照れてるの?」
「からかわないでくださいよ,もう。無事にヒナギクさんを家まで送り届けるミッション遂行中で,緊張してるんです」
やっぱり,照れている。
「ほら,濡れちゃいますよ」
そう言って,傘を私の方に傾けてくる。こんな時でも,この人はこんなに優しい。それは,知っていたことだけれど。
今この瞬間,こんな風に私に優しいハヤテ君が居るのだということを,私だけが知っている。これは,私だけの時間。
それは,今までにあまり感じたことのない満足感をもたらすものだった。

そうこうしているうちに,アパートまではあと数百メートルの一本道というところにさしかかった。紆余曲折はあったが,結果だけみれば相合傘でここまで歩いてくるという幸運に恵まれた。
急な夕立には感謝しておいた方がいいのかも知れない,などと考えているところへ,
ごおっ,という猛然とした音と共に,今日一番の突風が駆け抜けた。
それは,傘が壊れそうなほどに強い風で……そう,強い風で――
ざああああああ――
傘が壊れた。無残に折れた骨が,むき出しになっている。
しばしの間,二人で呆然と立ち尽くした。……もうこうなってしまっては。
「もうこうなったら」
「走るしかないわね」
二人とも笑っていた。もう笑うしかなかった。そしてそれはなぜか,妙に安心感のある笑いだった。
「じゃあ,行くわよ? 用意スタート!」
「え,ちょ,ちょっとヒナギクさん?!」
もうアパートは見えている。振り返ればハヤテ君も,出遅れながらも走ってついてきている。帰ったらすぐにお風呂の支度をしてもらわないと。濡れたままでは風邪を引いてしまうかもしれない。
そうだ,着いたらハヤテ君にこう聞いてみようか。

「お風呂,一緒に入る?」


-------------------------------
時間が作れたので,週明けを待たずに第5話を更新です。
相変わらずどこを目指しているのか私にも全然分かりません。

とりあえず,ハヤテの不幸体質にかかれば,相合傘なんて定番のテーマでも無事には済みません。
結果的にヒナギクが楽しそうだからいいかな,などと思ってみたりなどする。話の都合上,最近ちょっとヒナギクが迂闊すぎです。
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Re: secret nightmare(短編連作)【5】更新 ( No.12 )
日時: 2013/07/05 14:58
名前: 大和撫子



どうも、大和撫子です。お久しぶりですかね。(覚えているでしょうか?)


この作品をひと通り見て、私はハヤアテ派なんですがそんな私にハヤヒナもいいんじゃないだろうかと思わせられました。


ハヤテとヒナギクのキャラがよく表現されていて、ヒナギクの一人称にすることで漫画等ではわからないヒナギクの心理描写がとてもよく書かれていますね。個人的にはもう少し改行を増やしてもらえると読み易くなって助かります(笑)


このような文章力の高い作品を作る人が現れて私は非常に勉強になります。やっぱりこれは歳を重ねることで身についていくものなのでしょうか。これからも更新頑張ってください。応援してます。



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混浴シーンが果てしなく遠い ( No.13 )
日時: 2013/07/05 22:20
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

「……あれ?」→何を考えて出かける仕度をしたんですかねえ、ハヤテ君。
そんなゲスな想像をしながら、「相合傘」の話で始まった2年前の自分が恥ずかしくなったりならなかったり…。
「傘をシェアする」…オシャレな表現だけど、ハヤテはその晩の枕元で「うわぁぁあああ」となってしまう事請け合いな恥ずかしさですね。

本当にわずかではありますが、ハヤテがヒナを意識し出しているのかなという印象が出てきて、非常にwktkしております。
ヒナがそれを感じ始めた時(それが真実だろうが誤認だろうが)、色々なしがらみやらなんやらが出てきて、作り手側的にとても面倒だったりするんですよね。

個人的な嗜好でありますが、想い人と共有する時間を幸せそうに語るパターンが好物です。
傘を自分の側に傾けるハヤテに嬉しそうにするヒナがとてもおんなのこおんなのこして可愛らしいですね。

さて、次回は二人でお風呂編ですか。(ゲス顔
楽しみにしております!

失礼しました。
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レス ( No.14 )
日時: 2013/07/06 01:23
名前: 春樹咲良

>>12 大和撫子さん

お世話になります。
確か先日チャット会でお会いしましたね。

ヒナギクの良さを皆さんに知らしめる…という意図は別にないというか,実を言うとそもそも特にヒナギクやハヤヒナが好きというわけでも無かったりするのですが。
まぁそれでも,他のキャラやカプ推しの方に何かしら新しい魅力が伝わったのだとしたら,文字通り望外の幸せです。
ちなみに私がヒナギクの話を書いているのは,この人が一番書きやすいというか,内面描写を自分と重ねやすいからですね。

それから,改行についてですが,見にくくて申し訳ないなとは思っています。
ただ,個人的には改行にはこだわっているというか,改行も含めての文章表現だと思っているので,今後もこのスタイルはそうそう崩れないかと思われます。
あしからずご了承ください。

文章力については,果たして年の功というものが存在するのか,私はあまり信じていませんが(私より年下の人が直木賞を取るような時代ですから)
それでも若い方よりは多少,文章に触れる機会も,書く機会も多かったかなぁと思わなくもないので,そういうところの差ではないかと思います。
創作活動は一にも二にも,場数を踏むことが大切だなぁと実感する日々です。

これからもよろしくお願いいたします。


>>13 ロッキー・ラックーンさん

いつも感想ありがとうございます。

ハヤテが何を考えて一本だけ傘を持って出ていったのか,真相は闇の中……。
いや,正直なところ,ハヤテの内面描写についてはさし当たりする予定がありません。
正確に言うと,できそうにない,といったところでしょうか。
じゃぁヒナギクなら内面描写できるのかと言われるとそれも微妙ですが,今しばらくはヒナギク視点で物語を動かしていこうかなと。

それから,あくまでサイドストーリーとして書くことに徹しようと思っているので,本編でよほどのことがない限りは,このもどかしい距離感のまま話が続くことになりそうです。
いい加減,ハヤテとヒナギク以外のキャラクターが登場するべきのようにも感じるのですが(驚いたことに,ここまで名前すら出ていません),このこぢんまりとした短編連作は私の性分にも合っているみたいですね。

お風呂編については,ハヤヒナSSの大先輩であるところのロッキーさんにお任せしようかなと思うのですが,いかがでしょう(笑)
次回についてはまったく未定です。行き当たりばったりが信条です(苦笑)
まだまだ精進が足りませんね。

それでは,今後ともよろしくお願いいたします。

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secret nightmare【6】 ( No.15 )
日時: 2013/07/14 01:55
名前: 春樹咲良

phrase


淡い夢を見ていたの。
目覚めたときに全て忘れてしまいたいような,幸せな夢。
私を見ないで,私に触れないで,私に笑いかけないで。
あなたのその優しさが,私の心を乱すから。





昼休み。夏の眩しい日差しが降り注ぐ中,木陰に置かれたベンチにハヤテ君が座っているのを見つけた。手に何かの本を持っている。
「何読んでるの?」
いつも不意打ちを食らうので,今日はこちらから声をかけてみた。
「ああ,ヒナギクさん。こんにちは」
ハヤテ君は顔を上げると,いつも通り私に笑いかけてきた。不意打ち失敗。

「お嬢様を学校に行かせるのに,名言が有効らしいんですよ」
「名言?」
ベンチに並んで腰掛けると,ハヤテ君はさっきまで読んでいた本について語った。ハヤテ君が読んでいたのは,若者に向けた名言をまとめた本なのだという。それにしても,相変わらず理由を付けて学校に行かないのか,あの子は。
「この間は,マリアさんが1日を1円に換算して,限られたものを無駄にしてもいいのかという話をしてくれたんですけど」
そう言えばこの間,縁側で千桜とそんな話をしていたのを,通りがかったときに耳にした気がする。あれはそういう話だったのか。
「こう,ストックを作っておきたいじゃないですか。いざというときに,効果的な名言を繰り出せるようになりたいというか」
今後も主人を学校に連れて行くのに苦労するであろうことを見越しての発言に,日頃の苦労がにじみ出ている気がする。
「まぁ,座右の銘にできそうな言葉が見つかるとか,自分のためにもなるかも知れないわね」
「ヒナギクさんは何かいい名言ご存じですか?」
「そうねぇ……」
名言集を受け取ってページをめくる。ふと,あまりに有名な言葉が目に入って,手を止める。

《天才とは1%のひらめきと99%の努力である》

「えーと,これは,アインシュタインでしたっけ」
ハヤテ君が隣から覗き込んで言った。
「エジソンよ。さすがにベタすぎかしらね」
「努力の大切さは分かるんですけどね」
「ていうかあの子,天才だから学校には行かなくてもいいと思ってるわけじゃないし」
「そうなんですよねぇ」
どちらかというと真性の引きこもりのようなものだと思う。
「学校に行く大切さが分かる名言なんて都合のいいもの,そうあるものじゃないわよ」
「うーん……」
考え込んでしまった。二人で名言集をめくりながら,めぼしいものはないか探してみる。
「これとか,どうでしょうね」
ハヤテ君が指さしたのは,ゲーテの言葉だった。

《いかにして人は自分自身を知ることができるか。観察によってではなく,行為によってである。汝の義務をなさんと努めよ。そうすれば,自分の性能がすぐわかる》

「遠回しすぎますかね」
「あの子,多分登校を義務だと思ってないから,ダメなんじゃないかしら」
それに,自分の性能については,学校ではないところでよくよく学んだみたいだし。
「うーん……」
再び考え込む。
「ゲーテなら,もっと直接的にこんなのはどう?」
多分あるだろうと思ってページをさらにめくると,目当ての言葉が見つかった。

《気分がどうのこうのと言って,なんになりますか。
 ぐずぐずしている人間に気分なんかわきゃしません。
 ……………
 きょうできないようなら,あすもだめです。
 一日だって,むだに過ごしてはいけません。》(ゲーテ『ファウスト』)

「こないだのマリアさんのに通じるものがありますね」
「前半だけでもそれなりに効果はありそうよ」
ハヤテ君が言うのはあまり想像できないけれど。何だかんだ言って,ハヤテ君は基本的にナギには甘い。
「なるほど,やっぱり古典には参考になる言葉が色々あります」
「でも,ナギならどちらかと言うと,漫画やアニメから引っ張った方が効果的だと思うわよ」
「ああ,それもそうですね……」
このアパートの住人は,時々私に理解できない出典の引用をしてくる。ハヤテ君は,そちら方面の名言を思い浮かべようとしているようだ。
私にはついて行けないので何の気無しに名言集のページをめくっていると,同じゲーテのこんな文句が目に入ってきた。

《愛する人の欠点を美点と思わない人間は,その人を愛しているとは言えない》

どうやら,愛についての名言をまとめた章のようだ。
「欠点ねぇ……」
考えていたことがそのまま口に出てしまったようだ。ハヤテ君が気づいて,
「ヒナギクさんに欠点なんてありますかね」
と言いながら,こちらの手元を覗き込んできた。思わず「うわっ」と言いそうになるのをぎりぎりでこらえた。この人を目の前にして,愛に関する名言を落ち着いて読める自信はあまりない。
動揺を隠しつつ,この機会なので前から思っていることを改めて言ってみた。
「……ハヤテ君は,明らかにデリカシーが足りないと思うわよ」
「え,デリカシーですか? うーん……」
この人のデリカシーのなさは筋金入りだと思う。それにしても,デリカシーのなさを美点として受け止めることは本当にできるのだろうか……?
自分の過去の行動について振り返っているらしいハヤテ君の隣で,私も考え込んでしまった。
二人で並んで考え込んでいる様子がおかしくなって,思わず吹き出しそうになる。そこでふと思い出して,もう一度名言集のページを開いた。目当ての言葉は,先ほどの名言のすぐ後のページに載っていた。
「ん,ヒナギクさん,今度は何ていう名言ですか?」
ハヤテ君がまた覗き込んでこようとするのに気づいて,すぐに本を閉じる。
「秘密よ。デリカシーのない人には教えてあげない」
「ええっ,そんなぁ」
ちょっと,都合のいい解釈をし過ぎだと自分でも思うから,やっぱり恥ずかしい。

《愛する,それはお互いに見つめ合うことではなく,一緒に同じ方向を見つめることである》(サン=テグジュペリ『人間の土地』)


-------------------------------
随分間が空いてしまいました。
どうしようもなくネタ切れ気味なので,名言に頼ってみました。

ヒナギクがこんなにゲーテに詳しいかどうかは分かりませんが,完全無欠の生徒会長なのできっと『ファウスト』も『若きウェルテルの悩み』も『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』も全部読んでることでしょう。
ここに挙げた以外にも,世の中には先人達の残した名言がたくさんあります。もちろん,恋だの愛だのに関するものもたくさんあります。
その辺は,これから先の話でも少しずつ触れていけたらいいかなぁ,と思わなくもないです。
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捕球即バックホームならフォースプレーだったのに ( No.16 )
日時: 2013/07/15 03:59
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

アカデミックな雰囲気のところ申し訳ありませんが、「どうしたんだナギ!何のための女子高生だ!これはいけませーん!!」という言葉を贈りたいですね。(改変しているから名言とは言えませんが)
学校に行ける時期というのも今思えばとても幸せなものだったなと思ってる自分がいます。
ああ、この二人のやり取り見てると自分の歳を重く感じてしまいます。笑
「もう(青春時代が)ないじゃん」とならないような人生を彼女には送って欲しいですね。

デリカシーの無さ…「図太い」とでも表現すれば、少しは見られるものになりましょうか?
「欠点も全て含めて愛する」というスタンスのウチのハヤヒナには、「欠点=美点」という見方はちょっと難しいですわい。

さて、最後にヒナに贈る言葉を。
「待ってるだけの私だったなら今ごろ二人は他人のままね」(伊藤静『いいでしょ』より)
自分から積極的にいかな(アカン)。

ところで今まで言ってませんでしたが、プロローグが毎回ヒナらしさを感じてすごいと思っております。(こなみ


毎度の事ながら、恵まれたスレにて糞みたいなレスでお騒がせして申し訳無さの極みです。
次回も楽しみにしております。
では失礼します。


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レス ( No.17 )
日時: 2013/07/15 23:26
名前: 春樹咲良

>>16 ロッキー・ラックーンさん

いつもお世話になっています。

ナギ「(引きこもっては)いかんのか?」
さておき,高校時代というのは振り返ってみると人生で随分大きな割合を占めますね。
そのうちかなりの時間を旧ひなゆめチャットに充てていた私がいたりするんですが(苦笑
私事ですが,今日で25歳になりました。光陰矢の如し。過ぎ去りし青春の日々は戻らない。

ゲーテの言葉については,「欠点」を裏から見るという他に,「そういうダメなところもイイよね」みたいに受け取れるようになれ,という意味もあるのではないかなと個人的には考えています。
そうでなくても信じがたいほど高スペックですからね。ある程度バランスが取れている(?)という受け止め方をしてもよいのではないかと。

それにしても,ヒナギクほどの女性が一目惚れするってどんだけやねんハヤテ兄貴,という気がしなくもないです。
ヒナギクの方から積極的に関わっていった結果,今の関係に至っていると言って過言ではないと思うので,その辺り罪な男ですね。
作者「やっぱり(デリカシーは)与えられねーわ」

何が言いたかったのか分からなくなってきました。

プロローグについては,実は完全に別のところで書きためていたつぶやきを再編集しています。
報われない感じの片想いの描写は,ヒナギクに割とうまくハマってくれている感じだなと思っています。

毎回毎回,ウィットに富んだ感想をありがとうございます。
まだまだ精進が足りませんが,これからもよろしくお願いいたします。
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secret nightmare【7】 ( No.18 )
日時: 2013/07/24 03:32
名前: 春樹咲良
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/yybbs/yybbs.cgi?mode=new_html&no=103

enemy


ねぇ,きっと,あなたの中に私は居ないから。
交われないなら,離れていくしかない。
この世の中には,あなたに関する記憶が,少し多すぎる。
あなたの記憶をすり減らしながらでも,きっと生きていけるから――
パラレルワールドで,また出逢えたら。





夏休みの目下の課題というか,いっそ清々しいネーミングと言うべき『夏休みの敵』には,私の周囲でもかなり苦戦している人が多いようだ。最初から自分でやる気がなさそうなのは除くけれど。
ハヤテ君も例に漏れず苦戦を強いられているようで,今日は夕食の後片付けが終わったらハヤテ君の部屋で少し教えることになっている。私も人に教えられるほど片付いているとは言えないけれど,ハヤテ君の頼みなら……仕方がない,ことにしておく。
そもそも,自分の力で取り組んでいるから「分からないところがあるので聞きたい」という言い回しができるのだ。そういう努力のできる人に,協力を惜しむなんてことがあるはずがない。
何だか,何を言っても言い訳じみてしまうのはどうしてだろう。

「で,早速なんですけど」
相変わらず鈍器にしか見えない『夏休みの敵』を机の上に広げページをめくりながら,ハヤテ君は言った。
「"E"ってなんですか?」
「……どの"E"のことを言ってるの」
世の中,"E"で表す学術的な記号・単位がどれだけの数あると思っているのだろう。自然科学なら普通エネルギーだと思うけれど,他に"E"で表すものって何があっただろうか。
「えーっと……あ,ありました。これです,これ」
ケッペンの気候区分では"E"は確か寒帯……などというところまで思い出している間に,ハヤテ君が見つけて指さした問題は,数学の確率についての問題だった。
「なんだ,確率の問題だったら普通,"E"は期待値(expectation)よ」
ちなみに小文字の"e"なら自然対数の底か,または離心率……そんなところまでは求めていないか。
「期待値……何だかギャンブルの臭いのする言葉ですね」
「どういう漫画を読んだらそういう発想に至るの」
まぁ,確かに無縁のものではない。
「そうね,期待値はここに書かれているとおり,とり得る値とその確率の積の総和で表されるけど,これを使って計算すると,宝くじなんかはあんまり買う気が起きなくなると思うわ」
ちなみに,宝くじの期待値は販売額の50%を超えないことが法律で決まっているので,300円で買った宝くじの期待値が150円を超えることは決してない。
「まぁ,元々地域振興の財源に充てるための事業ですしね,宝くじって」
「宝くじに期待値なんて話を持ち込む方が無粋かも知れないわね。期待値に関しては,袋の中に入れた赤玉と白玉について考えるだけでさし当たりは十分よ」

「でも実際,もしも宝くじが当たったら,なんてことを考えたことある?」
確率の問題を片付けた後,一息つくついでに雑談を投げかけてみた。
「僕ですか? うーん,どうでしょう」
目の前にいるこの男の子は,色々な事情から目下のところ借金が一億五千万円ほどあるという。にわかには信じられないような話と思いたいが,世の中にはそういうことが平気で起こるらしい。というか,私の身の回りにはお金に関してスケールの大きな人が少し多すぎる。
「僕はダメですね。生まれつきの不運がとどまるところを知らない感じっていうか」
「……確かにそうね」
この人を見ている限りだと,そもそも宝くじを無事に買いに行けるのかというところから心配になってくる。
「基本的には,ギャンブルには手を出さない方がいいと思うことにもしていますしね。まぁその……ダメな例が割と身近に居たというのが大きいですが」
最後の方は少し言いにくそうに,顔を上げずにハヤテ君は言った。
「……ごめんなさい,変なことを聞いたわね」
「ああ,いえ,そんな。気にしないでください」
努めて明るい調子で答えるハヤテ君を見ると,いたたまれない気持ちになってくる。
「……気を取り直して,今日のうちに片付けられる疑問は全部片付けちゃいましょ」
「はい,ヒナギクさん。……あの」
「何?」
「いつもありがとうございます」
何の心の準備もしていないところにそんなことを言われると,どうしていいかわからなくなる。
「……何よ,改まっちゃって」
ああ,ぶっきらぼうな返答になっていないだろうか。そんな不安を抱きながら,何とか自分を立て直そうとしていた。
「いえ,なんかヒナギクさんにはいつも頼ってばっかりな気がして。いつかちゃんとお礼をしないといけませんね」
「いいのよ,そんなの。私だって,自分の勉強にもなってるし」
「でも,なるべく自分の力で片付けられるようにはなりたいですね。もっと頑張らないと」
――この人は,いつもこうだ。
「……ハヤテ君は,いつも十分頑張っているわ。私から見ても,ちょっと頑張りすぎなくらいよ」
そう,頑張りすぎで,私が不安になる。いつか,離れていってしまいそうで。
ハヤテ君がまた何かを言う前に,頭を切り替えて言う。
「じゃあ,次の問題」

「……期待値,か」
自室に戻ってから,一人机に向かってみたものの,特に何も手に付かないまま,ふとそんなことをつぶやいた。
どうしてこの人のことが好きなのだろう,と思うことは数え切れないほどあった。それでも,どうしようもなく好きなのだと,思い知ることも同じくらいあった。
そして,ふと気がゆるんだときに首をもたげるのは,この恋は報われるのだろうかという期待と不安の入り交じった気持ちなのだった。
人の心は数字では測れないということは重々承知だが,仮に全員に等しく可能性があると考えても,ハヤテ君の身近には,ハヤテ君に好意を寄せているらしき女の子が明らかに多すぎる。
恋愛は宝くじではない……が,少なくとも宝くじは期待値以前に買わないと当たらない。
「それはわかってるのよ,それは」
また誰にともなく言い訳を始める。
このアパートで暮らす約束も,気づけば残り一ヶ月になっている。それまでに,この現状は変わるのだろうか。
……少なくとも,買わないと当たらないのだ。それは,わかっている。


-------------------------------
世間では夏休みらしいですが,特に更新頻度は上がりません。

期待値って「わくわく度」ですよね……(このネタ,何人に通じるんだろう。
そう言えば,本編中でヒナギクは少額当選したことがありましたっけ。記憶が曖昧です。

止まり木のトップでもお知らせいただいていますが,交流掲示板の方で,小説掲示板における新しい企画について皆さんの意見を募集しています。
この書き込みの名前の下にリンクを貼ってあるので,そちらからご参照下さい。

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G党、悪夢の5月10日 ( No.19 )
日時: 2013/07/25 00:58
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

いきなりですが、ヒナギクさんに問題です。
とあるスポーツにおいて、勝率6割を超えるチーム(仮に「G」とします)と勝率4割前半がいいとこのチーム(仮に「De」とします)が対戦しました。
7回表のGの攻撃終了時点で10−3と、Gの圧倒的リードという展開になりました。また、Gは勝利の方程式となるハム太郎の仲間達を全員投入する予定です。
さて、この試合に勝利するのはどちらのチームでしょうか?
期待値なんてこんなもんやでー!!
ところで、気候区分の"D"ってなんでしたっけ?これは(アカン)


さてさて、今回は物語中の2つの単語に目がいきました。どちらもヒナのキャラソンで出てくる言葉でしたので…。

ひとつが「期待値」です。(HiNA2の"Spring has come!!"より)
曲中ではそのタイトルの通り、ようやく訪れた春への希望に満ち溢れたニュアンスで使われています。
対して今回はリミットが来てしまう秋に向けての焦りのようなものを感じました。
この二つの対比が非常に素晴らしい。
さらに言うと、曲では「何かはじまる予感」と他責的な展開に対し、このヒナは「少なくとも、買わないと」と自責的になっている点も…。

二つ目がプロローグの「記憶」です。(HiNAの"想い絶ちがたく、初恋なりがたし"より)
個人的には1・2を争う好きな曲のフレーズでありまして、叶わない恋の切なさを一番に感じさせてくれる単語だと思っています。
「あふれる想い」の行き場が無い→では、想いをあふれさせるのは何か→記憶でしょ!
という訳で、今までで一番お気に入りなプロローグであったりします。


「敵」とはライバルとなる他の女の子たちか、はたまた期待値を追い求める事すら出来ずにいる自分自身か…
案外、ちょっとしたスパイスで事態が好転するかもしれないですね。(適当)


毎度恵スレ糞レスで失礼しました。
次回も楽しみにしております。

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レス ( No.20 )
日時: 2013/07/26 01:41
名前: 春樹咲良
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/yybbs/yybbs.cgi?mode=new_html&no=103

>>19 ロッキー・ラックーンさん

いつもありがとうございます。
気づけば,投稿する度にロッキーさんの感想を楽しみにしている私がいます。

さて,頂いた問題について,うちのヒナギクさんから以下のように伝言を預かっています。
「与えられている条件が少なすぎると思うの。
 せめて,両軍のスタメン,野手の打率やOPSとか,投手の防御率やWHIPとか,それに最近数試合の成績なんかがないと,正確に予測するなんて無理よ。
 期待値以前の問題だわ。」
ま,マジレス乙……。
個人的には,Gのファンのその時点からの入浴率(風呂試合指数)なんかも関わってくるんじゃないかと思っています。
ちなみに,作者が当初うっかり「ケッペルの気候区分」と書いてしまい,後でこっそりと修正したのは秘密なのです(高校時代は日本史選択)。

恥ずかしながらキャラクターソングにはかなり疎いのですが(何故か西沢さんのだけ聴いたことがあります),思わぬところでシンクロが起きているものですね。
というか,その辺りのシンクロを指摘できるほど聴き込んでいらっしゃるロッキーさんも凄いと思いますが。

今回のプロローグに関してはそれなりに思い入れがあるので,気に入っていただけたのなら何よりです。
一言で言うと,まさに「想い絶ちがた」いものだと思っているのです。

今回のタイトルは少し悩みました。
なんとなく,「expectation」では芸がない感じだよなぁ,といった感じで。
話の中に出てくる単語から選ぼうとした結果,意外と示唆的なものになったのかなぁと思っています。

まだまだ精進が足りませんが,今後ともよろしくお願いします。
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secret nightmare【8】 ( No.21 )
日時: 2013/07/29 18:50
名前: 春樹咲良

tear


それは,とても不思議な感覚だった。
真っ暗で,何も見えない。誰かの声が,頭の中で反響している。身体はふわふわとした浮遊感に包まれ,そのままぐるぐると回り始めるようだ。頭の中の記憶までも撹拌されていくようで,それは私からひどく現実感を奪っていった。
そう,そんな,まるで現実感のない世界の中で,私は一人ぼっちになっていた。
今も鳴り止まない頭の中の声は,誰かが私を呼ぶ声なのか,私が誰かを呼ぶ声なのか。それさえもわからない――聞き取れない。

私は,胎児のように身体を丸めて横になっている自分を上から見下ろしていた。
誰かの手が,私の頭を撫でている。誰だろう,この優しさは,とても大切な――
ふと離れた手を,私は強く掴んだ。行かないで……行かないで! 
私から,離れないでよ……!
泣きじゃくる私を,その手は優しく撫で続けてくれた。私は何かを言おうとするけれど,その口からは言葉にならない嗚咽しか漏れ出さなかった。そのまま,ひとしきり泣き続けた。時間の感覚は,はじめから無かった。
なぜだろう,安心するの。決して離したくない。

誰かが私を呼んでいる。頭の中に反響する声は,遠く,近く――でも確かに,私を呼んでいる。
優しい声。私は,この声を知っている――。
でも,私はその人の名前を――今,私のそばに居てほしい人の名前を,呼べなかった。
口に出したら,今度こそ離れてしまいそうな気がした。黙っている私を,優しい手の安心感が包んでくれていた。
その安心感をくれる人が誰なのか,私はきっと分かっているのだけど――
次第に戻りつつある現実感と入れ違いに,意識は深い眠りの底へと沈んでいこうとしていた。

次に気づいた時には,もう朝になっていた。
「……夢?」
まるで現実感がなかった割に,妙に記憶に残る夢だった。誰かがそばに居てくれた安心感など,ありありと思い出せそうな気がしたが――やはり,曖昧になっていた。もう一度思い出そうとしても,記憶に靄がかかったみたいで,うまく行かなかった。

ジョギングに出るために玄関先でシューズを履いていると,ハヤテ君に行き会った。
「おはようございます,ヒナギクさん」
「……おはよう。じゃ,行ってくるわ」
「はい,行ってらっしゃい。お気をつけて」
いつも通りだ。そう,いつも通り。

ジョギングを終えてアパートに戻って,シャワーを浴びようと入った脱衣所でふと鏡を見て,自分の顔のひどさに驚いた。目が真っ赤に腫れている。いかにも昨夜泣いていましたというような顔だ。こんな顔で外を走っていたなんて,いくらなんでもひどすぎる。
どうしてさっき会った時にハヤテ君は言ってくれなかったのだろう――いや,ひどい顔になっていることをハヤテ君に指摘されることを考えると,それはそれで複雑な気持ちになるけれど。
シャワーを浴びてキッチンに入ると,テーブルの上に氷水を入れたビニール袋とタオルが置いてあった。ハヤテ君が用意してくれていたものなのだろう――やっぱり,分かっていて言わなかったのか,ハヤテ君は。
タオルで包んだ氷水の袋を目の上に乗せながら,夢のことを再び思い返していた。
――どうして私は泣いていたのだろう。そう自分に問いかけてみるけれど,やはり答えの出そうな問いでは無かった。いつでも,自分のことが一番わからない。

「あ,大分腫れが引きましたね」
「……うん,これ,ありがとね」
いえいえ,と笑顔で返してくるハヤテ君は,何があったのかについては一切聞いて来なかった。
相変わらず不意打ちのように察しがよく,気配り上手な人だ……何だか悔しくなってくる。
でも,今日のハヤテ君の察しのよさには,いつもと違う理由も含まれているように,何となく感じていた。それはもしかして……と思うことはあったけれど,深く考えるのはやめておいた。

いつも通りの一日が,始まる。まるで何もなかったように。


-------------------------------
流石にマンネリ気味だったので,少し変化をつけてみようと思った結果。
夢と現実がごっちゃになると,わけがわからなくなりますね。
気づけば連載を始めてから1ヶ月ほどが経ちました。何となく,一段落ついた感じもしています。

泣いたりして腫れた目は,血行を良くすることで腫れが引くらしいです。
冷やすだけでも割といいみたいですが,温かいタオルと冷たいタオルを交互に当てるとかが効果的なんだとか。

企画の方は,ぼちぼち開始しようと思っています。

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男綾崎、乙女桂らの日常 ( No.22 )
日時: 2013/07/30 23:34
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

こ、これは…まさに男綾崎、緊急来日ですな。
涙の理由を聞かずにそっと包み込む…ごちそうさまでした。
みっともない顔のヒナを放置して外出させた畜生執事はポイーで、どうぞ。

夢ネタというのは、「深層心理を表す」だとか「埋もれた記憶を掘り起こす」だとかいうシリアス展開になりがちで、中々使いにくい代物だと勝手に思ってます。
ただ、これを読んだ側としては「一体誰に撫でてもらってたのか?」「なぜそんな夢を見たのか?」「それが今後の展開に対してどんな役目を果たすのか?」など色々と妄想が捗るんですよね。
もちろん、私の方でも妄想が捗っているこの頃なのであったりします。
いつも通りに始まった一日は本当にいつも通り終わるのか、興味が尽きません。

ところでいきなりですが、雛菊の花言葉の一つに「無意識」というものがある事を、なんとなく読んでたら思い出しました。
ひけらかしただけで、特別意味は無いです。(ドヤッ

毎度恵スレ糞レスで失礼しました。
また次回楽しみにしております。
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レス ( No.23 )
日時: 2013/07/31 23:49
名前: 春樹咲良

>>22 ロッキー・ラックーンさん

いつもお世話になっております。

先日もご指摘いただきましたが,今回に関しては鏡を確認しないで外出したヒナギクの方にも結構問題があります(そこまで考えが至らなかったのは作者のせいですが)。
本人がどういうつもりかは分からないのですが,基本的にデリカシーが無いくせに不意に見せる気配りがクリティカルヒットする借金執事,相変わらずの天然ジゴロです。
そうやってこれから何人の女を泣かせるつもりなのでしょう。

今回はどこまでが夢でどこまでが現実なのか,少しだけぼかして書いています。
夢だと思っていた部分が現実かも知れないし,現実だと思っていた部分が夢かも知れません。
これは個人的な感覚なのですが,恋に囚われている人間の思考は,基本的に夢現の区別が曖昧です。
そのくせ,夢が現実に入り込んだり,現実が夢に入り込んだりすることを恐れたりもするものです。
その辺り,自分でも書きながら混同が進んでしまって,うまく表現しきれなかったところもあって反省しているのですが。
また,「今後の展開への影響」については,建前上は各話独立のエピソードと考えているので,割と限定的だと考えてもらった方がいいかも知れません(妄想が捗る分には大変結構なことなのでむしろ推奨しますが)。

花言葉とは,流石にハヤヒナの老舗ロッキーさん,博識でありますね。
ちなみに,「無意識」と聞くと地霊殿の妹君を真っ先に思い出してしまう程度には私の知識は偏っています。
確かに夢とは切っても切れない関係にある言葉ですが,そもそも意識とは何か,という辺りから考えないとつかめない概念で,真正面から取り組むのは難しいテーマでもありますね。

今回もコメントいただきありがとうございました。
まだまだ精進が足りませんが,今後ともよろしくお願いいたします。
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secret nightmare【9】 ( No.24 )
日時: 2013/09/19 00:57
名前: 春樹咲良
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/yybbs/yybbs.cgi?mode=new_html&no=103

remember


もしもタイムマシンが使えたら,なんてことを考えるのは話のネタとしては定番だけれど,ではそんなタイムマシンを使って会いに行きたいのは未来の自分か,それとも過去の自分かというと,やっぱり過去なんじゃないかと思えてくる。
そんなありふれた話を,喫茶どんぐりのカウンター越しにハヤテ君と交わす夏の日の昼下がり。真夏の暑さをさらに増幅させるような蝉の声を遠くに聞きながら,冷房の効いた室内で過ごすのは,ある意味で最高の贅沢だろう。客がまったく居ないのは飲食店として致命的な問題のようにも思えるが,カウンターの向こうで片付けをしているハヤテ君と,こうしてゆっくり雑談ができる時間ができるなら,いっそのことこのままハヤテ君が一人で居るシフトの時間いっぱい,誰も来なければいいのにと思ってしまう。

「今を生きるのに精一杯で,過去とか未来とか考える余裕がない,なんて答えはダメですかね,やっぱり」
コーヒーカップを拭きながら,ハヤテ君がどっちつかずの答えを返してくる。
「いえ,とても真っ当な答えだと思うわよ。多少野暮だけど」
「まぁでも,未来に対する不安がどうという話ではないんですけど,あんまり自分の未来の姿を見たいとは思わないですね」
「未来の自分を見たくないって,それはどうして?」
未来の自分……一瞬「亭主関白」のくだりを思い出してしまって,誰にも見られていないのに恥ずかしい気がしてきた。そんなこちらの事情にまったく気づかない様子で,ハヤテ君は上手い言い回しを考え考え,こんなことを言った。
「うまく言えないですけど……誰エンドになるかあらかじめ分かってるのは,面白くないじゃないですか」
「何の話よ」
相変わらず,訳の分からないたとえだ。それは,誰にわかりやすいのだろう。ハヤテ君は笑いながら,「それに――」と言って続けた。
「それに,未来は変わり得るものですよ」

カラン,と扉の開く音がして,一組の客がやってきた。額から噴き出す汗を拭いながら,ようやく辿り着いた涼しい室内に安堵の表情を浮かべている。「いらっしゃいませ」と,ハヤテ君がそちらの客に応対に行ったので,会話はそこで中断された。
水滴で表面が覆い尽くされたアイスコーヒーのグラスを眺めながら,タイムマシンをイメージして記憶を巻き戻していく。
ルカとの出会い……アパートで暮らすことになったこと……ミコノス島……下田旅行……誕生日……歩……そして――ハヤテ君。
そう,私たちはまだ,出会ってから半年と少ししか経っていない。
その短い間に……ハヤテ君は一体何人の女の子とイチャイチャしてきたんだ,というツッコミは恐らく既出だろう。
思えばどれも遠い昔のことのようだ。具体的に言うとここまでで大体7〜8年くらいは経ってしまったような気がする。当年とって16歳の私には,人生の大半だ。なぜこんなに体感時間が具体的なのかは触れないでおく。
ともあれ,そんなに濃密な時間を過ごしてきても,やっぱり記憶の彼方に追いやってしまうことが出来ないことはある。
――両親が,いなくなってしまったこと。
きっと,この人生の中で,後にも先にもこれほどの出来事はないだろう。こればっかりは,どうしたって忘れるはずのないことだ。
「それ」を不幸な体験だと,言いたくはない。客観的に見て私は今,きっと,とても幸福な生活を送っている。そのことに自信を持てない私ではない。
でも,実の両親も今の両親も否定したくない私にとって,「もし」という問いは大きな困惑を巻き起こすのだ。

グラスの中の氷が溶けて,涼しげな音が鳴る。ふと顔を上げると,カウンターに戻っていたハヤテ君がこちらに気づいて,ふっと微笑んだ。人畜無害そうな笑顔――でも,私は知っている。その笑顔の下には,計り知れない悲しみや苦労を抱えてきたことを。
……私とこの人は,同じ傷を抱えていると思った。
確かに,その度合いは幾分差があるけれど。彼と自分の不幸を比べて,自分の幸せを再確認したとか,そういう話ではない。似たような経験に共感こそすれ,同情できる立場ではない。第一,同情というのは上から目線でするものだ。

――あの日見た景色を,今でもありありと思い出せる。
あのときの私と,あのときのあなただったから。だからあなたに,出会えたはずだから。
だからあなたを,好きになれたと思うから。
あなたと出会えなかったかも知れない世界は,幸福に満ち満ちていたとは言えない気がする。過去のどの時点を変えたら,どんな世界に繋がるのかなんてことは,もちろん私には知り得ないことだけど。
少なくとも,私は過去のある時点を修正したいとは思わない。それは,今の自分を否定することだから。
いくつもの過去を積み重ねて,今の私が居るから。
「今いる場所は,それほど悪くはないから」

過去。それは,決して消せない足跡みたいなものなのだと思う。時々振り返って確認することはできる。でも,いつまでも立ち止まって,後ろを振り返ってばかりはいられないから。
前を向いて,未来に開いている道を歩いていくしかないんだ。

急にやってきたお年寄り10人ほどの客への対応に,流石に一人では手が回らなってきたらしきハヤテ君を見て,私は席を立った。
「すみません,ヒナギクさん……」
「分かってる。手伝うわよ」





何度生まれ変わっても……
ありふれたラブソングに自分を重ねてみるけれど
いつだってまた,あの日の君に会って,恋をしたいと思えるだろうか

いつかまた,全てを失うことになっても
そんな自分を全部,愛することはできるだろうか
何度生まれ変わっても,また……


-------------------------------
お久しぶりです。気づけば夏も終わりですね。
これから本業の方がかなり忙しくなってくるので,これを最後にしばらくはお休みということになるかも知れません。
感想へのレスは極力早めに返します。

タイムマシンで頻繁に未来を見に行く青いタヌ……ネコ型ロボットとその仲間達は,タイムパラドックスをどう考えて居るんでしょうかね。
助けてヒナえもん。

企画の方は間もなく最初のお題について締め切りです。
興味のある方は是非。
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男綾崎、ギャルゲは誰エンドでも飛ばさず見る ( No.25 )
日時: 2013/09/20 22:23
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
なんか凄く久しぶりな気がしないでもないような…。

7年という時間。小学生が大学生になり、オリンピックも招致活動の末に開催できるほど膨大です。
それだけの時間を青春に費やせたヒナギクさんは、さぞかしドラマチックな恋路を全う出来たんだろうなぁ〜(白目

「今いる場所(ここ)は、それほど悪くはないでしょ?」
名言名言アンド名言。ワイ将、JFKやスコット鉄太朗並みの登板を強いている模様。
両親がいなくなった事に対して悲しいと思ったのは事実。それを今、不幸と思うかどうかは自分次第。それが分かるヒナ、名将。

「未来は変わりえるもの」…仮に桂ヒナギクが本気で綾崎ハヤテを愛している・関係を深めたいと思っているなら、心に刻み込むべき言葉だと思います。
アテネが好きだと公言されてるだけに、告白したら気まずいのはうけあい。強い意志を持たないとアカン。
ハヤテに惚れさせるためのO・MO・TE・NA・SHI、いつやるの?今でしょ!
情熱的な告白、やられたらやり返せ。100倍返しや!!そしたら読者もじぇじぇじぇ。

生まれ変わったら…のくだり。
是非ともそのうちやりたいですな。そのうち。(震え声

うーん、この感想ファーム行き待ったなし。
毎度、お騒がせしました。
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レス ( No.26 )
日時: 2013/09/22 13:44
名前: 春樹咲良
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/yybbs/yybbs.cgi?mode=new_html&no=103

>>25 ロッキー・ラックーンさん

お世話になります。実はギャルゲの類はやったことがない春樹咲良です。
気づけば随分久しぶりの投稿となりました。

7年という時間…小学生が浪人生になり,甲子園のヒーロー(準優勝)が連勝記録を作ったりできるくらいの長さですね。
それだけの時間があれば人も絵柄も大きく変わるでしょうが,ヒナギクの人間的な成長という点では果たしてどうなのか,なかなか難しいところです。

ハヤヒナ派にとっては聖典クラスの例のエピソード・セリフをどういう風に使うか,というよりは,ヒナギクに過去を振り返ってもらっていたら,やっぱりそこに行き着いた,という意味で原点回帰的ですね。
ヒナギクは元々が賢い人だと思うので,メンタル的に不安定でさえなければ,過去についての折り合いのつけ方も心得ているのではないかなと思っています。

とはいえ恋愛沙汰となると,やっぱり経験の問題か,まだまだ彼女には悩んでもらわなければなりません。
確かに,ハヤテとアテネの関係については,本人から「振られちゃいました」と聞いていても,やはり強烈なプレッシャーになるのではないかなぁと私も思います。
そこら辺をどういう風に処理していくのかは,多少は原作の方の描写にも気を払いたいところですが,その頃には今の流行語が死語になっているかも知れないなぁも感じています。

「生まれ変わっても,また」云々は古今東西よく用いられるテーマですが,実際に使うと結構難しいですね。
私が生まれ変わる前に,ロッキーさんのそういう作品読んでみたいです(遠回しなプレッシャー)。

いつもありがとうございます。
まだまだ精進が足りませんが,これからもよろしくお願いいたします。
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更新休止のお知らせ ( No.27 )
日時: 2013/09/30 01:46
名前: 春樹咲良

お世話になります。春樹咲良です。

【9】のあとがきでも触れているのですが,本業の方がこれからしばらくの間忙しくなるものと見込まれ,更新が難しい状況です。
元々「不定期連載」という体裁で始めているので,多少の長期間更新がないのもそれはそれでありかとも思ってはいたのですが。
色々と思うところもありまして,一度「更新休止」という形で区切りを付けておこうという結論に至りました。

再開の見込みについてですが,年明けまでは恐らく無理です。
そういうわけで,しばらくの間はお休みを頂くことになります。
投稿を始めてから3ヶ月,思ったよりも多くの方に読んでいただいて嬉しかったです。
いつ戻ってくるのか,はっきりしたことは言えないのですが,もしもその時が来たら,またよろしければちらっとでも,目を通してもらえるとそれだけで望外の幸せです。

それでは,またいつかお会いできる日まで。
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secret nightmare【10】 ( No.28 )
日時: 2014/04/18 22:52
名前: 春樹咲良

forecast


一歩踏み出しただけでも,崩れてしまいそうな危ういバランス。
そうやってまた,あなたとの距離感を間違えてしまう。
そうやってまた,あなたとの距離感に甘えてしまう。
あなたがいても,あなたがいなくても,私は駄目になりそうです。





「……ギ…さん,ヒナギクさん」

誰かが私を呼んでいる声が,遠くから聞こえる。
誰だろう,この声は。そう,とても――

「ヒナギクさん,起きてください」
「――はっ,な,何?」
いけない。縁側に腰掛けていたら,うたた寝をしてしまっていたみたいだ。
ふと顔を上げると,声の主が上から覗き込んでいるのと目が合った。
「……お目覚めですか?」
いつもの笑顔で,そんな風に微笑みかけられると,わけもなく気恥ずかしくなる。

夏の日の昼下がり。ちょうどよく雲が差して気温がそこまで上がらず,わずかな風の心地よさについ眠気を感じてしまったらしい。
庭掃除の途中だったのか,箒を片手に持ったハヤテ君は,目が覚めた私を認めると,庭の方に向き直って空を見上げた。私に背を向けて,遠くを見つめるポーズをとる。
今のうちに,恥ずかしさで赤くなった顔が元に戻るように,気持ちを落ち着かせなければ。
――いや,落ち着いて考えると,無防備な寝顔を見られてしまった時点で既に相当恥ずかしいことに気づく。口が半開きのままで寝てたりしたらどうしよう。

「いくら天気がいいといっても,こんなところでうたた寝してると,また風邪引いちゃいますよ?
 夏風邪は,なかなかに厄介ですからね」
ハヤテ君はそこまで意識していなかったのだろうが,彼のセリフの「また」という部分が,私には深く突き刺さる思いがした。
「……そうね。このあいだは本当に,酷い目に遭ったわ」
必死で取り繕おうとしているところに先日のことまで思い出されると,積み重なった恥ずかしさのあまり死にたくなるので本当にやめて欲しい。
夏風邪は馬鹿が引くと昔からよく言うらしいが,あの時の自分は全体的に馬鹿だったとしか思えないので,恐らくある程度は真実なのだろう。
それにしても,こちらにしてみれば人生で一番恥ずかしかったと言えるような経験も,ハヤテ君にとっては何でもない日常の一コマだったということだろうか。
何事もなかったかのように話題に出してくる辺りが,天然無神経たるこの人らしい。

「いやぁ,今日は天気もいいし,何より風が気持ちいいですね。
 夏にしては陽射しもそんなに強くないですし,縁側に座っていたりしたら,僕もつい居眠りしてしまいそうです」
そんな私の様子は目に入らないのか,冗談のように爽やかな笑顔で,ハヤテ君は両腕を横に広げ,空を見上げる。
いつ寝ているのか分からないような人が,よく言ったものだ。本当に睡眠を必要としているのだろうか。サイボーグか何かなのではないかと真剣に疑いたくなる人が居眠りしているところなんて……見てみたい気がするが。
居眠り……そうだ,どれくらい寝てしまっていたのだろう。
つけっ放しになっていた居間のテレビからは,高校野球の中継が聞こえている。
夏の甲子園……私たちと歳の変わらない男の子たちが,目指してやまない夢舞台。その夢をかなえられるのは,ほんの一握りしかいない。
夢……そう,あれは――
「――ゆ,め」
「ん? 何ですか?」
私のつぶやきに気づいて,ハヤテ君がこちらを振り返る。
「夢をね,見てたの。変な夢だったわ」
「夢,ですか」
「うん……なんだか分からないけど,みんなが大人になってて,白皇の教室で同窓会をしてる夢」
妙に現実感のあるような,しかしやはり現実とは思えないような,不思議な夢だった。眠ってしまっていたのはほんのわずかの時間だったはずなのに,随分長い時間夢を見ていたようにも感じる。
この前,タイムマシンがどうこうという話をしたせいだろうか。よく分からない。
「へぇ,それはなかなか面白い夢ですね。みんなの未来の姿ってことですか」
「まぁ,そんなところ。もうほとんど忘れちゃったけどね」
「いやぁ,ついにヒナギクさんに予知能力まで身についてしまったかと思いましたよ」
ハヤテ君も少し興味を持ったようだ。わずかに残る夢の記憶を手繰り寄せる。
「うーん,あ,でも何か覚えてるのもあるの」
「ん,例えば?」
「そう,美希が政治家になってたわ」
何故かは分からないが,これだけは鮮明に覚えているような気がする。何故かは分からない。
「まぁ,彼女は何と言っても元総理の孫ですからね。政界進出も,あながちあり得ない夢とは言えなさそうですが」
「うーん……まぁ,どうなのかしらね。
 傍から見ている限り,本人にそんな気があるようには見えないけど」
そうは言ってみるものの,実際にやらせてみたら,それはそれで案外うまくやりそうな気もする。
あの子は……美希は,成績は悪いが,決して根っから馬鹿というわけではないと思うのだ。
ちゃんと頑張ればきっと誰にも負けないスペックを発揮できるだろうに,今のところ本人にそのつもりが無いだけのように,私には見える。
それが何か思うところあってのことなのか,何も考えてないだけなのか――
「そこのところは,本人に聞いてみないと分かりませんね」
「聞いたところで答えてくれない気がするけどね」
まぁ,本人の問題なので私からうるさく口を出すことではないかもしれない。
――いや,補習を言い渡された時に働くことになるのはどうせ自分なのだ。やはり適度に尻を叩いておいた方がいい気もしてきた。

「そうですねぇ。
 まぁでも,花菱さんもそういうことを,まったく考えたことがないわけじゃないと思うんですよね。いや,どうかは分かんないですけど」
私の隣に腰を下ろして,ハヤテ君は続ける。
「やっぱり身近な家族のしている職業って,自分がそうなる将来をイメージしやすい,みたいなことはあるんじゃないですか。
 子供に対して親の意向がどう働いているのかにもよりますけど」
「そうね……まぁ,そうやって政治家の子は政治家に,医者の子は医者になっていくものなのかも知れないわね」
「何か悟りきったみたいな言い方しますね,ヒナギクさん」
「一般論よ,一般論」
実際には,政治家とか医者とかいった職業は,家庭の経済的な後ろ盾なしに簡単に目指せるものではない。
世の中,子供の未来の選択肢の幅というのは,どんな家庭に生まれるかである程度決まってしまうのだ。
こればかりは,厳然たる事実である。
「んー……ヒナギクさんはどうですか?
 例えば,教師になろうって考えたりとか,したことありますか?」
ハヤテ君の投げかけた質問は,私の身近な家族の職業として,お姉ちゃんを想定したものだ。
言われてみれば確かに,私にとってそれに該当するのは,教師なのかもしれない。
「そうねぇ……。まぁ,既にお姉ちゃんよりも教師的な仕事をしている気がするんだけど」
今までに一体何度補習を受け持たされたことか。ていうか,教師のやるべき仕事を一般生徒にやらせて本当に大丈夫なんだろうか。こう,法的に問題になったりしないのか,時々不安になる。
「あははは,確かにそうですね。今度白皇に手当を請求したらどうです」
「お姉ちゃんの給料から天引き,ということにすれば理事会も通りそうな話ね」
「桂先生は泣きそうですけどね」
冗談とはいえ,本人の居ないところで言いたい放題だ。
別にお姉ちゃんが全く働いていないと言うつもりもないし,お姉ちゃんなりに,教師としての働き方をしているのだろうと理解はしている。
まぁ,これくらい言われても仕方ないくらい,関係各方面に迷惑をかけているのも事実なのだが。

「そうね,人にものを教えるのは,確かに楽しいし,やり甲斐も感じるわ。
 将来の選択肢として強く意識したことはないけれど……」
気を取り直して,ハヤテ君の質問に対する答えを考えてみる。
改めて考えてみると,そうでなくても教師という職業は,学校に通っている全ての人が,大人になるまでの間ずっと関わり続けるものだ。
だから,身近な家族の職業としてのイメージのしやすさとは,また少し違うものであるのかも知れない。
「ヒナギクさんなら,なろうと思えばそれこそ,政治家でも医者でも,何にでもなれそうですけどね」
「無責任なこと言ってくれるわね。
 そういうハヤテ君はどう……いや,まぁ,そっか……」
そうだった。
目の前にいるこの男の子は16歳にして既に,あり得ないほど様々な職業を経験している。
だいたい,私と同じ歳の男の子がアパートで執事をやっているなんて,俄かには信じがたい話である。
大きな借金を背負っている今,執事の仕事以外のことを考えている余裕なんて本来無いはずなのに。この人はそんな深刻さを微塵も感じさせず,超人的に働き続けている。いつ寝ているのかも分からないほどに。
普通の高校生と同じ尺度で将来のことなど考えられるような状況にはないのだ。
「……」
そして,そういう状況に彼を追い込んだのは,彼の一番身近にいたはずであろう家族,他ならぬ彼の両親だというのだから,まったく世の中ひどい話もあったものである。
どんな家庭に生まれるかで人生ここまで変わるものなのか,という言い方を私がするのは幾分おこがましいことのように思えるけれど,そう感じずにはいられない事例が,今まさに私の隣に座っているのだった。
続きを言い澱んでいる私の思考を見透かしたような笑顔で,ハヤテ君が口を開いた。
「いやぁ,バイトの経験だけなら相当多岐に渡る業種を取り揃えていますからね。
 頭脳労働はちょっと自信がないですが,ある意味何にでもなれそうですね,僕は僕で」
「そっか……そうよね」
強い人だなと思う。
私には想像できないような,筆舌に尽くしがたいほど凄絶な人生を送ってきたはずである。
それなのに,そんな様子を普段は微塵も感じさせないのだから,この人はそれだけで,私の周りの誰よりも強い人だと思える。

「……なんか喉渇いちゃったわ」
自分で重くしてしまった空気を打破するきっかけが見つからず,結局平凡な話題のそらし方をしてしまった。
「口開けて寝てましたもんね」
「なっ! そ,そんなことないもん!」
思わず両手で口を押さえてしまう。そんな私の様子を見て,ハヤテ君はまた爽やかに笑う。
「冗談ですよ。何か冷たい飲み物でも用意しましょうか」
相変わらず,この人のペースに飲まれがちの私だ。
「じゃあ……アイスコーヒーをお願いしてもいいかしら」


-------------------------------
随分と長く休止していましたが,久しぶりの更新です。
休止している間に一話完結を書いたりもしていましたが,それを含めても結構久しぶりですね。
こちらの連載は半年以上ぶりになるのですが,再開していきなり過去最大の分量になっています。
文字数を数えてみたら今までの平均のほぼ倍くらいありました。
どうしてこうなった。

内容について改めてコメントすることもそんなに無いのですが,皆さんの子供のころの将来の夢は,何でしたか?
私は幼稚園の頃の文集に「しょうらいのゆめ:ばるたんせいじん」と書かれていたのを小4の時に発見し,何とも言えない気持ちになったのを覚えています。
ヒナギクにとって,家族の職業と言われて最初に思いつくのは雪路の教員かも知れないですが,実の両親は喫茶店を経営していたそうですし,そういうことも考えたのではないかなぁと個人的には思います。
だから喫茶店でバイトしているわけではないにせよ,ちょっと思うところはあるんじゃないかなぁ,などと。

久しぶり過ぎてどうも勝手が思い出せません。
連載と呼べるほどのペースでは更新できないと思いますが,ぼちぼちと新しい話を書いていけたらと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
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Re: secret nightmare(連作短編)更新再開【10】 ( No.29 )
日時: 2014/04/20 06:07
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

にゃんぱすー、ロッキー・ラックーンです。幼稚園の時の夢はスーパーサイヤ人だったワイ将。もう(生まれ変わるしか)ないじゃん。

親の姿を見ながらそれに近づくも人生、遠ざかるのもまた人生。自分は後者でした。大変そうな姿をずっと見続けたからというのが主な理由。
ハヤテの場合も同様に親の姿からは遠ざかろうとしてますね。逆に考えてみると、あのおばあちゃんから何故あの父が育ったのか、謎で仕方無い。じいちゃんが悪かったのかと邪推すらしてしまう。

本編ではハヤテの境遇を知った当初、「同じ痛みを知っているのかも」と思った以降、ハヤテの両親に対しての気持ちにコメントが無かった(と思う)ヒナ。両親の事を話す際に気を遣えるあたり、一歩ずつハヤテの事を理解していってますね。これは有能。
話は逸れますが、「義理の両親とようやく打ちとけた日」とかヒナが言ってたのを本編でやってくれないかずっと待ってます。あ、自分で書けばええんや(書くとは言ってない

「何にでもなれそう」とか言われた時に「ハヤテのお嫁さんにもなれる?」みたいなやり取りが出来れば、ヒナもラブコメのラブ要員の立派な一員なんだけど…うーんこの。

投稿が久しぶりな分、感想も久しぶりなんで勝手が掴めないのはお互い様ですな。
…前のヤツの感想見るとやっぱヒドいなと我ながら思います。
でもやーめない(ニッコリ

てなわけでいつも以上に失礼しました。
にゃんぱすぱすーん。
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レス ( No.30 )
日時: 2014/04/21 12:46
名前: 春樹咲良

>>29 ロッキー・ラックーンさん

にゃんぱすー(お世話になります。いつもありがとうございます)。

私の場合は,どちらかと言うと影響されて育ってきたのかなぁと思っています。
完全に同じ道ではないとはいえ,何となくその背中を追って生きているような気がしてなりません。
ハヤテに関しては,本編では使いませんでしたが「反面教師」という言葉がそのまま当てはまりそうな事例ですね。
あまりに親に関する描写が酷いのでなんとも言えませんが,ハヤテが親に対して抱いている感情については,もう少し緻密に描けないかなぁと思っています。
以前から指摘されていることですが,この作品に登場する子どもはやたらと両親に関しては負因を抱えているように思えます。
割とギャグで流せないレベルの境遇の人も結構いる気がするのですが,その辺も含めて,親と子の関係については本編でも何らか,思うところがあるのかなぁと感じています。

「義理の両親と打ち解けた日」,新しいネタとしてロッキーさんの中に芽生えがあったものと期待しますが,お互いマイペースに,執筆に取り組んでいきたいところですね。

ところで,完全に余談になるのですが,本編の「みんなが将来の姿で教室にいる」夢は私が小4の時の友人の夢です。
みんなの将来の姿について友人が語る中,私については「飛行機事故で死んだため,机に遺影と花が置いてあった」とコメントされ,複雑な気持ちになりました。
以来,あまり長生きするビジョンが描けません。
飛行機に乗らなければいいのでしょうが,流石に諸々の都合上そういうわけにもいかず,毎度飛行機に乗るときには「これが落ちて死んだらどうしようかな」と思ってしまいます。
別に事故なりで早死にしてしまう分には,ある程度諦めもつくのですが,飛行機事故となるとかなりの人を巻き込んだ犠牲になりそうで,それもまた複雑です。
まぁ,飛行機事故なんてそうそう起きるものではない,とは本編で泉が言及している通りなのですが。

さて,本編が(繰り返しているわけでもないのに)終わらない夏休みを何年も続けているせいで,サイドストーリーとしてのこの連載もなかなか夏休みから脱することができないのですが,あまり更新間隔が開きすぎない程度に,今後とも執筆していきたいところです。
まだまだ精進が足りませんが,これからもよろしくお願いいたします。

それでは,にゃんぱすー(便利な挨拶)。
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secret nightmare【11】 ( No.31 )
日時: 2015/04/21 11:52
名前: 春樹咲良

caffeine


夏といえば,というほどのことでもないけれど,ここ最近よくアイスコーヒーを飲むようになった。
ただのアイスコーヒーではない。ハヤテ君の特製である。
ハヤテ君の作ってくれるアイスコーヒーが美味しくて,毎日のように飲んでしまう。
そう,彼の作ってくれるアイスコーヒーは,特別美味しい。
――特別,美味しいのだ。


今日も客足のまばらな喫茶どんぐりのカウンターで,アイスコーヒーを飲みながらハヤテ君と談笑する。
ホットでもアイスでも売られる缶コーヒーが広く流通する今となってはピンと来ない人がいるかも知れないが,アイスコーヒーというものは,単に普通のコーヒーを冷ましただけでは作れない。
いや,それでも「アイスコーヒー」にはなるのだろうけれど,ホットで淹れたときと比べて,風味が明らかに劣ってしまうのだ。
それを避けるためには氷のたくさん入ったグラスに注いで一気に冷やすのがいいとされているが,氷で薄まってしまう分を計算して,あらかじめ濃い目に抽出する必要がある。
そういう手順を見越して,アイスコーヒー用の焙煎をした豆も流通している。
意外と手間がかかるのだ。ハヤテ君に説明してもらうまでは,私もよく知らなかった。
聞いたところでは,アイスコーヒーはそもそも日本以外ではあまり馴染みのない飲み物らしい。
古き良き日本の喫茶店文化の中では,大きな位置を占めた飲み物の一つであったらしく,夏場に「アイス」という注文があれば普通,アイスコーヒーを指すと言われていたほどだという。
それこそピンと来ない話だ。

「関西人でも,『冷コー』とか言うのはかなり年のいった世代だと,咲夜さんが言ってました」
「ある意味,死語よね」
「レモンスカッシュを『レスカ』とか言って注文するお客さんもたまにいらっしゃいますけど,ほぼ年配の人だけですね」

喫茶店自体が減少傾向にある今となっては,よほどのこだわりがない限り,今説明したような手間をかけたアイスコーヒーを作ったりはしていない。
ここ喫茶どんぐりでも,普段は業務用のアイスコーヒーを仕入れて提供している。
いくらコーヒーが好きと言っても,真夏に熱いコーヒーを飲むほどではない私にとって,アイスコーヒーは夏場の飲み物の選択肢としては魅力的なのだが,いかんせんこの業務用アイスコーヒーというのが,私に言わせると全然美味しくない。

そんな愚痴をこぼしていたことを覚えていたのだろうか。
あるとき,私がハヤテ君にアイスコーヒーを注文すると,彼が気を利かせて,手間をかけた方のアイスコーヒーを用意してくれた。
何も知らずにそれを口にした私は,初めてコーヒーを飲んだ人みたいな顔をして,しばしの間固まってしまった。
今までに飲んだことのない味のコーヒーだ。
ふと顔を上げると,にっこりと笑うハヤテ君と目が合って,そこで我に返ってから,改めて感嘆の声を漏らした。

『なにこれ,おいしい』

それ以来のことである。
私がハヤテ君に注文したときだけは,ハヤテ君特製のアイスコーヒーが出てくるようになった。
それが恒例になり始めた頃に,裏メニューみたいなものかな,と何の気なしに言ってみると,ハヤテ君はこう答えた。

「まぁ,まかないというか,従業員割引というか,そんな感じですかね」
「同じ値段でお客さんに出すよりも上等な商品を飲むっていうのもどうなのかしら」
「業務用アイスコーヒーを割引で出すよりも,従業員の福利にかなっていると思いますよ」
「ふふ……そうね。まぁ悪い気はしないわ」

悪い気はしないどころか,本当は飛び上がりたくなるほど嬉しいのだけれど,それを表に出さないように抑えながら,私は今日もハヤテ君の作るアイスコーヒーを口にする。
そう,これは特別。ハヤテ君から私への,特別なのだ。
だから,あなたと居るときにはいつも,アイスコーヒーが飲みたくなる。
アパートに居るときでも,私がアイスコーヒーを頼むと,ハヤテ君は特別美味しい一杯を用意してくれる。

とくべつ――
いつだって,あなたの特別であり続けたい。
アイスコーヒーを口に含むたびに,融けた氷がカランと音を立てるたびに,水滴で覆われたグラスを触れるたびに思う。
これから私が飲むアイスコーヒーが全部,特別美味しければいいのに,なんて。
テーブル席に座った中年女性の二人連れに,フレンチトーストを運ぶ彼の背中を目で追いかけながら,そんなことまで考える。
ああ,そうだ。
この間は,これに近いことを言って,よく分からない勘違いと後悔に見舞われたんだったっけ。
相変わらず,恋が絡むとまるで自分が自分でなくなってしまったかのようになる。
思ったことが,適切なことが言えなくなってしまう。
ある意味で彼の鈍感に助けられているところはあるのだろうけれど,それにしても一体,いつまでこうしているつもりなのだろう。

「このアイスコーヒーだったら,何杯でも飲めそうな気がするのよね」
「ダメですよ。カフェインは体を冷やしちゃいますからね。飲み過ぎはよくないので,一日一杯までにしましょうね」

これから飲むアイスコーヒーが全部美味しければいいのに――
難しいことではない。ハヤテ君の作るもの以外のアイスコーヒーを飲まなければよいのだ。
――そんなこと,無理じゃないかって?
じゃあ,ハヤテ君のそばにずっと居るのと,どちらが難しいかしら?
そんな,答えの出ない問いを何処へともなく投げて,お茶を濁してばかりだ。
いや,これはコーヒーなのだったか。
茶色く澄んだ液体と氷で満たされたグラスを覗き込みながら,顔を上げずにつぶやく。

「ちぇ。こんなに好きだって言ってるのにな」

こんなに,好きだと。
あなたの作るアイスコーヒーが好きだ。
つまり,アイスコーヒーが好きだ。いや――
いやいや,違う違う。もちろんそうだけど,そうではなくて。
つまるところ,私が好きなのは――

「……分かっていますよ」

……いいえ,あなたは,分かっていないわ。
頭の上に降ってきたハヤテ君の答えを受け止めながら,言えない言葉を飲み込む。
言いたくても言えないままでいる私は,いつまでこのままなのだろう。
でも,言わなくても分かって欲しい,なんて都合のいいことを思ってしまうから。
だから私はいつまでも,あなたとの距離を変えられない。

「言ってくれれば毎日でも,一日一杯までは用意しますから」
「……冬になってもアイスコーヒーが飲みたいって言うかしら」

――冬になっても,あなたとの距離は縮まらないままだろうか。
私がそう言えば,コーヒーを作ってくれるような。
私がそう言えば,毎日,私に特別を用意してくれるだろうか。
私がそう言えば――
――私はあなたの特別でいられるだろうか。

「もちろん,アイスコーヒー以外でも用意しますよ」
「……そんなことを,今まで何人の女の子に言って来たの?」
「いやだなぁ,ヒナギクさんってば」

ニコニコと笑うハヤテ君は,そう答えただけでこの話を切り上げてしまう。
何だか,どうしてもうまくかわされてしまうように感じるのは,気のせいなのだろうか。
恋愛が絡むと信じられない鈍感を発揮する,と勝手に思っていたけれど,最近はどうも,その評価にも違和感を覚えるようになってきた。
いや,恋の駆け引き,なんて器用な真似ができないことが明らかである私には,そんな違和感を自分の振る舞いに反映させることもままならないのだけれど。
つかみどころのない人だ。

それでも,離れられないままでいる。
いつの間に,こんなに深みにはまってしまっていたのだろう。

グラスに目をやると,残り少なくなったコーヒーが,融けた氷で薄まっていた。
ハヤテ君に「一日一杯まで」と釘を刺されてしまっては仕方がない。

「さて,と」

名残惜しい気持ちと一緒にそれを飲み干してしまってから,私は席を立った。


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またしてもお久しぶりです。なんと,こちらの更新はほぼ1年ぶりになります。
1年全く更新がない,ということにならないようにとは思っていたのですが…。
掲示板の1ページ目に作品が残っている間に更新出来てよかったと思うことにします。

さて,1年越しで書くほど大した話でも無いのですが,今回は何となく前回の「アイスコーヒー」から話を繋げてみました。
書いている当人が基本的にコーヒー飲みすぎということもあって(このあとがきもコーヒー飲みながら書いている),私の書く話の中では登場人物に特に意味もなくコーヒーを飲ませてきたのですが,その辺りから話を作れないかという試行錯誤の結果がこれ。
皆さんもカフェイン依存症には気をつけましょう。私は手遅れです。
今回は少し,改行の方法を変えてみました。長く間が空いたので,多少のスタイル変更くらいは許容できるかなと考えました。

ハヤテとヒナギクの会話以外の要素を削り落としているこの作品の性質上,どうしても舞台がマンネリ化しがちなので,何か打開策を考えたいなと思っているところです。
本編もナギ達が屋敷に戻ったり,2学期が始まったりしていますから,その辺をうまく取り入れられるといいなぁ,などと。

それでは,次がいつになるかはわかりませんが,今後ともよろしくお願いいたします。




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Re: secret nightmare(連作短編)【11】更新 ( No.32 )
日時: 2015/05/08 20:43
名前: 明日の明後日
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=373

こんばんは、明日の明後日です。

連作短編集とのことで、各話に明瞭なコンセプトを与えつつコンパクトにまとめられていて、素直に「すごいな」と思いました。

日常の一コマからハヤテとヒナギクの掛け合いを抽出して、その際のヒナギクの視点を再現しているというような印象を抱きました。
この“視点を再現”という言い方がミソで、心理描写がすごく丁寧というか、ヒナギクの思考や心情がありありと伝わって来ます。
秀逸な台詞回しと、補足を入れる地の文とが上手く共鳴しているからこそ、ここまでしっかり表現できるんだなと。感嘆の一言です。
説明ばっかに傾倒して心理を表現できていない気がする今日この頃ですが、台詞回しや地の文とのバランス感覚はぜひとも見習いたいものです。

一つ、形式的なところで指摘というか気になったところがあるのですが、句点をカンマ(,)とする場合、読点はピリオド(.)にするのが適切ではないでしょうか。
ぶっちゃけどうでもいいことなのですが参考までに。


カフェインは色んな飲み物に入ってるので意識しないと過剰摂取しちゃうんですよね、と結んだところで失礼したいと思います。続きも楽しみにしています。

明日の明後日でした。
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Re: secret nightmare(連作短編)【11】更新 ( No.33 )
日時: 2015/05/18 23:15
名前: 春樹咲良

>>32 明日の明後日さん

お世話になります。レスがすっかり遅くなってしまいすみません。

連作短編の形式にしている大きな理由は、長い話を書けないという自分の能力によるものなのですが、身の丈にあった連載形式だと自分でも考えています。
その範囲内で、狙ったコンセプトが表現できているのであれば幸いです。

ヒナギクに仮託した形で会話を積み上げていく作業は今でも試行錯誤が続いているのですが、やってると意外と楽しいです。
想像で補っている部分も多いですが、個人的には割と感情移入しやすいキャラクターではないかなと思っています。
地の文とのバランスを含めて、表現の方法についてはまだまだ模索中といったところですが、楽しみながら書いていけたらいいなと思います。

句読点の件については、チャットルームで既にお話しした通りですが、形式としては本文の中では現在の形のままで統一しようと考えています。
レスなどの場面ではこの限りではないです。

カフェインというよりむしろコーヒー中毒の私ですが、コーヒーの健康効果のニュースを信じながら精進を続けていこうと思います。
過ぎたるは猶及ばざるが如し…いえ、知らない子ですね。

今後ともよろしくお願いいたします。
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