「支天輪の彼方で」12周年記念総括文  RSS2.0

3.積極性放棄の功罪


Since : 2010.10.12
written by 双剣士
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 去年の総括文での撤退宣言を境に、私はハヤテ系のサイトやブログに感想やコメントを送る行為をピタリと辞めました。ハヤテ関連のチャット会にも参加しなくなりました。ジャンルをやめると公言したからには、いっぱしに意見を述べたり交流相手として期待を持たせるようなことは控えるべきだろうと考えたためです。
 そして自分がそういう態度をとる以上、当サイトの読者に何かを期待する権利もないと考えました。以前なら感想が来なかったりアクセス数が減ったりしたら「やばい、盛り返さないと」と対策を練るのが常でしたけど、撤退宣言後は「近々やめるって宣言したもの、仕方ないよな」と対策せずに現状を受け入れるようになりました。もちろん胸は痛かったけど、それに耐えるのが自分の責務だと考えるようにした訳です。

 最初の痛みが過ぎたころ、平穏な心持ちが私の胸を満たしました。
 去年の総括文で『ブラックホール恐怖症』として述べたとおり、読者から反応をもらえなくなったらWebサイトをやっている意味はないと私は考えています。「反応なくても仕方ない」という姿勢で挑んだことはかつてなく、新ジャンル決定までの一時的なものとはいえ運営目的の根幹に背を向けるのは辛いものがありました。心血こめて作り上げたサイトが無益無価値なものとして恥を晒し続けるという感覚は耐え難いものがありました。全ての作品を消去して閉鎖したくなる気持ちとはこういうことかと思ったものです。
 しかしそれを過ぎると……これまで克服すべきだった課題が消え去って「満たされない気持ち」が皆無になった心境というのは、それはそれで心地よいものでした。ジャンルを盛り上げようという自らに課した責務もなく、サイトに来てくれた読者を楽しませなきゃというプレッシャーもない。読者からの反応が来ないことには理由があり、その原因(=撤退宣言)が明確であり現状が必然の結果であるからには、別に努力や才能が足りないわけじゃない、と。新ジャンルが決まってから新天地で頑張ればいいんだと。
 負け犬根性? いえいえ、これは最初から勝負に参加してない人間の心境ですよ。自分からは他者に何も与えず、それゆえに褒められる理由も失って惜しいものも持たない立場の者が抱く感情です。別に卑下するつもりはありません、皆さんだって「勝ちたい!」と思わない分野に対してはこういう態度を取っているでしょう? ノーベル賞学者やイチローに対して嫉妬することがないように。

 そんなわけで、この1年間は平穏で静かな日々を過ごせました。プレッシャーがないわけですから更新間隔はあき、サイトの改装やリンク集のメンテナンスも後回し。読者を相手にせずと言ったら語弊はありますけど、好きなことを暇なときに好きなだけやる、趣味の原点に立ち返ったような気分でしたね。職場が忙しくなって自由な時間が少なくなっても焦って徹夜したり休日をつぶしたりする必要がなく、ゆっくり昼寝して体力回復に充てられる。これはこれでありかなと考えたりもしたものです。
 ただし当然ながら創作者としての力量は錆び付いていきます。6月6日の『執事とらのあな6』に合わせて「ラブ師匠VS〜」の完全版を書こうとしたとき、私はそのことを痛感しました。脳内にある物語を文字にするのがスムーズに行かなくなってる。例えて言えば平地を歩くのに、いちいち膝や足首を意識して動かさないと歩けなくなってるようなものです。最新作「ゆかりちゃんの猫」の執筆が思うように進まないのも同じ理由かもしれません。

 まぁでも、力量低下のほうはあまり悲観視していないのですよ。サイトを12年もやっていれば数ヶ月単位のスランプは何度も経験していますから、即効性はないにせよ脱出方法は分かっています。問題はやはりプレッシャー皆無の状況に慣れてしまったことのほうですね。
 心の平穏を得た代わりに失ってしまったもの……それはSS執筆のモチベーションに留まらず、ネット上のあらゆることに関する当事者意識の欠如というか、ワクワク感の喪失でした。他人事のように眺めているだけで何事にも参加することがない日々。平穏な代わりに起伏もなく、求められることもなければ与えられる可能性もない。サイトを持つ前の自分はこうだっただろと思い込もうにも何処か納得できない、透明な袋の中にいるような閉塞感がゆっくりと全身を覆い始めました。ぬるま湯につかったまま失血死していくような(手首を切った経験はないので想像ですけど)別の意味でのブラックホールに落ちつつあることに徐々に気づき始めたのです。

 今にして思えば、サイト運営とはペットを飼うような感覚かもしれないのですよ。お金も手間もかかるし、行き先を制約されたり他人に迷惑をかけることもある。傷ついたり嫌な思いをすることもあるし、いつかは必ず終わりが来て悲しい思いをすることになる。だけど、だけど……そうしたことを見越してペットを飼わないという選択をすることが、果たして正解でしょうか? 本当にそれだけが賢明な唯一解なのでしょうか。トータルでマイナスになることが確実だとしても、ひとときでも楽しい思いや暖かい気持ちを抱きたいと思う、良い点と悪い点をひっくるめて起伏ある生活を送ることで人生を豊かにする。そういう選択も実はありなんじゃないかってね。

 そんなわけで今年の夏ごろから、徐々にハヤテ関連サイトへのコメント送付を再開し始めました。9月9日の美希チャット会にも参加させていただきました。以前のように大胆には出来ないにしても『サイトを持たない閲覧者の1人』として厚かましくない範囲でなら、細々と足跡を残していくのも悪くないかもしれませんから。


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