長年にわたって慣れ親しみ、楽しい思い出もたくさんあり、原作が終わったわけでも飽きたわけでもない『ハヤテのごとく!』ジャンルからなぜ撤退することになったのか。その理由を一言で言うなら「自分のやり方に行き詰まりを感じた」となります。これまで自分のため読者のためと思って培ってきた創作活動とサイト運営が以前のようには楽しいと思えなくなってきたこと。ジャンルを変えることで解決するかどうかは分からないけど現状維持のままではジリ貧だと考えざるを得なくなったこと。そうした思いが去年暮れから濃くなってきたためです。
ただし、こうした思いを皆さんに分かるように文章にするのはなかなか難しい。私自身にとっては感情レベルで胸に響いてくることなんですが、価値観や感受性の異なる皆さんには「何故そんなことで?」と思われる可能性が高いからです。ですので行き詰まりの具体的な説明に移る前に、私自身の価値観というか譲れない点について、簡単に整理しておきたいと思います。
ここに書く項目は、いずれも過去の総括文で述べている内容の寄せ集めです。普段からこうしたことを意識しているわけではないのですけど、私がこれまで行ってきた選択や決断を思い起こしてみると、こういった項目が鍵を握っていたのかなと思い至った次第です。自己正当化の言い訳を書き連ねるようで気恥ずかしいんですけど。
A.ブラックホール恐怖症
小説を書くのは自分が好きだからであって読者にどう思われようと関係ない……そういう立場を私は採りません。サイトを作って小説を公開したりイベントを企画したりしているのは自己満足のためではなく、読者から何らかの反応をもらうためです。感想やコメントをもらったり、ブログや掲示板で紹介してもらったり、私を真似たり対抗心を燃やしてもらったり、様々な形での波及効果を期待しているのです。
もしそうした波及効果がなかったら……何を公開し何を語りかけても何ひとつ返ってこないブラックホールのような存在に向かって、何年にもわたり貴重な時間と労力を注ぎ込むことに何の意味があるでしょうか?
なお上記の文章を「作品への感想が来ないとやる気が出ない」と狭義に解釈しないでください。感想とは宝くじのようなもので、もらえたらいいなと期待しつつも全く当たらない想定で生活を組み立てる、そういう類のものだというのが私の認識です。波及効果を確かめる方法は他にもありますし、そういう広い視野を持たないとサイトの長期運営を続けるのは難しいと考えています。
B.ニッチ狙い
読者の好みは千差万別です。○○が好きな人もいれば△△派の人もいるでしょう。小説が好きな人もいればイラスト好きや音楽好きの方もいらっしゃるかも知れません。こうした全ての人の要望を自分1人でカバーするのは不可能ですし、読者の方も「どこか1つのサイトですべてを済ませたい」と考えてるわけではないと思います。お気に入りのサイトやブログが複数あって「支天輪の彼方で」はその1つに過ぎないはずです。
ですので当サイトでは、基本的によそのサイトで提供されてるコンテンツの後追いはしません。○○×△△の恋愛ものが流行ってるから自分も書こうとか、▽▽のお誕生日企画を皆がやっているから便乗しようとか、そういう行動は取りません。よそで提供されるものが好きな読者にはそちらで楽しんでもらえばいい、うちは逆に他では手に入らないものを提供していこう……これが当サイトの基本スタンスです。
一例を挙げるなら、当サイトのハヤテSSにはカップリング要素を含むものがほとんどありません。これはカップリング系SSの需要については、自分以外の書き手さんが十分に受け止めてくれてるだろうと考えているからです。借金のこともロイヤルガーデンのこともケロッと忘れてハヤテが好きな女の子に告白するSSは、私が書かなくても既にネット上に溢れかえっていますしね。
C.交流下手
昔から私は人付き合いが上手ではありません。メール交流を交わした相手とはほぼ例外なく喧嘩別れしていますし、掲示板などに頻繁に書き込んでくれたアクティブな読者さんとも長続きしません(もっともこれは取り扱いジャンル変更のせいもありますが)。公開の場で「何様のつもりだ」と叩かれたことも1度や2度ではありません。誰に対してもこうなのですから原因は私にあるのでしょう。
こうした経験は、意識のうえでも私の行動を縛る枷となっています。「支天輪の彼方で」は拍手もブログも日記も掲示板もない、読者にとって冷淡なイメージを与えるサイト構成になっていますけれども、これは過去にいろいろ試して失敗したコンテンツを取り除いてきた結果です。「ブラックホール恐怖症」でも述べたとおり私自身は感想を送ったり反応をもらうのが大好きな人間なんですけど、その種のコンテンツを設置したところでマイナスの影響しか思い浮かばない、そうしたやりとりを表面に出すことで小説を楽しみに来た読者に不快感を与えては本末転倒……そういうマイナス思考が身体に染みついてしまっているのです。
読者の視点からすれば、ちょっとくらい隙を見せないと突っ込む余地が無くて話しかけ辛いものです。それは分かっているんですが……。
D.HNへのこだわり
去年の総括文にも書いたとおり、『双剣士』というHNはインターネットを始める以前から使っていた名前です。そして現在に至るまでこれ以外のHNを使ったことはありません。ここ以外のサイトやブログを作る際にも、他のサイトにメールやコメントを送る際にも、名前を書く必要があるときは『双剣士』に統一しています。愛着とかアイデンティティとかいう用語を越えて、肉体の一部に近い感覚です。サイト開設前を含めて12年間これを続けてるというのは珍しい方かも知れません。
ですので私にとって、何か失敗や不都合があったときはサイトを閉じHNを変えて再出発すればいい、と言う発想はありません。今回だって『ハヤテのごとく!』撤退宣言などせず、単に新作SSの更新を停止したまま別のサイトを立ち上げる、と言う選択肢もありましたし気苦労もその方が少なかったでしょう。そうした道を選ばなかったのは『双剣士』の名でやってきたことは善悪いずれにせよ背負って行かなきゃならないと言う意識が常にあったからだと思うのです。