「支天輪の彼方で」1周年記念・期間限定企画  RSS2.0

Web公開の意味


Since : 1999.10.12
written by 双剣士
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 今、ちまたには「ホームページを作ろう」という関連の書籍があふれかえっています。いずれもFrontPageExpressなどのWebページ作成ソフトを使用し、文章と画像を綺麗に配置して、リンク設定とテーブル組み立てをすれば一人前、みたいなことを書いています。
 ですがその内容はと言えば、お決まりの「自己紹介」ばっかり。そりゃあ不特定読者に対してWebのテーマを提示するのは無理難題なのでしょうが、肝心の「そのページで何を表現するのか」に付いて多くのページを割いている書籍は、なかなか店頭で見かけることはできません。
 そして、この文章を読んでいる人‥つまり私のページを含むいくつかのWebページを見たことのある人ならば、知っているはずです。綺麗なレイアウトで読者の眼を引けるのは最初の1回だけであり、何度も訪れる価値のあるWebページか否かは、そんなところで決まるものではない、ということを。

 結論を先に言いますと、私がこの1年で得た教訓は以下の通りです。
「Webページを作ること自体は当人の趣味だが、公開するというのは一種のサービス業である。読者に奉仕する覚悟が無いなら、WebページでなくワープロやDTPをやるべし」

 かく言う私も、このページを開設した当初は明確なビジョンはありませんでした。
 更新履歴を見ると分かりますが、この「支天輪の彼方で」はTVアニメ版「まもって守護月天!」と「セイバーマリオネットJtoX」の放映開始に触発されて誕生したページでした。そのころは「更新するネタの見当がつかない」状態だったので、毎週放映されるアニメに連動してその週の感想などを書き連ねていれば、自然に更新する癖が付くだろう、という程度のものだったのです。
 ところが、アニメ版セイバーJtoXは満足いく内容だったものの、アニメ版守護月天の出来は酷かった‥。おかげでセイバーのページはそれなりに始動したものの、守護月天の方は工事中な状態が長く続きました。だって、よそ様が作ったアニメをひたすらけなしまくるページだなんて、自分でも見たいとは思えませんでしたから。
 それに転機が訪れたのは、11月初めの「●じ○ぴ事件」でした。その詳細は別の章に譲りますが、おかげで旧コンテンツは全部廃止し、自作小説なページとして生まれ変わったのです。

 それから1月半して、はじめての応援メールが来ました。たった1行のメールでしたが、素人作家を奮い立たせるには十分すぎるほどでした。返事を送ってからたった2日で、「いぶの夜第4幕」を書き上げたのです。師走の忙しい時期に‥でももう頭の中は、続きを待ってる人が居る、という感激でいっぱいだったものですから。
 ‥ですが、これが苦労の始まりだったんですね。
 アニメの感想や評論は、ここでなくても他のページで読めます。自作CGやMIDIはそのページにしかないものの、基本的に1作1作がそれ自身で完結してますから「続きを!」という催促は来ません。「続きを!」との応援がもらえるのは小説家・漫画家の特権ですが、同時に「自分が書き続けないと見捨てられてしまう」という、自分を縛る鎖でもあるわけです。
 これは初めての経験でした。好きなことを好きな時に書く、という気ままな姿勢では貪欲な読者に応えることはできません。他のSS系ページでは掲示板やチャットを設けたり投稿小説を受け付けたりして更新ネタを作り出していましたが、前者はCGIが必要で当時の私には無理でしたし、後者はある程度名の売れたページだけに許される特権です(誰も見に来ないページに投稿する人はいませんから)。なかには毎日のように新作を発表しているSSページもありましたが、その真似をして始めた日記風ショート小説コーナーは1ヶ月の期間を全うすることができず、2度目の挑戦も失敗に終わりました。

 私が自己卑下の無限ループに陥ったのはこの頃です。「相互リンクしましょうよ」とのお誘いを頂いても、「あなたのページから来た読者を失望させるだけですから」と断りました。こちらから他のページに感想や応援メールを出す際にも、「たくさん来訪者が居て羨ましいです‥」と情けない一行を添えてしまうようになりました。自分はWeb運営には向いてないんだ‥そう思いつつもヒット数だけは気になり、500ヒット・1000ヒット・3000ヒット毎に新コンテンツを追加することで自分を鼓舞しつづけました。そしてそのほとんどが失敗に終わり、また意気消沈する日々が続きました。

 2度目の転機が訪れたのは、7月下旬でした。「インターネットホームページマスターへの道(永江一石,廣済堂出版)」という本の中の1行に、打ちのめされる思いがしました。
「アクセスしてくるほうは、回線料と、接続料を払い、貴重な時間を割いて遊びに来てくれるのである」
 そうなんです。その頃までに正門を訪れてくれた延べ6000人の読者の方々は、私がうじうじと悩んでいる間にも、何かないか、そろそろ面白いものが載らないかと自分のお金と時間を削って見に来てくれてるんです。この下手糞な自作小説しかない辺鄙なページへ‥彼らの期待するものは明白です。
「書くしかない‥面白いSSを」
 出来ないことを求めても仕方ありません。まめな更新も精緻な描写も出来ない以上は、1作1作を“濃く”するしかありません。読んでてどきどきするような、次回への期待でわくわくするような‥たとえ1ヶ月に1回しか更新されなくても、次回作を絶対見に来るぞ、と思わせられるような。

 こうして1年が経ち、私は自分のやり方が分かったような気がしています。
 書きたい時に書きたいものを書く、という点では1年前と同じです。ですが、読んでくれる人に期待外れな思いは絶対させたくない。「‥どこかで見たような筋」と思われたらお終いだ、と覚悟して書くようになりました。「原作者や他のSS作家が書かないようなものを」という従来のポリシーに加えて「読者を楽しませる」という観点が加わったのです。
 ひょっとしたら10代の読者の中には、この考え方を「堕落だ、迎合だ」と忌避する方が居るかもしれません。ですが奉仕であれ金もうけであれ、「見えない他者」を意識して行動することは大人なら皆やっていることですし、それが必要で効果的だからこそ長年にわたってテクニックが磨かれてきたのだと思います。私は1年間悩みぬいた末に最も平凡な結論に達したわけですが、「ヒット数が全てじゃない」という言葉の意味がやっと分かった気がします。問題は読者から何がもらえるかではなく、読者に何をしてあげられるか、なのです。

 これからWebページを開こうと考えている方、既にWebページを持っているが更新が滞っている方は、自分の胸に問い掛けてみてください。
「読者は、何に期待してあなたのページに来るんだと思う?」
 この問いに答えられる方は、公表されているコミックやアニメの画面をそのままスキャナ取り込みして張りつけたり、自分の自己紹介とメール宛先だけを書いたWebページを作ったりはしないはずです。


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