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1999年03月「チェリーの早春譜」第5週

written by 双剣士 (WebSite)
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目次

01〜07日分+予告編  08〜14日分  15〜21日分  22〜28日分
29日  30日  31日(最終回)  あとがき


第29日「夢、破れて」

ペドロスカ「(包帯だらけの姿で)ああ、チェリーさん‥オタルくん、ライムちゃん、ブラッドベリーさんまで‥本当に、ご迷惑ばかりおかけして‥」
小樽「おいおい、無理してしゃべるんじゃねぇよ」
ライム「ペッちゃん、ボクたちは大丈夫。怒ってないから、早く良くなってね」
ブラッドベリー「あ、あの‥その、さ。あんたが利用されただけだってのは、その、よく分かったから‥さっきは、ごめんな」
ペドロスカ「いや、いいんですよ‥ブラッドベリーさんの言った通りなんです。僕はあなたたちを利用して、ペテルブルグの最終兵器を蘇らせるために、ここに来たんですから」
チェリー「そんな風におっしゃらないで‥小樽様、みんな、ペドロさんは初めて会った日の夜に、わたくしに何もかも話してくださいましたわ。最終兵器のマスターになるために、修行をしに来たって‥小樽様を連れ去ってわたくしたちの仲を裂くのは忍びないから、自分がマスターになってみせるんだって‥そのために、ぜひ力を貸して欲しいって」
ライム「どーして? ペッちゃんにはスーリアが居るのに、どーして別の兵器のマスターにならなきゃいけないの?」
ブラッドベリー「ライム! やめなよ、スーリアの話は‥」
ライム「あ‥ごめんなさい」
ペドロスカ「いいんです‥今だから話します。僕も好きで、トゥーフェを‥その最終兵器の名前なんですが‥起こそうとしてたんじゃないんです。僕は元々、ペテルブルグの郊外でこっそりと暮らしていました。町の人には変人扱いされてたものですから‥スーリアとリゼアと言う、2体のマリオネットと一緒にね」
ブラッドベリー「い、いいよ、そんな話は。それより早く身体を治して‥」
ペドロスカ「いえ、隠してたばかりにご迷惑をおかけしましたから‥1ヶ月前のことでした。僕の家に帝国の公安が踏み込んで、あっという間に縛られて目隠しをされました。そして連れて行かれた先で、眠りつづけるマリオネット‥いや、古代遺跡の中の最終兵器を見せられて、それを目覚めさせろと言われたんです。変わり者の僕が必要とされたのは嬉しかったのですが、その兵器が‥トゥーフェが哀れに思えて、僕は最初拒否しました」
チェリー「‥(小樽の方に顔を向ける)‥」
ペドロスカ「そうしたら彼らは、いとも簡単にリゼアを銃で撃ち‥僕の眼の前で“殺して”しまいました。そして今度はスーリアに銃を‥僕は必死で懇願し、トゥーフェを目覚めさせるべく何度も呼びかけたんです。ところが、トゥーフェは僕の呼び掛けに薄目を開け、首を背けることで応えました‥」
ライム「いいよ、もういいよ、やめてよ!」
小樽「(黙ってライムの肩を抱く)」
ペドロスカ「連中は僕に愛想を尽かし、僕とスーリアを殺そうとしました。そのときの話に出たんです。伝説の乙女回路を持つマリオネットを蘇らせたと言う、ジャポネスの少年‥オタルくんの話がね。僕は一縷の希望にすがる思いで、彼らに泣き付きました。策は少しでも多い方が良い、オタルくんが素直にこちらの要求を飲む見込みが無いのなら、僕にオタルくんの技術を盗ませて欲しいと‥彼らは駄目もとと思ったのか、僕の申し出を認めてくれました。その代わり、スーリアには監視カメラと通信装置と‥そして人質としての、遠隔爆破回路がセットされたんです」
ライム「そんな‥そんなのって、ひどいよ!」
ペドロスカ「スーリアは帝国の命令に従って動くようになりました。でも、それでもスーリアは僕のスーリアです。スーリアを身近に置くことが自分を縛ることになると分かっていても、僕にはスーリアを放り出して逃げることは出来ませんでした。帝国も、トゥーフェも正直言ってどうでも良い。僕はスーリアを助けるために、オタルくんたちを利用したんです‥」
ブラッドベリー「そのあげくが、その報いが、これかよ‥」
ライム「‥‥‥」
チェリー「‥‥‥」


第30日「さよならじゃなくて」

小樽「おいペドロ、本当に行くのか?」
ペドロスカ「はい、短い間でしたが、本当にお世話になりました(一礼)」
チェリー「ペドロさん、まだ身体が治りきってないのに‥ペテルブルグへの長旅なんて、無茶ですわ」
ライム「そーだよ、どーして行っちゃうの? ボクたち、全然気にしてないんだよ」
ペドロスカ「ありがとう、ライムちゃん‥でも、早く行かないと間に合わないんだ。ガルトラント軍はもう首都に迫ってきてるそうだから‥」
ブラッドベリー「馬鹿だよ、あんたは‥なんで今更、ペテルブルグの肩を持つんだ? あいつらには怨みこそあれ、借りなんて無いんだろう。行った途端に、殺されちまうかもしれないんだぜ」
ペドロスカ「(苦笑)‥ブラッドベリーさん、それでも、僕にとっては大事な祖国なんです。それにトゥーフェが待ってる‥僕には、もうトゥーフェしか残ってないんですよ」
チェリー「(ペドロスカの背中にしがみつく)‥スーリアが寂しがりますわ。わたくしたちだって‥」
ペドロスカ「チェリーさん、教えてくれたのはあなたですよ。トゥーフェは僕が目覚めさせに来るのを、きっと待ってる‥ってね。大丈夫、今の僕には自信がありますから」
チェリー「そんな‥卑怯ですわ、ペドロさん‥」
ペドロスカ「きっと間に合います‥そんな気が、するんです。それに今なら、リゼアやスーリアに浮気者扱いされることもないでしょうからね(微笑)」
ライム「‥きっと帰ってきてね、ペッちゃん」
小樽「泣くなよ、ライム‥絶対うまくいくさ。戦争が終わったら、トゥーフェを連れて遊びに来いよな、ペドロ」
ペドロスカ「ありがとう、オタルくん。それから、スーリアのこと、よろしくお願いします」
チェリー「(胸に抱いた電子頭脳のユニットを握り締める)」
ペドロスカ「その電子頭脳には、スーリアをメンテしてた時に少しずつ移しておいた記憶が入っています。ライムちゃんたちと遊んでいた頃の記憶も入っているはず‥スーリアはきっと、嬉しかったんだと思いますよ。自分の意志で喋ることは出来なかったけれどね」
ブラッドベリー「ああ、たしかに預かった‥でも、必ず迎えに来いよ。でないと源内じいさん辺りが別のマリオネットにスーリアを載せて、そのスーリアに惚れる男が現れるかもしれないからな」
ペドロスカ「それは困ります。ライバルが強力すぎる(小樽を指差す)」
小樽「おいおい‥あはははは」
ペドロスカ「あははははは」
チェリー「‥(沈んだ表情のまま、ペドロスカの背中から離れる)‥」
ライム「きっとだよ、きっと帰ってきてね。スーリアと一緒に待ってるから(涙声)」
ペドロスカ「ああ‥きっとね。それから皆さん、本当にどこかに隠れた方がいいですよ。公安の手が、まだ伸びるかもしれないから」
小樽「心配すんなって。こっちにはテラツーで最強のマリオネットが3人も付いてるんだから」
ペドロスカ「‥そうでしたね。それじゃ、みなさん、また」
ライム「またねぇ〜」
チェリー「お帰りをお待ちしておりますわ」
ブラッドベリー「楽しみにしてるぜ」


第31日・最終回「桜の木の下で」

 それから、数日の時が流れた。ジャポネスは桜の季節になり、小樽たち一行は花見に出掛けた。だがその道中でもらった瓦版の記事を見て、一同の気持ちは沈んでいた。

小樽「ガルトラント、ペテルブルグを征服‥テラツーの勢力地図、変わる‥かぁ‥」
ライム「ペッちゃん、間に合わなかったみたいだね‥大丈夫かなぁ、ペッちゃん‥」
ブラッドベリー「へん、あいつがさっさとくたばるタマかよ! きっと戦争が嫌になって、トゥーフェと手と手を取って逃避行をしてるに違いないさ。なぁ、スーリア」
チェリー「そう、きっとそうですわね‥ちょっとブラッドベリー、何をしてるの! スーリアの電子頭脳にお酒を掛けないで!」
ブラッドベリー「なんだよ良いだろ、これがあたし流のスーリアとの乾杯さ‥どうだいスーリア、綺麗な桜だろう‥この枝を揺らしてる風は、ペテルブルグの方から吹いてる風なんだぜ‥」
チェリー「もう、ブラッドベリーったら‥スーリアは綺麗好きなのよ、ペドロさんが帰ってくる前に、あなた色に染めないでちょうだい!」
ライム「‥ねぇ、小樽」
小樽「うん?」
ライム「もしも、もしもだよ、ボクたちが目覚める前にガルトラントがジャポネスに攻めてきたら、小樽がペッちゃんの立場になってたのかな? ボクたち、小樽が来るのを、ずうっとずう〜っと待ってなきゃいけなかったのかな?」
チェリー「‥‥!」
小樽「どうだろうな‥でもよ、将軍様はあんなことしないと思うぜ。それに、俺はお前たちを戦争のために目覚めさせたわけじゃないし」
ブラッドベリー「そうだな。でもさ小樽、もしそんなことになったとしても、あたしは小樽一人に辛い思いはさせないからな。相手が将軍様だろうがガルトラントだろうが、しっかり小樽を守ってやるからよ」
ライム「うん、任しといて小樽! ボク、小樽がそばに来てくれたら、一発で起きてあげるからね!」
チェリー「‥でも、そんなことが無いに越したことはありませんわ。わたくしは小樽様と一緒に、ずうっとこうして暮らしていたい‥」
ブラッドベリー「‥‥‥」
チェリー「スーリアやリゼアのような思いをするのはもう沢山‥トゥーフェには、2人の分まで幸せになって欲しいわ‥」

梅幸「(木から飛び降りて)お楽しみのところ申し訳ない、小樽殿」
小樽「わっ! な、なんでぇ梅幸、玉三郎まで!」
玉三郎「‥上様がお呼びだ。ライムたち3人も一緒にな」
チェリー「わたくしたちも?」
ブラッドベリー「なんだよ、せっかく良い気分だってのに」
玉三郎「緊急事態だ。ガルトラントが、我がジャポネスに侵攻を開始した‥上様から小樽殿に、折り入って頼みたいことがあるそうじゃ」
小樽「‥‥!」
ライム「‥‥!」
チェリー「‥‥!」
ブラッドベリー「‥‥!」

 ‥以下、本編序盤のガルトラント(ゲルマニア)潜入編へと続く‥。

Fin.


あとがき

 拙作「チェリーの早春譜」を最後までお読みいただき、本当に有り難うございました。
 当Webページの管理者であり、SS創作&収集家の卵の双剣士です。

 毎日更新‥1000ヒット御礼を機に、書くのが遅い自分に鞭を入れるつもりで始めたこの日記風ショートでしたが、一時期中断はしたものの、1ヶ月続けることが出来てほっとしています。
 物語を書くのは元々好きでしたが、締め切りがあるという経験はこれが初めて。幸いプライベートが比較的ひまな時期だったので時間的には不足はしなかったのですが、今までのように好きな時に好きなだけ書くと言う訳には行かず、筆が進まない時には偏頭痛と腹痛という形でストレスが襲い掛かりました。まして今回、今日何を書くのかはその日の思い付き。長く続けるにはこの方が楽かと思っていましたが、どうしてどうして、私の性に合わないことがはっきりと分かりました。
 それでも、良い勉強になりました。遅筆は恥ではない、期限に追われて自分で満足の行かない物語を書くことこそが恥ずべき事だ、と開き直ることができたのですから。やはり私は、筆を執る前に何度も何度も頭の中でキャラクタを暴れ回らせて煮詰まってから収穫、という執筆スタイルが合っているようです。

 かくして毎日執筆は性に合わないと分かりましたが、でもこの日記風ショートで新しい楽しみ方を発見できたのも事実です。区切り目が多くなったことで、各回にそれなりの山場を用意しなければならなくなったのですから。もちろん高い山も低い山もありましたが、とにかくキャラクタの動きが派手、派手、派手! 花形などはすっかり出番を失ってしまったほどです(私は花形が嫌いじゃないのに〜)。
 セイバーJのSS3作目にして、ついにセイバー3人娘を正面から書いてみましたが、彼女たちのパワーのおかげで随分と助かりました。終盤になって『スーリアを死なせる』と私が言うとライムは泣き出すし、チェリーは黙って俯くし、ブラッドベリーは襟元を締め上げるし‥楽ではなかったけど、とても楽しかったです。
 そんなわけで、この日記風ショートはしばらく休載しますが、必ず再開させます。長編とは別の面白さに触れてしまったからです。次回は今回の教訓を生かしますので、前半と後半で雰囲気が違うと言う本作の弱点は克服できるはず。ご期待ください!

 あらためて、購読ありがとうございました。
 TVアニメ版「セイバーマリオネットJtoX」は終わってしまいましたが、当ページのライムたちはまだまだ現役です。応援よろしくお願いします。

 さーて、お待ちかねの乎一郎SSに掛かるぞぉ!

1999年3月31日


01〜07日分+予告編  08〜14日分  15〜21日分  22〜28日分
29日  30日  31日(最終回)  あとがき

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