01〜07日分+予告編
08〜14日分
15日
16日
17日
18日
19日
20日
21日
22〜28日分
29〜31日分+あとがき
チェリー「はぁ〜い、わたくしチェリーと申しま〜す。読者の皆様、ご機嫌はいかがですか?」
ライム「あれ、昨日うちに来たお客さんは? それに小樽も居ないし」
チェリー「あのねライム、今日はこの連載小説が折り返し点に来たってことで、ちょっと本編とは離れて大家さんの近況などを紹介する回なのよ」
ライム「あれ、じゃ今日は、ボクたち3人だけ?」
花形「僕も居る‥」
ブラッドベリー「(花形を空の彼方に放り投げ)そうか、ちょうどいいかもな。あたしも大家さんに言いたいことがあるし」
チェリー「じゃ大家さんからの伝言を読むわね‥『ご愛読の皆様、長い間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。初めての試みも無事終了を迎え‥』‥あれ?」
ライム「え〜なに、まだ話はじまったばっかりなのに、もう終わっちゃうの?」
ブラッドベリー「こんなところで終わっちまったらたまらないぜ!」
チェリー「ご、ごめんなさい読む原稿を間違えたみたい‥これだわ‥『小樽とチェリーの熱愛を描くはずだった短編連載もやっと折り返し点。いつ止めても不都合のない短編読み切りにするつもりが、いつのまにか新キャラまで登場する長編に変わっていってしまいました。翌日のことは全然考えずに書き連ねていただけなのに、こんな事になるなんて‥』」
ブラッドベリー「‥やっぱりそうか。この小説、他の作品と全然雰囲気が違うもんな」
チェリー「『プロット無しで長編を書くのがこんなにしんどいとは知りませんでした。したがって引いておいた伏線が無為に終わったり、意味の無いイベントをほったらかしにする個所がこれからもあるかとは思いますが‥』‥開き直ってるみたい」
ライム「そーだよ、雛祭りはどうなったの? 源内じぃちゃんの音楽隊、動くとこ見たかったのに」
ブラッドベリー「そうそう、雛祭りであたしらが酔ってる最中にチェリーの着替えシーンを書いときながら、フォロー全然無しだもんな」
チェリー「『題名に惹かれたチェリーファンの方々にとっては、期待外れに終わる公算が非常に高く‥』‥そうだったわ。予告編を呼んだ時には、今度こそ小樽様と愛の園へ行けると思ってたのに‥」
ブラッドベリー「それでも、チェリーはまだいい方だぜ。あたしなんか6話から12話まで、まともな出番ぜんぜん無かったんだから」
ライム「ボクたちが寝てる間に小樽に抱き付くなんて、チェリーずるい!」
花形「(復活)それを言ったら! 僕の台詞なんか、ここまでで10回分にも届かないんだぞ〜」
チェリー「『セイバーJtoX本編が悲しい展開を見せている時期でもあり、この話を書くことに挫けそうになることもありました。報酬どころか一片の応援メールが来ることもない半月間。もしいつでも終われる短編連載だったら、投げ出していたかもしれません』‥応援、ねぇ‥」
ライム「ここを見に来てくれる人、居るのかなぁ? 大家さんのネットでのお友だちは大半が守護○天系の人らしいよ。1000ヒット記念企画で短編連載に投票してくれた人もそうだったし」
ブラッドベリー「しかしまぁ、本人が好きで始めたことだからな。応援が無いくらいで投げ出すのは無責任ってもんだ」
チェリー「そうね、人気ない上に未完成じゃ救われないわよね‥『幸か不幸か、長編になってしまったため決着を付けるまで終われなくなりました。将来のことはな〜んにも考えずに書いてますが、あと半月は何とか持たせられるでしょう』‥ですって。良かったわね、ライム」
ライム「うん! もっともっと小樽と遊べるんだ!」
花形「応援をもらう方法があるぞ。後半は、僕と小樽くんを主役にするんだ!」
ブラッドベリー「そんなわけないだろ! あたしは大家さんに要求する! 台詞ばっかりで構成するのを改めて、あたしのアクションシーンが書けるようにしろ! そしたら超過勤務でもなんでもしてやるぜ!」
チェリー「だめよ、後半こそは当初の路線に戻って、小樽様とわたくしを‥(妄想開始)」
ライム「なんかよく分かんないけど、後半も楽しくやろうね。ボクたちが離れ離れになるなんてイヤだよ。ボク、小樽のことがだ〜い好きなんだから」
謎の男「その鍵を握っているのは、この僕‥」
ブラッドベリー「うるさい、ゲストキャラ!」
花形「きみ‥なんだか、親近感を覚えるなぁ‥」
チェリー「(玄関で水を撒いている)ああ、今朝もいいお天気ねぇ〜」
ペドロスカ「(向かいの部屋の扉を開けて)あっ‥お、おはよう、チェリー‥さん‥」
チェリー「おはようございます、ペドロさん(天使の微笑み)。どうかなさいました?」
ペドロスカ「い、いやぁ‥マリオネットに挨拶されるなんて、初めてなもんで‥な、なんか照れるなぁ」
チェリー「うふふふ、おかしな方‥でも、それに慣れるために来られたんでしょう?」
ペドロスカ「え、ええ、そのつもりで‥よろしくお願いします、チェリーさん」
チェリー「呼び捨てにしてくださいな。小樽様も長屋の皆さんも、そうなさってますから」
ライム「(がらっ)おはよーチェリー、あ、ペッちゃん、ハォ〜!」
ペドロスカ「ペッちゃん‥ライムさん、その呼び方は何とか‥」
ライム「(無視してペドロスカの部屋に飛び込み)おっはよー、スーリア。ボクだよ、ライムだよ、分かる?」
汎用マリオネット・スーリア「‥(無表情のまま、うなずく)‥」
ライム「うんうん(にっこり)。ねぇスーリア、一緒に顔洗お?(スーリアの手を引いて外へ)ペッちゃん、いいよね?」
ペドロスカ「いや、だからその呼び方‥」
ライム「(また無視して)行こ行こ、こっちだよスーリア(スーリアの背を押しながら井戸に向かう)」
ペドロスカ「ああっ、スーリア‥」
チェリー「うふっ、ライムったら‥すっかりあの子が、気に入ったみたいですわね」
ペドロスカ「‥(心配そうに井戸の方に眼をやる)‥」
ブラッドベリー「心配すんなって(いつのまにかペドロスカの肩に手を置いて)‥あれ、おい、震えてんのか?」
ペドロスカ「あ、ブラッドベリー、さん‥ああっ、スーリア危ない(井戸に向けて駆け出す)」
ブラッドベリー「あ‥やれやれ、あいつと来たら‥スーリアのこと、腫れ物みたいに扱ってるんだな。源内じいさんのとこの“じぇみに”とはえらい違いだ」
チェリー「でも、何だかほっとしましたわ。あんなにスーリアを大切にしている人が、悪い人のはずありませんもの」
ブラッドベリー「そうかもな。あ、そうだチェリー、朝飯を並べ終えたから、皆を呼びに来たんだ。ライムは?」
チェリー「ライム〜、朝ご飯よ〜」
ライム「はぁ〜い。じゃスーリア、またね」
スーリア「‥(ライムに会釈する)‥」
ペドロスカ「スーリア、いい子だ‥さ、部屋に戻ろうか」
小樽「(がらっ)おいペドロ、うちで一緒に朝めし食わねぇか?」
ペドロスカ「えっ?」
小樽「遠慮すんなよ。俺たちの暮らしを見に来たんだろ? ずっと張り付かれるわけにゃいかねぇけど、飯ぐらい一緒に食おうぜ」
チェリー「さ、ペドロさんたちの分も炊いてありますのよ。ご遠慮なくどうぞ」
ペドロスカ「えっ‥マリオネットの、チェリーさんが、食事を‥」
小樽「うちじゃこれが当たり前なんだよ。ほら冷めちまうから、早く来いよ」
ペドロスカ「えっ、で、でも‥(スーリアの肩を抱いて逡巡)」
ブラッドベリー「じれったい男だねぇ‥ライム、スーリアを抱えて連れてきな」
ライム「おっけー(ぱたぱた)行こっスーリア(ペドロスカの腕から奪い取って長屋に駆け込む)」
ペドロスカ「あっ、待ってスーリア‥(猛牛のごとくライムの後を追う)」
ライム「いっただきまぁ〜す!(はぐはぐ)」
ブラッドベリー「(ぐぐっ)ぷはぁ〜っ、今朝の酒は格別だねー」
チェリー「ブラッドベリー、今日は朝から仕事でしょ。少しは控えなさい」
ブラッドベリー「いーじゃねぇか、これ無しじゃ飯くった気がしないんだよ」
チェリー「もおぉぉ‥」
ライム「きゃはっ、チェリー、お替わり!」
チェリー「はいはい、ライムはいつも元気ね」
ライム「うん、おいしいんだもん! ありがとチェリー(はぐはぐはぐ)」
小樽「ははは、毎度の事ながら賑やかなこった」
ペドロスカ「‥‥(絶句)‥‥」
スーリア「‥‥(沈黙)‥‥」
ライム「もぐもぐ‥あれ? ペッちゃん食べないの?」
小樽「ん? そういや、どうしたんだ、全然手を付けてねぇじゃねぇか」
ペドロスカ「‥‥(絶句)‥‥」
スーリア「‥‥(沈黙)‥‥」
チェリー「あの、お口に合いませんでした?」
ブラッドベリー「何とか言いなよ、せっかくの飯がまずくなるだろ」
ペドロスカ「‥‥あ、あ‥‥」
ライム「???」
小樽「どうしたんだよ」
ペドロスカ「‥‥ま、マリオネットが‥食事をして‥る‥」
ブラッドベリー「なに驚いてんだよ」
チェリー「(はっ、と気づく)あの、ひょっとして‥ご覧になるの、初めてですか?」
ライム「何を?」
小樽「そっか、そういえば、“じぇみに”たち他のマリオネットは飯くわねぇんだ」
ライム「そーだっけ?」
ペドロスカ「‥こ、これが‥みなさんの、普通、なんですか‥」
ブラッドベリー「そうだよ。食べなきゃ腹が減るじゃないか」
ライム「ボク、チェリーのご飯、大好きだよ!」
ペドロスカ「‥すごい‥」
小樽「‥俺にとっては、これが普通だからなぁ‥確かに、初めてライムを見た長屋のみんなは随分驚いてたっけ。すぐに慣れたけど」
ペドロスカ「‥これが、これが、伝説の乙女回路‥心を持つマリオネット‥」
ブラッドベリー「よせよ、照れちまうだろ(ぐいっ)」
ライム「ねー、スーリアは食べないの?」
チェリー「(きつい声で)ライム!」
ライム「ほえ?」
ペドロスカ「いいんです、チェリーさん‥ここに来て本当に良かった。なんだか、未来のスーリアを見てるみたいで嬉しいです‥これ、チェリーさんが作ったんですか?」
チェリー「ええ、そうですけど‥あの、ペドロさん、お願いですから“さん”を付けるの、やめてくれませんか?」
ライム「そうだよペッちゃん、ボクたち友達でしょ?」
スーリア「‥‥(沈黙)‥‥」
ペドロスカ「友達‥ありがとう、ライムさん‥いただきます‥(もぐっ)お、おいしい‥です‥」
ブラッドベリー「あーあ、なんで泣くかな」
小樽「‥なぁペドロ、今夜も、いやこれからもちょくちょく、うちで一緒に食べねぇか? 俺たちはかまわねぇぜ、なぁチェリー?」
チェリー「は、はい、もちろんです小樽様」
ライム「うわぁ〜い」
小樽「ごっそさん。それじゃ行ってくるぜ、チェリー」
チェリー「気を付けていってらっしゃいませ、小樽様」
ライム「じゃ、ボクも行くね」
小樽「よぉペドロ、今日はこれからどうすんだい」
ペドロスカ「えっ、どうって‥特に、することもないんですけど‥」
小樽「じゃあよぉ、とりあえず今日1日は、俺たちの手伝いをするってのはどうだい」
ブラッドベリー「お、小樽、今日は二人っきりで行商をするんだって言ってくれたじゃないか‥」
チェリー「(むっ)ぜひぜひ、そうなさいませペドロさん。小樽様がこうおっしゃってるんですから」
ペドロスカ「じ、じゃあ、お言葉に甘えて‥でも、どこへ行かれるんです?」
ブラッドベリー「さぁなあ、魚かついで、町をうろうろ、さ。素人が付いてくるにはきついかもな」
ライム「そっかな? いろんな人に会えるから、ボクいつも楽しいよ」
ブラッドベリー「‥ちっ」
ペドロスカ「そ、それじゃあ、スーリアを着替えさせてきます‥」
小樽「んなことしてたら客が逃げちまうよ。さっさと行くぜ」
ライム「スーリア、ちっともおかしくないよ。さぁ行こ行こ」
町内大通りにて。小樽とブラッドベリーは魚売り、ペドロとスーリアは飴売りをしている。ライムは宅配のバイトで町内を走り回っている。
小樽「らっしゃいらっしゃい、新鮮な魚が安いよ〜」
ブラッドベリー「そこのお兄さん、買ってきなよ」
通行人「そ、そうかい‥ブラッドベリーの頼みじゃなぁ‥じゃ、一匹もらおうか」
小樽「へい、毎度! あ、それからよぉ、あっちで飴売ってる二人の方も覗いてやっちゃくれねぇかな?」
通行人「飴?‥ああ、あそこの異人さんと、別嬪さんのことかい?」
子供「(スーリアに群がって)うわぁ〜、綺麗なマリオネット‥ねぇ、これ叔父ちゃんの?」
ペドロスカ「叔父ちゃん‥そ、そうだよ。スーリアって言うんだ。よろしくね(スーリアに飴を差し出す)」
スーリア「‥(無表情のままペドロスカから飴を受け取り、しゃがみこんで子供に手渡す)‥」
子供「うわぁ〜、いいの?」
ペドロスカ「スーリアを誉めてくれたお礼さ。ほらみんなもおいで」
別の子供「僕も、僕もぉ!」
ブラッドベリー「(ペドロスカたちを眺めて)へぇ〜、あいつら結構なつかれてるじゃんか」
小樽「ああ、ああいう優しいやつには子供相手が似合うと思ってやらせてみたんだが、うまく行ったみたいだな」
ブラッドベリー「(小声で)なぁ小樽、本当にこのまま、あのペドロってやつを傍においておく気かい?」
小樽「ま、まぁな‥別にいいじゃねぇか。俺たちの邪魔はしない、ただ心を持ったマリオネットの扱い方を憶えたい、って言うんだから」
ブラッドベリー「でも、あいつがマスターになろうとしてるのは、ペテルブルグの最終兵器とでも言うべきマリオネットなんだろう? なんだか、胡散臭い気がするんだよ。チェリーの話じゃ、ペテルブルグはいま戦争の真っ最中だって言うし‥あいつが来た日に、あたしたちの家が荒らされたのも気に掛かるしさ」
小樽「俺も最初はあいつらを疑ったけどさ、でもいいやつらじゃないか。あのスーリア、乙女回路は持ってねぇけど、大事にされてるのが見てて分かるだろ?」
ブラッドベリー「そりゃスーリアに関しちゃ、あいつは眼の中に入れても痛くないほど可愛がってるさ。それくらい、あたしにだって分かるよ‥けど、スーリアの世話を焼くために、わざわざ戦争中にジャポネスに来たわけじゃないんだろ。あいつが何をしに来たんだか、いまいちあたしには分からないんだよね‥」
小樽「おいおい、らしくねぇぞブラッドベリー」
その夜。
ペドロスカ「どうも、ごちそうさまでした」
チェリー「うふふ、お粗末さまでした」
ライム「あー美味しかった。ねぇ小樽、今夜お星様が綺麗だよ、一緒に見に行こうよ」
小樽「おいおいライム、いま夕食を食べたばっかりだぜ」
ライム「ねー行こうよぉ、ほらほら(小樽の手を引いて外へ)」
ブラッドベリー「あっ、ライム抜け駆けは許さないよ!(二人を追って外へ)」
チェリー「ちょっとみんな‥(立ち上がろうとするが、ペドロスカの視線に気づいて振り返る)」
ペドロスカ「‥あの、チェリーさん‥実は‥」
チェリー「はい?(ああっ、小樽様に追いつけなくなっちゃうわ‥)」
スーリア「‥(首を振ってペドロスカとチェリーを見比べる)‥」
ペドロスカ「あの、聞いて欲しいお話がありまして‥オタルくんにも、内緒にしておいて欲しいのですが‥」
チェリー「‥はい?」
ライム「ねぇねぇスーリア、ペテルブルグにもポンタくんは居るの?」
スーリア「‥(無言のまま、ライムに顔を向けて首をかしげる)‥」
ライム「ふぅ〜ん(言葉が無くても分かるらしい)それじゃ、会うの初めてだね。ここね、ポンタくんの里なんだよ。天気がいい時には、ボクよく遊びに来るんだ」
スーリア「‥(無表情)‥」
ライム「おお〜い、ポンタくぅ〜ん、出てきてぇ〜」
ポンタくん「みゅーみゅー(×15)」
ライム「おはようポンタくん。ハォ〜」
ポンタくん「みゃお〜(×15)」
ライム「今日はね、新しいお友達を連れてきたんだよ。スーリアって言うんだ。一緒に遊んであげてね」
ポンタくん「みゅっみゅみゅー(×15)」
スーリア「‥(無表情のまま会釈を返し、しゃがみこむ)‥」
ポンタくん「みゅー(スーリアの手や肩に登り始める)」
ライム「あは、良かった。気に入ってもらえたみたい」
スーリア「‥(手に登った子ポンタくんを凝視する)‥」
子ポンタくん「みゅっ?(首を傾げる)」
スーリア「‥(無言のまま、子ポンタくんの両腕を引っ張り始める)‥」
子ポンタくん「みゅううぅぅ!(悲鳴)」
ライム「だ、だめだよスーリア、ポンタくんは玩具じゃないんだよ(子ポンタくんを助け出す)」
子ポンタくん「みゅー、みゅー(怯えている)」
ライム「大丈夫? ‥スーリア、こんな事しちゃ駄目じゃない‥ああっ、駄目ぇっ!」
スーリア「‥(別の子ポンタくんを逆さ釣りにして、顔の前で凝視している)‥」
子ポンタくん「みゅっ、みゅー!(暴れている)」
ライム「(がらっ)やっほーペッちゃん、ただいまぁ〜」
ペドロスカ「あっ、スーリア、無事だったのか‥良かった(ライムと共に帰ってきたスーリアを抱きしめる)」
ライム「ペッちゃん、心配し過ぎだよ。スーリア、とってもいい子にしてたんだよ」
ペドロスカ「ありがとう、ありがとうライムさん。スーリアと一緒に遊んでくれて‥スーリアもきっと、喜んでると思うよ」
ライム「いいんだよ、全然‥それよりさぁ、ペッちゃん。その“さん”付け、止めてくれないかな? なんだかボクのことじゃないみたい」
ペドロスカ「あ、ああ‥ごめんね、ライム‥ちゃん」
ライム「んんん〜っ、まぁいいか。じゃボク帰るね」
ペドロスカ「さよなら、ライムちゃん」
ライム「うん♪(扉を閉じる)」
ペドロスカ「さあ、スーリアこっちにおいで‥(スーリアを土間に立たせ、布で磨き始める)‥今日は楽しかったみたいだね、こんなに汚れて‥」
スーリア「‥(無言のまま、ペドロスカを見下ろす)‥」
ペドロスカ「(きゅっきゅっ)本当に、ジャポネスは平和なところだね‥ここでこうして、ずっと一緒に暮らせたら良かったのにな‥」
スーリア「‥(目が光る)現状を、報告せよ‥」
ペドロスカ「‥! い、いえ、オタル・マミヤとの接触は順調‥学習は滞りなく‥」
スーリア「‥時間が、ない‥」
ペドロスカ「必ず、必ず間に合わせますので‥しばしご猶予を‥」
チェリー「小樽様、ライム、ブラッドベリー、行ってらっしゃ〜い!‥‥さぁて、それじゃお昼ご飯のお片づけ、お片づけ」
ペドロスカ「チェリーさん、僕もお手伝いします」
スーリア「‥(座ったまま、台所の方に首を向ける)‥」
チェリー「(背を向けたまま)ありがとうございます。でも(かたかた)お気持ちだけで十分ですから。くつろいでいてくださいな」
ペドロスカ「いや、でも、押し掛け弟子の分際で甘えてばかりいるわけには‥」
チェリー「‥それじゃ、わたくしのお願いをひとつだけ聞いてくださいます?」
ペドロスカ「何でしょう?」
チェリー「以前にも申し上げた通り、“さん”を付けるのを改めていただきたいんです。なんだか他人行儀で、落ち着きませんから」
ペドロスカ「あ‥ああ、そうでしたね。それじゃ失礼して‥チェリー、ちゃん‥」
チェリー「うふっ、それも可笑しいですわ。呼び捨てで結構です」
ペドロスカ「‥チェリー‥」
チェリー「はい(天使の微笑み)」
ペドロスカ「チェリー」
チェリー「はい(台所の方に向き直る)」
ペドロスカ「チェリー!」
チェリー「はぁい‥きゃっ(背後から抱き付かれる)」
ペドロスカ「(チェリーに抱き付いたまま)チェリー‥なんて甘美な響きだ。いけない、いけないと思って抑えてきたのに‥君が誘うからいけないんだ‥」
チェリー「ぺ、ペドロ、さん‥(両手が塞がっていて抵抗できない)‥どうしたんですの」
ペドロスカ「初めて君を見た時から、他の二人とは違って見えた‥こうして二人っきりになれたのも、神様のお導き‥」
チェリー「い、いけませんわペドロさん。あなたにはスーリアが居るじゃありませんの」
スーリア「‥(座ったまま二人を凝視している)‥」
ペドロスカ「チェリー!」
チェリー「(ひくっ)は、はい‥」
ペドロスカ「スーリアを愛する僕だからこそ、貴女の魅力に気づくことが出来るんです‥温かい心、優しい言葉、輝く笑顔‥もう、心を持たないマリオネットには戻れない‥あなたがいけないんだ、チェリー」
チェリー「‥‥‥」
ペドロスカ「チェリー、僕なら君一人を幸せにしてあげられる。オタル君ではなく、僕を‥」
チェリー「‥‥‥」
ペドロスカ「チェリー?」
チェリー「‥駄目ですわ、ペドロさん。それでは、わたくしの心は動きません」
ペドロスカ「‥やっぱり、そうですか。まだまだだな」
チェリー「気を落とすことありませんわ。まだ始めたばかりなのですから」
ペドロスカ「‥いえ、僕には時間が無いんです‥」
彦左「上様。特使殿をお連れしました」
ペテルブルグ特使「連日押しかけまして申し訳有りません、家安公。今日は我が国への援軍の是非を問う刻限の日。ぜひともご厚情を賜りたく‥」
家安「毎日毎日、ご苦労なことじゃのう特使殿。じゃが遺憾ながら、わしの返事はこれまでと変わらぬ。貴国の窮状には深く同情するが、ジャポネスとてガルトラントと国境を接する国。貴国の増援に送れる軍勢は、先日送ったのが精一杯なのじゃ」
特使「家安公のご支援には、常々感謝いたしております。されどガルトラントの機械化兵団の侵攻の前には、セイバーマリオネットの逐次投入など焼け石に水。ここはやはり、国を挙げての決戦に備えて、数万人規模の増援をお願いしたく」
家安「気持ちは分からんでもないがの。我らとて無い袖は振れぬ。ガルトラント国境から牽制はしておるが、ファウストは見向きもせずそちらに向かっておるようじゃしな」
特使「ガルトラントが我が国を飲み込めば、テラツー6カ国の勢力バランスは一挙に変わり、これまでの秩序が崩壊いたしまする。次はジャポネス、いや他の3カ国とて風前の灯火。この戦いはペテルブルグ一国の危機にあらず、テラツー全土の歴史の岐路としての意味を持っております。今ファウストの野望を掣肘しておかなければ、後世において惰弱の汚名を残すことになりますぞ、家安公」
家安「ほう、このわしを脅迫する気か‥しかしその言葉、半年遅かったのう。ファウストが国境を越えてからあたふたと軍をまとめ、増援を手配しておるようでは奴には勝てんよ。わしはジャポネスが同じ轍を踏まぬよう、自分の国を守りぬく責任が有る。特使殿、かくなるうえは徒に決戦をはやるのではなく、和睦するなり、皇帝を亡命させるなりといった方面で尽力されてはいかがかな」
特使「‥我らは父祖より受け継いだペテルブルグの地を守る責任がござる。家安公の口上は承った。されば、我らは我らで出来る限りの手を尽くしまする。後になって後悔なさらぬよう」
家安「悪いことは言わぬ。和睦なされよ」
特使「‥憶えておいてくだされ。トゥーフェが先史文明を焼き尽くした時、その炎は惑星全土に広がったと古文書には有りまする。その封印を破らざるを得なくなったのは他でもない、ファウストの野心と家安公の冷遇が原因ですからな」
家安「最終兵器を使われる気か。だが、あれを目覚めさせる術はいまだ見つからぬのではなかったのかな」
特使「‥心配には及びませぬ」
彦左「上様‥」
家安「彦左、これより間宮小樽の警護をより厳重にせよ‥やぶれかぶれになったあの連中、どんな手段に出るか分からん」
彦左「御意」