日記風ショート小説  RSS2.0

1999年06月「もうあんな思いはしたくない」
第4週

written by 双剣士 (WebSite)
日記風ショート小説の広場へ
目次

01〜06日分  07〜13日分  14〜20日分
21日  22日  23日  24日  25日  26日  27日
28〜33日分


第21日「麻美さん!」

 遊園地を出てバスに飛び乗ってから。

たかし「はぁ、はぁ‥も、もう大丈夫だろ‥」
麻美「‥どうも、ありがとう、たかしくん、シャオリンさん。そしてごめんなさい、怖い思いをさせて」
シャオリン「‥麻美さん、話していただけますね。何もかも」
麻美「‥(顔を伏せる)‥」
たかし「し、シャオちゃん、ここバスの中だぜ‥そういう話は‥」
シャオリン「(たかしに取り合わずに)約束です、麻美さん」
麻美「‥(首を横に振る)‥」
シャオリン「麻美さん!」
麻美「‥ごめんなさい、あれ嘘なの‥これ以上関わらない方がいいわ。今日みたいな幸運は、そう滅多にないんだから」
たかし「い、いまさらそりゃないぜ麻美さん。あの連中、こないだ麻美さんを追いかけてた黒服の二人と関係あるんだろ?」
シャオリン「言ったはずです。私は守護月天‥あなたをお守りするのが務め。お気遣いは無用に願います」
麻美「‥迷惑なのよ」
たかし「‥‥!!」
麻美「これは私の問題‥助けてくれたことには感謝するけれど、首を突っ込まれるのは迷惑だわ」
シャオリン「‥でも、このままじゃ麻美さん、いつかは‥」
麻美「たかしくん、この元気なお嬢さんをしっかり捕まえていて‥引き返すことだって、立派な勇気なのよ。男の子なら、分かるわね?」
たかし「わ‥わかんないよ、おれガキだもん! それに見てらんないよ、初恋の人が困って‥」
麻美「(たかしに顔を向ける)」
たかし「‥あわわわ(口を押さえる)」
シャオリン「麻美さん、私もう、見て見ぬふりは出来ません。後悔したくないんです。きっと何か、お役に立てると‥」
麻美「‥その気持ちだけで十分。年上の言うことは聞きなさい。ごめんね。それじゃ(停車したバスから降りて駅の方へ駆けて行く)」
たかし「あ、麻美さん!」


第22日「手掛かり」

 それから。七梨家までシャオリンを送って行く道中にて。

たかし「まったく、麻美さんは‥ガード固いったら、もう」
シャオリン「私、諦めません」
たかし「おれもだぜシャオちゃん。ここまで来て引き下がれるもんか。麻美さんが嫌だと言っても、おれはやる、とことんやる!」
シャオリン「‥このまま見過ごして、麻美さんの身に何か有ったら‥私、梨扇様に顔向けできません‥無理を聞いてくれた太助様にも」
たかし「そうだ、一緒に頑張ろう、シャオちゃん!(がしっとシャオリンの肩を抱くが、一瞬後に赤面して手を放す)」
シャオリン「‥(まったく無反応)‥」
たかし「(鼻の頭を掻きながら)‥そ、それにしても‥もう麻美さんを問い詰めるのは無理そうだな。どうしようか」
シャオリン「‥あの男の子」
たかし「えっ?」
シャオリン「麻美さんが話し掛けていた、あの男の子‥あの人に聞けば、何かわかるかも」
たかし「あ、あのいかつい兄ちゃんたちのことか? そりゃ危ないよシャオちゃん」
シャオリン「違います。麻美さんと私が捕まる前に、麻美さんが話し掛けてた男の子が居るんです。あの人は、私たちを逃そうとしてくれてました‥きっと悪い人ではありません」
たかし「そ、そんなやつが、いたのか‥」
シャオリン「たかしさん、あの人に見覚えはありませんか?」
たかし「み、見覚えったって‥ぜんぜん気が付かなかったよ、おれ、そいつのこと」
シャオリン「そうですか‥じゃあ、私が自分で探します、その人を」
たかし「えっ? で、でも危ないよ」
シャオリン「私には星神が居ますから、大丈夫です‥任せてください、たかしさん」


第23日「知らせを受けて」

 数日後、午後の授業中にて。

ルーアン「はぁい、みんな描けたぁ?」
たかし「見てくれ、おれのこの色! 燃えるような情熱の赤!」
太助「たかし、りんごの絵を描くのに色に気合入れてどうすんだよ‥」
乎一郎「ルーアン先生、見て見て、綺麗にグラデーション出来たよ」
ルーアン「‥赤と緑のコントラスト‥あんまり美味しそうじゃないわねぇ」

 とまぁ、いつもより随分まともに進む授業の最中に、窓から飛び込んできたもの有り。

天高「‥(ぱたぱたぱた)‥」
シャオリン「あ、どうだった、天高(白い鳥に似た、高空偵察用の星神)? ‥えっ、いたの、どこに? ‥すぐ行くわ!」
たかし「‥シャオちゃん?」
乎一郎「‥どうしたの?」
シャオリン「ルーアンさん、ごめんなさい!(軒轅に乗って窓から外へ!)」
太助「シャオ?!」
ルーアン「ちょっとシャオリン、どこ行くのよ!」

 止める間もなく、シャオリンは飛んで行ってしまう。残された面々はしばし茫然としてから‥たかしに注目!

乎一郎「たかしくん、シャオちゃんどうしたの? どこに行ったのさ?」
たかし「し、知らないよおれだって‥」
太助「何言ってんだよ、お前が分からないわけないだろ!」
たかし「そんなこと言ったってさぁ‥あ、そういえば‥」
太助「ん?」
たかし「そういえば、シャオちゃん誰かを探すとか言ってたような‥で、でも、おれ知らないよ、なんてやつで、どこに居るのかなんて」
乎一郎「何があったのさ?」
太助「おい離珠、シャオはどこだ? どこに行ったんだ? 何が起こったんだ?」

 離珠、問い掛けられて首を横に振る。たとえ知っていたとしても彼女は喋れないのだが。

ルーアン「はいはい、みんな席に戻って。なによもう、シャオリンなら何とでもなるわよ」
乎一郎「ルーアン先生!」
ルーアン「な、なによ‥」
乎一郎「あれ出して、あれ!」
太助「そうだ、ルーアンのコンパクトだ!」

 女教師ルーアン、生徒たちの視線に押されて後ずさりする。


第24日「今夜、公園で」

 しばらくして。物陰でたたずむシャオリンの元に、天陰(猟犬に似た星神)が走ってくる。背中に例の少年を乗せて。

謎の少年「‥‥!」
シャオリン「驚かせてごめんなさい。あなたに、お話をお聞きしたかったものだから」
謎の少年「な、な、な‥なんなんだ、あんたは! こいつは! 俺をどうする気だ!」
シャオリン「私は守護月天‥今は、麻美さんをお守りする者です。先日遊園地で、あなたと麻美さんがなさっていたお話をお聞きしたくて」
謎の少年「麻美?‥あ、ああ、そういやあんた、あの時あそこに居た‥」
シャオリン「正直にお話いただければ、すぐに帰して差し上げます‥私、知らなくてはいけないんです。麻美さんのこと」
謎の少年「お、思い出したよ‥な、とりあえず、こいつから降ろしてくれないか」

 天陰、少年を背中から降ろす。支天輪に吸い込まれる天陰を見て唖然とする少年。

謎の少年「しかし、あんたも無茶するよな‥やくざの事務所の真ん前から、俺をさらって走り出すんだから」
シャオリン「手荒なことをしたのは謝ります。‥でも、もう終盤だから」
謎の少年「‥‥???」
シャオリン「‥いえ、こちらの話です。お話をお聞かせ願えますね?」
謎の少年「あ、ああ‥ちょうど良かった。あんたが姉貴の傍に付いてるんなら、事情を聞いといてもらった方がいいだろ」
シャオリン「姉?」
謎の少年「話すよ‥だけどさ」

 彼を探すチンピラたちの声が、次第に近づいてくる。

謎の少年「ここじゃまずい‥なぁ、俺いったん戻るから、後で別のとこで落ち会わねぇか?」
シャオリン「‥信じて、いいんですね」
謎の少年「あんたを怒らせたら怖そうだからな。約束は守るよ‥そう、午後7時、町外れの公園で。そのころなら抜け出せると思う」
シャオリン「7時ですね。もし来なかったら‥」
謎の少年「行くって、行くって(汗)。ただ互いに人目をはばかる身だ。差しで話がしたい。公園の噴水前に、一人で来てくれないか」
シャオリン「‥はい」

 ‥それからしばらくして。授業を終えた麻美が下校しようと高校の門をくぐった時、眼の前に‥。

麻美「きゃっ! ‥た、たかしくん?」
たかし「はぁ、はぁ、はぁ‥あ、麻美さん。一緒に来てよ」
麻美「‥どうしたのよ、そんなに息を切らして」
たかし「シャオちゃんが、危ないんだ」
麻美「‥えっ?」
たかし「もう勿体ぶってる場合じゃないんだよ。シャオちゃんがあいつに会いに行った‥たった、ひとりで」
麻美「あいつって‥‥!!!」
たかし「麻美さん、事情を話してもらうぜ‥黙ってりゃ無関係で居られる段階は、とっくに過ぎたんだ」


第25日「麻美の事情」

 午後7時。薄暗くなりかけた夕方の公園で、噴水の脇に一人で座るシャオリン。そこへ、周りをはばかりながら例の少年が駆けてきた。

謎の少年「‥遅くなったな」
シャオリン「いえ‥では、どこか別の場所へ」
謎の少年「いや、ここでいい‥広い方が、追いつめられた時に逃げやすいだろ。それより、いいのか?」
シャオリン「えっ?」
謎の少年「あんたみたいな別嬪が、俺たちやくざに関わったらろくな目に会わないぜ‥姉貴にも、そう言ってるんだが」
シャオリン「‥やくざって、何ですか?‥」
謎の少年「‥(顎がかくんと落ちる)‥はぁ、どこか浮世離れしてると思ったら‥わかった。最初から話すよ。適当に省略したらとんでもない目に会いそうだ」

 公園の人影がだんだん少なくなってくる。

陽一「俺は陽一。あんたと一緒に居た麻美って女は、俺の二つ上の、姉貴だ」
シャオリン「‥ご姉弟さん」
陽一「そう。姉貴は俺を、やくざの世界から連れ出そうとしてる‥ああ、やくざってのは、腕っぷしに物を言わせて威張りながら歩いてる、おっかない連中のことさ。こんなことでもなきゃ、あんたらと関わることはないけどな」
シャオリン「‥ごろつきさんの、ことですね」
陽一「‥(汗)‥そ、そうだよ。だから姉貴やあんたが俺に近づくってのは、はっきり言って、危ない。ひとつ間違えたら海外に売り飛ばされる‥だから近づくなって、あんたからも言ってやってくれ、姉貴に」
シャオリン「‥あなたは、悪い人ではないようですね」
陽一「悪いやつなんだよ! けどそれを承知で、姉貴は俺に絡んでくるんだ、最近。10年近くも会ってなかったってのに、今になってな」
シャオリン「複雑な事情が、おありのようですね」
陽一「そうでもないさ。単なる不運‥俺はそう思ってるよ。俺がガキの頃、家族4人で夜逃げをして‥追ってくるやくざから逃げてるうちに、はぐれちまったのさ。俺と母さん、親父と姉貴‥逃げ出せたのは、二人だけだった」


第26日「陽一の事情」

 夜の公園にて。仲間を振り切ってきたつもりの陽一だが、甘かった‥。

チンピラA「おい、見ろよ兄弟。グズイチの野郎、こんなとこで女としけこんでやがるぜ」
チンピラB「‥遠目でよく見えねぇが、あれ、こないだグズイチに絡んできた女の一人じゃねぇか?」
チンピラA「‥そうかもな。応援呼ぶか?」
チンピラB「馬鹿いえ。あんな上玉を分け合ってどうすんだよ。もう少し人通りが少なくなったら、行こうぜ」
チンピラA「ああ」

 そうとは知らず。

シャオリン「10年間、ですか」
陽一「そう。俺が4つで、姉貴が6つかな。それから俺と母さんは、やくざの親分のとこで住み込みで働くことになった。いわゆる人質さ。それっきり親父たちとは会ってない」
シャオリン「麻美さんは、会いに来られなかったんですか」
陽一「来るかよ! 来られちゃ却って迷惑さ。やくざ側の目当ては、親父が持ち逃げした金だったんだから。それっきりで今に至るんだが‥驚いたよ。姉貴がこの町に帰って来てたなんてな」
シャオリン「いえ、麻美さんは、今‥」
陽一「おおっと、聞かない方がいい。さっきも言ったが、姉貴とは関わりたくねぇんだ。あいつらはまだ親父のことを許してねぇ。それに親父のことが無くたって、姉貴みたいな女がうろちょろしてたら危なくて見てられねぇ‥あんたも、だけどな」
シャオリン「‥麻美さんも、きっと同じ事を思ってらっしゃいます。私たちには何も話してくださいませんから」
陽一「そうだよな。それでいいんだ‥とにかく姉貴、あのときのことを今でも気に病んでるみたいなんだよ。意地になって俺を連れ帰ろうとしてるみたいで‥だから頼む、姉貴に伝えてくれ。俺は元気にやってるから、母さんも元気だから、ってな」
シャオリン「失礼ですが、あなたは、それでよろしいんですか? もし麻美さんやお母様のことが気になって動けずに居るのなら、私が‥」
陽一「余計なお世話だよ。俺はこれでも、今の生活が気に入ってる‥可愛がってくれる兄貴分も居るしな」
麻美「嘘つき!」
陽一「‥‥!」
シャオリン「‥‥!」

 突如響いた甲高い声。顔を上げた二人の眼に映ったのは‥。

陽一「姉貴!」
シャオリン「たかしさん!」


第27日「この日のために」

 夜の公園で、姉弟の口論が始まる。こうなるとシャオと言えども口を挟めず。

麻美「いい加減に素直になりなさい!」
陽一「しつこいんだよ姉貴。俺には関わるなって言ってるだろ」
麻美「あなたひとりが意地を張ったって、誰も幸せにはなれないのよ。昔のことなら、お父さんに代わって謝るわ。だから‥」
陽一「そんなことをまだ引きずってんのかよ‥いったろ単なる不運だって。10年前に、姉貴と俺たちとの道はきっぱり分かれたんだ。今更乗り換えろったって遅いんだよ」
麻美「私たちが10年間、安穏としてたと思ってるの? 何度も引越しをして、仕事を変えて、足跡の残らないよう友達も作らず‥目立たないようにひっそりと隠れてきたのよ。気が休まる時なんて、お父さんにも私にも無かった」
陽一「‥知るかよ。自分の身を守る為だろ。姉貴に怨みはねぇけどよ、親父は俺とお袋を捨てたんだ。同情する気にはなれねぇし、今更帰る気にもなれねぇ」
麻美「‥やっぱりお父さんのこと、怒ってるのね‥でもね陽一、お父さんはもう、この世には居ないのよ」
陽一「‥えっ!」
麻美「‥聞いてなかったのね。お父さん、一昨年に職場の事故で亡くなったわ。盗んだお金がどうなったのか私には分からない‥あなたたちしか残ってないのよ、私には。だから引き取り先の叔父さんたちに無理を言って、この町の高校を受験して、チャンスを待っていたの」
陽一「‥余計な、ことを。母さんと俺を取り戻せば幸せになれると、単純にそう思ってたのか」
麻美「その為だもの、私が今ここに居るのは‥もうあんな思いを繰り返さないために、あの日の償いをするために、今日まで‥お父さんが亡くなってから今日まで、そればかり考えて暮らして来たんだもの」

 そのとき。

チンピラA「へへへ、こいつぁ好都合だ‥こないだの別嬪さんが二人とも揃うとはな」
チンピラB「おいグズイチ、その二人を捕まえてな。そうすりゃ親父の覚えも多少はめでたくなるだろうぜ」
たかし「あっ、こいつら‥」
陽一「まずい、おいあんた、姉貴を連れて逃げろ! ぐずぐずしてんじゃねぇ!」

 ところが。女性陣は異様なまでに好戦的だった。

シャオリン「いいえ、陽一さんこそ麻美さんと一緒に逃げてください! ここは私が食い止めます!(支天輪を取り出す)」
麻美「あなたを放って逃げられると思う? こういうことになる覚悟はしてきたわ。下がってなさい!(ヌンチャクを取り出す)」
たかし「あ、麻美さん‥(汗)」


01〜06日分  07〜13日分  14〜20日分
21日  22日  23日  24日  25日  26日  27日
28〜33日分

日記風ショート小説の広場へ