01〜06日分
07〜13日分
14〜20日分
21日
22日
23日
24日
25日
26日
27日
28〜33日分
遊園地を出てバスに飛び乗ってから。
たかし「はぁ、はぁ‥も、もう大丈夫だろ‥」
麻美「‥どうも、ありがとう、たかしくん、シャオリンさん。そしてごめんなさい、怖い思いをさせて」
シャオリン「‥麻美さん、話していただけますね。何もかも」
麻美「‥(顔を伏せる)‥」
たかし「し、シャオちゃん、ここバスの中だぜ‥そういう話は‥」
シャオリン「(たかしに取り合わずに)約束です、麻美さん」
麻美「‥(首を横に振る)‥」
シャオリン「麻美さん!」
麻美「‥ごめんなさい、あれ嘘なの‥これ以上関わらない方がいいわ。今日みたいな幸運は、そう滅多にないんだから」
たかし「い、いまさらそりゃないぜ麻美さん。あの連中、こないだ麻美さんを追いかけてた黒服の二人と関係あるんだろ?」
シャオリン「言ったはずです。私は守護月天‥あなたをお守りするのが務め。お気遣いは無用に願います」
麻美「‥迷惑なのよ」
たかし「‥‥!!」
麻美「これは私の問題‥助けてくれたことには感謝するけれど、首を突っ込まれるのは迷惑だわ」
シャオリン「‥でも、このままじゃ麻美さん、いつかは‥」
麻美「たかしくん、この元気なお嬢さんをしっかり捕まえていて‥引き返すことだって、立派な勇気なのよ。男の子なら、分かるわね?」
たかし「わ‥わかんないよ、おれガキだもん! それに見てらんないよ、初恋の人が困って‥」
麻美「(たかしに顔を向ける)」
たかし「‥あわわわ(口を押さえる)」
シャオリン「麻美さん、私もう、見て見ぬふりは出来ません。後悔したくないんです。きっと何か、お役に立てると‥」
麻美「‥その気持ちだけで十分。年上の言うことは聞きなさい。ごめんね。それじゃ(停車したバスから降りて駅の方へ駆けて行く)」
たかし「あ、麻美さん!」
それから。七梨家までシャオリンを送って行く道中にて。
たかし「まったく、麻美さんは‥ガード固いったら、もう」
シャオリン「私、諦めません」
たかし「おれもだぜシャオちゃん。ここまで来て引き下がれるもんか。麻美さんが嫌だと言っても、おれはやる、とことんやる!」
シャオリン「‥このまま見過ごして、麻美さんの身に何か有ったら‥私、梨扇様に顔向けできません‥無理を聞いてくれた太助様にも」
たかし「そうだ、一緒に頑張ろう、シャオちゃん!(がしっとシャオリンの肩を抱くが、一瞬後に赤面して手を放す)」
シャオリン「‥(まったく無反応)‥」
たかし「(鼻の頭を掻きながら)‥そ、それにしても‥もう麻美さんを問い詰めるのは無理そうだな。どうしようか」
シャオリン「‥あの男の子」
たかし「えっ?」
シャオリン「麻美さんが話し掛けていた、あの男の子‥あの人に聞けば、何かわかるかも」
たかし「あ、あのいかつい兄ちゃんたちのことか? そりゃ危ないよシャオちゃん」
シャオリン「違います。麻美さんと私が捕まる前に、麻美さんが話し掛けてた男の子が居るんです。あの人は、私たちを逃そうとしてくれてました‥きっと悪い人ではありません」
たかし「そ、そんなやつが、いたのか‥」
シャオリン「たかしさん、あの人に見覚えはありませんか?」
たかし「み、見覚えったって‥ぜんぜん気が付かなかったよ、おれ、そいつのこと」
シャオリン「そうですか‥じゃあ、私が自分で探します、その人を」
たかし「えっ? で、でも危ないよ」
シャオリン「私には星神が居ますから、大丈夫です‥任せてください、たかしさん」
数日後、午後の授業中にて。
ルーアン「はぁい、みんな描けたぁ?」
たかし「見てくれ、おれのこの色! 燃えるような情熱の赤!」
太助「たかし、りんごの絵を描くのに色に気合入れてどうすんだよ‥」
乎一郎「ルーアン先生、見て見て、綺麗にグラデーション出来たよ」
ルーアン「‥赤と緑のコントラスト‥あんまり美味しそうじゃないわねぇ」
とまぁ、いつもより随分まともに進む授業の最中に、窓から飛び込んできたもの有り。
天高「‥(ぱたぱたぱた)‥」
シャオリン「あ、どうだった、天高(白い鳥に似た、高空偵察用の星神)? ‥えっ、いたの、どこに? ‥すぐ行くわ!」
たかし「‥シャオちゃん?」
乎一郎「‥どうしたの?」
シャオリン「ルーアンさん、ごめんなさい!(軒轅に乗って窓から外へ!)」
太助「シャオ?!」
ルーアン「ちょっとシャオリン、どこ行くのよ!」
止める間もなく、シャオリンは飛んで行ってしまう。残された面々はしばし茫然としてから‥たかしに注目!
乎一郎「たかしくん、シャオちゃんどうしたの? どこに行ったのさ?」
たかし「し、知らないよおれだって‥」
太助「何言ってんだよ、お前が分からないわけないだろ!」
たかし「そんなこと言ったってさぁ‥あ、そういえば‥」
太助「ん?」
たかし「そういえば、シャオちゃん誰かを探すとか言ってたような‥で、でも、おれ知らないよ、なんてやつで、どこに居るのかなんて」
乎一郎「何があったのさ?」
太助「おい離珠、シャオはどこだ? どこに行ったんだ? 何が起こったんだ?」
離珠、問い掛けられて首を横に振る。たとえ知っていたとしても彼女は喋れないのだが。
ルーアン「はいはい、みんな席に戻って。なによもう、シャオリンなら何とでもなるわよ」
乎一郎「ルーアン先生!」
ルーアン「な、なによ‥」
乎一郎「あれ出して、あれ!」
太助「そうだ、ルーアンのコンパクトだ!」
女教師ルーアン、生徒たちの視線に押されて後ずさりする。
しばらくして。物陰でたたずむシャオリンの元に、天陰(猟犬に似た星神)が走ってくる。背中に例の少年を乗せて。
謎の少年「‥‥!」
シャオリン「驚かせてごめんなさい。あなたに、お話をお聞きしたかったものだから」
謎の少年「な、な、な‥なんなんだ、あんたは! こいつは! 俺をどうする気だ!」
シャオリン「私は守護月天‥今は、麻美さんをお守りする者です。先日遊園地で、あなたと麻美さんがなさっていたお話をお聞きしたくて」
謎の少年「麻美?‥あ、ああ、そういやあんた、あの時あそこに居た‥」
シャオリン「正直にお話いただければ、すぐに帰して差し上げます‥私、知らなくてはいけないんです。麻美さんのこと」
謎の少年「お、思い出したよ‥な、とりあえず、こいつから降ろしてくれないか」
天陰、少年を背中から降ろす。支天輪に吸い込まれる天陰を見て唖然とする少年。
謎の少年「しかし、あんたも無茶するよな‥やくざの事務所の真ん前から、俺をさらって走り出すんだから」
シャオリン「手荒なことをしたのは謝ります。‥でも、もう終盤だから」
謎の少年「‥‥???」
シャオリン「‥いえ、こちらの話です。お話をお聞かせ願えますね?」
謎の少年「あ、ああ‥ちょうど良かった。あんたが姉貴の傍に付いてるんなら、事情を聞いといてもらった方がいいだろ」
シャオリン「姉?」
謎の少年「話すよ‥だけどさ」
彼を探すチンピラたちの声が、次第に近づいてくる。
謎の少年「ここじゃまずい‥なぁ、俺いったん戻るから、後で別のとこで落ち会わねぇか?」
シャオリン「‥信じて、いいんですね」
謎の少年「あんたを怒らせたら怖そうだからな。約束は守るよ‥そう、午後7時、町外れの公園で。そのころなら抜け出せると思う」
シャオリン「7時ですね。もし来なかったら‥」
謎の少年「行くって、行くって(汗)。ただ互いに人目をはばかる身だ。差しで話がしたい。公園の噴水前に、一人で来てくれないか」
シャオリン「‥はい」
‥それからしばらくして。授業を終えた麻美が下校しようと高校の門をくぐった時、眼の前に‥。
麻美「きゃっ! ‥た、たかしくん?」
たかし「はぁ、はぁ、はぁ‥あ、麻美さん。一緒に来てよ」
麻美「‥どうしたのよ、そんなに息を切らして」
たかし「シャオちゃんが、危ないんだ」
麻美「‥えっ?」
たかし「もう勿体ぶってる場合じゃないんだよ。シャオちゃんがあいつに会いに行った‥たった、ひとりで」
麻美「あいつって‥‥!!!」
たかし「麻美さん、事情を話してもらうぜ‥黙ってりゃ無関係で居られる段階は、とっくに過ぎたんだ」
午後7時。薄暗くなりかけた夕方の公園で、噴水の脇に一人で座るシャオリン。そこへ、周りをはばかりながら例の少年が駆けてきた。
謎の少年「‥遅くなったな」
シャオリン「いえ‥では、どこか別の場所へ」
謎の少年「いや、ここでいい‥広い方が、追いつめられた時に逃げやすいだろ。それより、いいのか?」
シャオリン「えっ?」
謎の少年「あんたみたいな別嬪が、俺たちやくざに関わったらろくな目に会わないぜ‥姉貴にも、そう言ってるんだが」
シャオリン「‥やくざって、何ですか?‥」
謎の少年「‥(顎がかくんと落ちる)‥はぁ、どこか浮世離れしてると思ったら‥わかった。最初から話すよ。適当に省略したらとんでもない目に会いそうだ」
公園の人影がだんだん少なくなってくる。
陽一「俺は陽一。あんたと一緒に居た麻美って女は、俺の二つ上の、姉貴だ」
シャオリン「‥ご姉弟さん」
陽一「そう。姉貴は俺を、やくざの世界から連れ出そうとしてる‥ああ、やくざってのは、腕っぷしに物を言わせて威張りながら歩いてる、おっかない連中のことさ。こんなことでもなきゃ、あんたらと関わることはないけどな」
シャオリン「‥ごろつきさんの、ことですね」
陽一「‥(汗)‥そ、そうだよ。だから姉貴やあんたが俺に近づくってのは、はっきり言って、危ない。ひとつ間違えたら海外に売り飛ばされる‥だから近づくなって、あんたからも言ってやってくれ、姉貴に」
シャオリン「‥あなたは、悪い人ではないようですね」
陽一「悪いやつなんだよ! けどそれを承知で、姉貴は俺に絡んでくるんだ、最近。10年近くも会ってなかったってのに、今になってな」
シャオリン「複雑な事情が、おありのようですね」
陽一「そうでもないさ。単なる不運‥俺はそう思ってるよ。俺がガキの頃、家族4人で夜逃げをして‥追ってくるやくざから逃げてるうちに、はぐれちまったのさ。俺と母さん、親父と姉貴‥逃げ出せたのは、二人だけだった」
夜の公園にて。仲間を振り切ってきたつもりの陽一だが、甘かった‥。
チンピラA「おい、見ろよ兄弟。グズイチの野郎、こんなとこで女としけこんでやがるぜ」
チンピラB「‥遠目でよく見えねぇが、あれ、こないだグズイチに絡んできた女の一人じゃねぇか?」
チンピラA「‥そうかもな。応援呼ぶか?」
チンピラB「馬鹿いえ。あんな上玉を分け合ってどうすんだよ。もう少し人通りが少なくなったら、行こうぜ」
チンピラA「ああ」
そうとは知らず。
シャオリン「10年間、ですか」
陽一「そう。俺が4つで、姉貴が6つかな。それから俺と母さんは、やくざの親分のとこで住み込みで働くことになった。いわゆる人質さ。それっきり親父たちとは会ってない」
シャオリン「麻美さんは、会いに来られなかったんですか」
陽一「来るかよ! 来られちゃ却って迷惑さ。やくざ側の目当ては、親父が持ち逃げした金だったんだから。それっきりで今に至るんだが‥驚いたよ。姉貴がこの町に帰って来てたなんてな」
シャオリン「いえ、麻美さんは、今‥」
陽一「おおっと、聞かない方がいい。さっきも言ったが、姉貴とは関わりたくねぇんだ。あいつらはまだ親父のことを許してねぇ。それに親父のことが無くたって、姉貴みたいな女がうろちょろしてたら危なくて見てられねぇ‥あんたも、だけどな」
シャオリン「‥麻美さんも、きっと同じ事を思ってらっしゃいます。私たちには何も話してくださいませんから」
陽一「そうだよな。それでいいんだ‥とにかく姉貴、あのときのことを今でも気に病んでるみたいなんだよ。意地になって俺を連れ帰ろうとしてるみたいで‥だから頼む、姉貴に伝えてくれ。俺は元気にやってるから、母さんも元気だから、ってな」
シャオリン「失礼ですが、あなたは、それでよろしいんですか? もし麻美さんやお母様のことが気になって動けずに居るのなら、私が‥」
陽一「余計なお世話だよ。俺はこれでも、今の生活が気に入ってる‥可愛がってくれる兄貴分も居るしな」
麻美「嘘つき!」
陽一「‥‥!」
シャオリン「‥‥!」
突如響いた甲高い声。顔を上げた二人の眼に映ったのは‥。
陽一「姉貴!」
シャオリン「たかしさん!」
夜の公園で、姉弟の口論が始まる。こうなるとシャオと言えども口を挟めず。
麻美「いい加減に素直になりなさい!」
陽一「しつこいんだよ姉貴。俺には関わるなって言ってるだろ」
麻美「あなたひとりが意地を張ったって、誰も幸せにはなれないのよ。昔のことなら、お父さんに代わって謝るわ。だから‥」
陽一「そんなことをまだ引きずってんのかよ‥いったろ単なる不運だって。10年前に、姉貴と俺たちとの道はきっぱり分かれたんだ。今更乗り換えろったって遅いんだよ」
麻美「私たちが10年間、安穏としてたと思ってるの? 何度も引越しをして、仕事を変えて、足跡の残らないよう友達も作らず‥目立たないようにひっそりと隠れてきたのよ。気が休まる時なんて、お父さんにも私にも無かった」
陽一「‥知るかよ。自分の身を守る為だろ。姉貴に怨みはねぇけどよ、親父は俺とお袋を捨てたんだ。同情する気にはなれねぇし、今更帰る気にもなれねぇ」
麻美「‥やっぱりお父さんのこと、怒ってるのね‥でもね陽一、お父さんはもう、この世には居ないのよ」
陽一「‥えっ!」
麻美「‥聞いてなかったのね。お父さん、一昨年に職場の事故で亡くなったわ。盗んだお金がどうなったのか私には分からない‥あなたたちしか残ってないのよ、私には。だから引き取り先の叔父さんたちに無理を言って、この町の高校を受験して、チャンスを待っていたの」
陽一「‥余計な、ことを。母さんと俺を取り戻せば幸せになれると、単純にそう思ってたのか」
麻美「その為だもの、私が今ここに居るのは‥もうあんな思いを繰り返さないために、あの日の償いをするために、今日まで‥お父さんが亡くなってから今日まで、そればかり考えて暮らして来たんだもの」
そのとき。
チンピラA「へへへ、こいつぁ好都合だ‥こないだの別嬪さんが二人とも揃うとはな」
チンピラB「おいグズイチ、その二人を捕まえてな。そうすりゃ親父の覚えも多少はめでたくなるだろうぜ」
たかし「あっ、こいつら‥」
陽一「まずい、おいあんた、姉貴を連れて逃げろ! ぐずぐずしてんじゃねぇ!」
ところが。女性陣は異様なまでに好戦的だった。
シャオリン「いいえ、陽一さんこそ麻美さんと一緒に逃げてください! ここは私が食い止めます!(支天輪を取り出す)」
麻美「あなたを放って逃げられると思う? こういうことになる覚悟はしてきたわ。下がってなさい!(ヌンチャクを取り出す)」
たかし「あ、麻美さん‥(汗)」