01日
02日
03日
04日
05日
06日
07〜13日分
14〜20日分
21〜27日分
28〜33日分
たかし「(駆けながら)すっかり遅くなっちまった‥ちぇっ、放課後に買い物に行こうって約束した日に限って、なんで掃除当番がサボれないんだよ‥早く太助の家に行って出発しないと、また出雲さんたちが絡んできて面倒になるじゃないか‥シャオちゃんのエスコートはおれがやるんだ、他の誰にも渡さない」
たたっ、たっ、たっ。
たかし「げっもうこんな時間‥太助のやつ、おれを放って先に出発しかねないぞ‥ようし、こうなったら近道だぁ!」
方向転換すると、用水路のある細い路地に飛び込むたかし。大人の肩幅だと通れないほどの幅で、しかもパイプが随所に飛び出している細い路地を、汚れるのも構わずに驀進するたかし。
たかし「よおし、ここを抜けてあの川を飛び越せば‥(ばっ)」
謎の女子高生「きゃっ!」
急に路地から飛び出したたかしと、通りかかっていた女子高生が衝突。
たかし「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
謎の女子高生「‥あ、いえ、大丈夫です‥あ‥(たかしの顔を凝視)」
たかし「‥(うわぁ、綺麗なお姉さん‥ごくっ)‥」
謎の女子高生「‥あの、違ってたらごめんなさい‥ひょっとして、たかしくん?」
たかし「は? なんでおれの名前を?(どこかで会ったっけ? こんな美人、見忘れるわけないのに)」
謎の女子高生「やっぱり‥そう。見てすぐに分かったわ‥ねぇ、私のこと、覚えてる?」
たかし「‥‥(どーしよう、思い出せないぞ)‥‥」
謎の女子高生「‥(額をたかしの顔に寄せてくる)‥」
たかし「‥(わわっ!)‥」
謎の女子高生「‥‥(顔を離して)ごめんなさい、人違いだったみたい‥」
たかし「‥‥え?(俺がたかしだと分かっていながら、何、そのリアクション?)‥‥」
謎の女子高生「(立ち上がってスカートをぱたぱた)ごめんなさい、気にしないで‥私のことは大丈夫だから。あなたの方こそ、怪我はしてない?」
たかし「え、ええ‥(思い出せたかし! こんな美人と知り合える機会、滅多にないぞ!)」
謎の女子高生「そう‥良かった。じゃ私、行くわね。あなたも急いでいるんでしょう? それじゃ(足早に去る)」
たかし「(その場に座り込んだまま)‥‥うーん、どこで会ったんだっけ‥‥」
翌朝の教室にて。
乎一郎「おはよう、たかしくん」
たかし「‥‥(頬杖を突いてぽーっとしている)‥‥」
乎一郎「どうしたのさ、昨日は‥あんまり遅かったから、たかしくんを待たずに行っちゃったよ、買い物」
たかし「‥ああ、そーしてくれ‥」
乎一郎「‥たかしくん?‥どうしたの、何か考え事?」
たかし「‥いや別に‥何でもないんだ‥はああぁぁ〜」
乎一郎「‥どーでも良くないよ! ねぇたかしくん、昨日、何か有ったの?」
たかし「‥乎一郎、おれたち、長い付き合いだよな‥」
乎一郎「‥‥うん?」
たかし「おれの友人とかのことは、お前ならたいてい知ってるよな‥」
かくかくしかじか、と昨日の様子を話すたかし。
乎一郎「(うるうる瞳で)たかしくん! やっと君も、年上の魅力に目覚めたんだね!」
たかし「‥はああぁぁ〜っ‥」
乎一郎「‥なんだ、突っ込んでくれなきゃ詰まらないじゃない‥冗談はともかくとしてさ、その女性の様子、もう少し話してよ」
たかし「綺麗で‥細身で‥優しい声で‥落ち着いた雰囲気の人だよ‥」
乎一郎「たかしくんの理想像を聞いてるんじゃないんだってば!」
たかし「一度会ったら忘れない‥そんな人なんだ。なんでおれの名前を知ってたのか、どーしても思い出せなくて‥くそっ、おれとしたことが!」
乎一郎「しょーがないなぁ、もぉ‥じゃあさ、今日の放課後、たかしくんが昨日出会った場所で待ってようよ。高校に通っている人なら、きっと似たような時間にそこを通るだろうから」
たかし「‥もう一遍会えるかな‥会えたらいいな‥」
乎一郎「昔会ったことのある人なら、たかしくんと僕の両方に見覚えがあるはずだよ。勘違いかどうかは、これではっきりするじゃない」
たかし「‥なぁ乎一郎、シャオちゃんと太助には内緒にしてくれ、頼むから」
乎一郎「うん、わかったよ、たかしくん」
放課後。
たかし「‥(道行く女子高生に、次々と視線を移して行く)‥」
乎一郎「‥ねぇたかしくん‥」
たかし「ん?」
乎一郎「どうして、こんな狭い路地に隠れて待たなきゃいけないの?」
たかし「昨日と同じ条件にするんだ、何もかも」
乎一郎「普通に道端で立ってればいいじゃない‥ほら、僕たちのことを指差してる人が居るよ」
たかし「‥笑いたいやつには笑わせとけ、おれたちの狙いはただ一人だ」
乎一郎「‥たかしくんには信念があるんだろうけど、僕まで一緒にしないでよ‥」
たかし「今更ぼやくなよ。付き合うって言ったのはお前だろ‥それにしても遅いな」
乎一郎「昨日その人に会ったのは何時ごろなの?」
たかし「路地に飛び込んだのが5時ごろだったから、もうそろそろなんだが‥」
陽がどんどん沈んで行き、道行く女子高生の数も減って行く。
乎一郎「‥まだ来ないの?」
たかし「‥来ると信じて、待つんだ乎一郎」
乎一郎「‥それにしても珍しいね。たかしくんに向こうから声を掛けてくれる女の子だなんて」
たかし「‥(力いっぱい蹴飛ばす)‥」
乎一郎「い、痛いよたかしくん‥(よろけて路地から転げ出る)」
謎の女子高生「きゃっ!」
飛び出した乎一郎にぶつかる寸前で立ち止まり、眼を大きく開けた彼女。
たかし「‥あ、どうも‥昨日は‥」
謎の女子高生「こーちゃん?」
乎一郎「えっ?‥その呼び方‥」
謎の女子高生「たかしくんまで‥どうしたの?」
乎一郎「‥あ、あみねぇ? ね、ひょっとして、あみねぇ?」
謎の女子高生「‥やっぱり、こーちゃん?」
乎一郎「たかしくん、思い出したよ僕。ほら幼稚園の頃に遊んだじゃない、あみねぇだよ、そうでしょ?」
たかし「‥あ、あみねぇ? 嘘!」
とある喫茶店の店内にて。
乎一郎「本当に久しぶりだね、あみねぇ」
笹月麻美「そうね・・・私のこと覚えていてくれて、嬉しいわ」
乎一郎「僕の方こそ、びっくりしちゃったよ。幼稚園の頃からだからもう10年近く経ってるのに、あみねぇ僕のこと一発で分かっちゃうんだもん」
麻美「(微笑)」
乎一郎「懐かしいなぁ。ね、小さい頃よく一緒に遊んだよね」
麻美「ええ・・・あのときの坊やが、もうこんなに大きくなったのね。早いわね、年月って」
乎一郎「そうそう。あのころは僕とたかしくんと‥もう一人、陽一君との3人でいつも遊んでてさ。小学校に行ってたあみねぇもよく一緒になって遊んだんだよね。ねぇ、陽一君は元気?」
麻美「‥‥ええ、まぁ‥‥」
乎一郎「ねぇたかしくん、どうして黙ってるの? もう思い出したんでしょ、あみねぇと陽一君のこと」
たかし「‥‥信じない‥」
乎一郎「えっ?」
麻美「‥(わずかに俯く)‥」
たかし「この人があみねぇだなんて、信じない‥俺の知ってるあみねぇは、自信家で、声が大きくて、おれたちが3人掛かりでも歯が立たないほど喧嘩が強い女番長だったんだ‥」
乎一郎「(冷や汗)で、でもさ、あれから随分経つんだもん、雰囲気も変わるよ。僕だって、あみねぇの方から声を掛けてくれなかったら思い出せなかったかもしれないし‥」
たかし「おれは昨日から、ずぅっと考えつづけてたんだぜ。こんな人に会ってたら忘れるわけ無いと思って、小学校の頃からのアルバムをめくりながら一人一人を思い出そうとしてたんだ。それが、あみねぇ? 嘘だろ? そんなの反則だぜ、絶対」
乎一郎「た、たかしくん‥本人が眼の前に居るんだよ。ちょっと控えてよ‥」
麻美「‥(反論せず、寂しそうに眉を伏せる)‥」
たかし「お姉さん」
麻美「(声を掛けられ、顔を上げる)」
たかし「おれは、お姉さんのことを『あみねぇ』だなんて呼ばない。ちゃんとした名前で呼ぶことにする。それでいいよね、あみ‥さん」
麻美「‥わかったわ、たかしくんがそうしたいなら‥笹月麻美です。よろしくね、たかしくん」
たかし「それじゃ、麻美さん‥そう呼んでいい?」
麻美「(うなずく)」
たかし「ほら乎一郎、物静かな人じゃないか‥あの乱暴者のあみねぇとは別人だよ、別人。第一おれは、あみねぇからアイスの代金を返してもらわなきゃならないんだからな。あの頃の小遣いのほとんどはあみねぇに巻き上げられたんだから‥ね、麻美さん。麻美さんには関係ない話だよね」
麻美「‥そうね、私、知らないわ、そんな話」
乎一郎「(くすっ)」
たかし《はあ、はあ、はあ‥か、買ってきたよ、アイス》
麻美《ん、ごくろーさん。さ、早く広げて》
乎一郎《遅いよ、たかしくん》
陽一《おれ、抹茶アイスな。忘れてないだろうな、たかし》
麻美《あたしの分のイチゴ味もな》
たかし《だ、大丈夫、ちゃんと、買ってあるよ‥あっ(どさっ)》
乎一郎《‥あーあ、もーお、たかしくんったら》
麻美《たかし! どうすんだよ、あたしのアイスに砂が付いちゃったじゃんか(ぼかっ)》
たかし《ご、ごめん、ごめんなさい。痛い、痛いよっ!》
陽一《まったく、どうしよーもねーやつだな、お前って(げしっ)》
たかし《うっ‥うえっ‥ごめん‥》
麻美《罰だ。もう一遍行って、あたしのアイス2本分買ってこい!》
たかし《ぐすっ‥う‥うん(立ち上がる)‥》
乎一郎《たかしくん‥泣かないでよ。僕も一緒に行くからさ》
麻美《駄目! 罰なんだから、たかし独りで行くんだ。こーちゃんは先にアイス食べてな》
陽一《姉ちゃん、俺の分も、融けちゃうから先に食べてていいよね》
麻美《ああいいよ‥こら、たかしどこ行くんだ、ここに座れ》
たかし《‥でも‥(ぐすっ)‥早く買ってこなくっちゃ‥》
麻美《そんな顔で店に行くんじゃないよ‥そら、お前もアイス食べて‥これで顔拭きな。泣くなよ、男だろ‥》
陽一《それっ(しゅるしゅる)‥食らえ乎一郎!》
乎一郎《ひゃっ、や、やめてよ陽一くん、危ないじゃないか(じたばた)》
陽一《何やってんだよ、逃げてないで掛かって来いよ、乎一郎》
麻美《こーらっ!(ぼかっ)やめろ陽一、ねずみ花火を人に投げるんじゃない!》
陽一《いてっ‥それじゃ今度はロケット花火だ、来いよ、たかし!》
たかし《ひっ‥あ、あーん、せっかく綺麗だったのに‥》
麻美《いい加減にしろって‥たかし、お前もお前だ。そんな隅っこで線香花火やってないで、こっち来いよこっちへ》
たかし《い、いいよ、あみねぇ、おれはここで‥》
麻美《ぐずぐずすんな、そら、お前の分だぜ》
たかし《えっ‥あ、あみねぇこれ、火ぃ付いてるよ、このロケット花火!》
麻美《そうらっ(たかしに水をぶっ掛ける)‥はははは‥》
たかし《あみねぇ、見て見て。ほらっ(水面に石を投げ、2回跳ねさせてみせる)》
乎一郎《うわぁ〜っ、すごいやたかしくん》
陽一《おれだって‥あれ、駄目だなぁ》
たかし《なーんだ、こんな事もできないの‥そらっ(再び2回跳ねをしてみせる)》
麻美《へ〜え、やるじゃんか。でもさ、もうちょっと横の方から、石を回しながらやるといいんだぜ‥見てなっ(あっさり3回跳ねをやってみせる)》
乎一郎《す‥すごい、さすがあみねぇ》
たかし《ま‥負けるもんか、俺だって!(石を投げるが失敗)》
麻美《ふふん、まだまだ甘いな‥いつでもかかって来な、たかし。相手してやるからさ》
たかし《くそっ、今度こそ‥今度こそ‥》
たかし《遅いな、あみねぇ‥石投げの勝負を付けるって、約束したのに、昨日》
乎一郎《たかしく〜ん! はぁ、はあ‥》
たかし《乎一郎? どーしたんだよ、そんなに急いで》
乎一郎《た、大変なんだよ、たかしくん‥陽一くんと、あ、あみねぇが、居ないんだ! 家の前に行ってみたんだけど、門が開いてて、家の中空っぽで‥》
たかし《えっ?》
がばっ。
たかし「はっ‥ゆ、夢か‥はぁはぁ‥今になって、あの頃の夢を見るなんて‥麻美さんに会ったせいかな、やっぱり‥」
たかし「それにしても‥俺の小さい頃って、いつでもあみねぇの背中を追いかけてたんだなぁ‥あの時は‥急に引っ越して行った日は、寂しかったんだよな‥すっごく‥」
朝の教室にて。
ルーアン「はいっ、じゃ今日は俳句のお勉強よ。季語は『たー様』。5,7,5の言葉の中にかならず『たー様』を入れてね。はい、それじゃ最初は、遠藤君!」
乎一郎「えっ、ええっと‥『太助くん 今日も先生 一人占め』」
一同「どおっ」
ルーアン「うまいっ! たー様のこと、よく見てるじゃない遠藤君。そうよ、たー様とあたしは愛の絆で結ばれてるの! 誰にも引き裂くことなんて、できないのよ!」
一同「‥(一気に盛り下がる)‥」
ルーアン「それじゃ次、シャオリン!」
シャオリン「は、はいっ‥ええっと‥『太助様 毎日中華で ごめんなさい』」
女子一同「はははは(爆笑)」
男子一同「うううぅぅぅ(羨望の眼差し)」
太助「‥か、勘弁してくれぇ‥」
ルーアン「‥ったくシャオリンたら、工夫も風格も無いうえに字余りじゃないの。もっと格調高いこと言えないの? たとえば‥『たー様や あぁたー様や たー様や』!」
一同「‥(氷点下の吹雪にさらされる)‥」
ルーアン「‥ほら、拍手は?」
一同「‥ぱち、ぱち、ぱち(乎一郎の手の音だけがやたらに目立つ)」
ルーアン「ったく‥ま、先生のレベルが理解できないのも無理はないわね。中学生には早すぎたかしら? じゃ次‥野村君」
たかし「‥(ぽーっと窓の外を見ている)‥」
ルーアン「野村君!」
たかし「あっ、はいはい‥えっと、教科書何ページですか?」
一同「どおっ(爆笑)」
ルーアン「こらっ(陽天心チョークを投げつける)、俳句よ俳句。あたしのたー様への熱い想いを、17音の中に詰めるのよ!」
たかし「俳句‥熱い想い‥『夏の日の 輝く笑顔は 今どこへ』」
一同「‥おおぉぉぉ(あまりにも意外な返答にどよめく)‥」
乎一郎「たかしくん、さっきの時間、麻美さんのこと考えてたの?」
たかし「‥そ、そんなこと、ないさ‥(顔面真っ赤)」
シャオリン「麻美さんって、どなたです?」
たかし「し、シャオちゃん、違う、違うんだ。麻美さんはそんなんじゃあ‥」
太助「なんだよたかし、気になる人でもできたのか?(普段が普段なので反撃の好機と見て寄ってくる)」
乎一郎「うん、実はさ、子供の頃に別れた幼なじみのお姉さんに、昨日会ったんだよ」
たかし「乎一郎!」
乎一郎「びっくりしちゃったよ。ものすごい美人になっててさ‥まるでルーアン先生の若い頃みたい‥」
ルーアン「なぁんですってぇ!」
シャオリン「る、ルーアンさん‥」
ルーアン「聞き捨てならないわね遠藤君、それじゃ先生が年増みたいじゃない!」
乎一郎「ご、ごめんなさいルーアン先生‥でも、先生にセーラー服は、ちょっと‥」
太助「へぇ‥(シャオが横に居るにもかかわらず、一瞬妄想モードに入る)」
ルーアン「きぃーっ! こーなったら確かめてやるわ、放課後にその子のところへ案内しなさい!」
たかし「ち、ちょっと待ってくれぇ‥」