タイトル | : 夏夜のジェラシー (未完成、批評対象外) |
投稿日 | : 2008/08/10(Sun) 20:44 |
投稿者 | : 双剣士 |
参照先 | : http://soukensi.net/ss/ |
体調不良のため期限までに完成させられませんでした。
途中までで申し訳ありませんが、参加してくださった方に
少しでも報いるため出来たところまでを公開します。
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「ワタル君、花火を見に行きませんか?」
それは真夏の昼下がり。1人でビデオ屋の店番をしていた橘ワタルのもとに、にこやかな笑顔を浮かべた
修道服の女性が姿を見せた。ビデオ・タチバナの常連でありながら本編では2年間も出番のない、
シスター・ソニアその人である。
「花火って?」
「今夜、郊外の川辺で花火大会をやるんですよ。一緒に見に行かない?」
「ごめん無理。ここの店番もあるしさ」
「そう言わないで。今夜は私の故郷から持ってこさせた、ギリシャ風の花火も上がることになってるの。
ワタル君にもぜひ見てもらいたくて」
そういって有料席のペアチケットを差し出すソニア。ぎょっとした様子で顔をこわばらせる少年の動揺を
見透かしたように、ソニアは柔らかい表情で言葉をつないだ。
「2枚あげるから、誰か誘って、ね♪」
「え、いいの? 2枚ももらって」
「ええ」
自分とのペアチケットだなんて下心を丸出しにしたら彼は受け取ってくれない。年下の少年の警戒心を
弱めるためには仕方のない妥協だった。とにかくこのビデオ屋から少年を引きずり出して、自分のテリトリーに
誘い込まなくてはならない。暗いうえに皆が空を見あげている花火会場まで連れ出してしまえば、あとは
どうにでもなる。あのポンコツメイドを出し抜くくらい赤子の手をひねるようなもの。
「今夜かぁ……」
「いいでしょ、ねっ♪」
ワタルの脳裏に幼馴染の和服少女が浮かんでいるとは露知らず、シスター・ソニアの熱烈アプローチは
どんどん熱を帯びていったのだった。
そして夕方。早めに店を閉めて花火会場へと向かうワタルの横には、あでやかな着物に身を包んだ
若い女性の姿があった。ワタルの望んだ相手とは微妙に違うが。
「若ぁ〜、もっとゆっくり歩いてくださいよぉ〜」
「なんだよ、そんな暑苦しい格好してるからだろ。普通の浴衣とか着てくればよかったのに」
「だってぇ……」
危なかしい足取りでトテトテとついてくる貴嶋サキが着ているのは、成人式の後でワタルに買って
もらった振袖。せっかくのお出かけに思い出の一品を着て行きたいという乙女心は分からなくもないが、
どう考えても真夏に着て出歩く服装ではない。着重ねた和服の重さと暑さに振り回された20歳の
メイドさんは汗だくのフラフラ。
「せっかく……若が……誘って……くれたんですから……」
「あぁもう、世話が焼けるな、まったく」
「すみません……」
立ち止まって手を差し伸べてくる少年と、ふらつきながらその手に掴まる年上の女性。そしてまた
2人の影が離れ、先を行く影が立ち止まる形でまた1つになる。夕日に照らされた2つの影は、まるで
尺取虫のように間隔を伸び縮みさせながら川辺の方へと向かっていったのであった。
だが、そんな微笑ましい情景も、長くは続かない。
「あら、こんばんは、ワタル君」
「よぉ、ねーちゃん」
ワタルに向かってにこやかに手を上げる女性。季節外れではない夏向けの和服、それもお金持ちらしい
豪奢な柄の入った浴衣を着こなした長髪美人の登場に、サキの眉がわずかに吊りあがる。
「あの……若?」
「ほら、こないだ話しただろ、同じクラスになった愛歌さん」
「こんばんは、ワタル君にはいつもお世話になっています」
「あ、あぁいえ、こちらこそ……」
完璧な仕草で一礼する愛歌につられて頭を下げたサキ。しかし顔を上げた瞬間、長髪美人が浮かべた
意地悪っぽい笑みが目に飛び込んできた。同じ和服を着ていながら場違いで季節外れな振袖を着ている
自分を嘲笑しているような、女同士だからこそ伝わる見下しの視線。もちろんワタルはそれに気づかない。
「ねーちゃんも花火を見に?」
「ええ、今日は体調もいいしね……それよりワタル君、隅に置けないじゃない。伊澄さんのこと好きだって
言ってたのに、こういうタイプも好みなわけ?」
「ちょ、な、違うって! サキはそんな、そういう仲じゃ……」
「照れない照れない♪」
ドSな性格の愛歌が面白半分に挑発していることなど貴嶋サキは知らない。彼女の目に映るのは
年上の女性にからかわれて顔を真っ赤にするワタルの姿と、会話の流れで出てきた『サキとは
そういう仲じゃない』という彼の台詞。振袖の暑さが一気に増したように頭に血が上り、クラクラと
身体が泳いでしまう。
「それじゃワタル君、またね」
「あぁ、またな……あーあ、やっぱり愛歌さんって美人だよな〜、そう思わねーか、サキ?」
「知りません!」
無邪気な少年の問いかけに対し、貴嶋サキはぷんすかとそっぽを向いたのだった。
その後も和装のメイドさんをイラつかせる事態は続く。
「あ、橘せんぱ〜い、こんばんは」
「よぉ、日比野じゃん。あれ、そっちは……」
「見てくださいよ、シャルナちゃんの格好! インドではこのサリーっていう衣装を、公式な場所では
着るんですって! 綺麗ですよね〜」
「そんな、文ちゃん、恥ずかしいから……」
「ふ〜ん、それがインドの民族衣装か。すげー似合ってるじゃん」
「あ……ありがとうございます……」
「う〜、ずるいです橘せんぱい、私は私は?」
「ん、日比野の浴衣もまぁまぁなんじゃねーの? こういう場所では見た目って3割増しになるって言うしさ」
「ひっどーい!」
「あの、ところで先輩……先輩と一緒にいる人、あれが日本の正式な民族衣装なんですか?」
「え?……ああ、あれは間違い、間違い。本当はこんなとこに着てくる着物じゃねーんだ」
「……#(ぶちっ)#……」
「わったるく〜ん♪」
「なんだ、部長も来てたのか」
「ふむ、部長に会えると分かってたら、巫女服でも着てサービスしてやるんだったな」
「いらねーって!」
「(イライライラ)」
「ねーねー、どうかな? 私たちの浴衣」
「苦しゅうない、近う寄るがいいぞ。うら若き女子高生3人の浴衣姿を堪能できるなど眼福であろうが」
「それともあれか? ぶっちゃけヒナの身体しか興味ないとか?」
「そんなんじゃねーって! からかうのもいーかげんにしろよな、ねーちゃんたち」
「きゃはは♪」
「(イライライラ、イライライラ!)」
《なんですか、若ったら! 年上の女の人にばっかり声をかけられて、だらしなく鼻の下を伸ばしちゃって!》
サキの苛立ちは頂点に達していた。飛び級で高校生になったワタルにとって、知り合いが年上だらけ
なのは当たり前といえば当たり前なのだが……暑さと怒りで茹で上がったサキの脳味噌にはそんな常識は
通用しない。
「おい、なに怒ってんだよサキ」
「怒ってませんったら!」
ずかずかと肩を怒らせながら歩き続けるサキ。いつしか前後関係は逆転し、早足で歩くサキのことを
ワタルが追う体勢になっていた。なんで先を急ぐのかはサキ自身にも分からない。もたもたしていたら
知り合いに呼び止められる、また不愉快な光景を見せられる……そんな強迫観念に駆られての行動である。
当然ながら前なんかロクに見ちゃいない。
「サキ、そんなに急いだら転ぶ……」
「きゃっ」
後を追うワタルが注意するも、一瞬遅かった。周囲の人の注目が集まる中、路面に転がったサキは
両手を突っ張って上体をあげると……大声を上げて泣き出した。
「うわああぁぁ〜ん!!!」
(ここからクライマックス……なのですが、残念ながら間に合いませんでした)