タイトル | : 真夏煉獄下ハヤテのごとく!:急 |
投稿日 | : 2008/08/08(Fri) 10:15 |
投稿者 | : 絶対自由 |
奪取された綾崎ハーマイオニー。
そして二つに分かれたハヤテはどうなるのか!? そして、そんな彼らを見つめる一人の人影とは!
「いやいや、何前回までのあらすじを述べているんですか!」
誰に言っているのか解らないが、ハヤテそうツッコむ。
兎にも角にも、消えてしまった綾崎ハーマイオニーを探さなくてはならない。犯人はまぁ、予想は付くが……
「虎鉄さんですね」
ご名答。
あの変態執事は、あろう事か周りの目を掻い潜って綾崎ハーマイオニーを奪取したのである。なんと云う執念だろうか……
「兎に角、僕は虎鉄さんを追います! まだそう遠くには行っていないと思いますから! 伊澄さんは元に戻す方法を――!」
「あ、ハヤテ様……」
「大丈夫です! 僕の足なら――!」
伊澄の言葉を無視してハヤテは跳ぶ。
刹那、
「うわっ!」
目の前のテントに豪快に突っ込んだ。
「……二つの人格と体……分かれてしまった訳ですから、当然、能力も半減しています」
「そ……そうですか……気をつけます」
■■■
「ははははははははははははははははははははははははは!!!!
やったぞ! 私はついに綾崎を手に入れたぁぁああああ!」
有頂天になっているザ・変態執事虎鉄は、満面の笑顔で綾崎ハーマイオニーを連れて走っていた。それを見つめる周りの男性(二〇代の方々中心)は、その綾崎ハーマイオニーに見とれていた。流石。それが男とも知らずに……
それも当然、虎鉄は攫った直後に、綾崎ハーマイオニーに、前々からハヤテに着せようと考えていた自らの趣味丸出しの女の子用の服を着せていたのである!
先ほどまで綾崎ハーマイオニーは悲鳴をあげていたが、今では大人しい。
「ふふふふふふふふふふ! この後、飛行機に乗ってオランダに行くぞぉ!」
高々と野望を叫んだ虎鉄。飛行場は何故か目の前! ハヤテは間に合うのか!? それとも、綾崎ハーマイオニーは虎鉄のものになってしまうのか!
「させるかぁぁああああああ!」
ハヤテは走っていた。通常の二分の一の速さで走っていた。目の前に虎鉄の姿などない。髪の毛の先も見えない。てか人が多い。この人ごみの中なら、本来は走るのが難しい筈である、プラス、浜辺なので足をとられるはずである。
半分になったハヤテの能力。それは余りにも大きすぎる喪失であり、体力も半分であった。
「はぁ――はぁ――、暑い……」
さらに夏の太陽である。体力を著しく消費していくのを感じる。
「なんとかしないと……」
ふと、足を止めて海を見る。
「あれは――」
水上を走る水上バイク。
勝利(?)を確信していた虎鉄の目に飛び込んできたのは、水しぶきを上げて此方に近付いてくる水上バイク――それが普通の人間なら、此方に近付いているのだろうと考えるのであろうが、乗っている人間が乗っている人間である。果たして、水上バイクを運転しているのはハヤテであった。
「虎鉄さん! 追いつきましたよ!!」
ハヤテが動かすマシンは、海においてよくレンタルマシンとして貸し出ししているポピュラーな水上バイク、YAMAHAエキサイター1430R――その白いボディのマシンが、ハヤテの操縦によって、今、風になっていた。
「くそッ! 卑怯だぞ綾崎!!」
「知りませんよ! それに、その僕を返して下さい!」
「誰が渡すもんかぁ!」
虎鉄は足のスピードを上げる。それに伴い、ハヤテもまた、エキサイターのスピードを上げる。
轟、と水しぶきを上げ、一気にスピードが上がる。水上バイクの利点はスピンターンが容易に出来、回転の半径が小さいことにある。つまり、スピードに似合わず小回りが利くと云う事である。だが、その半面、一歩操作を間違えれば、スライドし落下する。しかも、船と違い外装に覆われていないために、衝撃はダイレクトに搭乗者を襲う。
だが、その辺りスピードをキープしつつ、周りの人間に迷惑が掛からないように外側を走っているハヤテは流石といえる。
距離は縮まる。どうやらこの様なものを扱う技術は此方のハヤテにあるようである。
「ええい!」
虎鉄は舌打ちをする。
飛行場が先程よりも遠く感じる虎鉄。このまま走っていけば、滑走路なんぞに行く前に捕まるであろう。
「……捕まってたまるか! 私は幸せな日々を過ごしたいんだぁぁぁぁあああああ!」
なら如何します?
あ、丁度タイミングよくバイクなんかありますけど。
「はははははははッ! 神は私を見放しては居なかった!!」
ジャンプしてそのバイクに乗る虎鉄。一体誰のだか解らないが、ご丁寧にキーまで付いている。
うなるエンジン。OHV、V型ツインエンジンが齎す独特の鼓動音は、幾人のバイク好きをうならせてきた。だが、今、虎鉄がまたがったこのバイクは、このバイク初、水冷DOHC Vツインエンジン――レボリューションエンジン――を搭載したマシン……
ハーレーダビッドソン・VRSC。
馬力よりもトルクを重視しているこのハーレーは、高出力なバイクではない。ノーマルで五〇から八〇馬力ほどのこの機体は、さほど高出力とは言えない。
だが、虎鉄にはそんな事はどうでもよかった。海から上がったハヤテが此方に辿り着くことは不可能である。まして、幾ら低出力とはいえ、人の足ではハーレーに辿り着ける筈もない。
「しまった!」
ハーレーにまたがった虎鉄を見、陸に下りたときには、既に虎鉄はいなくなっていた。
「……ハーレーはそんなに高出力ではない筈、今なら間に合うか……?」
しかし、今この場に放置されているマシンはホンダ XR650Rのみ。これは六〇馬力ほどをもつものであるが、ハーレーには及ばないと思える。
ナギにバイクを……と思うがしかし、ナギは向こう側。直ぐに追っては来ないと考える。
こうしている間にも、自らは虎鉄に連れられ、遠くへ行っている。一体飛行場まで何キロあるか解らないが……先ほどから目の前、目の前と説明しているワリには遠い気もするが……
そんな事を悩んでいると、
「……あーあ、お嬢様達は私の事なんか忘れているのでしょうね……気になって着いて来たんですけれども……はぁ」
ベストタイミングで、落ち込んでいるクラウスを発見した。
その傍らには……
「これなら!」
その叫びに気付いたのか、クラウスがハヤテを見る。
「綾崎、お前こんな所で何を……」
「すみません! このバイク、貸してもらいます!」
「なに? おい!」
答えを聞くまでもなく、ハヤテはヘルメットを被り、そのマシンに乗った。
異変に気付いたのは、数分経った後だった。
「――?」
響く駆動音。そして、現れた。
「な――!」
それは化け物か……その速度に一瞬虎鉄は我を忘れた。
それもその筈。その機体は先ず、数メートルにも及ぶ距離を一〇秒台で駆け抜けた。そしてその黒いボディ……
ハヤテがクラウスから借り受けたマシンは、クラウスの手によって、そして何人もの三千院家のメカニックによってチューンにチューンを重ねたモンスターマシンと化して居た。
ベースになったマシンは、一九八五年より、日本がリリースした当時最高出力を誇っていたモンスターマシン、ヤマハ・V‐MAX。Vブーストシステムにより無理矢理力を引き出し、その馬力は一四五馬力と、バイクの中では最高峰。
そんなモンスターマシンが、チューンにより、さらなる怪物へと変貌を遂げていた。
スピードを上げる。しかし、虎鉄の操るハーレーに近付く黒きマシン(魔神)の脅威は消えない。
轟、うなりをあげてV‐MAXが更にスピードを上げる。
いや、まだだ! まだコーナーが残っているし、それにあの速度でもこちらに来るのにはまだ時間が……
と考える刹那、虎鉄の頬を何かが掠めた。
「は?」
虎鉄は狙撃されていた。
「ぬぉぉおおおおお! ソレは銃刀法違反!」
ハヤテが片手で持っていたのは、レミントンM40と呼ばれるアメリカで制作された民間用の狙撃ライフルを軍用に改造したM700の更に改良型である。弾丸は厳選されたものを使用し、光学式一〇倍固定のスコープを搭載。最大射程は九一五メートルを誇る。良好な射撃性能があり、海兵隊のみで使用されている民間では手に入れることは出来ない代物である。
音をたてて、七.六二ミリNATO弾が放たれる。
「降参してください――! いい加減にその僕を返してください!」
「くそ! こんな所で……」
捕まってたまるか、といわんばかりに虎鉄はアクセルを全開にするが……
「無駄ですよ!」
V-MAXの前には成す術もなく、虎鉄は捕まった。
■■■
そろそろオチである。
起承転結や展開の意味を全て無視したようなこの番組にも、一応オチだけは付けておこうと云うことである。
ハヤテが元の浜辺に戻ってくる頃には、そろそろ日が傾こうかとしている頃合であった。
一刻も早く、伊澄に頼んでこの二つの体を一つにして貰わなくてはならないのである。
漸く向こう側にマリアやその他多数が見え始めた頃合、向こう側も此方に気付いたようで、視線がハヤテに向く。
「ハヤテ君! 大変です! ナギがさらわれました!」
……本当に、お約束の展開である。
「お嬢様が!? ……と云うより、こんなに執事がいるのに何をやっていたんですか!」
ハヤテは執事一同を眺める。
「……人はね、暑さと飢えには耐えられないのだよ……」
カレーを口にする氷室がそう言った。理由になっているのかなっていないのか……
これは一刻も早く体を元に戻して、お嬢様を助けに行かないと……
辺りを見渡すハヤテ。が、しかし、そこには目当てである伊澄の姿は無かった。それどころか、他の人間も大半がいないような気がして……
「あ、さらわれたのはナギだけではなくてですね、他の方々も何人かさらわれまして……」
マリアの言葉に、ハヤテはうなだれる。本当に良いタイミングでお金持ちのご令嬢さんプラスお坊ちゃん達はさらわれるのである。
「えっと、さらったのは一体誰ですか?」
この番組の二行目ぐらいにソレっぽい描写がありましたけどね。確実に誰かが見ていたと云うわけでして、そして、その当の本人は、そのまま連れて逃げ帰れば良いものの、態々ハヤテの目の前に姿を現した。
『ははははははは――――ッ! 久しぶりデスね! 綾崎ハヤテ!!』
「その声は……!」
皆さん、お忘れでしょうが、愛沢咲夜の兄である、ギルバートであります。
ギルバートは背中にまるで鳥かごの様なものを取り付けたメカに乗っており、その檻の中に、ナギ達一部女性陣プラスお坊ちゃま達が入っていた。流石の生徒会長さんも、メカのようなものには勝てなかったようである。当の本人は、震えているが。
「此処……結構高いのよ……!」
桂ヒナギクは高所恐怖症です。
「借金執事! はよ助けや!! そのアホ兄貴は殺してもかまへん!」
咲夜が叫び、後ろの生徒会三人娘が、やっほー、と危機感をまったく感じていないかの様にハヤテに手を振る。千桜は大人しく、座っていた、サングラスだけを光らせて。タイガと東宮康太郎だけは、涙を流して自らの執事の名を呼んでいた。
「それより、何故貴方が此処にいるんですか!?」
元来、その様な事を問われて返すような間抜けは、いないのであるが、ギルバートは親切にも、細かに詳細を説明してくれた。
『ワタシは貴方方に敗れた後、体を鍛えるために、水泳を始めマシタ! そしてそこで新たな力を手に入れたのデース!
これからちょっとライバルを倒しに行くのデスが! 肩ならしにオマエを倒してやります!』
メカから下りるギルバート。確かに、筋肉の付き具合が違うように見えるが……果たして、その実力は……?
「ハヤテー!」
後ろの籠ではナギが叫んでいる。……ならば遣るべき事は一つだ。
それは……幾ら分身といえども、別の人格といえども、綾崎ハーマイオニーも同一であろう。彼(?)もまた……同じ綾崎ハヤテなのだから……
「それと、ギルバートさん、一つ忘れていませんか?」
ハヤテとハーマイオニー、二つのハヤテの、今考えていることは一つ――ナギを救出すると云う事だけ。
「何をデスかー?」
ギルバートは黒いオーラを出しつつ、ハヤテの言葉に耳を傾ける。そこには自身のみが存在する。余裕の表れである。
「今この場には……一体何人の執事が居ると思っているんですか?」
…………………ギルバートの表情が変わった。
「倒せると思っているんですか?」
後ろでは、既に伊澄や、咲夜の執事が準備万全とばかりにスタンバっていた。
「まぁ、このままにすると僕の金ズルが居なくなるんでね……」
バラの花びらを散らせ、氷室が立ち上がる。
「坊ちゃん! 私は此処で見ていますから! 自分で頑張ってみてくださいね!!」
野々原はそう言うが、一応竹刀を持っているので助ける気はあるようである。
そして、何時の間に追いついたのか、クラウスまでもが袖とネクタイを調えながら立っていた。
ついでに、何時蘇ったのか、虎鉄も既に戦闘体制に入っていた。
「お嬢〜、楽しそうなところ悪いが、取り敢えず其処からは出てもらうぞ」
………………ギルバートはメカに再び乗ろうと背中をむく。
「勝てるわけアリマセン―――ッ!!!!」
それが仇になったのか……次の瞬間にはギルバートは全ての執事の一撃のもとに、散った。
■■■
元に戻った体を見て、ハヤテは安堵の溜息を付く。
「ありがとうございます、伊澄さん」
ぼそりとハヤテは伊澄に耳打ちする。
「たいした事もなくてよかったです。それに、ハヤテ様のもう一人の方も、よく此処まで拒絶せずに一つになってくれました……」
それは、単に二つに分かれても、大切に思う気持ちには変わりはなかったからではないのだろうか……と思う。
取り敢えず、救出した人間は一足先にホテルに戻っている。ギルバートはと云うと、メカも完膚なきまで、破壊されてしまったので、泳いで何処かへと行ってしまった。その辺りは水泳の成果が出ているようだ。
さて、と思い、ハヤテはナギの待つ所へと歩き出す。伊澄の要望で、ナギに一つに戻すシーンは見せたくないとのことでして……
「遅いぞ! 何をやっていたのだ!」
「いえ、元に戻る前に少し自分とお話を……」
適当な言い訳を付け、ハヤテは笑う。ナギも、ま、いいか、と呟いて、歩き出す。
此処に、大騒動の一日が終わりを告げた。
「そういえば、何故マリアさんはギルバートさんにとらえられなかったんでしょうかね? 一応メインヒロインですよね?」
「さぁ? キャラ的にというか、それとも見た目か……年齢か……」
「―――――――〜〜〜〜〜!」
ナギの後ろで、笑顔なのに震えているマリアさん。
取り敢えず、二人のラスボスはマリアさんと言うことで……
ついでにホテルには、腹黒生徒会副会長も待ち受けているわけでありまして……
まだまだ、彼らの一日は終らなさそうです――
/了