タイトル | : 真夏煉獄下ハヤテのごとく!:破 |
投稿日 | : 2008/07/29(Tue) 23:38 |
投稿者 | : 絶対自由 |
GONGを鳴らして始まった戦いは既に小一時間続いている。
海では、遊んでいる女性陣。陸地であるビーチでは現在バトルが繰り広げられている。
「GONGならせぇ!!」
意味不明な叫び声(奇声)をあげながら虎鉄が名も無き執事を飛ばしていく。
既に名も無き執事は全滅であり、ビーチに残っているのは名前が付いている執事のみとなっている。……当り前だね。ありがちな展開だね。
ふと、向こう側を見れば、海の近くで式をあげる新郎新婦。と、ぶっ倒れている東宮康太郎――
「見えるぞ、私にも、綾崎とあそこに立つ姿がぁぁぁぁあああ!」
勢いそのままに、虎鉄の蹴りがハヤテを襲う。
「何気持悪いこと言っているんですかー! 日本じゃ同性婚は出来ませんし! する気もありません!」
その攻撃をかわし、背中越しにハヤテはそう叫ぶ。
「大丈夫だぁ! オランダに移住するからぁぁ!」
気持悪い笑顔を見せつつ、虎鉄は体をぐるりと回転させて、回し蹴りをハヤテに繰り出し、ふいを突かれたハヤテはそれを受け入れ、吹っ飛ばされる。同性婚が認められているオランダでの生活は、さぞかし楽しいだろう。
「楽しいわけあるかー!」
ハヤテは叫びと共に、頭を砂浜から上げる。
「何を言うか! 素晴らしい日々が続くに決まっているではないか!」
以降は、虎鉄君の妄想ですのでご注意ください。
■■■
オランダの海辺……其処には大きな屋敷が建っていた。
照りつける光は、朝の到来を伝えている。
「おはようございま〜す♡」
私の目の前に居るのは、眩しすぎる、私の妻だ。とても眩しい! 素晴らしい!
「お寝坊さんですね〜、もう朝ですよ? 朝ごはん、冷めちゃいますよ♡」
今直ぐに行こう。お前の手料理の為に私は命を賭けて其処へ行こう!
オランダでの生活はとても充実しているものだ。これ以上の幸せは無いだろう! 神よ、こんな素晴らしい生活を有り難う! オランダよ、同性婚をありがとう!
リビングは素晴らしい毎日が始まるスタートライン! 食事も素晴らしい!
「きゃあ!」
「どうした?」
「やけどしちゃいました」
「仕方ないな、ほら、水で冷やすんだ」
「はい……」
全く、おっちょこちょいな君も好きさ。
氷をビニール袋の中に入れて、暫らく当てていろ。
数分後に、清潔なガーゼを巻いて、よし、これでいい。
「ごめんなさい」
「なぁに、君は私の大切な愛人(ラマン)じゃないか……」
ふ、我ながら臭い台詞を……
さて、そろそろ仕事に行く時間だ。
「いってらっしゃい」
にこりと笑う我妻。うーん、素晴らしい。
「私に、行って来ますのキスをしてくれ……」
■■■
「逝ってらっしゃい!!!」
「ごふぉぉぉおおおおお!」
妄想に浸っている虎鉄の顔に、ハヤテの蹴りがヒットした。空中でくるくると三回転ぐらいしてどしゃりと砂浜に顔を突っ込んだ。うわ、痛そ。
「中々面白い思考をする人だね」
「面白くもなんとも無いですよ! 只のへんたい! ヘンタイ! ドヘンタイ! じゃないですか!」
氷室の面白い発言に、ハヤテは反論する。確かにまぁ面白いといえば面白い思考である。普通のまっとうな人生を送って来てる人か、生まれつきの趣味が無ければ出来ない発言である。別に同性好きを否定しているわけでは断じてないぞ?
「そこでなんだが……」
氷室は徐に呟いた。
「そろそろこの物語の展開を解らなくして面白くするために、僕はそこの君の言うヘンタイとやら側に付くことにしよう。君がこの人と結婚した後の生活も見てみたいのでね。それに、協力したら何かと良い事がありそうだ」
虎鉄の前に立つ氷室。
「は?」
「おおっ! いいだろう! 共に綾崎をモノにしよう!」
「いや、彼は要らないけどね」
氷室は瞑っていた目を開き、ハヤテに襲い掛かる。速ッ!
避けるハヤテに、今度は懐から取り出したバラが襲い掛かる。バラが何故そんなに高速で飛んでくるのかは永遠の謎として、バラはハヤテの頬をかする程度で済んだ。
拙い、ハヤテの脳裏にその言葉が過ぎる。
『こんな時こそのあの必殺技なんじゃないのか……』
「うお! 神父さん! 居たんですか!?」
『海に行くと云うことでな、水着を拝めると思ったのだが……皆スク水を着ていないでは無いか!』
「知りませんよ!」
叫ぶハヤテ。
「何独りごとを言っているのかな? 気を抜くと……」
「!」
気が付くと氷室のバラが四方八方に展開されていた。
「これは……!」
「ゲート・オブ・バ●ロン!」
一斉掃射。もう何でもありだな、と云うツッコミを無視した攻撃である。まぁ、一番は物理法則を無視しているような気もしなくは無いが……と云うより、ゲート・オブ・バ●ロンは剣とかの武器じゃありませんでしたっけ?
そんな事は御構い無しに、無数のバラがハヤテを襲う。
「っ!」
一つを避けるのは容易い。しかし、数が増えるごとに避けるのは難しい……当然ながら。
『だから、あの技、Bダッシュアタックを……』
「……っ!」
決めるのなら今だ。そう言わんばかりに、ハヤテは足を地面に強く叩きつけ……
「疾風の――」
如く。
跳んだ。
ほう、と感心する氷室。その余裕。
「確かに強力な必殺技のようだが……動きが単調すぎる」
躱された……ハヤテは目だけで氷室を追う。
「そして――」
地面に再び足を付くハヤテ、しかし、
「体への負担と反動、そして何より隙があると……」
瞬時にハヤテの目の前に現れた氷室の蹴りを、腹に受けた。
「ぐあっ!」
必殺技の使用で体が痺れている中、氷室の蹴りを受け、宙に浮くハヤテ。
ぶれます。ええ、ぶれてます。軸ごと。左右横揺れプラス氷室に吹っ飛ばされたハヤテ。そのまま一気に海に……ドボン。
■■■
「きゃっ!」
海でボール遊びをしていたヒナギクの遥か上を飛び越え、ハヤテは海に落っこちた。
「ちょっと! 大丈夫ハヤテ君!?」
沈んでいくハヤテが、浮かんでくる。
影が……二つ。
「「いたた、大丈夫です、ヒナギクさん」」
「……………………私の目がおかしくなったのかしら」
頭を抱えるヒナギク。
「どうしたんですか? ヒナギクさん」
「どうしましたか? ヒナギクさん」
どう見ても、ハヤテが二人。
海から姿を現したハヤテが二人だったのに驚く一同。
「マリア! 私の目がおかしくなったのか!?」
「いえ……私にも視えますけど……ハヤテ君が二人」
「さて、ハヤテが分裂したわけだが……何か言う事は無いか?」
腰に手をあて、ホテルに一旦戻り、服を着てきたハヤテにナギは言う。分裂したハヤテは、水着も仲良く半分こだったわけで、半分を失った水着がどうなるかは言うまでもない。
「えーと、僕はどうやったら戻るんでしょうか?」
「えーと、私はどうやったら戻るんですか?」
其々答えるハヤテ。
……片方が男で、片方が女……と考えるしか無いのだが。
片方は表向きの綾崎ハヤテ。そしてもう片方が、今まで散々女装させられ、女言葉を使わされたときに生まれてしまった綾崎ハーマイオニー……
「と、云う訳だな」
まぁ……
と、一同が考え込む中、
「ハヤテ様」
と、かすかな声がした。
綾崎ハヤテの方が、そのかすかな声に振り向く。と、其処には何時の間にか鷺ノ宮伊澄が立っていた。確か用があると言ってホテルを出てからは別行動だった筈である。盛大に迷子になったのだろう、此処に辿り着いたのは奇跡だろう。
「伊澄さんどうしましたか?」
「この辺りに強い霊が出たのですが……もしかしたらあの分裂したほうのハヤテ様かもしれません」
「ええっ! そうなんですか?」
「はい。恐らく」
気付かれないように声を小さくして会話をするハヤテと伊澄。随分お約束な展開になってきたな、と思った君、正解だ。
ハヤテは再び振り向き、自らの分身を見る、と、
「あれ? ……僕が居ません」
見事に消えていた。
/続