セイバーマリオネットJ SideStory
「メソポタミア・エレジー」
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後半その1
ローレライの慟哭が啜り泣きに変わり、やがて静寂が訪れた。そしてその静寂を打ち破ったのは、彼女自身であった。
「ファウスト、ごめんなさい。わたし行けない」
「‥‥」
「この星に女性を復活させる。ライムたちが捧げてくれた命を、本物の女性としてこのテラツーに蘇らせる。それがあの娘たちにできる、私の償いのような気がするの。つらくてもやらなければいけないんだわ。あの娘たちは、テラツーを守るために戦ってくれたのだから」
「‥ローレライ」
「そんなっ‥」
「ファウスト様、それでは‥」
絶句するセイバー二人を残して、ファウストは永遠の恋人へ一歩を踏み出した。だがローレライは、背を向けたまま立ち上がった。
「来ないで、ファウスト‥お願い」
「ローレライ、そうやって全てを背負い込むのは君の悪い癖だ」
「近寄らないで!」
意外なほどの強い口調が、ガルトラント総統の足を止めた。
「来ないで、今あなたに触られたら‥私の役目が、果たせなくなるから」
「無理をすることはない、今の君は疲れているんだ。私がどんな想いで今日を待っていたか、君に分かるか」
「‥こんなにまでして、この日を迎えたくはなかったわ」
「気に病むことはない。あのセイバーたちのことなら。家安は元々ああするつもりで、あのセイバーたちを作った‥」
ぱああーん。
振り向いたローレライの手が、ファウストの頬を力強く打った。その眼には涙がいっぱい溜まっていた。しかしその眼は、先ほどまでの悲しみに満ちた眼とは違う、力強い光に満ちていた。
とっさに立ち上がりかけたパンターたちを後ろ手で制すると、ファウストは表情を和らげた。
「‥いい眼だ。そうでなくてはな」
「えっ?」
「行こうか、ティーゲル」
「はい、ファウスト様」
ファウストは足元のティーゲルの手を取ると、ローレライの顔を注視したまま、ルクスたちのところまで後退した。そして、
「お別れだ、ローレライ。もう会うことも無いだろう」
「‥ファウスト‥」
「あなたの命だ。あなたの思うように使うがいい。今日ここで会えただけで、私の300年越しの望みは果たされた」
そう言って背を向けると、ためらうことなく格納庫を去っていった。
ローレライはファウストの背に向かって、何度も手を伸ばし、声を掛けようとして止めた。この道を選んだのは彼女自身だった。ファウストを引きとめる言葉を掛ける資格は、今の彼女には無かった。
だが、最後にようやく言葉を発することができた。
「また、会えるわよね?」
その言葉に対し、ファウストは背を向けたまま肩越しに手を振るのみであった。
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