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想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき
日時: 2014/12/27 07:41
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

予定より遅れてしまいましたが「想いよ 届け」第三部を投稿します。
時期は、第二部+1で描いたハヤテの誕生日よりさらに1ヶ月。師走の始め。
舞台は主としてロイヤルガーデンになります。
原作におきましても謎の多い部分ではありますが、その辺りは私の空想で埋めるということでご容赦。




想いよ届け 第三部 〜王族の庭城が滅びるとき


(第一話:闘い いまだ終らず)


この世界でいえば12月1日、カルワリオの丘に立つ神様が棲むという城 王族の庭城(ロイヤルガーデン)。
−それは滅びる事のない花が咲き、消える事のない炎が灯る場所−
しかし、今、城内を照らす灯りはすべて消え、花さえ萎れ、あるいは枯れ果てていた。


ロイヤルガーデンに向かう丘を、天王州アテネは一人歩んでいた。
空気が動かないはずの聖域に風が吹き、アテネの頬を打つ。
(ロイヤルガーデンを囲む結界が緩んでいる・・・・。急がないと・・・)


「遅かったではないか・・・」
闇に包まれた城の中から響いてくる聞き覚えのある声に、アテネは答えた。
「私にもいろいろと事情がありましてね。別に怖気づいて逃げていたわけではありません」
「そんな心配はしていない。必ず戻ってくると私は信じていたよ。一人で、とは思わなかったがな」
「それは結構。なら私の目的もわかっているはずですわね」
「ああ、結果もな。残念だがお前の望みは叶えられない」

「それはどうかしら。
でもその前に一つ聞いておきましょう。死んだはずのあなたがどうやって蘇ったのです?」
「我は神ぞ。肉体が滅んでも霊魂は朽ちぬ。我に肉体を提供しようとする人間など幾らでもおるわ」
「それで実体を手に入れたと・・・。その人間は魂を乗っ取られて消滅するのに」
「そんなことは関係ない。我が触れるものを金に変えることができるといえば、欲深い愚か者はすぐに騙される」
「・・・言ってて恥ずかしくありませんの。そんな力を望んだ愚か者はあなたではありませんか」


アテネの六感が鋭く刺激された。
アテネは剣・黒椿を抜き放った。右に向かって切りつけると何もないはずの空間に明らかな手ごたえがあった。
切り裂かれた魔物が姿を見せて、地面に転がって動かなくなった。人に似ているが、異形のもの。角と尻尾をもつ西洋悪魔のような姿であった。
闇の声が哄笑した。
「少しは腕を上げたか。だが、所詮は身の程知らずだな」

(来る)
四方から目に見えない魔物が襲ってくる気配がした。
アテネは目を閉じて気を凝らした。

おおまかな位置はわかる。
動きも鈍い。

黒椿が煌めくや、アテネの周りには魔物の残骸が幾つも転がっていた。
アテネは、目もくれずにロイヤルガーデンへ向かって駆けた。


************************************************************************:::

12月3日−白皇学園
昼休み、校庭というにはあまりに広い敷地の中をハヤテとヒナギクが談笑しながら歩いていた。
腕を組むどころか手をつないでいるわけでもないが、交際が順調に続いていることは二人を包む雰囲気が物語っている。

「ねえ、ハヤテ君。もうすぐクリスマスだけど、スケジュールはどうなってるの」
ハヤテは空とぼけて答えた。
「15日のパーティの招待状は行っていますよね。ムラサキノヤカタに住んでいた人たちも皆集りますよ。楽しみにしていて下さい。」
「んー、そうじゃなくって。もっと楽しみなこともあるんだけどなー」
ハヤテのわざとらしい意図などヒナギクにはお見通しだが、ここはハヤテの期待どおりむくれて見せた。
決して不愉快ではない。ハヤテがこうして勿体をつける時には必ずいい答えが返ってくるのだ。

果たしてハヤテはニッと笑った。
「ご安心下さい。イブはちゃんと空けてますよ」
「え、ホントに良いの」
「ええ、マリアさんの誕生日パーティは15日のクリスマスパーティで一緒にやるそうです。マリアさんとお嬢様が気を遣ってくれたみたいで。
お任せ下さい。ヒナギクさんのために素敵なクリスマスイブをご用意しますよ」
「あの、それは嬉しいんだけど、あまり無理しないでね。問題はコストじゃなくてシチュエーションよ。それに、私にもちゃんと負担させてね」
本当のところヒナギクは「全額私がもつ」と言いたかったが、それはハヤテに失礼だろう、と思っての申し出だった。

とは言いながら・・・
生まれて初めての愛する人とのクリスマスイブ・・・。ヒナギクは既に妄想の世界に片足を突っ込んでいる。

そんなヒナギクを見ているハヤテも自然と笑みがこぼれる。
思えば、一年前のクリスマスとは何という違いだろう。
僕は今本当に幸せなんだ・・・


しばらくして・・・
「ねえ、ハヤテ君。クリスマスと言えばプレゼントだけど」
およそヒナギクらしくないセリフに戸惑いつつも、ハヤテはあくまで恭しく答えた。
「それもお任せ下さい。ヒナギクさんに劣らないメッセージをプレゼントに添えてお渡しします」
ハヤテは風呂と寝るとき以外は肌身離さず身に着けているものにそっと触れた。
翼を象ったペンダント。
前月、ヒナギクが誕生日のプレゼントにくれたものだ。

劣らない「プレゼント」でなく「メッセージ」であるところが今のハヤテの限界だが、早く借金を返済し、借金持ちでなくなってヒナギクと向き合いたい、というハヤテの思いを知っているヒナギクはむしろ嬉しかった。
だが、それはそれとして・・・

「だったらね、とびっきりのメッセージが欲しいんだけど」
「え、どういうことです」
「私への気持ち。言葉でなく態度で示してほしいなあ」
「?」

ヒナギクはハヤテの顔を覗き込んでちょっと恥ずかしそうに笑っていたが、やがて口を開いた。
「敬語を使うのやめてくれない?」
「え、え」
「私たち、付き合って4か月経つのよ。もうちょっと砕けた言葉で話してくれてもいいんじゃないかしら」
「はあ・・・。でも僕はこれが普通ですし・・・」
「それはそうだけど。でも私は恋人なんだから特別扱いしてくれてもいいじゃない。
すぐに言葉遣いを直すのが難しかったら、まず呼び方でもいいわよ。呼び捨てにするとか、縮めるとか」
「う、うーん。ヒナギクさんは僕の恋人であると同時に、学園のアイドルでヒーロー、じゃなくてヒロインですから。呼び捨てというのは周囲の精神状態に悪い影響を与えそうで・・・」
「何わけのわからないこと言ってるのよ。すぐに、とは言わないわよ。イブまでに少しでも直してくれたら嬉しいな」
「はいっ、わかりました。他ならぬヒナギクさんの頼みとあれば努力します」
ヒナギクが満面の笑顔と共に右手を伸ばし、ハヤテの左手をぎゅっと握った。


「ハヤテ」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。二人はびくっとして手を離した。
「あーたん?」
「天王州さん?」
そこに立っていたのは紛れもなくアテネ。アリスではなく、元の姿に戻った天王州アテネに相違なかった。

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.1 )
日時: 2014/12/28 01:13
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

なんともシリアスな雰囲気漂う引きでドキドキです。
それだけに、二人の愛情が試される時がやってくるのかと期待もしております。

呼び方話し方を変えさせたいヒナはなんとも可愛い言い回しだと思いました。
こーゆーのはきっかけがあるうちにさっさと変えないと気まずくなっていかんぞハヤテ君。…とウチのハヤテがなんとも偉そうに言っていた(ような気がした)ので、一応お伝えしていただければと。

アリスちゃんとのお別れも無くアテネに戻っちゃったのは非常に寂しいですが、今後の展開に注目しております。
では次回も楽しみにしています。
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.2 )
日時: 2014/12/28 18:38
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさんへ

 早速の感想をありがとうございます。
 それとハヤテへのアドバイスありがとうございます。さっそくお伝えしておきます、と言いたいところですが、間もなくハヤテはそれどころではない状況に巻き込まれます。

 ロイヤルガーデンに居座る正体不明(?)の敵に対しアテネとハヤテはどうするのか。
 そして当然ながら、それはヒナギクにも大きな影響をもたらします。
 ロッキー・ラックーンさんの感想通り、二人の愛情が試されることになります。
 

 それと、アリスについてですが・・・。これについては頭を掻くしかないですね。
 私もアリスは好きですし、捨てがたいキャラクターだと思っています。
 しかし、ここは涙を呑んでハヤテの元恋人たるアテネを優先しました。

 ただ、究極のお嬢様、というか姫君のように生きてきたアテネにとって、アリスとしての生活は貴重な経験であったはずです。
 それを無視するつもりはありません。それがこの物語にどういう形で出てくるのか、今私自身が考えています(流動的)。

                                             どうふん
  
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.3 )
日時: 2014/12/30 21:20
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


究極のお嬢様であるアリスがムラサキノヤカタに住む理由は原作においてもそれなりに描かれています。
しかし、私はそれ以上に、(ナギもそうですが)、庶民に塗れて世間の中で生きる時間こそがアリスひいてはアテナにとって貴重な存在だと思っています。
そうした意味では、この二次創作において、アリスを無理に成人化する必要もないわけです。むしろ、ロッキー・ラックーンさんのようにアリスをそのままにして活躍させた方が面白いお話になるのかな、という気もしますが、本作ではヒナギクさんとアテネの決着を着けさせたいと思います。



<第2話:翼がもたらすもの>


アリスは、夏休みをハヤテやヒナギクそして仲間たちと一緒にムラサキノヤカタで過ごした後、愛歌に連れられ去って行った。
この小生意気なお姫様が去る時、周囲は皆胸が締め付けられるような寂しさを感じていた。
別れ際、ムラサキノヤカタの住民の他、一足先にお屋敷に戻っていたナギやマリアも集まって送別会を開いた。
その場で、アリスは皆に向かって言った
「私にはやらなければいけないことがありますので、一度お別れします。
皆、短い間でしたが本当にありがとう。特にヒナ、ごめんなさいね。強引にお母さんをお願いして。
でもあなたたちを親として暮らしていて本当に良かったと思いますわ。
考えてみれば私が孤独を感じることなく自由な生活を送ることができたのは初めてです。皆さんのおかげで、間違いなく私の人生で一番楽しくて充実した時間を過ごすことができました。
改めて、かけがえのない仲間である皆さんにお礼を申し上げます」
(お前の人生って、一体何年間のことなんだよ)(大体これは何歳児の挨拶だ?)(それは今に始まったことではないだろう)とみんなが内心で様々な突っ込みを入れる中、アリスは去って行った。
その後連絡が取れなくなった。愛歌も知らなかった。


ただ、別れて2ヶ月が過ぎて、今から二週間ほど前に、ハヤテとヒナギクに宛てて手紙が来たことがある。

「ハヤテ、ヒナ、仲良くやっているかしら。
私は元気よ。
あなたたちを両親として仲間と一緒に暮らした思い出は、今でも私の宝物です。
なすべきことはまだ果たしておりませんが、ようやく取り掛かることができそうです。
それさえ片づければ、また、会えると信じています。
その時は必ず私の方から連絡します。
だから探そうとは思わないでね。   
          アリス」

どこから届いたのかはわからなかった。
ただ、なすべきことに今から取り掛かる、ということが何を意味するのか・・・・。
「早く元気で戻ってきてね」
二人は祈っていた。


********************************************************::


「い、一体どうしたのさ、あーたん。それにその姿は」
およそ三ヶ月振りの再会となるアリス、いやアテネは、まずそもそも成人体になっているところから唐突であったが、それだけではない。
衣服のあちこちが破れ、血が流れている姿で、剣を杖にして立っていた。明らかに壮絶な闘いの後だ。それも見る限り勝ち戦とは思えない。
「ハヤテ、説明は後よ。今すぐ力を貸してほしいの」
「待ってよ、あーたん。とにかく怪我の手当をしなきゃ」
「そんな時間はないの。私について来て」
ハヤテはアテネを医務室まで連れて行こうとしたが、アテネは逆にハヤテの手を握りそのまま連れ去ろうとした。

「い、一体何なのよ、天王州さん」
蚊帳の外になっていたヒナギクがたまりかねて声を荒げた。
アテネはヒナギクに初めて視線を向けた。その目が切羽詰っているのはわかった。よほどの緊急かつ重大事態に陥っていることは間違いない。
だが、アテネはその説明をしようとはしない。冷ややか、としか思えない口調で一言だけ告げた。
「あなたには関係ないわ、ヒナ」
呼び方だけがアリスのまま残っていたが、今そこに立っているのはアリスでも昔の友人でもない・・・ヒナギクはそう思った。

「ちょ、ちょっと待ってよ、あーたん。そんな言い方、ヒナギクさんに失礼じゃないか」
ハヤテはヒナギクを庇っている。しかし、ヒナギクの意識は違う方に飛んでいた。
つい先ほど、あれだけ望んだものを当たり前のように受けている人物がいる、ということに衝撃を受けていた。
(なんなのよ、その口の利き方は。天王州さんに対しては、何でこんなに私と違うのよ)


*************************************************************************


結局、ハヤテとヒナギクは引きずるようにしてアテネを医務室へと連れて行った。
手当を受けているアテネに、ハヤテは何度も事情を尋ねているが、アテネがヒナギクの同席を拒むため、事態が動かない。

ハヤテは弱り切ってぼやいた。
「・・・どうしちゃったのさ、あーたん。あーたんはヒナギクさんとも友達だったじゃないか。お母さんにさえなってもらって。何度も助けてもらってもいるのに、何でそんなに頑なになっちゃんたんだよ」
「ハヤテ、私を信じて。とにかくあなただけに聞いてほしいの」

ヒナギクは先ほどからずっと黙っている。
「私は出ているから二人で話をして」というセリフが喉まできていたのだが、どうしても口を開けない。

ハヤテは困惑していた。
(何か事情があるのはわかるよ・・・そうしたいのは山々だけど・・・)
今、それをやると、ヒナギクとの仲に決定的な亀裂をもたらしかねないことは、いかな鈍感執事にも見当がついた。

ハヤテは心を鬼にした。
「ヒナギクさんも一緒でないと、君の話は聞けないよ、あーたん。」

「なら仕方ないわね」
アテネは席を立ち、歩き去ろうとした。
ハヤテは目を固く瞑った。
(引き止めたい。追いかけたいよ、あーたん。
だけど、僕の今一番大切なものはヒナギクさんなんだ。わかってよ・・・。
いや、わかってくれなくても・・・それでも、僕は・・・)

「ハヤテ、追わなくていいの?」
「ヒナギクさん?」
「天王州さんには何か事情がある。わかってるんでしょ、ハヤテ」
「でも、でも今の僕には・・・」
「わかっているわよ、ハヤテ。私だって昔の私じゃない。今の私ならあなたを信じて待っていられるから。そのくらいは強くなったから・・・。
行ってらっしゃい、ハヤテ」
「ヒナギクさん、ありがとうございます」
ハヤテはアテネを追って医務室を飛び出した。


(やっぱり気付かなかったわね、ハヤテ君)
独り残されたヒナギクはため息をついた。
ヒナギクの頭には、先ほどのアテネに対するハヤテの態度が重く圧し掛かっていた。
いや、ハヤテに対するアテネの態度というべきか。
それを何の違和感もなく受け入れているハヤテ。

対抗意識が頭をもたげ、アテネと同じようにハヤテを呼び捨てにしたが、ハヤテが気付いた気配はない。
それだけハヤテはアテネの様子に気を取られていたということだろう。
改めて、ハヤテとアテネの絆の強さを思い知らされた。


ヒナギクの背筋にぞっとするような悪寒が走った。
「たとえ遠く離れても私の元に飛んできて・・・」そんな想いを込めてハヤテに贈った翼のペンダントは、自分から飛び去る翼となるんじゃないか?
そして、翼を持たない私に、それを追いかける術はない・・・


その日、ハヤテは教室に戻ってこなかった。

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.4 )
日時: 2015/01/05 23:29
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


アリスはともかく、記憶を取り戻したアテネは、果たしてハヤテを諦めるのでしょうか。原作のストーリー整理が私自身できてはいないのですが、このあたり、かなり大きな問題となるでしょう。少なくとも、原作においては諦めていないはずです。
さらにハヤテの気持ちは本SSの中ではヒナギクさんに完全に移っていますが、それをヒナギクさんがどれだけわかっているかは別問題です。
今までの経緯と、ヒナギクさんの性格を考えると、やはり疑心暗鬼に陥ってしまうのではないか、と思います。




<第3話:別れの夜>


夜になった。
ヒナギクは携帯をずっと手元に置いてハヤテからの連絡を待っていたが、着信はない。
自分から連絡しなきゃいけないような、するのが怖いような、そんな葛藤に捉われて動けないでいた。

もう9時を過ぎた・・・。思い余って携帯に手を伸ばしたとき、携帯が鳴った。ハヤテだった。
「もしもし、ハヤテ君?」
「ヒナギクさん、今お家の外にいるんです。夜遅く済みません。外に出てきてもらえませんか」
ヒナギクが窓から外を除くと、確かにハヤテが門のところに立っていた。

「ハヤテ君」
息せき切って外に飛び出したヒナギクの前には、悲しさとも切なさとも形容しがたい表情をしたハヤテがいた。わけのわからない不安が胸を締め付けた。
「ヒナギクさん、お願いがあります。白桜を僕に貸して下さい」
「・・・どういうことよ」
「僕を信じて下さい。必ず僕はヒナギクさんの元へ生きて帰ってきますから。今は何も言わずに・・・」

ヒナギクは満身の力を込めてハヤテに平手打ちを浴びせた。
吹っ飛んだハヤテをヒナギクは目に涙をためて睨みつけていた。

「何なのよ、それ。要は天王州さんと一緒に行くってことでしょ。その後、私の元へってどういうことよ。はっきり言えばいいじゃない。やっぱり僕の好きな人は天王州さんです、って」
「違うんです、ヒナギクさん。僕の愛する人はヒナギクさんです。ヒナギクさんだけです。だけど、今は、今回だけは・・・」
「そう、今回だけなの。だったら好きにすればいいわ。あなたの欲しいものはここにあるわよ」
ヒナギクは、白桜を召還するや振り上げ、ハヤテの脳天めがけて振り下ろした。
ハヤテは動かない。得意の真剣白刃取りどころか、よけようともせず目を瞑って歯を食いしばった。

ハヤテの髪が何本か斬れて風に舞った。
白桜はハヤテの頭上わずかな差で止まっていた。
そして地面に転がった。
恐る恐る目を開けたハヤテに、ヒナギクが家の中へと姿を消そうとするのが見えた。
その背中に声を掛けることもできない。
「ヒナギクさん、すみません。今、本当のことを言ったら、きっとヒナギクさんまで巻き込むことになります。

きっと帰ってきますから・・・。
その時には、僕を思う存分ぶん殴っていいですから・・・許して下さい」
ハヤテは、首にかけた翼のペンダントをきゅっと握り締め、白桜を拾い上げ俯いたまま悄然と去った。


*****************************************************:::


部屋に戻ったヒナギクはベッドに倒れこみ、枕を抱いて泣いた。
かつても、ハヤテを想って泣き明かしたことが三度ある。そのうち、二度が天王州アテネがらみだった。
一度目は、ギリシャでハヤテから、アテネへの想いを打ち明けられた時。
二度目は、キング・ミダスとの戦いが終わり、ハヤテとアテネが抱き合っているのを目の当たりにした時。

(私は敵わないのかもしれない・・・天王州さんには)

第一印象が「ビックリするくらいキレーな子」で、友達になって、能力的にも正直「今は敵わない」と思った。あくまで当時の「今は」であり、今ならどうかわからない、という思いはあるが。
それに、何と言ってもハヤテに十年間想われ続けた女性。付き合ってまだ半年も経っていない自分とは違う。

(時間が全てじゃない)

そうは思っても、ギリシャで見たものは、ヒナギクの脳裏に今でも残酷なまでの鮮やかさで蘇る。
たった一人で絶望的な戦いに挑み、ぼろぼろになってアテネを助けようとするハヤテの姿は鬼気迫るものがあった。
救い出されたアテネとハヤテは映画のラストシーンのように抱き合っていた。
一緒に戦った自分や伊澄のことなど眼中になく、抱き合って感涙にむせんでいた。

それを目の当たりに見せつけられて「終わった・・・」と思った。
立っていられるのが不思議なくらい全身の力が根こそぎ抜け、とぼとぼとその場を去った。

自分が去った後、ハヤテはアテネに「振られた」と言っていたが、どこがどうなればそんな展開になるのかさっぱりわからなかった。

4か月前の夏休み、「ヒナギクさん、愛してます」と叫んだハヤテが嘘をついていたとは思わない。
だがハヤテが気付いていなかっただけではないのか。まだアテネを愛しているということに。

そして今。自分という恋人との語らいの最中に現れたアテネをハヤテは追った。
事情も話さず言葉だけを残して。
「必ず僕はヒナギクさんの元へ生きて帰ってきますから」

「生きて」・・・?
途轍もなく不吉な予感がした。

ヒナギクは起き上がり携帯を取り出した。やはり・・・ハヤテにはつながらない。
その時、ヒナギクはびくりとして携帯を取り落とした。着信があった。
ハヤテ君?いや違う。

「ナギ?」
「ヒナギク。ハヤテがそっちに行っているだろう」
通話口の向こうからまくし立てる声が響いた。
「な、何よ、いきなり。ハヤテ君ならいないわよ」
「いない・・・?ウソじゃないな、ヒナギク」
「何がウソよ。確かに一回来たけどすぐ帰って行ったわよ」
「そ、そうなのか。だ、だがな、気付かなかったが、ちょっと前、ハヤテからメールが届いてたんだ。私との約束をすっぽかして」
「メール?何て書いてあったの」
「『お嬢様、申し訳ありません。どうしても今すぐ解決しなければいけない問題が発生しましたので、今日は戻れません』とあったのだ。ケータイは通じないし、私はてっきりお前とケシカラン事をおっぱじめるのかと・・・。
済まん、早とちりだったのか。

い、いや別にやったらいかんとかいう気はないぞ。いきなりだったので、ついつい取り乱してしまった。済まん」電話が切れた。

不吉な予感は当たっているようだ。
まあ、ナギの予想したことがアテネ相手に行われるわけではないだろうが。
とにかく只事ではない何かが起こっている。

改めて電話を掛け直した。違う相手に。
こんな時に何かを知っているかも、いや頼りになるかもしれないのは伊澄しかいない。


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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.5 )
日時: 2015/01/07 00:55
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

おりょ?おりょりょ!?なんかすっごいシリアスな雰囲気になてきましたね。どうも、タッキーです。

どうふんさんの作品は山とか谷が多くてとても引き込まれます。今回は強く嫉妬しているヒナギクさんということで個人的に好きな展開です。自分のSSのほうで、今のヒナさんはこういうことを受け止めることのできる感じなんですが、ぴったしとはいかないまでも今作のような話をやろうと思っていたので少し先をこされてしまいました。それでもやるんですが。

さて、このままヒナさんがフラグを回収しないことをお祈りしています。

それでは。
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.6 )
日時: 2015/01/07 22:23
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


タッキーさんへ

感想ありがとうございます。
まあ、今回は意識的にシリアスな題材を取り上げてみたわけですが、私の作品としては違和感があるかもしれませんね。

今回のヒナギクさんですが、嫉妬はもちろんのこと、もう一つネガティブな感情を抱えています。それはアテネに対する劣等感、とでもいうべきものです。

原作ではヒナギクさんとアテネの出会いのみ描かれており、どのような交流があったのかはわかりません。ただ、あの負けず嫌いなヒナギクさんが、友人といえどアテネの能力を何ら意識していなかったということはないでしょう。
そして、ハヤテのアテネへの想いを聞いた時、目の当たりにしたときののショックはトラウマとなって残っていると思います。

一方のアテネの行動とその思慮ですが・・・これは次回投稿にて


                                                        どうふん

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.7 )
日時: 2015/01/10 17:08
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

アテネが何を考えているのか。
これまた一筋縄ではいきません。

アテネもまた本来の目的とは別に内心の葛藤を抱えています。
もちろん、それが理解できるハヤテではないわけで・・・
まあ、私の基本方針として、本来の人格を変えてはおりません(設定はどうあれ)。

そう言えばアテネにはもう一人執事がいましたね。

とにかく、今回から舞台はロイヤルガーデンへと移ります。
「バトル編」とでもいうべきでしょうか。未経験のジャンルですのでどうなることやら。



<第4話 : 女神と執事>


「ハヤテ・・・。ごめんなさい。こんな危険なことに巻き込んで。ヒナまで傷つけてしまって・・・だけど・・・他にどうすればいいかわからないの。」
申し訳なさそうなアテネの隣でハヤテは白桜を磨き上げていた。

「大丈夫だよ、あーたん。ヒナギクさんを巻き込まないようにしてくれたのには感謝してるよ。ヒナギクさんはきっとわかってくれるから大丈夫だよ。」
アテネの胸がかすかに痛んだ。それはハヤテやヒナギクを巻き込んだことに対する自責の念とは全く別のものだった。
(今、ハヤテはヒナを信じているんだ・・・。ヒナから愛されている、と心から・・・)

「それにロイヤルガーデンはあーたんにとって奪われていいものじゃないんだ。僕にとっても大切な時間を過ごした場所なんだ。あんな奴に好き放題に荒らされてたまるもんか。昔の恋人で恩人のためにお付き合いするよ」

ハヤテがそう思い切るまで、半日を要した。
ロイヤルガーデンを取り戻すため協力して欲しい、と頼み込むアテネにハヤテは答えがなかなか出せなかった。

かつてのハヤテならアテネやヒナギクはおろか、伊澄から頼まれても応じている。一度など試験の真っ最中に、妖怪退治に協力し、全身の血を大量に失った。

しかし今回は決心がつかない。
ヒナギクの悲しむ顔が、頭をよぎる、という生易しいものではなく、のしかかってくる。
しかし、結局ハヤテは決断した。ロイヤルガーデンに居座る魔物の正体を聞いた時。
(まだ生きていたのか・・・。今度こそ僕の手で決着をつけないと・・・)

「でも、王玉はどうやって手に入れたの?それがないとロイヤルガーデンには入れないんだろ」
「伊澄さんに手伝ってもらったのよ。あの人の霊能力がなければ、無理だったわね。あと二つ見つけてくれたんだけど、取りあえず一つだけもらったわ。さあ、これをお持ちなさい。もし失ったり壊したりしたら戻ってこれなくなるわよ」

「わかったよ、あーたん。任せてくれ。あーたんのために何かをするなんてきっとこれが最後だから」
ハヤテはペンダントを外した。首に巻いていたら戦いの邪魔になる。紛失の可能性もある。
しばらく翼を掌において見つめていたが、一度両手で握り締め、王玉と共に執事服の左胸の内ポケットにしまってチャックを締めた。
(きっと、帰ります、ヒナギクさん。この翼で)


(「昔の恋人」「恩人」そして「最後」か・・・)
そんなハヤテを見つめるアテネの胸にふと、黒い雲が湧いた。
自分自身に対する疑念だった。

(ハヤテは私の言うことを信じている。だけど私は本当にヒナを巻き込みたくなくてヒナを拒んだのか?アリスが認めたことを私は本当に受け入れているのか。これを機に・・・なんて邪まな心は本当に持っていないのか?)
アテネは頭を振って、それを打ち消した。
だが、胸の中に燻る苦い思いは消えなかった。
「どうしたのさ、あーたん?」

ハヤテが不思議そうにアテネの顔を覗き込んでいる。
「い、いえ・・・。ね、ねえ、ハヤテ。ハヤテにとってヒナはどんな存在なの?」
「え?そうだね・・・天女ってところかな・・・。ちょっと祟りは怖いけど。あはは」
能天気な回答を寄越すハヤテにアテネはいら立ちを覚えていた。
「だったら私は?」
「決まっているじゃないか。女神様だよ」
ぬけぬけしたセリフにアテネは苦笑した。
「あなたの元カノは女神で、今は天女?全くあなたは果報者ね」
「あはははは。ホントそう思うよ」

(嫌味が通じないわね、全く)
とは思いつつ、もう一言、言ってやろうとしたアテネが口を噤んだ。
バタバタと足音が近づいてきて、勢いよくドアが開いた。

駆けこんできたのは、アテネの執事のマキナだった。
「アテネ、僕も連れて行ってくれ」

「マキナ、それは無理よ。王玉は私のものとあと一つしかない。王玉がないとあの中には行けないの。あなたは私が帰るまでお屋敷をしっかりと守っていてちょうだい」
「アテネ、何でそんなこと言うんだよ。僕だってそいつに負けない働きをしてみせるよ。何なら今すぐ証明してやる」
マキナはいきなりハヤテに飛びかかろうとした。
「やめなさい、マキナ!」アテネの鋭い叫びと気迫が、マキナの動きを止めた。
「今、同士討ちしてどうなるの。マキナ、あなたは私が命じたことをやりなさい」
「アテネ・・・、嫌だよ。そいつの代わりに僕を連れて行ってよ」泣きそうな顔でアテネを見るマキナに、アテネは無造作に分厚い財布を渡した。
「だったらその前にハンバーガーを好きなだけ食べてらっしゃい。お腹が空いては、戦はできませんわよ」
マキナは財布をわしづかみにして外へ飛び出した。

アテネにやれやれ・・・という表情が浮かんでいる。
「あの・・・あーたん?」
「まあ、凄くいい子なんだけど・・・。昔のあなたと同じくらい・・・」
「同じくらい、なんだい?」
「同じくらいおバカさんなの」
(それだけでなく、同じくらい私のことが好きなの)
それは口に出さなかった。それだけのことでしかない。


************************************************


「黒椿!」
「白桜!」
雌雄一対の剣の相乗効果が生み出す威力は凄まじく、ロイヤルガーデンの前で待ち構えていた魔物の群れは一瞬にして消滅した。
城内へと走り出そうとするハヤテをアテネは止めた。

「ハヤテ、私から離れないで。奥には罠が仕掛けられている。闇雲に飛び込んではやられるわ」
ハヤテは足を止めて様子を窺った。
何物の気配もない。
ハヤテは門を大きく開け放った。
城内には漆黒の闇が広がっていた。灯りがないだけではなく、黒い霧が立ち込めている。
「ハヤテ、闇を切り開くわよ」
「了解」
白と黒、雌雄一対の剣が同時に振られるや、一条の光が差して、霧が吹き飛んだ。
次第に目が慣れてくると、暗い廊下の様子がわかってきた。

廊下を並んで二人は奥へと進む。
側壁や物陰から飛び出してくる魔物はいるが、霧さえなければどうということはない。立ちはだかる魔物は全て黒椿と白桜に切り伏せられた。


着実に二人は前へと進む。
廊下が終わった。
突き当りの広間にそいつはいた。
キング・ミダス・・・。
角を生やした恐竜の化石のような顔とその図体は、かつてギリシャの地で戦ったキング・ミダスに間違いなかった。
人間の魂を乗っ取り、実体化したといってもその醜い姿は変わらない。

「お前、まだ生きていたのか。よくも・・・よくも・・・」
キング・ミダスは嘲笑をもって応えた。
「人間風情が大きな口を。もともとロイヤルガーデンは神の棲む家ぞ。わしが住んで何の不都合がある。人間にとって神とは畏れ敬うものぞ。わしに実体を提供した者共は果報を感謝するのだな」
「あなたももともとは人間ではありませんか。それも欲に目がくらんだ愚かな王様。果てに人間の体を乗っ取ってロイヤルガーデンに居座ろうとするとは何たる醜態」
「ふん、愚か者ども。あくまで神に戦いを挑むか」


戦いは始まった。

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.8 )
日時: 2015/01/14 22:25
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

ロイヤルガーデンを戦場としてハヤテとアテネの苦闘は続きます。



<第5話:聖域は荒れ 心は乱れ>


ハヤテとアテネは左右からキング・ミダスを挟んだ。
キング・ミダスの左右の腕が凄まじい勢いで二人に掴みかかってくる。
二人にとって、片腕だけの攻撃なら躱すことはそれほど難事ではない。
しかし、長すぎるリーチを掻い潜って懐に入らなければ頭や胴体への攻撃をすることはできない。しかも魔物の胴体には無数の剣が生えている。

「それは難しいから」
ハヤテはロイヤルガーデンに突入する前にアテネから言われたことを反芻していた。
「まずは手近なところから地道に攻める。止めを刺すのはその後よ」

キング・ミダスの振り下ろされた腕の爪先が床にめり込んだ。
(今だ)
ハヤテは動きが止まった左手に白桜を叩き付けた。
キング・ミダスの手首の先がちぎれて飛んだ。
「うまいわ、ハヤテ」アテネが歓声を上げた。
「小僧ども。小癪なマネを。それで我に勝ったつもりか」


***********************************************************************************************


激闘は続いていた。
キング・ミダスの左腕は肘までなくなり、更に角は折れ、地に片膝をついていたが、屈服する様子は見えなかった。

「虚勢を張るのはおよしなさい」アテネの声が響く。

しかし、ハヤテとアテネも全身が汗と血に塗れて疲労の限界に達していた。
それをキング・ミダスは見逃してはいない。
「ふん、虚勢はどちらかな。その方どもには、その剣を振り回すどころか、もはや振り上げることもできまいて」

キング・ミダスは片足を引き摺りながらよろめくようにアテネに近づいてくる。
ハヤテは必死の力を振り絞って横から斬りかかったが、キング・ミダスの右腕で吹き飛ばされた。
「ハヤテ!」
壁に叩きつけられたハヤテは立ち上がれない。
アテネは黒椿を振り上げて構えようとしたが、その腕は疲労で痺れている。剣先がややもすれば床につく。

それを見て、キング・ミダスは向きを変えた。
「どこへ行く」アテネは叫んだ。
「恋人より先に死ぬのは嫌であろうと思ってな。最後の情けだ。
それにどうせならこいつの肉体も頂いておこう。我の体も傷ついたでな。お前はその後で恋人の手に掛かって死ぬがいい」
「ま、待ちなさい!」

ハヤテの意識はまだ飛んではいない。
(こんなところで死んでたまるか・・・。あんなやつに・・・。ヒナギクさん・・・)
だが、体には全く力が入らない。動けない。
黒い大きな雲のようなものが前に立ち塞がり、自分に向かってじりじりと迫ってくる。
だめだ、ここで死ぬんだ・・・、と思った。
(ヒナギクさん、済みません。約束守れなかった・・・。もう一度・・・会いたかった・・・)

ハヤテの脳裏にヒナギクの笑顔と泣き顔が浮かび、そして消えた。


****************************************************************:::


遠くからハヤテを呼ぶ声がした。その懐かしい響きを持つ声は次第に近づいて来る。
「ハヤテ、ハヤテ。起きて」
「あ・・・あーたん?」
「気が付いたのね、ハヤテ。良かったわ」
「い・・・一体僕は?」
目の前が霞み、頭がまだぼーっとしている。しかし、その頭はアテネの膝の上にあった。

「安心して、ハヤテ。キング・ミダスは滅びたわ。私がとどめを刺したから」
「ぼ・・・僕がのびている間に・・・?さすがだね、あーたん。僕は大して役にも立たなかったのかな?」
アテネは微笑み、ハヤテを抱き締めた。
「何言ってるの。全てあなたのお蔭よ。ハヤテ、本当に頼もしくなったのね」
(何て気持ちいいんだ・・・)
アテネの腕と胸の中で、ハヤテは陶然とした。

「さ、ハヤテ。お疲れ様。恋人の胸の中でお休みなさい。」
「え・・・それは・・・。恋人って」
「あら、ハヤテ。私以外に恋人がいるの?10年も前からずっと想い合った仲なのに」
(た・・・確かにそうだ。だけどどこか間違っているような・・・)
「安心なさい・・・。全て私に委ねるのよ」

(この感触・・・。何か違うような・・・。あーたんってこんなにムネが大きかったっけ・・・いや大きかったよね。だけど僕の恋人は・・・)
ともすれば意識を失いそうな心地よさの中で、ハヤテは大きな違和感が膨れ上がっていくのを感じていた。

(何か変だ・・・。夢の中みたいな・・・。そもそも僕は生きているんだろうか?)
手を自分の左胸に当てた。心臓の鼓動を感じた。

(やっぱり生きているみたいだ・・・)
だが何かが足りない。大事なものが抜け落ちている。胸にあるはずの何かがない。
(そうだ。ポケットに入れていた翼が。ヒナギクさんの元に帰る翼が)

違和感の正体に気付いた。
「誰だ、お前は。あーたんじゃないな」
「な、何を言ってるの」
「僕の恋人はヒナギクさんだ。あーたんじゃない」
「ハヤテ・・・」
「正体を現せ!」振り払って逃れたハヤテはアテネに向かって身構えた。
アテネの姿が消えた。
(ど・・・どこに行った?)
周りを見回そうとしたが、体は動かず、また目の前が暗くなった。


ハヤテは先ほどから倒れたまま動いていない。
キング・ミダスは舌打ちした。精神操作に失敗した。
「取り込み損ねたか。ならば死ぬが良い」

キング・ミダスはハヤテにとどめを刺す体勢に入った。
「は、ハヤテ、はやてえー!目を覚まして」
アテネは先ほどからよろよろと近づこうとしていたが、間に合わない。
しかしキング・ミダスは、背中に強烈な一撃を受けてよろめいた。

何が起こった・・・?振り向いたアテネに見えたものは・・・。
「ヒ、ヒナ。伊澄も・・・。どうして・・・」

キング・ミダスの後ろに立っていたのは正宗を構えたヒナギクとお札を握り締めた伊澄だった。


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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.9 )
日時: 2015/01/17 21:16
名前: どうふん

バトル編(仮称)は思ったより長引きましたが、強力な助っ人の登場で漸く事態が動きます。
考えてみればヒナギクさんはオバケが苦手なはずですが、かつてもオバケの軍団相手に獅子奮迅の活躍をしています。
愛か怒りか責任感か、とにかく勇気を奮い起こして克服することができるんですよね。



第6話:光と闇の決着


ヒナギクは、素顔に怒気を滾らせてキング・ミダスを睨みつけていた。
その全身からはオーラが溢れ出て、背後からは地鳴りのような音が響いてくる。
最後のは幻聴と思うが。

「貴様、何者だ。邪魔をするか」
「まあ、仕方ないわね。お忘れのようだけど、これで二回目よ」
もっともその時は、顔を隠していたため、別人に見えるのは無理もない。
「二回目?」少し首を捻ったキング・ミダスだが、「まあいい、我に楯突く罪は重いぞ。その報いもな」
「そうはいかないわ。伊澄、援護して」

片手片足になって動きが鈍いキング・ミダスの攻撃を躱しながら、ヒナギクはその巨体に正宗を叩き付ける。後ろの伊澄は、間隙を縫ってお札を投げつけて援護する。
だが、致命傷を与えられない。白桜が要る。

「白桜!」ヒナギクが叫ぶとハヤテの手元に転がっていた白桜が持ち主の元に戻った。
正宗と白桜の二刀流。
左手に正宗、右手に白桜。右腕を下段に下ろし、左腕を右肩の上に回した。

ヒナギクは駆けよるや、袈裟懸けで正宗を斜めから振り下ろした。
左腕を失っているキング・ミダスは右腕を左に回して受け止めた。


(狙い通りよ)
ヒナギクは右手の白桜を横に払った。
一閃。
キング・ミダスの無防備な腹が切り裂かれ、さしもの魔物が断末魔に似た悲鳴を上げた。

ヒナギクは手を緩めない。
構え直した左手を真上に振り上げ、脳天目がけて唐竹割りを浴びせた。
手応えがあった。
角と角の間の頭蓋骨が砕け、顎の近くまで叩き割っていた。

(やった!ハヤテ君は?ハヤテ君は大丈夫?)
「まだです、会長さん。油断しないで」

だが、その声が届くより早く、キング・ミダスの腕はヒナギクを捕まえていた。
白桜が床に転がった。ヒナギクの左腕は体ごとキング・ミダスに掴まれて正宗を振るうこともできない。
さながらキングコングの映画のような有様はいつかと同じで、次のシーンが容易に想像できた。
ヒナギクは衣服が金色に変わっていくのを見て悲鳴を上げた。かつての恐怖が蘇る。
「やめなさい、キング・ミダス」
伊澄は念を込めて腕目がけてお札を飛ばした。

黄金のヒナギク像ができるのは止めることができた。
しかしヒナギクは掴まったままだ。

会長さんを助けないと、と伊澄が思うより早く、アテネがキング・ミダスの脇腹−ヒナギクが切り裂いた傷口に体ごとぶつかって黒椿を突き立てた。
更に満身の力を込めて、黒椿をキング・ミダスの体内の奥深くに押し込んだ。
絶叫と共にキング・ミダスの手が開き、ヒナギクが床に転がった。

魔物はようやく倒れた。だが、まだ生きていた。
半分砕けた頭蓋骨が乗った上半身を起こし、突き刺さった剣もそのままに、目の前のヒナギクに這い寄ってくる。

まだショックから覚めていないヒナギクは動けない。
「ヒナ、逃げて、逃げなさい!」
「会長さん!」
その声もヒナギクの耳には届かない。否、届いても体が動かない。
ただ、声だけは出せるような気がした。
「ハヤテくーん!」


恋人の絶叫が、ハヤテの脳髄に直接響いた。
「ヒナギクさん・・・?ヒナギクさん!」ハヤテの意識が闇の中から蘇ろうとしていた。
ハヤテの幾分霞んだ目に、キング・ミダスの背中がその先に倒れているヒナギクに迫って行くのが見えた。
「ヒナギクさん!」

ハヤテは渾身の力を奮い起こし立ち上がった。
動ける。走れる。
ハヤテは駆けよって、キング・ミダスの背に蹴りを叩きこんだ。

だが、これがまずかった。
キング・ミダスは、ヒナギクに向かって倒れこんだ。
ヒナギクは全身が下敷きになるのは免れたが、左足の上にキング・ミダスが圧し掛かってきた。
足が潰される痛みにヒナギクが悲鳴を上げる。
「ヒナギクさん!」
「ハヤテ、早く白桜を拾いなさい。奴にとどめを」
「ハヤテ様、あちらです」
(あれか)ハヤテは白桜を拾いあげた。
キング・ミダスは、倒れた拍子に脇腹の黒椿が柄まで差し込まれ、剣先が背中から突き出していた。

ハヤテは白桜を振りかざし、駆け寄ろうとした。
「ま、待て。その方、わかっておるのか」
「わかっているとも。承知の上だ」
「ち、違う。我が死んだらロイヤルガーデンは滅びるぞ」
「何だと」
「ロイヤルガーデンは、主を失い何年も経つ。その間に白桜は抜かれ、絆の石もほとんどが失われた。花が枯れ、光を失っていることは気付いておろう。
ロイヤルガーデンが神の力を失いつつあるのだ。

今、我が死ねばロイヤルガーデンが力を取り戻すこともない。我が、神の力を補っておるのだからな。我に体を預けた者も」

ハヤテはためらった。
「ハヤテ、誑かされてはだめよ。早くとどめを」
アテネは黒椿を手に取り戻そうとしていたが、キング・ミダスの体に深く入り込んだ剣はすぐには抜き取れない。
(そうだった。僕がやらないと)

ハヤテは白桜を振りかぶった。しかし・・・振り下ろせない。
「ハヤテ!」
「ハヤテ様!」
それでも動けない。複雑に入り組んだ得体の知れない感情がハヤテをためらわせる。
「ハ・・・ハヤテくうん・・・」
ヒナギクの苦悶の声。
その声がハヤテの迷いを断ち切った。吹っ切れた。
ハヤテは渾身の力でキング・ミダスの首に剣を振り下ろした。
巨大などくろが胴から離れ、転がった。

「やった・・・・」
しかし、床を転がる首は、ハヤテを見据えていた。潰れかかったどくろがハヤテに向かって口を開いた。
「お前はやったことがわかっているのか。これでロイヤルガーデンは滅びる。永遠にな・・・。それにお前は一生消えない十字架を背負うことになった」
「黙れ黙れ黙れえええええ」ハヤテの叫び声と同時に、首の目が光を失った。

しかしキング・ミダスの実体は死んでも、精霊は滅びていない。
首と胴体からキング・ミダスの幽霊のような姿が抜け出し、屋根に向かって消えようとしていた。
「ハヤテ、白桜を。あれを逃がさないわよ」アテネがようやく黒椿を手にした。
アテネとハヤテは精霊の影に向かって白桜と黒椿を翳した。
二本の聖剣からまばゆいばかりの光が煌めき、影を消し去った。


***********************************************************************************************


城に立ち込めていた禍々しい気配が消えていくのが感じられた。
次第に夜明けの光が届いてくるように、闇が薄れていくのがはっきりとわかった。
(これで消えたのか・・・?こんどこそ消滅したのか、キング・ミダスは)

ハヤテは一瞬呆けたようになったが、すぐ横でヒナギクが激痛に呻いている。
「ヒナギクさん!」
ハヤテはキング・ミダスの胴体を必死に持ち上げ、下に潜り込みヒナギクを外に押し出した。
ヒナギクの膝や足は二倍に腫れ上がっていた。骨にひびが入っているかも知れない。
「ヒナギクさん、どうして、どうしてまた、こんな無茶を・・・」

ヒナギクの強烈な平手打ちが飛んだ。
これほど強烈な一撃は味わったことがない。
物理的な破壊力なら、前回の方があっただろう。
しかし、それ以上にヒナギクの感情が・・・怒りや悲しみが伝わってきた。

「どうして、ですって?こっちが聞きたいわよ。なんで、一人でこんな無茶をするのよ。
どうして私に付いて来てくれって言わないのよ。私が来なければ死んでたのよ。」

「済みません・・・。でも・・・僕は、こんな危険なところに来てくれなんて…言えないですよ。ヒナギクさんとは何の関係もないのに。
ヒナギクさんにもしものことがあったら・・・。またこんな怪我をさせてしまって・・・」
「私とは関係ないの?私はハヤテ君の恋人じゃなかったの?ハヤテ君が死ぬかもしれないときに私は何もできないの?
私は、その後どうすればいいのよ。ハヤテ君はいないのよ。
私のためにハヤテ君に犠牲になってもらったって悲しいだけよ。」

ヒナギクは泣いていた。
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.10 )
日時: 2015/01/18 21:59
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

俺ここ!ヒナさん俺にはここを思いっきりお願いします!!・・・・・・という冗談はおいておいて、どうも、タッキーです(ニッコリ

ま、こうなっちゃいますよね・・・。今回の事件でハヤテとヒナさんはお互いにつらい思いをしたのですから、仲直りをした後はもっと相手のことを考えることができるようになっているのでしょう。これからの話が楽しみです。バトル描写のほうも分かりやすくてよかったと思います。自分は一回やってみて少し挫折しました(笑

なんだかんだで全員無事でよかったです。次回楽しみにしています。

それでは
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.11 )
日時: 2015/01/19 22:08
名前: どうふん


タッキーさんへ

 感想ありがとうございます。
 タッキーさんはS系かと思っていましたがM系との二刀流ですか?
 冗談です、念のため。


 まあ確かにこうなります。私の中で結論は既に出ていますので。
 問題は途中経過に説得力と娯楽性をどこまで含めることができるか、だと思っています。

 バトルの描写については、確かに難しかったですね。
 一度描いて、他人の目(のつもり)で読み直すと我ながらわけがわからんなあ、と思ったり。
 推敲というより何度も書き直したものが第5〜6話ですが、まだ冗長で思ったイメージが表現できていないようです。
 もう少し簡潔に迫力や感情を伝えられないかなあ、と思っています。

 
 で、今後の展開ですが、大団円に辿り着くまでもう少し波乱を起こす必要があります。
 何と言っても、まだロイヤルガーデンは滅んでおりません。
 そのあたりは次回投稿にて。


                                     どうふん
 
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.12 )
日時: 2015/01/22 00:55
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

相手の事を思ったからこそ生まれるすれ違い、王道ではありますが非常に面白い展開でした。また入院でもしようものなら、その病院でプロポーズでもするのではないかと密かに期待しております。

非常に気になるのはアテネの真意ですね。個人的にはアリスちゃんの時の記憶が自分の気持ちに干渉して母親を想ったからこその言動だったのではないかと(希望的な)推測をしています。

では次回も楽しみにしております。
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.13 )
日時: 2015/01/22 21:40
名前: どうふん

ロッキー・ラックーンさんへ

感想ありがとうございます。

ハヤテのプロポーズですか・・・まだハヤテにそれだけの自信はついていないかな、と思います。
ヒナギクさんの恋人として成長中のハヤテですが、婚約者に昇格できるのはもう少し先のことでしょう。

そして、アテネですが、自分の想いを捨てきれず、かといって突っ走ることもできず苦しんでいる状況です。
アテネもまた、自分の気持ちに整理をつけるにはもうひと波乱経ることになります。
そして、決め手となるのがアリスとしての自分であり過去ではないかと思います。

                                   どうふん


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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.14 )
日時: 2015/01/25 22:39
名前: どうふん

恋人を危険な目に合わせる訳に行かない・・・、個人的にハヤテの判断が間違っていたとは思いません。
しかし、ヒナギクさんがそれを受け入れることができるかは話が別です。
まして、ハヤテは一人ではなく、自分でなくアテネと一緒だということが、余計にヒナギクさんを傷つけた、ということでしょう。




第7話 : ロイヤルガーデンが滅びるとき


「私はね・・・、私はね・・・」
言いたいことはまだまだあった。山ほどあった。でも言葉にならない。熱いものがこみ上げてきてヒナギクはただ嗚咽しているだけだった。

ハヤテはただヒナギクを見つめて涙だけ流していた。
ヒナギクの言うことに一片の間違いもない。
そして事情を話せば、必ずヒナギクは来た。危険なんか顧みず、一緒に戦おうとした。
「来ないで」と言っても止めることなんかできなかっただろう。

それでも。
否、だからこそ、ヒナギクには本当のことを言えなかった。
恋人をこんな戦いの巻き添えにすることが正しいとは思えない。
だが、その結果、余計にヒナギクを苦しめ、悲しませることになった。
(僕はどうすれば良かったんだ・・・)

わからない。

ヒナギクはまだ泣きながらハヤテを睨んでいた。
「それとも・・・それとも・・・、ハヤテ君の好きな人が天王州さんだと言うなら・・・」

グサリと突き刺さった。
今さら気付いた。思い知った。
正しいとか間違っているとか関係なく、ヒナギクをそこまで傷つけたということに。

ハヤテの感情が決壊した。
うぇっ、うぇっ。ハヤテはしゃくりあげた。子供のように。

(僕はいつもそうだ。ヒドイことを言って、独りよがりなことをして人を傷つけて・・・。人の気持ちなんかわからないで・・・。
その挙句にヒナギクさんは・・・)
言葉が出せないハヤテは、ただ、両手を伸ばし、ヒナギクを抱きしめた。
いや、ヒナギクに縋り付いた。
ヒナギクの胸に顔を埋め、泣きじゃくっていた。
やっとの思いで声を絞り出した。
「そんなこと・・・言わないで・・・ヒナギクさん。僕が馬鹿でした・・・」


(あの姿は初めて会った頃の弱弱しくて、ただ愛情に飢えていたハヤテ・・・)
アテネは花畑に倒れ伏して泣いていたハヤテを想い出していた。
(今のハヤテは強くなったけど・・・、それでも埋められない心の闇を抱えているのね。
それなのに・・・私はまたハヤテに闇を背負わせてしまった)
そして今、その闇を埋められるのは自分ではないということも、はっきりと理解した。
疼くような胸の痛みと共に。


**********************************************************************:


かねてより伊澄はアテネの依頼を受け、霊力で王玉を探していた。
もともとアテネが持っていたものが一つ。伊澄が見つけ出したものは3つあった。

しかし、今回の戦いに必要なのはただ一つ、とのことでその一つをアテネに渡した。
伊澄の手元に残った二つは決して使ってはいけない。誰にも渡してはいけない。大切に保管しておいて、とアテネに頼まれ、その通りにしていた。
もちろん、アテネは、ロイヤルガーデンへと向かう時、誰にも話してはいけない、と念を押すことも忘れなかった。

ヒナギクから伊澄に電話が掛かってきたのはそのすぐ後だった。
「何か知っている」気付いたヒナギクはそのまま伊澄の屋敷へと駆けこむや、今何が起ころうとしているのか問い質した。
伊澄は固く口を閉ざしていたが、必死の形相のヒナギクに負け、王玉を携え、二人でロイヤルガーデンへ向かったのがつい先ほどのことになる。


************************************************************:


アテネは、ヒナギクにも、申し訳なさそうな伊澄にも何も言わなかった。二人がやってきた事情も全て察していたのだろう。

アテネは今起こっていることに背を向けて佇んでいたが、やがて口を開いた。
「みんな、王玉は無事?」
その言葉に、ハヤテもヒナギクも伊澄も皆、懐中の王玉を確かめた。あの激しい戦いでも壊したり失くした者はいなかった。
「ハヤテ、すぐヒナギクを病院に連れて行きなさい。伊澄も迷子になったらいけません。一緒に帰してあげて」
「わ、わかったよ、あーたん。で、あーたんは?」
「私はロイヤルガーデンでしなければならないことがあります。説明している時間はありません、早くヒナを。安心なさい。キングミダスの精霊は確かに消滅しました。もう悪行を働くことはありません」
「まって、天王州さん、まだ何か・・・」ヒナギクは先ほどから、自分と目を合わさないアテネに違和感を感じていた。
「ハヤテ、いいから早く。ヒナの足が動かなくなったりしたらたいへんですわ」
「う、うん・・・」引っかかるものを感じながら、ハヤテはヒナギクを背負い、立ち上がった。
立ち去ろうとしたハヤテの足が止まった。
すぐ横にキング・ミダスの残骸が転がっている。
ハヤテの視線が動かなくなった。

「ハヤテ君?」
「何でもありません、行きましょう」
ハヤテは伊澄を連れて、元の世界に向かって歩き出した
ハヤテの目からまた涙が溢れていることに背中に居るヒナギクは気付かなかった。


ハヤテ達が去ったのを見届けてアテネは懐から王玉の付いたペンダントを取り出した。
先端にあるはずの王玉は、粉々に砕けて跡形もなかった。

(キング・ミダスが言ったことは嘘ではない。早くロイヤルガーデンに黒椿を奉納して、神気で満たさなければロイヤルガーデンは崩壊する。私が黒椿を奉納すれば王玉はなくても何とかなるはず)

だが、事態はさらに早く動いていた。

突如として凄まじい雷鳴が響いた。
地鳴りのような音と共に、次第に地面が揺れ出している。
ロイヤルガーデンが崩れ出していた。壁が薄れて徐々に消えていき、城を支える柱にはひびが広がっていく。
地震が原因でなく、本当に神気が消えつつあるのだ。
黒椿を奉納するどころか、ロイヤルガーデンに残ることもできない。アテネはアブラクサスの森へと脱出するしかなかった。

揺れは次第に大きくなっている。
広場の柱はその半分は倒れていた。残っている柱も一本また一本と倒れていく。

あちこちで地割れが始まっていた。
孤島のように屹立した丘の頂上にあるロイヤルガーデンが丘ごと崩れ落ちていった。
空はオーロラのように歪んでいた。
(結局、ロイヤルガーデンを取り返しはしたものの、滅びることになるのか)
そして、王玉もない今ここから脱出する方法もない。
(私はロイヤルガーデンと共に滅びるみたいね)

「ハヤテ・・・、ありがとう。あなたがいたから私は愛や幸せを知ることができた。あとは、あなたが幸せになりなさい。ヒナ・・・、あなたには謝らなくてはね。直接伝えることができなかったけど・・・。ハヤテを頼んだわよ・・・」
アテネの心に、ハヤテやヒナギク、そして仲間たちの思い出が蘇っては消えていく。

小さい頃、ハヤテと二人きりで過ごした日々。
魔物に取り込まれそうになっていた時、救けに来てくれたハヤテ。
ハヤテだけでなく、ヒナや伊澄も一緒だった。
ムラサキノヤカタのみんなでワイワイと騒ぎながら焼肉やラーメンを食べた。
ナギと二人ですきっ腹を抱えて、道に迷いながらハヤテが働いている喫茶店に辿り着いた。
皆で海水浴に行った。あの時はいろんなことがあったな・・・。
「ヒナギクさんとお付き合いしたいんだ。わかってほしい」ハヤテから掛かってきた電話。
あのヒナギクの幸せに満ちた顔。
それから・・・、それから・・・

楽しいことも悲しいこともあったけど、今となっては全てが大切な思い出。
私はアテネ。地上でもっとも偉大な女神の名前を持つ女。
私は死を前にして取り乱しはしない。
私は二度と人間の踏み入れることのない領域を墓標として、女神としてこの世を去る。
ただし、私が抱いて眠るのは、人としての思い出。
これさえあれば・・・。

天空も台地も激しく揺れる中、黒椿を杖として身を支え、アテネは空を真っ直ぐに見上げた。
歪んだ空間に大地と同じような裂け目が広がり、白皇学園の建物がちらりと見えた。
(最後に、かつて住んでいた世界を一目見れたということね・・・)
アテネの胸にちょっとした感慨が湧いたが心は乱れない。

だが、そのアテネを愕然とさせるものが目に入った。
歪む空間の裂け目が隙間となって、元の世界との通路が一時的にできたらしい。人影が裂け目から飛び込み、アテネ目がけて走ってくる。
執事姿、青い髪。
「は・・・ハヤテ?」
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.15 )
日時: 2015/01/29 22:00
名前: どうふん

アリスがかつて気になることを言っていました。
「我が庭城を渡すわけにいきませんから」聞いていたのは幽霊神父だけでしたが。
なぜ、アリス、ひいてはアテネがロイヤルガーデンにこだわるのか。多分作者しか知らないことでしょうが、果たしてアテネにとってそれが良いことなのかどうか。
なら、いっそ消滅したとしたら・・・?
今回壮大すぎるタイトルをつけたのはそんなことを考えたからです。


私の意向がどうあれ、ロイヤルガーデン消滅のカウントダウンは続いています。



第8話 : 喪われし過去 蘇る現在


「ハヤテ、来ちゃだめ!戻りなさい!」
アテネは叫んだ。
だが、遠くの人影は揺れる地面も裂け目も物とせず、あるいは駆け、飛び移り、人間離れした勢いで近づいてくる。
「戻りなさい!お願いだから!!あなたにまで死なれたら。ヒナはどうなるの」

その間にも揺れは次第に強まり、地割れはアテネのすぐ近くまで迫ってきていた。アテネは立つこともできなくなり、膝をついている。

ハヤテと、そしてヒナギクの顔が頭をよぎった。
(ハヤテ、ごめんなさい。あなたを巻き添えにはできない。これ以上ヒナを悲しませることも)
アテネは這うように、地の裂け目に近づき身を躍らせた。

自分を呼ぶ絶叫が遠くから聞こえた。


*******************************************************


アテネは目を覚ました。

「アテネ、起きたんだね」
覗き込んでいた青い髪の持ち主はハヤテ、ではなかった。
「マキナ・・・?あなた、一体?ハヤテは?」
しかし、答えるより先に、マキナは部屋の外へと飛び出していた。
辺りを見回した。ベッドの上に寝ている。ここは、病院?そうは見えない。

マキナが咲夜と伊澄を連れて部屋に入ってきた。
「やっと、目を覚ましたんかい、理事長さん」
「ここはどこなのかしら」
「ああ、ウチの屋敷や。こいつが気を失ってケガしているあんたを運んできたんや」
丸三日意識が戻らんかったから、心配したで」
「アテネ、驚いたよ。もう少しで届きそうなのに、いきなり穴の底に落ちてしまうんだから。浅いところで引っかかっていたから何とか引っ張りあげられたけどさ」

次第に状況が呑み込めてきた。
アテネは谷底まで落ちることなく、比較的浅い岩に引っかかって気を失っていたのか。
そしてアテネを救けに飛び込んで来たのは、ハヤテではなくマキナだった。

「でも、何で。その髪の色は?」
「ん、僕はアテネの財布を貰って飛び出したけど、ハンバーガーを食べに行く途中で床屋を見つけたんだ。それでハンバーガーは50個くらいに抑えて、帰り道に床屋で髪を染めてもらったんだ。僕とあいつの違いはこの髪の色くらいなものだろ。こっちの方がアテネは好きみたいだから。
で、戻ってきたらアテネがいないから匂いを嗅いで後を追っかけたんだ」

犬の仲間であるキツネにはそんなことも可能なのだろう。

しかし・・・アテネにしてみれば笑い事ではなかった。
(わ・・・私ともあろうものが・・・。地上でもっとも偉大な女神の名前を持つこのアテネが・・・
こんなおバカさんの馬鹿馬鹿しい思いつきに騙されて悲愴なる死を図るとは・・・
うう・・・い、一生の不覚、いや生涯の汚点・・・)

誰にも気付かれていないとはいえ、腹が立つやら恥ずかしいやらでアテネはしばし言葉を失っていた。

アテネは腹立たしげに、いや実際腹が立っているのだが、
「あ、あのねえ、マキナ。どこまで馬鹿なの、あなたは。私が好きなのは髪の色じゃありません」
「え、そうなの?」
間抜けな答えを発し、大真面目に驚いているマキナに、アテネは怒る意欲を失った。
しかし、しょんぼりしているマキナを見ていると、何とも言えない可笑しさが湧き上がってきた。
自分の醜態(?)さえ可笑しくなって、ころころと笑いがこみあげて来た。


「まあいいわ、マキナ。私を救けに来てくれたのね。ありがとう」
「ど、どういたしまして。アテネのためなら僕は何でもするよ」
「なら、まず髪の毛の色を元に戻しなさい。それが終わってからよ」
「え、戻すの」
「いいこと、マキナ。他人のマネをして学ぶのは良いけど、髪の色なんてマネしなくてもいいの。あなたはあなたなんだから」
「は・・・・い・・・・」
「そんな小さな声では聞こえませんわ。執事として一生私を守る気があるなら、もっと元気になりなさい」
「はいっ!」
マキナは、答えるや外に飛び出そうとした。しかし、ドアから一歩足を出した後、振り返った。
「アテネ、もういなくなったりしないよね」
アテネがゆっくりとうなずいてやると、安心したように飛び出して行った。止める間もなかった。
アテネはため息をついた。
(髪の色を元に戻すつもりなんだろうけど、財布を忘れて行ってはね・・・)
しかし、マキナの見えなくなった先を見守るその目はどこまでも優しかった。


****************************************************************


アテネは顔を伊織に向けた。
「伊澄、ロイヤルガーデンはどうなったの」
「消滅しました。もう跡形もありません・・・。済みません、理事長」
「そう・・・」
アテネは窓の外に目を遣った。
何としても我が庭城を取り戻そうとしたことは徒労だったのか・・・。

だが、意外なほどにショックも喪失感もない。
むしろ開放感があった。自分を縛り付けていた鎖がちぎれて飛んだような。
その感情を理解するまでしばらく間があった。

(ロイヤルガーデン ・・・ 私の王宮だけど牢獄でもある。
取り戻すことは結局できなかったけど、その方が良かったのかもしれない。

もはや聖域に歪んだ欲望を持ち込む人間もいなくなる。
私が戻る必要も縛られる理由もなくなった。

この世界には仲間がいる。
これからハヤテやヒナのいる世界で、人間として生きるのも悪くないかもしれない。
確かに、アリスとして仲間と過ごしていたころは一番楽しかったもの。
私にとっては初めてのことばかりで、お金より贅沢より素晴らしいものを知ることができた。
そう言えば、ロイヤルガーデンが滅びるとき、頭に浮かんだのはハヤテと仲間たちのことばかりだった。

そして私の隣にハヤテはいなくても、マキナがいる。まあ、マキナは隣というより後ろだけど。

私の未来も、そして今も案外捨てたものではない・・・かもしれないわね)

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.16 )
日時: 2015/02/01 08:54
名前: どうふん

第9話:想いは届かずに


12月10日−
ヒナギクの足の骨には幸い異常はなかったが、まだしばらくは、松葉杖を余儀なくされている。
それでも大分良くなったのは、動きでわかる。
昼休み、ヒナギクは松葉杖をつきながらハヤテと校庭を散歩していた。

「無理はしないで下さいね、ヒナギクさん」
「こんなもの大したことはないわよ。いつか病院で入院していた時の方がよっぽど苦しかったわ」
「確かにあの時はヒナギクさんが一日一日やつれていくようでした」
「やれやれ。私がやつれた原因がどこにあるのかは覚えているんでしょうね」
「は、はい、それは僕と一緒にあの島に行ってもらって・・・」
「そんなことを言っているんじゃないの。あの時は傍に居てくれたハヤテ君が恋人ではなかった、ということよ」
「お、恐れ入ります・・・」

あの時は、何事も遠慮がちであったヒナギクだが、今回はやたらと頼みごとが多い。
もちろんハヤテに拒否権はない。
(まあ、当分は頭が上がらないな・・・)
つい、先ほども喉が渇いた、と言われて自動販売機に走ったばかりである。
「このあたりに腰を掛ける場所はないかしら」
「え、えーと。ベンチがありますけどちょっと汚れてますね。あちらの芝生でどうでしょう」
「ん、いいわね」

二人は芝生に腰を下ろした。
松葉杖をついているヒナギクは、座るのも大変そうなのでハヤテが支えた。
二人並んで見上げた空に大きな雲が浮いていた。
(ロイヤルガーデンに似てる・・・)二人は同時に思った。

「天王州さん、無事なのかしら」ヒナギクは独り言のように呟いた。
「きっと・・・。でもロイヤルガーデンに何か起こったみたいですね」
ロイヤルガーデンから戻ったあと、二人は全く音信のないアテネを心配してロイヤルガーデンに行こうとしたが、入るどころか見つけることもできなかった。

二人はまだロイヤルガーデンの消滅を知らない。
アテネの生還も。

次第に二人の空気が重苦しくなっていった。

「あーたん・・・」
ハヤテが呟いた一言が、ヒナギクの神経を刺激した。
「ねえ、ハヤテ君」
「何でしょう」
「どうして私を置いてロイヤルガーデンに行ったの」
その声にはまだ割り切れない思いが残っていた。
「ヒナギクさんには言ってもわかってもらえないと思います・・・」
「何ですって・・・」
ヒナギクの眉が吊り上がった
「す、すみません。言い方が悪かったです。ヒナギクさんを否定するつもりはないんです。
ただ・・・僕にとっては幼稚園のころ、本当に絶望して死にたいと思ったとき、迷い込んであーたんに助けられたところなんです。あの時僕にはあーたんとロイヤルガーデンだけが、唯一の・・・あ、あの頃は、ですよ。唯一の存在だったんです。
それに何よりあれは僕自身の・・・」
ハヤテの口から出てくるセリフの全てがヒナギクの心情を逆撫でしていた。

「そんなことを訊いているんじゃないわ。何で私を置いて、と言っているのよ」
「そ、それは、この前も言った通り、ヒナギクさんに直接の関係のないことで、ヒナギクさんを危険にさらすなんてことはできないと思って・・・」
「私の気持ちは言ったはずよね、ハヤテ君。約束してくれる?二度とそんなことをしないって」
「そ、それは・・・」
「できないの?」
強い口調で問い詰めるヒナギクに、ハヤテは顔を歪めた。

「恋人を危険に巻き込みたくない、ってことがそんなに許せないことですか?
ヒナギクさんの気持ちは嬉しいですけど、ヒナギクさんを一方的に僕の個人的な問題に巻き込むなんてしたくないんですよ」
「何よ、個人的な問題って。天王州さんの問題でしょ」

ハヤテの頭に血が上った。口調が激しくなった。
「もちろん、それもありますよ。だけど僕にだって抱える問題はあるんです。当たり前じゃないですか!」
「何なのよ、それは。私はハヤテ君の恋人なのよ。ハヤテ君が苦しい思いをしているのに私が知らん顔をしていられるわけないでしょ」
「だから!ヒナギクさんを苦労ならともかく危険に晒すなんて。
ヒナギクさんは僕が守ります。危険からは遠ざけます。愛する人のためですから」
「このわからずや!何度言ったらわかるのよ。ハヤテ君のいない天国なんか行きたくないわよ。
危険でも何でも、私に一緒に背負わせてよ。私だってハヤテ君を守れるんだから」
「何でそんなに頑ななんですか。
そりゃヒナギクさんから見たら僕はヒーローでも超人でもありませんよ。
僕なんかがヒナギクさんを守るなんておこがましいでしょうけど、僕の気持ちだって少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」


ハヤテ君が怒っている−。
ハヤテの怒りをまともにぶつけられたのは初めてだった。
ヒナギクが俯き、唇を噛んだ。怒りか恐れか、その体が震えた。
自分の中に得体の知れない感情が溢れるようで噴き出すようで動けなくなった。
ハヤテも自分自身のセリフに、また初めて見るヒナギクの姿に驚き、どうしていいかわからなくなった。


「あ、あの・・・、ヒナギクさん・・・」
恐る恐るハヤテが口を開いたのと、ヒナギクが立ち上がったのはほとんど同時だった。
ハヤテは手伝おうとしたが、ヒナギクはその手を振り払い、松葉杖をついて歩き出した。

追いかけなきゃ、と思いつつハヤテの足は動かない。
ヒナギクの姿が木陰に隠れて見えなくなった。

(何をやってるんだ、僕は。またヒナギクさんを傷つけてしまった)
胸が締め付けられた
後悔と自責に襲われた。

駆けだそうとするハヤテを呼び止める声がした。
「ハヤテ様・・・」


*****************************************************************


またこんな別れ方をしてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
ヒナギクはそっと後ろを窺ったが、自分を追いかけてくる影は見えなかった。

ハヤテの言っていることはわかる。怒ってはいても愛情に満ちた言葉であることも。
しかし、受け入れられそうにない。
そしてハヤテも、受け入れてはくれなかった。

涙がこぼれた。
(何で・・・。何でこうなるのよ。私は天王州さんより大事な存在でいたいだけなのに・・・)
こんな顔を他の生徒に見せられない。
生徒会長のプライドだけでなく、現実的な問題もある。
(ハヤテが会長を泣かせた)という噂が学校中を駆け巡ってハヤテがリンチに遭いかねない。

ただでさえ、ハヤテが会長に大怪我をさせた、という話は尾ひれを付けて周知の事実となっている。
もちろんヒナギクは躍起になって火消しに努めているのだが、当のハヤテが肯定してしまっている。


涙をぬぐったその目の前に人影が見えた。
「全く世話が焼けますわね」
「天王州さん?」



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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.17 )
日時: 2015/02/04 21:38
名前: どうふん


まあ、ここまでやる気はなかったんですが・・・
書きながらエスカレートしてしまいました。

前回投稿のことです。

私が言うのも変ですが、今読み直して、複雑な気分です。

ただ、ハヤテとヒナギクさんは一度、本気でケンカさせないと、とかねてから思っていました。

ハヤテ君。我慢するだけが優しさではないよ。




第10話 : 天女の苦悩 女神の微笑


何故この人は必ず唐突に現れるのだろう?ヒナギクでなくとも不思議なところである。

しかし世話が焼けるとはどの口が言うのだ。今回の仲違いの元凶が。
しかし、つい先ほどまで生死不明で心配していた相手のいきなりの登場に動転しているヒナギクはそのあたりに頭が回らない。
「み、見てたの?じゃなくて無事だったの」
「見なくても、大体想像はつきますわ。大方、二人で『好きだ』『好きだ』と言い争った挙句、お互い自分より相手を大事にしすぎて喧嘩別れしたってところでしょう」
アテネは後半部分をスルーした。

ヒナギクは朱に染まって動けなくなった。
(い・・・一体何なのよ、この洞察力は)

「まあ、いいですわ。久しぶりに二人でガールズトークでもいかが」
「え、でももうすぐ授業が」
「今さら何を言っているのです。理事長と生徒会長の重要会議は授業より大切に決まっていますわ」
「重要会議?今、ガールズトークって言っていなかったかしら」
「まあ、細かいことにこだわることはありませんわ」


******************************************************


理事長室の応接椅子に腰かけ、二人は向き合っていた。

「まず、あなたには謝らなければいけませんわね、ヒナ。本当にごめんなさい。ひどい怪我をさせてしまって・・・。この上もしハヤテに万が一のことがあったら、私はあなたにどれだけ謝っても済まないところでしたわ」
「あの時私は・・・本当にハヤテ君が戻ってこないかも、と思っていたの」
「では、戻ってきたことはちゃんとわかっているのね。いや、戻った、というのはおかしいわね。ハヤテの心はずっとあなた一人のものでしたわ」
「本当に・・・そうなのかしら」
「あら、自信が持てないの?」

ヒナギクは答えられない。
ハヤテから告白されて以来、ずっと信じていたものが実は曖昧であったような気がしていた。
それほど、今回の出来事は衝撃が大きかった。左足だけでなく、心を傷つけていた。
しかも、事情はどうあれ、その原因を作りだしたのは正に今目の前に居るアテネに相違ない。鼻白むような思いもあった。

アテネは頓着せず、話を続けた。
「いいこと、ヒナ。ロイヤルガーデンに向かう前、ハヤテは私にはっきりと言っていました。
『ヒナギクさんはきっとわかってくれるから大丈夫』
この重みがわかるかしら?喧嘩別れをしたそのすぐ後でも、ハヤテはあなたから愛されていると信じて疑っていないのよ。
ハヤテにとってのそんな存在は、私の知る限り誰もいませんわよ。もちろん、この私を含めてね」
「え、そう?」ヒナギクは首を傾げた。ハヤテはむしろ他人をすぐに信じる方ではないのか。
「ちょっと違うわね。ハヤテは他人の言うことを信じる度が過ぎて、ぶつけられた言葉を真剣に受け取ってしまうのよ」
(た、確かにそうね・・・)身に覚えがありすぎる。

「結局それはその人を信じ切ることができないということでもあるの。特に自分が愛されている、ということにハヤテは自信が持てないの。

実際にハヤテは愛してくれるはずの人、身近な人たちに裏切られ、傷つけられて来たのよ。
そればかりか、騙されて自分では気付かずに手を汚したことさえある。

そのハヤテがそこまで言うのです。それをヒナがわかってあげないといけませんわ」
「わ、私が怒っているのはそんなことじゃないの。ハヤテ君が天王州さんとロイヤルガーデンに向かう時、私には何も本当のことを教えないで、天王州さんと一緒に・・・」
「わかっているわよ、ヒナ。だけどあなたもわかって上げて。まず、ヒナに知らせまいとしたのは私よ。責めるなら私を責めなさい。」
「だけど、だけど・・・」
「ヒナ、ハヤテはね、私にも来ないでほしいと言ったのよ。自分一人で決着を着けたいって」

アテネのセリフにヒナギクは混乱した。もともとはアテネの始めた戦いではなかったのか。
「どういうことなの?」
「キング・ミダスが欲深い人間の肉体を乗っ取って蘇ったということは聞いているわね。その人間というのがハヤテの良く知っている人間なのよ。切っても切れない関係の」
ヒナギクはハッとした。

「まさか・・・ハヤテ君の親?」
「ええ、両親。キング・ミダスが言ってたのよ。どういういきさつかはわからないけど。
大方、悪事のツケが回って追われている最中に、付け込まれて誘惑されたんでしょう。

あなたも知っているわね。かつては私も疑心暗鬼に陥っている心に付け込まれてヤツに呑み込まれそうになったからわかります」
疑心暗鬼の原因については、ヒナギクは知らないし教える必要もない。

「ハヤテはこれを知った時、初めて行くことを決断してくれたの。乗っ取られて意思を失っているとはいえ、もうこれ以上両親に悪事を働かせることはできない、子である自分が引導を渡す、と。
だけどいざとなると迷った。あんなろくでなしでも、憎んでいても。だからあれだけキング・ミダスに止めを刺すのを躊躇ったのよ。

ハヤテは自分自身の決着を着けることはできた。
その代わりに親殺し、という業を背負って、自分のやったことに傷ついているのよ。

恥ずかしいけど・・・責められても仕方ないけど、私も終わってから気付いたの」

「だからハヤテ君は個人的な問題って・・・。そんな・・・ハヤテ君・・・・。何でそんなに何もかも自分で背負おうとするのよ」
「何でかしらね・・・。それは私にもわからない。でもヒナ、あなたならいつかわかって上げられるのじゃなくて」
「私が・・・」
「あなた以外に誰がいるの。そして支えてあげられるのも。
ヒナ、あなたはハヤテと恋人になってどれくらいになるの?」
「・・・4ヶ月くらいね」
「友達だった時間を合わせたら?」
「1年、いや11ヶ月」
「それは羨ましいわね。私がハヤテの恋人でいたのはせいぜい2ヶ月よ。しかもこの世界の時間で言えば1週間も経ってはいない。そしてそれが、私とハヤテが会っていた全てよ」

(あ・・・)
ハヤテに十年間も想われたアテネ。それを羨んでいたヒナギク。
しかし、アテネにしてみれば・・・。
ヒナギクは初めて気づいた。


ヒナギクを見つめるアテネが優しく微笑んだ。


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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.18 )
日時: 2015/02/07 20:36
名前: どうふん

天王州アテネについて、補足しておきます。
以前、第三部のコンセプトは「天女VS女神」と書いたことがあります。

それはつまりアテネの失恋と言う意味なのですが、アテネもまた不幸になっていい存在ではありません。
私の考えとして、不幸になっても構わないのはハヤテの両親くらいなものです。

では失恋したアテネを幸せにするにはどうすればいいか、を考えました。
まず思いついたのは、アテネをアリスに戻すことなのですが、あまりに都合が良すぎるのでやめました。
それで、ロイヤルガーデンを消滅させることにしました。
ロイヤルガーデンにアテネが拘る理由が、私にはわかりませんから。

それに、アリスとしての生活を経験したアテネは、今ならヒナギクさんやハヤテ以外にも友達ができるのではないかな、と思います。



第11話 :キューピッドの祝福 


終業を意味するチャイムの音が流れて来た。結局午後の授業を全部スルーしてしまった。
そのことに気付いたヒナギクは恥ずかしそうに笑った。
「天王州さん、ありがとう。ちょっとはスッキリしたみたい」
「それは良かった。早くハヤテとは仲直りなさい」
話は終わった・・・そんな感じでアテネは立ち上がった。

「でもね、天王州さん。あなたもあまり無理はしないでね」
アテネの肩がピクリと揺れた。
「何のことかしら」
「あなたにだって想いはある。大切な想いが。それを私がどうこう言う立場じゃないけど・・・ 。」
アテネの表情が固くなった。
「・・・ なら、それは言わぬが花ってところね」
「そうかもしれないわ。でもね、今のハヤテ君があるのはあなたに助けられたからなの。これはハヤテ君だけでなく私も感謝しているのよ。
そして、今でもそんなに気を遣ってくれて。隠そうと思っていればできたのに」
「・・・馬鹿ね、あなたって。あなたが感謝することなんて何もない。私がヒナにしたことと、その逆とはあまりに差がありすぎます。正も負も。私のやったことなんてせめてもの罪滅ぼしに過ぎません」
「天王州さんらしくないわね。そんな罪悪感に捉われることはないわ。ハヤテだけでなく私にとっても、あなたはかけがえのないことをしてくれた大切な友人なんだから、それだけは忘れないでほしいの。
さすがに今のあなたに私が母親なんて言えないけど」

アテネは苦笑した。
(私の娘みたいなお母さんでしたけどね。でも素敵なお母さんでしたわよ。
今でも私を友達と思ってくれるのね・・・。恨まれても仕方ないのに。どこまで素直というか天真爛漫なのかしら。
ハヤテが、ヒナを天女と思っているのもわかるわね)
「そのあたりの経緯も一度きちんとお話しなければいけませんね。でも、今は早くハヤテの元へ戻りなさい」

ヒナギクも腰を上げた。
立ち去ろうとするヒナギクにアテネが声を掛けた。
「そうそう。私のこと、あーたんって呼んでいいですわよ」
「え?」意図がわからずヒナギクは首を傾げた。
「これからはハヤテだけでなくヒナにも許してあげます。あなたたちは二人で一人なのですから」
それだけで十分だった。ヒナギクは真っ赤になって、逃げるように理事長室を後にした。


ヒナギクの去ったと同時に、マキナが部屋の側面にある隠し扉から部屋に入ってきた。
「うまくいっただろ、アテネ」
いかなアテネでも、本当に神のような洞察力を持っているわけではない。
林の中で二人が喧嘩を始めるころには、近くに執事服の忍びが隠れていたのである。
そして、報告を受けたアテネはヒナギクを呼び止める一方、ハヤテ宛のメモを書いてマキナに持って行かせた。

「ええ、本物の忍者みたいな活躍でしたよ。ヒナは全然気づいていなかったようね。
で、ハヤテにはちゃんと渡せたの?」
マキナは頭を掻いた。
「いや、それがさ。ちょっと邪魔が入って・・・」
マキナは、その後に起こったことを説明した。
「あら、それは計算外ね。でもまあそれなら大丈夫でしょう。
全くあの人たちの周りにはお節介焼きが多いこと・・・。

マキナ、ご褒美にハンバーガーを好きなだけ食べていらっしゃい」
マキナは歓声を上げて外へ飛び出して行った。

(少しは償いができたかしらね。いや、罪悪感なんて感じることはないのでしたね・・・。

ハヤテ・・・。
幼いころに出会ったハヤテは私にとっての夢だったのかしら。
一人で閉じ込められていた牢獄の中で見つけた幸せであり希望だった。
そしてハヤテは自由の身で肉親を持ちながら私以上に苦しんで絶望していた。何であんな泣き虫の弱虫を好きになったのかはわからないけど。

でも間違ってはいなかった。

夢に幻滅せず、夢のままで終わる。これも悪くはありませんわね。
それに、ハヤテが幸せになったのなら夢の半分は叶ったということでしょう)

「ありがとう、ヒナ。あなたなら・・・あなたにだったら・・・」

「負けても仕方ない」と言おうとしたのか「ハヤテを任せられる」と言おうとしたのか。それはアテネにもわからなかった。

アテネは理事長席の椅子を引き、腰を下ろして瞳を閉じた。
その目は潤んでいたが、口元には穏やかな微笑みが広がっていた。


**********************************************************************


松葉杖をついて教室へ急ぐヒナギクは授業が終わって帰る生徒たちとすれ違った。
(ハヤテ君・・・。もう帰っちゃったかしら)

教室には一人だけ残っていた。ハヤテが席についていた。
机に肘をつき、両手を前で結び、祈るような姿で。
その手には翼のペンダントが握られていた。

ヒナギクの姿に気付き、ハヤテは立ち上がった。逆光ではっきりと見えなかったが、安心したような笑顔が広がっていることはわかった。
(ずっと待っていてくれたんだ・・・ハヤテ君)

「良かった、ヒナギクさん。どこに行っちゃったのかと思いましたよ・・・。
先ほどは済みませんでした。ヒナギクさんがあんなに僕のことを心配してくれたのにひどいことを言っちゃって。」
「な、なに言ってるのよ。勝手なこと言ってたのは私の方でしょ。謝ろうと思っていたのに、先に謝られたら困るじゃ・・・・」
ヒナギクが言い終わるより早く、ハヤテは両手を広げてヒナギクを抱き締めた。

「難しいことは僕にはうまく言えません。
だけど、これだけは本当です。僕はヒナギクさんを愛してます。
喧嘩したって、怒られたって大好きです。
だから大切にしたいんですよ・・・。
それと、ヒナギクさんが僕のことを本当に愛してくれていることもわかっています」

最後の一言が嬉しかった。
ヒナギクもハヤテの背中に腕を回した。
「ハヤテ君・・・。もう、あまり心配かけないでよ。
何でも一人で抱え込まないでね。ハヤテ君は私の執事じゃなくて恋人なんだから。
もう少し恋人に甘えなさい。私だってハヤテ君の支えになりたいのよ」


ヒナギクの温もりを感じながら、ふと、ハヤテは思った。
「ヒナギクさん・・・、さっき言い争ったことも、今言ったことも中身は同じなんですよね」
「そうかもね・・・(ハヤテ君の最後の一言を除いてだけど)」
(何が正しいのか・・・まだ答えは出せないけど。そもそも正しい答えなんてあるのかしら。
だけど今いる場所は決して悪くはないわね)

学校でのスキンシップはなし、というのが二人の、というよりヒナギクの決めたルールだったが、この時ばかりは関係なかった。
ハヤテの体が冷えかけた汗にまみれていることに気付いた。
(私のこと、待っていたんじゃなくてずっと探していたのね。まさか理事長室にいるとは思わなかったんだろうけど。
この人はいつだって私の知らないところでこんなにも私のことを・・・)

「ごめんね、何も知らないで勝手なことばかり言って。それに心配掛けちゃって。
でもね、ハヤテ君。これだけは言っておくわよ。自分を卑下しちゃだめよ。誰が何と言おうと、あなたは私にとっての最高のヒーローなんだから」
「そんな・・・ヒナギクさん・・・」
「この私と喧嘩できるだけでも十分ヒーローよ」

ハヤテはいつかのごとくずっこけそうになったのだが持ちこたえた。
「何ですか、それ」
「私はね、本気で誰かと喧嘩なんかしたことないのよ」
「た、確かにヒナギクさんが本気で怒ったら皆震え上がって喧嘩なんかできませんよね」
ハヤテの頭がこつん、と鳴った。
「・・・全く。女の子に言うセリフじゃないわよ。
でもね、ハヤテ君。さっきハヤテ君は私に本気で怒ってくれたわね。
あの時は頭に来たけど、考えてみれば誰にだって優しくて恭しいハヤテ君が、私にはあれだけ血相を変えてぶつかってくれたんだもの。喜ばなくちゃ。
これから先は長いんだから、たまにはいいんじゃないかと思っているわよ。たまには・・・ね」

ハヤテを抱き締めるヒナギクの腕に力が込もった。
ハヤテの腕もそれに応えた。


二人の時が止まった。



小鳥の囀る声に気付いて、二人は外を見た。
いつの間にか朱く染まった空にチャー坊が恋人(雀)と二羽で舞っていた。
二人を祝福するように。

ハヤテとヒナギクは抱き合ったまま顔を見合わせた。
出会いのキューピッドが見守る中、二人は唇を交わした。


**************************************************************


「そうだ、ハヤテ君。天王州さんのことだけど」
「あ、すみません。忘れてました。さっき森の中に伊澄さんがやってきて、あーたんが無事に戻ってきたと教えてくれました。ヒナギクさんがどれだけ僕のことを心配していたかも一緒に」
「・・・そ、それはともかく。私もさっき天王州さんに会っていたのよ。今ならまだ理事長室にいると思うわ。ハヤテ君、行って上げて」
「え、でも、それは・・・」
「天王州さんは、私たち二人にとって大切なお友達なんだから。ちゃんと元気な顔を見せていらっしゃい」
「わ、わかりました。でもどうせ行くなら二人で・・・」
「何言ってるの。私はこの足だし、さっき会ったばかりよ。一人で行っていらっしゃい。私は教室に残っているから」
「わ、わかりました。すぐ戻ってきます」
「ええ。あまり待たせないでね」

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.19 )
日時: 2015/02/15 17:06
名前: どうふん

私が「想いよ届け」と題して最初の投稿をしたのは8月2日です。もう半年が過ぎました。
何事にも三日坊主の私にしては良く続いたものだと思います。

元はと言えば、ヒナギクさんが幸せになれるエピソードを作ってみたいと思ったのがきっかけでしたが、調子に乗ってロイヤルガーデンまでぶっ壊してしまいました。

その甲斐あって(?)、二人がお互いに信じ合って、ケンカにも一応の免疫は持ち、何より大勢の仲間たちから応援される。そんな世界を描くことができました。
これからも、二人は進路や結婚などいろいろな苦労やトラブルを経験するでしょうが、(この世界の)二人の未来を私は信じることができそうです。自己満足に過ぎなくても。

こうして書いていくと、娘を嫁に出した父親のような気分がしてきました(ちょっと図々しいですね)。
ヒナギクさん、ハヤテ君、お幸せに・・・


それでは、以下、「想いよ届け」三部作、最終話となります。
管理人さん、最後までお付き合い頂いた方々、誠にありがとうございました。



第12話 : 笑顔と共に 未来へ


12月24日−都内某所
ハヤテとヒナギクは、予約を入れたレストランへと向かう道々でイリミネーション巡りをしていた。
ヒナギクの足は癒えていた。
行く先々に人が多いところもあるが、その多くは自分たちの世界に浸っているので、気持ちさえ高まっていれば意外にロマンチックな雰囲気になれるものである。
二人は手をつないで光の中を歩いていた。

「ねえ、ハヤテ君。サンタさんっていつまで信じていた?」
ハヤテの頭にあの信用できないサンタが思い浮かぶ。
少なくともサンタからプレゼントなんてもらったことはない。
ただ、「何で僕にはサンタさんはプレゼントをくれないんだろう」と思っていたのだから信じていたことは間違いない。
「自分でもよくわからないですね・・・」
幾分困惑した響きがあった。

何気ない話題だったが、結果的につまらないことを訊いてしまった、ということにヒナギクは気付いた。
ヒナギクは、空気を取り繕うように、改めて話し掛けた。

「あ、あのね、ハヤテ君、ちょっと手を離してもらっていいかしら」
「え、はい」
ハヤテは戸惑いながらもヒナギクから手を離した。
ヒナギクはハヤテの腕に自分の腕を絡ませた。「腕を組む」格好になった。

二人は結構な距離を歩いていたが、この超人カップルにそんなことは関係ない。
ただし、当然ながら寒さは二人とも人並みに感じている。
腕を組んで体を密着させると、お互いに相手の温もりを感じることができた。
「こういうのもいいですね、ヒナギクさん」
自分から仕掛けて来たくせにヒナギクは真っ赤になって俯いている。


*******************************************************************************************************************************


二人は目的地のレストランに入った。ほとんどぼったくり価格のクリスマスメニューを出す店ではなく、普通の小さな洋食店である。しかし、華やかではないが、上品な雰囲気と美味な料理はヒナギクを満足させるに十分だった。
「ハヤテ君、こんなお店どうして知っているの?」
「あはは、種を明かすと僕が知っている訳じゃないんですよ。愛歌さんや千桜さんにいろいろ聞きまして。最後は千桜さんが、『ヒナを喜ばすならこんな店だ』と幾つか教えてくれたんで、見て回った結果ここにしました」
ちょっと残念な気分もあるが、ここはハヤテの努力を認めるべきだろう。
そして、二人を支えてくれている友人はここにもいるんだ、と改めてヒナギクは思った。

「それで、ヒナギクさん」
改めて、ハヤテが切り出した。
「ヒナギクさん。まだ、お付き合いを始めて5ヶ月も経っていませんが・・・、そしてその間にいろんなことがありましたけど、こんな僕を好きになってくれて、そして見捨てないでくれて本当にありがとうございます」
「ハヤテ君。私だってね、ハヤテ君に告白された時は天にも昇る心地だったのよ。そして、いろんなことを乗り越えてハヤテ君とイブを一緒に過ごすことができて本当に幸せなの」

ヒナギクの笑顔と言葉が胸に沁みこんできた。
僕が他人を幸せにしている・・・かつて貧乏神や疫病神のように言われていた僕が。
最愛の人がそう言ってくれた。
そして、いろんなことがあったけど、それを乗り越えてこれたんだ。

(いよいよだ・・・。今しかない)
ハヤテは決意した。今までこっそりと準備していたことを。

「嬉しいです、ヒナギクさん・・・。僕は馬鹿ですからうまく言えないですけど・・・」
ハヤテは口ごもった。言いたくても言えないような、うまく口に出せないような、そんな感じで口の中をもごもごさせていた。
ヒナギクはそんなハヤテを優しく見つめている。慌てなくてもいいのよ・・・その瞳が語っている。

「え、ええと・・・一息で言いますね・・・」ハヤテは横を向いて胸に手を当て大きく息をした。二回、三回。
改めてハヤテはヒナギクに向き合って口を開いた。
「心から愛しているよ、ヒナ。これからもずっと一緒だよ」

「ハヤテ君・・・覚えていてくれたんだ」
月初めにヒナギクがお願いしたこと。いろんなことがあって今までうやむやになっていた。
正直なところ今回は諦めかけていた。しかし、心の奥ではちょっぴり期待している自分がいた。
そしてハヤテは応えてくれた。

ヒナギクは涙が溢れそうになるのを堪えた。しかしそれ以上に堪えるのが難しいことがあった。
ぷはっ・・・ ヒナギクは噴き出していた。
「な、何がおかしいんです」
顔を赤くしたハヤテが口を尖がらせた。

「ご・・・ごめんね。でも、何回も練習したんでしょ。ハヤテ君が一生懸命練習している姿を想像しちゃって」
「・・・そりゃあ、僕はヒナギクさんに喜んで欲しいですから・・・」
「・・・いきなり間違っているわよ、それ」
「え、それは」
「ヒナって呼びなさい、これからは」
「は、はい・・・。ヒナ・・・」
「んー、良い響きね」ヒナギクの笑顔が眩しい位に輝いた。
ハヤテの心をわしづかみにして離さない笑顔。これを向けられると本当に幸せな気持ちになれる。
(この笑顔をずっと見つめていたい。ずっと向けてもらえる自分でいたい)
心からそう思った。

いや、これはずっと前からそうだった。付き合い始める前にもヒナギクに直接言ったことがある。
しかしその時は、状況が状況であったため、結局信じてもらえずぶん殴られて終わっている。
まあ、自分でも口走っていることの意味など本当には分かっていなかったのだが。

満面の笑顔をそのままに、ヒナギクが口を開いた。
「まだ、お返事していなかったわね、ハヤテ君。素敵なメッセージをありがとう。
私からもお願いするわ。これからもずっと私の傍にいてね。きっとよ」
「あ、ありがとうござ・・・、ありがとう、ヒナ・・・」
ハヤテは涙ぐんでいた。

ただ、ハヤテとしては、もう一つ、これだけははっきりと確かめておかなければいけない。

「あ、あの・・・ヒナ・・・。二人っきりの時はともかく、人前では『ヒナギクさん』でいいですよね・・・」
おずおずと尋ねるハヤテに、もう一度ヒナギクは噴き出していた。

ちょっと恨めしそうに見ていたハヤテも続いて噴き出した。

ハヤテとヒナギクの弾けるような笑いが、この小さな空間にあふれた。
二人には、それが、どこまでもいつまでも広がっていくような気がしていた。


******************************************************************


プレゼント交換も無事に終わり、二人は腕を組んで帰り道を歩いていた。
しかし、ヒナギクの家の近くまで来た辺りから、ハヤテの口数が少なくなった。

「ハヤテ君、どうしたの。さっきから何か考え込んでるみたいだけど」
「え、ええっと・・・。ねえ、ヒナ・・・。一つお願いしていいですか」
「ん、何かしら、ハヤテ君」
「僕だけが、ヒナ・・・のこと呼び捨てにするのはバランスが悪いと思うんですよ」
「まあ・・・、そうね」
「だからですね。ヒナ・・・にも僕のこと呼び捨てにしてほしいな・・・、と思いまして」

ヒナギクは微笑みながらハヤテの顔を見ている。しかし、その瞳には妖しい光が混じっていた。
(それ、一回試したことがあるんだけどな。やっぱり全然気づいてなかったのね)
ちょっと天邪鬼な気分になった。

「残念だけど、それはお預けね」
「え、え」
「まだ敬語が直ってないじゃない。もっと普通の言葉で話せるようになったら、その時は私もハヤテって呼ぶわよ」
「そ、そんなあ・・・。これでも僕は頑張ったんですよ」

ヒナギクはハヤテの腕から体を離した。
そのまま前へ回り込んだヒナギクは、ハヤテの2、3歩前に立って向き合った。
かすかに微笑んでいるその表情は変わらない。

ヒナギクは手を後ろに組み、腰を曲げてハヤテの顔を上目づかいに覗き込んだ。

ひと呼吸置いて−

ハヤテの前に破顔一笑したヒナギクがいた。
「わかっているわよ、ハ・ヤ・テ」
ヒナギクはくすくすと笑いながら片目をつぶった。

ハヤテは心臓を消し飛ばされたような気がした。
感極まって両手を広げて踏み出した。
「ヒナギクさん!」

(あーあ、やっぱりとっさになるとこの呼び方ね)
そんなことが頭をよぎったが、ここは気付かない振りをすることにした。
(まあいいわ、今のところは大きな一歩ということで)

抱きすくめられたヒナギクは瞳を閉じ、ハヤテの温もりと愛情に包み込まれるのに任せた。



<想いよ届け 第三部〜王族の庭城が滅びるとき> 【完】




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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.20 )
日時: 2015/02/15 17:41
名前: タッキー
参照: http://hayate/1212613.butler

あぁ甘いぞ!こんなのチョコよりも甘いぞ!!

どうも、バレンタインに画面の中からチョコをもらっているタッキーです。だいぶ空いてしまいましたが全部きちんと読ませていただいております。言い訳をさせてもらうと休みがたくさん挟まっているのが原因で、テスト期間が二週間という感じになっておりまして・・・。あぁ!!勉強なんてしたくないでござる!!

失礼。とにかくちゃんと仲直りできたようでよかったです。個人的には庭城から帰ったあとにまたケンカしてしまう二人が印象に残っています。ああいう割り切れないものを二人でなんとかできるのが恋人の理想形なのかもしれませんね。

さて、なんだかイロイロと完結しちゃった感が自分にはでてきてますが、もし次回作を考えていらっしゃるのなら、その時はこれまで通り楽しく、そしてドキドキしながら読ませていただきます。

それでは
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.21 )
日時: 2015/02/16 22:40
名前: どうふん

タッキーさんへ

早速の感想ありがとうございます。
チョコよりも甘かったですか・・・
自分としてはビターチョコも散りばめているつもりでしたけど。

でも、これはヒナギクさんとハヤテへのご褒美、と思っています。それだけ今回は二人とも苦しんだわけですから。


ロイヤルガーデンから帰還した二人がまたケンカしてしまうのは、ちょっと残酷だったかもしれませんが、二人の未来のために避けて通れないものと思っています。
これから先も、二人はいろいなトラブルに巻き込まれることは間違いない(断言)し、すれ違いや勘違いもあるでしょう。だからこそ、ケンカと仲直りを経験せず、一方的に溜め込んでいると、自分はもちろん相方もストレスが溜まり、いつか取り返しのつかない形で爆発するぞ・・・。

だからこそ(?)ヒナギクさんが一方的に怒るのではなく、むしろ怒るハヤテをヒナギクさんが受け止めなければいけないわけです。


あと、次回作については、今のところ白紙です。
「イロイロと完結しちゃった感」が私自身にもあります。
執筆意欲が湧けばまた投稿するかもしれません、としか今は言えません。


タッキーさんには連載中に何度も感想をいただき、今まで大いに励みになりました。
改めて御礼申し上げます。
あ、あとタッキーさんの作品に細かい突っ込みを何回も入れましたが、悪意は全くありませんのでご容赦。


                                   どうふん

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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.22 )
日時: 2015/02/20 03:19
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
まずは完結おめでとうございます。一つの物語を最後まで終わらせるのは非常に大変な事だとおもいます。(ブーメラン

さて内容についてですが、ふたりの仲を上手く運ばせたのはやはり周囲の人たちの力でしたね。このふたりって応援してあげたくなっちゃうんだと思います。いつでもお互いの事を思ってるくせに変な所で頑固なトコとか似た者同士で、そんな所が周りの人たちには焦れったくて仕方なく見えてしまったりしまわなかったりと…。特に一番近くでそれを見させられたアリスちゃんには、計り知れない親心みたいなものが芽生えてしまったんじゃないかという妄想を常々しております。
話が逸れました。呼び方のくだりはなんともロマンチックでドラマチックでした。たどたどしいながらも一生懸命なハヤテがなんとも可愛らしいというか…このふたりに最初求めてたのはこんな感じだったなぁと感慨深くなりました。

最後にひとつ気になったのはアリスちゃんなんですが、彼女はもうアテネとして完全復活で決着という事で大丈夫でしょうか?そうなれば手紙はもう手放さずにprpr…ではなくて取っておいて欲しいですね。

さてそんなこんなで3部に渡って楽しませて頂きありがとうございました。
私も負けずに…と心では思っています。心では(強調
また次回作も楽しみにしております!
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき ( No.23 )
日時: 2015/02/23 00:10
名前: どうふん

ロッキー・ラックーンさんへ


感想ありがとうございます。
しばらくお留守にしておりましたので気づくのが遅れました。


周囲の人たちの応援と祝福は、私がずっとこだわり続けた点でした。しかし、その周囲のほとんどは恋敵なわけですから、本来ならありえない話です。
ただし、ハヤテはともかく、ヒナギクさんならあり得ると思えます。これは、ヒナギクさんが異性はもちろん同性からも愛されるだけでなく、恋愛はからきし駄目で、何とかして上げたい、と思われる存在だからでしょう。

考えてみれば(異性ではありますが)私もその一人ということになりますか。


アリスは、ヒナギクさんを(本作で)「娘みたいな母親」と言っていますが、ロッキー・ラックーンさんの指摘通り、親心みたいなものををもってヒナギクさんを応援しています。

ただ、アテネはどうか、というとアリスとは全く別の意思が出てきます。
第三部は、アテネの心情に重点を置きました。
それと、原作の経緯を踏まえてヒナギクさんが抱えているであろうトラウマについて。
この問題をクリアしないと、ハヤテとヒナギクさんとの間に燻るものを消すことをできないと思ったからです。


ロッキー・ラックーンさんが気になっている点について。
私としては、アテネは元に戻った、ということで決着と思っています。

となると、どうやって復活したのかが問題になりますが、作中ではスルーしました。
実を言いますと、もっともらしい理由を幾つか考えてみたのですが、自分で納得できるだけのものが思いつかなかったので。


最後に、ロッキー・ラックーンさんには、タッキーさん同様に何度も感想を送って頂き、誠にありがとうございました。
投稿を始めたとき、好評なのか不評なのかも全くわからない中で、初めて感想をもらえた時の感激は忘れておりません。

今のところ、次回作の予定はありませんが、いつかまた、ご期待に添えることができれば、とは思っております。


                                          どうふん
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