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対象スレッド 件名: Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき
名前: どうふん
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき
日時: 2015/01/25 22:39
名前: どうふん

恋人を危険な目に合わせる訳に行かない・・・、個人的にハヤテの判断が間違っていたとは思いません。
しかし、ヒナギクさんがそれを受け入れることができるかは話が別です。
まして、ハヤテは一人ではなく、自分でなくアテネと一緒だということが、余計にヒナギクさんを傷つけた、ということでしょう。




第7話 : ロイヤルガーデンが滅びるとき


「私はね・・・、私はね・・・」
言いたいことはまだまだあった。山ほどあった。でも言葉にならない。熱いものがこみ上げてきてヒナギクはただ嗚咽しているだけだった。

ハヤテはただヒナギクを見つめて涙だけ流していた。
ヒナギクの言うことに一片の間違いもない。
そして事情を話せば、必ずヒナギクは来た。危険なんか顧みず、一緒に戦おうとした。
「来ないで」と言っても止めることなんかできなかっただろう。

それでも。
否、だからこそ、ヒナギクには本当のことを言えなかった。
恋人をこんな戦いの巻き添えにすることが正しいとは思えない。
だが、その結果、余計にヒナギクを苦しめ、悲しませることになった。
(僕はどうすれば良かったんだ・・・)

わからない。

ヒナギクはまだ泣きながらハヤテを睨んでいた。
「それとも・・・それとも・・・、ハヤテ君の好きな人が天王州さんだと言うなら・・・」

グサリと突き刺さった。
今さら気付いた。思い知った。
正しいとか間違っているとか関係なく、ヒナギクをそこまで傷つけたということに。

ハヤテの感情が決壊した。
うぇっ、うぇっ。ハヤテはしゃくりあげた。子供のように。

(僕はいつもそうだ。ヒドイことを言って、独りよがりなことをして人を傷つけて・・・。人の気持ちなんかわからないで・・・。
その挙句にヒナギクさんは・・・)
言葉が出せないハヤテは、ただ、両手を伸ばし、ヒナギクを抱きしめた。
いや、ヒナギクに縋り付いた。
ヒナギクの胸に顔を埋め、泣きじゃくっていた。
やっとの思いで声を絞り出した。
「そんなこと・・・言わないで・・・ヒナギクさん。僕が馬鹿でした・・・」


(あの姿は初めて会った頃の弱弱しくて、ただ愛情に飢えていたハヤテ・・・)
アテネは花畑に倒れ伏して泣いていたハヤテを想い出していた。
(今のハヤテは強くなったけど・・・、それでも埋められない心の闇を抱えているのね。
それなのに・・・私はまたハヤテに闇を背負わせてしまった)
そして今、その闇を埋められるのは自分ではないということも、はっきりと理解した。
疼くような胸の痛みと共に。


**********************************************************************:


かねてより伊澄はアテネの依頼を受け、霊力で王玉を探していた。
もともとアテネが持っていたものが一つ。伊澄が見つけ出したものは3つあった。

しかし、今回の戦いに必要なのはただ一つ、とのことでその一つをアテネに渡した。
伊澄の手元に残った二つは決して使ってはいけない。誰にも渡してはいけない。大切に保管しておいて、とアテネに頼まれ、その通りにしていた。
もちろん、アテネは、ロイヤルガーデンへと向かう時、誰にも話してはいけない、と念を押すことも忘れなかった。

ヒナギクから伊澄に電話が掛かってきたのはそのすぐ後だった。
「何か知っている」気付いたヒナギクはそのまま伊澄の屋敷へと駆けこむや、今何が起ころうとしているのか問い質した。
伊澄は固く口を閉ざしていたが、必死の形相のヒナギクに負け、王玉を携え、二人でロイヤルガーデンへ向かったのがつい先ほどのことになる。


************************************************************:


アテネは、ヒナギクにも、申し訳なさそうな伊澄にも何も言わなかった。二人がやってきた事情も全て察していたのだろう。

アテネは今起こっていることに背を向けて佇んでいたが、やがて口を開いた。
「みんな、王玉は無事?」
その言葉に、ハヤテもヒナギクも伊澄も皆、懐中の王玉を確かめた。あの激しい戦いでも壊したり失くした者はいなかった。
「ハヤテ、すぐヒナギクを病院に連れて行きなさい。伊澄も迷子になったらいけません。一緒に帰してあげて」
「わ、わかったよ、あーたん。で、あーたんは?」
「私はロイヤルガーデンでしなければならないことがあります。説明している時間はありません、早くヒナを。安心なさい。キングミダスの精霊は確かに消滅しました。もう悪行を働くことはありません」
「まって、天王州さん、まだ何か・・・」ヒナギクは先ほどから、自分と目を合わさないアテネに違和感を感じていた。
「ハヤテ、いいから早く。ヒナの足が動かなくなったりしたらたいへんですわ」
「う、うん・・・」引っかかるものを感じながら、ハヤテはヒナギクを背負い、立ち上がった。
立ち去ろうとしたハヤテの足が止まった。
すぐ横にキング・ミダスの残骸が転がっている。
ハヤテの視線が動かなくなった。

「ハヤテ君?」
「何でもありません、行きましょう」
ハヤテは伊澄を連れて、元の世界に向かって歩き出した
ハヤテの目からまた涙が溢れていることに背中に居るヒナギクは気付かなかった。


ハヤテ達が去ったのを見届けてアテネは懐から王玉の付いたペンダントを取り出した。
先端にあるはずの王玉は、粉々に砕けて跡形もなかった。

(キング・ミダスが言ったことは嘘ではない。早くロイヤルガーデンに黒椿を奉納して、神気で満たさなければロイヤルガーデンは崩壊する。私が黒椿を奉納すれば王玉はなくても何とかなるはず)

だが、事態はさらに早く動いていた。

突如として凄まじい雷鳴が響いた。
地鳴りのような音と共に、次第に地面が揺れ出している。
ロイヤルガーデンが崩れ出していた。壁が薄れて徐々に消えていき、城を支える柱にはひびが広がっていく。
地震が原因でなく、本当に神気が消えつつあるのだ。
黒椿を奉納するどころか、ロイヤルガーデンに残ることもできない。アテネはアブラクサスの森へと脱出するしかなかった。

揺れは次第に大きくなっている。
広場の柱はその半分は倒れていた。残っている柱も一本また一本と倒れていく。

あちこちで地割れが始まっていた。
孤島のように屹立した丘の頂上にあるロイヤルガーデンが丘ごと崩れ落ちていった。
空はオーロラのように歪んでいた。
(結局、ロイヤルガーデンを取り返しはしたものの、滅びることになるのか)
そして、王玉もない今ここから脱出する方法もない。
(私はロイヤルガーデンと共に滅びるみたいね)

「ハヤテ・・・、ありがとう。あなたがいたから私は愛や幸せを知ることができた。あとは、あなたが幸せになりなさい。ヒナ・・・、あなたには謝らなくてはね。直接伝えることができなかったけど・・・。ハヤテを頼んだわよ・・・」
アテネの心に、ハヤテやヒナギク、そして仲間たちの思い出が蘇っては消えていく。

小さい頃、ハヤテと二人きりで過ごした日々。
魔物に取り込まれそうになっていた時、救けに来てくれたハヤテ。
ハヤテだけでなく、ヒナや伊澄も一緒だった。
ムラサキノヤカタのみんなでワイワイと騒ぎながら焼肉やラーメンを食べた。
ナギと二人ですきっ腹を抱えて、道に迷いながらハヤテが働いている喫茶店に辿り着いた。
皆で海水浴に行った。あの時はいろんなことがあったな・・・。
「ヒナギクさんとお付き合いしたいんだ。わかってほしい」ハヤテから掛かってきた電話。
あのヒナギクの幸せに満ちた顔。
それから・・・、それから・・・

楽しいことも悲しいこともあったけど、今となっては全てが大切な思い出。
私はアテネ。地上でもっとも偉大な女神の名前を持つ女。
私は死を前にして取り乱しはしない。
私は二度と人間の踏み入れることのない領域を墓標として、女神としてこの世を去る。
ただし、私が抱いて眠るのは、人としての思い出。
これさえあれば・・・。

天空も台地も激しく揺れる中、黒椿を杖として身を支え、アテネは空を真っ直ぐに見上げた。
歪んだ空間に大地と同じような裂け目が広がり、白皇学園の建物がちらりと見えた。
(最後に、かつて住んでいた世界を一目見れたということね・・・)
アテネの胸にちょっとした感慨が湧いたが心は乱れない。

だが、そのアテネを愕然とさせるものが目に入った。
歪む空間の裂け目が隙間となって、元の世界との通路が一時的にできたらしい。人影が裂け目から飛び込み、アテネ目がけて走ってくる。
執事姿、青い髪。
「は・・・ハヤテ?」