Re: 兄と娘と恋人と ( No.1 ) |
- 日時: 2014/06/04 18:03
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!
タッキーです。 ちなみに今試験期間ですorz 前回の書いてたときは長く感じたけど読み直すと全然長くないですね。 実は前回途中だったのに間違えて投稿しちゃったんですよ。 書き直しができてよかったです。 今回はオリキャラがでます!それでは更新!
「今日、このクラスに転入生がきます!」
「ワアアアアァァァァァ!!!!!!」
なんだか前にも同じような展開があったが、 担任の雪路の言葉にクラスから歓声が上がっていたころ、
「ヒナのやつ、元気にしてるかな?」
転入生はここのクラスメートの名前をつぶやいていた。
第2話 『兄妹』
これは1日前の話
「ただいま戻りました〜」
ヒナギクに励まされたあと、 ナギからの電話もあり、三千院家に戻ってきたハヤテ。 部屋に戻っている途中、 遅くなったことを主に追求され、、
「あぁ、ヒナギクさんの手伝いをしていたんですよ。」
ピタッ
ナギが歩みを止めたのに気づいて後ろを見てみれば、 なんだか凄い殺気を放っている自分の主の姿が。 当然、ハヤテには何が原因かも分からず、
「あ、あのぉ〜?どうかなさいました?お嬢様?」
プチッ
(何この音?デジャヴ?)
間違ってはいないのだが、理解してほしいのはそこじゃない。
「ハ・・・ハッ・・・」
「歯?」
「ハヤテのバカーーーーー!!!!!!」
ナギの渾身の回し蹴りが炸裂し、ハヤテはしばらくそこにうずくまっていて、 マリアは聞こえてくるいつものお約束に半ば呆れながら夕食を作っていた。
一方桂邸 (私ったら、なんであんなこと。 あれじゃまるでプロポーズじゃない!) こちらは違う意味でベッドにうずくまっていた。
そして翌朝
「学校にいくぞ。ハヤテ。」
「えっ!?ええええええぇぇぇぇぇっっっっ!!!! どっ!どうしたんですか?お嬢様? もしかして具合が悪いとか!」
このようにナギが自分から学校に行こうと言うなどとても珍しい。 良いことのはずなのに本気で心配しているハヤテにナギは頬を思いっきり膨らませる。
「私が行くと言っておるのだ!さっさと行くぞ!ハヤテ!」
「はっ!はいっ!!」
「ちょっとナギ!あなた朝食は!?」
いつものように騒がしくも微笑ましい三千院家の日常。 ちなみに何故ナギが学校に行くと言い出したかというと ハヤテをヒナギクに取られないようにということらしい。
「おはようございます。」
「おはようハヤ太君。 おっ!今日はナギちゃんも来てるじゃないか。おはよう」
「おはよう。」
教室に入ってハヤテが1番最初に声をかけたのは花菱美希。このクラスの副委員長ブルーだ。 そのあとハヤテは席につくと、いいんちょさんレッドこと瀬川泉に声をかけられた。
「おはよ〜ハヤ太君♪実は今日、転入生が来るらしいよ♪」
「あ、おはようございます、瀬川さん。その話本当なんですか?」
この時期に転入してくる人は珍しいのでつい疑ってしまう。
「本当だぞハヤ太君。今朝、雪路が 転入生が来るのにヒナがお金貸してくれなーい と叫んでいるのを我々は聞いているからな。」
突然入ってきた風紀委員ブラック、朝風理沙の発言は若干信憑性に欠けるが、とりあえず 転入生が来ることは本当のようだ。クラスを見渡してみるとその話題で結構盛り上がっていた。
「へぇ〜、それじゃ仲良くできるといいですね。お嬢様。」
この機会に少しでも友達を増やしてもらおうと主人に話を振ってみるが
「興味ない。」
一蹴された。
「あっ、でもヒナより頭いいらしいぞ。ここの試験も満点でパスしたらしい。」
「「えっ!?」」
さすがにこの言葉にはハヤテだけでなく、ナギも驚いた。
「それは本当か!?」
ヒナギクよりも頭がいいことも信じられないし、ましてや天下の白皇学院の編入試験を満点で合格するなんて、あのマリアからも聞いたことがない。
「本当らしいよ♪職員室でも先生たちが ヒナちゃんより優秀な生徒が来たって話でもちきりだったし♪」
「あら、それは興味深い話ね。」
振り返るとさっきまで話題の中にいた生徒会長がたっていた。
(((((マズい!!!)))))
「これは一回手合わせ願いたいわね」
皆さんご存知の通り白皇学院生徒会長、桂ヒナギクは負けず嫌いなのである。
「一体どんな人なのかしら?」
その目はなんというか殺る気満々だった。
「はい、みんな〜、席について〜。ホームルーム始めるわよ〜」
ナイスなタイミングで、雪路がなんだか嬉しそうな声で教室に入ってきた。そして
「今日、このクラスに転入生がきます!」
これからが冒頭の部分である。
「そういえば桂先生、ご機嫌ですね。 もしかして昨日お金貸したんですか?」
「バカっ!そんなわけないでしょっ!」
「それじゃぁ、どうして」
ハヤテは実はヒナギクの隣の席だったりするわけで、 そんな二人を見てご機嫌斜めなお嬢様もいたりする。 するとクラスの方では
「男?女?」 「男の子よ!」
男子からはなんだか残念そうな声が聞こえたが、 それを無視して女子たちが雪路に質問を続けていく。
「その子はカッコいいですか?」
(あれ?デジャヴ多くない?ってこれはいかん!!)
ハヤテはここに転校したとき雪路のオーバーすぎる説明のせいで冷たい視線の中、自己紹介をしたことがあった。転入生にそんなことはさせまいと雪路の説明に割ってはいる。
「めちゃくちゃカ「わーーー!!!先生!転入生待ってますから!待ってますから!ね!」
「ん〜、それもそうね。じゃあ入ってきて〜」
転入生が入ってきた瞬間クラスが静まり返った。 それはハヤテのときとは違う、 全員がその青年に・・・
感動した。
人には普通こんな言葉はつかないが、 その言葉でしか言い表せないほど、彼の姿は綺麗で まるで絶景をみているかのようにクラスの目は彼に釘付けになった。 すらりと高い背にモデルを思わせるかのような長い脚、 そして中性的だがとても整い、それでも男らしさを感じさせるその顔に 人ってここまで綺麗になれるものなのか、と全員がそう思った。 ナギもハヤテもヒナギクも、皆が・・・
もし彼の姿や雰囲気を一言で表すなら・・・
神々しい
文字通りその言葉のままだった。
一瞬の沈黙の後、
「初めまして。今日から皆さんと学校生活を送らせていただく 初神(はつがみ)岳(がく)です。 どうかよろしくお願いします。」
神様のような青年は自己紹介を終えた。
全員が見とれていたため拍手が鳴るのに少し間があったが、 その音はハヤテがここに来たときよりも大きかった。
岳は一礼すると雪路と話し始めた。どうやら席がどこかを聞いているようだ。
「それじゃ、綾崎君の後ろの席に座って。ちょうど空いてるし。」
正直ハヤテは緊張していた。さっきまで自分も見とれていた人がすぐ後ろに来るのだ。緊張しない方がおかしい。どんなことを話そうか、友達になれるか、などいろいろ考えていたら彼がすぐ隣で止まった。しかし彼は自分と反対の方向を向き、
ポフッ
ハヤテの隣の席の少女、ヒナギクの桃色の髪の上に手を置いた。 その光景にクラス全員が目を丸くしたが、次の会話はクラスをさらに驚愕させた。
「久しぶりだな、ヒナ。それにしても大きくなったなぁ。」
「ガ・・ガウ君?」
「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」」
今日、転入してきためちゃくちゃ凄そうな転入生とあの完全無欠の生徒会長が知り合い。さらにとても親しげなのだ。皆、声を上げずにはいられなかった。
「それじゃ、あとは質問タイムってことで♪じゃーね〜♪」
雪路はクラスの驚きなど露知らず何処かへ行ってしまった。
「いやぁ〜、雪さんからヒナが会長務めてるって聞いたときは驚いたよ。あんなにちっちゃ かったのがホントに立派になったなぁ。」
「ちょっ!ちょっと!ガウ君!?」
岳はそのままヒナギクの頭を撫で回していた。 それを見た瞬間ハヤテは自分の中で黒い感情が渦巻いているのを感じ、それはどんどん大きくなってハヤテは無意識のうちに立ち上がっていた。
「ちょっと!何してるんですか!?」
「あぁ、すまん、すまん。久しぶりの再会だったから。つい、ごめんな、ヒナ。」
岳はすぐに手をどけ、ハヤテと向き合った。 ちなみにヒナギクは手鏡を見て少しはねてしまった自分の髪を直している。
「改めて、俺は初神 岳 よろしく綾崎ハヤテ君」
その言葉でまたクラスがザワつき始めた。そうハヤテはまだ名乗っていないのだ。 ハヤテは驚いているのを上手く隠しながら岳に質問を始めた。
「どうして僕の名前を知っているんですか?」
「ん?あぁ、さっき雪さんにクラス名簿見せてもらったんだよ。」
どうやら頭がズバ抜けていいのは本当らしい。ハヤテはまだいくつか質問が残っていたが次の質問で強制終了させられた。
「あなた・・・初神さんとヒナギクさんの関係は?」
「えっと・・・」
「それは・・・」
ヒナギクも髪を直し終わったのか質問に入ってくる。
「「兄妹・・・みたいな?」」
「「「「「えっ!?ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」」」」」
ハヤテは今日何回驚いたのか分からなくなってしまった。
どうも、読んで頂いた方ありがとうございます。オリキャラの岳君はどうだったでしょうか?ちょっと美化しすぎなんじゃね、と思った方まだまだこんなもんじゃありませんよ。なんといってもヒナさんの兄(仮)ですからね。次回は岳君について知ってもらうような回にしようと思います。ちなみにオリキャラの二人目は結構あとで出てきます。あ、それではプロフィール載せますね。
初神(はつがみ)岳(がく)
誕生日 11月20日
身長 176cm
体重 50.8kg
年齢 16歳じゃないんだなぁ
血液型 A型
家族構成 一切不明 しいて言うなら妹(ヒナ)
好き・得意 レナ,ヒナ,ハヤテ,とりあえず全部 嫌い・苦手 あったら無くす
黒髪,瞳の色も黒 得意じゃないことが全くといってもいい程なく、 例えあったとしても得意になるまで頑張る努力家です。 まぁなんでもできる理由は実は他にあったりするんですが。 ヒナギクや雪路との関係は次回明かす予定です。 強さとかも次回になるかな? それ以外の特徴はハヤテ並のフラグ体質ですが、 鈍感ではなく、目を合わせただけで自分にどんな感情を持っているか分かる程鋭い。ていうかもはや能力。だけど彼女とかはいません。ていうか好きな人がいました。ヒナさんじゃないですよ。一応オリキャラとして出す予定ですがめちゃくちゃ後です。上に名前は書いているんですが。
プロフィールはこれぐらいですかね。相変わらずの文章力の無さですがよろしくお願いします。それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と(完結) ( No.2 ) |
- 日時: 2014/06/05 02:39
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
ペースを上げて更新です。 えっ?試験?赤点取らなきゃいいんです! で、では更新!(汗)
「「兄妹・・・みたいな?」」
「「「「「えっ!?ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」」」」」
「ちょっと、どういうことなんですか!?ヒナギクさん!」
兄妹と聞いた瞬間ハヤテは少し怒ったような表情でヒナギクに詰め寄った。 ヒナギクはハヤテに息がかかる程近くまで顔を近づけられ何か言うこともできずに、顔を真っ赤にさせている。普通こんな状態になると憤慨して止めに入って来るはずの男子生徒やナギも先ほどの驚きから抜け出せず機能停止していた。
「どうしてこんなこと黙ってたんですか!?」
ハヤテも自分がとんでもないことをしているのには気づかず、ますますヒナギクに詰め寄り、終いには浮気した彼女を問い詰めるような感じになってきている。 そんな中、ハヤテは誰かに肩を叩かれ、振り向くと バチン!
岳からなかなか強烈なデコピンをくらった。
「はいはい、そこまで。ちゃんと説明するから皆おちついて。」
岳の呼びかけでクラスは我に返ったが、皆不満そうな顔をしていた。余程説明が欲しいのだろう。
「あ〜、じゃあ今から説明するけど、その前にハヤテ!」
「はっ!はい!!」
突然名前を呼ばれて焦るハヤテ、自分が何か悪いことでも言ったのか、そんなことを考えていると、岳は自分を、いや自分の後ろを指差して
「ヒナが爆発しそう。」
「へっ? うわあぁ!!ヒナギクさん!?大丈夫ですか?ヒナギクさん!!」
第3話 『Message』
ハヤテはヒナギクを介抱しながら、そしてナギや男子クラスメートの殺気をこれでもかというほど受けながら岳とヒナギクの関係を聞いていた。どうやら岳とヒナギクは幼馴染というほうが正しいらしいが、ヒナギクが岳をとても頼りにしていたため、兄妹のほうが近いんじゃないかということで、さっきの発言が出てきたようだ。 誤解が解けたあと、岳への質問は凄まじく3,4個の質問が同時にとんでいたらしい。 ハヤテはヒナギクとの件でナギがご機嫌斜めだったので、無理に誘うようなことはせず、次の時間の用意を始めた。ヒナギクはというと、ハヤテに介抱されていると気づくと凄い速さで自分の机にうつぶせになり、それから一向に顔をあげようとしない。 時間の流れというものは不思議なもので、あれだけ気まずかったハヤテ,ナギ,ヒナギクは昼休みが始まる頃にはいつも通りはなせるようになっていた。
「それじゃ、ハヤテ。私は伊澄とお昼にするから!」
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
「あまりヒナギクとイチャイチャするなよ」
「なっ///!!そんなことしませんよ!!!」
まんざらでもない反応が面白くないのかナギはそのまま伊澄とカフェテリアに行ってしまった。
「おーい、ハヤテ。よかったら一緒に昼飯食べないか?」
ナギがいないので1人で昼食をとろうとしていたハヤテに岳が声をかけてきた。
「別に構いませんけど、どうして僕なんですか?」
昼食に誘ってくれるのは嬉しいが、岳と一緒に昼食をとりたいクラスメートはたくさんいるはずだ。現に多数の女子がこちらを見ている。それなのに最初こそいろいろあったとはいえあまり接点のない自分を誘ったことを疑問に思い、思わずきいてしまった。
「あぁ、少しお前と話がしたくてな。あ、ヒナも誘うけどいいよな?」
「え?ヒナギクさんも?/// まぁ構いませんけど。」
先程ナギに言われたせいもあってか妙に意識してしまう。
「よし!決定な。おーい!ヒナー、一緒に飯くおうぜー。」
ヒナギクはOKをだすとすぐに弁当を取り出し、ハヤテたちのところに向かった。
「ねぇ、お昼、生徒会室で食べない?誰も来ないからゆっくり話せるし。」
「それはいいな。じゃぁさっさと行こうぜ。」
生徒会室に着いて岳の目に最初に止まったのはやはりテラスからの景色だ。ヒナギクは相変わらず机に直行していたが、ハヤテは時間こそ違うが自分が救われた景色を見にテラスの方に向かった。
「凄いな・・・」
「そうですね。・・・ここからの景色はとても・・・とても素晴らしいです。 ところで、さっき僕と話をしたいと言ってましたけど、何ですか?」
それを聞くと岳は真剣な表情になり
「教室で話したことも嘘ではないんだがな・・・」
そう言って、ハヤテがさっき聞いた内容と少し違う真実を聞いた。 それは岳とヒナギクが幼馴染ではなく、彼にはそんなつもりはないようだが、岳がヒナギクと雪路の命の恩人ということだった。
ヒナギクと雪路の両親が借金を残して逃亡して1週間、彼女たちはまだ桂家に引き取られてはおらず、昨日までいたアパートも追い出されていた。3月に入っているというのに、まだ気温が低く、高校生の雪路ならともかく、野宿でもしようものならヒナギクが確実に凍死してしまうような状況だった。そんな時、
「よかったら、俺ん家に来ない?」
ヒナギクと年が変わらないような少年に声をかけられた。しかしその少年はその年齢とは思えない程、大人な雰囲気を醸し出し、同時に自分たちを助けようとしてくれていることも伝わってきた。雪路は少年について行くことにした。 少年の家は1階建ての3LDKで広いとは言えないが、二人にとっては十分だった。
「やば!!バイト遅れる!ありがとう、ご両親にもそう伝えといて。ヒナをよろしくね。」
雪路はそう言ってバイトに行ってしまった。残された二人は両親という言葉に寂しそうな顔をしていたが、次第にヒナギクが重い空気に耐え切らなくなり、何か話さなければと考えた結果、
「えーと?名前何ていうの?」
「え?名前?名前はガウス・nっ!!!」
少年はまだ考え事をしていたので、無意識に口にでた言葉を慌ててしまった。
「ガウス?それじゃ略してガウ君だね!」
「え?あ、うん それでいいよ。一応 岳って名前だから。えーと?ヒナだっけ?」
「うん。ヒナギクっていうの。」
岳は略して文字数が増えていることはあえてつっこまないことにして、お腹も減ってきたのでご飯を作ることにした。
「ヒナは何食べたい?」
「ハンバーグ!」
即答だった。岳は少しだけ微笑むとなれた手つきで料理を始めた。 岳が作った料理はとても子供が作ったものとは思えない程とても美味しく、さらに、その後の片付けや洗濯、終いには掃除まで岳は全てを完璧にこなしていた。 子供だったヒナギクにはそんな岳がとても眩しく見えた。だから
「私にも教えて!」
最初は失敗も多かったがヒナギクは飲み込みが早く、岳の的確なアドバイスもあったため、ヒナギクはいろいろなことができるようになっていった。さらに
「強くなりたい」
というヒナギクの要望に岳は剣道を教えた。岳がヒナギクに剣道を教えている光景はまるで兄妹のようだったという。 1ヶ月ほど経ってヒナギクたちが桂家に引き取られる前日、ヒナギクは前から思っていた疑問を口にした。
「ガウ君の両親って見たことないけど、どんな人たちなの?」
「いない・・」
「え?」
「俺には親がいない。」
そのことを聞いた時、凄い罪悪感に襲われた。
「ごめんなさい」
「もう慣れたし、1人でも平気だから。」
それを聞いたヒナギクはそのまま俯いてしまった。 兄はやっぱりまだ弱い妹の頭に手を乗せて、そのまま頭を撫でながら
「呼べば、助けに来てやるから」
その翌日、ヒナギクと雪路は桂家に引き取られた。
「おっと、もうこんな時間だ。今日は用事があるから先に失礼するぞ。じゃ」
岳は話を終えると教室のほうに戻ってしまい、生徒会室にはハヤテとヒナギクだけが残された。
「驚いた?」
「ええ、正直。 初神さんってヒナギクさんにとって大切な人なんですね。」
「うーん?どちらかといえば憧れていた人かな?小さい頃はお姉ちゃんやガウ君の背中を追いかけてたけど、今は自分らしく真っ直ぐに生きようって思ってる。」
ヒナギクらしい、ハヤテはそう思った。自分自身の力で生きていこうとしているこの少女の今をただ純粋に支えてあげたいと思った。そしてその先もずっと
「そうそう、ハヤテ君。ガウ君からの『伝言』なんだけど・・・」
ヒナギクは1切れの紙にかかれていることを読み上げる。
「これからは岳と呼ぶように、そして、 今、持っている気持ちを大切にって。ガウ君らしいわね。 じゃぁ、ハヤテ君、私たちも戻りましょう。」
彼女の笑顔に
「はい、ヒナギクさん」
ハヤテも笑顔で答えた。ハヤテはまだ気づいてないが、今ハヤテが持っている気持ちは
少しずつ
確実に
大きくなっている。
どうも、いやぁ自分でも驚きの展開。書いている途中でネタがどんどんでてきます。 最初は岳君の白皇案内っぽい感じにしようと思っていたのですが、よく考えてみるとあれだけ頭がよければ地図渡すだけでよくね?となり結局過去編っぽくなりました。名前が岳なのにヒナさんはガウ君とよんでいる分けもかけました。多分余計混乱させてしまったとおもいますがm(_ _)m。さて今回の題名はアルバム『Hina3』の一曲目『Message』を使わせてもらい、それに合わせヒナギクがなんでもできる理由、剣道をやっている理由を勝手ながら書かせていただきました。うまくできていたでしょうか?至らぬ点がたくさんあると思うのでアドバイスとかくれると嬉しいです。次から原作キャラを絡ませていこうと思っています。 それでは! ハヤヤーー!!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.3 ) |
- 日時: 2014/06/05 05:51
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンと申します。はじめまして。
このさき非常に面白そうなSSだと思いましたので、感想とアドバイスを書かせて頂きます。
まず感想から。 ハヤテがヒナギクに惚れる展開をちゃんと書き切っているSSというのは、実はそんなに多くないと私は感じています。そんな中、第1話でハヤテがヒナに恋をするきっかけが表現されていたのはとても好印象です。この先の彼の気持ちがどうなっていくのかが楽しみです。彼の気持ちの変化に際して、ナギを始めとする周囲の人々の反応も見所ですね。 ヒナギクの(ほぼ)告白も非常に心に訴えかけてくる表現だと感じました。「ハヤテが告白してくるまで待つ」など、恋愛事に関しては他責的な発言の多いヒナギクですが、本来の性格からすると第1話のような発言がしっくりと似合うと思います。久々にこーゆーのを読んだ気がします。 また、タッキーさん自身がヒナ関連のネタをしっかり研究されているのが随所に感じられます。私も『HiNA』シリーズは大好きで、よくSSのネタに拝借しますので。笑
次にちょっとアドバイスです。「人称」と「副詞」についてになります。
まず「人称」について。基本的には三人称で進んでいる作品だとお見受けしますが、ところどころハヤテ目線での語り口が混ざっています。第1話の最後のモノローグが一番分かりやすい所ですね。 人称が安定していないと、読者の視点はあっち行ったりこっち行ったりと、非常に混乱した状態となってしまいます。ハヤテの心情を書きたくなるのだとは思いますが、ここはグッとこらえてスマートに表現してみてはいかがでしょう?
次に「副詞」について。実際にSSで使われた表現をココでピックアップしてみます。 「多少の疲れ」「相当うなされていて」「凄い罪悪感」「少しだけ微笑むと」――キャラが話し言葉で使う分にはよくある表現ではありますが、三人称での語りで使われるとなると、どの程度なのかはっきりしない印象を受けます。例えば、疲れている事でヒナギクがどんな様子を見せているのかの表現があれば誰が読んでもはっきりわかる物になるかと思います。 良かった例を出しますと…「ヒナギクはハヤテに息がかかる程近くまで顔を近づけられ」――これならどのくらい近いのか分かりやすいです。(「近くまで近づけられ」という表現は多少くどいですが)
最後に、誤字に関してはチェック機能で指摘させて頂きました。アテネの苗字は多くのSS書きさんによく間違えられるのでこの機会に覚えておくと良いかと思います。ちなみに「天王洲」は地名で、変換すると一番最初に出てくる紛らわしい単語です。 誤字脱字は、SSが完成して少し時間を置いてからもう一度読み直す事で発見しやすくなります。完成直後の作者というのは酔っ払いと同じで、客観的な視点で自分の作品を見る事が出来ない生物ですからね。是非お試しください。
ではでは、長文で失礼致しました。 次回も楽しみにしております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.4 ) |
- 日時: 2014/06/06 04:54
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- あわわわわ!初めまして!まさか1番最初に感想をくれた人があのロッキー・ラックーンさんだなんて。
正直こんなに早く感想をもらえるとは思っていなかったので、只今、涙腺崩壊中です。 それにしてもアドバイス、本っっっ当にありがとうございます! 自分は360°理系なので、こういう指摘はすごく為になります。 すぐにはなかなか直せないと思いますが、少しでも面白い作品ができるように頑張りたいと思います。誤字脱字の指摘もありがとうございました。 「しあわせの花」凄くお気に入りの作品です。Cutiesも楽しみにしてます。 それでは自分もロッキーさんのような大作を作る為に! 更新!
岳が白皇に転入してきた日の夕方。 ハヤテは元クラスメートの西沢歩と「喫茶どんぐり」のバイトに入っていた。 もともと客の少ない喫茶店なので、ここのバイトはお喋りできる時間が多い。そして今日の話題はやはり転入生とヒナギクの話になっていた。
「へぇ〜、それじゃその転校生ってとても凄い人なんだね。ていうかヒナさんのお兄さんをできる人なんてもはや人間の領域越してるんじゃないかな?」
「確かにもう神様なんじゃないかってぐらい凄い人なんですよね〜。」
自分も十分人間離れしていることを棚に上げて歩の意見に同意するハヤテ。そんな話をしていると、お店の扉が開き客が入ってきた。
「いらっしゃいませ〜・・・・・っ!!!」
歩は入ってきた客の綺麗すぎる容姿に目を見張った。そして
「いらっしゃいませ〜って岳さん?」
「よう、ハヤテ!伝言がきちんと伝わっているようでよかったよ。」
「えええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
ここでも驚きの声が上がった。
第4話 『今いる場所』
「もぉ、アリスったら。もっと早く連絡くれればいいのに。」
今、ヒナギクはアパートへ移る準備をしている。実はアリスと呼ばれた少女、本名、天王州アテネは2週間ほど前から旅行に出かけていて、ヒナギクはこの期間を利用して桂家へに帰っていた。理由は久しぶりに両親とゆっくり話がしたいからと、とても親孝行なものだ。しかし、先程、手紙で今日帰るという連絡がきたので、急いで身支度をしているのである。ちなみにアリスが小さくなったアテネだということは知っており、小さいときは「アリス」、大きいときは「天王州さん」と呼んでいる。まぁ名前で呼んでいいと一応言われてるらしいが。
「じゃぁ、行ってきます!お義母さん。パパにもよろしく伝えといて。」
「はいはい、行ってらっしゃい。元気でね。」
ヒナギクは久しぶりにアテネに会えるのが嬉しいのか、足早にアパートへ向かっていった。 ヒナギクがアパートに着くとハヤテと歩がいた。
「あ、ヒナギクさんお帰りなさい。今日からこっちに戻られるんですよね。」
「ただいま、ハヤテ君、歩。それ知ってるってことはアリスはもう帰ってるのね。」
「さすがヒナさん。それにハヤテ君たちも週末までこっちにいるみたいですよ。」
「そうなの?じゃぁよろしくね、ハヤテ君。」
「はい、よろしくお願いします。夕食はもうできているみたいなので、入りましょうか。」
中に入ると美味しそうな匂いが漂ってきて、3人の空腹感をより刺激した。リビングまでいくと、魚の煮付け、肉じゃが、ほうれん草のごま和えなどやはり美味しそうな料理がテーブルの上に並んでいた。
「おかえりなさい、ハヤテ君、西沢さん、ヒナギクさん。」
「「「「おかえり」」」」
そこには既に夕食をとっているナギ、千桜、カユラ、アテネと、美味しそうに食べている四人をみて嬉しそうな顔をしているマリアがいた。
「千桜、この後ゲームするぞ!」
「勉強して風呂入った後でな。」
「私も参加する。」
そこにあるのはいつも通りの光景で、それを見ているとハヤテは安心するような、そして温かいような気持ちになった。
「ハヤテ?夕食の後ちょっとお時間よろしいかしら?」
ヒナギクと歩が手を洗いに行っているとき、アテネがハヤテに声をかけてきた。
「え?別にいいけど、どうしたの?アーたん?」
「少し話があるだけですわ。あなたの部屋で待ってますから。」
そう言うとアテネは先にハヤテの部屋に向かって行った。アテネを待たせてはいけないと急いで食べ終え、部屋に向かうと、そこには大きくなって、黒いドレスを着たアテネがいた。
その頃、夕食を食べ終わったヒナギクと歩は一緒に風呂に入ることにした。
「ヒナさんとお風呂入るのって結構久しぶりだね。」
「そうね。いっときこっちに居なかったし、その前も生徒会で遅くなってたから、よく考えると、ホント久しぶりね。
「せっかくだから、襲っちゃおうかな。」
「もう、変なこといわないでよ。」
脱衣所でそんな会話をしながら、風呂に入る準備を進めていく二人。風呂に入り、体を洗う時に流しっこをしようということになった。
「ヒナさんにとって、今いる場所はどうですか?」
ヒナギクが背中を流してもらってる時、歩が唐突な質問をしてきた。
「何よ?藪から棒に。」
「いやぁ〜、ヒナさんたちがいなくて実は結構寂しかったんですよ?だから何というか、自分はやっぱり、この場所が好きだなぁって。ナギちゃんやマリアさん、ルカたち、そしてヒナさんがいるこの場所が。」
「そうね。私も皆がいるこの場所が好き。」
今いる場所は、それほど悪くはないでしょ
ヒナギクは自分のハヤテへの恋心を自覚した言葉を思いだしていた。あの時は、いや今でも失うことは怖い。だからこそ自分のいる場所を大切にしたいと思っている。
「でもやっぱり、一番いてほしいのはハヤテ君なのかな?」
「ちょっ!ちょっと!そんなこと大きな声で言わないでよ!」
「はは、それにしてもヒナさんにあんな素敵なお兄さんがいたなんて驚いたよ。」
「え?歩、ガウ君に会ったの?」
「うん、今日バイト先に来てね、ハヤテ君の話以上だったからビックリしたよ。」
歩はどんぐりで岳と会ったことを話した。初めて見たときはやはり言葉を失ったという。それにハヤテが仕入れをとっている間、コーヒーの淹れ方を教えてもらったらしい。まぁ客から教えてもらうのもどうかと思うが。
「ガウ君、ホント何でもできるからねぇ。ていうかあの人はお兄さんみたいってだけで、実際はそうじゃないわよ?」
「知ってるよ。 ・・・けどやっぱりヒナさんがいると楽しいね。」
そう、ナギや歩、美希、理沙、泉、千桜、愛歌、ルカ、アテネ、岳、そしてハヤテ。他にもいろんな人がいるココはとても温かく、とても大切だ。
「私は今いる場所が好き。」
風呂をあがるとき、歩に聞こえないようにヒナギクはそう呟いた。
一方ナギたち
「「「だああぁぁぁ!!!ラー○ャン2頭同時なんてやってられかぁぁぁ!!!」」」
モンハンを絶賛白熱中だった。
時は少し戻ってハヤテの部屋。ハヤテはアテネが元の姿になっているので、大事な話かと思ったが、次の言葉を聞く限りそういうわけではないようだ。
「ハヤテ、少しだけお喋りをしましょうか」
ハヤテとアテネが話したのは本当にたわい無い話だった。学校やお屋敷、このアパート、そして執事の仕事はどうかとか、最近ハマっていることとか・・・ するとアテネは急にヒナギクのことを尋ねてきた。もちろんハヤテは何故ヒナギクが出てきたのか分からなかった。
「どうして、急にヒナギクさんのことを?」
「いや、今日からヒナがこっちに戻ると伝えたとき、ハヤテが凄く嬉しそうな顔をしていたからヒナのことを好きなんじゃないかな〜と思って。」
「えっ!?/// た、確かに嬉しいとは思ったけど、べ、別に好きとかじゃなくて・・・。だから・・・、その〜・・・」
「冗談よ。でヒナはどうなの?」
「もぉ〜」
アテネはハヤテのまるで恋する乙女のような反応を可愛いと思いながら、ヒナギクのことを再び訊いた。ハヤテも友達のことを知りたいんだろうと自分の中で的外れな結論をだし、ヒナギクのことを話し始めた。それを聞いていたアテネの表情は嬉しそうだったが、寂しそうで、何かを押さえ込んでるようだった。
「ハヤテ、あなたにとって一番大切で守りたい人は誰?」
ヒナギクの話を聞いた後、アテネはまた唐突な質問をした。ハヤテは最初は一瞬驚いたが、表情をもとに戻してその質問に・・・・・ 答えきれなかった。 ハヤテが言おうとした人物と頭に浮かんだ人物が重ならなっかたのだ。
「・・・・・もちろんナギお嬢様だよ。」
ハヤテは結局初め口にしようとした人の名前を答えたが、それまでには少しの間があり、 その間はアテネにある結論をださせるのに十分すぎるものだった。
「ハヤテー!ハヤテーーー!!!」
ナギが自分の執事を呼んでいる。
「それじゃぁ今日はこれでおしまい。早く行ってあげないとあのお嬢様のことですから、すぐにヘソを曲げてしまいますわよ。」
アテネは立ち上がり、ハヤテに早く行くよう促した。ハヤテもすぐに立ち、主のところへ駆けていった。
「あんな幸せそうな表情をされては、応援することしかできませんわよ。」
堪えていたものが溢れ出し、それが床に落ちたとき、そこには大きいアテネではなく小さいアリスがいた。しかし、大きくても、小さくても、彼女は失恋した一人の少女で、この時だけは、溢れてくる涙が止まらなっかた。
どうも!いかがだったでしょうか?今回は岳君あんまり出ませんでしたね。実は彼そんなに重要なキャラというわけではないんですよ。どちらかというとサポート役?みたいなかんじですね。 てことで今回アパートの風景を書いてみました。自分の中では全体的に賑やかだけど、ときどき裏で静かな展開がある、そんなイメージがあります。今回はアテネと決着がつきました。自分はハヤヒナ派ですが、ヒナさん以外の人がハヤテ以外とくっつくのもなんだかしっくりこない我が儘な野郎なので、誰かとくっつけることはしないと思います。ハーレムもなんかピンとこないんですよね。ホントこれなんなんでしょう? 次回はハヤテが嫉妬する話でいこうかなと思っています。 最後にロッキーさん、感想とアドバイス本当にありがとうございました。今回は結構意識してかいんたんですが、至らぬ点があったら、よろしくおねがいします。 それじゃ! ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.5 ) |
- 日時: 2014/06/06 20:03
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
数学の試験終わったーー! 二重の意味で終わったーー!orz 凄く旅に出たいです。ちなみに財布の中身は・・・12円orz まぁなんだかハヤテっぽいということで少し嬉しかったり、でも現実を見るとやっぱり・・・ ええい!挫けちゃダメだ! ということで更新!
今日の僕は、なんだか自分らしくないと思う。 人との会話は上の空、授業だって、ノートこそとっているものの、先生の話は全く頭に入ってこない。そしてなにより・・・
イライラしている。
その原因の目星は一応ついている。今、隣で楽しそうに談笑している1組の男女だ。 彼らは昔からの知り合いで、昨日久しぶりに再会したのだから、話が盛り上がるのは分かる。でも彼と楽しそうに話している彼女を見ていると胸が締めつけられるような気分になった。 あ、また彼女が笑った。 彼女が笑顔でいることは僕にとっても嬉しいはずなのに、今日はなんだか面白くない。 ホント、この気持ちは一体なんなんだろう? 今日は、自分らしく皆さんに接することができない気がする。
第5話 『Feeling ugly yourself』
今朝、ハヤテはヒナギクと一緒に登校していた。ハヤテは生徒会の仕事はいいのか、と尋ねたが、先日ハヤテが片付けた分でほぼ終わっていたらしく、その心配はないらしい。 ちなみにお嬢様の方は言わずもがなアレである。なんでも今日はアパートの大家として、自宅警備に専念するらしい。夏休みやラスベガスの件で結構成長したと思っていたハヤテとヒナギクはナギの将来をマジメに心配し、頭を抱えていた。
「昨日はちゃんと学校に来てくれたのに。さすがに自宅警備を理由に出すと、この先が思いやられますね。」
「いくらお金があるからって、あのままニートになられるのは、ちょっとねぇ。」
もう完全に娘のことを心配する父と母である。
「おはよー、ってなに二人とも朝からくらい顔してんだ?」
校門についたところで二人は岳から声をかけられた。
「あ、おはようございます。まぁ、ちょっとお嬢様の引きこもりを何とかできないかと。」
「ナギったら今日、学校にきてないのよ」
「あぁ〜ナギちゃんね、成程。ていうか何だか夫婦みたいだな、お前ら。」
岳の爆弾発言に、お湯が沸騰する勢いで顔を赤くさせる二人。ヒナギクが必死に反論しようとするが、
「そ、そんな!///私たち、まだ結婚は早いわよ!!!」
「ふ〜ん。『まだ』ねぇ〜。」
思いっきり地雷を踏んでしまった。 そのあとヒナギクは岳に散々からかわれ、ハヤテはそんな二人の会話に気絶しそうになっていたので、ヒナギクのフォローに入ることができなかった。教室に入る時、岳はとてもご機嫌な表情をしているのに対し、後ろの二人は顔を赤くさせて、お互いの顔を見ないように背けていた。そんな光景を疑問に思った美希は何があったのか聞こうかしたが、ハヤテとヒナギクはその前にそそくさと自分の席に行ってしまい、そのまま黙り込んでしまった。もちろん顔は背けたままで。
「おはよう、それよりあの二人何かあったのか?」
「ん?まぁ二人とも純情でお熱いってことだ。」
岳に聞いても詳しくは教えてくれなかった。
そして、ハヤテの中に黒い感情が生まれるのは2時間目の休み時間のときだった。
「ねぇ、ガウ君?さっきの授業を応用したやつなんだけど。」
「あぁ、それならこの部分をこういうふうに変換させて・・・・」
先程の授業の内容ではなく、まだ習っていないその応用を質問をするヒナギクも十分凄いが、それにあっさりと答えていく岳はもっと凄いだろう。ハヤテは勉強の参考になるのではと、話に混ぜてもらおうとしたが、隣を見た瞬間、動けなくなってしまった。 二人の距離は肩が触れ合う程近く、何も知らない人からしたら、仲のいい恋人と思われても仕方ないようなほど、二人は楽しそうに話していたのだ。 ハヤテはまだこの感情の名前を知らないが、それが自分の中にあることだけは、はっきりと自覚した。 何故ヒナギクは自分じゃない人とあんなに笑っているのか、何故彼女の隣にいるのが自分じゃないのか、など様々な考えが頭を回り、ハヤテは周りが見えなくなっていた。
「・・テ君、ハヤテ君!」
「っ!はいっ!!!」
ハヤテはこの感情を嫌悪し否定しようとしていて、ヒナギクに呼ばれているのに、いっとき気付けなかった。
「大丈夫?ハヤテ君、なんかボーっとしてるみたいだったけど?」
「え?あ、あぁ別に・・・・・」
そう言っている途中でふとヒナギクの後ろを見てみると、岳がなんだか勝ち誇ったような笑みを浮かべていて、それを見た時ハヤテのなかで何かの堰を切ったような音がした。
「・・・・・・」
「な、何よ・・・」
「それにしてもヒナギクさん、なんだか随分と楽しそうですね。」
ヒナギクは最初、自分の耳を疑った。いつもは優しい表情で話しかけてくるハヤテが急に声のトーンを落とし、いかにも自分は今、不機嫌ですよと言わんばかりの顔で話してきたのだ。
「もしかして、怒ってる?」
ヒナギクはハヤテの急な変化に戸惑うことしかできず、いつもはハヤテのセリフなのに、その言葉が思わず口に出ていた。
「別に、そんなことありませんよ。」
そう言い捨てるとハヤテは教室から出て行ってしまった。ハヤテの方もヒナギクが少し悲しそうな顔をしているのを見ると耐え切れなくなり、逃げてしまったのだ。 クラスの皆はその光景をとても驚いた様子で見ていて、我に返った三人娘が
「ど、どうしたの!?」
「ハヤ太君と喧嘩でもしたのか!?」
と心配そうに訊いてきたが、ヒナギクは少し落ち込んだ様子で、曖昧に答えることしかできなかった。 ハヤテとヒナギクはそのまま放課後までお互い口を聞かず、授業が終わるとハヤテはすぐに帰ってしまった。
生徒会室、岳はヒナギクの相談に乗るため彼女を待っていた。元々自分が原因だとはわかっていたため、今日中には仲直りをさせようと考えている。 エレベーターが開く音が聞こえてすぐ、ヒナギクが生徒会室に入ってきた。いつもは自分一人の空間に先客がいると気になるわけで、
「どうしたの?ガウ君。何か用?あとここは役員以外立ち入り禁止よ。」
ハヤテのことで落ち込んでいたため、言葉にトゲがでてしまう。しかし岳はそれを全く気にしていないようだった。
「すまん、すまん。まぁ可愛い妹の悩みでも聞いてやろうと思ってな。まぁそんなわけで最初の質問だがヒナ、お前ハヤテのこと好きだろ?」
「なっ!!///なんでそのこと!!!」
さっきまでの落ち込んだ雰囲気は何処へやら、ヒナギクは必死に照れ隠しをしようとするが、全然隠せてない。
「否定はしないのな。」
「もぉーーーー!!!///」
それから結局ヒナギクは岳に悩みを打ち明けた。ハヤテの急に態度を変えたことは自分が悪いんじゃないか、ハヤテに嫌われてしまったのではないか、など。しかし一通り話し終えて、岳の方を見ていると、なんだか笑うのを堪えている様子だった。
「な、何よ!私は真剣な話をして!」
ヒナギクはもう泣き出す一歩手前だった。
「あぁ!!悪い、悪い!俺が悪かったから泣くなって!」
「べ、別に泣いてなんか・・・」
相変わらずの負けず嫌いだなぁと思いながら岳はヒナギクの頭に手を置き、話を始めた。
「でも、たとえ嫌われても、ハヤテのことが好きなんだろ?」
「!!!」
「たしかに嫌われるのは悲しいし、辛い。すれ違いが重なって大切な人を酷く傷つけてしま時もあるかもしれない、けどな・・・・」
ヒナギクが顔を上げたその先には、助けてくれる、励ましてくれる、見るだけでそう直感させられるような表情をした兄の姿があって、
「その人を大切に思っている気持ちが本物なら、必ず想いは伝わる。やり直せる。だから心配すんな。それにお前は俺の自慢の妹なんだから。」
ヒナギクは強く頷くと、ありがとう、と一言だけ言って、自分の進むべき方向に駆けていった。
「ハヤテに嫉妬させるためだったとはいえ、少しやりすぎたからなぁ。 まぁ、ハヤテの方も大丈夫っぽいし、一件落着ってことで。」
残された岳もほっと安心したように微笑むと、彼女の後を追った。
どうも!読んでいただいた方、ありがとうございます。 今回はハヤテ視点に挑戦してみたり、ハヤテを嫉妬させてみましたが、どうだったでしょうか?やっぱりなんだか普段のハヤテとは全然違う感じになってしまいました。いや、まぁハヤテも高校生なのでちょっと誰かに当たりたくなる時もあるんじゃないかなぁと。こんなのハヤテじゃねぇー!と思われた方、誠に申し訳ありません。次回はハヤテサイドを書こうと思っているので、多分短い・・・かな? そして次はあの人がでます!(オリキャラじゃないよ) ちなみに岳君は男子でも女子でも下の名前で呼ぶ癖があります。実はこれにも理由があるんですよ。 とりあえず今回はハヤテ的にすいませんでした。 次はちゃんとキャラを大事にしていこうと思っています。 それじゃ! ハヤヤー!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.6 ) |
- 日時: 2014/06/07 20:19
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
タッキーさんの更新頻度の高さに非常に感心して、私も頑張ろうと思っているココ最近であります。(投稿出来るとは言ってない
アリスちゃん、「今いる場所」、嫉妬に狂うハヤテと、興味深いネタが絶えない展開ですね。ヒナギクと歩の入浴シーンや、恋心ゆえの身勝手さをさらけ出すハヤテなんかは私もやりたいと思いながらやってないネタで、大変参考になります。 オリキャラ岳くんの扱いも絶妙ですね。ハヤテキャラの立場を保ちつつ、しっかりと活躍できていると感じます。 2人がここからどうやって距離を縮めて行くのか、とても楽しみな所です。
さて、今回も「人称」のアドバイスです。よくお使いになってる「○○してきた」という表現について。その中から一節を抜粋して…
「ハヤテとアテネが話したのは本当にたわい無い話だった。学校やお屋敷、このアパート、そして執事の仕事はどうかとか、最近ハマっていることとか・・・ するとアテネは急にヒナギクのことを尋ねてきた。」
ラスト一文、尋ねて「きた」と感じるのはハヤテだけなので、ここだけハヤテ目線に切り替わっている状態になってます。三人称で相応しい表現に直すとするなら、「尋ねた」だけでOKかと思います。
逆に、ハヤテ目線に近い立場の三人称で表現するのもアリですね。やってみます。
「学校やお屋敷、このアパート、最近ハマっていること、そして執事の仕事はどうかなど…アテネとの会話は、ごくごくたわい無い内容ばかりであった。が、唐突にこれまでとは異質な質問をハヤテは受けた。ヒナギクとの関係についてだ。」
同じ三人称でも誰に近い神の目線かを考える事で、意味深なフラグを強調するなどテクニカルな事が出来るのではないでしょうか。普段私は一人称のSSしか扱わないので、あまり掘り下げた事を言えないのですが…ご容赦ください。
あと、辞書を活用しましょう。慣用表現を使う際にはその都度意味を確認する事が文章を書く上で肝要です。(オヤジギャグ 文章が良くなるだけではなく、自身の引き出しが増えるという意味でもオススメします。私もSSを書く際は必ずネットの辞書を開きながら打ち込んでおります。
毎度長文で失礼しました。 次回楽しみにしております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.7 ) |
- 日時: 2014/06/07 23:53
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
毎回同じ入り方ですいません。 さて、今回は前回のハヤテサイドの話からです。 ちなみに前回の題名「Feeling ugly yourself」は「醜い自分を感じて」という意味です。知っていられたらすいません。 あと題名は日本語、英語で交互にまわしているわけではないです。 それではなんだかんだで・・・ 更新!
「何故僕はあんなことを・・・」
帰り道、ハヤテは学校でのことを後悔していた。特にヒナギクにきつく当たってしまったことは、ハヤテのアパートへ向かう足取りをより重くさせていた。
「もう完全に嫌われたかな。まぁ、いっつも迷惑ばかりかけてたし嫌われるのは当然か・・・」
そんな時、昨日のアテネからの質問をふと思いだし、ハヤテは歩みを止め空を仰いだ。
(あなたにとって、一番大切で守りたい人は誰?)
「ヒナギクさんは・・・」
ハヤテは、一昨日の夕方に、ヒナギクと時計塔からの景色をみた時から、自分の中にもやもやした感情があるのに気づいていた。
ヒナギクといると楽しい・・・
ヒナギクが笑うと嬉しい・・・
ヒナギクが他の男といると面白くなくて、ヒナギクが悲しそうな顔をすると胸が張り裂けそうなほどつらい・・・
そしてなにより・・・
ヒナギクの隣にずっといたい・・・
(僕はもしかしてヒナギクさんのことを・・・)
自分の何か大切な気持ちに気づきかけた時、ふいに後ろから声をかけられて、何を考えていたのか分からなくなってしまった。
「な〜に陰気臭い顔してるの?ハヤテ君。」
「ルカさん・・・」
第6話 『月の祈り』
国民的アイドル、水蓮寺ルカ。ラスベガスライブ以降さらに有名人になった彼女が何故こんなところにいるかというと。
「明日の夕方までオフだから、久しぶりにアパートに戻ろうと思って。」
ということらしい。一時的とはいえアパートに住人が戻ってくるのは執事として嬉しいことなのだが、ハヤテは今はそういう気分にはなれなかった。
「どうしたの?悩み事があるなら聞くけど。」
「え?いや・・・別に・・・」
「何かあるならそれを我慢しちゃダメだよ?それに私は一兆万人のファンがいるアイドル!つまり相談のプロなんだよ!どんなお悩みだって速攻で解決なんだから!」
ハヤテは正直話したくなかったが、ここまで来ると引き下がってくれそうにないと思ったのと、何より元気ずけられたので、胸の内を話すことにした。 まぁ、一兆万人ファンがいるアイドル=相談のプロという方程式はあまり理解できなっかたが。
ハヤテの話を聞いたルカは驚きを隠せず、思わず声を上げてしまった。
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!僕だってむしゃくしゃする時もありますよ。」
「あ、あぁ。ごめん、ごめん。つまり・・・その・・・」
ルカはハヤテが普段と違う態度を取ったことに驚いているのではない。ハヤテがヒナギクに嫉妬している驚いたのだ。星が五つ点くほどの鈍感といっても過言ではないあのハヤテが誰かに嫉妬している、彼を知っている者ならばこの事実に驚くなという方が無理だろう。しかし、肝心の本人はそれを嫉妬だとは気づいていない。さすが星五つである。 そんな中、ルカにもハヤテと同様に嫉妬の気持ちが生まれていた。以前告白した相手が自分ではない人に好意を寄せている。悔しくて仕方なかった。けどそんな醜い自分を感じたからこそ、あえて自分の気持ちを押さえ込んだ。 それに塞ぎ込んでいるハヤテに、今だけはそっと寄り添い、助けてあげたかった。
「ハヤテ君はヒナに悪いと思ってる?謝りたいと思ってる?」
「も、もちろん! ・・・でも、ヒナギクさんは僕のことを完全に嫌いになってるはずだから・・・」
「だったら・・・!!」
その瞬間、ハヤテはこの会話に既視感を感じた。そしてその先をルカに言わせてはいけないと直感したが、口が開かず、ハヤテはただ立っていることしかできなかった。
「だったら、確かめて来ればいいじゃない!! 本当に嫌われているか確かめずに悩むより、まずはキチンと気持ちを確かめて来ればいいじゃない!! それに、たとえ嫌われていたって、悪いと思ってるんでしょ!謝りたいと思ってるんでしょ!」
「・・・・・・」
「だったら、その気持ちだけでも相手に伝えて、その後どうしたらいいか考えたらいいじゃない!!」
「そんな風に悩んでるハヤテ君・・・・!
私は嫌いだよ!!」
「っ!!!!!!」
それはゴールデンウィークにアテネのことで悩んでいた時、ヒナギクから言われた言葉とほぼ同じだった。あの時、大事なことを教えてもらったはずなのに、また同じ過ちを繰り返えしていた自分に無性に腹が立った。
「私が告白したのはいつも優しくて、たとえ不幸にあって挫けてしまっても、すぐに立ち直ってそれに向かって行く。そんなハヤテ君なんだから。 だから・・・ そんな風に悩んでないで、まずはハヤテ君の気持ちをきちんと伝えてあげて・・・、ね?」
ルカの目に涙が浮かんでいるのにハヤテは気づいていた。だからこそ彼女の想いを無駄にしないために・・・ ありがとうございます、 そう一言だけ言ってハヤテは元来た道を走っていった。
まるで、疾風のごとく・・・
「ごめんね、お父さん、お母さん。 これじゃいっとき・・・高くは飛べないかな。」
今のルカにはもう、泣いてはいけない、という縛りはない。その縛りから解放してくれた少年をルカは全力で応援したいと思った。
たとえ、この想いが報われなくても・・・
何度となく救われて、いつの間にか誰より大切になっていた少年を絶対に幸せにしてあげたい・・・ そう思っていた。
お互い大切なことに気づかされたハヤテとヒナギクは初めて逢った木の下にいた。何故ここなのかというと、なんだかここに行けば会えるような気がした、だからだそうだ。そして相手の姿を確認するや否や、二人は同時に頭を下げた。
「「ごめんなさい!」」
「え?何でハヤテ君が謝ってるの?」
「ヒナギクさんこそ、 全部僕の方に非があるというのに、何で謝ってるんですか?」
そこにシリアスな雰囲気はなく、二人とも頭に?を浮かばせたような状態で、オロオロしていたが、そのうちなんだか可笑しくなり、同時に笑い始めた。
「ふふ、まぁお互いどっちもどっち、てことね。」
「そんな、悪いのは僕の方ですよ〜。 ヒナギクさんと岳さんが楽しそうにしているのが面白くなかったからって、あんな態度を取ってしまったんですから。」
「えっ/////!!!???」
ヒナギクはハヤテの言葉に急に顔をスモモのように赤くさせた。ハヤテはそれに気づかずまだ笑っていた。少し腹まで抱えている。
(つ、つまりあの態度はハヤテ君が私に嫉妬したってことで、 ということはハヤテ君はも、もしかして私のことを・・・・
って!!そんなことあるわけないじゃない!!!だってハヤテ君よ!ハヤテ君! まったく自意識過剰もいいところだわ。)
せっかくの一世一代のチャンスを自分からフイにしてしまうヒナギク。彼女も十分鈍感である。我に返ったヒナギクガハヤテの方を見るとまだ笑っていた。変なところにツボでもあるんだろうか。
(でも、ハヤテ君がこんな風にお腹を抱えて笑うのって初めて見たかも・・・ いつも笑っているけど、それは全部他の人に対する笑顔で、ハヤテ君が自分の為に笑うのって凄く珍しいのかも・・・)
「ねぇハヤテ君?」
「はははは。あ、すいませんヒナギクさん。何でしょうか?」
「実は来週の水曜日、学校休みなんだけど その日、お姉ちゃんの誕生日プレゼント選ぶの手伝ってくれない?」
「え?何でですか?」
「もぉーーー!!!何でもいいでしょ!いいから付き合いなさい!」
「は!はい!」
素直に遊びに行こうと言えばいいのに、それができなくて結局怒ったような感じになってしまう。今はそうだとしてもその日だけは絶対に素直になろうと思った。
彼に笑って欲しいから・・・
他の人のためではなく、自分自身のために笑って欲しいから・・・
そう思うと不思議と素直になれる気がした。
彼のためなら・・・・
「さぁ、帰りましょ。ハヤテ君!」
「はい!ヒナギクさん。」
どうも!お付き合いいただきありがとうございます。 ハヤテたちは無事に仲直りすることができました。初めて逢った木の下というのは前からここで何かさせたいと考えていたのもありますが、ぶっちゃけここ以外の場所が見つからなかったからです。 ハヤルカ派の人たちには非常に申し訳ないことをしました。本当にすいません。でも誰かを傷つけて、自分も傷ついて、それが恋というものなんじゃないかと西沢さんも言っていました。 ハヤテはこれからも誰かを傷つけてしまうかもしれません、でも自分への想いを断るということはとても辛いことなのです(恋愛経験0、恋人いない歴=年齢、談)。 自分はこの作品で一番傷つくのはハヤテだと思っています。だからこそハッピーエンドを目指しています。 長くなると思いますがお付き合いよろしくお願いします。 ところで今回岳君は出ませんでしたね。まぁ前回ヒナさんの方に行ってしまいましたからね。実は二人の光景を遠くで見守ってたりします。妹思いなんですよホント。 これは書き忘れた事なんですが、岳君の容姿、というより顔の雰囲気は原作26巻の9話で西沢さんの誕生日に出てきた宗谷君を想像してもらいたいです。この回の宗谷君、ホントにイケメンでしたからね。でも本当はもっとイケメンという設定なんですが表現するのが難しくて・・・ あと今回はルカのアルバム『福音』から『月の祈り』を使わせて頂きました。ソレっぽい雰囲気が出せてたらいいなと思っています。それと『まるで、疾風のごとく・・・』これ前々から凄く使いたいと思ってたんですよ。上手く使えていたでしょうか? 次回は千桜とナギそしてカユラを絡ませたいと思っています。 いつも後書きが長くてすいません。 それじゃ! ハヤヤー!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.8 ) |
- 日時: 2014/06/08 00:22
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、ロッキー・ラックーンさん。
ご感想とご指摘ありがとうございます。あと1スレ開けてしまってすいません。書いているときに感想が来ているのに気づいてしまったので。 ちなみに更新ペースが早いのは試験期間中で学校が午前だけだったりするからです。だって真面目に試験勉強なんてやってられないじゃないですか!ヒナさんやハヤテ君みたいな人たちの方が異じょ・・・げふっ!!! すいませんつい本音が・・・ そんなことより自分の作品の展開が参考になるなんて凄く嬉しいです。嘘じゃないですよね!?夢じゃないですよね!? 岳君の方は頼れるお兄さん役(?)みたいな感じで使わせてもらっています。批判がきたりするかもと思っていたのでとても嬉しいです。だってほら岳君って自分みたいなハヤヒナファンに喧嘩売ってるのか、てぐらいヒナさんと絡んでますし。頭を撫でるなんてハヤテのポジションだぁー!と書いている途中で叫んでしまいそうです。
あと人称や慣用句表現のオヤジギャグ・・・じゃなかった、アドバイスありがとうございます。意識してるけどなかなかできない、自分ではできてる、と思っててもできていないってことありますよね。 実はSSを書くのは初めてで、決して舐めていたわけではないのですが、思ったより難しく、とても大変です。でもだからこそ、やり甲斐というものがあって、ロッキーさんのアドバイスをもとに、どんどん改善して、良い作品にしていこうと思っています。 また至らぬ点があったら遠慮なくお願いします。
それでは本当にありがとうござました。ロッキーさんのほうも頑張ってください。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.9 ) |
- 日時: 2014/06/09 00:38
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!どうもタッキーです。
なんだか最近、ハヤヒナ派以外の人に喧嘩を売ってる気が・・・ だ、だってハヤヒナが好きなんだもん!ヒナさんエンドじゃなきゃダメなんだもん! すいません。取り乱しました。 我が儘な野郎ですが、これからもお付き合いよろしくお願いします。 それでは更新!
「カユラ〜、モンハンやろ〜。3rdの方」
ハヤテとヒナギクが仲直りをした翌日、ナギはP○Pを片手にカユラを狩りに誘っていた。
「別にいいけど、ここ・・・・・
学校よ?」
「だからこそ! この学校という無駄な時間を面白いゲームで有意義に活用しようではないか!」
そう、ナギとカユラは今学校にいる。ちなみに今は昼休みだ。 元々白皇は校則のゆるい学校なので、たとえゲーム機を持ってこようと授業中にやっていなければ注意されることすらない。 ただ、そんな学校だとはいえ、昼休み、それも公衆の目の前で思いっきりモンハンをやりだす生徒がいることにヒナギクのような‘真面目な’生徒役員や先生たちは頭を抱えていたりする。雪路や三人娘はもちろん‘真面目な’の部類に入っていない。それ以前にもうナギたちと同じ部類である。 カユラは一見もの静かで真面目そうな少女だが、それは外見や性格だけであって、中身はナギと同じ、いやそれ以上のオタクエリートである。そんな彼女がたとえ学校であってもP○Pを装備してない訳が無く、すぐにナギと一緒に狩りに出かけてしまった。 学校というのを問い質したのが台無しである。
「ところで執事君の方は一緒じゃないのか?」
「ふん!ハヤテなんか・・・・ってうおおおおおぉぉぉぉ!!!!! いつの間にか食われてるではないかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
お嬢様は現在、銀レ○スに捕食されていた。
第7話 『きっとこのままで』
最近ハヤテが自分に構ってくれない気がする、ナギはそう思っていた。
(昨日は学校に行かせることを結構簡単に引き下がったくせに、一昨日はあのちっこいのと二人きりになってたみたいだし、それに最近アパートでも学校でもヒナギクのやつと一緒にいる気がする。・・・うん、これは少しお仕置きが必要だな。)
「ナギ・・・また食われてる・・・」
「うわああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
考え事をしていたため、いつものように常人が目を見張るようなプレイができず、なんだかナギらしくなかった。
「ナギ・・・弱すぎ・・・」
「た、たまたまなのだ!今日はたまたま調子が悪いだけなのだ!」
「ていうかどうしたんだ?悩み事でもあるのか?」
たまたま通りかかった生徒会書記の春風千桜がそんなナギの様子に気づき、ナギたちの会話に割って入った。
「お前がゲームをできなくなったら、それこそ本当に何もできないヤツになっちゃうから、あんま悩みすぎるなよ。まぁ今でも十分クズだけど・・・」
最後の方は聞こえないように言ったつもりだったが、聞こえていたようだ。
「あぁ!?さっき私のことクズって言った?クズって言ったよね!?」
「言ってないよ・・・てか何か悩み事があるなら聞くぞ?」
なんだかメンドくさいことになりそうっだったので、話題を変える千桜。しかし軽い気持ちで聞いたはずの言葉にナギは真剣な表情で悩み始めた。
「実は最近、ハヤテが構ってくれないのだ・・・」
「「は?」」
ナギが素直に悩みを打ち明けたことに、二人は声を合わせて驚いた。それに彼女が言った事の意味もあまり理解できなかった。
「いや、でも綾崎君いつも通りお前の執事してるじゃん。てか何?いつの間に、構ってちゃんになったの?」
「千桜、ナギは元からそういう性格。」
「ちっがぁああああう!別にハヤテが執事の仕事を疎かにしている訳じゃなくて!それ以前に私も寂しがり屋などではなぁあああい!」
ナギが言っても説得力ゼロであるが、ハヤテが仕事を疎かにしてないとなると二人の疑問は深まるばかりだ。よく分からなくなってきたカユラが再びナギに質問した。
「じゃぁナギはあの執事君の何が不満なんだ?」
「それはなんというか、最近ハヤテのやつがヒナギクとイチャついてるっていうか・・・」
「「・・・・・・・・・はぁぁぁ」」
その返答に二人は同時にため息をついた。
「確かに綾崎君、最近ヒナと仲いいもんな。」
「まぁ私もナギと無敵先輩だったら先輩の方について行くし・・・」
「なにぃいい!お前には友情というものが無いのか!」
なんだか、もぉ聞き飽きた理由に千桜とカユラは完全に呆れている。ナギはまだ何か言っていたが、それを無視して千桜は適当にある提案をした。
「だったら何処かに遊びにでも行って仲を深めてくればいいじゃないか。」
「・・・!!!! 確かに・・・その手があったか。」
「え?」
「ありがとう!それじゃ、早速ハヤテのところに行ってくる!メガネにしてはいいアイデアだったよ。」
「な、なにぃいい!メガネをバカにするなぁああ!!!」
ナギは捨てゼリフを残して教室の方へ走って行ってしまった。こういう時は体力が出る不思議な体質である。
「よかったの?あんなこと言って。午後から学校サボりそうな勢いだったわよ、あれ。」
「・・・・・・・」
「とりあえず、モンハン・・・やる?」
コクリと頷くと‘真面目な’はずの生徒会書記は黙ってP○Pを取り出し、そのままナギの代わりにカユラと狩りに出かけてしまった。
その頃ハヤテたちの教室2-7では
「えええぇぇぇぇ!岳さんて高校通ってなかったんですか!?」
「ん?まぁ勉強とかは一人でもできたからいいかなぁって。」
「どんだけ頭いいんですか。でもそれじゃぁ何故白皇に?」
「あぁ、それはだな・・・」
いろいろな学校が文化祭などの行事で賑わっている頃、岳は自分には関係ないとばかりに商店街を歩いていたら、昼間っから酔いつぶれている女性を見つけた。言わずもがな雪路である。
「あっれ〜?岳君じゃない?久しぶりね。どうしたの〜?」
「路上に生息しているゴリラを施設に連れていってるんですよ。てかなんでこんなになるまで飲むんですか?雪さん。」
「仕方ないじゃな〜い。今、白皇は文化祭やってるのにヒナったら1円も奢ってくれないんだもん。」
12も年の離れた妹から普通奢ってもらうか?むしろ逆なんじゃ?と思いながら岳は雪路を桂家まで背負って行った。このように二人の再会はあまり感動的なものではなっかたという。
「は〜い。て、どちら様?」
「あ、雪さんが道路で酔い潰れてたんで、運んできました。」
「ただいまぁ〜、お義母さん。」
「まぁ!ホントにこの子ったらいい年して。さぁ入って入って。」
ヒナママはそういうと家に招き入れ、雪路を離れに押し込んだあと、岳に紅茶を出して話を始めた。
「雪ちゃんをありがとね。え〜と?」
「岳です。初神 岳。よろしくお願いします。」
「///・・・よ、よろしくお願いします。」
岳の笑顔での自己紹介に一瞬見とれた後、気を取り直してヒナママは岳と雪路の関係について聞いた。
「雪さんだけでなく、ヒナもなんですけどね・・・」
話を聞いた後、ヒナママは1人の親としてこれ以上ないほど感謝した。ヒナギクと雪路を助けてもらったこと、ヒナギクにいろいろなことを教えてくれたこと、その全てについて・・・ 岳は当然のことをしたまでです、と言ったがそれでもヒナママは頭を上げようとしなっかった。
「頭を上げてください。それに自分もあなたたちに凄く感謝しているんです。ヒナたちを引き取って育ててくれたことを。まぁ雪さんがあんな風になってしまったのはちょっとアレですが・・・ とにかく、こちらこそ、本当にありがとうございました。」
そう言って岳も頭を下げようとしたその時、いつの間にか復活した雪路がリビングのドアを勢い良く開けて飛び込んできた。
「そうだ!!岳君、白皇に転入しない?なんかあなた高校行ってないっぽいし、何よりあそこではヒナが生徒会長してるのよ。 それにあなたみたいな人を転入させたとなれば私の給料アップは間違いなしだし!!!」
最後の方は思いっきり本音が出てしまっている。本当に教師なのか?と十人中十人が疑問を持つ発言である。
「ちょっ!ちょっと雪ちゃん!?あなた何言ってるの!?」
「まぁそれもそれでいいかもな。お金だってあるし、久しぶりにヒナにも会いたいし。 白皇に通ってみるのもいいかも。」
「よぉおおし!そうと決まればレッツゴー!!! これで給料もアップだーーー!!!!」
こうして、なんだかその場の勢い的な感じで岳は白皇に転入することになったのだった。
「・・・・凄いですね。勢いで白皇に通えるなんて・・・・」
ハヤテは自分がここにギリギリで受かったのを思いだし、さすがに笑顔が引きつってる。
「まったくお姉ちゃんったら・・・」
ヒナギクの方も自分の姉の横暴っぷりに呆れ返っている。 ちなみに雪路の給料は上がらなかったらしい。当然といえば当然だが。すると
「ハヤテぇ!!遊びに行くぞ!!」
「え!?急にどうしたんですかお嬢様!?ていうかまだ午後の授業残ってるんですけど!?」
「そんなものは知らん!いいからさっさとついてこい!!!」
「あ、ちょっ!お嬢様!?お嬢様ーーー!!」
こんなやり取りがあってナギが、話の続きをしようとしたハヤテを連れて行ってしまった。
「ハヤテ君たち、午後の授業どうするつもりなのかしら?」
「さぁ?出ないんじゃね?」
一方ハヤテたち
「お嬢様?急に遊びに行くってなにをするつもりなんですか?それに午後の授業残ってますし。」
「む、そんなの明日いけばいいではないか!あ・し・た!」
「いや、明日は土曜日で学校ないんですけど・・・」
何を言っても無駄なようなので結局ハヤテはナギについて行くことにした。とりあえず何をするつもりなのか聞いてみると、ゴールデンウィーク前のようにまた写真を撮りに行くらしい。ただ、今度は余計なところはまわらず、最初から初めて逢った自販機の前で撮るらしい。 ということでハヤテたちは三千院家からカメラを持って来て例の自販機の前にいた。
「あ、ク○クス・ド「もぉそれはいい!!!」
何故か突然ボケた執事にツッコミを入れて、ナギはハヤテにタイマーのセットをさせた。
「ほら、笑えハヤテ。ここは私とお前が初めて出会った場所なんだから・・・」
確かに、そう思ってハヤテは自分の主と初めて逢った時のことを思いだしていた。
(ここでお嬢様と出会って、そのまま三千院家に拾われて・・・拾われて? そういえばここは・・・・
ヒナギクさんに拾われた場所でもあったっけ。)
そんなことを考えていて、ハヤテは少しボーっとしていた。
「・・テ、・・・ハヤテ!」
「はっ、はい!!」
「まったく、何をボーッとしているのだ。まさか私以外の女のことを考えていたわけではあるまいな?」
「そ、そんな事ある訳ないじゃないですか!」
ハヤテは言われたことが図星なだけあって、少しキョドってしまった。
「ふ〜ん。ほら、もう一枚撮るぞ!」
ハヤテはもう一度三脚に付けられたカメラをタイマーにセットした。
「私とハヤテはきっとこのまま一緒なのだ。 ずっと一緒だぞ。ハヤテ!」
そう言って、微笑んでいるナギの横顔をみてハヤテは何も言えなくなってしまった。
それは主の言葉に感動したからではなく・・・
このまま彼女の執事を続けている自分の姿を・・・
何故か、 思い浮かべることができなかったからである。
「そうですね。きっとこのままの・・・はずです。」
シャッターの音が聞こえた後
ハヤテは誰に向かってでもなく
一人、呟いた。
どうも! なんだかシリアスっぽい感じになってきましたね。でもまだ本格的なところまではいきません。 それよりカユラと千桜は雰囲気は似てないのに口調が似ている(?)ので、どっちのセリフか分かりやすいようにするのが少し大変でした。まぁナギよりもカユラと千桜の感じが上手く表現できていればなぁと思っています。あとハヤテたちのクラスは2-7でしたね。正直これかなぁと思っていたんですが、不安で今まで使っていませんでした。ちなみに26巻を読んでいて気づきました。関係ないですけど28巻でルカが149cmということも。以外とちっちゃいですね。 この作品にでてくるゲームがいちちモンハンなのは単純に使いやすいかたです。伏字とかもやりやすいですし・・・ まぁもう少しはほのぼのとやっていこうと思っています。 次回はアパートに岳くんを連れてきます。設定上は土日ですし。 それじゃ、ここまで読んでくれた方ありがとうございます。 ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.10 ) |
- 日時: 2014/06/09 13:53
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!
参照が500越しました!なんか読んでくれる人がいるって嬉しいですね。 明日で試験が終わりなので、それからは更新ペースが落ちると思いますが、長い目で見守っておいてください。 それでは更新出来る時に、 更新!
「あぁ、ダルい。なんかもぉこのダルさで世界征服ができそうなくらいダルい。」
今日、11月4日、紫ちゃんハウスの共同スペースにて三千院ナギは、まるでニートの頂点と言っても過言ではない程やる気のない顔で、さっきまで遊んでいた3○Sの横に転がっていた。大の字になって、足を庭の方に投げ出している。
「ハヤテぇ〜、何か暖か〜いカフェラテでも持って来て〜。そうしないと私が世界征服しちゃうぞ〜。」
「・・・・・」
ハヤテはもう理解不能なお嬢様の言葉に声も出せず、そのままカフェラテを作り始める。
(今日は土曜日で、確かに学校はないけど、こんなにダラダラしてていいんだろうか。ていうか昨日勢いとはいえ学校行くとかやる気ある発言してませんでしたっけ?)
もうここまでくると逆に疲れるんじゃないかって程ダラダラしているナギは、いつものようにいつものセリフを口にした。
「なぁ、ハヤテぇ〜?何か面白いことないかなぁ〜?ハヤテぇ〜。」
「あ、そういえば今日、岳さんがここに遊びに来るそうですよ。」
「え!?」
第8話 『前を向いて』
先程まで、畳と一体化していたようなナギは突然立ち上がった。
「あ、嬉しいんですか?」
ハヤテはお嬢様の、他人のことに関してはあまり見せない反応に気をよくし、そまま質問してみる。
「べ、別に嬉しくとも何ともないのだ!第一あんなヤツに興味などない!」
ナギはそんなことを言っていたが、実は初めてハヤテに逢った時や、ルカと逢った時と同じくらい、彼に興味を抱いていた。容姿や成績のことは勿論、ヒナギクの兄的な人物なのだ。興味を持たない方がおかしいだろう。
「で・・・いつ頃来るのだ? いや!別に楽しみという訳ではないのだぞ!?ただこのアパートの大家として来客をもてなすのは当然の義務なのだから・・・」
「西沢さんが初めてここに来たときは思いっきり締め出したじゃないですか・・・」
「ハ、ハムスターは別にいいのだ!」
ハヤテは主の発言の矛盾点に溜息をつきつつ、やっぱり期待してるんだなぁ、と思い、そのまま質問に答える。
「夕方ぐらいに来るそうですよ。なんでもアパートの皆さんが集まっている方がいいからと。」
そう、今このアパートにはあまり住人がいない。ヒナギクは部活、千桜はバイト、カユラはイベントと皆それぞれの理由で外出していた。歩はマリアの買い物に付き合っている。なんでもハヤテのように女子力を磨きたいのだとか。
一方、夕方アパートに行く予定のある岳はというと、ヒナギクの部活に付き合っていた。 実はヒナギクの方から土日だけでも練習に来て、皆に稽古をつけてくれないかと頼まれていたのである。もちろん岳の答えはOKでこうして練習に付き合ってる。
「あ、本当に来てくれたんだ。ありがとう。」
「別にいいってこれぐらい。それにしても胴着似合うな、ヒナ。」
そのとき、岳やヒナギクと同じクラスの東宮などを除いて剣道部員全員に戦慄が走った。
(あ、あの人。いま桂さんのことヒナって!!!)
(ていうかあれ噂の転入生だろ。なんてカッコい・・・じゃなっかった、桂さんと兄妹って本当なのか!!!???)
「じゃぁ皆に紹介して、それから稽古つけてもらおうかしら。ガウ君。)
もう剣道部員の頭の中は爆発寸前だった。ハヤテがここに来たとき同じくらいに・・・
(((((ガウ君!!!!?????何なんだその親しげな呼び方は!!!??)))))
しかし、そんな部員たちも岳の自己紹介を聞いた時には落ち着いていた。いや落ち着かされていたの方が正しいだろう。
「知っている人もいるだろうが、とりあえず初めまして。部長であるヒナの紹介で土日だけここの稽古をつけることになった初神 岳だ。よろしく。」
その笑顔に誰も言葉を発せなかった。すると同じクラスだったのでショックが少なかったのか、東宮が最初に口を開いた。
「あのぉ、それは稽古をつけるってことは僕たちに剣道を教えるってこと?桂さんにも?」
「ん?そうだけど、なにか問題でも?」
「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」」」
「それってもしかして桂さんよりも強いってことですか!!!???」
部員たちが驚くのも無理はない。自分たちだけに教えるならともかく、同じ高校生がヒナギクに教える、つまりヒナギクより実力は上と断言してるのだ。当然の反応である。
「なんか信じてないみたいだし、一本だけやる?」
「そうだな。その方が手っ取り早そうだ。」
なかなか信じようとしないため、試合を見て分かってもらおうということになった。
今、桂ヒナギクは緊迫した空気の中にいる。その空気を醸し出しているのは自分ではなく、同じ土俵に立って、相対している相手から出されているのがほとんどだ。面越しにでも伝わってくる彼の威圧感に気を失わないようにするのがやっとだった。
正直勝てるとは思っていない。
プライドが高くどんなことにも負けを認めない彼女がそんなことを考えること自体非常に稀だが、そう思わせる程、彼には精神力、スピード、パワー、そして迫力が自分よりはるかに備わっていることを嫌でも感じさせられた。
そして彼女だけでなく、試合場の外にいる人間も本能的に理解していた。
彼の実力を・・・
彼の力が絶対的なものであることを・・・
その力の持ち主は両手に竹刀を持っている。
《二刀流》だ・・・
彼は構えておらず、いや構えているのだが、それはもはや構えではなく素人からすればただ立っているだけのように見えただろう。しかしそこに一切隙はなく、こちらから動けば確実にやられる。そのことがまるで文字になって見えるほど、彼の構えは完璧だった。
ヒナギクは相手が動くのを待っていた。まずはあの構えが1ミリでも崩れないと勝負にすらならない。そう考えていたからだ。 その時、相手がつま先を微妙に動いたのを見逃さず、ヒナギクは一気に相手に詰め寄った。
「やああぁぁぁぁ!!!!!!メェエン!!!!」
ヒナギクはとても速かった。が、彼はその美しいとも言える太刀筋をいともたやすく止めていた。頭の上まで掲げた手首をひねり、竹刀の切っ先を床に向けている。もう一方の手はぶら下げたままだ。
バシッ!!!
ヒナギクはつばぜり合っていた竹刀を強く弾くと、そのまま相手の小手を狙った。俗に言う‘引き小手’だ。しかしそれは紙一重でかわされ、逆に打ち込みを受けてしまう。かろうじて避けたが、ひるんだヒナギクに追い討ちをかけるのを彼は止めなかった。 上、左、上、上、右、左、さらには下からもくる不規則な攻撃にヒナギクは防戦一方だ。 彼は二刀流の手数の多さを、体を靭やかに使うことで最大まで引き上げてくる。左手の上段の後、体を回転させ、右手で左側からなぎ払うように胴を狙ってきたり、突きを横方向に避ければ、そのまま同じ手が斜め横に振られ、小手を狙ってきたり。 彼は漫画やアニメでしかできないような動きをいともたやすく使いこなす。それは舞でも踊っているかのようだった。 すると、さっきまで猛攻を仕掛けてきた彼が突然、後方に飛び退いた。それを好機と思ったヒナギクは最大速度で相手に詰め寄り、一太刀目と同じように相手の面に向かって一閃する。垂直と言ってもいいほど綺麗でブレのない太刀筋だった。
「メェェエエエエン!!!」
しかし、その軌道は今回、何にも遮られることはなかった。 ヒナギクがフェイントだと気づいた頃にはもう遅く、振り返ると片手上段で構えている試合相手がいて・・・
「面♪これで一本だな。」
ヒナギクは岳の楽しそうな一言とともに、竹刀を軽く面に打ち込まれてしまった。
どれくらい静まり返っていただろう、その静寂は実際には10秒ほどだったが、その時間は10分にも20分にも感じる程長かった。
「さすがね。私の完敗だわ。」
防具を取ったヒナギクは岳のことを絶讃した。さすがにあそこまで来ると清々しく感じた。
「いや、ヒナも10年前とは比べ物にならないほど強くなってたよ。ホント頑張ったな。」
そいうと岳はヒナギクの頭を撫で始めた。どうも岳は頭を撫でることが好きらしい。我に返った剣道部員の殺意のこもった視線に気づいてはいたが、それを無視して頭を撫で続けていた。その気になれば睨むだけで追い払うことができるのを分かっていたからかもしれない。
「じゃ、皆もガウ君の実力は分かったと思うし、稽古を始めましょう。ほら、挨拶から。」
「「「「「お願いします!!!!!」」」」」
ヒナギクの呼びかけで同年代とはいえ礼儀よく挨拶をする部員たち。この人なら自分たちを高みに連れて行ってくれる。そんな予感がしたからだ。が、
「じゃぁ、覚悟はできてるってことで・・・いいな?」
笑顔だけれども決して笑っていないそんな指導者の表情を見た瞬間、自分たちの考えは間違いだと悟った。中でもヒナギクはこう思っていた。
(あれ?・・・・人選ミスった?)
その後、部活が終わる頃には誰も悲鳴すら出せないようになっていたという。
なんだかんだで、夕方。岳は紫ちゃんハウスに来ていた。 ごめんくださ〜い、という呼びかけに反応して玄関を開けたのはマリアだった。しかし、マリアはナギたちから何も聞いておらず、最初このイケメンくんのことがわからなかった。
「え、え〜と」
「あ、すいません。マリアさんとは初対面でしたね。ハヤテたちの友達やってる初神 岳です。」
「あら、そうなんですか。それじゃ初神君、中に入ってください。すぐにハヤテ君たちを呼びますから。」
ちなみに岳がマリアのことを知っているのはハヤテたちから聞いたからである。そんな中マリアに呼ばれて出迎えてくれたのはハヤテ・・・ではなく、その主のナギである。
「こんばんは、ナギちゃん。おじゃまします。」
「こ、こんばんは。」
ナギは緊張していた。 普段の様子からは分からないが、実は岳には結構近寄りにくい。彼の神々しい雰囲気が、高嶺の花のようなものを想像させているからだ。それを知っているので岳はいつも人には自分から声をかけるようにしている。しかし、ナギはまだあまり岳と話したことがなく、二人きりとなれば、たとえ話題を振られても、彼のオーラに押されてキョドってしまうのだ。 ちなみにナギ一人なのはハヤテたちの、ナギを岳と仲良くさせよう、という作戦のためだった。 そのままリビングに入ると、岳が突然話しかけてきた。
「やっぱ、緊張するかな。こんな状況は。 まぁこんな時はとりあえず・・・」
岳は持ってきていたバッグから3○Sを取り出した。
「ひと狩りいこうぜ。」
そのなんだかデジャヴを感じさせるキャッチフレーズはナギが緊張を解いたきっかけだったという。
時は少し進んで夕食。何故かこれを岳が作ると言い出した。客なので普通はもてなされる側なのだが、なんだかんだで世話になってるから、と譲らなかった。
「で、でも・・・」
「ガウ君。あぁ見えて意外とガンコ者だから何言っても無駄ですよ。」
客に仕事をさせることなのか、それとも他人に仕事を取られたことなのか、どちらにしてもまだ不満そうにしていたマリアをヒナギクが説得する。
「さすがヒナ。よく分かってるじゃん。」
「ナギだったらそこで食ってかかるのに・・・」
「大人の対応だな・・・」
「な、なにおう!」
千桜とカユラがじと目で見ているのに対し、やはり食ってかかるナギは、確かにまだ子供である。 なんだかんだで、十分ちょっとかけて今日の夕食であるカツカレーができた。ハヤテとマリアがしっかり仕込みをしていたのであまり手間はかからなかったそうだ。しかしその味は・・・
「っ!!!何だこれ。ハヤテやマリアのより美味しいではないか!!」
ストレートな評価に少しむっとしたハヤテとマリアだったが、カレーを口に入れた瞬間、何も文句は言えなくなっていた。他の住民も今まで出会ったことのない美味しさに手が止まらず、旨さの秘訣を訊いたりしていた。
「それは経験の差ってことで。」
そう言って岳は自分もカレーを食べ始めた。
夕食を終えた住人たちはそれぞれ自分のやりたいことをやっている。まぁ半分が勉強で、もう半分が漫画かゲームと大体決まっているのだが。
今、岳はマリアと食器を洗っている。マリアは最初は、さすがに悪い、と断っていたが・・・
「さっきのカレーの作り方、教えましょうか?」
その一言でもうマリアの行動は決まっていた。
「ここでもうしばらく加熱するとより旨みが出てですね・・・」
「へぇ〜、そうなんですか。じゃぁ、こちらも・・・」
マリアはまるで紐を吊り下げられた猫のように岳の話に食いついており、必死にそれを自分の物にしようとメモもとっている。
(三千院家の料理がまた美味しくなりそうだなぁ)
ハヤテは二人を横目にそんな事を考えていた。
やがて、食器の片付けも終わり、縁側に腰掛けていた岳の隣にハヤテも腰掛けた。 もう日は沈んでいて月が高く昇っている。そんな中、ハヤテは岳に一つの質問をしていた。
「何でそんなに何でもできるんですか?」
一見あまり大した質問でもないが、岳はそれにどこか悲しそうな表情をしていた。
「いろいろあったんだよ。いろいろと・・・」
ハヤテは岳のそんな表状に気づき、謝ろうとしたが、彼のふいな質問に遮られてしまった。
「お前は、今、前を向いているか?」
ハヤテはその質問の意味を理解するのにしばらくかかった。
(えっと・・僕は今、前を・・・庭の方を向いている。いや質問の意味はこれじゃない。)
当然である。そこでハヤテは今までに出会った人たちのことを思い返していた。その記憶の中で、確かに辛いこともあったが、いろいろな人たちとともに自分は前に進めている。前を向いていると感じることができた。
「はい・・・僕は今、前を向いています。」
「そっか・・・ 俺がこんなふうになったのはずっとそういう生き方をしてたからなんだ。 確かに立ち止まったこともあったけど、それでも前だけは見てた。そしたらいつの間にかたくさんの力が手に入ったよ。
まぁ、本当に欲しいのは、こんなもんじゃなかったんだけどな・・・」
「岳さん・・・」
ハヤテが何と声をかけていいか戸惑っていると、岳はたち上がり、玄関の方へ向かって行った。
「まぁ、そういうことだから頑張れよ。皆にもよろしく伝えといてくれ。」
そう言って軽く手を振っていた彼の背中は、まるで何かを落としてしまったかのように、とても小さく見えた。
どうも! 気づいている方もいると思いますが、2回ほど間違えて途中で更新してしまいました。つまり今、これはメンテの方で書いているということです。途中のヤツを見て混乱させてしまった方、本当に申し訳ありませんでした。 今日はバトル描写に挑戦してみました。いやぁ〜難しいですね。自分の頭ではイメージが出来ているけど、それを文章にするのがちょっと・・・ 読んでくれた方に上手く伝わってたらいいなと思います。 あと岳君はとても料理上手ですよ。実は一つの喫茶店(客入りもそれなりのところ)をたった一人だけでまわせるという設定もあるのですが、さすがに化物すぎますね。 ということで、今回は岳君をアパートに遊びにこさせて、それから彼の暗い部分を覗かせてみました。どうだったでしょうか?岳君のことについては後半あたりで明かしていこうと思っています。 さて、次回はハヤテをヒナギク以外の女性キャラと絡ませたいと思います。 それでは!! ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.11 ) |
- 日時: 2014/06/11 01:35
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!どうもタッキーです。
試験が終わった(乙)ので、多分、明日から更新ペースが落ちると思いますが、絶対に放棄とかはしないので、これからも温かい目でよろしくお願いします。 あと、前回のバトル描写を書いてて思ったんですが、SSだとなんかヒナさんが弱くなりますよね。やっぱりオリキャラは強いというイメージが多いんでしょうか。 まぁ、とりあえず今回はハヤテとヒナさん以外の女性キャラ(と言っても2,3人ですが)のお話です。それでは早速・・・ 更新!
ハムスターこと西沢 歩は、ここ数日の自分の想い人の様子から、一つの考えを導き出していた。
(ハヤテ君って、もしかしてヒナさんのことが好きなのかな?)
しかし歩はこの考えに確かな答えを出せずにいた。 それもそのはず、なぜならハヤテは誰かに好意を抱いているような素振りはみせず、ヒナギクも歩自身も、さらにはその他の人でさえも、彼には今までのように‘友達’としてしか見られてなかったのだ。 それに仮に好意を抱いていたとしても、それにはそれ相応のきっかけが必要である。決して軽い気持ちで恋愛などしないハヤテだったら、なおさらである。 これらだけでも歩の考えを揺さぶるには十分だが一番決定的なのはヒナギクの性格である。歩はヒナギクの親友なだけあって彼女のことをよく理解している。 いつもは容姿端麗、成績優秀で正義感が強く、さらにとても頼りになることや、たまに覗かせる子供っぽい一面はしっかりモノの彼女をとても可愛くみせることなど、これだけあれば、惚れないほうがおかしいほどの完全無欠な美少女だが、残念ながら彼女は想い人に対して素直になれず、なんだかんだでいつもキツく当たってしまったり、二人きりになっても基本その場の空気に飲まれて何も出来なかったりというヘタレな性格なので、歩はヒナギクがハヤテにアプローチをかけることなど無いと考えていた。 しかし11月に入ったとたん、ハヤテがヒナギクに対してソレっぽい反応を示し始めた為、1日あたりに何かあったと考えるのが妥当だろう。これは考えるより直接訊いたほうが早いと思い、歩はヒナギクの部屋である202号室に向かった。
「ねぇヒナさん?今月の1日あたりにハヤテ君と何かあった?」
「っ!!!!!な、何言ってるのよ!何もないわよ!!何も!!!ほら、暇なら歩も勉強したら!!??」
動揺を全く隠せていないヒナギク。その手に握られていたシャーペンは真っ二つに折れている。
(ふ〜ん。てことはやっぱり何かあって・・・・って!!!それはとってもマズイんじゃないかな!!!???もしかして私、大ピンチなんじゃないかなーーー!!!????)
第9話 『一人でも』
「何故、お前に集められなければならんのだ?」
「それ以前に何故私も?」
現在、ナギと千桜は歩の部屋に呼ばれていた。そこにはどこから、どうやって持ってきたのかホワイトボードがあり、そこには ‘第一回 ハヤテ君が本当にヒナさんに好意を持っているのか議論するスレ’ と大きく書かれていた。スレの使い方が間違っている(?)のはスルーして、ナギはいきなり反論を始めた。
「そんなのあるわけないではないか!ハヤテは私の執事なのだぞ!」
しかしどこか動揺しており、好意と執事の関係が妙な感じになっている。
「確かに綾崎君、前とはヒナと話している時の表情が少し変わった気がする。」
「そおなのです!だからワタクシ西沢歩は、ハヤテ君が本当にヒナさんに好意を抱いているのか調べる為にある作戦をねったのです。」
「「ある作戦?」」
そのとき玄関のほうで先程まで議論していた人物の声が聞こえた。
「それでは、買い物に行ってきますね〜。」
ところ変わって商店街
(作戦って綾崎君の買い物に付き合うことかよ!?)
(ふっふ〜ん。この買い物中にさりげなく三人で質問し続ければさすがのハヤテ君もボロをだすはず。)
(それって上手くいくのか〜?)
そう現在、ナギ、歩、千桜はハヤテと一緒に買い物に来ている。ハヤテは最初こそ疑問を持ったが、今は三人の密談にも気づかず、八百屋の主人と楽しそうに談笑している。 それからしばらくして、スーパーを回っている時、歩が作戦を結構した。
「そういえば、ハヤテ君?最近ヒナさんはどうなの?」
(おい!ストレートすぎるだろ!)
千桜はもっとぼかした感じで聞き出すと思っていたので、声には出さないものの思わずツッこんでしまう。ちなみにナギは慣れない人混みにそわそわしていて歩の質問を聞いていなかった。
たしかに少しストレートだが、歩はこれまでの経験からこれぐらいがちょうどいいと考えており、確実にヒナギクの話をさせることで、ハヤテを出し抜こうとしていた。が・・・
「え?ヒナギクさんですか?最近もなにも彼女にはあまり嫌いな物はありませんよ。しいて言うなら梅干しみたいな酸っぱいものですが。」
さすがはハヤテ。見事な鈍感っぷりである。質問をした歩ですら呆れている。
「いや、そういうことではなくて・・・」
「???」
「つまり、最近、綾崎君はヒナと仲がいいみたいだから、どうしたんだ?ってことだよ。」
千桜はもういっそ普通に好きかどうか聞いたほうが早いんじゃないかと思いながら、質問をより直球にして、歩に助け舟を出す。じわじわと攻めていくはずの作戦が台無しだ。
「えっ///いつも通りですよ!いつも通り!」
やはりどストライクぐらいでなければこの鈍感には伝わらないらしい。 顔を赤くさせて、女の子のようにもじもじしている反応を見る限り、歩の考えはどうやら黒のようだ。しかし歩は千桜に台詞を取られたことに慌てていたため、すぐには状況が理解できなかった。まぁ落ち着いて理解し始めるのも、次のナギの一言でシャットアウトされたが・・・
「なぁ、迷子を見つけたんだが・・・」
「「「え?」」」
見ると、ナギの手を握っている5歳くらいの男の子がいた。男の子は今にも泣き出しそうで、それをナギがなだめている。まるで姉のようだ。
「とりあえず迷子センターに行きましょう。」
それが一番手っ取り早いと思ったハヤテはナギたちを迷子センターまで案内していった。 実は、このスーパー、三千院家と関わりの深い財閥の直轄であり、広さも相当なので迷子になる子供も少なくないらしい。その為、迷子センターなどのサービスが充実していたりする。 放送がかかって母親を待っている間、男の子が何度も泣きそうになるたびに、ナギも何度も男の子に優しい言葉をかけ、励ましている。
「えぐっ・・・さっきお母さん怒らせちゃったから・・・もしかして捨てられて・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと怒ってくれるんなら、それはお前の母親がお前を大事に思っている証拠だ。だからきっと来るよ。」
「うう・・・本当?」
「あぁ本当だ。それまでお姉ちゃんがそばにいてやるから。だからもう泣くな。」
「・・・うん」
そのあと暫くして母親が迎えに来て、男の子を少しだけ叱ったあとそのまま抱きしめた。母親はナギたちに何度も頭を下げ、男の子を連れて帰って行った。
「ありがとう、お姉ちゃん!僕大きくなったらお姉ちゃんと結婚する!」
「ちょっ!いきなりなんてことを言うのだ。」
突然のプロポーズに驚きながらもナギは親子の姿をずっと見守っていた。自分にはもう無い物だからこそ、それを持っている男の子に幸せになってもらいたかったから。
「ナギのやつ、成長したな。」
「そうだね。」
ハヤテたちは、そんなナギの成長を嬉しいような、少し寂しいような気持ちで見ていた。
(本当にお嬢様は成長しました。こんな風に誰かを助けられるぐらいまで・・・ もしかしたら、本当はもう一人でも生きていけるのかもしれませんね・・・)
「よ〜し、買い物が終わったんなら帰るぞ。ハヤテ。今晩はおいしいオムライスをお願いするのだ!」
「あ、待ってよナギちゃ〜ん。てか急に走ると危ないよ〜」
そう言って入口の方に向かったナギを追いかける歩。それに呆れながらついて行く千桜。この日常はもう少し続きそうだ。
「かしこまりました。お任せ下さい、お嬢様。」
「うむ。」
執事は主の期待に応えることを約束し
主は執事に屈託のない笑顔で答えた。
どうも、いかがだったでしょうか? なんだかんだいってもナギが成長しているのが書きたかったです。 冒頭で言っていたようなハヤテたちの絡みはあまり書けませんでした。すいません。 なんというか、回りくどい質問がなかなか思いつかなかったので、いっそストレートで攻めてみようということで、まぁ取り敢えずはまとまったかなぁと。 あと今回はいつもより短かったですね。ネタはあったんですが、いい感じになってしまったので今回はここまでということで、書く予定だったネタはもう少しあとになると思います。 次回は設定上は学校ですがあのコンビをだそうと思います。いい加減出さないとホントに出番なしになりそうなので・・・ 相変わらず文の才能はないですが、これからもよろしくお願いします。 それじゃ! ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.12 ) |
- 日時: 2014/06/16 23:49
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
書き溜めてたのに何故か再起動して消えてしまいました。orz しかしこれは逆転への布石・・・じゃないですね。 それでは5日ぶりに・・・ 更新!
(どうしてこうなった・・・)
今、ナギは秋葉にきている。このお嬢様が一人で外出などできるはずもなく、当然誰かついてきたのだが、それは執事のハヤテでも、友達の千桜やカユラでもなく、噂の転入生の岳であった。
「へ〜、ナギちゃんってそういうの好きなんだ。」
「その言い方少しグサッとくるんでやめてくれません?」
岳の意地悪な言葉にナギは苦虫を噛み潰したような顔をする。オタクである彼女にとって、こういう無邪気な発言は結構なダメージがある。もっとも、岳はそれを分かっていて、あえてイジっていたのだが。
「ごめん、ごめん。で、今から行く店って、ナギちゃんの知り合いが経営してるんだっけ?」
「そうなのだ。最近、軌道に乗ってるっぽいから少しからかってやろうと思って。」
岳は、相当頑張ってるんだろうなぁ、と思いながら歩くこと数分、目的の店の前に着いた。
コミックVタチバナ
これがその店の名前だ。
「こういうところ久しぶりだから楽しみだな〜」
そう言いながら自動ドアをくぐる彼のポケットから何か桃色の布がはみ出ているのをナギは偶然見つけた。
第10話 『汚れたハンカチ』
秋葉に向かう前、ナギは普通に学校にいた。ハヤテたちは昨日の夜、お屋敷の方に戻っていて、ナギは今朝、そのことを理由にして学校をサボろうとしていたが、マリアの介入があったことで、しぶしぶ登校してつまらなさそうに授業を受けていた。 休み時間、ハヤテはナギの機嫌を取ろうと、興味を持ちそうな秋葉の話をしたが、それがいけなかった。
「そういえば、今日は新刊の発売日らしいですよ。ワタル君もそれに合わせていろいろ入荷すると言ってましたし、放課後にでも行ってみませんか。」
「じゃ、今から行くぞ。ハヤテ」
「いやいや、だから放課後にって・・・」
「そうだ、秋葉行こう。」
「何で言い直したんですか!?てか、授業は?お嬢様この前の金曜日も途中からサボったじゃないですか。」
今から行くというナギに当然反対するハヤテ。クラスメートはまたか、と隅のほうでハヤテを応援していた。
「うるさい!行くといったら行くのだ!お前がついてこなくても一人で行ってやる!」
「でも、ナギ。あなた、秋葉への行き方分かるの?」
「うっ・・・」
一番ツッコまれたくないことを、一番ツッコまれたくない相手に言われたナギは先程までの勢いがなくなってしまった。そして自分がいつも迷子になることを棚に上げてツッコんできた本人、鷺ノ宮伊澄はそんなナギに次の言葉をかけようとする。
「なんなら私が連れて「うわぁあああ!!!それはいいです!また迷子になっちゃいますから!今度は沖縄とかまで行っちゃいますから!!!」
危険を察したハヤテはすぐさま伊澄の提案を遮る。ナギも迷子になるのはごめんなので、どこかほっとしたような表状をしていた。
「なら俺がついて行こうか?このまま素直に授業を受ける気もないっぽいし、ハヤテの方も成績とかあるだろうから。」
「「え?」」
こうして結局ナギは岳と一緒に秋葉へ来ることになったのである。
「いらっしゃいませ〜ってナギお嬢様?とそちらの方は?」
店に入るとメイド姿のサキがナギたちを迎えた。もっとも基本この店の制服はメイド服なのだが・・・
「初めまして。最近、白皇に転入してきた初神 岳です。ナギちゃんたちとは親しくさせてもらってます。よろしくお願いしますね。」
「こ・・・こちらこそ///」
初めて会った岳は丁寧に自己紹介をしていたが、ナギは挨拶もそこそこにレジでなにやら集計をしているワタルのところに向かった。ワタルは平日の真っ昼間から来たナギたちに呆れている。
「お前、学校はどうしたんだよ?今日は一応平日だぞ?」
「そんなもの知らん!それよりちゃんと島本作品は入荷したんだろうな?」
「ちゃんとしてるっつーの。前、お前らに散々言われたからな。ったく毎回毎回ヒトの店にケチつけやがって・・・」
ナギとワタルがいつもの半分喧嘩のようなやり取りをしている時、岳は店内の商品を見て回っていた。岳には血縁関係のある者が全くいないので、生活費を稼ぐ為、バイトは勿論、株なども使っている。なので市場の動きには敏感であり、こういう同人誌ショップでも、しっかりと売れ行きを調査する癖がついていた。 もっとも、彼の眼力はナギの祖父である三千院帝を軽く凌いでいて、一生遊べるくらいの金を稼ぐことなど朝飯前だったが・・・ しかし、今回はそういう調査というより、頑張っているみたいなのでアドバイスでもしてやろう、という親切心からこの店の状況を調べていたりする。
「え〜と、ワタル君だっけ?ちょっといいかな?」
「あ、はい」
ワタルは急に名前を呼ばれても上手く動揺を隠し、店長らしく対応したがまだ14才だ。クレームだったら、とかいろいろなことが頭を回っていて、表には出さないが凄く緊張していた。 しかし岳の話がクレームではなくアドバイスだと分かると一瞬だけ安心したような表状を浮かべたあと、すぐに仕事する時の顔になって、真剣にそれを聞いていた。
「ありがとうございました!!!」
「はは、それじゃ頑張れよ。」
「はい!!!」
なんだか会社とかでよくありそうなやり取りをサキは頑張って下さいというような目で見ていたが、ナギは何この展開?と早く帰りたさそうに入口のほうでただ呆れていた。 店を出ると迎えに来たハヤテがいた。彼は学校が終わったあと、全速力でここに来たらしく少しだけだが息が上がっている。
「もぉ〜、あんまり学校サボっちゃだめですよ。お嬢様。」
「うるさいな〜。学校より大切なものなんてたくさんあるだろ?」
ハヤテはため息をついたあと岳の方を向き、今日のお礼にと三千院家に来ることを提案した。岳も別に断る理由もなかったのでそれに賛成し、ハヤテたちと一緒に三千院家へ向かった。
三千院家についた後、ナギは買った新刊を早速開封しようとお屋敷の方へ走って行ってしまったので、ハヤテは少し岳を案内してから屋敷に向かうことにした。それにハヤテは三千院家のスケールの大きさで岳をびっくりさせてやろうとも考えていた。 が・・・
「やっぱりデカいんだな。」
(あれ?あんまり驚いてない?)
広大な庭にも、大きな屋敷にも、岳は初めてではなく、まるで前から知っていたような反応をしていた。このことからハヤテは、実は岳も結構な金持ちなんじゃないかと考え、彼に質問してみた。
「あの?岳さんってもしかして大富豪の御曹司とかなんですか?」
「いや、そんな金持ちじゃないし普通に一軒家で暮らしてるよ。てか、お前らがあんだけ話してたんだから、デカイってことぐらい予測はつくさ。」
予測していてもなぁ、とハヤテは思いながら岳を案内すること数分、彼らは玄関の前まで来ていた。するとナギがなにやら膝を抑えてうずくまってるのが見えて、二人は急いで駆けつけた。どうやら段差につまずいて転んでしまったらしい。彼女は大丈夫と言っていたが少し血が出ていたので、岳は傷口を抑える為にハンカチを取り出した。 ハヤテが救急箱を持って来て手当をしている途中、ナギは岳が貸してくれたハンカチのおかしな点に気づいた。
「なぁ、なんでハンカチを二つも持ってるのだ?」
ナギの質問にハヤテもそういえば、という顔をした。
「たしかに、岳さんいつもハンカチを二つ持っていますね。普通の黒っぽいヤツと桃色のヤツ。しかも桃色の方は全然使ってないみたいですし、何故なんですか?」
そう、岳はハンカチを常に二つ持ち歩いているのだ。学校にいる時も、アパートに遊びに来た時も、そして今回も。 岳はその質問を受けていい気分というわけではないようだ。いつもと違って、なんだか険しい表状をしている。そして彼はしかたないというような顔でポケットから取り出したものをハヤテたちに見せた。 それは桃色のハンカチで、ガラとかはなく横にフリルがついていた。見るからに女物だ。 女物を岳が持っているという点をのぞけば、一見ただのハンカチだったが、ハヤテはそれの端の方に黒っぽいシミが付いているのを見つけ、すぐにしまおうとしていた岳に一つの提案をした。
「あ、そのハンカチちょっとよごれてますね。よかったら先程のと一緒に洗濯しましょうか?」
「え・・・いや・・・」
すると岳は突然動揺し、彼らしくもなくどもっている。 ハヤテは何かお礼をしたい一心だったのでそんな岳の様子に気づいてないのか、許可もとらずに彼のハンカチを取ろうとした。が・・・
バンッ!!!!!!
気づくとハヤテは後ろの柱に首を締め上げられた状態で叩きつけられていた。柱には大きくヒビが入り、今にも折れてしまいそうだった。ナギは突然のことに何もできずそれを恐怖と驚愕が混じったような表状で見ていた。
「な・・・何を・・・」
「・・・・るな。」
ハヤテは強く胸を強く押さえつけられていたため、呼吸をするのもやっとな状態だったが、振り絞って出した声に返ってきた言葉は、小さくてよく聞き取れなかった。
「これに・・・・・さわるな。」
黒というより闇のほうが正しいかもしれない。ハヤテは自分を睨んでいる目をみてそう思った。そこには敵意以外何もなく、殺気を通りこして死すら感じられた。 しかしその目に闇があったのは一瞬で、ハヤテの足が地についた時にはもうただの黒に戻っていた。
「ごめん・・・やりすぎた。」
「い、いえ。僕の方も勝手に取ろうとしたわけですし・・・」
頭を下げた岳に慌てるハヤテ。正直まだ恐怖心が残っていたが、今はそれを必死に押さえ込んでいた。
「それは・・・大切な物なのか?」
ナギの方も軽いショック状態から抜け出し、岳があんなに怒った理由を聞いた。その問に岳は顔を俯け、そうだよ、と一言だけ言ってそれ以上は何も教えてくれなかった。
「あの・・・」
「本当にごめんな。柱は近いうちにこっちで修理するから。」
まだ落ち込んでいる様子の岳にハヤテは声をかけようとしたが、彼の言葉に遮られてしまった。
「あんなことして持て成してもらうのも悪いし、俺はもう帰るよ。ハヤテは明日、ヒナとデートだろ?そんな顔してたら怒られるぞ?」
岳は屋敷に背を向けたあと、爆弾発言を残して足早に帰ってしまった。ハヤテは彼の言葉に顔を赤くさせていたが、横からさっきのように激しい殺気を感じたので長くは続かなかった。
「ハヤテ・・・明日ヒナギクとデートって本当か?」
「い、いや、確かに明日ヒナギクさんと買い物に行きますけど、別にデートってわけじゃ・・・」
ハヤテは本日二度目の死を感じたので必死にナギを落ち着かせようとしているが、ハヤテの言い方では火に油を注ぐだけである。
ドガッ!!!!!!
11月8日、三千院家では何かを殴る鈍い音が二回響いたという。
日が沈みかけ、もう一番星が見えるようになった頃、とある一軒家のベットに一人の青年が顔に手の甲をのせ、仰向けになっていた。 手が邪魔で彼の表状は見えないが・・・
「レナ・・・」
一人の名前を口にした青年の顔を覆っていた右手には、自分の血で汚れたハンカチが握られていた。
どうも、久しぶりの更新いかがだったでしょうか? 今回のキーアイテムはハンカチです。岳君にもいろいろあったんですよ。これはハヤテのSSですが、岳君の過去編でハヤテキャラが一切でてこない回もあるかもしれないです。そうならないようにできるだけ頑張りますが・・・ 次回はついにハヤテとヒナギクさんのデートです。ここからが物語の折り返し地点ですね。 ちなみにデート編はすごい重要な部分なので、何話かに分けて書こうと思っています。 もうすぐシリアス方面に突入しますが、よろしくお願いします。 ちなみに最後に出てきた「レナ」というのは三番目のオリキャラで実際に登場するのはもっと後です。2番目はデート編のすぐ後に出すつもりです。実はまだ名前決まってないです。いやぁ〜この子ばかりは凄い重要だし自分としても大切にしたいので、力が入ってるんですよ。別に他二人のオリキャラも手を抜いてるってわけじゃないですよ? まぁ2番目の人の設定は皆さん気づいてるかもしれませんが楽しみにしててください。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.13 ) |
- 日時: 2014/06/17 23:55
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
ただ今耳の中が、ヒナ祭り祭りです! 今ならどんなことも出来る気がします!!! ということで今回からデート編です! それでは・・・ 更新!
11月9日、白皇学院は休みになっている。なんでも学校行事で疲れた生徒や先生のためにあるのだとか。文化祭などが一通り終わってから二週間ぐらい空いているため、あまり意味は無いように思われるが、とにかく休みなのである。 そしてこの日はヒナギクが雪路の誕生日プレゼント選びと称して、ハヤテにデートの約束をとりつけた日である。彼女は今、服を何着も取り出し鏡の前でそれらを着まわしている。ハヤテの反応を勝手に想像して、嬉しそうにしたり、怒ったような顔をしたり、いわゆる百面相を浮かべいる。
「楽しそうですわね。」
「っ!!!アリス!起きてたの!?」
アリスことアテネは、大きいアテネの時も小さいアリスの時も朝に弱く、いつも起きてくるのは10時ぐらいなのでヒナギクはこんな時間に起きてくるとは思っていなかったので、凄く驚いている。ちなみに今は朝の六時半で、約束の時間は10時である。
「あれだけ隣で、嬉しそうな声を聞かされていれば誰でも起きますわよ。ウフフ、だとかハハハ、だとか。」
「そ、そんなに笑ってないわよ!」
「顔がニヤけてますわよ。」
アテネの指摘にヒナギクは顔を隠したが、赤くなっているのまでは隠せてなかった。 ヒナギクはアテネから散々からかわれた後、彼女にアドバイスをもらって、結局前ハヤテと映画や遊園地に行った時に着ていたものにした。しかしそれでも、何か変じゃないか、と聞いてくるヒナギクはまさに恋する乙女だ。 すると玄関の方から聞きなれた声がした。
「ごめんくださーい」
「え?お姉ちゃん?」
ヒナギクが玄関に行くとやはり、実の姉である雪路が立っていた。
第11話 『I miss You』
「どうしたのよ、こんな時間に?ていうかこのアパートの場所知ってたんだ。」
「まぁいいじゃない。それよりヒナの部屋は何処よ?」
確かにどこかを訪ねるには早すぎる時間だったし、雪路は今までアパートには来たことがなかった。が、これを軽く流すと雪路はヒナギクの部屋を聞いてきた。何か話があるらしい。部屋に戻るとアテネはもうおらず、ヒナギクと雪路は二人きりだった。
「で、話って何?お姉ちゃん。」
「いやぁ〜、岳君から聞いたんだけど、あんた綾崎君のこと好きなんだって?」
「ガウ君ったら、何でお姉ちゃんに教えてるのよ!!!」
「やっぱり本当なんだ。」
ヒナギクは正直、この状態をピンチと感じていた。雪路だったらこの事実を使って借金をチャラにしろ、とか、お金貸して、だとか言い出しかねない。ヒナギクは思わず身構えたが、彼女の姉の口から出た言葉は予想したものと全く逆のものだった。
「頑張ってね。」
「え?」
雪路の応援に戸惑うヒナギク。そんな彼女を見て雪路は嬉しそうに微笑んでいた。
「別にこれをネタにしてお金をせびろうなんて思ってないから。それに姉として妹の恋を応援するのは当然でしょ?」
「お姉ちゃん・・・」
すると雪路は立ち上がり、ヒナギクの手をとって、その手に何かをのせた。
「だから・・・これをあげる。」
それは楕円形の宝石がはめ込んである綺麗な指輪だった。ヒナギクはそれをいろいろな角度から眺めている。彼女にはこれを買えるだけのお金を雪路が持っているとは到底思えなかった。
「どうしたの?これ・・・」
「白皇の教師になったあたりにね、実はまたギター買おうかなって思ってたのよ。そしてホビーショップでギターを買おうとしたら意外と高くてね。諦めようかしてたらそのギターの下にあったこの指輪が目に入ったの。こんなに綺麗なのに500円だったからつい勢いで買っちゃた。まぁ、まさかこんな形で使うとは思ってなかったけど・・・」
「どうして・・・」
ヒナギクは分からなかった。雪路が何故ここまで応援してくれるのかも、年齢的に言えば彼女の方が必要なはずの指輪をくれるのかも・・・ だが、迷っている妹の問いに対する姉の答えはたった一言。
「妹だから・・・」
そう言うと雪路はヒナギクの頭を撫で回した。
「あんたが私の妹で、そして私があんたの姉だから。 さっきも言ったけど、姉が妹の幸せを願うことは当然のことでしょ?だから今日のデートで綾崎君を口説いて、その指輪をあげちゃいなさい。 ヒナならきっとできるわ。 だってあんたは私の自慢の妹だもの。」
「お姉ちゃん・・・」
気づけば9時をまわっていた。約束の10時には少し早いと思われるが、あのハヤテのことを考えたら丁度いい時間かもしれない。雪路はヒナギクにもう行くように促し、自分も帰る用意を始めた。
「うん!」
ヒナギクは満面の笑みで返事をし、最後に鏡を見て髪を整えたあと、雪路の誕生日プレゼントをねだる声を背に駆け出していった。
「本当は結構前から気づいてたんだけどね・・・」
あんなに嬉しそうにしている妹を初めて見た
あんなに幸せそうに笑う妹を初めて見た。
彼女が恋をしていることなど直ぐに分かった。
彼女の姉として彼女の居場所を守り続けていたが、その役目はもう終わっていたようだ。
だから、これからは見守ることにした。彼の隣で幸せになっている彼女を。
指輪をあげたのには、あまり深い意味はなかった。 ただ、彼女の名前の花言葉に、勇気の二文字を付け足したかった。
彼女に、もう彼でしかダメになっていることに気づいて欲しかった。
そして、ヒナギクの花が一番綺麗に咲くことを、どんなことよりも願っていた。
「頑張りなさいよ、ヒナ・・・」
「うん!」
何かを聞かれたわけでもないし、そばに誰かいたわけでもないが、ヒナギクは何故か力強い返事をしていた。 今日はなんだか少し素直になれそうな気がする。ポケットに入った指輪の感触が彼女にそう直感させていた。 しかし、彼女がそう思えるのにはあと一つ理由があった。
「ハヤテ君ならいい、じゃなくて、ハヤテ君じゃなきゃダメ。だって・・・
私はハヤテ君のことが大好きなんだから!」
風が、その言葉を大好きな彼のもとへ運んでくれている気がした。
どうも、タッキーです。 デートは始まりませんでしたが、一応デート編です。 指輪のことを一応説明しておくとアテネがハヤテにやったアレです。雪路がそれを入手した経緯は23巻の扉絵から引っ張らせていただきました。 そして今回は久しぶりのちょっぴり歌詞ネタ。ヒナギクさんの「I miss You」を使わせて頂きました。ここからは多分このやり方が多くなると思います。ちなみにまだハヤテの曲しか使ってませんが、それ以外の曲も使う予定です。できるだけ雰囲気がでるように頑張ります。 次回からはデートが始まります。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.14 ) |
- 日時: 2014/06/19 02:49
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
相変わらずの更新頻度の高さに感服しております。
"I miss You"出ましたかー!私も好きな曲です。個人的にはサビ直前の「すーっ」と息を吸っている音がイイ。 自分もサブタイトルに使ってる曲なんで、非常に興味深く読ませて頂きました。
待ち合わせ時間と現在の時間を表す事でヒナがデートに対してどれだけ浮かれているのかが上手く表現されていますね。加えてアリスちゃんの茶々入れの温度差も絶妙です。 あと、良く原作を読まれていますね。雪路の指輪の件なんて私も完全に記憶の外でした。 最後のヒナのセリフは、歌の中でも一番盛り上がる(=一番伝えたい)所なので、このお話でどれだけヒナの想いが強いのか伝わるシーンだと思いました。 ここからのデート編がまた楽しみですね。
今回もアドバイスをと。「地の文」の言葉遣いについてになります。 三人称での語り口であれば、使う言葉は略語であったり話し言葉ではないほうが見た目がカッコ良くなるかと思います。 具体的に言うと「キョドってしまった」とか「秋葉」などといった所ですね。キャラが話し言葉で使うのであれば有効かと思いますが、地の文で来るとなると…かなり軽い文章といった印象になりますね。
例えばナギ視点のモノローグで 「ハヤテとアキバに来るのなんて久しぶりだな。それにしてもハヤテのヤツ、私と一緒にいるというのになにをキョドっているのだ?」 というのを三人称の文で表すとすれば… 「ハヤテとナギが秋葉原に来るのは久方ぶりの事である。意気揚々と闊歩するナギに対してハヤテはというと…きょろきょろと辺りを見回してせわしない様子だ。そんなハヤテの姿にナギも気付き、いぶかしげな表情で観察をし始める。」 といった感じでしょうか。ここらへんはあんまり私のは参考にしないでください。(笑
ちなみに「秋葉原」の略語として「秋葉」は一般的ではなく、「アキバ」とした方が良いかと思います。かなり厳密な由来を調べてみたら間違ってはいませんが…。 書き手の認識によってかなり違ってくる点とも思いますので、色々と調べた上でご自身が一番良いと思った表現をするのが一番ですね。…という逃げの姿勢。
それでは、次回も楽しみにしております。 失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.15 ) |
- 日時: 2014/06/19 16:06
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
もうこれ飽きたという方、まぁいいじゃないですか。今回はレス返しです。
ロッキー・ラックーンさん。今回も感想とアドバイスありがとうございました。バイトがない日は基本的に時間があるので更新するようにしています。できなくても電源を落とさなければ続きから書けるので。
それより原作はバリバリ読んでます!発売日は昨日だったけど41巻を明日買いに行く予定です。自分の住んでる所、発売日が二日ほど遅れるんで・・・ この話は原作の設定に付け足しをする部分がありますが、できるだけ違和感が無いようにしたいと思っています。ロイヤル・ガーデンの設定にも付け足しをする予定です。
実は「I miss You」を買ったのは最近なんです。バイト代が入ったので一期二期のキャラソンとかを一気に・・・ ヒナさんの曲も良かったけど西沢さんのキャラソンも個人的には好きですね。なんというか切ない感じがして、このSSでも使おうかなと考えています。でも西沢さんのキャラソンだったらやっぱり「Waikin’」ですね。とても西沢さんらしさが出ていると思っています。
アリスはなんというか神出鬼没ですよね。原作でマリアさんが畑作っているときとか、ヒナさんが寝込んでハヤテに甘えてるときとか・・・なので自分もそんな感じに使いたいと考えていたんです。 次も彼女は凄く重要な役回りですので楽しみにしておいてください。
そして、毎回アドバイスありがとうございます。指摘されていた場所は自分でもしっくりときていなかったので、次から気を付けようと思います。できれば前の文も直したいのですが、繰り返して読んでくれる方を少し混乱させてしまうと思うので・・・ あと・・・思いっきり参考にさせて頂きます!もうホント思いっきり!まぁ決意と実力は比例しないとナギも言っていたので、すぐには無理と思いますが、できるだけ近づけるように頑張ります。
あ、これからは岳君のほうにも注目していただけると嬉しいです。この話の主役はハヤテとヒナギクであり、そして岳君などのオリキャラなので。 プロフィールにも書いた通り、岳君の実年齢は16歳じゃないです。彼が何者か推理していくのもいいかもしれませんよ。まぁプロじゃないので上手く隠すことはできないと思いますが・・・
今回も本当にありがとうございました。 また感想とかくれると嬉しいです。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.16 ) |
- 日時: 2014/06/23 01:21
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
41巻買ったぜー!OVA買ったぜー!ハヤテがちょっと怖かったぜー! まだ買ってない方、ぜひ買ってね! ということで今回はデート編その2 そしてついに・・・ ということで更新!
今、ハヤテはヒナギクとの待ち合わせ場所に向かっている。
「ちょっと早すぎたかな。」
現在の時刻は8時50分。この調子だと約束の1時間前には着きそうな感じである。何故こんなに早いかというと、凄く楽しみにしていた・・・のも当然あるのだが、1番の理由はナギがものすごく不機嫌で、朝起こしに行ったらいきなり枕が何個も飛んできたり、やっとのことで起こして朝食を食べさせた後も、早くヒナギクのところに行けばいい、とすぐに自分の部屋に引きこもってしまったからである。マリアに助けを求めても、いつものことですから、とスルーされてしまった。
「それにしてもヒナギクさんと二人で買い物か〜。まるでデートみたいだな・・・」
ピタッ
ハヤテは急に止まると自分の言った意味を理解し、顔を赤くさせる。
「い、いやそんなことある訳ないじゃないですか!だってほら!ヒナギクさんは僕をそういう対象として見てくれてませんし、そりゃヒナギクさんが僕の事を好きだったら凄く嬉しいけど・・・」
「誰に言い訳していますの?」
「うわぁあああ!!!ってアーたん?こんなところでどうしたの?それにその姿・・・たしか月1回が限界じゃなかったっけ?」
そう、ハヤテの暴走を止めたのはアテネだ。しかしそれは小さいアリスではなく、大きい方の天王州アテネだった。
「神様が助けてくれたの。」
そう言って、アテネはハヤテの問にあまり答えてはくれなかった。その代わりにハヤテは逆にある質問をされた。アテネがハヤテに送ったあの指輪のことについてだ。
「小さい私があなたにあげた指輪、まだもってます?」
「へ?それなら当然、いつも肌身離さず持ってるよ。これがどうしたの?」
アテネはいつも持ってると言って、すぐに指輪を取り出したハヤテに自分がとても大切にされている事を感じた。 しかしそれを確認しに来たのではない。今は彼の背中を押すために来たのだ。
自分の想い人が幸せになれるように
その為にある人に無理も言った。
こんなに頑張っているのだ。思いっきり抱きしめて欲しかった。
また自分が彼の隣に立ちたかった。
しかしもう彼の一番は自分でないということは分かっていたから・・・
「その指輪は私に返さなくていいですわ。 あなたの・・・ハヤテの大切な人に贈りなさい。」
アテネはしっかりハヤテを見て、自分が今、彼に伝えないといけないことを言った。これは決して伝えたいことではなかった。
「それじゃ、用件はこれだけですから。ヒナとのデート、楽しんできてください。」
アテネはまだ意味を理解していなさそうなハヤテに背を向け、そのまま帰って行った。 取り残されたハヤテはしばらく考えこんでいたが、約束があることに気づき、時計を見てみると・・・
「9時・・・50分?って遅刻寸前じゃん!!!」
自分が相当考えていたことに気づき、ダッシュで待ち合わせ場所に向かった。
「フフ、全くハヤテは。女の子を怒らせたり、笑わせたり、泣かせたり・・・本当に罪な人ですわね。」
アテネは慌てて走っていくハヤテを見て微笑んでいた。後悔や悔しさもあったが、その笑顔には何より、何かをやり遂げたという清々しさがあった。
「もう・・・泣きませんわよ。」
そう言うとすぐにいつものちっちゃいアリスに戻って、アパートに帰ろうとした。が・・・
「道が・・・分かりませんわね・・・」
そう、アテネは今回連れてきてもらったのだ。なのでここがどこなのかさっぱりわからなかった。そして連れてきた本人はというと・・・
「ははは、なんか締まらねーな。また連れていけって事なんだろ?」
そこにいた。アテネは帰ったと思っていたのだが、そうではなく一部始終を見ていたらしい。アテネは本当に仕方なくと言って顔で言われた通り、彼に連れていってもらうことにした。
「なんだか腑に落ちませんが、よろしくお願いしますわ・・・岳さん。」
「おう。」
岳はニコっと微笑んだ。
第12話 『善き少女のためのパヴァーヌ』
ヒナギクは今、ハヤテを待っている。腕時計を見てみると9時57分。待ち合わせの時間まで5分を切っている。先にハヤテが来て待ってくれていることを期待していた為、なんだか少し残念な気分だった。
「やっぱり私との約束なんて、大したことじゃないのかな・・・ 誕生日の日だって約束、忘れられてたみたいだし・・・」
ハヤテが来ないことで俯き、思考がマイナスな方向に進んでいたが、こんなんじゃいけないと顔を上げたら、目の前に待っていた彼の心配したような表状があった。ヒナギクはハヤテが突然現れたことに驚いて、軽く悲鳴を上げてしまった。
「す、すいません!ここに着いたら何だかヒナギクさんの元気がないようでしたので、つい・・・」
「べ、別にいいわよ!ちょっと考え事してただけだし、心配してくれてありがと。それじゃもう時間だし、行きましょ。」
ヒナギクは最初は顔を赤くさせて、どこか慌てている様子だったが、すぐにいつものペースを取り戻し、ハヤテと一緒に買い物に出かけた。まぁそれでもハヤテとデートをするということで十分顔を赤らめていたのだが・・・
ハヤテたち当初の予定通り、雪路の誕生日プレゼントを買うことにした。
「桂先生が喜ぶものといえば・・・お金と酒・・・ですね。」
「だからそれ以外だって言ってるでしょ?」
そう言われても、ハヤテにはお金と酒以外あの雪路が喜びそうな物が思い浮かばなかった。実際のところハヤテは、雪路には基本迷惑をかけられてばかりなので、それなりに高いヤツでいいんじゃないかと思っていた。 しかし真剣に選んでいるヒナギクを見てその考えは直ぐに消え去った。
(そうだよな。ヒナギクさんもこんなに一生懸命なんだ。だったら僕もちゃんとしたプレゼントを送らなきゃ。)
しかしやはり雪路へのプレゼントは物じゃ難しかった。彼女は意外と服類などは持っているし、かと言って彼女が好む貴金属などはとてもじゃないが少し高すぎたからだ。
「やっぱり手作りのケーキとかにしませんか?普段お酒ばっかであまり食べてなさそうですし、何より気持ちも込めやすいですし・・・ 二人で作りませんか?」
「そ、そうね。お姉ちゃん甘い物好きだし、それでいいと思うわ。」
ヒナギクは二人でという言葉に顔を赤らめながらハヤテの意見に賛同した。その後いろいろと話し合った結果、ケーキは喫茶どんぐりで帰る前に作ることになり、それまでは普通に買い物を楽しむことにした。しかしヒナギクが早速洋服店に入ろうとした時・・・
くぎゅううううぅぅぅ
「はは、それじゃぁもうお昼ですし、さきに何か食べましょうか。ヒナギクさんは何食べます?」
「ハ、ハンバーグ・・・///」
ヒナギクはハヤテにお腹の音を聞かれた恥ずかしさから俯いてしまい、小さい声でしか答えられなかった。しかしそれをきちんと聞き取ったハヤテは、ヒナギクを近くのファミレスまで案内した。
「それにしても、ヒナギクさんって意外と食いしん坊ですよね。」
「ハヤテ君、殴るわよ?」
ヒナギクの殺気にすいません、と慌てるハヤテ。しかしよく思考が回っていないときほど彼はとんでもない事を言い出す生き物である。
「た、ただヒナギクさんと結婚したら楽しいけれど大変な毎日になるだろうなぁ〜と。」
「へ?・・・///」
「あ・・・///」
さすがのハヤテもこれが爆弾発言だとは気づき、二人は一緒にこれ以上ない程顔を真っ赤にしていた。
「すみません、コーヒーください。ブラックで。」
ハヤテたちの座っている席は完全に桃色空間に突入しており、アテネを送った後、二人を尾行して同じファミレスに入った岳は少しだけ後悔していた。
(たしかに応援してるんだけど、あそこまでイチャつかれると・・・。 なんか声もかけずらいし、今日はここら辺にしとくか。)
岳はブラックコーヒーを飲み干すとハヤテたちに気づかれないように、と言っても今の二人には気づく余裕など無さそうだったが、とにかく精算をすませ、そこから逃げるように立ち去った。
(結婚・・・か・・・)
ヒナギクは先程ハヤテに言われたことの意味を考えていた。
(そういえば、夏休みの同人誌対決でルカが勝ってたら、ハヤテ君とルカは結婚してたのよね・・・)
そんな事を考えていると、ある疑問が浮かんだ。
「ねぇハヤテ君。ハヤテ君は何でルカの告白断ったの?」
「へ?」
さっきまでの桃色空間は完全に消え、ハヤテも突然の質問に驚いた。なぜ今更そんな事を聞くのか分からなかった。
「ですから、僕には借金がありますし、それにお嬢様の執事だから、そんな身で誰かと付き合うなんてことは・・・」
「後悔・・・してないの?」
ハヤテはその質問に、まるで自分の心を見透かされているように感じた。
「あれだけ可愛い子にあれだけ迫られたんだから、好きになったりしたんじゃないの?」
ハヤテは複雑な気持ちだった。ルカに告白された時は正直嬉しかったし、ルカと結婚してもいいじゃないかと考えたこともあった。そう思っていたことも含めて、ハヤテは自分なり出した答えをヒナギクに伝えた。それが正しいのか未だ分かっていない答えを・・・
「確かに少し後悔しました。もしかしたら好きになっていたのかもしれません。でも多分それは彼女に惹かれたというより、ときめいたという方が正しいのだと思います。 彼女の積極さに・・・ 彼女の僕のことを強く想う気持ちに・・・ だから学んだんです。誰かの気持ちに答えることと、誰かに真剣に恋をすることの大切さを・・・」
ヒナギクはハヤテの話を黙って聞いていた。もしかしたらハヤテはルカの事が好きなんじゃないか、そうでなくともアテネのことがある。どうしても不安は消えなかった。しかし彼の話を聞くとまだチャンスはあると実感できた。気づくとヒナギクはとんでもない質問をしていた。
「だったらハヤテ君。今から私がルカみたいに迫ったら・・・ ハヤテ君は私を好きになってくれる?」
「へ?///い、いきなり何を言い出すんですか!!!///」
ヒナギクも自分の言ったことの意味に気づいて、必死に取り消そうとしている。
「ご、ごめん!///今のは冗談!そう冗談なのよ!///ちょっとハヤテ君をからかっただけよ!!!///」
「そ、そうですよね!///ヒナギクさんが僕のことを好きだなんてことあるわけないですもんね!///」
「・・・」
少しはもしかしたらとか思わないんだろうか、ハヤテは完全にヒナギクの冗談という言葉を信じきっている。ヒナギクはいかにもやってしまった、という表状をしていて、彼の鈍感さと自分の素直じゃなさに呆れて声も出せないようだった。
「も、もう食べ終わりましたし、そろそろ買い物行きませんか?」
「そ、そうね。そうしましょう。」
二人はこの気まずい空間から抜け出す為、取り敢えず買い物のつづきをすることにした。
「ところでヒナギクさんは何が欲しいんですか?」
「う〜ん、やっぱり服とかかしら?これからまた冷え込むだろうし、コートとか買おうと思ってるけど・・・」
今の二人にはさっきまでのような気まずい雰囲気はなく、普通に買い物を楽しんでいる。どうやらヒナギクは、こんな風にショッピングに来ることは久しぶりらしい。女の子らしくあっちへ行ったり、こっちへ行ったりしていて、ハヤテはついて行くのが大変だったが、ヒナギクが楽しそうに微笑んでいるのを見ると、まるで世界も微笑んでいるような気がするくらいハヤテも楽しく、嬉しい気分になれた。
「ごめんね、ハヤテ君。 なんかはしゃぎすぎちゃって・・・大丈夫?」
「え、えぇ。こ・・・おっと。 こ、これくらい余裕ですよ。余裕。」
ハヤテは今、自分の頭の高さあたりまで積み重なった荷物をもっている。本人は大丈夫と言っているが、心なしか顔が引きつっているし、荷物の方は今にも倒壊しそうだ。それでもまだまだ余裕と言い張るハヤテにヒナギクは少し意地悪をしてみたくなった。
「じゃ、次行きましょ。ハヤテ君。」
「え?ってうわぁああ!そんな引っ張らないでくださいよ、ヒナギクさん!」
ヒナギクはハヤテの袖を引いて歩き出した。ハヤテは急に引っ張られたことでバランスを崩したが、直ぐに大勢を立て直し、必死に彼女を追った。
「待ってくださいよ、ヒナギクさ〜ん。」
「だ〜め。待ってあげない。」
そう言って、笑顔で駆け出すヒナギクに、ハヤテの全てが見とれていた。
(そういえば、前に遊園地に来たときもこんな感じだったなぁ。あの時は帰りの電車賃がなくて怒られたっけ。そして、その後ヒナギクさんは・・・)
-好きな人とじゃなきゃ観に来ないわよ-
そう、実はハヤテには、ヒナギクの言葉が聞こえていたのだ。しかし聞こえた内容が信じられない事だったのと、電車の音が響いていたことで聞き間違いだろうと思い込んでいた。
(もし、そうじゃなくてあの言葉が本当だったら?いや、でもあのヒナギクさんだぞ。ヒナギクさんが僕のことを好きになるわけ・・・)
-ハヤテ君と一緒だから・・・より・・・楽しいわよ-
あの時は、ただ自分が上手くエスコート出来たからだと思っていた。
-普段から私にもそれくらい優しくしてくれればいいのに-
-ハヤテ君はいつも・・・ナギのことばっかり・・・-
この時は単に風邪で寂しがっているだけだと思っていた。
-月が綺麗ですね-
この言葉の意味は知っていたが、信じられなかった。
ハヤテの記憶にある、様々なもしかしたらが彼の頭を回って、最後にさっきの彼女の言葉がフラッシュバックした。
-ハヤテ君は私を好きになってくれる?-
(もしかして・・・ヒナギクさんは僕のことが・・・好き?でも仮にそうだとしたら僕は?僕の・・・気持ちは?)
ハヤテはふと目の前で自分の袖を引っ張りながら歩いているヒナギクを見た。
今みたいに彼女が楽しそうにしていると自分も楽しくなった
彼女が困った顔をすると意地悪をしてみたくなったけど、それ以上に助けてあげたくなった
悲しそうな顔をすると自分も悲しくなり、嬉しそうにすると自然に笑みがこぼれた
ハヤテは自分がヒナギクからナギと同じぐらいいろいろなものをもらっていることに気づいた。それらにははっきりとした形がなかった。後悔や悲しみ、怒りや嫉妬、楽しさと嬉しさ、元気に優しさ、そして笑顔と涙。 ハヤテは同時に何故かアテネから言われたことを思い出していた。
-あなたにとって一番大切で守りたい人は誰?-
-その指輪は私に返さなくていいですわ-
-あなたの・・・ハヤテの大切な人に贈りなさい-
(僕の一番大切な人・・・一番守りたい人・・・ お嬢様のことは勿論守りたい、アーたんやルカさん、西沢さんやマリアさん、そのほかの人たちだって当然大切だ。でも・・・)
-ハヤテ君の隣にずっといるから-
-だから・・・そんなに泣かないで-
(ヒナギクさんは皆さんとは違う・・・もっと、特別な・・・)
-私が手をかしてあげるから-
-絶っっ対に笑いなさいよね-
浮かんできた、いや脳裏に焼きついて思い浮かぶ必要すらなかった。 自分に手を差し伸べて微笑んでいる彼女の姿が、何よりも大切な人を・・・ 何より守りたい人を・・・ そして何より素晴らしい気持ちを・・・ ハヤテに教えてくれた。
ポツ、ポツッ
「あぁ〜、雨降ってきちゃった。どうする、ハヤテ君?」
急な天気の変化に困ったような顔をするヒナギク、しかし自分の気持ちに気づいたハヤテにはそれすらも愛おしく感じた。しかし雨はだんだん強くなり、まるでこの想いが届くのを邪魔しているようだった。
「運命と呼ぶには・・・まだ、早いかな。」
「ん?なぁに、ハヤテ君?」
「何でもありませんよ。さぁ、雨宿りできる場所を探しましょう。」
まだ、どう彼女に触れていいかも分からないし、抱きしめ方もしらないけれど・・・
「うん。」
彼女の笑顔を作っているのが自分であること。もしかしたらそれは勘違いかもしれないけれど、でも今は自分がその笑顔を作っている。その事実がどんなことよりも幸せに感じた。
どうも、いかがだったでしょうか? ついに、ハヤテが自分の気持ち、そしてヒナギクの自分に対する気持ちに気づきました。気持ちに気づかせるパターンとして多い(と自分はおもってます)「そうか・・・僕は・・・」もいいかなぁと考えていたんですが、やはりあえて・・・みたいな。すみません、自分ひねくれものなんで。 さて、今回はアルバム『福音』から、ルカの『善き少女のためのパヴァーヌ』を使わせて頂きました。いやぁ〜いいですよね、これ。自分はルカの曲だけどヒナさんっぽい曲だなぁと感じています。これからまた新曲とか出して欲しいですね。 ちなみに次回はハヤテ以外の曲を使おうと思っています。これは自分の趣味なので知らない方がたくさんいると思いますが、どうぞよろしくお願いします。ちなみに歌手はハヤテでいうツグミ・ルリ役の井口裕香さんです。 次回でデート編も終了。しかしあの人たちが出てきてシリアスな雰囲気に突入します。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.17 ) |
- 日時: 2014/06/25 04:17
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
毎度の感想失礼します。
サブタイを見てクスっとなりましたが、ルカの曲でしたか。元ネタが「亡き王女のためのパヴァーヌ」というクラシック曲かと思ったので…。キャラソンに関してはヒナ以外はどーにも疎くて…キャラソンでもこーいった遊び心があるのは面白いですね。
ハヤテの自分の気持ちの気付き方が非常に面白いです。あの映画の時の一言が聞こえてたという展開はコロンブスの卵でした。このあたりも自分はパロディでサラッと済ませたクチなので参考になります。 後は情景描写ですね。雨というマイナス要素が強いシーンすらも愛でてしまうハヤテの姿には、その心情の強さが非常に良く伝わりました。 ハヤヒナのもどかしい会話も魅力的ですね。個人的には「ルカみたいに迫るヒナ」ではなく、「ヒナみたいに迫るヒナ」…つまりはヒナオリジナルのハヤテへの愛情表現に期待しております。 あとなにより、アリスちゃんが可愛い。
最後に毎度毎度のアドバイスを失礼します。地の文と会話文の重複についてです。 まずは一箇所、抜粋してみます。
◆ その代わりにハヤテは逆にある質問をされた。アテネがハヤテに送ったあの指輪のことについてだ。 「小さい私があなたにあげた指輪、まだもってます?」 「へ?それなら当然、いつも肌身離さず持ってるよ。これがどうしたの?」 アテネはいつも持ってると言って、すぐに指輪を取り出したハヤテに自分がとても大切にされている事を感じた。 ◆
この部分、指輪について質問している会話を前の地の文でそのまま説明し、「持ってる」と言ったセリフを後の地の文でそのまま説明してますね。読んでいる側としては、会話だけで分かる事を地の文で説明されてるので、もっさりとした印象を受けるかと思います。 地の文では、「何をしたか」よりは「どんな様子だったか」の説明が多いと、読んでる側は状況をイメージしやすくなるのではないでしょうか。(あくまで個人の見解です とりあえず、やってみましょう。
◆ 「小さい私があなたにあげた指輪、まだもってます?」 「へ?それなら当然、いつも肌身離さず持ってるよ。これがどうしたの?」 アテネの唐突な質問に疑問を感じながらも、ハヤテは笑顔で即答する。愛した人に託した「愛の証」。それだけでアテネの心は白鳥のように舞い上がった。 ◆
ハヤテが指輪について質問された事、その指輪をすぐに取り出した事を説明しないでも分かって頂けますでしょうか?後は「体言止め」だの「擬人法」だのを取って付けて、凝った感じにしてみました。本当に取って付けただけので参考にはry 文章表現は使ってみないと自分の中に定着してくれないので、覚えたら即使ってみるのをオススメします。
そんなこんなで次回も期待しております。 失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.18 ) |
- 日時: 2014/06/25 15:57
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。今回はレス返しです。
まずはロッキー・ラックーンさん。感想ありがとうございます。やっぱり感想をもらうと嬉しいので、毎回でも全然歓迎してますよ。遠慮とかいらないのでアドバイスもどんどんしてくれると嬉しいです。
サブタイに曲を使っているときはその曲の雰囲気とかをイメージしていただけると嬉しいです。「善き少女のためのパヴァーヌ」はハヤテ3期の3話で挿入歌として使われていたので、できるだけ同じような感じになるようにしています。 まぁ今はキャラソンが多いですが、これからはハヤテとは全く別のアニメの曲を使ったりするのが増えるので、You○ubeとかで聞いて雰囲気を掴んでいただけると嬉しいです。
これは感想にはありませんでしたが、大量の荷物を持ったハヤテをヒナギクが引っ張るシーンは原作29巻限定版の「他人の画集」にある、ぽよよんろっくさんのイラストをイメージしました。服は違うけれど、女の子っぽくハヤテを振り回しているヒナギクが書きたかったので。
気づき方として最初は普通にハヤテだけが自分の気持ちに気づくつもりだったんですが、先にヒナギクの気持ちに気づいたのって見たことないなぁと思い、やってみました。ただ彼女の気持ちに気づかなくても同じような気づき方にしようと思ったので、面白いと言ってもらえてとても嬉しいです。 映画の時の一言が聞こえていたというのは、結構前から考えていて、もしかしたら原作でも・・・とか思ってたりします。ハヤテは多分耳も凄くいいだろうから実は聞こえてたんじゃね、というのが自分の考えです。こういう感じで、ちょっとずつ原作とつなげていきたいと思っています。
雨というのは次回で必要だったのとハヤテの最後から二番目の台詞言わせるために降らせたんですが、どこかもの足りなくて付け加えたのがそれだったんです。上手くハヤテの気持ちを表現できていたようで嬉しいです。
ヒナさんはハヤテに迫る・・・かな?自分としてもヒナさんらしく迫っていくのを書きたいと思っているのですが、迫る余裕があるかどうかはまた別の話ですね。でもしっかり愛情表現はさせますので楽しみにしておいてください。
最後にアリスを迷子にさせるところなんですが、一人で来たのなら道覚えてるんじゃね?ということになり、岳君に連れてこさせました。ついでといってはなんですがそのまま岳君は次回結構重要な役割になります。
アドバイスの方も改善できるように頑張ります。やはり読みやすいものを書きたいので。
ちなみに今回はハヤテが気持ちに気づく回だったので感想ほしいなぁと思っていたところで、本当にもらえてとても嬉しかったです。ロッキーさんの更新も楽しみにしています。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.19 ) |
- 日時: 2014/06/27 00:14
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
参照が1000を越えました。読んでくれた方、ありがとうございます。 そういえば6月はハヤテキャラの誕生日が多い(?)ですね。サキさんとか泉さんとか虎徹君とか東宮君とか・・・とにかくおめでとうございます。 今回はあの人たちが出てきます。といっても最後の方なんですけどね。 それでは・・・ 更新!
岳はファミレスから出たあと、店の前に何やら怪しい人物を見つけた。どうやら店内にいるハヤテとヒナギクの様子を伺っているらしい。二人が店を出たあとも彼らを尾行しようとしていたため、岳はその怪しい人物を止めておくことにした。
「国民的アイドルがデートの尾行なんかしてていいのか?」
ビクッと肩を震わせたあと、ハヤテたちを尾行していた張本人、水蓮寺ルカは声がした方を振り向いた。
「だ、誰?てか何でわかったの?」
正直彼女は自分の正体がバレるとは思っていなかった。彼女は今、かなりの強盗犯ルックで、厚手のコートでフードを深く被り、メガネにマスクまでしている。ここまでしてバレるということは相当なストーカー?そう思い、ルカは身構えたが、彼の話を聞くとその必要はないと判断した。
「初神 岳。ハヤテたちから多少話は聞いているだろ?それにハヤテとヒナのデートを尾行しそうでそこまで変装しなきゃならない人物って大体想像はつくよ。」
ルカはまだ何だか納得していないようだったが、岳はあまり気にせず話を続けた。
「ハヤテのこと・・・やっぱりまだ諦めきれないか?」
「!!!」
「でもハヤテはもうヒナのことを好きになっている。だからどうしたらいいのか分からない・・・だろ?」
ルカは岳の全てを知っていると言わんばかりの口調に怒りを覚えた。気がつくと周りに人がいるのも忘れて、ルカは声を荒らげていた。
「あなたには分からないでしょ!好きなのに、大好きなのに!なのにどうして諦めなきゃならないのよ!そりゃ私はアイドルだし、一回は彼のことを諦めて二人を応援しようって決めた。でも考えなんて変わるわよ。 だって・・だって・・・ハヤテ君のこと・・・やっぱり好きなんだもん・・・」
ルカは涙を流し、その声には勢いが無くなっていた。
「アイドルをやるのは好きか?」
すると岳は突然話題を変えた。ルカには岳がなにをしたいのかもう分からなかった。
「好きよ・・・。ヒナのことだって好き。だから二人の幸せを心から願っているのも本当。でもやっぱりハヤテ君のことを諦めるなんてできない。一回振られちゃったけどまだチャンスがあるって信じていたい・・・そう思っているのも本当。どっちとも真実なのよ。 だからこんなに苦しいし、辛いの・・・。 だからどうしたらいいのかすらも・・・分からないのよ・・・」
岳はルカの胸の内を聞いて満足したような笑みを浮かべた。
「じゃ、そのままでいればいい。」
「え?」
「誰かをどうしても譲れない気持ちと、誰かの幸せを思って身を引く気持ちは同じくらい強い。だからそれがごちゃごちゃになってしまうのは当然だ。だからといって悩むなとは言わない。 ただ今はその気持ちを持てたことを誇りにして・・・そして大切にしろ。そうしたらきっと前に進める。そのうち自分がどうしたいのか分かるようになる。 だから・・・今はそのままでいいんじゃないか。」
本当に喰えない人だ。ルカはそう思った。最初、彼は自分にハヤテのことを諦めさせようとしていると思っていたが、それとは全く逆に、背中を押された。岳はルカの迷いを取り払ったのだ。
(たしかに、今こんなに悩む必要なんてないのかな・・・)
ルカは自分がどうしたいか、少しだけ分かった気がした。
「ありがとう。まだ完全に割り切った訳じゃないけど、今は二人の幸せを願うことにする。それでも諦めたって訳でもないけど。」
「役に立てたようで良かったよ。また辛くなったら誰かに相談しろよ。」
ルカが頷いたとき、ポツ、ポツと雨が降り出した。ルカは岳にもう一度礼を言うと、傘がないことに慌てながら急いで帰って行った。
「ハッピーエンドになるといいな。」
雨の中でも迷いのない後ろ姿に、岳は一言だけ呟いた。
第13話 『RAIN』
ハヤテとヒナギクはレインボーブリッジという今はもう閉まっているおもちゃ屋の軒下で雨宿りをしていた。
「天気予報で今日は雨は降らないって言ってたのに・・・」
「まぁ予報なんですから仕方ありませんよ。それよりこれからどうします?時間はまだありますけど先に‘どんぐり’に行って桂先生のケーキでも作ります?」
「それでもいいけど、ハヤテ君大丈夫?そんなに荷物持ってるんだから、もう少し雨が止んでからでもいいんじゃない?」
雨はそこまで激しいわけでもなく、喫茶どんぐりに行くにしても少し濡れるくらいで済むだろう。しかしハヤテは今、大量の荷物を持っている。ヒナギクも両手に荷物がぶら下がっており、彼の荷物を持つ余裕などなかった。 しかしハヤテはそれでも笑顔でいられた。ヒナギクに心配を掛けまいとしているのもあったが、彼女が心配してくれていることが何より嬉しかったからだ。
(どうしてかな?雨ってあまり好きな方ではないけど、ヒナギクさんと一緒なら大好きになれる気がする。)
雨宿りをしているだけ。そんな些細なことでも、ハヤテは自分が恋をしているのだと感じることができた。
「大丈夫ですよ。僕、力持ちですから。」
「そ、そう///それじゃ行きましょうか。」
実はヒナギクもハヤテと同じようなことを考えていたので、彼の笑顔にすぐに顔を赤くさせた。今の彼女にはハヤテを意識するなと言うのは無理な話だろう。
喫茶どんぐりに着いたハヤテたちはマスターの許可をもらい、早速ケーキを作り始めた。今回はヤンキーたちが店に怒鳴り込んでくることはなかったので順調に作ることができた。
(それにしてもハヤテ君のエプロン姿、本当に可愛いわね。)
ヒナギクはエプロンをして三角巾を頭に巻いているハヤテに不覚にもときめいてしまっていた。正直ハヤテは並の女の子以上に可愛い。それがエプロンをして楽しそうに料理をしているのだ。どこかの変態だったらお持ち帰りー!と叫びそうな光景だった。
「そういえばヒナギクさん。」
「ん?」
「ヒナギクさんのエプロン姿、とっても可愛いですよ。それに言いそびれてましたけど私服も似合っててとっても素敵でした。」
「なっ!!!///」
ハヤテの言葉はまるでヒナギクの気持ちをそのまま逆にしたようなものだった。こういうところが天然ジゴロである所以なのかもしれない。ヒナギクは当然顔を赤くさせていたが、言われてばかりでは何だか負けた気がするのでヒナギクも自分の思っていたことを口に出す。
「は、ハヤテ君の方が可愛いんじゃない?だってエプロンしてお料理している姿なんかまるで女の子だもん。きっといいお嫁さんになれるわよ。」
「え〜、そんなことないですよ。僕は男なんですし、ヒナギクさんの方が絶対可愛いですって。 でももし結婚するならヒナギクさんみたいな人がい・・い・・・」
ハヤテの言葉は急に勢いがなくなり、そこで途切れてしまった。またしても自分がとんでもないことを言っていると気づいたからだ。
「い、いや!あのですね!そりゃヒナギクさんみたいな人と結婚できたら幸せだなぁとは思ったりしますけれども、もしもですよ!これはもしもの話なんですよ!」
必死に言い訳しようとしているが、言っている内容はほとんど好きですと自白しているようなものだった。ヒナギクはハヤテがまたとんでも発言をする度に、ふぇ?だのそ、そんな、だのいちいち可愛らしい反応をしている。
「二人ともケーキ・・・て、何だかお邪魔だったみたいね。」
「うわぁあああ!マスター!違うんです!これはそういうことではなくて!」
「はい、はい。ちゃんと分かってるわよ。二人ともお年頃なんだからもっと積極的にいかなきゃダメよ。」
「だから違うんですってばーーー!!!」
桃色空間に突然入ってきた北斗にハヤテは必死に弁明しようとするが、逆にからかわれてしまっている。ヒナギクはもう気絶寸前で、口をパクパクさせて赤くなることしかできなかった。
「それで、ケーキは完成したの?」
「は、はい・・・おかげさまで。」
ハヤテたちを散々いじった後、北斗は出来上がったケーキを見せてもらった。それはチョコレートをベースにした大きなホールケーキで、シンプルなデザインだったがその完成度からどれだけ気持ちが込められているかが伝わってきた。
「それじゃ、あとは私が冷やしておくから二人は帰っていいわよ。丁度雨も止んでるみたいだし。」
「え、でも・・・」
「いいから、いいから。私も誕生日を祝いたかったし、これくらい・・・ね。 荷物とかも明日取りに来ていいから。」
結局ハヤテたちは北斗の言葉に甘え、帰ることにした。まだ5時くらいで帰るにはちょっと早かったのでいろいろと寄り道をしながら歩いていたが、再び雨が降ってきたのでそうも言ってられなくなった。丁度住宅街を通っていたので雨宿りすることもできなかった。
突然降り出した雨から逃げながら、二人の手は自然につながれていた。ヒナギクはハヤテの手が雨のせいで少し冷たくなっていることに気づいた。それでも優しく自分の手を引いてくれるこの瞬間は、とても愛しい時間だと思えた。
「大丈夫ですか?ヒナギクさん。」
彼の優しい言葉は嘘じゃないと分かってる。しかし彼が優しくしてくれるのは、自分が特別だからじゃないということも分かってる。
(でもこの恋だけは壊したくない、ハヤテ君とずっと一緒にいたい。)
少し強くなってきた雨の中、ヒナギクはそう思った。しかしそのためには必ず通らないといけない道があり、伝えなくてはいけない想いがあった。だから・・・
「ねぇハヤテ君。ここの商店街にシンボルがあるって知ってる?」
「そうなんですか?初めて知りましたけど。」
「じゃぁ、もう最後だし、そこに行かない?ここから結構近いし・・・」
ヒナギクはある決断をしていた。
「え?これって・・・」
「そう、これがこの商店街のシンボル、銀杏大観覧車よ。」
「でも、ヒナギクさん高所恐怖症じゃ・・・。それに見ただけでも100メートル以上ありますよ。」
「い、いいのよ。前に歩と乗ったし、全然平気なんだから」
ヒナギクはそう言っていたが顔が引きつっている。ハヤテは何故彼女がこんなことを言うのかさっぱり分からなかったが、引き下がってくれそうにもないので無理にやめさせることはしなかった。
「し、しっかり手を握っててよね!」
強がっていてもやっぱり怖いらしい。乗り込む前に泣きそうになっているヒナギクをハヤテはなんだか可愛いと思いながら、前にも同じようなことがあったのを思い出していた。
(そういえば、あの日からヒナギクさんを意識するようになった気がする。)
あの時見た景色は本当に素晴らしかった。ヒナギクが無理をしてまで見せてくれた景色。 今回は雨が降っているが、たとえそれでも綺麗な景色になる気がした。
観覧車に乗り込むと案の定ヒナギクはギュッと目を瞑っていて、ゴンドラが揺れるたびに体を震わせていた。ハヤテには、その弱々しい彼女の姿が愛しくてたまらなかった。可愛らしい仕草に心がキュンとした。そして、自分のこの溢れ出しそうな気持ちを彼女だけに分かってほしいと感じたから、彼もまたある決断をした。
しかし何も話さないまま、観覧車は一番高い場所まで来てしまった。高いところが怖い。それもたしかにあったが、彼に告白して拒絶されることの壊さがヒナギクを無口にさせていた。
(私は何をしているんだろう?この気持ちを伝えるため、ハヤテ君に好きだって言うためにここまで来たというのに、結局ハヤテ君に助けられてばかり・・・なんだかカッコ悪な・・・)
それでも伝えたかった。知って欲しかった。自分の大切な人を・・・自分の大好きな人を・・・ だから勇気を出して顔を上げ、必死の想いで言葉を紡いだ。
「け、景色・・・綺麗ね。」
「そ、そうですね。雨っていうのも意外と悪くありませんね。」
(ちがぁあああああああう!!!!)
確かに顔を上げた先に見た景色は綺麗だったが、今言いたいことはそれではなかった。 ハヤテも一応告白すると決めたものの、その場の雰囲気に流されているだけだった。しかしやはりこのままではいけないと分かっていた。
「ヒナギクさん!」
「はい!」
「こ、今度また遊園地にでも行きませんか?」
「え?」
(ちがぁあああああああう!!!!)
「も、もちろんいいわよ!じゃぁ今度の日曜日にでも行きましょ。」
会話はなんだか恋人っぽいが二人はその前の段階を踏んでいない、というより二人とも告白の仕方なんて全く分からなかったのだ。その後の会話も緊張のせいですぐにとぎれてしまう。
どこまでも奥手で似た者同士の二人を乗せた観覧車は、あっという間に一周してしまった。
((はぁ・・・))
雨が小降りになっている帰り道で、ハヤテとヒナギクは同時に、心の中でため息をついた。自分たちの思い切りのなさに後悔し、あまりいい雰囲気とはいえないまま二人は別れる場所まで来てしまった。
(好きなのになぁ・・・)
「それじゃヒナギクさん、また明日。」
「うん、また明日ね。ハヤテ君。」
ヒナギクはそう言って彼に背を向けた時、ポケットの中から硬い感触を感じた。雪路からもらった指輪だ。
「また明日・・・か。」
それを手に取り、先程と同じことを呟いた瞬間、ハヤテにもう会いたくなってしまった。思わず振り返れば、ハヤテはまだそこに立っていて自分のことを見つめていた。なんだか熱い気持ちがこみ上げてくるのが分かった。
(そうよ、こんなんじゃ絶対ダメ。今ちゃんと伝えないとまた後悔する。一つのチャンスを失ってしまう。今までだっていろんなことを乗り越えてきんだから絶対できる!桂ヒナギクは綾崎ハヤテが好きだって・・・言える!)
強く握り締めた指輪の感触が彼女に勇気をくれている気がした。
「は、ハヤテ君!」
「は、はい!」
ヒナギクは顔を赤らめている。ハヤテもこのシュチュエーションがどんなものか分かったらしく、とても緊張しているようだった。
「私は!私は・・・ずっと前から・・・」
「ヒナギクさん・・・」
ヒナギクは大きく息を吸い込んだ。
「・・・ハヤテ君のことが「おや〜、久しぶりだね〜ハヤテ君」
しかし彼女の声は第三者によって遮られてしまった。
(どうしていつもこうなんだろう?)
ヒナギクは泣きそうだった。いつも大事な場面で何かが起こり、せっかくの決意をうやむやにしてしまう。考えれば考える程、自分の決意を踏みにじった何者かに怒りが湧いた。何か言ってやらねば気が済まなくなったが、顔を上げた瞬間その決意さえも壊されてしまった。 ハヤテの驚いた顔、いや彼の何かに怯えているような顔を見てしまったからだ。その後の彼の言葉はお願いというより命令といった方が正しかった。
「ヒナギクさん・・・すぐに帰ってください。」
「え?でも・・・」
「いいから・・・早く帰ってください。」
ハヤテは今まで見たことないような怖い顔をしていて、自分に帰って欲しいと本当に思ってることが痛い程伝わってきた。ヒナギクは告白しようとしたことも忘れてアパートの方へ帰って行った。
「おや?彼女をほったらかしにしていいのかい?」
「そんなんじゃないよ。それより・・・」
ハヤテは後ろを振り返りながら、自分がどんな風に生きていたかを思い出していた。 そして忘れていた。 自分が不幸であることを・・・ 自分が幸福にはなれないということを・・・
「どうしてこんなところにいるの?
父さん・・・母さん・・・」
急に勢いを増した雨が、酷く冷たく感じた。
どうも。 今回は井口裕香さんの『RAIN』を使わせていただきました。いい曲ですので是非聞いてみてください。 冒頭の部分ではルカに完全に決着をつけさせました。ちなみに前回の冒頭はアーたんの決着の話です。自分はヒナさんとハヤテがくっつくにあたって、決着をつけなくてはいけない相手が少なくとも4人いると思っています。アーたんとルカ、ナギそして西沢さん。泉さんは結構協力的になってくれるんじゃないかと思って外してありますが、ちゃんと決着はつけさせます。決して疎かにするつもりはないです。
ヒナギクさんは少しヘタレなイメージがあるので、観覧車では結局告白させませんでした。彼女が告白するのはまだ先になるかと思います。 あ、でも結構早くにさせるのも・・・ とにかくいろいろ考えてありますので楽しみにしておいてください。 ちなみにさらっと流しましたが、また遊園地に行くところは実は重要だったりします。ただ楽しいデートになるかというとちょっと違うんですよね。それには勿論、最後に出てきたハヤテの両親が関係してきます。このあたりはまだ上手くまとまっていないので出来るだけ分かり易い設定になるように頑張ります。
次回は少しだけ時間をとばして、雪路の誕生日会からです。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.20 ) |
- 日時: 2014/07/01 00:04
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
前回はハヤテの両親が出てきましたが今回は出ないです。というかあと一回ぐらいしか出番がないです。まぁ、一回も登場していないキャラもいるので何とも言えないんですが・・・ 今回からシリアスな雰囲気が続くかと思います。自分、一回落としてから上げたがるんでその点については温かい目でお願いします。 それでは・・・ 更新!
(今日はずっとハヤテ君の元気がない・・・ような気がする。)
ヒナギクの考えが曖昧なのは自分でも確信を持てないからである。ハヤテはいつも通り、しまりのない笑顔で皆と接しているし、仕事だってきちんとこなしていた。それでもヒナギクは、今朝学校でハヤテと会ったときからどこか違和感を感じていた。
(あの人たちと何かあったのかしら?)
ヒナギク昨日別れ際に、ハヤテに想いを伝えようとした時に急に割り込んできた1組の男女のことを思い出した。彼女はそのことをハヤテに聞こうとしたが、彼を全く捕まえられず、やっと話すことができたと思ったら、すぐに話を切られてどこかに逃げられてしまった。
(なんだろう?避けられてる?)
近くにナギを見つけ、主なら何か知っているだろうと彼女に駆け寄った。
「ねぇナギ?今日のハヤテ君、何だか元気がないような気がするんだけど・・・昨日何かあったの?」
「何を言っているのだ?ハヤテはいたっていつも通りじゃないか。それに昨日のことならお前の方が詳しいんじゃないか?」
「そ、そう。」
「そう。主の私が言うんだから間違いないのだ。 それより・・・」
ナギは少し離れた場所にいるヒナギクの姉、雪路を見ていた。彼女は頬をほんのり赤く染めていたが、その理由は羞恥心とかではなく、完全に別の物だった。
「料理も美味いし、酒も美味い!もぉーサイッコーの誕生日だわー!」
「なんで桂先生の誕生日パーティーをうちでやらなきゃならんのだ・・・」
ナギがため息をついていたところに、これを企画した張本人がやってきた。
「まぁまぁ、こんなに広い場所があるんだから使わないともったいないじゃないか。それに雪さんには何回か世話になってるんだろ?」
「本当に何回かだけだがな・・・」
そう、今は岳が主催した桂雪路の誕生日パーティーが、三千院家で開かれていた。
第14話 『can't see eyes for you』
「もぉ、お姉ちゃんったらさすがに飲みすぎよ。主役なんだからもっとしっかりしてよ。」
「ヒナってば釣れないわね〜。主役だからこそ、たくさん食べて、たくさん飲んでるんじゃない。」
ヒナギクの呼びかけも虚しく、雪路は口の中に料理をどんどん放り込んでいく。挨拶とかも当然そっちのけだった。
「まぁ、いいんじゃねぇの?こっちの方が雪さんっぽいし。」
「ガウ君もすぐ甘やかすんだから・・・料理とか作るの大変だったんでしょ?」
このパーティーに出されている料理や飲み物は全て岳が作ったものだった。最初はマリアも手伝うと言っていたが、会場を使わせてもらうからと岳は頑として譲らなかった。
「それにしてもめちゃくちゃ美味いな。」
「バイキングなのに全然冷めないし、どうなっているのかしら?」
遠くで聞こえる千桜とカユラの絶讃の声に顔をほころばせながら、岳は本題に入ることにした。
「それより、ハイ。雪さん、誕生日おめでとうございます。」
「うわー!ありがと〜岳君!」
岳が雪路に渡したのは緑の紙で包装された、細長い直方体の箱だった。大きさは丁度ワインの瓶が一つ入るくらいである。
「岳君、これってもしかして?」
「はい。俺の作った自家製のワインですよ。」
「ひゃっほーーい!!!もぉ、ホントありがとー!それでは早速・・・」
包装紙は簡単に開けることができるように包まれており、雪路でも雑に破り捨てるようなことはなくきちんと長方形の形に戻った。そして箱を開けたのだが、その動作で雪路の動きは止まってしまった。
「あの〜岳君?こんな大きな箱なのになんで入っている容器は500mlのペットボトルなの?」
「いやぁ〜、飲みすぎはいけませんし、最初の雰囲気が大事かなぁ〜、と思って。」
「いやいや!最初の雰囲気作ったんなら最後まで持っていきなさいよ!ていうかもっとワイン作りましょうよ。」
必死でワインをねだる雪路を岳はまぁまぁ、となだめている。
「はぁ〜はぁ〜、もういいわよ。岳君の作ったワイン美味しいからこれだけで我慢してあげる。」
息を切らすまで粘っていたが、結局岳に口で勝つことができなかった。しかしその後、皆がプレゼントをどんどん持って来て、彼女が笑顔を絶やすことはなかった。
「雪路!私からのプレゼントはこの、抱いているだけで金持ちになれる壺だ!」
「だ、抱いているだけで金持ちになれる壺!?」
美希からのプレゼントはただの壺でしかなかったが、雪路にはとても輝いて見えたみたいだ。
「そう!これは夜に抱いて寝るだけですぐに出世したり、道端で万札の入った財布を拾ったり、とにかくどんどんお金が集まってくる不思議な壺なのだ。しかしとても貴重な物なのでプレゼントとはいえただでは譲ることはできない。よってヒナが作ったというチョコケーキの4分の1を私にくれることで交渉成立としようではないか!」
なんだかとても頭の悪い詐欺の会話だったが、案の定雪路はそれに引っかかった。
「よし!それぐらいなら「ダメよ!お姉ちゃん!」
誕生日といえど、相変わらずな姉の姿にヒナギクは苦労するばかりであった。しばらくして、姉妹の言い合い、といっても妹が姉に説教しているでけだったのだが、それを止める声がした。
「ゆ、雪路!」
「え?薫先生?」
京之介はスーツを着ていて、パーティーというには正しいはずなのだが、雰囲気的にはなんだか違和感がある。そして少し動きがぎこちない。
「な、何よ?」
「こ、これ誕生日プレゼント・・・」
そういって雪路に手渡されたのは、彼女がずっと欲しいと思っていたギターだった。何故彼がそのことを知っていたのか、そして何故自分にこれをくれるのか分からなかったが、それよりも驚きと込み上げてくる嬉しさの方がずっと大きかった。
「わ〜!ありがと〜!てか何で私のギターの好みなんか知ってるの?」
「そ、それは前、お前がずっとそのギター見てたの思い出して、俺もお前のギターもう一回聞いてみたかったら、これでいいかなと思って・・・」
理由を説明する京之介の言葉にはあまり勢いがない。目線もずっと泳ぎっぱなしだ。
「でもこれ結構高かったんじゃない?なんでそこまでしてくれんのよ?」
「そ、それは・・・」
京之介の後ろでは泉たち生徒会三人娘がいけー!だのがんばれー!だの余計な野次を飛ばしていたが、すぐに岳がそれをやめさせ、会場は人の息遣いが聞こえるだけになった。全員の目が俯いている京之介に集中する。
「そ、それはお前のことが・・・」
「・・・」
雪路にも彼の緊張と真剣さが伝わってきたのか、黙って彼の次の言葉を待った。
「す・・す・・・
って!こんな大勢の前で言えるかーーーーーー!!!!!」
彼の叫び声が響き渡って、会場は先程よりも静かになり、重い空気に包まれた。雪路は頭に?を浮かべていたが、それ以外の全員はうわ〜、という表状で京之介に冷たい視線を浴びせていた。それからの千桜のトドメの一言は彼にものすごいダメージを与えた。
「薫先生って、やっぱりヘタレですね。」
「うっせぇバーーーカ!!」
彼は少し涙目になりながら、凄まじいスピードで会場から出っていった。
「少し言い過ぎなのではないか?」
「し、仕方ないだろ!思わず口から出ちゃったんだから!」
千桜は一応反省しているようだ。
なんだかんだで若干一名を除き、雪路の誕生日パーティーは無事終わった。 今日ぐらいはヒナギクも実家に帰るらしく、今は雪路と帰宅している。
「そういえばヒナはプレゼントくれなかったわね。」
「家に帰ってからよ。」
それを聞いた雪路はケーキ!ケーキ!と子供みたいにはしゃいでいる。プレゼントがケーキだということは美希がばらしてしまったので、ヒナギクは無理に隠すようなことはしなかった。だが、しばらくすると雪路はおとなしくなり、さっきと似たような質問をした。
「それで、誕生日プレゼントは?」
「は?だからケーキだって。さっきも自分で連呼してたじゃない。」
「そうじゃなくて・・・」
ヒナギクは雪路が何を聞こうとしているのか分からず首をかしげている。
「だから綾崎君のことよ。で、チューはもうしたの?」
「ちょ!///な、なに言ってるのよ!まだ告白もしてないのにそんなことするわけないじゃない!」
「え!?まだ告白すらしてないの!?」
雪路はもうハヤテとヒナギクが付き合ってると思っていたので、冗談抜きで驚いている。ヒナギクにはその反応が自分をバカにしてるみたいで、あまり面白くなかった。
「なによ。いろいろあったんだからしょうがないないじゃない。それにいい年して結婚もしようとしていないお姉ちゃんには言われたくありません!」
ヒナギクはこの後いつも通り雪路が突っかかってくると思ったが、予想に反して彼女は立ち止まって黙り込み、なんだか考えこむようなポーズをとっている。そのらしくない姿にヒナギクは思わずえ?と声を漏らしてしまった。さらに・・・
「結婚か・・・。あいつのことも嫌いじゃないし、いいかもね。」
ヒナギクはもう驚きで声すら出せず、頭の中は完全にトリップ状態だった。
「ま、そのうちね・・・」
そう呟いた雪路は何かをごまかすかのように大きく息を吸い込んだ。
「よーし!それじゃぁ早く帰ってケーキでもたぁ〜べよっ♪」
「ちょ!ちょっとお姉ちゃん!?さっきのどういうことよー!」
雪路の大声で我に帰ったヒナギクは雪路を問い詰めようとするが、雪路は既に随分と離れたところまで行ってしまっていた。 こうして姉妹で追いかけっこが始まったわけだが、妹に追いかけられている雪路の顔は少しだけ赤くなっていた。
しかし・・・今回はお酒が原因ではないようだ。
少し時をさかのぼってパーティーが終わった直後の三千院家。
「やっと行ってくれましたか・・・」
ハヤテは雪路と一緒に帰っていくヒナギクの後ろ姿をずっと見つめていた。いや、学校に登校した時から彼女のことを見ていたのだ。
(なんだかストーカーみたいだな・・・)
ハヤテはそう思っていたが、同時に仕方ないとも思っていた。 気がつけば彼女のことを目で追っていて、彼女が笑うと隣で一緒に笑いたくなったし、困った顔をするとすぐに駆けつけて、力になってあげたいと本気で思っていたのだから。 しかしそうすることはできない、やってはいけないと自分で決めていた。あえて自嘲的な言葉を自分に向けたのはそれを無理やり頭に叩き込むためだ。そうしないと何かが壊れてしまいそうで、溢れ出してしまいそうだった。 自分を探している彼女を見つけるたびに、この悩みを打ち明けようと何度も考えた。もしかしたら二人でなんとか出来るかもと考えもした。でも、それで得られるのは‘二人’だけだということは分かっていた。
(それだけは絶対にダメだ。たとえお互いに一番の幸せが手に入ったとしても、彼女の・・・ヒナギクさんの今いる場所を、絶対に壊してはいけないんだ・・・)
素手に自室に戻っていたハヤテは二枚の借用書を握り潰した。その内一枚には自分の、もう一枚には知らない・・・いや、もう覚えていない名字の印が押されていた。
-あなたにとって一番大切で守りたい人は誰?-
もう何回思い出したか分からない言葉をハヤテはまた思い出していた。
「ヒナギクさん・・・ですよ・・・」
もう睡魔に身を預けてしまっている彼は決めていた。 たとえ誰かが傷ついても、大切な人を絶対に守ると。
そう、たとえ傷つける人がどんなに弱く、儚く、大切な人だったとしても・・・
翌朝、マリアは少し早めに起きて廊下の掃除をしていた。ちなみにハヤテはまだ起きてないようだったが、昨日のパーティーで疲れているんだろうと思い、寝坊したとしても咎める気はなかった。 朝の6時頃になり、さすがにもうすぐ起きてくるだろうと考えていたら、ちょうどハヤテの部屋のドアが開いたのでマリアはすかさず挨拶した。
「おはようございます、ハヤテ君。今日はなんだか遅かったですね。」
「おはようございます、マリアさん。早めに起きてはいたんですけど、いろいろと準備をしていたもので。」
「そうなんですか。ところでハヤテ君・・・」
マリアはハヤテが部屋から出てきてから、ある疑問を持っていた。その原因はハヤテが自分と一緒にキャリーケースを部屋から出してきて、今も後ろに置いていること。そして・・・
「何故・・・執事服を着ていないんですか?」
「準備を・・・していたんですよ・・・」
ジーパンに黒い長袖のTシャツ姿のハヤテはまた同じような返答をした。彼はマリアの言った通り執事服を着ていなかったが、持っていなかったわけではない。マリアはハヤテが右手に抱えている綺麗に折りたたまれて四角い袋に入れられた執事服を見て嫌な予感を感じた。
「ところでお嬢様は・・・て、まだ寝ていますよね。」
「私がどうかしたか?てかハヤテはなんで私服なんだ?」
ハヤテは予想に反してもう起きていたナギに驚いた。その後、いつもなら嬉しそうに挨拶をするハヤテだったが、今日だけはあまり嬉しくはなさそうだった。
「おはようございます。お嬢様・・・いえ三千院さん。」
ハヤテがナギへの呼び方を変えたのを聞いて、マリアは嫌な予感が的中したと確信した。ナギもハヤテのいつもと違う雰囲気に戸惑っている。
「な、なんなのだ?そんな他人行儀な呼び方をして。まるで・・・」
私の執事ではないみたい、その言葉をナギが言う前にハヤテが口を開いた。
「急な話で本当に申し訳ありませんが、僕は・・・」
ナギはその後の言葉を聞きたくなかった。耳を塞ぎたかった。 しかしナギにはハヤテの覚悟が痛い程伝わってきたから、ただ怯えたように彼の言葉の続きを待つことしかできなかった。
彼が自分を傷つけるという覚悟を決めているのが分かったから・・・
「ハヤテ・・・」
まるで最後の抵抗であるかのように震える唇で呼んだ名前は小さすぎて、彼の心の奥まで届くことはなかった。 もう主も執事も、お互いの目を見ていない。
・・・いや、見ることができなかった。
「僕は昨日をもって、執事を・・・
やめさせていただきます。」
どうも、タッキーです。 だんだんシリアスな展開になってきました。雪路の誕生日パーティーは、いわゆる嵐の前の静けさみたいな物です。
今回は別に歌詞ネタとかではなく、サブタイも普通に自分で考えました。べ、別に題名考えるのがメンドくさいから曲の名前にしてるわけではないですよ!ただ曲のメロディーや歌詞で雰囲気を出したいからやっているだけで、そういう不純な理由はないです!はい! ち、ちなみに今回の題名は「あなたの瞳を見ることができない」という意味で、薫先生やヒナギクさんには気恥かしさからそう出来ない、ハヤテとナギには・・・本文にあった通りからです。実をいうと「can't take my eyes off you」の「君の瞳に恋してる」から考えついたんですよね。どちらかというと直訳の「あなたから目が離せない」の方からですけど。
あと薫先生の名前の表し方は凄く悩みました。この作品は基本三人称でやっていてキャラ名は全部下の名前を使うようにしているけど、京之介ってなんだか違和感が出てきたんですよね。結局、京之介で使いましたけど・・・ 雪路はなんだかいつの間にかくっついていることが多いのでしっかりやっていこうかなぁ、と思って。多分ハヤテたちよりかは雑になると思いますが、ご了承ください。これはハヤヒナですから。でももしかしたら相手が決まっている分、他の女性キャラたちよりかは丁寧かな。場合によっては最終的なCPがないキャラがたくさん出るかもしれないので・・・
次回は勿論、今回の続きでナギとハヤテの話。そして結構有名(?)な曲を使うつもりです。アニソンですけど。
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.21 ) |
- 日時: 2014/07/02 17:32
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- PCの不調により、重複投稿のようになりましたので誠に申し訳ございませんが、次スレからお楽しみください。混乱させてしまった方、本当にすいません。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.22 ) |
- 日時: 2014/07/02 17:34
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回の冒頭は、夏休みの田舎で夏祭りが終わったところからで、ナギ視点です。勿論、本文は次回の続きですよ。ちなみにハヤテの私服は原作8巻で三日程屋敷を出て行った時の格好です。コートはまだ着ていませんけど。 あと、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、一応今回はハヤテの誕生日の11月11日です。 それでは・・・ 更新!
「この後、みんなで星を見に行きませんか?」
いろいろあった夏の田舎。夏祭りの花火が終わったあと、私の執事のハヤテは今まで腰を下ろしていた芝生から立ち上がると、突然そう言った。
「お、さすがハヤ太君。いいこと言うなぁ〜。」
その言葉に続いて、他のやつらもハヤテの意見に賛成した。ハヤテはにっこりと笑うと私に声をかけてきた。
「昨日はちゃんと見れませんでしたからね。」
「・・・///」
まったく、ハヤテは本当にしょうがないやつだ。
帰るまで空を見ないと決めて、私たちは明かりのない道を歩いていたが、みんなが上を見ないようにして帰っている光景はなかなかシュールなものだった。そのことを言うと全員が笑って、バカみたいにはしゃぎだした。
帰ってから風呂に入って着替えを済ませたあと、ヒマワリ畑の前に集まり、せーの、の合図で空を見上げた。 昨日ハヤテと一緒に見たというのに、私はまた見とれていた。まるで真っ暗な世界に星が降っているようだった。
「綺麗ですね・・・」
「ああ・・・」
ハヤテの存在をすぐ隣に感じて、心が温かくなった。
感動したあとは星の鑑賞会になってしまった。
「ここまで満点の星空だと、どこになんの星があるのか分からなくなっちゃうわね。」
そんなもの分からないとはヒナギクもまだまだだな。せっかくだから教えてやろうと足を動かしたが、その前に別の人がヒナギクの隣に立っていた。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ・・・確かにたくさんあると分かりづらいですけど、天の川みたいにすぐに見えるものを基準にすると見つけやすいですよ。」
夏の第三角形を指差しながら微笑むはハヤテは凄くカッコいい・・・じゃなくて、なんであんなにヒナギクの近くにいるのだ!しかもハムスターまでハヤテに近づこうとしているではないか!
「じゃあハヤテ君。彦星様と織姫様はどこかな?」
これ以上ハヤテに別の女を近づけさせたくないので、ハヤテが答えようとしているのを無理やり遮ってやった。
「やはりハムスターは学がないな。」
「な、なにおう!だったらナギちゃんは分かるのかな!?」
「勿論だとも!さっきハヤテが言っていたアルタイルが彦星でベガが織姫なのだ。だからえ〜っとあれが織姫で、彦星は・・・」
確かに星がたくさんあって一つの星を探すのは大変だった。やっと織姫を見つけて次に彦星を探そうとしたが丁度よく雲がかかって見えなかった。
「あ〜、これでは彦星は見つけられませんね。でもそしたら織姫が・・・」
その続きを言おうとして、指差していた腕を下ろした私とヒナギクの声が重なってしまった。
「「一人ぼっち・・・か。」」
第15話 『君の知らない物語』
「今・・・なんと言った?」
「執事をやめると言ったんです。」
即答だった。最初は黒椿みたいに何かが起こってるのではと考えたが、ナギの目の前にいる少年は間違いなく綾崎ハヤテだった。
「借金はちゃんとお返しします。秋にあった行事の賞金で大分返済できたので多分10年はかかりません。ですから・・・本当にすいません。」
たしかにハヤテは白皇の五つの伝統行事で優秀な成績を修め、借金は五百万ほどまで減らせていたが、ナギにとってそんなことはどうでもよかった。10年・・・この言葉が彼女にハヤテがもう戻ってくるつもりがないことを理解させた。
「ど、どうして・・・どうしてそんなことを言うのだ!?」
「大切な人を守るためです。」
またしても即答だった。
「この決断があなたを傷つけることもわかってます。もしかしたら・・・いや、きっとその大切な人も傷つけるでしょう。でも、絶対に守らなくちゃいけないんです。あの人の・・・彼女の居場所を・・・。」
大切な人・・・彼女・・・ナギはもう何が何だか分からなかった。
(その大切な人は私じゃないのかよ。大切だ、て・・・君を守る、て言ったのはお前じゃないか。私以上に大切な女って誰だよ・・・)
「誰なんだよ・・・その大切な人って・・・」
「・・・ヒナギクさんです。」
少し間を空けて、ハヤテは答えた。
(嘘だ!ありえない!ハヤテは私だけを愛しているはずだ!)
ナギは自分にそう言い聞かせた。必死だった。ほとんど叫ぶような感じで、ナギはハヤテに自分の心の内を晒した。
「お、お前は過去でも未来でも私を守ると約束してくれたではないか!去年のクリスマスイブに君が欲しいと言って告白してくれたではないか!なのになんでヒナギクなんだ。お前は私のことを愛してくれているのではないのか!?」
ナギの言葉にハヤテの表状が驚きに変わった。さすがにここまで言われれば嫌でも分かってしまう。彼女が自分を執事としてだけではなく、一人の異性として見ていたことに。 さらにナギは自分が彼女を恋人として見ているとも言ったが、それにはどこかで誤解を招くようなことを言った自分がいるということだ。ハヤテがそのどこかを見つけるのに大して時間はかからなかった。そう、ナギの言った去年のクリスマスイブだ。
「・・・すいません。あの時は、あなたを誘拐しようとしていたんです・・・」
怒りや怯えが入り混じったようなナギの表状が完全に絶望の一色に染まってしまった。 ハヤテも予想外だったのだ。自分たちは絆こそ強いが、ただの主と執事の関係だと思っていて、ナギを傷つけるのもその部分だけのはずだった。しかし実際はその何倍も傷つけてしまったため、ハヤテは戸惑いそしてどうすることもできない自分に腹がたった。
「ごめんなさい・・・お世話になりました。」
そう言うとハヤテは逃げるようにして扉に向かって行った。これ以上ここにいたら、また大切な人を傷つけてしまう・・・そう考えたから。
「は、ハヤテ!」
ハヤテが背を向けたことで我に返ったナギは、彼の方に手を伸ばしたがその先にある重い扉はすでに閉まっていて、もう開くことはなかった。
「ナギ・・・」
マリアは彼女の名前を呼んだが、それが聞こえてないかのようにナギは黙って足元に置かれていた執事服を拾い上げ、ぎゅっと抱きしめた。服を包んでいる袋に落ちてくる滴は次第に増えていき、まるで彼女の震える腕の中で執事服が泣いているようだった。
「忘れ物が・・・たくさんあるではないか・・・」
ナギはポケットの中から四角い箱を取り出した。 今日のためにバイトして貯めたお金で買った腕時計。彼がいつも身につけていたいと言ったから、一生懸命働いて一生懸命選んだ腕時計。自分たちが使っているものほど高級な物ではないけれど、それでもこれに一番の価値を見い出して想いをたくさん込めたプレゼント。
それを・・・受け取ってもらえなかった。
「分かっていたさ・・・」
本当は彼が自分を恋人として見ていないことや、最近になって別の人に好意が向いていることもずっと分かっていた。でも強がりで臆病な自分は、それに気づいていないフリをした。 そうしないと彼の笑顔が信じられなくなってしまいそうで・・・・ 彼との美しくて大切な毎日が嘘になってしまいそうで・・・ 今みたいなことが起こってしまいそうで・・・
「ダメなのだ・・・泣いちゃダメなのだ・・・」
遠い記憶にある彼と見た星空はとても綺麗で、それと同じくらい彼の笑顔も綺麗だった。そんな彼の笑った顔も、困った顔も、怒った顔も全部大好きだったから、涙は溢れ出てくるのをやめてくれなかった。
ドウシタイ?
心の声が言ってごらんと彼女に囁いていた。
「ハヤテと・・・ずっと一緒がいい・・・、ハヤテの隣に・・・いたいよぉ・・・
う・・・!うう・・・!!うわああああああああ!!!」
ついに大声で泣き出してしまったナギをマリアは優しく抱きしめたが、彼女にかける言葉が見つからなかった。
最初はただカッコよくて優しいところに惹かれただけだった。でも彼と毎日を過ごす度に、彼の優しさに触れる度にそれ以上に惹かれていった。たくさんの楽しいをくれて、たくさんの感動をくれた。 そして人を好きなるのが・・・ 恋をすることがどんなものか教えてくれた。
ナギは今、泣き疲れて部屋で寝ている。その手は、腕の中にある大切な人がいたという証拠を離すまいとしているようだった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ハヤテは何度も同じ言葉を繰り返している。彼の中ではたくさんの罪悪感があったが、それがないとハヤテは何かに押しつぶされてしまいそうだった。 しかしその何かの正体をハヤテは知っていた。それは孤独や不安、恐怖・・・そしてまだ彼女のことを傷つけたくないという想い。謝罪の言葉はそれらを包み込み、隠してくれているようで一種の心地よささえ感じた。 もう決めている。覚悟している。ハヤテは携帯電話である人の名前を設定し、通話のアイコンにそっと触れた。
〈もしもし?〉
多少機械音が混じっていてもとても愛おしく感じる。だからこそ・・・
「もしもし、急で悪いんですけど今から会えませんか?
ヒナギクさん・・・」
どうも、 今回のサブタイは結構知ってる人も多いんじゃないでしょうか。supercellの『君の知らない物語』からです。これには雰囲気というより歌詞の方に重点を置いてみました。まぁ今までも大体そうなんですが、今回は特に。
それより、ちょっとこの作品は女の子を泣かせすぎなのではと最近真剣に悩んでいます。でもストーリー上泣かさないといけないのでその点についてはご了承下さい。すいません。 次回の冒頭はハヤテと両親が再会したときのことから。そして本文ではまた泣かせまます。主にハヤテを・・・やっぱり泣いてばっかですね。この作品。
あと忘れられている方もいらっしゃると思いますが、オリキャラの方はあとちょっとで出します。ホントにあとちょっとです。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.23 ) |
- 日時: 2014/07/04 23:55
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
メンテの方で書き直しましたが、前回が重複投稿のようになってしまいました。混乱させてしまった方にもう一度お詫び申し上げます。本当にすいません。 今回はハヤテとヒナギクさんが決別してしまう話です。 それでは・・・ 更新!
激しくなってきた雨に傘もささず、ハヤテは自分の両親と相対している。ヒナギクとのデートが終わり、別れ際に突然現れた彼らは自分の知っている頃と同じように笑顔であったが、その内側に考えていることはろくでもないということ以外分からなかった。
「そんな怖い顔をしないでくれよ。久しぶりの再会なんだからさ。」
「別れるきっかけになったのは父さんたちが僕を売り飛ばしたからでしょ。」
「もぉケンカしないの。ところで私たち、ハヤテ君にお願いがあるんだけど。」
ハヤテの父も母も自分の息子を売ったことに対してなんの反省もしていないようだ。しかしそんなことはもう分かっていたし、ハヤテはよりを戻そうなどとも一切考えていない。当然彼らの頼み事など聞いてやるつもりもなかった。
「僕たちまた三百万ぐらい借金しちゃってさ〜。ハヤテ君これ返済してくれない?」
「嫌だよ。僕に一億五千万押し付けたんだから、それぐらい自分たちで返済すればいいじゃないか。」
もちろんハヤテは即答した。もうこんな親に関わることも嫌だった。ハヤテの両親は困ったような顔をしていたが、突然、父親の方が何かを思い出したかのように顔を上げた。どこか嬉しそうなその表状にハヤテは嫌な予感を感じた。
「そういえばハヤテ君。さっきの子と再会出来たようでよかったね。」
「え?」
ハヤテは突然話を変えられたことに戸惑っていたが、その話の意味は理解していた。さっきの子・・・つまりヒナギクのことだ。
「だってあの子、親から借金押し付けられたみたいだし、僕たちも引越しとか多かったからさ。まさかハヤテ君があの子と再会して恋仲になっていたなんて驚きだよ〜。」
「ちょ、ちょっと待って!どうして父さんがヒナギクさんのことを知っているの!?」
「あぁ、そういえばそんな名前だったっけ?」
ハヤテは自分の予感が予想外の方向に当たったことに動揺していた。それに、何故彼らがヒナギクの過去を知っているのかも気になった。
「質問に答えてよ!どうして彼女の事情を知っているの!」
声を荒らげるハヤテと対照に彼の両親はニコニコとしている。その笑顔が気に食わなかった。何故、人の幸せを喰いものにして笑っていられるのかハヤテには分からなかった。そして大切な人に手を出したということが、たとえ可能性であっても許せなかった。
しかし、この時のハヤテはまだ忘れたままだった。
「あ〜、やっぱり覚えてないか〜。ま、いいや。実はね・・・」
自分が不幸であることを・・・ 自分が幸福にはなれないことを・・・ そして・・・
「あのヒナギクちゃんって子の借金を作らせたのは・・・
ハヤテ君、君なんだよ。」
自分がこの両親のもとで育ったということを・・・
第16話 『嘘と嘘と本当と』
〈今から会えませんか?ヒナギクさん〉
「え!?・・・も、もちろんいいわよ!じゃぁ場所は?・・・公園ね。分かったわ、すぐ行く。それじゃ。」
ヒナギクは今、顔を赤らめながらもガッツポーズをとっている。なんだか真剣な声で会いたいと言われたら、告白かもしれないと思うのは当然である。まだ6時半ぐらいだったが急いで服を用意し、部屋を飛び出そうとした。
「ヒナ、ちょっと待ちなさい。」
少し音を立てたせいで起こしてしまったらしい。しかしアテネは起こされて不機嫌というわけではなく、むしろこちらを見て嬉しそうな顔をしていた。
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「そんなことで呼び止めたりしませんわ。それよりヒナ、あなた忘れ物してますわよ。」
そう言って忘れ物を差し出すとアテネはにっこりと微笑んだ。
「ちゃんと好きって伝えるんですよ。」
彼女の小さな手から受け取ったのは形こそ小さかったが、ヒナギクにはそれが大きく何かが詰まってるかのように重く感じた。
「ありがとう、アリスのことも大好きだからね。」
彼女を優しく抱きしめたあと、ヒナギクは今度こそ部屋を飛び出していった。
「ハヤテが惚れるのも無理ないですわね。それにしてもまだ6時半ですか・・・よし!」
アテネは何かを決心したような顔をすると、布団に潜って静かに寝息を立て始めた。
ハヤテはナギと出会った自販機の前にいる。ここから全てが始まった。出会い、再会、感動、悩み、そして恋・・・
「でも、終わらせるんだ。楽しい日々も、自分の気持ちも・・・全部。」
ヒナギクが走ってくるのが見えた。ハヤテの前で止まったヒナギクは少し息を切らしていた。
「何か飲み物いりますか?」
「えっと・・・じゃ温かいココアで。」
ガタン!と音を立てて落ちてきたココアを取り出し、ヒナギクに差し出した。その時少しだけ指先が触れたことに、ハヤテは自分の体温が上がるのを感じた。
「ありがとう。実は私もハヤテ君に話があるから・・・先に言ってもいい?」
いいですよ、とハヤテが許可するとヒナギクは真剣な表状を作った。ハヤテは彼女の真剣さに逃げたいような、でも逃げたくないような複雑な心境になった。
「まずは・・・お誕生日おめでとう。」
ハヤテはハッとし、そんな彼を見てヒナギクはクスリと笑った。自分のことに無頓着なハヤテが誕生日を忘れているだろうということは容易に想像がついたので、これはある種のサプライズになるかもと考えていた。
「でも今から渡すのは誕生日プレゼントじゃないの。ただ、どうしても受け取ってほしくて・・・」
自分が応援されていることが嬉しくて・・・誰かに助けてもらえるのがとてもありがたくて・・・こんな素敵な恋ができたのが誇らしくて・・・ いつものように気恥かしさがないと言えば嘘になる。しかし、それ以上の勇気がヒナギクの背中を押していた。 差し出されたものを見てハヤテは驚いている。当然だ。こんなものを渡されて驚かないほうがおかしい。彼はしばらく黙っていたが急に表状を真剣なもの変えた。そしてヒナギクの手に自分の手を伸ばし・・・
指輪を受け取った。
ヒナギクはもう飛び上がってしまいそうなほど嬉しかった。自分の想いが伝わって、彼もそれに応えてくれた。そう思い、あらためてこの気持ちを言葉にしようとしたが彼に手で制されてしまった。でも嫌な気分はない。彼から想いを告げられるのは夢だったのだから。 ヒナギクはこれからの未来に胸をふくらませた。二人が結ばれて、たまには喧嘩もするけれど、それでも幸せな日々を過ごしてゆく。そんな毎日を送っていく・・・
はずだった・・・
「ヒナギクさんは本当にヒドイ人ですね。」
「え?」
彼の言葉の意味が分からなかった。自分は指輪を渡し、彼はそれを受け取った。その後にくるのは大体告白のはずだ。冷静になって、これも告白の一部分なのかもしれないと考えたが、彼はその願いのようなものを完全に打ち砕いた。
「僕はこれ以上あなたに会いたくないと伝えようとしたのに、こんな物渡してくるなんて。」
「な・・・んで?」
「なんでって、あれだけ理不尽に殴られたりすれば誰だってそう思いますよ。今まで我慢してましたけどもう限界なんですよ。」
震えているヒナギクに一切表状を変えず、ハヤテはどんどん続きを言っていく。
「それにヒナギクさんは僕のこと嫌いなんじゃないですか?これだって安く買って冗談で渡したんでしょう?ホント、金持ちっていいですよね。好きなものが好きな時に買えて。借金のある僕へのあてつけはさぞ楽しいでしょうね。」
気がつくとヒナギクは叫んでいた。自分の気持ちをバカにされたようで腹が立ったが、それは彼が優しい人間だと知っていたからだ。
「なによ!本当はそうじゃないって分かってるんでしょ!なのに何でそんなに自分を傷つけようとするの!何かあって悩んでるんならちゃんと相談してよ!前にも言ったじゃない・・私はハヤテ君の力になりたいって。」
ヒナギクの言葉にハヤテは顔を歪めて俯いてしまったが、それでも冷たい言葉を止めようとはしなかった。
「さっき言いませんでしたっけ?僕はあなたともう会いたくないんですよ・・・」
「・・・だったら!」
ハヤテの言葉でヒナギクはもう我慢ができなくなって、救おうとする叫びは怒りの叫びになった。
「だったらちゃんと嫌いって言いなさいよ!曖昧なことばかり言ってごまかさないでよ!会いたくないんでしょ!なら私のことが嫌いってはっきり言えばいいじゃない!」
「っ!!!!」
ハヤテは震えていた。まるで何かを堪えるように・・・自分のなかにある何かを殺しているように・・・
「なんで、そんなこと言うですか・・・!そんなこと言うんだったら、もう・・・!」
その後のハヤテの口調は一変し、静かなものだったそれは感情に任せた叫びになった。これまでついてきた嘘が無駄になることは分かっていたが、それでもハヤテは自分の本当の気持ちを抑えることはできなかった。
「もう・・・僕の心に入ってこないでくださいよ!!!!!」
「・・・」
ヒナギクが救いの手を差し伸べてきたのが辛かった。その手を取りたいと思っている自分が許せなかった。そして自分が絶対に口にしないと決めた言葉を無理やり言わせようとする彼女にも腹が立った。それが理不尽ということも、自分が悪いということも分かっていたが、それでも怒りが湧き上がってくるのは止まらず、結局怒鳴ってしまった。
「さようなら・・・」
ヒナギクのことが嫌い・・・これだけはたとえ嘘でも言わないと決めた。もしこれを言ってしまうと自分が自分でなくなりそうで、本当に一人になってしまいそうで怖かった。彼女のことが好きなまま、別れを告げたかった。
「バカ・・・」
ハヤテは今まで見たことないほど怖くて、辛そうで、悲しそうな表状をしていた。 ヒナギクは別れの言葉に手を伸ばすことも、涙を流すこともできず、だんだん小さくなっていくハヤテの背中を見つめることしかできなかった。
どうも、 今回は結局泣かなかったですね。書いている途中でこの部分を二人の決別、その後のヒナギクさんサイド、そしてハヤテサイドに分けようとしていたことを思い出したので。 ハヤテの怒鳴った時のセリフはあるラノベを参考にさせていただきました。ペットな感じのアレです。 それにしてもハヤテがでっち上げたヒナさんを嫌いになる理由が全然思いつきませんでした。完璧超人ってこういうところで裏目に出るんですね。 さて、次回はヒナギクさんサイドの話です。オリキャラが出るのはハヤテサイドの次の回にしようと思っています。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.24 ) |
- 日時: 2014/07/07 00:59
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
ばずは管理人の双剣士さん、記事の削除ありがとうございました。 運営がしっかりされているので安心して投稿ができます。ありがとうございました。
そういえば前回を書いてて思ったんですが、ハヤテのお母さんって名前何なんでしょうね。お父さんの方は一応、瞬と原作に出てますけど・・・何だか今更ですね。
さて、今回はヒナギクさんサイドのお話。 それでは・・・ 更新!!
11月11日、西沢歩はたまたま早く起きていた。
「う〜ん、まだ六時半だから朝ご飯食べるのにはちょっと早いかな? ・・・あれ、ヒナさん?平日なのに私服なんて着てどこ行くんだろう?」
歩が縁側に座ってこれからのことを考えていると、何やら凄く嬉しそうな顔をしたヒナギクがアパートから出て行くのが見えた。
(ヒナさんは私服で・・・なおかつ嬉しそうで・・・・
はっ!!!これはもしかしてハヤテ君!!??い、急いで後を追わなくちゃ!!!)
歩は制服・・・は着るのに時間がかかるのでジャージに着替えて、わずか一分もかからないうちにアパートから飛び出した。が・・・
「ヒナさん、足速すぎじゃないかな・・・」
歩がヒナギクの向かったと思われる方向を進んでいっても、あの綺麗な桜色の髪を見つけることはできなかった。さすがに諦めて帰ろうとした時、かすかに探していた少女の声がした気がした。
「・・・さいよ!・・・・・・じゃない!」
聞こえた。今回は気のせいではなく彼女の声だとちゃんと分かった。声がした方に顔を向けると公園があり、歩はすぐに駆け出した。そしてヒナギクたちの姿を視界に捉え、近くの木のかげに隠れようとした時、また声が聞こえた。断片的ではなく、はっきりとした悲痛の声が・・
「もう・・・僕の心に入ってこないでくださいよ!!!!!」
歩は隠れるのも忘れてただ彼らを見つめることしかできなかった。それはハヤテの想い人を知ったショックからではなく、二人の背中がとても辛そうで、悲しそうだったから。
「ヒナさん・・・」
親友の名前は彼女に届く前に、冷たい風に吹き消されてしまった。
第17話 『想い絶ちがたく、初恋なりがたし』
ハヤテが去っていった後、ヒナギクが歩に気づくのには大して時間はかからなかった。
「全部聞かれてた?」
「いや・・・最後のハヤテ君の一言だけ・・・」
「そう・・・」
空を見上げたヒナギクの顔には表情がなかった。あれだけのことがあったにも関わらず泣いてもいないし、悲しそうにもしていない。ただ空を見ていた。
「恋って・・・」
歩がヒナギクにどう声をかけようか戸惑っていると、彼女の方から口を開いてきた。相変わらず表情のない顔で空を見上げているが、歩にはそれが何かを隠そうとしているように見えた。
「恋って・・・何で痛みも連れてくるのかな?もういっそ記憶とか全部捨てて、身体ごと消えてしまいたいくらい・・・」
「ヒナさん・・・」
歩が心配したような声を出すと、ヒナギクは初めて表情を作った。笑っている・・・
「なんてね。私のこんな話なんて歩にはイラつくだけよね。ごめんなさい。」
歩もヒナギクもハヤテの言葉で気づいたことがある。まず、また何かに巻き込まれて、それにヒナギクを巻き込むまいとしていること。それに、ハヤテがヒナギクのことを好きだということだ。 ハヤテが選んだのはヒナギクであって歩ではない。だからヒナギクは自分が失恋したみたいな言い方をすると親友に対して失礼だと考えていた。
「ヒナさん・・・。私たち、親友だよね?」
「うん・・・。本当にごめんなさい・・・。」
やはり怒らせてしまったか、とヒナギクはこれから自分に来るであろう非難や怒りの声を受け入れる準備をした。 歩の声を聞く前に、ヒナギクは自分のことをずるい人間だと思った。わざと自分を傷つけることでその前の傷を隠そうとしている。そして自分を傷つける役目を親友にやらせている、ずるい人間だと・・・。 歩が口を開いたとき、ヒナギクの体はビクッと小さく震えた。そして歩の言葉を聞き終えたとき、ヒナギクの体は震えが止まらなくなっていた。
「親友なのに、なんで頼ってくれないのかな?」
歩の声には怒気があったが、ヒナギクがひるんだのはそれではない。それ以上の優しさにヒナギクは怯えすらも感じていた。
「な、なんで!?あなたにとって私は裏切り者で・・・」
「ヒナさんっ!!!!」
「っ!!」
歩は怒っていた。ヒナギクの性格上まだ気にしているのかもとは思っていたが、それを逃げ道にしていることが彼女らしくないと思ったから・・・ 真っ直ぐな彼女が自分に逃げ道を作っていることもらしくないと思ったから・・・ ヒナギクらしいヒナギクが好きだったから・・・ だから自分たちの関係を思い出して欲しかった。そのためには何回でも同じことを言ってやると決めていた。
「それでも私は、ヒナさんを親友だと思ってる。私にはハヤテ君とヒナさんの間に何があったのか知らないし、それでヒナさんがどれだけ傷ついたかも分からない。だからと言って無理に話せとも言わないけれど・・・友だちの前でくらい、泣いてくれたっていいんじゃないかな?」
歩はヒナギクをそっと抱きしめた。
小さかった・・・ 震えていた・・・
頭と腰に回した手に力を入れると、彼女は自分の背中をギュッと掴んできた。
「初恋だから・・・上手くいかないし、初恋だから・・・忘れられないかもしれない。やさしさが残酷に感じることだってあると思う。でも自分を傷つけて逃げないで・・・ 悲しいなら悲しいって、辛いなら辛いって、泣きたいなら泣きたいって言って。私の肩でいいなら貸すよ?それにね、ヒナさんが泣いてくれないと・・・私も泣けないんだよ?」
そう言った歩はすでに泣いていた。ヒナギクは彼女の嗚咽を聞くたびに、目頭に熱いものがこみ上げてきた。それはやがて大粒の涙となって歩の肩を濡らした。
空は青というより黄金に近い色をしていた。まだ顔を出して間もない太陽は夜の冷たさを少しずつ溶かしていき、目覚めたばかりの鳥たちのさえずりは木の葉が擦れ合う音とともに幻想的な旋律を作っている。 抱き合っている彼女たちの横をやさしい風が通っていった。
「綺麗な朝には少し不似合いなんじゃないかしら?こんな悲しい話・・・」
「そうだね。でも素晴らしいお伽話になるんじゃないかな?私も協力するよ。」
二人は体を離し、お互いの顔を見た。目元が涙で真っ赤になっていて、顔もぐしゃぐしゃだったが、もう大丈夫だと思った。
デアッテシマッタラドウスルノ?
簡単だ、大切にすればいい
アフレルオモイハドコニユクノ?
もちろん、大好きな人のもとへ もし届かないのなら、自分で届けに行けばいい
答えは出ている。あとは行動するだけ。
「じゃ、ヒナさん!私は学校があるから!」
「一応、私もあるんだけどね・・・。」
歩は少し笑うとちょっとだけ真剣な表情を作った。
「私も・・・同じ気持ちだからね。」
彼女は優しく、そして強い。そのことをあらためて感じた。公園から出て行く彼女はいつものように笑っていて、純粋にあんな風になりたいとも思った。
(でも、まだ無理みたい・・・。)
ヒナギクは内側から堪えていたものが溢れてくるのが分かった。彼女の前ではどうしても見せられないもの・・・見せたくないものが・・・
「泣いても・・・いいかな?」
ヒナギクは涙を拭わず、ただ顔を手で押さえている。
心はプラスティックのように強くはなく、少し手をすべらせて落としてしまえば簡単に砕けてしまう。
(でも、壊れないものだってあるはず。)
ヒナギクは顔を上げると、一つのベンチの方に向かった。そこにはハヤテからもらったものが置いてあり、ヒナギクはそれを手に取ってしばらく見つめていたが、やがて口を近づけ・・・
もう冷めてしまった缶のココアを飲み干した。
どうも、 今回はアルバム「HiNA」から「想い絶ちがたく、初恋なりがたし」を使わせて頂きました。なんというか・・・切ないんですよね、この曲。今回は切ない感じが出せていたでしょうか?自分的には少し前向きになったかなぁと思っているんですが、これもこれでいいかもと結構自己満足したりもしています。いや!もっといい文にできるはず!ということでアドバイスとかあったらよろしくお願いします。 次回はハヤテ君サイドです。 それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.25 ) |
- 日時: 2014/07/07 18:29
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
けっこう間が空いてしまったのですが、毎回拝見しております。
16話でヒナがココアをオーダーした時点で「これは『想いry』が来るな」と思ってましたが、その通りでしたね。見た後なら何とでも言えますが、本当に察してました。(震え声 私の中でも、あの歌はヒナと歩がベストマッチだと思ってます。コレは数年前の投稿で言ってるからセーフ。(しつこい 『HiNA』は1作目にしてヒナギクの魅力を一番に凝縮したアルバムだと思います。作詞家の力ってすげーと思うと同時に、静さんの情緒溢れる演技と歌声には感服の限りです。
いい加減に感想に移ります。 物語の展開が非常に濃いですね。ヒナがハヤテを気になるきっかけにもなった人生の転機にハヤテが関わっていたというのは…。正直、先を越された感があって悔しかったりします。笑 「ヒナギクが嫌い」とは口が裂けても言おうとしないハヤテの決意はすばらしく、別れたくないからこそそれを言わせようとするヒナという構図は良かったと思います。 「そこは抱きついてでも逃がすんじゃないよー」と思ってしまうヒナのやるせなさの情景も分かりやすく伝わってきます。
文章表現は…以前より格段に分かりやすくなったと思います。 キャラクターがどう思っているからどう行動したのか、見たもの・聞いたものが何だったのか…などなど、いわゆる5W1Hがしっかりなっている事。以前からお伝えしていた人称の表現が安定してきた事が理由かと思います。 今後の更なるご発展をお祈りします。 ちなみに誤字についてなんですが、「表状」という言葉を良く使われますが、あれは全く別の意味になってしまいます。(表彰状と同じ意味になります) 「表情」で大丈夫だと思いますよ。
さてさて最後に勧誘になるのですが、このサイトのチャットルームで作品についてお話ししませんか?小説板トップの【小説板の豆知識】を何度もF5更新してると出てきます。 平日でもとっても個性的で優しい常連さんが何人もいらっしゃるので、このサイトについていろいろお話が聞けるかと思います。自分はまだまだ新参ですが、管理人さんはじめとする皆さんのおかげで非常に楽しい時間を過ごさせてもらってるんで、良かったら是非にと。
そんなこんなで、次回も楽しみにしております。 失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.26 ) |
- 日時: 2014/07/07 20:38
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回はレス返しということで・・・ロッキー・ラックーンさん、感想ありがとうございます。 やっぱりココアの件はバレてましたか〜。実のところ、『想いry』はヒナさん一人だけでやろうとしていたのですが、やはり一人でやらせるのには難しかったのと、西沢さんがヒナさんを慰めるシーンが欲しかったので、彼女を入れてみたんです。そしたら結構綺麗にまとまったので自分でもびっくりしたんですよ。この作品では岳君がいたり雪路がちゃんとお姉ちゃんやってたりと、ヒナさんの妹要素を少しプラスした感じなので、西沢さんのこういうお姉さんっぽいところもちゃんとやっていこうと思っています。
『HiNA』に関しては自分も同意見です。彼女のカッコいいところや切ない恋心がきちんと歌詞やメロディーに現れていて、とても魅力的だと思っています。でもそれにはやっぱり作詞家さんたちや伊藤さんの力があってこそなので、感謝、感謝ですね。
ハヤテがヒナさんの借金に関わっていたという話はまた後ほど。お気づきかもしれませんが、14話で出した二枚の借用書の一つはハヤテの両親がまた作った三百万円のやつです。これは16話の冒頭に出ています。もう一つの借用書は・・・これもまた後ほど。あえてヒントを言うならヒナさんたちの借金は「ハヤテ」が作らせたものだということです。 ネタに関しては・・・まぁ早い者勝ちですからね。とりあえずすいません(苦笑) 物語は一応、最初から最後まで繋がるようにしてあります。実際に繋がっているかは別ですが・・・。これまでも少し伏線みたいなものを貼っているので、それも含めて楽しんでいただけたら光栄です。
文の成長は慣れというものもあるんでしょうが、ロッキーさんのアドバイスがとても大きいと思います。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。 あと「表状」については完全な誤字です。ご指摘ありがとうごいました。
チャットルームへの勧誘もありがとうございます。暇ができたら入ることがあるかもしれませんので見かけたらよろしくお願いします。
それでは。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.27 ) |
- 日時: 2014/07/09 01:33
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回はハヤテサイドです。しかし冒頭は別の人の話にしてあります。 それでは・・・ 更新!
君と出会った時のことを、君と過ごした日々のことを今でも鮮明に覚えている。それこそ、君がいつ、どんな表状をしていて、何を話ていたかを全部言えるくらい、鮮明に・・・ ただ、君が目の前から消えてしまった日だけは覚えているというより、忘れられないと言った方が正しいんだと思う。その日、俺はどんな感情を抱いていたのだろう?悲しい?辛い?苦しい?多分、負の感情と呼ばれるものは全て持っていた。自分を憎み、蔑み、自分に対して怒りや殺意まで持った。それらは決して消えることはないが、時間によって無理やり押さえ込むことができた。 それからは必死で前を向いて生きてきた。自分なりの答えを見つけ、そして手に入れるために。一見、無駄だと思われることでも、いらないと思われることでさえも、そこに手に入れられる力があるなら全部自分のものにした。 君は今の俺を見たら心配するだろうか?それとも喜んでくれるだろうか?どちらにしても俺のやり方が間違っていると怒りはするだろう。まぁ、絶対に会うことはできないから、こんなことを考えていても仕方ないんだが・・・ さて、力は十分なほど身につけたし、準備も丁度よくハヤテがしてくれた。あとは時が来るのを待つだけ。でも誰一人として笑顔になれないこの方法はやっぱり間違っているのだろう。自分でも分かっている。いや、本当は何も分かっていない。正しい答えも、自分がどうしたいのかも。ただ、一つだけ分かっているのは・・・
俺はあの日からずっと・・・
前に進めていない。
第18話 『stand still』
ハヤテは足早に歩きながらヒナギクとの思い出を数えていた。 小さい頃を除けば、初めて出逢ったのは一つの木の上と下という、なかなか奇妙な出逢い方だった。彼女に拾われて、そのまま家に泊まったり、彼女の誕生日にはクッキーをあげて、少しでも彼女の励ましとなればと、時計塔からの夜景を一緒に見たりした。映画を観る予定がグダグダになり、お詫びにと行った遊園地の帰りに聞いた言葉は長い間信じられず、G・Wにはミコノスで偶然一緒になり、その後のアテネでも大切なことを教えてくれた。アテネが小さくなって現れたときの爆弾発言に悪ノリして怒られてしまったことは反省している。それからもルカの同人誌を一緒に手伝ったり、心霊スポットに美味しいカレーを探しに行ったりなど、頭の中を探れば探るほど、たくさんの思い出が蘇ってくる。 それを消してしまうのは胸が張り裂けそうな程辛かったが、そうしないと自分の足枷になるのは分かっていた。ハヤテは一緒に湧いてくる様々な感情とともに、彼女との思い出を心の奥に押さえ込んだ。
「これでよかったんだ。これで・・・」
出した答えを忘れようとしている自分がいて、この決断に必死にあがいてる自分がいることにも気づいていたが、振り返った先に彼女がもういないことも分かっていた。 ハヤテは立ち止まって、しばらくボーッとした後、ヒナギクから渡された指輪を自分の指につけてみた。間違いなく以前アテネから渡された指輪だ。これを渡された時は運命的なものを感じて、このままでいたいと強く願ったが、舞い上がる想いは自分の決断をより辛いものにさせるだけで、無意識に口にしてしまった言葉は確実に彼女を傷つけてしまった。
「でも・・・」
あとほんの少しだけ、想っていたかった。
せっかく自分の気持ちを見つけのだ。大切に育んでいって、いつかはきちんと伝えたかったし、どんなに傷ついても、どんなに辛くても、彼女の傍にいたかった。でも記憶の中で笑っている彼女はもう抜け殻のようで、愛しく感じるはずの声も悲しく聞こえてしまう。自分が彼女に言えた「ありがとう」はどれくらいあっただろうか?何回彼女を笑顔にできただろうか?気づけば後悔し、心配し、戻りたいと思っていたハヤテは自分の目が潤んでいることに気づいた。
-私がハヤテ君の隣にいるから・・・
だから・・・泣かないで-
「そうだよ。泣くなって言われたじゃないか・・・
泣いたって・・・何も戻ってこないじゃないか・・・」
何度言い聞かせてもハヤテの心は理解しようとしなかった。少しだけと思ってつけた指輪はヒナギクとの未来の姿を鮮明に想像させ、その描いた二人が痛い程に彼の決意を邪魔してくる。二人はどこかで遊んでいるわけでも、何か特別なことをしているわけでもなかったが、楽しそうで、嬉しそうで、彼らの笑顔が絶えることはなかった。その笑顔が今のハヤテには眩しすぎて、羨ましすぎて・・・そして、何より手に入れたかった。
「こんなんじゃ、進めないですよ・・・ヒナギクさん・・・」
涙を堪えていたはずのハヤテの下の地面には、ポツポツと淡いにじみが増えていった。
どうも、 今回はなんか短かったですね。本文は冒頭よりもちょっと長いくらいなんですが、書くのにかかった時間は冒頭の二倍以上だったりします。 さて、今回はまたしても井口裕香さんから「stand still」を使わせて頂きました。これは別のアニメの挿入歌なんですが、もしハヤテとアーたんの過去編のアニメがあったのならそのEDに使ってもいいんじゃないかってくらい歌詞がぴったりです。もちろん個人的な見解ですが。とてもいい曲ですのでぜひ聞いてみてください。 冒頭の部分はこれからの話に大きく関わってきます。ハヤヒナ要素どころかハヤテ要素も低くなってしまいますが、それでもやりたい話なので。温かい目で見守ってくださるとありがたいです。 次回はやっとオリキャラ二人目が出ます。本当にやっとです。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.28 ) |
- 日時: 2014/07/10 07:13
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回はやっとオリキャラが出ます。何だか本当にやっとですね。 あと一人は一応名前だけは出ているのですが、もうちょっと先です。多分・・・ そ、それでは・・・ 更新!
これはまだ岳が白皇に転入して三日だった頃の話。 その日の放課後、岳は生徒会室に遊びに来ていた。ハヤテも連れてきたかったが、昼休みにナギにさらわれてしまったので、一人だけだった。 ヒナギクは本棚の整理をしていた。何冊かの本を抱ええてあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている姿や、高いところのファイルを取ろうとしている姿がなんだか可愛らしくて、岳は無意識のうちに微笑んでしまっていた。
「ハヤテも結構単純かもなぁ。」
「へ?何で?」
ヒナギクはよく分かっていないようだ。モテるやつらの大半が無自覚だということはよく理解しているので、軽くため息をついた後、岳はいじわるも含めて質問に答えてやった。
「ヒナがもっと積極的にいけばハヤテは簡単に落ちるかもってことだよ。」
「なっ!!!そ、そんなに簡単にいくわけ無いでしょ!ハヤテ君はそんなに簡単に口説けるような人じゃないんだから!」
「やっぱり自分の好きになった人は一味違うって言いたいんだろ?分かってるって。」
「もぉーーー!」
岳にかかれば、どんな発言でもからかいのネタにされそうだったので、ヒナギクはそれからだんまりを決め込んでいた。しかしそれを無視して岳は話を続けていく。
「そういえばヒナってさ・・・」
「?」
「やっぱりハヤテと結婚したりすることとか想像すんの?」
ヒナギクは急に顔を真っ赤にさせ、持っていた本も全部落としてしまった。何か言おうとしているが呂律が回っておらず、ついには俯いて頭から蒸気を出し始めた姿に岳は図星なんだと察した。
「じゃぁ、子供の名前とか考えたりしたのか?」
ヒナギクはもう言い訳しても無駄と悟ったらしく、俯いたまま小さく頷いた。さすがに可哀想だったが、ここまできたのなら聞いてみたいという好奇心には勝てず、思い切ってその名前を聞いてみると、やっぱり無理ー!と火照った顔を両手で覆ってふさぎこんでしまった。
「さっきのことハヤテにバラしちゃおうかなぁ〜。」
「!!!」
我ながら酷いとは思いながらも岳はあえてヒナギクに答えさせるほうを選んだ。なんだかんだでS気があるのは自覚していたりする。
「うう、意地悪ぅ。」
「はは、まぁ別に減るもんでもないんだから。ほら。」
「私の自尊心とかが減るわよ!バカ!」
ヒナギクは涙目になりながらも必死に粘っていたが、とうとう折れて、一回だけものすごく小さな声で教えてくれた。
「アカリ・・・」
「ふ〜ん。いい名前なんだし恥ずかしがることなかったじゃん。」
「恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
彼女のネーミングセンスには正直微妙なのだが、自分の子供には当てはまらなかったようだ。岳はたとえ想像でも真剣に考えていたことが分かって、安心したようにフッと笑った。
「アカリちゃん・・・か・・・」
第19話 『アイリスの花言葉』
「それじゃ綾崎君、これからよろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
ハヤテはバイトの面接を終えて、日の沈みかけた街を歩いていた。面接で一番問題だった住所は岳の家を使わせてもらっている。どうやらヒナギクとの会話を聞かれていたらしいが、それを聞いていてなお、自分に協力してやると言われたときは頭が上がらなかった。
ハヤテは丁度、ヒナギクと別れた公園の前に来ていた。無意識のうちに湧き上がってくる後悔や自分への怒りに頭を悶々とさせていると、自販機の前で一人の少女が立っているのが見えた。ヒナギクと同じ綺麗な桜色の髪をしているので一見彼女かと思ったが髪型が違っていて、年も小学生くらいだったので、すぐに彼女ではないと分かった。ヒナギクに似ていたからなのか、それとも単純に困っていたからなのか、ハヤテは何故かその少女を放っておくことができなかった。
「どうしたの?」
「あ・・・」
振り向いた少女の顔を見てハヤテは固まってしまった。なんとなく似ているとは思っていたが、少女の顔立ちは本当にヒナギクに瓜二つで、唯一違う点があるとするならば少女の瞳が意志の強そうな琥珀色ではなく、優しい青色をしていたことだ。少女の方も驚いた顔をしていたが、ハヤテが口を開くよりも先に質問をしていた。
「もしかして・・・綾崎ハヤテ?」
「へ?」
どうしてヒナギクに似ているのか、どうして自分の名前を知っているのか凄く気になったが、少女は真剣な表情をしていたので、ハヤテは先に質問に答えるしかできなかった。
「そうだけど・・・。君は?」
「そんなことよりママは?」
話が噛み合わないことにハヤテは少し面食らった。迷子だとは分かったが、いきなり母親の居場所を教えろと言われても無理な話である。それに少女は少し怒っているようで、なかなか答えないハヤテを睨みつけている。
(あれ?僕、怒らせるようなことした?)
すると、もう我慢の限界なのか、少女が声を張り上げた。
「もぉー!だからママはどこって言ってるの!ちゃんと聞いてるの?お父さん!」
「へ?」
ハヤテは再び固まってしまった。しかしそうしてばかりでもいられないので、目の前でこちらを凄い形相で睨んでいる少女と彼女の発言について頭をフル回転させた。
(え〜と、まずは落ち着け。この子はなんて言った?そう、僕のことをお父さんと言った。この年で自分の親を間違えるなんてありえないし、取り敢えず僕の子どもだと仮定しよう。でも僕はそんな経験ないし、年齢的にも子どもがいるわけないし、未来から来たみたいな可能性も・・・あるな。だったらこの子の言うママは?この子の容姿からして多分・・・いや、それはもっとないだろ!だって今日、僕はヒナギクさんと決別したんだぞ。借金もあるんだから絶対に無理だろ!)
結局考えはまとまらず、コンマ2秒でだした答えはこちらも質問する、だった。
「えっと・・・、まず君の事情から説明してくれない?」
さすがにハヤテの言っていること正論だとは分かるらしく少女はしぶしぶだが口を開いたが、それも別の声に遮られてしまった。
「おっ!こんなところにいたのか。全く、用事が終わったら早く家に来いっていただろ?」
「え?ちょっと岳さん!引っ張らないでくださいよ!」
少女はその光景に呆気にとられた様子だったが、急に掴まれた手首の感触と自分を呼ぶ声によって現実に引き戻された。
「ほら、君も。」
「え?あっ!急に引っ張らないでよ!」
ハヤテたちの抵抗をものともせず、岳は半ば強引に二人を家まで連れて帰った。
ハヤテは岳の家についてから、まず少女の事情を聞いた。少女はふてくされていたが、情報の提供は必要だと判断し、順を追って説明した。
「私は綾崎アカリ。お父さんがそこにいる綾崎ハヤテでお母さんが綾崎ヒナギク。たしか旧性は桂だったっけ? 信じられないかもしれないけど、今日、学校から帰る途中で公園によったら、いきなり周りが真っ白になったの。最初は気のせいかと思ったんだけど、なんだか違和感を感じて落ちてた新聞で日付を確認したら10年前になってから本当にびっくりしたわ。それで結局どうしようか迷っているところにお父さんが来たっていうことよ。」
ハヤテは予想はしていたとはいえ、本当にそれが当たるとは思っていなかったため、アカリの説明に言葉をなくしていた。しかし、それとは裏腹に、岳はあまり驚いていないようで、彼女にいくつか質問をしていた。ハヤテは実際、過去に行ったことがあるので、アカリが未来から来たことはまだ信じられたが、ヒナギクとの子どもという点がどうしても信じられなかった。もう自分はヒナギクに告白できる状態ではなかったし、それを無視して彼女と一緒にいようとしても彼女を傷つけるのは分かっていたから。
「ハヤテ!」
「ひゃい!」
考え事をしていたためかハヤテは変な声を上げてしまったが、岳はそれを笑うようなことはしなかった。ハヤテはその表情から今度は自分が話す番だと察した。
ハヤテはまだ6歳の誕生日を迎えたばかりの頃、彼の父親の手伝いである喫茶店に行ったことがあった。父親がそこの経営者の人と話をしている間、その人たちの娘である同じ年の女の子と遊ぶことになったが、その前にハヤテは父親に耳打ちされた。ちゃんとやるんだよ、と。言われたとおり、父親からもらった書類を取り出し、一緒に遊んでいた女の子にその子の親の名前を書かせた。後から分かったことなのだが、字が上手く、自分の家族の名前を漢字で書けるということは事前に調べてあったらしい。
「こうやってできたのがヒナギクさんたちに押し付けられた八千万の借金です。」
しかし、ハヤテの父親の方も自分で借金を作らせていたのだ。その額はここ十年で二億まで膨らみ、そして今も増え続けている。
「なるほど。それで自分たちの借金を返さなければヒナにその二億を押し付けると言われたわけか。」
「はい。多分ヒナギクさんのお義母様たちなら、なんとしても返済してくれるかもしれません。ですが、額が額です。それにヒナギクさんの性格上、学校をやめて働きだすでしょう。それだけは絶対にさせてはいけないんです。」
ハヤテは短い間とはいえ学校に通えない寂しさや、友だちと触れ合うことができない孤独感を経験している。だからこそヒナギクにはそんな風にはなって欲しくなかった。 それなら三千院家の力を使ったらどうだ、と岳が解決策を出してみるが、その案にハヤテは首を横に振った。
「たしかに三千院家に頼めば一瞬でなんとかしてくれるでしょうが、それだとまた僕の両親は借金を作ってここに戻ってきてしまいます。だから完全にアイツらを遠ざけるのには僕が借金を返すしかないんです。」
岳にはハヤテの話がそれなりに理解できたが、アカリはまだ幼い。彼女には誰も幸せになれないこの方法が間違っているとしか思えなかった。だから彼女は彼の話が終わった後、すぐさま立ち上がり、小さな体からは信じられないほどの大声を出した。
「やっぱりお父さんなんて大嫌い!!」
そう叫ぶと彼女は奥の部屋に引きこもってしまった。泣き声とそれと一緒に聞こえてくる母親を呼ぶ声は矢のようにハヤテの心に突き刺さり、元からあった傷口を広げていった。
ハヤテには分からなかった。自分がどうしたいのかも、何をやるべきなのかも。 だから、後悔したし、悔しかったし、怒りが湧いた。そして自分とヒナギクの間にアカリがいる未来を作ろうとしていない自分がどうしても許せなかった。 でも分からないから、この決断を変えようとはしない。
「ヒナギクさん・・・」
岳は小さく呟いたハヤテにかける言葉を見つけることができなかった。
どうも、 今回やっと出ましたね。アカリちゃん。 なぜアカリなのかは・・・まぁ、いろいろあるんです。 今回はなんだかグダグダになってしまいました。ハヤテの回想とか、アカリの説明とか・・・ちょっと詰め込みすぎたんでしょうか?アドバイスとかあったらよろしくお願いします。それではプロフィール(1)です。(1)ですよ。
綾崎 愛虹(アカリ)
誕生日 12月12日
身長 133.2cm
体重 29.7kg
年齢 7歳
血液型 O型
家族構成 父(ハヤテ)
母(ヒナギク)
好き、得意 ママ,オムライス,勉強,運動(剣道)
嫌い、苦手 お父さん,暗い場所,お化け
ハヤテとヒナギクの間に生まれた綾崎家の長女。性格はヒナギク程ではないけど負けず嫌いで、何事に一生懸命取り組みます。困っている人を見たら見過ごせないところも両親から受け継いでいて、真っ直ぐな女の子です。髪は本文に書いた通りヒナギクと同じ桃色ですが、長さは肩を少し過ぎるくらいで、左側でサイドテールにしています。そしてハヤテのことがあまり好きではありません。
プロフィールは以上です。アカリちゃんには一応モデルになった同じハヤテとヒナギクの子どもがいるんですが、とりあえず伏せておきます。多分検索したらすぐに出てくると思いますよ。ちなみにその人のSSはめちゃくちゃ面白いです。 ハヤテの子どもといったらファザコンのイメージが強い・・・ていうかそのイメージしかないですね。しかし今回はあえてそれを崩していきました。自分ひねくれものですのでその点はご了承下さい。ハヤテが好きじゃない理由は多分、次スレになると思います。 さて、次回はアカリちゃんとヒナギクさんたちがご対面する話です。ハヤテが嫌いと分かる要素も出していこうと思います。 それでは・・・ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.29 ) |
- 日時: 2014/07/11 06:05
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
今回も盛りだくさんの内容で驚いております。
2人の子供登場という衝撃展開をこのシリアスのさなかにぶち込んでくるとは思いませんでしたね。ヒナの借金のいきさつまで…また先を越された感を勝手に覚えていますが、さすがに子供の名前までは被らなかったです。(謎の報告 ピンク髪でアカリちゃん…どこぞのアクアマリンを彷彿させるプロフィールに勝手にドキドキしております。彼女を見たときのヒナの反応が今から楽しみでなりません。「ママ」と「お父さん」という呼び方の違いにも注目しています。(ヒナが「お義母さん」と「パパ」という使い分けをしているのには触れないでおこう そしてかなり発育が早いアカリちゃん、6歳で100cm足らずのアリスちゃんがどんな反応を見せてくれるかも重ねて楽しみです。
文章へのアドバイス…再びの話ですが、副詞に力を入れてみましょう。 出来上がったら一度読み直してみて、「少し」「凄い」など、読み手に程度の評価を投げてしまう表現はより「具体的」で「誰が読んでもブレが小さい」表現にしてみましょう。 たとえば「かなり幼い子供に見えた」と言うとロリコンさん・熟女好きさんとで違った様子を思い浮かべる可能性が高いですが、「年の頃は小学生くらいの幼い少女」とすれば、先ほどのブレは小さくなるものかと思います。
重要なのは「一度書いてから直す」という所です。細かい表現にいちいち時間を食っていると、物語の大きな流れを忘れてしまい、本来書きたかったシーンまで行くのに膨大な時間がかかる可能性大です。木でたとえれば根っこの部分となるテーマ・流れを抑えてから、枝や葉の部分となる表現・誤字などといった順序でやっていくのをオススメします。 ※あくまで個人の意見です
そんなこんなで長文失礼しました。次回も楽しみにしております。 またお話しましょう。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.30 ) |
- 日時: 2014/07/11 15:13
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
ロッキー・ラックーンさん、感想とアドバイスありがとうございます。 ヒナさんの借金のいきさつについてはちょっと当てつけた感じがあったんですが、そうでもしないと話が進まないので・・・ アカリちゃんがこのタイミングできたのにはちゃんとした経緯がありますし、名前の由来(特に漢字)もこのタイミングが大きく関係しているんです。ちなみにアクアマリンさんのことはすっかり忘れてました(てへペロ 呼び方の違いに注目していただいたのはとても嬉しいです。ぶっちゃけ親密度てきな感じなんです。アカリちゃんはヒナさんのことは大好きなんですが、プロフィールに書いた通りハヤテのことはあまり好きではありません。それには盛大な理由があるのですがそれは次スレの大きなストーリーとなる予定ですので、後ほど。 身長はお気づきの通り、高めにしています。理由としては少しでも大人な雰囲気を出したい、とかネタにできそう、とかいろいろあります。年齢は6歳にしようとも思ったんですが、アリスちゃんがハヤテの腰ぐらいまでしかないのを思い出してちょっと小さすぎるかなと思って。
それから、毎度のアドバイスありがとうございます。 副詞・・・ですか。語彙力はあまり豊かな方ではありませんが、頑張ります。 しつこいようですが、タメになるアドバイスをありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
それでは。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.31 ) |
- 日時: 2014/07/18 02:07
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
前回書き忘れましたが、アカリちゃんのモデルはこのサイトにいないです。普通に「ハヤヒナss」でググってもらえればいいと思います。 さて、今回はそのアカリちゃんがお母さんであるヒナギクさんと出会います。(少しだけ) それでは・・・ 更新!
ヒナギクとの決別やアカリとの出逢いなど、いろいろ衝撃なことが多すぎて、ハヤテは疲れがピークに達していた。このまま襲ってくる睡魔に身をゆだねようと布団に潜り込もうとしたとき、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。ハヤテが眠気を押し殺し、返事をすると入ってきたのは枕を抱えた寝巻き姿のアカリだった。
「な、なんでそんなに驚いてるのよ?」
「いや、まさか訪ねてくるのがアカリだとは思わなかったから。」
半日一緒にいただけだったが、アカリがハヤテのことをあまり好きではないということは誰の目にも明らかだった。最初に事情を話したとき以外ほとんど口を聞かなかったし、岳がハヤテの話を振っても嫌そうな顔をしてすぐに話題を変え、今だって少し冷たい態度をとっている。しかし部屋を訪ねてきた彼女はどこかよそよそしい感じで、ハヤテはまるで夜に眠れないナギのようだと思った。
「で、どうしたの?」
このままでは埒があかないとハヤテは用件を尋ねたが、それを聞くなり彼女は顔を赤くさせてもじもじし始めた。髪を下ろしている彼女はまるで本当にヒナギクのようで、ハヤテは一瞬、抱きしめたい衝動にかられたが、これ以上嫌われたくもなかったので必死にそれを押さえ込んだ。しばらくすると、アカリがやっと口を開いたが、その言葉は小さくてよく聞き取れなかった。
「・・・てもいい?」
「へ?」
「だから!一緒に寝てもいいかって聞いてるの!」
そう言うと彼女は返事を聞く前にハヤテと同じ布団に入り込んでしまった。ハヤテは少し呆気にとられていたが、同じように布団に入ると、アカリに話しかけた。
「どうしたの?急に・・・。」
「お父さんには関係ない。」
同じ布団で寝ているとはいえ、アカリはハヤテから背を向けるようにしている。相変わらず好かれてはいないようだ。しかしハヤテは自分の娘のことをもっとよく知りたいので、しつこく質問を続けていると、アカリはしぶしぶながら答えてくれた。
「私・・・暗いところダメなの・・・」
「へ〜。でもなんだか納得できる気がする。」
「もう私寝る!!おやすみなさい!」
アカリがそう言って頭まで布団を被るのをハヤテは微笑ましく見ていた。もう少し話していたかったが、アカリはもう喋ってくれそうになかったし、さすがに眠いのもあって、今日はもう寝ることにした。
「おやすみなさい・・・」
娘に一言かけると、ハヤテはその重い瞼を閉じた。
ス−スーと、隣で将来自分の父親になる人が規則正しい寝息を立てている。 アカリは自分に向けられている背中にそっと手をおいてみた。暖かかった。今度は顔も近づけてみる。いい匂いがした。それらは自分の記憶にあるものと同じよう優しくて、これに触れていると自分がなぜこの人を好きになれないんだろうと疑問を持ってしまう。
「早く帰ってきてよ・・・」
許せない気持ちと信じたい気持ちが、アカリの頭の中でぐちゃぐちゃに入り混じっていた。
「パパ・・・。」
第20話 『Cradle』
ハヤテが目を覚ますと、まず目に入ったのは見慣れない天井で、それと同時に感じたのは片腕の重たい感触だった。首を横に向けると、未来からきた自分の娘であるアカリがピッタリとくっついていて、スヤスヤと気持ちよさそうな寝息を立てていた。 離れようとすると袖を強く握ってくるので起きることもできず、仕方ないからハヤテは頭の中で今日の予定を立てていた。まずは伊澄のところに行き、仕事を手伝う許可をもらう。それから・・・ ハヤテはもう一度、隣で眠っているアカリを見た。ヒナギクたちは本当にこの子のことを信じてくれるだろうか?それに自分はヒナギクに会っていいのか?娘だと説明することに様々な不安を感じていると、アカリがもぞもぞと動きだし、ゆっくり目を開けた。
「おはよう、アカリ。」
彼女はボーッとしていて目をしょぼしょぼさせていたが、しばらくすると意識が完全に覚醒したのか、ハヤテから飛ぶようにして離れた。
「な、なんでお父さんが私の部屋で寝ているのよ!?」
「いやいや、ここ僕の部屋だから。」
「へ?」
アカリはわけが分からないという感じだったが、突然ハッとしたかと思うと、みるみる顔が赤く染まっていった。ハヤテは赤くなった理由を風邪なんじゃないかと見当違いの方向に捉え、起き上がって熱をはかろうとしたが、彼女の額に手を当てた瞬間、枕で顔を引っぱたかれてしまった。
「お、お父さんの変態!」
「なんで!?顔が赤くなってるから熱をはかろうとしただけだよ!?」
「・・・やっぱ、親子だと仲がいいな。」
実の娘であってもいつものように女の子に怒鳴られているハヤテに、岳は笑いそうになるのを押し殺しながら彼の部屋に入っていった。アカリはよくない!と否定していたが、それを軽く無視して岳はハヤテに用件を伝えた。
「朝飯はもう作ってあるから冷めないうちに食っとけよ。あと、俺は今日用事があって夜にしか帰ってこないから。」
「あ、分かりました。」
それじゃ、とドアノブに手をかけた岳は最後に一応釘をさしておいた。
「ヒナのとこにはお前もちゃんと行けよ。」
岳の言動には自分の心の内を見透かされているようでドキリとする。ハヤテは冷や汗をにじませた顔を縦に振ることしかできなかった。
ハヤテたちがリビングに行くと、テーブルの上にスクランブルエッグやフレンチトーストなどの洋風な朝食が並べられていた。作ってからあまり時間が経ってないのか、まだほかほかで、もちろん味も絶品だった。アカリは無視されていたことをブツブツ言っていたが、朝食を一口食べると突然表情を輝かせ、おいし〜と言って手を頬に当てていた。 彼女が笑っているのを見ていると、ハヤテはなんだか嬉しくなってしまった。それは自分の娘が幸せそうにしているから嬉しいのか、それともまるでヒナギクが笑っているようだから嬉しいのか、どちらかは分からなかったが、自分がちゃんと割り切れてないことを自覚して、それを消し去るように頭を左右に振った。
「どうしたの?お父さん。」
「い、いや。別に何でもないよ。」
アカリはふ〜ん、と言ってあまり気にしてなさそうにしていたが、すぐに朝食を食べ終わると食器を片付けながら、また話かけてきた。
「ママのことなら、もう諦めたほうがいいんじゃない?」
さすがはハヤテとヒナギクの子なだけあって、洞察力は鋭いようだ。ハヤテは彼女の発言に驚いたが、その後、意外に冷静に答えられた自分にも驚いていた。
「でも、それだとアカリがいなくなちゃうんじゃないの?」
「別に・・・ママが幸せになれるんだったらそれでいい。現に幸せになってないから、むしろその方がいいと思う。」
「・・・」
アカリはまだ八歳とは思えない程大人な物腰で話を進め、ハヤテはそれに驚くと同時に未来の自分に腹が立った。何故、自分の大切な人を幸せにしていないのか、何故、自分の娘にこんな想いをさせ、重みを背負わせているのか。もしかしたら自分は両親と同じような人間になっているのかもと、ある種の予感が頭をよぎったとき、アカリの口からそれを肯定するような言葉が聞こえた。それも連続で。
「本当にお父さんはダメ人間で、ダメ人間で、ダメ人間で、・・・。」
「いや、そんなにダメダメ言われるとさすがに傷つくんだけど・・・。」
ハヤテは真剣に自分の将来に関して不安を抱いた。
(やっぱり僕って未来でもヒナギクさんに迷惑かけてばかりなんだな。てか、なんでヒナギクさんは離婚とかしないんだろう?僕に弱みを握られてるとか?結局彼女を幸せにできないんなら、やっぱり諦めたほうがいいだろうな。 ・・・やっぱり?)
ハヤテは自分の思考を嘲笑った。あれだけのことをして、彼女以外の人だって傷つけたのにまだ諦めきれてない自分に再び腹が立った。
「ていうかお父さん?今日どっか行くんじゃなかったの?」
「え?あぁ、そういえば。」
ハヤテは少し考え込んでいて、アカリの声で我に返った。彼女はハヤテの食器まで片付けてくれていて、テーブルもちゃんと拭いてあった。
「あ、食器ありがとう。アカリって家事とか好きなの?」
「まあね。それよりどこ行くの?ママのところ?」
アカリはヒナギクと会えることを楽しみにしているようで、ハヤテはできれば早く会わせてやりたかったが、心の準備がまだ出来てないことなどがあって、あいにく午後からの予定にしてある。
「それはお昼をとったあとにしようと思ってる。午前中は伊澄さんのところに行く予定もあるし。」
「伊澄お姉ちゃんか・・・。咲お姉ちゃんにも会えるかな?」
アカリが早く会いあたがっているのはヒナギクだけではないらしい。少し嬉しそうにしている彼女を見ているとハヤテは準備を急がずにはいられなかった。
(父親ってこんな感じなのかな?)
自分の子どもが笑っていられるようにしっかり支えてあげる。言葉にするのは簡単だが実際にするのは難しく、現に未来の自分はそれをできていない。ハヤテはアカリがここにいるときだけは、ちゃんと父親の役目を果たそうと決意した。
「じゃ、行こうか。」
しかし、一緒に支えるはずの母親を連れてきてやれないことが悔しくて、なにより自分が寂しかった。
鷺宮邸につくと咲夜が迎えてくれて、ナギとハヤテの事情を知っているようだったが、黙って案内してくれた。
「なぁ、ハヤテ?さっきから気になっとんのやけど・・・。」
案内している途中の咲夜に怒っているような雰囲気はなく、どちらかというと不思議そうな顔をしいていたが、ハヤテは彼女の質問に言葉を濁すしかなかった。当然と言うべきか、咲夜の疑問はえらく自分になついている少女のことだった。
「咲お姉ちゃん久しぶり〜!!」
「いや、久しぶり言われても、ウチら初対面なんやけど・・・。」
アカリは咲夜の手を握って上下にブンブン振り回している。正直、悪い気はしない・・・というよりあれだけ満面の笑みでいられると咲夜の方まで嬉しくなってくるが、さすがに困ってしまう。
「伊澄さんのところに着いたらきちんと説明しますので。」
ハヤテの方に顔を向けてもちゃんと話してくれなかった。咲夜は仕方ないと思ったことのほかに、お姉ちゃんと呼ばれたのが嬉しかったこともあって、少しの間だったが、ちゃんと相手をしてやることにした。
咲夜に案内された居間には伊澄がお茶を飲んでくつろいでいて、ハヤテたちに気づくとおはようございます、と挨拶をしてきた。
「おはようございます、伊澄さん。急ですがちょっとお時間よろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ。それよりハヤテ様、あの子はいったい・・・?」
「そうやで。いい加減教えてくれてもええんとちゃう?」
咲夜は元気な子どもの相手をしていてさすがに疲れたらしく、伊澄の隣、ハヤテの向かい側にドカッと腰を下ろしながらハヤテに早く答えるよう促した。
「え〜と、この子の名前はアカリって言うんですけど・・・」
「伊澄お姉ちゃん久しぶり〜!」
「あら、久しぶりね、アカリちゃん。」
「えっと・・・、話続けてもいいですか?」
アカリは相変わらずのテンションで、伊澄も合わせてなのか、ボケてなのか、多分後者だろうがアカリと凄く馴染んでいた。そんな二人に呆然としていると、咲夜が気にしなくていいというような視線を送ってきたので、ハヤテはとりあえず続きを話すことにした。
「その・・・アカリは、未来から来た僕とヒナギクさんの娘なんですよ。」
「「へ?」」
伊澄と咲夜は驚きで声も固まってしまっていたが、それは予想通りだったのでハヤテは構わず説明を続けた。元々超常現象にはなれている二人だったので納得させるのにあまり時間はかからなかった。 一通り説明を終えると、それを見計らっていたかのようにアカリが咲夜を庭に連れ出してしまい、居間にはハヤテと伊澄の二人きりになった。
「ハヤテ様、用件というのはアカリちゃんのことだけですか?」
咲夜たちの声が聞こえなくなって、伊澄は唐突に質問してきた。彼女は口を袖で隠していて、なにより真剣なその表情にハヤテも真剣に答えた。
「今日は、伊澄さんと一緒に仕事をさせてもらう許可をもらいに来たんです。」
「・・・ナギの執事をしていてはそれが出来ないから、というのが執事を辞めた理由なんですか?」
「はい。」
ハヤテには伊澄が怒っていることがすぐに分かった。たまにしか見ないそれも、自分ではない誰かに向けられているのを横で感じるだけで、実際に正面から感じる威圧感は予想をはるかに上回っていた。しかし、ハヤテは彼女から目をそらそうとはしなかった。
「目的が何なのかは知りませんが、それを達したらハヤテ様はナギのところに戻られるのですか?」
「それは難しいと思います。多分、僕はもう執事には戻れません。」
伊澄とハヤテはもはや睨み合っているようだった。
「今、ハヤテ様にとって一番守りたい人はナギですか?」
「・・・いいえ。」
むしのいい話だということは分かっていたが、それでもハヤテには引けない理由があった。だからこそ嘘もつかなかった。
少しの間、二人には沈黙が流れていたが、伊澄がそれを破った。
「いいでしょう。これからハヤテ様には私と一緒に仕事をしてもらいます。仕事が入るのは不定期ですので、こちらから連絡します。」
ハヤテは伊澄が承諾してくれたことに驚いたが、すぐに深く頭を下げた。いくら感謝してもし足りないくらいだった。
「ありがとうございます、伊澄さん。」
「じゃーねー!伊澄お姉ちゃ〜ん、咲おねえちゃ〜ん!」
門の前で手を振ってくるアカリに手を振り返しながら、咲夜は伊澄に話しかけた。
「ホンマにこれでよかったん?」
「いいのよ。今一番苦しんでるのは、きっとハヤテ様だから・・・。」
ハヤテたちはファミレスで昼食を済ませたあと、そのままヒナギクたちのいるアパートに向かった。アカリは鷺宮邸に行く時よりも嬉しそうにしていて、凄くそわそわしていた。大人びたことを言ったり、ハヤテに冷たかったりで分かりにくかったが、ハヤテはどこか危なっかしい彼女を見ていると、自分の娘はまだまだ子どもなんだなと実感させられた。
「よ〜し!ママのところまでダッシュだー!」
「ちょっと!急に走ると危ないって!」
ドンッ!!
ハヤテの注意も虚しく、アカリは曲がりかどで人とぶつかり尻もちをついてしまった。幸い怪我などはないようだったが、ぶつかった人が心配してアカリに声をかけてくれた。
「ご、ごめんね!怪我とかはないかな? て、ヒナさん?でも少し小さい気が・・・。」
「あ!歩お姉ちゃんだ!」
タイミングがいいのか、間が悪いのか、どちらにせよアパートの住人と出会ってしまったことにハヤテは思わず頭を抱えてしまう。歩は自分にしきりになついてくるチビヒナ、もといアカリに困惑してハヤテに気づくのに少し時間がかかった。
「あれ、ハヤテ君?」
「こ、こんにちは。西沢さん。」
歩は帰宅途中だったらしく、そのままハヤテたちとアパートに向かうことになった。ハヤテは彼女がもともと人懐っこい性格だとは思っていたが、まだ自己紹介すらしていないアカリと楽しそうに話しているのを見ていると、その適応力に驚かずにはいられなかった。しかし、その些細な驚きも、彼女たちの無邪気な声によって遮られてしまった。
「アパートかぁ〜。楽しみだなぁ〜。」
「ホント?じゃぁ急ごっか。」
「へ?・・・あっ、待ってくださいよ〜!」
気がつくと前で話していた二人は走っていて、ハヤテも急いで追いかけようとしたが、何故か走り出すことができなかった。しかしこのまま帰るわけにもいかないので、重たい足をゆっくり前に進めた。
「ただいま〜。」
歩たちがアパートに着き、玄関に入るとルカ、千桜、それにアテネがいて、買い物に行く準備をしているところだった。
「あ、お帰り。・・・ん?その子誰だ?知り合いなのか?」
「なんだか随分とヒナに似てますわね。」
「でも目はなんだかハヤテ君に似てない?まるでハヤテ君とヒナの間に子どもができたみたい。」
アカリは三人の様子にキョトンとした様子だったが、やがて口を開いた。
「みたいもなにも、私のお父さんはハヤテでママはヒナギクだけど・・・。」
ピシッ!!!
先程の三人に歩を含めた四人の時が止まる前に、アカリにはそんな効果音が聞こえた気がした。彼女たちはしばらく固まっていたが、ハヤテが玄関に入ると同時に四人の時が再び動き出した。
「おじゃまします。アカリは・・・て、皆さんなぜここに集まって・・・」
「ハヤテ、ちょっとそこに座りなさい。正座で。」
「え?」
「いいから正座するんだ、綾崎君。」
「は、はい・・・。」
ハヤテはアテネと千桜の凄まじい威圧感になす術なく、そのまま正座をさせられた後、今度はルカと歩から前の二人と同等の威圧感を向けられた。
「ハヤテ君、どうしてこの子のこと黙ってたのかな?」
「え?それは西沢さんが尋ねてこな・・・」
「私たちは言い訳をしてって言ったつもりはないんだけど。」
「す、すいません・・・。」
ヘビに睨まれたカエルとはこのことをいうのだろう。ハヤテは女性陣に対してすっかり小さくなってしまっていた。アカリは立ち入ってはいけない雰囲気を感じ、逃げるのも兼ねてヒナギクを探しに行ってしまっているので助けを求めることもできなかった。どうすればいいか迷っているうちに玄関の戸が開き、誰かが帰ってきた。ハヤテはまた怒られるかもと肩をビクッと震わせたが、聞こえてきた声に怒気のようなものは含まれておらず、むしろ自分と同じ怯えた感じすらした。
「ただい・・・は、ハヤテ君!?なんで正座なんか。 ・・・て な、何で歩たちはそんなに険しい顔してるのよ。」
「ヒナギクさん・・・」
ヒナギクが入ってきてもその場の雰囲気は変わらないどころか、より悪くなってしまった。彼女がその雰囲気に飲まれそうになっていると、ドタバタと廊下を慌ただしく走る音が聞こえてきて、その音源は飛ぶようにして、ヒナギクの腰に抱きついた。
「ママー!」
「え?えっ!?」
ヒナギクは状況が飲み込めず、顔をキョロキョロさせていると、自分の親友が目に入った。
「取り敢えずヒナさんも座ろうか。正座で。」
歩はニコニコと無邪気な笑顔をしていたが、ヒナギクにはそれが一ミリも笑っているように見えなかった。
どうも、 ふ〜、やっと更新できた〜。
今回はアカリちゃんが年相応に子供っぽくて無邪気な感じをだそうと思っていたんですが、上手くかけていたでしょか?もうちょっと多くても良かったかなぁとおもっています。最後のあたりでアカリちゃんとヒナギクさんと出会わせることはできましたが、彼女たちの本格的な絡みは次回に持ち越しです。 あ、ちなみに題名の『Cradle』は揺りかごという意味です。
それじゃ ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.32 ) |
- 日時: 2014/08/02 12:03
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回は半分ぐらいまで書いてたのに全部消えちゃいました(涙) だから最初からやり直しなんです。ちゃんとバックアップはとっておきましょうね。 さて今回はヒナギクさんとアカリちゃんが本格的に絡むお話です。ちなみに冒頭はヒナギクさん視点でいきます。 それでは・・・ 更新!
昨日ハヤテ君と喧嘩してしまったせいだろうか・・・いや、きっとそれが原因だろうけど、今日は全くと言っていいほど調子が出ない。朝にしようとした勉強も結局1ページも進まなかったし、部活でいくら竹刀を振っても気持ちが晴れることはなかった。当然、生徒会の仕事が手につくはずもなく、部活が終わるとすぐにアパートに帰った。帰り道で何度も大きなため息をついて、我ながららしくないと思う。昨日、絶対に諦めないって、ハヤテ君を助けてみせるって決めたのに、こんなんじゃダメだな・・・。私はアパートに着くともう一度ため息をついきながら玄関に入った。
「ただい・・・は、ハヤテ君!?」
えっ!?なんでハヤテ君がここにいるのよ!?そりゃ、ちゃんと話をしなくちゃって思ってたけど、心の準備ってものがあるじゃない!何をするにも準備って必要なんだから・・・て、こんなのは逃げるための言い訳よね。それよりも・・・
「なんで正座なんか。・・・て な、何で歩たちはそんなに険しい顔してるのよ。」
正座しているハヤテ君を囲むように立っている歩たち全員から出ている怒気というか、とにかくただならぬ雰囲気に怯んでしまった。
「ヒナギクさん・・・」
ハヤテ君が私の名前を呼ぶのと廊下からドタバタと慌ただしい足音が聞こえてくるのは同時で、その足音の正体は勢いよく私に飛びついてきた。
「ママー!」
「え?えっ!?」
ママ?私が!?た、確かに何だかこの子私に似ているような気がするけれども・・・。何がなんだか分からず周りを見てみると、すっごい笑顔の歩が目に映った。
「取り敢えずヒナさんも座ろうか。正座で。」
なんだか昨日励ましてくれた親友が遠くに行ってしまったような気がした。
「ちょ、ちょっと待ってください!確かにこの子は僕とヒナギクさんの子どもですけど・・・」
うそ!?本当に私の娘ってどころかハヤテ君との間に生まれた子!?でも私は子どもを産んだことも、子どもを生むような行・・・ゴホン、ゴホン! と、に、か、く!そんなのありえるわけないじゃない!だってハヤテ君は・・・
「ママ、すごいニヤニヤしてる。」
「えっ!?うそ!?」
慌てて口元を隠したけど、この子は相変わらず無邪気に笑っている。仕方ないじゃない!そりゃ好きな人との間に子どもができたなんて聞いたら嬉しいに決まってるでしょ!
「ヒナさん。たとえ付き合っていたとしてもその年で子どもをつくるのは良くないんじゃないかな。」
「年齢的に考えなさいよ!大体16歳の私にこんな大きい娘がいるわけないじゃない!」
よくよく考えてみればそうよ。ハヤテ君と出逢ったのはつい一年前なんだからそんなのありえないわよ。
「その事なんですが、この子・・・アカリっていうんですけど、実は未来から来てるんですよ。」
「「「へ!?」」」
「い、いや、いくらなんでもそれは・・・。」
「ほ、本当なの?えっと・・・アカリ?」
私に名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、アカリは今まで以上の笑顔で答えてくれた。
「うん!だからママたちにとってははじめましてだね。あらためまして綾崎アカリです。よろしくねっ!」
第21話 『母娘』
アカリの熱心な説明に歩たちは取り敢えず納得したということにし、今は普通に彼女と遊んでいる。
「た、楽しそうですね。」
「そ、そうね。」
アカリたちが楽しそうにしている中、ハヤテとヒナギクの間には気まずい空気が流れていて、正直二人とも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。それではいけないと何か話を振ってみても全くと言っていいほど続かなかった。
「ママもこっち来ようよ〜!」
「じゃ、じゃぁ私行くね。」
「あっ・・・」
アカリに呼ばれたのを好機とばかりに立ち上がったヒナギクの手をハヤテは無意識のうちに掴んでいた。
「は、ハヤテ君!?」
「ヒナギクさん、僕は・・・」
ヒナギクの手はずいぶん鍛えられていたが、それでもハヤテには小さくて、少し力を入れてしまえば壊れてしまうんじゃないかというほど儚く感じた。彼女の手を握るのは初めてではないはずなのにドキドキが止まらなくて、自分がヒナギクのことを好きになったことや、彼女を遠ざけたのを後悔していることをあらためて実感した。そうなるとハヤテは自分の気持ちを抑えることはできなかった。
「もぉ!二人ともなにイチャイチャしてるの!」
ただし第三者の介入があった場合は別である。ハヤテとヒナギクが慌てて手を離しお互いに背を向けたのはまさに一瞬と言えるほどだった。 アカリはぶすっとしていた顔を笑顔にするとヒナギクの空いた手を両手で引っ張り、ヒナギクも自分の娘に断ることができずそのままついて行ってしまった。
「ねぇアカリ、ハヤテ君は一緒じゃなくていいの?」
「お、お父さんは別にいい・・・。」
先程は逃げようとしてしまったが、やはりハヤテと少しでも話をしなくてはと考え直したヒナギクは疑問に思っていたことも重ねてそれとなくアカリに質問したが、彼女は顔を曇らせて、曖昧に答えるだけだった。 ヒナギクがアカリという名前を考えついたとき想像していた未来は三人が笑っているもので、少しも暗いものはなかった。それはヒナギクにとっての希望であり、そして目標でもあった。
「もしかして、ハヤテ君のこと好きじゃないの?」
「・・・!!だ、だってお父さんは! ・・・・・・何でもない。」
アカリは何かを言いたげだったが、すぐに顔を俯かせて黙ってしまった。ヒナギクはそれについて言及しようとしたが、それは横から出てきた小さい手によって制された。
「せっかくの母娘なんですから陰気臭い話はもうやめですわよ。」
「アテネお姉ちゃん・・・。」
アカリはアテネの気遣いに感謝したが、あらためて彼女を見て、そういえばと口を開いた。
「アテネお姉ちゃんってママたちとおない年だよね?」
「ええ、まあそうですけど・・・それが何か?」
アテネは当然とばかりに答え、その口調には何言ってるのというようなニュアンスがあったが、アカリは首を傾げたままで、そのまま疑問をストレートにぶつけた。
「なんだかちっちゃすぎない?」
「なっ!今は事情でこうなってるだけですわ!6歳なんですからこれぐらいが普通ですわよ!」
アカリに痛いところをつかれてアテネは必死に言い訳しようとしている。小さい子同士がじゃれているようで、なんだか微笑ましい光景だった。
「そういえば、アカリちゃんって何歳なのかな?」
「ん?7歳だけど。」
「・・・あ、アカリちゃん大きいね〜。」
それを聞いた歩たちはすぐにアカリとアテネの身長を見比べ、そしてたった1歳で30cm以上の差があることに驚かずにはいられなかった。
「アカリが大きいだけなのか、それともアリスが小さいだけなのか・・・。」
「千桜、どちらともっていう選択肢もあるわよ。それよりヒナは一体何を食べさせているのかしら?」
ルカの疑問に真っ先に答えたのはアカリだった。彼女は驚いている皆に対してずっと首を傾げていて、自分の発育の良さにもこれが普通と言わんばかりの表情だった。
「別にママの料理はとっても美味しいけど、メニューはいたって普通だと思うよ。あ、でも牛乳は毎日飲みなさいって言われてたっけ。なんでも気になりだしてからは遅いとかなんとか・・・。」
「ヒナ、入れ知恵するのは少し早すぎるんじゃないか?」
「み、未来の話でしょ!それにきっと変な意味なんかないんだから!・・・多分。」
ヒナギクは心の中で未来の自分に悪態をつきながら言い訳をしている。当然その顔は赤く染まっていた。
「とりあえずヒナはずっと変わらずやっていけてるってことで。」
「何が変わらないのよ!もぉーーー!!!」
それから夕方になった頃、アカリは遊び疲れて眠ってしまった。ヒナギクは彼女に自分の上着を被せると、アパートの屋根裏部屋に向かった。
「途中から姿が見えないとは思ってたけど、やっぱりここにいたんだ。あ、隣座ってもいいかしら?」
そう言っておきながらヒナギクはハヤテが頷く前に彼の横に腰を下ろし、それをハヤテは黙って見ていた。屋根裏部屋にはもうハヤテの私物はなく、少し広くて暗い空間に、窓から差し込んでくる四角い夕焼けの明かりだけが温かみを作っていた。その中にすっぽりとおさまっている二人の距離はゼロに近く、しかしゼロではないとてももどかしいものだったが、ヒナギクはそんな中あえてハヤテに話しかけた。
「アカリと・・・何かあったの?」
「未来の僕みたいですよ。結局ヒナギクさんのことも、せっかくできた娘のことも幸せにできないなんて本当にダメな人間ですね。」
自嘲的に含み笑いを浮かべていたハヤテに、ヒナギクはそんなことはないと詰め寄った。ハヤテはヒナギクとの顔の近さにドキッとしたが、それは彼女のほうも同じようで、ヒナギクは顔を赤らめたまま、しかし真剣な表情で話始めた。
「ねぇ、ハヤテ君。アイリスの花言葉って知ってる?」
「え?た、確かあなたを大切にします・・・でしたっけ?」
「そう。実はね、愛虹(アカリ)って名前はそのアイリスの花からきてるの。ほら、アイリスってギリシャ語で虹って意味じゃない。」
そう言ってヒナギクがあらためてハヤテを見てみると、彼は目をパチクリさせて、いかにもマジですかというような顔をしていた。
「と、とにかく!そんな名前をつけたハヤテ君がアカリを大事にしないわけないじゃないってことよ。きっと事情があってアカリが少し勘違いしてるだけだから、心配しなくても大丈夫よ。ハヤテ君がお人好しなほどに優しいことは、私が一番知ってるんだから・・・。」
「・・・」
ヒナギクいると励まされてしまう、頼ってしまう、安心してしまう、もっと一緒にいたいと思ってしまう。ハヤテは黙って立ち上がって彼女に背を向けた。あとちょっとでも傍にいるとまた自分を抑えることができなくなってしまいそうで、少し怖かった。
「昼間、何言おうとしたの?」
階段のほうへ向かっていたハヤテは後ろからの問いかけに足を止め、逆にヒナギクに問いかけた。
「僕は間違っているんでしょうか?いろんなものを捨てて、ヒナギクさんのためにって。でも結局傷つけてしまって・・・はっ!!」
自分がとんでもないこと言っていたのに気付いて慌てて振り返ると、ヒナギクが顔を真っ赤にして目を見開いていた。彼女はえ、あ、その、と口をパクパクさせて必死にハヤテに答えようとしていたが、やはり呂律がまわらず結局そのまま顔を俯かせてしまった。
「え、えっと・・・あ、アカリのことよろしくお願いします!」
ハヤテもその場の雰囲気に耐え切れずに逃げ出してしまった。 彼が勢いよく玄関の戸を開ける音が聞こえて、ヒナギクは我に返った。
「私ってば・・・何やってるんだろう?」
ハヤテにも問題はあったが、せっかくのチャンスをふいにしたのはヒナギク自身だ。しかし彼女は後悔するよりも早く顔を上げ、階段を駆け下りた。そして共同スペースに行き、そこでまだスヤスヤと眠っているアカリを悪いと思いながらも軽く叩いて起こした。
「ん〜、なに?」
「ねぇ、ハヤテ君帰ったんだけど今どこに住んでるの?」
「え?お父さん帰っちゃったの?だったら岳さんの家だけど・・・。」
ヒナギクはあちゃ〜、と額に手を当てた。彼女は岳の住所を知らないのだ。 ヒナギクどうしようか悩んでいると、アカリがおずおずと声をかけてきた。
「私、案内しようか?」
「ホント!?」
アカリはこの時ほど目を輝かせた自分の母親を見たことがなかったという。
「な、なんでヒナギクさんがいるんですか?それにアカリも・・・。」
インターホンが鳴る音を聞いて玄関を開けると、少し息切れをしているヒナギクと彼女に大丈夫〜?と問いかけているアカリがいた。どうやらヒナギクはアカリを背負って走ってきたらしい。そりゃ疲れるだろ、と思いながらハヤテは取り敢えず二人をリビングにあげてお茶をだした。
「もう一度聞きますけど、何で・・・。」
「だって、せっかく未来から娘が来ているのに親である私たちが一緒にいないのは、ちょっと可哀想じゃない。」
「わ、私はお父さんがいなくても別に・・・。」
「アカリもそんなこと言わないの。ほら、ご飯作るから手伝って。ハンバーグでいいわよね?」
ヒナギクはアカリの頭をクシャっと撫でると、そのままキッチンに連れて行った。
「でも、岳さんにも一応許可を貰わないと・・・。」
「あ、それなら置き手紙があったわよ。」
「置き手紙?」
テーブルの上にはいつの間にか本当に置き手紙が置いてあった。ハヤテはそれに嫌な雰囲気を感じながらも手にとった。
〈やっぱり今日帰ってこないから留守番任せた。あとヒナを泊めるとかは全然OKだから〉
ハヤテはタイムリーすぎる手紙に思わず大きなため息をついてしまった。嬉しいような、そうでないような複雑な気持ちで、ハヤテは手紙をテーブルに置こうとすると裏に何か書いてあるのが透けて見え、急いで手紙をひっくり返した。
〈ちなみにお前の寝室意外、部屋は鍵かけておいたから、逃げずにちゃんと向き合えよ。なんなら仲直りついでにおいしくいただいちゃうのもアリなんじゃねw〉
バシンッ!!!
「ど、どうしたの?ハヤテ君。なんか顔も赤いけど・・・。」
「な、なんでもないですよ!本当になんでもないです!」
「そう、ならいいんだけど。」
机に手紙を叩きつけたところを丁度よくヒナギクに見られてしまい、ハヤテは動揺して少し叫んでしまった。ヒナギクは取り敢えず気にしないようにしてまたキッチンに戻っていったが、ハヤテは彼女を意識しすぎてしばらくまともに目を合わせられなかった。 ヒナギクのほうもほぼ二人きりなこの状況に緊張せずにはいられず、チラッとハヤテの方を見ては顔を赤くして料理の方に戻るというのを繰り返していた。
「はい、ニンジン剥き終わったよ。ていうか、ママたちって、一緒にいるといつもイチャイチャするよね。」
「なっ!イチャイチャなんてしてないわよ!」
なんだか仲間はずれにされていることに不快感を感じたアカリはあえて皮肉っぽく言ってみたが、逆効果だった。アカリはやっぱりイチャイチャしてるじゃないかと母親をジト目で見ていたが、すぐに表情を戻した。
「ママはお父さんのこと好き?」
「ふぇ!?ほ、本人の目の前でなんてこと聞くのよ!」
「いいから!」
アカリの目は好奇心ではなく、ヒナギクの想いを確認したいというようなものだった。それを感じとったヒナギクは音量を少し小さくしながらもきちんと答えた。
「す、好きよ・・・。」
「どんなところが?」
「ど、どんなところって!?」
ヒナギクが思わずハヤテのほうを見ると何故か彼もこっちを見ていて目が合ってしまった。しかもその後ハヤテが顔を真っ赤に染め上げて反対方向に逸らしてしまったため、ヒナギクは余計に緊張してしまい、言葉を発することができなかった。それでも辛抱強く待っていたアカリにとうとうヒナギクも折れた。
「呼べば助けに来てくれて・・・そこがカッコよくて・・・、そして絶対に優しいところ・・・かな。」
言ったあと、やっぱり恥ずかしくなってヒナギクは俯いてしまったが、アカリはそれを笑うようなことはしなかった。
「・・・やっぱり変わらないんだね。」
「え?」
「なんでもないよ。それよりもご飯はまだー?」
さっきとはうって変わって無邪気に夕食を催促してくるアカリにごめんごめんと軽く謝っていると、ヒナギクは何が気になっていたのか忘れてしまった。テーブルに料理を運ぶとアカリは待ってましたとばかりに手を合わせ、きちんと合唱をしてから箸を動かし始めた。
「「家族ってこんな感じなのかなぁ。・・・」」
「・・・///」
「・・・///」
ハヤテとヒナギクは独り言でつぶやいたはずの言葉が重なってしまい、恥ずかしさから顔をそらしてしまった。それを見ていた、というより煮え切らない桃色空間を見せ付けられていたアカリはもう諦めたというように大きなため息をついた。
「ごちそうさまでした。」
アカリは食べ終わると、特にやることもなかったので部屋を見渡してみると、カーテンの陰に何かちっこくて白いものがあるのに気づいた。近づいてカーテンをめくってみると、そこにいたのは子猫だった。
「うわー!ママ、子猫がいるよー!」
「わ、ホントだ。ガウ君って猫飼ってたんだ。」
アカリはヒョイっと子猫を抱き上げると、抱きしめて頬ずりをした。子猫の白い毛並みにはところどこ桃色の毛が混じっていて、一見桃色の子猫にも見えた。
「ふわー!もふもふだー!ねぇ、この子なんて名前なのかな?」
「岳さんからペットいるって聞いてないし、首輪もつけてないからたぶん野良なんじゃないかな。だから多分名前はないと思うけど。」
「ふ〜ん、名前がないって少し寂しいんじゃない?」
アカリは高く持ち上げながら質問しいたが、子猫が日本語を分かるはずもなく不思議そうに鳴くだけだった。
「じゃぁ私が名前をつけてあげる!えっと・・・ん〜・・・」
そんなに簡単に名前が決まるはずもなくアカリはしばらく考えていて、それをハヤテたちは黙って見守っていた。ハヤテは内心ヒナギクの娘のネーミングセンスにヒヤヒヤしていたが、それでも口を出すようなことはしなかった。
「そういえばこの子ってオス?メス?」
「え?それは・・・、ハヤテ君どっちか分かる?」
ハヤテはアカリから子猫を受け取ってすぐにメスと判断した。ハヤテの知識の豊富さに関心しながらアカリは再び子猫を受け取り、ニコッと笑った。どうやら決まったようだ。
「よしっ、だったらこの子の名前はヒナにしよう!」
アカリがそう言った瞬間、ヒナと名づけられた子猫は体をビクッと震わせ、アカリの腕の中から逃げ出してしまった。あっ、と手を伸ばしたがすぐに子猫の姿は見えなくなってしまった。
「名前・・・気に入らなかったのかな?」
ショックを受けて落ち込んでしまってるアカリを見てハヤテはオロオロしていたが、ヒナギクは微笑むと彼女の肩を優しくたたいた。
「そんなことないわ。きっと恥ずかしかっただけですぐに戻ってくるわよ。」
「・・・ホント?」
「ええ、本当よ。ほら、早くお風呂に入って寝ましょ。」
ヒナギクは一応ハヤテに許可を取ると着替えを用意してから、アカリと一緒に風呂場に向かって行った。 ハヤテは食器を片付けてからはやることがなくなってしまったので、とりあえずソファに腰を下ろすと、さっき逃げてしまったはずの子猫がひょっこりと顔をだした。
「たしかにヒナギクさんに似ているかも・・・。」
ハヤテは子猫を抱き上げてしばらく見つめていた。確かにヒナギクに似ていると言われれば納得してしまうが、目だけはなんだか優しげで、どちらかというとアカリに似ている気がした。
「ヒナ・・・。」
ふいにアカリがつけた名前で呼んでみると、まるでヒナギクを呼び捨てで呼んでいるようで恥ずかしくなってしまい、ハヤテはヒナから顔をそむけた。ヒナはキョトンした様子でハヤテの真っ赤な顔を見ていた。
「ほら、流すから目をつむって。」
アカリの髪は思った以上にさらさらでヒナギクは少しの間その心地いい感触を堪能していた。アカリのほうもヒナギクに頭をなでられるのが好きらしく、すっかり元気になっていた。
「そういえばアカリって好きな男の子とかいるの?」
「え?別にいないけど。」
娘のあっさりとした答えにヒナギクはつまらなさそうな顔をした。ヒナギク自身、ハヤテに恋するまでそのようなことには無縁だったが、別に興味がなかったわけではないのだ。しかしアカリの顔を見てみると本当に何もないのが分かった。
「アカリってなんだかモテそうだからそういうのもあると思ったんだけどなぁ。」
「え〜、そんなことないよ〜。」
湯船につかりながらいっときガールズトークをしていると、ヒナギクが急に話題を変えた。
「でも意外だったな。」
「ん?何が?」
「いや、ハヤテ君の娘ってきっとファザコンみたいになるだろうなって思ってたから・・・。」
「わ、私が!?ないない!ぜったいないよそんなの!」
アカリは心なしか赤くなってしまっていて、わたわたと手を振っている。ヒナギクは一度ほほ笑むと、アカリの頭をそっとなでた。
「いきすぎは確かにやめてもらいたいけど、親のことを好きになれるって素敵なことよ。それに、あなたが思ってるよりハヤテ君はずっといい人なんだから。」
アカリは納得のいかなそうな顔を鼻のあたりまでお湯にひたらせてブクブクと泡を立てている。ヒナギクがアカリを見ていると何度もほほ笑んでしまうのは娘という特別な存在だからなのだろう。
「ねぇ。」
「ん?」
「未来から来てくれて、そして私の娘であってくれて・・・ありがとうね。
アカリのこと、大好きよ。」
アカリはヒナギクの笑顔に精一杯の笑顔で返した。
「うん。私もママのこと大好きだよ!」
ハヤテに抱えられていたヒナはアカリたちがあがってきたのが分かるとその方向へ走って行ってしまった。
「あ!ヒナー!」
「なんだかまぎらわしいわね。」
髪をふきながらヒナギクは複雑な表情をした。慣れればいいのだろうが、自分の名前を呼ばれたようでいちいち反応してしまうのがもどかしかった。
「仕方ないんじゃないですか?どちらも楽しそうですし。」
「そうなんだけどね。ところでハヤテ君、お風呂は?」
ハヤテはヒナギクたちが来る前にシャワーを浴びていたので今日は洗濯をして寝るだけだった。それを聞くとヒナギクはふ〜ん、と曖昧な返事をしながらハヤテから顔をそむけた。どうしたんだろうとハヤテがヒナギクの顔を覗き込むと、彼女は逃げるようにアカリのところに行ってしまった。
「ほら、アカリ。もう遅いから寝ましょ。ヒナとはまた明日遊びましょ。」
「ママなんで赤くなってるの?」
「いいから!早く寝ましょ。ね。ね!ほら、ハヤテ君も早く!」
「へ?」
今、ハヤテ、アカリ、ヒナギクは川の字になって同じ布団で寝ている。ヒナギクが赤くなっていた理由は最初からこの体制で寝るつもりだったかららしい。 しばらくたってアカリとハヤテが寝てしまったころヒナギクはまだ目を開けていた。少し体を動かすとアカリの桃色の髪の向こうにハヤテの背中が寝息とともにわずかに上下しているのが見えた。
「明日約束したこと・・・忘れてるわよね。」
「忘れてませんよ。」
「!!・・・なんで?」
「約束ですから・・・。」
ヒナギクはそう、と一言だけ言って目を閉じた。 ずっとこのままでいたいと思いながらも、明日に少しの期待を抱いて。
どうも 長かった。本当に長かった。 夏休みなのにこれを書く時間が全然なくて結果的に更新ペースも落ちてきて・・・ と、とにかく今回はサブタイの通りできるだけアカリちゃんとヒナさんにスポットを当ててみましたが、できるだけです!できるだけ!まぁ、こういうところしっかりしなくちゃって思ってるんですけど・・・なかなかできないんですよね。 えと、子猫のヒナに関してはなんというかヒナギクさんが言った通りまぎらわしいです。でも結構使いやすいからこれでいいかなぁ、と。 それから川の字になって寝るところはもう少し盛ることができたらよかったんですけどネタが思いつかないのと最後の部分につながらない(それだけの文才がない)のとで諦めました。
さて、次回は最後にでてきた約束のお話。ていうかぶっちゃけ遊園地に行くんですけどね。 あぁ、なんだかこれもタイトル詐欺になるかも。で、できるだけがんばります。
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.33 ) |
- 日時: 2014/08/05 12:36
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
更新待ってました。学生時代の夏休みというのは本当に大事だと思うので、どうぞ充実したものとなるよう頑張って下さい。
さて、感想です。 まずは母親ヒナが本当に素敵ですね。運命の朝のアリスちゃんへのセリフもそうでしたが、惜しみなく大好きと言う彼女の姿を想像すると、とても優しい気持ちになれます。アカリちゃんとも相性バッチリで、ここからの展開にも期待です。 また、アカリちゃんの活躍のおかげで物語の展開が完全に予測不能です。 ハヤテとヒナが決定的な別離になったかと思ったら割とすぐに再開しちゃうし、一大イベントになるかと思われたヒナの告白が料理中にさせられちゃったりと、目からウロコが落ちてばかりです。 ハヤテも逃げ出す事を諦めたようで、ここから自分の気持ちとヒナに正面から向き合ってくれると願っています。
最後に、今回は誤字のチェックをさせて頂いたんでよろしくどうぞ。 ではでは、次回も楽しみにしております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.34 ) |
- 日時: 2014/08/05 14:49
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回はレス返しということでロッキー・ラックーンさん、感想ありがとうございます。 ちなみに夏休みは結構充実してますよ(笑)。部活とバイト、あとハヤテで。
なんというか、ヒナさんが笑顔で「大好き」というシーンは自分にとってもグッとくるのでとても気に入っているんですよ。これを思いついたときなんか、バイクで周りに聞こえないことをいいことに思わず叫んでしまいましたよ。まぁ、それだけテンション上げないと眠くなって危ないというのもあるんですが。今もいいネタを思いついたときはいちいち叫んでます。あ、通報とかしちゃだめですよ。
アカリちゃんについては悪い印象がないようでよかったです。ヒナさんと相性がいいのはやっぱり母娘だからかな。もともと人懐っこい性格ではあるので未来のほうでも友だちがたくさんいたり、ヒナさんが言うように結構モテてたりしますよ。
あと、ヒナさんの告白は彼女の声がちっちゃかったのと、ハヤテのほうも緊張していたことがあって聞こえてなかったりします。電車のときは聞こえたのに不思議ですね(大いなる意思)。ヒナのちゃんとした告白がどうなるかはご想像にお任せします(つまりネタバレ)。 ハヤテたちの進展とかはこれまで通り、アカリちゃんが引っ掻き回してくれますのでお楽しみに。
最後に誤字のチェックありがとうございました。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.35 ) |
- 日時: 2014/08/12 00:42
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
いやぁ〜、このSSの長くなりましたね。おかげさまで参照が2000越しました。読んでくれたかた、本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。 さて、今回は記念として番外編でも・・・やりません。普通に前回の続きでハヤテとヒナさんがデートに行く前の話です。 それでは・・・ 更新!
ハヤテたちが完全に寝静まった頃、アカリに名付けられた子猫、ヒナは裏庭を歩いていた。夜の闇に足音一つ立てない歩みの向かう先にはひとつの人影があり、その人影はヒナに気づくと座り込んで、出来るだけ目線をあわせるようにして話しかけた。
「ごくろうさま。アカリちゃんの相手は大変だっただろ?あぁ見えてやんちゃなところあるからな。」
岳が顎を撫でると、ヒナは首をあげてゴロゴロと気持ちよさそうに鳴いた。
「ヒナ・・・か。紛らわしいというか、俺も未練がましいというか・・・。まぁ、とりえずありがとうな。」
岳は頭を撫でたあと、ヒナの額に自分の人差し指を当てた。すると彼らの間からプツンと糸が切れるような音が聞こえ、そのままヒナはふらりと倒れてしまった。しかし、しばらくすると何もなかったかのように立ち上がり、そのままアカリたちの寝ている寝室のほうへ走って行ってしまった。
「結構なついてるんだな・・・。」
岳はふと空を見上げた。今日はよく晴れていて、都会でもたくさんの星を見ることができた。
「あと一週間か。遠いな・・・。」
ヒナが寝室に足を踏み入れるのと、夜空に独り言がすいこまれたのは同時だったが、その空の下に人影はなかった。
第22話 『幸せの色』
11月13日、未来からきた綾崎家の長女、アカリはこれから自分の親になる予定の二人、ハヤテとヒナギクを朝食の間ずっと睨みつけていた。理由としては朝っぱらから顔を赤くさせてピンク一色なオーラを見せつけてきているのもあるが、一番は何だかよそよそしく、自分に何か隠し事をしているっぽいということだった。
「ねぇ、ママたち。私に何か隠し事してない?」
「へ!?べ、別に何も隠してないわよ!隠し事なんてあるわけないじゃない!」
隠し事とは遊園地に行くことなのだが、ヒナギクはハヤテと二人きりで行って仲直りをしようと考えていたため、アカリには悪いがハヤテにも協力してもらって必死に隠そうとしていた。もちろんハヤテには隠す理由を伝えていない、というより伝えきれていないが、それでも彼はなんとなくで了解してくれた。しかしこれからデートということで二人とも緊張してしまい、結局隠すどころか逆に感づかれているというわけである。
「わ、私は用事があるからもう出るわね!ごちそうさま!」
「あっ、ちょっとママ!?」
しかしアカリが手を伸ばしたときにはもう遅く、彼女の目には閉まろうとしているドアが映るだけだった。当然、怒りや疑問の矛先は残ったもう一人に向くわけだが、そのもう一人は危険を感じて既に食器を片付けて椅子から立ち上がろうとしていた。ハヤテの顔には少し冷や汗がにじんでおり、その後彼が発する言葉は何故か棒読みだった。
「さて、僕もバイトに行かないとな〜。」
「お父さん、この前バイトは月曜からって言ってたよね?今日は日曜なんだけど?」
ハヤテは冷や汗の量を2倍にしてしばらく固まっていたが、解決策を見つけられずに結局強行突破、つまり逃げ出した。こちらの速さも凄まじく、アカリは手を伸ばそうともしなかった。 隠し事をされたことは結構ショックで、アカリはしばらくうつむいたままだったが、子猫の鳴き声が彼女の顔をあげさせた。
「あ、ヒナ・・・。」
アカリはしゃがみ込むとヒナを優しく抱きしめた。ヒナの心配するような鳴き声はアカリの心を揺らし、弱音を隠す強がりの壁を溶かしていった。
「ヒナ・・・。私ね、夢を見たんだ。未来に帰る夢。そこではママはお父さんとちゃんと付き合って、とても嬉しそうに笑ってるの。私だってとても楽しかったし、お別れのときだって笑ってサヨナラできたんだけど・・・未来に帰ると、ママは一人で泣いてるの。お父さんの名前を呼びながら・・・。」
ヒナの顔はアカリのこぼした雫で濡れていた。しかし落ちてきた涙を払おうともせず、ヒナは泣いているアカリをじっと見つめているだけだった。
「ママは幸せになれないのかな?私は・・・どうしたらいいのかな? ねぇ、ヒナ・・・、幸せって何色?ママが幸せになる方法ってなに?」
「それは人それぞれなんじゃねぇの?」
振り向くと笑顔の岳が立っていて、その後アカリは自分の頭に大きくて温かい感触を感じた。アカリと同じようにしゃがみこんだ岳は、彼女の頭を優しく撫でながら話を始めた。
「たいていの人は明るいのを選ぶだろうけど、暗い色を選ぶ人もいるかもしれない。今欲しい色を選んで未来がぐちゃぐちゃになってしまったり、未来をいい色にするためにあえて嫌いな色を選んだりもする。もしかしたらずっと好きな色でいられるかもしれないし、その逆もあるかもしれない。結局自分にとっての幸せの色すらも分からないんだ。」
アカリは岳の言葉に、どこか説得力があるような気がした。 この世界の全てを知っているような・・・
そう、まるで神様みたいな・・・
「分からないんなら、それが間違いになるとしても、後悔してしまうとしても、前に進んでみるしかないんじゃないか?」
岳はアカリを立ち上がらせると椅子に座らせた。そこにはまだ残っていた朝食があり、少し冷めているようだったが、それでも美味しそうだった。
「せっかく作ってもらったんだから全部食べないとな。子猫ちゃんのほうも腹空かせてるようだし、ちょっとなにか用意するか。」
「あ、牛乳ならここに・・・。」
アカリはテーブルに置いてあった牛乳を手渡そうとしたが、手で制された。その手の持ち主はとびきりの笑顔で、それを見たアカリはあることを思ってしまった。
「はは。子猫にはちゃんとネコ用のミルクをあげないと・・・。牛乳だとお腹壊しちゃうからな。」
この人なら、自分の母親を幸せにできるんじゃないかと・・・。
ハヤテはアカリから逃げたあと、ゆっくりと待ち合わせ場所まで歩いていた。ゆっくりなのは時間的な余裕があるからで本人としても別に他意があるわけではなかった。しばらく歩くと待ち合わせ場所である駅に着き、ハヤテは時間を確認するためにiPhoneを取り出したが、そこで着信が入っていることに気づいた。それは伝言で、画面に表示された名前を見た瞬間ハヤテは自分の手が震えだしたのが分かったが、いろんな感情を押し殺して、iPhoneを耳に近づけた。
〈もしもし、ハヤテか?ていうか、これちゃんと録れてる?まぁ、いいや。〉
「っ!!」
〈まず・・・すまなかったな。その・・・私がお前と恋人だと思っていたこと・・・・。で、でもハヤテだって悪いのだぞ!お前があんなこと言うから・・・、仕方ないじゃないか。〉
「・・・」
ナギは明るい声で話していたが、本当はつらいのを我慢していることがハヤテにはすぐ分かった。
〈でも、本当は気づいてたんだ。お前が私を大切ししてくれるのは執事だからであって、別にそれ以上の感情があるわけないじゃないって。まぁ確信がもてたのは最近で、その時にはもう遅いことも、私がお前の特別じゃないってことも悟ったよ。 なんというか、私の漫画に似ているな。いろいろ立場とかは違うけど、先輩とブリトニーに。執事としてお前をしばってしまえばずっと一緒にいられるけど、本当のことを言ったりしたら、どこかに行ってしまう・・・て、ところかな。〉
「お嬢様・・・。」
ナギの声はだんだん勢いがなくなっていく。思わず呼んでしまっても、機械を通した自分の声が響くだけだった。たとえ一番が決まってしまっても、それ以外のものが無くなったわけでないし、ましてや大切でなくなったわけでもなかった。ハヤテがそのことに気づいても、謝罪の言葉を告げることも、やり直したいと伝えることもできなかった。
(僕は、僕は・・・)
〈あ、でも子どももいないから、やっぱり結構違うな。〉
ケータイの伝言機能って素晴らしい。シリアスな雰囲気は壊れ、ハヤテは特に気にもしなかったそれに大いに感謝した。 しかし、おどけた声はそこで終り、その後は真剣なナギの声が聞こえてきた。
〈ヒナギクを・・・幸せにしてやれよ。話したかったことはそれだけだ。 それからかけ直したりはするな。今お前の声を聞くとまたワガママ言っちゃいそうだから。それじゃ。〉
ナギの声が聞こえなくなった後も、しばらくの間ハヤテの右手は動かなかった。やがて無機質な電子音を止め、大切な人の声が入った機械をポケットにしまったあと、離れた場所にヒナギクの姿を見つけてその方向に歩みを進めた。
「あら、結構早かったのね。」
「ええ、ヒナギクさんを待たせるわけにはいきませんから。」
ハヤテは別に決意ができたわけでもないし、悩みが晴れたわけでもない。ただ踏ん切りがついただけ。
「それでは行きましょうか。ヒナギクさん。」
ただ、ほんの少しの勇気をもらっただけ・・・
「ところで、岳さんって昨日なんで帰ってこなかったの?」
朝食後に岳の作った特製オレンジジュースを飲みながらアカリはふと思ったことを口に出してみた。岳は今アイロンがけをしていて、ヒナはそのアイロンから出てくる蒸気に手を触れては引っ込めを繰り返して遊んでいる。岳はアイロンのスイッチを切り、台の端に置いたあと、少しバツが悪そうな顔をして質問に答えた。
「なんというか・・・、ヒナの親を探してたんだ。」
「えっ、それじゃ・・・。」
アカリはヒナのほうを見た。ヒナは再び遊び道具が出てくるのを待っていたが、もう出てこないと分かると、アカリのほうに歩いて行った。
「ああ、見つけたから、今日かえそうと思う。元々怪我していたところを保護しただけだから、ヒナにとってもそっちのほうがいいんだ。・・・な?」
「・・・」
アカリはしばらく無言だったが、顔を上げると歩いてきたヒナを抱え上げ、抱きしめた。
「パパとママがいるって・・・素敵なことだもん。我慢しなくっちゃね。」
夕方、ヒナとその親ネコの再会は特に何があったわけでもなく無事にすんだ。ヒナは見つけた自分の両親のほうに駆けていき、アカリはそれを見守った。
「ねぇ、岳さん。お別れって、何色?」
「相変わらず難しい質問をするんだな。まぁ、多分それも人それぞれだろうな。多分ほかの出来事も全部自分次第なんだろう。でも、もしアカリちゃんの心が今、寂しいって色をしているなら、別に泣いたっていいんじゃないか?」
アカリの目尻には確かに涙が溜まっていたが、彼女はそれを決して流そうとはしなかった。
「泣かないもん。」
「そうか・・・。 でも、きっと後悔しない別れなんてないし、やっぱり寂しい。だから大切な人の時間を・・・大事にしなくっちゃな。」
岳はアカリの頭に手を置き、家のほうに歩いて行った。アカリは岳について行こうとはせず、しばらくそのままヒナたちが歩いて行った方向を見つめていた。
「ヒナ・・・、私決めたよ。」
アカリは反対方向を向き、全力で走った。そして先に帰っていた岳に追いつくと彼の服の裾を掴んだ。
「岳さん!お願い!ママたちのところにすぐに連れてって!」
「・・・いいのか?」
「私は、ママに幸せになって欲しいから。」
岳は頭をガリガリとかくと、アカリの小さな手を引いた。まだ10年も生きていない子どもとは思えない程アカリの手は強くて、そして・・・寂しい感触をしていた。
どうも。 今回はデートの前ということでハヤテとアカリちゃん、この二人の心境の変化を書きました。いかがだったでしょうか。個人的には岳君がキザ過ぎたり、アカリちゃんの精神年齢いくつ?とツッコミたくなるような感じで少し・・・ね。 ま、まぁここから話の展開が変わっていく予定ですのでお楽しみに。
それと、少し前なんですが、アカリちゃんのイラストをお絵かき掲示板に投稿してみました。手描きで。いや、そういうソフトとか機材持ってないですし、買うお金もありませんし仕方ないじゃないですか。でも、これからもたま〜に描いてみようと思ってるので、リクエストとかあったら言ってください。ちょうど管理人さんが伝言板をリニューアルしてくれたので使ってみるのもいいかと。ちなみに全部手描きになるのはご了承ください。
それでは。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.36 ) |
- 日時: 2014/08/21 00:37
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
前回(?)アカリちゃんのイラストを投稿したので今回は性懲りもなく岳君のイラストを投稿してみました。なんというか・・・すいません。まさか宗谷君イメージのキャラがここまで変わるとは思わなかったので。 と、ということで今回はハヤテとヒナさんが再びデートをする話です。ちなみにアカリちゃんはあまり出てきませんよ。 それでは・・・ 更新!
ナギは自分の声を録音した機械を耳から離したあと、重力に引かれるがままに身体をベッドに預けた。すると、まるでベッドが軽くきしんだ音を合図にしたかのように部屋の扉が開き、マリアが心配そうな顔をのぞかせた。
「ナギ・・・それでよかったんですか?」
ナギは枕にうずめた顔をあげようとはせず、マリアの質問にもそのまま答えなかった。しかし、しばらくしてマリアが諦めて扉に手をかけたとき、ナギはボソボソと呟くように話し始めた。
「ハヤテが執事を辞めた理由・・・多分ヒナギクじゃないと思うんだ。執事をしているからって主以外の誰かと付き合うことができないわけじゃないし、そうでなくとも、ハヤテだったらきっと続けようとするだろう。あいつはそういうやつなんだ・・・。」
「でも、ハヤテ君は・・・」
さすがにその先は言いづらく、マリアは最後まで言葉が続かなかった。枕から顔をあげたナギはやはりつらそうにしていたが、それでも心配をかけまいと精一杯の笑顔をつくった。
「そうだな。でも、それはまた不幸に巻き込まれているからで、ハヤテがちゃんと幸せになることができたら、きっと戻ってきてくれると思ってるんだ。別に諦めたわけじゃないけれど、たとえハヤテがヒナギクを選んでも、あいつは私の大切な執事だから・・・。」
ナギは無理をしている。それはいつも近くにいたメイドだからではなく、赤の他人が見てもそう分かるほどだった。ナギが散歩に行ってくるとガラにもないことを言って横を通り過ぎたとき、マリアは優しく声をかけてあげることも、そっと抱きしめてあげることもできなかった。
それは、長い廊下を歩いていく主の背中がいつもより小さく見えたから・・・
一人になりたいという悲しい声が聞こえてきそうだったから・・・
まるで、この世界にはもういたくないと叫んでいるようだったから・・・
第23話 『メリーゴーランドメロウ』
ハヤテ君はどこまで行くんだろう?遊園地に入ってすぐ、人が多いからと手を繋がれたときにはドキッとしたけれど、そのあとは何かのアトラクションに乗るわけでもなく私はハヤテ君に引かれるままに歩いているだけだった。
「ね、ねぇ!ハヤテ君!?」
「は、はい!なんでしょうか?」
なんだかボーッとしていたみたい。少し問い詰めてやろうと思ったけど、振り返ったハヤテ君の顔は赤くなっていて、それを見てたら緊張してしまって上手く話せなくなってしまった。無自覚なんだろうけど、ホント、ずるいと思う。
「いや、なんでしょうかじゃなくて・・・せっかく遊園地に来たんだから何かに乗りましょ。それがここの醍醐味なんだし。」
「そ、そうですね!すいません、少し考え事をしてしまっていて。」
その考え事について聞く前に、ハヤテ君はまた私の手を引いてさっきとは逆方向に進んでいった。今度はちゃんとアトラクションのほうに向かっているようだけど、もう少し優しくエスコートして欲しいって思っている私は・・・ちょっと我が儘なのかな。
「えと、ヒナギクさんは高いところダメですから・・・」
「ちょ、ちょっと!ダメって言うほどじゃないわよ!苦手・・・そう、苦手なだけよ!」
「はいはい、それじゃ最初はあれに乗ってみましょうか。」
私を軽くスルーしておいて彼が指差した乗り物はまさかのメリーゴーランド。さすがに子供扱いしすぎだとか、この年で乗るようなものじゃないと憤慨している私をハヤテ君はまぁまぁの一言だけでなだめようとしてくる。まったく、本当に子供扱いしすぎなんじゃないかしら。
「まぁまぁ、でも僕たちぐらいの人も結構乗ってるみたいですし、ヒナギクさんが思っているより楽しいんじゃないですか?それに、メリーゴーランドに乗ったことはないんでしょ?」
た、確かに遊園地自体これが二回目だし、前は夕方からだったから時間的に乗れなかったけど。でもメリーゴーランドって・・・
な、なんだか楽しそうね。よく見てみたらカップルで乗っている人たちも少なくないし、もしかしたら私たちも恋人同士に見えたり・・・。
「わかった。乗る・・・。」
「はい!」
なんだか負けた気がするけど、彼の笑顔を見てると許せてしまう自分も現金なものなんだと思う。 でも、待ち時間のあいだハヤテ君は一言も喋らなかった。彼が無口なせいなのか、周りは賑やかなのにまるで沈黙の中にいるようで、二人でいるはずなのに一人ぼっちのほうが正しいような気がした。話かけようとしても声が震えてしまって、結局乗り込むまでをカウントダウンしているような鼓動を聞いていることしかできなかった。
「じゃあ、僕は前に乗りますから。」
「あ、うん。」
確かに意外と楽しかった。楽しかったけど・・・ 前に乗っているハヤテ君に追いつけないってところが、まるで自分を表しているようで少し悲しい気分になってしまった。
それからのハヤテ君はニコニコとしていていつもより優しい感じだったけど、なんだろう?この違和感。
「どうかしましたか、ヒナギクさん。も、もしかしてあまり楽しくないとか・・・。」
「い、いや楽しいわよ!私はすっごく楽しい。・・・でも、ハヤテ君は楽しんでるの?」
私の質問にハヤテ君は豆鉄砲をくらったような顔をした。まったくこの人は相変わらずというか、自分のことを全く考えていないというか・・・。
「ぼ、僕はヒナギクさんが楽しんでくれればそれで・・・」
「あのね、その気持ちは本当に嬉しいし、そういうところがハヤテ君のいいところでもあるとも思ってる。でも、もう少し我が儘になったら? ハヤテ君が私から離れようとした理由なんて分からないし、それでハヤテ君が苦しんでいても今の私には助けることができない。だけどそれはハヤテ君が苦しみを背負おうとするからなの。もっとあがいてよ。自分も幸せになりたいって言いなさいよ。前にも言ったじゃない・・・私は隣にいるよって。」
私はハヤテ君が好き。大好き。だから優しい言葉だけなんていらないし、彼の横顔のむこうにある存在だって受け止めたい。目を伏せてなんかいられないんだ。
「ハヤテ君が呼んでくれれば、助けに行くから・・・。ハヤテ君が言ってくれたように私はハヤテ君に頼るから、ハヤテ君も私に頼って欲しい。これじゃ、ダメかな・・・?」
私は今どんな顔をしているんだろう?多分自信のなさそうな表情なんだろうから、らしくないって言われると嫌だな。でも私の予想に反して、彼は笑ってくれた。それは作ったものじゃなくて、私の知っている、本当のハヤテ君の笑顔だった。
「ヒナギクさんは、優しい人ですね・・・。」
それはあの時とはまったく逆の言葉。嬉しいけれど、なんだかムカつくから、私もハヤテ君と同じように笑ってやった。
「私はハヤテ君より優しい人を知らないんだけど?」
「僕はヒナギクさん以上に優しい人を知りませんよ。」
嘘つき。私は心の中でそう悪態をついた。だってハヤテ君にはナギっていう命の恩人がいるんだもの。そのアドバンテージが簡単に埋まるわけないじゃない。 でも、本当にハヤテ君が私のことをそう思ってくれているのなら・・・
「それじゃ、ハヤテ君に一番優しい私がエスコートしてあげる!」
エスコートされたいとは思っていたけど、やっぱりされているだけじゃ・・・ね。 私が言ったんだから、ちゃんとハヤテ君にも我が儘言わせてあげなくちゃ。
「僕はヒナギクさんの行きたいところならどこでもいいですよ。」
いや、まぁ、分かってたんだけどね。ハヤテ君がこういう人だってことは・・・。とりあえずいろいろ吹っ切れたみたいだからいいけど。 ため息をこぼしたあと、私は一つの乗り物を指差した。
「それじゃ、あれに乗りましょ。」
「え?また乗るんですか?メリーゴーランド。」
「ハヤテ君がちゃんと決めてくれなかったら何度でも乗るからね。」
「えぇ!!それはあんまりなんじゃ・・・。」
冗談ですよねと顔で訴えてくるハヤテ君をわざとスルーして本日二回目のメリーゴーランドに乗り込んだ。今度は私が前で、ハヤテ君がうしろ。 なんというか・・・すごい優越感!恋は追いかけるより追いかけさせた方が勝ちって歩は言っていたけれど、その通りなんじゃないかしら。あ、でも追いついてくれないことがちょっと残念・・・って!私ったら何考えてるよ!たしかにデートしてるけど私たちはまだそんな関係じゃないんだし・・・ そ、そんな・・・ハヤテ君と追いかけっこだなんて・・・でも、アリかも。
「あの〜、ヒナギクさん?」
「もうハヤテ君ったら、ちゃんと掴まえてくれないとダメじゃない。」
「は?」
「え?」
その瞬間自分の顔の温度が急上昇していくのが分かった。ハヤテ君はちょっと赤い顔でオロオロとしていて、気まずそうに手を差し出してきた。
「と、取り敢えず降りませんか?ほかのお客さんもいますし・・・」
「う、うん・・・」
やっちゃった・・・!私ったらハヤテ君の前であんなこと!これからどうやって顔合わせればいいのよ! ハヤテ君もさっきから何も言ってくれないし・・・って、あれ?ハヤテ君は?もしかしてはぐれちゃったとか!?私ったらこの歳で迷子なんてカッコ悪すぎない!?いや、冷静に考えよう。別に私は迷子になったわけじゃない。迷子になったのはハヤテ君のほうなのよ。そう私は迷子になんかなっていないのよ!
「あ、ヒナギクさん。ソフトクリーム買ってきましたよ。」
「よし、今すぐハヤテ君を・・・あれ?ハヤテ君?」
「えっと、僕は今すぐ何をされるんでしょうか・・・?」
なんか空回ってばかりだな・・・私。 取り敢えず事情を恥ずかしながら説明して、ハヤテ君の恐怖で引きつった顔を直したあと、立っているのもなんだし、近くのベンチに座ってからソフトクリームを受け取った。
「ヒナギクさん・・・緊張してます?」
「なによ。悪い?」
「いえ、別に。」
私の不機嫌な返事を笑顔で、そして一言で返してくるハヤテ君には正直ムカついた。ホント、誰のせいだと思っているのかしら。
「僕だって緊張しているんですよ?だから、お互いもっとリラックスしましょう。せっかくのデートなんですから。」
食べ終わったハヤテ君はハンカチで手を拭いて私の前に立ち、気取った感じで胸に手をあて、会釈をしてきた。
「僕を・・・エスコートしてくれませんか?」
そんな風にされたら断れないというか、断りたくないというか、本当にずるい人だと思う。
「し、仕方ないわね・・・。」
「楽しかったですね。」
「そうね。」
帰り道、私たちは前と同じように・・・というわけではなく、ハヤテ君もちゃんと電車賃を払って普通に公園を歩いていた。もう真っ暗で、街頭の明かりが照らしてくれる道には私たち以外誰もいなかった。そういえば私とハヤテ君って結局決別とかしなかったわね。多分アカリが未来から来てくれたおかげかな。 ハヤテ君との会話は続かない、お互いに手を握っているわけでもない。でも彼との繋がりが確かにあるような気がした。
今、大好きなんて言ったら、5秒後に私たちはどうなっちゃうんだろう?
「ハヤテ君・・・。」
「ん?なんですか?」
「結局あんまり我が儘言わなかったわね・・・。」
心の内をそう簡単に伝えられるはずもなく、とりあえず振ってみた話にハヤテ君は真剣な顔をした。
「そんなことないですよ。今日は今までで一番欲張りになった気がします。」
「まったく、本当に欲ってのがないんだから。せっかくだし、あと一つだけ我が儘聞いてあげる。何でも言って。」
何でもはちょっと言いすぎたかな?まぁ、ハヤテ君だから変なことはお願いしてこないだろうし、こんなこと言うのはハヤテ君だけだから・・・いいわよね。 気がつくと自販機のすぐ横を通り過ぎようとしていた。ハヤテ君はまだ考えているみたいだし、ジュースでも買ってあげようかしら。
「ヒナギクさん。」
「あ、決まった?ジュース買うからちょっと待って・・・きゃっ!!!」
私がボタンに手を伸ばそうとしたとき、いきなり肩を掴まれて無理やり振り向かされた後、私はハヤテ君と自販機に挟まれるような図になった。
「いきなりすいません。でも、ヒナギクさんが悪いんですよ?僕に我が儘になっていいなんて言うから・・・。」
えっ!?ちょ、ちょっとどういうこと!?えと、ハヤテ君が私を押さえつけて、顔を近づけてきて・・・ま、まさか!う、嬉しいけど心の準備が!
「いい・・・ですか?」
まるでゴメンと言っているような顔は許可を取りながらもゆっくりと、本当にゆっくりと近づいてくる。ハヤテ君の吐息がかかるぐらいまで近づいたときには、脳が溶けてしまっているかのように何も考えられなくなっていて、口から出たのは自分でも驚くほど素直な言葉だった。
「ハヤテ君になら・・・。」
私はそう言って目を閉じた。ロマンチックにそっと閉じたんじゃなくて、不安とかがいっぱいで・・・ぎゅっと。感じる彼の吐息と、聞こえる息遣い。それらが近づいてくるにつれて私の心臓はうるさく鼓動する。私たちの距離がゼロになるのはあと何秒だろう?5秒?3秒?それとも・・・
ありがとうございます・・・
そんな小さな囁きが聞こえた気がした。そしてその瞬間・・・
「ダメーーー!!!!」
私は見事にファーストキスを邪魔されてしまった。驚いて目を開けると前にいたのはハヤテ君ではなく息を大いに切らしているアカリで、ハヤテ君はというと結構離れた場所にうつぶせに倒れていた。えっと、アカリがハヤテ君を突き飛ばしたっていうことでいいのかしら?
「もうやめてよ・・・。」
アカリはハヤテ君のほうに近づいて、起き上がったハヤテ君の胸ぐらをつかんだ。そのあとのアカリの言葉は悲しくて、そしてその内容に私の思考は真っ白になってしまった。
まるであと一つまで埋めていたパズルを裏返されたみたいに・・・
真っ白に・・・
「もう・・・
もうこれ以上ママを不幸にしないでよ!!」
どうも、タッキーです。 今回はアルバム「HiNA2」から「メリーゴーランドメロウ」を使わせて頂きました。いかがだったでしょうか?・・・と聞く前になんかいろいろグダグダな感じになってしまってすいません。そこはアドバイスなり、文才の無さということで見逃してくれるなりしてくれればありがたいです。 さて、次回はアカリちゃんに注目してもらいたいですね。まぁ、注目もなにも彼女の話なんですけど・・・。とりあえずはアカリちゃんとナギを会わせる予定です。 それでは ハヤヤー!!
何故か前回この形じゃなかったんですよね。こだわっているというか、今更やめられなくなってしまったというか・・・。 そ、それでは今度こそ ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.37 ) |
- 日時: 2014/08/23 03:03
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
「ん、今…『なんでも言って』って、言ったよね?」 が今回私が最初に感じた事です♂…これはいけませんね。(戒め しかしながらハヤテも大胆にヒナを求めてしまっちゃって、正直なところ驚きました。 幸せなキスをして終了するにはまだまだ早かったですが…。アッカリーンちゃんの次回の言動に期待です。
遊園地で観覧車ではなくメリーゴーランドを題材にされたのは良かったです。キャラソンも絡めてヒナの心情がとても分かりやすく伝わります。久々にヒナソンから引っ張ってSS書きたくなっちゃいました。(筆を取るとは言ってない それにしてもこの二人、ラブラブである。
さて、今回は指示語についてアドバイスを。ナギの場面が非常に良かったので。
>「ナギは無理をしている。それはいつも近くにいたメイドだからではなく、赤の他人が見てもそう分かるほどだった。」
場面からはマリアさんがナギを見ている事は分かりますが、文章表現だけ見ると違っていたりします。 「それ」というのは「ナギが無理をしている事」を指してしまっているので、「ナギが無理をしているのはいつも近くにいるメイドだからではない」と受け取れてしまいます。 直し方は…2パターン示しましょう。
一つ目は、前の文章を直して「それ」が指す言葉を改める。 「マリアには、ナギが無理をしているのが手に取るように分かった。それは彼女がいつもナギの近くにいたから察知できたというのではなく、赤の他人が見てもそう分かるほどの様子だったからだ。」
二つ目は後ろの文章で指示語を使わない。 「ナギは無理をしている。いつも彼女の近くにいたマリアだから分かったという訳ではない。その姿が、誰が見ても分かってしまうほどに悲しい空気をまとっていたから。」
「こそあど言葉」を使った際は、それ(=使ったこそあど言葉)がどの言葉を指しているのかを確認して文章を整えると読みやすくなります。 あんまり使いすぎると読み手の読解力に頼ってしまう事にもなるので、バランスが大事ですね。
と、またまた長々語ってしまいました。次回も楽しみにしています。 茶室でもSSのお話が出来たら…いいですね。(白目
ではでは失礼いたしました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.38 ) |
- 日時: 2014/08/23 23:32
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
ロッキー・ラックーンさん、感想とアドバイスありがとうございます。
とりあえず、まぁ・・・いけませんね(笑 でも、何でもいいと言われたら考えてしまうのは仕方ないですね♂・・・おっといけない。
ハヤテに関しては堪えていたところがあったんでしょう。あ、感情的にですよ。感情的に。は、ハヤテにそんなヨコシマな心があるわけないじゃないですか! まぁ、ぶっちゃけヒナさんの言葉で感情のタカが外れたという感じです。 キスについてはまだ結構あとの方になると思います。二人がくっつく前にやらないといけないことがまだ残っているので。 そして次回からはそのやらないといけないことの一つであるアカリちゃんのお話です。アッカリーンが盛大にアッカリーンしてくれますよ(少し楽しくなってきた
メリーゴーランドは曲的なことはもちろんなんですが、このSSではヒナさんが既に二回ほど勇気を振り絞っていらっしゃるので、さすがに酷なんじゃないかと。さらに言うとネタ的な・・・ゲフン!ゲフン!とりあえずそういうところですね(汗
ま、まぁ、ロッキーさんが筆をとるのは気長に待つとして、今回もアドバイスありがとうございます。指摘をされて確かにと気づくことが多いのでとても助かっております。これからもよろしくお願いします。
茶室の方では・・・(遠い目 そ、それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.39 ) |
- 日時: 2014/09/01 16:36
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
なんだか書き始めよりうんと更新ペースが落ちてしまいました。 で、でも飽きたというわけではないですよ!今回だってアカリちゃんのいも・・・ゲフン!ゲフン! と、とにかくイラストに時間をさいていたわけですよ!載せてはいませんけど・・・ 取り敢えずペンタブでも買ってみようかなと思っているのでイラストのほうは後ほど。 さて今回はアカリちゃんのお話。ちなみに夕方、放課後からの設定です。 それでは・・・ 更新!
アカリがハヤテとヒナギクのキスを阻止した日から五日、ヒナギクはハヤテに会っていない、というより会うことができずにいた。毎日岳の家を訪ねてはいるものの、ドアを開けるのは決まって家主である岳か、ハヤテと同じように居候しているアカリだった。今回もハヤテではなくアカリが出てきて、ヒナギクは思わずため息をついてしまった。
「えっと・・・私、何かした?」
「ああ!違うの!こっちのことだから・・・、ごめんね。」
アカリが不安そうな顔をしのはキスを邪魔した罪悪感からなのもあっただろう。しかしヒナギクはそのことに対して怒ったりはしなかった。不満がなかったと言えば嘘になるが、それでもアカリなりに自分のことを想った行動なのはきちんと伝わったし、まだキスをするには早すぎる気もしていたから、止めてくれたことには少しだけ感謝していた。 それに、せっかく未来から来て、いつ帰ってしまうか分からない娘と喧嘩をするようなことはしたくなかった。
「今日もハヤテ君はバイト?」
「うん。でもママってさ・・・」
アカリは話しづらそうに目を伏せた。ヒナギクはその動作だけで彼女が言おうとしていることが分かったが、あえて黙って次の言葉を待った。
「・・・やっぱり、岳さんと付き合う気はないの?」
そう、アカリはヒナギクを、ハヤテではなく岳と付き合わせようと考えていた。それがうまくいけば自分が消えてしまうかもしれないということを承知で。 しかし当然と言えば当然なのだが、いっこうに二人が付き合う様子は見られず、アカリも自分の考えに不安を持ち始めていた。
「岳さんのほうが、カッコいいし、頭もいいし、お金持ちだし、それに・・・絶対守ってくれるよ?」
まだ自身なさげに俯いているアカリを、ヒナギクはそっと抱きしめていた。不思議と怒りは湧かなかった。アカリの言った通り、岳はハヤテより、いや、どんな男よりも条件がいいだろうということはヒナギクも分かっていた。でも・・・
「・・・私がガウ君を好きなることはないし、ガウ君が私を好きになることもないわ。アカリだって、本当は分かっているんじゃない?」
アカリがヒナギクの腰に腕を回すのと同時に、ヒナギクがアカリを抱きしめている腕に力が入った。
「アカリは・・・幸せって何色だと思う? これは答えになっていないけど、私は人それぞれだと思うの。もしかしたら最初から決まっていて塗り替えることができないものなんだとも思う。だから・・・」
その瞬間アカリの脳裏にある光景がフラッシュバックした。それは自分の過去であり、これから起こるはずの未来。 今より大人になっているヒナギクが、今と同じように自分を抱きしめて、今と同じような言葉をかけてくる。
(ママが次に言う言葉はきっと・・・)
「私の幸せの色も・・・きっと決まっているの。」
第24話 『風は吹かずに花は揺れて』
お互い離れたあと、ヒナギクはバックの中から折りたたみ傘を取り出した。外は激しくはないものの雨が降っていて、傘なしに出歩くのは厳しかった。
「ほら、今日はアパートに遊びに行くんでしょ?早く入って。」
温かい・・・自分の母親の隣にいて、アカリは素直にそう思った。アカリが少しだけ近づこうとする前に、ヒナギクは濡れちゃうからとアカリの肩を抱いて自分のほうへ引き寄せた。
「ママ・・・。」
「ん?」
「ごめんなさい・・・。」
アパートには住人のほぼ全員がいて、ヒナギクは生徒会の用事があるからと歩たちにアカリを任せ、学校のほうに駆けていった。
「よ〜し、アカリちゃん。この歩お姉ちゃんが美味しい夕御飯を作ってあげよう。何がいい?」
「う〜ん、じゃあオムライス。」
「よし、それじゃ今日のご飯は決まりだな。」
アカリの答えに反応したのは歩ではなく千桜で、さっそく台所へ向かった彼女の後にアカリも手伝おうとついていった。
「ちょっ!私のことはスルー!?さすがにひどいんじゃないかな!かな!」
「まったく・・・、何を騒いでいますの?」
「聞いてよアリスちゃん!千桜が私をスルーしてアカリちゃんとご飯作りにいっちゃたんだよ!」
「いや、それが正しいと思いますが・・・。」
正直、料理ができるのかよく分からない人よりも、できると確定している人にまかせるほうが安心である。しかし歩はアテネが止めるのも聞かず、ふくれっ面のまま台所へ行ってしまった。
「・・・で、なんでこんなに人口密度が高いんだ?」
今、台所にはアカリ、千桜、歩、アテネ、そして何故かカユラとルカ、つまりアパートの住人が全員集合している。三千院家のように広い厨房ならともかく、彼女たちがいるのは台所だ。せまく感じないほうがおかしいだろう。
「てか、なんでルカとカユラがいるんだよ?さっきまでいなかっただろ。」
「私はアカリちゃんが来てるって知ったから。」
「面白そうだったから。」
千桜は二人の理由にため息をついた後、諦めて料理を始めることにした。しかし、いつのまにか材料が用意されていて、さらにはトントンとリズムよく野菜を切る音も聞こえてくる。千桜がふと横を見ると、既に必要な野菜を切り終えて次に肉を切ろうとしている、エプロンに身を包んだアカリがいた。
「あ、お姉ちゃんたちにはスープと和物をお願いしていいかな。」
「え?あ、うん。別に構わないけどさ・・・」
「?」
「オムライスも、私たちが作ろうか?」
アカリはおどおどしている千桜たちを見て、自分が何かやらかしたのかと考えていたので、それから大きく外れた問に少し呆気にとられてしまった。しかしアカリの方としては作ってもらうだけなのは少し申し訳ないと思ったから手伝っているだけなので、すぐに顔を戻すと、笑顔でせっかくの提案を断った。
「大丈夫だよ。私料理とか得意だから。」
その言葉で、アカリ、千桜の料理する組と、アテネ、カユラ、ルカ、歩の料理ができるのを待っている組に別れることになった。
「てか、歩って料理できたの?」
「う〜ん、あんまり。そういうルカもどうなのかな?」
「まぁ、私もできるわけじゃないけど・・・」
「「はぁ・・・」」
ルカと歩は台所から出た後、共同スペースで一緒にゴロ寝していた。ちなみにカユラは自室に戻り漫画を読んでいて、アテネは・・・
「年上としての威厳は台無しですわね。」
「ヒドい!!それはヒドいんじゃないかな!!」
「そうよ!私だってアイドルやってるんだから料理とかする暇ないもん!」
アテネはため息をつき、二人と同じように畳の上に仰向けになった。
「そういうアリスちゃんも料理できるかな?」
「私はまだ6歳ですから。」
「アカリちゃん7歳だけどね。」
「そ、それは言っちゃダメですわ!」
ルカの一言は勝ち誇っていたアテネの顔を赤く染めるのには十分だった。アテネはそのまま勢いよく上体を起こし、まだ上体すら起こしていない二人に言い訳を始めたが、聞いている二人はそれを軽く流すだけだった。
一方、料理組である千桜はアカリの手際の良さに舌を巻いていた。咲夜のメイドをしていることもあって料理などの家事はそこそこ自信があったが、アカリから味見を頼まれたときは正直驚いてしまった。
(この子、私よりうまい!!。)
「えっと、どうかな?」
身長差で上目遣いになったアカリに千桜は不覚にもときめいてしまい、それを隠そうとしたたが、逆に声が大きくなってしまった。
「う、うん!美味しい、すごく美味しいよ!」
「・・・なんだかよそよそしいけど、ホント?」
「ああ、ホントだって!それより、アカリちゃんはホントに料理が得意なんだな。」
動揺を隠すためでもあったが、それは正直な感想だった。その言葉にアカリはエッヘンと胸を張り、自慢気な顔をした後いたずらっぽく笑った。
「ママからたくさん教えてもらったからね。あとマリアお姉ちゃんからも。」
アカリの答えには納得できた。ヒナギクとマリアの二人から教えてもらえれば料理上手なのもうなずける。しかし、千桜には彼女の言い草に少し違和感を感じていた。
「あれ?綾崎君からは教えてもらってないのか?」
「・・・! お、お父さんは、その・・・」
アカリが表情を暗くして俯いたのに疑問をもったが、千桜はその続きを待った。しかしアカリが答える前に玄関のほうから別の声が聞こえ、その内容に自分が今していたことを忘れてしまった。
「あー!ナギちゃん!よかった〜、心配してたんだよ。」
「ハムスターに心配されることなど何もない!ところでハヤテはいるか?」
「えと、ハヤテ君は・・・」
歩たちはヒナギクから話を聞いていたが、ナギはよく事情を知らないようだ。ルカが少し話しづらくて言葉を探していると、その横を何かが猛スピードで走り抜け、そのままナギに抱きついた。その何かとは言わずもがなアカリである。
「ナギお姉〜ちゃん!!」
「わっ!な、なにいきなり抱きついてるのだ!てか誰だよ!」
「アカリちゃんって凄く人懐っこいよね・・・。」
「うん・・・。」
歩とルカは蚊帳の外で、アカリはしばらくナギとじゃれた後、息を切らしているナギに自己紹介をした。
「ナギお姉ちゃんもこっちじゃ初めましてだね。綾崎アカリです!よろしくね。」
「あ、綾崎?お前、ハヤテの妹か?いや、でもそれだったらヒナギクの妹にしか・・・。」
「私は未来から来たの。ヒナギクは私のママだよ。」
「へ?」
歩たちがそうであったようにナギもしばらく固まっていた。未来から来ただとか、ヒナギクの娘だとか、いろんなことが分からなくて、頭がパンクしそうだった。
「えっと、お前は未来から来て、ヒナギクがお前の母親で、名字が綾崎ってことはヒナギクとハヤテの・・・」
「うん。娘だよ。」
正直ナギはアカリの言ったことを信じきれなかった。ただ、彼女が言っていることが真実ならばハヤテは幸せになれたということで、自分の望みが叶ったことになる。
「じゃあ、ハヤテとヒナギクはちゃんと付き合っているんだな?」
それはナギ自身にとって辛いはずなのに、少しだけ心地よくも感じた。しかしその温もりも目の前の少女にすぐに奪われることになった。
「ママとお父さんは・・・付き合ってないよ。」
「は?」
「私が邪魔したの。私は・・・ママに、お父さんと付き合って欲しくない。」
さっきから想像できないほどアカリの声は暗く、俯いたまま上がらないその顔の表情も、きっと辛いものだろうと安易に想像できた。しかしナギにとってそれは問題ではなく、彼女の言った内容が気になって気になって仕方なかった。
「邪魔って・・・、お前は自分でハヤテとヒナギクは親だって言ったじゃないか!」
「そうだよ!でも・・・でも、お父さんはママと付き合っちゃいけないの!結婚したらいけないの!そうしたら・・・ママは幸せにはなれないの!」
気づけばお互いに大声で言い合っていて、あふれる感情をぶつけていた。
「ハヤテが自分の女を幸せにしないはずないだろ!なんでそんなことも分からないんだ!?」
「だって未来ではママは泣いてるもん!お父さんそれなのにどこにもいないんだよ!これって幸せにしているって言えるの!?」
「未来から未来からって!そんなの嘘なんじゃないのか?どうせ娘ってことも嘘で、ハヤテとヒナギクの仲をよく思わないやつからそうしろって言われたんだろ!?」
「・・・!!」
ナギが言った言葉は、ナギが思っている以上にアカリの心をえぐった。ナギも含めてみんな優しい人たちだと知っていたから自分のことを拒絶されるなんて思っていなかった。いや、アカリはそう考えるのやめていた。この時代が過去だと分かったときは不安でしかたなかった。認めてもらえないんじゃないかと怯えていた。ただヒナギクが信じてくれたから・・・そしてハヤテが真っ先に信じてくれたから、安心しきっていた。
「ち、違うよ・・・私、本当にママの娘だよ。ほら、歩お姉ちゃんたちからも何か言ってよ・・・。」
信じてもらえないのが、自分を認めてくれないのがここまで辛いとは思わなかった。ひきつった顔を動かして歩たちに助けを求めたが、彼女たちからも顔をそらされてしまった。
「な・・・んで?」
実のところ、歩たちはアカリのことを信じきれずにいた。未来から来たということも、ハヤテとヒナギクの娘ということも。それに、彼女たちが信じきれない大きな理由として、アカリがハヤテを好きではないということがあった。ハヤテの娘ならきっと父親のことが大好きな子に育つだろうというのが全員のイメージだったのだ。イメージや先入観は偏見につながり、それにナギの言葉が加わったのが今回の原因だった。
「私・・・私・・・!」
アカリは耐え切れずにアパートを飛び出した。雨は土砂降りになっていて、冬の寒さで痛い程に冷たくなったそれは容赦なくアカリを叩いてくる。まるでアカリを責め立てるように、そして蔑むように。
(ママ・・・!!ママ・・・!ママ・・・)
呼吸は荒くなり、心臓は悲鳴を上げ、さらには視界までも霞んできた。勢いのあった足の回りもだんだんと衰え、ついにはフラフラの状態でアカリは雨の中を歩いていた。
「うわっ!!」
小さな石につまずいて転んでしまった。跳ね上がった泥水が顔にかかり、口に入ったものは正直に苦いという感想を与えた。立ち上がろうとしても身体に力が入らない。
(頭痛いし、クラクラする・・・。身体の節々も痛いし・・・風邪、ひいちゃったのかな?)
誰かが通って助けてくれるわけでもなく、濡れた服はアカリの体温をどんどん奪っていく。このまま死んでしまうかと思うと悲しくて、寂しくて、涙がこぼれてきた。
(助けて・・・誰か助けて・・・!
ママ・・・!ママ・・・!ママ・・・!)
だんだんと意識が薄れていくのが分かった。重くなった瞼はアカリの意思を無視してゆっくり閉じていく。
(助けて・・・
パパ・・・)
そこでアカリの意識が完全に消えてしまったが、それと同時に一人の人間が彼女のもとに駆けつけた。その人間は濡れて冷たくなってしまったアカリを抱えあげると、自分の服をかぶせたあと、念のため息があることを確認した。
「よかった・・・。寝てるだけみたいだ。」
ほっとした感情をすぐにしまって、ハヤテは走りだした。早くアカリを助けたい、早く自分の娘に元気になってもらいたい、その一心で。
「ちょっとだけ我慢しててね。アカリ・・・。」
それこそ、疾風のごとく。
どうも、タッキーです。 自分で書いておいてアカリちゃんがかわいそうになってきたというのが今の心情です。まぁ、必要な話ではあったので飛ばすことはしませんでしたが。
最後のフレーズを使うのは二回目だったので少しためらったのですが、これしか思いうかばないし、これを使うだけでそれっぽくなるので(何も言わないで欲しい)使っちゃいました。
あと、アカリちゃんの料理スキルというか家事スキルはとても高いです。理由としては母親であるヒナギクさんの手伝いをしているのと、マリアさんから凄く気に入られているから、よく教えてもらっているというのがあります。マリアさんがアカリちゃんを気に入っているわけは、アカリちゃんが年相応に「お姉ちゃん」と呼んでくれることだったりしますね。なんだかんだ言ってそういうのに弱いんじゃないかというのが自分のイメージです。年上のお・ね・え・さ・んとして接してもらえることが。
それにしても、今回のアカリちゃんとナギが絡むシーンが少なかったような・・・でも、やりたいことはできたから・・・う〜ん・・・。ま、取り敢えずナギも悪気あったわけではなくて、せっかくハヤテとヒナギクさんのことを応援しようと努力したのに、アカリちゃんに台無しされた怒りからつい言ってしまったという感じですね。 ちなみに題名はナギとアカリちゃんを名前からイメージして考えました。凪というのは風がおさまった状態で、愛虹はもともとアイリスの花から思いついたので。
さて、次回はいよいよ・・・ と、盛り上げておいて普通にアカリちゃんの話です。彼女の心情の変化に注目してくれると嬉しいです。
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.40 ) |
- 日時: 2014/09/04 23:45
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
プロフィールにも載せましたが、アカリちゃんはオムライスが大好きです。実は彼女にとって、とても思い入れのある料理だったりするんですが、それは今回の冒頭の内容にもなってきます。 それでは・・・ 更新!
これはハヤテやヒナギクたちにとっては6年後、アカリにとっては5年前の話。アカリが生まれてからハヤテは仕事が忙しく、毎日家に帰るのは夜遅くなってからと、娘の世話を妻であるヒナギクに任せっきりの状態が続いていた。しかしそんな日々の中で、一日だけアカリと二人きりで過ごす日があった。
(仕事続きで全然世話してないとはいえ、実の娘にここまで避けられると傷つくんだけどな〜。)
ただ、アカリはドアに隠れてハヤテを初対面の人のように見ているだけで、全然なついてこなかった。それどころかハヤテが近づくとママー!と、出かけて家にはいない母親の名を呼んでまた別のドアに逃げてしまう。それでもドアごしに顔を半分だけ覗かせて自分のほうをじっと見てくるアカリが、ハヤテには可愛くて仕方がなかった。俗に言う親バカである。 しかしせっかくの休日を無駄にはしたくないので、ハヤテはもう一度近づいてみた。アカリはビクッと体を震わせたが、今度は逃げなかった。ハヤテはこれをチャンスとばかりに身をかがめ、まだ小さいアカリと同じ高さまで目線を合わせてから話しかけた。
「アカリ。今日はパパと遊ばないか?」
「パパと?・・・ママは?」
ハヤテはアカリにここまで好かれているヒナギクが正直羨ましかった。
「残念だけどママは出かけているから・・・ああ!泣かないで!いい子だから、ね!」
ハヤテはアカリが自分で目をこすろうとしたのを止めて、ハンカチを取り出してアカリの涙をそっと拭った。そして頭に手を置いて、優しくアカリの頭を撫でた。
「ヒナはいないけど、僕がいるから・・・だから、一緒に公園でも行こう。」
「こうえん・・・?」
まだ涙ぐんで尋ねてくるアカリにハヤテはうんうん、と顔を上下に振った。そしてアカリも同じように頷いたのを確認すると、彼女を抱きかかえて肩車の状態にした。最初はヒナギクと同じように高いところが苦手かもしれないと思ったが、肩車されてはしゃいでいるアカリを見ている限りその心配はなさそうだった。少し安心したハヤテはそのままアカリを肩に乗せて、玄関を出た。
(アカリってこんなに軽くて・・・温かいんだな・・・。)
自分の娘の体重や体温を感じるのは初めてではない。ハヤテがまだ17歳のころ、未来からきた7歳のアカリを抱え上げたことがあったし、彼女が実際に生まれあとも、少ない休みの日に抱きかかえることもあった。ただ、あらためて感じたのは想像よりもはるかに儚くて力強い存在だった。
ハヤテたちは遊具で遊ぶわけでもなく、ただ公園の道を歩いていた。紅葉の季節もとっくに終っていて、そんな味気ない景色を楽しむことさえもしなかったが、それでもアカリはなんだかずっと嬉しそうにしていた。
「パパはなんでいつもおウチにいないの?」
「お仕事がたくさんあるからね。僕がいなくて寂しい?」
「ママがいるからあんまり。」
「そ、そう・・・。」
予想はしていたとはいえ、まだ2歳の娘からそう言われると父親としては泣きたくなってくる。アカリがまだ懐いていなかったら、ハヤテの心は完全に折れていただろう。
「ねぇ、パパ?」
「ん?どうした?」
「おなかすいた・・・。」
気づけばもう12時を回っていた。外出したのが11時ごろだったので、なんだかんだで1時間以上も歩き続けていたらしい。ハヤテはニコリと微笑むと、すぐに踵を返して自宅のほうへ、アカリを落とさないように駆けていった。アカリは怖がるどころか逆に楽しんでいたので、ハヤテはついスピードを上げてしまい、家についたときには息が上がっているのをアカリに心配されてしまった。
「えっと、アカリは何を食べたい?」
「おいしいもの!」
そりゃそうだろ、とハヤテは内心思いながら娘の期待に答えるべく、腕によりをかけて取り敢えずオムライスを作ってみた。
「これな〜に?」
「へ〜、アカリはオムライス食べるの初めてなんだ。」
「オムライス?」
しばらく眺めていたあと、アカリはスプーンを突き刺したがぼろぼろと崩れてしまい、上手く口まで運ぶことができなかった。それを見たハヤテは自分のスプーンで上手に切り取り、一口サイズになったオムライスを手を添えてアカリの口元まで持っていってあげた。
「はい、あ〜んして。」
「・・・あ〜ん。」
アカリは自分でできなかったことが面白くないのか少しブスっとしていたが、ハヤテに促されるままに口を開き、そのまま口に入ってきた卵のふわふわした感触と、それによくマッチしているチキンライスのコクのある風味を堪能した。
「おいしい!!」
「ホント!?よかった。」
それからアカリはがっつくようにハヤテの作ったオムライスをたいらげ、さらにはおかわりまでしてきた。アカリの食いっぷりに気をよくしたハヤテが自分の分を食べるのも忘れてずっとアカリのことを見ていると、アカリはなにか勘違いしたのか、今度は自分でオムライスを切り取ってハヤテの方に差し出してきた。
「はい。パパもあ〜ん。」
キュン・・・!
正直にハヤテの思ったことを述べるなら、死んでもいい、だった。ただでさえ自分の大好きな妻に似ている愛娘が、無邪気な笑顔であ〜んをしてくる。ハヤテはこれが自分のような父親や、どこぞの特別な性癖をもっている人でなくとも同じ感想を抱いたに違いないと思った。しかし食べてくれないせいかアカリが泣きそうになっているのに気づき、ハヤテは急いでスプーンをくわえてから必死に笑顔を作った。
「おいし?」
「うん!すごく美味しいよ。」
親子にしては甘すぎる昼食のあと、アカリはお腹いっぱいになって寝てしまった。ソファに横になっていたアカリをベッドに運び、布団をかけたあと、ハヤテはしばらく娘の寝顔を眺めていた。
(小さい頃のヒナってこんな感じだったのかな?それにしても、僕ってアカリのことほとんど知らなかったんだな・・・。)
今の仕事にもやっと終りが見えてきた。あと一年近くはかかるだろうが・・・。それでも、それが終わったあとはもっと自分の娘のことを知れる、そして家族三人でいられる時間が増える、そう考えると俄然やる気が出てきた。
「ヒナのためにも・・・、アカリのためにも・・・、頑張らなくっちゃな。」
呟きながら娘の頭をなでると、アカリはくすぐったそうに寝返りをうった。それに微笑みながら、ハヤテは再び呟いて、部屋を出て行った。
「おやすみ・・・。アカリ。」
これは現在のハヤテたちにとって6年後、未来のアカリにとっては5年前の、ある一日の話。そして現在のように、アカリの心がハヤテを拒むきっかけとなる事件が起こるのは、これから一年後、アカリの4歳の誕生日前の話。
第25話 『父娘』
(久しぶりに見たな・・・。昔の夢・・・。)
目を覚ますと私を包んでいるのはふかふかしてて温かい感触。あ、でもまだ頭がクラクラするし、体も重い。え〜と、私はアパートを飛び出してから転んで、いつひいたか分からない風邪で立つことができなくて・・・今、布団で寝ている。
「お、目が覚めたんだね。よかった。」
「あ、パパ・・・」
「え?」
「い、いや!違うの!お願いだから忘れてー!!」
わ、私なんでお父さんのこと「パパ」って・・・・ゆ、夢のせい!さっき昔の夢なんか見てたから流れで呼んじゃったんだ。うん、そうに違いない!だいたい夢の中の人が本当にお父さんかなんて覚えてないし・・・まぁ、思いっきり「パパ」って呼んじゃってたけど。 それにしても恥ずかしい。きっとお父さんは布団に隠れた私を見てニヤニヤしているに違いない。
「アカリ?」
「なに・・・?」
「いや、具合は大丈夫かな〜って。なにがあったかは聞くはないけど、無理はしちゃダメだよ。」
あれ?なんでホッとしてるんだろう?
「笑わないの?」
「え?なんで?」
「だ、だから、さっき私がお父さんのことを・・・ぱ、パパって呼んだこと。」
お父さんはなんで意外そうな顔をするんだろう?いつもと呼び方が変わったら普通気になると思うのに、これっぽっちもそんな顔してない。
「まぁ、ヒナギクさんをママって呼ぶみたいに僕のこともパパって呼んでくれたら嬉しいけど・・・アカリ、僕のことそんなに好きじゃないんでしょ?」
「う、うん。好きじゃない。」
「はは・・・。そこまでストレートに言われると・・・。」
なんでだろう?お父さんが苦笑いしているのを見てるとなんだかモヤモヤする。お父さんの質問に答えたときは、もっと・・・
「アカリ?どうしたの?」
「へ!?い、いや、なんでもないよ。それよりお腹すいちゃった。晩御飯作ってる途中だったから。」
「それじゃ、ちょっと遅いけど作るよ。おかゆとかの方がいい?」
「あ、別にのどは痛くないから、できればオムライスが食べたい・・・かな。」
「了解。ちょっと待ってて。」
なんか自分でも驚くくらい素直に話しているというか、優しくしてくれるのが嬉しいというか・・・。風邪で人恋しくなってるだけだよね、きっと。 そういえばお父さんって、まだバイトなんじゃなかったっけ?終わって帰ってきてもすぐ次のバイトに行っちゃうし、お休みなのかな?もしかしたら私のために休んでたりするのかな?迷惑かけるの、嫌だな・・・。
「お待たせ。はい、あ〜んして。」
「!!」
同じだ。私の過去と・・・そのまんま。 なんでだろ?お父さんが心配そうな顔してる。ああ、私が食べないからか。まったく、これだけせかしておいて味がイマイチだったらダメ出ししてやるんだから。
「あ〜ん。」
「あ、アカリ・・・!?」
あれ?なんで、私泣いてるんだっけ?なんで、涙が止まらないんだっけ?
「ご、ごめん!なんか変なもの入ってた!?もしくは味がいけなかったとか!?と、とにかく水持ってくるから!」
気づけばお父さんの裾を握って引き止めていた。まだ涙は止まらないけど、それでも伝えないといけないと思った。
「ちがうの。おいしいの。おいしい・・・よう・・・。」
ダメだ。やっぱり泣きながらだと上手く話せないや。でも、同じだったから。あの日、初めてパパの料理と変わらなかったから。 私はそのあと抱きしめられた。お父さんは何もいわないで、ただ優しく、ただ温かく・・・。もう、涙が止まらなかった。
「う、うぅぅ!あぁぁぁぁぁああああ!!ごめんなさい!ごめんなさい。お父さんのこと悪く言ってごめんなさい!ママとの仲を邪魔してごめんなさい!ママを不幸にするなんて言ってごめんなさい!大嫌いなんて言って、ごめん・・・なさい・・・。」
私、さっきからごめんなさいしか言ってない。でもそんな私をお父さんは笑いながら、優しく抱きしめてくれる。
「アカリはヒナギクさんに・・・ママに幸せになって欲しくて頑張ってたんだよね?だったらそれは凄く立派なことだよ。今の僕なんかよりもずっと、ずっと・・・。 アカリの言った通り、未来の僕はヒナギクさんも、アカリのことも幸せにできていないのかもしれない。でも、僕のこと、信じてあげてくれないかな?説得力がないかもしれないけど、僕は好きな人を絶対に裏切るようなことはしない。それが妻と娘だったらなおさら。 だから待ってて。絶対に戻ってくるから。家族・・・だからね。」
なんで目を背けてたんだろう?本当は気づいていたはずなのに、分かっていたはずなのに。こんなに優しいお父さんがママを不幸にするわけない。家族を捨てるなんてありえない。なのに、私は・・・。 ママの相手がお父さんじゃなきゃダメだってことも分かってた。そして・・・
「過去でも、未来でも、どんな時だってアカリは僕の・・・大切な娘だよ。」
私のパパは、この人しかいないってことも。
あの後泣き止んでからきちんと晩御飯を食べて、私は眠ってしまった。つまり今は朝、それも5時半という早朝で、私、綾崎アカリは寝起きということだ。 隣には・・・よし、眠ってる。寝顔だけ見てるとホント女の子みたいだと思う。 おっと、そういえば今日から新しく始めることがあるんだった。取り敢えずいつものリボンをもって鏡の前に立って・・・えっと、後ろ髪を全部束ねてリボンで結べばいいんだよね?あれ?なかなか上手くいかない。・・・お、できたできた。これ見たら驚くだろうな〜。ちょっと楽しみ。 前の髪型も好きだったけど、結局ママっぽくなるために後ろまでは結んでなかっただけだし、もう私にはママだけってわけじゃないから・・・それの表れってことで。いやぁ〜、なかなかいいアイデアだと思う。我ながら。 そうそう、朝御飯も作るんだった。えっと、簡単にトーストと目玉焼きでいいよね?
ガタン
お、起きてきた。
「おはようアカリ。なんか早いね・・・って、どうしたの!?その髪型。」
お〜、やっぱり驚いてる。なんかこういうの嬉しいかも。
「えへ。前からやってみたかったんだけど、どうかな?ポニーテール。」
そう、私は昨日まで横髪だけ結んでサイドテールだったのを、同じ位置で後ろ髪まで結んで、ポニーテールにしている。鏡を見たかぎりでは結構イケルと思ったんだけど、おかしかったかな? でも、私のそんな考えに反して笑ってくれるこの人って、本当に優しくていい人だと思う。
「すごく・・・すごく似合ってるよ。とても可愛いと思う。」
「うん!ありがと。朝御飯できてるから座って。ああ、そうそう・・・」
「?」
ママに幸せになって欲しいのは変わらないけど、それにちょっとだけ付け加え。 だからそのスタートは最高の笑顔で言うんだ。
「おはよう!
・・・パパ!」
ママとパパと、それから私も、家族みんなが幸せになれますように!
アカリちゃんいい子やぁ〜!!! と、自分の作品のオリキャラなのに、そんなことを考えております。
それにしてもアカリちゃんがオムライスを好きな理由、伝わったでしょうか?母親の味ならぬ父親の味って感じですね。 アカリちゃんのポニーテールについてはのちのちイラストを載せたいと思います。まぁ、これといって変わったというわけではないのですが。ただ、当初は髪型を変える予定はなかったんですが、こういうのもアリかな〜と。これからのアカリちゃんにはポニテで元気にやってもらう予定です。 ということで突然ですが、アカリちゃんのプロフィール(2)です。
綾崎 愛虹(アカリ)
誕生日 12月12日
身長 133.2cm
体重 29.7kg
年齢 7歳
血液型 O型
家族構成 父(ハヤテ)
母(ヒナギク)
好き、得意 パパ,ママ,オムライス,勉強,運動(剣道)
嫌い、苦手 暗い場所,お化け
ぶっちゃけ、嫌い、苦手の部分から「お父さん」が抜けて、好き、得意のところに「パパ」が入っただけです。ただ、このときにはもうファザコンです、はい。普通にハヤテ大好きっ子です。いや〜、実の娘までも落とすとかホントにハヤテはしょうがないヤツですよ。ま、これは最初っからこうするつもりだったんですけどね。 ちなみに暗い場所やお化けが苦手なのは未来のほうでナギからいろいろ吹き込まれたのが原因という設定です。ただ、ナギからいろいろ吹き込まれている=アニメとかは大好き、という感じでもあります。上に書き忘れましたが。
さて、冒頭の最後の部分の話は別スレでやるつもりなのでスルーとして、次回からは岳君のお話です。これは個人的にやりたいことなので、ハヤヒナどころかハヤテにすら少しかすってるぐらいの話です。最初に謝っときます。すいません。 取り敢えず彼の正体や、三人目のオリキャラが出てきます。まぁ、オリキャラが出てくるのはそのまた次の回なのですが。
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.41 ) |
- 日時: 2014/09/05 10:55
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
いよいよアッカリーンがデレてくれました。ぃやったぁああああ! チビッ子というのはすべからく良いモノでございますね、ウェヒヒヒ…いかんのか? 改めてプロフィールを見てみると…身長はナギと大差無いですね。とってもおっきいですね♂
両親からの愛情を知らないハヤテだからこそ、自分の子供には注意深く愛情を注いでくれる事と信じています。まして、その大事さを知っているヒナが隣にいるのならなおさらですね。 アカリちゃんはきっと良い子に育ってくれる事でしょう。 最後に親子3人仲良く接するお話が見たいところです。
ところで、どこぞの特別な性癖をもっている人とは誰の事でしょう?うーん、これは皆目見当もつかない謎ですね。
そんなこんなで失礼致しました 次回も期待してます。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.42 ) |
- 日時: 2014/09/05 14:22
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
ロッキー・ラックーンさん感想ありがとうございます。相変わらずの・・・い、いや!なんでもないですよ!
たしかにアカリちゃんは大きいですが(♂じゃないですよ?)、ナギがちっちゃいことにも原因があるんじゃないかと・・・。身長のほうは今までの成長が早いだけで、高校ぐらいになると平均よりちょっと高いぐらいになる予定です。
自分もハヤテとヒナさんには、絶対に子供を大切するイメージ、いや、確信があります。この二人の間に生まれたアカリちゃんはとても幸せものですよ。ご期待通り家族三人仲良くしている話は書く予定です。もう、幸せオーラ全開のほわっほわな話にしてやりますよ、はい!
ま、特別な性癖を持っている人に関しては他意があったわけではないですよ。別に誰かをイメージしたということはこれっぽっちもありませんし、たとえそうだとしても同級生のことですよ。違う学科にたくさんいるので。
次回からの話はぶっちゃけハヤヒナじゃないので、あまり期待されるのはちょっと・・・という感じです。もう別のサイトで書けよみたいな話なので、自信はあまりないです。 とりあえず温かく見守ってくれたらそれで十分なので、よろしくお願いします。
それでは。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.43 ) |
- 日時: 2014/09/06 15:36
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
さて、今回はハヤテとヒナさんがくっつく前にやらなくてはいけないこと、というよりやりたいことですね。あと、今回から作品の傾向の部分に原作謎妄想を付け加えようと思います。できるだけ矛盾がないようにするつもりですが、上手く書けていない部分はスルーしてくれるとありがたいです。 それでは・・・ 更新!
11月20日、朝ハヤテが起床したのを見計らったかのように彼の携帯に着信が入った。隣でまだ寝息を立てているアカリを起こさないように布団をでて、電話の主を確認すると、まだ少し寝ぼけていたハヤテの頭は完全に覚醒した。ハヤテはすぐさま通話のアイコンに触れ、携帯を耳にあてた。
「もしもし、綾崎ですけど。」
〈咲夜!つながった!つながったわよ!〉
〈いや、それが普通やっちゅうねん。それより早く用件言ったほうがええんちゃう?〉
「えっと、伊澄さん?」
出鼻をくじかれたハヤテが少し戸惑いながら呼ぶと、伊澄はのんきに挨拶をしてきた。
〈ああ、おはようございます。ハヤテ様。〉
「お、おはようございます。あの〜仕事、ですか?」
ハヤテがそう尋ねた後の伊澄の声は真剣だった。その声にハヤテは自分の身が引き締まるのを感じた。
〈ええ、この近くで何か特別な気配を感じました。詳細は私にも、大おばあ様にも分かりませんでした。ただ、そこらの怨霊悪鬼、さらには英霊よりも遥かに強い力を持っていることは確実です。そしてこちらを誘っているということも・・・多分〉
伊澄がここまで警戒するほどの相手。ハヤテはその正体が気になる前に恐怖を感じた。しかしこうなることは覚悟していた。ヒナギクのために命を賭けることなんて当たり前すぎて、そこで悩む時間は正真正銘のゼロだった。
「場所は・・・どこなんですか?」
〈白皇の時計塔・・・ガーデンゲートです。〉
ハヤテは少しだけホッとした。今日は日曜日、つまりほとんどの生徒がいないのだ。しかし、ハヤテはそれと同時に不安も抱いていた。ほとんどの生徒はいない、しかし白皇には休日でも当たり前のように学校に行っている生徒がいる。特にヒナギクは確実に白皇、それも生徒会室にいるだろう。もし巻き込んでしまったら?それ以前に彼女に会わせる顔があるのか?そんな考えでいっぱいだった。
〈ハヤテ様・・・いけますか?〉
ハヤテは空いた手で強く拳を作った。
「・・・もちろん、いきます。」
〈分かりました。それでは準備が整ってからでいいので、できるだけ早く学校に来てください。それでは。〉
電話が切れると同時にアカリが起きてきて、まだ眠たそうな目をこすりながら少し寂しそうに尋ねてきた。
「パパ、どこか出かけちゃうの?」
「あ、うん。ちょっとね。」
するとアカリは心配したような顔をして、また尋ねてきた。
「帰ってくるよね?」
「!!」
アカリは彼女なりに嫌な予感を感じ取っていた。それだけではない、今のアカリはハヤテがいなくなってしまうことが何よりも怖かった。
「大丈夫だよ・・・。」
ハヤテは微笑みながら、泣きそうになっているアカリのほほにそっと触れた。命を賭ける、そんなたいそうなことを誓ったが死んでやるつもりは毛頭なかった。それはアカリやヒナギクがいるから。ハヤテが彼女たちを守るためにはまず生きていなければいけない。だから・・・
「必ず帰ってくるよ。僕は絶対にアカリたちをおいていったりはしない。だから・・・待ってて。」
アカリはハヤテの言葉に難しかった表情を緩めた。もう疑うことはやめた。やっと信じることを始めることができた。だから・・・
「うん、待ってる!お昼作っとくから早く帰ってこなきゃダメだよ。」
「・・・ありがと。」
その後、ハヤテは急いで準備を始めた。といっても特に持っていく物もなかったのですぐに終り、そしてアカリに見送られて玄関を出たところでふいに話かけられた。
「よう。いつの間にかアカリちゃんと仲良くなってるみたいで驚いたぜ。」
「あ、岳さん。おはようございます。」
「おはよう。」
岳はハヤテが外出することには何もふれず、ただ笑ってハヤテを応援してくれた。
「頑張れよ!」
「はい!」
ハヤテが走っていったあと、岳は玄関のドアを開けず、そのまま寄りかかった。もう眩しくなってきた太陽の光を手で遮り、大きくため息をついた。
「寄り道するつもりはなかったんだけどな・・・。まぁ、アイツらはこれくらいしないと動かないだろうし、丁度いいか。」
岳がドアから身を離すと同時に雲が太陽を覆い隠し、その影は岳の家を含め、広い範囲を包み込んだ。岳は空を見上げ、見えないはずの太陽のほうに目を向けたあと、ハヤテが向かった方向と同じ方向に歩き出した。
「いよいよ今日か・・・。 ま、もしかしたら他の方法もあったかもしれないし、もっといい方法があったかもしれない。それだったら、また二人でずっと一緒にいられたのかもしれないな。でも、この方法しか思いつかなかったんだ。許してくれとは言わない。ただ・・・ごめん。 ごめんな・・・
レナ・・・。」
第26話 『神様が居た城』
カポーン
そんな効果音が聞こえてきそうな白皇の時計塔の中にある大浴場にハヤテは入っていた。
(あれ?僕こんなところで何してるんだっけ?)
それはほんの10分ほど前の話。ハヤテは白皇についてから意外と早く伊澄と合流した。もちろん咲夜が連れてきてくれたおかげなのだが、そのまま時計塔に向かう前に伊澄があることに気づいた。
「おかしいですね。」
「え、何がですが?」
「気配がなくなっています。」
「え!?それじゃ、別の場所に移動したっちゅうことかいな?」
咲夜の考えはもっともだったが、それに伊澄は首を左右に振った。
「いえ、あれだけ大きなものは簡単に移動できないはずです。おそらくカモフラージュでもしているのでしょう。」
「そうですか。とにかく急ぎ・・・うわっ!!」
走りだそうとしたハヤテだったが、どこからともなく飛んできた野球ボールが後頭部にジャストヒットしたあげく、それでバランスを崩し倒れた先には昨日の雨でできた水溜りと、計算されたとしか思えない茶番を披露した。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?ハヤテ様。」
「まったく・・・、どんだけ不幸やねん。取り敢えずシャワーでも浴びて着替えでもしたほうがいいんちゃう?」
「あ、あははは・・・」
オロオロとして心配してくる伊澄とは裏腹に呆れている咲夜に苦笑いを浮かべ、ハヤテは取り敢えず彼女の提案をのむことにした。伊澄によるとあまり急ぐ必要はなく、念のため先に様子見てくるからゆっくりして構わないらしい。バイト続きでさすがに疲れていたため、ハヤテはその言葉にも甘えることにした。
ハヤテはまず誰かいないかを確認してから服を脱ぎ、汚れた部分だけをさっと洗って風通しの良い場所に干したあと、あらためて大浴場に入った。今日は日曜で、前のようなことが起こるのはほぼありえないだろう。ハヤテは思いっきりリラックスして湯船に体を沈めた。お金をかけているだけあってそれなりの効能があるのか、体の疲れがどんどん取れていくような気がした。しかし、それを邪魔するかのようにドアが開かれる音が聞こえ、さらにはパサッとタオルが落ちる音まで聞こえた。
「は、ハヤテ君!?」
「へ?」
しつこいようだが、先程のようにハヤテは不幸体質なのである。たとえ時計塔に人が少なくて、その中から風呂に入りにくる生徒に出会うというさらに確率の低い現象でも、遭遇してしまう男なのである。しかも、これは不幸かどうかは定かではないが、驚いて振り返ってしまったときにハヤテは目にしてしまった。こんな時間に何故か風呂に入ってきた少女、桂ヒナギクの一糸まとわぬ姿を。
「う、うわぁああああ!!!な、なんでいるんですかヒナギクさん!!」
「そ、それより早くあっち向いてよ!!!」
「す、すいません!すいません!」
執事をやっている時は仕事スイッチが入っていたり、まだ彼女のことを意識していなかったりで取り敢えずは平気だったが、今はそれとは全く逆の状況なので、どう頑張ってもヒナギクを意識しないなんてことはできなかった。 ヒナギクのほうも恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、耳まで真っ赤にしているハヤテを見てなんだか嬉しい気持ちにもなった。今までそういう素振りが全然なかったのだから当然といえば当然である。
「ねぇ、ハヤテ君?私も・・・お風呂に入っていいかしら?」
「ふぇ!?ど、どうぞ!僕のことはお構いなく!」
「そ、それじゃ、お邪魔します・・・。」
そしてヒナギクにはあと一つ、別の感情が生まれていた。もっとハヤテに近づきたい、そしてもう離れたくない。そんな感情が・・・。 しかし同じ湯船に浸かっているとそんな思考は緊張は打ち消されてしまい、どちらも全く話さずただ俯いてるだけになってしまった。
(ヒナギクさん、喋らないけど・・・怒ってるのかな?)
ヒナギクは本当に一切話さなかった。数分が経ち、さすがに耐え切らなくなったハヤテが何か話そうとすると、自分の背中にヒタリとなにかすべすべしていて温かい感触を感じた。ヒナギクの背中だ。
「ひ、ヒナギクさん!?な、何やって・・・って、うわ!のぼせてる!」
脳を無理やり仕事モードに切り替え、火照ったヒナギクの体を抱き上げてから脱衣所まで運んだあと、できるだけ見ないようにして体を拭き、脱衣所にあらかはじめ用意されていた浴衣を着せた。しかしこの時点でハヤテのライフは既にゼロだったのに、ヒナギクが寝言で艶っぽくハヤテの名前を呼ぶから、ハヤテの体力と、さらには理性も限界に近づいていた。 ただ、ハヤテを現実に引き戻したのもヒナギクの声だった。
「ハヤテ君・・・行かないで・・・。」
「・・・!!」
ハヤテは思わずヒナギクから顔を逸らしてしまった。しかし自分がアカリに言った言葉を思い出し、覚悟を決め、再びヒナギクの顔を見た。まだ不安そうにうなされているその顔に触れ、ハヤテは静かに語りかけた。
「ごめんなさい、今はヒナギクさんの隣にはいれません。そんな資格すら僕にはありません。だけど絶対戻ってきます。今の問題を絶対に解決します。時間はかかるかもしれません。何年も会えないかもしれません。でも、ヒナギクさんがもし僕のことをずっと想ってくれるのなら、絶対に帰ってきます。だから・・・待っていてください。」
そう言うとハヤテは立ち上がった。そう決まればモタモタしていられない。しかし脱衣所の出口に体を向けた時に気づいてしまった。伊澄たちがいることに、つまり、聞かれていたことに・・・。
「あんなことを素で言えるから天然ジゴロなんやろうな。」
「そうね、あの厄介な体質に何人の女性が巻き込まれたことか。」
「ちょ、ちょっと何言ってるんですか!?さっきのはだから・・・その・・・えっと・・・。」
上手い言い訳が見つからずに赤くなってモジモジしているハヤテに、伊澄と咲夜は少しときめいてしまった。またイジリたくなってきたが、それは状況的に無理な話となる。上のほうからはっきりと気配が伝わってきたのだ。伊澄だけでなく、ハヤテと咲夜にまで。
「急ぎましょう!」
「で、でもさっき見たときは何もなかったで!伊澄さんもそう言ってたやないか。」
廊下走りながら疑問をぶつける咲夜に伊澄は正しく答えることができなかった。いや、答えすら見つけられなかった。
「分かりません。ただ今回の相手は一筋縄ではいかないようです。」
ハヤテにはそんな彼女たちの会話は耳に入ってこなかった。ハヤテはさっき感じた気配がなんなのか知っていた。思い出したのほうが正しいのだろうが、今はそれは問題ではない。あれは・・・
(ロイヤル・ガーデン!!)
ハヤテたちは最上階にある生徒会室に向かっていたが、そこについても何もないどころか誰もいなかった。しかし自分たちが今感じている気配は確かにここから出ている。ここに何かがあることは確実だった。
「ちょっと、これは何なの!?」
「ヒナギクさん!?なんでここに?」
「なんでって、それよりさっきから感じるこの妙な気配は何なの?この部屋から出ているみたいだけど・・・。」
ヒナギクは制服に着替え、さらには白桜も手にして戦闘準備は万全という感じだった。これでは埒があかないので、ハヤテは取り敢えず一番詳しいはずの伊澄に尋ねることにした。しかし振り返ったその先に彼女の姿はなく、咲夜でさえ姿を消していた。
「い、伊澄さん!?咲夜さん!?」
「は、ハヤテ君、下!」
ヒナギクの声に従ってハヤテが下を見てみるとそこに床はなく、変わりに円状の水面に変わっていた。
「こ、これは・・・」
ハヤテたちは言葉を発する前にその水の中へと沈んでいった。誰もいなくなった水面には石を投げ込んだような小さい水しぶきと、それによって出来た波紋が広がっていった。
水の中に落ちたはずなのに、ハヤテは全く濡れていなかった。気づくと大理石でできているような床の上にいた。状況をよく飲み込めなかったが、真っ先に頭をよぎったのは一緒に水のなかに飲み込まれたヒナギクのことだった。
「ヒナギクさん!?大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よ。それより・・・ここは?」
思っていたより近くにいたことに安堵しながら、彼女の質問に答えるために辺りを見渡した。ただ、後ろにある物によって悪い予感が確信に変わったことにハヤテの声は小さくなってしまった。
「天球の鏡・・・。」
「え?なに・・・?」
その時自分たち以外の足音が聞こえ、二人は身構えたが、その必要はなかった。
「ここは世界の中心・・・カルワリオの丘にたつ神様が棲むという城・・・
王族の庭城〔ロイヤル・ガーデン〕・・・・ですよね?ハヤテ様。」
「はい・・・。」
「ハヤテ君、ここ知ってるの?」
ヒナギクの問いかけにハヤテは小さく頷いた。そして自分の過去にあったことを全て打ち明けた。アテネのことも、自分のことも、知っていることは全部・・・。
「今のハヤテの話やったら、その王玉っちゅう石が必要なんやろ?ウチも伊澄さんも持っとらんし、ハヤテも会長さんも持ってないってことは、ウチらはどうやってここに入ったん?」
ハヤテの話を聞いて最初に疑問を口にしたのは咲夜だった。彼女の言葉にハヤテとヒナギクは頭を抱えていたが伊澄はある仮説を唱えた。
「おそらく誰かが私たちより先にここに入っていて、そして私たちが入ってこれるように道を開けたままにしていたんでしょう。ここが大おばあ様に聞いた話や私が調べた内容通りなら信じられない話ですが、そうしないとつじつまがあいません。」
ただ、ハヤテはもう一つの疑問を持っていた。伊澄の話が正しかったとしても、この世界と外の世界をつなぐ出入り口は決してこの部屋ではない。ハヤテやイクサがそうであったように、道は柱の森の向こう側にあったはずなのだ。
「まずはこの城から出ましょう。ハヤテ様、案内をお願いできますか?」
伊澄の声に我に返ったハヤテは再び小さく頷いた。
「はい・・・。」
ハヤテは自分の想像以上にこの城のことを覚えていた。10年経っていても全く迷うことなく城を出て、あの綺麗すぎる庭についた。
「すごい・・・。」
「絶景・・・やな。」
その光景に咲夜とヒナギクは見とれていたが、伊澄は城を出たときからある一点だけを見ていた。それは丘の下にあり、365本の柱が並び立つアブラクサスの柱の森、そしてその中心に立っている一つの人影。
「行きましょう。」
四人が丘を下りて最初に目に入ったのはさっきの人影ではなく、倒れている少女だった。
「ナギ!」「お嬢様!」
ハヤテはすぐ彼女のもとへ駆けつけて、抱き上げた。寝ているだけのようだったがとても辛そうな顔をしていた。
「ハヤテ君、ナギは大丈夫なの?」
「寝ているだけだ。それにハヤテが触れているのはナギちゃんの意識だから身体的な外傷は全くない。ま、本体のほうも外傷なんてないんだがな。」
ハヤテの代わりに答えたのは伊澄がさっき見た人影。
「あなたの仕業なんですか・・・?
岳さん・・・。」
岳はニコリと笑ったままだった。
「まぁ、俺の仕業ではあるが、きっかけを作ってくれたのはお前だぞ?ハヤテ。」
「ガウ君!どうしてこんなこと・・・!!」
全員から睨みつけられても岳は全く動じる様子がなかったが、彼は笑顔をすまなさそうな顔に変えてヒナギクに、そして全員に謝った。
「ごめんな。ナギちゃんにはホントに悪いことをしたと思ってる。ただ・・・俺が間違っているとは思ってないけどな。」
その言葉で伊澄の中で何かが切れた。いくら謝ったとはいえ、大切な人を傷つけられて、それを間違ったことではないと言い放たれて無性に腹がたった。
「生徒会長さん、ハヤテ様、下がってください。」
咲夜がまず感じたことは率直にヤバイだった。急いでハヤテとヒナギクを下がらせ、安全と思われる場所まで連れて行った。
「岳さま、単刀直入に聞きます。あなたにはこれ以上ナギを傷つける気がありますか?そして、何をするおつもりなんですか?」
伊澄の殺気のこもった目にハヤテたちは鳥肌が立つほどだったが、岳は平然と、それがなんでもないかのように笑っていた。
「あんまり怖い顔してると可愛い顔が台無しだぞ?まぁ、これ以上ナギちゃんを使う気はないし、これ以上何かをする気もない。もうやることはやってしまったからな。」
「そうですか・・・。仕方ありませんね。」
伊澄は札を取り出し、それを高く掲げたあと、勢いよく両腕を振った。そして彼女が再び手を掲げると同時に無数の社が立ち並び、巨大な円を作った。
「ちょっ!?伊澄さん相手を殺す気かいな!?」
「死にたくないのならば、それを戻す方法を教えなさい。」
殺す気だった。しかしその言葉に岳は大きくため息をついた。伊澄そのあと顔を上げた岳の目を見て、思わず術を解いてしまいそうになった。何も映っていないただ真っ暗のその瞳を見ていると、足が震え、腕から力が抜けそになり、頭の中が恐怖でいっぱいになった。
「テメェらみたいなガキに変えられる程、チャチいことじゃねェんだよ・・・。」
伊澄はそれでも何とか体制を持ち直し、岳の言葉で自分がやるべきことを決定した。雑念を振り払い、力の抜けかかった腕に再び力を入れ、足が震えないように地面を踏みしめた。
「術式・八葉-------上巻!!!」
彼女が腕を振り下ろすと、社で作られた円の中から巨大な龍が飛び出し、術式・八葉の奥義であるそれはただ無慈悲に、ただ目標を破壊するために、大地を揺るがすほどの咆哮をあげ、召喚主の敵に向かって猛スピードで襲いかかった。
「神世七夜!!!!!!」
伊澄がいきなりこの技を出したのはナギを傷つけられた怒りからでも、見下されたことへの対抗心からでもない。出し惜しみをしていてはやられる、そのことを本能的に感じ取っていたから。 ただ、彼女はまだ気づいていなかった。これは危うい勝負、勝てない勝負、その前提が最初から存在していないことに。勝負にすらならない、の前に、戦ってはいけない、の前に・・・ 戦うことすら、拳を振り上げることすら、睨みつけることすら、そして・・・
彼に対する感情を持つことすら、最初からできていないことに・・・
岳は動かなかった。しかし神世七夜は彼に当たらなかった。伊澄が外したわけでも岳が何かしらの術で外させたわけでもない。
「な、なん・・で?」
止まったのだ。巨大な龍は岳の目の前で静止し、伊澄の命令に一切従おうとはしなかった。それどころか・・・
「全く、俺が別の目的で動いてたらどうなっていたか・・・。」
呆れた声を出して岳が龍に触れようとした瞬間、龍が暴れ出した。まるで怯えているかのように、そんな感情が存在するはずのないのに、恐怖を抱いているかのように。
(マズイ・・・!!)
目的を見失った龍はただ暴れまわり、伊澄の制御を無視して違う方向へ突っ込んでいった。それは運悪く咲夜たちが逃げた方向。伊澄は想像しなかった自体にパニックになってしまい、反応が遅れてしまった。
(間に合わない!このままじゃ・・・!!)
ハヤテはヒナギクたちを守ろうと彼女たちの前に立ち、彼の後ろにいるヒナギクたちはどうしていいか分からずただ身を低くしていた。それが無駄なことだと分かっていても、そうせずにはいられなかった。 龍は岳に向かっていた時と同じスピードで、同じ力でハヤテたちの方へ向かっていく。その巨大な口が彼らを飲み込むまであと一秒もない。伊澄が必死に手を伸ばしても届かず、叫んでも声は轟音にかき消されてしまう。
ハヤテは後悔していた。ちゃんとヒナギクと向き合っていればこんなことにはならなかったのではないか、彼女を自分と一緒に死なすことはなかったのではないか。そして、自分の帰り待っているアカリにも、たくさん謝った。
(ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。アカリ、そしてヒナギクさん。本当に、ごめんなさい・・・。)
ドゴォォォォオオン!!!!!
それは、龍が地面に叩きつけられた音であったが、その中に決してハヤテたちが潰され音はなかった。伊澄はその場に崩れ落ち、ハヤテはまだ生きている自分に驚きながら目を開けた。 そこには目の前で自分の何十倍もある口を開け、横たわって動かない龍と、その頭に乗っている岳がいた。龍は幻想的な光を出しながら、弾けるように消えてしまい、岳も相当な高さであったのにも関わらず平然と着地してみせた。ハヤテは自分の後ろを見た。
(よかった。無事だ・・・。)
まだうずくまっているものの、彼女たちには傷一つなかった。 岳はあの一瞬で龍の頭上へと回りこみ、そして体を思いっきり回して・・・蹴ったのだ。それによって龍が地面に叩きつけられ、結果的にハヤテの目の前で止まったというわけである。ハヤテは岳の力に驚くと同時に感謝していた。この事態を巻き起こしたことはともかく、自分たちを守ってくれたことに。 ハヤテは今度は伊澄のほうを見た。静かになったせいか、離れている彼女の声もはっきりと聞こえた。
「勝て・・・ない・・・。」
「え?」
力の差を見せつけられたとはいえ、ハヤテには伊澄が諦めることが信じられなかった。心配になって駆け寄ると、彼女は怯えたようにハヤテの裾を掴んできた。
「ハヤテ様、今すぐここから逃げてください!私たちではあの方には絶対にかないません!あの方は・・・あの方は・・・。」
「お、落ち着いてください。伊澄さん。」
ハヤテが彼女をどうにか落ち着かせようとしていると、後ろから拍手をする音が聞こえた。
「伊澄ちゃん、ご名答!ま、俺が脅した時点で気づいて欲しかったんだけどね。取り敢えず俺は危害を加えるつもりはないから、その点は安心していいよ。」
「岳さん、あなたは一体・・・。」
岳はニコニコと笑いながら手を叩いている。そして次の伊澄の言葉で、ハヤテは思い出すことになる。
ここは王族の庭城。滅びるこのない花が咲き、消えることのない炎が灯る場所。そして・・・
「ハヤテ様。あの方は、私たちの言葉でいう・・・
神様です・・・。」
神様の棲む城・・・・。
「ま、お前らの言葉じゃそれが正解だな。でもハヤテ。俺は今日までここにいなかったから、正確には神様の棲む城、じゃなくて、神様の居た城、の方が正しいぞ。」
そう言って、この庭城の主はニヤリと笑った。
「これはヒナにはうっかり口を滑らしたことなんだが、俺の名前はガウス・・・ガウス・ノバルクだ。岳って名前は日本で過ごしやすいように使ってるだけだけど、呼び方は今まで通りで構わないから・・・あらためてよろしくな。」
神様はハヤテたちの想像とは裏腹に、とてもフレンドリーだった。
すいません。すいません。いきなり神様とか突拍子もない設定盛り込んですいません。ほんの出来心なんです。でも、実は最初からこうする予定だったんで後悔はしていません。す、すいません!お願いだからそんなに睨まないで! え、えっと・・・なんというか庭城について触れてみたかったというのがあって、自分なりに適当な話を作ってしまおうということで今に至るわけです。ほ、ほら!その代わりと言ってはなんですがハヤテとヒナさんの入浴シーンがあったじゃないですか!まぁ、次回からは本当にハヤヒナ要素がなくなってしまうんですが・・・。 取り敢えず、王玉とかそういうのにも触れていくつもりなんですが、気に食わない解釈はスルーでお願いします。もう、当てつけた感じがすごいんで・・・(涙 ガウスという名前はなんとなく神様っぽいかなぁという感じでつけました。ほら、「○ウス」ってしたらそれっぽくなるじゃないですか。岳っていうのも、ガウス・ノバルクの最初と最後をとっただけですし、アカリちゃんのように深く考えたりはしていないです。 さて、次はオリキャラを出す予定です。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.44 ) |
- 日時: 2014/09/09 19:30
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回から本格的にハヤテ要素がなくなります。本当にすいません。それでも温かく見守ってくれると嬉しいです。 それでは・・・ 更新!
「あれ?ここは・・・て、私の家か。」
ナギは屋敷の中にいた。しかし小さいナギにとって大きすぎる屋敷は、鳥のさえずりなど外から聞こえてくる音どころかハヤテたちが掃除しているような音すらも全く聞こえず、それこそ音一つない状態だった。
「ハヤテー!マリアー!」
寂しくなって名前を呼んでもその声は一度だけ反響して消えてしまい、すぐにまた静かになった。自分以外誰もいないことが分かり、俯いていると、後ろから足音が聞こえた。
「お嬢様・・・。」
「ハヤテ!」
一番傍にいて欲しかった執事の姿を見つけ、ナギは駆け寄って思わず抱きつこうとしたが、それは止められてしまった。そして唖然としているナギを無視してハヤテが差し出してきたものにナギは震え上がった。あの時と全く同じ、綺麗に折りたたまれた執事服。
「僕はもうお嬢様の執事を続けることはできません。理由は・・・お分かりですよね。」
「わ、分かるわけないだろ!なんでヒナギクと付き合うのに私の執事をやめる必要があるんだ!また何かに巻き込まれているなら助けてやるから!だから・・・」
ナギの言葉にハヤテは大きくため息をつき、今まで彼女に見せたことない冷たい目で、そして今まで彼女に聞かせたことない冷たい声で、はっきりと言い放った。
「もう、我が儘で自分勝手で、そのくせ自分じゃ何もできない引きこもりのお嬢様の執事なんてしたくないんです。さようなら。」
床に執事服を置き、そのまま遠くに行ってしまうハヤテをナギは止めることができなかった。そのままナギが崩れ落ちることがなかったのは、まだ彼女に残っているものがあったから・・・。
「ナギ・・・。」
「マリアぁぁ・・・。」
しかし、マリアもナギを抱きしめようとはせず、一歩手前で止められた。ナギは優しく抱きしめて欲しかった。そして慰めて欲しかった。マリアにだけは、見捨てないで欲しかった。
「な、なん・・・で・・・?」
「ごめんなさい。でも私も、あなたみたいなお嬢様のお世話はもう限界なの。」
ナギはその場に崩れ落ちた。信じられなかった。気づけばマリアの姿は消え、たった一人になっていた。
「なんで・・・なんでだよ!なんでみんないなくなっちゃうんだよ!父も!母も!姫神も!ハヤテも!マリアまでいなくなったら・・・私・・・。」
ナギの言葉に答えてくれる人物は一人もいない。周りの景色も屋敷から真っ暗な世界に変わっていた。
「もう迷惑かけないから!学校だってちゃんと行く!早起きだってする!我が儘だって言わない!だから、帰ってきてくれよ。一人は・・・嫌だよ。一人なら・・・一人なら・・・!」
ナギは両手で拳を作り、そこにあるかも分からない地面を叩きつけて、最後の力を出し切るかのように、誰かを呼んでいるかのように、泣いてガラガラになった声で叫んだ。
「もう・・・!こんな世界にいたくないよ!!!」
「・・・じゃ、別の世界に行ってみるか?」
ただ、その言葉を待っていた人物がいることをナギは知らなかった。その人物はナギに手を差し伸べてきた。その手を取ることがいけないことだと分かっていても、ナギはその優しい声と手にすがることしかできなかった。
「よし、それじゃ行くか。」
すると景色がまた変わり、綺麗な花園になっていた。温かくて優しい花の香りだけがナギを包み、ここが天国な死んでも構わないとすら思った。
「でも、もうナギちゃんにやってもらうことはないから・・・」
後ろから聞こえた声に振り返ったとき、ふいにナギは額に人差し指を当てられた。その瞬間急に眠くなり、そのままナギの意識は闇に吸い込まれてしまった。 倒れていくナギの身体を急いで支え、少し離れた場所に寝かせると、ナギをここに連れてきた、いや、ここへ来るのにナギを利用した人物、岳は柱の森の中心に立った。
「ナギちゃんには悪いことしたけど・・・これで、やっと・・・」
岳が両腕を広げると、彼の姿が一瞬だけ揺らいだ。
「ずっと退屈に、そして絶望して過ごしてた。日付的には丁度今日だったかな?あの日もし君と出会わなかったら、案外つまらない世界だったかもしれないし、そうだったら孤独に耐え切れなくなっていただろう。」
岳が手を下ろすと同時に、ナギを寝かせた場所から声が聞こえてきた。
「あなたの仕業なんですか・・・?岳さん・・・。」
「まぁ、俺の仕業ではあるが、きっかけを作ったのはお前だぞ?ハヤテ。」
(もし、またあの時に戻れたら、ずっと一緒にいられる世界を作ることができたら、たとえばそんな未来があったら・・・今でもそう思ってる。だけどもう遅いことも、自分がそれを壊したことも分かってる。だから・・・)
岳は睨んでくるハヤテたちに一切動じず、ニコリと笑顔を作った。
君と過ごした全ての時を・・・君が初めて笑ったあの日を・・・君が初めて泣いたあの日を・・・俺は、この存在がなくなっている数分後も・・・絶対に忘れない。
第27話 『恋愛〔レナ〕』
俺はいつからここにいるんだろう?それを数えたことも、それを気にしたこともなかったくせに、今日は何故かその疑問が頭をよぎった。確か外の世界の言葉でだいたい137億年くらいだっけ?随分と長くここにいるもんだな。まぁ、毎日がつまらないわけでも、かと言って面白いわけでもないから、こうやってずっと歩いているだけなんだが。たまに外の生き物が入ってきたりもするけど、大抵は時間をかけて結局出て行く。その前に死ぬヤツのほうが多くはあるんだが、そういうヤツらを助けようとすることもずっと前にやめてしまった。どうせ彼らには俺のことが見えないし、声が届くこともなかったからな。寂しくも悲しくも感じないのは慣れってやつだろう。 なんだか久しぶりにいろいろと考えたな。お、また何か入ってきた。今度は・・・人間の少女か。年も俺の姿と同じ6歳ってところだな。そういえば時が進まないせいかずっと子供のままなんだよな。やろうと思えば別の姿にもなれるっぽいけど、その方法にも興味が湧かなかったし結局このままでいたんだっけ?ホント今更な話だよな。ま、どちらにせよ今回も無視だ。無視・・・
無視・・・できなかった。何故かその少女のことが無性に気になった。自分は相手から存在すら知ってもらえないというのに・・・何故か。 実際に見てみたとき、俺は正直にその少女のことを綺麗だと思った。腰を過ぎたあたりまである長い髪は、白に近い桜色をしていて、いや、逆なのかもしれない。とにかく透き通るような色なのは確かだ。両側でくくっている髪型は、女性らしさというよりも女の子らしさを感じさせ、まだ幼い瞳は寂しげにこの世界を映していた。そして、そんな表情や姿が、どことなく俺に似ている気がした。 俺は彼女の視界に入るくらいまで近づいたが彼女は結局俺に気づかず、まるで状況が飲み込めていないという感じでボーッとただつっ立っていた。
「ま、分かってけどね・・・。」
俺は何を考えていたんだろう?それよりもなんで彼女のことが気になった?
「ねぇ・・・ねぇってば!!」
ん?俺に話しかけてる?振り返ってみるとその少女はふてぶてしい顔で確実に俺を見ていた。いや待て!ありえないだろ!?なんでコイツは俺のことが見えてるんだ!?
「ていうか、ここってどこ?あれ?聞こえてる?お〜い。」
彼女は確実に俺が見えていて、そして話かけている。取り敢えず俺が質問に答えようとすると、それよりも先に彼女がため息をつき、そして手を差し出して笑いかけてきた。
「ま、いいや。じゃぁ一人じゃ寂しいし・・・一緒に遊ぼうよ。」
その時、自分の中で何かが壊れるような音がして、俺は思わず逃げ出していた。初めての優しさや、温もりにどうしていいか分からず、それで取った選択肢が「逃げ」。我ながらバカな行動だと思う。
「ハァ・・・ハァ・・・」
足がもつれて倒れたときには城を挟んだ反対側の庭まで来ていた。ここまでくればさすがに見つかることはないだろう。俺は城を通って、彼女も俺を追ってきたはずだから、あの城で迷わないはずがない。 よく考えてみると初めて全力で走り、初めて疲れ、初めて転んだ。そして初めて他人に話しかけられ、初めて自分を見てもらい、初めて俺の存在を見つけてもらえた。なぜ彼女にそれができたかは分からないが、ただ・・・
「あー!こんなところにいた!」
マジかよ・・・。俺が立ち上がろうとした瞬間、不自然に自分の影が大きくなっているのが分かった。
「とうっ!」
「おわっ!」
彼女が俺に飛びついてきて、それを俺が抱きとめる形になった。しかし勢いでバランスを崩してしまい、そのまま3,4メートルぐらい転がった。俺をがっちりとホールドしたまま彼女は顔を上げ、いたずらっぽく笑ってきた。
「これでもう逃げられないよね。それじゃ取り敢えず、君の名前が知りたいな。」
名前?俺の名前は・・・ないな。別に必要なかったし、自分で付ける気にもなれなかったからそのままでいたんだった。
「名前なら、ないけど・・・。」
「え?そうなんだ・・・。ごめんね、聞いちゃいけなかった?」
「いや、それはどうでもいいけど・・・」
「けど?」
さすがにもう限界だった。今彼女は俺に馬乗りになっている状態で、つまり彼女の体重のほとんどが俺に伝わってくるわけで・・・
「そろそろ退いてくれると・・・助かる。」
「あ!ご、ごめんね!重かった?」
「うん、結構。」
パッと飛び退いた彼女は俺の返答を聞くと何故か俯いてしまった。俺なんか変なこと言ったっけ?
「そうか・・・重いんだ・・・。」
「え?」
「いや、なんでもないよ!それより名前がないって・・・ちょっと、寂しいね。」
「いや、そうでもないけど・・・て聞いてないし。」
俺の声を無視しているのか本当に聞こえてないのか、彼女は考えるようなポーズを取ってしばらく考え込んでいた。別に欲しいわけではないので止めようとしたが、その直前で彼女はバッと顔を上げ、ニコリと笑ってきた。
「ガウス・・・。」
「へ?」
「うん、ガウスがいいよ!ガウスにしよう!」
「な、なぜ・・・?」
「う〜ん・・・なんとなく?」
俺は思わずため息をついてしまった。あれだけ悩んだ挙句あれだけ推していたのに、それを考えついた理由がなんとなく、だ。呆れもするだろう。
「気に入らなかった・・・かな?」
不安そうにこちらを見つめてこられて、俺に断るという選択肢はなくなっていた。まぁ、名前を付けることを取り消すならともかく、別の名前を考えてもらうという考えは最初からなかったんだが。
「いや、それでいいよ。ていうかそっちこそ名前はなんなんだよ?」
「え?えっと・・・あはは、実は私も名前ないんだ。」
頭に手を当てて苦笑いを浮かべる彼女に、俺は再びため息をついた。なんというか、予想通りだったので、本当にそうすることしかできなかった。
「レナ・・・。」
「え?」
「お前の名前だ。レナで・・・いいか?」
どうしてとっさにこの名前が考えついたのか分からなかった。ただ、彼女がそれを聞いて嬉しそうに笑ったときに抱いてしまった感情については、名前すら見つけることができなかった。
「うん!ありがと!」
「ここは世界の中心で神様の棲む城、王族の庭城・・・ロイヤル・ガーデン。」
「ロイヤル・ガーデン?」
「そう。滅びることのない花が咲き、消えるこのない炎が灯る場所。つまり外の世界から隔離されていて、時も実質進んでいないってことだ。」
「ふ〜ん。」
レナは説明に適当に相槌をうちながら、俺のあとをついてくる。いい加減一人になりたいのに質問をやめてくれないレナは正直鬱陶しかった。ま、それに律儀に答えている俺にも問題はあったんだろうが。
「でもさ、神様の棲む城なのになんで王族なの?」
「だから・・・!」
さすがに限界になってきた俺は、できるだけ怒ったような顔を作って振り返った。
「ここでいう神様は何故か俺ってことになってるんだ。だったら世界の中心にあるこの城の主も俺で、王様ってのも自動的に俺ってことになるんだよ。まったく、こんな自分を過大評価したようなこと言わせるなよ。」
「へー!ガウスって神様の王様なんだ。すごーい!」
ただ、レナは俺の表情にはまたっく反応してくれなかった。俺ってそんなに怖い顔ができないんだろうか?パーッと顔を輝かせてるレナにため息をつき、取り敢えずもう少し分かりやすく伝えることにした。
「そうじゃなくて・・・えっと、さっきここが世界の中心って言ったよな?つまりこの世界が外の世界に対して王様の役割をしているんだよ。正確にはこの城だな。だからもしここを破壊してしまえば外の世界も壊れてしまうんだ。 それに、ここにいるだけでその生き物は神様としての力がだんだん宿っていく。そうやって神様になった者が城の主となり、実質外の世界を完全に支配することのできる王様になるってわけだ。」
なんか詳しくなっているのかよく分からない話にレナは不思議な顔を一切しなかった。その代わりにわざとらしく驚いてみせて、さらに俺をイラつかせてきた。
「ま、まさか世界征服をしていらっしゃったとは・・・。」
「いい加減怒るぞ?」
睨みつけたあと歩き出した俺に慌てて謝ってくるあたり、反省しているのかもと一瞬思ったが、よく考えてみるとそれはわざとだったという証拠になる。俺は今日何度ついたか分からないため息をついた。
「そういえばさ、ガウスって今どこに向かってるの?」
「・・・どこにも。今までずっとこうやって歩いてたんだから別に目的地とかないよ。」
「え!?それじゃ何か食べたりとか眠ったりとかは?」
「してるわけないだろ。さっき言ったように時間が進まないんだから自殺とかじゃない限り死ぬこともないし、腹も空かない。勿論疲れて眠くなることもない。大体そんなことする必要もないからな。」
レナは急に立ち止まり、俺の名前を考えていたときのように考えるようなポーズをとった。なんだか嫌な予感がしてその場から立ち去ろうとすると、案の定すぐに俺は腕を掴まれた。
「それじゃ、私がご飯を作ってあげる!」
本当に無邪気な笑顔をしているレナに、俺はついて行くことしかできなかった。いや、この場合厨房まで連れて行くの方が正しいのか?取り敢えず連れて行くと無理やり椅子に座らされ、そのままレナは厨房に飛び込んでいった。別にやることもなかったので仕方なく何ができるか予想しながら待っていると五分ぐらいで、残念そうな顔をしながら戻ってきた。料理も一切できていなかったのでどうしたのかと聞くと、料理のやり方なんて一切知らなかったらしい。まぁ、予想はしていたので料理に関する本を持って来て渡すと、顔を輝かせてまた厨房に飛び込んでいった。
「爆発とかしないだろ〜な?てか食べ物ができるかどうかも怪しい気がするんだが・・・。」
正直これが一番心配だった。爆発ならまだいい。いくら器具を破壊しようが、いくら水をぶちまけようが数分後には戻っている。実際にやったことはないから分からないけど、それよりも問題はレナがちゃんと料理ができるかだ。生まれて初めての味が無機物より酷かったなんてことはできるだけ避けたい。やっぱり頑張って断っといた方が良かったかな〜。 かれこれ40分ぐらいかけてやっとレナが厨房から出てきた。出来た料理は・・・無難にカレーか。それにしては時間がかかりすぎな気もするが、とりあえず見た目的には大丈夫そうだ。
「味見は・・・したのか?」
「いや、まだだけど?最初にガウスに食べてもらいたいな〜と思って。」
随分と可愛いことを言ってくれているが、それ思いっきりフラグ建ってるからな!てか、そんなに自信ありますみたいな顔されても困るんだが・・・・ああ、もう!食べるよ!食べますよ!食べさせていただきますよ! 少し乱暴に皿を受け取り、そのまま勢いでレナの作ってくれたカレーを口に入れた。ここまで来て思ったこと・・・そういや俺、カレーの味知らねーじゃん。
「どう・・・かな。」
正直まずくはない。ただ・・・
「カレーってこんなに甘いの?なんか野菜も肉も大きくてゴロゴロしてるし、もうちょっと・・・」
「し、仕方ないでしょ!私が料理するの初めてって知ってるんだからもうちょっと大目に見てよ!」
そう言ってレナがテーブルを叩いたとき、彼女の指が傷だらけなのに気がついた。なるほど、だからあんなに時間がかかったわけだ。
「だいたいガウスだって料理したことないんだから人のこと・・・」
「でも、おいしいよ。」
さすがに、自分のために頑張ってくれた気持ちまで無下にするようなことをするつもりはなかった。だから今のはせめてものお礼だ。
「ホント!?」
「ああ、俺が言った点を差し引いてもおいしいと思うよ。」
「そう・・・そうなんだ。おいしいんだ・・・。」
本当にレナはよく笑うと思う。彼女が泣いているところなんて想像もできないほど、レナは明るくて、鬱陶しいくらい元気で、眩しいくらいに笑う。俺には今まで何もなかったのに、どんどん初めてを与えてくれる。
「ガウス・・・。」
「ん?」
「・・・ありがと!」
そう笑顔で言って、レナはまた厨房のほうに行ってしまった。なんだか自分の顔が熱いのに気づき、それを誤魔化すようにカレーを口に入れた。
「やべぇ。おいしい・・・。」
どうしてその言葉が口からこぼれたのか分からなかった。
どうも、よく分からない解釈ですいません。 ここでは世界自体がガウス君と同時に生まれ、庭城もその時から存在しているという設定です。さらに言うとアブラクサスの柱の森も、王玉すらもまだ存在しておらず、外から入ってくる条件も「負の感情の爆発」ではなく、何かのきっかけがあれば入ることができることになっています。まぁ、きっかけと言ってもそれなりに凄いことじゃないといけないんですが。 ガウス君の言った通り、庭城の中にいるだけで神様の力が宿っていくという設定なんで、アーたんが不思議な力を使えるようになったのもこれで説明したいと思います。アーたんは確か2年ぐらいだったかな?よく覚えてませんけど畑先生のバックステージでそれぐらいの間、庭城にいたというのがあった気がするので、取り敢えず2年ということにして、そしてその期間でアーたんがあれだけの力をつけたのだから、137億年(宇宙の年齢です。ちなみにウィキペディアからです。)いるガウス君は相当な力がついているわけです。 さて、今回は三番目のオリキャラが出てきましたがいかがだったでしょうか?個人的にずっと温めてきたキャラなので気に入ってもらえると嬉しいです。それではガウス君の分も含めてプロフィール載せますね。
レナ
誕生日 11月20日
身長 113.9cm
体重 21.7kg
年齢 6歳(これは肉体年齢であって、実際は0歳です。そこは神様の意思と考えてください。)
血液型 O型
家族構成 なし。
好き、得意 ガウス,ガウスを楽しませること,ガウスが喜ぶこと,ガウスと一緒にいること
嫌い、苦手 特にない(だからと言って得意なことがあるわけではありません。)
フルネームはレナ・ノバルク。ノバルクというのは後で取り敢えずつけてみたという感じです。瞳の色は明るい黄色で、髪の色は桜色です。ただ、ヒナギクさんのようにピンクに近い色ではなく、ガウス君の感想通り、とても白に近い感じですね。正確も明るく元気で、困っている人は放っておけないタイプです。だけど実は結構人見知りで、ガウス君に話しかけることができたのは彼が寂しそうにしていたのが理由です。 外の世界から来たわけではなく、突然庭城に現れたので、知識はあっても経験とかは全くないです。ただ、なんでも器用にこなせて、料理などの家事もすぐに上手くなっていきます。 ガウス君のことが大好きで、行動する理由は大体彼のためって感じです。ただ、ガウス君がそれに甘えてなんでもしてもらっているなんてことは全くないです。むしろ互いが互いのために行動しているので、それでおあいこみたいな関係です。でも恋とかそういう意味で好きという感情はまだなく、今はただ大好きな人というだけの認識です。 さて、次はガウス君のです。
ガウス
誕生日 11月20日
身長 122.6cm
体重 24.0kg
年齢 6歳(これも肉体年齢であって、実際は130億以上生きてます。一応神様な設定なんで。)
血液型 A型
家族構成 なし。
好き、得意 レナ,レナが喜ぶこと、レナが好きなこと、レナと一緒にいること
嫌い、苦手 料理とか掃除とか、とにかくほとんど全部。
岳君の本来の在り方。レナちゃんと同じで後ろにノバルクをつけたガウス・ノバルクがフルネーム。容姿は前、岳君として載せたプロフィールの子供バージョンです。ただ、性格は今とは対照的で暗く、レナちゃんと出逢うまでは表情を作ることすらしていませんでした。何にも興味を持たず、ただずっと庭城を歩いていたので、神様と言っても特別に何かができるわけでもありません。 伊達に130億生きていないので、IQとかになるととんでもない数値を叩き出しますが、上記の通り料理とかやってみるとてんでダメで、それが悩みになっていたりします。今のレベルまで至った経緯は後ほど本編で書こうと思います。 すでにレナちゃんに骨抜きにされていますが、自覚はありません。今のガウス君はただの鈍感フラグ野郎で、デリカシーもないという感じです。
プロフィールはこれくらいで、次回もガウス君とレナちゃんの話です。冒頭ではハヤテたちが出てきますが、本文には全くです。こんな感じがあと1,2話続きますが、どうぞよろしくお願いします。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.45 ) |
- 日時: 2014/09/13 19:37
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
レナちゃんのイラストを投稿したんですが、普通に高校生くらいの設定で描いてます。なんというか、自分小さい子を描くのが苦手なんで毎回こんな感じになっちゃうんですよ。アカリちゃんだって小2っぽくないですし・・・。あ、気づいている方も多いと思いますが、アカリちゃんは7歳ですけど誕生日が来てないだけであって一応小学2年生です。これこそ蛇足ってやつですね。 さて、今回もガウス君とレナちゃんのお話です。 それでは・・・ 更新!
岳の話を聞いたハヤテたちは唖然としていた。ただ、岳の正体が神様だと知った時点で、既に空いた口を閉じることができなくなっていたが。
「このあたりが俺とレナの慣れ始めってやつだな。それからは丁度一年間ずっと一緒だった。一緒に遊んで、一緒に寝て、一緒にバカやって・・・あの時は本当に素晴らしい日々だったよ。まぁ、俺は家事とかが全然ダメだったから、そういうのは手伝っていただけだったんだがな。」
恥ずかしそうにはにかむ岳は、ハヤテたちが今ままでに見たことないほど楽しそうで、そして寂しそうだった。そんな岳にハヤテたちは声をかけるのをためらっていたが、ヒナギクだけはその沈黙を破って彼に質問をぶつけた。
「ねぇガウ君、そのレナさんって・・・今もここにいるの?私たちには見えないだけ?」
「いきなりその質問か・・・。そうだな。ハヤテは知っているだろ?ここ、アブラクサスの柱の森のこと。」
「え?あ、はい。」
ヒナギクの質問とはまるで関係ないような話を振られたことで、ハヤテは少し口ごもってしまった。何故それを聞かれたのかは分からなかったが、ハヤテは取り敢えず自分の知っていることを話した。
「確か全部で365本あって、神様の怒りを買った人が外に出るには王玉を持った人と手を取り合って、そのうち一本を切りつけなければならない。そしてもしそれが正解ではなかった場合、王玉の持ち主は死んでしまう・・・でしたよね。」
ハヤテは自分に集中した視線に緊張して、少し不安気に岳に確認を取った。岳は頷いたが、その顔はもう笑っていなかった。
「確かにそうだが、実際切りつける柱はどれでもいいんだ。ここから出るのに必要なのはその人を助けたいという正義と、相手を絶対的に信用することだけだ。まぁ、今は白桜を抜くことができれば確実に出れるようになっているけどな。それは正義を成すための剣。信頼はともかく、ここを出る条件にはあっているだろ?」
ヒナギクは反射的に右手に持っている白くて美しい剣に目を向けた。それなりに凄いものだとは分かっていたが、実際のところこの剣については何も知らなかった。
「あ、別に俺が作ったものじゃないからそれを返す必要は全くないぞ。白桜や黒椿、そして王玉を作ったのはミダスたちで、あいつらは近づきはしたけど結局神様になれなかったから、もう死んでるしな。」
ここまできて、岳は自分の頭を軽く掻きながら話がそれたことを謝った。ハヤテたちは岳の言葉を待っていたが、彼は一本の柱に触れたあと、逆にハヤテたちに質問してきた。
「それじゃ・・・、柱ってのは本来どんな役割をするかは分かるだろ?」
「そりゃ、建物を支えるために決まっとるやろ。」
当たり前すぎる質問に咲夜は戸惑いながら答えたが、伊澄にはそれとは別の思考が生まれていた。
「なのに、ここには柱だけで建物などはない・・・。」
「さすが伊澄ちゃん、察しがいいな。ただ、俺がレナと一緒だったころはちゃんと城があって、ここの柱も支えるって役割を果たしていたんだ。裏を返せば・・・一度城が破壊されてしまったってことだ。」
その言葉にハヤテたち全員が、思わず息を飲んだ。
-ここを破壊してしまえば外の世界も壊れてしまうんだ-
つまり世界は一度滅びていて、ハヤテたちは作り直された世界に生きていたことになる。信じられないような話だったが、その証拠が目の前にあると正直不安なんて言葉ではとても表せなかった。
「まぁ、破壊したのはお前らが考えている通り俺だ。じゃあなんで俺は世界を破壊するようなことをしたのか?これは同時に最初のヒナの質問に答えることになるんだが、それはな・・・」
岳の浮かべた不吉な笑みに、ハヤテたちはゾッと鳥肌がたつのを感じた。彼のニヤリとした表情は何かを嘲笑っているかのようだったが、それは決してハヤテたちに向けられたものではなく、自分自身を嫌うために、蔑むために、そして決して後悔しないために作ったものだった。
「俺が・・・レナを殺したからだ。」
その瞬間、ハヤテたちは岳の体が透けていることに気づいた。
第28話 『泣かないあなたへ』
なんだか焦げ臭い匂いが漂ってくる。これはまたやっちゃったんだろうな。急いで広い廊下を走り抜けて、匂いが発生している厨房に私が飛び込むと、案の定、また物体Xを生成しているガウスが困り顔で鍋を睨んでいた。
「ねぇ、ガウス?ここで出来た物体って外の世界にも発生するの?」
「もしそうだったら俺が料理をするたびに外で死人が続出するっての。」
取り敢えず外には影響がないってことだよね?ていうかガウスって神様なのになんで何もできないんだろう?スネちゃうから聞くつもりはないんだけど。
「もう、料理とかは私がするって言ってるのに。」
「任せっきりなのはしょうに合わないんだよ。それに・・・」
ガウスはぶすっとした顔を笑顔に変えた。笑顔と言ってもフッと微笑んだくらいだったけど、私の心が高鳴るのにはそれで十分だった。
「どうせなら一緒にできるようになった方が楽しいだろ?これからもずっと一緒にいるんだからさ。」
ずっと一緒・・・、ガウスは言ってて恥ずかしくないのかな?
「どうした?顔赤いぞ?」
「ふぇ!?な、なんでもないよ!」
本当にガウスは変わったと思う。逢ったばかりのころはほとんど笑わなかったのに、今では当たり前のように笑いかけてくる。そして、私も随分と変わっちゃったんだよなぁ。最近ガウスが笑っているのを見ると胸が締め付けられるような、でもすごく嬉しいような、そんな複雑な気分になる。なのにガウスは全然平気な顔をしていて、私が悩んでいることなんてまったく気づいていないみたいだから、ちょっと寂しくなったりもする。前はこんなことなかったのに、いつの間にかどんどん今の私になっていった。ホントこれってなんだろ?ため息が毎日増えるばかりだった。
「そ、それじゃ、私は掃除してくるね。」
「え?さっきも掃除してたんじゃなかったのか?」
「・・・!!そ・う・じ・してくるね!」
「お、おう・・・。」
もう全く!ガウスはホントに全く!ていうか確かに掃除しちゃってたからやることないや。どうしよう?まぁ、まだ行ったことない部屋もあるからそれで時間は潰せるか。ガウスは・・・取り敢えず頑張ってるみたいだから気にしなくていいか。
「たしか・・・行ったことないのこの部屋だけだっけ?」
ていうかこんな部屋ガウスから教えてもらってないんだけど。なんか暗いし、中央に黒い箱があるし・・・。そういやガウスってこの城のことあまり話さないな。ざっくりした説明はしてもらったけどそれ以外は全く聞いてないや。それにしても・・・
「この部屋。なんか不気味・・・。」
なんだか様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っているような、でもその中で絶望みたいのが一番多いような・・・そんな感じ。ここにいるだけでおかしくなっちゃいそうだったけど、私は中央の黒い箱から目が離せないで、終いにはそれを開けてしまった。
「空っぽ・・・?」
なんというか、少しおぞましいものが入っているような気がしてたというか、別にそういうのを期待していたわけではないけど、拍子抜けというか・・・。てかこれって絶対にガウスから怒られるパターンだよね?バレないうちに出て行かなきゃ。
「なにしてんだ・・・?」
「おわっ!ち、違うの!いや違わないけど・・・!」
「?」
部屋を出ると既にガウスが立っていた。どうしよう・・・怒られる。ここは正直に言った方がいいのかな?いや、まだバレてないみたいだし・・・。
「この部屋・・・」
「わ、私何もしてないからね!別に中にあった黒い箱を開けたとかそういうの全然してないから!」
「は!?レナ、あれ開けたのか・・・?」
あ・・・や、やっちゃったー!ど、どうしよう!?なんかガウス私のこと険しく見てるし・・・こ、これは凄く怒ってる!?
「レナ・・・!」
ガウスは険しい表情で私の肩を掴んできた。痛いくらいに力が入っていたその手は私の頭をさらにパニクらせて、気づけば凄い勢いで謝っていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!反省してるから!反省してますから!!!」
「は?なんで謝ってんだよ?」
あれ?怒って・・・ない?
「怒らないの?」
「何で俺が怒らなきゃいけないんだよ?それよりレナの方こそ大丈夫か!?頭痛かったりとか身体がなんか変だったりしないか!?」
な、なんで私が心配されてんだろう?別にどこもおかしいことはないけど・・・。そのことを伝えたらガウスはほっと息をついて私の肩から手を離した。本当に安心しているあたり、あの棺は相当ヤバイものだったのかな。あれ?なんで私・・・
・・・あの箱が棺だって知ってるんだっけ?
「が、ガウス!私、なんだか・・・」
「や、やっぱりどこか痛いのか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・。」
ガウスは意外と心配性なんだなぁ。まぁ、嬉しいんだけどさ・・・。
「だからその・・・私、何故かこの城ことが分かるようになったの。」
ガウスは目をパチクリさせたあと、盛大にため息をついた。そしてもう一回私の体調のことを尋ねてから、そのまま私の手を引いてどこかへ向かって行った。
「が、ガウス?あの・・・」
「なんだ?行き先なら大広間だぞ?」
いや、そういうわけじゃないんだけど・・・手が・・・。 なんだか、凄くドキドキする。ガウスは・・・どうなのかな?結局何も言えないまま私は大広間まで連れて行かれた。
「あの棺には神様の力が封じられていたんだ。ここにいる生き物に与えすぎないように・・・。」
「そして神様の力がなくならないのはあの棺が、この世界に生き物が入ってくる時の爆発的な感情を媒介にして、倍以上に増やしていっているから・・・。」
私の言葉にガウスは無言のまま頷いた。 私のことを心配してくれたのは、一気にたくさんの力を吸収した反動があったらと考えていたかららしい。知識を得た今だから言えるけど、そんなことありえないって分かってるはずなのに・・・まったく、ホントに心配性なんだから。 ホントに・・・嬉しいんだから。
「なに笑ってるんだよ?」
「別に・・・ガウスは優しいなぁって。」
心配されるが嬉しいのも、手を握られてドキドキするのも、笑顔を見て胸が締め付けられるのも・・・
恋・・・なんだよね。
貰った知識でそれを理解するのはちょっと抵抗があったけど、私はガウスのことが大好きなんだ・・・。今まで以上に、今までよりずっと・・・。
「ねぇ、ガウス?」
「ん?」
「私が、今までの私じゃなくなっても・・・一緒にいてくれる?」
ガウスはキョトンとしている。こんな質問すれば誰でも驚くか。なんか恥ずかしかったし、すぐに取り消さ・・・
「一緒にいる。」
「!!」
「それに、レナはレナだ。どんなに変わっても、どんなに遠くに行ってしまっても、俺はレナから目を背けたりしないし、絶対に忘れない。」
ほらね。ガウスがこんなだから私は惚れちゃったんだ。ていうか、こんなこと言われて好きにならない方がおかしいような気がする。だから私もガウスが意識するくらいの素敵な笑顔を見せてやるんだ。
「・・・ありがと!じゃあこれからもずっと一緒だよ!」
あ、赤くなってる。ガウスって男の子なのに可愛いからちょっと妬いちゃうかも。そういえばガウスってなんで丁度よくあそこにいたんだっけ?
「ねぇ、料理?のほうはもういいの?」
「あ、それなんだが・・・。」
口ごもったガウスは歩き出して、そのあとについて行くと厨房までたどり着いた。ただ・・・
「えっと・・・爆発、したの?」
「恥ずかしながら・・・。」
「ふふっ・・・あははははは!!!!!」
「なっ!わ、笑うなよ!」
つまりガウスは掃除をしたいけど、一人だと余計に散らかっちゃうから私を頼ってきたわけだ。私は腹を抱えて笑っているけど、とっても嬉しいんだよ?それぐらいは分かってほしいかな。 この時から、私は外に出たいと思うようになった。外に出て、ここよりずっと小さな家で、ここよりずっと賑やかな場所で、周りの人たちに祝福されながら、ずっと一緒にいたいって・・・願うようになった。
「さて、あとはどうやってガウスを説得するかんなんだよね〜。」
レナとガウスが出逢って丁度一年経った日、レナは庭城から出ることを決意していた。ガウスにそのことを話したことはなかった。方法が方法なだけに絶対に反対されると分かっていたからだ。だからレナはこうして悩んでいるのである。 棺を開けたことで神様の力、さらには知識を手にしたレナはここを出る方法がとても難しいことも全て理解していた。ただ・・・
「なんとなく、できる気がするんだけどな〜。」
作業中の手を止め、レナは軽くのびをした。 王が城を完全に離れることができない。王の役割をしているガウスをここから連れ出すのはとても危険な行為であり、最悪存在が消えることになる。来世とかそういう迷信がたいことでさえ残らないのだ。しかし、レナにとってこれらは正直どうでもよかった。ガウスのためなら死ねる。笑って死んでやる。当たり前だった。
「はぁ〜、ガウスももっと我が儘になってくれればいいのに。女の子っぽい顔してるからツンデレも似合うだろうけどさ〜。」
「誰が女顔でツンデレだって?」
「おわぁ!!!」
レナは驚いて椅子から転げ落ちてしまった。それを見ていたガウスは呆れた顔をして彼女に手を差し出した。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「あ、ありがとう・・・って、いきなり話しかけないでよ!!びっくりするじゃない!」
「はいはい、俺が悪かったよ。」
面倒くさそうに謝ってくる岳にレナはふくれっ面を作ったが、効果がないようだったのですぐに諦めて大きなため息をついた。
「ねぇ、ガウス・・・?」
「なんだ?」
「ガウスってさ、ここから出たいと思わないの?」
「!!!・・・」
レナの質問にガウスは身を強ばらせたが、彼女にバレないように平然を装って天井を仰いだ。
「別に・・・外の世界のことは天球の鏡で知ることができるし、長くここにいて興味もなくなっちまったからな。」
「じゃあ、なんで一人でいるときに寂しそうな顔してるの?それに、初めて逢った時なんて表情があるのか分からないほど暗い顔してたよ?」
ガウスは俯いて何も言ってこなかった。レナは畳み掛けるように自分の思っていたことを伝えた。
「寂しいなら寂しいって言って、痛かったら喚いて、悲しいときは・・・ちゃんと泣いて。恥ずかしいことじゃないんだよ?今までたくさん頑張ったから、もうそんなに頑張らなくたっていいんだよ?もっと・・・幸せになろうよ・・・。」
「・・・それで、俺にどうしろと?」
正直レナが伝えようとしていることが何か、ガウスには分かっていた。ガウスにだって外に出たい気持ちはあった。外に出て、レナと幸せにずっと一緒にいられたら、そんな願いがあった。しかし、レナを失う恐怖がそれの何倍も勝っていて、ずっと気持ちを押さえ込んでいた。レナの言葉に心打たれた今でも、それは変わらなかった。 しかし、ガウスの睨むような視線は逆にレナに踏ん切りをつかせてしまった。
「だから・・・だから、ここから出ようよ!一緒にここを出て、外の世界でずっと暮らそう!ここを出る条件が難しくても、私たちならきっと出来るよ。それでも不満があるのなら、私がガウスのために何でもしてあげるから・・・イタッ!!」
ガウスはレナの言葉をデコピンで無理やり終わらせた。結構痛かったらしく、うずくまっているレナにガウスはいたずらっぽく微笑んで、おどけた感じで注意した。
「男に何でもするなんてこと、そんな簡単に言っちゃダメだっつーの。それじゃ、俺はやることがあるから。」
そう言って、ガウスはまだ額をさすっているレナを残して部屋から出て行った。
「簡単に言ってるわけないじゃない・・・。」
レナもガウスの後を追って部屋を飛び出したが、廊下を歩いているガウスを見ると思わず足が止まってしまった。彼の背中はとても寂しげで、無理をしているということが嫌でも伝わってきて、真っ黒な髪が力なく揺れているのに対し、作られている拳には酷く力が篭っているのが遠くからでも分かった。レナは気づけば走り出していた。
「ガウス!!」
「ん?・・・おわっ!!!急に引っ張るなよ!・・・・・・レナ?」
ガウスは彼女の真剣な表情に嫌な予感を感じた。抵抗しても、手を振り払おうとしても、レナはそれを許さなかった。そのままレナはガウスを大広間まで連れて行き、一本の柱の前に立った。
「私・・・絶対ガウスとここから出るから・・・。」
「レナ!何考えてんだよ!」
ガウスの声を無視して、だけど手だけは離さなかった。レナが指を鳴らすとどこからともなく短剣が現れ、彼女の空いている右手に収まった。
「やめろって言ってるだろ!」
ガウスは彼女の短剣を奪おうとしたが、はらりとかわされ、そして抱きしめられた。彼女の温かさはガウスの動きを止めるのには十分で、そのままレナは、まるで子供をあやすかのように話し始めた。
「私ね・・・ガウスと一緒にここから出たいんだ。ここを出て、ここよりずっと小さな家で、ここよりずっと賑やかな場所で、周りの人たちに祝福されながら、ずっと一緒にいたい。これが私の夢・・・。ガウスは・・・?」
「俺は・・・レナがいればべつに・・・。」
ガウスの言葉にレナは笑った。少し顔を赤くして・・・少しだけはにかんで・・・大きく笑った。
「もう!嬉しいこと言わないでよ。・・・でも、それだけ?ガウスはたくさん本を読むし、苦手なこと、さらにはガウスがここでは必要ないって言ったことでさえも真剣に取り組むようになったよね?それはなんで?私には外の世界に憧れているようにしか見えなかったけどな〜。」
「そんなんじゃねぇよ。ただ・・・」
女の子だからだろうか?レナからとてもいい香りがする。そしてその香りに包まれていると、ガウスは自然と落ち着くようになっていた。
「俺たちがいる世界がどこであっても、レナと一緒にいられるように頑張ってただけだ。」
「・・・ありがと。」
手を握っていることを残して、レナはガウスからようやく離れた。ガウスはこれまでにないほどスッキリとした表情していて、レナは少し安心したような表情をしていた。そして、互いに嬉しそうに笑っていた。
「私はガウスを助けたい。ここから連れ出して、ずっと一緒にいたい。」
「俺はレナを信じる。ここから俺を出してくれることを、外でもずっと一緒にいてくれることを。」
レナはもう一度ニッコリと微笑むと、ガウスと一緒に柱の前に立った。大きく息を吸い込んだあと、短剣を握った右手を高く掲げる。レナは正直緊張していた。だけど迷いはなかった。ガウスもレナのことを信じ、黙って彼女を見守っていた。レナのことを何よりも思っていたから・・・。
レナが勢いよく腕を振り下ろし、その剣先が柱にたどり着くまであとコンマ2秒、1秒・・・
同じことを繰り返すが、ガウスはレナのことを何よりも想っていた。その大きさは果てしなく、どんな気持ちよりも感情が詰まっている。
ただ、その想いは大き過ぎた。
モシ、ウマクイカナカッタラ?レナガ・・・シンデシマッタラ?
「!!!!・・・レナ!ちょっと待て!」
遅かった。自分たちの目の前にある柱には既に傷が入っており、レナは慣れないことをして違和感が残る腕をさすっていた。
「ん?何か言った?」
「いや、苦しいところとかないよな?痛かったりしないよな?」
「もう、相変わらず心配性なんだから。別に変な感じなんて全然ないよ。ほら!」
レナはくるりと回ってみせたあと、ホッとしているガウスにニコリと微笑んだ。
「これで外に出られ・・・るね・・・」
パタン・・・
「れ、レナ・・・?レナ!!!」
ガウスが彼女を抱え上げたときにはもうレナは動かなくなっていて、さっき感じていた温もりも消えていた。どれだけ名前を呼んでも彼女は答えてくれなかった。
「レナ!!レナ!!!何か言えよ!!!目を開けろよ!!!」
(俺のせいだ!俺が最後に信じきれなかったから・・・・)
ふと、落ちている短剣が目に入った。ガウスがレナを抱えたままそれを拾い上げて刀身を眺めると、もう動かない大切な人の顔と、よく磨かれた刃に映る自分の顔が見えた。レナと出逢う前と同じように表情の無い顔で、この状況に泣いてすらいなかった。 ガウスは短剣の切っ先を無意識に自分の胸の前まで持っていき、柄を掴んでいる右手に力を込めた。
レナがいない・・・レナがいない・・・レナガ・・・
イナイ・・・
サクッ
「!!!???」
しかし、自分の胸に思いっきり突き立てたはずだった剣は、少しだけ肌を傷つけただけだった。
「そんなこと・・・しちゃダメでしょ・・・。」
「なんで!?レナがいないなら俺は存在している意味がないだろ!!」
ガウスの右手はレナの手に掴まれていた。彼女にとっては腕を上げることでさえ精一杯で、ましてや誰かの腕を強く掴むのは全身に激痛が走るほどだった。
「ううっ!!!」
「ほら!いいから早く手を離せよ!!痛いんだろ!?我慢するなって言ったのはレナだったじゃないか!」
しかし、レナは腕を離すどころか自分の手をガウスの手まで持っていき、さらには空いている手でハンカチを取り出してガウスの血が滲んでいる部分にそっと押し当てた。ガウスは彼女を止めるようなことはしなかった。いや、できなかった。
「これ・・・プレゼントだったんだけど・・・汚れっちゃったね。」
「そんなの・・・いつ作ったんだよ・・・?」
「さっき・・・。」
レナは弱々しく笑っていて、ガウスは泣きそうな顔で彼女を見ていた。ただ・・・彼の目には涙が浮かんでいなかった。
「私ね・・・ガウスのスネた顔も、困った顔も、嬉しそうな顔も、そして笑った顔も・・・全部大好きなんだ。泣いた顔を見たことはないけど・・・きっと大好きだと思う。まぁ、今も泣いてくれてないけどね・・・。」
「泣きてーよ!すげー悲しいんだから今にも泣き出してーよ!!でも、涙が出てこないんだよ・・・。」
レナはガウスの血を拭ったハンカチを彼の手に握らせ、それによって空いた手をガウスの頬まで持っていった。まだ弱々しく笑っているレナは・・・泣いていた。
「ガウスは強いからだよ・・・。私なんか、涙が止まらないもん。」
レナの言葉をガウスは否定した。自分は強くない、きちんと泣けるレナの方が何倍も強い、と。
「ははは、そんなことないって。でも、本当にそう思っていてくれるなら、今から私はすごくカッコ悪いこと言うってことになるのかな?本当はこんなこと言っちゃダメなんだろうけど、私は我が儘だから・・・だから、聞いてくれる?」
「聞く!何でも聞くから・・・!」
ガウスはレナの手を握っている手にぎゅっと力を込めた。そのことにレナは嬉しそうな顔をして、静かに口を開いた。
「ガウスはこれからも生きていくから・・・楽しいことや、夢中になれることを見つけられるでしょ?もしかしたら恋だってするかもしれない。でも・・・」
ガウスは首を横に振って否定していた。レナがいない世界で楽しいなんてことあるわけない、恋なんてできるわけない、そう思っていた。 そんなガウスにレナはそっと微笑んでいた。彼がそう思っていてくれることが正直嬉しかった。ガウスのことを縛りたい気持ちなんて微塵もない。でも、彼が自分のことを想ってくれることがとても嬉しかった。
「でも・・・私のこと、忘れないで欲しいの。別にガウスのことを縛りたいってわけじゃないけど、ただ・・・ずっと一緒にいたいの・・・。ごめんね、最後なのにこんなこと言っちゃって・・・。」
「最後じゃない!なんとかする!絶対に助けるから!・・・そんなこと言うなよ。」
しかしその言葉を嘲笑うかのように、微笑んでいるレナの身体はどんどん透明になっていく。白い光が彼女を包んでいく様は酷く幻想的だった。そしてレナがこぼした涙の数は・・・もうどんなに多いか分からなかった。
「そうだ・・・。ガウス・・・今までありがとうね。私に心を開いてくれたこと、一緒にいてくれたこと、名前をくれたこと・・・全部、ありがとうね。私ね・・・ガウスのこと・・・」
その瞬間、レナの身体は完全に消えてしまった。はじけるように舞っている光は残酷なほど綺麗で、認めたくないほど輝いていて、悲しいほど神秘的だった。 支えてくれる手を無くした腕は力なく垂れ下がり、俯いて影のできた顔を彼の真っ黒な髪がさらに暗くしていた。
「ーーー。」
「・・・。聞こえねぇよ・・・。」
ゆらりと立ち上がり、適当な方向に腕を向ける。手から放たれた閃光は城の壁を貫通して地平線上に消えていった。今度は階段を少しだけのぼり、腕を振りかざした。拳が当たったところから半径5m以上のひびが入り、そのまま轟音をたてて巨大な階段は崩れ落ちた。一緒に落ちてしまったが、不思議と痛みはなかった。それからは手当り次第に城を壊して回った。レナと一緒に料理をした厨房も、一緒に寝た寝室も、一緒に遊んだ場所も・・・全部。
「俺・・・何やってるんだろうな・・・?」
悲しかった、辛かった、苦しかった。レナを守れなかった自分自身を、レナを失わせたこの世界を、憎み、蔑み、これらに対して怒り、殺意を持った。だから彼は動いている。理由はたった一つだけ・・・レナを取り戻すこと。 城のほとんどを破壊し、ガウスは最後に天球の間についた。そこに写っていたのは深く亀裂の入った大地、急激に膨張、または縮小して最後に爆発してしまう天体。地球上にはもう原型を留めていない街と、その中で叫び、自分たちの宿命を嘆く人々。炎に包まれている場所や、完全に浸水している場所、生き物の亡骸が目立つ砂漠や、襲ってきた極寒の気象に凍りつく場所。命の数も、もう数えることができるくらいまで減少していた。 しかし、ガウスはそれを見ても何も思わなかった。心底どうでもよかった。滅びていく世界に対する感情も、あれだけ憎かった自分に対する感情も、既に失っていた。 ガウスが水面の手を浸すと、鏡の役割をしていた水は一瞬で蒸発してしまった。これで何人死んだのかも、どれだけの星がなくなったのかも全然気にならなかった。ガウスはかがみ込んで、右手をゆっくりと、本当にゆっくりと掲げた。
「ごめん・・・。レナ・・・。」
11月20日、ガウスとレナが出逢って丁度一年経ったその日に、世界は完全に消滅してしまった。
どうも。 なんというか・・・このSSってこんな話でしたっけ?いや、これやるって決まってたんですよ?でも実際に書いてみるとなんだか・・・。まぁ、過去編を何話も続けるのはアレなんで、2話ぐらいにまとめてみました。これでガウス君の過去編は終了です。 次回は一悶着あって、その次からまたハヤヒナに戻ります。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.46 ) |
- 日時: 2014/09/16 22:15
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
イラストの方も続いて投稿しています。前載せたのとは雰囲気が違いますが、アカリちゃんです。取り敢えず未来に戻ってハヤテにお弁当を作ってあげたという設定で描いてます。小さいですけど小学2年生ですから。 さて、今回で岳君のお話は終了です。ほんとにやっとですね。 それでは・・・ 更新!
「で、結局また世界を作り直して十分に力をつけたあと、外の世界に出てきたってわけだ。ちなみに俺が一人でここを出ることができたのは最初から外の世界に王を作って、城に縛られないようにしていたからなんだ。ある時は石に、ある時は植物に、ある時は人に、お前らの知ってるところで言うと三千院紫子なんかがそうだな。ん?どうした?」
「いや、岳さん・・・体が・・・。」
ハヤテたちは岳の体の変化に目を見開いていた。彼の身体はどんどん透明になっていき、その周りを白い光が包み込んでいる。まるで岳の話にあった、レナの最後のように・・・
「あ〜、もう時間か。簡単に言うとな、もう俺の存在が消えかかっているということだ。これくらいだったらあと1分ってところだな。」
なんで?それをハヤテたちが言うより先に岳が口を開いた。
「まぁ、この世界にきたのは下見だ。それからナギちゃんをここに連れてきた理由も、単に念を押したってだけの話だ。無理やり道を開いても良かったんだが、その反動でまた城のどこかが壊れても困るからな。だから丁度世界に絶望していたナギちゃんに道を開いてもらったってわけだ。お前に見捨てられて絶望していたナギちゃんにな。」
岳の声には誰にでも分かるくらいの皮肉が込められていて、ハヤテはそれに対して何も言えなかった。
「で、ここにまた戻ってきた理由は過去に戻るため。この世界と外の世界じゃ時間の流れが違うから、ここの過去に行きたい場合は絶対にここにいなければならなかった。そして、俺が過去に戻った理由、それは俺とレナを・・・
出会わせないためだ・・・。」
「「「「!!!!」」」」
岳はとても寂しそうな顔をしていた。
「レナは俺と出会わなければ消えてしまうことはなかった。俺と一緒にいなければ失うことはなかった。だから過去に行って、逃げた俺を追いかけるレナに嘘の道を教えた。絶対に俺と出会わない道を・・・。」
「でも、それは・・・。」
岳は自嘲的な表情をしていた。
「それから俺自身にはレナを避け続けるように言った。理由も全部話したし、こうして俺が消えているんだから上手くやってくれたんだろう。」
岳は嬉しそうな顔をしていた。
「多分、レナはここから抜け出しているだろう。もしかしたらぴったしここに現れるかもだろうから、その時はレナのことをよろしくな。」
もう岳の身体でハヤテたちの視界に映るのは上半身だけだった。見えなくなった部分には白い光が酷く幻想的に舞っていて、岳は泣きそうな顔をしていた。涙は・・・流れていなかった。
「悲しいけど、辛いけど・・・こうするしかなかったんだ。俺のいない世界でレナは笑って、怒って、そして泣くだろう。俺じゃない人のことを想い、その人と結ばれて幸せに過ごすんだろう。お前たちは、それを支えてやってくれ。」
「「「岳さん!!!」」」 「ガウ君!!!」
岳は・・・最後に笑っていた。
「俺は・・・レナのことが・・・」
ついに、岳の全身を白い光が包んだ。残酷なほど綺麗で、認めたくないほど輝いていて、悲しいほど神秘的なそれは、しばらく一箇所で揺らめいていた後、はじけて・・・消えてしまった。
そして、彼に代わるように人が立っていて、それはハヤテたちをこれまでの比にならないほど驚かせた。いや、一番驚いていたのはその人物だった。そこには・・・
岳が・・・立っていた。
第29話 『〜Encounter〜どんな過去でも』
「な、なんで・・・?」
「どんな過去でも・・・岳さまと、レナさんは出逢っていたということでしょう。」
いつのまにか落ち着きを取り戻したのか、伊澄がふとそんな言葉を口にした。岳はしばらく自分の身体を信じられないというような顔で見ていたが、やがて諦めたように両手をダラリと下ろした。
「そんなの・・・嬉しんだか、悲しんだか、分かんねえよ・・・。」
無言。それからは何とも言えない、身を圧迫するかのような静寂が続いた。言葉をかけてやらねばと口を開けても、その言葉が見つからずにすぐに閉じてしまう。だが、それは仕方のないことだった。ハヤテたちと岳とでは生きてきた年月も、その中で必死になってきたことの重さも、計り知れないほどの差があった。自分たちが何かを言う資格なんてないことぐらい痛いほど理解していた。
「なぁ、ハヤテ・・・。」
「は、はい!」
重い沈黙を破った岳の声色は、自分たちがさっきまで感じていた重さとは比較にならないほど重くて、そして黒く、恐怖すら覚えるほどだった。簡単に表せば、岳は怒っていた。
「これは八つ当たりだって自分でも理解してるから、別に答えなくてもいい・・・。お前は・・・何故、ヒナから距離を取った?」
「!!!」
ハヤテの身体が震えたのは岳に対する恐怖だけではなかっただろう。その質問をされた瞬間、自分の中の感情がぐちゃぐちゃに掻き回されたみたいで、めまいがするような感覚に襲われた。
「そ、それは・・・僕が、ヒナギクさんを幸せにすることができないから・・・。」
「じゃあ、俺の過去を聞いてどう思った・・・?」
ハヤテは何も言えなくなってしまった。これから自分が言われることなど簡単に想像がついた。ヒナギクたちも雰囲気に飲まれて割って入ることができず、ただ彼らを見ていることしかできなかった。
「自分の事情なんてむしのいい話だと思わなかったか?そりゃ、お前は俺ではないし、できないことだって数え切れないほどあるだろう。それでもお前が背負っているものなんて、ほんの小さいものだとは思わなかったのか?」
「ぼ、僕は・・・」
岳の責めてたてるような声は、ハヤテが言い訳するのを許さなかった。
「別にヒナを失うわけではないだろう?ヒナが消えてしまうわけではないだろう? それなのに幸せにすることができない!?甘えたようこと言ってんじゃねぇよ!たかが人間一人の力で誰かを一生幸せにすることができるなんて考えるな!毎日が不幸でも少しぐらい幸せだって感じることがあるだろ!いつか必ず幸せにするって誓うことができるだろ! そこにいるんだから!!存在しているんだから!!!」
彼の声は怒気より、まるで自分の願いが込められいるように感じた。
「それからヒナも、いつかハヤテは戻ってきてくれるなんてぬるい考えしてんじゃないだろうな!?相手のこと理解しているようなフリして、全部知っているようなフリして怖気づいてんじゃねぇよ!待っているだけじゃダメなんだって知っているなら自分から向かっていけよ!なんでそんなこともできないんだよ・・・!なんで、そんなことでウジウジできるんだよ・・・。 お前らズルいんだよ・・・。羨ましんだよ・・・。」
俯いた岳の表情はハヤテたちには分からなかった。ただ、辛くて、悲しくて、寂しくて、だけど泣いていないことだけは・・・はっきりと分かった。
「言いすぎたな・・・。すまない・・・。」
そう言って岳は背を向け、ハヤテたちについてくるよう首だけで合図した。彼が向かったのは天球の鏡のある部屋で、そこに着くと岳はハヤテたちに鏡の中、つまりは水のなかに入るように促した。彼の話によると白皇の生徒会室、天球の間につながっているらしい。よく考えればわかることだった。学院全てを見下ろすことのできる天球の間はここにある天球の鏡の役割をしていて、時計塔・・・ガーデンゲートのガーデンがさすのはこの庭城のことであること。白皇がアテネたち天王州家のものであることや、理事の一人に三千院帝がいればそれなりにつじつまが合う。
「ナギちゃんのことは心配ない。その身体を外に戻せばちゃんと意識がもどる。まぁ、三千院家の屋敷で呑気にあくびでもしながらだろうがな。」
「岳さんは・・・?」
「俺も一旦外に戻るよ。ここにいたってすることもないし、レナがいるわけでもないしな。別に諦めたわけじゃない。俺にはお前らと違って時間があるから別の方法を考えるさ。」
岳はニコリと笑顔を作った。ハヤテたちにはそれが作られたものだと分かっているはずなのに、完璧ともいえる彼の笑顔は心の底から笑っているように見えた。 そしてまず伊澄が入り、その次に咲夜、ヒナギクが入って、外に戻っていった。
「岳さん・・・。」
「なんだ?」
「僕にはまだ、どうすればいいか分かりません。あれだけ言われたのに、情けないですね。」
岳はハヤテの肩をポンと叩いた。
「あれはほとんど俺が心の内をぶちまけただけだからそんなに気にしなくていい。大切な人のことで悩むことができるんだから、今はそれを大切しておけ。」
「はい・・・。」
ハヤテは静かに外に戻っていった。それを見届けた岳はふと天井を仰ぎ、手をかざした。
「全く、俺はなんでこういうことばかりできるようになったんだか・・・。」
この手を少し集中して振り下ろせば、また世界を作り直すことができるだろう。そうすることでもしかたらレナがいる世界を作れるかもしれない。そんなことが頭をよぎったが、岳は単に手を下ろしただけだった。今更という感じもしていたし、レナという存在が特異なもので、運良く世界に現れることなどないことも、苦しいほどに理解していた。
「ごめん・・・。ごめん・・・。」
何度も同じ言葉を繰り返して、岳は水の中に身体をあずけた。
「本当に・・・ごめん。・・・・・・レナ。」
ザッ
どうも、ようやく岳君のお話が終わりましたね。ほんとにやっとって感じです。 取り敢えず自分なりに原作謎妄想してみましたが、矛盾があったらすいません。てか、無理やりこじつけた感が凄まじくてすいません。こういうのは多分これっきりです。多分。 さて、次回からはドキッ!ハヤテとヒナさんが急接近!?的な感じです。あ、すいません!お願いだから殴らないで! そ、それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.47 ) |
- 日時: 2014/09/26 04:00
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
岳君の話も終り、今回から本格的にハヤヒナやっていきます。あ、ちなみに自分の方針はハッピーですので、レナちゃんの話も後々やります。 それでは・・・ 更新!
ナギはいつも通り屋敷の、自分の部屋のベッドで目を覚ました。寝起きでダルイのも、少し小腹が空いているのも、もうちょっと寝ていたいのも毎日とさほど変わっていなかった。変わっていることがあるとすればいつもよりさらに遅い時間に起きたこと、そして・・・泣いていたことだった。
「あれ?なんで私は泣いているのだ?」
それがあくびと一緒に出てきたものではなく、純粋に悲しいから出ているものであることはすぐに分かった。
「あら、今日はいちだんと起きるのが遅かったですわね。何か悪い夢でも・・・て、な、何泣いているんですか!?」
マリアがいてくれることをこんなに嬉しいと思ったことがいつぶりだったかは思い出せない。ただナギは、マリアの声が聞こえた瞬間からポロポロと涙をこぼしていて、マリアがいつも通り呆れ顔で部屋に入ってきたのを見た時にはもう顔がぐしゃぐしゃになってしまっている程だった。
「マリアぁぁ・・・!!!」
「ちょ、ちょっと!いきなりどうしたんですか!?」
ナギは思わずマリアに抱きついていた。マリアはナギの様子にワケが分からず慌てていて、取り敢えず彼女の具合が悪いのかと質問したが、ナギは首を左右に振り、そして謝った。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
「い、いきなり何を謝って・・・」
ナギがメイド服をぎゅっと握ってきたのを見た時、マリアには彼女の気持ちが少し分かったような気がした。だから何も言わず、ただ、小さい自分の主を抱きしめてあげた。
「早起きもする、学校だってちゃんと行く。もう迷惑かけないから・・・だから、どこにも行かないでくれ・・・。一人は・・・一人は嫌なのだ・・。マリアまで居なくなったら、私は・・・」
「生活を改めてくれることはとても嬉しいですが、たとえそうでなくても、私はナギの傍にいますよ。ずっと傍にいます。だから・・・大丈夫ですよ。」
すすり泣くナギにマリアがかけた言葉は決して多くはなかったかもしれない。しかし、今のナギにはそれで十分だった。未来でどうなるか分からなくとも、今、ここにいてくれると誓ってくれたことが、何よりも彼女の心を満たしていた。 大丈夫、その言葉だけが何度も繰り返し聞こえてきて、ナギは本当に幸せだと思ったが、それでもあと一つだけ足りないものがあることにもちゃんと気づいていた。今更自分に嘘はつけない。もっと自分の心に正直に、そして素直に生きなければいけないと思った。
ここに、ハヤテがいてくれれば・・・そう思った。
その次の日、11月21日の昼ごろに、三千院家に客の来訪を知らせるチャイムが鳴った。
「あら、ヒナギク・・・さん?」
ヒナギクと酷似しているナギぐらいの大きさの少女は、マリアには何も言わず、ただナギに会いたいと言ってきた。取り敢えず信用できそうな少女だったので屋敷に通し、ナギの部屋まで案内した。
「お、お前・・・」
「ナギお姉ちゃん!行くよ!」
「へ!?行くってどこに!?てかそんなに引っ張るなー!!!」
ナギはそのまま連れて行かれてしまったが、マリアはあまり気にしないで、別のことを考えていた。
「それにしても、あのヒナギクさんに似ている子、誰だったのかしら?なんかハヤテ君みたいな面影もありましたし、もしかしたら未来から来た二人の子供とか・・・て、そんなことありえませんわね。」
自分の言った事を軽く笑い飛ばしながら、マリアは屋敷の掃除に戻っていった。このときのマリアは、まだアカリのことを知らなかったのである。
第30話 『Heart of Flower』
11月21日、庭城から戻ってきた次の日、ハヤテはバイトも放ったらかしで岳の家で一人悶々としていた。昨日岳に言われたことが引っかって何もする気にもなれず、だからといって気持ちが晴れることもなかった。自分のやり方が間違っていることも痛い程分かっていたし、自分が今何をするべきなのかも分かっているはずなのに、どうしても一歩を踏み出すことができずにいた。
「僕は・・・何をやっているんだろう?」
ハヤテがそう呟くと同時にリビングのほうから大きなため息が聞こえた。覗いてみると岳が椅子に座っていて、背の部分に全体重を預けているような感じでだらしなくくつろいでいた。
「はぁ〜、いっそもう一回世界滅ぼしてみようかなぁ・・・。」
なんだか物騒なことを言いながら。
岳の正体を知っているハヤテにとってはシャレにならないことだったので、念のためやめてもらうよう話しかけた。岳は冗談だと言って呑気にお茶を飲んでいたが、それでもハヤテには冗談には聞こえなかったのだ。
「まぁそんなに心配するなって。さすがに反省してるから今はそんなことをするつもりはない。」
「今は!?今はって言いましたよね!?」
「ま、最終手段ってことだ。それじゃ、俺は出かけてくるから。バイト行かないんならアカリちゃんと留守番よろしくな。」
まだ朝は早く、アカリはまだ起きていなかった。もっともハヤテが一睡もできていなかっただけで、彼女が起きるのが遅いというわけではない。むしろヒナギクと同じくらいの早起きである。 岳が出て行ったあと、ハヤテは朝食の準備をしてアカリを起こしに行こうとしたが、ドアを先に開けたのはアカリの方だった。さすが早起きである。
「あ、おはよう、アカリ。」
「おはようパパ・・・。」
「朝ご飯はもうできてるから、顔洗って着替えてきてくれる?」
「は〜い。」
ハヤテは少しおぼつかない足取りで歩いていくアカリの背中を、しばらく見つめていた。髪をまだ結っていない彼女は本当にヒナギクに瓜二つで、本当に娘なんだなと改めて実感させられた。
(僕とヒナギクさんが結婚しなかったら、アカリはいなくなっちゃうんだよな・・・。)
ハヤテはアカリのこと、ヒナギクのこと、そして自分自身のことを考えていると頭が破裂してしまいそうなほどに悩んでしまい、もうどうしていいか分からくなってしまっていた。それこそ顔に出てしまう程で、朝食の時にアカリから心配されてしまった。
「なんかパパ、今日元気ないみたいだけど・・・大丈夫?」
「へ?いや、いつも通りだよ。いつも通り・・・。」
そう言ながらハヤテが箸を口に運んだ直後、アカリが盛大にため息をついた。
「まったく、パパもママも、本当に嘘をつくのが下手だよね・・・。」
「え?」
アカリは礼儀正しく箸を置いたあと、ハヤテに真剣な表情で向かいあった。ハヤテはそんなアカリにポカンとしていたが、彼女は気にせず話し始めた。
「パパはママのこと・・・好き?」
「はへ!?い、いきなり何を・・・」
「いいから・・・!」
ハヤテは知らないが、今のアカリの表情は、彼女がヒナギクにハヤテのことを好きかと尋ねた時と、全く同じ顔をしていた。つまり、どんなに真剣かがハヤテにも伝わってきたのである。
「好き・・・だよ・・・。」
小さくそう答えたハヤテの顔は彼自身でも分かるくらいに情けないものだった。ハヤテはそんな自分が嫌で、そんな自分の表情を娘に見せたくなくて、俯いてから顔を上げようとしなかった。
「こんなこと言ったら岳さんに怒られるんだろうけど、それでも、僕には・・・ヒナギクさんを幸せにできる力がないから・・・。」
バンッ!!!
それはアカリが机を叩いた音だった。それにビックリしてハヤテが顔を上げると、アカリが机越しに詰め寄ってきた。
「そんなことない!!」
「そ、そんなことないって・・・未来で僕がヒナギクさんを幸せにできてないって言ったのはアカリのほ・・・」
「あ、あれは嘘!!!言葉のあやって言うか・・・と、とにかく!あれは嘘だったの!」
あからさまに「え〜」という表情をしているハヤテにアカリは申し訳無そうに俯いた。
「だって・・・だって・・・」
「!!!」
心配して席を立ち、向かい側のアカリのところまで行った時にはじめて、ハヤテは彼女が泣いていることが分かった。
「私、パパが優しいってこと・・・気づいて・・・なかったんだもん・・・。」
「な、なんでそれでアカリが泣くのさ。未来での僕が悪いんじゃ・・・」
「パパは・・・パパは未来にはいないの・・・。」
「!!!」
その言葉にハヤテは目を見開いた。しかしそれは当然の反応で、未来に自分がいないとすれば、それは・・・
「僕・・・死んでるの?」
「分からない。でもパパは私が物心ついたときにはもういなくなっていて、だからといってお墓とかそういうのもないし、ママは何にも言ってくれないけど・・・ただ、絶対に帰ってくるよって、凄く悲しそうな顔で言うの・・・。」
アカリが抱きついてきたのをハヤテは反射的に受け止めたが、その手には力が入っていなかった。アカリがハヤテのことを好きではなかったのは、結局ハヤテのことをよく知ることすらできていなかったのが原因で、そして結局、ハヤテはヒナギクのことを悲しませることになる。その運命を突きつけられて、ハヤテの頭の中は黒く塗りつぶされてしまった。
「パパ・・・?」
「ごめんアカリ、いきなりだったから頭の整理をしたいんだ。少し散歩に行ってくるけど、留守番よろしくね。」
そう言ってアカリから身を離し、ハヤテは出て行ってしまった。
「でも、パパの話をするママは・・・とても楽しそうな顔もしているんだよ・・・。」
アカリの言葉は、ハヤテが閉じたドアによって遮られてしまった。
アカリも予想はしていたが、ハヤテは2,3時間たっても戻ってこなかった。その代わりとして、岳は戻ってきていたが。
「で、アカリちゃんはハヤテとヒナの仲を戻そうとしたけど、逆効果になってしまってどうしていいか分からなくなってしまったと・・・。」
一部始終を話したら、それを簡単にまとめられてしまったが、アカリはコクンと小さく頷くことしかできなかった。
「アカリちゃんはまだ自分が消えてもいいって思っているのか?」
「・・・あんなこと言ったけど、本当は消えたくなんかないよ。私、ママと・・・パパの娘でいたい。」
「じゃぁ、そうハヤテに伝えればいい。さすがにそこを言われるとあいつも覚悟を決めるだろうさ。」
ハヤテの性格や、アカリが彼の娘であることをふまえて、岳はそんな意見を出した。少し縛ってしまう感じもあるが、そうでもしないと動かないのも事実なのだ。それでもアカリは、岳の意見に頷くことはできなかった。
「そうしたら、きっとパパは笑わなくなる。いつかママを悲しませることに怯えてしまう。それじゃダメなの。もっと・・・ちゃんと幸せになって欲しいの。」
岳は思わずため息をついてしまった。
「まったく、親子そろって理想が高いというか・・・。」
「?」
岳は不思議そうな顔をしているアカリの頭に手を置き、そのまま撫で始めた。
「ま、ハヤテもヒナもいいやつで、娘であるアカリちゃんも、本当にいい子ってことだ。」
アカリは少し納得のいかなさそうな顔をしていたが、そのことについて特に噛み付いたりはしなかった。自分の両親がいい人だと言われたことが嬉しかったし、そして、岳に撫でられていることで少し気分が落ち着いた。 それでも問題が解決したわけではなかったが、岳は他に解決策を考えていないわけではなかった。ただ、それはアカリにとってシンプルで分かりやすく、そして抽象的な答えだった。
「でも、アカリちゃんが言うようにハヤテを本当に幸せにしたいんだったら、取り敢えず頑張るしかないな。」
それを岳が言い放ったあと、少し間が空いた。結構重大なことについて悩んでいて、それは彼も知っているはずなのに、出てきた答えが「頑張れ」。アカリでなくとも不満を持つだろう。
「えっと、岳さん?なんかちょっと投げやりすぎな気がするんだけど・・・。」
「そうか?俺は結構まっとうな答えだと思うぞ?それに、頑張るのはアカリちゃんもだけど、ハヤテと・・・それからヒナもな。」
その言葉にアカリは何かを見つけた気がした。思わず岳の顔を見てみると、彼はニコニコと微笑んでいた。
「ハヤテなら公園にいるだろうけど、その前にナギちゃんのところに行くといい。ハヤテが今抱えている借金をどうにかしてくれるだろう。」
「でも、パパはそれじゃ意味がないって。」
「勿論、その後のことは俺がちゃんと片付けとく。それに、今優先しているのはハヤテとヒナの幸せ、だろ?」
アカリは知らないが、岳は一応神様なのだ。その気になれば借金の存在自体を消すことも、誰かの記憶を改竄して誤魔化すこともできる。彼がそれをやらないのは面白さ半分、そしてハヤテたちに頑張ってもらいたい気持ちが半分なのである。ただ、岳は力を合わせてもどうにもならないこともある事を知っているから、少しだけ力を貸すのだ。 彼の正体を知らなくとも、アカリには岳がなんとかしてくれると信じることができた。
「うん!それじゃ、行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい。」
アカリの姿が見えなくなっても、岳はしばらく手を振っていた。
ハヤテは公園のベンチに座っていた。
「未来に僕はいない・・・か。」
アカリからこれを聞いたときは正直信じることができなかった。しかし、最初のアカリの自分に対する接し方などを考えてると、それが事実なんだと嫌でも実感させられた。
「ヒナギクさんに迷惑をかけてないだけマシなのかもしれないけれど、それでも・・・。」
どうやっても彼女を悲しませるという事がどうしても受け止めきれずに、ハヤテはただ頭を抱えて悩むことしかできなかった。岳に頼み込むという考えも浮かんだが、それも一瞬で消えてしまった。20代で亡くなる人間などたくさんいるというのに、自分だけというのはムシが良すぎる話で、ハヤテの性格ならなおさらだった。仮に頼み込んだとしても、岳も了承しないだろう。
「なんで・・・こうなっちゃったのかな・・・?」
泣きそうなくらいに打ちひしがれていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。それは名前で呼ばれたわけではなかったが、それでも自分を呼んでいるとわかったのは、大切な存在だったからだろうか。
「パパ!!」
「あ、アカリ!?それと・・・お嬢様!?」
「三千院さん、じゃないのか?」
ナギの皮肉たっぷりの発言にハヤテは俯いてしまった。反省だってしているし、後悔すらもしていた。だからそこを突かれると胸が張り裂けるほどに痛かった。
「もう!ナギお姉ちゃん言い過ぎ!」
「あーはいはい。親子そろってまったく・・・。」
アカリとナギは隣に並んでいるだけで、まるで姉妹のように見えた。顔立ちが似ているというわけではないが、雰囲気的に、そう感じられた。
「ところでハヤテ。」
「は、はい!」
「お前、ヒナギクのところに行かなくていいのか?」
いつの間にかナギたちはハヤテの目の前まで来ていて、アカリはハヤテに抱きついていた。ナギはそれをジト目で睨みながらも、彼の言葉を辛抱強く待った。
「僕には・・・ヒナギクさんと一緒にいる資格も、力もないんです。運命にだって見放されて、結局は悲しませてしま・・・」
「そんなことないもん!」
それは朝と同じだった。アカリはハヤテの腕の中でまた泣いていた。
「パパは弱くなんかない!ママと一緒にいる資格だってある!それにパパは優しいもん!ママだってそこが一番好きだって言ってたもん!」
ハヤテはなんとかアカリを落ち着かせようかしたが、彼女は泣き止まず、ハヤテに訴えるのもやめなかった。
「パパは優しいから、私たちをおいてどこかに行ったりしない。ママも、私も、パパのこと大好きだから・・・パパのこと、信じてるんだよ?だから・・・大丈夫だよ・・・。」
「アカリ・・・。」
最後のほうはとぎれとぎれになってしまっていたが、ハヤテには彼女の言いたいことがきちんと伝わっていた。
「前にも言っただろ?本当の愛は、不運なんかに負けないって。」
「お嬢様・・・。」
少しだけ、本当に少しだけ、ハヤテは気持ちが晴れたような気がした。
「ま、ナギちゃんとアカリちゃんの言うとおりだな。」
気がつくと岳まで来ていて、ナギの肩をポンと叩いていた。
「お前が幸せになったからって誰も咎めやしないし、事情があるのなら、お前がヒナを悲しませても誰も怒ったりはしない。それにそんな世界があっても・・・ヒナが壊してくれるんだろ?」
「!!!」
-私がその世界を壊してあげる-
-ハヤテ君のために、ハヤテ君の隣にずっといるから-
-悲しくて泣いているときは私が手をかしてあげる-
ハヤテは忘れていた。
夕方の生徒会室、二人きりで街の景色を見たこと・・・
彼女が自分を必要だと言ってくれたこと・・・
彼女が優しい言葉をかけてくれたこと・・・
-絶っっ対に笑いなさいよね-
ヒナギクの差し伸べてくれた手がとても温かかったことを。
この時はまだ、愛なんて呼べなかったのかもしれない。恋だと言ったならば、きりがなかったのかもしれない。咲き始めた想いは、大きなものではなかったのかもしれない。でも、ハヤテにはそれで良かった。 それがよく分からなくてモヤモヤした感情でも、本当は叫びたいほどに胸を焦がす感情でも・・・心地よかった。
「ハヤテ、お前がヒナギクのことを好きなら私はお前たちを応援する。だからちゃんと幸せになれ。本当はどうなるか分からない未来より、今を精一杯に生きろ。そうじゃなければ、お前もヒナギクも、幸せではないだろ?」
ナギに言われるまでもなく、ハヤテは気づいていた。 いろんなことがあって、自分のこととか、ヒナギクの幸せとか、アカリやナギ、自分と関わりのある全ての人のことなどを考えていると、何が正しいのかが分からくなっていた。 ハヤテはアカリを抱きしめる腕に、優しく力を込めた。
「アカリ・・・ありがとう。僕はもう、大丈夫だから。」
「ホントに?もう悩んだりしない?」
「それはちょっと難しいかな。でも、今やらないといけないことは・・・ちゃんと分かってるつもり。」
「・・・。そっか・・・。」
アカリはハヤテから身体を離したあと、涙を拭って、ニコリと笑ってみせた。ハヤテも彼女に笑いかけ、優しく頭を撫でてあげた。
「パパの方が気持ちいいや・・・。」
「ん?どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。」
アカリの嬉しそうにしている顔が、ハヤテの出した答えとも言えるのかもしれない。 庭城で岳が言ったように、人間一人、いや、たくさんの人が力を合わせたとしても、人の一生を全て幸せにするのは無理な話なのだ。少しでもいい、今だけでもいい、いつかの話でもいい。一番は大切な人をどれだけ多く幸せにすることができるかなのだと、今のハヤテはそう結論をだしていた。
「岳さん。ヒナギクさんは今どこにいるんでしょうか?」
「むこうで待機中だ。でも、その前にナギちゃんからあと一つ大事な話があるみたいだぞ?」
「お嬢様が?」
ナギの方を見てみると、彼女は恥ずかしそうに俯いていた。ハヤテはその様子にどこか既視感を感じ、その答えは案外早く見つけることができた。それは鷺ノ宮邸の地下でギルバートを巨大ロボごとボコボコにした後のこと・・・
「は、ハヤテ・・・?私はさ、我が儘で、いつもお前やマリアに迷惑をかけてばかりだけど、それでもお前のことがす・・・好きだ。お前がヒナギクを選んでも構わない、だからせめて・・・せめて・・・!」
執事として戻ってきてくれ、そうナギは言うつもりだったが、つもりだっただけで言うことはできなかった。それは申し訳ないという理由もあったが、一番はハヤテがナギを抱きしめたことだった。
「ありがとうございます。お嬢様・・・。」
「ふぇ!?は、ハヤテ!?お前ヒナギクのことが好きならこんなことしちゃ・・・!!」
それでもハヤテはナギを離さなかった。
「ホント、パパって相変わらずだね。」
「さすが天然ジゴロだな。」
すっかり蚊帳の外になっている二人からのジトーとした視線も気にしなかった。半分ほど・・・。 そんな雰囲気がぶち壊れた中でも、ハヤテはナギに伝えたいこと、伝えなければいけないことを口にした。
「僕は、ヒナギクさんのことが好きです。異性としてではありませんが、お嬢様のことだって大好きです。だから、もう勝手に執事を辞めるようなことはしません。約束します・・・。」
本当はもっと伝えなければいけないこと、謝らなければいけないこと、感謝しなければいけないこともあったのだが、今は少なくてもいいと、ハヤテは思った。それは自分の言葉にナギが微笑んでくれたから。
「そっか・・・。だったらハヤテ。もう一度・・・」
ナギはもう執事に戻って、と言うつもりはなかった。最初も、二回目も、そして今回も、この言葉がふさわしいと思った。
「私の執事を・・・やらないか?」
「はい!お嬢様!」
そう言ってハヤテは一度だけ頭を下げ、さっき岳が指した、ヒナギクのいる場所へ走っていいた。ナギは嬉しさなどからしばらくボーっとしていたが、肩に手を置かれて我に返った。
「道には飛び越えられるくらいの水たまりができていて、空にはぽつりとちぎれ雲が浮かんでいる。そんな雨上がりの空は・・・好きか?」
ナギは少しだけ悩むふりをしたが、そのことに意味はなかった。ただ、こういうのは雰囲気が大事で、漫画っぽくしたかった。
「うむ!大好きなのだ!」
どうも。 今回はアルバム「HiNA」から「Heat of Flower」を使わせて頂きました。ま、少しですけど。個人的には途中で「Power of Flower」が入っている部分が好きですね。 さて、今回はなんかギザったらしくなりましたけど、ようやくハヤテが覚悟を決めました。実を言うと次回がクライマックスです。最終話でありませんし、泣けるかどうかも怪しいですけど。ほんぼのした感じには・・・もうちょっとかかるかな?岳君とレナちゃんの話があるので。 あ、ちなみに未来のハヤテのことですが、別スレでやるつもりです。前々から言っているアカリちゃんがハヤテを拒むようになった理由の詳しい話ですね。実際この回でばらすつもりはなかったんですが、流れ的にヤッちゃいました。てへぺろ☆ ま、最悪の話になると岳君を使えばなんとかなりますけど、彼はそんな性格ではありませんし、大体に流れもできているので、中編ぐらいでやりたいと思っています。 ということで次回は・・・て、もう話したのも同じですね。取り敢えずハヤテが泣きます。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.48 ) |
- 日時: 2014/09/27 07:08
- 名前: どうふん
- タッキーさんへ
投稿は一休みしているどうふんです。 それでも時々見に来ています。 久し振りにタッキーさんの作品を読ませていただきました。
最近、オリジナルキャラの岳さんが大活躍ですね。 正直なところ、私は能力的・精神的に完璧すぎて弱点を持たない超人・超越的な的なキャラクターは苦手です。 そのため(あくまで私の個人的な趣味ですので気を悪くしないでほしいのですが)ずっと岳さんにも違和感があったのですが、最近の岳さんの苦悩を見て思い直しました。 岳さんにとってもハッピーエンドを期待しています。
あと、過去の投稿で感想を述べておきますと、印象に残っているシーンが一つ、あります。 ヒナギクさんが他の男子と仲良くするのを見て「嫉妬するハヤテ」これは新鮮でした。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.49 ) |
- 日時: 2014/09/28 00:13
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
いよいよ二人の関係に決着がつくのでしょうか。楽しみです。 アカリちゃんにナギと、ハヤテを理解してくれる人が着実に増えていっていよいよクライマックスの予感がひしひしと。がんばりや!
また、"Heart of Flower"と言いながらもヒナが出ないあたりにこだわりを感じました。 大好きな曲なんで、こーゆー前向きな展開で使ってくれていると嬉しくなっちゃいますね。
今回は短いですがこのへんで。 次回も期待しております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.50 ) |
- 日時: 2014/09/28 03:08
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
はじめに、参照が3000を超えました。このSSを読んでくれた方々、本当にありがとうございます。そろそろ完結が見えてきたので、これからもよろしくお願いします。
さて、今回はレス返しです。なんというか、感想をくれる人が増えるととても嬉しいです。もう涙腺崩壊中です。
まずはどうふんさん。 一休みということはいずれ投稿されるんでしょうか。楽しみですね〜。 個人的には岳君みたいに主人公補正すらも消し飛ばしてしまうようなキャラはいてもいいんじゃないかと思っています。まぁ、オリキャラは自分の趣味や憧れで入れてますし、他人と趣味が食い違うというのはよくあることですからぶっちゃけ平気ですよ。それに自分は「ハヤテのごとく!」という漫画が好きな人であれば誰でもウェルカムです。 でも、岳君のことを思い直してくれたのはとても嬉しかったです。それに、これからの彼には意外な弱点が出てくるかもしれませんよ?そして、ハッピーエンドは任せてください!
ハヤテはなかなか嫉妬してくれませんからね〜。個人的にこれは前々から考えていたんですが、こういうのはなんだかか好評なようで良かったです。
次はロッキー・ラックーンさん。 本当にいよいよですね。もう、ここまで散々引っ張ってすいませんって感じです。 ハヤテは一人で頑張ろうとしてましたけど、結局はみんなから助けてもらうんですよね。一概には言えませんけど、それが正解に近いことにハヤテが気づくのが岳君の話だったんですが、なんだか分かりにくかったですね。なんとうか、文才が欲しいです。 まぁ、それでも次回のクライマックスは頑張りますよ!よっしゃー!なんかやる気出てきたー!(今から書くわけじゃないですよ?
こ、こだわり!?も、もちろんありますとも! と、まぁ冗談は半分置いといて、このSSではハヤテも、もちろん他の人も恋をしちゃっているので、そんな淡い恋心などに「この曲あてたいな〜。」と思ったときに彼女の曲を使っています。曲自体も前向きなものが多いので、今回のような展開にはもってこいなんですよ。ホント、ヒナさんと声優の伊藤静さんには感謝感謝です。
さて、次回は本当に大切な回なんで自分も気合を入れていきます!まぁ、それでなんかグダっているのもあるんですが・・・ と、とにかく!次回もがんばるぞい! 最後に、どうふんさん、ロッキー・ラックーンさん、感想ありがとうございました。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.51 ) |
- 日時: 2014/09/30 15:24
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
このSSもやっと完結が見えてきました。自分でもここまで長くなるとは思わなかったです。アフターまで書き終えたら後日談の一話完結を少しやって、別スレに入ろうと思います。まぁ、これも後日談の続きみたいなものですけど。 さて、今回はクライマックスです! それでは・・・ 更新!
11月21日、ヒナギクはいつも通り学校に行き、昼休みを利用して生徒会の仕事を片付けていた。正直、昨日の今日で生徒会室に行くのは抵抗があったが、何かをして気を紛らわせていないとどうにも落ち着かなかった。
「私、どうしたらいいのかしら・・・?」
ヒナギクがそうつぶやくのと、ノックの音が聞こえたのは同時だった。そしてヒナギクの返事を待たずに扉は開き、意外というか、予想通りというか、岳が軽く挨拶をしながら入ってきた。
「おっす。別に無理してここに来なくても仕事なら俺がやっといたのに。俺のせいでもあるんだからさ。」
「これは生徒会長である私の仕事だからガウ君にしてもらうわけにはいかないでしょ。ていうか、今日も欠席じゃなかったの?」
実のところ、ハヤテと同じで岳も一週間ほど学校には来ていなかった。だからここに来たのは何か理由があるんじゃないかとヒナギクは踏んだのだが、その件は岳にあっさりと流されてしまった。
「そんなことよりハヤテが今公園にいるんだけど・・・行かなくていいのか?」
「は、ハヤテ君が!?」
岳はヒナギクの予想通りの反応にふっと微笑んだ。いや、ニヤニヤしていたの方が正しいようだ。
「もしかしたらヒナに用があって待ってたりしてな〜。」
「ちょ!?そんなこと早く言ってよ!てか私はなんの連絡も受けてないんだけど!?」
「ま、ハヤテが公園にいること以外ウソだけどな。」
「ウソ!?なんでそんなウソつくのよ!?」
ノリのいい返しをしてくれるヒナギクの頭に手を置き、岳は今度こそちゃんと微笑んだ。そんな彼にヒナギクはすっかり大人しくなってしまっていた。
「そりゃ、お前たちを応援してるからだよ・・・。」
「え・・・?」
「え?じゃねぇよ。でもまぁ、お前らがくっつくないと個人的にしっくりこないからだけどな。」
岳はそう言ってヒナギクを撫でていた手を離し、扉の方へ向かった。
「じゃ、俺は先に行ってるから。」
「え!?ちょっと!!」
最後にニコリと微笑んで、岳は扉を閉めた。生徒会室に取り残されたヒナギクはしばらくつっ立っていたが、やがて扉のとってに手をかけて少し乱暴に開け放った。
「私だってこんなのらしくないって分かってるわよ!もう!」
声をかけてくる生徒たちを軽く流しながら、さらには校舎を全速力で駆け抜けたので、校門を出るときには既に呼吸が肺に追いつかなくなっていた。それでもヒナギクが自分の体が軽いと感じるのは、いろんなものがふっきれたからだろう。
「ヒナギクさん・・・。」
「ハヤテ君・・・。」
ヒナギクが公園についてからハヤテを見つけるのには、あまり時間はかからなかった。
第31話 『Paenitet〜そして〜』
ハヤテとヒナギクはしばらく何も言わず向かい合っていたが、その沈黙を破って先に口を開いたのはハヤテの方だった。
「ヒナギクさん・・・僕は・・・!」
「ま、待って!!」
ハヤテの言葉を止めたヒナギクは少しだけ悲しい顔をしていた。ハヤテの言おうとしていたのは十中八九、告白だろう。だからそれを止めることに戸惑いもしたし、後悔もした。しかしヒナギクにはその前にはっきりさせておきたい事があった。
「こんな時に言うことじゃないかもしれないけど・・・なんで、私たちから距離を取ったの?」
ヒナギクはハヤテの事情について、本人はもちろん、アカリや岳からも聞かされていなかった。実際には岳がアカリに口止めをして、ヒナギクには知られないようにしていたのだが、ハヤテはてっきり知っていると思い込んでいたため、驚きで最初は上手く説明できなかった。 それでも落ち着きを取り戻してちゃんと事情を話したが、申し訳なさでハヤテは思わず俯いてしまった。
「・・・だから、せめてヒナギクさんの居場所だけでも守ろうと・・・していたんです。」
「・・・」
また無言の時間が始まった。ハヤテは俯いたまま顔を上げず、ヒナギクの反応を待っていた。怒られることや、叩かれるかもしれないことは覚悟していたし、嫌われたかもしれないということも考えた。それでも気持ちだけは伝えたくて・・・ただ、待っていた。 そしてついにヒナギクの口が開いたとき、ハヤテは思わず目をギュッと閉じてしまった。
「私もハヤテ君のやり方が正しいとは思えない。現にナギや歩や・・・私も、たくさん傷ついた・・・。」
「そうです・・・。だから僕は何を言われても、殴られたとしても・・・仕方ありません・・・。」
「そう・・・。」
ヒナギクはゆっくりとハヤテに近づいてきた。ハヤテは目を開けることができず、足音でそのことを感じ取っていた。 自分たちの立っている場所がコンクリートだからなのか、ヒナギクのスニーカーの音がコツコツと響き、それが一つ聞こえる度にハヤテの心臓はその鼓動を速くしていた。やがて足音が聞こえなくなり、ヒナギクがすぅ、と小さく息を吸い込む音が聞こえて、ハヤテはつむっている目にさらに力を込めた。
「それじゃ・・・
ありがとう・・・。」
「!!!!!!」
ヒナギクはハヤテを抱きしめていた。いや、抱き寄せていたの方がより正確だろう。
「な、なんで・・・?」
「なんでって、ハヤテ君が私を守ろうとしてくれたからに決まってるじゃない・・・。」
「で、でも!!僕はヒナギクさんや、お嬢様!ほかにもいろんな人に迷惑をかけて!傷つけて・・・!なのに・・・なんで、僕を責めないんですか・・・?何を言われても、殴られたって構わないって・・・さっき、言ったじゃないですか・・・。」
今にも泣き出してしまいそうなハヤテに、不謹慎にもヒナギクは微笑んでいた。
「だって・・・」
別にヒナギクはその台詞を知っていたわではない。本当に彼女の本心そのものだった。しかしそれはハヤテにとって一番といっていいほど嬉しかった言葉であり、そして、もしかしたら今この状況で彼が一番言って欲しかった言葉だったのかもしれない。
「ハヤテ君の心が・・・
助けてって叫んでいることも、聞こえてたから・・・。」
「!!!!!!」
これはヒナギクの「ありがとう」以上に衝撃だった。 ヒナギクは自分の背中に手が回され、そして肩がだんだんと濡れ始めているのを感じて、再び微笑んだ。彼女があやすように後頭部を撫でてきたときにはもう、ハヤテは泣くのを抑えることすらやめてしまっていた。
「僕・・・ずっと謝りたくて・・・でも、どうしていいか分からなくて・・・。」
「うん、分かってる。でも一番つらかったのはハヤテ君だって私知ってるから・・・別にいいのよ。」
「それでも・・・!」
ハヤテの腕に力が入った。少し痛いくらいだったが、それでもヒナギクはハヤテの頭を撫でるのを止めなかった。
「それでも・・・
ごめんなさい・・・。
ごめんなさい・・・ヒナギクさん・・・。ゴメン・・・なさい・・・。」
ヒナギクをギュッと抱きしめながら泣いているハヤテはまるで子供のようで、少し頼りない感じがした。それでもヒナギクはそれをカッコ悪いとは思わず、むしろこうやって自分の心をさらけ出してくれていることを嬉しく思っていた。
「ハヤテ君って、結構泣き虫よね・・・。」
独り言のようにつぶやいとたき、ヒナギクは自分も少し泣いていることに気づいた。しかしヒナギクはその理由について考えるようなことはせず、ハヤテを抱きしめる手に力を入れるだけだった。ハヤテと同じくらいに・・・ギュッと・・・。
やがてお互いの体を離し、ハヤテは赤くなった目を擦りながら、ヒナギクも少しだけ涙を拭いながら・・・そして両方とも笑顔を作った。作ったと言っても作り笑いなどではなく、心の底から笑っていることはどちらも分かっていた。 その後はまるで最初のような沈黙があったが、それを破ったのもまたハヤテだった。
「ヒナギクさん。」
「あら、もう泣いちゃダメよ。前にも言った通りハヤテ君には笑顔が一番似合うんだから。」
ヒナギクの茶々入れでハヤテは顔は苦笑いになってしまったが、すぐに元の笑顔にもどした。
「ははは・・・。でも、最後にもう一回言わせてください。」
ハヤテはそう言って深く頭を下げた。ヒナギクも今度は何も言わず、ただそれを見ていた。
「ヒナギクさん、ごめんなさい。そして・・・
好きです・・・。」
顔を上げたハヤテにヒナギクは見とれてしまっていた。さっきまでの笑顔とは比較にならないほどの笑顔で、とっても綺麗だと、そしてこれを見ることができるは世界で自分一人だけではないかとすら思った。 そして自分の顔がどんどん熱くなっていくのに気づくと同時に、ハヤテが返事を待っていることにも気づいた。ゆっくりと一歩を踏み出し、少しだけあどけない足取りで再びハヤテの傍まで行き、今度は彼の右手を掴んだ。
こんな風に告白されたら泣いてしまうかもと考えたこともあったが不思議と涙は出てこないで、その代わり、ヒナギクはハヤテと同じくらい笑っていた。
「私も、ハヤテ君のことが・・・好き・・・です。」
とぎれとぎれになってしまったのはやっぱり恥ずかしかったからだが、それでも今はちゃんと気持ちを伝えることができたのが嬉しかった。 気づくと頬に手が添えられていて、ヒナギクが顔をあげるとハヤテがじっと覗き込むような形で見ていた。
「リベンジ・・・してもいいですか?」
この前はアカリに邪魔されて良かったと考えていたが、今はそんな気は微塵もなかった。 ヒナギクが小さく頷くと、前と同じようにハヤテが顔をゆっくりと、本当にゆっくりと近づけてきた。しかし今回は怖い気持ちはなく、ヒナギクもそっと目を閉じることができた。 ヒナギクが目をつむる前に見たハヤテの顔は相変わらず最高の笑顔で、ヒナギク自身も最高の笑顔をしていたと自負していて、本当に、ほんとうに幸せだと思った。だから決して泣いていなかったはずなのに・・・
ハヤテの唇は・・・ヒナギクのファーストキスは・・・
少しだけ、しょっぱい味がした・・・。
どうも!どうも!!どうもです!!! いやぁ〜、やっとくっつきましたよ。 あ、ちなみにサブタイの「Paenitet」というのはラテン語で「ごめんなさい」という意味です。もちろん翻訳サイトで調べました。 ハヤテが謝っているのは原作25巻4話の「木の芽風」みたいな感じをイメージしていただけたら嬉しいです。 さて、次回からはほのぼのとした感じに・・・なりません。すいません、まだ岳君とレナちゃんの話があるのでもうちょっとかかりそうです。でもハヤヒナの話に混ぜてやるつもりなので庭城の話のときみたいにはならないと思います。 取り敢えず次回は結局やれなかったハヤテと岳君の誕生日会のリベンジと、ハヤテとヒナさんへのお祝いを兼ねたパーティーです。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.52 ) |
- 日時: 2014/10/04 19:27
- 名前: どうふん
タッキーさんへ
クライマックス拝見しました。 私のイメージするシーンと似ていて気に入りました。 まだ、謎は多いですが、解明までお付き合いしますので頑張って下さい。 本作品のキモとなるのは母性愛に満ちたヒナギクさん、ということですかね。 原作を基準に考えればむしろマリアさんやアテネが持っているものだと思いますが、冒頭といい、今回といい、悩み苦しむハヤテにそっと寄り添うことができるヒナギクさんはある意味原作のキャラクター以上に凄いと言っていいのでは。 だからこそハッピーエンドを迎えることができたのか・・・
あと、私の新作について、執筆どころか構想もしておりませんが、楽しみにしてもらえるのは嬉しいので、ご期待に応えられるよう努めたいと思います。 しばらくお時間をいただきたく。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.53 ) |
- 日時: 2014/10/05 13:43
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
やーっと告白できましたか!良かった良かった。 "sotto voce"を思い出させるくれるような雰囲気・やり取りだと感じました。「心は叫んでいるのに、やっぱり大好きなのに」と言っていたのはハヤテの方でしたが。 先に告白したのがハヤテだったのもちょっと嬉しかったです。自分もそうしたんで、なんとなく。ファーストキスのムードも素敵ちゃんでした。ウチのハヤヒナが羨ましそうに見ていた事でしょう。笑
次回の盛大な宴に期待しております。 それでは失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.54 ) |
- 日時: 2014/10/06 02:11
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
どうふんさん、ロッキー・ラックーンさん、感想ありがとうございます。今回はレス返しです。
まずはどうふんさん。 最後まで付き合ってくれると言われるとすごく嬉しいですね。もぉ泣きたいくらいですよ。 自分的にハヤテは押すより引く方が落としやすいんじゃないかって思ってるんですよ。だからヒナさんもそれに連なってどんどん女神様になっていくというわけです。まぁ、原作のヒナさんにha どう頑張っても勝てないですけどね。でも原作のほうでもハヤテが落ち込んでいたら優しく寄り添ってくれるんじゃんないかと思っています。
次はロッキー・ラックーンさん。 ハヤテから告白するのは最初から決まっていました。でもハヤテは好きと言っただけで付き合うとは言っていないんですね。そのあたりはまた次回で。ま、もう書いてるからすぐ載せますけどね。 「sotto voce」はあまり考えていませんでしたね。後書きでも言った通り自分は原作の「木の芽風」を想像して書いたので・・・。でも言われてみるとたしかにそれっぽく感じますね。ホント不思議です。 ロッキーさんのハヤヒナもいちゃいちゃしすぎて羨ましいですよ。自分も早くそういうのをやりたいんですけど、ほのぼのしてるだけなのもアリかなぁ〜とも思ったりしてます。どうなるのかは気分次第ですね。
さて、どうふんさん、ロッキー・ラックーンさん、最後にもう一度感想ありがとうございました。 それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.55 ) |
- 日時: 2014/10/06 02:13
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
諸事情(パソコンの上にハンガーを直撃させるという自業自得)によりしばらくイラストが描けないかもです。どうでもいい情報なのかもしれませんが取り敢えずということで・・・。 さて、今回はなんだかんだでキスしちゃったところからです。 それでは・・・ 更新!
ハヤテとヒナギクは、どれぐらいお互いの唇を交わしていたのかよく分かっていなかった。それは1秒だったかもしれないし、10秒だったかもしれない。もしかしたら1分以上だったのかもしれない。永遠のようで、でも一瞬のような時間が終り、離れた二人の顔は赤く染まっていた。
「これ、結構恥ずかしいわね・・・。」
「そうですね・・・。こればっかりは本当に慣れることができないですよ。」
ピシッ!!!!
その瞬間ヒナギクの笑顔が固まった。要するにハヤテはどんなに成長してもハヤテなのである。
「ハヤテ君?慣れないってことは前にもキスしたことがあるってことでいいのよね?」
「へ!!??そ、それは小さい頃の話っていうか!あ、でも今年アーたんとルカさんと・・・はっ!!!!ち、違うんですよ!これはその・・・なんというか・・・!!」
「なんで一年の間に三人も女の子とキスしてるのよー!!!!」
ヒナギクが振り下ろした白桜をギリギリで受け止めたあと、ハヤテは頭をフル回転させて打開策を見つけようとしたが結局は自業自得なので何も見つけることができなかった。一つだけ思いついた選択肢をあげるならば‘土下座’ぐらいだろうか。 しかし意外にも、ハヤテが土下座するよりも先にヒナギクが白桜を下ろして大きくため息をついた。
「もういいわ。別に無理やりとか、遊びとかじゃないんでしょ?ハヤテ君がそんな人じゃないってことぐらい知ってるわよ。」
ハヤテはさすがに驚きを隠せなかった。自分のことを信用してくれるのは嬉しかったのだが、ヒナギクはもっと嫉妬深いタイプだと思っていたし、少なくともタコ殴りにされることは予想していた。流れ的にもそれが正解だとすら考えていた。
「お、怒らないんですか・・・?」
「お・こっ・て・ま・す!!!」
「は、はい!!すいません、本当にすいません!!!」
結局ハヤテは土下座をすることになり、ヒナギクそれを見下ろすことになった。
「でも・・・」
「でも?」
ヒナギクはハヤテに手を差し伸べて立たせたあと、彼の前でふっと微笑んだ。
「今のハヤテ君にとっての一番は・・・私なんでしょ?」
「・・・!!!」
ハヤテはしばらく目をパチクリさせることしかできなかったが、それはヒナギクの言ってくれたことに頷けなかったからではない。ハヤテ自身も嬉しかったり、さっき以上の驚きだったりで言葉が出てこなかったのだ。しかしヒナギクにとってその静かな時間は不安要素でしかないわけで、ハヤテが気づいたときには少し泣きそうになっていた。
「もしかして・・・違うの?」
「い、いえ!!!そんなことは絶対にないです。なんだか嬉しすぎて声が出なかったというか・・・そんな感じで・・・」
上手く言葉を見つけることができていないハヤテにヒナギクは満足気に微笑んで、彼にそっと抱きついた。いつもなら恥ずかしくて言えないようなことも、今なら素直に伝えられる気がした。
「私はハヤテ君が好き。大好き。そしてハヤテ君も私のことが好きだって言ってくれた。だから・・・今はそれで十分だと思うの。 確かにいつだって私だけを見て欲しいって思ったりもするし、ハヤテ君がほかの女の子と仲良くしていたら嫉妬しちゃうと思う・・・。」
「ヒナギクさん・・・。」
「でもね、今回のことで私思ったの・・・。私たちが望みすぎるのはまだ早いんだって。そこにある幸せが少なくても、ちゃんと噛み締めていかなきゃいけないんだって・・・。」
ヒナギクはハヤテから少しだけ体を離し、彼の顔を見据えた。
「らしくない・・・かな?」
その言葉と表情にハヤテは顔を真っ赤にさせ、それをヒナギクに見られたくなくて顔を逸らしてしまった。それでもしっかりと彼女に伝えたくて、ヒナギクにやっと聞こえるくらいの声でつぶやくように言った。
「そんなこと・・・ないです。」
「・・・よかった。」
ハヤテはニコニコと嬉しそうに微笑んでいるヒナギクをズルいと思いながらも、こんなふうに振り回されるのもいいんじゃないかとも考えていた。今みたいに、ヒナギクがずっと笑っていてくれるのら・・・。
「ヒナギクさん。」
「ん?なぁに?」
まだニコニコしているヒナギクにハヤテは真剣な眼差しを向けた。
「僕が一生・・・ヒナギクさんを幸せにしてみせます!できるだけ早く、そしてたくさんの幸せを手に入れられるように頑張ります!だから・・・!」
この時点でヒナギクの顔は十分なほどに沸騰していたのだが、それとは別に、彼女は自分たちが一つ段階を飛ばしていたことに気づいていなかった。想いを伝え合って、キスをした。ヒナギクにはこれで十分すぎるほどだったのだが、天然ジゴロは彼女が飛び越していたものに気づいていた。ハヤテはヒナギクの手をぎゅっと握った。
「だから・・・僕と付き合ってくれませんか?」
想いを伝えることと同じようで、少しだけ違うこと。 望みすぎるのはまだ早いとは言っていたが、今のヒナギクにとって望まないという事は無理な話だろう。彼女が言ったことは正しいのかもしれないが、その決意をするのもまた、彼女たちには早かったのかもしれない。
「順番が違うわよ・・・バカ。」
「すいません。でも、ちゃんと言わなきゃと思って。」
ハヤテはニコニコと微笑んで、もう分かりきっている答えを催促してくる。ヒナギクはさすがに恥ずかしくなって俯いてしまったが、その心は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「よろしく・・・お願いします・・・。」
「はい!」
ヒナギクの紡いだ言葉は少なくてシンプルなものだったが、十分に気持ちが伝わったと実感することができた。
(勇気を出すことができていれば、もっと早く伝えられたのかな・・・?)
ヒナギクは嬉しさの中に少しだけ後悔が混じっているのが口惜しかったが、彼女のそんな思考を断ち切るようにハヤテの声が聞こえてきた。
「ヒナギクさん。」
「は、はい!」
ハヤテは驚いて返事をしてきたヒナギクにクスリと笑った。
「もう帰りませんか?お嬢様や岳さんにお礼も言いたいですし、アカリにも・・・早くこの事を伝えたいんです。」
「そ、そうね・・・。って、いつの間にアカリと仲良くなったのよ?」
「いろいろあったんですよ。」
ハヤテはそう言って公園の出口に向かって行った。ヒナギクはいろいろというのが気になったが、仲良くなったのならそれに越したことはないのであえて黙ってハヤテについて行った。 ちなみにハヤテの手も、ヒナギクの手も、両方フリーな状態である。
「は、ハヤテ君!」
「はい?」
こういうところで気が回らないハヤテは相変わらずだったが、勇気を出して彼を呼び止めたヒナギクは少しだけ成長していたのかもしれない。ヒナギクは不思議そうな顔をしているハヤテに手を差し出し、赤くなった顔を俯かせながらも声を振り絞った。
「て・・・手を・・・つながない?」
ハヤテはしばらく呆気にとられていたが、すぐにヒナギクの手を取って少しだけ強引に連れ出した。
「それじゃあ帰りましょう、ヒナギクさん。」
笑顔になったヒナギクを見て、ハヤテはまるで子供みたいだと思った。
「うん!!!」
無邪気で、とても嬉しそうな返事が空に響いた。
第32話 『泣きたかったんだ』
「「「「おめでとーう!!!」」」」
ハヤテとヒナギクが取り敢えずお屋敷に戻ると、まず彼らを包んだのはたくさんのクラッカーの音とお祝いの声だった。
「一時はどうなることかと思ったけど、二人がちゃんと付き合ってくれてよかったよ〜。」
「まったく、これで幸せにならなかったら許さないのだ!」
歩やナギをはじめ、たくさんの人が歩みよってきて、ハヤテはなんだか照れくさい気分だったが、どうやらヒナギクは違ったようだ。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!私たちはまだ付き合ってるなんて一言も・・・はっ!!!」
ヒナギクの失言に嬉しそうにうなづいて話かけてきたのはアテネだった。
「うんうん。まさかヒナのほうから報告してくれるとは・・・。成長しましたわね、ヒナ。」
「もぉー!!いいからなんで知っているのか教えなさいよー!!!」
するとハヤテがヒナギクの方をポンポンと叩き、そしてある一点を指差した。そこに大きなスクリーンがあり、さっきまではうるさくて聞こえなかったが、自分たちの告白の様子が音声付きでばっちり流されていた。
「な、なんでこれが流れてるのよ!!??あとこれ撮った犯人は・・・て、ガウ君に決まってるか・・・。」
犯人が自分の手に負えない相手だということが容易に想像でき、ヒナギクは大きなため息をついた。
「で、岳さんはどこにいるんですか?さっきから姿が見えませんけど・・・?」
「ああ、岳さんならお前らの告白を見届けた後、疲れたから少し寝るって。それよりパーティーするぞ!料理とかすでに岳さんが用意してくれたんだから、ちゃんと楽しむんだぞ!」
ナギの答えにハヤテは違和感を覚えたが、取り敢えず彼女の言った通り、今のこの状況を楽しむことにした。
「それでは最初に!主役二人による挨拶からー!!!」
いつの間にかマイクを持って司会を務めている歩の一言でパーティーが始まった。その後はどんちゃん騒ぎの始まりで、調子にのってお酒を持ち込もうとしたナギをハヤテとマリアが全力で止めたり、全部食べてしまいそうなと勢いで料理にがっついている雪路にヒナギクが自重しろと叱ったりでとにかく賑やかだった。
「お、そろそろかな?」
ナギのその一言にハヤテは不思議そうな顔をしたが、ヒナギクは少し身構えてしまった。さすがにこれ以上恥ずかしい目に会いたくなかったのだ。しかしその予想に反してナギが差した扉から出てきたのは娘であるアカリで、しかもパーティードレスを身にまとっているというおまけ付きだった。ハヤテは顔をほころばせ、ヒナギクは驚きで声も出なかった。
「岳さんに推められてナギお姉ちゃんのを借りたんだけど・・・どうかな?」
「うん!とても似合ってるよ!すごく可愛い!」
ハヤテの言葉にアカリはほんのり頬を赤く染めながら、今度はヒナギクの方を向き、そして抱きついた。最初こそ驚いたものの、ヒナギクもアカリを抱きしめて微笑んだ。
「アカリ・・・すごく似合ってるわよ。」
「えへへ・・・。ありがと。」
しばらくするとアカリがヒナギクに何かを耳打ちし、二人はハヤテに向い合った。ハヤテはこの時初めて、自分たちを囲むように円ができていることに気づいた。
「ハヤテ君!」 「パパ!」
「は、はい!」
突然呼ばれたのでハヤテは返事が硬くなってしまったが、彼を呼んだ二人はあまり気にせず同時に息を吸い込んだ。
「「せーのっ!!!」」
ヒナギクとアカリの息の揃った掛け声を合図に、再び会場にクラッカーの音が鳴り響いた。
「「「「お誕生日!!おめでとーう!!!」」」」
なにがなんだか分からずに立ちすくんでいるハヤテに、一番近くに立っていたナギが説明をしてくれた。
「本当は当日にやりたかったんだが、いろいろあったからな。ということで遅くなったけど誕生日おめでとうなのだ!」
そう言いながらナギが渡してきたのは腕時計。本当はもっと早くに受け取るはずだったそれは、とても重たく、そしてとても大切に感じて、気づけば涙がこぼれていた。そんなハヤテにナギは慌てていたが、アカリはそっとハンカチを差し出してきた。
「パパ・・・大丈夫?」
「うん。ありがとうアカリ・・・。僕は大丈夫だから・・・嬉しいだけだから・・・。」
誕生日すら忘れるほどにいろいろなことがあって、たくさんの迷惑をかけたというのに、それでも自分を祝ってくれる人たちがいるということだけで胸がいっぱいだった。ハヤテは涙を拭いきると顔を上げ、精一杯の笑顔を見せた。
「本当に・・・!ありがとうございます!!!」
「よし!それじゃケーキ、カモーンなのだ!」
ナギの合図で待機していたSPたちが一斉に動き出し、ハヤテのバースデイケーキを持ってきた。ここまでは良かったのだが、そのケーキの大きさにハヤテは思わず逃げ出しそうになってしまった。
「取り敢えず岳さんに頼んで高さ2メートルの特大ケーキを作ってもらいました!」
どうやら発案者は歩らしい。さすがに一人で食べることはなさそうだが、それでも量が大きすぎる。ハヤテがひるんでいると、アカリが少し赤い顔で袖を引っ張ってきた。
「一番てっぺんにショートケーキが置いてあって、それは私が作ったから・・・食べてくれると嬉しいんだけど・・・」
「何してるんですか皆さん!!これぐらいのケーキちゃっちゃと食べちゃいましょうよ!!!」
ハヤテはどこからともなく椅子とスプーンを取り出し、一番上に置いてあったショートケーキをあっという間に平らげていた。
「ハヤ太君って親バカなんだな。」
「そのうち泉にところのヒゲみたいになっちゃうのかもな。」
「・・・」
美希と理沙が見たままの感想を述べ、ヒナギクや千桜など、若干数名は呆れ顔をうかべていた。 ハヤテの活躍でケーキは案外あっさりと片付き、プレゼントなどの催しが一通り終わった頃、ハヤテははっと何かを思い出したように顔を上げた。
「ヒナギクさん、少し左手を出してくれますか?」
「え?なによ急に。」
「いいですから。」
ハヤテに言われた通り左を差し出すと、彼はその手を左手で優しく包み、右手でポケットから指輪を取り出した。それはヒナギクから渡されたものではなく、かつてハヤテがアテネに渡し、そして戻ってきた指輪。それを見たヒナギクは目を見開き、事情を知らないナギたちも歓声を上げた。
「指輪を渡された時はすごく嬉しくて、本当はすぐに渡したかったんですけど・・・遅くなってすいません。」
ハヤテはそう言ってヒナギクの薬指に指輪をはめたあと、満足そうに微笑んだ。
「ナギちゃん。あそこにリア充がいるよ。」
「まったく、もう爆発しちゃえって感じなのだ。」
「ちょっとそこ!!思いっきり聞こえてるわよ!!!」
そのあとナギたちがヒナギクを散々いじってパーティーは終り、ハヤテとヒナギクは主役だからと後片付けもさせてもらえずに会場を放り出されたので、取り敢えず一緒に廊下を歩いていた。
「まったくガウ君たら・・・なんで許可もなしにあんなことするのかしら?」
「はは。でも岳さんらしいですよ。」
「ハヤテ君も!今度みんなの前であんな恥ずかしいことしたら怒るからね!」
「は、はい。すいません・・・。」
ヒナギクの薬指にはもちろん、ハヤテの薬指にも指輪がはまっていた。なんだかんだでヒナギクもハヤテの手に指輪をはめたのだ。
「それにしてもこの指輪にあんなエピソードがあったなんて・・・少し運命的なものを感じるわね。」
ハヤテはヒナギクの言葉に頷いて、手を掲げてみせた。左手でキラリと輝くそれは月日を巡って今、自分の手におさまっている。まさに運命としか言い様がない気がした。
「ハヤテ君」
「ん?なんですか?」
ハヤテがヒナギクの方を見ると彼女は笑っていた。
「これから・・・よろしくね。」
「・・・はい。」
「それじゃ、私はもう寝るわね。おやすみなさい。」
今日はパーティーに来た人のほとんどが泊まれるようにナギが手配していた。さすがに疲れたのでヒナギクもそれに甘えることにしていたのだ。ハヤテはもう少しだけ話したいと思っていたが、伝えたいことは今日一日で十分伝えられた気がしたので優しく微笑んだだけだった。
「おやすなさい、ヒナギクさん。」
「うん、おやすみ。」
ヒナギクの影が曲がり角で消えるまで見送ったあと、ハヤテは奥の扉が少し空いていることに気づいた。
(休んでるってお嬢様も言ってたし・・・岳さんかな?)
扉を閉めるついでに少し覗いてみると、真っ暗な部屋をテレビの明かりだけが照らしていた。ちなみにテレビに映っているのは自分たちの告白のシーン。
「わぁぁああ!!!何見てんですか岳さん!!!」
「お、ハヤテか。パーティーは楽しかったか?料理は全部俺が作っといたから美味しかっただろ?」
「楽しかったですし美味しかったですけれども、なんでまだ僕たちの映像なんか見てるんですか?もしかしてずっとループさせて見てたとかじゃないですよね?」
「いや、その通りだけど?」
即答してきた岳にハヤテは大きなため息をついた。ハヤテは取り敢えず映像を保存しているカードか何かを渡してもらうよう言おうとしたが、岳が作っていた寂しげな表情に何も言えなくなってしまった。
「羨ましかったんだ・・・。」
「え?」
今流れていたのは丁度ハヤテたちが抱き合っていて、ハヤテの頬に涙が落ちたシーンだった。岳はハヤテの方を振り向かずに画面のほうだけをじっと見ていた。
「あんなふうに分かり合えていたら、もっとレナのことを信じることができたのかもしれない。そしたらきっとレナを・・・。」
「岳さん・・・。」
「・・・悪いな。せっかくの日にしんみりした話しちまって。」
岳はテレビを消すとデータを保存していたカードを抜き取ってハヤテに渡した。
「ヒナにも悪かったって伝えておいてくれ。それじゃあ、おやすみ。」
「は、はい・・・。おやすみなさい。」
ハヤテが出て行ったあと、岳はベットに身を放り投げて横になったが、目は閉じないでただ天井を眺めていた。 ハヤテとヒナギクのように笑えるのなら、彼らのように泣くことができたのなら、そんなことを何回考えたのか分からなかった。どんなに寒くても、傷口が痛んでも、どんなに長い間孤独でも泣かなかった。大好きな人との別れが来た時も、泣けなかった。
「俺はただ・・・泣きたかっただけなのかもな・・・。」
静かに目を閉じた岳を、いつも以上に虚しくて、いつも通りに悲しい暗闇が包んだ。
どうもです。 まず最初にすいません。冒頭が長かったり、なんか最後のほうでシリアスにしちゃったりで。
取り敢えず今回はハヤテ一期二期のオープニングでお馴染みKOTOKOさんの「泣きたかったんだ」を使わせていただきました。なんというか、岳君の泣かない設定と怖いくらいに歌詞が同じだったので。ちなみにこの曲、実は「ハヤテのごとく!」(曲ですよ?)のカップリング曲で自分も入手したのはたまたまだったんです。いやぁ〜、カップリング曲ってあなどれないですね。
パーティーのほうや岳君の話ももうちょっと濃くしたかったんですけど、上手くまとめきれなかったです。アカリちゃんとの絡みも入れたかったんだけどなぁ〜。まぁ、今回できなかったぶん、家族三人でほわっほわな話をしてやりますよ!
さて次回は・・・ここの規定(18禁)に引っかからないように頑張ります。ただ、多分それは少しだけで岳君要素が強いです。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.56 ) |
- 日時: 2014/10/18 23:45
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
なんだかんがでシリアス気味になってしまった前回。しかしそんな雰囲気も今回で脱却!ま、今回も明るい話ではないんですけどね。 それでは・・・ 更新!!
ハヤテとヒナギクは今、小さな山小屋の中に二人っきりだった。外は土砂降りでアパートに帰ることもできず、曇天に重なって黒いカーテンが日の光をほとんど通さない中、ハヤテの目の前にあったのはまるでガラス細工で出来ているかのようなきめ細かい白い肌。暗闇のなかで聞こえる息遣いとともにほんの少しだけ上下するそれは、ベッドの上で初めて体験する感触に怯えているようにも見えた。 ハヤテがゆっくりと手を近づけると、ヒナギクはギュッと目をつむった。ハヤテのことを信頼していないわけではないが、ただ、初めての刺激が少しだけ怖かった。しかしいつまで経ってもハヤテの手がヒナギクの肌に届くことはなく、不思議に思って目を開けてみるとハヤテが手を下ろして顔をうつむかせていた。
「ごめんなさい・・・ヒナギクさん。」
「え・・・?」
ヒナギクに頭に最悪のビジョンがよぎった。昨日せっかく結ばれたのに、もう別れるなんてことは嫌だった。
「な、なんで?やっぱり胸が小さい子は嫌だとか・・・」
「い、いえ!!そんなことは全くないです!!」
ヒナギクの不安そうな声にハヤテは慌てて弁明した。ヒナギクは自分の考えが勘違いだったと分かると、今の状況を思い出し、顔を赤く染めながら毛布に身をくるんだ。
「ただ・・・」
申し訳なさそう顔をしているハヤテの口が動き出すのを、ヒナギクは黙って待っていた。
「初めて・・・ヒナギクさんのありままの姿を真剣に見ました。とても・・・とても綺麗でした。でも抱きしめたら壊してしまいそうで、触れたら無くなってしまいそうで・・・そんなことを考えていたらどこに触れていいのか、本当に僕が触れていいのか分からなくなってしまって・・・。」
「ハヤテ君・・・。」
「やっぱりヒナギクさんを傷つけるのが怖いんです。どう守っていけばいいか分かっていないんです・・・。」
情けない話だっただろう。いろんなことを間違って、そして学んだ今でも踏ん切りがついていない。ハヤテはそんな自分がいることが悔しかった。しかし、それでも前へ進まないといけないことも分かっていた。
「だから・・・もう少し待っててくれませんか?僕がもっとヒナギクさんと向かい合えるようになったとき、その時はヒナギクさんを・・・ちゃんと抱きしめてもいいですか?」
ハヤテの中には、不思議と不安はなかった。
「うん・・・。待ってる。」
現に、ヒナギクはハヤテに笑ってくれたのだから・・・。
第33話 『Proof』
俺が目を覚ますとまず最初に視界に入ったのは無数の木の葉とその間から漏れてくるうっすらとした早朝の太陽の光。そういや昨日ハヤテたちを山小屋まで連れてきた後はなんか家に帰る気がしなくて木の上で寝たんだっけ?寝心地があまりいいとは言えないその太い枝から飛び降りるときにハヤテが山小屋から出てくるのが見えた。まだ朝の5時にもなってないのに、相変わらず早起きだな。
「あ、岳さん!」
「よう。昨日はやっぱりお楽しみだったか?」
「してません!なんでこんなところに連れてくるんですか!?」
まぁ、そういうことはしないってのは分かってたけど・・・ハヤテって本当に男かよ?普通我慢できなくなるもんじゃないの?
「そうだなぁ〜、なんとなく?」
「なんとなくで僕たちをこんなところに連れてこないでください。アカリの年齢とか考えたらそうしなきゃいけないかもとか思っちゃったじゃないですか。」
「わるいわるい。、まぁ二人の距離がさらに縮まったってことでいいじゃねぇか。あと、アカリちゃんの誕生日は12月12日で今年で8歳になるから、お前らがそういうことするのは一年後ってわけだ。」
ハヤテが今着ているのはいつもの執事服ではなく白のプリントTシャツ。山小屋にあったやつに着替えたみたいだな。
「そういやヒナは?」
「まだ寝ていますよ。岳さんのせいで昨日は僕たち、なかなか眠れなかったんで。」
あくまでも俺のせいと言い張るハヤテを少しいじってやろうかと思ったが、なんだかそういう気分にはなれなかった。
「だから悪かったって。帰り道はわかるんだろ?だったらヒナが起きたあとすぐに帰ればいいじゃねぇか。」
「言われなくてもそうしますよ。それより、岳さんはどうするんですか?別に僕たちを待ってなくてもいいんですよ?」
「ほう。で、俺がいなくなったあとにヒナとキャッキャウフフしようと?」
「違います!!」
どうやらハヤテは勘違いしていたらしいが、俺は別にハヤテたちを待つためにわざわざ木の上で寝たわけじゃない。ぶっちゃけ気分だ、気分。そのことを伝えようとしたらハヤテは急に真剣な顔をして、頭を下げてきた。
「・・・おいおい、お前も男なら簡単に頭下げんな。謝罪の言葉なら随分と聞いたぞ?」
「・・・ありがとうございました。」
少し意外だった。いや、本当はハヤテが礼を言ってくることは分かっていた。それでも・・・意外だった。
「岳さんにはいろんな所で助けていただいて、本当はもっと何かをしないといけないんでしょうけど・・・。」
「何もやれることがないと?」
「はい。だから・・・本当にありがとうございました。」
こういうところまで真面目だと逆に呆れてくるな。多分俺がコイツの両親を何とかしたのも感づいてるんだろう。ま、さすがにベガスで一生遊べるようにしてやったことまでは考えられないだろうし、言って驚かせてやってもいいんだが、あいにくそんな雰囲気でもないからあえて黙っておいた。
「俺は自分ができなかったことを目の前でまた繰り返させたくなかっただけだ。それでも、一応気持ちはもらっとくよ。」
とりあえずハヤテに顔を上げさるとハヤテは難しい顔をしていて、そのことを言うとさらにその表情が難しくなった。
「出過ぎたことを言うのかもしれませんが、レナさんは・・・岳さんにだけは絶対に生きていて欲しかったんだと思います。だから・・・」
ガラにもなく少しイラついてしまった。ハヤテの言っていることが正しいことは分かっていたが、それでも妙にしゃくにさわった。
「命を捨てるようなことはするなと?そんなことは痛いくらいに分かってるし、現に俺は死んでない。」
どうやら俺はとても怖い顔をしているみたいだ。ハヤテは動揺していないフリをしているが目が完全に怯えている。
「今回はたまたま俺が消えるかもしれなかった結果・・・つまり手段だったわけで、別にそれ以上でもそれ以下でもない。言っただろ?俺は手段を選ぶつもりはないって。ま、お前はそのことをを注意してくれたんだろうが、今更壊せないから・・・苦しいんだ。」
俺だって会いたくないわけがない。でもそれが叶わないとすればレナだけでもと考えるのはおかしいのだろうか?。それに、もし立場が逆でもレナはきっと俺と同じことをしただろう。って、それは少し自意識過剰すぎたか?最後に聞こえなかった声は俺が想像しているのと違うものなのかもしれないのに・・・。
「俺ってホント何やってるんだろうな・・・?」
「え?」
「いや、なんでもない。帰るんなら気をつけて帰れよ。じゃぁな。」
ハヤテはまだ何か言いたげだったがそれを無視して俺はまた森の中に足を向けた。少し逃げたような感じもしたがあまり気にならなかった。
「レナ・・・。」
俺に名前をくれたレナ・・・。
俺に感情をくれたレナ・・・。
俺に大切なものをくれたレナ・・・。
随分とたくさんのものをもらったのに、レナは俺のために消えてしまった。
-私のこと、忘れないで欲しいの-
「忘れられねぇよ・・・。」
普通こういうときって泣くもんなんだろうけど、相変わらず俺の頬をつたうものは何もない。どんなに目をこすってもその指が濡れることはなかった。
-ガウス・・・今までありがとうね-
「レナ・・・ごめん・・・。」
少しだけ、自分の言っていることに違和感を感じた。ふと歩みを止めて考えてみると、案外簡単にその答えが見つかった。
「そういや、俺っていつも謝ってばかりだな・・・。」
別にその言葉を言うことが遅いことも、今さら意味の無いことだってことも分かっていたのに、何故か言わなきゃいけない気がした。 思えばちゃんと言えてなかった言葉。本当はもっと早く・・・いや、レナが消えてしまう前に言わないといけなかった言葉。 とても短くて・・・とても簡単で・・・とても難しい・・・
「ありがとう・・・。」
「やっと言ってくれた・・・。」
「!!!」
少しだけ、風がふいた気がした。その優しい風が運んできた言葉は俺が知っているものと全く同じで、声も、その高さも、俺の耳に響くその心地よさも、全てがそのままだった。 足音が聞こえた。この音も知っていた。だんだん近づいてくるのが分かるにつれて俺の鼓動も速くなっていく。こんなにドキドキするのはいつ以来だろう? 足音が止まり、後ろから俺は抱きしめられた。強く・・・もう離さないとでも言ってるかのように。 俺の体は震えていた。頭の中で無意味だった日々が走馬灯のように通り過ぎていき、そして無くなっていった。 チラリと俺の視界の隅に映った髪の色は、白と見間違えそうなほど透き通るような桜色で、背中に感じる温もりは信じられない程優しくて、ふと顔に手を当ててみると、どんな時でも流れなかったはずの涙が・・・その頬をつたっていた。
「えへへ、ガウスの泣き顔ゲット〜。」
「レナだって泣いてんじゃねぇか。」
どうしてここにいるのか?そんなことはどうでもよかった。今、レナがここにいる。その事実だけで胸がいっぱいだった。
「寂しかった?」
「すごく・・・。」
「悲しかった?」
「すごく・・・。」
「どれくらい待った?」
「すごく・・・。」
すごく・・・すごく長い間、このことを夢見ていた。もしかしたら不可能なのかもしれない。そう思ってしまうのが嫌で、必死に強くなった。それでもやっぱり俺は全然前に進んでなくて、大切なものに震えて、失ってしまうのが怖くて、でもここに居てくれることがすごく嬉しくて、溢れ出した涙が止まらなかった。まるで今までの分も流しきろうとしているくらいに・・・・。
「私もね・・・真っ暗で何もない場所で、ずっとガウスのこと待ってた。すごく寂しくて、すごく悲しくて、もう忘れられたんじゃないかと思うとすごく怖かった。」
「・・・」
レナと手と俺の手が重なった。お互いが指を絡ませていく光景は驚くほど自然で、結びついたことでさらに感じられるレナの温もりは、俺の不安をことごとく打ち消していった。
「ガウスの手・・・すごくあったかい・・・。」
セリフを取られてしまった。きっとレナも俺と同じ気持ちなんだろう。今まで寂しかった分、こうしていることですごく安心できて、深くなっていた心の傷がどんどん癒えていく。
「ねぇガウス・・・?」
「ん?」
レナはどうやら疲れているみたいだ。体を倒し、俺にさらに寄りかかってきた。
「ただいま・・・。」
「ああ・・・。おかえり・・・。」
これからは何をしよう?レナは俺が成長していることに驚いてくれるだろうか?そばにいることを喜んでくれるだろうか?おっと、その前に家を少し綺麗にしないとな。
「ねぇガウス・・・?」
「ん?なんだ?」
「私ね・・・ガウスのこと・・・」
そういや、家の掃除なんかよりまずやることがあったな。
「大好きだよ・・・。」
やっと聞けた・・・。そして・・・
「ああ、俺も・・・俺もレナが大好きだ・・・。
愛してる・・・。」
やっと・・・言えた・・・。
どうも、すっかり更新が遅くなってしまいましたがちゃんと生きてます。ほら、モンハン買ったけど寮生活だからオンラインでプレイできる回線がなくてソロハンターで頑張ってたんですよ。でもやっぱラスボスは体力が多くてソロじゃ火力が足りないです。
さて、今回はMELLさんの『Proof』を使わせていただきました。ハヤテ一期のエンディングですね。いい曲なのにハヤヒナの絡みで若干エロい(書いてみるとそうでもなかったけれども)方向にもっていっちゃたのでなんだか申し訳ないです。 ちなみにあの展開はまず放課後に岳君がハヤテたちを上手く説得して山小屋(ダーク虹の里)に連れて行ったあと、なんだかんだで大雨を降らせて二人を閉じ込めてそれっぽい雰囲気にさせる、そしてその気になった二人が取り敢えず脱ぐところまでいったといった感じです。ちなみ最初に誘ったのはヒナさんという設定もあるんですが、それやると長くなりそうだったのと、どこまでOKなのか基準がよく分からなかったのでカットしました。勝手に想像していただいて構わないです。
ま、なんだかんだで今回書き上げて思ったことは「あれ、ハヤヒナより力入ってね?てか、やっぱりハヤヒナやってないじゃん俺。」ということですね。次回からは!ちゃんと次回からハヤヒナやりますから!ほら、レナちゃんも戻ってきたので彼女との絡みもありますし!ね!ね!!
と、取り敢えずレナちゃんのプロフィール載せます。
竜堂(りんどう) 恋愛(れな)
誕生日 11月20日
身長 163.5cm
体重 46.7kg
年齢 17歳(もう何も言いません)
血液型 O型
家族構成 なし。
好き、得意 ガウス,料理、洗濯、掃除などの家事全般,
嫌い、苦手 たくさん人がいるところ,人前で何かを言うこと
竜堂というのは彼女が勝手につけた名字。岳君と同じ「初神」でもよかったんですが、名字が違うと恋人っぽくなるかなぁ、と。漢字のほうは思い切ってDQNでいってみました。アルファベット的にRE(レ)NNA(ナ)Iでいいかなぁと。ちなみにCカップ。自分は別に貧乳好きではないんですよ?まぁ、余計にあるよりかは少し小さいくらいでも・・・。取り敢えず容姿と性格ともに自分が好きなキャラになっています。 それから家事スキルはハヤテ君なみでなんでもできます。まぁ、一応庭城にいた設定ですからね。 岳君以外には結構人見知りだけど打ち解けてからは人懐っこかったり、少しだけ天然っぽいところがあったりでこれからはいろいろと活躍してもらうつもりです。
次回はヒナさんとオリキャラ三人のお話です。も、もちろんハヤヒナですよ!
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.57 ) |
- 日時: 2014/10/22 22:40
- 名前: どうふん
タッキーさんへ
何と言いますか・・・いろんな意味で、話が一気に進んでびっくりしましたね。 そのほとんどが岳さんの意図とあっては、やはり超越的なキャラというのは恐ろしい。 まあ、神様だから当然ですが。
それでもそんな岳さんの抱える苦悩はその分大きいはずですから、歓喜には拍手を送ります。 岳さん、おめでとう。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.58 ) |
- 日時: 2014/10/24 02:27
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
今回はレス返しということで、どうふんさん、感想ありがとうございます。
岳君みたいな完全チートキャラのいいところは話をどんな展開にも引っ張っていけるってところですね。だからとっても使いやすいです。 時系列的にはハヤテたちがムフフなことをしかけるのがパーティーの次の日って感じなのであまり進んでないんですけど、展開は自分でも反省したいくらいに進んじゃったと思っています。 ただ、レナちゃんが出てくるのは29話の最後の「ザッ」という擬音語が伏線になってたりします。めちゃくちゃ分かりにくい気もしますが伏線でした。ぶっちゃけその時には既に生き返っていたんです。本編でも少し説明するつもりですが、岳君が過去に行ったことで少しだけ歴史が動き、結果的にレナちゃんが生き返ることができたというわけです。彼女が庭城を出ることができたのは一応彼女も神様だから的な?という感じです。 レナちゃんは岳君をいじれる唯一のキャラなのでこれから結構活躍してくれる予定です。ま、「いじる」というより「じゃれる」のほうが正しいと思いますが、これまでの分、しっかり幸せになってくれるはずです。 ヒナさんたちとの絡みも当然ありますからお楽しみに。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.59 ) |
- 日時: 2014/11/07 02:44
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
やっと今回からほのぼのとした感じになると思います。ハヤヒナとアカリちゃんの絡みを多くしていきたいと思っていますが、前回でレナちゃんも復活したので彼女もたくさん出していきたいです。 ちなみに今回、本文はちゃんとハヤテたちを出していきますが、冒頭は岳君とレナちゃんだけです。ホントにこれでいいのか? それでは・・・ 更新!!
「ちょっと待ってろよ?」
「え?あ、うん・・・。」
自分の家に帰ってきた岳はレナを玄関に待機させると、急いで家に飛び込んで片付け始めた。掃除などは十分すぎるほどしていたのだが、さすがに空き家に家具を置いただけの家に彼女を入れるような事はできなかった。
「よし、入っていぞ。」
「お、おじゃまします・・・。」
たった5分足らずで出てきた岳に促されて入ったレナは正直おどろいた。彼女は昔の岳しか知らないので部屋がぐちゃぐちゃになっているものと思い込んでいたのだが、それを差し引いても家の中は信じられない変貌を遂げていた。
「あ、分かった!ガウスったら業者の人呼んだでしょ?」
「なわけねぇだろ。全部俺がやったっての。」
レナは信じられないという顔でもう一度部屋を見渡した。フローリングは全て新品に張り替えられていて、カーペットはさっきまで日に干していたかのようにふかふか。ソファなど、その他の家具にもシミ一つなかった。
「ガウス・・・。」
「なんだよ?」
「ウソはよくない。ガウスが掃除なんかしたら余計散らかるか爆発オチにしかならないし・・・。」
冗談抜きでそう言ってくるレナに岳は大きくため息をついた。これ以上は何を言っても無駄な気がしたので岳はてきとうに流して昼食でも作ろうとしたが、予想通りレナはそれを全力で止めに入った。
「ちょっと正気なの!?ガウスがご飯なんか作ったら死人がでるよ!?」
「俺だって学習ぐらいするっての!一言多いんだよ、まったく・・・。」
頭に若干青筋を浮かべた岳は絶対に料理をすると譲らず、レナも彼に料理をさせまいと必死だったので収集がつかず、結局二人で料理することになった。つまり岳はレナの監視のもとで料理をすることになったのだが・・・
(あれ?手つきが昔と全然違う。ていうかすごく良くなってる・・・。)
「どうした?こっちはもうできたぞ?」
「え!?ちょ、ちょっと待って。私もすぐできるから。」
レナは別に岳の手つきに見とれて作業が止まっていたわけではない。岳が純粋に早いのだ。 すぐにレナも料理を完成させ、テーブルに並べられたのはサンドイッチとスクランブルエッグ、それから温野菜のスープといたってシンプルなものだった。しかしレナはまだ岳の料理の腕が信用できず、彼の作ったサンドイッチには手をつけなかった。ナギ以上に家事が苦手だった昔の岳を知っていれば当然の反応なのだが、その岳もレナに対抗するようにスクランブルエッグとスープには手を出さず、サンドイッチだけをちまちまかじりながらレナが自分の料理を食べるのを待っていた。
「いい加減信じて食べてみたらどうだ?」
「ガウスだって私の作ったの食べてないじゃん。」
「レナが食べたら俺も食べるよ。」
「むぅ〜。」
しかし、レナはいつまでたっても不服そうな顔で料理を睨みつけていたため、業を煮やした岳は自分のサンドイッチを彼女に差し出した。もちろん食べかけだ。
「ふえ?」
「ふえ?じゃねぇよ。いいから口を開けろ。」
この美味しい状況にレナは思わず口を開けてしまいそうになったが、そうにか踏みとどまることができた。
「口移しのほうがいいならやってやるぞ?」
「そ、それはやめて!食べるから!食べますから!」
岳に上手くのせられて慌てて口を開き、彼のサンドイッチを少しだけかじったレナは目を見開いた。
「どうだ、うまいだろ?」
確かに、それは本当に野菜などの具をパンで挟んだだけの料理とは思えないほど美味しかった。しかし関節キスという事実と、岳のいたずらな笑顔ですぐに味が分からなくなってしまい、レナは真っ赤になった顔でコクリと頷くことしかできなかった。
「さて、久しぶりのレナが作ってくれた料理はどうかな〜?」
今の岳に料理の腕で勝っている自信がないことやさっきの恥ずかしさなどで、レナは岳が多少のいじわるを言ってきても何も言い返せなかった。それでもやっぱり自分の作った料理に対する反応には気になるわけで、うつむいたままコメントがくるのを待っていた。しかしいつまでたっても一言も喋ってくれないのでふと顔を上げてみると、今度は岳が下をむいて肩を震わせていた。
「え!?なに!?もしかして美味しくなかった?」
レナの言葉を岳は頭を左右に振って否定したが、それでも顔を上げようとはしなかった。そんな岳の頬に手をやったレナは、彼が泣いていることに気づいた。
「ごめん・・・すげぇ美味しかった。でも、それ以上に懐かしくて、そう思うと涙が出てきて・・・ごめん・・・。」
レナはこんなに涙もろい岳を初めて見た。どんな時でも泣くことのなかった彼を知っていたので当然驚いたが、それ以上にレナは嬉しさを感じていた。
「謝らなきゃならないことなんて一つもないでしょ?むしろ、私はガウスがちゃんと泣けるようになったことが嬉しいんだから。あ、でも可愛い顔が崩れちゃうのは少し残念かな?」
「だから一言多いっての・・・。」
岳が笑顔になったのを確認したレナは再び椅子についたと思いきや、すぐに岳に顔を近づけた。
「そういえば、何か言うことがあるんじゃない?」
岳は降参したようにため息をつき、もう一度レナに笑顔を見せた。
「やっぱレナの料理が一番美味いよ。」
「えへへ。ありがと。」
「ま、客観的に見たら俺の料理のほうが美味しいけどな。」
「な、なにおう!!」
これからはずっと一緒だと、この気持ちは永遠だと、小さな家のリビングから聞こえる楽しげな声が、それを本当だと伝えていた。
第34話 『兄と娘と恋人と』
11月23日、ハヤテとヒナギクは山小屋から帰ったあと、ハヤテがナギにさんざん怒られたのを除いて、いつも通りに白皇に登校していた。ハヤテたちは付き合っていることを秘密にするつもりはなかったが、彼らの間にいろいろなことがあったのを知らない者がほとんどだったので誰も尋ねてこず、結果的に周りには知られていなかった。ハヤテが一週間以上休んだのも三千院家の執事だからということで、それほど問題にはなっていなかった。 いつものようにクラスメートと挨拶を交わしたハヤテが席につくと、丁度よくドアが開いて岳が入ってきた。
「あ、岳さん。おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
しかし岳は自分の席にはつかず、クラスの全員がいるのを確認してから教壇にたち、そのままホームルームを始めると言い出した。全員が疑問に思っても口を出さなかったのは彼が若干不機嫌そうだったからだが、ヒナギクとしては自分の姉の所在が気になるわけで思い切って質問した。
「ガウ君、ホームルームを進めてくれるのは構わないんだけど、お姉ちゃんは?」
「インベスターYなら保健室で二度寝だ。黙らせるために酒に睡眠薬盛ったから、多分昼までは起きねぇよ。」
(い、インベスター?てか睡眠薬って、お姉ちゃん何やらかしたのよ!?)
雪路ではなく、何食わぬ顔でさらっと答えた岳に同情したヒナギクはそれ以上追求することはせず、黙ってホームルームを受けることにした。
「さて、みんな知ってると思うが今日は午後に授業参観があるから、保護者の人たちに迷惑かけないようにな。三人娘は特に。」
「ちょ、ちょっとそれはヒドくないか!?」
「そうだ!我々が何をしたと言うんだ!?」
「小学校の時からサプライズだとか何とか言って結局ビビらせただけってのが多々あると聞いただけだ。」
「「「・・・」」」
彼女たちを昔から知っている者は諦めたようにため息をつき、高校からの付き合いの者も呆れ顔になっていた。岳は美希と理沙を言葉で撃沈させたあと、コホンと一つ咳払いをして教卓に両手をつき、真面目な顔を作った。
「それから、今日からまた転入生がくる。突然だが仲良くしてやってくれ。」
クラスが一瞬静寂に包まれたあと、驚きや歓喜の声が上がり、瞬く間に騒がしなった。
「ちょっと、そんなこと私も聞いてないんだけど!?」
「そりゃ、今日の朝に手続きしたからな。」
「いやいや、そんなことって・・・」
生徒会長である自分に知らされていなかったのが納得できず、岳を問い詰めようとしたヒナギクを止めたのはハヤテだった。ヒナギクの肩に手を置いたハヤテは首を横に振り、もっとも納得できる言葉でヒナギクを落ちつかせた。
「岳さんですから。」
「・・・。そうね、なら仕方ないわね。」
「それで納得されるのも何なんだが、ま、いいや。ホントに急な話だったから理事あたりにしか通してないんだ。ごめんな。」
そう言った岳はいつものようにヒナギクの頭を撫でようとして、寸前でその手を止めた。
「そういやヒナはもうハヤテのものだったな。わりぃ。」
「ちょ、ちょっと!!なんてこと言うのよ!!」
岳の声はホントに小さく、ヒナギクにしか聞こえていなかったのだが、それでも恥ずかしさは申し分なくてヒナギクは自分の彼氏であるハヤテとしばらく目を合わせることができなかった。
「はいはーい!その転入生って男の子?それとも女の子?」
ハヤテたちのおかげで少し話しかけやすくなった岳に、真っ先に質問したのは泉だった。
「女の子だ。」
「「「「おぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」」」」
男子女子共に歓声を上げたが、特に男子のテンションの上がり方は尋常じゃなかった。3週間程前に転入してきた岳が男だからというのが一番の理由だろうが、それがなくてもクラスの女子が増えるというのは大抵の男子には嬉しいことである。 いつまでも待たせるのも悪いので、岳はクラスに静かにするよう呼びかけ、ついでに言うと男子は睨んで無理やり黙らせて、転入生に入ってくるよう呼びかけた。 ドアが開いてまず目に入ったのは白と見間違えるような透き通った美しい桜色。クラス全員が息を飲み、入ってきた少女の容姿を見た者は岳を初めて見た時と同じように、まるで神様のようだと思った。ただ、そう考えている時間は極端に短かった。
「えっと・・・レナ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫・・・かも。」
岳とは違って、そのレナと呼ばれた少女は右手右足、左手左足を一緒に動かすというまるで旧世代のロボットのようにギクシャクした足取りで教卓までいき、一回クラスを見渡すと、少し怯えたような顔をして俯いてしまった。気を利かせた岳が黒板に名前を書いたのだが、レナは一向に顔を上げなかった。
「何やってんだよ、ほら、自己紹介しろって。」
「だ、だって・・・こんなにたくさん人の前に立つの初めてなんだもん・・・。」
「たった30人ちょっとだろ?早くしないと授業が始まるぞ?」
「う〜・・・。」
もちろん彼らは小声で話しているので会話は周りに一切聞こえていない。レナもようやく顔を上げて、自分に対する視線に混乱してフラフラになりながらもなんとか自己紹介を始めた。ちなみに、めちゃくちゃ大声で。
「り・・・り、竜堂(りんどう)レナです!!!よ、よろひくおねがいしましゅ!!!」
(噛んだな・・・。)
(うん。噛んだね。)
(噛んだわね。)
レナに対するクラスの第一印象が人見知りに決定した瞬間だった。岳は大きくため息をついて頭を抱え、レナはそんな彼に助けてくれと真っ赤な顔を向けていた。
「えっと・・・ということで今日からこのクラスの仲間だから、みんな仲良くするようにな。なんか質問したい人。」
バッ!!!
挙手をしたのはクラスの半分以上で、そのことにレナの顔は青ざめ、岳は再びため息をつくと取り敢えず元気よく手をピョコピョコさせている泉を指名した。
「えっと・・・レナちゃん?は岳君とはどんな関係なんですか?」
もう少しぼかして質問することもできたのだろうが、残念ながらこの委員長はそんな技術は持っていなかった。レナは当然呂律が回らなくなり、岳すら顔を赤らめて俯いていた。
「えっと・・・えっと・・・ガウスはその・・・だから・・・その・・・・」
レナが口から言葉を一つ漏らすたびに彼女への視線が集中していく。岳も助けを出せる状態ではなかったが、そんな彼と彼女に助け舟を出したのはヒナギクだった。
「恋人・・・なんでしょ?」
「な、なんで知ってるの!!??ていうかそんなこと恥ずかしくてこんな多勢の前じゃ・・・」
「あら、私だったらちゃんと恋人がいますって言えるわよ?ね、ハヤテ君。」
「「「「!!!!!!!!」」」」
岳は久しぶりに自分の頭が状況の処理に追いついていないのを感じた。
「ちょっ!!ヒナギクさん、こんな場面で言わなくても!!!!」
「どういうことだ綾崎!!!私というものがありながら!!!」
「黙れ変態!!!あぁ、もう!分かりましたよ!言えばいいんでしょ!!みなさんの考えている通り僕とヒナギクさんは付き合ってるんですよ!!!」
ヒナギクにもやっぱり恥ずかしさがあったのだが、ハヤテの言葉でそれはどこかへ消えてしまい、彼女は満足したように微笑んだ。クラスの中ではおめでとうと応援する者が大半で、納得できていない者も彼らが相思相愛であることぐらい見ればすぐに分かったので異論を唱える者はいなかった。
「えっと・・・私はどうしたらいいのかな?」
「取り敢えず席につけ。授業が始まる。」
状況に置いていかれたレナは取り敢えず助かったと思ったが、どんなに衝撃の出来事があったとしても転校生への興味がなくなるわけではないので、1時限目が終わった後は当然質問攻めに遭い、岳に助けられるまで目をクラクラと回していた。
「ったく、どんだけ人見知りなんだよ。」
「仕方ないでしょ、どうしても緊張しちゃうんだから・・・って、そうだ!」
「?」
レナははっと顔をあげると、ちょうど前の席でさっきまでの自分のように質問攻めに合っているヒナギクの肩をちょんちょんとつついた。
「あ、あの・・・さっきはありがとう。」
「え?あ、別にいいわよ。私はここの生徒会長だから困っている生徒を見過ごせないの。ていうか、なんか偉そうにしちゃってゴメンね。」
実はこのとき、ヒナギクを質問攻めにしていた女子たちの介入がなかったのは岳が取り払ったからだったのだが、二人はそれにまったく気づかなかった。さらに言うと、ハヤテに対する質問の数が増えていたのにも気づいていなかった。
「へぇ〜!!生徒会長なんだ!すごいね!!」
「そ、そう?」
「うん!だってこの学校の皆を引っ張っていく人なんでしょ。すごいよ。」
「フフ、ありがと。レナさんってやっぱりいい人ね。」
目の前で微笑んでいるヒナギクにレナは首をかしげた。
「やっぱり?」
「あ、ガウ君がね、あなたことを話してくれたの。何はともあれ、あなたが無事に生き返ることができてよかった。」
「ガウスが・・・。」
二人は思わず岳のほうに顔を向けた。彼はこちらを向いていなくてどんな表情をしているかは分からなかったが、それでもきっと満足気な顔をしているのだろうと思えた。
「えっと・・・ヒナギクさん、だっけ?」
「うん。普通に呼び捨てでも、略してヒナでもいいわよ?私もあなたこと呼び捨てでレナって呼ぶけど・・・それでいいかしら?」
「うん!!!じゃぁ・・・ヒナちゃんで!!これからよろしくね、ヒナちゃん!」
「こちらこそよろしく、レナ。」
ヒナギクとレナが握手をするのと同時にチャイムが鳴り、授業が再び始まった。
昼休みになったころには、レナも大抵のクラスメートと馴染んで普通に話せるぐらいにはなっていた。
「ヒナちゃ〜ん。一緒にご飯食べない?ガウスと・・・ハヤテ君だっけ?とにかく彼氏さんも一緒に。」
「それはいいんだけど・・・ハヤテ君ったら、どこ行っちゃたのかしら?やっぱりナギの世話とか?」
「ナギちゃんは伊澄ちゃんと一緒にカフェテリアに行ってたから、それは違うだろ。もう少ししたら来るだろうから先に食べとこうぜ。」
実際のところ、ハヤテはまだ納得しきれていない虎徹に追い掛け回されていていたのだが、ヒナギクがそれを知るはずもなくせっかく誘ってくれたレナを待たせるのも悪いので岳の言った通り先に食べることにした。が・・・
「ガウス。なんで六つも机を用意してるの?ハヤテ君が入ったとしても四人なんじゃ・・・。」
「ああ、それはだな。」
その瞬間バッと教室のドアが開き、二人の少女が飛び込んできた。もっと詳しく言うと一人が飛び込んで、もう一人がそれを止めようとしているのだが。
「あっ!!!ママ見〜っけ!!!」
「こら!!だから校内を走ってはいけませんわよ!!。」
「アカリ!?それにアリスまで・・・。」
「えへへ、来ちゃった。」
アカリはなんためらいもなく岳が用意した席に座り、ヒナギクにニッコリと笑ってみせた。アテネのほうは今までアカリに振り回されていたので息もきれぎれだったが、なんとか席に着くとどこからともなく弁当を取り出した。
「えっと・・・ヒナちゃんの妹?」
「ううん。私はママの娘だよ。」
「えぇえええ!!!じゃ、じゃあヒナちゃんはハヤテ君ともうあんなことやこんなことを・・・。」
「してません!!!なんていうか・・・この娘は未来から来てるのよ。」
「ま、ヒナがハヤテとちゃんと結ばれる証拠ですわね。」
「ヒナちゃんたちってラブラブなんだね。」
「そ、そんなこと・・・」
そうこうしているうちに再びドアが開いて激しく息を切らしているハヤテが入ってきた。ハヤテはなぜアカリやアテネがいるのか気になったが、あえて何も言わずにヒナギクにうながされるまま席についた。
「おつかれ。無事なようでよかったよ。」
「事情を知ってたんなら助けてくださいよ。」
ハヤテがうなだれていると突然横から箸が伸びてきて、それに挟まれていた野菜ごとハヤテの口の中に突っ込んだ。ちなみにハヤテに食べさせたのはアカリで、すごく満足そうな表情をしていた。
「おいし?」
「う、うん。すごくおいしい・・・。」
「そう、よかった。」
ハヤテは周りの男子、そしてその何倍もの怖い顔をしているヒナギクに気づいていたが、反応したほうが危ない気がしたのでアカリの頭を少し撫でて礼を言ったあとは黙々と自分の弁当と向い合っていた。
「ヒナちゃんたち、うらやましいね。」
「ん?・・・そうだな。」
具材について話し合っているヒナギクとアテネの横でまたハヤテに食べさせようとするアカリ。そしてそれに気づいて慌てて止めに入るヒナギク。たしかに、少し前までの岳にはとても羨ましい光景だった。しかし・・・
「ほれ、あ〜ん。」
「ふえ!?」
岳はレナの口の前まで持っていった箸を少し揺らしてみせた。
「いいから口開けろって。」
「あ、あ〜ん。」
パクッ
今日の弁当は岳とレナが分担して作ったものだったが、岳が食べさせたものはその中でも二人で一緒に作ったものだった。
「おいしいか?」
「そりゃ、まぁ・・・。」
「そっか。ま、これぐらいのことができるんなら、羨ましいなんてことはないな。」
形成された二つの桃色空間から逃げるように教室からはどんどん人数が減っていっていた。それでも空気を読まない人は必ずいるわけで、その空間を壊そうとしているかのように乱暴にドアを開けた。
バンッ!!!!
「おい綾崎!!!俺はまだお前を諦めておらんぞ!!!」
勢いよく教室に入ってきた虎徹にハヤテはゴミを見るような視線を向け、ヒナギクとアテナはなるべく関わりたくなかったので完全に無視、岳は不思議そうな顔をしているレナに事情を説明していた。しかしアカリだけは顔をパーッと輝かせ、虎徹に駆け寄ると彼の手を掴んだ。
「うわー!!虎徹おじさんだー!!わっか〜い!!!」
「お、おじさん。てか、なんだこの娘?なんか微妙に綾崎にいている気が・・・」
ドカッ!!バキッ!!ゴッ!!!
「なにアカリに気安く触れてんですか。変態。」
「いや、手を握ってきたのはむしろこの娘・・・あ、綾崎まて!!お願いだからまっ・・・ギャー!!!!」
「パパ、さすがにやりすぎなんじゃ・・・。」
「アカリ、こんな人間に絶対について行ったりしちゃいけないからね。」
「いやいや、未来じゃ普通にいい人だよ?」
ハヤテはときどき虎徹をボコしながらアカリに変態がどんなに怖いかを力説した。実際のところ、アカリは未来の方では虎徹にたくさん世話になっていたりするので彼に対して嫌悪感などは一切なかったのだが、自分の父親の必死さに首を縦にふることしかできなかった。 やがて昼休みの終りを告げるチャイムが鳴り、ほぼ全員が席についたころにちょうどよくドアが開いて雪路が入ってきた。しかし授業を始めることはなく、まず始めたのは岳に対する愚痴だった。
「まったく!岳君のせいでせんぱ・・・じゃなくて理事長からこってり絞られたんだからね!そこんとこわかってるの!!??」
岳はため息をつき、降参したように手をあげた。
「悪かったですよ。それはともかく、ユキさん。少し話があるので廊下のほうへ来ていただけますか?お詫びもかねますから。」
「ホント!?やったー!!!それじゃさっそく行きましょう!!」
「ちょっとお姉ちゃん!?授業はどうするのよ?」
「別にそんなもんいつでもできるでしょ〜。」
雪路はそういって岳をつれて廊下に飛び出して行ってしまった。残されたクラスメートの中には授業の始まりが遅れて喜ぶ者が半分、退屈している者が半分だった。ちなみにアカリとアテネは授業参観も兼ねて学校に来ていたのでしばらく待ちぼうけを食らわせらることになった。
「まったく、お姉ちゃんったら。」
「ああ、でも多分ガウスからまた弱みを握られてんじゃないかな。」
「え?」
するとドアが開き、不自然ににこやかな顔をした雪路が戻ってきた。
「いやぁ〜、やっぱり授業は大切よね!!ほら、あなたたちも授業参観なんだからシャキッとしなさい。シャキッと。」
「「「「・・・」」」」
そのまま授業は始まり、納得のいかないヒナギクは思い切って岳に質問してみたが、それでもうまくかわされて詳しくは分からなかった。
「ガウスはこういうことに関しては昔からすごかったから、あまり気にしないほうがいいよ。」
「む、昔からだったんだ・・・。」
取り敢えず授業も無事に終り、ハヤテはナギとアテネと一緒に帰宅、ヒナギクはアカリと一緒に部活に向かっていた。
「あ〜あ、パパもくればよかったのに。」
「執事の仕事があるんだから仕方ないじゃない。帰ったらちゃんと遊んでくれるわよ。」
「そうだね。いやぁ〜、でも剣道するのもなんだか久しぶりかも。」
軽くのびをして顔を輝かせているアカリにヒナギクはふっと微笑んだ。
「ん?どうしたの?ママ。」
「いや、アカリはよく笑うなぁ〜って。」
不思議そうな顔をしている自分の娘と武道場に入ったヒナギクはアカリにサイズの合った防具を渡し、部員に軽く挨拶をさせて練習をさせた。アカリの腕はなかなかのもので、東宮ぐらいならば瞬殺だった。
「へぇ〜、結構やるのね。」
「未来でママから鍛えられてるからね。これくらいは当然だよ。」
この時アカリはタオルで汗を拭いていたので気づけなかったが、ヒナギクは寂しそうな顔をしていた。
「ねぇ、アカリ?」
「ん?」
「やっぱり・・・未来の私のほうが好き?」
こんな質問をすればアカリが困ってしまうことぐらい分かっていたが、ヒナギクはそれでも止めることはできなかった。
「寂しかったり・・・」
「寂しいよ。」
「!!!」
ヒナギクは自分の体が震えていることに、娘から拒絶されることを怯えていることに気づいた。しかしアカリには決してそんな気はなく、そのことをヒナギクもよく分かってはいたのだが、それでも怖かった。
「たしかにここにはママもナギお姉ちゃんも・・・パパもいる。みんな私が知ってる未来と同じくらい優しいし、そんな人たちに囲まれてとっても楽しい。でも、私は未来の人間だから・・・やっぱり未来のみんなに会いたい。」
アカリはヒナギクに思いっきり抱きついた。もう剣道場には誰もおらず、二人だけが漏れた夕日に包まれていた。
「ママ・・・大好き・・・。」
「うん。」
「あ、おかえりなさいヒナギクさん。・・・って、あれ?アカリ寝ちゃったんですか?」
「うん。結構頑張ってたから無理もないんだけど。」
アカリのこともあるのでヒナギクは現在、三千院家の屋敷に泊めてもらっていた。ハヤテは放課後からは休みをもらっていて、ぐっすり寝ているアカリを部屋まで運んだあとはヒナギクのところへ向かった。といってもアカリの要望で三人とも同じ部屋で寝ていたので、ほんの数メートル歩いただけだった。 ヒナギクは窓から星を眺めていて、とても絵になるその光景にハヤテの胸は高鳴り、ヒナギクも初めてではないはずのこの状況に少しドキドキしていた。
「今日は星がよく見えますね。」
「そうね・・・。」
「アカリのこと・・・ですか?」
ヒナギクは正直驚いたが、それでもハヤテが自分のことを前より理解してくれるようになったことが嬉しかった。
「アカリっていつ帰っちゃうのかなぁ〜って。分かってはいたんだけど、やっぱり寂しいっていうか・・・とても複雑な気分。」
「僕は正直寂しいです。でも・・・同時に少しだけ嬉しく思っています。」
「嬉しい?アカリがいなくっちゃうのに?」
「ええ。でも少しだけですよ。」
ハヤテはヒナギクの目から涙が溢れる前にそれを拭った。
「未来のヒナギクさんに・・・母親のことも、父親のことも大好きなアカリと本当に笑って欲しいんですよ。」
「何よ。それじゃ私が幸せになれていないみたいじゃない。言っとくけど、ハヤテ君がいるんだからそういう心配はしてないわよ?」
「はは、そうですね。ヒナギクさんは僕が必ず幸せ手にしてみせますよ。」
「うん。」
夕方、アカリがヒナギクにそうしてきたように、ヒナギクもハヤテに抱きついた。前よりちゃんと感じることのできる温もりは彼女の悩みを覆うのには十分だった。
「いつかは分かりません。でも、そのときはちゃんと見送ってあげましょう。アカリは僕たちの娘なんですから。」
「うん・・・。」
そのままの体制が続くかと思いきや、ヒナギクは突然顔を上げてそれこそハヤテの目の前でいたずらっぽく微笑んだ。
「それから、さっきのはプロポーズってことでいいのかしら?」
「へ!!??い、いや・・・それはですね・・・。」
「違うの?」
「えっと・・・できれば、もっとちゃんとしたいというか・・・後日ということでお願いします。」
ヒナギクとしてはさっきのがプロポーズでも十分だったのだが、ハヤテの性格を考えるとそうもいかないだろう。ハヤテから体は離したヒナギクは嬉しそうに笑っていた。
「フフ。それじゃ待ってるわよ。忘れたりしたらダメなんだからね。」
「も、もちろんですよ!!」
しばらくして起きてきたアカリに、ハヤテとヒナギクは笑顔でおはようと告げた。
「えっと・・・今は朝じゃないんだけど。」
「いいのよ、別に。」
アカリの疑問は消えなかったが、両親が嬉しそうな顔を見ていると何を疑問に思っていたのか分からなくなってしまった。
「あ、ガウス。玉ねぎとってくれない?」
「はいよ。」
「ありがと。」
岳とレナはカレーを作っていて、彼らからすると別に何の意識もしていないのであろうが、その会話はまさに新婚のカップルのようだった。
「ヒナちゃんたち、うまくやっていけるかな?」
「大丈夫だろ、あいつらなら。」
「さすが、お兄さんは妹さんのことを信用していらっしゃる。」
どうやらヒナギクからほとんど話を聞いていたようだ。岳はレナの頭に軽くチョップを食らわすと黙々と作業を続けた。レナはしばらく頭を抑えてむくれていたが、突然ふっと笑うと岳の背中にぴたりと寄り添った。
「ねぇ、ガウス。」
「なんだ?」
「・・・なんでもない。言ってみただけ。」
岳は作業を続けていたが、後ろにいるレナに対してこれ以上ないほど気を使っていた。岳のそんな優しさが嬉しくて、しかしここまでくると言葉をかけるのが少し気恥かしくて、レナは岳に聞こえないようにそっと呟いた。
(ありがと・・・。)
一番大切な恋人とのとても幸せな時間が、いつまでも続く気がした。
「聞こえてるよ。バカ・・・。」
「あっー、ひっどーい!!バカって言ったほうがバカなんですからねー!!!」
「はいはい、分かったよ。」
「もぉー!!子供あつかいするなー!!!」
どうも、相変わらずの更新ペースですみません。言い訳をさせてもらえれば文化祭で焼きそばを売りさばいてました。 さて、なんだか最終話みたいなタイトルですが最終話ではありません。作品名とサブタイが同じ話は前々からやりたかったので、オリキャラが全員揃った今回がその話になりました。 ちなみに学校のみんなの反応なんですが、個人的には結構受け入れてくれる人がほとんどなんじゃないかなと思っています。この話的にみなさんハヤヒナの桃色空間に十二分に当てられていますし、いざとなったら岳くんがいますから。(テヘぺろ☆ 虎徹君とアカリちゃんの関係としてはアカリちゃんが呼んでいる通り虎徹君は「おじさん」という感じです。ハヤテの娘で若干似ているからといって襲うようなことはせず、これもアカリちゃんが言った通り普通にいい人で接しています。ま、変態でなけば本当にいい人なんでしょうけど・・・。
それと、今回はイラストも一緒に投稿しています。個人的には岳君が結構自分のイメージに近づき、アカリちゃんもうまく描けたかなぁ、と思っています。服の色とかはホント適当で、レナちゃんの服はもっと明るめにするはずだったのになんか褐色系になっちゃいました。アカリちゃんはハヤテの執事服を着ている設定なんですが、下に何か履いているかどうかはご想像にお任せします。(注:アカリちゃんは小学生です)
次回は本当にハヤヒナな話にします。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.60 ) |
- 日時: 2014/11/08 02:16
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
アカリちゃんとアリスちゃんのコンビは微笑ましいですね。 でっかい妄想が捗ります。二人の冒険話とか見たい聞きたい読みたいです。 とまあ欲望爆発はさておき、来るべき別れの時までにハヤヒナがアカリちゃんに何をしてあげられるのか期待しております。ちなみに来るべきアカリちゃんとの出会いを迎えるためには…ねえ?(意味深
岳くんとレナちゃんの関係も良好で、なんだか非常にクライマックス前な感覚を覚えています。 ココからまさかの展開があるのか…勝手にハラハラしながら次回楽しみにしております。 では失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.61 ) |
- 日時: 2014/11/09 17:40
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361
タッキーさんへ
ちょっとタイミングが被っちゃいましたね。 ハヤテとヒナギクさんの仲が周囲にばれる時期が。 まあ、内容は全然違いますから、その辺りは読み比べて頂くということで。
レナさんの前では岳さんが普通の男の子に見えて微笑ましく感じました。
ただ、一つ気になったんですが、
>これからはずっと一緒だと、この気持ちは永遠だと、小さな家のリビングから聞こえる楽しげな声が、それを本当だと伝えていた。
という文章は主語と目的語がわかりにくいように感じました。
あくまで「私であれば」、ということですが、 → これからはずっと一緒だと、この気持ちは永遠だと、小さな家のリビングから聞こえる楽しげな声が伝えていた。
あるいは → これからはずっと一緒だと、この気持ちは永遠だと二人は感じていた。 小さな家のリビングから聞こえる楽しげな声が、それを本当だと伝えていた。
余計なお世話かもしれませんが、ご容赦。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.62 ) |
- 日時: 2014/11/10 01:54
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキです。
ロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、感想とアドバイスありがとうございます。 ということで今回はレス返しです。
まずはロッキー・ラックーンさん。 アカリちゃんとアリスちゃんの冒険話に関しては結構意外な感じで・・・できるかもしれません(絶対じゃないです アカリちゃんとハヤヒナに関してはこれからたっぷりとやりたいと思っています。二人がアカリちゃんと出逢うためにはそうですね・・・頑張って欲しいですね(ぐへへ ま、ぶっちゃけ管理人さんからはじかれると思うのでロッキーさんの想像にお任せしますよ。 岳くんとレナちゃんに関してはもう山はないんじゃないかと。だってほら、例外すら許さない岳くんのスペック的に何かを起こしようがないんですよ。まぁ、彼らにはそれこそ十分すぎる程辛いことがあったのでこれからはハヤテたちを見守る側になっていく予定です。
つづいてどうふんさん。 読み比べてもらうとこちらのすっ飛ばし感が目立ってしまうような・・・。ど、堂々としていれば意外と誰も突っ込まないんですよ? レナちゃんは岳くんの雄一と言ってもいい弱点ですからね。彼女によって岳くんの結構意外な一面が暴かれるかもです。 それから、アドバイスありがとうございます。 自分でもなんか微妙だなぁと思ってたんですがなんか一言入れたくて頑張った結果がこれです。指摘いだいたことはとてもありがたかったです。 これからも何かあればアドバイスをもらえるとありがたいです。
最後にもう一度、ロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想とアドバイスありがとうございます。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.63 ) |
- 日時: 2014/11/12 02:44
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。
実のところ、この話はアカリちゃんが帰るところで終りじゃないです。といってもちょっと続くだけなんですけどね。 ま、それは置いておいて今回は普通にハヤヒナやっていくつもりです。・・・たぶん。 それでは・・・ 更新!!
ヒナギクが目を覚ますともう見慣れてしまった綺麗な天井。フカフカのベットと毛布に挟まれている彼女が寝返りをうち、最初に目に入ったのは未来から来た自分の娘。しかしそれを見てしまったことでヒナギクの目は一気に覚醒した。
「ア〜カ〜リ〜!!」
「ま、ママ!?なんでもう起きて・・・!!じゃなくて、これはその・・・丁度いい位置にパパが寝ていたから・・・」
「だからってあんなに顔を近づける必要はないでしょ!!普通に抱きつくのも禁止!!」
「え〜!!」
それが寝ているだけなら微笑ましい光景ですんだのだが、アカリはわざとハヤテにすりより、ハヤテの方も親としては自然なのだろうが、彼女の背に手を回していたのだ。いくら自分の娘といえど同じ女性としてヒナギクも危機感のようなものを感じた。
「ま、まぁアカリもまだ7歳なんですから、甘えたい年頃なんですよ。」
「そうだそうだー!!」
「こら!!!」
「「はいっ!!!」」
ヒナギクの喝にハヤテとアカリはびくりと肩を震わせ、どちらとも言われてもいないのにベットの上で正座していた。
「アカリはもっと自重しなさい!ハヤテ君も娘だからって甘やかさない!!分かった!!!??」
「「あい・・・」」
アカリが来てから、三千院家の朝は少し賑やかになっていた。
第35話 『キミとボクが出逢う確率』
時は少し経って12月1日、ヒナギクが昼休みにレナと昼食をとっていると、少し離れた場所で男子勢と話している岳の姿が目に入った。ちなみにハヤテはナギとアカリの付き添いで学校には来ていない。ヒナギクの知っている岳は人付き合いもとても上手く、現に今も輪の中心になって談笑しているようだった。
「やっぱり相変わらずだな〜。」
「え?」
どうやらレナも岳のほうをみていたようだ。と言っても彼氏である岳を目で追うのはレナには自然なことなのだが、そんな彼女は少しいたずらな表情をしていた。
「相変わらずって・・・何が?」
「いや、ガウスも私と同じで人とちゃんと接するのが上手じゃないなぁ・・・て。」
「そ、そうなの!?私にはむしろ上手いようにしか見えないんだけど・・・。」
「ま、上手くごまかしてるからねぇ。本当は私以上に人見知りなはずなんだけど、あんなふうにできるまでに何百年かかったんだか・・・。」
ヒナギクはハッとした。こうして日常にとけ込んでいるからこそ分からないが、岳とレナは本当は人間ではなく、当然生きる年月も違う。ヒナギクはせっかくできた親友からいつか忘れられると思うと怖くなった。しかしそれを見透かしたかのようにレナはヒナギクに微笑みかけ、そっと手を握った。
「大丈夫。私もガウスも、ヒナちゃんたちのことを絶対に忘れないよ。だって友達でしょ?」
「・・・そうね。ありがとう。」
ヒナギクがレナに岳と似たようなものを感じたのは決して気のせいではないだろう。彼女の言葉に笑顔を取り戻したヒナギクは再び岳のほうを見て、そしてふと疑問に思った。
「レナはさ、ガウくんのどこが好きなの?いや、カッコいいとは思うし何でもできるから好きになるのは分かるんだけど・・・なんというか・・・その・・・」
「ヒナちゃん今、ガウスって高嶺の花すぎて好きになる前に諦めちゃうからって思ったでしょ?」
「・・・うん。そういうのはいけないとは思うんだけど、ガウくんにはやっぱりそんな感じになっちゃうから・・・ごめんなさい。」
レナの言ったように、どんな人にとっても岳の存在は高嶺の花そのものなのは確かだった。ヒナギクはそんな岳を心から好きになれるレナをすごいと思うと同時に不思議に思っていたのだ。
「ガウスはさ、寂しがり屋なんだよ。」
「え?」
「長く生きすぎて、強くなりすぎて、誰かに認められたかったのに逆に見向きもされなくなって・・・。多分私もそうなっちゃうんだろうし、そんなガウスを支えてあげられるのは私だけで、私を支えてくれるのもガウスだけだからって・・・そういうのがあるかな、やっぱり・・・。」
ヒナギクには何も言うことができなかった。彼女がどう頑張っても、どうあがいても絶対に解決できず、諦めることしかできない・・・そんなレベルの話だった。
「でもね、これが一番の理由じゃないんだ。ガウスはね、とても強いけど逆にとっても弱いの。」
「は?」
正直理解が追いついていないヒナギクはスルーでレナは話を進めていく。その表情はとても穏やかで、とても嬉しそうで、とても楽しそうだった。
「泣かないけど泣き虫で、甘えないのに甘えん坊で、欲がないのに欲張りで、カッコいいのにかわいくて・・・」
ヒナギクには意味が分からなかった。すべて矛盾しているし、後者の方の岳は見たこともなかった。しかしそんな中で唯一理解できたとすれば「カッコイイけどかわいい」だろうか。丁度ハヤテに当てはまる。
「でも・・・絶対に優しいの。」
「!!」
「多分、私がガウスを好きな理由はこれ。へん・・・かな?」
レナもさすがにおかしいことを言っていたのは自覚しているのだ。不安そうにしているレナにヒナギクは微笑んだ。
「そんなことないわ。とても素敵な理由だと思う。」
「ホント!!??」
「ええ。よく考えてみれば私だって同じ・・・ハヤテくんは絶対に優しいもの。」
「あ、ヒナちゃんが惚気けた〜。」
「なっ!!今まで惚気けてたのはそっちじゃない!!」
それからは普通のガールズトークに戻ったのだが、このとき岳が席を立ち、少し赤い顔で教室から出て行ったのにレナは気づかなかった。 昼休みが終わるころには岳もレナも、そしてヒナギクも全員がちゃんと授業の準備を始めていたのだが、その前にヒナギクはあと一つだけレナに質問していた。
「そういえばレナって・・・どんな感じでガウくんのこと好きになったの?」
「え?そりゃ、もちろん・・・」
「一目惚れ・・・か。ま、私もそうなんだろうけど。」
放課後、部活と生徒会の仕事を終えたヒナギクは昼休みに聞いたレナの言葉を思い出していた。ヒナギク自信も歩に対してハヤテには一目惚れだったと告げているのでレナの気持ちはよくわかるつもりなのだが、どうにもモヤモヤした気持ちが消えなかった。
「そういえばハヤテくんと出逢ったのってこの木だったわね。チャー坊は・・・もう巣立っちゃったか。」
本当は「再会した」のほうが正しいのだろうが、それでもここで出逢ったというのは二人にとって変わらない事実なのだろう。少し思い出に浸っているとヒナギクはモヤモヤの原因が分かったような気がした。
「あ、ヒナギクさん。ここにいたんですね。」
「ハヤテくん!?なんでここに?」
「一緒に学校に行くことができなかったので、せめて迎えぐらいはと。」
「そうなんだ。ありがとう。ところでさ、ハヤテくん?」
「はい、なんでしょう?」
ここでハヤテが来たのは運命なんじゃないか、ヒナギクがそう考えるほどにハヤテが来たのはいいタイミングだった。
「ハヤテくんは・・・なんで私のことを好きになってくれたの?」
その質問にハヤテは豆鉄砲をくらったような顔をした。まるで「今更?」とでも言うような顔だったが、ハヤテはすぐにヒナギクに微笑みかけると彼女に腰掛けるよう促した。
「怒られちゃうかもしれないですけど・・・僕は多分、彼女が欲しかったんですよ。」
これはヒナギクには結構ガツンときた。まるで誰でもよかったとでも言ってるかのような感じだったが、どうせ続きがあるのだろうとヒナギクは白桜でハヤテを殴るのを必死に我慢して続きを待った。
「ご、誤解しないでくださいよ!?なんというか・・・いつも支えてくる人が欲しかったんだと思います。」
「最初からそう言いなさいよ。ホントに誤解しちゃうじゃない。」
「はは、すみません・・・。」
ハヤテの緩んだ笑顔にヒナギクは少しイラついていたのだが、今回はまだ我慢できた。
「11月の初め、ヒナギクさんは僕にあの時計塔から風景を見せてくれましたよね。ヒナギクさんのことを好きになり始めたのは多分そこからなんですよ。でも・・・。」
「でも?」
ハヤテは俯き、ヒナギクと目を合わせなかった。いや、合わせられなかったのほうが正しいのかもしれない。
「僕って、結構単純なんですよ。特別優しくされるとすぐ好きになっちゃうっていうか・・・。だからあの時、もしあの景色を見せてくれたのがヒナギクさんじゃなかったら・・・僕は別の人を好きになっていたのかもしれません。」
「え・・・?」
「もしかしたら西沢さんだったかもしれないし、ルカさんだったかもしれない。マリアさんだって有り得るし、お嬢様からだったら絶対に好きになっていたでしょう。」
正直聞いているのが辛いくらいだった。でもちゃんと理由を聞きたくて、ヒナギクが顔をあげるとハヤテも顔をあげていて、お互いに見つめ合う状態になった。
「こんなことを言ってごめんなさい。でも、あの時、あの場所にいたのはヒナギクさんじゃないですか。」
「!!!」
「だから・・・ヒナギクさんがここにいること、それが僕がヒナギクさんを好きな理由です。少しギザ過ぎたでしょうか?」
「・・・ううん。ありがとう、ちゃんと話してくれて。」
不思議だった。さっきまで悲しかったはずなのに、今はとても胸が温かい。ヒナギクはハヤテのことで一喜一憂してしまう自分が大きくなっていることに戸惑い、そして嬉しく思った。差し伸べられたハヤテの手をとり、立ち上がった拍子にヒナギクは彼に抱きつき、ギュッと抱きしめた。
「ヒナギクさん・・・。地球がこの宇宙に生まれた確率って知ってます?限りなくゼロに近いんです。だから・・・僕たちが出逢って、こうして愛し合えていることって・・・奇跡なんじゃないでしょうか。」
「ハヤテくん、ギザ過ぎ・・・。」
「はは、すいません。でも・・・大好きですよ。」
「私だってハヤテくんのこと大好きよ。」
どれぐらいたった頃だろうか。ヒナギクはふと顔をあげ、そしてハヤテの鼻先を指で軽くついた。
「それから、私たちが出逢った確率は「奇跡」。でも・・・「絶対」よ。」
ハヤテは目をパチクリさせたあと、ヒナギクの少し赤い顔を隠すように強く抱きしめた。こんなふうにいつも最後の一本をとってくる、そんなヒナギクも大好きだった。
「それじゃ帰りましょうか。アカリも待ってますし。」
「そうね。それにしてもあの子ったら、明日はどんな手でハヤテくんにくっつこうとするのかしら?」
「まぁ、僕は別にいい・・・」
ドカッ!!!
「娘だからって甘やかさない。分かった?」
「あい・・・。」
この時できたたんこぶをアカリに心配されたのが嬉しくて、つい甘やかしてしまったハヤテをヒナギクがまた叱ったりしたのだが、それはまた別のお話。
どうも。少し遅いですがハヤテくんと桂先生、誕生日おめでとうです。
さて、今回は前々から温めていた話で、結構スラスラと書けました。いつもこれぐらいのペースでかければいいのですがなかなか、ねぇ。岳くんの話はこんな感じかなぁと設定上で考えていただけだったので本編で出すつもりはなかったのですが・・・取り敢えず後悔はしていません。 個人的には冒頭のほのぼのとしたやり取りをもっとやりんですけど、気がついたら少しシリアスな方向だったりするんでなんとかしたいです。やっぱりそういう性格なんでしょうかね。 そういえば今回のサブタイは「GARNIDELIA」の「キミとボクが出逢う確率」からです。「魔法科高校の劣等生」のオープニング、のカップリング曲です。お金があったんで買ってみたら結構いい曲でした。それにしても歌詞ネタって結構久しぶり?かも。 次回は多分ナギちゃんの誕生日プレゼントをハヤテが買いに行く話です。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.64 ) |
- 日時: 2014/11/13 10:39
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
ちょうどいい位置にパパが寝てれば抱きついていいというアカ理論…ひらめいた! 夢がひろがりんぐというヤツですね。
そしてハヤヒナの恥ずかしいセリフの応酬、脳が溶けてしまいそうです さらなる狭く深い仲(直球)への進展に期待してます。
あと、ちょこちょこと誤字・脱字が見受けられます。 チェック機能オフにしてらっしゃるから要らぬ指摘でしたらスミマセン。
それでは次回もたのしみにしております。 失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.65 ) |
- 日時: 2014/11/13 20:39
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- うわっ!!ホントにチェック機能がオフになってる!!!
どうもタッキーです。ロッキー・ラックーンさん感想ありがとうございます。 最近は誤字脱字がないぞ(どやぁ)みたいな感じだったのですが気のせいでしたか。チェックについては前みたいにビシバシやってくれるとありがたいです。
ハヤヒナの進展に関してはどんどん進めていくつもりです。でもその前に周りの人とちゃんと決着をつけなきゃいけないんですよね。西沢さんとか。
アカ理論については考えるのが楽しいのでちょくちょく入ってくるかもです。ま、そのたびにハヤテとアカリちゃんがヒナさんから怒られるのですが・・・それも含めて楽しいんですよね。アカリちゃんは隙あればハヤテを狙ってくる小悪魔的な感じでやっていくつもりなんですが、それを卒業してしまう日も来るかも?です。
最後にもう一度、ご感想ありがとうございました。これからもお互いに頑張りましょう。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.66 ) |
- 日時: 2014/11/13 22:10
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361
- タッキーさんへ
だいぶ雰囲気が変わったな、という気がします。 まあ、話の流れがそうなっているということでしょう。
娘さんが、こうも変わってしまうと、ヒナギクさんとしては心配にもなるでしょう。 読んでいて楽しかったです。
しかし、ハヤテ君。君は身も蓋もなさすぎる。 セリフがキザなのは結構だし、運命論も面白いが、恋人に面と向かって言うセリフじゃないと思うよ。
それをきっちりと受け入れることができるヒナギクさんはホントに母性愛に満ちていますね。 あと、会話の最後をきっちりと締めるところもさすがです。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.67 ) |
- 日時: 2014/11/15 01:02
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
どうふんさん、ご感想ありがとうございます。
話の流れについてはこのSSを書き始めたときの予定通りって感じですね。もともとシリアスな展開からほのぼのした展開に持っていくつもりだったので。個人的にこういう流れが好きなので、はい。
アカリちゃんは今までハヤテのことをちゃんと理解できていなかった分の反動というか、なんというか・・・ま、簡単に言うとハヤテがまたジゴロったんですよ。でもやっぱりこういうのは個人的にもっとやっていきたいと思っています。
思いついたときはいい感じだなぁと思ったんですが、いざ書いてみると確かにハヤテが身も蓋もないことを言ってるんですよねぇ。自分の「ちょっと変わったことがやりたい!」という気持ちがこうさせているんですが、取り敢えず考えていて楽しいので後悔とか反省とか全くしてません(キッパリ でもこういう時はどうふんさんの言う通りヒナさんの母愛性を引き出すことができるので意外と使いやすかったりします。
会話の締め方については・・・も、もっと褒めてくれたって・・・(殴 と、取り敢えず個人的にしっくりくるのを使っています。ま、その場その場で思いつくのがほとんどなんですが・・・。
最後にもう一度ご感想ありがとうございました。どうふんさんの作品も楽しく読ませてもらっています。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.68 ) |
- 日時: 2014/11/21 01:37
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。
時系列的にもうすぐナギちゃんの誕生日です。アテネの誕生日は・・・と、取り敢えずヤマもオチもない普通の誕生日だったのでカットしました。ちゃ、ちゃんと祝ってるんですよ!!べ、別に忘れていたわけじゃないんだからね!!! ということで今回はナギちゃんの誕生日前日のお話。 それでは・・・ 更新!!
12月2日、ハヤテは商店街の店の前で一人頭を悩ませていた。明日は大切なお嬢様の誕生日。プレゼントとして手作りのクッキーなりカップケーキなり贈ろうとは思っているものの、あと一つ形のある物を贈りたい。そんな気持ちで放課後に商店街に来てはみたものの、やはりこの執事に女の子が喜びそうな者を一人で選べるはずもなく、以前ヒナギクの誕生日プレゼントを選んだときのように誰かにアドバイスでももらおうかと考えていた。彼女であるヒナギクに聞けば解決する話なのだが、あいにく今日は生徒会の仕事で遅くなるらしい。
「こんなところで女心が分からないから僕ってダメなんだろうなぁ〜。」
「おっ!!ハヤテくんだ。何してるの〜?」
ハヤテのことを「くん」付けで呼ぶ女性は多いが、今回はその中でも一番ハヤテと接点が少ない人物だった。
「レナ・・・さん?」
「うん。」
ハヤテが振り向いた先でニコニコと笑っていたのは岳の彼女であるレナだった。彼女は帰る途中で夕食の買い出しにと商店街に寄っていたらしい。
「ところで何してたの?男の子が女物の店の前にいると結構違和感があるから気になってるんだけど・・・。」
「え?ああ、今はお嬢様の誕生日プレゼントを選んでるんです。でも、どうも男の僕では喜びそうな物を選べなくて・・・。」
「ナギちゃんの?だったら私が手伝ってあげようか?」
「え?」
ハヤテはこのとき思った。この人にアドバイスを貰えば女の子が喜ぶプレゼントをちゃんと選べるんじゃないかと・・・。
「そ、それじゃ、ご迷惑でなければお願いします。」
「あはは、別に迷惑とかじゃないよ。ガウスは遅くなるみたいだから帰っても暇なだけだったし。」
こうしてハヤテはレナと一緒にプレゼント選びをすることになったのだが、彼はこの時点で既に死亡フラグが建っていることには気づいていなかった。
第36話 『Do you love me』
「えっ!?岳さんとレナさんって誕生日一緒なんですか!?」
「そうだよ〜。まぁ、まだ一緒に祝ったことはないんだけどね。」
ハヤテとレナは今、貴金属を取り扱っている店のショウウィンドウの前で話していた。しかしハヤテにお金があるはずもなくここでプレゼントを買うことはなかったのだが、レナはお構いなしに指輪やネックレスなどの商品を手にとっている。ハヤテにはどちらかというと自分が欲しい物を選んでいるようにも見えた。
「おっ!!これなんかナギちゃんに似合うんじゃない?」
「いや、だから僕、お金が・・・」
「男だったらこれぐらい出せないでどうする!!っと言いたいところだけだけど一番大事なのはやっぱり気持ちだからね。本当はさっき言ってたクッキーとかでも十分だと思うよ。」
そう言われてもハヤテの何か贈りたいという気持ちは変わらなかった。そんなハヤテにレナも満足そうに微笑んだのだが、その後二人は1時間近く商店街を回ってもプレゼントをなかなか決めることができなかった。ナギと付き合いの短い、というか彼女が学校を休んだりするのでほとんどないレナが良いアドバイスを出せないのも原因かもしれない。
「プレゼントを選ぶって難しいですね・・・。」
「そうだね・・・。そ、そういやハヤテくん?」
ハヤテが呼びかけに応じてレナのほうを見ると彼女は少し顔を赤らめていた。
「ヒナちゃんとキスしたときって・・・どんな感じだった?」
「ちょっ!?な、なんでそんなこといきなり聞いてくるんですか!?」
脳内で再生されている映像によってハヤテの顔の温度はどんどん上がっていく。簡単に言うとハヤテはこれ以上ないほど取り乱していて、もじもじとしているレナの可愛らしい仕草も当然彼の視界には入っていなかった。
「いや、だって気になるし・・・。ガウスそういうこと全くしてくる素振りないし・・・。」
「え!?まだなんですか!?」
「っ!!!!な、なんで女の子にそういうことを言うかな!?君は!!」
「そうそう・・・。人の彼女に何言ってんだ?・・・ハヤテ。」
「「!!!」」
取り敢えず・・・フラグは回収した。
「ったく、ヒナに見つかってたらこの程度じゃ済まないってこと分かってんのか?」
「はい・・・。」
「それから、彼女がいるんなら気安く別の女とイチャつくな。」
「はい・・・。」
「最後に、レナに手を出したら殺す。いいな?」
「あい・・・。」
まるでボロ雑巾のようにされてしまったハヤテは現在岳の前で正座させられていた。人目につかない場所だからよかったとか、体のあちこちが痛いとか考える前に目の前に仁王立ちしている人物がとてつもなく怖かった。
「ガウス?さすがにやりすぎなんじゃ・・・。」
「レナも!!帰ったらたっぷり説教だからな。」
「はい・・・。」
そのあと岳はレナは引きずるようにして連れて帰ってしまい、ハヤテは一人取り残される形になったのだが、岳は帰ってしまう前に一言だけハヤテに言い残していった。
「今のうちにちゃんと話しとけよ。」
「へ?」
「あれ?ハヤテくん?こんなところでなんで正座なんかしてるのかな?」
「に、西沢さん!?」
気づけばもう岳の姿はなく、代わりにハヤテの後ろに立っていたのは歩だった。彼女もナギの誕生日プレゼントを選びに商店街まで来ていたらしく、これまでの流れをざっくり説明すると彼女は苦笑いを浮かべていた。
「相変わらずなんだね・・・。」
「ホント・・・岳さんからこってり絞られましたよ。」
結局二人でプレゼントを選ぶことになり、ハヤテたちは取り敢えず小物売り場でも見て回ることにした。実を言うとハヤテは歩、つまりはヒナギク以外の女の子と一緒に買い物をすることをためらったのだが、時間が無かったのと歩なら大丈夫だろうという死亡フラグ建ちまくりな考えで買い物することに賛同していた。
「あっ!!これなんかいいんじゃないかな!?」
ハヤテは歩の選んだネックレスを見てため息をついた。それはレナがナギに似合うと言ってきたものとほぼ同じデザインだったからで他意はなかったのだが、歩の目にはどうも否定されたように見えたらしい。
「ダメ・・・かな?」
「い、いえ!!別にそういうわけじゃなくて!!ただ、考えることはみんな同じなんだなぁ・・・て。」
「?」
それは値段こそ格段に安かったのだが質はそれなりのもので、歩はそれを買うことにし残るはハヤテの買い物だけとなった。しかしこちらは歩のものとは違ってなかなか決めることができず、ようやく決まったころにはもう日が完全に沈んでいた。
「すいません。遅くまで付き合わせちゃって。」
「いいよ。なんだかんだで結構楽しかったし。」
さすがに遅い時間だったのでハヤテはヒナギクやアカリのことが気になりはじめ、それは隣にいた歩にも伝わってきた。ハヤテはアパートまで送ってくれると言ってくれたが、それは単なる‘優しさ’であって特別な‘想い’ではない。分かっていたはずなのに、それでも歩の顔はどんどん曇っていき、その胸の内からは悔しさが込み上げてきていた。
「西沢さん・・・大丈夫ですか?」
俯いてしまった歩は名前を呼ばれても顔を上げようとしなかった。辺りが暗くなっているのも重なってハヤテからは彼女の表情が読めなかったが、歩は彼からもう一度呼びかけられる前に口を開いた。
「ハヤテくん・・・?」
「は、はい。なんでしょう?」
その瞬間ハヤテは手を握られ、顔を上げた歩に少しドキッとしてしまった。彼女の顔はこれ以上ないほど赤くなっていたが、その目には迷いなんて微塵も感じられなかった。
「私と・・・付き合ってください!!」
「へ!?な、なに言ってるんですか!!僕にはヒナギクさんが・・・」
「ヒナさんは関係ない!!!」
彼女の目には少しだけ涙が浮かんでいた。それはこの恋が叶わないと知っているからなのか、自分の親友を傷つけるかもしれないことをしているからなのか、それとも両方なのか・・・。
「ヒナさんが恋人だからとかそんな前提がないとしたら・・・ハヤテくんは私と付き合ってくれる?」
「そ、それは・・・。」
こんなことを言われるとは思っていなかったハヤテは歩のいつもとは違う真剣さに戸惑っていた。ちゃんと答えなければと頭の中で次の言葉を考え出すたびにそれが消えていき、目の前にいる少女の表情を見ているとどんなに抑えようとしても胸の鼓動は鳴り響くのをやめてくれなかった。
「ハヤテくんは・・・
私のことが、好きですか・・・?」
その言葉はまるでハヤテの脳を溶かすかのように、彼の頭を真っ白にしてしまった。
「ちょっとガウス?痛いよ・・・。」
帰る途中、岳はずっとレナの手を強く握っていた。ドアを少し乱暴に開け放った彼は家に入ったとたん覆いかぶさるようにレナを自分と壁の間に挟んだ。
「え!?ちょっとガウス・・・!?」
「レナは・・・俺のことが好きか・・・?」
レナは突然の質問に戸惑ったが、目の前にいる恋人の目を見た瞬間何も考えることができなくなってしまった。そこには彼が今まで微塵も見せなかった不安、何かを失ってしまう恐怖がありありと映っている気がした。
「俺のこと・・・好きか?」
もう一度尋ねてきた岳の声は震えていて、レナはそんな彼を見ることで序々に落ち着いていった。
「好きだよ。・・・愛してる。だからそんな不安そうな目をしないで。それに・・・私がガウスじゃなきゃダメだってこと知ってるでしょ?」
「・・・そっか。」
「うん。気持ちは分かるけど・・・今はそんな顔をしちゃダメ。もう私はどこにも行ったりしないから・・・だから、安心して。」
レナは岳の後ろに手を回し、まるで泣きそうな子供を落ち着かせるかのようにその背中を優しくさすった。岳は俯いていたが体はもう震えておらず、むしろ安心したように呼吸に合わせて体を少しだけ上下させていた。
(まさかガウスが嫉妬してくれるなんてね・・・。ちょっと嬉しいかも・・・。)
「レナ・・・。」
「ん?」
部屋はほぼ真っ暗で、レナは顔を上げた岳の表情がよく分からなかった。
「ずっと・・・ずっと俺だけ見てろ・・・。」
レナが何かを言う前に、その唇は無理やり塞がれてしまっていた。
どうも・・・。 なんか・・・えっと・・・い、いかがだったでしょうか?今回はなんかいろいろ詰め込み過ぎたような・・・そうでないような・・・。とにかく自分としては少し微妙な感じになってしまいました。 ハヤテとレナちゃんの絡み、そして西沢さんとの決着をつけようかなぁと思っていたんですが、後者のほうは次回に持ち越しですね。 ハヤテも驚いた通り岳くんとレナちゃん、実はまだ進展してなかったんですよねぇ。岳くんが意外と奥手というかそんな感じなんですよ。まぁ、今回で思いっきり階段上っちゃいますけどね!!!(テヘッ☆ ベットインするところまで書いても良かったのですがなんか抽象的にしたくなったので、その後はお好きなように想像してください。あ、子供は想像しちゃダメだぞ?
それは置いておいて西沢さんなんですが、彼女らしく粘ってくれるんじゃないかなって感じでこんな話になりました。納得はするけど理解はできない、みたいな?そんな悶々としている西沢さんを書いてみたいです。出来るかどうかはわかりませんけど。
次回はちゃんと西沢さんと決着をつけさせます。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.69 ) |
- 日時: 2014/11/25 01:44
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。
参照が4000を超えました!!読んでくれた方、本当にありがとうございます。実際、まだ文才がないことが悩みなんですが・・・。と、とにかくありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!! さて、今回の本文は取り敢えず西沢さん視点でいこうかなって思っています。実は前回で西沢さんと決着をつけさせるつもりだったんですが、どうも三人称ではやりにくかったので・・・。あ、冒頭はやっぱり岳くんとレナちゃんの話しです。なんかこれで安定してきた気が・・・ そ、それでは・・・ 更新!!
(まさかガウスがここまで強引だったなんて・・・)
-ずっと俺だけ見てろ・・・-
(私はまだドキドキしてるのに・・・なんでこんな可愛い顔して寝れるのかな?)
同じベットの上でレナは隣で寝息をたてている岳を見るたびにため息をついていた。ちなみにシーツこそ被ってはいるものの二人とも服は着ていない。つまり事後だ。 レナが岳の頬を指で軽く突くと、彼は少し顔をしかめてまた寝息をたて始める。顔はまだ赤いものの、それを見ていたレナは微笑んでいた。
「これからはずっと一緒に歩いていこうね・・・。」
そう呟いても当然反応が帰ってくるはずもなく、レナは少し残念そうにため息をついた。聞かれていたらそれでもの凄く恥ずかしいのだが、答えてくれないのも寂しさを感じさせる。 しかしそれでは癪なので、このままこっちからキスでもしてやろうかなどと考えながらレナがもう一度岳のほうを見てみると、その顔は不自然なほど真っ赤に染まっていた。
「お、起きてた・・・?」
「起きてない・・・。」
ボフッ!!!!
それはレナが枕で岳の顔を抑えた音だった。
「忘れて!!お願いだから忘れてー!!!」
「やめろって!!!てか忘れられるわけねーだろ、バカ!!!」
なんとか枕を奪い取って拘束から抜け出した岳はレナの胸に枕を押し付けた。レナは不満そうに頬を膨らませ、若干涙目の顔で岳のことを睨みつけていたのだが、岳はそんな彼女を見てまた顔を赤くしていた。
「な、なんでガウスが赤くなるの!?恥ずかしい台詞言ってきたのはガウスもなんだからね!!」
「分かった!!分かったからそんな顔すんな!!」
岳は正直目のやり場に困っていた。レナは腕と足、さらにはシーツまで使って身体を隠そうとはしていたのだが、それでも隠せていない箇所があるのだ。そんな彼女から目をそらした岳は口を隠すように手を当てた。
「・・・また押し倒したくなる。」
「ひゃっ!!!」
レナがさらに強く自分の身体を抱いてもやはりちらほらと白い肌が見えている。岳は一旦深呼吸をして落ち着きを取り戻し、適当に服を取り出して彼女に投げてよこした。レナがそれをそそくさと着て一件落着とはいかず、お互いに悶々とした空気のなか、何も話さずベットの上に背中合わせてで腰掛けたままの状態が続いた。
「あのさ・・・。」
「なんだよ?」
しばらくして口を開いたレナに岳はぶっきらぼうな返事をしたが、その後の彼女の言葉でまた顔を沸騰させた。
「赤ちゃんできたら・・・どうするの?」
「っ!!!!な、なんでそういうこと聞くんだよ!?また思い出しちまうだろーが!!」
「ガウスがそのままでしちゃうからでしょ!!まったくこういう時だけ無駄に強引なんだから・・・!!」
気づけば吐息がかかる程に顔を近づけ合っていた。それに気づいた二人はバッと顔を離したのだが、レナのほうは勢い余ってベットから転げ落ちてしまった。
「お、おい・・・大丈夫か?」
「大丈夫・・・。それより、さっきのこと・・・。」
「・・・。」
岳はレナの手が自分の手に触れた瞬間、彼女を思いっきり抱き寄せた。
「それこそ大丈夫だ。」
「で、でも私たちまだ学生やってるし・・・、ガウスはともかく、私はまだこの世界のことすらよく分かってないし・・・。」
ポフッ・・・
岳はレナの頭にそっと手を置き、優しく撫で始めた。これまでヒナギクやアカリの頭を撫でたときとは違う・・・それが何かは岳自身もよく分かっていなかったが、レナだけは特別な感じだった。
「俺がいる。いざとなったら学校を辞めたっていい。」
「で、でもそれじゃ・・・。」
続きを言わせないように岳はレナの顔を自分の胸に埋めさせた。
「こんな時のために今まで頑張ってきたんだ。ずっと一緒に歩いてくれるんだろ?それならなんとかなるさ・・・。それにハヤテたちだっているんだから、お互いに協力すればいい・・・。」
「・・・。うん、そうだね・・・。」
(ガウスはこんなに変わってしまったのに、私の気持ちはちっとも変わらない・・・。やっぱり好きなんだなぁ・・・。)
「ん?どうした?」
岳はまだ何か考えているのかと思って声をかけたのだが、顔を上げたレナの笑顔はとても輝いていて、微塵も迷っている様子なんてなかった。
「ううん、なんでもない!!」
再び頬を赤く染めた岳を見たレナは、自分のおなかのあたりがトクンと高鳴るのを感じた。
第37話 『Walkin'』
どうしようーーー!!!!! 言っちゃった!!言っちゃった!!!てかさっきヒナさんは関係ないとか言ったけどこれ絶対怒られるよね!?うわぁー!!どうしたらいいのかな!?かなーーー!! ハヤテくんもなんで何も言わずにただ赤くなっているのかな!?そんな期待をもたせるようなことしちゃ・・・いや、期待しちゃいけないんだけれども!!
「あ、あのね!!ハヤテくん、今のはその・・・」
「ごめんなさい・・・。西沢さん。」
・・・。あれ?初めてじゃないはずなのに、分かっていたはずなのに、なんでこんな胸が痛いんだろう・・・?
「気持ちは嬉しかったですし、僕も西沢さんのことが嫌いではありません。でも、僕にはヒナギクさんが・・・。」
言わないで!!お願い、これ以上何も聞きたくない!!お願いだから・・・
「・・・いや、ヒナギクさんは・・・関係ないんです。」
「!!!」
「あれ?関係あるのかな?えっと・・・う〜ん・・・。」
こんな状況で頭を抱え始めたハヤテくんを見てたらちょっと吹いてしまった。でも、関係ないってどういうことなんだろう。
「えっと・・・ハヤテくん?」
「あ、はい!ですから・・その・・・僕はヒナギクさんが好きなんですよ。」
「うん、知ってる。」
「「・・・・・・」」
あれ?なんなのかなこの微妙な間は。もしかして言っちゃいけなかったのかな?
「いや、まぁそうなんですけど・・・。」
なんか私が出鼻を挫いちゃったみたいだけどハヤテくんはすぐに笑顔をつくった。私の大好きな優しい笑顔・・・。
「付き合っているとか・・・そんな前提の前に僕がヒナギクさんを好きなんですよ。愛してるなんてまだ言う資格はないかもしれですけど・・・それでも好きなんです。だから、もう僕の心が西沢さんに傾くことはありません。ごめんなさい・・・。」
ハヤテくんがじっと・・・私だけを見つめている。フられちゃったはずなのに、なんでこの続きをずっと見たいなんて思っているんだろう?
「・・・ありがとう。」
「え?」
「いや、ちゃんと断ってくれたこと。そうじゃないと私・・・ずっと諦めきれずいたかもしれないから・・・。ね、ハヤテくん?」
「はい?」
まだ完全にってわけにはいかないけど、結構吹っ切れたんじゃないかな?でも、最後くらいは我が儘言ってもいいよね?
「に、西沢さん!?」
今、私はハヤテくんに抱きついている。温かい・・・。これで最後・・・ホントに最後だから。 でもこんなのヒナさんに見つかったら絶対怒られちゃうよね。もう十分気が済んだし、これぐらいで・・・
「パパ・・・?何やってるの?」
そっか〜、そうきたか〜。恋人の代わりに娘が来るなんて、ハヤテくんってやっぱり不幸体質なんだなぁ・・・。
「あ、アカリ!?これはその・・・。」
「問答無用!!!」
「まったく、そうならそうと事情を説明してくれれば・・・。」
「アカリ?問答無用とか言ってなかったっけ?」
「何か?」
「いえ、何も・・・。」
なんかハヤテくんの未来を知っちゃったかも・・・。それにしてもアカリちゃんもヒナさんと同じで怒るとすごいな〜。ハヤテくんボロ雑巾みたいにされちゃったし・・・。
「ところでアカリちゃんは何で商店街に来てたのかな?」
「ん?ああ、ナギお姉ちゃんの誕生日プレゼントを買いに来たの。ホントはパ・パ・と・買いに行きたかったんだけどいつまでたっても帰ってこなくてママが先に帰ってきちゃったから、ママに連れてきてもらったの。」
アカリちゃん、ハヤテくんを見る視線が怖いよ。まぁ、ほとんど私のせいなんだけど・・・。
「え!?ヒナギクさんも来てるの!?」
「そう。だからママに見つからなくて本当によかったね。まぁ、そのママなんだけど向こうのお店にいるから、せっかくだし一緒に帰ろう。」
さっきとはうって変わって無邪気な笑顔を見せるアカリちゃんはホントにハヤテくんのことが好きなんだと思う。やっぱりお父さんだからかな。
「あー、こんなところにいた。ってなにハヤテくんと腕組んでるのよ!!??」
「いいのいいの。だって私パパの娘だしこれぐらい普通だよー。」
う〜ん、結構本気なのかな?アカリちゃん最初はあんなにハヤテくんのこと避けてたのに、やっぱりハヤテくんは相変わらずだな。
「あ、歩も来てたんだ。」
「う、うん。私もナギちゃんのプレゼントを選びに・・・ね。」
「ママー!!歩お姉ちゃーん!!先に行っちゃうよー!!」
「あ、ちょっと待ってって!!ほら、歩も帰ろう。」
なんか、ハヤテくんがあんなにヒナさんのことを好きなっちゃった理由が分かったかも。ヒナさんの手、すごく優しくて・・・すごく温かい・・・。
「うん!!」
「へー、そんなことがあったんだ。」
「怒らないの?もしかしたら私がハヤテくんを奪ってたかもしれないんだよ?」
ヒナさんたちは今日アパートに泊まっていくらしい。ちなみに今はお風呂に入った後に二人で縁側に腰掛けてるんだけど、思い切って商店街のこと話したらなんだか呆気ない返事を返された。
「いや、そうなんだけど。なんていうか・・・信じてるのよ。」
「ヒナさん、惚気すぎ・・・。」
「し、仕方ないでしょ!!そういう話をしてるんだから!!!」
信じてる・・・か。やっぱり強いなぁ・・・ヒナさんは。
「それに、多分私たちにとっても必要なことだったとも思う。いつまでも中途半端なままじゃ歩も・・・私も前に進めない。だから・・・ありがとう。あっ!!これはフられたことじゃなくてハヤテくんに告白してくれてってことで!!!だからそういう意味じゃ・・!!」
「あはは。そんなの分かってるよ。」
やっぱりヒナさんはかわいいなぁ。思わず抱きしめたくなっちゃうくらい。
「って、歩?何してるの?」
「ん〜?」
前言撤回。やっぱり抱きしめました。
「苦しかったし、切なかったけど・・・やっぱり楽しかったから私はいい恋をしたんじゃないかな。だから、こちらこそありがとう。前にも言った通り恨みっこなしだから・・・ずっと友達だよ・・・。」
「・・・うん。」
ヒナさんは私の背中を撫でて、それから私の顔を隠すように抱きしめてくれた。こんなことされたらヒナさんが辛いはずなのに・・・私はなんでこんなに泣いちゃうのかな・・・。
「おはよう!ハヤテくん!!」
「あ、おはようございます。西沢さん。今日は早いんですね。」
12月3日、土曜日。遮る雲のない空から降り注がれる朝日が冬の澄んだ空気の肌寒さを溶かして、だんだんと私の体を温めていく。なんてモノローグを思いつくぐらい私は完全に立ち直ってる。
「そういや今日はナギちゃんの誕生日だね。」
「そうですね。これまでお世話になった分ちゃんと祝わないといけませんね。」
「なんか堅いけど・・・ハヤテくんらしいかな。」
昨日私はこの人に失恋しちゃったけれど、後悔がないなんて言えないけれど、私は私らしく歩いていける。笑顔も優しい言葉もちゃんとキャッチできる。これは綾崎ハヤテという男の子に「好き」って言った時から変わらない自分ルール。
「あ、そうだ。ハヤテくん。」
「はい、なんでしょう?」
「・・・いつもありがとう!!」
「へ?」
ハヤテくんはいきなりのお礼にキョトンとした顔をしていたけれどそれでいい。感謝していることなんていっぱいありすぎて私も全部は分からないもん。その中で一つあげるとすれば・・・西沢歩という少女に恋をさせてくれてありがとう・・・かな? これから彼以上の出逢いがあるのか分からないけど、まぁ、別の恋をするまではハヤテくんとヒナさんのお応援でもしていればいいんじゃないかな?
「えっと・・・西沢さん?」
「ん?なんだいハヤテくん。悩みがあるなら私に言ってごらん。」
「いや、悩みとかじゃなくてですね。そろそろ退いてもらわないと・・・掃除が・・・。」
「わぁああ!!ご、ごめん!!!」
「い、いえ・・・。」
せ、せっかくいい雰囲気だったのに!!!神様って本当にイジワルなんじゃないかな!?かなーー!!??
「へくちっ!!!ったく・・・そういうのと俺は全く関係ねぇっての・・・。」
「どうしたの?ガウス。」
「別に・・・。ちょっとくしゃみが出ただけだ。」
「うん。女の子みたいで可愛かったよ?」
「・・・。バカにしてる?」
「ぜんぜん・・・。」
どうも。 取り敢えずこれで西沢さんとの決着は終りです。 それにしても冒頭を書いていて思ったことなんですが・・・これ、ハヤテのSSでしたよね?いや、実は結構ハヤヒナ的にも必要なイベントだったりするんですけどやっぱりオリキャラだけだとこうなってしまうので。なんというか・・・再びすいません。 さ、さて今回は西沢さんのキャラソン『Walkin'』を使わせてもらいました。『Cuties』のエンディングテーマはどれも個人的に気に入っていたりするんですが、カラオケでないんですよね〜これが。ま、それは置いておいて『Walkin'』はその中でもホントにいい曲だと思うのでまだフルで聴いていない人は(アニメはちゃんと見ている前提)是非聴いてみてください!できればインスト(?あの歌詞抜きのやつ)も聴いてみてくだい!! 次回はナギちゃんの誕生日のお話です。
それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.70 ) |
- 日時: 2014/11/26 23:35
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361
タッキーさんへ
作品を見て改めて思ったのですが、西沢さんもいいキャラですね。 常に(失礼)脇役ではあっても、決して悪い意味でなくヒナギクさんの魅力を引き立てていると思います。
私は自分のストーリーに直接絡ませることなく冷遇(?)していますが、番外編で扱ってみてもいいかな、なんてことも考えました(確約はできません)。
まあ、へそ曲がりの私のことです。 その時は失恋から立ち直る、という流れにはしないと思いますが。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.71 ) |
- 日時: 2014/11/29 14:23
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうもタッキーです。
どうふんさんご感想ありがとうございます。
なんというか・・・西沢さんはハヤテキャラの中でも芯の強いキャラだと個人的に思っています。だからこういう話もできましたし、彼女が出ている話は考えやすくてとても(こっちこそ失礼)便利です。
どうふんさんの番外編も楽しみにしています。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.72 ) |
- 日時: 2014/12/10 02:01
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
やっと試験が終わって久しぶりの投稿です。ていうかこの遅筆をどうにかしたい。 それでは・・・ 更新!!
「今日・・・誕生日か・・・。」
よく手入れされている金色の髪はまだ二つに結われていない。ベッドの上で寝巻き姿の三千院ナギは目が覚めてすぐ天井を仰ぎ、ふとそんなことを呟いていた。自分の体温でほどよく温められた布団は寒さの深くなってきたこの季節にはまるで心地よい魔法でできているのかのようで、当然ナギがその魔力に引き込まれないはずがなくしばらくの間布団のなかでモゾモゾと体を動かしたあと、結局彼女はそれだけの運動すらもやめてしまった。
「寝よ・・・。」
「起きなさい!まったく、今日はせっかくの誕生日なんですから早く起きたっていいじゃないですか・・・。」
「せっかくの誕生日だからこうして二度寝するのだ。」
「もぉ、昼からアパートで皆さんがパーティーを開いてくれるんだから早く支度してください。ただでさえ起きるのが遅いんですからもう
時間がないんですよ?」
「う〜〜。」
しぶしぶベッドから這い出たナギはマリアに言われたとおり着替えるため、タンスから襟の丸い藤色のワイシャツと灰色のセーター、赤い
スカートを引っ張りだし、それらに身を包んで横縞のニーソックスに足を突っ込んだ後、最後に黒いマフラーを首に巻いた。着替えているうちに眠気が若干覚めたナギは鏡で寝癖などおかしなところがチェックすると勢いよくドアを開けて玄関へ向かった。
「ほらマリア、早く行くぞ!」
「はいはい。でもそんな走ると危ないですよ。」
マリアはずっと待っていた自分をさも当然のように追い抜いていったナギに思わずため息をついてしまった。しかしそれはナギの行動にで
はなく彼女の素直じゃない性格にだ。
(なんだかんだ言って楽しみしてるんですよね〜。)
マリアが外へ出ると息が白く濁り、寒さが肌を刺した。扉を閉めて振り返ってみればナギの姿は既に小さくなっており、このままでは迷子
になってしまうかもとそのツインテールを揺らす少女を急いで追いかけた。
(誕生日おめでとう・・・ナギ。)
第38話 『アスタリスク』
ナギが屋敷を出た頃、アパートでは飾り付けも無事終わり、マリアを除いたナギを祝う側の人たちが次々に集まっていた。
「ヒナちゃ〜ん、おはよ〜!!」
「あ、レナ!おはよ〜。」
ちなみにこのアパートに集まっているのはほとんど白皇の生徒でレナとは少なからず面識があったのだが、歩のように別の高校に通ってい
たりルカように高校に通ってすらいない者たちにとっては初対面だったので当然彼女たちの頭の上にクエスチョンマークが浮かび、解決策
として一番親しそうなヒナギクに質問することを選んだ。
「ねぇヒナさん。あの美人さんはいったい誰なのかな?」
「え?あぁ、歩とルカは初対面だったわね。この人は竜堂レナさん、最近白皇に転入してきたの。レナ、こっちは私の友達の西沢歩と水蓮
寺ルカよ。」
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「「こ、こちらこそ・・・。」」
ヒナギクに対する人懐っこい態度が一変しておどおどとしているレナに歩たちもペースを崩されて曖昧な挨拶しかできなかった。
(ヒナ?私たち何かしたっけ?)
(えっと・・・レナって初対面の人にはすごく緊張するっていうか・・・)
「要するに人見知りなんだね。それならこの私に任せるといいんじゃないかな。」
「!!」
ヒソヒソと話していたルカとヒナギクの間に急に入ってきた歩は何故か得意気な顔をしていて、ヒナギクが気づいたときには歩は既にレナ
と向い合った。
「レナさん・・・?」
「は、はい!!」
「私はヒナさんの友達の西沢歩。どうぞよろしく。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
(な、なんで上から目線なのかしら?)
(さ、さぁ?)
ドヤ顔を決めている歩はレナに手を差し出し彼女と握手を交わすと、その手がまだ震えていることに気がついた。歩はしょうがないとでも
言うようにため息をつき、再びレナに話しかけた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。これから私たちは友達なんだから・・・。」
「西沢さん・・・。」
「私のことは「歩」って呼ぶといいんじゃないかな?私も君のことを「レナ」って呼ぶけど・・・いいかな?」
「は、はい!」
(だからなんで上から目線なのかしら?)
(さ、さぁ・・・?)
なんだかんだで自己紹介も終り、しばらくしてレナがとけこめるようになるとナギたちが来るまでの暇つぶしは当然ガールズトークになっ
たのだが、彼氏持ちが二人もいると自然に話がその方向へ持っていかれ、ヒナギクは相変わらず質問をされる度に顔を赤くさせていたがそれとは反対にレナは嬉しそうに質問に答えていた。
「それにしてもレナが岳さんと付き合ってたなんてね・・・。でもなんだか納得できるかも。たしかにお似合いだもの。」
「えへへ。そうかな?」
「そういえばガウくんはどうしたの?あなたたちが一緒にいないのって少し珍しい気もするんだけど・・・。」
「ふぇ!!??が、ガウスは・・・その・・・少し片付けてから来る・・・かも・・・。」
「?」
ヒナギクはレナが何故いきなり顔を赤くさせて俯いてしまったのか全く分からなかったが、歩とルカはどうやらピンときたようだ。ルカは
すぐさまヒナギクの肩に手を引っ掛けてレナから顔をそらさせ、歩はレナに絶対に聞こえないような小さな声でヒナギクに耳打ちした。
(ヒナさん。これは多分ゴニョゴニョというわけで・・・きっとホニョホニョってわけなんだよ・・・)
(へ!?そ、そうなの!?)
(きっとそうよ。だからヒナ、ここはあえて何も言わずに大人の対応をしてあげるの。大人の対応を・・・。)
(わ、分かったわ。やってみる。)
レナがまだ俯いていたのは幸いだった。振り返ったヒギクは動揺を悟られまいとしていたがどうしても顔が赤くなってしまっていて、横に
いる二人からは思い切りバレバレな状態だった。彼女は生徒会長ということもありこういうことは得意であるはずなのだが、内容が内容だ
けにハヤテとのシチュエーションを想像してしまうので緊張するなというのはやはり無理な話だった。
「レナ・・・。」
「な、なに・・・?」
その瞬間ヒナギクも、その横にいるルカと歩も自分の心臓の音がとてもうるさく聞こえた。それはヒナギクの声に半分ほど顔を上げたレナ
が上目遣いの状態で自分たちを見ていて、それにときめいてしまったからだと三人とも適当な理由をつけて逃げていたのだが何にでもタイ
ムリミットはある。そしてついにヒナギクはその重たい唇を開いた。
「その・・・おめでとう・・・。」
「・・・!!いや・・・その・・・あ、ありがとう・・・。」
彼女たちを取り巻く空気は確実に重くなった。レナはさらに顔を赤くさせてまた俯いてしまい、ヒナギクたちはどうすることもできずにた
だオロオロしていた。
(ど、どうするのヒナさん!?)
(わ、私に聞かれたって分かるわけないじゃない!)
「さっきからお前たちは何してるのだ?」
「・・・っ!!いやナイス!!ナイスタイミングだよナギちゃん!!」
「へ?」
ナギが来たのを口実に気まづい空間を強制的に崩壊させた歩は「まぁまぁ」などの曖昧な言葉でナギの疑問を受け流し、ほかのメンバーも
今のうちに場所を移していた。
「さ、ナギちゃんはここで待機。五分経ったら共同スペースに来てね。」
「う、うん・・・。」
「誕生日、おめでとーーーう!!!」
五分後、ナギが共同スペースに入ると部屋は見事に飾り付けられていて、中央のテーブルにのっているバースデーケーキを囲むように今日のためアパートに集まった人たち全員が一斉にクラッカーを鳴らした。けむり臭さも気にならず、嬉しさがこみ上げてきたナギは思わず一番近くにいたアカリを抱きしめた。
「えへへ。ナギお姉ちゃんお誕生日おめでとう。」
「アカリ・・・ありがとう。」
アカリはナギの腕をほどくとポケットから小さな立方体の箱を取り出して彼女に差し出した。それは無論誕生日プレゼントであり、そのあとも次々とナギの腕のなかにはプレゼントが集まっていき、あっという間にいっぱいになってしまった。
「さぁナギちゃん!私からのプレゼントを受け取るが・・・」
「いや、いいです。」
「なんでだよ!なんで誕生日プレゼントを即断るんだよ!?」
「いや、だって・・・」
パーティーでテンションが上がりまくっていた理沙のプレゼントをナギが一蹴した理由は一つ。なんだか面倒くさそうだったから。しかし理沙の脇に置いてある箱はナギの身長と同じくらい大きくて、もはやどうやって持ち込んだのか分からない。つまりろくなモノではないとナギが考えつくのは当然のことなのだ。
「うわ〜ん!アッカリーーン!!ナギちゃんがいじめるよ〜!。」
「別にいじめてねぇよ。」
理沙に泣き疲れてもアカリは鬱陶しがることはなく、むしろ優しい姉のような感じでそっと彼女の頭を撫でてあげていた。
「あんな大きいプレゼント渡されたら誰だって困っちゃうよ。ほら、あとで私が美味しいもの作ってあげるからそんなに落ち込まないで・・・。」
「う〜っ!!・・・アッカリーーーン!!!」
高校生が小学生に慰められているのもどうかと思うが、誰一人この状況に違和感を感じた者はいなかったのはアカリがそれだけいい子に育っていることを全員が理解していたからだろう。まぁ、それでも理沙の年上としての威厳は十分失われているのだが・・・。 ナギがプレゼントを全て受け取って、ヒナギクが理沙を叱り、アカリに甘やかさないように注意したあと、全員が庭のほうに並べていた料理に待ってましたとばかりに向かって行った。それはアパートの住人全員で作ったもので、豪華なものから誰でも簡単にできそうなものまで、様々な料理が白いテーブルに色をつけていた。
「それにしてもアカリは大人だな。やはりヒナギクとハヤテの娘だからなのだろうな。」
「もうナギったら。それおだててるつもり?あと食べながら話すのは行儀が悪いわよ。」
ローストビーフをつまんでいたナギは自分の思ったことをそのまま伝えたのだが、ヒナギクにとっては少しこそばゆい話だった。少し顔を赤らめてアカリの方を見るとハヤテに食べさせてたりなどと親子にしては少し過剰なスキンシップをとっていたのだが、ヒナギクも自分の娘の成長が嬉しくて今日ぐらいはと見逃してやっていた。
「そういえばヒナギク・・・。」
「ん?」
ヒナギクが再びナギのほうを向くと変にニコニコとしていてなんだか嫌な予感を感じた。そう、まるで何かからかいのネタを見つけられたかのように・・・。
「お前はいつアカリを生む予定なのだ?」
「っ!!な、何言ってるのよ!!私とハヤテくんはまだよ!ま・だ!!」
「ほう・・・。で、何が「まだ」なんだって?」
「何がって・・・それは・・・その・・・。」
「ヒナちゃん顔赤いよ〜。どうしたの〜?」
「れ、レナ!!??」
頭がいっぱいだったヒナギクが気づかなかっただけなのか、それともレナがヒナギクに気づかれないように忍びよっていたからのか、とにかく突然現れたレナに対してヒナギクは飛び退くように距離を取ってしまったが、レナのほうはあまり気にしてはおらずむしろ楽しそうにニコニコと笑っていた。
「あ、ナギちゃん誕生日おめでと〜。」
「あ、ありがとうございます・・・てかレナさん、酔ってません?」
「ん〜?別に酔ってないよ〜。」
レナの頬はほんのり赤く染まっていて、少し喋り方もぎこちない。飲み物にアルコールのあるものは当然なかったのだが、料理に入っていた少量のお酒で酔ってしまったらしい。
(どんだけお酒に弱いのよ・・・。てかどうするのよ?)
(私に言われたって。とりあえず岳さんを呼んだ方がいいのではないか?)
ナギの意見に従い岳を探すためにヒナギクは顔を上げようとしたが、その前にレナに後ろから抱きつかれた。ここまでならまだ良かったのかもしれないが、レナは酔いが回っていたせいかヒナギクに対して少しぐらいを通り越しているスキンシップをしてきた。
「あっ・・・!!ちょっとレナ!?どこさわって・・・ひゃん!!」
「お、ヒナちゃんいいねぇ。でもそんなんだとハヤテくんみたいな男のからはイジメられちゃうよ〜。」
「い、イジメる!!??」
レナの言葉に反応したのはナギだった。ヒナギクは既に猛攻によってちゃんと話すこともできず、ナギは少し刺激の強い光景から目を離せなくなってしまっていた。
「ガウスなんか普段あんなに優しいのにいざとなるとすっごいイジワルなんだよ〜?昨日なんかいちいち実況するし、私が疲れてくったりしてるのに朝まで寝かせてくれなかったし・・・。」
「実況!!??朝まで!!??」
「やっ・・・!!だからなんでそんなとこ・・・んっ!!」
レナの手は動きを止めるどころかどんどん危ない感じの手つきになっていく。ヒナギクがそろそろ限界になってきたのを察したレナは自分の指先にさらに力を込めた。・・・が
「それからガウスったら私にこん・・・モガッ!!!」
「人前で何言ってんだよ!!あ、ヒナ大丈夫か?ったく本当にすまねぇな。レナにはちゃんと言っとくから。ほら、行くぞ!!」
慌ててレナを口に手で蓋をした岳はナギたちが見たことのないほど取り乱していて、その顔はヒナギク以上に赤くなっていた。やっと解放されたヒナギクは息をきらしながらも岳にコクンと頷き、彼らがアパートに入っていく、正確にはレナが岳に引きづられていくのをしばらく見ていた。
「だ、大丈夫か?」
「なんとか・・・。」
ナギは顔がまだ赤く火照っているのを誤魔化すかのように、最初から持っていたジュースを一息に飲み干した。
騒がしくもなんだかんだで楽しかった誕生日パーティーも終り、ナギはアパートから星空を眺めていた。寝巻き姿だったが、今日は比較的温かくてストールを羽織っていれば寒さはそこまで問題にはならなかった。
「お嬢様、ホットミルクをご用意いたしました。」
「ん?ああ、ありがとう。」
ハヤテがホットミルクを持ってきたのはナギが直接注文したからだった。昼間あれだけはしゃいだというのに目はパッチリと冴えていて、無言のまま縁側にたたずんでいた彼女が流れ星でも見れないものかとかれこれ30分ほど空を見上げていたところにハヤテが何か飲み物はいるかと聞いてきたのだ。
「今日はとても楽しかった。ありがとう、ハヤテ。」
「いえ、大切なお嬢様のためですから。」
ハヤテのジゴロはやはり治ることはないらしい。ナギはため息をつくと不思議そうな顔をしているハヤテに注意した。
「お前、そんな思わせぶりなことを言ってるといつかヒナギクから刺されるぞ?この私があれだけ応援してやったんだから浮気なんて言語道断だからな。」
「わ、分かってますよ・・・。」
一応岳からボコボコにされた前科があるので苦笑いを浮かべることしかできないハヤテにナギは再びため息をつき、よっこいしょと年寄りくさい台詞とともに立ち上がって夜空に向かって両手を広げると大きく深呼吸をした。冷たい空気が肺に送られ、気持ちいいと感じるくらい新鮮な酸素が体中に行き渡るが感じられる。こっちを向いていて欲しいけどあっちを向いていて欲しい。そんな素直になれずにいた気持ちもこうすることでちっぽけな世界のほんのちっぽけな気持ちなんだと感じずにはいられなかった。
「なぁハヤテ・・・。私が名前を呼んだら・・・また、ちゃんと助けに来てくれるか?」
「え?もちろんですよ。僕はお嬢様の執事ですから。」
「ヒナギクと私・・・同時に名前を呼ばれたときは?」
そこにはナギが予想していたほどの間はなかった。それはその分ハヤテがヒナギクのことを大切に思っているということで、それが素直に嬉しい気持ちと、やっぱり少し寂しい気持ちがあったのだが、ナギの中には彼女自身が自覚できるくらい、不思議と嫉妬という感情は存在していなかった。
「多分・・・ヒナギクさんのほうに行ってしまうと思います。」
「だろうな・・・。」
ナギがあと少しこうしていたいと思ったのは自分の執事が離れていってしまう寂しさがあったからでも、かつての想い人に恋人ができたことにたいする嫉妬でもない。ただこの場所が心地よかったから・・・ただ、それだけ。
「そういやアカリとヒナギクは?」
「お風呂ですよ。西沢さんやレナさんも一緒です。」
「ふ〜ん。」
ナギが気まぐれを起こしたのも同じような理由からだろうか。彼女は振り返ってハヤテの胸のあたりをつつくとまるで小悪魔のようにイタズラ気に微笑んだ。
「ハヤテ。お前とヒナギクはいつアカリをつくる予定なのだ?」
「はへ!!??ちょっ!!何言ってるんですかお嬢様!!」
ナギが明日からちょっと素直になれるかもと思ったのも、きっと・・・同じ理由。ナギとハヤテは彼らの頭上に一つの光が尾を引いていたことに気づかなかった。
どうも。 今回はナギちゃんのキャラソン「アスタリスク」を使わせていただきました。 基本的にナギちゃんの話のつもりだったんですがレナちゃん要素が濃くなってしまいましたね。あとハヤテが少ない。ちょっと反省しています。でもレナちゃんがつい口走って岳くんが慌てる話は前々からやりたかったですし、ナギちゃんおめでとうは気分的に冒頭でやっちゃったので・・・。 さて、なんだかんだ言って確実に完結に向かっているこのお話なんですが、多分あとアフターも含めて5,6話だと思います。(多分決定)相変わらず遅筆ですし拙い文ですか最後まで付き合っていただけると嬉しいです。 次回からはついにアカリちゃんが・・・な、お話です。 それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.73 ) |
- 日時: 2014/12/16 17:10
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!タッキーです。
今回からはアカリちゃんの要素が強くなると思います。時系列的に彼女の誕生日の12月12日ですし。 それでは・・・ 更新!!
「パパー!ママー!早く次いこうよー!!」
「ちょっとアカリ!だから走ったら危ないって!」
「転びそうになってもパパが助けてくれるから平気だも〜ん!」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・。」
ヒナギクは前方でハヤテとアカリがはしゃいでいるのをゲッソリとした顔で見ていた。彼女たちは今、家族三人で遊園地に来ていたのだが、ヒナギクが疲れている理由は決して楽しみで昨日よく眠れなかったなどという小学生じみたことではない。もっとも、娘であるアカリの方が楽しみ過ぎて眠れなかったらしいが自分の両親を引っ張り回せるくらいに元気いっぱいである。
「ほら、次あれ乗ろうよ!!」
「いや、でも・・・。」
アカリが指差した乗り物を見たハヤテがふと後ろを振り返ってみるとヒナギクは既に固まっていて、引きつった笑みを浮かべていた。
「えっと・・・アカリ?絶叫系はたくさん乗ったから別のヤツもどうかな〜、なんて・・・。」
「え〜。でも楽しいよ〜。」
「確かに楽しいけど・・・ほら、なんていうか・・・。」
どうにかしてアカリを説得しようとするハヤテだったが基本的に娘に甘いこの男には上手い言葉が頭が浮かんでこず、そうこうしているうちに追いついていたヒナギクから声をかけられた。
「ハヤテくん。私あそこのベンチで休んでるからアカリと二人で行ってきて。」
「え、いいんですか?」
「別にいいわよ。今日はアカリのためにここに来たんだから。」
「やった!それじゃパパ、早く行こう!」
アカリは嬉しそうにハヤテの腕にしがみつき、それを見ていたヒナギクは少し温かい気持ちになれた。こんなに笑ってくれるのならしょうがない、そう思えたのだ。 しかし、アカリは別にヒナギクが高所恐怖症であることを知らなかったわけではない。もし彼女を遊園地に連れてきたのがヒナギクだけだったならアカリは絶叫系を全て我慢してヒナギクと一緒に楽しめるアトラクションを選んだだろう。しかし大好きな父親も一緒に来ているとなると事情は変わってくる。 ヒナギクはため息をつきながらベンチに腰を下ろし、ハヤテたちが並んでいるバイキングを見上げて思わず身震いした。どうして人間がこんな恐ろしいアトラクションを考えついたのかと頭の中で議論を始めていたヒナギクだが、自分とは反対に楽しそうにはしゃいでいるアカリを見ていると彼女もこちらに気づいたのかふと目があった。ヒナギクは自分の娘に手を振ってみようかと考えついたのだが向こうにはまったくその気はなかったらしい。アカリはまるで見せつけるかのようにハヤテの腕に再びしがみつき、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべてきた。
「!!ハヤテくん!私も乗る!!」
「え!?でも・・・。」
「いいから乗るの!!大体これくらい平気よ!!」
「やった!じゃあママも一緒だね!」
ヒナギクはこの小さい小悪魔を軽く睨みつけたが効果はなく、それからもこのようなやりとりが続いてハヤテたちが入場してから1時間経たない頃にはもう白皇の生徒会長のライフはゼロになっていた。
第39話 『Episode 133』
12月10日、ハヤテとヒナギクは岳から呼び出されて彼の家に来ていた。大切な事だと聞かされていたので二人とも気構えて玄関を開けたのだがそこから先は一歩踏み出すのもためらってしまい、なかなか前に進めずにいた。それは玄関に入った瞬間サプライズがあったとか、彼らが動けなくなるくらいの奇妙な物があったわけではない。問題はリビングから聞こえてきた声なのだ。
「ほら、早くうつ伏せになって。」
「こ、こう・・・?」
「まぁ、そんな感じ。じゃあ始めるけど・・・痛かったら言えよ?」
「うん・・・。」
ハヤテがヒナギクのほうを見てみるとその顔は当然真っ赤になっていて、声を発することもできすにただ口をパクパクと動かしていた。
「んっ・・・!もうちょっと強く・・・。」
「こうか?てか、あんまり無理はしないでくれよ?もうレナだけの体じゃないんだから。」
「・・・うん。分かってるよ・・・。」
「それと・・・レナ、エロい・・・。」
「もうっ!!なんでそんなこといきなり言うかな!?ガウスが上手なのがいけないんだからね!」
「はいはい、それじゃそろそろ・・・」
その時、ハヤテの横で動きがあった。ヒナギクが恥ずかしさのあまり我慢できず、リビングに飛び込んだのだ。
「ちょっとあなたたち!!朝っぱらからなにやっ・・・て・・・?」
「ひ、ヒナギクさん!そんな急・・・に・・・?」
ヒナギクを追いかけて同じように飛び込んできたハヤテだったが、その目に映ったのは彼らが妄想していたものとは違ったものだった。確かにレナはベットの上でうつ伏せになり、さらには顔も赤みがかかっていたが、岳のほうは何げない顔で彼女の肩甲骨のあたりを指で押していただけだった。つまりマッサージ中だったわけで、無論どちらも決して脱いではいないしハヤテたちが考えていたようなことをしていたわけでもない。
「ほう。つまりヒナは俺とレナの会話がそういうふうに聞こえたわけだ。なるほど。」
「いちいち紛らわしいのよ!バカーーー!!」
やや経って、ハヤテとヒナギクはレナが淹れてくれた紅茶をすすっていた。彼らと向いあうように岳とレナが座ると、その雰囲気はどことなく彼氏を親に紹介しているようなものに感じられた。
「それで、話っていうのはなんなんですか?」
「そうだな。本題から入ると・・・」
岳はテーブルに肘をつき、顔の前で手を組んだ。
「アカリちゃんは明後日・・・12月12日に未来に戻る。」
ガタンッ!!!
ハヤテがいきなり立ち上がり倒れた椅子の音が部屋に響いたが、ヒナギクにはその音でさえ耳に入ってこなかった。ただ自分たちに向けられた言葉が頭のなかをぐるぐると回っていて、そのこと以外なにも考えられなくなっていた。
「そんな!!なんとかならないんですか!!??」
「決定事項だ。俺は明後日の20時にアカリちゃんを未来に送る。」
「なんでそんなに急な話になるんですか!!知っていたなら早く教えてくれたって・・・」
「早く教えていれば・・・お前はアカリちゃんに何かしてやれていたか?」
「そ、それは・・・。」
ヒナギクは何も言わなかった。ただ自分の隣で進められている会話を耳の中に押し込み、目の前で心配そうな顔をしているレナから目を伏せることしかできなかった。
「ヒナの気持ちも考えろ。今お前の隣にいるヒナと、未来でアカリちゃんの帰りを待っているヒナ・・・両方のことをちゃんと考えてやれ。」
アカリが自分のことを呼ぶ。自分に無邪気な笑顔を見せてくれる。ハヤテとアカリがいれば世界中の誰よりも幸せになれる。だからヒナギクは離れ離れになってしまうのが怖かった。
(だけど未来の私は?そして・・・アカリは?)
ヒナギクはふとそう思った。当然寂しい思いをしているだろう。アカリだって未来の自分に会いたいと言っていた。もしかしたら現在の自分たちと違って何も告げられず、突然の出来事だったのかもしれない。それがヒナギク自身だったら耐えられただろうか・・・。
「分かった。」
「ヒナギクさん・・・いいんですか?」
「仕方ないじゃない。でもごめんなさい、自分勝手で。ハヤテくんは私のために止めてくれようとしたんでしょ?」
「それは・・・なんというか・・・。」
「誤魔化そうとしたってダメよ。なんとなく分かっちゃうんだから。」
ヒナギクが微笑むとハヤテの顔は少なからず赤く染まる。それはハヤテがヒナギクを好きなってからの鉄則で、本人たちには自覚のない約束のようなものだった。そしてお互いが互いの目にすいこまれるように顔を近づけ合い、やがて二人の影が・・・
「コホンッ・・・!!」
と、ハヤテとヒナギクがそんな妄想をしていたのは一瞬だった。気づけばレナは微笑ましそうにニコニコとしていたが、それとは違う感じでニコニコとしていた岳には危機感さえ感じられた。
「それじゃ、ちゃんと素敵な思い出でも作るように。」
座り直したハヤテとヒナギクの隙間が大きくなったことにクスリと笑った岳は席を立ち、最後にそう言い残してリビングを出て行った。
「紅茶・・・おかわりいる?」
ハヤテとヒナギクは同時に頷き、レナは二人のティーカップを受け取るとゆっくり紅茶を注いだ。彼女が淹れてくれたのはミルクティーで、好みなのか甘めにしてあったそれは今のハヤテたちには張ってしまった心を溶かすいい薬になった。
「本当はね・・・ガウスがアカリちゃんを送り届けるわけじゃないの。」
「え?」
「アカリちゃんが現代に来たことに関してガウスは一切関わってない。だから・・・本当の意味で、アカリちゃんはハヤテくんとヒナちゃんに会いに来たんだよ。」
紅茶のせいだろうか。ハヤテたちの体は今、とても温かかった。それなのに胸がきゅうっと締め付けられるような感覚と込み上げてくる熱いものに、ヒナギクは抑えきることのできなくなっていた涙を拭っていた。
「これ、遊園地のチケットだから・・・よかったら使って。それともやっぱり家で過ごしたかったりする?」
「ううん。ありがとう・・・。三人で一緒に行くことにする・・・。」
三枚のチケットを受け取ったヒナギクを見てレナはおかしそうに笑っていた。
「お礼を言うのはこっちの方なんだけどね。ガウスのこと・・・本当にありがとう。それじゃあ私は自室に戻るけど、まだゆっくりしていっていいから。」
ドアが閉まる音がしてヒナギクの嗚咽だけが部屋に響くようになると、ハヤテはそっとヒナギクを抱き寄せた。
「ありがとう・・・ガウくん、レナ・・・。ありがとう・・・アカリ・・・。」
「僕たちもアカリに負けないくらいたくさん大切なものを贈りましょう。それが今の僕たちがアカリにしてやれることです・・・。」
「うん・・・。」
「ふーーーっ!!楽しかった!!!」
「ひ、ヒナギクさん・・・大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ・・・これくらいなんともないん・・・だから・・・。」
バイキングから降りたアカリはにこやかな顔でのびをし、それとは反対に再びゲッソリしているヒナギクはハヤテに支えられていた。
「まったく・・・なんでハヤテくんとあの子はあの恐ろしい乗り物が平気なのよ・・・?」
「ま、まぁアカリも喜んでましたし・・・結果オーライじゃないんですか?」
支えられて嬉しい状況だったとはいえやはりこの発言はヒナギクにとって面白くなかった。ハヤテが痛がるくらい彼の腕に自分の腕を絡ませたヒナギクはジト目で自分の彼氏を睨みつけた。
「そういえばハヤテくんっていつもアカリの味方ばかりするわよね?」
「い、いや!そんなことは!!ていうかヒナギクさん痛いですよ!!」
「もぉ〜、二人とも何してるの!!」
「「!!」」
気づけばキツく組まれていた腕は解かれ、ハヤテは右手を、ヒナギクは左手を強く引っ張られていた。
「今日はずっと一緒なんだからはぐれちゃダメだよ!!」
自分たちはアカリからどれだけたくさんの事を教えられたのだろうか。どれだけ大きなものを貰ったのだろうか。無邪気に笑うアカリを見てハヤテとヒナギクは互いの顔を見合わせ、彼女と同じように思いっきり笑った。
「よし!!それじゃアカリは次どこに行きたい?」
「う〜ん、もう絶叫系にはたくさん乗ったし・・・じゃあ、パパとママの行きたいところ!!」
ハヤテの右手とアカリの左手、ヒナギクの左手をアカリの右手、三人の繋がれた手を見て家族じゃないと疑う者はいないだろう。太陽は高くのぼり、温かい光が降り注いでいる。三人を包む明かりを見て、彼らが幸せではないと思う者は・・・きっといないだろう。
どうも サブタイの「Episode 133」というのはGoogle先生によると「繋いだ手」とか「光」だそうです。絶対違うと思いながらもいい感じだったので使っちゃいました。 それにしても岳くんとレナちゃんが妙に大人なポジションなのは気のせいでしょうか?実はチャットルームでのやり取りをネタにしたんですが・・・それはまぁ、どこか遠くに置いておくということで。 ちなみに冒頭のアカリちゃんの行動はヒナさんと一緒に乗るための強攻策的な?実は薄々状況を感じとっていて三人でずっと一緒にいたいと考えていたりします。そんなアカリちゃんも次回で・・・。ま、このSSから後日談的な感じで書く予定なのでもう登場しないということはないです。てか最終的に彼女が主役の話を書くつもりです。 それでは・・・ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.74 ) |
- 日時: 2014/12/16 22:01
- 名前: どうふん
タッキーさんへ
ヒナギクさんがバイキングですか・・・考えるだに恐ろしい。 私はジェットコースターは平気な人間ですが、バイキングでは死にました。 乗った後はホントにぐったりして膝が震えて、吐き気が止まらず笑う元気など全くありませんでした。 まあ、最後に思いっきり笑えるのであれば、心配するほどではなかったのかもしれないですね。
本作品のヒナギクさんは、原作以上に寛容で慈愛に満ちていると思いますが、娘相手となるとヤキモチでそこまでやってしまうのか・・・。 まあ、ハヤテの愛情を一身に受けている者同士、理屈では割り切れないものがあるのでしょう。
あとは未来のヒナギクたちさんが家族揃って幸せになれること、楽しみにしています。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.75 ) |
- 日時: 2014/12/20 01:31
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
どうふんさん、ご感想ありがとうございます。 正直、自分はテーマパークに行った回数が少ないほうの人間なのでバイキングは乗ったことがりません。ただジェットコースターはアカリちゃんが既にヒナギクさんを乗せているかなぁ、て感じだったのであえてバイキングで。実際、船が揺れる乗り物という認識しかありませんでした(てへペロ☆
ヒナギクさんがヤキモチを妬く理由の一つとしてはやっぱり自分と同じぐらいハヤテの傍にいる女性だから・・・ですかね。それにアカリちゃんは行動力が高い子なのでヒナギクさんの警戒レベルもレッドゾーンに入っちゃっているみたいな感じです。かと言ってツンデレの血を引いていないというワケではないんですよね、これが。まぁ、その話は別の作品になるかと思います。
アフターの最後を未来の綾崎家でしめようと考えているので、その点は期待してもらうと嬉しいです。ハヤテとヒナさんの愛の結晶がどうなっているか楽しみにしておいてください。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.76 ) |
- 日時: 2014/12/22 01:31
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!今期ももうそろそろ終りだなぁ〜、とか思っているタッキーです。
怖がっている女の子ってもっとイジメたくなるよね!?よね!?ま、冒頭はそんな感じの話です。 それでは・・・更新!!
青く、薄いライトだけが暗夜行路を照らす。完全な暗闇ではない安心感とともに少しだけ残った感覚が限界まで研ぎ澄まされ、恐怖という目には見えないモノとなって彼女を容赦なく押しつぶしにかかる。いつ自分という存在からかけ離れた得体の知れない怪物が飛び出してくるか分からない不安。それが偽物だと分かっているはずなのに実は本物で自分に襲いかかってくるんじゃないかという想像は頭から放り出すことを許してくれない。
ザザ・・・
それは果たして大きな音だっただろうか。それに注意を向けた彼女が目視したのは壁のように設置してある鏡だけで、光の色のせいか幽霊みたいに青白くなっている自分の姿を映し出していた。
「気味悪いよぉ・・・。」
ここで彼女がパニックに陥ることがなかったのは彼女自身がホラーなものに耐性があったからではない。むしろ逆なのだ。だから彼女が今握っている手の温もりがなければその場で泣き崩れてしまう未来は確定的だっただろう。しかしそうなる一歩手前なのも事実で、そんな彼女は元々の進行方向に視線を戻した時に見てはいけないものを見てしまった。いや、見せられてしまった。
「「ーーっ!!キャァァァアアアアアーーー!!!!!!」」
「・・・。」
天井から吊るし下げられていた骸骨の模型は部分部分が赤く染められていてすごくリアルに造られていたが、ハヤテは左右の二人とは反対に一切怖がることなく、そのまま両腕がふさがった状態でも器用に押しのけてみせた。
「えっと・・・もう通り過ぎましたよ?」
その言葉に対する反応はない。しばらく無言でプルプルと震えていた二人だったが、もう耐え切れないとでも言うように片方が叫び声を上げた。
「もうヤダ!!!なんでこんなに怖いの!!??てかなんで人間はこんなアトラクションを考えたの!!??」
「いや、それが醍醐味なんだし・・・。怖いのならアカリは待っていればよかったのに。」
「だってママが!!!ママが!!!!」
自分のことをキッと睨んできた娘にヒナギクは彼女と同じようにハヤテの腕に震える体を押し付けたまま、彼女と同じように涙目になりながらもきちんと睨み返した。
「私を散々絶叫系のアトラクションに乗せたお返しよ!!お化け屋敷は確かに失敗だったけど・・・。」
最後のほうはピッタリとくっついていたハヤテにしか聞こえないほど小さく、アカリは何を言ったのか聞き返そうとしたが再び聞こえてきた壊れたラジオのようなノイズにそれどころではなくなってしまった。二人ともできるだけ前を見ないようにハヤテの腕に額を当て、ギュッと目をつむって震えながらただしがみついていた。
「あ、出口みたいですよ。」
「「ホントっ!!??」」
この時アカリとヒナギクが綾崎ハヤテという人間の根本的な性格を頭の中で考慮するだけの余裕があればこのあとの悲劇は回避できたかもしれない。お化け屋敷という状況下で世間的に見ても美少女二人が自分の腕で怯えている。もうちょっとイジメてやりたいと思うのは俗にサディストと呼ばれる性格を内に秘めていたハヤテにとって仕方のないことだろう。 示された希望を確認するために、それこそ藁にもすがる思いで顔を上げた二人の目前には片目をえぐられた胴のない人間、つまり生首が浮いていて、そのうえ天井からは得体の知れない少しドロっとした液体がしたたってくるというおまけ付きだった。
「ーーーっ!!キャァァァァアアアアーーーーー!!!!」
第40話 『いつか、虹の向こう側で』
お化け屋敷の中から叫び声が一つ消えてしまったのは怖さのあまり気絶してしまった者が出たということである。ハヤテは反省を通り越して落ち込んだ状態でアカリをおぶっていた。
「ま、ハヤテくんが悪いわね。」
「ホントすいません・・・。」
アカリは現在ハヤテの背で気持ちよさそうに寝息を立てているが、この男のせいでせっかくの時間を無駄にしているのは事実だった。
「でも、結局はこれでよかったのかもしれないわね・・・。」
「え?」
「さ、アカリが起きちゃう前に帰りましょ。」
「え?え!?」
前を行くヒナギクをハヤテは止めることができず、ただ慌てながらついて行くことしかできなかった。遊園地から外へ出たときにヒナギクはやっと立ち止まり、ハヤテを近くのベンチに促した。アカリは結局ヒナギクに膝枕される形に落ち着き、ハヤテはそれを眺めながら彼女の言葉を待っていた。
「ごめんね。なんか無理やり連れ帰ったみたいな感じになって。」
「いえ・・・でも急にどうして?」
ヒナギクは申し訳なさそうな顔でアカリの自分と同じ桃色の髪を撫で続けながら、ふとため息をついた。息がかかったのかアカリはくすぐったそうに寝返りをうったが、女性の膝の上という小さなスペースでも器用に180度、落ちることなく体を縦回転してみせた。
「思い出だけでいいのかな・・・て。」
「へ?」
「いや、確かに遊んで思い出をつくるのは正しいことなんだと思う。でも、それと同時に三人だけで話すこともやっぱり正しいんじゃないかって思ってるの・・・。アカリがこっちに来てから丁度1ヶ月くらいでしょ?まだまだ足りないはずなんだけれど、だけど十分なくらいの思い出は作れたんじゃないか・・・て。」
家族三人で一緒の部屋で、同じベットで寝たこと。ハヤテを巡って小さいながらも言い争いをしたこと。同じ湯船につかってたわいのない話をしたこと。アカリと過ごした日々はヒナギクにとって楽しくて、嬉しくて、それこそ自分の娘と一緒だったのだからかけがえのないもので、本当は言葉なんかじゃ絶対に言い表せないもので・・・。
「もっとアカリと一緒に行きたいところとか、やりたいことがいっぱいあるけど・・・それは今の私たちじゃなくて未来の私たちの役目だと思うから・・・。」
「ヒナギクさん・・・。」
その時、アカリがもう一度寝返りをうつと同時に彼女の瞼が軽く震えた。
「ん・・・。ママ・・・?」
「うん。あなたのお母さんの・・・綾崎ヒナギクよ。さぁ、帰りましょ。」
「・・・うん。」
「この辺だっけ?アカリがこっちに来た場所って・・・。」
「うん。ちょうどあの自販機の前。」
12月12日19時40分、ハヤテとヒナギク、そしてアカリは三人で手を繋いだ状態で岳から指定された公園に来ていた。いや、たとえ誰かに言われずともこの公園に来ていただろう。そこには彼ら以外誰もおらず、街灯と自動販売機の光だけが淡く、そして静かに暗闇を色づけていた。
「ねぇママ・・・。抱っこ・・・。」
「え?私?ハヤテくんじゃなくていいの?」
「うん。今は・・・ママがいい・・・。」
ヒナギクとハヤテは顔を見合わせた。ハヤテにとってヒナギクは戸惑っているように見え、ヒナギクにとってハヤテはこんな状況下ですら少し残念そうにしていた。つまり、ハヤテはヒナギクがアカリを抱っこすることをすすめていた。
「分かった・・・。」
アカリが小学2年生にしては大きいせいなのか、それとも別の理由なのか、鍛えているはずのヒナギクには彼女がずっしりと重く感じた。自分と同じ甘い匂いがヒナギクの鼻腔をくすぐる。自分と同じ・・・香りがする・・・。
「アカリ・・・っ。アカリ・・・っ!」
「ごめんね・・・っ。いっぱいイタズラして・・・いっぱい困らせて・・・っ。」
「そんなこと・・・今じゃいい思い出じゃない。だから謝らないで・・・。だからもっと・・・私のことを抱きしめて。」
ヒナギクはアカリを下ろしたが、彼女たちが離れることはなかった。二人とも自分の目からこぼれ落ちる涙を拭おうともせず、ただ自分の大切な人がそこにいるという感触を噛み締め、互いの存在を確認し合った。アカリの身長の高さまでしゃがんでいるヒナギクを、ハヤテはただ見ていることしかできす、言葉こそ発していないが彼の目にも涙が滲んでいた。
「ありがとう・・・。ありがとう・・・。私・・・この時代のパパとママに出逢えて・・・とっても幸せ。」
「私も・・・私たちも・・・アカリに出逢えてよかった。アカリが・・・私たちの娘でよかった・・・。ありがとう・・・。」
ハヤテはふいに肩に手を置かれた。手を置いた相手の予想はついていたのでハヤテは振り向かったが、その代わりに表情を曇らせてしまった。
「お前は何か言わなくていいのか?」
「僕は・・・。」
正直、ハヤテの足を重くしていたのは罪悪感だった。本当は自分もヒナギクと一緒に娘を抱きしめてやりたかった。でもそれができなかったのはアカリが帰る未来に自分がいてやれない後ろめたさがあったから。ハヤテが目を伏せようとしたが、その瞬間誰かに手を掴まれた。それはさっき彼の肩に手を置いた岳でも恋人であるヒナギクでもなく、ほかならぬアカリだった。
「パパ・・・ありがとう。」
「っ!!」
「こっちにくるまではパパのことほとんど知らくて、それでパパにはきつく当たっちゃって・・・。でも今はパパのことたくさん知ってる・・・。」
アカリはハヤテの手を握るのではなく彼の手に握られる形になるようにした。手袋をしていないからお互いの体温が直に伝わってくる。
「パパ・・・大好きだよ・・・。」
大好き・・・ハヤテがこの言葉をアカリから聞いたのはもしかしたら初めてだったかもしれない。元々アカリは過剰になつきこそするが「好き」という言葉を軽々しく使ったりはしない。その点はハヤテと似通った考えがあるのだろうが、だからこそ本当の意味でハヤテに気持ちを伝えることができたのだ。涙ぐんでいる自分の娘が何を考えているのかでさえ、今のハヤテには分かる気さえしていた。
「・・・パパ、さよ・・・っ!!」
ハヤテはアカリが何も言わないように、何も言えないように、彼女の顔を自分の胸に押し付けた。
「さよならじゃない。未来の僕はきっと帰ってくる。だから・・・さよならじゃない。」
確証も、根拠も、その考えに至るためのヒントでさえ一切ない。それでもアカリがこの言葉を信じることだできたのはそうであって欲しいと彼女が望んでいたからなのだろう。いや、望んでいたのではなく、本当は最初から信じていたから・・・。
「僕はヒナギクさんとアカリをおいて・・・自分の家族をおいてどこかに行ったりはしない。アカリは僕の大切な娘だから・・・絶対に一人にしない・・・。」
「パパ・・・ありがとう・・・。」
ヒナギクが二人に寄り添い、ハヤテの後ろからアカリを抱きしめるのを見ていた岳は純粋に羨ましいと思うと同時に少し雰囲気的に味気ないと感じた。岳がしょうがないとでも言うように息をついた直後、ハヤテたちは自分たちの頭上で少しひんやりした感触を感じた。
「・・・。雪・・・。」
多くもなく、少なくもなく、突然降り出した雪は少ない光に照らされてとても幻想的で、これの光たちを贈ってくれた神様にどんなお礼をしたらいいのかハヤテたちには分からなかった。
「水を差すようで悪いが、そろそろ時間だ。」
20時まではもう3分を切っていた。アカリは頷くと残っていた涙を拭って立ち上がり、岳の言われたとおりに自販機の前に立った。岳が3つある自販機のうち一番右側の自販機を端にそって指でなぞると、自販機は白く輝くゲートへと化した。ハヤテもヒナギクも、そしてアカリもその光景をあんぐり口を開けて見ていたが、岳の声で我に帰った。
「ここに飛び込めばアカリちゃんは未来に戻れる。やりたいことはもう済んだか?」
「う〜ん・・・。そうだ!一つだけ忘れモノしてた!」
再び自分たちのもとに戻ってきてニコニコしているアカリを見てハヤテは不思議そうに首をかしげたが、女のカンとでも言うのだろうか、とにかくヒナギクは嫌な予感をビシビシと感じとっていた。
「パパ、ちょっと頭下げて。私の頭と同じぐらいまで。」
このあとアカリのすることがヒナギクの頭のなかで予測から確信に変わったが、彼女はこのときだけは何も言わずにじっと見守った。それはアカリがハヤテに心を開いてくれていることを母親として嬉しく思っていたからの行動で、ヒナギクはむしろ微笑みさえ浮かべていた。
「こう?」
「そう。それでね、パパ・・・。」
チュ・・・ッ
ヒナギクはありきたりの方法にため息をつくことしかできなかった。取り敢えずアカリの頭に軽いチョップを入れたが反省するつもりは毛頭ないらしい。嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「もう、今回だけだからね。」
「エヘヘ。ありがと。」
ハヤテの方は相変わらずで、自分が何をされたのか未だに理解することができすに温かさの残っている頬をほうけた顔でさすっていた。ヒナギクはもう一度アカリを抱きしめたあと、自販機の方へ彼女の背中を押した。
「アカリ・・・ありがとう。・・・大好きよ。」
「うん。私もパパとママが大好きだよ!」
アカリが光のゲートの前に立つまでにはハヤテも状況を取り戻し、ヒナギクと手を繋ぎながらアカリの後ろ姿を見守った。ヒナギクの手が震えているのか、それともハヤテの手が震えているのか、それともどちらともなのか、ハヤテとヒナギクはどれが正しいのか考えることも再びこぼれてきた涙をぬぐうことせず、笑顔を作ることだけに集中していた。そうしないと今にも泣き崩れてしまいそうだったのに、子供という存在はなんと罪なものだろう。アカリは光の一歩手前まで来るとハヤテたちと同じように涙のにじむ最高の笑顔で振り返ったのだ。
「パパ・・・!ママ・・・!大好き!!!」
「っ!!アカリ!!!」
ヒナギクが手を伸ばしたのは、もうただの自販機だった。崩れたヒナギクにゆっくり降ってくる雪はさっきとは違って残酷ささえ感じたが、その代わりハヤテの手をすごく温かく感じることができた。
またね・・・!!
「アカリの言った通り、僕たちとアカリはまた会えます。僕たちが僕たちである限り・・・ずっとです。」
後ろから抱きしめらているヒナギクにとってハヤテの囁き声はとても安心できるもので、どっと湧いてきた疲れを癒してくれているようにさえ感じた。
「僕がずっと支えます。僕がずっと傍にいます。だからヒナギクさんも僕の傍にいてください。またアカリに会うためにも、アカリに触れるためにも・・・。僕はアカリと同じくらい、あなたが大好きです・・・ヒナギクさん。」
「うん。私も・・・大好き。アカリと同じくらい、ハヤテくんが・・・好き・・・。」
その後、彼女は泣いた。悲しかったわけでもない、嬉しかったわけでもない。寂しくて・・・泣いていた。
どうも、 いやぁ〜、アカリちゃん・・・いなくなっちゃいましたね・・・。このSSの大雑把なあらすじを考えついたときのシナリオ通りとはいえ、なんかキャラがいなくなってしまうのは寂しいです。 未来に帰ったあとのことも書くべきなのかなぁ、とは思ったんですけど、やっぱりここで一旦終了させることにしたのはぶっちゃけ気まぐれです。こういうのもいいかなぁ、て。ちなみに小学生のアカリちゃんはもうこの作品ではもう出てこない・・・かも。 さて、次回はクリスマスの話です。できるだけ日付も合わせたいと思っています。 それでは・・・ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.77 ) |
- 日時: 2014/12/22 01:49
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
久々になってしまいました。
アカリちゃん、ええ子やったわぁ〜。まったく、小学生は最高だぜ…。 読者としても寂しい限りです。今となってはハヤテにキツく当たってたツンツンアッカリーンも懐かしい…。未来の両親に楽しかった土産話をたくさんしてあげてもらいたいと思います。 また会える日までちょっとの辛抱ですが、それまでに二人だけの思い出もたくさん作って欲しいですね。
いよいよ終盤ですね。悔いの無い作品作りにハゲんで頂きたく思い応援してます。 ではまた次回期待しております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.78 ) |
- 日時: 2014/12/22 23:44
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=369
タッキーさんへ
ハヤテ君、君がどんな性的嗜好を持とうが勝手だが、子供を巻き込むのはねえ・・・ 最近、S系の展開が多いような気がするのですが、気のせいでしょうか。 まあ、動機はどうあれヒナギクさんを散々いじめたアカリちゃんにとってはいい薬になった・・・のでしょうか? これがアカリちゃんのトラウマになることなく、人の痛みがわかるようになることを祈ります。
アカリちゃんが、未来へ帰っていくシーンは素直に感動できました。 別れ際のアカリちゃんの最高の笑顔、本当に罪ですねえ。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.79 ) |
- 日時: 2014/12/25 12:16
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
遅くなりましたがロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想ありがとうございます。 ということで今回はレス返しです。
まずはロッキー・ラックーンさん 次回アカリちゃんが登場するとき、彼女は果たして何歳になっているのか。しかしこの作品から幼女が消えてしまうことはないから安心してください(震え声 アカリちゃん、ハヤテに対するスキンシップからは絶対に分からないですけどあれでも一応ツンデレの血を引いているというか・・・ま、彼女の詳しい話は後日談でやる予定です。
お次はどうふんさん S系の展開が多くなってしまうのはもう自分の性格上といいますか・・・。ほら、涙ぐんでる女の子ってイジワルしたくなりません?まそれはともかくこういう展開はこれからもあると思います。
何度も言っているようにアカリちゃんの話はまた後日談でやりますで、楽しみにしていただけると嬉しいです。それではロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想ありがとうございました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.80 ) |
- 日時: 2014/12/25 12:17
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。メリークリスマスです。
今回の冒頭はアカリちゃんがいなくなったその後・・・をやろうと思ったんですが気づけば岳くんたちがイチャイチャしています。取りえずネタとしてやりたいヤツを放り込んだ結果なんですよね。 それはともかく本文は現実と日付を合わせてクリスマスの話です。 それでは・・・ 更新!!
「ヒナちゃんたち大丈夫かな?少し心配かも・・・。」
「別に心配するだけ無駄だろ。ほれ、ホットミルク。」
「ありがと・・・。」
ガウスから受け取ったマグカップはそれほど熱くはなく、むしろ両手をほっこりと温めてくれた。ホント、こういう細かい気遣いはさすがだと思う。そういやガウスって甘いほうが好みなんだっけ。ゆっくりと口をつけてマグカップを傾けると、自分好みの甘さが口の中いっぱいに広がり、そのまま喉に絡みつくことなくすんなりと私の食道を通っていた。好みが同じなのは恋人としてとても嬉しいかも。
「でもさ、アカリちゃんがいないとやっぱり寂しいじゃない?」
「だ、か、ら・・・っ」
ビシッ!!
「あうっ!!」
イタタ・・・。いつだってガウスのチョップはキレがある。結構痛いんだからもうっちょっと手加減してもいいじゃない。いや、今のガウスの強さを考えたら手加減は十分してるのかな?
「ハヤテにはヒナがいるし、ヒナにはハヤテがいる。どちらも欠けてないのなら何も問題はない。」
それまでずっと立っていたガウスはようやく私の向かい側に座り、マグカップを置くと私の頭をくしゃくしゃと撫で始めた。
「そうだろ?」
「・・・うん。」
そうだった・・・。それは私たちが一番分かっていなきゃいけないことだったね。 ガウスに頭を撫でられているのが気持ちいい・・・。多分自覚はないんだろうけど、私にとってはすごく特別な瞬間なんだよ?ガウスが私の頬まで手を落とし、その手に引かれるように私はゆっくり顔を近づけていく。何秒だったか分からない時間のなかで、私は目の前の、おそらくホットミルクのような甘い味がするだろうその唇のことしか考えられなくなって・・・男の子のくせに艶っぽくて、うるうるして可愛いその唇が恋しいくらいに欲しくなって・・・そして・・
「あの・・・あなたたちの家には現在クラスメートが二人泊まってるんですけど・・・。」
「うわぁあっ!!!ヒナちゃん起きてたの!!??」
「たまたま目が覚めたのよ。そしたらもう深夜だっていうのにリビングの明かりがついてたから見に来たら、あなたたちが・・・その・・・。」
ヒナちゃん顔も赤かったけど私の顔も多分あんな感じになってるんだろうな。それにしてもこのタイミングで割って入ってきたってことは私たちの会話も聞かれていたってことだよね?なんか・・・マズクない?
「別に俺たちはお前らのことを心配してただけだぞ?その流れでキスしようとしていただけであって。」
「え!?それ言っちゃうの!!??」
「まぁいいじゃねぇか。それより・・・」
ガウスはそっと私に耳打ちをする。
(ジャマされたんだから・・・な?)
わざと耳に息を吹きかけるようにしてくるのはそこが私の弱い所の一つだと知っているからだろう。もっとも、私の弱いところなんてガウスには熟知されているんだろうけど・・・。 背中をなぞるようにくすぐったい感触が私の身体を這い上り、頭の中はまるで夢心地ともいえるボーッとた感覚が広がっていく。なんにか体をビクンと震わせたのは隠せたと思うけど、どうしても顔が赤くなってう。かろうじて残った力でヒナちゃんの方を見てみると案の定さっきより顔が真っ赤になっていたんだけど、それより問題なのはガウスがイジワル・・・半分八つ当たりみたいなモノなんだろうけど。とにかくこういう時のガウスはあまりロクなことを考えていないってことなんだよなぁ〜。ま、付き合うけどさ・・・。 私は覚悟を決めてガウスに身を寄せる。胸を押し付けるぐらいに近づくと、身長差で顔を見るには見上げる感じになる。そしたらできるだけ甘く、囁くように口から声を漏らす。やっぱり緊張するなぁ。ドキドキするし私の心臓の音がやけにうるさい。
「ねぇガウス・・・もっと近くに来て、私に触れて。・・・私に、キスして・・・。」
「っ!!レナ、いきなり何言ってるのよ!!」
服の上からじゃ分からない、ガウスの骨ばった・・・男らしい体つき。胸に手を置くとガウスの心臓がドクンと鼓動するのを感じる・・・。私と同じように緊張してくれてるのかな・・・。
「ヒナの言った通りだ。見られてるぞ・・・。」
甘い声が聞こえる。寄り添っているうちにガウスの香り・・・男の子に使う言葉だったっけ?とりあえず何故か甘酸っぱい果実のようなその香りを吸い込んでしまい、私は脳が溶けていくような感触に襲われた。だからその後の言うはずのなかった台詞が口から出てしまったのはきっとガウスのせいだろう・・・。
「いいの。だから私のこと・・・メチャクチャにしてもいいよ・・・?」
バタンッ!!!
まぁ当然の結果だろう。ヒナちゃんが乱暴にドアを閉めた音と同時に私たちもバッと体を離した。ていうか今さらだけど私ったらなんてこと言っちゃったんだろう!!?? 火照りが収まらない顔をあげるとガウスが私に背を向けてうつむいている。そういえばガウスって押すときはガンガン押してくるくせにこういうとこではちゃっかりウブというか・・・押しに弱いというか。いや、引きにも弱いのかな。
「あのさ・・・さっきの何か意味あったの?」
「いや、こうすればアカリちゃんに早く会えるぞ〜的な?そんな流れにしようとしたんだけど、レナが・・・。」
「え!?私のせいなの!!??。」
「だからその・・・。ああもう!!だ、か、ら・・・っ!!」
私が反論しようと口を開く前に、ガウスの唇が私の唇に蓋をした。まるでさっきできなかったからとでも言うように深く、濃厚で、息が苦しくなるくらい長いキスだった。私が非力ながらガウスの胸をグーで叩かなければいつまで続けられていたか・・・。ま、なんにしてもそれで私が落ち着いたのも事実だ。ドキドキはしているから大人しくなったの方が正しいとは思うけど・・・。
「レナが俺をその気にさせたんだから、さっきの言葉は取り消させねぇぞ。」
「・・・うん。」
第41話 『お嬢様の執事』
12月25日、世間ではクリスマスと呼ばれる日であり、1年前のハヤテのように不幸な者と、恋人がちゃんといる現在のハヤテのように幸せな者との差がはっきりする日でもある。それにしてもハヤテは人生の負け組からたった1年で勝ち組の最高峰まで昇り詰めたのだから本当に大したヤツである。 そんな勝ち組の綾崎ハヤテは恋人であるヒナギクと二人きりでデート・・・というわけではなく、三千院家の屋敷で主のためにコーヒーを淹れていた。無論、ハヤテがヒナギクをデートに誘わなかったというわけではなく、ヒナギクが用事があるからとハヤテの誘いを断ったのだ。そのことで午前中は落ち込んでいたのだが、今は取り敢えず立ち直っている。
「そういえばお嬢様は今日、どこかのパーティーにご出席されるんですか?」
「まぁ招待はされたが全部蹴った。ウチでやるってわけでもないから準備とかはしなくていいぞ。」
「ふ〜ん、そうなんですか・・・って!!え!?パーティーやらないんですか!!??」
予定が入ると思っていた日に予定が入らず、三千院家で何かをやることを期待していたのもあったのだろうが、大金持ちの令嬢であるナギがクリスマスに何もしないということがハヤテを一番驚かせた。
「いや、だって最近パーティーばっかだったじゃん?お前だろ?ちっこいのだろ?私だろ?昨日もマリアの誕生日でパーティーやったし・・・なんか疲れたっていうか・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「ま、そうでなくとも今日は大事な用事だあるんだよ。大事な用事が・・・な?」
コーヒーとは称されているが、実はカフェラテだったりするそれを飲み干したナギはティーカップを置くと席を立ち、まだ納得のいかなさそうな顔をしているハヤテに一言だけ告げて部屋を出て行った。
「ヒナギクをここに呼んでおけ。いいな。」
「え?でも・・・!!」
ヒナギクには用事がある・・・それを言う前に扉は音を立てて閉まってしまい、ハヤテもその言葉を口の外へは出さなかった。まだ微妙に薄茶色の水滴が残っているティーカップを片付けたハヤテは仕方ないのでダメ元でヒナギクに電話はかけてみたが、意外と早くヒナギクはコールを切り、ハヤテの予想していた答えとは真逆の返事をしてきた。
〈私ならもうそっちに向かってるわよ。〉
「え!?でもヒナギクさん、今日は用事があるって・・・。」
〈だから用事よ。よ・う・じ。それにしても昨日はちゃんと二人で過ごしたっていうのに、ハヤテくんったら寂しがり屋さんね。〉
電話越しに聞こえるクスクスと品のある笑い声にハヤテは固まってしまっていた。しかし少しずつ頭の整理をしていくと1つのキーワードが残っていった。
「えっと・・・じゃあその用事ってなんなんですか?」
〈強いて言うならハヤテくんのこれからのこと・・・かな?あ、もう屋敷に着いたから切るね。〉
「え!?ちょっとヒナギクさん!?」
ハヤテはスマートフォンをしまうとすぐさま玄関のほうへ駆け出した。途中でマリアから呼びかけられた気もしたがスピードが緩むことはなく、そのまま大きくて重い扉を難なく開け放つと丁度よくヒナギクも玄関に着いたところだった。
「こんにちはハヤテくん。メリークリスマス。」
「め、メリークリスマス・・・。」
アカリが未来に帰ってしまった日からヒナギクには少し積極性が出てきたとハヤテは感じていた。もちろんそれは少しだけで、人前で腕を組むこともできなかったりキスも最初の一度だけしかしていなかったりで、それなりにウブではある。しかし二人きりの時などは前よりずっと甘えてきたり電話の回数も増えたりで、ハヤテとしては嬉しくはあるのだがどうにも戸惑いを隠せずにいた。 それはともかくヒナギクはクリスマスだというのに学校に行っていたらしく、制服に上にコートを着ている状態だった。しかしマフラー以外は防寒具を着用しておらず、ヒナギクの指先が赤くなっているのに気づいたハヤテは彼女を急いで屋敷のなかに入れると温かいコーヒーを出した。
「それで用事って?僕、お嬢様から何も聞かされてないんですけど・・・。」
「まぁ決まったのはつい昨日だし、ナギの口からは少し言いづらいでしょうね・・・。」
「え?昨日何かあったんですか?」
「うん。えっとね・・・簡単に言うとハヤテくんは昨日の時点でナギの執事じゃなくなったというか・・・。」
ティーカップの中の液体をくるくると回し、少し申し訳なさそうな表情で話すヒナギクにハヤテは何も反応することができずにいた。理解ができずにもう一度問い返そうとしても口を動かすことができず、ヒナギクの伏せた顔を見ていることしかできなかった。
「勘違いするな。執事をクビにしたワケじゃない。」
その声で我に帰ったハヤテが振り返るとナギがマリア、そしてクラウスと一緒に部屋に入ってくるところだった。
「え?それじゃあ何で・・・。」
「ナギ専属の執事ではなくなったということですよ。ハヤテくん。」
いまいち思考が追いついていないハヤテを見てナギはため息をつき、一瞬顔を曇らせた後、一回だけ息を吸い込むと笑顔を作った。
「なんにせよハヤテ。執事長昇格おめでとう。」
「へ・・・?」
「え!?お嬢様、そしたら私はどうなるんですか!!??」
このことを聞かされていなかったのはクラウスも同じらしいがナギはあまり気にしてなさそうな感じで、クラウスへの対応もそっけないものだった。
「だって・・・お前もう今年で定年だろ?」
「・・・。」
「まぁ、ジジィのところに移る手筈になってるから、そこで頑張ってくれ。」
石になって崩れこそはしなかったが、とにかくクラウスはそこからピクリとも動かなくなってしまった。しかしそれはあまり問題ではなく、同じように固まっているハヤテにちゃんと説明するためにナギは彼と向かい合った。
「お前はこの1年間、私のことをよく守ってくれた。成長させてくれた。本当に感謝している・・・。」
ゆっくりと話すナギは懐かしい思い出でも話しているようで、その表情は嬉しそうなのと同時に寂しそうでもあった。
「お前のおかげで私はいろんなことを知って・・・学んで・・・。まだまだ難しいかもしれないけど、私は一人でも生きていけるくらいに強くはなれた・・・と思う。」
ヒナギクもマリアも微笑んでいる。クラウスは相変わらず固まったままだが、だんだんとハヤテの表情は驚きから落ち着きを取り戻し、彼の頭も状況を飲み込み始めた。
「ヒナギクに遠慮してとかでは決してないし、ましてやハヤテの力がいらなくなったわけでもない。でも、私はもう大丈夫だから・・・だから、ありがとう。」
「で、でも・・・僕にはまだ借金があります。白皇の行事で500万くらいまで減ったとはいえ、それでもきっちり返さないと・・・。」
「それなら問題ないわよ。」
気づけばヒナギクが隣に来ていて、ハヤテの手を握っていた。温かい感触が手だけではなく全身に広がっていくのをハヤテが感じたのは、決してヒナギクだけの影響ではないだろう。
「ガウくんがね、ハヤテくんが今までハヤテくん以外のために稼いだお金・・・例えばあなたのご両親に使われてしまったお金とかを集めてくれたの。まぁ、取り戻してくれたっていう方が正しいんだろうけど、とにかくそれは本来ハヤテくん自身のお金であるべきだからってね。」
気づけば誰かに助けられている。支えられている。今のハヤテはそのことを情けないとは思わず、純粋に感謝することができた。
「ヒナギクの言った通り、借金についてはもう全部返済してもらっている。だから改めて言う・・・。私の執事をしてくれてありがとう。これからは執事長としてよろしく頼む。」
「お嬢様・・・。」
ハヤテがヒナギクの方を向くと彼女もハヤテの方を見ていた。ハヤテは自分とヒナギクが考えていることが一緒なのだと感じて嬉しく思い、そしてこうなったからにはきちんとケジメをつけなくてはという責任感も感じた。
「「ありがとうございます。」」
「うむ。それにしてもハヤテはともかく、ヒナギクに敬語を使われるとなんか気持ち悪いな。」
「き、気持ち悪いってどういことよ!!」
「そういうことだよ。そうだヒナギク、ちょっと隣の部屋に来てくれないか。」
「な、なんでよ・・・。」
ヒナギクは最初こそ抵抗したがナギが彼女に耳打ちすると途端に態度を変えてナギについて行ってしまった。残されたハヤテとマリアは顔を見合わせると二人とも肩をすくめておかしそうにクスリと笑った。
「執事長昇格おめでとう。ハヤテくん。」
「ありがとうございます。でも大丈夫なんですか?ほら、いくら成長した言ってもお嬢様やっぱり危なっかしいし・・・。」
「それなら大丈夫ですよ。さすがにハヤテくんみたいに人間離れした肉体とか家事スキルはありませんけど、ナギ自身が見つけた執事がいますから。」
「そうですか・・・。」
誰とは聞かなかった。もちろんハヤテに寂しい気持ちがなかった訳ではないが、今は前に進もうとしているナギを応援しようと決めていたのだ。
「じゃ、執事長としての最初の仕事はその新しい執事さんにいろいろと教えることですね。」
「そうですわね。でもナギの選んだ執事ですし、意外とできる子だと思いますよ。」
「ハヤテー!ハヤテーー!!」
すると再び扉が開き、すごく・・・本当にすごくニコニコしているナギが入ってきた。それがあまりに今まで通りの光景だったのでハヤテもマリアも、本当はあまり変わるものは無いんじゃないかと少し吹き出してしまった。
「ん?どうしたのだ?」
「いや、なんでもないですよ。それよりどうしたんですか?お嬢様。」
「まぁこっちに来てみろ。」
手を引かれるハヤテの表情は晴れ晴れとしていて、手を引くナギの顔も一切曇っていなかった。立場が変わったからといってそれまでの関係が変わるわけでもないし、ましてや壊れることなど決してない。ハヤテがヒナギクの恋人であっても三千院家の執事であることに変わりはないし、逆に三千院家の執事である綾崎ハヤテもヒナギクの恋人であることに変わりはない。そのことに気づいたハヤテは、これからはもっと執事として精進できると感じ、もっと真剣にヒナギクのことを想うこともできると感じた。
「よし。ハヤテ、これが私からのクリスマスプレゼントなのだ!」
扉が開いた先にハヤテが見たのは真っ赤な布と真っ白な毛皮の装飾で作られた服に身を包んだヒナギクの姿。その顔も服と同じように真っ赤に染まっていて、とても可愛らしいとハヤテは率直に思った。
「ちょっとナギ!!なんで私がこんな格好・・・って、ハヤテくん!!??」
去年のように想像の中の白ひげサンタではなく、可愛らしいミニスカサンタが目の前にいる時点でハヤテは既に人生の勝ち組なのかもしれない。
「ヒナギクさん・・・すごく、可愛いです。」
「あ、ありがとう・・・。」
気づけばナギたちはいなくなっていて、二人きりになった彼らがクリスマスをどう過ごしたのかは・・・また別のお話。
どうも、 原作でハヤテがナギちゃんの執事をやめてしまう描写があったのでそれを元にしてみました。本当は24日でやるべきなんでしょうけど、ハヤテが執事長になったのが24日ってことで勘弁してください。 今回は歌というわけだはありませんがハヤテ劇場版のサントラCDから「お嬢様の執事」を使わせて頂きました。サントラってキャラソンとかとはまた違った形で楽しめると思っているのでぜひ聞いてみてください。 ちなみにヒナさんの積極性が少し上がったのはアカリちゃんがいなくて寂しいからというのもあるんですけど、どちらかと岳くんたちを見て羨ましいと感じているからとう設定です。互いが互いに刺激しあっているとう状態でしょうか。まぁ、赤面しているヒナさんは個人的に大好きなのでそれがなくなってしまうことは絶対にないです。 さて、次回はいよいよ最終回です。アフターもやりますけど、一旦終了みたいな感じです。 それでは ハヤヤーー!!
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Re: 兄と娘と恋人と(完結) ( No.81 ) |
- 日時: 2015/01/03 21:03
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。
ついに最終話です。ここまで全部読んでくれた方、本当にありがとうございました。 それでは『兄と娘と恋人と』最終話・・・ 更新!!
時期はもう新学期が始まって2月の半ば、正確に言うと16日。バレンタインデーということで女子郡が一生懸命頑張って、男子勢が今年こそはと期待に胸を躍らせたが半分ほど撃沈したりした日より少しだけ経った日の昼休み、ヒナギクはハヤテがナギの付き添いで休みだったのでレナと一緒に昼食をとっていたのだが、その途中でせっかく自分で作った弁当を落としてしまった。
「えーー!!レナ、妊娠したの!!??」
「しーーっ!!ヒナちゃん、声大きいよ!大きい!」
レナが唇に人差し指を当てたの対しヒナギクは目を見開いた状態で顔を固め、コクコクと首だけで頷くことしかできなかった。それでも目一杯頭を回転させて状況を理解したが、理解したらしたで驚くことしかできずにヒナギクは再び大きな声を出してしまった。
「そ、それじゃ学校とかどうするのよ!?今はともかく、お腹が大きくなってきたらみんなにもバレちゃうわよ!!」
「だから声が大きいって、ヒナちゃん!!」
その後なんとかヒナギクを落ち着かせたレナは彼女に全ての事情を説明した。岳のおかげや、それを差し引いても根本的な部分で自分たちが世間帯を気にしなくてもいいこと。自分が身ごもっている子供は岳と同意の上で、つまり二人の意思で作ったということ。そして自分は今、とても幸せだということ。 それらを伝え終えたレナは微笑みながら自分のお腹をさすり、その表情はヒナギクにとって家に帰った時にいつも感じていた母親の表情とまったく同じものに見えた。彼女はアパートで暮らすようになってからいっそう強く感じるようになったそれを、レナが今浮かべていることを正直に羨ましく感じたのだ。
「ねぇ、その子の名前はもう決めてるの?」
「今考え中。ガウスによると男の子らしいんだけど・・・やっぱり名前って特別じゃない。かれこれ一週間は考えてるんだけど思いつかなくって。」
ヒナギクは以前アカリの名前を考えていたときのことを思い出して、レナに対して大いに賛成した。ヒナギクが愛虹(アカリ)という名前にどれほど意味を込めたか・・・。愛の虹、アイリスの花言葉から絶対に幸せにするという決意。自分たちを照らす灯りになって欲しいという願い。たった3文字にこんなに意味を詰めるのは重すぎるんじゃないかと思った時もあった。それでも一度与えた意味を外すことなんてできなかったのだ。
「レナ・・・頑張ってね。」
「もちろん。まぁ、ガウスがいるからあまり不安はないんだけどね。」
はにかむレナの笑顔からは恋人に対する信頼が表れているようにヒナギクは感じた。 校舎のほうから予鈴が鳴り出す。レナは弁当を片付けて立ち上がると、先に戻ってるねと最後にヒナギクに笑いかけてから教室へ駆けていった。ヒナギクが落してしまっていた弁当は幸い中身はあまりこぼれておらず、彼女も弁当を片付け終えると一度だけ自分のお腹に手を当ててみた。
「アカリ・・・早く会いたいな・・・。」
少しだけ・・・いつもより温かく感じた。
最終話 『本日、満開ワタシ色!』
放課後、生徒会室に私のケータイからメールの着信音が響く。生徒会の仕事で疲れて机に突っ伏していたのにそれを聞いたとたんに飛び上がり、小うるさいケータイを開くと案の定そこには恋人の名前が表示されていた。付き合いはじめてからもう3ヶ月くらいになるし、メールのやりとりとなるともうすぐで一年にもなるというのに、未だケータイを開くときの私は心臓のドキドキが増す。
FROM:綾崎ハヤテ
TO:桂ヒナギク
生徒会のお仕事お疲れ様です。もう終わりましたか? 今日は一緒に学校に行けなくてすみません。その代わり、もしよかったら今から喫茶どんぐりでコーヒーでも飲みませんか?約束とかはしていなかったから急ですけど、なんだかヒナギクさんの顔が見たくなってしまって。僕って結構寂しがり屋なんですよね。情けないことに。 こっちの仕事のほうは大丈夫です。執事長になってからいろいろ大変ですけど、新しい執事くんが結構優秀なので今日みたいにお暇をよくもらえますから。 疲れているかもしれないのにすいません。返信待ってます。あと・・・大好きです。
「もう・・・。私が断るわけないじゃない。」
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。本当は電話で・・・ちゃんと言葉で言ってほしいとは思ってるけどハヤテくんだってそれは照れ臭いからメールだったんだろうし、私自身そんなこともできるわけないから大目に見てやらないといけないのだろう。 ガラパゴスケータイというのはこういう時に不便で、早く気持ちを文章にしようとする私をあせらせる。正直スマホに買い替えてもいいんじゃないかと思っているけど、これもお母さんたちに買ってもらったものだからできるだけ長く使いたいという気持ちのほうが強い。ふとそんなことを考えていたら、なぜか私の指は止まってしまっていた。
「アカリ・・・どうしてるかな?」
気づけばあの子のことばかり考えている。もしかしたらハヤテくんのことを考えている時間と同じくらいになるかもしれない。正直、ちゃんと未来に戻れたかとか間違えてまた過去に飛んじゃったりしていないかとはあまり考えていない。だってアカリを送ったのはガウくんなんだから心配するほうがおかしいんじゃない?でもこれはハヤテくんも含めた世界中の誰よりもガウくんのことを信じることができるとかじゃなくて、私たちの意思とは関係なく無理やり信用させられているっていうか・・・彼ってそういう人なのよね。いや、神様か。 それはそうとして私が心配しているのは元気にしてるかとか風邪とかひいてないかとか、それこそ母親じみた心配で、それは向こうの私の役目なのだろうけど・・・やっぱり気になるというか、寂しいというか・・・。まったく、私がこんなにウジウジしてたらダメね。とりあえずハヤテくんに返信しないと。
FROM:桂ヒナギク
TO:綾崎ハヤテ
誘ってくれてありがとう。もちろん行くわ。生徒会の仕事もちょうど終ったし、今から20分後くらいにはそっちに着くから待ってて。 それからメールの内容が恥ずかしすぎ!こういうことはちゃんと口で言いなさい。でも、大好きなんてありがと。私もハヤテくんのこと大好きよ。 それじゃすぐ行くから。
P.S.そっちについたらいきなり抱きしめてやるんだから!!・・・なんて取りあえず入力してみたけど結局これは消してから送信ボタンを押した。私が素直じゃないことくらいとっくに自覚してるわよ。少し乱暴に机の整理をして鞄をひったくり、きちんと戸締りをしてから扉を開けた。外に出てみると風が少し強くて、その中に飛び込んだ私の目にふと一つの木が映った。それは別にハヤテくんと出会ったあの木だったからだとかそんなことはなくて、普通に通路の脇に植えられていた普通の桜の木だったんだけど、その一本の枝の先のほうには小さな蕾がちょこんと一人ぼっちでついていたのだ。桜が咲くにはとうてい早いこの季節。この蕾にはゆっくりと仲間が増えていって、そしてそれらが全部芽吹き、満開になるとこの木はとても素敵な色にそまるのだろう。・・・まるで私みたい。そう思った。 喫茶どんぐりに向かう途中、私はこの1年間くらいを思い返していた。ハヤテくんと初めて会ったのは木の上で・・・あとから聞いた話によると小さい頃に会っていたらしいけど、私にとってはこれがハヤテくんとの出会い。それからハヤテくんのことが気になり始めていたんだけど、この時は私が彼に恋してるだなんて考えてもみなかった。マラソン大会からちょっと冷たくしすぎちゃったことは後悔してる。歩と出会ったのもこの時期だったわね。私がハヤテくんのことを好きだって打ち明けた時も、ハヤテくんと付き合い始めたときも、ずっと親友でいてくれた。歩には感謝してもしきれない。今度会ったらありがとうっていわなきゃね。
「ふぅ・・・。ちょっと早すぎたかしら?」
20分って言っていたのに10分もしないうちに着いてしまった。ま、早く来ることにこした事はないし、ハヤテくんがまだ来てなかったらコーヒーでも淹れておいてあげよう。そういや私の誕生日に遅れたハヤテくんはどんな気持ちで生徒会室まできたのかしら?あの時間だったら帰ってると思って来ないのが普通なのに、それでもちゃんと来てくれた。そのあとはいろいろと怒っちゃったりしたけど、やっぱりハヤテくんへの想いに気づくことができたあの日だけは忘れられない。 ミコノスやアテネで偶然会ったり、その時にハヤテくんの天王州さんへの想いを伝えられて傷ついたり、アパートで一緒に住むことになったり、ルカの同人誌を手伝ったり、心霊スポットでは告白が通じなかったり。 11月に入ったころからハヤテくんの態度が変わったの嬉しいことだったと思う。だって今にして思えば私がハヤテくんを口説いたってことになるのだから、それはそれとしていい気分だし、そうでなくても彼が私のことを意識してくれるのはとてもうれしい。それからはハヤテくんのほうでいろいろあって、私たちは決別して・・・でも本当にさよならじゃなかったのはやっぱりアカリが未来から来てくれたから。そのために来てくれてくれたんじゃないかってのはちょっと都合よく解釈しすぎかしら。
「あ、ヒナギクさん。早かったです・・・ね?・・・えっと、ヒナギクさん?」
「ん〜?」
いきなり抱き着かれたことでハヤテくんは困惑している。正直、彼の反応は初々しくて可愛い。こうしているとハヤテくんの吐息とか、脈打っている鼓動の音とか、体温とか・・・彼の全てを感じることができる。それに陶酔してしまうあたり、私はすっかりハヤテくんに染まっちゃってるんだと思う。ハヤテくんの色に・・・。
「ヒナギクさん・・・。」
「ん?」
「ずっと・・・大好きですよ。」
ハヤテくんも私の色に染まってくれているのかな?春に咲く桜のように、私でいっぱいになってくれているのかな?でもそれは聞くまでもないか。これからもっと・・・いや、今日からでもハヤテくんの心を満開にしてやるんだから。
「私もずっと・・・大好きだよ。」
『兄と娘と恋人と』 完
〜ending story〜 『All alone with you』
走る。黄金の庭を抜け、立派な城の中に入り、そしてまた金色の庭に出る。そこには黒髪の男の子が息を切らしていた。やっと見つけた。 ここに来る途中でこの子が成長したような人に会って、私に道を教えてくれた。でもそれに従わなかったのはその人ことを信用しなかったからじゃない。助けてって聞こえた。一人にしないでって伝わってきた。だから私はこの男の子の前にいて、この男の子は私の前にいる。
「な、なんで・・・。」
男の子がこっちに気づいて私を見た。そう、あの目だ。初めて見たとき、私はあの何も映らない瞳に自分を映してほしいって思ったんだ。
「君、名前は?」
「名前なんて・・・無いけど・・・。」
「ふ〜ん、そっか。」
誰かを愛することなんてできないのに、誰かに愛してもらいたかった。ずっと変わらない昨日が続いても、ここから抜け出すこともできなかった。そんなことを自嘲的に言っていたあの人がこの子の未来なら、私がこの子を愛してあげたい。こんな時が止まったような世界から連れ出してあげたい。そんな理由が無くったって・・・ずっと一緒にいたい。だからこの男の子と一緒にいるために、まずは名前をあげなくちゃ。
「ガウス・・・。」
「へ?」
「うん!ガウスがいいよ!!」
男の子はキョトンとしているけど、この名前でいいと思う。私はこの子にガウスという名前・・・心をあげるの。 立ち上がったガウスは面倒くさそうにため息をついていた。 それでもちゃんと、少しだけ嬉しそうな顔で・・・
うなずいてくれた。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.82 ) |
- 日時: 2015/01/04 00:08
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
完結おめでとうございます。
神様が出たり、未来の子供が降ってきたりなどの急展開が多いながらも、軸となるハヤヒナはしっかりと保っていたのがこの作品の魅力なのではないかと思います。 アカリちゃんが先か、ハヤヒナがくっつくのが先か、ニワトリとタマゴみたいな関係は絶妙でしたね。
最後の「大好きなんてありがと」には「ありがとー!」と合いの手を入れてみたり…。エンディングに相応しい曲チョイスだと思いました。 まだまだ始まったばかりの二人ですが幸せな未来をお祈りしております。
それでは、お疲れ様でした。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.83 ) |
- 日時: 2015/01/04 22:15
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361
タッキーさんへ
完結おめでとうございます、お疲れ様でした、と言いたいところですが、私の頭の中ではまだ完結しておりません。 未来の綾崎家あっての本作品完結ですから、もうひと踏ん張り、お願いします(鬼か?)。
とりあえずの最終話は、とにかく幸せいっぱいのヒナギクさんに尽きるでしょう。 まだ、未来の「ハヤテがいない」状況が解決されていないにも拘らず、全く気にしていない、あるいは幸せを信じ切っているヒナギクさんが印象的でした。
いつか、こんなヒナギクさんを原作で見たいものですが・・・最近はちょっとねえ。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.84 ) |
- 日時: 2015/01/06 01:21
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。・
最終話で後書きがなかったのは忘れたからというわけじゃないです。余韻というか雰囲気的なものを感じていただけたらなぁ・・・と。いかがだったでしょうか。 さて、ロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想本当にありがとうございました。申し訳ないですが、レス返しの前に今更後書きを書くことをゆるしてください。
今回はお馴染み『本日、満開ワタシ色!』と、EGOISTから『All alone with you』を使わせていただきました。最終話もending storyも同じじゃねというツッコみはなしの方向でお願いします。最終話を『本日、満開ワタシ色!』にすることは実は第一話を考え付いたときから決めていました。ヒナさんといったらやっぱりこの曲のイメージが強いので、これ以外にはないと。 ちなみに最後をハヤヒナでしめなかったのも結構前から考えていました。書いてる途中ずっとどうしようか迷ったんですが、もうやっちゃえ!!・・・と。個人的に失敗はしていないのでよかったです。
それではここからレス返しです。 まずはロッキー・ラックーンさん。 ハヤヒナ・・・保ってました?いや、まぁそう感じていただけたならとても嬉しいんですけど、神様がラブり始めた時点で結構な感じでブレまくってた気が・・・。 アカリちゃんは本編でヒナさんのモノローグにあった通り、彼女たちのキューピッド的な役目にしていたつもりです。ホントにこの作品はアカリちゃん様様です。
お次はどうふんさん。 なんだかんだで実は半年かかったんですが、ちゃんと完結できてよかったです。未来の綾崎家についてはアフターのほうをお楽しみください。そこではちょっとしたサプライズがあったりなかったり。 ちなみに未来にハヤテがいないことはヒナさんには伝わっていない設定です。最初のアカリちゃんお様子から未来のハヤテに何かあったことは感づいてはいるんですが、ハヤテのことを考えてあえて何も言わないヒナさんと、一方心配をかけたくないことと、絶対に幸せにするという強すぎる決意からまだ言っていないハヤテというのが現在進行形です。その結果起こってしまう悲劇なんですが、それは後日談で。でもアフターのほうでやる綾崎家はそれよりも後のことなのでちゃんと幸せいっぱいにしてみせますよ。
最後にロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、そして今までこのSSに付き合っていただいた方、本当にありがとうございました。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.85 ) |
- 日時: 2015/01/08 23:51
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ヤッス!!タッキーです。一応完結はしましたが、アフターというこで更新させていただきます。
ま、いろいろ喋るのもなんなので、それでは・・・ 更新!!
いつもの黒い執事服ではなく、白いモーニングを着ているハヤテが落ち着かない気持ちで控室の中をぐるぐると歩いていると、唐突にドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
「どんだけ緊張しているのだ。お前は・・・。」
「だって結婚式ですよ!!結婚式!!緊張しないほうがおかしいですよ!!」
「分かった。分かったからそんな大声を出すな。」
落ち着きのないハヤテを片手で制したナギが着ている黒いパーティードレスは彼女がハヤテと初めて会ったときと同じもので、それは彼女なりに今日の出来事を祝いたいという気持ちの表れなのかもしれない。ナギは自分の後ろで手を組むとハヤテと向かい合った。
「私はさ、小さい頃からいろんなことに恵まれていて、望んだらなんでも手に入ると思ってたんだ。でも本当に欲しいものは手の届かないところにあって、それを知ってしまった私は見上げることすらやめてしまっていた・・・。」
「お嬢様・・・。」
「だけど2年前のクリスマス・イヴ。あの日にお前と出逢った。あれからお前が私に微笑んでくれて、そんなお前を私は好きになって・・・いろんなことがあって・・・生まれてきた意味っていうか、とても大切なことを知れた。だから今、お前が幸せであることを私は心から祝福したい。結婚おめでとう・・・そして、今までありがとう。」
ナギが見せた笑顔にハヤテの目は潤んでいた。抱きしめたい衝動を必至に抑え込んだハヤテは執事らしく、片手を胸に手を当てて主に頭を下げた。
「本当に・・・ありがとうございます。」
「うむ。ハヤテ・・・今のお前はヒナギクがこの世界にいると思うだけで生きていける・・・それぐらいヒナギクのことを愛しているのだろ?それはヒナギクも同じだ。だから、ちゃんと支えてやるんだぞ。」
ナギはそう言いながらドアノブに手をかけ、勢いよく開け放った。
「さ!そろそろ式が始まるぞ!!行って来い!!」
「はい!!!」
緊張が完全に消えたわけではない。しかしそのドキドキは今のハヤテにとって心地よいものでしかなかった。ハヤテは真っ白なウエディングドレスに身を包んだ恋人を・・・この後彼が絶対に目を奪われるだろう花嫁を・・・ヒナギクのことを・・・迎える準備ができていたのだ。
After〜Prequel〜 『CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』
電気の点いていない部屋にテラスからの月明かりだけが差し込んでいる。決して自分に陰影を作っている光のほうを見ようとしないヒナギクはそんな薄暗い生徒会室のソファで、クッションを抱きしめながら置時計のことをにらんでいた。今日は彼女がハヤテと付き合い始めてから訪れる二度目の誕生日。もはや白皇の恒例行事と化してしまったと言っても過言ではないヒナギクのにぎやかすぎる誕生日パーティーは今回も去年、一昨年と同じように行われ、その中でヒナギクはハヤテから生徒会室へ来るよう呼び出しを受けていた。実際のところ去年も呼び出されて生徒会室で二人きりになっていたのだが今回は少しハヤテの様子が違っていた。どこか煮え切らない感じで、それでいて何か決心をしていたような表情をしていたのだ。
「な、なに緊張してるのよ。去年だってこんな感じだったんだから問題ないじゃない。」
意味のない言い訳をしているヒナギクはかれこれ30分くらい前からここにいる。今までとは何かが違うハヤテにドキドキしているのはあきらかなのだが、負けず嫌いの彼女がそれを認められるわけがないので待ち時間も退屈せずにすんでいるわけだ。
「あと5分か・・・。」
待ち合わせは午後9時、現在は午後8時55分。ヒナギクが寂しそうに声を漏らしたその瞬間に扉をノックする音がして彼女はソファから飛び上がった。その慌てていた行動が一変してそっと扉を開けたヒナギクの目に映ったハヤテはなぜか少しだけ頬を赤らめていた。
「えっと・・・あらためて18歳の誕生日おめでとうございます。ヒナギクさん・・・。」
「あ、ありがとう・・・。」
ハヤテはヒナギクをテラスの前、ちょうど月明かりが二人を包む場所まで連れていくと彼女の手に小さな袋を握らせた。シャカシャカと音が出るその袋の感触はヒナギクがよく知っているもので、それに触れているだけで自分にとって特別な時間の記憶が鮮明に蘇ってくる。
「あんまり大きくないですけど、このクッキーが僕からの誕生日プレゼントです。もちろん手作りですよ。でも、今日はそれとは別に大事な話があるんです。」
「え?」
ヒナギクがクッキーを持っていないほうの手、つまり彼女の左手をハヤテは両手で優しく包んだ。ハヤテの左手薬指にはめてある指輪が自分の肌に当たるひんやりした感触と、自分の指輪が彼の手のひらに当たっている感覚をヒナギクはハヤテの手の温かさの中で感じていたが、ハヤテはその指輪をヒナギクにできるだけ違和感を感じさせないように優しく抜き取った。ヒナギクはがそれに驚かなかったと言えば嘘になるが、不思議なことに彼女がそれで不安をつのらせることはなかった。
「ホントはもっと早く伝えたかったんですが、ヒナギクさんの誕生日である今日がもっと特別なものであってほしかったので・・・。」
そう言ったハヤテはもう一度ヒナギクの左手薬指に指輪をはめた。それは彼がさっき抜き取った指輪ではなく、まったく別のもの。ヒナギクがハヤテに渡したような装飾の綺麗な指輪でもないし、ハヤテがヒナギクに渡したような可愛らしい指輪でもないが、そのいたってシンプルなプラチナのストレートリングはヒナギクにとってとても美しく見えた。
「これは・・・?」
本当は分かっているのに聞かずにはいられない。そんなヒナギクの気持ちを察したのかハヤテはクスリとほほ笑むと、温めようとするようにヒナギクの手の甲を自分の手のひらでゆっくりとなぞった。
「もちろん、結婚指輪です。」
「も、もちろんって・・・。いつ買ったのよ・・・?」
少しおどおどとしているその小さな問いかけにハヤテは首を横にふった。
「自分で作ったんです。」
「え?」
「岳さんとレナさんの結婚式を覚えていますか?あのとき二人が交わしていた指輪を見て素直に素晴らしいと思いました。それでどこで買ったのか聞いてみたんですが、どこでも買ってないと・・・。あの指輪、岳さんが一から作ったものらしいですよ。」
誰よりも幸せな二人がいたあの日、自分もこんなふうになれるのかなと心を躍らせたあの結婚式をヒナギクは鮮明に覚えている。彼らのような愛の形に少しでも近づきたい。そう思ったのはハヤテもヒナギクも同じだった。
「それに・・・僕たちだけのものが欲しかったんです。今までいろんな人に助けられて、救われて・・・。感謝はしきれないほどしていますし、そんな環境の中にいれることを幸せに感じています。でも、やっぱりヒナギクさんを支えるのは僕だけだって言いたいんです。岳さんのように神さまじゃない僕には無理だって分かってますし、この指輪だって結局岳さんに教えてもらいながら作ったんですけど、そんな気持ちでいるんだってことを、ヒナギクさんには知ってて欲しかったんです。」
自己満足でもいいから、ハヤテはそんな気持ちなのだろうが、ヒナギクにはそれでもよかった。ハヤテと同じことを少なからず考えていたヒナギクにとってはそれを言葉にしてくれたことに意味があり、とても嬉しいことだったのだ。 月明かりがハヤテの指の合間に見えるリングを照らすと、鏡面で仕上げられているそれは輝きをより一層引き立たせた。うっとりとした表情で指輪をしばらく眺めていたヒナギクは模様だと思っていた少ない溝が文字を形作っていることに気づいた。
「can't take my eyes off you・・・。君の瞳に恋してる・・・か。」
「いや、ここでは少し違うんですよね。」
「?」
不思議そうに首をかしげたヒナギクに、ハヤテは嬉しさを隠せずに思わず笑ってしまった。
「な、なによ!!この訳であってるでしょ!!」
ヒナギクの言ったことは正しい。曲の題名でも有名なこのフレーズの訳は彼女の言った通り「君の瞳に恋してる」で正解だ。
「でもそれは意訳じゃないですか。もっと直接的に訳してみてください。」
ムスッととしているヒナギクはニコニコとしているハヤテを一度だけにらみつけて、彼に言われた通りもう一度自分の指に視線を落とした。
「えっと、たしか・・・。あなたから、目が・・・離せない・・・。」
訳し終えたヒナギクはハヤテの意を理解して赤くなっていたが、ハヤテは満足したように微笑むと姫に忠誠を誓う騎士のように身をかがめ、彼女の手の甲にそっと唇をあてた。
「僕は今も、これからもずっとヒナギクさんのことが好きです。愛しているって、今ならちゃんと言えます。だから伸ばした手が届かなくても、何度もくじけたって構いません。ヒナギクさんの隣にいるために絶対に乗り越えてみせます。だからヒナギクさん・・・。」
ハヤテの優しい青色の瞳がヒナギクの少し潤んだ瞳をしっかりと見据える。伝えたいことをちゃんと伝えられるように、絶対に彼女の心に残るように、そんな気持ちで動かした唇につられてハヤテの手には少し力が入っていた。
「ずっと僕の隣で・・・
ずっとそこで微笑ってて・・・くれませんか?」
「・・・。」
ヒナギクは答えなかった。その代わりに目から涙を流し、震える体を無理やり押さえつけて一度だけコクリと顔を前に傾けた。少し間違えば誤解されてもおかしくないその仕草にハヤテは再び微笑み、立ち上がると自分の恋人・・・これから自分の妻になる女性を優しく、だけど力いっぱいに抱きしめた。
「僕と・・・結婚してください。」
ヒナギクは泣き止まなかった。
「・・・はい。
これからもずっと・・・ずっと、よろしくね・・・。」
いや、泣き止めなかった・・・。
どうも、アフターのほうはいかがだったでしょうか?一応あと一話あります。 今回はハヤテのアニメ3期でお馴染み、eyelisの「CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU」を使わせていただきました。個人的に3期のこのオープニングは素晴らしいと思っています。だっていいもん!スゲー感動したもん!!ちなみにこのSSはハヤヒナでそれにこの曲を使ったんですけど、実際のところこれはハヤナギにぴったりの曲だと思うんですよね。冒頭のほうでナギちゃん出しましたし。 さて、ハヤテくんには直訳のほうで使ってもらいましたが本当は大して変わるわけではありません。ただ、ロマンチックを求めるよりもハヤテには直接的に気持ちを伝えてほしかったですし、それをヒナさんにも聞かせてあげたかったので。 次で本当にこのSSは最後です。今まで読んでくれた方、本当にありがとうございました(これ何度目だっけ? それでは ハヤヤー!!
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.86 ) |
- 日時: 2015/01/10 03:13
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
完結おめでとうございます。(2度目
くれなイカ?のOPいいですよね。3期唯一の良心というかなんとイうカ…。 OP映像にヒナはおろかマリアさんですら映ってない(うろ覚え)あたりに妙なストイックさを感じたり感じなかったり。 そんなこんなで、冒頭のナギとのやり取りは凄くタイトルにマッチしてると思いました。
それにしても、指輪まで手作りとは…。きっとDASH系アイドルグループみたいに、金属を掘るところから気合いを入れていたに違いない。
最後に時系列のヤボな質問なんですが…。 冒頭のナギとのやり取り(結婚式)は2006年の事(ナギとの出会いは2004年のクリスマスなので)で、ヒナへのプロポーズは2007年(89年生まれのヒナ18歳誕生日なので)だと読み取れるのですが…。合っていますかね? まあそこらへんはナギが勘違いしてただけかもしれませんね。
それでは失礼しました。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.87 ) |
- 日時: 2015/01/10 08:03
- 名前: どうふん
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361
タッキーさんへ
正式なプロポーズとなる場合、結婚指輪というより婚約指輪ではないか、という気もしますが、理屈抜きにいいシーンだったと思います。 ハヤテとヒナギクさんの気持ちが伝わってきました。
そして結婚式、ハヤテを祝福するナギも褒めてあげたい。早く自分の幸せをつかんでほしい、と思います。 多分、それ以外の友人たちは早くヒナギクさんの花嫁姿を見たくてそっちに群がっているんだろうな・・・
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.88 ) |
- 日時: 2015/01/10 22:37
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
ロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想ありがとうございました。 ということで今回はレス返しです。
まずはロッキー・ラックーンさん ナギちゃんの発言についてはその・・・ほら、一年って3月で終わって4月から始まるじゃん?的な感じです。だからきっとナギちゃんの勘違いですね。はい。ぶっちゃけハヤテがプロポーズしたのが2017年の3月で、結婚したのが同じ年の同じ月、卒業した後すぐにって感じです。紛らわしくってすいません。 確かに3期のOPにハヤテとナギ以外のキャラは出ていませんが、自分はそれでもハヤテっぽくていいなぁと感じました。ああいう稀な温かさがとても好きです。そして、そういう風に感じ取ってもらったのならとても嬉しいです。 指輪手作りはさすがに岳くんが材料と機材を準備してくれていたりします。もぉ世話になりすぎてハヤテは彼に頭が上がらない状態ですよ。
お次はどうふんさん 結婚のシステムとか自分はあんまりなので。これでもまだ十代で結婚できる年でもないですし・・・。ま、ロッキーさんのところで前述した通りすぐに結婚式まで進んだので結婚指輪でもいいんじゃないかなってことで。 それに、率直なお褒めの言葉をありがとうございます。ストレートすぎると照れ臭いものがありますね。 ナギちゃんについては本編で出てきた新しい執事くんで既に幸せを見つけていたりするんですが、また後ほど。結構心当たりのある原作キャラです。
最後に、ロッキー・ラックーンさん、どうふんさん、ご感想本当にありがとうございました。 それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.89 ) |
- 日時: 2015/01/12 02:59
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- ハヤッス!!タッキーです。
今回で『兄と娘と恋人と』は本当に最後です。しつこいですがこのSSを読んでくれた方々、本当にありがとうどざいました。 あ、ちなみに前回のAfterのあとについていたPrequelは前編という意味です。なので今回は後編という意味のSequelがくっついています。 それでは本当に本当の最終話、アフター後編・・・ 更新!!
はじめまして。突然ですが今日は綾崎家のある夕方の出来事をを紹介したいと思います。え?その前に私が誰なのかって?まぁ、それについては後ほど。 ほら、そうこうしている内にこの家のご主人が帰ってきましたよ。ここからが紹介の始まりです。
After〜Sequel〜 『愛、湊めて・・・』
「ただいま〜。」
玄関のドアが開く音と同時にこの家にとって慣れ親しんだ声が聞こえた瞬間、キッチンの方から桃色の髪を横でポニーテールに束ねた少女が私の横を颯爽と駆け抜けていきました。本当は私のほうが年下なので少女という言い方は少し失礼なのかもしれませんけど・・・。とにかくその人は背中の後ろで手を組み、たった今帰ってきた自分の父親を上目遣いの状態で出迎えたわけなんですが・・・
「おかえり、パパ!ごはんにする?お風呂にする?それともワ・タ・・・」
スパーン!!
ま、そうなりますよね・・・。さっきと同じように私の横を駆け抜けていった別の女性から丸めたポスターで頭にカツを入れられちゃったんですけど、叩かれた本人はあまり反省していないみたいです。頭を押さえてますけど、もちろん本気で叩かれたわけではないのですからきっとそれもワザとなのでしょう。
「あー!叩いたー!ママがなんか長くて固いもので叩いたー!!」
「子供っぽく言ってもダメよ!まったく、ハヤテが帰ってきた途端にこれなんだから・・・。」
「ヒナ、アカリだってまだ中学生なんだから・・・。」
「もう中学生です!!ハヤテも娘だからって甘やかさない!だいたい何年前から言ってると思ってるのよ!」
「あい・・・。」
とまぁ、こんな感じでこの家の大黒柱が帰宅すると決まって綾崎家は賑やかになるのですが、お察しの通りほとんどがこの瓜二つな母娘の会話によるもの。もし家が建っているのが住宅地の中だったら毎日苦情がくることでしょう。もしかしたら賑やかすぎて逆に苦情がこないんじゃないかってほど賑やかなのです。ちなみにこの家は三千院ナギという大金持ちのお嬢様が住んでいるお屋敷の敷地内、もっと言うとその母屋から2キロくらい離れた場所に建っている二階建ての普通の家です。2キロぐらいと言ってもまだ庭の範囲内だったり、大金持ちのお屋敷の中に普通の家が建ってたりするという不自然な事情はここではスルーですよ?なんでも通勤が楽だからいいんだそうです。
「それよりパパ!今日はオムライスだよ!!私だって手伝ったんだから!」
「おっ!それじゃ冷めないうちに食べないとね。」
「ちゃんと手は洗うのよ〜。」
「「ハーイ。」」
いつもの執事服から着替え、ジーンズに黒のTシャツになったハヤテさんと意味もないのに二度目の手洗いにいったアカリさんが戻った時には既に夕食がテーブルに並べられていて、ずっと椅子に座って食卓が完成していく一部始終を見ていた私のお腹からはグウ〜っと夕食を催促する音が出てしまいました。しかも作業を済ませ隣に座ったヒナギクさんに聞かれるというおまけ付きで。
「待たせてごめんね。まったくあの二人ったら・・・。」
「ま、いつものことですから・・・。」
私は彼女と同時にため息をつき、相変わらずニコニコしている目の前の父娘から料理のほうに視線を落とすとまだでき立てでアツアツを象徴する湯気が出ているオムライスが・・・。しかも見た目が美味しそうということだけでなく、作った人から美味しいという事実が分かっているのですから、これは我慢なんてできませんよね?
「えっと・・・あの・・・。」
「ん?あぁ、はいはい。ほら、二人とも早く手を合わせて。」
普段はあんまり我が儘を言わないようにしてますけど、この時ばかりはちょっと・・・。私が袖を引っ張るとヒナギクさんは笑顔で私の頭を撫でてくれたのですが、こんな優しいところが私はとっても大好きです。ほかの人に自慢したいくらい、私にとって素敵な人なんですよ。ま、それはハヤテさんもアカリさんも同じなんですけどね。おっと、そんなこんなで私のほうが手を合わせるのを忘れていました。
「「「「いただきます。」」」」
いつもやっていることですけど、これを毎日できるって素敵なことだと思います。だけど私が思わず笑みを浮かべていると前のほうから突然箸が伸びてきて・・・
「えいっ!!一口も〜らい!!」
「あーーー!!!ちょっと何するんですか!!!」
「いや〜、なんか幸せに浸ってるみたいな顔してたから。つい。」
私そんな顔してました?取り敢えず犯人であるアカリさんにはそんなに悪気がない、というか彼女の笑顔が無邪気そのものなのでやたらと怒ることもできずに私は頬を膨らませて拗ねていたんですが、そんな私の口元に彼女は箸で器用につまんだオムライスを持ってきました。
「はい、あ〜ん。」
「うぅ・・・。」
ここでこれを口に入れてしまうとなんだか負けてしまう気がします。でも取られっぱなしというのも負けを感じさせますし、なによりアカリさんの笑顔がやはり無邪気というかとても優しいというか・・・。結局、いつだって彼女に押し切られてしまう私は今日も例外なく押し切られてしまうのでした。
「あ、あ〜ん・・・。」
パクッ・・・
「どう?美味し?」
「ま、まぁ美味しいですけど・・・。」
自分の頬が熱をもっていくのを感じながら、それを見られまいと必死に顔をそらします。しかしそれは逆効果で、綾崎家の人たちから微笑ましい顔で見られているのでしょう。とくにアカリさんからは・・・。
「今回は自信作だったからね〜。美味しいって言ってくれてよかった。」
「もう・・・。ズルいです・・・。」
「ほら、二人ともあんまり喋ってると冷めちゃうわよ。」
「二人が食べないんなら僕が食べちゃおうかな〜。なんて。」
ハヤテさんはやっぱりアレですね。その言葉にアカリさんが食い付かないはずがないのにそれをまったく想定しない、そして全く学習しないで言ってるんですから。
「え!?それじゃパパにもあ〜ん。」
「ちょっ!!アカリ!それは私がしようとしていたのに!!」
「えへへ。早いもの勝ちだよ〜。」
「・・・。」
どんだけ仲がいいのでしょうか、この家族は。実を言うと私も参加したかったりするのですが、これ以上ややこしくなってしまうとハヤテさんが困ってしまうので。 何はともあれこんな賑やかな毎日、これが綾崎家の日常で、私からの紹介は最後です。え?私が結局誰で、何者かですか?それはですね・・・
「よし!!カナエちゃんのオムライスもう一回も〜らい!!」
「あっ!!ちょっと、いい加減に怒りますよ!!
お姉ちゃん!!」
それは・・・まだ、秘密です。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.90 ) |
- 日時: 2015/01/15 23:53
- 名前: どうふん
タッキーさんへ
え、完結?ちょっと消化不良かな、という気はします(失礼)。 未解決の問題に、「最終話」で出て来た新しい謎など、アフターのアフターがあるのかな?と言った点も含めてタッキーさんの次回作に期待しております。
で、本作品の全体を通した感想なんですが、全体を通したストーリーそのものより、個々の場面が印象に残っております。言い換えれば、良い場面が多かった、と思います。
思いつく限り列挙していきますと、冒頭のハヤテが見た悪夢、嫉妬するハヤテ、恋人と再会したガウスさん、改めてヒナギクさんに交際を申し込むハヤテ、未来へと帰っていくアカリちゃん、指輪を受け取るヒナギクさん、といったところでしょうか。
読んで楽しかったです。お疲れ様でした。
どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.91 ) |
- 日時: 2015/01/16 22:31
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。今回はレス返しです。
まずはどうふんさん、ご感想ありがとうございます。 消化不足と感じられるのは多分これが第一章的な感じだからだと思います。話としては一旦終了ですが、このSSの後日談へと続いていく予定です。 それにしても未解決の問題についてはあまりピンとくる点がないので(というかまだ明かしてない部分が多すぎるので)もう少し具体的に教えてくれるとありがたいです。
自分は一話一話を考えて、それをつなぎ合わせるようにしてこのSSのあらすじ的なものを作ったので、どうふんさんから言われたことはとても嬉しいです。こんな話あったらいいなぁ、こんな感じになったらいいんじゃないかってのが集まってできたようなものなので。
最後にもう一度ご感想ありがとうございました。今までつきあってくれてありがとうございます。そして次の作品もよろしくお願いします。
それでは
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.92 ) |
- 日時: 2015/01/17 00:49
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
いきなりの新キャラ登場、しかも家族なのにやたらよそよそしい感じの呼び方なのは正体を明かさないため以外にあったりするんでしょうか? 新章へのお楽しみという事で理解しておこうかと思います。
私のお気に入りシーンは、早朝にヒナがアリスちゃんから指輪を受け取ったシーンでした。何かを決心して速攻眠りについたあたりが非常にアリスちゃんっぽくてかわいく思った印象が強いです。
そんなこんなで、お疲れ様でした。 また次回作に期待しております。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.93 ) |
- 日時: 2015/01/18 00:17
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうも、タッキーです。
まずはじめにロッキー・ラックーンさん、ご感想ありがとうございます。
新キャラがよそよそしかったのはロッキーさんの推測通り正体を隠すため(読者側に)だっただけでそこまで深い意味はありません。その場限りみたいな感じです。 ちなみにサブタイの『愛、湊めて・・・』ここでの湊は『あつ〔める〕』と読むのですが、実はこの愛湊が新キャラの子の漢字表記だったりします。アカリちゃんが呼んだ名前を当てはめるのには多少無理やりなところがありますが、それはアカリちゃんもあまり変わらないのでスルーということで。
読者の方に少しでも印象に残っているシーンがあるのは作者的にとても嬉しいです。これからもよい場面をよりよく表現できるようにがんばりますので、よろしくお願いします。
それではご感想、本当にありがとうございました。次回作もお楽しみに。
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.94 ) |
- 日時: 2015/01/22 22:01
- 名前: どうふん
- タッキーさんへ
ちょっとわかりにくかったですかね。「未解決の問題」と「新しい謎」について。
別に難しいことを考えているわけではないのですが、 やはり、未来のハヤテが愛する家族の元から姿を消して何年もの間音信不通(なんですよね?)になった事情は気になります。 まあ、その理由と再開のシーンでの感動は新作までとっておきましょう。
新しい謎については、アカリちゃんから逆算すると7歳以下と思われる「妹」の正体ですね。ロッキー・ラックーンさんと同様の感想を持ちました。 もしかして二人の実子ではないのでは、あるいはペットが家族の一員として仲間に加わっているのか、などと考えました。 まあ、考えすぎでしたかね。 (今思えば失礼な想像でした。ごめんなさい) どうふん
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Re: 兄と娘と恋人と ( No.95 ) |
- 日時: 2015/01/26 20:56
- 名前: タッキー
- 参照: http://hayate/nbalk.butler
- どうもタッキーです。
どうふんさん、答えるのが遅くなってしまって申し訳ありません。まぁ、ほとんどどうふんさんが想像してる通りなので答えることなんてあまりないんですが・・・。
とりあえず、未来のハヤテに関しては新作ですね。一話完結をいくつかやってから中編でその話を載せようかと思っています。 あと妹ちゃんのことなんですが、この子はさっき言った中編のそのまた後の長編あたりでやっと出てくるんじゃないかと・・・。遠い話ですいません。ただ、2月ごろにイラストを載せようと思ってるで、そこから想像を膨らましていただけるありがたいです。
それでは
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