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想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで
日時: 2014/10/25 21:03
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


久し振りに新作を投稿します。

設定としては、前作「想いよ届け〜病篤き君に」の続編となります。
完結させたはずだったのですが、今思えば、前作のヒナギクさんやハヤテに私自身が愛着を持ってしまったようです。
まあ、当面は続編に絞って書くこととしたいと思います。

初投稿となる前作につきましては、表現から投稿の進め方まで色々と反省するところが多くあります。といって、有効な対策もありませんが、推敲には力を入れていきたいと思います。
手厳しいチェック、批判、お待ちしています。


それでは第一話(プロローグ)に入ります。舞台は前作の最終話に遡ります。



<第一話:あの日、あの場所>


某年8月30日夜−、ムラサキノヤカタ


ハヤテの顔がゆっくりと近づいてくる。

ヒナギクは瞳を閉じてハヤテの唇を待った。それはヒナギクにとって、文字通り、夢にまで見たその瞬間。
ハヤテの息遣いを直に感じて、ヒナギクの心臓は破裂しそうなまでに激しく鼓動していた。

ヒナギクの唇に柔らかいものが触れた時、ヒナギクは金縛りにあったかのように体が動かなくなり、頭の中は真っ白に染め上げられていった。


**********************************************************************


ハヤテの唇が離れる気配がして、ヒナギクは瞳を開けた。

すぐ間近にハヤテの顔があった。
いつもの優しい笑顔はちょっと照れていて、幸せそうにヒナギクを見つめていた。

ヒナギクの真っ白になっていた頭の中に赤い奔流が流れ込んできた。
ハヤテと目を合わせられない。

ハヤテがクスリと笑う気配がした。
ほとんど反射的に、ヒナギクの負けず嫌いモードが発動した。ハヤテに向かい、とっさに思いついたことを口走った。

「ハヤテ君、私の『初めて』を奪ったんだから責任はとりなさいよ」
  ※注、「初めて」→ファーストキスのこと

「はい、喜んで」
ハヤテの腕が伸びてヒナギクを優しく抱き寄せた。


同じ屋根の下での生活も間もなく終わり、明日、ハヤテは三千院家の屋敷に、ヒナギクは自宅へと戻る。
ムラサキノヤカタで過ごす最後の夜、ヒナギクは、先ほどまでの緊張しきった全身から心地よく力が抜けていくのを感じていた。


**********************************************************************


ハヤテの腕の中の感触が微妙に変わった。
ヒナギクが重たくなった。

目を閉じたヒナギクの口元から微かな息が聞こえる。
(眠ったんだ、ヒナギクさん・・・。僕の腕の中で安心しきってるんだ。ちょっと緊張しすぎてたのかな)
その寝顔は愛らしくて無防備で神々しくさえ見えた。

ハヤテはヒナギクが目を覚まさないように布団を敷いて、そっと寝かせた。

「お休みなさい、ヒナギクさん」
ハヤテはヒナギクにもう一度顔を近づけたが、思いとどまった。
(だめだだめだ。変な気を起こしちゃだめだ。ヒナギクさんが眠っているのに。
それに・・・今キスしたら僕だけの思い出になる。こんな大事なことは二人の思い出にしなきゃ)

ただ、このまま部屋を出ていくのは逆に失礼な気がするところが、ハヤテの性格の厄介なところ。
しばらく考え込んでいたハヤテだが、良心と礼儀の「妥協点」として、ヒナギクの額にそっとキスした。
「今度こそ、お休みなさい、ヒナギクさん。愛してます」

屋根裏部屋に戻ったハヤテは、しばらくヒナギクの余韻に浸ってぼーっとしていた。
つい先ほどのヒナギクの姿がハヤテの脳裏に蘇る。
遠まわしにキスをねだる瞳も、キスを心待ちする顔も、ハヤテの腕の中で眠った姿もヒナギクは可愛すぎた。

しばらくして・・・一つ気になった。
(手馴れてる・・・って思われなかったかな)
ヒナギクと比べるまでもなく、ハヤテが過去に交わしたキスの回数は半端ではない。
そうした意味では慣れているが・・・、そのほとんどは受け身のものである。
(まあ、そんなことはないだろう。僕だって回数は多くても、リードしてキスしたなんて初めてなんだし)


そんな不合理で不遜なことをハヤテは考えていたが、ふと立ち上がって窓辺に立った。
開け放した窓から降るような星空が広がっていた。
(この星空を、お嬢様とマリアさんも見ているんだろうか。明日会えるんだな・・・)


それは、ヒナギクとのちょっとしたお別れを意味していたが、同時に、懐かしい家族との再会でもあった。




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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.1 )
日時: 2014/10/29 22:42
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

前回投稿において、ヒナギクさんのセリフが前作と若干変わっていますが、単なる言葉遊びで大した意味はありません。
ヒナギクさん、ごめんなさい。

夏休みの終了と共に、ハヤテもヒナギクさんも自分の家庭に戻ります。
そして、そこには彼らの戻りを待っている人たちが。



<第二話:待ちわびた想い>


同日同時刻−、三千院家のお屋敷



ナギは部屋のバルコニーで星空を眺めていた。
「まだ起きていたんですか、ナギ」やってきたのはマリアだった。
「ああ。この星空をハヤテも見ているのかな・・・と思ってな」
「明日、ハヤテ君が帰ってきますね」
「ああ、そうだな」
気のなさそうな返事であったが、「待ちきれない」想いは表情に満ちている。
それでもハヤテやヒナギクの気持ちを考え、自分の想いを整理するため、ずっと我慢をしてきた。

そんなナギを優しく見つめるマリアは、
「ナギ、成長しましたね」
「もういいよ、聞き飽きた」ナギはすねたように横を向いた。

しばしの沈黙の後、ナギは口を開いた。
「何でだろうな。ハヤテというのも不思議な奴だ」
マリアは黙って聞いている。

「何でハヤテは、私をあれだけ必死になって守ってくれるんだろう」
「決まっているじゃないですか。あなたはハヤテ君の命の恩人で、大切なご主人様で・・・」
ナギは、マリアのセリフを手を振って遮った。
「そんなことはわかっている。だけど、ヒナギクより私を優先する理由にはならないだろう。
あのヒナギクが、ずっと私にヤキモチを焼いていたと言っていたぞ」
ナギの表情に自慢げな、しかし口惜しげな色が浮かぶ。

(これからも優先してくれるとは限らないですけど)マリアはそんなセリフを呑込んだ。

「ナギは幸せ者ですね。それだけあなたは愛されているんですよ」
「幸せ者?それはヒナギクだろう。あれだけの恋愛音痴が最高の男を手に入れたんだから」
(誰が見ても逆じゃないかしら)
マリアは突っ込みをいれたくて仕方がなかったがこらえている。

代わりに言った。
「愛というのは何も恋愛だけではないのよ、ナギ。例えば子供を思う親の気持ちは、恋愛とはかけ離れているけど何より純粋な愛ですよ」
「そ、それでは私はハヤテにガキ扱いされているみたいではないか」
(やれやれ、やっぱり全然わかっていませんね)
「例えば、よ。ナギ。そんなムキになるところはちょっと子供ですけど」
「うう・・・。人を成長した、成長したと煽てておきながらあ」
(あなたに無償の愛を捧げているのはもう一人いるんですけどね。本物の娘のように)
マリアはこのセリフも呑込んだ。今、ナギはハヤテのことしか考えていないと思ったから。


「ところでね、ナギ」マリアは話を変えた。
「明日、久しぶりに三人揃いますけど、お祝いにとびっきりおいしいディナーを作ってあげますわ。何がいいですか」
「カレーだ。」
苦笑したマリアが尋ねる。
「本当にカレーでいいんですか」
「いいのだ。三人で同じ鍋のカレーを掬って食べるのだ」
あらあら・・・とマリアは微笑んでいたが、その笑顔はすぐに凍り付いた。
「そのカレーは私が作る。ハヤテの奴にお祝いなんか一言も言ってやらないが、おもてなしだけはしてやる」
(全く・・・。一言お祝いの方がどれほど良いか)
無下に断るわけにもいかず、マリアはため息をついた。

*************************************************************************

「では、お休みなさい、ナギ」ナギをベッドに寝かせてマリアは去ろうとしたがナギが呼び止めた。
「なあ、マリア・・・。久しぶりに一緒に寝ないか」
「あら、甘えんぼさん、一人じゃ眠れませんか」
「そんなんじゃない。ハヤテが帰ってきたらもう一緒には寝てやれないからな。お前と一緒はこれで最後だ」
「はいはい」

マリアはパジャマに着替えてナギの横に滑り込んだ。
ナギの手がマリアの手に伸びた。
「どうかしましたか、ナギ」

ナギはそっぽを向いたが、マリアの手を握ったまま離そうとしない。
「マリア、一度しか言わないぞ・・・。
ありがとう。本当に、本当にありがとう・・・」
マリアは胸が熱くなった。
「ナギ・・・。本当に成長したんですね、あなたは」
「マリア、そのセリフは・・・本っっっっっ当に聞き飽きたぞ」

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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.2 )
日時: 2014/11/01 20:28
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

原作の魅力は何といっても、個性的で魅力的なキャラクターが多いことかと思います。
少し多すぎますが。
話の展開の緩慢さなど、いろいろと不満はありますが、やはり読んでしまうのは気に入っているからでしょうね。

私自身は言うまでもなくヒナギクさんのファンですが、他にも気に入っているキャラクターはいます。

私の作品で登場の多いナギは、欠点というより欠陥だらけのような人物ですが、心に純粋なものを持ち守ってあげたくなります。
それとマリアさん。その卓越した能力だけでなく、優しくて天然でこんなお姉さんが欲しくなります。
前作も含め、マリアさんの直接の出番は少ないですが、ストーリーの展開上、陰では結構重要な役割を果たしています。

前回、この二人のお話にしたのは、ナギはともかく、マリアさんの出番を作りたかったからです。


実はもう一人、好きなキャラクターはいるんですけどね。
残念ながら、本作の中では出番はなさそうです。



<第三話:追いかける執事>


9月1日
案の定、というか。昨日屋敷に戻ってきたハヤテは、真夜中まで掛けて作り上げたナギ特製のディナーを腹に詰め込んだ後、明け方までナギにゲームに付き合わされた。
当然、始業式に行くどころか、起きることもできずナギは爆睡している。

ハヤテも眠くて堪らなかった上、正直に言えば腹の具合も少々悪かったが、始業式に向けて自分の準備を済ませた。
ナギはやはり目を覚ます気配もない。

「ハヤテ君、こうなってしまうともう無理ですよ。全く始業式から・・・。
ハヤテ君に久しぶりに会ったのがよほどうれしかったんでしょう。後は私が面倒を見ますから学校に行って下さい」
良く見るとマリアも軽く手で腹を押さえて顔色が青白い。
「まだ、もう少し待つ時間はありますけど」とは言いながら、ハヤテの視線は秒単位で時計に向けられる。
「構いません、行って下さい。早く行かなきゃいけないでしょう」
マリアから意味ありげな微笑みと共に言われて、ハヤテは屋敷を飛び出した。


ハヤテは白皇学園まで待ちきれないかのように走り、校門であたりを見回した。
ヒナギクの姿は見えなかった。
別に約束したわけではないが、ヒナギクがハヤテを待っているような気がしていた。
まだ登校時刻までは30分ほどあるが、次第に他の生徒が増え始めている。

早すぎたかな・・・。
しかし、相手は朝早くから10キロのマラソンを欠かさないヒナギクだ。
よりによって始業式に寝坊は考えられない。それに、学校の有名人、というより注目の的であるヒナギクが、生徒の溢れだす登校時刻直前の時間帯に校門でハヤテを待つなど目立つ行為をするだろうか。

ということは・・・
(ヒナギクさんは校門で僕を待ってたけど、人が増えだしたのを見て生徒会室に向かったのかな)

ハヤテは生徒会室へと駆けこんだ。しかしヒナギクの姿はない。
部屋を一回りすると、明らかについ先程まで人が居た気配があった。
流しには一人分のティーセットが水に浸かっている。そして未使用のティーセットが一人分、応接セットのテーブルに置いてある。

生徒会長の机の上には常に生徒会長の決裁が完了した書類が山積みされている。
一番上の書類を手に取ると、決裁日は今日、9月1日となっていた。
「やはり、ヒナギクさんは来てたんだ」
そして一仕事終えて教室に向かったということか。
(やはり、ヒナギクさんは凄い・・・)
ハヤテには、未使用の一人分のティーカップが胸に痛かった。

(来るのがちょっと遅すぎたみたいだ。ずっと早ければ、ヒナギクさんが校門で待っていてくれたかもしれないし、もう少しでも早ければ、お手伝いできたのに・・・。)
ハヤテは生徒会室を出て教室に向けて歩き出した。

(ヒナギクさんに何て挨拶しよう。「間に合わないですみません」って謝った方がいいのかな。いや、今、教室にはヒナギクさん一人じゃないだろうし、やはり「お早うございます」が自然かな。
で、どういう態度をとればいいだろう。あまり馴れ馴れしいのはまずいだろうし・・・、といってよそよそしいとヒナギクさんから怒られそうだし・・・)

そんなことを考えながら歩いていたハヤテの足が止まった。
「もしかして・・・」


ハヤテは向きを変えて走り出した。
その先に、大きな桜の木がある。
ハヤテがヒナギクと初めて会った場所。
その下に佇んだ少女が木を見上げていた−遠くからでも、後ろ姿でも一目でわかる。

「ヒナギクさん!」ハヤテは駆けながら大声で少女を呼んだ。
ゆっくりと振り向いたのはまぎれもなくヒナギクだった。
その時強い風が吹いて、ヒナギクの髪が空中に広がった。

朝日を受けて輝くヒナギクの髪は、ハヤテの目に桜の花びらが舞うように見えた。
(まるで桜の精・・・?それとも天女?)
本当にそう見えた。

「遅かったわね、ハヤテ君」(ハヤテにとって)懐かしい笑顔が胸に沁みこんでくる。
「す、済みません」
(久しぶり(半日ぶり)に会って第一声がこれか。かっこよく挨拶できなかったな・・・。)
ちょっとした失望感 ・・・ それと大きな安堵がハヤテを包んだ。


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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.3 )
日時: 2014/11/02 05:52
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
新スレでも毎回期待して拝見しております。

自分の書いたキャラたちは愛着わきますよね。わかります。
私ももう何年もダラダラやって更新もまちまちですが、頭の中ではいつでもフィーバーしてるハヤヒナとアリスちゃんがいます。
ぜひともどうふんさんも、ご自身の納得のいくまで彼らを動かしてあげてください。

各キャラクターがハヤヒナの新しい関係に馴染んでいく姿がとても微笑ましいです。
「アイドルでヒーロー」な彼女とどうやって仲を深めていくか楽しみにしています。
個人的にはナギのカレー道場の様子が見たかったり…。

それでは、次回も楽しみにしております。
失礼致しました。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.4 )
日時: 2014/11/03 19:50
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさんへ


感想ありがとうございます。
私は、投稿を始める経緯と作品そのものに、ロッキー・ラックーンさんの影響をかなり受けておりますので、そう言ってもらえると嬉しいです。


本作では、前作ほど多数のキャラクターを出す余裕はありませんが、ハヤテとヒナギクさんを中心に、周囲を巻き込んだ作品にしたいと思っています。

ただ、恋愛初心者の二人が関係を深めていくのは、決して順風満帆なストーリーではなく、お互いの行き違いや周囲との摩擦は不可避と思っていますので、そうしたエピソードを含めていければ、とは思っています。
(それだけの表現力が私にあるかは大いに疑問のあるところですが)


実をいいますと、現在作成中の第4話においては、その片鱗が表れます。
今後、お気付きの点など、批判も含めて指摘して頂ければ幸いです。

 
                                 どうふん

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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.5 )
日時: 2014/11/06 23:04
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

ハヤテとヒナギクさんが初めて会った場所。
そこには出会いを演出したキューピッドがいました。
原作に再登場したことはないと思いますが、ヒナギクさんは、そのキューピッドに今でも愛着を持ち、見守り続けているのではないでしょうか。




第四話(想い出の木の下と上で)


「チャー坊はまだ元気にしているんですか、ヒナギクさん?」
チャー坊とはハヤテとヒナギクが初めて会ったとき、二人で助けたスズメのヒナのことである。
「ええ、元気よ。もう両親は出て行っちゃったけど、チャー坊は元気に過ごしているわ」
言うまでもなく、この二人にとってはあまり他人事ではない話である。
「え、まあ、鳥ですからね。人間とは違いますよね」
フォローになってないが、ヒナギクに気にする様子はない。
そんなことより・・・、といった感じでハヤテに語り掛ける。

「ここで、私とハヤテ君は出会ったのよね。そしてチャー坊を二人で助けて」
「いきなり木の上から声を掛けられたときはびっくりしました。そして飛び降りて僕は強烈な蹴りを顔にもらっちゃいましたね、あはは」
「もう。やなことばかり思い出さないでよ」
空気の読めないハヤテに、ヒナギクはちょっと顔をしかめた。
(確かにロマンティックな出会いじゃなかったけど。全く鈍感なんだから)


今朝のハヤテの推測は概ね間違っていない。
ヒナギクは今朝、今から1時間も早く学校に着き、しばらく校門でハヤテを待った。
(まあ、ナギもいることだし、さすがにこれは無理よね)
そして生徒会室で貯まっていた書類を片づけながらハヤテが来た時に備えて紅茶を用意していた。
(まあ、仕方ないか)
そして今。今度こそハヤテは来てくれると信じてここに佇んでいた。
(まあ、来てくれたから良しとするか)


「毎朝、チャー坊と会っているんですか?」
「学校に来る日はね。私とハヤテ君で助けたヒナだもん。元気に育ってもらわなきゃ。夏休みはたまにしか学校にきてないから10日振りになるわ」
しかし、今は姿が見えない。
「朝の散歩に出ているのよ。もう戻っている頃なんだけど」
ヒナギクの顔に少し不安がよぎる。
そろそろ始業時間が近づいている。もう教室へ行った方が・・・とハヤテが焦りだしたころ、スズメが飛んでくるのが見えた。
しかし・・・

「二羽・・・ですね。違いますね、ヒナギクさん」
しかしヒナギクはハヤテの声が聞こえないかのようにじっと二羽のスズメを見つめている。そして叫んだ。
「あれ、チャー坊だわ」
「え、え?」
「チャー坊には首周りに白い模様があるの。あれは間違いなくチャー坊よ」
(ヒナギクさんはそんなにチャー坊を見守っていたのか。でも二羽一緒ということは・・・)

「チャー坊、彼女ができたのね。おめでとう。」
ヒナギクの弾んだ声のトーンが上がる。
チャー坊たちにぶんぶんと腕を振っている。
もっともスズメの雌雄を判別するのはなかなか難しい。正確には彼女か彼氏かわからないが。

チャー坊もヒナギクのことがわかるのか、ヒナギクとハヤテのすぐ近くを飛び回っている。
「チャー坊。私もね、こんな素敵な彼氏ができたのよ。あなたを助けてくれた人よ」
そんなヒナギクに釣り込まれたハヤテも、笑いながら手を振っている。

二羽のスズメは一しきり空中を戯れた後、巣へ戻って行った。
「まるでお披露目会みたいですね」
「ええ、お互いにね。お披露目してくれたのかしら、それとも私たちがしたのかしら」
ヒナギクがハヤテに向かってウィンクした。

それだけでハヤテは胸が締め付けられ意識が飛びそうになる。
ハヤテは両手を伸ばしてヒナギクを抱き締めようとした。
ヒナギクも両手を伸ばし・・・

ハヤテの胸を掌で押しとどめた。
「ここは学校よ、ハヤテ君。私は生徒会長なんだから」

ヒナギクはいたずらっぽく笑っていたが、ハヤテは気分を台無しにされた感がしてちょっと鼻白んだ。
(そりゃないでしょ、全く・・・。まあこれもヒナギクさんらしいというか・・・良いところ・・・なの・・・かな)
もっとも、自分が先ほどヒナギクの気分を台無しにしかけたことは気付いていない。


その時、始業の10分前を示す予鈴が鳴りだした。
この場はとりあえず終了となり、二人は教室に向かってダッシュしていた。

もともと超人的な体力を持つ二人のこと、予鈴の鳴り終わる前に教室へと飛び込んだ。


「間に合いましたね、ヒナギクさん」
笑いかけたハヤテだが、教室の雰囲気がおかしいことに気づいた。

クラスメートの大半、正しくは男子生徒の全員+女子生徒の半数がハヤテに向かい、怒り、嫉妬、或いは不快感といったネガティブな視線を向けていた。
一人、泉が立っておろおろしている。

黒板には、いわゆる相合傘の落書きが書かれている。
向かって傘の右側には、「桂ヒナギク」、左側には、「綾崎ハヤテ」。

ご丁寧にも相合傘にはヒナギクとハヤテそれぞれに向けた書き込みがなされていた。ヒナギクの枠には「完璧超人」「不釣り合い」「今からでも遅くない」「考え直して」、ハヤテの枠には「借金執事」「お前には不幸が似合ってる」「身の程を弁えろ」「会長を巻き込むな」といった内容が様々な筆跡で並べ立てられていた。
一人や二人の仕業ではない。
 
(なるほど・・・。ヒナギクさんの恋人になるとはこういうことか)

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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.6 )
日時: 2014/11/07 03:02
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

来てしまいましたね、クラスメイトからのアレコレ。
自分はこーゆーのがやりたくなくて逃げたタチですが…二人がどう向き合っていく(または無視する)のか、楽しみにしております。

チャー坊とはこれまた懐かしいキャラが出てきましたね。
羽ばたいてる鳥と戯れるヒナさんはさぞや可愛い事でしょう。ハヤテ君、男は度胸でっせ。

個人的に非常に刺激を受けさせて頂いた回でした。面白かったです。
また次回、期待しております。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.7 )
日時: 2014/11/07 08:17
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうも、タッキーです。

まさかチャー坊にも彼女ができていたとは。今回の一番の驚きはコレですね。
この作品はヒナさんらしさやハヤテらしさがよく出ているところがいいなぁ、と思っています。原作のキャラを保っていくのはなかなか難しいのでとても尊敬します。

自分も周りからの批判などは完全スルーでいったんですが・・・ロッキーさん同様、二人がどう乗り越えていくか楽しみです。

次回も期待しています。

それでは。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.8 )
日時: 2014/11/08 00:13
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさん
タッキーさん


感想ありがとうございます。これを励みにこの週末、次の投稿に向けて頑張ります。

ハヤテとヒナギクさんの「出会いを演出したキューピッド」と紹介したチャー坊なんですが、まあ、キューピッドというのは筆が滑りましたかね。

しかし、もし原作のメインヒロインがヒナギクさんだったとしたら・・・
チャー坊は文字通りにキューピッドの役割を果たしたマスコットとして準レギュラーくらいになっているかも知れないと思います。
この作品はヒナギクさんがメインヒロインですので遠慮なく登場してもらいました。

で、クラスの反応なんですが・・・。
パンドラの箱を開けてしまったかな?と、少々びびっておりますが、私の構想はあくまでハッピーエンドです。
難しいことを考えるのは苦手ですので、凝った展開にはならない予定です。
ご期待に応えられればいいのですが。


                                どうふん
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.9 )
日時: 2014/11/09 21:36
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

異性から憧れられている恋人を得た二人は、心が優しい故に、周囲に気を使う立場でもあります。
ただ、心が通じている友人たちは二人を応援してくれましたが、必ずしもそうではない相手もいます。
からかい、冷やかしくらいならまだしも、悪意との遭遇もそこに。



第五話(アイドルがヒーロー(?)に変わる時)


ハヤテは黙って黒板に向かい、落書きを消そうとした。が、すぐ隣から湧き上がってくる異様な気配に凍り付いた。
ヒナギクの眼は机に座るクラスメイト達に向けられ、全身からオーラが立ち上っている。
更に・・・その右手は正宗を握り締めてわなわなと震えている。
先ほどの天女が、さながらメモタルフォーゼを済ませた如く一変していた。
教室はヒナギクの怒気・殺気に打たれ、身動きする者もいない。

「マズイ・・・」
数秒おいて気を取り直したハヤテは、そっとヒナギクの後ろに回り、有無を言わさずヒナギクを抱きかかえ教室の外にダッシュした。


***********************************************************************:


「全く・・・。何で教室から連れ出したのよ」

たまたま開いていた物理準備室にハヤテはヒナギクを連れ込んでいた。
ヒナギクはまだ怒りが収まらず、目の前のハヤテに仏頂面を向けていた。
もうすぐ始業式となる時刻であるが、それどころではない。

「はあ、済みません。だけどあんな恐いヒナギクさんを久しぶりに見ましたので・・・。このままではと・・・」
今はホッとした気分の方が強いがハヤテの声は少し震えている。
「恐い・・・?久しぶり・・・?何よ、私を時々恐いと思うわけ?」
「い、いえ、決して」時々もへったくれもない。今のヒナギクが恐ろしい。

「大体ね。私が何に怒っているかわかっているの?」
「は?僕たちの仲をああやって暴露されて・・・」
「そんなことはどうでもいいわよ。退院パーティには沢山のお友達が、ましてあの三人組もいたんだから、いずれ知れ渡るとは思っていたわよ」
「え、それじゃあ」
「私はね、最愛の恋人を侮辱されたことが許せないの」

確かに・・・あの落書きの悪意の籠った表現は全てハヤテに向けられていた。
クラスの面々もその辺りは意識してヒナギクを直接侮辱するのは避けたのだろう。
だが、ヒナギクにとっては自分を侮辱されたこと以上に許せないことだった。

「ありがとうございます、ヒナギクさん。そう言ってもらえるのは嬉しいです。だけどあれは大体本当のことですし、僕はそんなに気にしてませんよ」

「ホントのこと、なの?ハヤテ君は不幸が似合うの?」
「ま、まあ客観的に見てそうじゃないですかね」
「主観的に見て頂戴。今ハヤテ君は不幸なの?今居るのは悪い場所なの?」ハヤテは詰まった。

「・・・済みません、そんなことないです。僕は・・・今、幸せです。ヒナギクさんも居てくれますし。
だけどあの場はヒナギクさんが本気で怒っていたのがわかりましたので、止めないと・・・と。それだけです。
済みませんでした、ヒナギクさんの気持ちも考えず。」
ヒナギクは黙った。

「ヒナちゃん、ハヤ太くん、ここに居たの?探したんだよ」

やってきたのは千桜と泉だった。遠く離れた位置で、陰から顔を半分出している美希や理沙も見えた。
「何よ?」ヒナギクの眼光に射抜かれた泉は震えている。
「ご、ごめんね、ヒナちゃん。あの、ヒナちゃんがハヤ太君と付き合っていると皆に言ったのは私なの、ごめんなさい。だけどあんなつもりじゃなくて・・・」

「じゃ、どうしてあんなことになったの」
涙目で怯える泉にヒナギクは幾分口調を和らげた。

「校庭で仲良くしている二人を見た子がいて・・・、『二人はアヤシイ』って・・・。あの、その・・・私が・・・二人お付き合い始めたみたいだよって・・・言ったら・・・。だってパーティでもみんながそんなこと言ってたし・・・。私もショックだったんだけど・・・。そしたら、『冷やかしてやれ』とか、『許せない!』って怒る子もいて・・・」
千桜が口を挟んだ。
「ヒナ、済まない。私はやめろって言ったんだが、群衆心理を食い止めることができないで・・・。雰囲気に流された連中が大半で、皆が皆あんなことを考えているわけじゃない。

ただ、一つ弁解すると、常に品行方正な生徒会長が遅刻すれすれに廊下を突っ走り、当の綾崎君と抱き合うように飛び込んで来たから、余計にあんな雰囲気になったということもあるんだ」

ハヤテにしてみれば、直前に鼻白んだゆきがかりで、ヒナギクをちょっと困らせてやろうかとスピードを上げ、ヒナギクは持ち前の負けず嫌いでハヤテと競り合い、ゴール直前でもつれあっただけだが、周囲にはそんな風に見えたということか。考えてみれば普段、ヒナギクはそんな行為を注意する側なのだ。

「みんなヒナちゃんの怒るのを見て、とんでもないことをしちゃったって慌ててるんだよ・・・。ねえ、教室に戻ってきて」


****************************************************************


二人は教室へ戻った。最前の落書きも異様な雰囲気も消えていた。
本気で悪意を持っているのはごく少数で、尻馬に乗ったり、流されていた連中が正気を取り戻したということだろう。
だが後ろめたさが残っていたらしく、その日二人に近寄ってくるクラスメイトはほとんどいなかった。


こんなこともあって、ほとんどの生徒は理解した。
下手に二人の仲を邪魔しても無駄どころか命取りになることに。
例外と言えば虎鉄くらいなものだが、ハヤテに瞬殺された。
それでも、こそこそと陰でハヤテを睨みつけている男子生徒はいた。

付け加えると、ヒナギクを宥める泉のセリフに、ぽろっと本音が紛れ込んでいたことにハヤテもヒナギクも気付いていない。
ただ、千桜だけが、敏感に気づき、胸に痛みを感じていた。


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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.10 )
日時: 2014/11/11 06:30
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

冒頭のシーンは、超サ○ヤ人に目覚めた孫○空がフ○ーザを睨み付けるシーンを思い起こさせる程に、ヒナの怒りが伝わって来ました。個人的には感情のままに大暴れさせてあげたい気持ちも起きましたが…怖い怖い。笑
泉や千桜の言葉に対しての返事がほとんど無いあたりも、彼女らに対しての怒りを表現しているのかと思います。

その怒りの理由もとてもヒナらしく、おそらくはハヤテが逆の立場なら同じように憤怒していたであろう事が容易に想像できます。
「主観的に見て頂戴」というセリフが非常に印象的で、ハヤテの事を自分の事以上に思っているのが伺えてきました。

あんまり怒ったりするシーンを表現しないタチですが、非常に参考になりました。
次回も楽しみにしております。
では失礼しました。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.11 )
日時: 2014/11/12 00:14
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさんへ

 感想ありがとうございます。
 
 私は、ヒナギクさんのキャラクターを大事にしているつもりですが、だからこそ避けて通れない問題に、ヒナギクさんならこうするだろうと、真っ向からぶつかってもらいました。
 いわゆる「(苦難を)二人で乗り越えて」というものではなく、真っ向から叩き潰してしまった感があります。

 賛否あるとは思いますが、受け入れてもらったみたいで良かったです。


 言われてみれば・・・、確かにロッキーさんの作品に、「怒り」などネガティブな感情はあまり見た覚えがないですね。
 まあ、私はその辺りが楽しく読めて気に入っているんですが。

                                    どうふん

 
 
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.12 )
日時: 2014/11/14 07:59
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

周囲のなんやかんやはここで一段落とします。
まあ、あまり引きずるような問題でもないと思いますので。

本作はこれから後半に入りますが、二人の関係性についての手前勝手な考察を交えて進めてみます。




第6話(愛が生まれた日:ヒナギク編)


「新学期早々、いろんなことがありましたね」

「全く。朝は折角いい気分だったのに台無しよ」
帰り道の途中、二人は肩を並べて公園のベンチに腰かけていた。
ちなみに、二人はわずかに間を取り、ぎりぎりで触れない様に座っている。
知り合いがいつ通ってもおかしくないエリアで、人目を気にしているせいか。

「まあ、今日が始業式で良かったんじゃないですか。午前中に学校は終わったし、明日はみんな普段通りになると思いますよ」
「まあ、そうかもね。でも、邪魔が入らなければ、あの落書の実行犯には一撃食らわせてやりたかったわ」
あはは・・・とハヤテは空笑いする。

「しかし、あれが・・・『釣り合いが悪い』というところが世間の評価なんでしょうね。」
「そんなこと言ってほしくないわね。大体ずっと片思いしていたのは私の方じゃないの」

「それ、考えてみれば不思議ですよ、ヒナギクさん。僕は今でも時々疑問に襲われるんです。
ヒナギクさんは僕なんかのこと、どうして好きになってくれたんだろう、って」
ヒナギクはしばらくハヤテの顔を眺めていたが、やがて、ふっと笑った。
「知りたい?」
「はい、是非とも知りたいです」
「だったら教えてあげるわ。ホントは今日『会った』ことの意味を気付いていたらわかってくれると思うんだけどな」
「え、今日『有った』ことの意味、ですか?」


首を傾げるハヤテに、ヒナギクは笑いかけた。
「初めて『お・会・い』した時のことよ。
私があの木の上からやっとの思いで飛び降りたとき・・・。ハヤテ君はこう言ってくれたでしょ。『呼んでくれればいつでも助けにいきますよ』って。
私ね、あんなこと言われたのはずっとなかったの。ちょっと変な言い方だけど、いつも助けを求められる側だったから。
でもね、昔、私が泣き虫で弱虫で、いつもお姉ちゃんに助けられていた時、お姉ちゃんが私にいつも言ってくれていたのよ。『困ったときは、大きな声でお姉ちゃんを呼びなさい。いつでもどこでも助けに行くから』って。
それを思い出しちゃった・・・。
嬉しかったのよ。今でも私を守ろうとしてくれる人がいるんだ、って。

そしてチャー坊がカラスに襲われて、私が何も出来なかったとき、助けてくれたのはハヤテ君。あの子が今元気なのは二人の共同作業みたいなものじゃない。

あの時ね、漠然とだけど・・・うーん、何と言ったらいいかしら。
そうねえ、この人となら一緒にいろんなことをできるんじゃないかな、って思ったの。
何となくこのまま別れるのが惜しくて生徒会室にご招待したのよ。
まあ、それだけじゃないけど」
(このまま、この男の子に弱みを握られたままお別れするのが癪だったってこともあるんだけど)

朝は(もしかして・・・)、と軽い気持ちで桜の木に向かったハヤテだが、ヒナギクはそこまでの想いをその場所に持っていた、ということに初めて気付いた。
チャー坊をずっと大切にしていた理由もわかり、胸が熱くなった。

(そんな昔からヒナギクさんは僕のことを想っていてくれたんだ。
それに全く気付いていなかった僕は一体何なんだ・・・。それどころか、僕はずっと・・・
今日だってそうだ。「『有った』じゃなくて『会った』ことの意味」か・・・。
だから待っていてくれたんだ、ヒナギクさんは)

「その時からハヤテ君のことが気になっていたの。
ハヤテ君も気付いているでしょ。初めて会ったとき、あんなこと言ったけど、本当は私を名前で呼んでいる男の子はハヤテ君だけよ。

そして、旧校舎で私がハヤテ君に助けて、と叫んだ時、本当に助けに来てくれたわね。
はっきりとハヤテ君のことが好きになったのはこの時と思うわ。まだ自分では気付かなかったけど。

気づいたのはその後しばらくしてからね。まあ・・・その話は勘弁して」
「え。そこまで聞いたら最後まで聞きたいです」
「だったらいつかは教えてあげる。今日はここまでよ。ところで・・・」
ヒナギクの瞳が怪しく光る。


「ハヤテ君が私を好きになってくれた経緯も聞いておきたいわね」


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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.13 )
日時: 2014/11/15 01:08
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうもタッキーです。

やっぱりどうふんさんの作品はキャラが原作に忠実ですね。読んでいて参考になります。
今回はヒナギクさんらしいハヤテを好きになった理由をたっぷり堪能させていただきました。自分は少しデレさせたいのでどうふんさんとは趣向がちょっと変わっちゃうんですよね。

ハヤテの愛が生まれた日というのも気になりますね。次回がとても楽しみです。

これからもお互い頑張りましょう。

少し短いですけど、これで失礼します。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.14 )
日時: 2014/11/15 20:19
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


タッキーさんへ

 感想ありがとうございます。
 
 ヒナギクさんのキャラクターは、私自身が原作のキャラ、あと、過去のいきさつから、一気にハヤテにデレデレにはならないだろう、という考え(それとも好み?)によるものです。
 実際、ハヤテの告白から二人のファーストキスまで(設定上)およそ1か月かかっているわけです。

 確かに趣向は違いますが、タッキーさんの書くヒナギクさんも十分魅力的だと思います。


 前回の投稿は特段目新しい想像も内容もありませんが、ハヤテにヒナギクさんの想いをはっきりと受け取ってもらいたくて書きました。

 では、ハヤテの方はどうでしょうか?
 前作に書いた病院での出来事が全て、とは私は思っておりません。
 というより、そういう設定にしています。
 その辺りは次回投稿にて。


                                      どうふん
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.15 )
日時: 2014/11/16 18:31
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


さて、ハヤテがヒナギクさんを好きになった経緯ですが、これは私の創作部分だけでなく、原作ベースに少々イマジネーションを膨らませてみました。



第7話(愛が生まれた日:ハヤテ編)


「え、うーん。まあ当然の流れじゃないですか。こんな素敵な女性が身近にいれば好きにならない方がおかしいですよ」
「当然か偶然かはともかく、私をさんざやきもきさせたんだから種明かしはしてもらいたいわ。
それにあれだけ私に話をさせといて自分は何も、ってことはないわよね」
ヒナギクは満面の笑みをうかべてはいたが、その瞳には焔が揺れている。

殺気は感じないので、怒りではなく好奇心を燃え上がらせていることは想像がついた。
いずれにせよ逃げられそうにない。

「え、えーと。はっきりヒナギクさんを好きと意識したのは、あの病院です。
入院したヒナギクさんが、やつれていくのが本当に心配で、これでヒナギクさんが元気にならなかったら、と思うと胸が締め付けられるようでした。
でも一番苦しいはずのヒナギクさんが、誰より周囲を気遣っていて・・・
そして僕の知らないところまで含めて、僕はどれだけヒナギクさんに助けられていたのかと言うことにも気づきました。
恥ずかしくなったんです。それに引き換え、僕はヒナギクさんに何をしてきたのかと思うと・・・

せめてヒナギクさんに元気になってもらえるまでお世話すれば、少しは償いになるかと思ったら、お返しなんかいらない、と言われて頭が真っ白になりました。
一体僕はどうしたらいいんだろうと思いながら結論が出せず、ただ苦しくて・・・。

最後の最後に、ヒナギクさんから愛想を尽かされかけていることに気づいて、その時やっと、僕はヒナギクさんのことが大好きなんだ、とはっきりわかりました。
今まで僕は必死になって自分の気持ちに目を逸らそうとしていたんだと思います。

そうなるともう居ても立ってもいられなくなって・・・。

病院でヒナギクさんと一緒に居て、十倍も百倍もヒナギクさんのことを好きになったのは間違いありません。
だけど、その時に好きになったというよりは気づいたわけで、本当はもっと前からだと思います」

「それ、もっと知りたいわ。いつから、と思っていいの」
「うーん、それは自分でも良く分からないですけど」

ヒナギクでなくとも多くの女性はそんな回答で満足しない。
「分かっていることだけでも良いから言ってみて」
ヒナギクはハヤテの眼をずっと覗き込んだまま動かない。
「わ、わかりました、ちょっと待って下さい」

ややあって・・・

「あの・・・、正しいかどうかはわからないですが、一つ思い浮かぶことがあります」
ヒナギクは身を乗り出した。
「僕は昔から、あの両親のために誰からも受け入れてもらえませんでした。
ただ一人受け入れてくれたあーたんともヒドい別れをして、人に嫌われたり蔑まれることに慣れました。
いつも心を空っぽにして何も気にしないようにしていました。

その後、お嬢様から助けてもらって、やっと自分を認めてくれる人の中に居ることができるようになりました。
だけど最初は・・・、お嬢様から追い出されたと思い込んだり、高校に不合格だったり、そんなことばかりでした。
ただ、落ち込むことはあっても、悲しいとか辛いとか感じなかったんです。
仕方ないとか、やっぱり、とかばかり考えていました。まだ僕の心の肝心なところは空っぽだったんでしょう。

でも、一つだけ、これだけは辛くて・・・苦しくて・・・。何とかしたいと思ったことがあったんです。」

ヒナギクは引いていた。こんな重い話になるとは思わなかった。
「あ、あの、辛いことなら話さなくてもいいのよ」

「いや、ここまで言ったんですから聞いて下さい。
あの頃僕はヒナギクさんに嫌われている、と思っていて、これだけは本当に辛かったんです。」
「・・・・・・・」
「恥ずかしいですが、友達に相談というか愚痴というか、悩みを聞いてもらったこともあります」
(あ、歩のことね・・・)
「あの頃は気づきませんでしたが・・・。まあ実際、僕は色々なことを抱え込んでいましたし、気付いても多分それどころじゃなかったでしょうが・・・。

だけど僕はその時にはもうヒナギクさんに魅かれていたんだと思います」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヒナギクは言葉が出ない。そんなことは想像もしていなかった。

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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.16 )
日時: 2014/11/21 22:50
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

かつてハヤテがロイヤルガーデンに迷い込み、その後、アテネと別れた時から、ハヤテが誰かに助けを求めるようなことはなかったような気がします。
本気で落ち込んでいる時も一人で内面に閉じこもっていたシーンが何度もありました。

そんなハヤテが例外的に奇妙な行動をしたのが印象に残っています。
ハヤテが西沢歩に向かい、疲れた顔で愚痴るように「これ以上ヒナギクさんに嫌われるのは・・・・」

いろいろな解釈が可能ですが、ハヤテにとってそれだけヒナギクが特別な存在になっていたということも・・・



第8話:(ちぐはぐな恋人)


「ハヤテ君・・・。ごめんね。」
「え、何でヒナギクさんが謝るんです?」
「ハヤテ君が私から嫌われているって思っていたのは私のせいだと思うの。
あの頃、なんでハヤテ君に怒ってばかりいたのかしら・・・

ハヤテ君のことが気になっていながら自分で自分の気持ちが理解できなくてイライラしていただけよ。
ハヤテ君を怒っていた理由なんて、ホントは『何で私の気持ちに気付いてくれないの』。それだけ。

そんな思いをハヤテ君にさせていたんだ・・・。
気付いていないのは私も同じだったのね」

「ヒナギクさん・・・」
「ホントは私たち、もっとずっと前から両想いだった・・・。そう思ってもいいのかしら」
「はい、ヒナギクさん。きっとそうですよ。僕たちは」
「あ−あ、随分と遠回りしちゃったわね・・・。

でも、良かったわよ。私が一方的に片思いしていたわけじゃないのね。
それなら、私がハヤテ君に負けたことにはならないし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハヤテはずっこけた。

ベンチから滑り落ちて尻餅をついただけでなく、座席に後頭部をしたたかにぶつけた。
(勝ち負けの問題じゃないでしょ・・・。どこまで負けず嫌いなんですか)

一方のヒナギクはご機嫌な笑顔を浮かべている・・・ように見えた。
ハヤテの頭に、いつかの旧校舎の風景がフラッシュバックした。
実はヒナギクにしてみれば照れ隠しでもあったのだが、ハヤテにそんなことを読み取る能力はない。

ハヤテはズボンについた埃を払い、今度はヒナギクと少し距離を置いて座った。

「ハヤテ君・・・怒ったの?」顔色を窺うようにヒナギクがハヤテの顔を覗き込む。
「はあ?そんなわけないじゃないですか」
(怒る気にもなれませんよ。呆れてるんです)

「ね、機嫌直して」ヒナギクは甘えるような声を出して、ハヤテに身を擦り寄せた。

「そ、そんなことないですよ、別に機嫌なんか・・・」
瞬時にハヤテは全面降伏した。

ヒナギクはホッとしたような笑顔を浮かべ、心持ち上を向いて、瞳を閉じた。
冒頭のシーン ・・・ 一昨日とは少し状況が違う。
しかし、ハヤテに抗う術がないことには変わりない・・・


甘いひと時の後、ハヤテはちょっと皮肉っぽく言った。
「いいんですか、生徒会長。人がいつ通るかわからないのに」
「いいのよ。ここは学校の中じゃないんだから」
ファーストキスに比べればちょっと慣れたかもしれないが、朱に染まってむくれているようなヒナギクの姿はそれほど変わらない。
「じゃ、こんなことをしてもいいですね」ハヤテはヒナギクを優しく抱きしめた。
「もう・・・仕方ないわね」しかし満更でもなさそうにヒナギクはハヤテの胸に顔を埋めた。
ヒナギクの髪の香りが、ハヤテの鼻腔をくすぐった。

二人はどちらからともなく手をつなぎ、家路へついた。
ハヤテの眼に、隣を歩くヒナギクの笑顔と髪が夕陽に映え、それは眩しい位に煌めいていた。


************************************************************


別れ際、ヒナギクがポツリと言った。
「ところで・・・、ハヤテ君はキスするときあまり緊張していないわね」
「え、え、やだなー、そんなことないですよ。心臓がバクバクしてますよ」
「なんか、すごく慣れてるような気がするんだけど」
「い、いえ、決してそんな・・・」

心臓バクバクは嘘ではないが、こちらははっきりと否定できない。
ヒナギクは動かない満面の笑みを浮かべながらハヤテの顔をじっと見ている。
ハヤテの顔や背中に流れる冷たい汗が止まらない。
(忘れてた・・・。本当に怖いのはこんな笑顔のヒナギクさんだった)

「・・・ま、これ以上訊くのは野暮みたいね、ハヤテ君。じゃ、また明日」
ヒナギクは笑みを崩さず去って行った。

(うう・・・、やはりヒナギクさんは僕より一枚上手だ)
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.17 )
日時: 2014/11/24 22:35
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

一時はどうなる事かと思いましたが、無事にイチャイチャ出来てるようでなによりです。
恋人になり立ての時特有のちょっとしたぎこちなさがたまらないですね。しばらくイチャイチャさせてあげてないウチのハヤヒナが羨ましそうな目で見ている事でしょう。

原作のハヤテの言動へのどうふんさんの解釈は、新しい着眼点だと思います。
確かに人間関係に対して「嫌われるのは慣れてる」などと妙に前向きにネガティブなハヤテが、ヒナに関しては普通の感覚を適用していますね。

ヒナのこれまで言動への謝罪は、彼女自身の人間的な成長だと見て取れて嬉しくなっちゃいました。
ハヤヒナっていいなと改めて思わせて頂きました。
次回も楽しみにしております。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.18 )
日時: 2014/11/25 22:31
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさんへ


 感想ありがとうございます。
 ちょっと褒められ過ぎ、という気もしますが、煽てには乗る方ですのでありがたく受け取っておきます。

 私が解説するまでもなく、意図するところはご指摘の通りです。
 まあ、三歩進んで二歩下がるようなちぐはぐな二人ですが、こうしたことを繰り返して仲を深めていくのかな、と思っています。
 心は深く通じ合っていても、それを二人がどこまで理解しているかはまだまだ心許ないところです。



                                 どうふん
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.19 )
日時: 2014/11/28 22:49
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361

「想いよ届け」第二部、今回が最終話となります。
前作同様、今回も書き上げるまでおよそ一か月くらいでした。
私の集中力が続くのはそのくらい、ということでしょうか。
また一休みして、第三部に取り掛かりたいと思っています。

管理人さんや目を通して頂いた方々に心より御礼申し上げます。


                             どうふん




第9話(三人の日常)


新学期になって3日が過ぎた。
まだ、登校実績のないナギは今朝も布団から出てこない。
「お嬢様、もういい加減学校に行きましょうよ」

「んー、ハヤテ。お前たちのために起きないのだぞ、私は。学校でくらい、ヒナギクとイチャイチャして来い」
(全く、好き勝手な理屈を思いつきますね・・・。もっともヒナギクさんは学校でイチャイチャしてくれるほど甘くないですけど)


ただしこれはあくまでハヤテの感想である。
「あの野郎、今日も桂さんといちゃつきやがって」
人前でのスキンシップはなくとも、昼休みに一緒に弁当を食べ、放課後も生徒会室や帰路へ向かう二人を見て、ハヤテに羨望や嫉妬あるいは殺意を込めた目線を送っている男子は多い。

呆れ顔でマリアがナギを揺さぶった。
「いい加減になさい、ナギ。ヒナギクさんにハヤテ君を独り占めされていいんですか」
「まあ、いいさ。学校の中だけの話だ」
マリアはナギの耳元に顔を近づけた。
「そんなことだから、あの恋愛音痴のヒナギクさんに負けるんですよ」
「わ、わかったよ」
しぶしぶと起き出すナギを見送って、
「マリアさん、今、お嬢様に何て言ったんですか」
「さあ、何でしょうね」

なんやかんやで、ナギは今学期初めて学校に行った。

***************************************************************************************************

そして昼休み、ヒナギク、ナギ、ハヤテの三人は校庭の芝生に腰かけて弁当を食べている。
ナギ主従の食事に親友が同席しているようでもあり、恋人同士が妹と一緒に、とも見える。
しかし、ナギもヒナギクも、そしてハヤテも疎外感を抱くことなく、三人で仲良く談笑しているところはさすがである。

「で、ヒナギクの身辺にはストーカーの影はないのか」
「ないわよ、そんなもの。ただ、ハヤテ君の悪口を言って、自分をアピールするダメ男は何人かいたけどね」
普段のヒナギクなら、告白してきた男が嫌いでも、相手の気持ちを慮り、他人に話したりすることはない。
まして「ダメ男」などと。
余程腹に据えかねているのだろう。
(まったく・・・。「ここだけの話、あいつは親に捨てられたんだよ」「借金を抱えているんだよ」なんて、教えてもらわなくても知ってるわよ。そんなことを口にしている自分がどんなに卑しい顔をしているかぐらいは気付いてほしいわね)

「まあ確かに、上っ面だけでしかハヤテを見ない奴らにとって、ハヤテへの誹謗中傷など幾らでもできるからな」
「い、幾らでも、ですか」
「気にするな、お前の価値はわかる人間にはわかるのだ。

ところでな、ヒナギク。ハヤテはこの一週間しょっちゅう物が飛んできたり、落とし穴に狙われたりしているみたいだぞ・・・。
まあ、せいぜい嫌がらせのレベルだから心配するほどのことでもないが。
ハヤテをこんな目に会わせるあたり、さすがにヒナギクは白皇きってのアイドルでヒ−ローだ」
「ヒロインですよ、お嬢様」
「いや、ヒナギクはヒ−ロ−と言った方が適切だ」
「何の話よ」
「かっこ良すぎだというのだ、ヒナギクは。男子生徒はともかく、女子生徒までああだからな。
そうだな・・・。男子生徒のアイドルで女子生徒のヒーロー、と形容すればぴったりではないか」
ヒナギクの頭に、バレンタインに山積みされたチョコレートを齧る毎年の恒例行事が蘇る。
「あ、あまり嬉しくないわね」

(僕の恋人は男子生徒のアイドルで女子生徒のヒーローか・・・。
まあ、男子生徒のアイドルは間違いないけど、ヒーローの方はどうだろう。男女問わずに、だろうな。何せ、怒る気配だけでクラス全体を一瞬で黙らせるんだから。あの時の迫力は半端じゃなかった・・・。
僕にとっては・・・やっぱり天女かな。ちょっと祟りは怖いけど)
「何、ニヤニヤしてるのよ、ハヤテ君」二人がハヤテの顔を凝視していた。
「あ、いえ」
「まあ、お前にとって不名誉なことを考えていたわけではなさそうだぞ、ヒナギク」
「いや、絶対少しは考えていたわよ」
「あ、あはは・・・」


昼休みも終わりに近づき、三人は腰を上げた。
「ヒナギク、今日も放課後は生徒会の仕事があるんだろう」
「ええ、あるわよ。何?ナギが手伝ってくれるの」
「んー、私はゲームの続きをしなければならんからすぐ帰る。ハヤテ、私の代わりに手伝ってやってくれ」
「はい、お嬢様」ハヤテの声が明らかに弾んでいる。
「・・・何をそんなに嬉しそうにしているのだ」
「い、いえ、その・・・」
「まあ、いい。好きにしろ」
ナギは先にすたすたと歩きだした。

「お嬢様、待って下さい」

しかし追いかけるハヤテの立ち位置は微妙なところにある。ナギとヒナギクの真ん中あたりをうろうろしている。
それを見たヒナギクは嬉しいようなナギに悪いような複雑な気分がした。
(ナギがあれだけ気を遣ってくれているんだから、こんな時くらいナギを追いかけてあげてもいいのに・・・)
かつてのハヤテなら迷わずそうしていた。
しかし今は、ナギと同等に自分に気を遣ってくれている。
それは悪い気がしないが、ナギの心情は労わらなければいけない。それにハヤテを困らせるのは本意ではない。

ヒナギクは駆け足でナギに追い着いた。
しかしナギとは少し間を開けた。
ハヤテも自然、二人の間の空間に体を差し入れ、二人と並ぶことになる。
三人はナギ・ハヤテ・ヒナギクの順番で肩を並べ、談笑しながら教室へと戻って行った。



「想いよ届け 第二部 恋人はアイドルでヒーローで」完




 

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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.20 )
日時: 2014/12/08 03:57
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。

遅くなりましたが、完結お疲れ様でした。
短いながらも読み応えのある作品だったと思います。

最後にナギと二人の絡みというのは良いチョイスでしたね。参考になります。
こうやって、周りの人々に支えられて仲を深めていく様子がハヤヒナSSの醍醐味だとつくづく感じます。
心霊スポットに付き合わされて体調を崩した女の子そっちのけで自分の商売にいそしもうとするダメ男君に、彼らの思いやりの欠けらでも感じて欲しいなと思いました。(辛辣

また次の部も楽しみにしております。
それでは失礼しました。
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.21 )
日時: 2014/12/09 18:57
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうも、タッキーです。遅くなってすいません。なんというか・・・試験が・・・ね。

とにかく完結お疲れ様です。自分もそろそろ完結しなきゃと思っているんですが相変わらず遅筆なものなので。どうふんさんのように短編、中編は読みやすくていいなと思っています。
ロッキーさんと同じことを言ってるのですが、自分も最後にナギと絡んでいるシーンは印象に残りました。それにしても天女ですか・・・うむ!アリですな!!
個人的にヒナギクさんのようなキャラはむしろ守ってあげたい。というよりイジメ・・・げふっ!!ま、まぁそんな感じなんですがやはりカッコいいヒナさんもいいなぁと改めて思いました。

続きがあるのなら早く読んでみたいです。
それでは
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Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで ( No.22 )
日時: 2014/12/09 22:18
名前: どうふん
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=361


ロッキー・ラックーンさんへ
タッキーさんへ


感想ありがとうございます。
早いとか遅いとか、全く気になりませんので、嬉しいです。
読み応えがあった、とか早く続きを見たいなどと言ってもらえるのは励みになります。
書くこと自体楽しいとは思いますが、折角読んでくれた方々を失望させたくはありませんので。
まあ、これはロッキー・ラックーンさんやタッキーさんも一緒でしょう。


ヒナギクさんとハヤテの恋愛は周囲にライバルが多く摩擦を引き起こす可能性を多分に含んでいます。
ただ、この二人なら、という感覚も同時にあります。私としては、ハヤテを射止めたヒナギクさんが西沢歩、泉、ルカそしてナギに恨まれるところは想像できません。
しかし、当然ライバルたちはそれぞれが葛藤や苦悩を抱えているはずですから、ハヤテやヒナギクさん自身に彼女たちを思い遣る気持ちがなければ友人であり続けることはできないでしょう。
今回、最後にナギを持ってきたのは、二人に独りよがりにならず、周囲と調和しながら仲を深めてもらいたいからです。
ハヤテとヒナギクさんには、周囲を不幸にすることなく、応援され祝福されつつ幸せになってほしい。
そう思っています。


で、ロッキー・ラックーンさんの辛辣な一言につきまして。
当時、ハヤテは信じていた兄との衝撃的な出会いなどで怒りと失望に目が眩み自分を見失っていた、ということでしょうが、私としてもあれは嫌悪感を感じましたね。
一時的に、ハヤテはダメ男というか外道に堕ちていたと思います。
(作者はギャグっぽく描いていましたが笑えませんでした)
最大の被害を受けていたのが間違いなくヒナギクさんで、踏んだり蹴ったりの目に遭わされ、それでも、ハヤテへの思慕を捨てない姿が可哀想でした。

ちなみに私が、第一作を書こうと思い立った直接の動機はその辺りにあります。
(ああ、ばらしちゃった)

説明するまでもないでしょうが、ハヤテに責任を感じてもらい、ヒナギクさんの看病をさせ、そして、それがきっかけで・・・というのが第一作のコンセプトです。
今思えば、本当に行き当たりばったりで投稿を始めてしまいました。

なお、原作においても、皆の協力を受けて販売目標を達成できたハヤテは、最後には正気を取り戻したようで、前非を悔い、迷惑を掛けた人たちに謝ったのだろうとは思っています。


タッキーさんから指摘のあった「天女」についてですが、実を言えばこれは苦し紛れです。
当初は「女神」としていたのですが、それでは天王州アテネと被ると思って置き替えました。



で、第三部についてですが、前二作とは趣向を大幅に変える予定です。もちろん今回の続編としてハヤテとヒナギクさんが少しずつ仲を深めていくストーリーであることに変わりはありません。
もう少し考えがまとまったら執筆にかかろうかと思っています。
まだイメージの段階ですが、そのコンセプトは一言で言えば「天女 VS 女神」というところでしょうか。


                                                どうふん
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