ハヤテSS投稿掲示板
[記事リスト] [新着記事] [ワード検索] [管理用]

タイトル What did you buy?
投稿日: 2008/05/04(Sun) 17:20
投稿者めーき


「はい、ハヤテ君。これが今月のお給料です」
ある冬の土曜日、三千院家のリビングでマリアは二つの封筒を差し出していた。二つの内、片方は大きく、もう片方はほんの少し膨らんでいた。
「こちらはいつも通り借金返済の方に使わせて貰いますね」
そう言って、マリアは大きく膨らんだ方をしまい、小さい方をハヤテに渡した。
「わぁ、ありがとうございます」
ハヤテは渡された封筒をしまった。その様子はいつもよりテンションが高く、嬉しそうに見えた。
そんな様子を見ながら、携帯型ゲームに勤しんでいたナギは一段落したのか、電源を切った。
そしてゲームを机に置くと、
「なんだ。やけに嬉しそうじゃないか。何かほしい物でもあったのか?」
ハヤテに向かって言った。
対してハヤテは、
「え? ええ、まぁ、はい」
と口ごもったように答えた。
その後、マリアの方を向く。
「マリアさん、すみませんが明日の午後、少しでいいですから休みを頂けないでしょうか?」
「ええ、構いませんけど」
マリアは、ハヤテの申し出をすんなり聞き入れた。
自分の願いが聞き入れられたのが分かると、ハヤテは笑顔になった。
「ありがとうございます! じゃあ明日休む分、今からやってきますね!」
ハヤテは頭を下げると、小走りでリビングを出て行く。
扉がバタンと閉められる。閉められたときの音が部屋の中で少し響く。
そして、部屋の中は一気に静かになった。



「なぁ、マリア」
「何ですか、ナギ」
静かになった部屋の中でポツリと小さな声でナギが言った。
未だにハヤテの出ていった扉を凝視しているナギは、続けてマリアに言う。
「ハヤテが口ごもるものって何だろうな」
「さぁ、なんでしょう」
「相当凄いものなのかな」
「そうかもしれませんね」
「人には言えないものなんだろうな」
「そりゃそうでしょうね」
ナギはだんだん熱くなるように問いかける。
一方、マリアはそれを冷ますように冷静に答える。
そんな会話が少し続き、ナギが言う。
「なぁマリア、明日ハヤテを付けてみないか?」
「結構です」
マリアはそう言うことが分かっていたようにすぐ返した。
ナギは答えを聞いて、ナギはむーとうなることになった。
「何故だマリア! お前は気にならないのか!」
ナギが言う。
「確かにハヤテ君があそこまで嬉しそうにするものというのは気になりますが、ハヤテ君を付けるほどではありません」
マリアがキッパリと言う。
マリアが言うことには確かな意志が感じられ、ナギは何も言えなくなった。
ナギが黙るのを見て、マリアは手をパンパンと叩き、
「はい、これでこの話は終わりです。じゃあ、私はお皿を洗ってきます。ナギはそのゲームを片付けてくださいね」
キッチンの方へ歩いていくが、
「じゃあ、マリア」
ナギはマリアを呼び止めた。
マリアはハァと溜息をつき、ナギに振り向いた。
「ナギ、さっきも言ったようにこの話は…」


「もし、ハヤテが女性用の可愛いフリフリな服を買うとしたら、どうする?」



「・・・・・・ 」
「・・・・・・ 」
再び、部屋は沈黙に包まれた。
「ナギ」
「なんだ」
この時マリアが言った言葉は、
「絶対にバレないようにしてくださいね」
ハヤテを追いかける決意表明と同じ意味を持つ言葉だった。

かくして、ハヤテのストーキングは決行される運びになった。



そして、翌日。日曜の午後。
清々しく晴れた空。雲はほとんど無い。
そんな陽気の下、ハヤテはいた。
ハヤテは執事服を身にまとい、ゆっくりと歩いていた。
私服姿の人々が行き交う中、その姿はそれなりに浮いていたが、
「ナギ、ちゃんと付いてきていますか?」
「大丈夫だマリア」
後ろでこそこそしている二人ほどではなかった。
マリアはいつものメイド服。ナギは普通の服の上に少しくたびれた薄茶色のコートを着て、サングラスを着けていた。
二人は建物の陰に隠れ、ハヤテを追いかけている。しかし、その姿は周りからはバレバレで、通行人は二人から少し距離を置いていた。
「でもナギ、何でそんな格好なんですか…」
「何を言う、尾行と言えば刑事に決まっている!」
「刑事のつもりだったんですか…」
そんな会話が尾行中に聞こえる二人組だった。
「それにしても、どこまで行くつもりなのだ。ハヤテは」
ナギが小言っぽく呟く。
ハヤテは未だ止まる様子を見せないが、行き交う人はだんだん少なくなっていた。
きっちり隠れながら、二人は暗殺者のようにハヤテを追いかける。隠れているつもりでも、やはり目立っていた。
「怪しいですね」
マリアはハヤテから目を離さずに言った。
その時、ハヤテは初めて歩みを止め、店名を見た後、古びた店内に入っていった。
「ナギ、ハヤテ君が店の中に」
「分かった」
二人もハヤテに続き、バレないように店内に入っていった。



店の中は外と同じように古びた、ほこりっぽい雰囲気だった。
さらに、商品と思われるものがそこら中に乱暴に置かれていた。
商品はタンスや冷蔵庫など実用的なものから、西洋の鎧や招き猫など何に使うのか全く分からないものや怪しい雰囲気を放つものまであった。
「何なんだ、この店は…」
そんな内部を見て、ナギが呆れたような呟きで感想を漏らす。
「看板には雑貨屋さんって書いてましたけど…」
マリアが言う。
そうしている内にハヤテはレジに向かっていた。
「いかん、マリア! ハヤテがレジに!」
「はい! とりあえずこの置物の後ろに隠れましょう!」
二人は小さな声で素早く言葉を交わすと、ハヤテにはばれないように商品に隠れながらレジ近くのタヌキの置物の後ろに隠れた。
「マスター、こんにちは」
「ああ、あんたかい」
後ろを向いて棚の整理をしていたマスターと呼ばれた男は、声をかけられるとハヤテを見た。
近くにいるおかげかハヤテの声はナギ達に良く聞こえた。
(聞いたかマリア? ハヤテは結構この店の店主と親しそうだぞ)
(ええ、どうやらそのようですね)
今までより一層小さな声で二人は会話する。
「お金は持ってきました」
「分かってるよ。そう言ってくると思って、もう包んであるよ」
そう言って、棚から水玉模様の包装紙に包まれた箱を取り出した。
「ありがとうございます」
ハヤテはマスターから箱を取って貰うと、丁寧に礼を言った。
そして財布の中から、代金を取り出した。
「ちょうど受け取りました。まいどどうも」
気だるげにマスターは言った。
マスターが金を受け取るのを見ると、ハヤテは箱を持って店から出て行った。
(ハヤテの奴、どうやら前々からあれを狙っていたようだな)
(あのやり取りの早さから考えるとそのようですね)
あまりにも早いやり取りに二人は再度言葉を交わす。
その時、マスターがハァと息を吐く。二人はぴたりと口を閉ざす。
「まだあんな理由であれを買うような奴がいたんだな」
そうポツリと呟いて、マスターは店の奥に消えた。
マスターが消えて、たっぷり十五秒黙った後、二人も店を出て行った。



店から出た後、ハヤテはまっすぐ屋敷に帰るようで来た道を引き返していた。
ナギとマリアはハヤテが見える位置にいることを確認すると、話を始めた。
「さっきの続きだが、結局ハヤテの奴が何を買ったのか分からなかったな」
ナギは包装された箱を思い出して言った。
「確かに。でも、ヒントはありましたよ」
「何なんだ?」
マリアが右手の人差し指を立てて、言う。
「マスターが『あんな理由であれを買うような奴がいたんだな』って言ってましたよね。つまり、ハヤテ君は普通の理由であれを買ったわけではないんです」
「なるほど。つまり」
「ええ」
二人は互いに頷きながら、口を開く。
「「女装用の服を買った可能性もある!!」」
二人の声が見事ハモり、空に消えた。



同じ頃、泉は足を止めた。
足を止めた後、キョロキョロとあどけなさが残るような感じで周りを見渡す。
「どうした? 泉」
「何か気になることでもあるのか?」
突然、付いてこなくなった連れに美希と理沙も足を止めた。
理沙の手にはマイク、美希の手にはカメラが構えられており、二人の声はどこか期待するような音を持っていた。
「ううん、なんでもないよ」
泉はそんな二人に向かって、言った。
すると二人は見るからに肩を落とした。
そして泉を見ると、
「「何だ」」
と言った。
「何か面白いことはないかと、街を練り歩いているのに何もないぞ」
「大抵転がっているものなのになぁ」
理沙と美希が交互に言う。カメラとマイクを持った手はぶらんと垂れ下がる。
「本当になにもないよねぇ〜」
泉も二人と意見を同じくした。
「どうする? ブラブラするのもこれくらいにして、桂ちゃんのところにでも行く?」
泉が担任の先生をからかいにいくのを提案する。
「そうだなー」
「雪路のところなら何かあるかもしれないが… ん?」
三人が集まって相談をしている最中に美希が何かを発見した。
「どうした、いきなりそんな声を出して」
「どうしたの?」
二人は美希を見つめる。
「あれよ」
美希は二人の疑問の答えをまっすぐ人差し指で指した
指した方向には見慣れた執事服、水色の髪、女性的な顔。
ハヤテが箱を大事そうに持って、歩いていた。
「あれはあれは」
「ハヤ太君じゃあ〜りませんか♪」
泉と理沙はハヤテの姿を見ると、嬉しそうに言った。その顔はほしい物を買って貰える子供のようだった。
美希はそんな二人の前に出て、
「退屈しそうにないな。ハヤ太君がいたら」
やはり嬉しそうな顔になった。
そして、ハヤテの元に行こうとすると、

「マリア、私たちバレてないよな?」
「ええ、大丈夫に決まっています」

ハヤテを追いかける二人を見て、一時停止した。
後ろには美希と同じように停止した状態で泉と理沙もいた。
「「「・・・・・・」」」
三人とも、こそこそしながら歩いていく二人を唖然として見送る。
「ナギちゃんとナギちゃんのメイドさん?」
三人が一時停止を解いた頃、泉が驚きが抜けてない様子で呟く。
すると美希が再び歩き出し、
「目標変更しない? あの二人といたほうが楽しそう」
後ろの二人に言った。
泉と理沙はお互いに顔を見合わせた後、
「「賛成」」
ニヤリと笑って、二人も歩き出した。



「だが、どうやってあの箱の中身を確認するんだ?」
ナギがこんなことを呟く。
「そうですねぇ、どうしましょう?」
ハヤテを追いかけながら、マリアは言った。
この時、ようやく二人は肝心な箱の中身を確かめる方法を考えてなかったことに気付く。
天才二人のうっかりミスというやつだった。
「これは参ったぞ」
「そうですね。今の内にどんな服か確認しないと何処かに隠されてしまうかもしれませんし…」
もう既に女装用の服を買ったことになっていることに誰も突っ込む人はいなかった。
二人が困った顔で話していると、
「ふっふっふ、話は聞かせて貰ったぞ! ナギ!」
「そういうことなら!」
「私たちにお任せあれ♪」

「「「我ら動画研究部に!!」」」

生徒会三人娘がドドーンと擬音を出しながら、登場した。
三人とも思い思いのポーズをとっており、その姿を見てナギとマリアは絶句した。
「な、何でバレたんだ…」
「いや、バレバレだったから。あれ」
驚くナギに美希が冷静に言った。
「それにしてもハヤ太君をストーキングなんて面白そうなことをしているじゃないか」
理沙が嬉しそうな顔で言った。
「ハヤ太君が謎の買い物をねぇ〜」
やはり極上の笑顔で泉が言った。
「で、でもどうするんですか?」
マリアが驚いた様子で言った。
その言葉を聞くと、三人は顔を合わせ、一斉に頷く。
すると、
「「「じゃじゃーん!」」」
どこからともなく何かを取り出した。それは風にたなびいて何なのか分かりづらかったが、黒いコートと黒い帽子だった。



「そこの少年よ」
「はい? 僕ですか?」
ハヤテは突然呼び止められ、声のした方を向いた。
そこには黒いコートをまとった三人組がいた。三人とも黒い帽子を深く被っており、顔は見えなかった。
「そうだ、君だ」
三人の内の一人が答えた。
「君にはある容疑が掛かっている」
さっきとは別の一人が言った。
突然そんなことを言われ、ハヤテは鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。
「嘘ではないぞ」
残った一人が最後に言った。
「そ、そんな、何もしてませんよ」
ハヤテは笑って言った。顔は笑っていたが、心当たりがありすぎて、冷や汗ダラダラだった。
「ほう、本当にそうかな?」
最初の一人が余裕ありげに言った。
「まぁとりあえず。君の持ち物は預けて貰い、話を聞かせて貰おうか」
「はーい、こちらで預かりますよー」
「え、え?」
素早く行動する三人にハヤテは囲まれてしまい、逃げられなくなってしまった。
じわりじわりと三方向から歩み寄られ、ハヤテは捕まりそうになる。
その時、
「はにゃ!」
三人の内一人が躓いたのか、見事に転んだ。転んだときに帽子が取れてしまったようで、帽子を着けていたときには見ることが出来なかった紫色の髪が現れた。
その髪を見て、ハヤテはその人の名前を呼ぶ。
「瀬川さん?」
的確に名前を呼ばれ、ビクッと反応を示す。
「いやいや違うぞ。彼女はその何とかさんじゃない」
「早速、話に入るが、君に掛けられた容疑はフラグ作りすぎ罪で…」
「ちょっと失礼します」
二人は必死にフォローしようとするが、二人ともハヤテに帽子を取られてしまった。帽子の下からは水色の髪をした美希と黒髪の理沙が現れた。
「何してるんですか、花菱さん、朝風さん?」
ハヤテに聞かれ、二人は身を固める。
美希はあーだとかうんと小さく呟いた後、
「撤退ッ!」
大きく叫び、逃走した。
「「アイアイサー!」」
二人もそれに倣い、あっという間に三人で走り去って行った。
その逃げっぷりにハヤテはしばし口を開けていたが、すぐにまた歩き出していた。
「あの人達、何しにきたんでしょうか?」
その疑問に答えられる人はいなかった。



三人が逃げた場所はすぐ近くの建物の角を曲がったところ。そこにはナギとマリアがいた。
「何をしているんだ。お前達は!」
ナギは戻ってきた三人に向かっていらだった様子で言った。マリアはその横で苦笑いを浮かべていた。
泉は頭を掻きながら、申し訳なさそうな顔をした。
「あはは〜 ごめんね〜」
「ああ、大丈夫だと思ったのにな」
「ハヤ太君にバレてしまうとは思わなかった」
三人はそれぞれ反省を述べると、コートを脱いだ。
ナギは溜息をつく。
そして、隣にいる自分のメイドを見る。
「どうする、マリア?」
「しょうがないですね」
マリアはそう言って、ハヤテの様子を窺う。こちらの方には気付いてないようで、まっすぐ屋敷への道を歩いていた。
マリアはその様子を見て、少し考える。
(あのスピードなら…)
その数秒後、マリアは小さく頷いて、
「ナギ、ヘリを呼んで下さい。今なら先回りすることも出来ます」
ナギに指示を出す。
その指示を聞き、ナギは携帯を取り出す。電話した先はクラウスで、無理矢理にヘリを用意させると、すぐにヘリはナギ達の上に来た。
ヘリからするりと垂れてきたはしごをナギ、マリア、泉、美希、理沙が登る。
全員が乗るとヘリはそのまま全速力で三千院家に向かった。



「結局、瀬川さん達以外には知り合いには会わなかったな」
ハヤテは門が見えてきた頃、安心したように言葉を漏らした。
手に持った箱を見て、ハヤテは嬉しそうに微笑むと小走りで門の前まで行く。
門に手を掛ける。開けるときに金属がこすれる音がする。そして、門の中に入るとすぐに門を閉める。
ハヤテは門がきっちり閉まったことを確認すると、屋敷に向かってまっすぐ歩き出した。
しかし、歩き出してまもなくマリアが視界の中に現れて、一旦止まる。
「只今帰りました、マリアさん」
ハヤテが帰宅の報告をすると、マリアはニッコリと笑って、お帰りなさいと言った。
「ハヤテ君、ちょっとこっちに来てもらえますか?」
ニッコリとしたまま、マリアが手招きをする。その笑顔には少しの黒さが含まれていた。
だが、それにハヤテが気付く訳なく、何の警戒もせずにマリアに歩み寄る。
そして、マリアの目の前まで近づくと、
「何でしょうか? マリアさん」
いつものスマイルで言った。
マリアは前まで来て貰ったハヤテに向かって、
「ええ、すみませんが…」
一言、こう言った。

「倒れてもらいます」

「はい? なんのこ…」
とでしょうか と続けようとした時、
ハヤテは地面から足が離れるのを感じた。足が感じるものは空気のみ。
その状態でマリアの方を見る。その両手は自分の身体を掴んで、技を決めており、
顔は笑っていた。
その笑いながら自分に形意拳を食らわすマリアの姿に恐怖を覚えた頃、ハヤテは地面に倒れていた。



「「「やった!」」」
マリアの後ろの茂みに隠れていた三人娘が歓声を上げた。美希はきっちりカメラを構えており、今までの様子を撮っていた。
「凄いね! ナギちゃんのメイドさん!」
泉が興奮した様子でナギに言った。
ナギはサングラスを取って、マリアを目を白黒させて見ていたが、話を振られると、
「ああ、確かにマリアは何でも出来るからな」
ちゃんと答えた。
「みなさーん、終わりましたから出て来てもいいですよー」
マリアの声が四人の前から響く。
それを合図にするように、三人が一斉に茂みから出始めた。
そんな中、ナギが一人呟いた。
「最初からこうすれば良かったんじゃないのか?」



「え!? 皆さんいたんですか!?」
ハヤテが茂みから出て来たメンバーを見て、目を丸くした。
「ああ、いたんだよ。ハヤ太君」
「驚いたかね、ハヤ太君」
「そうなのだよ〜 ハヤ太君」
三人がいつもの調子で登場し、
「んー まあな」
ナギも遅れて登場した。
「では、本題に入りましょうか」
マリアは全員が出て来たのを見計らって、話を切り出した。
そして、ハヤテの横に落ちていた箱を拾う。落としたせいで箱は少しへこんでいた。
ハヤテはマリアが拾ったものを見て、ギクリとした。
「も、もしかしてそれの中身が知りたかったんですか?」
倒れた状態で、マリアに向かって言う。
「ハヤテが隠すなんて、どんな物だろうな」
ナギが嬉しそうに言い、
「ほぅ、ハヤ太君が隠す物か」
「一体どんな物か」
「気になるねぇ♪」
最後に、美希、理沙、泉も言った。
そんな五人を見て、ハヤテは何を言っても無駄なことを悟ったか、身体を起こしてがくっとうなだれた。
「さて、ハヤテ君の買った物を拝見しましょうか」
マリアが言う。他の四人の視線は自然に箱に集まる。
包装紙のセロテープをマリアは綺麗に剥がしていく。みるみるうちにセロテープはなくなっていき、すぐに包装紙は剥がされた。
丸裸になった箱の蓋を掴む。そして、そのまま上に持ち上げると箱の中身が正体を現した。
(さぁ、ハヤテはどんな服を買ったんだ)
ナギはニヤリと笑いながら、中身を見る。
中身は箱だった。

「「「「「は?」」」」」
五人が異口同音に声を上げる。
そんな中、ナギが中から出て来た箱を手に取る。箱は木製の正方形。下の面には足がついており、側面の一つには大きな穴が開いていた。
「これは?」
ナギが箱を見終えて、首を傾げる。
「鳥の巣箱ですよ。それは」
ハヤテが立ち上がり、その疑問に答える。
その答えを聞いて、再び質問を返す。
「何でそんな物を買ったんだ?」
「それは、鳥を入れるためですよ」
ハヤテは正直に答えた。
「そういうことじゃない! 何で鳥も飼っていないハヤテがそんな物を買ったんだ!」
ナギが大声で言う。
「そ、それは」
ハヤテはナギの大声に驚きながら、顔を少し背ける。その顔は話すかどうか悩んでいるような顔だった。
それから、少しして意を決したように顔を上げる。


「庭の鳥たちが肌寒そうでしたから、つい….」


「「「「「はい?」」」」」
再び五人の声が揃う。
そこからハヤテが告白を始める。
「最近、いつもエサをやっている鳥たちが何だか寒そうに見えたんで、どうすればいいか考えていたんです。
すると、たまに通っているお店でこの巣箱を発見したんですよ。
それが欲しかったんですけど、その時、あいにく手持ちが少なくて…
その店のマスターにとっておいて貰えるように頼んだんです。
幸い、マスターはいい人でしたから、とっておいてくれました。
そして昨日、お給料を貰ったんで買いに向かったと言うことです」
ハヤテが口を閉ざす。他の五人はポカンとしてハヤテを見ている。
「女装用の服を買うと思ったのに…」
マリアはポカンとしたまま呟いた。
マリアの呟きが聞こえ、ハヤテは逆に驚く。
「どんな想像してたんですか!?」
焦ったようにハヤテが言う。
そんな声を聞き、泉はハッとなる。
そして手を挙げて、ハヤテに質問する。
「じゃあ! 何で隠してたの?」
ハヤテは泉の質問を聞き、一言。

「何か気恥ずかしいじゃないですか! 見ず知らずの鳥にエサをやっているなんて!!」

あまりに予想していなかった理由に五人は沈黙に包まれる。BGMとして鳥の声が聞こえる。
三人娘は何だか馬鹿馬鹿しくなってきたような顔になり、マリアは今日の労力の無駄について考えていた。
そしてナギは、
「そんな理由で…」
顔をうつむかせ、ハヤテに近づき、

「主に隠し事をするなぁー! ハヤテのバカー!!」
「ごふっ!」

ハヤテの顎にアッパーを食らわした。晴天の下、ハヤテは宙を舞う。
穏やかな鳥の声と共に、本日二回目のハヤテが地面に不時着する音が聞こえた。



後日、三千院家で木に巣箱を取り付けている執事と、それを見守る主の姿があったとか。










------------------------------------------------------
どうも、めーきです。
残念ながら、夜中は基本的あまりパソコンに触ることができないので、
このような形になりました。
この作品は、六巻のカバー裏であったハヤテの日記を見て、思いつきました。
とりあえずこの作品を書いた感想としては、
「どうやって、美希と理沙を区別するんだ?」
でしたね。これには困りました。
では、どうぞよろしくお願いします。


- 関連一覧ツリー (▼ をクリックするとツリー全体を一括表示します)